(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031343
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】音響測定装置
(51)【国際特許分類】
G01H 3/00 20060101AFI20240229BHJP
B64C 27/08 20230101ALI20240229BHJP
B64C 7/02 20060101ALI20240229BHJP
B64C 39/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G01H3/00 A
B64C27/08
B64C7/02
B64C39/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134843
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100213388
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 康司
(72)【発明者】
【氏名】小泉 穂高
(72)【発明者】
【氏名】松岡 明彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 正明
(72)【発明者】
【氏名】本木 章平
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AB13
2G064BA08
2G064BA21
(57)【要約】
【課題】本発明は、ドローン20を用いた高所における音の測定が可能な音響測定装置1を提供する。
【解決手段】音響測定装置1は、ドローン20と、ドローン20に連結されてドローン20に浮力を与えるバルーン10と、ドローン20及びバルーン10の少なくとも一方に固定された集音部31を備えるマイクロホン30と、ドローン20及びバルーン10の少なくとも一方に固定され、かつ、ドローン20と集音部31との間に配置された遮音板40と、を含む。集音部31は、バルーン10より下でドローン20より上の位置に配置される。遮音板40は、ドローン20のローター22の上方に配置され、かつ、遮音板40を上から見て少なくともローター22が回転する範囲を覆う大きさである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドローンと、
前記ドローンに連結されて前記ドローンに浮力を与えるバルーンと、
前記ドローン及び前記バルーンの少なくとも一方に固定された集音部を備えるマイクロホンと、
前記ドローン及び前記バルーンの少なくとも一方に固定され、かつ、前記ドローンと前記集音部との間に配置された遮音板と、
を含み、
前記集音部は、前記バルーンより下で前記ドローンより上の位置に配置され、
前記遮音板は、前記ドローンのローターの上方に配置され、かつ、前記遮音板を上から見て少なくとも前記ローターが回転する範囲を覆う大きさであることを特徴とする、音響測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音響測定装置において、
前記遮音板は、前記ローターより上方に150mm以上500mm以下の位置に配置されることを特徴とする、音響測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の音響測定装置において、
前記遮音板は、中央に貫通孔を有するまたは有しない一枚の板状であり、
前記遮音板は、上方から見て外形が円形または多角形であることを特徴とする、音響測定装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の音響測定装置において、
前記遮音板は、前記ローターの数だけ設けられ、
各前記遮音板は、前記ローターに対応して設けられることを特徴とする、音響測定装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の音響測定装置において、
前記ドローンは、前記ローターの周囲に設けられた枠体を備え、
前記遮音板は、前記枠体に固定されることを特徴とする、音響測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高所における音を測定する音響測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物を建設する前の環境騒音調査や、竣工時の外装遮音性能の確認を目的に、測定が難しい場所、例えば高所における音の測定が必要となる場合がある。
【0003】
近年、ドローン(無人航空機)に計測器を搭載し、測定点まで飛行させる方法が提案されている(特許文献1)。この方法であれば、地上数十mの高さであっても迅速に到達でき、しかも多少の風がある環境であっても自己の座標を保って高所における音、例えば環境音を測定できる。また、ドローンは、離れた複数の測定点を移動することも容易である。さらに、GPS機能や飛行履歴の記録、搭載カメラによる視覚的状況確認といった高所における音の測定に有用な機能を一般的なドローンであっても備えている。しかしながら、ドローン自体から発生する騒音が測定値に影響を及ぼすため、例えば特許文献1ではローターから発生したと考えられる予測音を測定値から除いて目的の騒音を抽出する技術を提案している。
【0004】
一方で、ドローンのローターの回転数を可能な限り低減させることでドローンから発生する騒音を低減して空中で騒音を測定するシステムが提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】齊藤良二、他2名、「バルーン付き無人航空機を用いた空中騒音測定システム」、日本音響学会講演論文集、2016年9月、p.783-786
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1の提案によれば、バルーン一体型の特殊なドローンを開発する必要があると共に、大きなバルーンの側面にマイクロホンが固定されてるため、音がバルーンに遮られてしまい高所における音の測定に適していない。また、非特許文献1の提案ではマイクロホンがバルーン側面に固定されるためドローンからなるべく遠方にマイクロホンを設置することができず、ドローンから発生する騒音を距離減衰により低減すせることは困難である。
【0008】
そこで、本発明は、ドローンを用いた高所における音の測定が可能な音響測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0010】
[1]本発明に係る音響測定装置の一態様は、
ドローンと、
前記ドローンに連結されて前記ドローンに浮力を与えるバルーンと、
前記ドローン及び前記バルーンの少なくとも一方に固定された集音部を備えるマイクロホンと、
前記ドローン及び前記バルーンの少なくとも一方に固定され、かつ、前記ドローンと前記集音部との間に配置された遮音板と、
を含み、
前記集音部は、前記バルーンより下で前記ドローンより上の位置に配置され、
前記遮音板は、前記ドローンのローターの上方に配置され、かつ、前記遮音板を上から見て少なくとも前記ローターが回転する範囲を覆う大きさであることを特徴とする。
【0011】
[2]上記音響測定装置の一態様において、
前記遮音板は、前記ローターより上方に150mm以上500mm以下の位置に配置されることができる。
【0012】
[3]上記音響測定装置の一態様において、
前記遮音板は、中央に貫通孔を有するまたは有しない一枚の板体であり、
前記遮音板は、上方から見て外形が円形または多角形であることができる。
【0013】
[4]上記音響測定装置の一態様において、
前記遮音板は、前記ローターの数だけ設けられ、
各前記遮音板は、前記ローターに対応して設けられることができる。
【0014】
[5]上記音響測定装置の一態様において、
前記ドローンは、前記ローターの周囲に設けられた枠体を備え、
前記遮音板は、前記枠体に固定されることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る音響測定装置によれば、ドローンを用いることで高所における音の測定が容易となると共に、バルーンによる浮力がドローンの騒音を低減し、さらに、集音部に到達するドローンの騒音を遮音板が低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係る音響測定装置の概略構成図である。
【
図3】変形例1に係る音響測定装置のA-A断面図である。
【
図4】変形例2に係る音響測定装置の概略構成図である。
【
図6】実験における音響測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0018】
1.実施形態に係る音響測定装置
図1及び
図2を用いて、本実施形態に係る音響測定装置1について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る音響測定装置1の概略構成図であり、
図2は、
図1におけるA-A断面図である。
【0019】
図1に示すように、音響測定装置1は、ドローン20と、バルーン10と、集音部31
を備えるマイクロホン30と、遮音板40と、を含む。音響測定装置1は、音響の測定時において、上から下に向かってバルーン10、集音部31、遮音板40、ドローン20の順に配置される。本願において「上」「下」は、音響の測定時における音響測定装置1の各部配置を基準として説明するものであり、基本的に鉛直方向における上下である。
【0020】
ドローン20は、遠隔操作される小型の無人飛行機である。ドローン20は、本体24と、本体24から外方へ延びる複数のアームの先端に設けられたローター22と、ドローン20を遠隔操作するための図示しない公知の操作部と、を備える。ローター22の下方にはアームに固定された電動モータ23が配置され、本体24に内蔵されたバッテリーからの電力により電動モータ23を駆動してローター22を回転させる。ドローン20は、操作部からの操作信号に基づいて複数のローター22を回転させて飛行する。ドローン20は、ローター22が複数備えられるいわゆるマルチコプターであることが好ましく、図示の例ではクワッドローターである。ドローン20は、バルーン10の下方に吊下げられて浮力を与えられる。そのため、ドローン20の飛行能力(例えば積載能力)が高い必要はないが、測定時間内に屋外において所定位置で安定してホバリングする性能を有することが好ましい。また、ドローン20は静音性に優れるタイプが好ましい。
【0021】
バルーン10は、ドローン20に連結されてドローン20に浮力を与える。バルーン10は、内部に外部の空気より比重が小さい浮揚性ガスが充填される。浮揚性ガスとしては例えば水素やヘリウムガスを用いることができる。バルーン10は、ドローン20に浮力を与えることができれば材質、大きさ等に制限はない。ドローン20はバルーン10の浮力によりローター22の回転数を下げても飛行することができ、それによりローター22の回転により発生する騒音を低減することができる。バルーン10が与える浮力は、ドローン20による操作性を考慮してバルーン10の下に吊下げられた部材(ドローン20を含む)の総重量よりも小さいことが好ましい。音響測定装置1はバルーン10が1つの例について説明するが、複数のバルーン10を備えてもよい。
【0022】
バルーン10は、例えばドローン20と吊り具12で連結される。吊り具12の上端はバルーン10の例えば下端に固定される。吊り具12の下端はドローン20の本体24の例えば上面に固定される。あるいは、例えば吊り具12の下端は集音部31に固定されてもよい。吊り具12の下端が集音部31に固定される場合、ドローン20が集音部31から下に延びる例えばケーブルにより吊り下げられてもよい。吊り具12は、バルーン10の下にあるドローン20などを吊り下げることができる材質であり、例えば天然繊維や化学繊維の糸や紐、金属製のワイヤやロッドなどを採用できる。例えば金属製のワイヤであれば軽量で丈夫あり、しかも比較的柔軟でドローン20の水平方向の移動に影響が少なく、ドローン20の上下方向の移動ではバルーン10との距離をある程度維持することができる。また、吊り具12が剛体の例えば金属製のロッドであれば、ドローン20の移動に合わせて確実にバルーン10を移動させることができる。吊り具12は、測定(ホバリング)時に所定の第2高さH2を維持できる材質が好ましい。バルーン10とドローン20との離間距離である高さ方向(鉛直方向)における第2高さH2は、例えば2000mm以上8000mm以下であることが好ましい。第2高さH2は、バルーン10の下端からドローン20の高さ方向の中心までの距離であり、吊り具12によって設定できる。第1高さH1及び第3高さH3を考慮すると2000mm以上であることが好ましく、また、2000mm以上であれば吊り具12が柔軟なワイヤであってもドローン20を移動例えば上昇させる際にバルーン10との衝突を防止できる。また、8000mm以下であれば吊り具12が柔軟なワイヤであってもドローン20を水平移動させる際にバルーン10を追従することができる。
【0023】
マイクロホン30は、ドローン20及びバルーン10の少なくとも一方に固定された集音部31を備える。集音部31は、バルーン10より下でドローン20より上の位置に配
置される。マイクロホン30は、集音部31で集音した音を電気信号に変換できる。マイクロホン30は、例えば、高所における音を集音する集音部31と、集音部31で集音した音を電気信号に変換して無線で送信する送信機32とを備えるワイヤレスマイクであることが好ましい。集音部31及び送信機32は一体で吊り具12に取り付けられる。ワイヤレスマイクとすることでドローン20に搭載する機器例えば騒音計38の本体を省くことができるので軽量化を図ることができる。送信機32を集音部31と離して例えば本体24に取り付けてもよい。その場合、集音部31と送信機32を電気的に接続するケーブルをさらに備える。ケーブルは、集音部31と本体24とを連結する吊り具として機能してもよい。集音部31は、高所におけるあらゆる音を集音するため、無指向性(全指向性)の集音機能を有することが好ましい。
【0024】
ここで、本願において「AがBに固定される」とは、少なくとも音響の測定の際にAとBとが物理的に連結した状態にあることであり、剛体を介して相対位置が変化しない連結状態だけでなくAとBとの間隔が変化する程度の連結状態を含み、また測定の前後でAがBに対して着脱可能な仮止めの取り付け状態を含む。
【0025】
集音部31及び送信機32は、吊り具12の途中に固定される。そのため、集音部31及び送信機32は、バルーン10に固定されると共に、吊り具12によってドローン20にも固定されることになる。集音部31及び送信機32は、例えばバルーン10の下端から吊り具12により吊下げられる。バルーン10及びドローン20に対する集音部31の固定手段はこれに限るものではない。また、例えば、送信機32を集音部31から離してバルーン10に固定した場合には、バルーン10から下方へ延びるケーブルの下端に集音部31が設けられてもよい。このように集音部31がドローン20より上に設けられることにより、集音部31をドローン20より下に設けた場合に比べて、ダウンウォッシュによる騒音の影響が小さい。
【0026】
少なくとも音響の測定時において、集音部31は、バルーン10より下方に所定間隔(第3高さH3)を隔てて離間配置され、かつ、ドローン20より上方に所定間隔(第1高さH1)を隔てて離間配置される。バルーン10、集音部31及びドローン20の間隔は、吊り具12の長さ及び集音部31の取り付け高さによって設定される。第1高さH1は、1000mm以上4000mm以下の位置に配置される。集音部31が騒音発生源であるドローン20から離れるほど距離減衰により音圧レベルが低くなる。そのため、第1高さH1が1000mm以上であることによりドローン20の騒音があっても周囲からの音が測定可能な程度とすることができ、2000mm以上であることがよりドローン20の騒音の影響が小さくなってより好ましい。一方で、集音部31がドローン20から離れすぎれば、集音部31がバルーン10から離間配置される関係上、ドローン20とバルーン10との距離(第2高さH2)が大きすぎるため、ドローン20の操作性が低下する。そのため、第1高さH1が4000mm以下であれば集音部31とバルーン10との距離(第3高さH3)を考慮してもドローン20の操作上実現可能な距離であり、さらに第1高さH1が3000mm以下であればドローン20の操作性の観点からより好ましい。なお、第3高さH3は、バルーン10の下端から集音部31の高さ方向の中心までの距離である。
【0027】
第3高さH3は、例えば1000mm以上4000mm以下であることができる。1000mm以上離れることにより集音部31におけるバルーン10からの反射音の影響が抑えられ、4000mm以下であれば集音部31とドローン20の距離を維持する必要性から実現可能な距離とすることができる。具体的には、例えばバルーン10及び集音部31がドローン20から離れすぎると、ドローン20の移動時のバルーン10の追随性が低下する。
【0028】
騒音計38は、送信機32からの信号を受信機36で受信して騒音レベルを算出することができる。騒音計38は、音の測定に用いる公知の機器を採用でき、地上等で測定を行う作業者や作業現場に配置される。騒音計38は、ワイヤレスに限らず、本体24に搭載して集音部31とケーブルで接続してもよいし、集音部31と一体型の騒音計38であってもよい。また、本体24に集音部31からの信号を記憶可能な記憶装置を搭載して、ドローン20の位置及び時間と共に音を記憶してもよく、その場合、ドローン20を回収した後で記憶装置のデータから騒音計38で解析してもよい。
【0029】
遮音板40は、ドローン20及びバルーン10の少なくとも一方に固定される。
図1の例では遮音板40は、バルーン10とドローン20とを連結する吊り具12の途中から遮音板40に向けて延びる例えば4本の吊り具42により吊り具12から吊下げられて固定される。吊り具42の上端が吊り具12に固定されるため、遮音板40は吊り具12を介してバルーン10及びドローン20に固定される。吊り具42は、遮音板40を少なくともドローン20に対して所定の位置に配置させることができる構造及び材質を有していることが好ましい。
図2のように4本の吊り具42が遮音板40の外縁に等間隔で取り付けられることで、遮音板40を安定して吊り具12に取り付けられる。吊り具42は、遮音板40を吊り具12の途中から吊り下げることができる材質であり、例えば天然繊維や化学繊維の糸や紐、金属製のワイヤやロッドなどを採用できる。吊り具42について吊り具12の途中に固定した例を説明したが、これに限らず、ドローン20に対して所定の位置に配置することができれば他の構造及び材質を採用することができる。他の構造としては、例えば後述する変形例2のようにドローン20と遮音板40との相対位置が変化しない構造がある。
【0030】
遮音板40は、集音部31に到達するドローン20からの騒音を低減するため、ドローン20と集音部31との間に配置される。遮音板40は、ドローン20のローター22の上方に配置される。少なくとも騒音源であるローター22の上に遮音板40があることにより、ローター22から発生した騒音が直接上方へ伝わることを妨げることができ、集音部31に到達するローター22に起因する騒音を低減できる。このように集音部31をドローン20から離すことによる騒音の距離減衰効果、バルーン10の浮力によるドローン20の騒音自体を低減する効果、そして遮音板40による騒音の低減効果により、音響測定装置1はドローン20が発生する騒音の影響を低減させた状態で高所における音を測定できる。また、遮音板40がローター22の上にあるため、ローター22によるダウンウォッシュを乱さないのでドローン20の揚力が安定する。
【0031】
図2に示すように、遮音板40は、当該遮音板40を上から見て少なくともローター22が回転する範囲を覆う大きさである。
図2において網掛けで示した範囲が4つのローター22がそれぞれ回転する範囲である。遮音板40が4つのローター22が回転する範囲を覆う大きさであることにより、ローター22から発生した騒音の内、少なくともローター22の真上に伝わる騒音を遮音板40により遮ることができる。遮音板40が大きいほど遮音性能が高くなるため好ましいが、遮音板40が大きくなりすぎると屋外における風の影響が大きくなるため、ドローン20の操作性が低下しない程度の遮音板40の大きさが好ましい。また、遮音板40が大きくなって重くなるとドローン20の騒音を低下させるために必要なバルーン10の浮力が得にくくなるため、少なくともバルーン10の浮力を超えない重さであって、なるべく軽量であることが好ましい。
【0032】
遮音板40は、例えば、中央に貫通孔を有しない一枚の板状である。遮音板40が一枚の板状であることにより、吊り具42が簡素化でき、そのため吊り具42が軽量である。「一枚の板状」には、複数の材質が上下に積層されて一枚の板状に構成された遮音板40も含まれる。例えば、遮音板40は、ローター22側の面に吸音材を貼り付けて全体として一枚の板状にしてもよい。遮音板40の中央には吊り具12を通す小さな孔があるが、
本願における遮音板40に設けられる「貫通孔」は後述する軽量化のための孔であって、吊り具12を通すためだけの孔は「貫通孔」に含まれないものとする。遮音板40は、ローター22が回転する範囲を覆う大きさであればその形状に制限はないが、例えば、
図2に示すように上方から見て外形が円形であることができる。遮音板40が円形であることにより、遮音板40に対してドローン20の水平面で回転して向きが変わった場合にもローター22が回転する範囲を覆うことができるため好ましい。また、遮音板40は、その外形が多角形であってもよく、例えば四角形、六角形または八角形である。
【0033】
遮音板40は、例えば、ローター22より上方に150mm以上500mm以下の位置に配置される。ローター22から遮音板40までの距離(第4高さH4)が短くなりすぎるとローター22の回転により空気の吸い込みに影響を与えてドローン20の飛行が困難になる。また、本実施形態のように遮音板40が吊り具12の途中から吊り下げられる構成の場合には第4高さH4が低すぎると遮音板40とドローン20の相対的な揺れにより両者が接触することがある。そのため、例えば第4高さH4は150mm以上であることが好ましい。一方、第4高さH4が高すぎると音源であるローター22等から離れることになり、遮音効果が低下することになる。そのため、例えば第4高さH4は500mm以下であることが好ましい。
【0034】
遮音板40の材質は、ローター22の回転により発生する音を遮ることができれば特に制限されないが、遮音板40を軽量化するため例えば合成樹脂製であることが好ましい。遮音板40が軽くなれば、バルーン10による浮力の内、遮音板40を持ち上げるために使われる分が小さくなり、その結果としてバルーン10による浮力がドローン20の騒音低減に利用できる。
【0035】
本実施形態に係る音響測定装置1によれば、ドローン20を用いることで高所における音の測定が容易となる。一方でドローン20はローター22の回転により騒音を発生するが、本実施形態に係る音響測定装置1によれば、バルーン10による浮力がドローン20の騒音を低減でき、さらに、集音部31に到達するドローン20の騒音を遮音板40が低減できるため、測定精度が高くなる。
【0036】
2.変形例1に係る音響測定装置
図1及び
図3を用いて、変形例1に係る音響測定装置2について詳細に説明する。
図3は、変形例1に係る音響測定装置2のA-A断面図である。なお、変形例1に係る音響測定装置2の概略構成図は
図1の音響測定装置1と同じになるため、以下の説明では音響測定装置2の概略構成は
図1を用いて説明し、重複する説明は省略する。
【0037】
図3に示すように、音響測定装置2は、遮音板40を上から見たときの遮音板40の形状が音響測定装置1と異なる。遮音板40は、中央に貫通孔を有する一枚の板状である。遮音板40は、複数の材質を積層させてもよく、例えば、ローター22側の面に貫通孔を有する吸音材を貼り付けて一枚の板状に形成してもよい。遮音板40は、上方から見て外形が円形であり、円環形状である。遮音板40は、軽量化を目的として中央で上下に貫通する貫通孔が大きく開口し、例えば円形の開口縁41を有する。貫通孔は遮音板40の軽量化のためなるべく大きな開口であることが好ましい。また、開口縁41の直径は、4つのローター22が回転する範囲に内接する仮想円の直径よりも小さい。そのため、遮音板40に対してドローン20が水平面内で回転してもローター22が回転する範囲を遮音板40が覆うことができる。貫通孔は上下に貫通し、その開口縁41の形状は円形または多角形である。開口縁41の形状は遮音板40の外形と相似形であってもよい。また、遮音板40の貫通孔には吊り具12を通すことができる。
【0038】
遮音板40が貫通孔を有することにより、
図2の音響測定装置1に比べて遮音板40を
軽量化でき、その結果、バルーン10による浮力がドローン20の騒音低減により多く利用できる。また、遮音板40が貫通孔を有することにより、貫通孔を通って空気がローター22側へ流入するため、遮音板40がローター22に近くてもドローン20の飛行が制限されにくい。
【0039】
遮音板40は、上記実施形態に係る音響測定装置1の遮音板40と同じ材質を採用できる。
【0040】
変形例1に係る音響測定装置2によれば、上記実施形態に係る音響測定装置1の効果に加えて、遮音板40が軽くなることによりバルーン10による浮力でドローン20の騒音をより低減できるため、高所における音を精度よく測定することができる。
【0041】
3.変形例2に係る音響測定装置
図4及び
図5を用いて、変形例2に係る音響測定装置3について詳細に説明する。
図4は、変形例2に係る音響測定装置3の概略構成図であり、
図5は、
図4におけるB-B断面図である。なお、以下の説明では音響測定装置1と同じ構成は同じ符号を用いて説明し、重複する説明は省略する。
【0042】
図4及び
図5に示すように、変形例2に係る音響測定装置3における遮音板40は、ローター22の数(変形例2では4つ)だけ設けられる。遮音板40がローター22の数だけ設けられるので、各遮音板40の小型化及び軽量化が可能となる。4枚の各遮音板40は、ローター22に対応して設けられる。そのため、4枚の遮音板40と4つのローター22とは常に一定の相対位置関係になるような固定方法が採用される。各遮音板40は複数の材質を積層させてもよく、例えば、ローター22側の面に吸音材を貼り付けて各遮音板40が一枚の板状に形成されてもよい。
【0043】
ドローン20は、例えば、ローター22の周囲に設けられた枠体を備える。枠体は、合成樹脂製または金属製の細い棒を組み合わせた形状を有する。枠体は、例えば
図4に示すローターガード44であることができる。ローターガード44は、ローター22を保護するための枠体であり、市販の枠体を採用できる。ローターガード44は、通常、本体24または電動モータ23の取り付け部分であるアーム26に固定される。変形例2に係るローターガード44は、4つのローター22毎に設けられ、ローターガード44がそれぞれ1つのローター22を保護するようにドローン20の各アーム26に取り付けられる。ローターガード44は、プロペラガードと呼ばれることがある。
【0044】
4枚の遮音板40は、枠体であるローターガード44に固定される。ローターガード44はローター22に対して常に所定の位置にあるので、ローター22に対応して配置する遮音板40を取り付けやすい。遮音板40は、ローターガード44の上の部分に着脱可能に固定してもよいが、通常ローターガード44はローター22に近接しているので、ローター22と遮音板40との間隔(第4高さH4)を確保するためにローターガード44の上に取付治具としての嵩上部材43を介して遮音板40を固定してもよい。
図4に示す嵩上部材43は、ローターガード44の上端から上方に延びる複数の柱と柱の上部を連結する環状の梁とを有する枠体である。この梁に各遮音板40の底面が接着されて固定される。また、4枚の遮音板40は、ローターガード44以外の取り付け部材によってそれぞれドローン20に取り付けられてもよい。
【0045】
変形例2に係る音響測定装置3によれば、上記実施形態に係る音響測定装置1の効果に加えて、遮音板40の軽量化によりバルーン10による浮力がドローン20の騒音をより低減できる。また、遮音板40の小型化により、変形例2に係る音響測定装置3は、上記実施形態に係る音響測定装置1よりも風の影響を受けにくくなり、ドローン20による飛
行を制御しやすくなる。
【0046】
上記実施形態及び変形例1,2において遮音板40の外形は円形であったが、ローター22が回転する範囲を覆うことができれば円形以外の形状、例えば、多角形としてもよい。
【実施例0047】
図1及び
図2の構成(各構成の重量は表1に示す)を用いて表2に示す測定条件(1)~(4)に従ってドローン20の飛行音の音圧レベル(dB)を測定した。以下、具体的に説明する。
【0048】
実験は無響室内(有効寸法10×10×8m)で行った。
図1の状態でドローン20を定位置でホバリングさせ、その際に発生する騒音をバルーン10から吊下げた集音部31で集音し、精密騒音計38で測定した。ドローン20はMavic Mini(DJI社製)、集音部31及び送信機32を含むワイヤレスマイクシステムはWireless Go II(RODE社製)、遮音板40は厚さ1mmの塩化ビニル樹脂(PVC)製の円板を使用した。ドローン20の全高は約55mmであった。風防はWS-10(RION社製)を採用して集音部31を覆うように装着した。遮音板40は中心に糸(吊り具12)を通す小さな孔と、外周縁に90度毎に糸(吊り具42)を巻き付ける小さな4つの孔とを備え、吊り具12の途中から遮音板40の外周縁に延びる4本の糸(吊り具42)によって遮音板40をバルーン10から吊り下げた。送信機32は、無指向性マイク(集音部31)と一体の状態で吊り具12の途中から吊下げた。受信機36はAC出力可能であり、マイク部を取り外した精密騒音計NA-28(RION社)(騒音計38)に入力することで音圧レベル(Leq,10s)を測定した。騒音計38に本来のマイクを取り付けた場合との感度差は事前に確認測定を行い、感度差を補正し、騒音計38のマイクで測定した場合に相当する結果を示す。バルーン10はドローン20に糸(吊り具12)でくくり付けられており、ヘリウムガスの充填量を一定とし、バルーン10の下端に取り付けた重りを付けることによって測定条件(2)~(4)で付加浮力が同程度になるように調整した。なお、ここではバルーン10がドローン20に発生させる上向きの力を付加浮力と表現した。付加浮力の値は、集音部31、送信機32、遮音板40及び重り等を吊り下げたバルーン10を電子計りに載せた重りにくくり付けた際の低減重量を計測することで都度確認した。
【0049】
実験に用いた機器の重量は表1の通りであり、実験の測定条件(1)~(4)は表2の通りであった。測定条件(1)は、ドローン20単体をホバリングさせた状態で第1高さH1の位置に集音部31を配置して測定した。測定条件(2)は、
図1の構成から遮音板40を外した状態で測定した。測定条件(3)、(4)は、
図1の構成で直径が異なる遮音板40を用いて測定した。実験における第1高さH1は2000mm、第3高さH3は2000mm、第4高さH4は250mmとした。測定条件(3)における遮音板40の直径は450mmであり、測定条件(4)における遮音板40の直径は650mmであった。測定条件(1)~(4)における集音部31で測定した音圧レベル(dB)の測定結果を
図6に示した。
図6において縦軸は音圧レベル(dB)であり、横軸は中心周波数(Hz)である。
図6において、測定条件(1)は「〇」、測定条件(2)は「●」、測定条件(3)は「△」、測定条件(4)は「▲」でそれぞれ示した。
【0050】
【0051】
【0052】
図6によれば、付加浮力の有無だけが異なる測定条件(1)と測定条件(2)とを比較すると、バルーン10で付加浮力を与えた測定条件(2)の音圧レベルが低かった。遮音板40を装着して測定した測定条件(3)では、測定条件(2)に比べて、1.6kHz以上の周波数における音圧レベルが低下した。測定条件(3)よりも直径の大きな遮音板40を装着して測定した測定条件(4)では、測定条件(3)に比べて、500Hz以上の周波数における音圧レベルが低下した。
【0053】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
1,2,3…音響測定装置、10…バルーン、12…吊り具、20…ドローン、22…ローター、23…電動モータ、24…本体、26…アーム、30…マイクロホン、31…集音部、32…送信機、36…受信機、38…騒音計、40…遮音板、41…開口縁、42…吊り具、43…嵩上部材、44…ローターガード、H1…第1高さ、H2…第2高さ、H3…第3高さ、H4…第4高さ