(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031221
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】磁器用釉薬及び磁器
(51)【国際特許分類】
C04B 41/86 20060101AFI20240229BHJP
C03C 8/02 20060101ALI20240229BHJP
C03C 8/04 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C04B41/86 A
C04B41/86 R
C03C8/02
C03C8/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134642
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000244305
【氏名又は名称】鳴海製陶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西部 徹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅人
(72)【発明者】
【氏名】平野 光良
(72)【発明者】
【氏名】日比野 友宏
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA09
4G062BB05
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4G062DA06
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4G062MM07
4G062NN29
(57)【要約】
【課題】熱衝撃に対する釉層の耐久性を高めることができる磁器用釉薬及びこの磁器用釉薬を用いて得られる磁器を提供する。
【解決手段】磁器用釉薬は、磁器に施釉するために用いられる。磁器用釉薬を焼成して得られる焼成物の熱膨張係数は4.7×10
-6/℃以上6.0×10
-6/℃未満である。また、磁器1は、セラミックからなる素地2と、素地2上に形成された釉層3とを有しており、釉層3は磁器用釉薬の焼成物から構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁器に施釉するための磁器用釉薬であって、
前記磁器用釉薬を焼成して得られる焼成物の熱膨張係数が4.7×10-6/℃以上6.0×10-6/℃未満である、磁器用釉薬。
【請求項2】
前記磁器用釉薬は、SiO2:51.1モル%以上69.9モル%以下と、
Al2O3:8.1モル%以上12モル%以下と、
B2O3:10モル%以上18モル%以下と、
Na2O及びK2Oからなる群より選択される1種または2種のアルカリ金属酸化物:4モル%以上6.9モル%以下と、
MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属酸化物:8モル%以上12モル%以下と、を含む、請求項1に記載の磁器用釉薬。
【請求項3】
前記磁器用釉薬は、さらに3モル%以下のZnOを含む、請求項2に記載の磁器用釉薬。
【請求項4】
前記磁器用釉薬を焼成して得られる焼成物の屈伏点が650℃以上710℃以下である、請求項1に記載の磁器用釉薬。
【請求項5】
セラミックからなる素地と、前記素地上に形成された釉層とを有し、
前記釉層は請求項1~4のいずれか1項に記載の磁器用釉薬の焼成物からなる、磁器。
【請求項6】
前記素地がボーンチャイナ素地である、請求項5に記載の磁器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁器用釉薬及び磁器に関する。
【背景技術】
【0002】
磁器は、セラミックからなる素地と、素地の表面上に形成された釉層とを有している。素地を釉層で被覆することにより、磁器の表面を滑らかにするとともに、耐水性、耐酸性及び耐アルカリ性等の化学的耐久性を向上させることができる。
【0003】
磁器に施釉するための釉薬として、例えば特許文献1には、8乃至11(mol%)のアルカリ金属酸化物と7乃至13(mol%)のCaOと1乃至3(mol%)のMgOと1乃至3(mol%)のZnOと7.8乃至9(mol%)のAl2O3と66乃至70(mol%)のSiO2とを含有し且つB2O3を含有しないガラスフリットを有するフリット釉が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば食器などの用途においては、磁器を使用する際に、高温の状態から急激に冷却されることがある。しかし、特許文献1の釉薬を用いて得られる磁器は、このような熱衝撃によって釉層にクラック等の欠陥が発生しやすいという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、熱衝撃に対する釉層の耐久性を高めることができる磁器用釉薬及びこの磁器用釉薬を用いて得られる磁器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、磁器に施釉するための磁器用釉薬であって、
前記磁器用釉薬を焼成して得られる焼成物の熱膨張係数が4.7×10-6/℃以上6.0×10-6/℃未満である、磁器用釉薬にある。
【0008】
本発明の他の態様は、セラミックからなる素地と、前記素地上に形成された釉層とを有し、
前記釉層は前記の態様の磁器用釉薬の焼成物からなる、磁器にある。
【発明の効果】
【0009】
前記磁器用釉薬(以下、「釉薬」という。)は、焼成物の熱膨張係数が前記特定の範囲内となる特性を有している。かかる特性を有する釉薬を用いて磁器の釉層を形成することにより、熱衝撃に対する磁器の耐久性を高め、高温の状態から急激に冷却する場合においても釉層におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0010】
また、前記磁器は、前記釉薬の焼成物からなる釉層を有している。それ故、前記磁器は、熱衝撃に対する耐久性に優れており、高温の状態から急激に冷却する場合においても釉層におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0011】
以上のように、前記の態様によれば、熱衝撃に対する釉層の耐久性を高めることができる磁器用釉薬及びこの磁器用釉薬を用いて得られる磁器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例における磁器の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(磁器用釉薬)
前記釉薬は、焼成物の熱膨張係数が4.7×10-6/℃以上6.0×10-6/℃未満となるように構成されている。前述したように、前記釉薬の焼成物の熱膨張係数を4.7×10-6/℃以上6.0×10-6/℃未満とすることにより、前記釉薬を用いて得られる熱衝撃に対する磁器の耐久性を高めることができる。熱衝撃に対する磁器の耐久性をより高める観点からは、前記釉薬の焼成物の熱膨張係数は4.7×10-6/℃以上5.9×10-6/℃以下であることが好ましく、4.7×10-6/℃以上5.5×10-6/℃以下であることがより好ましく、5.0×10-6/℃以上5.5×10-6/℃以下であることがさらに好ましい。前記釉薬により磁器の熱衝撃に対する耐久性が向上する理由としては、例えば以下の理由が考えられる。
【0014】
磁器を製造するに当たっては、まず、坏土を所望の形状に成形した後、締焼きを行うことによりセラミックからなる素地を作製する。この素地に施釉した後、焼成することにより素地の表面に釉層を形成する。
【0015】
施釉された素地の焼成は、以下のようにして進行する。まず、焼成の初期段階において釉薬が溶融するまでの間は、素地が雰囲気の温度に応じて膨張する。焼成が進行し、雰囲気の温度が上昇すると、釉薬が融解して溶融状態の釉層となる。この間、素地は焼成の初期段階と同様に、雰囲気の温度に応じて膨張する。
【0016】
釉薬中の無機酸化物が十分に溶融すると、素地の表面に溶融状態の釉層が形成される。そして、釉層が形成された後に、磁器が冷却される。冷却の初期段階において釉層が固化するまでの間は、素地が雰囲気の温度に応じて収縮する。冷却が進行すると、釉層の粘度が次第に上昇し、最終的には釉層が固化する。そして、釉層が固化した後は、素地及び釉層がそれぞれ温度に応じて収縮する。
【0017】
冷却過程における素地及び釉層の収縮の程度は、熱膨張係数によって表される。素地の熱膨張係数は磁器の種類によって多少異なるが、例えば硬質磁器における素地の熱膨張係数は6.5×10-6/℃程度であり、ボーンチャイナ等の軟質磁器における素地の熱膨張係数は8.0×10-6/℃程度である。
【0018】
このように、素地の熱膨張係数は前記釉薬の焼成物の熱膨張係数よりも高いため、前述した冷却過程における素地の収縮量は固化した釉層の収縮量よりも大きくなる。この収縮量の差により、素地上で固化した後の釉層の内部には圧縮応力が生じると考えられる。そして、釉層、つまり、前記釉薬の焼成物の熱膨張係数を前記特定の範囲とすることにより、釉層の内部に生じる圧縮応力を適度に高めることができると考えられる。その結果、釉層の熱衝撃に対する耐久性を高め、高温状態の磁器を急激に冷却する場合においても釉層へのクラックの発生を抑制することができると考えられる。
【0019】
釉薬中には、例えば、磁器用釉薬に用いられる無機酸化物が含まれている。釉薬中の無機酸化物の種類及び組成は、釉薬を焼成して得られる焼成物の熱膨張係数が4.7×10-6/℃以上6.0×10-6/℃未満となれば、特に限定されることはない。例えば、前記釉薬は、SiO2(二酸化ケイ素)、Al2O3(アルミナ)、B2O3(ホウ酸)、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を含んでいてもよい。また、前記釉薬は、これらの無機酸化物に加え、ZnO(酸化亜鉛)を含んでいてもよい。
【0020】
SiO2は釉層の基本となる成分である。SiO2の含有量は、例えば、釉薬中の無機酸化物の物質量の合計に対して51.1モル%以上69.9モル%以下の範囲から適宜設定することができる。SiO2の含有量を前記特定の範囲内とすることにより、釉薬の焼成物の熱膨張係数をより容易に前記特定の範囲内とすることができる。かかる作用効果をより確実に得る観点からは、SiO2の含有量は、釉薬中の無機酸化物の物質量の合計に対して51.1モル%以上69.8モル%以下であることが好ましく、53モル%以上69.9モル%以下であることがより好ましく、55モル%以上64モル%以下であることがさらに好ましく、57モル%以上64モル%以下であることが特に好ましい。
【0021】
Al2O3は、釉薬中において融剤として作用し、釉薬の軟化点を低下させることができる。Al2O3の含有量は、例えば、釉薬中の無機酸化物の物質量の合計に対して8.1モル%以上12モル%以下の範囲から適宜設定することができる。Al2O3の含有量を前記特定の範囲内とすることにより、釉薬をより容易に溶融させることができる。また、この場合には、釉薬の焼成物の熱膨張係数をより容易に前記特定の範囲内とすることができる。これらの作用効果をより確実に得る観点からは、Al2O3の含有量は、釉薬中の無機酸化物の物質量の合計に対して8.1モル%以上11モル%以下であることが好ましく、8.5モル%以上11モル%以下であることがより好ましく、9モル%以上11モル%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
B2O3は、釉薬中において媒溶剤として作用し、釉薬の軟化点を低下させることができる。B2O3の含有量は、例えば、釉薬中の無機酸化物の物質量の合計に対して10モル%以上18モル%以下の範囲から適宜設定することができる。B2O3の含有量を前記特定の範囲内とすることにより、釉薬をより容易に溶融させることができる。また、この場合には、釉薬の焼成物の熱膨張係数をより容易に前記特定の範囲内とすることができる。これらの作用効果をより確実に得る観点からは、B2O3の含有量は、釉薬中の無機酸化物の物質量の合計に対して10モル%以上16モル%以下であることが好ましく、11.9モル%以上16モル%以下であることがより好ましく、14モル%以上16モル%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
アルカリ金属酸化物は、釉層をガラスとするための修飾酸化物である。前記釉薬中には、Na2O(酸化ナトリウム)及びK2O(酸化カリウム)からなる群より選択される1種または2種のアルカリ金属酸化物が含まれていることが好ましい。また、アルカリ金属酸化物の含有量の合計は、例えば、釉薬中の無機酸化物の物質量の合計に対して4モル%以上6.9モル%以下の範囲から適宜設定することができる。この場合には、釉薬の焼成物の熱膨張係数をより容易に前記特定の範囲内とすることができる。かかる作用効果をより確実に得る観点からは、アルカリ金属酸化物の含有量の合計は、釉薬中の無機酸化物の物質量の合計に対して4モル%以上6.5モル%以下であることが好ましく、4モル%以上6モル%以下であることがより好ましく、4モル%以上5.5モル%以下であることがさらに好ましく、4モル%以上5モル%以下であることが特に好ましい。
【0024】
アルカリ土類金属酸化物は、釉層をガラスとするための修飾酸化物である。前記釉薬中には、MgO(酸化マグネシウム)、CaO(酸化カルシウム)、SrO(酸化ストロンチウム)及びBaO(酸化バリウム)からなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属酸化物が含まれていることが好ましい。また、アルカリ土類金属酸化物の含有量の合計は、例えば、釉薬中の無機酸化物の物質量の合計に対して8モル%以上12モル%以下の範囲から適宜設定することができる。この場合には、釉薬の焼成物の熱膨張係数をより容易に前記特定の範囲内とすることができる。かかる作用効果をより確実に得る観点からは、アルカリ土類金属酸化物の含有量の合計は、釉薬中の無機酸化物の物質量の合計に対して8.5モル%以上12モル%以下であることが好ましく、9モル%以上12モル%以下であることがより好ましい。
【0025】
ZnOは、前記釉薬の焼成物の熱膨張係数をより低下させる作用を有している。前記釉薬中に、釉薬中の無機酸化物の物質量の合計に対して3モル%以下のZnOを添加することにより、前記釉薬の焼成物の熱膨張係数をより低下させる効果が期待できる。ZnOによる前述した熱膨張係数を低下させる効果をより確実に得る観点からは、ZnOの含有量は、釉薬中の無機酸化物の物質量の合計に対して0.1モル%以上であることが好ましい。
【0026】
また、前記釉薬中には、必要に応じて、TiO2、Bi2O3及びV2O5等の着色剤が含まれていてもよい。これらの着色剤を添加することにより、釉層を着色することができる。特に、磁器の素地がボーンチャイナ素地である場合には、素地の表面に着色剤を含む釉層を設けることにより、ボーンチャイナ特有の色であるアイボリーホワイトに着色された磁器を容易に得ることができる。着色剤の含有量は、モル比において、釉薬中のSiO2、Al2O3、B2O3、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物の合計100部に対して例えば0.5~2部の範囲から適宜選択すればよい。
【0027】
前記釉薬中には、前述した作用効果を損なわない範囲であれば、前述した無機酸化物以外の無機酸化物が含まれていてもよい。このような無機酸化物としては、例えば、Li2O、P2O5、PbOなどが挙げられる。これらの無機酸化物の含有量の合計は釉薬中の無機酸化物の物質量の合計に対して1モル%以下であればよい。前記特定の範囲内の熱膨張係数をより確実に実現する観点からは、前記釉薬は、Li2Oを含まないことが好ましい。
【0028】
磁器の熱衝撃に対する耐久性をより確実に高める観点からは、前記釉薬は、例えば、
SiO2:51.1モル%以上69.9モル%以下と、
Al2O3:8.1モル%以上12モル%以下と、
B2O3:10モル%以上18モル%以下と、
Na2O及びK2Oからなる群より選択される1種または2種のアルカリ金属酸化物:4モル%以上6.9モル%以下と、
MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属酸化物:8モル%以上12モル%以下と、を含むことが好ましい。
【0029】
同様の観点から、前記釉薬は、例えば、
SiO2:53モル%以上69.9モル%以下と、
Al2O3:8.1モル%以上11モル%以下と、
B2O3:10モル%以上18モル%以下と、
Na2O及びK2Oからなる群より選択される1種または2種のアルカリ金属酸化物:4モル%以上6モル%以下と、
MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属酸化物:8モル%以上12モル%以下と、を含むことが好ましい。
【0030】
同様の観点から、前記釉薬は、例えば、
SiO2:55モル%以上64モル%以下と、
Al2O3:9モル%以上11モル%以下と、
B2O3:10モル%以上16モル%以下と、
Na2O及びK2Oからなる群より選択される1種または2種のアルカリ金属酸化物:4モル%以上6モル%以下と、
MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属酸化物:9モル%以上12モル%以下と、を含むことがより好ましい。
【0031】
また、前記釉薬を焼成して得られる焼成物の屈伏点は、650℃以上710℃以下であることが好ましく、660℃以上700℃以下であることがより好ましい。この場合には、熱衝撃に対する耐久性を高める効果を得つつ、釉層の表面をより平滑にし、優れた外観を有する磁器をより容易に得ることができる。
【0032】
前述した作用効果をより確実に得る観点からは、前記釉薬は、例えば、
SiO2:55モル%以上64モル%以下と、
Al2O3:9モル%以上11モル%以下と、
B2O3:14モル%以上18モル%以下と、
Na2O及びK2Oからなる群より選択される1種または2種のアルカリ金属酸化物:4モル%以上5モル%以下と、
MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属酸化物:8モル%以上12モル%以下と、を含むことが好ましい。
【0033】
また、釉層の表面をより平滑にし、かつ、熱衝撃に対する耐久性をさらに高める観点からは、前記釉薬は、例えば、
SiO2:55モル%以上64モル%以下と、
Al2O3:9モル%以上11モル%以下と、
B2O3:14モル%以上16モル%以下と、
Na2O及びK2Oからなる群より選択される1種または2種のアルカリ金属酸化物:4モル%以上5モル%以下と、
MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属酸化物:9モル%以上12モル%以下と、を含むことが好ましい。
【0034】
(磁器)
セラミックからなる素地に前記釉薬を塗布した後、施釉された素地を焼成することにより、セラミックからなる素地と、前記素地上に形成された釉層とを有する磁器を得ることができる。このようにして得られる磁器の釉層は前記の態様の釉薬の焼成物であるため、釉層は4.7×10-6/℃以上6.0×10-6/℃未満の熱膨張係数を有している。それ故、前記磁器は、熱衝撃に対する耐久性に優れており、高温状態から急冷した際にも釉層へのクラック等の発生を抑制することができる。
【0035】
前記磁器は、硬質磁器であってもよく、軟質磁器であってもよい。いずれの場合であっても、素地の表面に前記特定の範囲の熱膨張係数を備えた釉層を形成することにより、熱衝撃に対する耐久性を高めることができる。
【0036】
前記磁器の素地は、ボーンチャイナ素地であることが好ましい。より具体的には、前記磁器の素地は、リン酸三カルシウム、灰長石およびガラスを含み、かつ、リン酸三カルシウムの含有率が30質量%以上であることが好ましい。従来のボーンチャイナは、熱衝撃に対する耐久性が比較的低く、高い耐熱性を求められる用途への適用が難しかった。一方、前述したように、前記特定の範囲の熱膨張係数を備えた釉層によれば、素地がボーンチャイナ素地である場合にも熱衝撃に対する耐久性を高めることができる。
【0037】
また、ボーンチャイナは、特有の乳白色の色調や滑らかな表面等の優美な外観を有しているため、食器等の高い審美性が求められる用途に多用されている。それ故、ボーンチャイナ素地の表面に前記特定の範囲の熱膨張係数を有する釉層を形成することにより、高い審美性と優れた耐熱性とを兼ね備えたボーンチャイナを得ることができる。このようなボーンチャイナは、特に、食器等の用途に好適である。
【0038】
前記磁器の製造方法は特に限定されることはなく、公知の磁器の製造方法により前記磁器を得ることができる。例えば、前記磁器を製造するに当たっては、まず、坏土を所望の形状に成形し、十分に乾燥させた後に締焼きを行って素地を作製する。締焼きにおける焼成温度は、素地の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、素地がボーンチャイナ素地である場合には、1250℃程度の温度で締焼きを行えばよい。
【0039】
また、素地の作製とは別に、前記釉薬を水等の液体に懸濁させて懸濁液を作製する。
【0040】
このようにして得られた素地の表面に釉薬の懸濁液を塗布することにより、施釉された素地を得る。素地への懸濁液の塗布方法としては、浸漬法やスプレー法、はけ塗り法などの種々の方法を採用することができる。
【0041】
その後、施釉された素地を焼成することにより、素地の表面に釉層を形成する。この時の焼成温度は、例えば1100℃以上1200℃以下、好ましくは1120℃以上1180℃以下の範囲から適宜設定することができる。以上により、素地と、素地の表面上に設けられた釉層とを備えた磁器を得ることができる。
【実施例0042】
前記磁器用釉薬及び磁器の実施例を、
図1を参照しつつ説明する。本例の釉薬は、磁器に施釉することができるように構成されている。釉薬を焼成して得られる焼成物の熱膨張係数は4.7×10
-6/℃以上6.0×10
-6/℃未満である。また、本例の釉薬を用いて得られる磁器1は、
図1に示すように、セラミックからなる素地2と、素地2上に形成された釉層3とを有しており、釉層3は前記釉薬の焼成物から構成されている。
【0043】
本例の釉薬には、SiO2、Al2O3、B2O3、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物及びZnOが含まれている。本例の釉薬の組成の例を表1の試験剤A1~A14に示す。なお、表1に示す試験剤B1~B5は、試験剤A1~A14との比較のための試験剤である。
【0044】
表2に、試験剤A1~A14及び試験剤B1~B5の焼成物の熱膨張係数、屈伏点及び密度を示す。なお、これらの物性値の測定方法は以下の通りである。
【0045】
・熱膨張係数及び屈伏点
各試験剤を約1150℃で焼成し、焼成物を作製した。この焼成物の線膨張係数及び屈伏点を、JIS R3102-1995「ガラスの平均線熱膨張係数の試験方法」に準拠した方法により測定した。なお、線膨張係数及び屈伏点の測定には、熱機械分析装置(株式会社リガク製「TMA8311」)及び測定・解析ソフトウェア(株式会社リガク製「Thermo plus EVO2」)を使用した。また、焼成物の屈伏点は、具体的には、熱機械分析において焼成物が自重により軟化し始めた温度をいう。
【0046】
・見掛密度
各試験剤を約1150℃で焼成し、焼成物を作製した。この焼成物の見掛密度を、JIS R1634:1998「ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法」に準拠した方法により測定した。なお、質量計としては、電子天秤(METTLER TOLEDO社製「XS204」)を使用した。
【0047】
また、本例においては、表1に示す試験剤A1~A14及び試験剤B1~B5を用いて磁器を作製し、得られた磁器の耐熱性の評価を行った。磁器の作製方法及び耐熱性の評価方法は、具体的には以下の通りである。
【0048】
・磁器の作製方法
まず、各試験剤を水中に懸濁させ、試験剤の懸濁液を準備した。次に、直径16cmの平皿形状を有するボーンチャイナ素地に、スプレーを用いて懸濁液を塗布した。このようにして施釉されたボーンチャイナ素地を約1150℃で焼成することにより、ボーンチャイナ素地上に各試験剤の焼成物からなる釉層を形成した。
【0049】
このようにして得られた磁器を用い、JIS S2400:2000に規定された方法に準じて熱衝撃試験を行った。熱衝撃試験における試験温度差は、120℃、150℃、160℃または180℃のいずれかとした。表2の「熱衝撃試験」欄には、各試験温度差において釉層にクラックなどの欠陥が生じなかった場合には記号「A」を記載し、欠陥が生じた場合には記号「B」を記載した。
【0050】
【0051】
【0052】
表2に示すように、試験剤A1~A14の焼成物の熱膨張係数は前記特定の範囲内である。そのため、これらの試験剤を施釉してなる磁器は、熱衝撃に対する耐久性に優れており、少なくとも160℃までの試験温度差の熱衝撃試験を行った場合にも釉層の欠陥が生じなかった。
【0053】
また、試験剤A1~A14の中でも、熱膨張係数が4.7×10-6/℃以上5.5×10-6/℃以下である試験剤A2~A11及び試験剤A13~A14は、180℃という高い試験温度差の熱衝撃試験を行った場合においても釉層の欠陥の発生を抑制することができ、より優れた耐熱性を示した。
【0054】
一方、焼成物の熱膨張係数が前記特定の範囲外である試験剤B1~B5は、150℃の試験温度差の熱衝撃試験において釉層にクラックが発生した。
【0055】
以上、実施例に基づいて前記磁器用釉薬及び磁器の具体的な態様を説明したが、本発明に係る磁器用釉薬及び磁器の具体的な態様は実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0056】
また、本発明に係る磁器用釉薬は、例えば、以下の[1]~[4]に示す構成を有していてもよい。
【0057】
[1]磁器に施釉するための磁器用釉薬であって、
前記磁器用釉薬を焼成して得られる焼成物の熱膨張係数が4.7×10-6/℃以上6.0×10-6/℃未満である、磁器用釉薬。
【0058】
[2]前記磁器用釉薬は、SiO2:51.1モル%以上69.9モル%以下と、
Al2O3:8.1モル%以上12モル%以下と、
B2O3:10モル%以上18モル%以下と、
Na2O及びK2Oからなる群より選択される1種または2種のアルカリ金属酸化物:4モル%以上6.9モル%以下と、
MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属酸化物:8モル%以上12モル%以下と、を含む、[1]に記載の磁器用釉薬。
【0059】
[3]前記磁器用釉薬は、さらに0.1モル%以上3モル%以下のZnOを含む、[1]または[2]に記載の磁器用釉薬。
[4]前記磁器用釉薬を焼成して得られる焼成物の屈伏点が650℃以上710℃以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の磁器用釉薬。
【0060】
本発明に係る磁器は、例えば、以下の[5]~[6]に示す構成を有していてもよい。
[5]セラミックからなる素地と、前記素地上に形成された釉層とを有し、
前記釉層は[1]~[4]のいずれか1つに記載の磁器用釉薬の焼成物からなる、磁器。
[6]前記素地がボーンチャイナ素地である、[6]に記載の磁器。