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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031380
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】磁気デバイス及び磁気記憶デバイス
(51)【国際特許分類】
   H10N 52/85 20230101AFI20240229BHJP
   H10B 61/00 20230101ALI20240229BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20240229BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20240229BHJP
   G11B 5/39 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H01L43/10
H01L27/105 447
H01L29/82 Z
H01L43/08 Z
G11B5/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134896
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野本 梨菜
(72)【発明者】
【氏名】金谷 宏行
(72)【発明者】
【氏名】武藤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 剛之
【テーマコード(参考)】
4M119
5D034
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA06
4M119AA07
4M119BB01
4M119DD07
4M119DD08
4M119DD09
4M119DD17
4M119DD24
4M119DD26
4M119EE22
4M119EE27
5D034BA02
5F092AB07
5F092AC12
5F092AD23
5F092BB09
5F092BB16
5F092BB23
5F092BB33
5F092BB34
5F092BB36
5F092BB43
5F092BB53
5F092BC04
5F092BC22
(57)【要約】
【課題】トンネルバリア層の劣化や誤書き込み等の発生を抑制することを可能にした磁気デバイスを提供する。
【解決手段】実施形態の磁気デバイス1は、第1の磁性体2と、第2の磁性体3と、第1の磁性体2と第2の磁性体3との間に配置された第1の非磁性体4とを備える積層体5と、積層体5の第1の非磁性体4の側壁を少なくとも覆うように設けられ、ケイ素酸化物、ジルコニウム酸化物、アルミニウム酸化物、アルミニウム窒化物、及びケイ素窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1つの第1物質と、ヒ素、テルル、アンチモン、ビスマス、及びゲルマニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの第2物質とを含む側壁層とを具備する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の磁性体と、第2の磁性体と、前記第1の磁性体と前記第2の磁性体との間に配置された第1の非磁性体とを備える積層体と、
前記積層体の前記第1の非磁性体の側壁を少なくとも覆うように設けられ、ケイ素酸化物、ジルコニウム酸化物、アルミニウム酸化物、アルミニウム窒化物、及びケイ素窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1つの第1物質と、ヒ素、テルル、アンチモン、ビスマス、及びゲルマニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの第2物質とを含む側壁層と
を具備する磁気デバイス。
【請求項2】
前記側壁層に含まれる前記第1物質と前記第2物質との合計量に対する第2物質の割合が2原子%以上46原子%以下である、請求項1に記載の磁気デバイス。
【請求項3】
前記側壁層は、前記第1物質と前記第2物質の組合せとして、ジルコニウム酸化物とテルル、ケイ素酸化物とテルル、アルミニウム窒化物とテルル、アルミニウム酸化物とテルル、ジルコニウム酸化物とアンチモン、ケイ素酸化物とアンチモン、ケイ素酸化物とヒ素、又はケイ素酸化物とビスマスを含む、請求項1に記載の磁気デバイス。
【請求項4】
さらに、前記積層体に電気的に接続され、テルル、セレン、硫黄、アンチモン、ゲルマニウム、ヒ素、及びビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むスイッチング層を具備する、請求項1に記載の磁気デバイス。
【請求項5】
第1方向に延伸する複数の第1の電極配線と、
前記第1方向と交差する第2方向に延伸する複数の第2の電極配線と、
前記第1の電極配線と前記第2の電極配線との間にそれぞれ配置され、前記第1の電極配線と前記第2の電極配線と電気的に接続された、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複数の磁気デバイスと
を具備する磁気記憶デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気デバイス及び磁気記憶デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
不揮発性メモリとして注目を集める磁気抵抗メモリ(Magnetic Random Access Memory:MRAM)においては、磁気トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction:MTJ)素子を用いることで、情報の書き込み動作及び読み出し動作が行われる。MTJ素子は、一般的に記憶層としての磁性層とトンネルバリア層と参照層としての磁性層の3層を積層した構造を有する。MTJ素子においては、参照層のスピンの向きを固定した状態で、記憶層(フリー層)のスピンを反転させて情報の書き込みが行われると共に、トンネル磁気抵抗比を利用して情報の読み出しが行われる。このようなMTJ素子とスイッチング素子を備えるMRAMにおいては、MTJ素子を流れる電流により、トンネルバリア層の劣化や誤書き込み等が生じることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/022375号
【特許文献2】国際公開第2015/141313号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、トンネルバリア層の劣化や誤書き込み等の発生を抑制することを可能にした磁気デバイス及び磁気記憶デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の磁気デバイスは、第1の磁性体と、第2の磁性体と、前記第1の磁性体と前記第2の磁性体との間に配置された第1の非磁性体とを備える積層体と、前記積層体の前記第1の非磁性体の側壁を少なくとも覆うように設けられ、ケイ素酸化物、ジルコニウム酸化物、アルミニウム酸化物、アルミニウム窒化物、及びケイ素窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1つの第1物質と、ヒ素、テルル、アンチモン、ビスマス、及びゲルマニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの第2物質とを含む側壁層とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の磁気デバイスを示す断面図である。
図2】実施形態の磁気デバイスを用いたクロスポイント構造の磁気記憶デバイス(MRAM)を示す図である。
図3】従来のMRAMをオンしたときの電流の流れを示す図である。
図4】従来のMRAMをオンしたときに磁気デバイスに流れる電流を示す図である。
図5】実施形態のMRAMをオンしたときの電流の流れを示す図である。
図6】実施形態の磁気デバイスの側壁層にZrOとTeとの複合材料を適用したときの側壁抵抗の変化を示す図である。
図7】実施形態のMRAMをオンしたときに磁気デバイスに流れる電流を示す図である。
図8】実施形態のMRAMの読み出し時及び書き込み時における磁気デバイスに流れる電流を示す図である。
図9】実施形態の磁気デバイスの平面形状の第1の例を示す図である。
図10】実施形態の磁気デバイスの平面形状の第2の例を示す図である。
図11】実施形態の磁気デバイスの平面形状の第3の例を示す図である。
図12】実施形態の磁気デバイスの平面形状の第4の例を示す図である。
図13】実施形態の磁気デバイスの第1の製造工程を示す断面図である。
図14】実施形態の磁気デバイスの第2の製造工程を示す断面図である。
図15】実施形態の磁気デバイスの第3の製造工程を示す断面図である。
図16】実施形態の磁気デバイスの第4の製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の磁気デバイス及び磁気記憶デバイスについて、図面を参照して説明する。各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0008】
図1は実施形態の磁気デバイスの構成を示している。図1に示す磁気デバイス1は、記憶層としての第1の磁性体2と、参照層としての第2の磁性体3と、第1の磁性体2及び第2の磁性体3に挟持された、トンネルバリア層としての第1の非磁性体4とを含む積層体5を備えている。積層体5は、さらに第2の磁性体3の下方に設けられた、シフトキャンセル層としての第3の磁性体6と、第3の磁性体6のさらに下方に設けられたシード層等として機能するバッファ層7とを備えている。図1に示す積層体5は、例えば磁気トンネル接合(MTJ)素子を構成するものであるが、これに限られるものではない。
【0009】
磁気デバイス1は、さらに積層体5の側壁を覆うように設けられた側壁層8を備えている。側壁層8は、後に詳述するように、ケイ素酸化物(SiO)、ジルコニウム酸化物(ZrO)、アルミニウム酸化物(AlO)、アルミニウム窒化物(AlN)、及びケイ素窒化物(SiN)からなる群より選ばれる少なくとも1つの第1物質と、ヒ素(As)、テルル(Te)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、及びゲルマニウム(Ge)からなる群より選ばれる少なくとも1つの第2物質とを含む複合材料により構成されている。第1物質としての化合物において、SiOやZrO等におけるxの値は任意の数であり、基本的に絶縁物として機能する数であればよい。図1では側壁層8が積層体5の側壁全体を覆うように設けられているが、上記した複合材料からなる側壁層8は積層体5におけるトンネルバリア層としての第1の非磁性体4の側壁を少なくとも覆うように設けられていればよい。
【0010】
実施形態の磁気デバイス1をMTJ素子に適用した場合、第2の磁性体3はスピン方向(磁化方向)が固定される参照層(磁化固定層/ピン層)である。第2の磁性体3の磁化方向は、シフトキャンセル層としての第3の磁性体6により固定される。第2の磁性体3には、例えばCoFeB/Mo/Co/Ir積層膜やCoFeB/Mo/Co/Ru積層膜等が用いられる。第3の磁性体6には、[Co/Pt]超格子、[Co/Ir]超格子等の磁性体が用いられる。参照層3を構成する積層膜において、Ir層やRu層がシフトキャンセル層6との間で反平行結合を実現する。これによって、参照層3を構成する積層膜のCoFeB等の磁性層の磁化が固定される。
【0011】
参照層としての第2の磁性体3上には、トンネル障壁層として機能する第1の非磁性体4を介して、記憶層(フリー層)として機能する第1の磁性体2が設けられている。第1の磁性体2は、スピン方向(磁化方向)が記憶内容に応じて変化することにより記憶層として機能する。第1の磁性体2には、CoFeB、CoPt、CoPtCr等のCo基合金、[Co/Pt]超格子等の磁性体が用いられる。第1の磁性体2及び第2の磁性体3(積層膜におけるCoFeB層)の厚さは特に限定されるものではないが、例えば0.2nm以上5nm以下であることが好ましい。トンネル障壁層としての第1の非磁性体4には、MgO、MgAlO、MgGaO、MgZnO、ScN、AlN等の絶縁体が用いられる。第1の非磁性体4の厚さは、例えば0.5nm以上5nm以下であることが好ましい。第3の磁性体6の下方に設けられたバッファ層7としては、Ru、Ta、CoFeB-Mo等のシード層が適用される。
【0012】
上記した積層体5上には、Ta、Pt、Ru等を含むキャップ層9が設けられている。キャップ層9上には、配線層10が設けられている。配線層10には、W、Mo、Ta、これらを含む合金等が用いられるが、特に限定されるものではない。
【0013】
MTJ素子としての積層体5の下方には、MTJ素子5に電気的に接続されたスイッチング層11が設けられている。スイッチング層11は、MTJ素子5への電流のオン/オフを切り替える機能(スイッチング機能)を有する。スイッチング層11は、閾値(Vth)以上の電圧が印加されることによって、抵抗値が高いオフ状態から抵抗値が低いオン状態に急激に遷移する電気特性を有する。すなわち、スイッチング層11を構成する材料(スイッチング材料)は、印加される電圧が閾値(Vth)未満で抵抗値が高いオフ状態となり、電圧が閾値(Vth)以上になったときに抵抗値が高いオフ状態から抵抗値が低いオン状態に急激に遷移する電気特性を有する。このようなスイッチング層11の印加電圧に基づく抵抗値の変化は、可逆的にかつ急激に生じるものである。
【0014】
スイッチング材料としては、例えばテルル(Te)、セレン(Se)、及び硫黄(S)からなる群より選ばれる少なくとも1つのカルコゲン元素を含む材料が挙げられる。そのようなスイッチング材料は、カルコゲン元素を含む化合物であるカルコゲナイドを含んでいてもよい。上記したカルコゲン元素を含む材料は、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、As、P、Sb、及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含んでいてもよい。さらに、カルコゲン元素を含む材料は、N、O、C、及びBからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含んでいてもよい。スイッチング材料の例としては、GeSbTe、GeTe、SbTe、SiTe、AlTeN、GeAsSe等が挙げられる。スイッチング材料はカルコゲン元素を含む材料に限られるものではなく、カルコゲン元素を含まない材料であってもよい。アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、ビスマス(Bi)等の添加元素を含む材料、例えば酸化物や窒化物に添加元素を加えた材料であってもよい。そのようなスイッチング材料としては、ZrOx、AlOx、SiOx、TaOx、HfOx等である。また、これらの酸化物に上記した添加元素又はTe、Se等を加えた材料であってもよい。スイッチング層11は、アモルファス構造を有していてもよい。
【0015】
MRAM等を構成する磁気デバイス1は、図2に示すように、複数のビット線BLと複数のワード線WLとの交点に配置されてメモリセルとして機能するものである。図2に示すように、複数のビット線BL及びワード線WLの各交点に、それぞれビット線BL及びワード線WLと電気的に接続された磁気デバイス1をメモリセルとして配置することにより磁気記憶デバイス20が構成される。図2に示す磁気記憶デバイス20は、複数のビット線(第1電極配線)BLと、複数のワード線(第2電極配線)WLと、これらの各交点に設けられ、それぞれビット線BL及びワード線WLと電気的に接続された複数の磁気デバイス1とを具備する。なお、図2における符号Mは図1のMTJ素子として機能する積層体5を示し、符号Sは積層体5の下方に設けられたスイッチング層11を示している。
【0016】
ところで、図2に示すような構造を有する磁気記憶デバイス20において、ケイ素窒化物(SiN)のような絶縁体のみを用いた側壁層8を適用した従来の構造では、以下に示すような高電流がMTJ素子Mとスイッチング層Sとの積層膜に流れる。すなわち、図3に示すように、スイッチング層Sがオンする瞬間に短パルスの高電流(スパイク電流)Ispikeが流れる。このような高電流はあくまでも短パルスであり、その後に定電流のリード電流が流れる。しかしながら、図4に示すように、短パルスの高電流であっても、トンネルバリア層としての第1の非磁性体4に高電流が流れることによって、トンネルバリア層4の劣化や誤書き込み等が生じるおそれがある。
【0017】
そこで、実施形態の磁気デバイス1においては、前述したように、第1物質と第2物質とを含む複合材料からなる側壁層8を適用している。SiOx、ZrOx、AlOx、AlNx、及びSiNxからなる群より選ばれる少なくとも1つの第1物質に、As、Te、Sb、Bi、及びGeからなる群より選ばれる少なくとも1つの第2物質をドープすることによって、プール-フレンケル(Poole-Frenkel)伝導を示すようになる。プール-フレンケル伝導とは、絶縁膜に電界をかけたときに、非常に大きな熱エネルギーがなくても、捕獲された電子が準位から飛び出す現象である。
【0018】
上記したようなプール-フレンケル伝導を示す第1物質と第2物質とを含む複合材料からなる側壁層8においては、高温及び高電界の状況下においてのみ抵抗値が低下する。従って、上述したスイッチング層Sがオンする瞬間に短パルスの高電流(スパイク電流)が流れたときに、スパイク電流が流れる期間だけ側壁層8の抵抗値が低下する。このため、図5に示すように、スパイク電流が生じた際に側壁層8の抵抗値が低下し、スパイク直後には電流が側壁層8にも流れるようになる。これによって、トンネルバリア層としての第1の非磁性体4に流れる電流を低下させることができるため、スパイク電流による第1の非磁性体4の劣化や誤書き込みを抑制することができる。
【0019】
図6に上記した第1物質と第2物質とを含む複合材料の一例として、ZrOにTeを添加した材料(ZrO+Te)を側壁層8に適用した際の側壁抵抗の変化を示す。図6は簡単のために、スパイク電流×RMgO/dMgOの電界が側壁に作用すると仮定し、その際の側壁抵抗を計算した結果を示している。温度は300Kと仮定した。図6に示すように、おおよそ60μAのスパイク電流が生じると、MgOからなるトンネルバリア層4とZrO+Teからなる側壁層8の抵抗が同程度となる。従って、60μAのスパイク電流が生じた際には、スパイク電流の少なくとも一部を側壁層8に流すことができる。これによって、トンネルバリア層としての第1の非磁性体4に流れる電流を低下させることが可能となる。第1物質と第2物質との組合せとして、ZrOにTeをドープした材料以外の組合せを適用した場合も同様である。
【0020】
図7に示すように、上記した電流の少なくとも一部が側壁層8に流れるのは、スパイク電流のような高温及び高電界の電流が生じた場合である。図8に示すように、通常状態の電流はトンネルバリア層4を介して記憶層としての第1の磁性体2と参照層としての第2の磁性体3との間で流れる。従って、読み出し時及び書き込み時においては、図8に示すように、トンネルバリア層4を介して記憶層2と参照層3との間に流れるため、読み出し動作及び書き込み動作を妨げることはない。このようなMRAMの読み出し動作及び書き込み動作を維持した上で、図7に示すように、スパイク電流の少なくとも一部を側壁層8に流すことによって、スパイク電流によるトンネルバリア層4の劣化や誤書き込みを抑制することが可能になる。
【0021】
上述した第1物質と第2物質とを含む複合材料において、第2物質の含有比率は複合材料に対して2原子%以上46原子%以下とすることが好ましい。第2物質の含有比率が2原子%未満であると、上記したプール-フレンケル伝導を良好に発現させることができないおそれがある。第2物質の含有比率は11原子%以上であることがより好ましい。第2物質の含有比率が46原子%を超えると、第1物質の絶縁体としての特性が低下し、側壁層8としての本来の特性を発現させることができないおそれがある。第2物質の含有比率は20原子%以下であることがより好ましい。
【0022】
さらに、側壁層8の構成材料としての複合材料において、第1物質と第2物質との組合せは特に限定されるものではなく、SiOx、ZrOx、AlOx、AlNx、及びSiNxからなる群より選ばれる少なくとも1つの第1物質とAs、Te、Sb、Bi、及びGeからなる群より選ばれる少なくとも1つの第2物質との組合せであればよい。さらに、プール-フレンケル伝導をより再現性よく出現させる組合せとしては、ZrOxとTe、SiOxとTe、AlNxとTe、AlOxとTe、ZrOxとSb、SiOxとSb、SiOxとAs、又はSiOxとBiが挙げられる。
【0023】
実施形態の磁気デバイス1において、側壁層8の平面形状、すなわち積層体5の積層方向と交差する方向における断面形状は、例えば図9に示すような形状とすることができる。すなわち、側壁層8を、上述したスパイク電流の少なくとも一部を側壁層8に流すことが可能な厚さで、積層体5の外周面を覆うように設けてもよい。その場合、隣接する磁気デバイス1間には、従来のデバイス構造と同様にケイ素窒化物(SiNx)等を適用した層間絶縁膜21を配置する。側壁層8のスパイクしていないときの抵抗値を十分に高く設定することができる場合には、図10に示すように、隣接する磁気デバイス1間を含めて側壁層8を配置してもよい。さらに、後述する磁気デバイス1の製造工程における加工の際に、2方向のライン加工において、図11及び図12に示すように、一方のライン加工時のみに側壁層8の構成材料を使用し、他方のライン加工時には層間絶縁膜21の構成材料(SiNx等)を使用するようにしてもよい。ここで言うライン加工とは、ストライプ状のマスクを用いた加工である。例えば、当該マスクを用いて1回目のエッチングを行い、エッチングした部分に側壁層8の材料を充填し、直交する方向に2回目のエッチングを行い、エッチングした部分に層間絶縁膜21の材料を充填することができる。このような方法を用いることにより、図11に示す平面形状を有する積層体5が得られる。また逆に、上記マスクを用いて1回目のエッチングを行い、エッチングした部分に層間絶縁膜21の材料を充填し、直交する方向に2回目のエッチングを行い、エッチングした部分に側壁層8の材料を充填することができる。このような方法を用いることにより、図12に示す平面形状を有する積層体5が得られる。
【0024】
次に、実施形態の磁気デバイス1の製造方法について、図13ないし図16を参照して説明する。図13は磁気デバイス1の第1の製造工程を示す断面図であって、図9に示す平面形状を有する磁気デバイス1の製造工程である。まず、図13(A)に示すように、基板22上にスイッチング層11、MTJ素子としての積層体5、及びキャップ層9を順に形成した後、キャップ層9上にマスク23を形成する。図13において、マスク23は2つの磁気デバイス1にそれぞれ応じた形状を有している。次いで、図13(B)に示すように、積層体5及びキャップ層9をマスク23の形状に応じて、イオンビームエッチング(IBE)等を適用してエッチング加工する。次に、図13(C)に示すように、エッチング加工した積層体5及びキャップ層9の側壁に側壁層8の構成材料を形成する。この形成は、当該構成材料の堆積と異方性エッチングにより行われる。次いで、図13(D)に示すように、反応性イオンエッチング(RIE)等によりスイッチング層11をデバイス形状に応じてエッチングする。この後、図13(E)に示すように、隣接するデバイス間に層間絶縁膜21の構成材料(SiNx等)を堆積する。
【0025】
図14は磁気デバイス1の第2の製造工程を示す断面図であって、図10に示す平面形状を有する磁気デバイス1の製造工程である。まず、図14(A)に示すように、基板22にスイッチング層11、積層体5、及びキャップ層9を順に形成した後、キャップ層9上にマスク23を形成する。図14において、マスク23は2つの磁気デバイス1にそれぞれ応じた形状を有している。次いで、図14(B)に示すように、スイッチング層11、積層体5、及びキャップ層9をマスク23の形状に応じて、IBE等を適用してエッチング加工する。この後、図14(C)に示すように、隣接するデバイス間に側壁層8の構成材料を堆積する。この場合、側壁層8の構成材料には、側壁層8のスパイクしていないときの抵抗値が十分に高い材料を適用する。さらに、積層体5の側壁近傍の側壁層8の部分における第2物質の原子濃度を高くすると共に、それ以外の側壁層8の部分における第2物質の原子濃度を低くするというように、側壁層8内において第2物質の濃度傾斜を設けてもよい。
【0026】
図15は磁気デバイス1の第3の製造工程を示す断面図である。図15に示す製造工程は、スイッチング層11を積層体5の上方に設けたデバイス構造を有する磁気デバイス1の製造工程である。まず、図15(A)に示すように、基板22上に積層体5、スイッチング層11、及びキャップ層9を順に形成した後、キャップ層9上にマスク23を形成する。図15において、マスク23は2つの磁気デバイス1にそれぞれ応じた形状を有している。次いで、図15(B)に示すように、スイッチング層11及びキャップ層9をマスク23の形状に応じてRIE等によりエッチングする。続いて、図15(C)に示すように、エッチング加工したスイッチング層11の側壁に側壁層24を、堆積と異方性エッチングにより形成する。側壁層24の構成材料は、第1物質と第2物質とを含む複合材料であってもよいし、層間絶縁膜21と同様にSiNx等の絶縁体であってもよい。次いで、図15(D)に示すように、RIE等により積層体5をデバイス形状に応じてエッチングする。この後、図15(E)に示すように、隣接するデバイス間に側壁層8の構成材料(第1物質と第2物質との複合材料)を堆積する。
【0027】
図16は磁気デバイス1の第4の製造工程を示す断面図である。まず、図16(A)に示すように、基板22上にスイッチング層11、側壁層8の構成材料となる第1物質中の半導体材料や金属材料(Si、Zr、及びAlの少なくとも1つ)と第2物質との複合材料層8X、積層体5、及びキャップ層9を順に形成した後、キャップ層9上にマスク23を形成する。次いで、図16(B)に示すように、複合材料層8X、積層体5、及びキャップ層9をマスク23の形状に応じて、IBE等を適用してエッチング加工する。この際、IBEにより飛散する複合材料層8Xの構成材料を積層体5の側壁に再付着させる。再付着させた複合材料層8Xの組成は、イオン注入等で調整してもよい。続いて、第1物質の組成に応じて酸化処理又は窒化処理を施して、第1物質と第2物質との複合材料からなる側壁層8を形成する。次いで、図16(C)に示すように、RIE等によりスイッチング層11をデバイス形状に応じてエッチングする。この後、図16(D)に示すように、隣接するデバイス間に層間絶縁膜21の構成材料(SiNx等)を堆積する。図16に示す製造工程によれば、磁気デバイス1の製造工程を削減することができる。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0029】
1…磁気デバイス、2…第1の磁性体、3…第2の磁性体、4…第1の非磁性体、5…積層体、6…第3の磁性体、7…バッファ層、8…側壁層、9…キャップ層、11…スイッチング層、20…磁気記憶デバイス(MRAM)、21…層間絶縁膜、M…MTJ素子、S…スイッチング層。
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