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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031450
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】対物レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/02 20060101AFI20240229BHJP
   G02B 13/02 20060101ALN20240229BHJP
【FI】
G02B21/02 A
G02B13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135002
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】592163734
【氏名又は名称】京セラSOC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田邉 貴大
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA09
2H087KA15
2H087LA01
2H087LA02
2H087NA04
2H087NA15
2H087PA03
2H087PA09
2H087PA10
2H087PA16
2H087PA17
2H087PA18
2H087PB03
2H087PB04
2H087PB10
2H087PB16
2H087PB18
2H087QA02
2H087QA03
2H087QA06
2H087QA07
2H087QA14
2H087QA17
2H087QA19
2H087QA22
2H087QA25
2H087QA26
2H087QA32
2H087QA34
2H087QA41
2H087QA42
2H087QA45
2H087QA46
2H087RA32
2H087UA03
2H087UA04
(57)【要約】
【課題】瞳の遮蔽が無く、小型で視野が広い上に高NAを実現出来る屈折型対物レンズにおいて、深紫外から可視に至る連続した波長域で色消しを実現する。
【解決手段】対物レンズ(OL)は複数の接合レンズ(JL)を含み、少なくとも1つの接合レンズが、フッ化物により構成される複数の要素レンズ(EL)のみによって構成される。複数の要素レンズのみによって構成された接合レンズによって、深紫外から可視に至る連続した波長域で軸上色収差が高度に補正される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズであって、複数の接合レンズを含み、
前記接合レンズの少なくとも1つが、フッ化物により構成される複数の要素レンズのみによって構成されている対物レンズ。
【請求項2】
前記接合レンズの前記少なくとも1つが、オプティカルコンタクトにより互いに接合された2つの前記要素レンズを含む請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項3】
前記接合レンズの前記少なくとも1つが、少なくとも3つの前記要素レンズを含み、互いに隣接する各対の前記要素レンズが前記オプティカルコンタクトにより互いに接合されている請求項2に記載の対物レンズ。
【請求項4】
前記接合レンズの前記少なくとも1つが、間隔を空けて配置された2つの前記要素レンズを含み、2つの前記要素レンズの間にフッ素オイル又はフッ素樹脂が充填されている請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項5】
前記接合レンズの前記少なくとも1つが、少なくとも3つの前記要素レンズを含み、互いに隣接する各対の前記要素レンズが互いに間隔を空けて配置され、各対の前記要素レンズの間に前記フッ素オイル又は前記フッ素樹脂が充填されている請求項4に記載の対物レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対物レンズに関し、特に、300nmを下回る深紫外域及び可視域に対して色消し(色収差補正)された顕微鏡の対物レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
300nmを下回る深紫外線及び可視光線を扱う対物レンズは、ウェハ観察を目的とする半導体計測、深紫外ラマン顕微分光計測等の各種計測分野において利用されている。当該分野においては、300nmを下回る深紫外線から可視光線までの広い波長域で用いることの出来る対物レンズが要求されている(非特許文献1、2参照)。
【0003】
この種の用途に用いられる対物レンズの選択肢としては、紫外から可視に亘る波長域について色消し性能を確保するため、屈折部材を一切使わないSchwarzschild対物鏡をはじめとした反射光学系や、屈折部材と反射鏡とを組み合わせた反射屈折光学系が代表的であった(特許文献1、2参照)。
【0004】
また、色収差補正について開示する特許文献3、4、5、並びに、フッ化物より構成され、非常に低い分散を示し、なおかつ紫外線の透過率が高い光学ガラスについて開示する特許文献6及び非特許文献3が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表特許2018-047714号公報
【特許文献2】米国特許第5,717,518号明細書
【特許文献3】特開2004-118072号公報
【特許文献4】特開2001-318317号公報
【特許文献5】米国特許第7,050,223号明細書
【特許文献6】特開2019-151493公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】半導体技術ロードマップ専門委員会、平成18年度報告p.222
【非特許文献2】深紫外ラマン顕微鏡による生体試料観察、レーザー研究2015年10月
【非特許文献3】超低分散全フッ化物ガラス、光技術コンタクトVol.56,No.9(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Schwarzschild対物鏡の欠点として、Numerical Aperture(NA)及び視野の両方を大きく出来ないこと、瞳に大きな遮蔽が生じること、そして屈折型対物レンズよりも光学系の径が大きくなることが挙げられる。
【0008】
この問題を解決するために、反射鏡と屈折部材(レンズ)とを組み合わせた反射屈折光学系が考案された。特許文献2に示された反射屈折光学系は、0.9程度の大きなNAと、φ1mm程度という広い視野とを実現している。しかしながら、反射屈折光学系であっても瞳の遮蔽は避けられず、また、光学系の大きさが非常に大きくなってしまうという欠点がある。
【0009】
反射光学系及び反射屈折光学系における最大の欠点は瞳の遮蔽である。これは、試料から散乱された光を光学系が取り込む際の取得効率の低下要因となる。そのため、これらの光学系は、高いスループットが求められる半導体検査用途や微弱な光を用いるラマン分光用途には適さない。また、結像性能の観点からは、瞳が遮蔽されることで、試料からの回折光における低~中周波成分を取り込むことが出来なくなり、この周波数帯の解像性能が劣化するという問題がある。また、この種の光学系においては、屈折型対物レンズよりも光学系が大きくなるという問題がある。
【0010】
この改善策として屈折型対物レンズを用いることが考えられる。しかしながら、従来の設計においては、特許文献3のような250nm近辺における数nmの波長幅での色収差補正、あるいは特許文献4,5のような、深紫外域のある1つの波長と可視域又は赤外域のある1つの波長との2つの波長での補正しか実現出来ないという欠点がある。そのため、従来の屈折型対物レンズは、半導体検査用途におけるスループット向上には貢献出来ず、ラマン分光用途における微弱な可視域の散乱光を効率よく取得するという用途にも適していないという問題がある。
【0011】
本発明は、以上の背景に鑑み、瞳の遮蔽が無く、小型で視野が広い上に高NAを実現出来る屈折型対物レンズにおいて、深紫外から可視に至る連続した波長域で色消しを実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、対物レンズ(OL)であって、複数の接合レンズ(JL)を含み、前記接合レンズの少なくとも1つが、フッ化物により構成される複数の要素レンズ(EL)のみによって構成されている。すなわち、軸上色収差を高度に補正するため、対物レンズはフッ化物により構成される要素レンズ同士が接合されてなる接合レンズを含む。
【0013】
この態様によれば、複数の要素レンズのみによって構成された接合レンズによって、深紫外から可視に至る連続した波長域で軸上色収差を高度に補正することが出来る。よって、瞳の遮蔽が無く、小型で視野が広い上に高NAを実現出来る屈折型対物レンズにおいて、深紫外から可視に至る連続した波長域で色消しを実現することが出来る。
【0014】
上記の態様において、前記接合レンズ(JL)の前記少なくとも1つが、オプティカルコンタクトにより互いに接合された2つの前記要素レンズ(EL)を含むと良い。
【0015】
この態様によれば、互いの線膨張係数が近いフッ化物同士の接合によって接合レンズが構成されるため、要素レンズ同士の接合が容易であり、また、接合後に接合レンズがひずみにくい。
【0016】
上記の態様において、前記接合レンズ(JL)の前記少なくとも1つが、少なくとも3つの前記要素レンズ(EL)を含み、互いに隣接する各対の前記要素レンズが前記オプティカルコンタクトにより互いに接合されていると良い。
【0017】
この態様によれば、接合レンズが3つ以上の要素レンズを含んでいても、要素レンズ同士の接合が容易であり、接合後に接合レンズがひずみにくい。
【0018】
上記の態様において、前記接合レンズ(JL)の前記少なくとも1つが、間隔を空けて配置された2つの前記要素レンズ(EL)を含み、2つの前記要素レンズの間にフッ素オイル又はフッ素樹脂が充填されていると良い。
【0019】
この態様によれば、要素レンズ同士の接合が容易で接合レンズがひずみにくい。また、フッ素オイル及びフッ素樹脂は紫外線に対して高い透過率を有するため、紫外線による劣化によって光透過率が低下することが抑制される。
【0020】
上記の態様において、前記接合レンズ(JL)の前記少なくとも1つが、少なくとも3つの前記要素レンズ(EL)を含み、互いに隣接する各対の前記要素レンズが互いに間隔を空けて配置され、各対の前記要素レンズの間に前記フッ素オイル又は前記フッ素樹脂が充填されていると良い。
【0021】
この態様によれば、接合レンズが3つ以上の要素レンズを含んでいても、要素レンズ同士の接合が容易で接合レンズがひずみにくいうえ、劣化による光透過率の低下が抑制される。
【発明の効果】
【0022】
以上の態様によれば、瞳の遮蔽が無く、小型で視野が広い上に高NAを実現出来る屈折型対物レンズにおいて、深紫外から可視に至る連続した波長域で色消しを実現することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来例に係る望遠鏡対物レンズの光路図
図2】従来例に係る望遠鏡対物レンズの軸上色収差を示す図
図3】本発明に係る望遠鏡対物レンズの光路図
図4】本発明に係る望遠鏡対物レンズの軸上色収差を示す図
図5】実施例に係る対物レンズの光路図
図6】実施例に係る対物レンズの球面収差図
図7】実施例に係る対物レンズの横収差図
図8】実施例に係る対物レンズの波長に対するフォーカス位置を示す図
図9】比較例に係る対物レンズの光路図
図10】比較例に係る対物レンズの球面収差図
図11】比較例に係る対物レンズの横収差図
図12】比較例に係る対物レンズの波長に対するフォーカス位置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
実施形態では、深紫外から可視に至る連続した波長域で色収差補正を行うという目的が、反射面を用いずに、フッ化物により構成される要素レンズEL同士の接合により達成される。これにより、瞳の中心遮蔽を防ぐことが出来る小型な光学系が実現される。
【0026】
実施形態の説明に先立ち、まずは本発明の原理を説明する。実施形態に係る屈折型対物レンズは、軸上色収差を高度に補正するため、フッ化物(フッ化物結晶あるいはフッ化物ガラス)同士が接合されてなるレンズを有する。以下、その効果について説明する。
【0027】
300nmを下回る波長域で使用可能な屈折型対物レンズの設計において、透過性のある材料は少ないため、使用出来る材料は非常に限られている。具体的には、石英及びCaF2(フッ化カルシウム)をはじめとするフッ化物のみが選択可能である。光学材料として使用可能なフッ化物単結晶としては、CaF2の他、LiF(フッ化リチウム)、BaF2(フッ化バリウム)、SrF2(フッ化ストロンチウム)などが挙げられる。
【0028】
また、特許文献6及び非特許文献3に示されるように、近年、すべてフッ化物より構成され、非常に低い分散を示し、なおかつ紫外線の透過率が高い光学ガラスが開発された。具体的には、株式会社住田光学ガラス製K-FIR100UV、K-FIR98UVが挙げられる。
【0029】
一般に対物レンズの色収差を補正するためには、波長に対する分散が異なる複数の材料を組み合わせる必要がある。具体的には、石英(高分散材料)により構成される凹レンズ、フッ化物(低分散材料)により構成される凸レンズを組み合わせて色収差補正がなされる。この場合、凹レンズと凸レンズとは互いに接合されていても良いし、わずかな空気間隙を開けて隣接させても良い。従来の深紫外線対物レンズはすべてこの方法で設計されている。
【0030】
しかしこの設計法では、ある2つの波長に対して軸上色消し(=焦点位置を等しくする)が可能であるのだが、それ以外の波長の軸上色収差が大きくなってしまうという問題がある。色消しされた波長以外の波長の色収差は、一般的に二次スペクトルと呼ばれる。
【0031】
以下、この現象について数式を用いて理論的に説明する。
【0032】
凸レンズ(第1要素レンズ)と凹レンズ(第2要素レンズ)との組み合わせよりなる接合レンズを考え、それぞれの屈折力をφ,φとする。
【数1】
【数2】
ここで、nはレンズiの基準波長における屈折率、cはレンズiの形状=全曲率(total curvature)である。また、異なる波長の屈折率には、記号'を付け、n',n''・・・の様に表す。
【0033】
接合レンズ全体の屈折力(=1/焦点距離)は定まっているとすると、次の式が成り立つ。
【数3】
ここで、全屈折力を1に規格化している。
【0034】
ある基準波長及び、'を付けたある波長の焦点位置が等しい(=軸上色収差が補正されている)状態を数式で表すと次の式が成り立つ。
【数4】
これを整理すると次の式になる。
【数5】
φ1の係数(n-n')/(n-1)は分散を表すアッベ数νの逆数に相当する量であり、便宜上1/νで表すことにする。
【0035】
すなわち解くべき連立方程式は以下である。
【数6】
ここでの条件式は2つであり、未知数も2つである。したがって、分散1/νの異なる材質を選ぶことで原理的にはある2つの波長で色消しされた解が得られる。
【0036】
第3の波長に対する屈折率をn''と表すことにする。この波長に対しても、基準波長のものと焦点位置が一致している(=二次スペクトルが除去されている)という条件は、式(5)同様、次の式で表される。
【数7】
ここで、式(6)の下段の式(φ/ν+φ/ν=0)から得られる以下の関係式(8)を式(7)に代入することで次の式(9)が得られる。
【数8】
【数9】
【0037】
部分分散比Pは次の式(10)で定義される。
【数10】
したがって、第3の波長に対しても色消しされている条件は式(9)より、式(11)となる。
【数11】
すなわち2つの材料の部分分散比Pが等しいことが必要である。
【0038】
これを石英、フッ化物(CaF2、LiF、K-FIR100UV)に対して具体的に確認したものが表1である。
【0039】
【表1】
【0040】
ここで、色消しは深紫外域(266nm)及び可視域(436~656nm)を想定するため、アッベ数ν(587-266)を考え、部分分散比Pとしては、可視域内の色消し性能の指標であるg線(436nm)及びF線(656nm)の部分分散比Pg,Fの計算値を示した。
【0041】
最も広く使われる石英とCaF2との組み合わせでは、深紫外光及び可視光に対するアッベ数ν(587-266)の値は異なっているので離れた波長同士(具体的には266nm及び587nm)の色消しは可能である。しかしながら、表1によると、可視域での部分分散比Pg,Fが等しくないため、この組み合わせでは、可視域内の広い波長域で色消しすることは出来ない。以上のことは、他のフッ化物に対しても同じことが言える。
【0042】
本願発明者は、上記の部分分散比Pg,Fのミスマッチを解消するため、通常の設計では行わない共にフッ化物により構成される凸レンズと凹レンズとの接合レンズを用いることを新たに着想し、この配置が広い波長域における色収差に有効であることを新たに見出した。以下この効果について説明する。
【0043】
f=200mm、Fナンバー:10の、深紫外域及び可視域に対して補正された望遠鏡対物レンズOLを例として、この効果を示す。
【0044】
図1は、従来例に係る望遠鏡対物レンズOL1の光路図である。図1に示すように、この望遠鏡対物レンズOL1は、3つの単レンズSL(SL1~SL3)により構成されている。拡大側(すなわち、入射側)に配置された単レンズSL1はCaF2により構成される凸レンズである。単レンズSL2は石英により構成される凹レンズである。単レンズSL3はCaF2により構成される凸レンズである。図2は、この望遠鏡対物レンズOL1の軸上色収差図である。
【0045】
図3は、本発明に係る望遠鏡対物レンズOL2の光路図である。図3に示すように、この望遠鏡対物レンズOL2は、2つの単レンズSL(SL11~SL12)と1つの接合レンズJL1とにより構成されている。接合レンズJL1は2つの要素レンズEL(EL1~EL2)により構成されている。拡大側に配置された単レンズSL11はCaF2により構成される凸レンズである。単レンズSL12は石英により構成される凹レンズである。要素レンズEL1はCaF2により構成される凹レンズである。要素レンズEL2はK-FIR100UVにより構成される凸レンズである。この望遠鏡対物レンズOL2は、フッ化物同士(すなわちCaF2及びK-FIR100UV)の接合レンズJL1を含む。図4は、この望遠鏡対物レンズOL2の軸上色収差図である。
【0046】
図2及び図4の比較により、フッ化物同士の接合レンズJL1を含む望遠鏡対物レンズOL2は、可視域(436~656nm)の軸上色収差が約半分に減少していることが見て取れる。
【0047】
このことを理論的に説明すると以下の通りである。
【0048】
表1に示す通りCaF2及びK-FIR100UVの深紫外光及び可視光に対するアッベ数ν(587-266)は似通っている。したがって、CaF2及びK-FIR100UVの全体として凸の接合レンズJL1は、深紫外光及び可視光(587nm)に対しては接合の効果は殆どなく、アッベ数νが約17のレンズとして振る舞う。このことにより、266nmと587nmとの間の波長の色消しは、石英により構成される凹レンズ(SL12)と接合レンズJL1とを組み合わせることで実現出来る。
【0049】
一方、この接合レンズJL1は、可視域(436~656nm)に対しては全く異なる効果を示す。すなわち、CaF2により構成される凹レンズ(EL1)とK-FIR100UVにより構成される凸レンズ(EL2)のパワー配分を変えることにより、部分分散比Pg,Fを任意の値にすることが出来る。そこで、石英により構成される凹レンズ(SL12)の部分分散比Pg,Fと接合レンズJL1の部分分散比Pg,Fとを概ね同じ値に揃えることにより、可視域での二次スペクトルを減少させることが出来る。
【0050】
ここで、異なる複数の要素レンズELを結合させ、1つの接合レンズJLにする利点及び、レンズ接合構造について補足する。
【0051】
接合レンズJLを用いる第1の利点は、偏心感度の低減である。
【0052】
一般に色消しのための凸レンズと凹レンズとの組は、非常に曲率半径の小さい面同士を対向させる必要がある。この必要は、紫外域の様に凸レンズ及び凹レンズの分散が互いに近い波長域で色消しする際に著しい。このレンズの組を、間に薄い空気層を配置して構成した場合(分離型、あるいは空気レンズ)、空気に面する面の偏心感度は非常に高い。すなわち、実際に組み立てたときにレンズ相互に軸ずれが生じた場合、大きな偏心コマ収差が生じてしまう。そこで、レンズを相互に接合することにより、収差補正効果はそのままに、空気に面した面を排除出来るため、一体の接合レンズJLとすることで偏心感度を下げることが出来る。
【0053】
第2の利点は、より強い色収差補正効果である。
【0054】
空気層を間に持つ分離型レンズの組(単レンズSLの組)において、レンズから空気、あるいは空気からレンズに光線が通る場合、屈折率差が大きいため、ある角度以上では全反射が起きてしまう。すなわち、色収差を補正するため光線を強く曲げなくてはならないが、分離型レンズでは、全反射がその限界を与える。一方、接合レンズJLでは、常に要素レンズELから要素レンズELに光線が進むため全反射が起きにくく、より強い色収差補正効果を得ることが出来る。
【0055】
次にレンズ接合構造について補足する。
【0056】
可視域におけるレンズ接合構造では、相互の要素レンズEL間に紫外硬化型樹脂を充填することが一般的である。しかしながら、本発明に係る対物レンズOLは、深紫外域での使用を想定している。そのため、紫外硬化型樹脂を用いた場合には紫外線により硬化反応が進むために樹脂の劣化、具体的には白濁や黄変、透過率低下といった問題が起きる。また、シリコーン系樹脂、シリコーンオイルなどの透明シリコーンによる接合でも、紫外線照射によりシロキサンが生じ、紫外線透過率が低下するという問題が起きる(特開2003-185808号公報参照)。
【0057】
紫外域におけるレンズ接合構造として、紫外線に対して高い透過率を有するフッ素系樹脂あるいはフッ素オイルによる接合構造が知られている。必要であれば、特開2006-282734号公報、特表2003-514955号公報、特開2003-12349号公報を参照されたい。また、光学素子同士をオプティカルコンタクトにより直接接合する方法も知られている(必要であれば、特許第6006391号公報参照)。後者の方法において、一般には異種材料に適用する際、線膨張係数の相違により、レンズ相互を接合しづらい、あるいは接合後にレンズにひずみが生じるという問題がある。しかしながら、本発明に係る対物レンズOLでは、フッ化物同士(フッ化物結晶あるいはフッ化物ガラス)の接合であるため、互いの線膨張係数は近く、接合は容易であり、また、接合後にひずみにくいという利点がある。
【0058】
本発明の対物レンズOLは、ミラー系ではなく接合レンズJLを用いて色収差補正を行うので、瞳の中心遮蔽が無く、またレンズ径全体が小型になるという利点がある。
【0059】
このように本発明では、深紫外から可視に至る連続した波長域で色収差補正を行うという目的を、反射面を用いずに、フッ化物により構成される要素レンズEL同士の接合により達成することで、瞳の中心遮蔽を防ぐことが出来る小型な光学系が実現された。
【実施例0060】
実施例は、波長266~630nm、f=2mm、NA0.85の対物レンズOL3である。表2にレンズデータを示す。
【0061】
図5は実施例に係る対物レンズOL3の光路図、図6は実施例に係る対物レンズOL3の球面収差図、図7は実施例に係る対物レンズOL3の横収差図、図8は実施例に係る対物レンズOL3の波長に対するフォーカス位置(軸上色収差量)を示す図である。表2によれば、すべてフッ化物よりなる2個の接合レンズJL11、JL12(11~13面、15~17面)を含み、この効果により、266nmから可視域に至る色収差が10μm以内と良好に補正されている。
【0062】
【表2】
【0063】
<比較例>
比較例は、実施例と同じ波長266~630nm、f=2mm、NA0.85の対物レンズOL4を、従来の組み合わせで最適化したものである。表3に比較例に係る対物レンズOL4のレンズデータを示す。
【0064】
図9は比較例に係る対物レンズOL4の光路図、図10は比較例に係る対物レンズOL4の球面収差図、図11は比較例に係る対物レンズOL4の横収差図、図12は比較例に係る対物レンズOL4の波長に対するフォーカス位置(軸上色収差量)を示す図である。表3によれば、この対物レンズOL4における接合レンズJLは、従来知られている組み合わせである蛍石(CaF2)と石英とよりなり、その結果、図12に示すように色収差補正効果は不十分であり、実施例と比較して約4倍の大きさである。
【0065】
【表3】
【0066】
このように実施形態に係る対物レンズOLは、複数の接合レンズJLを含み、接合レンズJLの少なくとも1つが、フッ化物により構成される複数の要素レンズELのみによって構成されている。すなわち、軸上色収差を高度に補正するため、対物レンズOLはフッ化物により構成される要素レンズEL同士が接合されてなる接合レンズJLを含む。そのため、複数の要素レンズELのみによって構成された接合レンズJLによって、深紫外から可視に至る連続した波長域で軸上色収差を高度に補正することが出来る。よって、瞳の遮蔽が無く、小型で視野が広い上に高NAを実現出来る屈折型の対物レンズOLにおいて、深紫外から可視に至る連続した波長域で色消しを実現することが出来る。
【0067】
接合レンズJLの少なくとも1つが、オプティカルコンタクトにより互いに接合された2つの要素レンズELを含む。つまり、互いの線膨張係数が近いフッ化物同士の接合によって接合レンズJLが構成されるため、要素レンズEL同士の接合が容易であり、また、接合後に接合レンズJLがひずみにくい。
【0068】
接合レンズJLの少なくとも1つが、少なくとも3つの要素レンズELを含む場合、互いに隣接する各対の要素レンズELがオプティカルコンタクトにより互いに接合されているとよい。これにより、接合レンズJLが3つ以上の要素レンズELを含んでいても、要素レンズEL同士の接合が容易であり、接合後に接合レンズJLがひずみにくい。
【0069】
一方、接合レンズJLの少なくとも1つが、間隔を空けて配置された2つの要素レンズELを含み、2つの要素レンズELの間にフッ素オイル又はフッ素樹脂が充填されていてもよい。この場合でも、要素レンズEL同士の接合が容易で接合レンズJLがひずみにくい。また、フッ素オイル及びフッ素樹脂は紫外線に対して高い透過率を有するため、紫外硬化型樹脂のように紫外線による劣化によって光透過率が低下することが抑制される。
【0070】
接合レンズJLの少なくとも1つが、少なくとも3つの要素レンズELを含む場合、互いに隣接する各対の要素レンズELが互いに間隔を空けて配置され、各対の要素レンズELの間にフッ素オイル又はフッ素樹脂が充填されているとよい。これにより、接合レンズJLが3つ以上の要素レンズELを含んでいても、要素レンズEL同士の接合が容易で接合レンズJLがひずみにくいうえ、劣化による光透過率の低下が抑制される。
【0071】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や実施例に限定されることなく、幅広く変形実施することが出来る。また、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、素材など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0072】
深紫外から可視に至る連続した波長域で画像を、中心遮蔽がないので効率良く取得出来る。その結果、例えば微弱な光を検出する生体の蛍光観察用途に適する。また、微細なパターンを検出する半導体用途にも適している。さらに、光学系全体が小型に構成出来るので、光学系を小さく安価に構成するのにも適している。
【符号の説明】
【0073】
EL :要素レンズ
EL1 :要素レンズ
EL2 :要素レンズ
JL :接合レンズ
JL1 :接合レンズ
JL11 :接合レンズ
JL12 :接合レンズ
OL :対物レンズ
OL1 :望遠鏡対物レンズ(従来例)
OL2 :望遠鏡対物レンズ(本発明)
OL3 :対物レンズ(実施例)
OL4 :対物レンズ(比較例)
Pg,F :g線及びF線の部分分散比
Pi :部分分散比
SL :単レンズ
SL1 :単レンズ
SL2 :単レンズ
SL3 :単レンズ
SL11 :単レンズ
SL12 :単レンズ
i :レンズ
ν :アッベ数
図1
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