(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031347
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】軸受シール構造
(51)【国際特許分類】
F16J 15/46 20060101AFI20240229BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20240229BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20240229BHJP
【FI】
F16J15/46
F16J15/18 A
F16J15/18 C
F16J15/3204 101
F16J15/3204 201
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134848
(22)【出願日】2022-08-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】512010982
【氏名又は名称】宮古 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】宮古 茂
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
【Fターム(参考)】
3J006AB01
3J006AE15
3J006AE39
3J006CA01
3J043AA13
3J043AA16
3J043BA09
3J043CA02
(57)【要約】
【課題】シールリングの寿命を延ばして交換時期を延長し、かつシールリングの交換作業を容易に行うことのできる、軸受シール構造を提供する。
【解決手段】摺動および回動の少なくともいずれかの動きをする軸2と、軸2を支持する軸受3と、軸2と軸受3との間を水密に保持するシールリング4とからなる軸受シール構造1であって、軸受3は、内周面に形成されたシールリング4を嵌入させるリング嵌入溝31と、リング嵌入溝31から軸受外部まで貫通された流体注入孔32とを有しており、シールリング4は、流体注入孔32から注入される流体をその外周面に沿って充填させる充填溝41を有するとともに、充填溝41に流体が注入されたときの圧力により縮径しうる弾性材料によって形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動および回動の少なくともいずれかの動きをする軸と、前記軸を支持する軸受と、前記軸と前記軸受との間を水密に保持するシールリングとからなる軸受シール構造であって、
前記軸受は、内周面に形成された前記シールリングを嵌入させるリング嵌入溝と、前記リング嵌入溝から軸受外部まで貫通された流体注入孔とを有しており、
前記シールリングは、前記流体注入孔から注入される流体をその外周面に沿って充填させる充填溝を有するとともに、前記充填溝に前記流体が注入されたときの圧力により縮径しうる弾性材料によって形成されている、前記軸受シール構造。
【請求項2】
前記軸受は、前記リング嵌入溝を構成する一方の側面を着脱可能な溝蓋部により構成しているとともに、前記溝蓋部を閉じた状態の前記リング嵌入溝の幅が前記シールリングの幅よりも狭く形成されており、
前記リング嵌入溝に前記シールリングを嵌めて前記溝蓋部により挟持することで、前記シールリングを内周側に膨出するように構成されている、請求項1に記載の軸受シール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動または回動する軸とその軸受との水密を保持するための軸受シール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸受は、軸を摺動自在または回動自在に支持する構造を備える。また、このような軸受において、軸とその軸受との水密を保持する必要のあるものがある。例えば、ウォータースイベルはポンプからの送水を回転しているロッド(軸)内部に送る器具であり、当該ロッドを支持する軸受はロッド内部に送水する水が外部に漏れ出ないようにロッドと軸受と間は水密を保持する必要がある。
【0003】
また、油圧シリンダーは、水密構造のハウジングと、前記ハウジングのヘッド側から出入可能なロッドとを有しており、前記ハウジング内に油圧をかけることで前記ロッドが出入りして伸縮する構造となっている。よって油圧シリンダーでは、ハウジングとロッドとの隙間からの作動油が漏れたり、ハウジング内に異物が混入したりするのを防ぐために、水密に保持する必要がある。
【0004】
このような油圧シリンダーに関する発明については、例えば、特開2019-32066号公報では、ハウジングのヘッド側に3つのシールリングが設けられた油圧シリンダーに係る発明が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、ロッドが何度も摺動することにより、シールリングとロッドとの当たり面が摩耗し、隙間ができるという問題がある。隙間が大きくなると、油漏れや異物の混入が起きて故障の原因となる。
【0007】
従来、油漏れなどが発生すると、ロッドを軸受から抜き取る分解作業を行い、軸受からシールリングを取り外し、新しいシールリングに交換した上で、再度組立て作業を行っている。このようなシールリングの交換作業は、多くの作業時間を要するものであり、負担の大きい作業となっている。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたものであって、シールリングの寿命を延ばして交換時期を延長し、かつシールリングの交換作業を容易に行うことのできる、軸受シール構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る軸受シール構造は、摩耗するシールリングの寿命を延ばして交換時期を延長することのできる構造にするという課題を解決するために、摺動および回動の少なくともいずれかの動きをする軸と、前記軸を支持する軸受と、前記軸と前記軸受との間を水密に保持するシールリングとからなる軸受シール構造であって、前記軸受は、内周面に形成された前記シールリングを嵌入させるリング嵌入溝と、前記リング嵌入溝から軸受外部まで貫通された流体注入孔とを有しており、前記シールリングは、前記流体注入孔から注入される流体をその外周面に沿って充填させる充填溝を有するとともに、前記充填溝に前記流体が注入されたときの圧力により縮径しうる弾性材料によって形成されている。
【0010】
また、本発明の一態様として、シールリングの水密性を高めるとともに、交換作業を容易にするという課題を解決するために、前記軸受は、前記リング嵌入溝を構成する一方の側面を着脱可能な溝蓋部により構成しているとともに、前記溝蓋部を閉じた状態の前記リング嵌入溝の幅が前記シールリングの幅よりも狭く形成されており、前記リング嵌入溝に前記シールリングを嵌めて前記溝蓋部により挟持することで、前記シールリングを内周側に膨出するように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シールリングの寿命を延ばして交換時期を延長し、かつシールリングの交換作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る軸受シール構造の一実施形態を示す一部断面正面図である。
【
図2】本実施形態の軸受シール構造を示す一部断面側面図である。
【
図3】本実施形態におけるシールリングおよび当該シールリングを嵌入させていないリング嵌入溝であって前記シールリングの幅と前記リング嵌入溝の幅とを示す一部断面正面図である。
【
図4】本実施形態におけるシールリングをリング嵌入溝に嵌め入れるとともに、溝蓋部により挟持して内周側に膨出させた状態を示す一部断面正面図である。
【
図5】本実施形態におけるシールリングを示す斜視図である。
【
図6】本実施形態において、充填溝に流体を注入させたときにシールリングに係る圧力とそれによりシールリングが縮径して軸に密着する状態を示す断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る軸受シール構造の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0014】
本実施形態における軸受シール構造1は、
図1および
図2に示すように、軸2と、この軸2を支持する軸受3と、軸2と軸受3との間を水密に保持するシールリング4とを有する。
【0015】
軸2は、摺動および回動の少なくともいずれかの動きをする軸であり、本実施形態では、縦断形状が円形状の円形軸からなる。
【0016】
軸受3は、油圧シリンダーのハウジングなどに対して軸2を摺動および回動可能に支持する軸受である。本実施形態における軸受3は、
図1に示すように、軸2の外径Rに対して僅かに大きい内径rを有しているとともに、その内周面にはシールリング4を嵌入させるリング嵌入溝31が形成されている。また、当該軸受3には、リング嵌入溝31から軸受外部まで流通可能に貫通された流体注入孔32が開口されている。
【0017】
また、本実施形態における軸受3は、シールリング4の交換が容易に行えるように、リング嵌入溝31を構成する一方の側面を着脱可能な溝蓋部33により構成している。
【0018】
具体的には、溝蓋部33は、
図1および
図2に示すように、軸2を挿通可能な内径を有する穴が形成されたドーナツ状の円盤により形成されており、シールリング4側には押止リング部331が形成されている。当該押止リング部331は、リング嵌入溝31の一側面となってシールリング4を押止するものであり、溝蓋部33のシールリング4側に凸形リング状に形成されている。また、溝蓋部33は、
図2に示すように、複数本のボルト34によって着脱可能に締結固定されている。本実施形態では、周方向に対して均等(60度毎)に配置された6本のボルト34によって締結固定しており、シールリング4を均等に押圧できるようになっている。
【0019】
リング嵌入溝31は、
図1に示すように、シールリング4を嵌入させるための溝であり、軸受3の内周面を一周するように凹状に形成されている。本実施形態におけるリング嵌入溝31は、上述のとおり一方の側面が溝蓋部33により構成されている。
【0020】
また、リング嵌入溝31は、
図3に示すように、シールリング4を嵌入させずに溝蓋部33を閉じた状態の幅W
0がシールリング4の幅Wよりも狭く形成されている。これにより、
図4に示すように、リング嵌入溝31にシールリング4を嵌めて溝蓋部33により挟持した際に、その挟持する力によって前記シールリング4を内周側に膨出するように構成されている。
【0021】
流体注入孔32は、リング嵌入溝31に嵌入されたシールリング4の充填溝41に流体を注入するための孔であり、
図1および
図2に示すように、リング嵌入溝31の底面311から軸受外部まで、流体を流通させることができるように貫通されている。本実施形態における流体注入孔32は、内周面に雌ネジ溝が形成されており、注入口には注入した流体の逆流を防止する逆止弁35が螺合されている。
【0022】
シールリング4は、軸2と軸受3との間を水密に保持するリング状のシール部材であり、
図5に示すように、流体注入孔32から注入される流体をその外周面に沿って充填させる充填溝41を有している。当該充填溝41は、注入される流体による圧力が外周全体に均等に係るように外周面を一周するように凹状に形成されており、本実施形態では、
図1に示すように、底面が湾曲するように形成されている。
【0023】
また、シールリング4は、弾性材料によって形成されており、
図4に示すように、溝蓋部33を固定する締結力により挟持されることで内周側に膨出して軸2との密着性が高められるとともに、
図6に示すように、充填溝41に充填される流体の圧力により内周側に押圧を受けて縮径するようになっている。
【0024】
本実施形態において注入される流体には、油圧機械を作動させる作動油を用いている。図示しないが、逆止弁35には大気圧より高い圧力に加圧した作動油を供給する油圧ポンプが接続されている。なお、流体の種類は、特に限定されるものではなく、水などの液体や空気などの気体などから適宜選択してもよい。
【0025】
次に、本実施形態の軸受シール構造1における各構成の作用について説明する。
【0026】
本実施形態の軸受シール構造1では、溝蓋部33が取り外された軸受3のリング嵌入溝31にシールリング4を嵌め入れる。
【0027】
次に、溝蓋部33をボルト34により締結固定する。このとき、シールリング4は、弾性材料で形成されており、かつリング嵌入溝31の幅W
0がシールリング4の幅Wよりも狭く形成されているため、
図4に示すように、溝蓋部33の押止リング部331によって押し付けられ、内周側に膨出し、軸2と軸受3との間を水密に保持することができる。
【0028】
また、流体注入孔32を介してシールリング4の充填溝41に流体を充填する。充填された流体は、
図6に示すように、その圧力によってシールリング4を内周方向に押し付ける。これによりシールリング4は縮径して軸2との密着度が高まる。また、劣化によりシールリング4と軸2との当たり面が摩耗しても、前期シールリング4には流体からの圧力によって縮径するように力が働いているため、隙間はできにくい。
【0029】
仮に隙間ができた場合は、注入する液体の量を増やして充填溝41の内圧を高めることで、シールリング4をさらに縮径させて隙間を埋め、水密を保持することができる。また、溝蓋部33を締結するボルト34によってさらに締め付けることで、内周側に膨出させて隙間を埋めることもできる。このようにシールリング4が摩耗しても軸2との隙間を埋めるように調整することで、シールリング4を交換することなく寿命を延長することができる。
【0030】
また、仮にシールリング4が激しく劣化し、液体の注入や溝蓋部33の締め付けでは水密を保持できなくなった場合には、シールリング4の交換を行う必要が生じるが、本実施形態では、溝蓋部33を取り外すことができるため、軸2を軸受3から抜き取らなくてもシールリング4の交換ができるため、簡易な作業ですむ。
【0031】
以上のような本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
1.軸2とシールリング4との当たり面が軸2の摺動や回動により摩耗しても、シールリング4の外周に注入される流体の圧力により前記シールリング4を縮径して摩耗による軸2との隙間を埋められるため、シールリング4の寿命が延びて交換時期を延長することができる。
2.着脱可能な溝蓋部33によりリング嵌入溝31の幅をシールリング4の幅より狭くすることが可能な構造としているため、前記溝蓋部33によって前記シールリング4を挟持することで内周側に膨出させて軸2との密着度を高めることができるとともに、軸2とシールリング4との当たり面が軸2の摺動や回動により摩耗しても、挟持力を高めて膨出させる量を増やすことで摩耗による軸2との隙間を埋められるため、シールリング4の寿命が延びて交換時期を延長することができる。
3.仮にシールリング4が激しく劣化して交換作業が必要になったとしても、シールリング4を嵌め入れるリング嵌入溝31の一方の側面を着脱可能な溝蓋部33としたため、軸2を軸受3から引き抜く必要がなくなり、交換作業を容易に行うことができる。
【0032】
なお、本発明に係る軸受シール構造は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。例えば、溝蓋部33は、シールリング4を押止する押止リング部331を別体として形成してもよい。また、押止リング部331とシールリング4との間に充填溝41に充填される流体が漏れるのを防止する別のシール部材や液体パッキンなどを介在させてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 軸受シール構造
2 軸
3 軸受
4 シールリング
31 リング嵌入溝
32 流体注入孔
33 溝蓋部
331 押止リング部
34 ボルト
35 逆止弁
41 充填溝
【手続補正書】
【提出日】2023-01-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動および回動の少なくともいずれかの動きをする軸と、前記軸を支持する軸受と、前記軸と前記軸受との間を水密に保持するシールリングとからなる軸受シール構造であって、
前記軸受は、内周面に形成された前記シールリングを嵌入させるリング嵌入溝と、前記リング嵌入溝から軸受外部まで貫通された流体注入孔とを有しており、
前記シールリングは、前記流体注入孔から注入される流体をその外周面に沿って充填させる充填溝を有するとともに、前記充填溝に前記流体が注入されたときの圧力により前記シールリングと前記軸との隙間を埋めるまで縮径しうる弾性材料によって形成されている、前記軸受シール構造。
【請求項2】
前記軸受は、前記リング嵌入溝を構成する一方の側面を着脱可能な溝蓋部により構成しているとともに、前記溝蓋部を閉じた状態の前記リング嵌入溝の幅が前記シールリングの幅よりも狭く形成されており、
前記リング嵌入溝に前記シールリングを嵌めて前記溝蓋部により挟持することで、前記シールリングと前記軸との隙間を埋めるまで前記シールリングを内周側に膨出させるように構成されている、請求項1に記載の軸受シール構造。