(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031213
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】転写シート
(51)【国際特許分類】
B44C 1/17 20060101AFI20240229BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20240229BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240229BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B44C1/17 N
B32B7/06
C09J7/38
C09J201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134634
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】591064379
【氏名又は名称】昌栄印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 義宏
(72)【発明者】
【氏名】中田 知宏
【テーマコード(参考)】
3B005
4F100
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
3B005FA02
3B005FB03
3B005FB05
3B005FB13
3B005FB22
3B005FB35
3B005FC08X
3B005FC08Y
3B005FC09Y
3B005FF04
3B005FG04Z
3B005FG20Z
3B005GA17
4F100AK25C
4F100AK25D
4F100AK25E
4F100AK41B
4F100AK42A
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4F100BA05
4F100BA07
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4F100JK06
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4F100YY00B
4J004AA10
4J004AA14
4J004AA15
4J004AB01
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4J004CC03
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4J004FA01
4J040EF111
4J040EF282
4J040JA09
4J040JB09
4J040KA16
4J040KA23
4J040NA17
(57)【要約】
【課題】転写後の粘着層、界面層、図柄層および表面保護層とが順次積層されてなる転写層において、その柔軟性を損なうことなく、引っかき試験などにおける高い耐キズ性と強力な接着力を発揮し、さらに常温で転写させることが可能な高硬度高粘着性の転写シートを提供する。
【解決手段】本発明によれば、離型フィルムと、粘着層と界面層と図柄層と表面保護層とが順次積層されてなる転写層と、そしてアプリケーションフィルムとが順次積層された転写シートにおいて、ガラス製の基材の上に、前記粘着層と、そして標準フィルムとを順次積層した試料Aを用いて、ナノインデンテーション法により測定した該粘着層のナノインデンテーション硬度が25.0MPa以上であることを特徴とする高硬度・高粘着性の転写シートが提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型フィルムと、
前記離型フィルムの上に粘着層と界面層と図柄層と表面保護層とが順次積層されてなる転写層と、そして
前記転写層の上にアプリケーションフィルムとが積層された転写シートにおいて、
ガラス製の基材の上に前記粘着層と標準フィルムとを順次積層した試料Aを用いて測定した前記粘着層のナノインデンテーション硬度が25.0MPa以上であることを特徴とする高硬度・高粘着性の転写シート。
【請求項2】
前記粘着層のナノインデンテーション硬度と、そして
ガラス製の基材の上に、標準硬化粘着層と、前記標準硬化粘着層の上に前記界面層と前記図柄層と前記表面保護層とが順次積層されてなる粘着層以外の転写層とを積層した試料Bを用いて測定した前記粘着層以外の転写層のナノインデンテーション硬度との硬度比(粘着層のナノインデンテーション硬度/粘着層以外の転写層のナノインデンテーション硬度)が0.35以上であることを特徴とする請求項1に記載の高硬度・高粘着性の転写シート。
【請求項3】
ガラス製の基材の上に転写させて測定した前記転写層のナノインデンテーション硬度が33.0MPa以上であることを特徴とする請求項2に記載の高硬度・高粘着性の転写シート。
【請求項4】
感圧性の転写シートであることを特徴とする請求項3に記載の高硬度・高粘着性の転写シート。
【請求項5】
前記粘着層は、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂またはアクリル系樹脂から形成されていることを特徴とする請求項4に記載の高硬度・高粘着性の転写シート。
【請求項6】
前記粘着層の厚みは、5~50μmであることを特徴とする請求項5に記載の高硬度・高粘着性の転写シート。
【請求項7】
前記表面保護層は、アクリル系紫外線硬化型樹脂またはアクリル系2液硬化型樹脂から形成されていることを特徴とする請求項4に記載の高硬度・高粘着性の転写シート。
【請求項8】
前記表面保護層の厚みは、5~50μmであることを特徴とする請求項7に記載の高硬度・高粘着性の転写シート。
【請求項9】
6Hの鉛筆を用いて引っかき速度1.0mm/秒の条件で測定した前記転写層の引っかき試験における耐荷重が1000g以上であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の高硬度・高粘着性の転写シート。
【請求項10】
ステンレス製の基材の上に前記転写層を転写させた後、前記転写層を前記基材から剥離させるための剥離強度が4.8N/10mm以上であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の高硬度・高粘着性の転写シート。
【請求項11】
前記図柄層には、バーコード又はQRコード(登録商標)が表示されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の高硬度・高粘着性の転写シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の試料を用いて、ナノインデンテーション法により測定した粘着層のナノインデンテーション硬度が25.0MPa以上であることを特徴とする高硬度・高粘着性の転写シートに関し、特に加熱することなく圧力を加えることで転写させることが可能な感圧性の高硬度・高粘着性の転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被着体を装飾等する手段として、転写シートを用いて転写層を被着体の表面に転写(接着)する方法が知られている。転写シートは、通常離型フィルムと、該離型フィルムの上に順次積層された粘着層、界面層、図柄層および表面保護層とからなる転写層と、そして該転写層(表面保護層)の上に積層されたアプリケーションフィルムとから構成されており、離型フィルムを剥がして転写シートを被着体の表面に加圧および/または加熱して密着させ、最後にアプリケーションフィルムを剥離することにより、被着体の表面に転写層のみを転写(接着)させて装飾などを施すものである。
【0003】
ところで、近年では、転写シートはその用途の拡大に伴って、転写後の転写層においても様々な形状の被着体に対して馴染むことができる高度な柔軟性と、引っかき硬度試験(鉛筆法)などにおける高い耐キズ性や該耐キズ性を発揮する高い硬度、強力な接着力が求められるようになっている。
【0004】
このようなニーズに応えるため、例えば特開2007-253341号公報(特許文献1)では、転写後の最表層を薄膜の非常に滑りやすい成分で構成し、またその下層には高硬度の層を積層することにより、表面保護層の滑り性と高い硬度を付与したハードコート転写材が開発されている。また、特開2018-69525号公報(特許文献2)では、表面保護層を、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する硬化性樹脂を含み、硬化性樹脂の重量平均分子量が5000以上300000以下とすることにより、転写/硬化前の鉛筆硬度をB以下と柔らかくし、転写/硬化後の鉛筆硬度をHB以上の高い硬度となるようにすることで、転写/硬化前の一定の柔軟性を維持しながら、転写/硬化後の耐キズ性を高めた転写フィルムが開発されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のハードコート転写材や特許文献2に記載の転写フィルムは、基本的に粘着層を除いた転写/硬化後の表面保護層などの転写層に高い鉛筆硬度を付与するものであるため、転写/硬化後は柔軟性に乏しく、それらの転写材や転写フィルムを、例えば布などの凹凸がある柔らかな材料に転写すると高い粘着力を得られず、また皺やひび割れ等を生じて外観不良を起こし、鉛筆硬度などで表される耐キズ性も十分でないという問題があった。
【0006】
また、上述したような高い硬度が付与される転写フィルムは、転写時に熱を加える必要のある感熱性の転写フィルムであるため、被着体が熱に弱いなどの理由により加熱できない場合、被着体との強力な接着性を得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-253341号公報
【特許文献2】特開2018-69525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、転写後の粘着層、界面層、図柄層および表面保護層とが順次積層されてなる転写層において、その柔軟性を損なうことなく、引っかき試験などにおける高い耐キズ性と強力な接着力を発揮し、さらに加熱することなく圧力を加えることで転写させることが可能な高硬度・高粘着性の転写シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鉛筆引っかき試験などにおいて高い耐キズ性などを発揮する転写シートの層構成や各層の組成などについて鋭意研究を重ねた結果、驚くことに、転写層へ高い耐キズ性を付与するためには、粘着層を除いた転写層の硬度を高めるのではなく、その下層の粘着層の硬度を高めることの方が効果的であり、その柔軟性や接着性も損なわれないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、離型フィルムと、該離型フィルムの上に粘着層と界面層と図柄層と表面保護層とが順次積層されてなる転写層と、そして該転写層の上にアプリケーションフィルムとが積層された転写シートにおいて、ガラス製の基材の上に前記粘着層と標準フィルムとを順次積層した試料Aを用いて、ISO14577に準拠したナノインデンテーション法により測定した該粘着層のナノインデンテーション硬度が好ましくは25.0MPa以上、より好ましくは30.0MPa以上であることを特徴とする高硬度・高粘着性の転写シートが提供される。
【0011】
ここで、本発明において、引っかき試験などにおいて高い耐キズ性を発揮する高硬度・高粘着性の転写シートを得るためには、各層の硬度を評価することが必要となる。ところが、本発明の転写シートは各層の厚みが極めて薄く、または表面タックがあるなどの理由のために、一般的な硬度測定方法、硬度測定条件を用いていたのでは各層の硬度を正しく把握し、評価することができない。
【0012】
そのため、本発明では、粘着層の硬度は、ガラス製の基材の上に測定対象である粘着層と、一定の条件に揃えた標準フィルムとを積層した試料Aを作製し、ISO14577に準拠したナノインデンテーション法を用いて硬度を測定することにより、該試料Aの測定結果を上記粘着層のナノインデンテーション硬度として評価することにした。
【0013】
また、粘着層を除いた転写層の硬度については、ガラス製の基材の上に、一定の条件に揃えた標準硬化粘着層と、該標準硬化粘着層の上に測定対象である界面層、図柄層および表面保護層とが順次積層されてなる粘着層以外の転写層とを積層した試料Bを作製し、ISO14577に準拠したナノインデンテーション法を用いて硬度を測定することにより、該試料Bの測定結果を粘着層以外の転写層のナノインデンテーション硬度として評価することにした。
【0014】
さらに、最終形態である転写層の硬度については、ガラス製の基材の上に測定対象である本発明の転写層を一定の条件で転写し、ISO14577に準拠したナノインデンテーション法を用いて該転写層のナノインデンテーション硬度を測定することにした。
【0015】
上述の測定結果によれば、本発明の転写シートは粘着層のナノインデンテーション硬度と、そしてガラス製の基材の上に、標準硬化粘着層と、該標準硬化粘着層の上に界面層、図柄層および表面保護層とが順次積層されてなる粘着層以外の転写層とを積層した試料Bを用いて、ISO14577に準拠したナノインデンテーション法により測定した該粘着層以外の転写層のナノインデンテーション硬度との硬度比(粘着層のナノインデンテーション硬度/粘着層以外の転写層のナノインデンテーション硬度)が0.35以上であることが好ましく、0.42以上であることがより好ましい。
【0016】
また、本発明の転写シートは、ガラス製の基材の上に転写させて測定した最終形態である転写層(粘着層、界面層、図柄層および表面保護層)を用いて、ISO14577に準拠したナノインデンテーション法により測定した該転写層のナノインデンテーション硬度が33.0MPa以上であることが好ましい。
【0017】
特に上述のようなナノインデンテーション硬度および後述する高い剥離強度は、粘着層に感圧性粘着剤を用いて本発明の転写シートを感圧性の転写シートとして構成することで転写時に特別な熱を加えることなく加圧のみで得られるので、熱に弱い被着体などへの適用範囲が広がり、その作業性も向上する。なお、本願明細書において「感圧性の転写シート」とは、加熱することなく圧力のみを加えることで転写させることが可能な転写シートを意味し、粘着層を形成する粘着剤には熱可塑性樹脂を使用した感熱性粘着剤、感熱性接着剤が含まれている必要がない。
【0018】
また、本発明では、上述したようなナノインデンテーション硬度、硬度比を得ることにより高い耐キズ性をより効果的に発揮させるためには、粘着層はポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂またはアクリル系樹脂から形成されていることが好ましく、粘着層の厚みは3~100μm、より好ましく5~50μmであることが好ましい。
【0019】
さらに、表面保護層はアクリル系紫外線硬化型樹脂またはアクリル系2液硬化型樹脂から形成されていることが好ましく、表面保護層の厚みは5~50μmであることが好ましい。
【0020】
そして、本発明の転写シートは、上述したような構成を備えることにより、最終形態である転写後の転写層においてその柔軟性を損なうことなく、6Hの鉛筆を用いて引っかき速度1.0mm/秒の条件で測定した該転写層の引っかき試験における耐荷重が1000g以上であるという高い耐キズ性を有する。
【0021】
また、本発明の転写シートは、スレンレス製の基材の上に転写層を転写(接着)させた後、転写層を基材から剥離させるための剥離強度が4.8N/10mm以上であるという高い接着性を有する。
【0022】
さらに、本発明の転写シートは、その図柄層の表示方法や表示形態に特に制限はないが、図柄層の中にバーコードまたはQRコード(登録商標)を表示してもよく、該バーコードまたはQRコード(登録商標)を利用することにより転写層の情報量を大幅に増加させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、離型フィルムと、該離型フィルムの上に粘着層と界面層と図柄層と表面保護層とが順次積層されてなる転写層と、そして該転写層の上にアプリケーションフィルムとが積層された転写シートにおいて、ガラス製の基材の上に前記粘着層と標準フィルムとを順次積層した試料Aを用いて測定した該粘着層のナノインデンテーション硬度が好ましくは25.0MPa以上、より好ましくは30.0MPa以上である高硬度・高粘着性の転写シートが提供される。
【0024】
また、本発明では、粘着層のナノインデンテーション硬度と、そしてガラス製の基材の上に、標準硬化粘着層と、該標準硬化粘着層の上に界面層、図柄層および表面保護層とが順次積層されてなる粘着層以外の転写層とを積層した試料Bを用いて測定した該粘着層以外の転写層のナノインデンテーション硬度との硬度比(粘着層のナノインデンテーション硬度/粘着層以外の転写層のナノインデンテーション硬度)が0.35以上であることが好ましく、0.42以上であることがより好ましい。また、ガラス製の基材の上に転写させて測定した最終形態である転写層(粘着層、界面層、図柄層および表面保護層)を用いて測定した該転写層のナノインデンテーション硬度が33.0MPa以上であることが好ましい。
【0025】
その結果、本発明の転写シートは、その柔軟性を損なうことなく、6Hの鉛筆を用いて引っかき速度1.0mm/秒の条件で測定した該転写層の引っかき試験における耐荷重が1000g以上であるという高い耐キズ性を発揮することができる。また、ステンレス製の基材の上に転写層を転写(接着)させた後、該転写層を基材から剥離させるための剥離強度が4.8N/10mm以上であるという強力な接着性を発揮することができる。
【0026】
さらに、上述のような高い耐キズ性および高い粘着性は、粘着層に感圧性粘着剤を用いて本発明の転写シートを感圧性の転写シートとして構成することで転写時に特別な熱を加えることなく加圧のみで得られるので、熱に弱い被着体などへの適用範囲が広がり、その作業性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る転写シートの層構成を模式的に示した断面図である。
【
図2a】粘着層のナノインデンテーション硬度を測定するために用いる試料Aの層構成を模式的に示した断面図である。
【
図2b】粘着層を除いた転写層(界面層、図柄層および表面保護層)のナノインデンテーション硬度を測定するために用いる試料Bの層構成を模式的に示した断面図である。
【
図2c】ナノインデンテーション硬度などを測定するために用いる本発明による転写層の層構成を模式的に示した断面図である。
【
図3】粘着層のナノインデンテーション硬度と転写層(最終形態)のナノインデンテーション硬度との関係を示した相関図である。
【
図4】粘着層のナノインデンテーション硬度と、粘着層と粘着層以外の転写層とのナノインデンテーション硬度との硬度比の関係を示した相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態に係る転写シートについて、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示される実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【0029】
図1には、本発明の一実施形態に係る転写シート1の層構成が模式的に示されている。
図1を参照してよく理解されるように、本実施形態の転写シート1は、離型フィルム2と、該離型フィルム2の上に粘着層3と、界面層4と、図柄層5と、そして表面保護層6とが順次積層されてなる転写層10が積層され、さらに該転写層10の上にはアプリケーションフィルム7が積層されている。
【0030】
本実施形態における転写シート1の使用方法は、先ず転写シート1から離型フィルム2を剥がし、次に表面保護層6、図柄層5、界面層4および粘着層3とからなる転写層10をアプリケーションフィルム7に仮止めしたまま、該転写層10の粘着層3を被着体に貼着させて加圧する。その際、本実施形態の転写シート1は感圧性の転写シートであるので接着するための加熱は不要である。最後に、転写層10の表面保護層6からアプリケーションフィルム7を剥せば、転写層10が粘着層3を介して被着体に強力に貼着(転写)されるというものである。以下、本実施形態の転写シート1について、各層の構成や特性などについて説明する。
【0031】
<離型フィルム>
本実施形態において、離型フィルム2は、転写シート1を被着体に転写するまでの間、粘着層3を保護するためのものであり、粘着層3から容易に剥離させることができる材料であれば、特に限定されることなく公知の材料を使用することができる。例えば離型フィルム2としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン・テレフタレート、紙などからなるフィルムまたはシート素材を用いることができ、必要に応じてシリコーンやポリエチレン、ワックス、パラフィン等により剥離処理を施してもよい。
【0032】
<粘着層>
本実施形態において、粘着層3は、転写層10を被着体に転写するために機能するものである。また、本実施形態において、転写層10へ引っかき試験などにおける高い耐キズ性を付与するためには、後述する粘着層3を除いた転写層の硬度を高めるよりも、その下層の粘着層3の硬度を高めることの方が有利であるとの知見を得たので、粘着層3は、転写層10へ高い耐キズ性や強力な接着性を付与するために極めて重要な層である。
【0033】
粘着層3は、ガラス製の基材8の上に粘着層3と標準フィルム7aとを順次積層した試料A(
図2a参照)を用いて、ISO14577に準拠したナノインデンテーション法により測定した該粘着層3のナノインデンテーション硬度が25.0MPa以上であることが好ましく、30.0MPa以上であることがより好ましい。粘着層3のナノインデンテーション硬度が25.0MPaよりも小さくなると、転写層10の引っかき試験における耐キズ性が低下する。また、粘着層3のナノインデンテーション硬度が25.0MPa未満になると、耐キズ性を向上させるために、粘着層3を除いた転写層(界面層4、図柄層5および表面保護層6)のナノインデンテーション硬度を高くしなければならず、転写層10の柔軟性が著しく損なわれることになる。
【0034】
また、粘着層3に適度なナノインデンテーション硬度と強力な粘着力を付与するためには、粘着層3の厚みを3~100μmとすることが好ましく、5~50μmとすることがより好ましい。粘着層3の厚みが3μmよりも薄くなると被着体との間で強力な粘着力を得られなくなり、粘着層3の厚みが100μmよりも厚くなると、転写層10の柔軟性および引っかき試験における耐キズ性が低下し、転写層10の表面平滑性も著しく損なわれることになる。
【0035】
本実施形態では、粘着層3は、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂またはアクリル系樹脂から形成されていることが好ましい。また、粘着層3の離型フィルム2上への積層方法は、特に限定されることなく公知の方法を用いることができ、例えば粘着剤を離型フィルム2上にスクリーン印刷することによって粘着層3を形成(積層)することができる。印刷方法としてはスクリーン印刷が好ましいが、他の印刷方法であってもよい。
【0036】
粘着層3は、スクリーン印刷等に適しており、硬化後は強力な粘着力と所定のナノインデンテーション硬度を有する粘着層3を形成できるものであれば、特に限定されることなく公知の粘着剤や接着剤等を用いることができる。
【0037】
そのため、粘着層3に用いられる粘着剤としては、例えばポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂およびアクリル系樹脂から選ばれる少なくとも1種の主成分樹脂と、イソシアネート骨格を持つ硬化剤等とからなる2液硬化型ポリウレタン樹脂系粘着剤、2液硬化型ポリエステル樹脂系粘着剤または2液硬化型アクリル樹脂系粘着剤であって感圧性粘着剤として機能することが好ましい。また、粘着剤を印刷することによって形成される粘着層3のナノインデンテーション硬度は、主成分樹脂に対する硬化剤の添加量を変えることによって調整することができる。
【0038】
<界面層>
本実施形態において、界面層4は、粘着層3と後述する図柄層5との密着性向上と、粘着層3の成分と図柄層5の成分とが互いに移行して混ざり合うのを防止するための層であり、粘着層3と図柄層5との間に一面に形成される。本実施形態のように、印刷により粘着層3、界面層4、図柄層5の順で各層を形成するときは、界面層4が粘着層3を覆って固化することにより図柄層5の印刷適性を向上させることができ、界面層4の厚みは2~100μmであることが好ましく、5~50μmであることがより好ましい。
【0039】
界面層4は、粘着層3および図柄層5と親和しないことが望ましいため、例えば粘着層3および図柄層5を溶剤型インキで形成したときは水性インキを用いて形成することができ、粘着層3および図柄層5を水性インキで形成したときは溶剤型インキを用いて形成することができる。また、本実施形態のように界面層4をUVインキにより形成した場合は、これに紫外線を照射するタイミングを調整することにより、粘着層3および図柄層5との親和を防止するようにしてもよい。
【0040】
界面層4の粘着層3上への積層方法は、特に限定されることなく公知の方法を用いることができ、例えば界面層4に用いられるインキを粘着層3上にスクリーン印刷することにより界面層4が形成(積層)される。印刷方法としてはスクリーン印刷が好ましいが、他の印刷方法であってもよい。
【0041】
<図柄層>
本実施形態において、図柄層5は、色彩の有無を問わず透明であってもよく、文字、図形、模様、色彩またはそれらの結合を表示するための層である。図柄層5は、界面層4の上に1つの層を、文字、図形、模様または色彩などを並べるように形成してもよく、また複数の層を、文字、図形、模様または色彩などを重ねるように形成してもよい。
【0042】
図柄層5は、特に限定されることなく、UVインキ、溶剤型インキ、水性インキ等の公知の市販されている着色または無着色の印刷インキを用いることができ、例えばスクリーン印刷用インキなどを用いることができる。これらインキの中でも、特に2液反応型で、硬化剤としてイソシアネート系の硬化剤等を用いるものが好ましい。印刷インキには、さらにインキの性能を阻害しない範囲で、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、充填剤、希釈溶剤などの補助的添加剤を添加することができる。また、必要であれば、ブロックイソシアネートの解離温度を低下させる触媒や反応を促進させるための触媒などを添加してもよい。さらに、図柄層5の印刷方法としてはスクリーン印刷が好ましいが、他の印刷方法であってもよい。
【0043】
本実施形態の転写シート1において、図柄層5の表示方法や表示形態に特に制限はないが、図柄層5の中にバーコードまたはQRコード(登録商標)を形成してもよく、該バーコードまたはQRコード(登録商標)を利用することにより転写層10の情報量を大幅に増加させることができる。
【0044】
<表面保護層>
本実施形態において、表面保護層6は、図柄層5などを保護すると共に、転写後の転写層10自体の引っかき試験などにおける耐キズ性、耐摩耗性を向上させ、耐久性を維持するために図柄層5の上に形成される。
【0045】
また、表面保護層6に適当な硬度と高い柔軟性を付与するためには、表面保護層6の厚みを2~100μmとすることが好ましく、5~50μmとすることがより好ましい。表面保護層6の厚みが2μmよりも薄くなると、その下層の保護を十分に果たせなくなると共に耐キズ性も低下する。一方、表面保護層6の厚みが100μmよりも厚くなると、転写層10の割れ等の外観不良や硬化不良が生じ、柔軟性も著しく低下することになる。
【0046】
表面保護層6の形成に用いられる樹脂は、特に限定されるものではなく、得られる表面保護層6へ適当な硬度と柔軟性等を付与する観点から、透光性の紫外線硬化型樹脂または電子線硬化型樹脂の公知の樹脂を用いることができ、中でもアクリル系2液硬化型樹脂を用いることが好ましい。
【0047】
紫外線硬化型樹脂の場合、通常、重合性モノマーあるいはオリゴマー、バインダーとなる樹脂あるいはオリゴマー、光重合開始剤、必要に応じ添加された添加剤とからなる。また、同様の特性を示す組成物としては、例えば重合性ウレタンオリゴマーと重合性アクリルモノマーとの混合物に、光重合開始剤を添加した組成物に、印刷、例えばスクリーン印刷などで通常使用される補助的添加剤である消泡剤、レベリング剤、増粘剤、紫外線吸収剤、充填剤などを添加したものを使用することもできる。
【0048】
表面保護層6の図柄層5上への積層方法は、特に限定されることなく公知の方法を用いることができる。例えば紫外線硬化型樹脂の場合、印刷、好ましくはスクリーン印刷によって図柄層5上に印刷し、メタルハライドランプによって紫外線を照射して硬化させることより表面保護層6を形成(積層)することができる。また、表面保護層6は1層または2層以上から構成されていてもよく、また複数層を印刷ないし塗工したものを1層として形成させてもよい。
【0049】
<アプリケーションフィルム>
アプリケーションフィルム7は、表面保護層6を保護すると共に、転写シート1の転写層10を被着体への転写するにあたって、表面保護層6などの転写層10を仮止めするための層である。表面保護層6に対するアプリケーションフィルム7の粘着力は、粘着層3に対する離型フィルム2の粘着力よりも強く、そして被着体に対する粘着層3の粘着力よりも弱ければよい。
【0050】
アプリケーションフィルム7は、表面保護層6と容易に剥離し得る柔軟なフィルムであれば特に限定はなく、ポリオレフィン(PO)、ポリ塩化ビニール(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレン・テレフタレート(PET)などの公知の材料を用いることができる。
【0051】
なお、本実施形態において、アプリケーションフィルム7は、転写シート1を貼り付ける際の作業性を良好にする共に、保管中、表面保護層6や転写層10がキズ付くのを防止ためのものであり、図柄の大きさや被着体の形状、保管状態により必ずしも必要とはされない。
【0052】
<粘着層を除いた転写層>
本実施形態では、粘着層3を除いた転写層(界面層4、図柄層5および表面保護層6)の硬度が最終形態である転写層の特性に及ぼす影響についても評価するため、ガラス製の基材8の上に、一定の条件に揃えた標準硬化粘着層3aと、その上に測定対象である界面層4、図柄層5および表面保護層6とが順次積層してなる粘着層3以外の転写層とを積層した試料B(
図2b参照)を作製し、ISO14577に準拠したナノインデンテーション法を用いて硬度を測定することにより、該試料Bの測定結果を粘着層3以外の転写層のナノインデンテーション硬度として評価した。
【0053】
その結果、最終形態である粘着層3を含む転写層10へ引っかき試験などにおける高い耐キズ性を付与するためには、上述したように粘着層3を除いた転写層の硬度を高めるよりも、その下層の粘着層3の硬度を高めることの方が有利であることが判った。
【0054】
このため、粘着層3と粘着層3を除いた転写層との関係については、上述した粘着層3のナノインデンテーション硬度と、粘着層3以外の転写層(界面層4、図柄層5および表面保護層6)のナノインデンテーション硬度との硬度比(粘着層のナノインデンテーション硬度/粘着層以外の転写層のナノインデンテーション硬度)が0.35以上であることが好ましく、0.42以上であることがより好ましい。
【0055】
粘着層3のナノインデンテーション硬度と、粘着層3以外の転写層のナノインデンテーション硬度との硬度比が0.35よりも小さくなると、粘着層3以外の転写層のナノインデンテーション硬度が最終形態である転写層10の特性に及ぼす影響が過大となり、粘着層3のナノインデンテーション硬度を高くする場合に比べて転写層10の耐キズ性の低下や柔軟性が損なわれることになる。
【0056】
<転写層>
以上のように、本実施形態の転写シート1は上述したような構成を備えることにより、最終形態である転写後の転写層10においてその柔軟性を損なうことなく、6Hの鉛筆を用いて引っかき速度1.0mm/秒の条件で測定した該転写層の引っかき試験における耐荷重が1000g以上であるという高い耐キズ性を発揮する。また、本実施形態において、上記のような高い耐キズ性を発揮する転写層10を得るためには、転写後の転写層10は、ガラス製の基材8の上に転写させて測定した転写層10(
図2c参照)のナノインデンテーション硬度が33.0MPa以上であることが好ましい。
【0057】
さらに、本実施形態の転写シート1は、スレンレス製の基材8の上に転写層10を転写(接着)させた後、転写層10を基材8から剥離させるための剥離強度が4.8N/10mm以上であるという高い接着性を発揮する。
【0058】
また、上述のような高い耐キズ性および高い粘着性は、粘着層に感圧性粘着剤を用いて本実施形態の転写シート1を感圧性の転写シートとして構成することで転写時に特別な熱を加えることなく加圧のみで得られるので、熱に弱い被着体などへの適用範囲が広がり、その作業性も向上する。
【0059】
<被着体>
本実施形態の転写シート1が貼付される被着体の材料や形態に特に限定はない。例えば被着体の材料としては、金属材料、プラスチック材料、織布や不織布等の繊維材料、セラミックス材料など公知の材料からできていてよく、中でも金属材料やプラスチック材料からできているものが好適に用いられる。これらの材料は熱に弱いものであってもよく、表面に塗装やメッキなどの表面処理が施されているものであってもよい。
【実施例0060】
<実施例1>
離型フィルムとして、厚み125μmのPET(ポリエチレン・テレフタレート)フィルム(商品名・品番「セラピールWZ」、東レフィルム加工社製)を準備した。
【0061】
離型フィルムの上に、感圧性粘着剤として、ポリエステル樹脂(商品名「ニチゴーポリエスターNP-120」、三菱ケミカル社製)の溶剤をメトキシブチルアセテート(メトアセ[MBA]、ダイセル社製)に置換したもの100重量部へイソシアネート系硬化剤(商品名「タケネートD-101E」、三井化学社製)を固形分比で2.0重量部を配合し、消泡剤、増粘剤、希釈溶剤を適宜加えた組成物をスクリーン印刷にて印刷し、溶剤分を雰囲気温度60℃のオーブンにて乾燥させて厚み15μmの感圧性粘着層を形成した。
【0062】
得られた感圧性粘着層の上に、界面層として、紫外線硬化樹脂(商品名「ルクシディアV-4263」、DIC社製)100重量部へ、アクリルモノマー(商品名「ネオマーTA-401、三洋化成社製)を30重量部、アクリルモノマー(商品名「ライトアクリレートHOA-MS」、共栄社化学社製)を5重量部、重合開始剤(商品名「オムニラッド500」、IGM Resins B.V.社製)を7重量部配合し、消泡剤を適宜加えた組成物をスクリーン印刷にて印刷し、積算光量約1500mJ/cm2となる条件で紫外線照射を行って厚み30μmの界面層を形成した。
【0063】
得られた界面層の上に、図柄層として、白色インキ(商品名「SG460」、セイコーアドバンス社製)100重量部へ、イソシアネート系硬化剤(商品名「DN-955」、DIC社製)を21重量部、イソシアネート系硬化剤(商品名「DN-950」、DIC社製)を11重量部配合し、消泡剤、希釈溶剤を適宜加えた組成物をスクリーン印刷にて印刷し、溶剤分を雰囲気温度60℃のオーブンにて乾燥させて厚み20μmの図柄層を形成した。
【0064】
得られた図柄層上に、表面保護層として、アクリルポリオール(商品名「アクリディック52-666BA」、DIC社製)100重量部へイソシアネート系硬化剤(商品名「DN-950」、DIC社製)を34重量配合し、消泡剤、希釈溶剤を適宜加えた組成物をスクリーン印刷にて印刷し、溶剤分を雰囲気温度60℃のオーブンにて乾燥させて厚み10μmの第1の表面保護層を形成した。
【0065】
さらに、その上に紫外線硬化樹脂(商品名「ルクシディアV-4263」、DIC社製)100重量部、アクリルモノマー(商品名「ネオマーTA-401」、三洋化成社製)20重量部、アクリルモノマー(商品名「ネオマーNA-305」、三洋化成社製)10重量部、紫外線硬化樹脂(商品名「ライトアクリレートHOA-MS」、共栄社化学社製)を5重量部、重合開始剤(商品名「オムニラッド500」、IGM Resins B.V.社製)を7重量部配合し、消泡剤を適宜加えた組成物をスクリーン印刷にて印刷し、積算光量約1500mJ/cm2なる条件で紫外線照射を行って乾燥させて厚み20μmの第2の表面保護層を形成し、トータルの厚みとして30μmの表面保護層を形成した。
【0066】
最後に、得られた表面保護層の上に、アプリケーションフィルムとして、厚み25μmの表面保護フィルム(商品名「SPV-KL-680」、日東電工社製)をラミネーターにてラミネートすることにより、実施例1の感圧性転写シートを作製した。
【0067】
<実施例2>
界面層の上に、白色インキ(商品名「SG429B」、セイコーアドバンス社製)100重量部へイソシアネート系硬化剤(商品名「D硬化剤」、セイコーアドバンス社製)を15重量部配合し、消泡剤、希釈溶剤を適宜加えた組成物をスクリーン印刷にて印刷し、溶剤分を雰囲気温度60℃のオーブンにて乾燥させて厚み20μmの図柄層を形成した。
【0068】
得られた図柄層上に、表面保護層として、溶剤型オーバーコートクリヤー(商品名「SG429R」、セイコーアドバンス社製)100重量部へイソシアネート硬化剤(商品名「R硬化剤」、セイコーアドバンス社製)20重量部配合し、消泡剤、希釈溶剤を適時加えた組成物をスクリーン印刷にて印刷し、溶剤分を雰囲気温度60℃のオーブンにて乾燥させて厚み30μmの表面保護層を形成した。
【0069】
上述した条件および構成以外は、全て実施例1と同じ条件および構成により実施例2の感圧性転写シートを作製した。
【0070】
<実施例3>
感圧性粘着層の形成において、感圧性粘着剤に配合するイソシアネート(商品名「タケネートD-101E」、三井化学社製)を固形分比で1.5重量部へ減量したこと以外は、全て実施例1と同じ条件および構成により実施例3の感圧性転写シートを作製した。
【0071】
<比較例1>
感圧性粘着剤として、合成ゴム(『商品名「ビスタネックスLM-HM」、BASF社製』を溶剤『商品名「ソルベント K-73」、KTケミカルズ社製』にて1:1の割合で希釈したもの)40重量部へ、熱可塑性エラストマー(商品名「クインタック3433N」、日本ゼオン社製)を30重量部、水素化石油樹脂(商品名「アルコンM-90」、荒川化学社製)を50重量部配合し、消泡剤、希釈溶剤を適宜加えた組成物をスクリーン印刷にて印刷し、溶剤分を雰囲気温度60℃のオーブンにて乾燥させて厚み15μmの感圧性粘着層を形成したこと以外は、全て実施例1と同じ条件および構成により比較例1の感圧性転写シートを作製した。
【0072】
<比較例2>
感圧性粘着剤として、アクリル樹脂(商品名「SC-1202」、綜研化学社製)100重量部へエポキシ系硬化剤(商品名「E-AX」、綜研化学社製)を2重量部配合し、消泡剤、希釈溶剤を適宜加えた組成物をスクリーン印刷にて印刷し、溶剤分を雰囲気温度60℃のオーブンにて乾燥させて厚み15μmの感圧性粘着層を形成したこと以外は、全て実施例1と同じ条件および構成により比較例2の感圧性転写シートを作製した。
【0073】
<ナノインデンテーション硬度の測定>
1.測定試料の作製
(1)試料A(粘着層の硬度測定用)
各実施例および各比較例の粘着層のナノインデンテーション法による硬度は、粘着等の問題により、ソーダガラス製の基材の上に粘着層のみを形成して直接的に測定することが困難であるので、以下に説明する試料Aの層構成を有する実施例および比較例についての粘着層を作製し、該試料Aを用いて各粘着層のナノインデンテーション硬度を測定した。
【0074】
具体的には、ソーダガラス製の基材の上に、実施例1,2,3および比較例1,2と同じ条件および構成により、測定対象となる実施例1,2,3および比較例1,2のそれぞれについて各感圧性粘着層を形成した。
【0075】
次いで、測定対象となる各感圧性粘着層上に、標準フィルムとして厚み25μmのPETフィルム(商品名「ルミラー♯25-S10」、東レフィルム加工社製)をラミネーターにてラミネートすることにより、
図2(a)に示されるように、実施例1,2,3および比較例1,2の各感圧性粘着層についてナノインデンテーション硬度測定用の試料Aを作製した。
【0076】
(2)試料B(粘着層を除いた転写層の硬度測定用)
各実施例および各比較例の粘着層を除いた転写層(界面層、図柄層および表面保護層)のナノインデンテーション法による硬度は、粘着剤を使用することなく、ソーダガラス製の基材の上に粘着層以外の転写層(界面層、図柄層および表面保護層)のみを形成して測定することが困難であるので、以下に説明する試料Bの層構成を有する実施例および比較例についての粘着層以外の転写層を作製し、該試料Bを用いて各表面保護層のナノインデンテーション硬度を測定した。
【0077】
具体的には、ソーダガラス製の基材の上に、瞬間接着剤として、商品名「アロンアルファ(登録商標、東亞合成社製)を均一に塗布し、標準硬化粘着層を形成した。
【0078】
次いで、上記標準硬化粘着層の上に、実施例1,2,3および比較例1,2と同じ条件および構成により測定対象となる実施例1,2,3および比較例1,2のそれぞれについて粘着層を除いた各転写層を形成することにより、
図2(b)に示されるように、実施例1,2,3および比較例1,2の粘着層以外の各転写層についてナノインデンテーション硬度測定用の試料Bを作製した。
【0079】
(3)転写層(最終形態)
上述した実施例1,2,3および比較例1,2の転写シートを準備し、それぞれの転写シートからTD方向に5mm、MD方向に5mmのサンプルを切り出した。各転写シートから離型フィルムを剥がし、ソーダガラス製の基材に貼り合わせた。24時間放置後、各転写シートからアプリケーションフィルムを剥がすことにより、
図2(c)に示されるように、実施例1,2,3および比較例1,2のそれぞれについてナノインデンテーション硬度測定用の転写層を作製した。
【0080】
2.ナノインデンテーション硬度の測定
(1)測定方法
ISO14577に準拠したナノインデンテーション法による硬度の測定は、エリオニクス製のナノインデンテーションテスターENT-2100、バーコビッチ圧子9(先端三角錐)を用いて、実施例1,2,3および比較例1,2の各感圧性粘着層についてのナノインデンテーション硬度測定用の試料Aと、実施例1,2,3および比較例1,2の粘着層以外の各転写層(界面層、図柄層および表面保護層)についてのナノインデンテーション硬度測定用の試料Bと、そして実施例1,2,3および比較例1,2の各転写層(最終形態)について、以下の条件により、負荷-除荷試験による押込み試験を実施することにより行った。なお、押込み試験は、試料Aおよび試料Bにつきそれぞれ4回実施し、2回の測定で得られた平均値を各サンプルのナノインデンテーション硬度とした。
【0081】
(2)測定条件
[試料A]
・温度(室温):20℃
・湿度:60%RH
・負荷-除荷試験開始時の荷重:0mN
・負荷分割数:500
・負荷ステップ間隔:20ms
・最大荷重:60mN
・最大荷重での保持時間:30s
・除荷開始荷重:60mN
・除荷終了荷重:6mN
【0082】
[試料B]
・温度(室温):20℃
・湿度:60%RH
・負荷-除荷試験開始時の荷重:0mN
・負荷分割数:500
・負荷ステップ間隔:20ms
・最大荷重:100mN
・最大荷重での保持時間:30s
・除荷開始荷重:100mN
・除荷終了荷重:10mN
【0083】
[転写層(最終形態)]
・温度(室温):20℃
・湿度:60%RH
・負荷-除荷試験開始時の荷重:0mN
・負荷分割数:500
・負荷ステップ間隔:20ms
・最大荷重:100mN
・最大荷重での保持時間:30s
・除荷開始荷重:100mN
・除荷終了荷重:10mN
【0084】
<剥離強度の測定>
実施例1,2,3および比較例1,2の転写シートを準備し、室温(25℃)で1週間のエージング期間終了後、それぞれの転写シートからTD方向に10mm、MD方向に50mmのサンプルを切り出した。各転写シートから離型フィルムを剥がし、表面をエタノール拭きしたステンレス製の基材に貼り合わせ、室温(25℃)下、2kgのローラーで1往復し圧着させた(
図2(c)参照)。24時間放置後、各転写シートからアプリケーションフィルムを剥離し、ステンレス製の基材に転写されたそれぞれの転写層をMD方向に剥がして引張試験機(商品名「フォースゲージ」、イマダ社製)にセットし、300mm/minで180°の条件にて転写層をSUS板から引張することにより、実施例1,2,3の転写層および比較例1,2の転写層のそれぞれについての剥離強度(JIS Z0237(2007)等に準拠)を測定した。なお、測定は室温(25℃)にて各転写層につきそれぞれ2回実施し、その平均値を各転写層の剥離強度とした。
【0085】
<引っかき試験の評価>
実施例1,2,3および比較例1,2の転写シートを準備し、室温(25℃)で1週間のエージング期間終了後、それぞれの転写シートからTD方向に10mm、MD方向に50mmのサンプルを切り出した。各転写シートから離型フィルムを剥がし、表面をエタノール拭きしたステンレス製の基材に貼り合わせ、2kgのローラーで1往復し圧着させた(
図2(c)参照)。24時間放置後、各転写シートからアプリケーションフィルムを剥離し、ステンレス製の基材に転写されたそれぞれの転写層を、表面性試験機器(商品名「HEIDON-14D」、ヘイドン社製)に45°鉛筆ホルダーを装着し、鉛筆硬度6H、引っかき速度1.0mm/秒の条件で引っかき試験を行った。引っかき試験により、塗膜材料が取れる引っかきキズ(破れ、破壊を含む)が起こる荷重を測定した。荷重を100gづつ増加させていき、引っかきキズが生じた荷重の一つ前の荷重を該サンプルの耐荷重とし、耐荷重が1000gを超えたものを「○」、超えなかったものを「×」として評価した。
【0086】
実施例1,2,3および比較例1,2の転写シートについて、それぞれの粘着層を備えた試料Aを用いて測定した粘着層のナノインデンテーション硬度、粘着層を除いたそれぞれの転写層を備えた試料Bを用いて測定した粘着層以外の転写層のナノインデンテーション硬度、粘着層のナノインデンテーション硬度と粘着層以外の転写層のナノインデンテーション硬度との硬度比(粘着層のナノインデンテーション硬度/粘着層以外の転写層のナノインデンテーション硬度)、それぞれの転写層(最終形態)についてのナノインデンテーション硬度、剥離強度および引っかき試験における耐荷重の測定結果を表1に示す。
【0087】
【0088】
<考察>
表1に示されるように、実施例1,2,3の転写シートを用いて形成(転写)した転写層はいずれも引っかき試験において耐荷重が1000gを超え、高い硬度と高い耐キズ性を示すのに対して、比較例1,2の転写シートを用いて形成(転写)した転写層は引っかき試験において耐荷重が1000gを下回り、所望する耐キズ性や硬度を得られないことが判った。
【0089】
また、実施例1,2,3により、引っかき試験における耐荷重の評価は転写層(最終形態)のナノインデンテーション硬度との間に強い相関が認められ、転写層(最終形態)のナノインデンテーション硬度が33.0MPa以上あれば、荷重1000gでの引っかき試験において引っかきキズを生じないことが判った。
【0090】
さらに、実施例1,2,3の転写シートを用いて形成(転写)した転写層は、スレンレス製の基材の上に転写層を転写(接着)させた後、転写層を基材8から剥離させるための剥離強度が4.8N/10mm以上であるという高い接着性を発揮することが判った。
【0091】
表1において、実施例1の転写層と実施例2の転写層とを比較すると、実施例2の粘着層以外の転写層(界面層、図柄層および表面保護層)は、実施例1の粘着層以外の転写層よりも高いナノインデンテーション硬度を有しているにもかかわらず、転写層(最終形態)におけるナノインデンテーション硬度は殆ど変わらないことが判った。
【0092】
一方、実施例1,2,3の転写層と比較例1,2の転写層とを比較すると、実施例1,2,3の粘着層は、比較例1,2の粘着層よりも高いナノインデンテーション硬度を有することにより、転写層(最終形態)においても高いナノインデンテーション硬度を示すことが判った。さらに、実施例1の転写層と実施例3の転写層とを比較しても、実施例1の粘着層以外の転写層と実施例3の粘着層以外の転写層とは同じナノインデンテーション硬度を有しているにもかかわらず、実施例1の粘着層が実施例3の粘着層よりも高いナノインデンテーション硬度を有することにより、転写層(最終形態)においても高いナノインデンテーション硬度を示すことが判った。
【0093】
図3には、実施例1,2,3および比較例1,2の粘着層のナノインデンテーション硬度と転写層(最終形態)のナノインデンテーション硬度との関係を表した相関図が示されており、
図4には、粘着層のナノインデンテーション硬度と、粘着層と粘着層以外の転写層とのナノインデンテーション硬度との硬度比(粘着層のナノインデンテーション硬度/粘着層以外の転写層のナノインデンテーション硬度)との関係を表した相関図が示されている。
【0094】
図3および上述した表1の分析結果より、粘着層のナノインデンテーション硬度と転写層(最終形態)のナノインデンテーション硬度との間には強い相関が認められ、転写層の引っかき試験などにおける高い耐キズ性を得るためには、粘着層を除いた転写層の硬度を高めるのではなく、その下層の粘着層の硬度を高めることの方が有利であることが判った。
【0095】
具体的には、実施例1,2,3より、試料Aの層構成により測定される粘着層のナノインデンテーション硬度が好ましくは25.0MPa以上、より好ましくは30.0MPa以上あれば、高い耐キズ性を発揮する転写シート(転写層)を得られることが判った。また、そのときの好ましい粘着層の厚みは5~50μmである。
【0096】
また、高い耐キズ性を得るための粘着層と粘着層を除いた転写層(界面層、図柄層および表面保護層)との関係については、
図4および表1より、粘着層のナノインデンテーション硬度が上記の範囲にあるとき、粘着層のナノインデンテーション硬度と、粘着層以外の転写層のナノインデンテーション硬度との硬度比(粘着層のナノインデンテーション硬度/粘着層以外の転写層のナノインデンテーション硬度)が0.35以上であることが好ましく、0.42以上であることがより好ましいことが判った。また、そのときの粘着層3以外の転写層のナノインデンテーション硬度は70.0MPa以上であることが好ましい。
【0097】
さらに、実施例1,2,3の転写シートにおいて、上述のような高い耐キズ性および高い粘着性を得るためには、粘着層に感圧性粘着剤を用いることにより、感熱性の転写シートではなく感圧性の転写シートとして構成することで、転写時に特別な熱を加えることなく加圧のみで達成できることが確認された。