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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031458
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】蒸着装置及び蒸着方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/50 20060101AFI20240229BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C23C14/50
C23C14/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135017
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】500171707
【氏名又は名称】株式会社ブイ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100170070
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】若林 雅
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029CA01
4K029HA01
4K029JA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】マスクフレームの平面度の影響を受けずにマスクと基板とを密着させることができる装置及び方法を提供する。
【解決手段】当接面30aを有する板状の被蒸着対象物保持部30と、当接面に隣接するマスク組立体40と、マスク組立体を挟んで被蒸着対象物の反対側に、マスク組立体に隣接して設けられた押圧部50と、押圧部を挟んでマスク組立体の反対側に設けられた蒸着源を備える。マスク組立体は、枠状のマスクフレームと、第1中空部を覆う被蒸着対象物保持部に沿うマスクとを有し、押圧部は、本体部と、第1当接部とを有し、本体部は、被蒸着対象物保持部の延設方向と直交する第1方向から見て被蒸着対象物より小さい中空部である第2中空部と、マスクに沿って延設された対向面を有する。本体部は、マスクと被蒸着対象物との間に隙間がある第1形態と、第1当接部がマスクを押し上げてマスクを被蒸着対象物に押圧する第2形態との間で移動可能である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の被蒸着対象物が当接する当接面を有する板状の被蒸着対象物保持部と、
前記当接面に隣接して設けられたマスク組立体と、
前記マスク組立体を挟んで前記被蒸着対象物の反対側に、前記マスク組立体に隣接して設けられた押圧部と、
前記押圧部を挟んで前記マスク組立体の反対側に設けられた蒸着源と、
を備え、
前記マスク組立体は、枠状のマスクフレームと、前記マスクフレームの中空部である第1中空部を覆うように前記被蒸着対象物保持部に沿って設けられたマスクと、を有し、
前記押圧部は、本体部と、前記本体部に設けられている第1当接部と、を有し、
前記本体部は、前記被蒸着対象物保持部の延設方向と直交する第1方向から見て前記被蒸着対象物より小さい中空部である第2中空部と、前記マスクに沿って延設された対向面を有し、
前記第1当接部は、前記第1方向に沿って見たときに前記被蒸着対象物と重なるように前記対向面に設けられており、
前記本体部は、前記マスクと前記被蒸着対象物との間に隙間がある第1形態と、前記第1当接部が前記マスクを押し上げて前記マスクを前記被蒸着対象物に押圧する第2形態との間で前記第1方向に移動可能である
ことを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記第1当接部は、前記対向面から突出するように、前記対向面に形成された溝に設けられた弾性部材である
ことを特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記第1当接部は、前記対向面に設けられたリブ状の凸部であり、
前記本体部は、前記第2中空部が設けられた板状部と、前記板状部に設けられており、前記第1方向に延設されたシャフトと、前記第1方向に移動可能な昇降軸と、前記シャフトと前記昇降軸との間に設けられた第1弾性部材とを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記本体部は、前記板状部と前記シャフトとの間に設けられた球面軸受を有する
ことを特徴とする請求項3に記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記当接面は、前記被蒸着対象物に向けて凸となる曲面を有する、又は、前記被蒸着対象物に向けて凸となる突起を有する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の蒸着装置。
【請求項6】
前記押圧部は、前記第2中空部を横切るように前記本体部に設けられた棒状のブリッジと、前記ブリッジに設けられた押圧部材と、を有し、
前記ブリッジは、前記対向面よりも前記マスクから離れた位置に、前記マスクと略平行に設けられており、
前記押圧部材は、前記マスクに当接する第2当接部を有し、
前記第2当接部は、前記対向面よりも前記マスク側に位置する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の蒸着装置。
【請求項7】
前記押圧部材は、前記第2当接部を前記第1方向に移動させる第2弾性部材を有する
ことを特徴とする請求項6に記載の蒸着装置。
【請求項8】
板状の被蒸着対象物を、板状の被蒸着対象物保持部の当接面に当接させる保持ステップと、
前記当接面に隣接して設けられ、枠状のマスクフレーム及びマスクを有するマスク組立体を、前記マスク組立体を挟んで前記被蒸着対象物の反対側に、前記マスク組立体に隣接して設けられた押圧部により押圧して前記被蒸着対象物に前記マスクを密着させる押圧ステップと、
前記押圧部を挟んで前記マスク組立体の反対側に設けられた蒸着源から気化した蒸着材を前記被蒸着対象物に向けて噴射する蒸着ステップと、
を含み、
前記マスクは、前記マスクフレームの中空部である第1中空部を覆うように前記被蒸着対象物保持部に沿って設けられており、
前記押圧部は、前記被蒸着対象物保持部の延設方向と直交する第1方向から見て前記被蒸着対象物より小さい中空部である第2中空部と、前記マスクに沿って延設された対向面を有する本体部と、前記本体部に設けられている第1当接部と、を有し、
前記第1当接部は、前記第1方向に沿って見たときに前記被蒸着対象物と重なるように前記対向面に設けられており、
前記押圧ステップでは、前記マスクと前記被蒸着対象物との間に隙間がある状態から、前記本体部を前記第1方向に移動させて前記第1当接部により前記マスクを押し上げて、前記被蒸着対象物に前記マスクを密着させる
ことを特徴とする蒸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置及び蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、所定の蒸着パターンを有するマスクを介して蒸着材料を基板に蒸着して有機ELデバイスを製造する有機ELデバイス製造方法において、所定間隔で形成された所定の蒸着パターンの所定間隔の部分を押し付けて蒸着を行う有機ELデバイス製造装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-247040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機ELデバイスの製造に、マスクを用いて薄膜の蒸着パターンを形成する真空蒸着法が一般的に用いられている。蒸着において、マスクの密着性は成膜パターンの品質にとって重要であり、マスクと基板とが密着していないと、隙間から蒸着分子が回り込み、蒸着パターンの輪郭がぼやけてしまうという問題がある。特に、高精細マスク(FMM)を用いて超小型デバイスの蒸着を行う場合には、パターンが小さく、またパターン間の間隔が狭いため、これまで以上に基板とマスクとの密着性が重要である。
【0005】
特許文献1に記載の発明は、マスクフレームが基板に接触するため、マスクフレームの平面度が大きく影響する。つまり、たとえマスク押付機構を用いてマスクを基板に密着させようとしても、マスクフレームの凹凸によりマスクフレームと基板との隙間があいてしまうため、この隙間によりマスクと基板とを密着させることができない。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、マスクフレームの平面度の影響を受けずにマスクと基板とを密着させることができる蒸着装置及び蒸着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る蒸着装置は、例えば、板状の被蒸着対象物が当接する当接面を有する板状の被蒸着対象物保持部と、前記当接面に隣接して設けられたマスク組立体と、前記マスク組立体を挟んで前記被蒸着対象物の反対側に、前記マスク組立体に隣接して設けられた押圧部と、前記押圧部を挟んで前記マスク組立体の反対側に設けられた蒸着源と、を備え、前記マスク組立体は、枠状のマスクフレームと、前記マスクフレームの中空部である第1中空部を覆うように前記被蒸着対象物保持部に沿って設けられたマスクと、を有し、前記押圧部は、本体部と、前記本体部に設けられている第1当接部と、を有し、前記本体部は、前記被蒸着対象物保持部の延設方向と直交する第1方向から見て前記被蒸着対象物より小さい中空部である第2中空部と、前記マスクに沿って延設された対向面を有し、前記第1当接部は、前記第1方向に沿って見たときに前記被蒸着対象物と重なるように前記対向面に設けられており、前記本体部は、前記マスクと前記被蒸着対象物との間に隙間がある第1形態と、前記第1当接部が前記マスクを押し上げて前記マスクを前記被蒸着対象物に押圧する第2形態との間で前記第1方向に移動可能であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る蒸着装置によれば、マスクと被蒸着対象物との間に隙間がある第1形態と、第1当接部がマスクを押し上げてマスクを被蒸着対象物に押圧する第2形態との間で本体部が第1方向に移動可能である。これにより、マスクフレームの平面度の影響を受けずにマスクと基板とを密着させることができる。
【0009】
なお、前記第1中空部を、前記被蒸着対象物保持部の延設方向と直交する第1方向から見て前記被蒸着対象物保持部より大きくし、マスクフレームが被蒸着対象物に当接しないようにしてもよい。
【0010】
前記第1当接部は、前記対向面から突出するように、前記対向面に形成された溝に設けられた弾性部材であってもよい。これにより、マスクが被蒸着対象物に押圧するときに第1当接部が弾性変形することで、被蒸着対象物や被蒸着対象物保持部の変形や破損を防止することができる。
【0011】
前記第1当接部は、前記対向面に設けられたリブ状の凸部であり、前記本体部は、前記第2中空部が設けられた板状部と、前記板状部に設けられており、前記第1方向に延設されたシャフトと、前記第1方向に移動可能な昇降軸と、前記シャフトと前記昇降軸との間に設けられた第1弾性部材とを有してもよい。これにより、マスクが被蒸着対象物に押圧するときに第1弾性部材が弾性変形することで、被蒸着対象物や被蒸着対象物保持部の変形や破損を防止することができる。
【0012】
前記本体部は、前記板状部と前記シャフトとの間に設けられた球面軸受を有してもよい。これにより、本体部の傾斜を球面軸受で吸収して、押圧部や被蒸着対象物の破損を防止することができる。
【0013】
前記当接面は、前記被蒸着対象物に向けて凸となる曲面を有する、又は、前記被蒸着対象物に向けて凸となる突起を有してもよい。これにより、被蒸着対象物の周縁近傍が高く中央近傍が低くなるように被蒸着対象物を撓ませことができる。
【0014】
前記押圧部は、前記第2中空部を横切るように前記本体部に設けられた棒状のブリッジと、前記ブリッジに設けられた押圧部材と、を有し、前記ブリッジは、前記対向面よりも前記マスクから離れた位置に、前記マスクと略平行に設けられており、前記押圧部材は、前記マスクに当接する第2当接部を有し、前記第2当接部は、前記対向面よりも前記マスク側に位置してもよい。これにより、被蒸着対象物やマスクの周縁部以外の位置において第2当接部がマスクを被蒸着対象物に押圧することができる。したがって、第1当接部による押圧のみでマスクが被蒸着対象物の面に沿って密着しなかったとしても、マスクを被蒸着対象物に密着させることができる。
【0015】
前記押圧部材は、前記第2当接部を前記第1方向に移動させる第2弾性部材を有してもよい。これにより、マスクや被蒸着対象物の高さ方向の位置にばらつきがある場合にも第2当接部がマスクを被蒸着対象物に押圧することができる。
【0016】
また、本発明に係る蒸着方法は、例えば、板状の被蒸着対象物を、板状の被蒸着対象物保持部の当接面に当接させる保持ステップと、前記当接面に隣接して設けられ、枠状のマスクフレーム及びマスクを有するマスク組立体を、前記マスク組立体を挟んで前記被蒸着対象物の反対側に、前記マスク組立体に隣接して設けられた押圧部により押圧して前記被蒸着対象物に前記マスクを密着させる押圧ステップと、前記押圧部を挟んで前記マスク組立体の反対側に設けられた蒸着源から気化した蒸着材を前記被蒸着対象物に向けて噴射する蒸着ステップと、を含み、前記マスクは、前記マスクフレームの中空部である第1中空部を覆うように前記被蒸着対象物保持部に沿って設けられており、前記押圧部は、前記被蒸着対象物保持部の延設方向と直交する第1方向から見て前記被蒸着対象物より小さい中空部である第2中空部と、前記マスクに沿って延設された対向面を有する本体部と、前記本体部に設けられている第1当接部と、を有し、前記第1当接部は、前記第1方向に沿って見たときに前記被蒸着対象物と重なるように前記対向面に設けられており、前記押圧ステップでは、前記マスクと前記被蒸着対象物との間に隙間がある状態から、前記本体部を前記第1方向に移動させて前記第1当接部により前記マスクを押し上げて、前記被蒸着対象物に前記マスクを密着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マスクフレームの平面度の影響を受けずにマスクと基板とを密着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】蒸着装置1の概略を示す図である。
図2】蒸着装置1の要部の概略を示す斜視図である。
図3図2の断面Iで蒸着装置1の要部を切断した時の概略を示す図であり、(A)はマスク43とワークWが当接していない状態を示し、(B)はマスク43とワークWが当接している状態を示す。
図4】(A)、(B)は、それぞれ図3(A)、(B)の部分拡大図である。
図5】(A)、(B)は、それぞれワーク保持部30A、30Bを模式的に示す図である。
図6】蒸着装置2の概略を示す要部斜視図である。
図7図6の断面IIで蒸着装置2の要部を切断した時の概略を示す図である。
図8図7の部分拡大図である。
図9】蒸着装置3の概略を示す要部斜視図である。
図10図9の断面IIIで蒸着装置3の要部を切断した時の概略を示す図であり、一部を拡大している。
図11】蒸着装置4の概略を示す要部斜視図である。
図12】蒸着装置4の概略を示す断面図であり、(A)は図11の面IVにおける断面図であり、(B)は図11の面Vにおける断面図である。
図13図12(B)の部分拡大図である。
図14】押圧部材55Aの概略を示す図である。
図15】押圧部50Dを有する蒸着装置4Aの概略を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。本発明の蒸着装置は、有機EL装置の製造に用いられる装置であり、ウェハ、ガラス基板等の板状の被蒸着対象物(以下、ワークという)に、高精細なパターンを有する高精細マスク(FMM)を用いて発光層等の有機化合物層を蒸着する。蒸着は、ワークの成膜面を下向きにして行われる。
【0020】
<第1の実施の形態>
図1は、第1の実施の形態に係る蒸着装置1の概略を示す図である。以下、蒸着装置1の奥行き方向をY方向とし、水平面においてY方向と直交する方向をX方向とする。また、X方向及びY方向と直交する方向をZ方向(鉛直方向)とする。
【0021】
蒸着装置1は、主として、真空容器10と、蒸着源20と、ワーク保持部30と、マスク組立体40と、押圧部50とを備える。蒸着源20、ワーク保持部30、マスク組立体40及び押圧部50は、真空容器10の内部に設けられる。
【0022】
真空容器10は、減圧状態を維持可能な容器である。真空容器10には、真空容器10内の気体を排出するポンプ、真空容器10内に任意の気体を供給するガス供給部等が設けられていてもよい。
【0023】
蒸着源20は、例えば、真空容器10内の底部または底部近傍に設けられている。蒸着源20は、固体状の蒸着材を収容する収容部21と、蒸着材を加熱する加熱部(図示省略)と、加熱により気化した蒸着材を噴射する1又は複数のノズル22を有する。ノズル22は、上側(+Z側)に設けられており、気化した蒸着材を上向き(+Z向き)に噴射する。
【0024】
ワーク保持部30は、ノズル22の上側に、水平方向に沿ってワークWを保持する。ワーク保持部30は、ワークWを着脱可能に保持する。ワークWは、ワーク保持部30の下側(-Z側)に設けられる。図示していないが、ワーク保持部30の上側には、高精密マスク(FMM、以下マスク43という、図3等参照)を磁力で吸引するマグネットプレートが設けられている。マグネットプレートは公知であるため、説明を省略する。
【0025】
マスク組立体40は、マスク43を有し、ワークWと蒸着源20との間、すなわちワークWの下側に、ワーク保持部30に隣接して設けられている。押圧部50は、マスク組立体40と蒸着源20との間、すなわちマスク組立体40の-Z側に、マスク組立体40に隣接して設けられている。言い換えれば、押圧部50は、マスク組立体40を挟んでワークWの反対側に設けられている。
【0026】
また、蒸着源20は、押圧部50を挟んでマスク組立体40の反対側に、すなわち押圧部50の-Z側に、ワーク保持部30、ワークW、マスク組立体40及び押圧部50と離間して設けられている。
【0027】
図2は、蒸着装置1の要部(ワーク保持部30、マスク組立体40及び押圧部50)の概略を示す斜視図である。図2では、ワーク保持部30の下側に設けられたワークWは視認されない。また、蒸着装置1で蒸着を行う対象のワークWはウェハ(円板状)であり、ワーク保持部30、マスク組立体40及び押圧部50は平面視において(+Z方向から見て)円形状である。
【0028】
図3は、図2の断面Iで蒸着装置1の要部を切断した時の概略を示す図であり、(A)はマスク43とワークWが当接していない状態を示し、(B)はマスク43とワークWが当接している状態を示す。図4(A)、(B)は、図3(A)、(B)の部分拡大図である。
【0029】
ワーク保持部30は、-Z側の面が当接面30aである。当接面30aには、ワークWが当接する。
【0030】
マスク組立体40は、主として、マスクフレーム41と、マスク43とを有する。マスクフレーム41は、常温付近で熱膨張率が小さい低膨張合金、例えば鉄に36%程度のニッケルを加えたインバーを用いることができる。
【0031】
マスクフレーム41は、中空部41a(本発明の第1中空部に相当)が設けられた板状(すなわち、枠状)である。本実施の形態では円板状のワークWを用いるため、マスクフレーム41は環状である。中空部41aは、Z方向(本発明の第1方向に相当)から見て、ワークW及びワーク保持部30より大きい。
【0032】
マスクフレーム41は、真空容器10に設けられたマスクステージ42に着脱可能に取り付けられる。マスクステージ42は、環状であり、中空部42aを有する。中空部42aの大きさは中空部41aの大きさ以上であればよく、本実施の形態は中空部41a、42aの大きさは同じである。ただし、マスクフレーム41を真空容器10の内部に設ける態様は、マスクステージ42を用いる態様に限られない。中空部41aを覆わないようにマスクフレーム41を真空容器10の内部に設ければよく、例えば、複数本の棒状部材を介してマスクフレーム41を真空容器10の内部に設けてもよい。
【0033】
マスクフレーム41はマスクステージ42の+Z側に設けられており、マスク43はマスクフレーム41+Z側(ワークW側)の上面41bに設けられている。すなわち、マスク43は、中空部41aを覆うように、ワーク保持部30及びワークWに沿って設けられている。また、マスク43は、ワークWに隣接して設けられている。
【0034】
押圧部50は、主として、マスクプッシャ51(本発明の本体部に相当)と、マスクプッシャ51に設けられた当接部52と、マスクプッシャ51をZ方向に移動させる昇降部53とを有する。昇降部53は、マスクステージ42に設けられた孔42bに挿入されている。
【0035】
昇降部53は、棒状であり、マスクプッシャ51に設けられている。マスクプッシャ51は、昇降部53によりZ方向に移動可能である。例えば、昇降部53には図示しない駆動部が設けられており、駆動部により昇降部53がZ方向に移動されると、マスクプッシャ51がZ方向に移動される。このように、マスクプッシャ51は、マスク43とワークWとの間に隙間がある形態(図3(A)、図4(A)参照、本発明の第1形態に相当)と、当接部52がマスクを押し上げてマスク43をワークWに押圧する形態(図3(B)、図4(B)参照、本発明の第2形態に相当)との間でZ方向に移動可能に構成されている。
【0036】
本実施の形態では円板状のワークWを用いるため、マスクプッシャ51は+Z方向から見て(Z方向に沿って見たときに)円形状である。マスクプッシャ51は、中空部51a(本発明の第2中空部に相当)を有する。中空部51aは、+Z方向から見たときに(Z方向に沿って見たときに)ワークWより小さい円形状である。また、マスクプッシャ51は、中空部51aに隣接して、ワークWと対向する対向面51bを有する。対向面51bは、マスク43に沿って延設されている。
【0037】
対向面51bには当接部52(本発明の第1当接部に相当)が設けられている。当接部52は、弾性部材、例えばOリングである。本実施の形態では、円板状のワークWを用いるため、当接部52は環状である。当接部52に用いる材料としては、一般的にOリングに用いられる材料、例えば、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、パーフルオロエラストマーの弾性を有する材料を用いることができる。
【0038】
当接部52は、対向面51bから突出するように、対向面51bに形成された溝51cに設けられている。また、当接部52は、中空部51aに隣接して、Z方向に沿って見たときに中空部51aに重ならないように、かつ、ワークW及びワーク保持部30と重なるように設けられている。
【0039】
図3(A)、図4(A)に示すようにマスクプッシャ51が-Z側の端にある場合には、当接部52がマスク43に当接していない。このときのワークWとマスク43との隙間は1μm~0.1mm程度と非常に小さい。なお、ワークWは水平方向に沿って延設されているため、撓みにくいシリコン製のワークWであったとしても重力により撓み、ワークWの周縁近傍が高く中央近傍が低くなる。ただし、マスク43は、マスクフレーム41に貼付されるときに一定の張力が与えられており、一般的にワークWよりも撓みにくい。
【0040】
それに対し、マスクプッシャ51を+Z方向に移動させると、当接部52がマスク43に当接し、マスク43がワークWに当接するまでマスク43を押し上げて、図3(B)、図4(B)に示す状態になる。
【0041】
マスク43はマスクフレーム41に貼付されるときに一定の張力が与えられており、またワークWが撓んでいるため、マスク43が押し上げられてワークWに当接することでマスク43がワークWの面に倣い、マスク43がワークWの面に沿って密着する。
【0042】
Z方向に沿って見たときに、中空部51aがワークWより小さく、当接部52がワークWと重なるように設けられているため、当接部52がマスク43を介してワークWに当接する。また、Z方向に沿って見たときに中空部41aがワークWより大きいため、マスクフレーム41がワークWやワーク保持部30に当接しない。したがって、当接部52を介して、マスクプッシャ51がマスク43をワークWに押圧することができる。
【0043】
また、当接部52は弾性部材であるため、マスクプッシャ51を+Z方向に移動させ過ぎたとしても、当接部52が弾性変形し、ワークWやワーク保持部30の変形や破損が防止される。
【0044】
ワークWとマスク43との隙間は1μm~0.1mm程度と小さいが、当接部52がマスク43を押し上げるときにマスク43の一部が傾斜する。したがって、この傾斜が大きくなり過ぎないように中空部41aの大きさを設定することが望ましい。
【0045】
このように構成された蒸着装置1を用いてワークWに蒸着処理を行う処理の流れについて説明する。まず、ワークWの成膜面を下向き(-Z向き)にした状態で、ワークWを当接面30aに当接させる(保持ステップ)。このとき、マスク43とワークWとの間には隙間がある。
【0046】
次に、マスクプッシャ51を+Z方向に移動させて当接部52によりマスク43を押し上げて、ワークWにマスク43を密着させる(押圧ステップ)。その後、蒸着源20のノズル22から気化した蒸着材を上向き、すなわちワークWに向けて噴射する(蒸着ステップ)。
【0047】
本実施の形態によれば、マスクフレーム41がワークWやワーク保持部30に当接せず、当接部52によりマスク43をワークWに当接させるため、マスク43とワークWとを確実に当接させることができる。
【0048】
マスクフレーム41は金属製であり、表面を研磨して平らにしているが、表面に微小な凹凸が生じたり、全体にうねりが生じたりして、マスクフレーム41の幾何的な精度である平面度に影響を与える。マスクフレーム41がワークWに接触する場合には、平面度が示す仮想平面と理想的な平面との差異により、マスクフレーム41の近傍においてマスクフレーム41とワークWとの間に隙間ができる。この凹凸は1μm~20μm程度であるが、超小型デバイスの蒸着を行う場合には1μmの隙間であっても品質に大きく影響する回り込みが発生してしまう。
【0049】
それに対し、本実施の形態では、中空部41aがワークW及びワーク保持部30より大きく、マスクフレーム41がワークWやワーク保持部30に当接しないため、マスクフレーム41の表面の凹凸の影響を受けることはない。つまり、マスク43とワークWとの間に隙間ができることなく、マスク43とワークWとを確実に当接させることができる。
【0050】
なお、本実施の形態では、ワークWが重力により撓み、ワークWの周縁近傍が高くなり中央近傍が低くなっていたが、ワーク保持部の形状を工夫してワークWを撓ませてもよい。図5(A)、(B)は、変形例にかかるワーク保持部30A、30Bを模式的に示す図である。
【0051】
図5(A)に示すように、ワーク保持部30Aは、ワークWが当接する当接面30bがワークWに向けて凸となる曲面となっている。これにより、ワークWが当接面30bに沿って変形し、中央部が膨らんだいわゆる中高形状になる。その結果、ワークWの周縁近傍が高い位置(+Z側)に、中央近傍が低い位置(-Z側)に配置される。なお、当接面30bの一部(例えば、中央近傍)がワークWに向けて凸となる曲面であってもよい。つまり、当接面30bがワークWに向けて凸となる曲面を有すればよい。
【0052】
図5(B)示すように、ワーク保持部30Bは、ワークWが当接する当接面30cが、ワークWに向けて凸となる突起30dを有する。これにより、ワークWの突起30dと当接する部分近傍が膨らんだいわゆる中高形状になる。その結果、ワークWの周縁近傍が高い位置(+Z側)に、中央近傍が低い位置(-Z側)に配置される。
【0053】
また、本実施の形態では、Z方向から見て中空部41aがワークW及びワーク保持部30より大きいが、中空部41aの大きさはこれに限られず、中空部41aがワークWより大きくワーク保持部30の大きさ以下であってもよいし、中空部41aがワークWの大きさ以下であってもよい。中空部41aがワークWの大きさ以下であっても、マスクプッシャ51の形状(例えば、対向面51bの高さや位置)によっては当接部52がマスクを押し上げてマスク43をワークWに当接させることができる。ただし、中空部41aがワークWの大きさ以下である場合には、マスクフレーム41をワークWに当接させずにマスク43のみをワークWに当接させようとすると、ワークWの有効面積(有効にに使うことができる面積)が狭くなるうえ、当接部52がマスク43を押し上げることによるマスク43の傾斜が大きくなり過ぎるおそれがあるため、中空部41aをワークWより大きくすることが望ましい。
【0054】
<第2の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態は、弾性変形可能な当接部52がマスク43に当接してマスク43を押し上げるとともに、当接部52が弾性変形することでワークWやワーク保持部30の変形や破損を防止したが、ワークWやワーク保持部30が変形しないようにマスク43を押し上げる方法はこれに限られない。
【0055】
本発明の第2の実施の形態は、マスクプッシャをZ方向に移動させる昇降部が弾性部材を有し、この弾性部材によりワークWやワーク保持部30が変形しないようにする形態である。以下、第2の実施の形態に係る蒸着装置2について説明する。なお、第1の実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0056】
図6は、蒸着装置2の概略を示す要部斜視図である。蒸着装置2は、主として、真空容器10(図6では図示省略)と、蒸着源20(図6では図示省略)と、ワーク保持部30と、マスク組立体40Aと、押圧部50Aとを備える。蒸着源20、ワーク保持部30、マスク組立体40A及び押圧部50Aは、真空容器10の内部に設けられている。なお、図6では、ワーク保持部30の下側に設けられたワークWは視認されない。
【0057】
図7は、図6の断面IIで蒸着装置2の要部を切断した時の概略を示す図である。図8は、図7の部分拡大図である。図7、8は、マスク43とワークWが当接している状態を示す。
【0058】
マスク組立体40Aは、主として、マスクフレーム41と、マスクステージ42Aと、マスク43とを有する。なお、マスクステージ42Aは、穴42cを有する点でマスクステージ42と異なり、その他はマスクステージ42と同様である。
【0059】
押圧部50Aは、主として、マスクプッシャ51Aと、マスクプッシャ51Aに設けられた当接部52Aと、マスクプッシャ51AをZ方向に移動させる昇降部53Aとを有する。マスクプッシャ51Aは、マスク43とワークWとの間に隙間がある形態と、当接部52Aがマスク43を押し上げてマスク43をワークWに押圧する形態の間でZ方向に移動可能に構成されている。
【0060】
昇降部53Aは、棒状であり、マスクプッシャ51Aに設けられている。昇降部53Aは、主として、ガイドシャフト531と、昇降軸532と、弾性部材533と、直動ベアリング534と、球面軸受535とを有する。
【0061】
ガイドシャフト531は、棒状であり、球面軸受535を介してマスクプッシャ51Aに設けられている。球面軸受535は、固定部材537によりマスクプッシャ51Aに設けられた孔51d及び穴51eの内部に設けられている。球面軸受535は、球状部535aとハウジング535bとを有し、球状部535a(内輪)とハウジング535b(外輪)とが球面接触をする滑り軸受であり、ラジアル荷重とアシキアル荷重に対応可能である。
【0062】
また、ガイドシャフト531は、マスクステージ42Aに設けられた直動ベアリング534に設けられており、Z方向に移動可能である。直動ベアリング534は、マスクステージ42Aに設けられた孔42b及び穴42cに挿入されている。
【0063】
さらに、ガイドシャフト531は、弾性部材533を介して昇降軸532に設けられている。例えば、ガイドシャフト531の端部が昇降軸532の穴532aの内部に設けられている。弾性部材533は、例えばコイルばねであり、一端がフランジ部531aに設けられており、他端が穴532aに設けられている。
【0064】
昇降軸532には図示しない駆動部が設けられており、駆動部により昇降軸532がZ方向に移動されると、ガイドシャフト531、すなわちマスクプッシャ51AがZ方向に移動される。また、弾性部材533により、ガイドシャフト531、すなわちマスクプッシャ51Aが昇降軸532に対してZ方向に移動可能である。
【0065】
マスクプッシャ51Aの対向面51bには、当接部52Aが設けられている。当接部52Aは、対向面51bから突出するように、対向面51bに形成された溝51cに設けられている。また、当接部52Aは、Z方向に沿って見たときに、中空部51aに重ならないように、かつ、ワークWと重なるように設けられている。
【0066】
当接部52Aは、金属又は樹脂で形成されており、表面に帯電防止加工(例えば、フッ素コーティング)が施されている。ただし、帯電防止加工は必須ではない。また、当接部52Aに用いられる材料は、例えば、一般的にOリングに用いられる材料(例えば、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、パーフルオロエラストマー)、金属材料(例えば、ステンレス鋼(SUS304等))、樹脂に任意の添加剤を加えて特性を強化したエンジニアリングプラスチック(例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン))である。
【0067】
マスクプッシャ51Aを+Z方向に移動させて、当接部52Aをマスク43に当接させて、マスク43がワークWに当接するまでマスク43を押し上げる。昇降部53Aが弾性部材533を有し、マスクプッシャ51Aを+Z方向に移動させすぎたとしても、弾性部材533が弾性変形するため、ワークWやワーク保持部30の変形や破損が防止される。
【0068】
また、昇降部53Aが球面軸受535を有するため、マスクプッシャ51Aを+Z方向に移動させるときにマスクプッシャ51Aが傾斜したとしても、球面軸受535により傾斜が吸収される。したがって、押圧部50AやワークWが破損し難い。
【0069】
本実施の形態によれば、マスクフレーム41がワークWやワーク保持部30に当接せず、当接部52Aによりマスク43をワークWに当接させるため、マスク43とワークWとを確実に当接させることができる。
【0070】
<第3の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態は、ワークWが円板状のウェハであったが、ワークWはこれに限られない。
【0071】
本発明の第3の実施の形態は、ワークにガラス基板を用いる形態である。以下、第3の実施の形態に係る蒸着装置3について説明する。なお、第1、2の実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0072】
図9は、蒸着装置3の概略を示す要部斜視図である。蒸着装置3は、主として、真空容器10(図9では図示省略)と、蒸着源20(図9では図示省略)と、ワーク保持部30Cと、マスク組立体40Bと、押圧部50Bとを備える。蒸着源20、ワーク保持部30C、マスク組立体40B及び押圧部50Bは、真空容器10の内部に設けられている。
【0073】
ワーク保持部30Cは、平面視において矩形形状であり、水平方向に沿ってワークW1(図10参照)を着脱可能に保持する。ワークW1は、平面視において矩形形状のガラス基板であり、ワーク保持部30Cの下側に設けられている。ワーク保持部30Cは、静電チャックを有してもよい。なお、図9では、ワーク保持部30の下側に設けられたワークW1は視認されない。
【0074】
マスク組立体40Bは、中空部が設けられた板状(すなわち、枠状)のであり、主として、マスクフレーム41Aと、マスクステージ42Bと、マスク43Aと、棒状部材44とを有する。本実施の形態では、矩形形状のワークWを用いるため、マスクフレーム41A及びマスクステージ42Bは平面視において矩形形状の枠状である。また、マスク43Aは、平面視において矩形形状である。
【0075】
マスクフレーム41Aはマスクステージ42Bの+Z側に設けられており、マスク43Aはマスクフレーム41Aの+Z側に設けられている。マスクフレーム41Aは、4つの棒状部41c、41d、41g、41hを有する。棒状部41c、41dが平行であり、棒状部41g、41hが平行であり、棒状部41c、41dと棒状部41g、41hとが直交し、Z方向に沿って見たときに棒状部41c、41d、41g、41hにより矩形形状が形成される。マスク43Aは、棒状部41c、41dに設けられている。
【0076】
棒状部材44は、マスクステージ42Bに設けられており、マスクフレーム41A及びマスクステージ42Bを水平方向に保持する。棒状部材44は、マスクステージ42Bの四隅近傍にそれぞれ設けられている。
【0077】
押圧部50Bは、主として、マスクプッシャ51Bと、マスクプッシャ51Bに設けられた当接部52B(後に詳述)と、昇降部53Aとを有する。本実施の形態では、矩形形状のワークWを用いるため、マスクプッシャ51BはZ方向に沿って見たときに矩形形状である。
【0078】
昇降部53Aは、マスクステージ42Bに設けられた孔(図示省略)に挿入されている。昇降部53Aは、マスクプッシャ51B及びマスクステージ42Bの四隅近傍にそれぞれ設けられている。マスクプッシャ51Bは、昇降部53Aによりマスク43とワークWとの間に隙間がある形態と、マスク43AをワークWに押圧する形態との間でZ方向に移動可能である。
【0079】
図10は、図9の断面IIIで蒸着装置3の要部を切断した時の概略を示す図であり、一部を拡大している。図10は、マスク43AとワークW1が当接している状態を示す。
【0080】
マスクフレーム41A及びマスクステージ42Bは、それぞれ、Z方向に沿って見たときに矩形形状の中空部41e、42d(本発明の第1中空部に相当)を有する。中空部41e、42dは、Z方向に沿って見たときに、ワークW1及びワーク保持部30Cより大きい。マスク43Aは、中空部41eを覆うように、マスクフレーム41Aの+Z側の上面41fに設けられている。
【0081】
マスクプッシャ51Bは、4つの棒状部51i、51j、51k、51l(図12参照)を有する。棒状部51i、51jが平行であり、棒状部51k、51lが平行であり、棒状部51i、51jと棒状部51k、51lとが直交し、Z方向に沿って見たときに棒状部51i、51j、51k、51lにより矩形形状が形成される。マスクプッシャ51Bは、棒状部51i、51j、51k、51lにより囲まれた空間である中空部51f(本発明の第2中空部に相当)を有する。中空部51fは、Z方向に沿って見たときにワークWより小さい矩形形状である。また、マスクプッシャ51Bは、マスク43Aに沿って延設され、かつ、ワークWと対向する対向面51gを有する。対向面51gは、中空部51fに隣接して設けられている。
【0082】
対向面51gには当接部52Bが設けられている。当接部52Bは、弾性部材である。当接部52Bは、対向面51gから突出するように、対向面51gに形成された溝51hに設けられている。また、当接部52Bは、中空部51fに隣接して、Z方向に沿って見たときに中空部51fに重ならないように、かつ、ワークW1と重なるように直線状に設けられている。
【0083】
当接部52Bは、棒状部51i、51jに設けられている。棒状部51i、51jは、棒状部41c、41dに隣接する。
【0084】
マスクプッシャ51Bが-Z側の端にある場合には、当接部52Bがマスク43に当接していない。このときのワークW1とマスク43Aとの隙間は0.1mm程度と非常に小さい。なお、ワークW1は水平方向に沿って延設されているため、重力により撓み、ワークW1の周縁近傍が高くなり中央近傍が低くなる。ただし、マスク43Aは、マスクフレーム41Aに貼付されるときに一定の張力が与えられており撓まない。
【0085】
それに対し、マスクプッシャ51Bを+Z方向に移動させると、当接部52Bがマスク43Aに当接し、マスク43AがワークW1に当接するまでマスク43Aを押し上げる。ワークW1が撓んでいるため、マスク43Aが押し上げられてワークW1に当接することでマスク43AがワークW1の面に倣い、マスク43AがワークW1の面に沿って密着する。
【0086】
また、当接部52Bは弾性部材であるため、マスクプッシャ51Bを+Z方向に移動させ過ぎたとしても、当接部52Bが弾性変形し、ワークW1やワーク保持部30Cの変形や破損が防止される。
【0087】
本実施の形態によれば、Z方向に沿って見たときに、中空部51fがワークW1より小さく、中空部41eがワークW1及びワーク保持部30Cより大きいため、マスクフレーム41AがワークW1やワーク保持部30Cに当接せず、当接部52BがワークW1と重なる。したがって、当接部52Bを介して、マスクプッシャ51Bがマスク43AをワークW1に押圧することができる。
【0088】
なお、本実施の形態では、マスク43Aが棒状部41c、41dに設けられており、当接部52Bは、棒状部41c、41dに隣接する棒状部51i、51jに設けられているが、マスク及び当接部が設けられる形態はこれに限られない。例えば、マスク43Aはマスクフレーム41Aの4つの全ての棒状部(棒状部41c、41dを含む)に設けられていてもよく、当接部52Bがマスクプッシャ51Bの4つの全ての棒状部(棒状部51i、51jを含む)に設けられていてもよい。
【0089】
<第4の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態は、当接部52Bによりマスク43AをワークW1に押圧したが、当接部52B以外の部材がマスク43Aを押し上げてもよい。
【0090】
本発明の第4の実施の形態は、当接部52Bに加え、当接部52B以外の当接部を用いてマスク43AをワークW1に押圧する形態である。以下、第4の実施の形態に係る蒸着装置4について説明する。なお、第1~3の実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0091】
図11は、蒸着装置4の概略を示す要部斜視図である。蒸着装置4は、主として、真空容器10(図11では図示省略)と、蒸着源20(図11では図示省略)と、ワーク保持部30C(図11では図示省略)と、マスク組立体40Bと、押圧部50Cとを備える。蒸着源20、ワーク保持部30C、マスク組立体40B及び押圧部50Cは、真空容器10の内部に設けられている。
【0092】
図12は、蒸着装置4の概略を示す断面図であり、(A)は図11の面IVにおける断面図であり、(B)は図11の面Vにおける断面図である。図13は、図12(B)の部分拡大図である。図12、13は、押圧部50Cが+Z方向に移動し、マスク43AとワークW1が当接している状態を示す。
【0093】
押圧部50Cは、主として、マスクプッシャ51Cと、マスクプッシャ51Cに設けられた当接部52Bと、マスクプッシャ51CをZ方向に移動させる昇降部53Aと、マスクプッシャ51Bに設けられたブリッジ54と、ブリッジ54に設けられた押圧部材55とを有する。マスクプッシャ51Cは、ブリッジ54が設けられている点でマスクプッシャ51Aと異なり、その他はマスクプッシャ51Bと同様である。
【0094】
ブリッジ54は、棒状であり、中空部51fを横切るようにマスクプッシャ51Cに設けられている。また、ブリッジ54は、対向面51gよりも-Z側(マスク43Aから離れた位置)に設けられており、マスク43Aに沿って(ここでは、Y方向に沿って)延設されている。
【0095】
なお、ブリッジ54の位置及び数は、本実施の形態において図示された形態に限られない。また、ブリッジ54は、マスク43Aに沿って延設されていればよく、例えばX方向に沿っていてもよい。このように設けられていたとしても、ブリッジ54が中空部51fを横切るよう設けられていることに変わりはない。
【0096】
押圧部材55は、ブリッジ54に設けられており、押圧部50Cが+Z方向に移動した時にマスク43Aに当接する。押圧部材55は、金属の板状部材を折り曲げて形成されている。
【0097】
図13に示すように、押圧部材55は、主として、マスク43Aに当接する当接部(本発明の第2当接部に相当)55aと、弾性部(本発明の第2弾性部材に相当)55bと、ブリッジ54に設けられている取付部55cとを有する。当接部55aは、対向面51gよりも+Z側(マスク43A側)に位置する。当接部55aと弾性部55bとの間及び弾性部55bと取付部55cとの間の折り曲げ部55dは鈍角である。
【0098】
当接部55aと取付部55cとの間に挟まれた弾性部55bは、弾性変形して板ばねとして機能する。取付部55cがブリッジ54に固定されているため、弾性部55bが弾性変形することで当接部55aがZ方向に移動する。
【0099】
なお、当接部55aの位置及び数は、本実施の形態において図示された形態に限られない。また、当接部55aの形状もこれに限られない。
【0100】
マスクプッシャ51Cが-Z側の端にある場合には、当接部52B、55aがマスク43に当接していない。マスクプッシャ51Cを+Z方向に移動させると、当接部52B、55aがマスク43に当接してマスク43Aを押し上げることで、当接部52B、55aを介して、マスクプッシャ51Cがマスク43AをワークW1に押圧する。
【0101】
当接部52Bは、ワークW1やマスク43Aの周縁部でマスク43AをワークW1に押圧する。また、当接部55aは、ワークW1やマスク43Aの周縁部以外でマスク43Aに当接する。
【0102】
ブリッジ54及び押圧部材55がZ方向に沿って見たときに中空部51fと重なるようにマスクプッシャ51Cに設けられており、かつ、当接部55aが対向面51gよりも+Z側に位置するため、マスクプッシャ51Cを+Z方向に移動させることで、まず当接部55aがマスク43Aに当接する。さらにマスクプッシャ51Cを+Z方向に移動させると、当接部55a及びマスク43AがワークW1に当接し、その後弾性部55bが弾性変形して当接部55aがマスク43AをワークW1に押圧する。したがって、ワークW1やマスク43Aの周縁部以外の位置においても、マスクプッシャ51Cがマスク43AをワークW1に押圧する。
【0103】
本実施の形態によれば、マスクフレーム41AがワークW1やワーク保持部30Cに当接せず、当接部52B及び当接部55aによりマスク43AをワークW1に当接させるため、マスク43AとワークW1とを確実に当接させることができる。
【0104】
例えば、当接部52Bのみでマスク43AをワークW1に押圧するときには、ワークW1が撓んでいない場合や、ワークW1が大型の場合等にワークW1やマスク43Aの周縁部でマスク43AがワークW1に当接しても、マスク43AがワークW1の面に倣わず、マスク43AがワークW1の面に沿って密着しないことも考えられる。
【0105】
それに対し、本実施の形態のように、ワークW1やマスク43Aの周縁部以外の位置において当接部55aがマスク43AをワークW1に押圧することで、当接部52Bによる押圧のみでマスク43AがワークW1の面に沿って密着しなかったとしても、マスク43AをワークW1に密着させることができる。
【0106】
また、本実施の形態によれば、当接部55aが弾性部55bによりZ方向に移動可能であるため、マスク43AやワークW1の高さ方向(Z方向)の位置にばらつきがある場合にも当接部55aがマスク43AをワークW1に押圧することができる。また、マスク43AをワークW1の変形や破損を防止することができる。
【0107】
なお、本実施の形態では、押圧部材55が平板状の当接部55a及び取付部55cを有し、平板状の弾性部55bでこれらを連結したが、押圧部材55の形態はこれに限られない。図14は、変形例にかかる押圧部材55Aの概略を示す図である。押圧部材55Aは、主として、ブリッジ54に設けられている取付部55cと、弾性部(本発明の第2弾性部材に相当)55eとを有する。
【0108】
弾性部55eは円弧状であり、弾性部55eのブリッジ54から最も遠い点である頂部55fがマスク43Aに当接する当接部(本発明の第2当接部に相当)である。弾性部55eは、弾性変形して板ばねとして機能する。弾性部55eが弾性変形することで頂部55fがZ方向に移動する。押圧部材55Aは頂部55fが平板状でないため、頂部55fとマスク43Aとが点で接触する。そのため、頂部55fとマスク43Aが擦れてマスク43Aが傷つくことを防ぐことができる。また、弾性部55eの弾性力を効率的にマスク43Aに伝えることができる。
【0109】
また、本実施の形態では、押圧部材55が当接部55a及び弾性部55bを有し、弾性部55bにより当接部55aをZ方向に移動可能にしたが、当接部55aをZ方向に移動可能にする形態はこれに限られない。例えば、ブリッジ54に複数の棒状の押圧部材を突出させ、ブリッジ54とマスクプッシャ51Cとの間に弾性部材を設けることで、押圧部材をZ方向に移動可能にしてもよい。また、ブリッジ54に複数の棒状の押圧部材を突出させ、押圧部材の少なくとも一部を変形が容易な発泡樹脂等で形成することで、マスク43の高さに応じて押圧部材を変形させ(押圧部材の先端をZ方向に移動させ)てもよい。
【0110】
<第4の実施の形態の変形例>
本実施の形態では、矩形形状のワークW1(ガラス基板)を用いた場合を例に説明したが、円形状のワークW(ウェハ)を用いる場合にもブリッジや押圧部材を用いてマスクの周縁以外の位置でマスクをワークに押圧させることができる。図15は、変形例にかかる押圧部50Dを有する蒸着装置4Aの概略を示す斜視図である。
【0111】
蒸着装置4Aは、主として、真空容器10(図15では図示省略)と、蒸着源20(図15では図示省略)と、ワーク保持部30(図15では図示省略)と、マスク組立体40と、押圧部50Dとを備える。蒸着源20、ワーク保持部30、マスク組立体40及び押圧部50Dは、真空容器10の内部に設けられている。
【0112】
押圧部50Dは、主として、マスクプッシャ51Dと、マスクプッシャ51Dに設けられた当接部52(図15では図示省略)と、昇降部53と、マスクプッシャ51Dに設けられたブリッジ54A、54Bと、ブリッジ54A、54Bにそれぞれ設けられた押圧部材55A、55Bとを有する。マスクプッシャ51Dは、ブリッジ54A、54Bが設けられている点でマスクプッシャ51と異なり、その他はマスクプッシャ51と同様である。
【0113】
ブリッジ54A、54Bは、ブリッジ54と同様に、棒状であり、中空部51aを横切るようにマスクプッシャ51Dに設けられている。また、ブリッジ54A、54Bは、対向面51b(図3、4参照)よりもマスク43から離れている。
【0114】
押圧部材55A、55Bは、押圧部材55と同様に、金属の板状部材を折り曲げて形成されており、当接部55aと、弾性部55bと、取付部55c(図15では図示省略)とを有する。当接部55aは、対向面51bよりもマスク43側に位置する。したがって、マスクプッシャ51Dを+Z方向に移動させると、当接部55aがマスク43を押圧する。
【0115】
この変形例によれば、ワークWがウェハであり撓みにくい場合であっても、当接部52及び当接部55aによりマスク43をワークWに当接させるため、マスク43とワークWとを確実に当接させることができる。
【0116】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0117】
また、本発明において、「略」とは、厳密に同一である場合のみでなく、同一性を失わない程度の誤差や変形を含む概念である。例えば、略平行、略直交とは、厳密に平行、直交の場合には限られない。また、例えば、単に平行、直交等と表現する場合においても、厳密に平行、直交等の場合のみでなく、略平行、略直交等の場合を含むものとする。また、本発明において「近傍」とは、例えばAの近傍であるときに、Aの近くであって、Aを含んでも含まなくてもよいことを示す概念である。
【符号の説明】
【0118】
1、2、3、4、4A:蒸着装置
10 :真空容器
20 :蒸着源
21 :収容部
22 :ノズル
30、30A、30B、30C:ワーク保持部
30a、30b、30c:当接面
30d :突起
40、40A、40B:マスク組立体
41、41A:マスクフレーム
41a :中空部
41b :上面
41c、41d:棒状部
41e :中空部
41f :上面
42、42A、42B:マスクステージ
42a :中空部
42b :孔
42c :穴
42d :中空部
43、43A:マスク
44 :棒状部材
50、50A、50B、50C、50D:押圧部
51、51A、51B、51C、51D:マスクプッシャ
51a :中空部
51b :対向面
51c :溝
51d :孔
51e :穴
51f :中空部
51g :対向面
51h :溝
51i、51j:棒状部
52、52A、52B:当接部
53、53A:昇降部
54、54A、54B:ブリッジ
55、55A、55B:押圧部材
55a :当接部
55b :弾性部
55c :取付部
55d :折り曲げ部
531 :ガイドシャフト
531a :フランジ部
532 :昇降軸
532a :穴
533 :弾性部材
534 :直動ベアリング
535 :球面軸受
535a :球状部
535b :ハウジング
537 :固定部材
図1
図2
図3
図4
図5
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図9
図10
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図13
図14
図15