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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031272
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】三次元積層造形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/209 20170101AFI20240229BHJP
   B29C 64/295 20170101ALI20240229BHJP
   B29C 64/321 20170101ALI20240229BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20240229BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240229BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240229BHJP
【FI】
B29C64/209
B29C64/295
B29C64/321
B29C64/118
B33Y10/00
B33Y30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134727
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前原 一夫
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AR08
4F213AR12
4F213AR14
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL32
4F213WL73
4F213WL74
(57)【要約】
【課題】単一素材からなり、異なる態様の複数の層を備える積層構造体を作製可能な三次元積層造形装置を提供する。
【解決手段】単一素材からなり、空隙を有さない高密度層2と、空隙を有する低密度層3,4とを備える積層構造体1を作製する三次元積層造形装置10であって、溶融された状態の熱可塑性樹脂を吐出する吐出装置11と、吐出装置11の下方に配置され、吐出装置11により吐出された前記熱可塑性樹脂を受ける造形テーブル30と、を備え、造形テーブル30の上方に、吐出装置11のノズル12から紐状に吐出されて落下中の熱可塑性樹脂に空気を吹き付ける送風機22が設けられており、送風機22が吹き付ける空気により落下中の熱可塑性樹脂の径を細めることが可能とされている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一素材からなり、空隙を有さない高密度層と、空隙を有する低密度層とを備える積層構造体を作製する三次元積層造形装置であって、
溶融された状態の熱可塑性樹脂を吐出する吐出装置と、
前記吐出装置の下方に配置され、前記吐出装置により吐出された前記熱可塑性樹脂を受ける造形テーブルと、を備え、
前記造形テーブルの上方に、前記吐出装置のノズルから紐状に吐出されて落下中の前記熱可塑性樹脂に空気を吹き付ける送風機が設けられており、前記送風機が吹き付ける空気により落下中の前記熱可塑性樹脂の径を細めることが可能な三次元積層造形装置。
【請求項2】
前記吐出装置の前記ノズルは、
当該ノズルの吐出口が前記送風機よりも前記造形テーブルに近い位置に配置された前進位置と、
前記吐出口が前記送風機よりも前記造形テーブルから遠い位置に配置された後退位置との間で変位可能とされており、
前記ノズルが後退位置とされた場合に前記送風機がオンとされる請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【請求項3】
前記吐出装置は、前記ノズルが前記後退位置に配置された状態において、前記ノズルが前記前進位置に配置された状態よりも、単位面積あたりに吐出される前記熱可塑性樹脂の吐出量が少量とされる請求項2に記載の三次元積層造形装置。
【請求項4】
前記送風機は、落下中の前記熱可塑性樹脂に対して斜め下方に向けて空気を吹き付ける請求項1または請求項2に記載の三次元積層造形装置。
【請求項5】
前記送風機は複数設けられ、落下中の前記熱可塑性樹脂を挟んで互いに対向配置されており、
複数の各前記送風機の風量および風速をそれぞれ個別に制御可能な制御装置を備えている請求項1または請求項2に記載の三次元積層造形装置。
【請求項6】
前記送風機と前記造形テーブルとの間に落下中の前記熱可塑性樹脂を取り囲む筒状部材が設けられており、
前記筒状部材は少なくとも上方部分が上方に向けて拡径する拡径部を有し、
前記送風機の吹出口は平面視において前記拡径部の内側に配置されている請求項1または請求項2に記載の三次元積層造形装置。
【請求項7】
前記造形テーブルに前記送風機から吹き出される空気を逃がす逃がし孔が板面を貫通して設けられている請求項1または請求項2に記載の三次元積層造形装置。
【請求項8】
前記送風機の上方に落下中の前記熱可塑性樹脂を加熱する加熱装置が設けられている請求項1または請求項2に記載の三次元積層造形装置。
【請求項9】
前記加熱装置はカーボンヒータである請求項8に記載の三次元積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、三次元積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂材料を層にして重ねることで複雑な構造の造形物を作製する造形装置である、所謂、3Dプリンタが提案されている。例えば特許文献1には、価格の安いペレット状の材料を利用することが可能な熱溶融積層方式(FDM)の3Dプリンタが開示されている。特許文献1に開示された3Dプリンタでは、収容部に収容されたペレット状の材料を搬送経路を介して射出機構を有する押出機に圧送供給し、加熱溶融してテーブル上に押し出すことで、溶融樹脂を塊状に固化させた造形物を作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-051917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば車両用内装部品であるドアトリム、天井、カーペット等は、多種類の素材からなる多層接着構造とされている。具体例として、ドアトリムのオーナメント部品は、射出成形したPP樹脂基材に、ウレタンクッション層や繊維含有PET樹脂層を接着剤で貼り付けた構造とされている。このような構成では、廃棄時に各層を単一素材へ分離しなければならず、マテリアルリサイクルが容易でないという事情がある。
【0005】
本明細書に開示される技術は上記事情に基づいて完成されたものであって、単一素材からなり、異なる態様の複数の層を備える積層構造体を作製可能な三次元積層造形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示される技術は、単一素材からなり、空隙を有さない高密度層と、空隙を有する低密度層とを備える積層構造体を作製する三次元積層造形装置であって、溶融された状態の熱可塑性樹脂を吐出する吐出装置と、前記吐出装置の下方に配置され、前記吐出装置により吐出された前記熱可塑性樹脂を受ける造形テーブルと、を備え、前記造形テーブルの上方に、前記吐出装置のノズルから紐状に吐出されて落下中の前記熱可塑性樹脂に空気を吹き付ける送風機が設けられており、前記送風機が吹き付ける空気により落下中の前記熱可塑性樹脂の径を細めることが可能とされている。
【0007】
上記構成によれば、送風機のオン・オフにより、吐出装置から吐出されて落下中の熱可塑性樹脂の径を変化させることで、空隙を有さない塊状の高密度層と、繊維状の樹脂を積層させることにより構成された空隙を有する低密度層とを作製することができる。また、送風機のオン時の風量や風速の変更により、繊維状の樹脂の径を変化させて、異なる種類(径)の低密度層を作製することができる。つまり、単一素材により構成された異なる態様の複数の層を備える積層構造体を作製することができる。このような積層構造体は、廃棄時に各層を分離する必要がなくなり、リサイクル利用が容易になる。
【0008】
前記吐出装置の前記ノズルは、当該ノズルの吐出口が前記送風機よりも前記造形テーブルに近い位置に配置された前進位置と、前記吐出口が前記送風機よりも前記造形テーブルから遠い位置に配置された後退位置との間で変位可能とされており、前記ノズルが後退位置とされた場合に前記送風機がオンとされてもよい。
【0009】
上記構成によれば、ノズルの吐出口が比較的に造形テーブルに近い位置とされた前進位置においては、熱可塑性樹脂を比較的に太い径で、かつ、位置ずれし難い状態で造形テーブル上に落下させ、あるいは、造形テーブル上に押し付けて、空隙を有さない塊状の高密度層を作製することができる。一方、ノズルの吐出口が比較的に造形テーブルから遠い位置とされた後退位置においては、ノズルから吐出された熱可塑性樹脂に送風機からの空気を吹き付けることにより、落下中の熱可塑性樹脂の径を細め、繊維状とされた細径の熱可塑性樹脂を積層させた構成の、空隙を有する低密度層を作製することができる。
【0010】
前記吐出装置は、前記ノズルが前記後退位置に配置された状態において、前記ノズルが前記前進位置に配置された状態よりも、単位面積あたりに吐出される前記熱可塑性樹脂の吐出量が少量とされてもよい。
【0011】
上記構成によれば、吐出量が一定とされた場合と比較して、より密度が低い低密度層を作製することができる。
【0012】
前記送風機は、落下中の前記熱可塑性樹脂に対して斜め下方に向けて空気を吹き付けてもよい。
【0013】
前記送風機は複数設けられ、落下中の前記熱可塑性樹脂を挟んで互いに対向配置されており、複数の各前記送風機の風量および風速をそれぞれ個別に制御可能な制御装置を備えていてもよい。
【0014】
上記構成によれば、落下中の熱可塑性樹脂は、複数の送風機から吹き付けられる空気により、その径だけでなく落下軌道も制御可能となる。例えば、それぞれの送風機が吹き付ける空気の風量や風速に変化をつけることにより、繊維状の熱可塑性樹脂を平面視において絡まった状態で積層することができる。
【0015】
前記送風機と前記造形テーブルとの間に落下中の前記熱可塑性樹脂を取り囲む筒状部材が設けられており、前記筒状部材は少なくとも上方部分が上方に向けて拡径する拡径部を有し、前記送風機の吹出口は平面視において前記拡径部の内側に配置されていてもよい。
【0016】
上記構成によれば、送風機から吹き出された空気を筒状部材の内面に沿って下方に案内することができる。また、空気が吹き付けられた熱可塑性樹脂を飛び散らせることなく、所定の領域内に落下させることができる。
【0017】
前記造形テーブルに前記送風機から吹き出される空気を逃がす逃がし孔が板面を貫通して設けられていてもよい。
【0018】
上記構成によれば、形成される高密度層に逃がし孔に連続する孔部を設けた場合に、送風機から吹き出される空気を造形テーブルの周囲だけでなく、裏面にも逃がすことができる。
【0019】
前記送風機の上方に落下中の前記熱可塑性樹脂を加熱する加熱装置が設けられていてもよい。
【0020】
上記構成によれば、落下中の熱可塑性樹脂の溶融状態を保つことができる。つまり、熱可塑性樹脂が冷却されて硬くなる場合と比較して、径を細め易い。
【0021】
前記加熱装置はカーボンヒータであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本明細書に開示される技術によれば、単一素材からなり、異なる態様の複数の層を備える積層構造体を作製可能な三次元積層造形装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一実施形態の三次元積層造形装置の側断面図(ノズルが前進位置とされた状態)
図2】三次元積層造形装置の側断面図(ノズルが後退位置とされた状態)
図3図2のI-I断面図
図4】造形物の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0024】
一実施形態を図1から図4によって説明する。本実施形態の三次元積層造形装置10は、所謂3Dプリンタであって、3DCADの設計データをもとにスライスされた2次元の層を1枚ずつ積み重ねていくことによって、立体的な積層構造体1を作製する装置である。この三次元積層造形装置10は、溶融した熱可塑性樹脂を紐状に押し出し、平面方向に第一層を造形した後、この第一層の上に同様にして第二層を積層することを繰り返して立体的な造形物を作製する、材料押出方式の装置である。
【0025】
特に、本実施形態の三次元積層造形装置10は、押出ユニット11のノズル12から紐状に押し出された熱可塑性樹脂が造形テーブル30に到達するまでの落下中に、紐状の熱可塑性樹脂の径を変化させることで、同一素材から構成され、異なる態様の層を積層させた積層構造体1を作製可能とされていることを特徴とするものである。具体的には、本実施形態の三次元積層造形装置10によれば、図4に示すように、空隙を有さない密度が高い塊状とされた熱可塑性樹脂からなる基材層(高密度層の一例)2と、比較的に太い繊維状の熱可塑性樹脂から形成された空隙を有するクッション層(低密度層の一例)3と、比較的に細い繊維状の熱可塑性樹脂から形成された空隙を有する表皮層(低密度層の一例)4と、が積層された多層構造の積層構造体1が作製可能とされている。
【0026】
本実施形態の三次元積層造形装置10は、図1および図2に示すように、押出ユニット(吐出装置の一例)11と、紡糸ユニット20と、造形テーブル30とを備えている。
【0027】
押出ユニット11は、縦方向に配された細長いノズル12を備えており、ノズル12は、シリンダ13と、シリンダ13内に配置されたスクリュー14とを有して構成されている。スクリュー14は、図示しない駆動モータにより回転駆動可能とされている。
【0028】
シリンダ13の後端(図1の上端)には、ホッパ16が連結されている。ホッパ16は円錐形状とされ、その下端から熱可塑性樹脂のペレットPをシリンダ13内に供給することが可能となっている。ホッパ16からシリンダ13内に供給された熱可塑性樹脂のペレットPは、ノズル12に設けられた図示しない加熱ヒータによりシリンダ13内で溶融され、スクリュー14の回転駆動によりノズル12の先端(下端)に設けられた吐出口15から押し出されるようになっている。
【0029】
押出ユニット11(ノズル12)は図示しない3次元駆動機構に取り付けられており、コンピュータで作成した3Dデータ等に基づいて、造形時に水平方向へ移動される。また、ノズル12の下方に配される造形テーブル30も、図示しない3次元駆動機構に取り付けられており、コンピュータで作成した3Dデータ等に基づいて、造形時に上下方向へ移動される。
【0030】
なお、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル等を使用することができる。
【0031】
本実施形態において、ノズル12は、造形テーブル30に近接して配置された前進位置(図1参照)と、前進位置よりも造形テーブル30から離れた後退位置(図2)との間で変位可能とされている。つまり、造形テーブル30に対して上下方向に移動可能とされている。そして、ノズル12が後退位置に配置された状態(図2の状態)におけるノズル12の吐出口15と造形テーブル30との間には、紡糸ユニット20が配置されている。
【0032】
紡糸ユニット20は、ノズル12から吐出された紐状の熱可塑性樹脂の径を小さくするものであって、加熱ヒータ21と、送風ブロワ22と、筒状部材25とを備えて構成されている。以下、ノズル12が後退位置に配置されている状態(図2の状態)について説明する。
【0033】
加熱ヒータ21は、昇温が速やかなカーボンヒータであって、ノズル12から吐出された紐状の熱可塑性樹脂を取り囲む筒型をなしている。ノズル12から吐出された溶融状態の熱可塑性樹脂は、加熱ヒータ21を通過することにより、溶融状態が維持される。つまり、粘度が低い状態が保たれる。あるいは、加熱ヒータ21の温度をスクリュー14内の加熱温度よりも高い温度に設定し、押し出された溶融樹脂をさらに低粘度化させてもよい。本実施形態において、加熱ヒータ21は、後退状態のノズル12の吐出口15をその内側に配置可能な高さに設置されている。また加熱ヒータ21は、上述したノズル12を内部に挿通可能な内径を有している。加熱ヒータ21は、ノズル12が前進位置に配されている場合にはオフとされ、ノズルが後退位置に配されている場合にオンとされる。
【0034】
送風ブロワ22は、加熱ヒータ21の下方に配置されている。送風ブロワ22は、加熱ヒータ21を通過した溶融状態の紐状の熱可塑性樹脂に対して空気を吹き付けるものである。本実施形態では、4つの送風ブロワ22がそれぞれ紐状の熱可塑性樹脂を取り囲むように、かつ、4つの送風ブロワ22のうちの2つずつが熱可塑性樹脂を挟んで対向位置に配されるように配置され、落下中の熱可塑性樹脂に対して斜め下方に向けて空気を吹き付けるように設置されている(図2および図3参照)。
【0035】
これら4つの送風ブロワ22は制御装置29に接続されており(図3参照)、制御装置29によって、各送風ブロワ22の風量および風速を個別に制御可能とされている。なお、これら4つの送風ブロワ22の互いに対向する吹出口23間の寸法は、上述したノズル12を内側に挿通可能な寸法に設定されている(図1参照)。
【0036】
筒状部材25は、送風ブロワ22の吹出口23付近から下方に向けて延びている。詳細には、筒状部材25は円筒状の本体部26と、本体部26の上端からテーパ状に拡径した拡径部27とを有している。上述した送風ブロワ22の吹出口23は、拡径部27の内側に配置されている。これにより、送風ブロワ22から斜め下方に向けて吹き出された空気は、拡径部27および本体部26の内壁に沿って下方に送られる。筒状部材25の本体部26は、上述したノズル12を内部に挿通可能な内径を有している(図1参照)。
【0037】
また、造形テーブル30には、その板面を上下方向に貫通する逃がし孔31が複数設けられている。
【0038】
本実施形態の三次元積層造形装置10は以上のような構成であって、次に、積層構造体1の製造方法について説明する。先ず、図1に示すように、ノズル12を前進位置に配置する。前進状態においてノズル12は、加熱ヒータ21、4つの送風ブロワ22の吹出口23間、および、筒状部材25を挿通した状態とされる。つまり、ノズル12は、紡糸ユニット20内に収容される。この状態でホッパ16内の熱可塑性樹脂ペレットPをシリンダ13内へ供給すると、ペレットPは、シリンダ13内で溶融しつつ、スクリュー14の回転によりノズル12の先端側に送られ、溶融樹脂となってノズル12の吐出口15から外部に押し出される。なおこの時、紡糸ユニット20の加熱ヒータ21および送風ブロワ22はオフとされている。
【0039】
この状態を継続しつつ、コンピュータで作成した3Dデータを基にノズル12を水平方向に、また造形テーブル30を垂直方向に移動させる。ノズル12の吐出口15から押し出された熱可塑性樹脂は、比較的に太い径を保ちつつ、造形テーブル30上または先に形成された基材層2上に落下する、または、押し付けられる。またこの時、吐出口15は造形テーブル30または先に形成した基材層2に隣接して配置されているから、ノズル12から押し出される熱可塑性樹脂は位置ずれし難い状態で造形テーブル30上または先に形成した基材層2上に落下する、または、押し付けられる。このように熱可塑性樹脂を積層していくことで、空隙を有さない塊状の密度が高い熱可塑性樹脂からなる基材層2が形成される。
【0040】
なおこの時、基材層2のうち上述した造形テーブル30の逃がし孔31に対応する位置に、基材層2を上下方向に貫通する孔部5を形成する。
【0041】
所定の厚みの基材層2が形成されたら、次に、ノズル12を造形テーブル30から離れた後退位置に移動させ(図2参照)、加熱ヒータ21および送風ブロワ22をオンにする。ノズル12は、後退位置において、その吐出口15が加熱ヒータ21の内側に配置されている。そして、熱可塑性樹脂をノズル12の吐出口15から押し出す。この時、押し出される熱可塑性樹脂の単位面積当たりの吐出量は、ノズル12が前進位置とされた場合の熱可塑性樹脂の単位面積当たりの吐出量と比較して、少量とする。
【0042】
ノズル12から押し出された熱可塑性樹脂は、加熱ヒータ21の内側を通過し、溶融状態が保たれた粘度が低い状態、あるいは、さらに低粘度化された状態で落下する。この落下の途中において、熱可塑性樹脂には、送風ブロワ22により斜め下方に向けて空気が吹き付けられる。これにより、溶融状態で落下する紐状の熱可塑性樹脂は風圧で引き延ばされるように径が細められて、径が細い繊維状の熱可塑性樹脂が基材層2の上面に落下する。
【0043】
この時、4つの送風ブロワ22の風速および風量を、各送風ブロワ22に接続された制御装置29(図3参照)によって個別に変化させることにより、熱可塑性樹脂が基材層2上に落下する位置に微妙な変化をつけ、細長い繊維状の熱可塑性樹脂が平面視においてランダムに絡み合った状態の、空隙を有するクッション層3とすることができる。
【0044】
送風ブロワ22から吹き出された空気は、落下中の熱可塑性樹脂に対して吹き付けられつつ拡径部27に沿って下方に送られ、本体部26を通過する。また、筒状部材25から下方に向けて送り出された空気は、基材層2の表面に沿って周囲に逃げる他、基材層2に設けられた孔部5および造形テーブル30に設けられた逃がし孔31を通過して、造形テーブル30の下方に逃がされる。なお、造形テーブル30の下方に吸引装置を設置し、孔部5および逃がし孔31を通して空気を吸引してもよい。
【0045】
送風ブロワ22を通過した熱可塑性樹脂は、筒状部材25により、周囲に飛び散ることなく基材層2上の一定の領域内に案内されて落下する。
【0046】
所定の厚みのクッション層3を形成した後、送風ブロワ22の風量および風速を高め、落下途中の紐状の熱可塑性樹脂の径をさらに細める。これにより、クッション層3を構成する繊維状の熱可塑性樹脂よりもさらに径が細い繊維状の熱可塑性樹脂からなる表皮層4を形成することができる。つまり、クッション層3よりも細い繊維状の樹脂が平面視においてランダムに絡み合った状態の、空隙を有する表皮層4を形成することができる。
【0047】
このようにして、同一の熱可塑性樹脂からなり、密度が高い塊状とされた空隙を有さない基材層2と、比較的に太い繊維状の樹脂が空隙を有する状態で積層されたクッション層3と、比較的に細い繊維状の樹脂が空隙を有する状態で積層された表皮層4と、からなる、つまり、異なる態様の層からなる積層構造体1が作製される。なお、図2および図4では模式的に平坦な状態の積層構造体1を示したが、積層構造体1は、例えば車両のフロアマットの他、車両用の内装材であるドアトリムや荷室のデッキボード等の湾曲形状を有する複雑な構成のものとすることができる。
【0048】
次に、作用効果について説明する。本実施形態の三次元積層造形装置10は、単一素材からなり、空隙を有さない高密度な基材層2と、空隙を有する低密度なクッション層3および表皮層4とを備える積層構造体1を作製可能であって、溶融された状態の熱可塑性樹脂を吐出する押出ユニット11と、押出ユニット11の下方に配置され、押出ユニット11のノズル12から押し出された熱可塑性樹脂を受ける造形テーブル30と、を備え、造形テーブル30の上方に、ノズル12から紐状に押し出されて落下中の熱可塑性樹脂に空気を吹き付ける送風ブロワ22が設けられており、送風ブロワ22が吹き付ける空気により落下中の熱可塑性樹脂の径を細めることが可能とされている。
【0049】
上記構成によれば、送風ブロワ22のオン・オフにより、ノズル12から押し出されて落下中の熱可塑性樹脂の径を変化させることで、空隙を有さない塊状の高密度な基材層2と、繊維状の樹脂を積層させることにより構成された空隙を有する低密度なクッション層3および表皮層4とを作製することができる。クッション層3および表皮層4は、送風ブロワ22の風量や風速を変更することにより、繊維状の樹脂の径を変化させることで作製することができる。つまり、単一素材により構成された異なる態様の複数の層を備える積層構造体1を作製することができる。
【0050】
このような積層構造体1は、異なる素材の層を接着剤を用いて積層させる構成と比較して、製造時の製造コストや廃棄ロスを低減することが可能となり、もって、二酸化炭素の排出削減にもつながる。また、積層構造体1を廃棄する際に、各層を分離する必要がなくなるためリサイクル利用が容易になり、廃棄コストや廃棄ロスを低減することができる。
【0051】
押出ユニット11のノズル12は、当該ノズル12の吐出口15が送風ブロワ22よりも造形テーブル30に近い位置に配置された前進位置と、吐出口15が送風ブロワ22よりも造形テーブル30から遠い位置に配置された後退位置との間で変位可能とされており、ノズル12が後退位置とされた場合に送風ブロワ22がオンとされる。
【0052】
上記構成によれば、ノズル12の吐出口15が比較的に造形テーブル30に近い位置とされた前進位置においては、熱可塑性樹脂を比較的に太い径で、かつ、位置ずれし難い状態で造形テーブル30上に落下させ、あるいは、造形テーブル30上に押し付けて、空隙を有さない塊状の高密度な基材層2を作製することができる。一方、ノズル12の吐出口15が比較的に造形テーブル30から遠い位置とされた後退位置においては、ノズル12から押し出された熱可塑性樹脂に送風ブロワ22からの空気を吹き付けることにより、落下中の熱可塑性樹脂の径を細め、繊維状とされた細径の樹脂を積層させた構成の、空隙を有する低密度なクッション層3および表皮層4を作製することができる。
【0053】
押出ユニット11は、ノズル12が後退位置に配置された状態において、ノズル12が前進位置に配置された状態よりも、単位面積あたりに押し出される熱可塑性樹脂の吐出量が少量とされている。
【0054】
上記構成によれば、吐出量が一定とされた場合と比較して、より密度が低い低密度なクッション層3および表皮層4を作製することができる。
【0055】
送風ブロワ22は、落下中の熱可塑性樹脂に対して斜め下方に向けて空気を吹き付けるようになっている。
【0056】
また送風ブロワは複数(4つ)設けられ、落下中の熱可塑性樹脂を挟んで互いに対向配置されており、複数の各送風ブロワ22の風量および風速をそれぞれ個別に制御可能な制御装置29を備えている。
【0057】
上記構成によれば、落下中の熱可塑性樹脂は、複数の送風ブロワ22から吹き付けられる空気により、その径だけでなく落下軌道も制御可能となる。例えば、それぞれの送風ブロワ22が吹き付ける空気の風量や風速に変化をつけることにより、繊維状の熱可塑性樹脂を平面視において絡まった状態で積層することができる。
【0058】
送風ブロワ22と造形テーブル30との間に落下中の熱可塑性樹脂を取り囲む筒状部材25が設けられており、筒状部材25は上方部分が上方に向けて拡径する拡径部27を有し、送風ブロワ22の吹出口23は平面視において拡径部27の内側に配置されている。
【0059】
上記構成によれば、送風ブロワ22から吹き出された空気を筒状部材25の内面に沿って下方に案内することができる。また、空気が吹き付けられた熱可塑性樹脂を飛び散らせることなく、所定の領域内に落下させることができる。
【0060】
造形テーブル30に送風ブロワ22から吹き出される空気を逃がす逃がし孔31が板面を貫通して設けられている。
【0061】
上記構成によれば、形成される基材層2に逃がし孔31に連続する孔部5を設けることで、送風ブロワ22から吹き出される空気を造形テーブル30の周囲だけでなく、裏面にも逃がすことができる。なお、クッション層3および表皮層4は空隙を有するため、孔部を設けなくても空気を通すことが可能である。
【0062】
送風ブロワの上方に落下中の熱可塑性樹脂を加熱する加熱ヒータ21が設けられている。このような構成によれば、落下中の熱可塑性樹脂の溶融状態を保つことができる。つまり、熱可塑性樹脂が冷却されて硬くなる場合と比較して、径を細め易い。
【0063】
また、加熱ヒータ21は、温度の立ち上がり速度が速いカーボンヒータとすることが好ましい。
【0064】
このように、本実施形態の三次元積層造形装置10によれば、単一素材からなり、異なる態様の複数の層を備える積層構造体1を作製することができる。
【0065】
<他の実施形態>
本明細書に開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も技術的範囲に含まれる。
【0066】
(1)上記実施形態では、造形テーブル30に対するノズル12の位置を変位可能な形態を示したが、ノズルが後退位置から変位しない形態(送風機よりも造形テーブルから離れた位置に固定された形態)も技術的範囲に含まれる。その場合、高密度層を形成する際には、送風機をオフとすればよい。
【0067】
(2)上記実施形態では、ノズル12が後退位置に配置された状態において、ノズル12が前進位置に配置された状態よりも、単位面積あたりに吐出される熱可塑性樹脂の吐出量が少量とされる形態を示したが、ノズルから吐出される熱可塑性樹脂の吐出量は一定であってもよい。
【0068】
(3)上記実施形態では、4つの送風ブロワ22を2つずつ対向配置させる形態を示したが、送風機の数は4つに限るものでなく、2つや8つ等、適宜変更することができる。あるいは、送風機は、落下中の熱可塑性樹脂の周囲を囲む円環状であってもよい。さらに、落下中の熱可塑性樹脂に対して直交する方向に空気を吹き付ける構成とすることもできる。
【0069】
(4)また、複数の送風機の風量や風速が個別に制御可能とされていない形態も技術的範囲に含まれる。
【0070】
(5)筒状部材25や加熱ヒータ21は省略することもできる。また、造形テーブル30に逃がし孔31が設けられていない構成も、技術的範囲に含まれる。
【0071】
(6)加熱ヒータ21は、カーボンヒータに限るものでない。
【0072】
(7)上記実施形態では、空隙を有さない高密度な基材層2と、空隙を有する低密度なクッション層3および表皮層4とがこの順で積層された積層構造体1を作製する形態を示したが、高密度層や低密度層の数や積層順は、上記実施形態に限るものでなく、適宜変更することができる。
【0073】
(8)上記実施形態では、ペレット状の熱可塑性樹脂をシリンダ13内で加熱することにより溶融する形態を示したが、例えばフィラメント状の熱可塑性樹脂を使用し、スクリュー14の摩擦熱により溶融する形態とすることもできる。
【0074】
(9)上記実施形態では、ノズル12が上下方向に延びる縦配置の形態を示したが、ノズル12は、横配置や斜め配置としてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1:積層構造体、2:基材層(高密度層)、3:クッション層(低密度層)、4:表皮層(低密度層)、10:三次元積層造形装置、11:押出ユニット(吐出装置)、12:ノズル、15:吐出口、20:紡糸ユニット、21:加熱ヒータ(加熱装置)、22:送風ブロワ(送風機)、23:吹出口、25:筒状部材、26:本体部、27:拡径部、29:制御装置、30:造形テーブル、31:逃がし孔、P:ペレット
図1
図2
図3
図4