(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031361
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】建設機械のキャビン
(51)【国際特許分類】
E02F 9/16 20060101AFI20240229BHJP
B62D 25/06 20060101ALI20240229BHJP
B62D 25/08 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
E02F9/16 D
B62D25/06 A
B62D25/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134870
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】有地 毅成
【テーマコード(参考)】
2D015
3D203
【Fターム(参考)】
2D015EA05
3D203AA27
3D203BB54
(57)【要約】
【課題】フロントヘッダの剛性を向上する。
【解決手段】建設機械においてブームの左右一方側に近接して配置されたキャビン7は、左右のフロントピラー12と、左右のフロントピラーにそれぞれ接続された左右のルーフビーム16と、フロントピラーおよびルーフビームが接続する左右の接続部60を掛け渡して連結するフロントヘッダ17とを備える。フロントヘッダは、前面視において水平方向に対して傾斜された傾斜フロントヘッダ70を備える。傾斜フロントヘッダは、左右一方側の一端部72Lと、左右他方側の他端部72Rとを有し、一端部は他端部より高い位置に位置される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械においてブームの左右一方側に近接して配置されたキャビンであって、
左右のフロントピラーと、
前記左右のフロントピラーにそれぞれ接続された左右のルーフビームと、
前記フロントピラーおよび前記ルーフビームが接続する左右の接続部を掛け渡して連結するフロントヘッダと、
を備え、
前記フロントヘッダは、前面視において水平方向に対して傾斜された傾斜フロントヘッダを備え、
前記傾斜フロントヘッダは、左右一方側の一端部と、左右他方側の他端部とを有し、
前記一端部は前記他端部より高い位置に位置される
ことを特徴とする建設機械のキャビン。
【請求項2】
前記傾斜フロントヘッダの前記一端部は前記他端部より後方の位置に位置される
請求項1に記載の建設機械のキャビン。
【請求項3】
前記フロントヘッダは、前面視において水平に配置された水平フロントヘッダを備え、
前記水平フロントヘッダは、前記傾斜フロントヘッダより前方の位置に位置され、
前記傾斜フロントヘッダは、アイポイントから見たときに前記水平フロントヘッダと重なるように配置される
請求項1に記載の建設機械のキャビン。
【請求項4】
前記傾斜フロントヘッダは、扁平な断面形状を有する
請求項1に記載の建設機械のキャビン。
【請求項5】
前記傾斜フロントヘッダは、台形、長方形、三角形または楕円形の断面形状を有する
請求項4に記載の建設機械のキャビン。
【請求項6】
前記傾斜フロントヘッダは左右の支持板に取り付けられ、前記左右の支持板が前記接続部の内側面部に取り付けられている
請求項1に記載の建設機械のキャビン。
【請求項7】
前記フロントヘッダは、前面視において水平に配置され前記傾斜フロントヘッダより後方の位置に位置された追加水平フロントヘッダを備える
請求項1に記載の建設機械のキャビン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建設機械のキャビンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル等の建設機械におけるキャビンは、その骨格をなすキャビンフレームを備える。キャビンフレームは、左右のフロントピラーと、左右のフロントピラーにそれぞれ接続された左右のルーフビームと、フロントピラーおよびルーフビームが接続する左右の接続部を掛け渡して連結するフロントヘッダとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、キャビンは、ISOで定めるROPS(Roll-Over Protective Structures)規格を満たさなければならない。ROPS規格とは、左右一方のルーフビームに横力すなわちROPS荷重を加えたときのキャビンの変形度合いに関する規格である。フロントヘッダは、キャビン前半部分においてROPS荷重を受け持つ重要な構造部材である。そのため、ROPS荷重に耐え得るような高剛性のフロントヘッダが要請されている。
【0005】
そこで本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、フロントヘッダの剛性を向上することができる建設機械のキャビンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様によれば、
建設機械においてブームの左右一方側に近接して配置されたキャビンであって、
左右のフロントピラーと、
前記左右のフロントピラーにそれぞれ接続された左右のルーフビームと、
前記フロントピラーおよび前記ルーフビームが接続する左右の接続部を掛け渡して連結するフロントヘッダと、
を備え、
前記フロントヘッダは、前面視において水平方向に対して傾斜された傾斜フロントヘッダを備え、
前記傾斜フロントヘッダは、左右一方側の一端部と、左右他方側の他端部とを有し、
前記一端部は前記他端部より高い位置に位置される
ことを特徴とする建設機械のキャビンが提供される。
【0007】
好ましくは、前記傾斜フロントヘッダの前記一端部は前記他端部より後方の位置に位置される。
【0008】
好ましくは、前記フロントヘッダは、前面視において水平に配置された水平フロントヘッダを備え、
前記水平フロントヘッダは、前記傾斜フロントヘッダより前方の位置に位置され、
前記傾斜フロントヘッダは、アイポイントから見たときに前記水平フロントヘッダと重なるように配置される。
【0009】
好ましくは、前記傾斜フロントヘッダは、扁平な断面形状を有する。
【0010】
好ましくは、前記傾斜フロントヘッダは、台形、長方形、三角形または楕円形の断面形状を有する。
【0011】
好ましくは、前記傾斜フロントヘッダは左右の支持板に取り付けられ、前記左右の支持板が前記接続部の内側面部に取り付けられている。
【0012】
好ましくは、前記フロントヘッダは、前面視において水平に配置され前記傾斜フロントヘッダより後方の位置に位置された追加水平フロントヘッダを備える。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、フロントヘッダの剛性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係る建設機械を概略的に示す正面図である。
【
図2】第1実施形態のキャビンを概略的に示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態のキャビンを示す断面斜視図であり、
図2のIII-III断面を示す。
【
図4】傾斜フロントヘッダアセンブリを示す斜視図である。
【
図5】フロントヘッダの周辺部分を示す縦断側面図であり、
図2のIII-III断面を示す。
【
図6】比較例のフロントヘッダの周辺部分を示す縦断側面図である。
【
図7】比較例のキャビンの変形モードを概略的に示す前面図である。
【
図8】比較例のキャビンの変形モードを概略的に示す上面図である。
【
図9】第1実施形態のキャビンの変形モードを概略的に示す前面図である。
【
図10】第1実施形態のキャビンの変形モードを概略的に示す上面図である。
【
図11】第2実施形態のキャビンを概略的に示す斜視図である。
【
図12】第2実施形態の傾斜フロントヘッダアセンブリを示す斜視図である。
【
図13】フロントヘッダの周辺部分を示す縦断側面図であり、
図11のXIII-XIII断面を示す。
【
図14】傾斜フロントヘッダの第1変形例を示す縦断側面図である。
【
図15】傾斜フロントヘッダの第2変形例を示す縦断側面図である。
【
図16】傾斜フロントヘッダの第3変形例を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお本開示は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
【0016】
[第1実施形態]
図1に、第1実施形態に係る建設機械を概略的に示す。本実施形態における建設機械1は油圧ショベルであり、下部走行体2と、下部走行体2上に上下軸回りに旋回可能に設けられた上部旋回体3とを備える。
【0017】
下部走行体2は、左右のクローラ5を備える。上部旋回体3は、旋回フレーム6と、旋回フレーム6上の左側(左右の一方側)に設けられたキャビン7と、旋回フレーム6上の前部かつ左右中央部に設けられた掘削用アタッチメント4と、旋回フレーム6上の右側(左右の他方側)に設けられた機械室8とを備える。
【0018】
掘削用アタッチメント4は、旋回フレーム6に起伏自在に設けられたブーム9と、ブーム9の先端部に回動可能に設けられたアーム(図示せず)と、アームの先端部に回動可能に設けられたバケット(図示せず)とを備える。また掘削用アタッチメント4は、旋回フレーム6に対してブーム9を起伏させるためのブームシリンダ10と、ブーム9に対してアームを回動させるためのアームシリンダ(図示せず)と、アームに対してバケットを回動させるためのバケットシリンダ(図示せず)とを備える。
【0019】
右側は、キャビン7に対してブーム9が存在する側、つまりブーム側である。これに対し、左側は、キャビン7に対してブーム9が存在する側の反対側、つまり反ブーム側である。キャビン7はブーム9の左側に近接して配置されている。
【0020】
図2および
図3に、キャビン7と、その骨格をなすキャビンフレーム11とを概略的に示す。キャビンフレーム11に各種パネル、ドア、窓、艤装品等が取り付けられてキャビン7が構成される。キャビン7およびキャビンフレーム11は概ね左右対称に構成されている。
【0021】
キャビンフレーム11は、その最前端に立設された左右のフロントピラー12(12L,12R)と、その最後端に立設された左右のリヤピラー13(13L,13R)と、左側に位置され左フロントピラー12と左リヤピラー13Lの間に位置されたセンターピラー14すなわち左センターピラー14Lとを備える。本実施形態の場合、視界向上のため、右側にはセンターピラーが存在しない。
【0022】
これら各ピラーは、キャビン7のフロア部に立設され、具体的にはキャビンフレーム11における四角枠状のフロアメンバ15に上方に向かって立設されている。フロアメンバ15の内側の開口部にはこれを閉止するフロアプレート35が取り付けられている。フロアプレート35の前後左右の四隅の位置において、フロアプレート35が、ビスカスマウントからなるキャビンマウント36を介して、旋回フレーム6に昇降可能に弾性支持されている。これによりキャビン7は旋回フレーム6上に4点で防振支持される。フロアプレート35の左後端部に設置されたキャビンアンカーボルト37が、旋回フレーム6に対するフロアプレート35の上昇量を規制する。
【0023】
またキャビンフレーム11は、左右のそれぞれにおいてフロントピラー12の上端とリヤピラー13の上端とを連結するルーフビーム16(16L,16R)を備える。左右のルーフビーム16の前端は左右のフロントピラー12の上端にそれぞれ接続される。フロントピラー12とルーフビーム16が接続する接続部60(60L,60R)が左右に形成される。左ルーフビーム16Lには左センターピラー14Lの上端が接続される。
【0024】
またキャビンフレーム11は、左右の接続部60を掛け渡して連結するフロントヘッダ17を備える。詳しくは後述するが、本実施形態は、フロントヘッダ17が、前方から見たときの前面視において水平方向に対して傾斜された傾斜フロントヘッダ70を備える点に特徴がある(
図9参照)。
【0025】
キャビンフレーム11は、左右のリヤピラー13の上端部同士を掛け渡して連結するリヤアッパクロスメンバ18と、左右のリヤピラー13の中間部同士を掛け渡して連結するリヤミドルクロスメンバ19と、左右のリヤピラー13の下端部同士を掛け渡して連結するリヤロワクロスメンバ22とを備える。
【0026】
またキャビンフレーム11は、左右のルーフビーム16の中間部同士を掛け渡して連結するセンタークロスメンバ20を備える。前後方向におけるセンタークロスメンバ20の位置は左センターピラー14Lの位置と等しくされる。
【0027】
またキャビンフレーム11は、左センターピラー14Lと左リヤピラー13Lとの中間部同士を連結する左サイドメンバ21Lを備える。左サイドメンバ21Lは前下がりになるよう傾斜される。
【0028】
またキャビンフレーム11は、右リヤピラー13Rの中間部とフロアメンバ15の右側端縁部とを連結する右サイドビーム23Rを備える。右サイドビーム23Rは前下がりになるよう傾斜され、右リヤピラー13Rとフロアメンバ15を筋交い状に連結する。
【0029】
上述のリヤピラー13、センターピラー14、リヤアッパクロスメンバ18、リヤミドルクロスメンバ19、リヤロワクロスメンバ22、センタークロスメンバ20、左サイドメンバ21L、右サイドビーム23Rは、金属(例えば鋼)製で直線状かつ矩形断面の中空角パイプにより形成される。
【0030】
一方、左右のフロントピラー12およびルーフビーム16は、金属(例えば鋼)製かつ異形断面の中空パイプにより一体かつ連続的に形成されている。すなわち、フロントピラー12およびルーフビーム16は、1本の異形断面の中空パイプを湾曲状に曲げることにより形成される。よって左右の接続部60は側面視において図示するような湾曲形状とされている。ここで異形断面とは、一般的な長方形および円形とは異なる形状の断面をいう。
【0031】
このように本実施形態では、フロントピラー12とルーフビーム16を一体に接続しており、こうした場合も接続部60に含まれる。当然、フロントピラー12とルーフビーム16を別体で接続する場合も接続部60に含まれる。この場合、フロントピラー12とルーフビーム16は直接接続してもよいし、継手部材を介して間接的に接続してもよい。
【0032】
こうしたキャビンフレーム11において、前面の開口部は、
図2に仮想線で示すような前窓24(
図1にも示す)により閉止される。また、キャビンフレーム11の後面開口部は、リヤパネル25と、その開口部26に設けられた図示しない後窓とにより閉止される。キャビンフレーム11の右側面部は、右サイドパネル27と、その開口部28に設けられた図示しない右窓とにより閉止される。
【0033】
キャビンフレーム11の左側面部において、左フロントピラー12L、左センターピラー14Lおよび左ルーフビーム16Lで囲まれた空間は、図示しない開閉可能なドアにより閉止される。また左センターピラー14L、左リヤピラー13Lおよび左ルーフビーム16Lで囲まれた空間は、左サイドパネル29と、その開口部30に設けられた図示しない左窓とにより閉止される。
【0034】
前窓24、後窓、右窓および左窓は、概して透明なガラス板により形成されている。
【0035】
一方、キャビンフレーム11の天井開口部のうち、後半部は後ルーフパネル31により閉止される。後ルーフパネル31は、センタークロスメンバ20より僅かに前方の位置から後方の部分に設けられる。
【0036】
またキャビンフレーム11の天井開口部のうち、前半部は、ルーフハッチをなし、
図2に仮想線で示すようなルーフハッチカバーすなわち前ルーフパネル32により閉止される。前ルーフパネル32は、金属(例えば鋼)製の板材により形成されると共に、後ルーフパネル31に回動可能に接続されてチルトアップ可能である。前ルーフパネル32の後端部は、図示しないヒンジを介して、後ルーフパネル31の前端部に回動可能に接続されている。
【0037】
前ルーフパネル32がチルトアップされてない通常位置aにあるとき、前ルーフパネル32は天井開口部の前半部を閉止する。他方、前ルーフパネル32がチルトアップされたチルト位置bにあるとき、前ルーフパネル32は、その前端部が後端部より高くなるよう傾斜され、前半部を開放する。
【0038】
このように前ルーフパネル32をチルトアップさせると、キャビン内のアイポイントから見たときに前方上部および上方の視界が開けるので、掘削作業等の作業が容易となる。
【0039】
次に、フロントヘッダ17について説明する。上述したように、フロントヘッダ17は、前面視において水平方向に対して傾斜された傾斜フロントヘッダ70を備える。またフロントヘッダ17は、前面視において水平に配置された水平フロントヘッダ71を備える。水平フロントヘッダ71は、傾斜フロントヘッダ70より前方の位置に位置される。言い換えれば、傾斜フロントヘッダ70は、水平フロントヘッダ71より後方の位置に位置される。
【0040】
フロントヘッダ17は、
図4に詳しく示すように、傾斜フロントヘッダ70が取り付けられる左右の支持板64(64L,64R)を有する。これら傾斜フロントヘッダ70と左右の支持板64により、両者が一体化された傾斜フロントヘッダアセンブリ72が形成される。
【0041】
傾斜フロントヘッダアセンブリ72は、左右の接続部60に取り付けられる。すなわち、
図5にも示すように、左右の接続部60の内側面部60Bの間に挟まれるように傾斜フロントヘッダアセンブリ72が位置決めされた後、左右の支持板64がフランジの如く機能し、左右の接続部60の内側面部60Bにそれぞれ溶接、ボルト止め等により取り付けられる。これにより、傾斜フロントヘッダ70を取り付けるための取付作業を容易に行うことができる。取付後、傾斜フロントヘッダ70は、左右の接続部60の内側面60Bの間に位置されて突っ張り棒の如く機能する。
【0042】
傾斜フロントヘッダ70は、直線状の金属(例えば鋼)製中空パイプにより形成されている。傾斜フロントヘッダ70は、
図4、
図5、
図9および
図10に示すように、左支持板64Lを介して左接続部60Lの内側面部60Bに取り付けられる左端部(左右一方側の一端部)72Lと、右支持板64Rを介して右接続部60Rの内側面部60Bに取り付けられる右端部(左右他方側の他端部)72Rとを有する。これら左端部72Lおよび右端部72Rは、左右の支持板64に溶接、ボルト止め等により取り付けられる。
【0043】
左端部72Lは右端部72Rより高い位置に位置される。また左端部72Lは右端部72Rより後方の位置に位置され、傾斜フロントヘッダ70は、上方から見たときの上面視において左右方向に対し傾斜されている(
図10参照)。これにより後述するように、ROPS荷重を効果的に受け止めることができる。
【0044】
他方、水平フロントヘッダ71も、直線状の金属(例えば鋼)製中空パイプにより形成されている。水平フロントヘッダ71は、
図2、
図9および
図10に示すように、左接続部60Lの内側面部60Bに直接取り付けられる左端部73Lと、右接続部60Rの内側面部60Bに直接取り付けられる右端部73Rとを有する。これら左端部73Lおよび右端部73Rは、左右の接続部60に溶接、ボルト止め等により取り付けられる。
【0045】
左端部72Lは右端部72Rと同じ高さに位置される。また左端部72Lは右端部72Rと同じ前後位置に位置される。水平フロントヘッダ71は、一般的に見られるフロントヘッダと同様の形態を有する。
【0046】
図2および
図5に示すように、水平フロントヘッダ71の上端部には、その長手方向に沿って、通常位置aにある前ルーフパネル32とのシール面をなすリブ部71Aが一体的に設けられる。左右のルーフビーム16およびセンタークロスメンバ20にも、リブ部71Aに連続するリブ部74が設けられる。
【0047】
また水平フロントヘッダ71の下端部には、その長手方向に沿って、前窓24とのシール面をなすリブ部71Bが一体的に設けられる。なお前窓24は着脱可能もしくは開閉可能であってもよい。
【0048】
図5は、フロントヘッダ17の周辺部分を左側から見たときの断面図である。図示するように、傾斜フロントヘッダ70は、アイポイントPから見たときにと水平フロントヘッダ71と重なるように配置される。
【0049】
アイポイントPとは、キャビン内のシートに着座したオペレータの仮想的な目の位置をいう。このアイポイントPから見たとき、傾斜フロントヘッダ70が水平フロントヘッダ71と重なるように配置されるので、傾斜フロントヘッダ70を設けたことによる前方上部の視界の減少(すなわち死角の拡大)を最小限に止めることができる。
図5は、図示断面位置における死角Bを示す。
【0050】
水平フロントヘッダ71の断面形状は矩形、特に台形とされる。台形の上底部分は前方に向けられ、台形の下底部分は後方に向けられる。
【0051】
他方、傾斜フロントヘッダ70は、側面視において、アイポイントPから延びるヘッダ断面中心線Cを有する。ヘッダ断面中心線Cは、アイポイントPと、傾斜フロントヘッダ70の断面中心とを通過する。傾斜フロントヘッダ70は、ヘッダ断面中心線Cの方向における前後幅Lが、ヘッダ断面中心線Cに直角な方向における上下幅Hよりも大きい、扁平な断面形状を有する。
【0052】
本実施形態の場合、傾斜フロントヘッダ70は台形もしくは略台形の断面形状を有する。台形の高さ方向がヘッダ断面中心線Cの方向に略平行とされ、台形はヘッダ断面中心線Cに略対称な形状とされる。台形の上底部分70Aは下底部分70BよりアイポイントP側に位置される。
【0053】
傾斜フロントヘッダ70の断面を扁平形状としたので、傾斜フロントヘッダ70の剛性を確保しつつ、アイポイントPから見たときの傾斜フロントヘッダ70による死角を減らすことができ、前方上部の視界を有利に向上できる。なおここでいう死角とは、側面視においてアイポイントPを中心とした周方向における傾斜フロントヘッダ70の存在領域を意味する。
【0054】
傾斜フロントヘッダ70は、通常位置aにある前ルーフパネル32より下方に位置され、前ルーフパネル32と干渉しないようになっている。
【0055】
次に、本実施形態の利点を比較例と比較しつつ説明する。
【0056】
図6は、比較例のフロントヘッダ17Xの周辺部分を示す断面図である。図示するように比較例のフロントヘッダ17Xは、水平フロントヘッダ71のみからなり、傾斜フロントヘッダ70は省略されている。
【0057】
図7および
図8は、比較例のキャビン7XにROPS荷重F1を付加したときの変形モードを示す図である。
図7は正面図、
図8は平面図である。破線が荷重付加前、実線が荷重付加後を示す。ROPS荷重F1は、左ルーフビームの長さ方向の中間部付近に、右側つまりブーム側に向かって加えられる。建設機械の横転時にキャビンに付加される横荷重を模倣したものだからである。
【0058】
荷重が付加されると、キャビン7Xの前面部はまず右側に傾く。このときフロアの上昇がキャビンアンカーボルト37により規制されるので、キャビン7Xの前面部は
図7に示すように平行四辺形状に傾きながら変形する。こうした変形の仕方をマッチボクシング変形という。
【0059】
その後、右フロントピラー12RXがブーム9Xにぶつかり、右フロントピラー12RXが符号aで示すように座屈変形する。これと同時に、フロントヘッダ17Xに応力が集中し、フロントヘッダ17Xが符号bで示すように捩られると共に、フロントヘッダ17Xに座屈が発生する。すると、キャビン7Xの変形が一気に進み、DLV(Deflection-limiting Volume、キャビン内の乗員のための最小空間)の範囲にキャビン7Xが侵入して、規格を満たさないことがある。
【0060】
これに対し、本実施形態の変形モードは
図9および
図10に示す通りである。
図9は正面図、
図10は平面図である。
【0061】
荷重が付加されると、キャビン7の前面部が平行四辺形状に右側に傾き、右フロントピラー12Rがブーム9にぶつかり、右フロントピラー12Rが符号aで示すように座屈変形する。これと同時に、フロントヘッダ17に応力が集中し、フロントヘッダ17に符号bで示すような捩じり力と、フロントヘッダ17を座屈させようとする軸力cとが働く。
【0062】
しかし、本実施形態の場合、
図9から分かるように、傾斜フロントヘッダ70の左端部72Lが右端部72Rより高い位置に位置されるので、ROPS荷重F1の付加位置から、右フロントピラー12Rのブーム9への衝突位置まで、ほぼ直線的に延びるように傾斜フロントヘッダ70が存在する。そしてこの傾斜フロントヘッダ70が突っ張り棒の如く機能し、座屈方向の軸力cに効果的に対抗する。傾斜フロントヘッダ70は、ROPS荷重F1を、ブーム9付近に効率的に伝達する。そしてブーム9が、ROPS荷重F1を真っ直ぐ受け止めて支えるように機能する。そのため、傾斜フロントヘッダ70、ひいては水平フロントヘッダ71を含むフロントヘッダ17全体の座屈を抑制する共に、フロントヘッダ17の剛性を向上し、キャビン7Xの変形とDLVへの侵入とを抑制することができる。
【0063】
また本実施形態の場合、
図10から分かるように、傾斜フロントヘッダ70の左端部72Lが右端部72Rより後方の位置に位置されるので、ROPS荷重F1の付加側にある左端部72Lを、右端部72Rよりも、ROPS荷重F1の付加位置に近づけて配置できる。そのため、左端部72Lが右端部72Rと前後方向の同一位置にある場合よりも、前述の突っ張り棒の機能を発揮でき、傾斜フロントヘッダ70ひいてはフロントヘッダ17全体の座屈抑制に有利である。
【0064】
また本実施形態では、フロントヘッダ17が水平フロントヘッダ71も有するので、フロントヘッダ17の剛性を向上し、フロントヘッダ17の座屈を一層抑制できる。特に、傾斜フロントヘッダ70と水平フロントヘッダ71と左接続部60Lとで概ねトラス構造を実現でき、座屈方向の軸力cと捩じり力bに強い構造を実現してフロントヘッダ17の剛性を向上できる。
【0065】
[第2実施形態]
次に、本開示の第2実施形態を説明する。なお前記第1実施形態と同様の部分については図中同一符号を付して説明を割愛し、以下、第1実施形態との相違点を主に説明する。
【0066】
図11~
図13に示すように、第2実施形態のフロントヘッダ17は、前述の傾斜フロントヘッダ70および水平フロントヘッダ71に加え、追加水平フロントヘッダ75を備える。追加水平フロントヘッダ75は、前面視において水平に配置され、傾斜フロントヘッダ70より後方の位置に位置される。
【0067】
追加水平フロントヘッダ75は、傾斜フロントヘッダ70と同様に左右の支持板64(64L,64R)に取り付けられる。傾斜フロントヘッダ70と追加水平フロントヘッダ75と左右の支持板64により傾斜フロントヘッダアセンブリが形成される。
【0068】
追加水平フロントヘッダ75は、傾斜フロントヘッダ70と同様、直線状の金属(例えば鋼)製中空パイプにより形成されている。追加水平フロントヘッダ75は、左支持板64Lを介して左接続部60Lの内側面部60Bに取り付けられる左端部75Lと、右支持板64Rを介して右接続部60Rの内側面部60Bに取り付けられる右端部75Rとを有する。これら左端部75Lおよび右端部75Rは、左右の支持板64に溶接、ボルト止め等により取り付けられる。
【0069】
左端部75Lは右端部75Rと同一の高さ位置に位置される。また左端部75Lは右端部75Rと同一の前後位置に位置される。左端部75Lは、傾斜フロントヘッダ70の左端部72Lの直後に近接して位置される。右端部75Rは、傾斜フロントヘッダ70の右端部72Rより高い位置に位置され、傾斜フロントヘッダ70の右端部72Rより後方の位置に位置される。
【0070】
こうした配置の結果、本実施形態の左支持板64Lは、第1実施形態の左支持板64Lより若干方向に延長される。また本実施形態の右支持板64Rは、第1実施形態の右支持板64Rより長い略L字状に形成される。
【0071】
図13に示すように、追加水平フロントヘッダ75は、側面視において、アイポイントPから延びるヘッダ断面中心線C1を有する。追加水平フロントヘッダ75は、ヘッダ断面中心線C1の方向における前後幅L1が、ヘッダ断面中心線C1に直角な方向における上下幅H1よりも大きい、扁平な断面形状を有する。
【0072】
本実施形態の場合、追加水平フロントヘッダ75は台形もしくは略台形の断面形状を有する。台形の高さ方向がヘッダ断面中心線C1の方向に略平行とされ、台形はヘッダ断面中心線C1に略対称な形状とされる。台形の上底部分75Aは下底部分75BよりアイポイントP側に位置される。
【0073】
追加水平フロントヘッダ75の断面を扁平形状としたので、追加水平フロントヘッダ75の剛性を確保しつつ、アイポイントPから見たときの追加水平フロントヘッダ75による死角を減らすことができ、前方上部の視界を有利に向上できる。
【0074】
また、傾斜フロントヘッダ70および追加水平フロントヘッダ75の間に隙間Gができるので、前ルーフパネル32がチルト位置bにあるとき、オペレータはアイポイントPから隙間Gを通じて外部を視認可能である。これにより、前方上部の視界を向上することができ、作業効率を向上することができる。
【0075】
追加水平フロントヘッダ75は、通常位置aにある前ルーフパネル32より下方に位置され、前ルーフパネル32と干渉しないようになっている。
【0076】
本実施形態では、追加水平フロントヘッダ75を設けたので、フロントヘッダ17の剛性をさらに向上し、フロントヘッダ17の座屈を一層抑制できる。特に、傾斜フロントヘッダ70と追加水平フロントヘッダ75と右接続部60Rとで追加のトラス構造を実現でき、座屈方向の軸力cと捩じり力bにより強い構造を実現し、フロントヘッダ17の剛性を向上できる。
【0077】
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示の実施形態および変形例は他にも様々考えられる。
【0078】
(1)例えば、本開示は、油圧ショベル以外の建設機械にも適用できる。
【0079】
(2)傾斜フロントヘッダ70および追加水平フロントヘッダ75の断面形状は変更可能である。以下、傾斜フロントヘッダ70を例にとって説明すると、傾斜フロントヘッダ70の断面形状は、例えば、
図14に示すような長方形とすることができる。この場合、長方形の長辺がヘッダ断面中心線Cの方向に平行とされ、長方形はヘッダ断面中心線Cに対称もしくは略対称な形状とされる。
【0080】
傾斜フロントヘッダ70の断面形状は、
図15に示すような三角形とすることもできる。この場合、三角形の高さ方向がヘッダ断面中心線Cの方向に平行とされ、三角形はヘッダ断面中心線Cに対称もしくは略対称な形状とされる。三角形の頂点部分70Cは底辺部分70DよりアイポイントP側に位置される。
【0081】
傾斜フロントヘッダ70の断面形状は、
図16に示すような楕円形とすることもできる。この場合、楕円の長径方向がヘッダ断面中心線Cの方向に平行とされ、楕円はヘッダ断面中心線Cに対称もしくは略対称な形状とされる。
【0082】
傾斜フロントヘッダ70および追加水平フロントヘッダ75の断面形状は他の扁平形状とすることもでき、例えば翼断面形状等とすることもできる。
【0083】
傾斜フロントヘッダ70および追加水平フロントヘッダ75の断面形状は、上記実施形態では同じ台形であるが、異なっていてもよい。
【0084】
(3)傾斜フロントヘッダ70および追加水平フロントヘッダ75のうち少なくとも1つは、支持板64を介さず、左右の接続部60に直接取り付けられてもよい。例えば、両者の一方の端部は支持板64を介さず接続部60に直接取り付けられ、他方の端部は支持板64を介して接続部60に取り付けられてもよい。左右の支持板64が省略され、両者の両方の端部が接続部60に直接取り付けられてもよい。
【0085】
(4)前ルーフパネル32は、透明なガラス板等で形成された天窓に置換可能である。前ルーフパネル32および天窓は、チルトアップ式でなくてもよく、着脱式または固定式であってもよい。
【0086】
前述の各実施形態および各変形例の構成は、特に矛盾が無い限り、部分的にまたは全体的に組み合わせることが可能である。本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 建設機械
7 キャビン
9 ブーム
12 フロントピラー
16 ルーフビーム
17 フロントヘッダ
60 接続部
60B 内側面部
64 支持板
70 傾斜フロントヘッダ
71 水平フロントヘッダ
72L 左端部
72R 右端部
75 追加水平フロントヘッダ