(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003144
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】ジペプチドを含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/01 20060101AFI20231228BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231228BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20231228BHJP
A61K 35/407 20150101ALI20231228BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20231228BHJP
C07K 5/06 20060101ALN20231228BHJP
【FI】
A61K38/01
A61P29/00
A61K38/05
A61K35/407
A23L33/18
C07K5/06
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023193372
(22)【出願日】2023-11-14
(62)【分割の表示】P 2020515566の分割
【原出願日】2019-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2018084926
(32)【優先日】2018-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000108339
【氏名又は名称】ゼリア新薬工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 英知
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健司
(72)【発明者】
【氏名】江島 晃佳
(72)【発明者】
【氏名】駒井 三千夫
(72)【発明者】
【氏名】白川 仁
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 航
(57)【要約】
【課題】新規な抗炎症剤の提供。
【解決手段】(D)Ile-(D)Pro、(D)Leu-(D)Pro、(D)Pro-(D)Ile、(D)Pro-(D)Leu、(D)Val-(D)-Pro、(D)Pro-(D)Val、(D)Leu-(D)Hyp、(D)Ile-(D)Hyp、(D)Val-(D)Hyp、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Ile-(L)Pro、(D)Leu-(L)Pro、(D)Pro-(L)Ile、(D)Pro-(L)Leu、(D)Val-(L)-Pro、(D)Pro-(L)Val、(D)Leu-(L)Hyp、(D)Ile-(L)Hyp、(D)Val-(L)Hyp、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるジペプチドを有効成分とする抗炎症剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝臓水解物の疎水性ペプチド画分を有効成分とする抗炎症剤。
【請求項2】
肝臓水解物の疎水性ペプチド画分を有効成分とする炎症性サイトカイン産生抑制剤。
【請求項3】
肝臓水解物の疎水性ペプチド画分を有効成分とするIL-1産生抑制剤又はIL-6産生抑制剤。
【請求項4】
肝臓水解物の疎水性ペプチド画分を有効成分とする炎症改善用食品組成物。
【請求項5】
肝臓水解物の疎水性ペプチド画分を有効成分とする炎症性サイトカイン産生抑制食品組成物。
【請求項6】
肝臓水解物の疎水性ペプチド画分を有効成分とするIL-1産生抑制用食品組成物又はIL-6産生抑制用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジペプチドを含有する医薬又は食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
超高齢化社会により、慢性炎症が関係している糖尿病、肥満等の代謝性疾患及び動脈硬化等の循環器疾患等の生活習慣病の予防・治療に対する取り組みの重要性は大きくなっている。実際、糖尿病に対して、IL-1βシグナルの阻害やNF-κB阻害作用が開発されている。関節リウマチに代表される慢性炎症性疾患においては、TNF-α、IL-1、IL-6等の炎症性サイトカインが異常に多く産生、分泌されており、これらの炎症性サイトカイン阻害薬は優れた抗炎症剤として有用である。例えば、TNF-α阻害薬としては、インフリキシマブ等の抗体医薬が関節リウマチの治療薬として使用されている(非特許文献1)。また、IL-6阻害薬としては、抗体医薬トリシズマブが使用されている(非特許文献2)。更に、IL-1阻害薬としては、アナキンラ、リロナセプト、カナキヌマブ等のタンパク製剤や抗体医薬が開発されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】関節リウマチ(RA)に対するTNF阻害薬ガイドライン(一般社団法人日本リウマチ学会)
【非特許文献2】薬学雑誌129(6) 667-674(2009)
【非特許文献3】日本内科学会雑誌第100巻第10号 p.2985-2990(平成23年10月10日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような背景の下、本発明者は、肝臓水解物が優れたIL-1産生抑制作用を有し、サイトカイン産生抑制剤、抗炎症剤として有用であることを見出し、先に特許出願した(PCT/JP2018/006351)。
しかしながら、肝臓水解物は、アミノ酸やペプチドを多く含むとされているが、実際の有効成分は判明していない。
従って、本発明の課題は、サイトカイン産生抑制作用に基づく、新たな抗炎症剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、新たな抗炎症剤を開発すべく検討し、肝臓水解物を動物に投与して血中に移行する難消化性ペプチドを探索し、また肝臓水解物を種々のカラムを用いてペプチドを分画し薬効評価をしてきたところ、L体アミノ酸由来でなく、特定のD体アミノ酸由来のジペプチドが見出され、当該ジペプチドがIL-1β、IL-6等のサイトカイン産生抑制作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔15〕を提供するものである。
【0007】
〔1〕(D)Ile-(D)Pro、(D)Leu-(D)Pro、(D)Pro-(D)Ile、(D)Pro-(D)Leu、(D)Val-(D)Pro、(D)Pro-(D)Val、(D)Leu-(D)Hyp、(D)Ile-(D)Hyp、(D)Val-(D)Hyp、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Ile-(L)Pro、(D)Leu-(L)Pro、(D)Pro-(L)Ile、(D)Pro-(L)Leu、(D)Val-(L)-Pro、(D)Pro-(L)Val、(D)Leu-(L)Hyp、(D)Ile-(L)Hyp、(D)Val-(L)Hyp、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるジペプチドを有効成分とする抗炎症剤。
〔2〕有効成分が、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるものである〔1〕記載の抗炎症剤。
〔3〕(D)Ile-(D)Pro、(D)Leu-(D)Pro、(D)Pro-(D)Ile、(D)Pro-(D)Leu、(D)Val-(D)Pro、(D)Pro-(D)Val、(D)Leu-(D)Glu、(D)Ile-(D)pGlu、(D)Val-(D)pGlu、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Ile-(L)Pro、(D)Leu-(L)Pro、(D)Pro-(L)Ile、(D)Pro-(L)Leu、(D)Val-(L)-Pro、(D)Pro-(L)Val、(D)Leu-(L)Hyp、(D)Ile-(L)Hyp、(D)Val-(L)Hyp、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるジペプチドを有効成分とする炎症性サイトカイン産生抑制剤。
〔4〕有効成分が、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるものである〔3〕記載の炎症性サイトカイン産生抑制剤。
〔5〕(D)Ile-(D)Pro、(D)Leu-(D)Pro、(D)Pro-(D)Ile、(D)Pro-(D)Leu、(D)Val-(D)-Pro、(D)Pro-(D)Val、(D)Leu-(D)Hyp、(D)Ile-(D)Hyp、(D)Val-(D)Hyp、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Ile-(L)Pro、(D)Leu-(L)Pro、(D)Pro-(L)Ile、(D)Pro-(L)Leu、(D)Val-(L)-Pro、(D)Pro-(L)Val、(D)Leu-(L)Hyp、(D)Ile-(L)Hyp、(D)Val-(L)Hyp、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるジペプチドを有効成分とするIL-1産生抑制剤又はIL-6産生抑制剤。
〔6〕有効成分が、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(L)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるものである〔5〕記載のIL-1産生抑制剤又はIL-6産生抑制剤。
〔7〕(D)Ile-(D)Pro、(D)Leu-(D)Pro、(D)Pro-(D)Ile、(D)Pro-(D)Leu、(D)Val-(D)Pro、(D)Pro-(D)Val、(D)Leu-(D)Hyp、(D)Ile-(D)Hyp、(D)Val-(D)Hyp、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Ile-(L)Pro、(D)Leu-(L)Pro、(D)Pro-(L)Ile、(D)Pro-(L)Leu、(D)Val-(L)-Pro、(D)Pro-(L)Val、(D)Leu-(L)Hyp、(D)Ile-(L)Hyp、(D)Val-(L)Hyp、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるジペプチドを有効成分とする炎症改善用食品組成物。
〔8〕有効成分が、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるものである〔7〕記載の食品組成物。
〔9〕(D)Ile-(D)Pro、(D)Leu-(D)Pro、(D)Pro-(D)Ile、(D)Pro-(D)Leu、(D)Val-(D)-Pro、(D)Pro-(D)Val、(D)Leu-(D)Hyp、(D)Ile-(D)Hyp、(D)Val-(D)Hyp、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Ile-(L)Pro、(D)Leu-(L)Pro、(D)Pro-(L)Ile、(D)Pro-(L)Leu、(D)Val-(L)-Pro、(D)Pro-(L)Val、(D)Leu-(L)Hyp、(D)Ile-(L)Hyp、(D)Val-(L)Hyp、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるジペプチドを有効成分とする炎症性サイトカイン産生抑制食品組成物。
〔10〕有効成分が、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるものである〔9〕記載の食品組成物。
〔11〕(D)Ile-(D)Pro、(D)Leu-(D)Pro、(D)Pro-(D)Ile、(D)Val-(D)-Pro、(D)Pro-(D)Val、(D)Leu-(D)Glu、(D)Ile-(D)pGlu、(D)Val-(D)pGlu、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Ile-(L)Pro、(D)Leu-(L)Pro、(D)Pro-(L)Ile、(D)Pro-(L)Leu、(D)Val-(L)-Pro、(D)Pro-(L)Val、(D)Leu-(L)Hyp、(D)Ile-(L)Hyp、(D)Val-(L)Hyp、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるジペプチドを有効成分とするIL-1産生抑制用食品組成物又はIL-6産生抑制用食品組成物。
〔12〕有効成分が、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるものである〔11〕記載の食品組成物。
〔13〕抗炎症剤製造のための、(D)Ile-(D)Pro、(D)Leu-(D)Pro、(D)Pro-(D)Ile、(D)Pro-(D)Leu、(D)Val-(D)Pro、(D)Pro-(D)Val、(D)Leu-(D)Hyp、(D)Ile-(D)Hyp、(D)Val-(D)Hyp、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Ile-(L)Pro、(D)Leu-(L)Pro、(D)Pro-(L)Ile、(D)Pro-(L)Leu、(D)Val-(L)-Pro、(D)Pro-(L)Val、(D)Leu-(L)Hyp、(D)Ile-(L)Hyp、(D)Val-(L)Hyp、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるジペプチドの使用。
〔14〕炎症性疾患を治療するための、(D)Ile-(D)Pro、(D)Leu-(D)Pro、(D)Pro-(D)Ile、(D)Pro-(D)Leu、(D)Val-(D)Pro、(D)Pro-(D)Val、(D)Leu-(D)Glu、(D)Ile-(D)pGlu、(D)Val-(D)pGlu、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Ile-(L)Pro、(D)Leu-(L)Pro、(D)Pro-(L)Ile、(D)Pro-(L)Leu、(D)Val-(L)-Pro、(D)Pro-(L)Val、(D)Leu-(L)Hyp、(D)Ile-(L)Hyp、(D)Val-(L)Hyp、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるジペプチド。
〔15〕(D)Ile-(D)Pro、(D)Leu-(D)Pro、(D)Pro-(D)Ile、(D)Pro-(D)Leu、(D)Val-(D)-Pro、(D)Pro-(D)Val、(D)Leu-(D)Hyp、(D)Ile-(D)Hyp、(D)Val-(D)Hyp、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Ile-(L)Pro、(D)Leu-(L)Pro、(D)Pro-(L)Ile、(D)Pro-(L)Leu、(D)Val-(L)-Pro、(D)Pro-(L)Val、(D)Leu-(L)Hyp、(D)Ile-(L)Hyp、(D)Val-(L)Hyp、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるジペプチドの有効量を投与することを特徴とする抗炎症性疾患の治療方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に用いられるジペプチドは、D体アミノ酸由来であることから難消化性であり、血中に長時間存在し、IL-1産生抑制作用及びIL-6産生抑制作用を有することから、サイトカイン産生抑制用、抗炎症用の医薬及び食品組成物として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】疎水性ペプチド画分のIL-6産生抑制作用を示す。
【
図2】疎水性ピログルタミルペプチド画分のIL-6産生抑制作用を示す。
【
図3】親水性ペプチド画分のIL-6産生抑制作用を示す。
【
図4】親水性ピログルタミルペプチド画分のIL-6産生抑制作用を示す。
【
図5】疎水性ペプチド画分のIL-1β産生抑制作用を示す。
【
図6】疎水性ピログルタミルペプチド画分のIL-1β産生抑制作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の抗炎症剤の有効成分であるジペプチドは、(D)Ile-(D)Pro、(D)Leu-(D)Pro、(D)Pro-(D)Ile、(D)Pro-(D)Leu、(D)Val-(D)-Pro、(D)Pro-(D)Val、(D)Leu-(D)Hyp、(D)Ile-(D)Hyp、(D)Val-(D)Hyp、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Ile-(L)Pro、(D)Leu-(L)Pro、(D)Pro-(L)Ile、(D)Pro-(L)Leu、(D)Val-(L)-Pro、(D)Pro-(L)Val、(D)Leu-(L)Hyp、(D)Ile-(L)Hyp、(D)Val-(L)Hyp、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるジペプチドであり、このうち経口投与による血中への移行性、作用持続性及び抗炎症作用の点から、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(D)Phe、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheから選ばれるジペプチドが好ましく、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(L)Leuが更に好ましい。
ここで、(D)という表記は、アミノ酸がD体であることを意味する。(L)という表記は、アミノ酸がL体であることを意味する。
また、上記(D)体又は(L)体ジペプチドのα体及びβ体のうち、β体がより好ましい。
【0011】
前記のジペプチドは、(D)アミノ酸を原料として用いて、通常の液相ペプチド合成法又は固相ペプチド合成法により製造することができる。例えばα-アミノ基以外の官能基を保護したアミノ酸と、カルボキシ基以外の官能基を保護したアミノ酸又はカルボキシ基を活性化し、カルボキシ基以外の官能基を保護したアミノ酸とを縮合させた後、保護基を脱離させることにより製造できる。
ここで、アミノ酸のアミノ基の保護基としては、ベンジルオキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、フルオレニルメトキシカルボニル基等が挙げられる。カルボキシ基の保護基としては、tert-ブチル基、ベンジル基等が挙げられる。縮合反応は、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジシクロヘキシル尿素その他の縮合剤を用いる方法、ニトロフェノール、N-ヒドロキシスクシンイミド等の活性エステル法、混合酸無水物法等を用いることができる。
縮合反応終了後、保護基は除去されるが、固相法の場合は更にペプチドのC末端と樹脂との結合を切断する。更に、前記ペプチドは通常の方法に従い精製される。
【0012】
前記ジペプチドは、酸付加塩又は塩基塩であることができる。酸付加塩としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、過塩素酸などの無機酸塩、クエン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸の塩が挙げられる。塩基塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。
【0013】
前記ペプチドは、溶媒和物であることができる。溶媒和物としては、水(水和物の場合)、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの溶媒和物が挙げられる。
【0014】
前記ジペプチドは、難消化性であり、経口投与後の血中移行性が高く、持続性にも優れており、炎症性サイトカインの一種であるIL-1β及びIL-6の産生を強く抑制する作用及びIL-1β及びIL-6のmRNA発現を抑制する作用を有する。従って、前記ジペプチドは、IL-1及びIL-6に代表される炎症性サイトカインの産生を抑制し、炎症性サイトカインが関与する炎症性疾患の治療薬及び炎症改善用飲食品組成物として有用である。ここで、IL-1、IL-6等の炎症性サイトカインが関与する疾患としては、関節リウマチ、変形性関節症、炎症性腸疾患、敗血症、急性及び慢性骨髄性白血病、骨粗鬆症、生活習慣病等が挙げられる。
【0015】
本発明の医薬組成物は、経口投与、経皮投与、経腸投与、経静脈投与等によって投与できるが、経口投与がより好ましい。経口投与用の製剤としては、液剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤等が挙げられるが、液剤、錠剤が好ましく、液剤がより好ましい。
【0016】
これらの経口投与製剤とするには、乳糖、マンニトール、トウモロコシデンプン、結晶セルロースなどの賦形剤、セルロース誘導体、アラビアゴム、ゼラチンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、非イオン界面活性剤等の溶解補助剤、矯味剤、甘味剤、安定化剤、pH調整剤、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等を使用することができる。また、ヒドロキシメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレート、メタクリレートコポリマーなどの被覆剤を用いてもよい。
【0017】
また、本発明の医薬組成物には、他の有効成分を配合することもできる。他の有効成分としては、ビタミンB1類; チアミン、硝酸チアミン、塩酸チアミン、フルスルチアミン、ビスベンチアミン、ベンホチアミン、チアミンジスルフィド、ジセチアミン、チアミンプロピルジスルフィド及びこれらの誘導体、ビタミンB2類; リボフラビン及び誘導体並びにそれらの塩、ビタミンB3類; ナイアシン、ニコチン酸、ニコチン酸アミド及び誘導体並びにそれらの塩、ビタミンB5類; パンテノール、パントテン酸及び誘導体並びにそれらの塩、ビタミンB6類; ピリドキシン及び誘導体並びにそれらの塩、ビタミンB12類; シアノコバラミン及び誘導体並びにそれらの塩、その他のビタミン類;ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンP、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン、タウリン、コンドロイチン硫酸、ローヤルゼリー、カフェイン、ウコン、マリアアザミ、タンポポ、西洋タンポポ、ゴボウ、ニンニク、キク、西洋ノコギリソウ、クチナシ、ゴマ、田七ニンジン、アスパラガス、タマネギ、チコリ、薬用サルビア、朝鮮アザミ(アーティチョーク)、クコ、マメ科・アヤメ科の植物、ミヤマウズラ、エルバ・デ・パサリーニョ、セテサングリア、アガメガシワ、紅茶、レスベラトロール、カテキン類、ベルベリン、ローズマリー、豆エキス、メトホルミン等が挙げられる。
【0018】
また、本発明の組成物は、医薬品の外、医薬部外品、特定保健用食品、スポーツ飲料、リハビリ用飲料、ペットフード等の機能性食品としても使用可能である。
【0019】
本発明の医薬組成物又は食品組成物における前記ジペプチドの含有量は、投与形態によっても異なるが、通常、0.001~10質量%が好ましく、0.001~5質量%がより好ましい。また、本発明の医薬組成物又は食品組成物における前記ジペプチドの1日投与量は、10mg~1000mgが好ましく、20mg~800mgがより好ましく、50mg~800mgが更に好ましい。
【実施例0020】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0021】
実施例1(肝臓水解物の分画)
(1)ペプチドとピログルタミルペプチドの分画
強カチオン交換樹脂(AG50)をEcono Column(2.5×20cm)に充填し、樹脂を10mM HClで平衡化した。1gの肝臓水解物(Sample A)を20mLの10mM HClに溶解した。この溶液を樹脂上に添加し、素通り画分を20mL回収した(素通り画分1)。続いて、20mLの10mM HClを樹脂上に添加し、素通り画分20mLを回収する。この操作を19回繰り返した(素通り画分2~20)。素通り画分1~20の吸光度(230nm)を測定し、ペプチドの溶出を確認した。
続いて、20mLの50%アンモニア溶液を樹脂上に添加し、吸着画分20mLを回収した。この操作を20回繰り返した(吸着画分1~20)。吸着画分1~20の吸光度(230nm)を測定し、ペプチドの溶出を確認した。
素通り画分(ピログルタミルペプチド画分)及び吸着画分(ペプチド画分)をエバポレーターで減圧濃縮した。
【0022】
(2)親水性と疎水性の分画
固相抽出カラム(Sep-Pak)を10mM HClで平衡化した。ピログルタミルペプチド画分をカラムにパスさせ、素通り画分を溶出・回収した(親水性ピログルタミルペプチド画分)。続いて、10mM HClを含む60%アセトニトリル溶液をカラムにパスさせて、吸着画分を溶出・回収した(疎水性ピログルタミルペプチド画分)。
ペプチド画分についてもこれらの操作を行った。
得られた4画分を凍結乾燥した。
【0023】
実施例2
(1)肝臓水解物中の難消化性ペプチドの定量実験
1)2.5mgの肝臓水解物を1mLの50mM Tris-HClに溶解した。
2)1)にパンクレアチン(0.1mg)、ロイシンアミノペプチダーゼ(2.45unit)、カルボキシペプチダーゼ(7.7unit)を添加し、酵素反応させた(37℃、24h)。
3)限外ろ過(10K)により酵素を除した。
4)3)をスピンカラムに充填した強カチオン交換樹脂(AG50)にパスさせ、素通り画分を回収した(ピログルタミルペプチド画分)。
5)200μLの3)(ペプチド画分)および4)(ピログルタミルペプチド画分)をサイズ排除HPLCで分画・分取した(SEC Fr.35-44)。
6)ペプチド画分については、SEC Fr.35-44を乾固してAccQ化した。ピログルタミルペプチド画分については、SEC Fr.35-44をそのまま用いた。
7)LC-MS/MS分析により、難消化性ペプチドの構造を決定した。
カラム:Inertsil ODS-3
溶離液:0.1%ギ酸および0.1%ギ酸を含む80%アセトニトリル
分析方法:ペプチド画分については、AccQのフラグメント(m/z=171.1)を特異的に検出(Precursor ion scan分析)した後、MS/MS分析で構造を推定し、標準を合成してMRM分析で同定・定量を行う。
ピログルタミルペプチド画分については、Total scan ion分析によりピークを検出した後、MS/MS分析で構造を推定し、標準を合成してMRMで同定・定量を行う。
【0024】
(2)肝臓水解物をラットに投与した時のペプチドの血中移行の実験
1)Wister rat(6週齢、雄)に肝臓水解物水溶液を単回投与した(10g/60kg)。
2)投与30分および60分後、イソフルラン麻酔下で腹部大静脈より採血し、血漿を得た。更に、消化管(十二指腸~回腸)を摘出し、生理食塩水10mLで管腔内容物を溶出する。血漿および消化管内容物に3倍量のエタノールを加えた(分析まで-20℃で保存)。
3)血漿および消化管内容物のエタノール上を乾固し、AccQ化を行った。
4)MRM分析により、(1)で同定された難消化性ペプチドの同定・定量を行った。
血中のジペプチド濃度を表1に示す。
【0025】
【0026】
その結果、(D)Asp-(D)Val、(D)Asp-(D)Phe、(D)Asp-(D)Ile、(D)Asp-(D)Leu、(D)Asp-(L)Val、(D)Asp-(L)Ile、(D)Asp-(L)Leu、及び(D)Asp-(L)Pheは、経口投与による血中移行性が良好で、血中で長時間持続することが判明した。
【0027】
実施例3(ジペプチドの合成)
1)以下の順でナス型フラスコに試薬を加え、撹拌しながら反応させる(4℃,over night)。
(i)H-Leu-OtBu・HCl
(ii)DMF
(iii)TEA
(iv)Boc-Asp(OtBu)-OH(Lα体)
(v)HOBt
(vi)EDL・HCl
その他の異性体の場合には、次の保護アミノ酸を使用する。
Boc-D-Asp(OtBu)-OH(Dα体)
Boc-Asp-OtBu(Lβ体)
Boc-D-Asp-OtBu(Dβ体)
2)エバポレーターでDMFを除去する。
3)酢酸エチルに溶解し、分液漏斗に移す。
4)5%炭酸水素ナトリウムを加えて撹拌し、水層を除く。(×2)
5)10%クエン酸を加えて撹拌し、水層を除く。(×2)
6)飽和食塩水を加えて撹拌し、水層を除く。
7)酢酸エチル層を回収し、硫酸水素ナトリウムを加えて脱水する。
8)酢酸エチル層をろ過回収し、エバポレーターで濃縮する。
9)石油エーテルを加え、生じた沈殿を乾燥させる。(生じない場合は10)に進む)
10)乾燥物に4M HCl/dioxaneを加え、撹拌しながら反応させる。(4℃,24~48h)
11)エバポレーターで4M HCl/dioxaneを除く。
12)ジエチルエーテルを加え、得られた沈殿を超音波で破砕・洗浄し、エーテル上清をデカンで除く。(×3)
13)ジエチルエーテルを加えて放置(4℃,over night)。
14)ジエチルエーテルを加え、得られた沈殿を超音波で破砕・洗浄し、エーテル上清をデカンで除く。(×3)
15)沈殿物を乾燥する。
【0028】
実施例4
RAW264.7細胞の細胞数を1.5×106cells/dishに調整して播種し一晩培養した。分画前サンプル又は濾液分画を共にEMEM培地で20倍希釈した(終濃度約0.6mg/mL)。コントロールにはサンプルの代わりにPBSをEMEM培地で20倍希釈した。培地で希釈した上記の各サンプル(コントロール・分画前・濾液分画)を各dish群に添加した。24時間培養後、リポポリサッカライド(LPS)が終濃度1.0μg/mLとなるように添加した。3時間静置し、RNAを回収し、逆転写反応によるcDNA合成を行った。次いで、RT-RCRによるEEF1A1、IL-6の測定を行った。
【0029】
その結果を
図1~
図4に示す。
LPS刺激したRAW細胞において、ジペプチド群とジペプチドのかわりにPBSを添加したCont群間で炎症関連遺伝子のmRNA発現量を比較したところ、IL-6は疎水性ペプチド分画、疎水性ピログルタミルペプチド画分において有意に低下し、ジペプチドの炎症抑制効果が示唆された。
【0030】
実施例5
RAW264.7細胞の細胞数を1.5×106cells/dishに調整して播種し一晩培養した。分画前サンプル又は濾液分画を共にEMEM培地で20倍希釈した(終濃度約0.6mg/mL)。コントロールにはサンプルの代わりにPBSをEMEM培地で20倍希釈した。培地で希釈した上記の各サンプル(コントロール・分画前・濾液分画)を各dish群に添加した。24時間培養後、リポポリサッカライド(LPS)が終濃度1.0μg/mLとなるように添加した。3時間静置し、RNAを回収し、逆転写反応によるcDNA合成を行った。次いで、RT-RCRによるEEF1A1、IL-1βの測定を行った。
【0031】
その結果を
図5~
図6に示す。
LPS刺激したRAW細胞において、ジペプチド群とジペプチドのかわりにPBSを添加したCont群間で炎症関連遺伝子のmRNA発現量を比較したところ、IL-1βは疎水性ペプチド分画において有意に低下し、ジペプチドの炎症抑制効果が示唆された。