(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031437
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】摺動式等速自在継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/227 20060101AFI20240229BHJP
F16D 3/205 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
F16D3/227
F16D3/227 G
F16D3/205 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134984
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義和
(57)【要約】
【課題】摺動式等速自在継手の高角度域における、シャフトと外側継手部材との間の相対的な軸方向移動量を確保する。
【解決手段】摺動式等速自在継手2は、外側継手部材21と、内側継手部材22と、ボール23と、内側継手部材22の軸孔に挿入されたシャフト4とを備える。内側継手部材22とシャフト4とが、トルク伝達可能で、且つ、軸方向に相対変位が許容された状態で結合されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側継手部材と、前記外側継手部材に対して角度変位及び軸方向変位が許容された状態で前記外側継手部材の内周に配された内側継手部材と、前記外側継手部材と前記内側継手部材との間でトルクを伝達するトルク伝達部材と、前記内側継手部材の軸孔に一端が挿入されたシャフトとを備えた摺動式等速自在継手において、
前記内側継手部材と前記シャフトとが、トルク伝達可能で、且つ、軸方向の相対変位が許容された状態で結合されたことを特徴とする摺動式等速自在継手。
【請求項2】
最大作動角をとった状態で、前記シャフトを前記外側継手部材に対して継手奥側端部まで軸方向変位可能とした請求項1に記載の摺動式等速自在継手。
【請求項3】
最大作動角をとった状態で、前記外側継手部材の内周に配された内部部品を、前記外側継手部材の底面に当接するまで軸方向変位可能とした請求項1に記載の摺動式等速自在継手。
【請求項4】
前記シャフトが、前記外側継手部材の内周に配された内部部品から継手奥側に突出可能であり、
前記外側継手部材の底面が、前記内部部品が当接する係止面と、前記係止面の内周に設けられた凹部とを有し、
前記係止面に対する前記凹部の軸方向深さが、前記内部部品から継手奥側への前記シャフトの最大突出量よりも深い請求項1~3の何れか1項に記載の摺動式等速自在継手。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載の摺動式等速自在継手と、
外側継手部材、前記外側継手部材に対して角度変位が許容され、軸方向変位が許容されない状態で前記外側継手部材の内周に配された内側継手部材、及び、前記外側継手部材と前記内側継手部材との間でトルクを伝達するトルク伝達部材を有する固定式等速自在継手とを備え、
前記固定式等速自在継手の内側継手部材の軸孔に前記シャフトの他端が挿入され、
前記固定式等速自在継手の内側継手部材と前記シャフトとが、トルク伝達可能で、且つ、軸方向に相対変位不能な状態で結合されたドライブシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動式等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のドライブシャフトは、
図13に示すように、車輪に取り付けられるアウトボード側(図中左側)の等速自在継手110と、デファレンシャルギヤに取り付けられるインボード側(図中右側)の等速自在継手120と、両等速自在継手110,120を連結する中間シャフト130とで構成される。通常、アウトボード側の等速自在継手110には、大きな作動角を取れるが軸方向に変位しない固定式等速自在継手が使用される。一方、インボード側の等速自在継手120には、最大作動角は比較的小さいが、作動角を取りつつ軸方向変位が可能な摺動式等速自在継手が使用される(例えば、特許文献1)。
【0003】
図13の摺動式等速自在継手120は、外側継手部材121と、内側継手部材122と、外側継手部材121と内側継手部材122との間でトルクを伝達する複数のボール123と、複数のボール123を保持する保持器124とを備える。外側継手部材121の内周面には、軸方向に延びる複数の直線状のトラック溝125が設けられる。内側継手部材122の外周面には、軸方向に延びる複数の直線状のトラック溝126が設けられる。外側継手部材121のトラック溝125と内側継手部材122のトラック溝126との間にボール123が一個ずつ配される。保持器124の外周面には、球面部127と円すい部128が設けられる。保持器124の外周面の球面部127と外側継手部材121の円筒状の内周面とが軸方向に摺動することで、外側継手部材121と内側継手部材122との間の軸方向変位が許容される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図14に、摺動式等速自在継手120の可動領域(軸方向移動量及び作動角)を示す。点P1は、
図15に示すように、内部部品(内側継手部材122、ボール123、及び保持器124)が外側継手部材121に対して最も継手開口側(図中左側)に配され、且つ、作動角が0°の状態である。この状態から作動角を大きくすると、
図16に示すように、保持器124の外周面の円すい部128が外側継手部材の内周面に当接して最大作動角となる(点P2)。この状態から、内部部品を継手奥側(図中右側)にスライドさせると、
図17に示すように、中間シャフト130が外側継手部材121の開口端部に当接する(点P3)。さらに内部部品を継手奥側にスライドさせると、
図18に示すように、中間シャフト130と外側継手部材121との干渉によって作動角が若干小さくなりながら、保持器124が外側継手部材121の底面129に当接する(点P4)。この状態から作動角を0°に戻し、保持器124の継手奥側端部の全周を外側継手部材121の底面129に当接させることで、
図19に示すように内部部品が最も継手奥側に配された状態となる(点P5)。以上のように、摺動式等速自在継手120は、
図14の点P1~P5で囲まれた可動領域A1(斜線領域)内で動作可能であるが、内部部品を継手奥側端部付近に配した状態では、高角度域に、中間シャフト130と外側継手部材121との干渉により作動角が制限される動作不能領域A2(散点領域)が存在する。
【0006】
摺動式等速自在継手120を車両に取り付けた状態での可動範囲(軸方向移動量及び作動角)は、車輪の操舵角やサスペンションのストロークの大きさ等によって決まり、例えば
図14に点線で示すような線(以下、「動作線Q」と言う。)に沿って動作する。車輪の操舵角が小さく、且つ、サスペンションのストロークが小さい場合は、摺動式等速自在継手120の軸方向移動量は小さく(すなわち、内部部品が外側継手部材121の軸方向中央付近に配され)、且つ、作動角が小さい(点Q1付近)。一方、車輪の操舵角が大きく、且つ、サスペンションのストロークが大きいと、摺動式等速自在継手120の軸方向移動量は大きくなり(すなわち、内部部品が外側継手部材121の継手開口側端部付近あるいは継手奥側端部付近に配され)、且つ、作動角が大きくなる(点Q2、Q3)。
【0007】
このような摺動式等速自在継手の実施の動作を示す動作線Qの形状は車種によって異なる。例えば、ATV(全地形対応車)等のようにオフロードを走行する車両では、乗り心地や悪路での走破性能の向上を図るためにサスペンションストロークを大きくする傾向にあり、これに伴って摺動式等速自在継手の角度変位及び軸方向変位が大きくなる。その結果、この種の車両に搭載される摺動式等速自在継手は、高角度域で大きな摺動量(軸方向移動量)が要求され、動作線Qが動作不能領域A2に達することがある(点Q3)。しかし、従来の摺動式等速自在継手の構造において、要求される動作線Q全体を含むように可動領域A1を設定すること、すなわち、動作不能領域A2においても動作可能とすることは容易ではない。
【0008】
例えば、
図18に点線で示すように外側継手部材121の軸方向寸法を短縮すれば、内部部品を継手奥側の端部に配した状態における作動角を大きくすることができるため、
図14の動作不能領域A2を狭くする、あるいは無くす(動作不能領域A2を可動領域A1とする)ことができる。しかし、このように外側継手部材121の軸方向寸法を短縮すると、内部部品の継手開口側への軸方向移動量が小さくなるため(
図14の点線R参照)、動作線Qの継手開口側の端部Q2が可動領域A1から外れてしまう。このように、単に外側継手部材121の軸方向寸法を短縮するだけでは、摺動式等速自在継手の可動領域A1を、要求される動作線Q全体を含むように設定することはできない。
【0009】
以上のような事情から、本発明は、摺動式等速自在継手の高角度域における、シャフトと外側継手部材との間の相対的な軸方向移動量を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた本発明は、外側継手部材と、前記外側継手部材に対して角度変位及び軸方向変位が許容された状態で前記外側継手部材の内周に配された内側継手部材と、前記外側継手部材と前記内側継手部材との間でトルクを伝達するトルク伝達部材と、前記内側継手部材の軸孔に一端が挿入されたシャフトとを備えた摺動式等速自在継手において、
前記内側継手部材と前記シャフトとが、トルク伝達可能で、且つ、軸方向の相対変位が許容された状態で結合されたことを特徴とする。
【0011】
上記のように、内側継手部材とシャフトとの軸方向の相対変位を許容することで、これらの軸方向の相対変位分だけ、シャフトと外側継手部材とを相対的に軸方向移動させることが可能となる。すなわち、従来の摺動式等速自在継手では、外側継手部材と内部部品(例えば保持器)との摺動量によって、外側継手部材に対するシャフトの軸方向移動量が決まっていたが、本発明では、外側継手部材に対するシャフトの軸方向移動量を、外側継手部材と内部部品との摺動量だけでなく、内側継手部材とシャフトとの相対変位でも受け持つようにした。これにより、外側継手部材に対するシャフトの軸方向移動量を確保しながら、外側継手部材と内部部品との摺動量、すなわち、外側継手部材の軸方向寸法を短縮することが可能となる。このように、外側継手部材の軸方向寸法を短縮することで、内部部品を継手奥側端部付近までスライドさせたときに、シャフトと外側継手部材とが干渉して作動角が制限される事態を回避できるため、高角度域における、外側継手部材に対するシャフトの軸方向移動量を確保できる。
【0012】
上記の摺動式等速自在継手によれば、例えば、最大作動角をとった状態で、シャフトを外側継手部材に対して継手奥側端部まで軸方向変位させることができる。具体的には、最大作動角をとった状態で、外側継手部材の内周に配された内部部品を外側継手部材の底面に当接するまで軸方向変位させることができる。
【0013】
上記のように、シャフトと内側継手部材との間の軸方向の相対変位を許容すると、シャフトが、外側継手部材の内周に配された内部部品(シャフトを除く)から継手奥側に突出することがある。この状態で、内部部品が外側継手部材の底面付近に配されると、内部部品から継手奥側に突出したシャフトの端部が外側継手部材の底面に干渉するおそれがある。そこで、外側継手部材の底面が、内部部品が当接する係止面と、係止面の内周に設けられた凹部とを有し、係止面に対する凹部の軸方向深さを、内部部品から継手奥側へのシャフトの最大突出量よりも深くすることが好ましい。これにより、内部部品から突出したシャフトの端部と外側継手部材の底面との干渉を回避できる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の摺動式等速自在継手によれば、高角度域における、シャフトと外側継手部材との間の相対的な軸方向移動量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る摺動式等速自在継手を含むドライブシャフトの軸方向断面図である。
【
図2】上記摺動式等速自在継手の軸方向断面図である。
【
図3】上記摺動式等速自在継手の可動領域を示す図である。
【
図4】
図3の点P6における上記摺動式等速自在継手の軸方向断面図である。
【
図5】
図3の点P7における上記摺動式等速自在継手の軸方向断面図である。
【
図6】
図3の点P8における上記摺動式等速自在継手の軸方向断面図である。
【
図7】
図3の点P9における上記摺動式等速自在継手の軸方向断面図である。
【
図8】
図3の点P10における上記摺動式等速自在継手の軸方向断面図である。
【
図9】
図3の点P11における上記摺動式等速自在継手の軸方向断面図である。
【
図10】
図3の点P12における上記摺動式等速自在継手の軸方向断面図である。
【
図11】
図3の点P13における上記摺動式等速自在継手の軸方向断面図である。
【
図12】他の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内部部品の軸方向断面図である。
【
図13】従来の摺動式等速自在継手を含むドライブシャフトの軸方向断面図である。
【
図14】
図13の摺動式等速自在継手の可動領域を示す図である。
【
図15】
図14の点P1における従来の摺動式等速自在継手の軸方向断面図である。
【
図16】
図14の点P2における従来の摺動式等速自在継手の軸方向断面図である。
【
図17】
図14の点P3における従来の摺動式等速自在継手の軸方向断面図である。
【
図18】
図14の点P4における従来の摺動式等速自在継手の軸方向断面図である。
【
図19】
図14の点P5における従来の摺動式等速自在継手の軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1に示すドライブシャフト1は、例えば、ATV(全地形対応車)等のオフロードを走行する車両に設けられるものである。ドライブシャフト1は、インボード側(図中右側)に設けられた摺動式等速自在継手2と、アウトボード側(図中左側)に設けられた固定式等速自在継手3と、両等速自在継手2,3を連結する中間シャフト4(以下、単に「シャフト4」と言う。)とを備える。摺動式等速自在継手2は、軸方向変位および角度変位の両方を許容する。固定式等速自在継手3は、軸方向変位は許容せず、角度変位のみを許容する。インボード側の摺動式等速自在継手2はデファレンシャルギヤに連結され、アウトボード側の固定式等速自在継手3は車輪に連結される。尚、上記の摺動式等速自在継手2及びシャフト4が、本発明の一実施形態に係る摺動式等速自在継手を構成する。
【0018】
摺動式等速自在継手2は、いわゆるダブルオフセット型の等速自在継手であり、外側継手部材21と、内側継手部材22と、外側継手部材21と内側継手部材22との間でトルクを伝達するトルク伝達部材としての複数のボール23と、複数のボール23を保持する保持器24とを備える。ボール23の数は任意であり、例えば6個あるいは8個とされる。本実施形態の摺動式等速自在継手2は、オフロードを走行する車両に設けられるため最大作動角が大きく、例えば30°以上、あるいは35°以上に設定される。
【0019】
外側継手部材21は、アウトボード側が開口したカップ状のマウス部21aと、マウス部21aの底部からインボード側に延びるステム部21bとを一体に有する。ステム部21bのインボード側端部の外周面には、デファレンシャルギヤのスプライン穴に挿入されるスプライン21eが設けられる。
【0020】
図2に示すように、マウス部21aの円筒状の内周面21cには、軸方向に延びる複数の直線状のトラック溝21dが設けられる。マウス部21aの底面には、外周部に設けられた係止面21gと、係止面21gの内周に設けられ、係止面21gよりもインボード側に凹んだ凹部21iとが形成される。凹部21iは、軸心に行くほど浅くなっており、図示例では断面略円弧状を成している。マウス部21aの内周面の開口側端部付近には環状溝21hが形成され、この環状溝21hに止め輪27が装着される。止め輪27は、トラック溝21dの半径方向領域内に配される。止め輪27にボール23が当接することで、ボール23のそれ以上インボード側への移動が規制される。
【0021】
内側継手部材22の軸心には、シャフト4が挿入される軸孔が設けられ、この軸孔の内周面に雌スプライン26が形成される。内側継手部材22の球面状の外周面22aには、軸方向に延びる複数の直線状のトラック溝22bが設けられる。
【0022】
外側継手部材21のトラック溝21dと内側継手部材22のトラック溝22bとが半径方向で対向して複数のボールトラックが形成される。各ボールトラックにはボール23が一個ずつ配される。
【0023】
保持器24は、ボール23を保持する複数のポケット24aを有する。保持器24の外周面には、外側継手部材21の円筒状の内周面21cと摺接する球面部24bと、球面部24bの軸方向両端部から接線方向に延びる円すい部24cとが設けられる。球面部24bと外側継手部材21の円筒状の内周面21cとが軸方向に摺動することで、外側継手部材21と内側継手部材22との間の軸方向変位が許容される。円すい部24cは、摺動式等速自在継手2が最大作動角を取ったときに、外側継手部材21の内周面21cと線接触して、それ以上作動角が大きくなることを規制するストッパとして機能する。保持器24の軸心に対する円すい部24cの傾斜角度θは、摺動式等速自在継手2の最大作動角の1/2の値に設定される。保持器24の内周面には、内側継手部材22の球面状の外周面22aと摺接する球面部24dが設けられる。
【0024】
保持器24の外周面の球面部24bの曲率中心O1と、保持器24の内周面の球面部24dの曲率中心O2(すなわち、内側継手部材22の球面状外周面22aの曲率中心)は、継手中心Oに対して軸方向反対側に等距離だけオフセットしている。図示例では、保持器24の外周面の球面部24bの曲率中心O1が継手中心Oに対してインボード側(継手奥側)にオフセットし、保持器24の内周面の球面部24dの曲率中心O2が継手中心Oに対してアウトボード側(継手開口側)にオフセットしている。これにより、任意の作動角において、保持器24で保持されたボール23が常に作動角の二等分面内に配置され、外側継手部材21と内側継手部材22との間での等速性が確保される。
【0025】
図1に示すように、固定式等速自在継手3は、ツェッパ型の等速自在継手であり、外側継手部材31と、外側継手部材31の内周に配された内側継手部材32と、外側継手部材31と内側継手部材32との間でトルクを伝達する複数のボール33と、複数のボール33を保持する保持器34とを備える。外側継手部材31の球面状の内周面は保持器34の球面状の外周面と摺接し、保持器34の球面状の内周面は内側継手部材32の球面状の外周面と摺接する。これにより、内側継手部材32は、外側継手部材31に対して角度角度変位は許容され、軸方向変位は許容されない。固定式等速自在継手3は、公知のツェッパ型の等速自在継手と同様の構成を有するため、上記以外の詳細な説明は省略する。
【0026】
シャフト4としては、中空シャフト、あるいは、中実シャフトの何れでも使用することができる。シャフト4のインボード側端部は、摺動式等速自在継手2の内側継手部材22の軸孔に挿入される。シャフト4のインボード側端部に形成された雄スプライン41と、摺動式等速自在継手2の内側継手部材22の軸孔に形成された雌スプライン26とが嵌合することで、両者がトルク伝達可能に結合される。摺動式等速自在継手2の外側継手部材21の外周面とシャフト4の外周面との間には、蛇腹状ブーツ25がブーツバンドにより取り付け固定されている。継手内部(外側継手部材21とブーツ25とで密封された空間)には、潤滑剤としてのグリースが封入されている。
【0027】
シャフト4のアウトボード側端部は、固定式等速自在継手3の内側継手部材32の軸孔に挿入される。シャフト4のアウトボード側端部に形成された雄スプライン42と、固定式等速自在継手3の内側継手部材32の軸孔に形成された雌スプライン36とが嵌合することで、両者がトルク伝達可能に結合される。内側継手部材32は、止め輪37により、シャフト4に対して軸方向移動不能な状態で固定される。固定式等速自在継手3の外側継手部材31の外周面とシャフト4の外周面との間には、蛇腹状ブーツ35がブーツバンドにより取り付け固定されている。継手内部(外側継手部材31とブーツ35とで密封された空間)には、潤滑剤としてのグリースが封入されている。
【0028】
ここで、本発明の特徴的構成である、摺動式等速自在継手2の内側継手部材22とシャフト4との嵌合摺動構造について説明する。
【0029】
摺動式等速自在継手2の内側継手部材22とシャフト4とは、軸方向に相対変位可能な構造で嵌合している。本実施形態では、シャフト4に形成された雄スプライン41の軸方向寸法が、内側継手部材22に形成された雌スプライン26の軸方向寸法よりも大きく、且つ、両スプライン41、26が隙間を介して嵌合している。両スプライン41、26の間には、継手内部に封入されたグリースが介在している。内側継手部材22の雌スプライン26とシャフト4の雄スプライン41とが摺動することで、シャフト4が内側継手部材22に対して軸方向変位可能とされる。
【0030】
図2に示すように、シャフト4の雄スプライン41のインボード側端部付近には環状溝43が形成され、この環状溝43に止め輪44が装着されている。止め輪44により、内側継手部材22のシャフト4に対するインボード側への軸方向移動が規制される。また、シャフト4のうち、雄スプライン41のアウトボード側に隣接する位置には、内側継手部材22のアウトボード側の端面(特に、雌スプライン26のアウトボード側の端面)と軸方向に対向する肩面45が形成される。この肩面45により、内側継手部材22のシャフト4に対するアウトボード側への軸方向移動が規制される。すなわち、内側継手部材22は、止め輪44と肩面45との間でシャフト4に対して軸方向移動可能とされる。
図2に示す内側継手部材22は、シャフト4の止め輪44と肩面45との軸方向間に配され、止め輪44及び肩面45の何れにも当接していない(
図2に示す内側継手部材22のシャフト4に対する軸方向位置を「中立位置」と言う。)。中立位置に配された内側継手部材22のインボード側の端面と止め輪44との軸方向距離L1と、内側継手部材22のアウトボード側の端面とシャフト4の肩面45との軸方向距離L2との合計量が、シャフト4に対する内側継手部材22の軸方向移動量ΔL(=L1+L2)となる。
【0031】
このように、シャフト4と内側継手部材22との相対的な軸方向移動を許容することで、これらの相対的な軸方向移動量ΔLの分だけ、シャフト4を外側継手部材21に対して軸方向移動させることができる。また、保持器24の外周面と外側継手部材21の内周面とが軸方向に摺動することにより、シャフト4を外側継手部材21に対して軸方向移動させることができる。以上のように、本実施形態では、シャフト4の外側継手部材21に対する軸方向移動量を、保持器24と外側継手部材21との摺動量と、シャフト4と内側継手部材22との相対的な軸方向移動量(すなわち、雌スプライン26と雄スプライン41との摺動量)とで分担して受け持っている。
【0032】
図3は、上記の摺動式等速自在継手2の可動領域を示す。点P8、点P9、点P12、及び点P13で囲まれた領域(細かいハッチングを付した領域)は、内側継手部材22をシャフト4に対して中立位置に固定した状態で移動可能な第1可動領域A3である。点P6、点P7、点P9、及び点P8で囲まれた領域(粗いハッチングを付した領域)、及び、点P10、点P11、点P13、及び点P12で囲まれた領域(粗いハッチングを付した領域)は、内側継手部材22をシャフト4に対して軸方向移動させることで実現可能な第2可動領域A4、A5である。以下、
図4~11を用いて、各点における摺動式等速自在継手2の動作を説明する。
【0033】
点P8は、
図6に示すように、作動角が0°で、且つ、ボール23が止め輪27に当接した状態を示す。この状態では、内側継手部材22は、シャフト4の止め輪44と肩面45との軸方向間の中立位置に配され、止め輪44及び肩面45の何れにも当接していない。
【0034】
図6に示す状態(点P8)から、内側継手部材22をシャフト4に対して中立位置に配したまま、何れかのボール23を止め輪27に当接させた状態で作動角を大きくすると、
図7に示すように、保持器24の円すい部24cが外側継手部材21の内周面21cに当接して、最大作動角となる(点P9)。
【0035】
図7に示す状態(点P9)から、内側継手部材22をシャフト4に対して中立位置に配したまま、シャフト4がインボード側に押し込まれると、シャフト4、内側継手部材22、ボール23、及び保持器24がインボード側にスライドし、
図10に示すように、保持器24が外側継手部材21の底面の係止面21gに当接する(
図3の点P12)。本実施形態では、保持器24が外側継手部材21の底面の係止面21gに当接すると同時に、シャフト4が外側継手部材21の開口端部21fに当接する。
【0036】
また、
図6に示す状態(点P8)から、内側継手部材22をシャフト4に対して中立位置に配し、且つ、作動角0°のままシャフト4をインボード側にスライドさせると、
図11に示すように、保持器24のインボード側の端部の全周が外側継手部材の底面の係止面21gに当接する(点P13)。
【0037】
以上のように、内側継手部材22がシャフト4に対して中立位置に配された状態では、シャフト4が、外側継手部材21に対して、
図3の第1可動領域A3(細かいハッチングを付した領域)内の軸方向移動量及び作動角をとることができる。本実施形態では、内側継手部材22とシャフト4との軸方向変位を許容することにより、シャフト4が、外側継手部材21に対して、上記の第1可動領域A3に加えて、第2可動領域A4、A5(粗いハッチングを付した領域)内の軸方向移動量及び作動角をとることができる。以下、この点を詳しく説明する。
【0038】
図6に示す状態(点P8)からシャフト4がアウトボード側に引っ張られると、
図4に示すように、シャフト4の雄スプライン41と内側継手部材22の雌スプライン26とが摺動しながら、シャフト4が内側継手部材22に対してアウトボード側に移動する(点P6)。また、
図7に示す状態(点P9)からシャフト4がアウトボード側に引っ張られると、
図5に示すように、シャフト4の雄スプライン41と内側継手部材22の雌スプライン26とが摺動しながら、シャフト4が内側継手部材22に対してアウトボード側に移動する(点P7)。何れの場合も、内側継手部材22のインボード側の端面に止め輪44が当接することにより、シャフト4の内側継手部材22に対するアウトボード側への軸方向移動が規制される。このように、内側継手部材22とシャフト4との相対的な軸方向移動を許容することで、シャフト4を、第1可動領域A3よりもさらにアウトボード側に軸方向移動させることができ、この領域が第2可動領域A4となる。
【0039】
図11に示す状態(点P13)からシャフト4がインボード側に押し込まれると、シャフト4の雄スプライン41と内側継手部材22の雌スプライン26とが摺動しながら、
図9に示すようにシャフト4が内側継手部材22に対してインボード側に移動する(点P11)。また、
図10に示す状態(点P12)からシャフトがインボード側に押し込まれると、シャフト4の雄スプライン41と内側継手部材22の雌スプライン26とが摺動しながら、
図8に示すようにシャフト4が内側継手部材22に対してインボード側に移動する(点P10)。何れの場合も、内側継手部材22のアウトボード側の端面に肩面45が当接することにより、シャフト4の内側継手部材22に対するインボード側への軸方向移動が規制される。このように、内側継手部材22とシャフト4との相対的に軸方向移動を許容することで、シャフト4を、第1可動領域A3よりもさらにインボード側に軸方向移動させることができ、この領域が第2可動領域A5となる。
【0040】
以上のように、本実施形態の摺動式等速自在継手2では、シャフト4の外側継手部材21に対する軸方向移動量L4(
図3参照)を、保持器24と外側継手部材21との摺動による第1可動領域A3と、内側継手部材22とシャフト4との相対的な軸方向移動による第2可動領域A4、A5とで分担して受け持つようにした。これにより、シャフト4の外側継手部材21に対する軸方向移動量L4を、
図14に示す従来品の軸方向移動量L4’と等しい値に維持しながら、第1可動領域A3による軸方向移動量が小さくなるため、
図2に示す外側継手部材21の軸方向寸法L3を、
図15に示す従来品の外側継手部材121の軸方向寸法L3’よりも短くすることができる。
【0041】
外側継手部材21の軸方向寸法L3が短くなることで、
図10に示すように保持器24を外側継手部材21の底面の係止面21gに当接させた状態で、シャフト4を最大作動角まで屈曲させることができる。そして、この状態から、
図8に示すようにシャフト4を内側継手部材22に対してスライドさせてインボード側に押し込むことができるため、シャフト4の軸方向移動量を確保することができる。すなわち、従来品では動作不能領域A2(
図14参照)であった領域が、上記の摺動式等速自在継手2では可動領域となるため、高角度域での軸方向移動量を確保することができる。これにより、要求される動作線Q(
図3の点線参照)全体を含むように、可動領域A3~A5を設定することが可能となる。このように、摺動式等速自在継手の可動領域を広げることで、車両のサスペンションストロークの増大により乗り心地が改善されると共に、足回りのレイアウトの自由度が広がり、また、悪路での走破性能を上げることが可能となる。
【0042】
ところで、シャフト4を内側継手部材22に対してインボード側に軸方向移動させると、シャフト4が内側継手部材22からインボード側に大きく突出する。本実施形態では、シャフト4が、外側継手部材21の内周に配された内部部品(内側継手部材22、ボール23、及び保持器24)、特に保持器24よりもインボード側に突出可能とされる。このため、
図8及び
図9に示すように内部部品が外側継手部材21の底面付近に配されると、内部部品から突出したシャフト4のインボード側端部が外側継手部材21の底面に干渉することが懸念される。
【0043】
本実施形態では、外側継手部材21の底面の係止面21gの内周に凹部21iが設けられている。
図9に示すように、係止面21gに対する凹部21iの深さD1が、保持器24からインボード側へのシャフト4の最大突出量D2よりも深い。上記のような凹部21iを設けることで、シャフト4のインボード側の端部が外側継手部材21の底面に干渉することが回避される。
【0044】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0045】
本発明は、ダブルオフセット型の等速自在継手に限らず、他の摺動式等速自在継手(例えば、トリポード型等速自在継手や、クロスグルーブ型等速自在継手)にも適用可能である。例えば、
図12に、本発明を適用したトリポード型の摺動式等速自在継手の内部部品及びシャフト4を示す。トリポード部材51は、雌スプライン26を有するボス部53と、ボス部53から半径方向外方に突出した3本の脚軸54とを有する。このトリポード部材51が内側継手部材となる。各脚軸54の外周には、針状ころ55を介してローラ52が配され、このローラ52がトルク伝達部材となる。図示しない外側継手部材には、軸方向に延びる直線状の3本のトラック溝が形成され、各トラック溝内にローラ52が配される。トリポード部材51は、シャフト4の止め輪44と肩面45との軸方向間で、シャフト4に対して軸方向移動可能とされる。シャフト4のインボード側(図中右側)の端部は、内部部品(トリポード部材51、ローラ52、及び針状ころ55)、特にローラ52よりもインボード側に突出可能とされる。
【0046】
本発明は、車両のドライブシャフトに設けられた摺動式等速自在継手に限らず、車両のプロペラシャフトに設けられた摺動式等速自在継手や、産業機械等の動力伝達シャフトに設けられる摺動式等速自在継手に適用することもできる。
【符号の説明】
【0047】
1 ドライブシャフト
2 摺動式等速自在継手
3 固定式等速自在継手
4 シャフト(中間シャフト)
21 外側継手部材
22 内側継手部材
23 ボール
24 保持器
25 ブーツ
26 雌スプライン
41 雄スプライン
A1 可動領域
A2 動作不能領域
A3 第1可動領域
A4、A5 第2可動領域
Q 動作線