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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031364
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ダイヤモンド放射線検出器
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/24 20060101AFI20240229BHJP
   C30B 29/04 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G01T1/24
C30B29/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134874
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 聖祐
(72)【発明者】
【氏名】小山 浩司
(72)【発明者】
【氏名】嘉数 誠
(72)【発明者】
【氏名】人見 啓太朗
【テーマコード(参考)】
2G188
4G077
【Fターム(参考)】
2G188AA23
2G188BB04
2G188BB06
2G188BB09
2G188BB15
2G188CC28
2G188DD05
2G188DD44
2G188EE01
2G188EE03
2G188EE12
4G077AA03
4G077AB02
4G077AB08
4G077BA03
4G077DB07
4G077DB16
4G077EB01
4G077ED06
4G077GA03
4G077GA05
4G077HA20
4G077TA04
4G077TA07
4G077TK01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来のヘテロエピタキシャル法で作製したダイヤモンド結晶を用いた放射線検出器は、用いる結晶の品質が十分でなかった。
【解決手段】本発明の放射線検出器で用いるイヤモンド結晶は、ジャスト面方位から所定のオフ角度だけ傾斜させた面方位を有するダイヤモンド以外の素材の基板の上に、化学気相成長法によりヘテロエピタキシャル成長され、X線回折の(004)面の回折ピークの半値幅が200秒以下の値を示す結晶性を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンドを検出器に用いた放射線検出器であって、
前記放射線検出器は、前記平板状の前記ダイヤモンドの側面が絶縁化され、上下両面に電極が設けられ、放射線が入射した時に電荷を発生するダイヤモンド検出器と、前記電荷を入力信号としてデジタル処理する信号処理部とから成り、
前記ダイヤモンドがヘテロエピタキシャル成長層のダイヤモンド結晶であり、X線回折の(004)面の回折ピークの半値幅が200秒以下の値を示す結晶性を有する
放射線検出器。
【請求項2】
前記ダイヤモンド結晶は、オフ角度を有するダイヤモンド以外の素材の基板上のヘテロエピタキシャル成長層であり、前記基板から剥離されて切り出されて平板状の自立したダイヤモンド結晶である、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記ダイヤモンド結晶は、面方位(001)から[110]方向へ小角度傾斜させたものである、請求項2に記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記ダイヤモンド結晶の前記面方位の小角度傾斜のオフ角が7°~10°である、請求項3に記載の放射線検出器。
【請求項5】
前記ダイヤモンド結晶の前記放射線が入射する側の表面上にホウ素(B)をドープしたダイヤモンド層をさらに備えた、請求項4に記載の放射線検出器。
【請求項6】
前記信号処理部は、前記電荷を増幅する電荷有感型前置増幅器と、出力された電圧信号を取り込むデジタイザと、前記放射線のエネルギースペクトルを得るコンピュータとを含む、請求項1または5に記載の放射線検出器。
【請求項7】
ダイヤモンドを検出器に用いたダイヤモンド検出器を備えた放射線検出器の製造方法であって、
前記ダイヤモンド検出器に用いるダイヤモンド結晶を、面方位(001)から[110]方向へ小角度傾斜させてヘテロエピタキシャル成長法により作製し、
前記ダイヤモンド結晶を、前記基板から剥離して平板状の自立したダイヤモンド結晶に切り出し、
前記自立したダイヤモンド結晶の側面を絶縁化し、
前記自立したダイヤモンド結晶の上下両面に電極を設けて前記ダイヤモンド検出器を作製し、
前記ダイヤモンド検出器を、放射線が入射した時に前記ダイヤモンド結晶で発生した電荷を入力信号として、該入力信号をデジタル処理するように構成された信号処理部へ接続する
放射線検出器の製造方法。
【請求項8】
前記ダイヤモンド結晶の前記面方位の小角度傾斜のオフ角が7°~10°である、請求項7に記載の放射線検出器の製造方法。
【請求項9】
前記ダイヤモンド結晶が、X線回折の(004)面の回折ピークの半値幅が200秒以下の値を示す結晶性を有する、請求項8に記載の放射線検出器の製造方法。
【請求項10】
前記ヘテロエピタキシャル成長法が、メタンを原料とするプラズマ化学気相成長法である、請求項9に記載の放射線検出器の製造方法。
【請求項11】
前記放射線が入射する側の前記ダイヤモンド結晶の表面上にホウ素(B)をドープしたダイヤモンド層をさらに設けた、請求項7~10のいずれか1項に記載の放射線検出器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を検出するためのダイヤモンド結晶を用いた放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
アルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線、中性子線等の放射線を検出する放射線検出器は、医療用や環境測定など様々な場面で用いられる。放射線検出器にはシンチレーション式、GM管式、電離箱式、半導体式等があり、用途に応じて使い分けられている。近年では、時間応答性、エネルギー分解能に優れ、高精度位置検出が可能な、GeやSiを用いた半導体検出器の研究が盛んにおこなわれてきた。しかしながら、これらの半導体検出器は液体窒素で低温に冷却して用いることが必要であり、そのため検出器全体が大型で高価になってしまう欠点がある。
【0003】
これに対して、ワイドバンドギャップ半導体の一つであるダイヤモンドを用いた放射線検出器は、耐放射線や耐熱性に優れる、キャリア移動度が高いので時間応答性が速い、生体の実効原子番号に近い、室温で動作が可能である等の優れた特徴を持っているため、近年注目を集めている。
【0004】
従来放射線検出器に用いられていたダイヤモンドとしては、天然の単結晶ダイヤモンドから選び抜かれた高品質なもの、HPHT(High Pressure and High Temperature)法で作られた高品質単結晶ダイヤモンド、あるいはこの高品質単結晶ダイヤモンドを種としてCVD(Chemical Vapor Deposition)法で成長した高品質単結晶ダイヤモンドが用いられていた。これらの高品質単結晶ダイヤモンドを用いた放射線検出器は優れた特性を有することが実証されている(非特許文献1)。
【0005】
ダイヤモンド結晶を放射線検出器として用いるため、当初は単結晶ダイヤモンドが用いられたが、放射線はレンズが使えず、単結晶ダイヤモンドは高価で面積が小さいため、感度を上げることが難しいという欠点があった。単結晶の小型ダイヤモンド結晶をタイル状に並べて面積を大きくすることもできるが、信号の取り出しや電極構造が複雑になり、集積化が難しい。多結晶ダイヤモンドは単結晶ダイヤモンドよりも容易に面積を大きくできるので、ホウ素ドープした多結晶ダイヤモンドを用いて中性子検出器を開発した例もある(特許文献1)。しかし多結晶では、粒界や欠陥の影響のため、上述のようなダイヤモンド本来の優れた特性を生かすことはできず、収集効率および分解能共に単結晶ダイヤモンドと比較すると低い値しか得られていない。
【0006】
感度の高い放射線検出器を作製するためには、ダイヤモンド結晶の大型化が必須である。そのために、気体を原料とする化学的気相成長法(CVD)法により、結晶ダイヤモンドまたは他の下地材料の表面に、薄膜状のダイヤモンドを作製し、これを放射線検出器の検出基板に応用する研究が非常に盛んに行われるようになった。中でも、ダイヤモンド単結晶の上にダイヤモンドをホモエピタキシャル成長させるのではなく、ダイヤモンド以外の基板の上にダイヤモンドを成長させるヘテロエピタキシャル成長法は、ダイヤモンド基板の大型化が可能となる。例えば、MgO基板上にイリジウム(Ir)バッファ層を介してマイクロ波プラズマCVD法によってダイヤモンドから成る柱状ダイヤモンドを複数形成し、各柱状ダイヤモンドの先端からダイヤモンド結晶を成長させ、それぞれのダイヤモンド結晶を合体させてダイヤモンド基板層を形成する方法により、直径2インチの結晶が得られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開第平5―150051号公報
【特許文献2】特公第6142145号公報
【特許文献3】特開第2011―155189号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Teruya Tanaka et.al, Diamond radiation detector made of an ultrahigh-purity type IIa diamond crystal grown by high-pressure and high-temperature synthesis, Review of Scientific Instruments Vol.72, 1406 (2001)
【非特許文献2】S. Kim, R. Takaya, S. Hirano, and M. Kasu, Two-inch high-quality (001) diamond heteroepitaxial growth on sapphire (11‐20) misoriented substrate by step-flow mode, Appl. Phys. Express, Vol. 14, 11551 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ヘテロエピタキシャル法により作製したダイヤモンド結晶を用いた放射線検出器の例は特許文献3に開示されている。Ir層の上にCVD法により成長させたダイヤモンド層は、Irとの界面に高濃度の欠陥を含むため、Irから剥離後、ダイヤモンド層のIr界面側の欠陥層を機械研磨およびドライエッチングによって20μm除去した後、検出器を作製し、α線を検出している。
【0010】
しかしながら、成長基板との界面側ダイヤモンド層の欠陥層を20μm除去しても、欠陥はさらに内部まで残っているため(特許文献3、図2)、欠陥を完全に除去するには成長したダイヤモンド層の厚さのかなりの部分を機械研磨やプラズマエッチングで除去する必要があり、結晶の利用効率が非常に悪くなる。したがって、ダイヤモンド層の欠陥を除去する煩雑な工程がなく、かつ欠陥密度が小さく、高品質なダイヤモンド層を得るには、エピタキシャル成長を終えた段階で結晶が十分高品質である必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本出願の発明者等は、サファイア(α-Al)の(11-20)面から小角度傾斜させた面を有する基板上にIrのバッファ層を形成し、その上にダイヤモンド層を成長させると、ステップ・フロー・モードで結晶成長する結果、歪の少ない高品質な結晶ダイヤモンド層が得られることを見出した(非特許文献2)。この方法により自立した平板状のダイヤモンド結晶を作製し、これを放射線検出器へ応用した結果、小型の高品質単結晶ダイヤモンドを用いたものに比べると劣るものの、γ線やその他の放射線に対して実用上十分な応答特性を示すことを見出した。
【0012】
本発明のダイヤモンドを検出器に用いた放射線検出器は以下のように構成されている。
前記放射線検出器は、平板状の前記ダイヤモンドの側面が絶縁化され、両面に電極が設けられ、放射線が入射した時に電荷を発生するダイヤモンド検出器と、前記電荷を入力信号としてデジタル処理する信号処理部とから成り、
前記ダイヤモンドがヘテロエピタキシャル成長層のダイヤモンド結晶であり、X線回折の(004)面の回折ピークの半値幅が200秒以下の値を示す結晶性を有する。
【0013】
前記ダイヤモンド結晶は、小角度傾斜させた面方位を有するダイヤモンド以外の素材の基板上ヘのテロエピタキシャル成長層であり、前記基板から剥離されて切り出されたものである。
【0014】
また、前記ダイヤモンド結晶は、面方位(001)から[110]方向へ小角度傾斜させたものである。
【0015】
また、前記ダイヤモンド結晶の前記面方位の小角度傾斜の角度(オフ角)が7°~10°であることが好ましい。
【0016】
さらに、前記放射線が入射する前記ダイヤモンド結晶の表面上にホウ素(B)をドープしたダイヤモンド層をさらに設けて中性子に対する感度を上げるようにしてもよい。
【0017】
前記信号処理部は、前記電荷を増幅する電荷有感型前置増幅器と、出力された電圧信号を取り込むデジタイザと、前記放射線のエネルギースペクトルを得るコンピュータ(PC)とを含むことが望ましい。
【0018】
本発明は、前記ダイヤモンド放射線検出器の製造方法も含む。
前記ダイヤモンド検出器に用いるダイヤモンド結晶を、面方位(001)から[110]方向へ小角度傾斜させてヘテロエピタキシャル成長法により作製し、
前記ダイヤモンド結晶を、前記基板から剥離して平板状の自立したダイヤモンド結晶に切り出し、
前記自立したダイヤモンド結晶の側面を絶縁化し、
前記自立したダイヤモンド結晶の上下両面に電極を設けて前記ダイヤモンド検出器を作製し、
前記ダイヤモンド検出器を、放射線が入射した時に前記ダイヤモンド結晶で発生した電荷を入力信号として、該入力信号をデジタル処理するように構成された信号処理部へ接続する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のダイヤモンド検出器は、従来のヘテロエピタキシャル成長させたダイヤモンド結晶の品質よりも優れた、自立したヘテロエピタキシャル成長ダイヤモンド結晶を用いて容易に作製でき、かつ、感度の高い放射線検出器を、従来の高品質単結晶ダイヤモンドを用いた放射線検出器よりも低価格で供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明によるダイヤモンド検出器の構造を模式的に示す図である。
図2図2は、本発明による位置検出用ダイヤモンド検出器の構造を模式的に示す図である。
図3図3は、本発明によるダイヤモンド放射線検出器全体の構成を示すブロックダイアグラムである。
図4図4は、本発明によるダイヤモンド放射線検出器を用いて検出した60Co、137Cs、133Baの核種からのγ線のスペクトルである。
図5図5は、本発明によるダイヤモンド放射線検出器の印加電圧を100Vから500Vへ100Vずつ増加させた場合の137Csのγ線スペクトルの変化を示す図である。
図6図6は、本発明によるダイヤモンド結晶の厚さを500μm、300μm、100μmと変化させ、印加電圧をそれぞれ500V、300V、100Vとして内部電界を一定にした場合の137Csのγ線スペクトルの変化を示す図である。
図7図7は、本発明によるダイヤモンド結晶の厚さが100μm、印加電圧100Vの場合の、60Co、137Cs、133Baのγ線スペクトルおよびバックグラウンド(BG)スペクトルを示した図である。
図8図8は、本発明によるダイヤモンド放射線検出器のγ線スペクトルと、市販の最高品質のダイヤモンド結晶を用いて作製したダイヤモンド放射線検出器のγ線スペクトルとを比較した図である。
図9図9は、オフ角が異なる面方位の基板に成長させた本発明によるダイヤモンド結晶を用いた放射線検出器のγ線スペクトルを示す図である。
図10図10は、オフ角を0°から10°まで変化させたダイヤモンド結晶の(004)面と(311)面のX線回折ピークをプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例を用いて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明に用いたダイヤモンド結晶は、サファイアの(11-20)面から[1-100]m方向、あるいは[0001]c方向へ小角度傾斜させて切り出された面を有する基板上に、イリジウム(Ir)のバッファ層を形成した後、メタン(CH)を原料ガスとしたプラズマCVD法により、基板温度1000℃で成長させた(非特許文献2)。オフ角度を有する基板を用いることにより、成長表面に原子サイズの段差が形成され、表面に到達した炭素原子が横方向に拡散して段差に取り込まれるステップ・フロー・モードで成長する結果、欠陥の少ない、直径2インチの高品質のダイヤモンド結晶が得られる。このように成長させたダイヤモンド結晶は、面方位(001)から[110]方向へ小角度傾斜した結晶方位を持つ。
【0022】
成長したダイヤモンド結晶の結晶性の評価のため、X線回折法により(004)面の回折ピークを測定した結果、回折ピーク半値幅(FWHM)は200秒以下、最良の結晶では98秒(非特許文献2)という小さな値が得られた。この値は上記最高品質のホモエピタキシャル成長ダイヤモンドのFWHMの50秒以下と比べれば若干劣るものの、従来のヘテロエピタキシャル成長ダイヤモンド結晶の値(300秒以下)(特許文献2)と比較すると大きく改善されている。さらに、別の結晶性評価方法であるラマン分光法のスペクトル測定でも、1332cm-1のピークのFWHMは2.6~2.7cm-1という小さな値を示した。これは特許文献3の図2に示されている値(>4)よりも小さな値であり、結晶性の良さを反映している。また、放射線検出器に要求される、窒素濃度が3ppb以下であることも満足している。
【0023】
また、結晶の面積も、ホモエピタキシャル成長で得られる市販のダイヤモンド結晶の大きさが4.5mm角であるのに対して、本発明のダイヤモンド検出器は、直径2~4インチ程度の大きさのウェハを切り出すことにより、任意の大きさのダイヤモンド結晶が容易に得られ、これを用いたダイヤモンド検出器を作製することができる。以下の実施例ではレーザーにより4mm角に切り出して検出器を作製した。この際、切断面がレーザーの熱によりグラファイト化して導電化するので、側面を研磨することにより側面の絶縁化処理を行った。また、今発明で用いたダイヤモンド結晶は、成長過程で内部に引張り応力が発生するので、成長後に基板から剥離することが容易である。そのため、簡単な工程で自立した平板状のダイヤモンド結晶を得ることができる。
【0024】
図1は、本発明の放射線検出器に用いた第1のダイヤモンド検出器110の模式的構成図を示す。(A)はその横断面図を示し、4mm角、厚さ100~500μmの自立したダイヤモンド結晶1の上下両面に金(Au)あるいはチタン/金(Ti/Au)の電極2、3が設けられている。上下の電極に直流高電圧を印加すると、ダイヤモンド結晶内で吸収された放射線により電子・正孔対が発生し、電界によりそれらの電荷がそれぞれ電極に到達し、その電荷量が測定される。
【0025】
図2は、本発明の位置検出用の放射線検出器で用いる第2のダイヤモンド検出器120の模式的構成図を示す。(A)はその横断面図を示し、第1のダイヤモンド検出器110と同様に、4mm角、厚さ100~500μmの自立したダイヤモンド結晶1の上下両面にAuあるいはTi/Auの電極4、5が設けられている。上下の電極に直流高電圧を印加すると、ダイヤモンド結晶内で吸収された放射線により電子・正孔対が発生し、電界によりそれらの電荷がそれぞれ電極に到達し、その電荷量が測定される。(B)、(C)に示すように、ダイヤモンド結晶の上面電極4と下面電極5はそれぞれ複数の平行な線状に形成され、上下の線状電極の方向が互いに直角なN行、M列の行列状に設けられている。吸収された放射線により電子・正孔が発生し、電界によりそれぞれ到達した位置(N、M)の電極から、電荷の信号としてそれぞれ信号処理部30(図3)へ送られる。これにより、放射線の入射位置を検出することが可能となる。NとMの数は、空間分解能が最適になるように設定できる。
【0026】
本発明のダイヤモンド検出器110および120は、中性子線を検出することも可能である。その場合には、中性子線の入射面側にホウ素(10B)やリチウム(Li)などの元素を含む層を中性子コンバータ層として設けることにより中性子を2次放射線や反跳粒子に変換し、それを検出することが可能である。好適には、ホウ素をドープしたダイヤモンド層を成膜すれば、入射面に均一にコンバータ層を形成できるため、電荷収集のロスがなく好ましい。
【0027】
本発明のダイヤモンド放射線検出器200は、ダイヤモンド検出器110または120、高圧電源20と検出信号をデジタル処理する信号処理部30から構成される。そのブロックダイアグラムを図3に示す。高電圧電源20によりダイヤモンド検出器10の上下の電極2、3間または電極4、5間に直流高電圧を印加し、放射線の吸収により発生した誘起電荷を電極から取り出し。これを入力信号として電荷有感型前置増幅器32により増幅して電圧信号として出力する。次にデジタイザ34によりこの信号波形の取り込みを行なった後、信号波形をコンピュータ(PC)36においてデジタルフィルタ処理して波形整形および波高分析を行う。そしてチャンネルごとの波高値を取得してエネルギースペクトルを表示する。入力の電荷信号をエネルギースペクトルに変換する構成は、上記実施例に限定されず任意の構成を用いることができる。
【0028】
このダイヤモンド放射線検出器の性能評価の一例としてγ線の検出を行った。その結果を図4に示す。ダイヤモンド結晶の厚さは500μm、印加電圧は500Vである。縦軸が1チャンネル当たりのカウント数の対数表示で、信号強度に相当し、横軸がチャンネル番号で、γ線のエネルギーの大きさに比例する。エネルギーの異なる典型的なガンマ線源である60Co(1.17、1.33MeV)、137Cs(662keV)、133Ba(356keV)の核種がはっきり弁別できることが分かった。
【0029】
図5は、図4と同じ厚さ500μmの検出器で、印加電圧を100Vから500Vへ100Vずつ増加させた場合の137Csのγ線スペクトルの変化を示す。印加電圧が増加するにしたがって、電荷収集効率を上昇させることができることが分かった。
【0030】
図6は、ダイヤモンド結晶の厚さを変化させた場合の137Csのγ線スペクトルの変化を示す。印加電圧は、厚さが500μm、300μm、100μmの場合にそれぞれ500V、300V、100Vとして、内部電界が1000V/mm一定となるようにした。電界強度が一定でも、ダイヤモンド結晶の厚さを薄くするに従って波高値が上昇し、電荷収集効率が上昇することが分かった。また、ダイヤモンド結晶の厚さを薄くする利点としては、結晶の成長時間が少なくて済むという作製コスト上の大きな利点もある。
【0031】
図7は、ダイヤモンド結晶の厚さを100μm、印加電圧を100Vにした場合の60Co、137Cs、133Baのγ線スペクトルおよびバックグラウンド(BG)スペクトルを示したものである。ダイヤモンド層厚を薄くすると、ダイヤモンド層内でのγ線の吸収量が減少するため、いずれの核種のγ線でも検出カウント数が低下している。α線、荷電粒子や中性子を計測する場合には、γ線がノイズともなり得るためその出力を抑える必要がある。図6でも示したように、層厚を100μmまたはそれ以下に薄くすることにより、電荷収集効率は上がるので、α線、荷電粒子や中性子の計測用の検出器として高いS/Nの検出器が実現できるという効果が生じる。このように、測定する放射線の種類に応じてダイヤモンド層厚を設定することができる。
【0032】
本発明で用いたダイヤモンド検出器のγ線スペクトルを、ホモエピタキシャル成長法で作製した市販の最高品質の単結晶ダイヤモンド(エレメントシックス社製)を用いて作製した同様の構造のダイヤモンド検出器のγ線スペクトルと比較した。その結果を図8に示す。ダイヤモンド単結晶の厚さはいずれも500μm、印加電圧は500Vである。ホモエピタキシャル成長ダイヤモンドを用いた検出器に比べれば波高値は劣っているが、一般的な放射線検出器の性能としては十分な特性であることが分かった。
【0033】
図9は、オフ角の異なる基板に成長させたダイヤモンド結晶を用いた検出器の137Csのγ線スペクトルを示す。印加電圧は500Vである。同じ厚さ(500μm)のダイヤモンド検出器で比較すると、ダイヤモンド結晶のオフ角が7°の方が5°よりも電荷収集が良好であることが分かる。なお、同じ7°オフでも、厚さを800μmに増加させると電荷移動距離が長くなり波高値は低下する。このオフ角依存性は、非特許文献2の図3(a)に示されているように、X線回折の(004)面と(311)面の回折ピークのFWHM値が、5°オフよりも7°オフの方が小さく結晶性が良いという結果に対応していると考えられる。さらに図10は、(004)面と(311)面のX線回折ピークのFWHMを、オフ角を0°から10°まで変化させて作製したダイヤモンド結晶について測定した結果を示すプロット図である。オフ角度が0°から大きくなるにつれてFWHMは減少する傾向を示し、この測定範囲では(004)面、(311)面のピークは7~10°で小さい値に飽和し、結晶性が向上していることが分かる。従って、本発明の放射線検出器に用いるダイヤモンド結晶のオフ角は7~10°が好ましい。
【0034】
なお、本発明の説明は上記実施例に基づいてなされたが、本発明はそれに限定されず、本発明の精神と添付の請求の範囲の範囲内で種々の変更、及び修正をすることができる。
【符号の説明】
【0035】
1 ダイヤモンド結晶
2、4 上面電極
3、5 下面電極
20 高圧電源
30 信号処理部
32 電荷有感型前置増幅器
34 デジタイザ
36 コンピュータ(PC)
110 ダイヤモンド検出器
120 位置検出用ダイヤモンド検出器
200 ダイヤモンド放射線検出器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10