(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031275
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】RFIDタグ
(51)【国際特許分類】
G06K 19/077 20060101AFI20240229BHJP
H01Q 13/10 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G06K19/077 280
G06K19/077 144
H01Q13/10
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134730
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510204862
【氏名又は名称】大同産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 卓朗
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翼
(72)【発明者】
【氏名】菅 武
(72)【発明者】
【氏名】中根 仁
【テーマコード(参考)】
5J045
【Fターム(参考)】
5J045AA05
5J045AB03
5J045AB05
5J045DA06
5J045MA07
(57)【要約】
【課題】通信性能を向上でき、かつ小型化できるRFIDタグを提供する。
【解決手段】RFIDタグ100は、インレイ101と磁性シート102との間に配置される粘着層104を備える。磁性シート102には、磁性特性を有する磁性層を区分するスリット30が設けられる。このスリット30は、磁性シート102とインレイ101とが積層された状態で、インレイ101のスロット21と重なる領域に配置される。粘着層104には、磁性シート102のスリット30と重畳配置される第2スリット40が設けられ、第2スリット40がスリット30と重畳配置される。スリット30及び第2スリット40により形成される領域50は、少なくとも粘着層104より誘電率が低くなるよう形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貼付対象物に貼付されるRFIDタグであって、
識別情報が記録されるICチップと、前記ICチップに接続されるスロットアンテナと、を有するインレイと、
前記インレイの前記貼付対象物側に積層される磁性シートと、
前記インレイと前記磁性シートとの間に配置される粘着層と、
を備え、
前記スロットアンテナは金属薄膜で形成され、
前記スロットアンテナには、前記金属薄膜の一部が細長く切り抜かれたスロットが設けられ、
前記磁性シートには、磁性特性を有する磁性層を区分するスリットが設けられ、
前記スリットは、前記磁性シートと前記インレイとが積層された状態で、前記インレイの前記スロットと重なる領域に配置され、
前記粘着層には、前記磁性シートの前記スリットと重畳配置される第2スリットが設けられ、
前記スリット及び前記第2スリットにより形成される領域は、少なくとも前記粘着層より誘電率が低くなるよう形成される、
RFIDタグ。
【請求項2】
前記スリット及び前記第2スリットにより形成される前記領域は、空隙層である、
請求項1に記載のRFIDタグ。
【請求項3】
前記空隙層には、少なくとも1つの支持部材が設けられ、
前記支持部材は、
前記粘着層と同材料、または、前記粘着層より誘電率が低い材料で形成され、
当該RFIDタグの積層方向に沿って前記空隙層中の前記積層方向の両端まで延在するよう形成される、
請求項2に記載のRFIDタグ。
【請求項4】
前記粘着層の前記第2スリットは、延在方向の少なくとも一方が前記粘着層の端部まで到達するように形成され、
前記空隙層は、前記第2スリットによって外部と連通する、
請求項2に記載のRFIDタグ。
【請求項5】
前記スリット及び前記第2スリットにより形成される前記領域は、前記粘着層より誘電率が低い材料が充填されて形成される充填層である、
請求項1に記載のRFIDタグ。
【請求項6】
当該RFIDタグの積層方向に沿った前記粘着層の厚さは、50μm以上である、
請求項1に記載のRFIDタグ。
【請求項7】
前記磁性シートの貼付対象物側にさらに積層される第2粘着層を備え、
前記第2粘着層は、少なくとも前記粘着層より誘電率が低い材料で形成される、
請求項1~6のいずれか一項に記載のRFIDタグ。
【請求項8】
前記磁性シートと前記第2粘着層との間に配置される誘電層を備える、
請求項7に記載のRFIDタグ。
【請求項9】
貼付対象物に貼付されるRFIDタグであって、
識別情報が記録されるICチップと、前記ICチップに接続されるスロットアンテナと、を有するインレイと、
前記インレイの前記貼付対象物側に積層される磁性シートと、
前記インレイと前記磁性シートとの間に配置される粘着層と、
前記磁性シートの貼付対象物側にさらに積層される第2粘着層と、
を備え、
前記スロットアンテナは金属薄膜で形成され、
前記スロットアンテナには、前記金属薄膜の一部が細長く切り抜かれたスロットが設けられ、
前記磁性シートには、磁性特性を有する磁性層を区分するスリットが設けられ、
前記スリットは、前記磁性シートと前記インレイとが積層された状態で、前記インレイの前記スロットと重なる領域に配置され、
前記第2粘着層は、少なくとも前記粘着層より誘電率が低い材料で形成される、
RFIDタグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、RFIDタグに関する。
【背景技術】
【0002】
物流管理や商品管理のため、貼付対象物に貼付されるRFID(Radio Frequency Identification)タグが普及している。RFIDタグは、ICチップとICチップに電気的に接続されるアンテナとを備える。RFIDタグは、無線タグ、ICタグ、RF-IDタグ、RFタグと呼ばれることもある。
【0003】
このようなRFIDタグが貼付される貼付対象物が金属製である場合、タグ内のアンテナによる通信ができず、識別情報の読み出しに支障をきたすことがある。これは、金属がRFIDタグの周辺にあると、データを送受信するリーダライタからRFIDタグに送られた電磁波が、金属部で渦電流として損失してしまうため、ICチップからデータを再びアンテナに打ち返すためのエネルギが効率的に得られないことが原因と推測される。
【0004】
これらの問題を解決する手段として、磁性シートの使用が有効であることが知られている。RFIDタグと、貼付対象物である金属との間に磁性シートを挟むことで、アンテナが受けた電磁波を磁性シート内部で循環させ、ICチップに供給するエネルギを効率的に伝送することができる(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】深瀬美紀子、武本聡、「UHF帯金属対応RFIDタグ用磁性シートの開発」、電気製鋼、第82巻1号、p.23~30、2011年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、RFIDタグの通信に用いられる周波数帯は、HF帯(13.56MHz、電磁誘導方式)と比較して長距離通信や複数の対象物の一括読み取りが可能となるUHF帯(電波方式)のニーズが高まっている。しかしながら、従来のRFIDタグと金属との間に磁性シートを挟む構成では、UHF帯で通信ができない虞がある。
【0007】
また、RFIDタグは貼付対象物に貼付して用いられる構成上、汎用性を向上させるために全体のサイズを小型化できるのが望ましい。
【0008】
本開示は、通信性能を向上でき、かつ小型化できるRFIDタグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態の一観点に係るRFIDタグは、貼付対象物に貼付されるRFIDタグであって、識別情報が記録されるICチップと、前記ICチップに接続されるスロットアンテナと、を有するインレイと、前記インレイの前記貼付対象物側に積層される磁性シートと、前記インレイと前記磁性シートとの間に配置される粘着層と、を備え、前記スロットアンテナは金属薄膜で形成され、前記スロットアンテナには、前記金属薄膜の一部が細長く切り抜かれたスロットが設けられ、前記磁性シートには、磁性特性を有する磁性層を区分するスリットが設けられ、前記スリットは、前記磁性シートと前記インレイとが積層された状態で、前記インレイの前記スロットと重なる領域に配置され、前記粘着層には、前記磁性シートの前記スリットと重畳配置される第2スリットが設けられ、前記スリット及び前記第2スリットにより形成される領域は、少なくとも前記粘着層より誘電率が低くなるよう形成される。
【0010】
この態様によれば、磁性シートにスリットを設けることにより、貼付対象物の種類によらず、RFIDタグのUHF帯における通信可能距離を増やすことが可能となり、通信性能を向上できる。また、HF帯と比較して長距離通信や複数の対象物の一括読み取りが可能とUHF帯の通信可能距離を増やすことができるので、汎用性の高いRFIDタグを実現できる。さらに、この態様では、インレイと磁性シートとの間に配置される粘着層には、磁性シートのスリットと同様の第2スリットが設けられ、第2スリットがスリットと重畳配置される。このような第2スリットをインレイの直下に設けることにより、RFIDタグの通信性能を向上でき、かつ小型化できる。
【0011】
本発明の実施形態の他の観点に係るRFIDタグでは、前記スリット及び前記第2スリットにより形成される前記領域は、空隙層である構成でもよい。
【0012】
この態様によれば、ICチップの直下に形成される空隙層は比誘電率が1となり、粘着層に対して誘電率が充分に低くなるので、貼付対象物によるインレイの通信性能への影響をより一層抑制でき、RFIDタグの通信性能をさらに向上できる。
【0013】
本発明の実施形態の他の観点に係るRFIDタグでは、前記空隙層には、少なくとも1つの支持部材が設けられ、前記支持部材は、前記粘着層と同材料、または、前記粘着層より誘電率が低い材料で形成され、当該RFIDタグの積層方向に沿って前記空隙層中の前記積層方向の両端まで延在するよう形成される構成でもよい。
【0014】
この態様によれば、スリット及び第2スリットにより形成される領域を、少なくとも粘着層より誘電率が低くなるよう形成することができるので、貼付対象物によるインレイの通信性能への影響を抑制でき、RFIDタグの通信性能を向上できる。
【0015】
本発明の実施形態の他の観点に係るRFIDタグでは、前記粘着層の前記第2スリットは、延在方向の少なくとも一方が前記粘着層の端部まで到達するように形成され、前記空隙層は、前記第2スリットによって外部と連通する構成でもよい。
【0016】
この態様によれば、第2スリットと磁性シートのスリットとによって形成される空隙層は、RFIDタグの長手方向の少なくとも一方の端部にて第2スリットによって開口され、この開口部を介して外部と連通することができる。これにより、空隙層内の空気が入れ替えられるので、空隙の比誘電率を1に維持することが容易となり、貼付対象物によるインレイの通信性能への影響をより一層抑制できる。
【0017】
本発明の実施形態の他の観点に係るRFIDタグでは、前記スリット及び前記第2スリットにより形成される前記領域は、前記粘着層より誘電率が低い材料が充填されて形成される充填層である構成でもよい。
【0018】
この態様によれば、スリット及び第2スリットにより形成される領域を、少なくとも粘着層より誘電率が低くなるよう形成することができるので、貼付対象物によるインレイの通信性能への影響を抑制でき、RFIDタグの通信性能を向上できる。
【0019】
本発明の実施形態の他の観点に係るRFIDタグでは、当該RFIDタグの積層方向に沿った前記粘着層の厚さは、50μm以上である構成でもよい。
【0020】
この態様によれば、RFIDタグの使用時に、インレイと貼付対象物との距離を充分に確保できるので、貼付対象物によるインレイの通信性能への影響をさらに抑制でき、RFIDタグの通信性能をさらに向上できる。これによりさらなる小型化にも繋がる。
【0021】
本発明の実施形態の他の観点に係るRFIDタグは、前記磁性シートの貼付対象物側にさらに積層される第2粘着層を備え、前記第2粘着層は、少なくとも前記粘着層より誘電率が低い材料で形成される構成でもよい。
【0022】
この態様によれば、低誘電率の第2粘着層がインレイと金属などの貼付対象物との間に介在するので、貼付対象物によるインレイの通信性能への影響をさらに抑制できる。この結果、RFIDタグの通信性能をさらに向上でき、小型化を促進できる。
【0023】
本発明の実施形態の他の観点に係るRFIDタグは、前記磁性シートと前記第2粘着層との間に配置される誘電層を備える構成でもよい。
【0024】
この態様によれば、誘電層を設けることにより、UHF帯における通信可能距離をさらに増やすことができるので、通信性能をさらに向上できる。
【0025】
本発明の実施形態の他の観点に係るRFIDタグは、貼付対象物に貼付されるRFIDタグであって、識別情報が記録されるICチップと、前記ICチップに接続されるスロットアンテナと、を有するインレイと、前記インレイの前記貼付対象物側に積層される磁性シートと、前記インレイと前記磁性シートとの間に配置される粘着層と、前記磁性シートの貼付対象物側にさらに積層される第2粘着層と、を備え、前記スロットアンテナは金属薄膜で形成され、前記スロットアンテナには、前記金属薄膜の一部が細長く切り抜かれたスロットが設けられ、前記磁性シートには、磁性特性を有する磁性層を区分するスリットが設けられ、前記スリットは、前記磁性シートと前記インレイとが積層された状態で、前記インレイの前記スロットと重なる領域に配置され、前記第2粘着層は、少なくとも前記粘着層より誘電率が低い材料で形成される構成でもよい。
【0026】
この態様によれば、低誘電率の第2粘着層がインレイと金属などの貼付対象物との間に介在するので、貼付対象物によるインレイの通信性能への影響をさらに抑制できる。これにより、RFIDタグの通信性能を向上でき、かつ小型化できる。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、通信性能を向上でき、かつ小型化できるRFIDタグ及びRFIDタグの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図3】
図1に示すRFIDタグの上方から視た平面図
【
図4】スロットアンテナの他の形状のスロットの一例を示す平面図
【
図5】実施形態に係るRFIDタグの製造方法の一例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0030】
なお、以下の説明において、X方向、Y方向、Z方向は互いに垂直な方向である。X方向はインレイ101や磁性シート102の長手方向であり、スロット21の平行部22及びスリット30の延在方向である。Y方向は、インレイ101や磁性シート102の短手方向であり、スロット21の垂直部23の延在方向である。Z方向は、インレイ101や磁性シート102などRFIDタグ100の各構成要素の積層方向である。また、以下では説明の便宜上、Z正方向側を上側、Z負方向側を下側とも表現する場合がある。
【0031】
図1は、実施形態に係るRFIDタグ100の積層断面図である。
図2は、
図1に示すRFIDタグ100の分解斜視図である。
図3は、
図1に示すRFIDタグ100の上方から視た平面図である。なお、
図1に示す断面図は、例えば
図3に二点鎖線で示す断面線に沿ったI-I断面図である。
【0032】
RFIDタグ100は、貼付対象物200に貼付される略平面状の装置である。
図1~
図3に示すように、RFIDタグは、インレイ101と、磁性シート102と、誘電層103とを備える。貼付対象物200は、例えば金属である。金属としては、鉄、アルミニウム、銅などの金属の他、鉄合金、アルミ合金、銅合金等の金属の合金を含む。なお、貼付対象物200には、金属以外の他の材料、例えばプラスチックス、紙、セラミックスなども含まれる。
【0033】
実施形態に係るRFIDタグ100の主な使用用途としては、ドラム缶、H鋼等の比較的大きな金属製品への貼り付けが対象であり、これらの金属製品個々の在庫管理等を含む流通経路上の追跡(トレサビリティ)に使用できる。その他に、金属製品以外にも、本件のタグを貼り付けて使用してもよい。
【0034】
さらに、本実施形態のRFIDタグ100は、可撓性を有しており、被着体の表面が湾曲していても貼り付け可能である。湾曲状に曲げられて状態においても、良好な通信性能を発揮でき、ドラム缶やスプレー缶などの曲面を有する物品の識別にも本実施形態のRFIDタグ100を使用することができ、用途の多様化を図ることができる。
【0035】
インレイ101は、RFIDタグ100の機能に関する要素を含む部分であり、
図2、
図3に示すように、識別情報が記録されるICチップ10と、ICチップ10に接続されるスロットアンテナ20と、を有する。スロットアンテナ20は金属薄膜で形成される。スロットアンテナ20には、金属薄膜の一部が細長く切り抜かれたスロット21が設けられる。インレイ101は、例えばPETフィルム上に、アルミシートをドライラミネートで貼り付けたスロットアンテナ20が形成され、規定の位置にICチップ10が実装されている。なお、
図1の断面図では、インレイ101は、PETフィルムなどの基材と、スロットアンテナ20とが纏めて一体的に図示されており、その上部にICチップ10が図示されている。
【0036】
図2、
図3に示すように、インレイ101の上側の主面の中央にICチップ10が配置されている。スロットアンテナ20のスロット21は、このように配置されるICチップ10を挟んで所定方向(
図2、
図3の例ではX方向)に平行に延在する一対の平行部22と、これらの一対の平行部22と直交する方向(Y方向)に延在する一対の垂直部23とを有する。一対の垂直部23は、ICチップ10を挟んでX方向に略等間隔の位置にそれぞれ配置される。
【0037】
なお、ICチップ10のインピーダンスの周波数特性は以下のとおりである。
・866MHz:15-j265(Ω)
・915MHz:14-j252(Ω)
・953MHz:13-j242(Ω)
【0038】
スロットアンテナ20のインピーダンスは、915~920MHzで上記のICチップ10のインピーダンスと整合するように設計されている。このようなインピーダンスの整合により、電流の損失が少なくなり、損失を少なくすることで通信可能距離が増大する。
【0039】
磁性シート102は、磁性材料を含有するシート材であり、インレイ101の貼付対象物200側に積層される。磁性シート102は、例えばステンレス系合金などの磁性粉末をゴム材や樹脂等に均一かつ配向して分散するように練り込んで形成される。
図1~
図3に示すように、磁性シート102には、磁性特性を有する磁性層を区分するスリット30が設けられる。スリット30は、磁性シート102とインレイ101とが積層された状態で、インレイ101のスロット21と重なる領域に配置される。
【0040】
スリット30は、例えば
図2、
図3に示すように、磁性シート102のY方向の中央の位置に、X方向に沿って延在するよう形成される。また、スロットアンテナ20のスロット21と、磁性シート102のスリット30との配置は、例えば
図3に示すように、スリット30の領域にスロット21のうち少なくとも一対の平行部22の全体が含まれるように配置される。
【0041】
磁性シート102には、UHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものを用いるのが好ましい。磁性シート102は、磁性フィラー、バインダー樹脂等の成分が含まれる磁性塗料を、支持体上に塗布して乾燥させることで得られる。磁性シート102をUHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものにするためには、乾燥後の磁性シート102の膜厚が、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下となるように、磁性塗料が塗布される。また、乾燥後の磁性シート102の膜厚が、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以下となるように、磁性塗料が塗布される。
【0042】
同様に、磁性シート102をUHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものにするためには、磁性シートの860~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の損失係数tanδ(μ´/μ´´)は、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.28以下である。また、磁性シートの860~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の損失係数tanδ(μ´/μ´´)は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上である。
【0043】
なお、本実施形態におけるRFIDタグ100の全体のZ方向の厚さ(剥離紙107を除く)は、200μm~1000μmであり、好ましくは300~400μmである。また、磁性シート102とインレイ101を貼り合せた状態の厚さ(ラベル紙105及び剥離紙107は除く)は、150~250μmであり、好ましくは190~210μmであり、より好ましくは200μm程度である。ラベル紙105の厚さは、粘着剤108を含め、50μm~300μmである。剥離紙107の厚さは、50μm~300μmである。一例として、RFIDタグ100の各要素の厚さは、ラベル紙105が60μm、粘着剤108が20μm、インレイ101が48μm、粘着層104が60μm、磁性シート102が100μm、誘電層103が38μm、第2粘着層106が50μm、剥離紙107が66μmであり、RFIDタグ100の全体の厚さは442μmである。このとき、インレイ101は、例えば、厚さ38μmのPETフィルム上に、10μmのアルミシートをドライラミネートで貼り付けたスロットアンテナ20を形成し、規定の位置にICチップ10を実装することができる。
【0044】
同様に、磁性シート102をUHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものにするためには、磁性シートの860~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の実数部μ´は、好ましくは5.0以上であり、より好ましくは5.2以上である。また、磁性シートの860~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の実数部μ´は、好ましくは7.0以下であり、より好ましくは6.0以下である。
【0045】
また、上記の複素比透磁率の条件を満たすためには、磁性塗料に含まれる磁性フィラーの材質は、Fe-Cr合金であるのが好ましい。また、磁性フィラーとバインダーの固形分の質量比(磁性フィラーの質量/バインダーの固形分の質量)が70/30以上であるのが好ましく、75/25以上であるのがより好ましく、80/20以上であるのがさらに好ましい。さらに、磁性フィラーとバインダーの固形分の質量比(磁性フィラーの質量/バインダーの固形分の質量)は、95/5以下であるのが好ましく、90/10以下であるのがより好ましく、85/15以下であるのがさらに好ましい。
【0046】
また、磁性塗料に含まれるバインダー樹脂は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、またはポリエステル樹脂から成る群より選ばれる1種類以上の樹脂であり、エポキシ樹脂が好ましい。
【0047】
誘電層103は、磁性シート102の貼付対象物200側にさらに積層され、磁性シート102と貼付対象物200との間に配置される。
図2では、誘電層103は磁性シート102の下方に一体的に図示されている。誘電層103は、例えば厚紙や合成樹脂等の繊維からなる織布や不織布、セラミックガラス等の無機材料のシートなどの絶縁体で形成されるのが好ましい。本実施形態では、誘電層103は、例えば発泡PETで形成される。誘電層103の材料は、比誘電率が1.2~3.0程度であるのものが好ましく、これによりRFIDタグ100の通信距離を増やすことができる。
【0048】
また、
図1に示すように、誘電層103は、インレイ101及び磁性シート102を、貼付対象物200からその厚み分だけ離間させた状態で配置させるスペーサとしても機能する。誘電層103は、外力に応じてインレイ101及び磁性シート102と共に任意に変形可能な材料で形成され、これにより貼付対象物200の貼付面が湾曲している場合でもRFIDタグ100を容易に貼付でき、汎用性を向上できるよう構成されるのが好ましい。
【0049】
また、RFIDタグ100では、インレイ101と磁性シート102との間に粘着層104が配置される。粘着層104は、インレイ101と磁性シート102とを接着する。
【0050】
図1~
図3に示すように、粘着層104には、磁性シート102のスリット30と同様の第2スリット40が設けられる。第2スリット40は、磁性シート102とインレイ101とが積層された状態で、磁性シート102のスリット30と重畳配置される位置に設けられる。すなわち、第2スリット40も、スリット30と同様にインレイ101のスロット21と重なる領域に配置される。第2スリット40は、例えば
図2、
図3に示すように、粘着層104のY方向の中央の位置に、X方向に沿って延在するよう形成される。
【0051】
図1に示すように、また、
図3に一点鎖線で示すように、第2スリット40のY方向の寸法は、スリット30よりやや大きいのが好ましい。つまり、第2スリット40により2つに区分される粘着層104が、磁性シート102よりY方向中央側に突出しないように設けられるのが好ましい。
【0052】
そして特に本実施形態では、磁性シート102のスリット30と、粘着層104の第2スリット40により形成される領域(
図1に符号50で示す領域)は、少なくとも粘着層104より誘電率が低くなるよう形成される。より詳細には、本実施形態ではこの領域とは空隙層50であり、スリット30及び第2スリット40によってRFIDタグ100のインレイ101の直下に空隙層50が形成される。
【0053】
ここで、RFIDタグ100の積層方向(Z方向)に沿った粘着層104の厚さは、50μm以上であるのが好ましく、80μm以上であるのがさらに好ましい。また、例えば粘着層104は、比誘電率2.5以上の材料で形成されるのが好ましく、第2粘着層106の比誘電率よりも高ければ粘着層104は比誘電率2~5程度の材料で形成されてもよい。
【0054】
また、本実施形態のRFIDタグ100では、インレイ101の上方にさらにラベル紙(フィルム系タック紙)105が配置される。ラベル紙105は、Z正方向側の表面に印刷可能である。ラベル紙の素材は適宜選択可能である。ラベル紙105は、インレイ101、磁性シート102、及び誘電層103と同じ大きさで形成される。また、
図1、
図2に示すように、ラベル紙105のZ負方向側の裏面には粘着剤108が塗布されており、粘着剤108によりインレイ101の上面に接着されている。
【0055】
また、本実施形態のRFIDタグ100では、貼付対象物200と対向する誘電層103の下面に粘着剤が塗布されて、第2粘着層106が形成されている。第2粘着層106は、磁性シート102の貼付対象物200側にさらに積層されており、誘電層103は、磁性シート102と第2粘着層106との間に配置される。第2粘着層106が貼付対象物200に粘着することによって、RFIDタグ100の全体が貼付対象物200に貼付される。
【0056】
また、第2粘着層106を形成する粘着剤は、例えば長期間使用する使用環境においては接着剤を用いることができる。しかし、接着剤は硬化すると剥離が困難になる場合がある。これに対し、粘着剤は、通常、作業者の手作業等でRFIDタグ100を対象物品から剥離可能であり、さらに、粘着剤の種類によっては剥離後にRFIDタグ100を再度貼り付け可能でありRFIDタグ100として再利用可能となる場合がある。
【0057】
そして特に本実施形態では、第2粘着層106は、少なくとも粘着層104より誘電率が低い材料で形成される。粘着層104より比誘電率が低ければ、第2粘着層106の比誘電率は1~5程度が好ましく、2~3程度がより好ましい。
【0058】
また、
図2に示すように、使用前のRFIDタグ100には、第2粘着層106より下方に剥離紙107が配置される。剥離紙107は、例えばインレイ101、磁性シート102、及び誘電層103より大きく形成され、インレイ101、磁性シート102、及び誘電層103の外形の全周が剥離紙107の範囲に含まれるように形成することができる。RFIDタグ100の使用時には、剥離紙107がRFIDタグ100から剥がされて、これにより露出した第2粘着層106によってRFIDタグ100が貼付対象物200に貼付される。
【0059】
また、剥離紙107は、
図2に例示するものよりも大きく形成され、一枚の剥離紙107の上に複数個のRFIDタグ100が配置される構成でもよい。これにより、製造効率や搬送効率を向上できる。
【0060】
なお、
図2、
図3に示したスロットアンテナ20のスロット21の形状は一例であり、
図2、
図3に示した形状には限定されない。
図4は、スロットアンテナ20の他の形状のスロット21Aの一例を示す平面図である。
【0061】
スロットアンテナ20のスロットの形状は、例えば
図4に示すスロット21Aのように、一対の平行部22Aのみを有し、垂直部が無い形状でもよい。
図4の例では、平行部22Aは、
図3の垂直部23の延在方向に向けて、
図3の平行部22よりも開口面積が増えており、Y方向の幅が大きくなっている。また、
図4の例では、スリット30及び第2スリット40の領域にスロット21Aの一対の平行部22Aが含まれるように、スリット30及び第2スリット40の幅が広く形成されている。
【0062】
図5は、実施形態に係るRFIDタグ100の製造方法の一例を示すフローチャートである。ステップS1では、磁性特性を有する磁性層を区分するスリット30が設けられた磁性シート102(スリット入り磁性シート)が形成される。
【0063】
このようなスリット入り磁性シート102は、例えば、ロール・トゥ・ロール方式により、ポリエステル系合成フィルム(東洋紡株式会社製、「クリスパーK1211 #38μ」)を速度3m/minで搬送しながら、該フィルム上に、コーターを用いて磁気シールド塗料によるストライプパターンを形成し、40℃から80℃まで温度を上げながら30mの硬化炉を通過させることで、形成できる。
【0064】
ステップS2では、ステップS1にて形成されたスリット入り磁性シート102と、インレイ101とが積層される。このとき、インレイ101と磁性シート102との間には、第2スリット40が設けられた粘着層104が形成され、この粘着層104によってインレイ101と磁性シート102とが接着される。粘着層104は、例えば
図1~
図3に示すように第2スリット40によって2つに区分され、各部がスリット30により区分された磁性シート102のそれぞれの上に塗布される。
【0065】
なお、ステップS1において磁性シート102に設けられるスリット30は、ステップS2にて磁性シート102とインレイ101とが積層された状態で、インレイ101のスロット21と重なる領域に配置されるよう形成される。同様に、ステップS2において粘着層104に設けられる第2スリット40も、ステップS2にて磁性シート102とインレイ101とが積層された状態で、インレイ101のスロット21と重なる領域に配置されるよう形成される。
【0066】
ステップS3では、磁性シート102のインレイ101と反対側の面に誘電層103が積層される。なお、ステップS2とS3とを逆に行い、磁性シート102と誘電層103とを積層した後に、インレイ101と磁性シート102とを積層する手順でもよい。
【0067】
ステップS4では、インレイ101の磁性シート102とは反対側の面にフィルム系タック紙(ラベル紙)105が積層される。
【0068】
このように、本実施形態に係るRFIDタグ100は、識別情報が記録されるICチップ10と、ICチップ10に接続されるスロットアンテナ20と、を有するインレイ101と、インレイ101の貼付対象物200側に積層される磁性シート102と、を備える。スロットアンテナ20は金属薄膜で形成され、スロットアンテナ20には、金属薄膜の一部が細長く切り抜かれたスロット21が設けられる。磁性シート102には、磁性特性を有する磁性層を区分するスリット30が設けられる。このスリット30は、磁性シート102とインレイ101とが積層された状態で、インレイ101のスロット21と重なる領域に配置される。
【0069】
このように磁性シート102にスリット30を設けることにより、貼付対象物200の種類によらず、RFIDタグ100のUHF帯における通信可能距離を増やすことが可能となり、通信性能を向上できる(後述する
図22参照)。また、HF帯と比較して長距離通信や複数の対象物の一括読み取りが可能とUHF帯の通信可能距離を増やすことができるので、汎用性の高いRFIDタグ100を実現できる。
【0070】
また、貼付対象物200が金属製であると、従来のRFIDタグではタグ内のアンテナによる通信ができず、識別情報の読み出しに支障をきたすことがあるので、本実施形態に係るRFIDタグ100通信性能を向上できるという効果は、貼付対象物200が金属製であるときに特に顕著となる。
【0071】
また、磁性シートを用いない既存の金属用のRFIDタグにおいては、被着体としての金属の影響による通信性能低下を抑えるために、インレイと被着体との間に比較的大きな間隔が必要となり、その間隔を確保するためにRFIDタグの全体の厚みが3.5mm以上であり薄型化が困難であった。
【0072】
これに対して、本実施形態のRFIDタグの厚みは、1mm以下であり、磁性シートを使用しない従来のRFIDタグよりも薄くすることができる。例えば、ラベル紙及び剥離紙を含んだRFIDタグの厚さとして約350μmの厚さとすることができ、金属対応のRFIDタグとして著しく薄型化ができる。
【0073】
また、著しく薄型化が可能となることで、通常用いられている(汎用の)ラベルプリンターを用いて、ラベルの印刷とICチップへの情報の書き込みとを同時に行うことが可能で、製造効率を一層高めることができる。
【0074】
さらに、本実施形態に係るRFIDタグ100では、インレイ101と磁性シート102との間に配置される粘着層104には、磁性シート102のスリット30と同様の第2スリット40が設けられ、第2スリット40がスリット30と重畳配置される。スリット30及び第2スリット40により形成される領域は、少なくとも粘着層104より誘電率が低くなるよう形成される。より詳細にはこの領域とは空隙層50である。
【0075】
このような空隙層50をインレイ101の直下に設けることにより、RFIDタグ100の通信性能を向上でき、かつ小型化できるという効果を奏することができる。以下
図6を参照してこの効果について説明する。
図6は、比較例に係るRFIDタグ300の積層断面図である。
図6の概略は
図1と同様である。
【0076】
図6に示すRFIDタグ300は、インレイ101と磁性シート102との間に配置される粘着層104Aに、本実施形態の第2スリット40が設けられず、粘着層104Aがインレイ101や誘電層103と同様の面積で一体的に形成される点で、実施形態のRFIDタグ100と異なる。また、インレイ101とラベル紙105との間に配置される粘着剤108Aが、さらにインレイ101、磁性シート102、及び誘電層103の外周側を覆うようにZ方向にも延在し、その下端に貼付対象物200と接触するよう形成され、誘電層103の下面には粘着剤が塗布されない点でも、実施形態のRFIDタグ100と異なる。
【0077】
図6に示すように、磁性シート102にスリット30を設け、かつ、粘着層104Aに第2スリット40を設けない構成を考える。この構成では、粘着層104Aはインレイ101の下面全体に塗布されている。このため、粘着層104AのY方向中央部分が磁性シート102のスリット30の部分に進入しやすく、これにより
図6に矢印Aで示すように、粘着層104Aが塗布されているインレイ101の中央部分、すなわちICチップ10が設置される部分が下方に引っ張られて湾曲しやすい傾向がある。このようなインレイ101の湾曲により、ICチップ10も磁性シート102の間のスリット30の凹みの方向に沈むので、ICチップ10が貼付対象物200の金属に接近する場合が生じ得る。
【0078】
このような事象が発生すると、貼付対象物200によるインレイ101の通信性能への影響が強くなるため、RFIDタグ300の通信距離が著しく低下する。したがって、
図6に示す比較例のRFIDタグ300では、通信可能距離を担保するためには、貼付対象物200によるインレイ101の通信性能への影響を予め考慮して、例えばICチップ10やスロットアンテナ20を大型化するなどの対処が必要となる。同様の対処法としては、
図6に示すようインレイ101や磁性シート102などの各種タグ要素の外周部を粘着層104Aにより覆ったり、またはラベル紙105の面積をインレイ101などの各種タグ要素より大きく形成して、粘着層104Aと同様に各種タグ要素のラベル紙105によっても外周部を覆う構成とすることも考えられる。この場合、各種タグ要素を粘着層104Aやラベル紙105に内蔵する構造として、誘電層103の下面には粘着剤を塗布せずに、各種タグ要素の外周側に配置される粘着層104Aの下端によってRFIDタグ300が貼付対象物200に貼付される。これらの対処法によって、RFIDタグ300のサイズを大きくせざるを得なくなり、比較例のRFIDタグ300では小型化が難しいという問題がある。
【0079】
このような比較例の問題に対して、本実施形態のRFIDタグ100のように粘着層104に第2スリット40を設けると、
図1などに示すように、インレイ101の下面のうちICチップ10が設置される中央部分には粘着剤が塗布されないので、
図6を参照して説明したようにインレイ101の中央部分が下方に湾曲する事象の発生を防止できる。これにより、インレイ101のICチップ10が貼付対象物200の金属に接近することを防止できるので、貼付対象物200によるインレイ101の通信性能への影響を抑制でき、RFIDタグ100の通信可能距離の低下を防止できる。通信可能距離が低下しないため、インレイ101の大型化も不要となり、誘電層103の下面に粘着剤を塗布することも可能となるので、ラベル紙105をインレイ101などのタグ要素より大型化する必要もなくなり、RFIDタグ100の小型化を促進できる。
【0080】
また、ICチップ10の直下に形成される空隙層50は比誘電率が1である。すなわち、磁性シート102のスリット30と、粘着層104の第2スリット40により形成される領域である空隙層50は、少なくとも粘着層104より誘電率が低くなるよう形成される。このようにインレイ101のICチップ10と貼付対象物200との間に低誘電率の層が介在することによっても、貼付対象物200によるインレイ101の通信性能への影響を抑制でき、RFIDタグ100の通信性能を向上できる。特に、空隙層50は比誘電率が1であるので、粘着層104に対して誘電率が充分に低くなるので、貼付対象物200によるインレイ101の通信性能への影響をより一層抑制でき、RFIDタグ100の通信性能をさらに向上できる。この結果、本実施形態のRFIDタグ100は、RFIDタグ100の通信性能を向上でき、かつ小型化できる。
【0081】
また、
図2、
図3などに示すように、粘着層104の第2スリット40は、延在方向(X方向)の両端が粘着層104の端部まで到達して粘着層104を2つに区分するよう設けられるのが好ましい。この構成により、第2スリット40と磁性シート102のスリット30とによって形成される空隙層50は、RFIDタグ100のX方向の両端部にて第2スリット40によって開口され、この開口部を介して外部と連通することができる。これにより、空隙層50内の空気が入れ替えられるので、空隙層50の比誘電率を1に維持することが容易となる。この結果、本実施形態のRFIDタグ100は、貼付対象物200によるインレイ101の通信性能への影響をより一層抑制できるので、RFIDタグ100の通信性能を向上でき、かつ小型化できる。
【0082】
さらに、RFIDタグ100の積層方向(Z方向)に沿った粘着層104の厚さは、50μm以上であるのが好ましく、80μm以上であるのがさらに好ましい。この構成により、RFIDタグ100の使用時に、インレイ101と貼付対象物200との距離を充分に確保できるので、貼付対象物200によるインレイ101の通信性能への影響をさらに抑制でき、RFIDタグ100の通信性能をさらに向上できる。これによりさらなる小型化にも繋がる。
【0083】
さらに、本実施形態のRFIDタグ100では、貼付対象物200と当接して粘着する第2粘着層106は、少なくとも粘着層104より誘電率が低い材料で形成される。この構成により、低誘電率の第2粘着層106がインレイ101と金属などの貼付対象物200との間に介在するので、貼付対象物200によるインレイ101の通信性能への影響を抑制できる。この結果、本実施形態のRFIDタグ100は、RFIDタグ100の通信性能をさらに向上でき、小型化を促進できる。
【0084】
また、本実施形態に係るRFIDタグ100では、磁性シート102の貼付対象物200側にさらに積層される誘電層103を備えることにより、UHF帯における通信可能距離をさらに増やすことができるので、通信性能をさらに向上できる。
【0085】
実施形態に係るRFIDタグ100は、電磁誘導式の無線タグ、電波式の無線タグの何れにも適用可能である。特に、RFIDタグ100を、電波式の無線タグに適用した場合、リーダとの所定の無線通信距離を確保できる。所定の無線通信距離は、例えば0mから20mまでの範囲である。
【0086】
実施形態に係るRFIDタグ100は、UHF帯の電波だけでなく、VHF帯、SHF帯などの電波にも適用可能である。RFIDタグ100の使用周波数がUHF帯の周波数、例えば860~960MHz、915~925MHzなどである場合、UHF帯はVHF帯に比べて、周波数が高いため、波長が短くなり、アンテナの小型化に有利である。従って、RFIDタグ100をUHF帯の電波に好適な形状にすることで、ICチップ10の小型化を図ることができると共に、メモリ容量も小さく安価な無線タグを得ることができる。
【0087】
図7~
図11を参照して、本実施形態の変形例を説明する。
図7は、第1変形例に係るRFIDタグ100Aの積層断面図である。
図8は、第2変形例に係るRFIDタグ100Bの積層断面図である。
図9は、第3変形例に係るRFIDタグ100Cの積層断面図である。
図7~
図9の概略は
図1と同様である。
【0088】
上記実施形態では、磁性シート102のスリット30と、粘着層104の第2スリット40によってインレイ101の直下に空隙層50を形成する構成を例示したが、スリット30及び第2スリット40により形成される領域は、少なくとも粘着層104より誘電率が低くなるよう形成されればよく、空隙層50以外の構成でもよい。
【0089】
図7に示す第1変形例100Aのように、空隙層50には、少なくとも1つ(
図7の例では3本)の支持部材60が設けられる構成でもよい。支持部材60は、粘着層104と同材料、または、粘着層104より誘電率が低い材料で形成される。支持部材60は、粘着層104と同様の粘着剤でもよいし、例えば合成樹脂や木材、紙などの粘着剤以外の材料でもよいが、比誘電率が1の値により近い材料で形成するのが好ましい。
【0090】
また、支持部材60は、当該RFIDタグ100Aの積層方向(Z方向)に沿って、空隙層50中の積層方向の両端まで延在するよう形成される。すなわち、支持部材60の上端はインレイ101の下面に当接し、支持部材60の下端は誘電層103の上面に当接する。支持部材60は、例えば
図7に示すように、それぞれが磁性シート102のスリット30と、粘着層104の第2スリット40の長手方向に沿ってX方向に延在する複数本を、Y方向に略等間隔で配置するストライプ状のパターンで形成することができる。なお、支持部材60のZ方向視の形状はストライプ状以外でもよく、例えば網目状やドット状などのパターンで形成してもよい。
【0091】
図8に示す第2変形例100Bのように、スリット30及び第2スリット40により形成される領域は、粘着層104より誘電率が低い材料が充填されて形成される充填層70である構成でもよい。充填層70の材料としては、粘着剤や、合成樹脂や木材、紙などの粘着剤以外の材料が挙げられる。
【0092】
図9に示す第3変形例100Cのように、粘着層104に第2スリット40を設けない構成でもよい。この構成においても、第2粘着層106が粘着層104よりも誘電率の低い材料で形成される構成によって、上記実施形態と同様に、RFIDタグ100Cの通信性能を向上でき、かつ小型化できる、という効果を奏することができる。
【0093】
なお、
図9に示す第3変形例100Cとは逆に、粘着層104に第2スリット40を設け、かつ、第2粘着層106が粘着層104よりも誘電率の高い材料で形成される構成としてもよい。この場合でも、磁性シート102のスリット30と、粘着層104の第2スリット40によってインレイ101の直下に形成される空隙層50によって、上記実施形態と同様に、RFIDタグ100Cの通信性能を向上でき、かつ小型化できる、という効果を奏することができる。
【0094】
図10は、粘着層104の構成の第1変形例を示す平面図である。上記実施形態では、
図2、
図3などに示すように、粘着層104の第2スリット40は、延在方向(X方向)の両端が粘着層104の端部まで到達して粘着層104を2つに区分するよう設けられる構成を例示した。粘着層104の第2スリット40は、延在方向の少なくとも一方が粘着層104の端部まで到達するように形成されればよく、例えば
図10に示すように、第2スリット40の延在方向の一方のみが粘着層104の端部まで到達し、他方は端部まで到達せずに粘着層104により塞がれる構成としてもよい。粘着層104を
図10に示す構成としても、空隙層50の外部との連通箇所を一箇所設けることができるので、上記実施形態と同様に、空隙層50内の空気を入れ替えることが可能であり、空隙層50の比誘電率を1に維持することを容易にできる。
【0095】
図11は、粘着層104の構成の第2変形例を示す平面図である。
図11に示すように、粘着層104の第2スリット40は、延在方向の両方が粘着層104の端部まで到達せずに粘着層104により塞がれる構成としてもよい。
【実施例0096】
次に、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0097】
<粘着層104の第2スリット40と厚さの影響>
[実施例1]
インレイ101、厚さ100μmの磁性シート102、厚さ38μmの発泡PET製の誘電層103を積層して
図1に示すRFIDタグ100を作成した。インレイ101は、厚さ38μmのPETフィルム上に、10μmのアルミシートをドライラミネートで貼り付けたスロットアンテナ20を形成し、規定の位置にICチップ10を実装した。スロットアンテナ20のスロット21のアンテナパターンは、
図2、
図3に示す形状とした。インレイ101の上側に、厚さ20μmの粘着剤108と、厚さ60μmのラベル紙105を積層した。また、インレイ101と磁性シート102との間に厚さ60μmの粘着層104を配置し、誘電層103の下側に厚さ50μmの第2粘着層106を配置した。また、第2粘着層106の下側に厚さ66μmの剥離紙107を配置した。このように作成したRFIDタグ100の全体の厚さは442μmである。
【0098】
磁性シート102は、次の手順で作成したものを用いた。まず磁性塗料は、磁性フィラーとしてFe-Cr合金(山陽特殊製鋼株式会社製、「FKTE231」)55.2質量部、バインダー樹脂としてポリエステル系ポリウレタン(荒川化学工業株式会社製、「ユリアーノ2456」、重量平均分子量30000)9.9質量部、有機溶剤としてトルエン22.6質量部、分散剤としてリン酸ポリエステル系分散剤(ビックケミージャパン株式会社製、「BYK-111」)0.4質量部、及び、消泡剤として非シリコーン系消泡剤(ビックケミージャパン株式会社製、「BYK-1752」)0.2質量部を混合して得た。次に、ロール・トゥ・ロール方式により、ポリエステル系合成フィルム(東洋紡株式会社製、「クリスパーK1211 #38μ」)を速度3m/minで搬送しながら、該フィルム上に、コーターを用いて磁気シールド塗料(上記で得られた磁性塗料)によるストライプパターンを形成し、40℃から80℃まで温度を上げながら30mの硬化炉を通過させた。これにより、スリット30入りの磁性シート102を作成した。
【0099】
磁性シート102のスリット30は、
図3に示したように磁性シート102のY方向の中央を幅方向の中心位置として、Y方向の幅が25mmとなるように形成した。粘着層104の第2スリット40は、
図3に示したように粘着層104のY方向の中央を幅方向の中心位置として、Y方向の幅が25mmとなるように形成した。
【0100】
インレイ101のスロットアンテナ20のサイズは、X方向の寸法を95mmとし、Y方向の寸法を40mmとした。スリット30により2つに区分される磁性シート102の寸法は、X方向を102mm、Y方向を17.5mmとした。また、第2スリット40により2つに区分される粘着層104の寸法は、X方向を102mm、Y方向を17.5mmとした。
【0101】
粘着層104を形成する粘着剤には、日榮新化株式会社製の高透明基材レス両面粘着シート「MHM-FWD50」を用いた。第2粘着層106を形成する粘着剤には、新タック化成株式会社製の低誘電光学用両面粘着シートSA38xSeriesの「SA-381GF」を用いた。粘着層104の比誘電率は2.6とし、第2粘着層106の比誘電率は2.3とした。
【0102】
このように作成したRFIDタグ100を、SUS板の貼付対象物200に貼付した状態で、RFIDタグ性能検査装置(Tagformance Pro、Voyantic社製)を用いて、RFIDタグ100の周波数特性を計測した。計測時の無線通信用電波の測定周波数帯は700~1200MHzとし、EIRP(Equivalent Isotropically Radiated Power:等価等方輻射電力)は3.28Wとした。
【0103】
[実施例2]
粘着層104の厚さを80μmとしたこと以外は、実施例1と同様にRFIDタグ100を作成して、周波数特性を計測した。
【0104】
[実施例3]
空隙層50に第2粘着層106と同一の粘着剤を充填して充填層70を形成したこと以外は、実施例1と同様にRFIDタグ100を作成して、周波数特性を計測した。
【0105】
[実施例4]
粘着層104の厚さを20μmとしたこと以外は、実施例1と同様にRFIDタグ100を作成して、周波数特性を計測した。
【0106】
[実施例5]
粘着層104の厚さを40μmとしたこと以外は、実施例1と同様にRFIDタグ100を作成して、周波数特性を計測した。
【0107】
[実施例6]
粘着層104の厚さを50μmとしたことと、粘着層104を形成する粘着剤に比誘電率が4.63のものを用いたこと以外は、実施例1と同様にRFIDタグ100を作成して、周波数特性を計測した。
【0108】
周波数特性を計測した結果、UHF帯に含まれる所定の周波数920MHzのときの通信可能距離は、実施例1では6.14m、実施例2では8m以上、実施例3では2.62m、実施例4では2.18m、実施例5では2.34m、実施例6では3.99mであった。
【0109】
実施例1、2、4、5、6の試験結果より、RFIDタグ100に空隙層50を設けることにより、充分な通信可能距離を確保できることが示された。同様に、実施例1、3の試験結果より、空隙層50を粘着層104より低誘電率の充填層70に置き換えた場合でも、空隙層50を設けた場合と同様の通信可能距離を確保できることが示された。
【0110】
また、実施例1、2、4、5、6の試験結果より、RFIDタグ100の粘着層104の厚さを増加させるほど、通信可能距離を増やすことができ、特にUHF帯の通信可能距離を増やすことができることが示された。さらに、粘着層104の厚さが50μm以上、好ましくは80μm以上であるときに、通信可能距離の増大が顕著であることが示された。
【0111】
<第2粘着層106の誘電率の影響>
[実施例7]
第2粘着層106を形成する粘着剤に比誘電率が3.80のものを用いたこと以外は、実施例1と同様にRFIDタグ100を作成して、周波数特性を計測した。
【0112】
[実施例8]
第2粘着層106を形成する粘着剤に比誘電率が4.40のものを用いたこと以外は、実施例1と同様にRFIDタグ100を作成して、周波数特性を計測した。
【0113】
[実施例9]
第2粘着層106を形成する粘着剤に比誘電率が5.76のものを用いたこと以外は、実施例1と同様にRFIDタグ100を作成して、周波数特性を計測した。
【0114】
周波数特性を計測した結果、UHF帯に含まれる所定の周波数920MHzのときの通信可能距離は、実施例7では2.18m、実施例8では1.28m、実施例9では1.08mであった。
【0115】
実施例7~9の試験結果を、第2粘着層106の比誘電率以外が同一条件である実施例1と比較する。上記の実施例1の第2粘着層106の比誘電率は2.3であり、粘着層104の比誘電率2.6より小さい。一方、実施例7~9は比誘電率がすべて粘着層104のものより大きい。実施例7~9の通信可能距離は、上記の実施例1の通信可能距離よりすべて小さくなった。また、実施例7~9では、第2粘着層106の比誘電率が粘着層104のものに近くなるほど、通信可能距離が大きくなる傾向となった。したがって、実施例1、7~9の試験結果より、RFIDタグ100の第2粘着層106を、少なくとも粘着層104より誘電率が低い材料で形成することにより、貼付対象物200によるインレイ101の通信性能への影響をさらに抑制でき、RFIDタグ100の通信性能をさらに向上できることが示された。
【0116】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。