(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031307
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】合成皮革
(51)【国際特許分類】
D06N 3/14 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
D06N3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134789
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水井 幹雄
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA13
4F055CA13
4F055EA23
4F055FA15
4F055FA20
4F055FA29
4F055FA40
4F055GA03
4F055GA11
(57)【要約】
【課題】抗菌性と防汚性とを有する合成皮革を提供する。
【解決手段】実施形態に係る合成皮革は、繊維質基材上に、ポリウレタン樹脂表皮層、表面処理層がこの順に積層されてなる。前記表面処理層の厚さは1.8μm以上であり、且つ、前記表面処理層中に、銀イオン担持ゼオライトを0.026g/m
2以上と、疎水性シリコーン樹脂を0.5g/m
2以上とを含んでなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質基材上に、ポリウレタン樹脂表皮層、表面処理層がこの順に積層されてなる合成皮革であって、前記表面処理層の厚さが1.8μm以上であり、且つ、前記表面処理層中に、銀イオン担持ゼオライトを0.026g/m2以上と、疎水性シリコーン樹脂を0.5g/m2以上とを含んでなる、合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から合成皮革に抗菌性を付与する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、殺菌作用を有する金属イオンを保持しているゼオライト系固体粒子を含有する樹脂及び繊維基材から構成される合成皮革が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば車両内装材のように、長期間洗濯や洗浄が困難な環境下で用いる場合、抗菌性だけでなく、防汚性もあわせて求められている。特許文献1の合成皮革は、抗菌性を有するものの、防汚性については課題がある。
【0005】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、抗菌性と防汚性とを有する合成皮革を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の合成皮革は、繊維質基材上に、ポリウレタン樹脂表皮層、表面処理層が順次積層されてなる合成皮革であって、前記表面処理層の厚さが1.8μm以上であり、且つ、前記表面処理層中に、銀イオン担持ゼオライトを0.026g/m2以上と、疎水性シリコーン樹脂を0.5g/m2以上とを含んでなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、抗菌性と防汚性とを有する合成皮革を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係る合成皮革の断面模式図である。
【
図2】他の実施形態に係る合成皮革の断面模式図である。
【
図3】リサジューパターンの一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る合成皮革は、繊維質基材に、ポリウレタン樹脂表皮層と、表面処理層とをこの順に積層してなるものである。前記表面処理層の厚さが1.8μm以上であり、且つ、前記表面処理層中に、銀イオン担持ゼオライトを0.026/m2以上と、疎水性シリコーン樹脂を0.5g/m2以上とを含んでなる。
銀イオン担持ゼオライトを上記含有量以上とすることにより、合成皮革に抗菌性を付与することができる。疎水性シリコーン樹脂を上記含有量以上とすることにより、合成皮革に防汚性を付与することができる。表面処理層の厚さを上記厚さ以上とすることにより、表面処理層を均一な皮膜とすることができ、抗菌性、防汚性を十分に発揮することができる。
【0010】
図1は、一実施形態に係る合成皮革1の断面構造を模式的に示したものである。この合成皮革1では、繊維質基材2の一方の面に、ポリウレタン樹脂表皮層3、表面処理層4が順に直接積層されている。
【0011】
図2は、他の実施形態に係る合成皮革10の断面構造を模式的に示したものである。この合成皮革10では、ポリウレタン樹脂表皮層3が接着層5を介して設けられている点で
図1の合成皮革1とは異なる。したがって、
図2の例では、繊維質基材2の一方の面に、接着層5、ポリウレタン樹脂表皮層3、表面処理層4がこの順に積層されている。
【0012】
上記繊維質基材としては、特に限定されるものでなく、織物、編物、不織布などの繊維布帛や、天然皮革(床革を含む)等を例示することができる。繊維布帛には、従来公知の溶剤系、無溶剤系(水系を含む)の高分子化合物(例えば、ポリウレタン樹脂や塩化ビニル系樹脂)を塗布または含浸し、乾式凝固または湿式凝固させたものを用いてもよい。繊維布帛において繊維の種類は、特に限定されるものでなく、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維等、従来公知の繊維を挙げることができ、これらが2種以上組み合わされていてもよい。繊維質基材は、染料または顔料により着色されたものであってもよい。
【0013】
ポリウレタン樹脂表皮層を構成するポリウレタン樹脂は、ウレタン結合を有する重合体の総称である。ポリウレタン樹脂としては、特に限定されるものではなく、従来公知のポリウレタン樹脂を用いることができる。例えば、ポリオール成分としてポリエーテルポリオールを用いてなるポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステルポリオールを用いてなるポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネートポリオールを用いてなるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂等を例示することができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐摩耗性の観点からは、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましく、風合いの観点からは、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0014】
ポリウレタン樹脂の形態は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、無溶剤系(無溶媒系)、ホットメルト系、溶剤系または水系であってよく、一液型、二液硬化型であってよい。
【0015】
ポリウレタン樹脂表皮層には、必要に応じて、その物性を損なわない範囲内で、従来公知の添加剤、例えば、ポリウレタン樹脂以外の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、顔料、難燃剤、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、吸水剤、吸湿剤、発泡剤、消臭剤、消泡剤、顔料分散剤、加水分解防止剤、架橋剤、増粘剤などの任意成分を、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0016】
上記ポリウレタン樹脂表皮層上には、銀イオン担持ゼオライトと疎水性シリコーン樹脂とを含んでなる表面処理層が積層される。
【0017】
銀イオン担持ゼオライトは、市販のゼオライトまたは公知の方法で合成したゼオライトをイオン交換することによって得ることができる。または、市販品を用いることができる。市販品としては、Zeomic WAW10NS(株式会社シナネンゼオミック)等が挙げられる。
【0018】
表面処理層における銀イオン担持ゼオライトの含有量は、0.026g/m2以上であることが肝要である。銀イオン担持ゼオライトの含有量が0.026g/m2以上であることにより、合成皮革に抗菌性を付与することができる。銀イオン担持ゼオライトの含有量の上限値は、特に限定されず、0.225g/m2以下であってもよく、0.2g/m2以下であってもよい。
【0019】
疎水性シリコーン樹脂は、防汚剤として機能するものであれば、特に限定されず、防汚性、及び、防汚性能の耐久性の観点から、ポリアルキルシロキサンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合物、オクタメチルシクロテトラシロキサン等を例示することができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0020】
表面処理層における疎水性シリコーン樹脂の含有量は、0.5g/m2以上であることが肝要である。疎水性シリコーン樹脂の含有量が0.5g/m2以上であることにより、合成皮革に防汚性を付与することができる。疎水性シリコーン樹脂の含有量は、好ましくは0.6g/m2以上、2.1g/m2以下である。
【0021】
表面処理層を構成する樹脂としては、特に限定されず、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を例示することができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、防汚性の観点から、アクリル樹脂が好ましい。表面処理層にこれらの樹脂を含有させることにより、銀イオン担持ゼオライトと疎水性シリコーン樹脂を合成皮革表面に密着させることができる。
【0022】
表面処理層には、必要に応じて、その物性を損なわない範囲内で、従来公知の添加剤、例えば、架橋剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤などの任意成分を、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0023】
なかでも、表面処理層の強度を向上させ、効果(抗菌性と防汚性)の耐久性を向上させるという観点から、架橋剤を用いることが好ましい。架橋剤としては特に限定されることなく、表面処理層を構成する樹脂に応じて適宜選択すればよい。例えば、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤などが挙げられる。なかでも、カルボジイミド系架橋剤が好ましい。
【0024】
表面処理層の厚さは、1.8μm以上であることが肝要である。表面処理層の厚さが1.8μm以上であることにより、均一な被膜の表面処理層を形成することができる。そのため、抗菌性と防汚性とを十分に発揮することができる。表面処理層の厚さは、好ましくは1.8μm以上、10μm以下である。
【0025】
本実施形態において、表面処理層を最外層とする限り、さらに他の樹脂層を備えていてもよい。他の樹脂層とは、例えば、接着層、発泡層、アンカーコート層などが挙げられる。
【実施例0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
各評価項目は、以下の方法に従った。
【0028】
[抗菌性]
JIS K6400-9に準拠して測定し、下記の基準に従って判定した。
(判定基準)
○:抗菌活性値2.0以上
×:抗菌活性値2.0未満
【0029】
[防汚性(スス汚れ)]
直径140mmに裁断した試験片を、フェルト(James H. Heal & Co. Ltd製、Nonwoven Felt Discs-140mm diameter)を介して、ISO42947-1に準拠したマーチンデール試験機(James H. Heal & Co. Ltd製、モデル1309 Nineステーション)に付属の治具で固定した。
【0030】
直径38mmに裁断した汚れ基布片(EMPA社製、標準汚染布 EMPA 104)を、厚み3mm、直径38mmのウレタンフォームシートを介して摩擦子に取り付けた後、該汚れ基布片上にマイクロピペットにて蒸留水を600μLゆっくりと滴下し、汚れ基布片に蒸留水をしみこませた。この摩擦子に荷重12kPaをかけて、
図3に示すC-C-Cリサジューパターンで1000回摩擦した。汚れ基布片とウレタンフォームシート(汚れが付着している場合のみ)を交換し、さらに同じパターンで1000回摩擦した。これをさらに2回繰り返し、合計4000回摩擦した。
【0031】
試験片を取り外し、該試験片の裏面に5cm幅の両面テープ(株式会社寺岡製作所製、751B)を貼り、机上に固定した。次いで、25mm四方に裁断した拭き取り用クロス(JIS L4105 3a 浴用タオル 1号 675g/12枚)にマイクロピペットにて蒸留水を300μL滴下した後、該拭き取り用クロスで試験片の汚れ付着部分の中央から下の部分を人差し指を使用して力強く10往復拭き取った。
【0032】
得られた試験片の汚れ付着前部分と汚れ拭き取り部分について、各々測色を行いΔE*を求めた。ΔE*が4.0以下を合格とした。
測色は、分光測色計(Color I 5DV、X-Rite社製、光源:C光源)を用いて、3カ所を測色し、L*値、a*値、b*値の平均値を求めた。平均値は、小数点第3位を四捨五入し、小数点第2位で表記した。これらの平均値を用いて、それぞれの色差(ΔE*)を算出した。
【0033】
[実施例1]
(I)繊維質基材準備
繊維質基材として、淡ベージュ色のトリコット編地(ポリエステル繊維、目付174g/m2)を準備した。
【0034】
(II)ポリウレタン樹脂表皮層用樹脂組成物の調製
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(固形分30質量%)100質量部に対して、カーボンブラック顔料(固形分20質量%)20質量部、メチルエチルケトン20質量部、ジメチルホルムアミド20質量部を加え、粘度を3,000mPa・s(B型粘度計、ローター:No.3、10rpm、18℃)になるように調整して、ポリウレタン樹脂表皮層用樹脂組成物を調製した。
【0035】
(III)表面処理層用樹脂組成物の調製
以下に示す材料を準備した。
処方1
樹脂(アクリル樹脂、固形分20質量%):70質量部
樹脂(アクリル樹脂、固形分20質量%):30質量部
抗菌剤(銀イオン担持ゼオライト、固形分20質量%):5質量部
疎水性シリコーン樹脂(ポリアルキルシロキサンと(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合物、固形分44質量%):15質量部
疎水性シリコーン系化合物(オクタメチルシクロテトラシロキサン、固形分40質量%):10質量部
レベリング剤(ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、固形分100質量%):2質量部
消泡剤(ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、固形分100質量%):0.2質量部
架橋剤(カルボジイミド系架橋剤、固形分40質量%):1.5質量部
増粘剤(ウレタン分子会合型増粘剤、固形分50質量%):2質量部
10)水:20質量部
【0036】
処方1の成分1~4を混合し、混合物を得た。この混合物に、増粘剤、レベリング剤および消泡剤を添加し、混合した後、さらに架橋剤を添加し、混合して、表面処理層用樹脂組成物を調製した。表面処理層用樹脂組成物の粘度は、500mPa・s(BH型粘度計、ローター:No.3、10rpm、18℃)であった。
【0037】
(IV)ポリウレタン樹脂表皮層の形成
得られたポリウレタン樹脂表皮層用樹脂組成物を、凹凸を有する離型紙にコンマコーターを用いて塗布し、乾燥機にて130℃で2分間加熱して、樹脂膜を形成した。樹脂膜の厚みは35μmであった。
樹脂膜の表面に、接着剤(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂)を、コンマコーターを用いて塗布し、乾燥機にて100℃で1分間加熱した。樹脂膜の接着剤を塗布した面を繊維質基材に対向させて積層し、荷重392.3kPaで4秒間プレス圧着した。そののち、離型紙を剥離し、繊維質基材上にポリウレタン樹脂表皮層を形成した。
【0038】
(V)表面処理層の形成
得られた表面処理層用樹脂組成物を、ポリウレタン樹脂表皮層の表面にリバースコーターを用いてWet塗布量で20g/m2を塗布し、乾燥機にて135℃で5分間処理した。これにより合成皮革を得た。表面処理層の厚みは5.7μmであった。
得られた合成皮革の表面処理層中には、銀イオン担持ゼオライトを0.128g/m2、疎水性シリコーン樹脂を1.342g/m2含んでいた。
評価結果を表1に記す。
【0039】
[実施例2,3、比較例1]
表面処理層のWet塗布量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2,3、比較例1の合成皮革を得た。
【0040】
[実施例4~8、比較例2,3]
表面処理層用樹脂組成液を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例4~8、比較例2,3の合成皮革を得た。
【0041】
【0042】
結果は、表1に示すとおりである。表面処理層における疎水性シリコーン樹脂の含有量が0.5g/m2未満である比較例1、2の合成皮革は防汚性の点で劣っていた。表面処理層における銀イオン担持ゼオライトの含有量が0.026g/m2未満である比較例3の合成皮革は抗菌性の点で劣っていた。これに対し、実施例1~8の合成皮革であると、抗菌性および防汚性に優れていた。