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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031311
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ケイ酸塩被覆体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/02 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
C01B33/02 Z ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134796
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】岡田 友彦
(72)【発明者】
【氏名】中内 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】浜崎 紀子
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072GG02
4G072GG03
4G072QQ09
4G072TT30
4G072UU07
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】産業利用可能なシリコン材料を提供することを目的とする。
【解決手段】シリコン製の基体と、前記基体の表面の少なくとも一部を被覆するヘクトライト様層状ケイ酸塩とを備えた、ケイ酸塩被覆体。前記シリコン製の基体としてシリコン粒子を適用してもよい。前記ヘクトライト様層状ケイ酸塩によって少なくとも一部が被覆された表面の黒色度(L)が38以下であってもよい。前記ヘクトライト様層状ケイ酸塩によって少なくとも一部が被覆された表面に照射された波長400~700nmの全範囲の可視光の反射率が、シリコン単体の表面に照射された前記可視光の反射率と比べて低くてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン製の基体と、前記基体の表面の少なくとも一部を被覆するヘクトライト様層状ケイ酸塩とを備えた、ケイ酸塩被覆体。
【請求項2】
前記シリコン製の基体がシリコン粒子である、請求項1に記載のケイ酸塩被覆体。
【請求項3】
前記ヘクトライト様層状ケイ酸塩によって少なくとも一部が被覆された表面の黒色度(L)が38以下である、請求項1に記載のケイ酸塩被覆体。
【請求項4】
前記ヘクトライト様層状ケイ酸塩によって少なくとも一部が被覆された表面に照射された波長400~700nmの全範囲における可視光の反射率が、シリコン単体の表面に照射された前記可視光の反射率と比べて低い、請求項1に記載のケイ酸塩被覆体。
【請求項5】
Li塩と、Mg塩と、尿素と、水と、シリコン製の基体を含む反応液で水熱反応を起こし、前記基体の表面の少なくとも一部をヘクトライト様層状ケイ酸塩で被覆する、ケイ酸塩被覆体の製造方法であって、
前記反応液に配合する各成分のモル比について、
(Li:Mg:尿素:シリコン=1.4:5.3:8.0:8.0)を基準として、
前記基準におけるLi、Mg、尿素及びシリコンの各々の配合比を100%と定め、
シリコンの配合比100%に対して、
Liの配合比を1~100%とし、
Mgの配合比を1~100%とし、
尿素の配合比を1~100%とする、ケイ酸塩被覆体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ酸塩被覆体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、球状シリカの表面でヘクトライト様層状ケイ酸塩(理想組成:Mx(Mg6-xLixSi8O20(OH)4)、M=層間陽イオン)を結晶成長させる、シリカ表面の改質法が開示されている(特許文献1)。この層状ケイ酸塩の層間には陽イオンが存在し、これを金属イオンや陽イオン性界面活性剤と交換し、取り込むことができる。このような性質を利用し、例えば長鎖アルキル基を有する陽イオン性界面活性剤を取り込ませ、本来的には親水性であったシリカ粒子の表面を疎水化できることが提案されている。疎水化したシリカ粒子の用途としては、例えば種々の樹脂材料や化粧品組成物に分散させるフィラー用途がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6029052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、半導体産業では硅石を精錬して得られる高純度Siが用いられるが、半導体製品の製造過程で年間約3000トンのSi切削くずが生じる。生じたSi切削くずの高付加価値化は、リサイクルの観点から最近その要求が高まっている。
【0005】
Si粉末は、黒色顔料として用いられるカーボンや四酸化三鉄などに比べ熱伝導率が高いので、放熱樹脂フィラーや化粧品顔料などに有用である。
Si表面は自然酸化膜(SiO)を有しており、一般には親水性である。本発明者らは、Si粉末に新たな物性を付与して産業利用を図るべく、Si粉末の表面修飾法を検討し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、産業利用可能なシリコン材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] シリコン製の基体と、前記基体の表面の少なくとも一部を被覆するヘクトライト様層状ケイ酸塩とを備えた、ケイ酸塩被覆体。
[2] 前記シリコン製の基体がシリコン粒子である、[1]に記載のケイ酸塩被覆体。
[3] 前記ヘクトライト様層状ケイ酸塩によって少なくとも一部が被覆された表面の黒色度(L)が38以下である、[1]又は[2]に記載のケイ酸塩被覆体。
[4] 前記ヘクトライト様層状ケイ酸塩によって少なくとも一部が被覆された表面に照射された波長400~700nmの全範囲における可視光の反射率が、シリコン単体の表面に照射された前記可視光の反射率と比べて低い、[1]~[3]の何れか一項に記載のケイ酸塩被覆体。
[5] Li塩と、Mg塩と、尿素と、水と、シリコン製の基体を含む反応液で水熱反応を起こし、前記基体の表面の少なくとも一部をヘクトライト様層状ケイ酸塩で被覆する、ケイ酸塩被覆体の製造方法であって、前記反応液に配合する各成分のモル比について、(Li:Mg:尿素:シリコン=1.4:5.3:8.0:8.0)を基準として、前記基準におけるLi、Mg、尿素及びシリコンの各々の配合比を100%と定め、シリコンの配合比100%に対して、Liの配合比を1~100%とし、Mgの配合比を1~100%とし、尿素の配合比を1~100%とする、ケイ酸塩被覆体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、産業利用可能なシリコン材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】原料Siと、実施例1~3で得た試料のXRDパターンである。
図2】実施例4~7で得た試料のXRDパターンである。
図3】実施例8~10で得た試料のXRDパターンである。
図4】原料Siと、実施例1~7で得た試料の拡散反射スペクトルである。
図5】原料Siと、実施例8~10で得た試料の拡散反射スペクトルである。
図6】実施例1で得た試料のSEM像である。
図7】実施例2で得た試料のSEM像である。
図8】実施例4で得た試料のSEM像である。
図9】実施例6で得た試料のSEM像である。
図10】実施例7で得た試料のSEM像である。
図11】実施例8で得た試料のSEM像である。
図12】実施例9で得た試料のSEM像である。
図13】実施例10で得た試料のEDX元素マッピング像である。
図14】実施例10で得た試料のTEM像である。
図15】ヘクトライトの層状構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪ケイ酸塩被覆体≫
本発明の第一態様は、シリコン製の基体と、前記基体の表面の少なくとも一部を被覆するヘクトライト様層状ケイ酸塩とを備えた、ケイ酸塩被覆体である。
【0011】
シリコン(Si)製の基体の形状は特に制限されず、例えばインゴット、板、棒、礫、顆粒、粉末等が挙げられる。粉末を構成する粒子の平均粒子径としては、例えば、1μm~1000μmが挙げられる。ここで、粒子の平均粒子径は、無作為に選択された20個の粒子について顕微鏡等の拡大観察手段で測定された長径の平均値とする。
【0012】
基体の総質量に対するSiの含有率としては、例えば60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。半導体部品の製造過程で生じるSi切削くずのSi含有率は99.9質量%以上であると言われており、これを本態様の材料として利用することができる。
【0013】
基体の全表面積に対するヘクトライト様層状ケイ酸塩の被覆率としては、例えば50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が最も好ましく、100%であってもよい。ここで、基体がSi粒子であるときの被覆率は、ケイ酸塩被覆体のSEM像から判定することができる。通常、未被覆の領域は平滑な表面であり、被覆された領域は粗面である。
【0014】
本態様のケイ酸塩被覆体の厚さ方向の断面構造は、次のいずれであってもよい。
構造1)Si基体の表面にSiO及び/又はSiOの変性物を含む中間層が存在し、中間層の表面にヘクトライト様層状ケイ酸塩を含む最表層が存在する構造。
構造2)Si基体の表面にヘクトライト様層状ケイ酸塩を含む最表層が存在する構造(中間層が実質的に存在しない構造)。
【0015】
Si基体の表面は自然酸化によりSiOの皮膜が形成されるので、構造1)の方が実際的である。また、後述するケイ酸塩被覆体の製造方法では、水熱反応時に基体表面のSi及び/又はSiOが加水分解されてオルトケイ酸となり、これがヘクトライト様層状ケイ酸塩の構成成分になるので、構造1)が得られやすい。
【0016】
本態様におけるヘクトライト様層状ケイ酸塩は、粘土鉱物として公知であるヘクトライトの層構造のXRDパターンに特徴的なピークを示す。好ましくは、EDX(エネルギー分散型X線分光法)の元素マッピングで層内に少なくともMg元素が存在することを示す。
なお、ヘクトライトの組成は(My)y+-[(Mg6-xLix)oct(Si8)tetO20(OH)4]y-であり、式中のMはナトリウム等の層間陽イオンを表し、xは0~0.6の数を表し、yは0~0.6の整数を表す。
【0017】
図15にヘクトライトの層構造を示す。ヘクトライトは、MgO6八面体シートの上と下をSiO4四面体シートが縮合したシリケート層と、シリケート層間に交換性陽イオン(一般にNa+などの水和アルカリ金属イオン)を取り込んだ構造をもつ。また、MgO6八面体シートのMg2+イオンの一部がLi+イオンに同形置換することで、シリケート層は負に帯電する。後述の実施例の方法で水熱反応を行うと、尿素の加水分解で生成するアンモニアがNH4 +としてシリケート層間に取り込まれるため、天然のNa+を取り込んだヘクトライトとは異なる。このように層間陽イオンがNa+イオンに限定されず、他の陽イオンである場合も含めて、「ヘクトライト様層状ケイ酸塩」と呼称する。
【0018】
構造1)において、中間層の厚さとしては、例えば1~100nmが挙げられる。
構造1)及び構造2)において、ヘクトライト様層状ケイ酸塩を含む最表層の厚さとしては、例えば10~1000nmが挙げられる。
中間層及び最表層の厚さは透過型電子顕微鏡(TEM)によって確認することができる。
【0019】
本態様のケイ酸塩被覆体の黒色度(L)は、例えば20~90の範囲で所望の値であり得る。
Si単体の黒色度は38.7であり、38.7未満の黒色度はSi単体よりも黒っぽく見え、38.7超の黒色度はSi単体よりも白色味が加わって見える(白っぽく見える)。38.7の黒色度から離れた黒色度を示すほど、Si単体とは異なる色合いとなる。
本態様のケイ酸塩被覆体の上記黒色度(L)は、深い黒色を求める場合には、20~30であることが好ましい。逆に、Siには見えない白色が足された灰色を求める場合には、45~90が好ましく、60~90がより好ましく、80~90がさらに好ましい。
【0020】
本態様のケイ酸塩被覆体の上記黒色度(L)は、JIS Z8781-4:2013に規定される表色系に基づく明度指数(L)である。
本態様のケイ酸塩被覆体の黒色度が測定される部位は、ヘクトライト様層状ケイ酸塩で被覆された領域を含む表面である。
【0021】
本態様のケイ酸塩被覆体に照射された波長400~700nmの全範囲における可視光の反射率は、シリコン単体の前記反射率と比べて高くあり得る。反射率が高いと、明るく見えるので、明るい白色味が加わって、明るい灰色を呈する。
【0022】
本態様のケイ酸塩被覆体に照射された波長400~700nmの全範囲における可視光の反射率は、シリコン単体の前記反射率と比べて低くあり得る。反射率が低いと、暗く見えるので、マット感のある黒さを呈する。
【0023】
≪ケイ酸塩被覆体の製造方法≫
本発明の第二態様は、Li塩と、Mg塩と、尿素と、水と、シリコン製の基体を含む反応液で水熱反応を起こし、前記基体の表面の少なくとも一部をヘクトライト様層状ケイ酸塩で被覆する、ケイ酸塩被覆体の製造方法である。
本態様によって、第一態様のケイ酸塩被覆体を製造することができる。
【0024】
前記反応液に配合する各成分のモル比について、ヘクトライトの均一核生成反応条件として知られる(Li:Mg:尿素:シリコン=1.4:5.3:8.0:8.0)を基準とする。本態様では、前記基準におけるLi、Mg、尿素及びシリコンの各々の配合比を100%と定める。
【0025】
第一態様のケイ酸塩被覆体を得る場合、シリコンの配合比100%に対して、Li、Mg、尿素の好適な配合比は次の通りである。
Liの配合比は1~100%が好ましく、Mgの配合比は1~100%が好ましく、尿素の配合比は1~100%が好ましい。
LiとMgの配合比の差は、±20%以下が好ましく、±10%以下がより好ましく、±5%以下がさらに好ましい。
【0026】
前述の黒色度(L)が、Si単体の黒色度=38.7よりも高い(すなわち白っぽい)ケイ酸塩被覆体を得る場合、シリコンの配合比100%に対して、Li、Mg、尿素の各配合比は次の通りであることが好ましい。
Liの配合比は、1~100%が好ましく、50~99%がより好ましく、70~98%がさらに好ましい。
Mgの配合比は、1~100%が好ましく、50~99%がより好ましく、70~98%がさらに好ましい。
尿素の配合比は、80~100%が好ましく、90~100%がより好ましく、95~100%がさらに好ましい。
LiとMgの配合比の差は、±20%以下が好ましく、±10%以下がより好ましく、±5%以下がさらに好ましい。
【0027】
前述の黒色度(L)が、Si単体の黒色度=38.7よりも低い(すなわち黒さが増した)ケイ酸塩被覆体を得る場合、シリコンの配合比100%に対して、Li、Mg、尿素の各配合比は次の通りであることが好ましい。
Liの配合比は、1~30%が好ましく、1~20%がより好ましく、1~10%がさらに好ましい。
Mgの配合比は、1~30%が好ましく、1~20%がより好ましく、1~10%がさらに好ましい。
尿素の配合比は、1~60%が好ましく、5~50%がより好ましく、10~40%がさらに好ましく、20~40%が特に好ましい。
LiとMgの配合比の差は、±20%以下が好ましく、±10%以下がより好ましく、±5%以下がさらに好ましい。
【0028】
全材料を配合した反応液をよく混合し、加熱することにより水熱反応が自然に起こる。
加熱温度は、例えば100~180℃が好ましく、120~160℃がより好ましい。
上記加熱温度における反応時間は、12~36時間程度で完了させ得る。反応液中の尿素が全て加水分解されてアンモニアになり、これが全て消費されると、反応は自然に終了する。その後、反応液を冷却することにより、Si基体の表面の少なくとも一部にヘクトライト様層状ケイ酸塩が形成された第一態様のケイ酸塩被覆体が得られる。
反応液を冷却する方法は特に制限されず、例えば反応液を収めた反応容器を氷浴させ、急冷する方法が挙げられる。
【0029】
配合するLi塩として、例えば、LiF、LiCl、LiBr等が挙げられる。これらのうち、フッ化物イオンは特に鉱化作用があることから、LiFが好ましい。
配合するMg塩として、例えば、MgCl、Mg(OH)、MgO等が挙げられる。これらのうち、SiOの加水分解を促進する観点から、MgClが好ましい。
各材料を配合した反応液の総質量に対する水の含有量は、例えば80~98質量%とすることができる。
各材料を配合した反応液の総質量に対するシリコンの含有量は、例えば1~10質量%とすることができる。
【0030】
以上の水熱反応により得られたケイ酸塩被覆体を水やアルコール等で適宜洗浄し、乾燥することにより、清浄なケイ酸塩被覆体が得られる。
【0031】
ケイ酸塩被覆体が有するヘクトライト様層状ケイ酸塩は、交換可能な陽イオンを含むので、例えば陽イオン性界面活性剤を吸着させることができる。具体的には、陽イオン性界面活性剤を含む水溶液にケイ酸塩被覆体を1~24時間程度接触させることにより、陽イオン性界面活性剤がヘクトライト様層状ケイ酸塩に吸着した複合体が得られる。
【0032】
陽イオン界面活性剤の種類は特に制限されず、例えば、長鎖アルキル基を1つ以上有する長鎖アルキル陽イオン界面活性剤を吸着させることにより、疎水化された複合体が得られる。長鎖アルキル基を構成するアルキル基の炭素数は、疎水性の付与と吸着反応の容易さの観点から、10以上が好ましく、12~20がより好ましく、15~18がさらに好ましい。
【0033】
第二態様の製造方法で得られたケイ酸塩被覆体におけるヘクトライト様層状ケイ酸塩は原料の尿素に由来するアンモニウムイオンを含むと考えられる。つまり、ヘクトライト様層状ケイ酸塩はアンモニウムイオンに親和性が高い状態にあるので、長鎖アルキルアンモニウム塩を容易に吸着させることができる。長鎖アルキルアンモニウム塩として、例えば、長鎖モノアルキル短鎖トリアルキルアンモニウム塩、長鎖ジアルキル短鎖ジアルキルアンモニウム塩が挙げられる。ここで各短鎖アルキル基の炭素数はそれぞれ独立に1~3が好ましく、1~2がより好ましい。カウンターアニオンは臭素等のハロゲン化物イオンであり得る。
【実施例0034】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0035】
LiF、MgCl、尿素の混合水溶液(10 ml)に、Si粉末(純度99.9%以上)を0.5g加えて超音波かく拌により分散させた。続いて分散液をテフロン(登録商標)内筒型容器で140℃、48時間保持した。反応後、容器ごと氷浴中で急冷した。急冷後、遠心分離により得られた沈殿物をエタノールにより洗浄、乾燥(50℃)させて試料とした。
【0036】
各実施例で調製した混合水溶液に含まれるLiF、MgCl、尿素の量は、水熱反応によりヘクトライトが生成することが既に知られている条件(8.0モルのSiに対して、Li:Mg:尿素=1.4:5.3:8.0のモル比で配合する)を参考条件とした。
表1に各実施例における各材料の相対的な配合比を示す。カッコ内の百分率値は、参考条件の各成分の配合比を100%としたときの、各実施例における各成分の配合比を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
<XRD>
各実施例で得た試料について、X線回折パターンを測定した結果を図1~2に示す。図において、「H」の帯はヘクトライトに由来するピークが現れる領域を示し、「S」の帯はSiに由来するピークが現れる領域を示し、「*」は不純物のピークを示す。
いずれの試料のXRDパターンにもヘクトライトに由来する回折ピークが現れた。Mg及びLiの添加量を増やしていくにしたがってヘクトライトに由来する回折ピークの強度が大きくなり、Siの回折ピークの強度が小さくなった。実施例7の試料ではSiの回折ピークはほぼ消滅した。これは原料Siの大部分がヘクトライトの原料として消費されたことを示していると考えられる。
図3に示す実施例8~10のX線回折パターンにおいてもSiに由来する回折ピークの他に、ヘクトライトに由来する回折ピークが現れることが確認された。
【0039】
<黒色度>
各実施例で得た試料について、JIS Z8781-4:2013に規定される表色系に基づく明度(L)を、紫外可視分光光度計(島津製作所、UV-2600i)に備え付けられた積分球付属装置ISR2600を用いて測定した。具体的には固体の試料を硫酸バリウム成形物の表面に直接塗布したのち、上記測定機器により測定して得られた拡散反射スペクトルを、専用ソフトウエア(島津製作所、LabSolutions UV-Vis Color)で処理して明度(L)を測定した。その測定結果を表1に示す。なお、表1の参考条件の欄に記載したL=38.7は、各実施例で原料として用いたSi粉末(純度99.9%以上)の測定値である。
の測定値が小さいほど、明度が低く、黒色度が高いことを意味する。
【0040】
実施例1~7において、尿素の配合比を固定し、Li及びMgの配合比を段階的に増やした結果、Li及びMgの配合比を参考条件の50%以下にすると、明度が格段に低くなり、黒色度が元の原料Siに近づくことが確認された。
実施例8~10において、Li及びMgだけでなく尿素の配合比も減らすことによって、明度が飛躍的に低くなり、黒色度が元の原料Siよりも高まることが確認された。
【0041】
<可視光領域の拡散反射スペクトル>
実施例1~7で得た試料について、可視光領域における拡散反射スペクトルを測定した。具体的には試料を硫酸バリウム成形物の表面に塗布して、紫外可視分光光度計(島津製作所、UV-2600i)を用いて測定した。その結果を図4に示す。
実施例8~10で得た試料について、上記と同様にして可視光領域における拡散反射スペクトルを測定した。その結果を図5に示す。
図4~5に比較のために、原料Si粉末と、黒酸化鉄の粉末の測定値を併記する。また、上記の方法で測定したL、a、bを表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
<SEM像>
実施例1,2,4,6,7,8,9で得た試料のSEM像を図6~12に示す。
Mg及びLiの添加量が15%以上の試料にヘクトライトに特徴的な鱗片状の粒子が見られた(図7~10,12)。一方、Mg及びLiの添加量が5%の試料ではSi表面上やその周りに、不定形の粒子も見られた(図6)。これは、Siの加水分解で生成したシリケートに対して、供給したLiF、MgClの量が少なかったので、重合した非晶質シリカが共沈したことを示唆している。Mg及びLiの添加量が30%と45%の試料では鱗片状の粒子がSi粒子表面でのみ観察された(図7~8)。
【0044】
図4の拡散反射スペクトルを合わせて考慮すると、Mg及びLiの添加量を増やして100%に近づけるほど、反射率が大きくなる傾向がある。また、実施例1~7のいずれの試料も原料Siに比べて黒色度が低かった。これは原料Siの配合率の減少と生成したヘクトライトによる光散乱が生じたことが要因と考えられる。
【0045】
実施例8(5%-u)及び実施例9(15%-u)のSEM像では、Si粒子表面にのみヘクトライトによる均一な被覆が見られた。これは尿素添加量を減らしたことで溶液pHが低くなり、減少した溶存シリケートのほとんどがヘクトライト生成に消費されたからであると考えられる。
【0046】
実施例10で得た試料のEDX元素マッピング像を図13に示す。実施例10(5%-t)のSi、Mg、O(酸素)の各マッピング像を比較すると、Si粒子周囲にMgは含まず、SiとOで構成する厚み数十nmの領域がみられ、さらにその周りにMgとOで構成する厚み約0.1μmの領域が見られた。前者はSiOであり、後者はヘクトライトを構成するMgO八面体を示している。
【0047】
実施例10で得た試料のTEM像を図14に示す。実施例10(5%-t)のTEM像では、Si粒子周囲に低密度な物質を挟み、さらにその周りにヘクトライトに特徴的な層状構造が見られた。これはSiの加水分解で生じたシリケートがSi表面に吸着したのち重合し、この重合物がヘクトライトの支持体として機能することで、結果としてSiの表面をヘクトライトが被覆した様態となったと考えられる。
【0048】
図5の拡散反射スペクトルを合わせて考慮すると、実施例8~10の試料の反射率はいずれも原料Siに比べて小さくなったことから、均一で少量のヘクトライトによる被覆はSi粒子の黒色度を高めることがわかった。
【0049】
<陽イオン界面活性剤の吸着>
実施例8の試料0.1gと、水/エタノール溶液(混合体積比=1/1)30mLと、臭化ジメチルジステアリルアンモニウム0.094gとを混合し、超音波かく拌後、磁気回転式かく拌子でさらに24時間かく拌し、室温で試料に陽イオン界面活性剤を吸着させ、複合化試料とした。その後、遠心分離で沈降した複合化試料を回収し、水/エタノール溶液で洗浄した後、乾燥し、複合化試料の粉末を得た。この複合化試料のXRDスペクトルを測定したところ、複合化前のスペクトルと比べて、ヘクトライトの001回折ピークの位置が低角側にシフトしていた。この結果から、ヘクトライト層間にジメチルジステアリルアンモニウムイオンが取り込まれたことがわかった。
複合化試料の粉末の上にイオン交換水を滴下したところ、粉末に吸収されずに弾かれた。原料Si粉末は水滴を弾かず、なじむことに比べて、複合化試料は強い撥水性を示すといえる。
複合化試料は流動パラフィンに分散しなかったが、大豆油と、水/エタノール溶液(混合体積比=1/1)とに対してはそれぞれ分散させることができた。この分散結果から、複合化試料は極性有機溶媒に対する分散性が良好であることがわかった。なお、原料Si粉末は、流動パラフィン、大豆油には分散せず、水/エタノール溶液にはわずかに分散した。
【0050】
実施例9の試料についても上記と同様の複合化を行い、ジメチルジステアリルアンモニウムイオンがヘクトライト層間に取り込まれ、撥水性を示し、極性有機溶媒に対する分散性が良好であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係るケイ酸塩被覆体は、シリコン製の基体の表面にヘクトライト様層状ケイ酸塩の被覆が備えられている。この被覆はシリコン表面の明度を変化させ、シリコンよりも高い黒色度を付与したり、逆にシリコンとして認識できなくなるほどの白色を付与したりすることができる。シリコン粒子の表面にヘクトライト様層状ケイ酸塩の被覆を備えることによって、所望の明度の粒子が得られるので、これを化粧品、塗料、樹脂組成物等に添加する顔料として利用することができる。また、上記の被覆は層状であり、層間にNaイオン等の陽イオンを本来的に含むので、本発明に係るケイ酸塩被覆体は陽イオン吸着体若しくは陽イオン交換体として利用することもできる。実施例で例示したように、長いアルキル基を有する陽イオン界面活性剤を吸着させることにより、ケイ酸塩被覆体の表面を親油性にすることも可能である。
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