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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031474
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】電動車両のバッテリ管理装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20240229BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240229BHJP
   B60L 58/16 20190101ALI20240229BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20240229BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B60L3/00 S
H02J7/00 P
H02J7/00 Y
B60L58/16
H01M10/44 P
H01M10/48 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135046
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】市來 智之
(72)【発明者】
【氏名】安部 浩史
(72)【発明者】
【氏名】草野 大志
(72)【発明者】
【氏名】秋山 大智
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
5H125
【Fターム(参考)】
5G503AA07
5G503BA01
5G503BB01
5G503EA08
5G503FA06
5H030AA01
5H030AS08
5H030BB01
5H030BB21
5H030FF41
5H125AA01
5H125AC12
5H125AC22
5H125BC09
5H125BC12
5H125EE22
5H125EE23
5H125EE25
(57)【要約】
【課題】バッテリの能力を十分に発揮することのできる電動車両のバッテリ管理装置を提供する。
【解決手段】駆動輪と、駆動輪の動力を発生する走行モータと、走行モータが消費する電力を蓄積するバッテリとを備える電動車両に搭載される電動車両のバッテリ管理装置である。バッテリ管理装置は、バッテリの状態を検出する検出部と、検出部の出力に基づいてバッテリの能力を表わす特性値を計算し、特性値に基づいてバッテリの充放電を管理するコントローラと、を備える。そして、コントローラは、特性値の劣化があった場合に、検出部の出力に基づいて特性値の劣化が可逆劣化か否かを判別し、可逆劣化と判別した場合に、特性値を劣化前の値に戻す。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪と、前記駆動輪の動力を発生する走行モータと、前記走行モータが消費する電力を蓄積するバッテリとを備える電動車両に搭載される電動車両のバッテリ管理装置であって、
前記バッテリの状態を検出する検出部と、
前記検出部の出力に基づいて前記バッテリの能力を表わす特性値を計算し、前記特性値に基づいて前記バッテリの充放電を管理するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記特性値の劣化があった場合に、前記検出部の出力に基づいて前記特性値の劣化が可逆劣化か否かを判別し、可逆劣化と判別した場合に、前記特性値を劣化前の値に戻すことを特徴とする電動車両のバッテリ管理装置。
【請求項2】
前記バッテリは、第1SOC範囲においてdV/dQ特性線に複数のピークが現れる特性を有し、
前記コントローラは、前記第1SOC範囲における前記検出部の出力に基づいて、前記特性値の劣化が可逆劣化か否かを判別することを特徴とする請求項1記載の電動車両のバッテリ管理装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記dV/dQ特性線のピークの数が比較基準よりも減少、あるいは、前記ピークが比較基準よりも緩やかになっていることに基づいて、前記特性値の劣化が可逆劣化であると判別することを特徴とする請求項2記載の電動車両のバッテリ管理装置。
【請求項4】
前記電動車両は、前記電動車両の動作を制御する車両コントローラを備え、
前記コントローラは、前記特性値の劣化の進行に応じて、前記車両コントローラに前記第1SOC範囲にわたる放電或いは充電が行われるよう要求を行うことを特徴とする請求項2記載の電動車両のバッテリ管理装置。
【請求項5】
前記コントローラは、前記特性値の劣化が可逆劣化であると判別した場合に、前記特性値の計算を再度行い、前記特性値が回復していることを条件に、前記特性値を劣化前の値に戻すことを特徴とする請求項1記載の電動車両のバッテリ管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両のバッテリ管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バッテリのdQ/dV特性線に現れるピーク位置の変化に基づいて、バッテリにハイレート劣化以外の劣化が生じたことを判定する電池劣化判定システムについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-096552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バッテリ管理装置においては、バッテリの能力を表わす特性値(満充電容量、内部抵抗等)が計算され、当該値が管理用の制御データとして登録されると、登録された値に基づいてバッテリの充放電が管理される。バッテリの特性値は、経年又は使用により次第に劣化していく一方、誤差によって回復した特性値が計算される場合がある。したがって、従来、回復した特性値が計算されても、バッテリ管理装置は、当該値を管理用の制御データとして登録しないのが通常であった。
【0005】
近年、バッテリの特性値は、可逆劣化により一時的に劣化し、その後、回復する場合があることが判明している。バッテリの特性値が回復したのに、劣化したときの特性値でバッテリの充放電が管理されると、電動車両においてバッテリの能力を十分に発揮できないという課題が生じる。
【0006】
本発明は、バッテリの能力を十分に発揮することのできる電動車両のバッテリ管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、駆動輪と、前記駆動輪の動力を発生する走行モータと、前記走行モータが消費する電力を蓄積するバッテリとを備える電動車両に搭載される電動車両のバッテリ管理装置であって、
前記バッテリの状態を検出する検出部と、
前記検出部の出力に基づいて前記バッテリの能力を表わす特性値を計算し、前記特性値に基づいて前記バッテリの充放電を管理するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記特性値の劣化があった場合に、前記検出部の出力に基づいて前記特性値の劣化が可逆劣化か否かを判別し、可逆劣化と判別した場合に、前記特性値を劣化前の値に戻すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バッテリの能力を表わす特性値に可逆劣化が生じ、その後、バッテリの特性値が回復した場合に、コントローラは特性値を劣化前の値に戻すことができる。したがって、上記特性値が劣化時の値に維持されてしまうことが回避され、バッテリの能力を十分に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る電動車両及びバッテリ管理装置を示すブロック図である。
図2】バッテリの特性値の変化を説明するタイムチャートである。
図3】バッテリの充放電特性線の一例を示す図である。
図4】可逆劣化が生じたときのバッテリの充放電特性線の一例を示す図である。
図5】コントローラが実行する充放電の管理処理を示すフローチャートの一部である。
図6図5のフローチャートの他の一部である。
図7図5のフローチャートの残りの一部である。
図8】第1SOC範囲の充放電要求に基づき行われる制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る電動車両及びバッテリ管理装置を示すブロック図である。
【0011】
本実施形態に係る電動車両1は、駆動輪2と、駆動輪2に伝達される動力を発生する走行モータ11と、走行モータ11を駆動するインバータ12と、電力を蓄積するバッテリ14と、バッテリ14の電力を用いて駆動する電気機器16と、運転操作がなされる操作部18と、インバータ12及び電気機器16を制御する車両コントローラ21と、バッテリ14を管理するバッテリ管理装置30とを備える。
【0012】
操作部18は、操舵部18a、アクセル操作部18b、ブレーキ操作部18c等を有する。操作部18が操作されることで、操作部18から車両コントローラ21へ操作信号が送られる。
【0013】
車両コントローラ21は、1つのECU(Electronic Control Unit)又は通信を介して互いに連携して動作する複数のECUから構成される。車両コントローラ21は、操作部18からの操作信号を入力する。車両コントローラ21は、バッテリ管理装置30と通信を行う。車両コントローラ21は、上記操作信号と、バッテリ管理装置30からの通信データに基づいて、インバータ12を制御し、当該制御により走行モータ11を力行運転又は回生運転する。加えて、車両コントローラ21は、電気機器16を駆動制御できる。
【0014】
力行運転時、走行モータ11はバッテリ14の電力を消費する。回生運転時、走行モータ11で発生した回生電力はバッテリ14に送られることでバッテリ14が充電される。
【0015】
電気機器16は、ヒータ、コンプレッサ、低電圧機器の電源を生成するDC/DCコンバータ等である。電気機器16は、その他、どのような機器が含まれていてもよい。
【0016】
バッテリ管理装置30は、バッテリ14の状態を検出する検出部32を備える。具体的には、検出部32は、バッテリ14の状態として電流及び電圧を検出する電流センサ32a及び電圧センサ32bを含む。検出部32は、バッテリ14の状態として温度を検出する温度センサ32cを含んでもよい。なお、検出部32は、バッテリ14の電流、電圧及び温度を検出する構成に限られず、充放電の管理に必要な値を計算可能な状態を検出できればどのような電気的変量及び物理的変量を検出する構成が適用されてもよい。
【0017】
バッテリ管理装置30は、コントローラ34を更に備える。コントローラ34は、1つのECUであるが、通信を介して互いに連携して動作する複数のECUから構成されてもよい。コントローラ34は、検出部32の検出結果を受け、バッテリ14の充放電を管理する。
【0018】
バッテリ14の能力を表わす特性値は、経年及び使用に伴って劣化する。当該能力には、満充電容量、出力可能電力及び入力可能電力が含まれ、能力を表わす特性値には内部抵抗が含まれる。満充電容量は、能力でもあり特性値でもある。内部抵抗は、出力可能電力及び入力可能電力を表わす特性値に相当する。すなわち、内部抵抗が大きくなると、入出力電流に対するバッテリの発熱量が大きくなるため、出力可能電力及び入力可能電力は小さくなる。なお、バッテリ14の能力及びそれを表わす特性値は、上記の例に限られず、その他の量又は値が含まれていてもよい。
【0019】
バッテリ管理装置30は、上記の特性値に応じて、バッテリ14の能力を超えないように、バッテリ14の充放電を管理する。具体的には、バッテリ管理装置30は、バッテリ14の満充電容量に基づき、バッテリ14のSOC(State Of Charge)が100%以上にならないように、また、バッテリ14のSOCが著しく低い値とならないように充放電を管理する。当該管理は、例えば、バッテリ14のSOCが低いときに車両コントローラ21に走行モータ11の出力パワーを制限させること、並びに、バッテリ14のSOCが高いときに車両コントローラ21に走行モータ11の回生制動を制限させること等により実現される。さらに、バッテリ管理装置30は、バッテリ14の内部抵抗に基づき、バッテリ14の出力可能電力及び入力可能電力を設定し、設定された出力可能電力及び入力可能電力を超えないように車両コントローラ21に走行モータ11の力行運転及び回生運転を行わせる。出力可能電力及び入力可能電力を設定する際には、バッテリ管理装置30は内部抵抗に加えバッテリ14の温度に基づいて設定を行ってもよい。
【0020】
コントローラ34は、能力を表わす特性値が登録される記憶部34a、34bを有してもよい。そして、コントローラ34は、各時点に計算された特性値、あるいは、実際の特性値ではなく、記憶部34a、34bに登録されている特性値に基づいて充放電の管理を行ってもよい。すなわち、特性値に変化があっても、当該変化はすぐに充放電の管理に反映されず、記憶部34a、34bの特性値が更新された場合に、特性値の変化が充放電の管理に反映されてもよい。
【0021】
記憶部34a、34bに登録された特性値、或いは、当該特性値から求められるバッテリ14の能力は、通信により車両コントローラ21に渡される値であってもよい。また、記憶部34aに登録された満充電容量は、運転席の表示パネル、ユーザの携帯機器等に表示される値であってもよいし、これらに表示されるSOCを計算する際に適用された値であってもよい。同様に、記憶部34bに登録された内部抵抗の値、或いは、当該値から求められる出力可能電力及び入力可能電力は、運転席の表示パネル、ユーザの携帯機器等に表示される値であってもよい。
【0022】
コントローラ34は、記憶部34a、34bの値を、特性値を求めるたびに更新してもよいし、所定の条件に従って更新してもよい。例えば、バッテリ14の内部抵抗は、バッテリ14の使用時に比較的大きく変動し、また、バッテリ14の使用時に高い頻度で計算できる。一方、記憶部34bに登録される内部抵抗の値は、出力可能電力及び入力可能電力を決定するために使用されるので、短い期間内に生じる変動分を除いた中長期にわたる平均化された変動分が反映された値となることが望ましい。したがって、コントローラ34は、高い頻度で計算されるバッテリ14の内部抵抗を、例えば所定サイクル(所定期間や所定運転回数など)分収集し、これらを統計処理して平均化された内部抵抗を求め、当該値を記憶部34bに登録するようにしてもよい。
【0023】
<バッテリの特性>
図2は、バッテリの特性値の変化を説明するタイムチャートである。図2に示すように、バッテリ14の特性値(満充電容量及び内部抵抗)及び能力(満充電容量、出力可能電力及び入力最大電力)は、経年又は使用に伴って劣化していく。一方、期間T1に示すように、バッテリ14の特性値及び能力は、一時的に劣化し、その後、数時間或いは数日かけて回復する場合がある。このように、その後に回復する劣化が可逆劣化である。一方で、コントローラ34が任意のタイミングt1において特性値及び能力を計算により求めた場合、誤差によって以前よりも回復した値a1が求められる場合がある。
【0024】
ここで、比較例のコントローラが、可逆劣化後の回復なのか、あるいは、誤差による値の振れなのかを判別できない場合を想定する。この場合、バッテリ14の特性値及び能力として以前より回復した値が計算された場合でも、誤差による可能性があるため、比較例のコントローラは、回復した値を充放電の管理に使用することが難しい。実際はバッテリ14の能力が回復していないのに、回復した値を管理に使用すると、バッテリ14の能力を超えた充放電が行われる可能性が生じるからである。したがって、比較例のコントローラは、回復した特性値を計算により求めても、管理上の特性値を更新することなく、その後も、回復以前の特性値を用いて充放電の管理を行うことになる。
【0025】
図2の「比較例の登録値」は、比較例のバッテリ管理装置の特性値及び能力の登録値の一例を示す。「実施形態の登録値」は、実施形態のバッテリ管理装置30の特性値及び能力の登録値の一例を示す。「登録値」とは、記憶部34a、34bに登録されてコントローラ34が充放電の管理に使用する値、並びに、当該値から換算される能力の値を意味する。「登録値」は、各時点における特性値及び能力の真値と異なっていてもよい。
【0026】
期間T1に示すように、比較例では、バッテリ14が可逆劣化の後に回復しても、管理上は可逆劣化したときの特性値が充放電の管理に使用され、バッテリ14の能力を最大限発揮できない場合が生じる。一方、実施形態のコントローラ34は、可逆劣化であるのか否かを判別する処理を行うことで、可逆劣化後に特性値が回復した場合に、回復した特性値を反映して充放電の管理を行うことができる。よって、バッテリ14の能力を十分に発揮することができる。
【0027】
<可逆劣化の特性>
図3は、バッテリの充放電特性線の一例を示す図である。図4は、可逆劣化が生じたときのバッテリの充放電特性線の一例を示す図である。図3及び図4は、SOCが低い値から高い値にかけて安定した充電(例えば定電流充電)を行ったとき、あるいは、SOCが高い値から低い値に安定した放電(例えば定電流放電)を行ったときの特性線を示す。「V」は電圧(例えば、CCV:Closed circuit voltage)、「Q」は蓄電量であり、「dV/dQ」は電圧Vの蓄電量Qによる微分を示す。
【0028】
バッテリ14は、第1SOC範囲D1においてdV/dQ特性線に複数のピークbが現れる特性を有する。当該特性を有するバッテリ14としては、例えば黒鉛系の負極を有するリチウムイオン二次電池を適用できる。
【0029】
複数のピークbが現れる第1SOC範囲D1は、例えばSOC20%の周辺など、経年又は使用に伴って大きく変化しない予め定まった範囲である。第1SOC範囲D1は、電池セルの構造によっては、例えばSOC50%の周辺など、異なる範囲となる場合もある。また、第1SOC範囲D1は、経年又は使用に伴って予測可能にシフトしてもよい。
【0030】
図4に示すように、バッテリ14に可逆劣化が生じた場合、dV/dQ特性線のピークbに変化が生じる。より具体的には、ピークbの個数の減少し、ピークbの緩急度が緩やかな方に変化し、複数のピークbがある場合には、複数のピークbの位置の偏差が小さくなる。そして、可逆劣化が回復すると、dV/dQ特性線において図3に示したような元の個数及び形状のピークbに戻る。
【0031】
<可逆劣化の判別処理>
コントローラ34は、判別処理として、dV/dQ特性線のピークbの変化の有無を判別することで、特性値及び能力の劣化が可逆劣化であるか否かを判別する。
【0032】
具体的には、当該判別処理において、コントローラ34は、ピーク数が閾値以下に減少したか、ピークの緩急の度合が閾値以下になるか、あるいは、複数のピーク位置の偏差が閾値以下になるかを判別する。あるいは、コントローラ34は、上記複数の条件のうち2つ又は3つが満たされたか判別してもよい。そして、コントローラ34は、当該判別の結果がYESである場合に、可逆劣化であると判別する。
【0033】
ここで、ピークbの変化とは、比較基準のピークbから、観測されたピークbへの変化を意味する。比較基準のピークbは、初期状態のバッテリ14が有するピークbであり、試験又はシミュレーション等で求められ、その個数及び形状が予めコントローラ34に与えられていてもよい。あるいは、比較基準のピークbは、バッテリ14が安定的に放電又は充電されたときにコントローラ34により観測された以前のdV/dQ特性線のピークbであってもよい。
【0034】
上記の判別処理によれば、コントローラ34は、回復した特性値が求められた場合に、可逆劣化後の回復なのか、誤差による値の振れなのかを判別することができる。そして、コントローラ34は、可逆劣化後の回復と判別した場合に、管理上の特性値(記憶部34a、34bに登録される特性値)を劣化前の値、すなわち回復した特性値に戻すことができる。よって、その後に、バッテリ14の能力を十分に発揮することができる。
【0035】
コントローラ34は、上記の判別処理を行うために、第1SOC範囲D1のdV/dQ特性線を取得する必要がある。したがって、コントローラ34は、バッテリ14の特性値の劣化の進行に応じて、進行の早い劣化が生じた場合など、可逆劣化の可能性が高い場合に限って、上記の判別処理を実行してもよい。さらに、判別処理を行う場合には、第1SOC範囲D1のdV/dQ特性線が速やかに取得できるよう、コントローラ34は、車両コントローラ21に第1SOC範囲D1の充電又は放電が行われるよう要求を送信してもよい。
【0036】
車両コントローラ21は、当該要求に基づき、運転操作に応じた車両制御と並行して、第1SOC範囲D1に渡る充電又は放電が行われるように走行モータ11及び電気機器16を制御する。例えば、バッテリ14のSOCが第1SOC範囲D1より高い値にあれば、車両コントローラ21は、電力を消費することでSOCが第1SOC範囲D1以下となるように走行モータ11又は電気機器16を制御する。当該制御により、第1SOC範囲D1にわたる放電が実現する。また、SOCが第1SOC範囲D1の下限よりも高い状態で、外部充電等の充電が行われる場合には、車両コントローラ21又はコントローラ34は、一旦、バッテリ14の電力を外部に放出(あるいは電気機器16等により使用)する。そして、車両コントローラ21又はコントローラ34は、SOCを第1SOC範囲D1の下限まで下げ、その後に、バッテリ14の充電を行う。当該制御により、第1SOC範囲D1にわたる充電が実現する。以上のような処理により、コントローラ34は、第1SOC範囲D1のdV/dQ特性線を速やかに取得し、可逆変化であるか否かの判別を行うことができる。
【0037】
コントローラ34は、上記の判別処理の結果が可逆劣化である場合、その後に再度、特性値の計算を行い、特性値が回復していることを条件に、管理上の特性値(記憶部34a、34bに登録される特性値)を劣化前の値、すなわち回復した値に戻してもよい。あるいは、上記の条件に加えて、コントローラ34は、その後に再度、dV/dQ特性線を取得し、ピークが元に戻っていることを条件に、管理上の特性値を劣化前の回復した値に戻してもよい。このような処理により、バッテリ14が実際に回復する前に、管理上の特性値が回復した値に戻されてしまうことを抑制できる。
【0038】
<充放電の管理処理>
続いて、コントローラが実行する充放電の管理処理について詳細な一例を説明する。図5図7は、充放電の管理処理を示すフローチャートである。
【0039】
充放電の管理処理では、コントローラ34は、ステップS1~S3、S11、S19のループ処理において、ステップS1、S2の処理を繰り返し実行する。すなわち、コントローラ34は、検出部32の出力からバッテリ14の電流、温度及び電圧の値を取得し(ステップS1)、記憶部34a、34bの特性値に基づき充放電を管理する(ステップS2)。ステップS2の管理では、コントローラ34は、車両コントローラ21から放電要求又は充電要求を受けた場合に、能力を超えた放電又は充電が行われないように、放電又は充電の許可又は不許可を決定し、決定事項を車両コントローラ21に返信する。
【0040】
コントローラ34は、更に上記のループ処理において、特性値(満充電容量及び内部抵抗)の計算条件を満たすか判別する(ステップS3)。その結果がNOであれば、コントローラ34は、第1SOC範囲D1の充放電要求フラグが有効であるか判別し(ステップS11)、可逆劣化フラグが有効であるか判別する(ステップS19)。そして、ステップS11、S19の判別の両方の結果がNOであれば、コントローラ34は、処理をステップS1に戻す。
【0041】
上記の特性値の計算条件とは、ステップS1の検出値の取得の繰り返しにより満充電容量を特定できるだけの検出値を収集したこと、あるいは、統計処理により内部抵抗の平均的な値を特定できるだけの検出値を収集したことなどである。さらに、上記の計算条件には、前回の特性値の計算から所定の期間(バッテリ14の使用期間)又は所定の電気量の放電又は充電があったかなど、その他の条件が加わっていてもよい。
【0042】
上記のループ処理において、ステップS3の結果がYESであれば、コントローラ34は、収集された電流、温度及び電圧の検出値に基づいて特性値(満充電容量及び内部抵抗)を計算する(ステップS4)。そして、コントローラ34は、特性値が前回の値から劣化しているか判別し(ステップS5)、YESであれば、劣化した特性値を記憶部34a、34bに登録する(ステップS6)。この登録値の更新により、以降のステップS2では、更新された特性値で充放電の管理が行われることになる。
【0043】
次に、コントローラ34は、特性値の劣化度が第1閾値以上であるか判別する(ステップS7)。劣化度が大きいときには可逆劣化である可能性があり、当該ステップにおいて、コントローラ34は、その可能性を確認する。さらに、コントローラ34は、当該劣化の期間に第2閾値以上の充電又は放電(あるいは閾値以上の充電量又は放電量)があったか判別する(ステップS8)。過大な充電又は放電、あるいは、過大な充電量又は放電量があった場合に、バッテリ14は可逆劣化を生じる可能性があり、当該ステップにおいて、コントローラ34は、その可能性を確認する。第1閾値及び第2閾値は、可逆劣化の可能性の有無を識別する値に設定されている。
【0044】
そして、ステップS7、S8のいずれかの判別結果がNOであれば、コントローラ34は、処理をステップS1からのループ処理に戻す。一方、ステップS7、S8の両方の判別結果がYESであれば、コントローラ34は、第1SOC範囲にわたる充放電の要求を、車両コントローラ21に送る(ステップS9)。そして、コントローラ34は、当該要求中であることを示す充放電要求フラグを有効とする(ステップS10)。
【0045】
ループ処理のステップS11で充放電要求フラグが有効と判別されると、コントローラ34は、第1SOC範囲D1の検出値(電流、温度及び電圧)が取得されたか判別する(ステップS12)。そして、判別の結果がNOであれば、コントローラ34は、処理をステップS1からのループ処理に戻す。
【0046】
一方、ステップS9の要求により第1SOC範囲D1にわたる充電又は放電が行われて、ステップS12の判別の結果がYESとなれば、コントローラ34は、充放電要求フラグを無効に戻す(ステップS13)。そして、コントローラ34は、第1SOC範囲D1の充電時又は放電時におけるSOC‐電圧の特性曲線をマップ化する(ステップS14)。さらに、コントローラ34は、マップ化された特性曲線を微分してdV/dQ特性線を生成する(ステップS15)。そして、コントローラ34は、dV/dQ特性線に現れるピークbの位置、個数及び緩急を計算し(ステップS16)、可逆劣化の条件に該当するか判別する(ステップS17)。当該条件は、例えば、ピークbの個数が閾値以下に減少したか、複数のピークbの位置の分散値が閾値以下に減少したか、ピークbの緩急が閾値以上に緩くなったか等である。
【0047】
ステップS17の判別の結果、YESであれば、コントローラ34は、可逆劣化であることを示す可逆劣化フラグを有効とし(ステップS18)、NOであれば、コントローラ34は、処理をステップS1からのループ処理に戻す。
【0048】
ループ処理においてステップS19の処理で可逆劣化フラグが有効と判別されると、コントローラ34は、可逆劣化の回復期間(例えば予め定められた一定の期間)が経過したか判別する(ステップS20)。その結果、NOであれば、コントローラ34は、処理をステップS1からのループ処理に戻す。一方、YESであれば、コントローラ34は、第1SOC範囲D1にわたる検出(電流、温度及び電圧の検出値)が回復期間後に行われたか判別し(ステップS21)、NOであれば、コントローラ34は、処理をステップS1からのループ処理に戻す。一方、YESであれば、ステップS14~S16と同様の処理により、コントローラ34は、dV/dQ特性線に現れるピークbの位置、個数及び緩急を計算する(ステップS22)。そして、コントローラ34は、ピークbが可逆劣化前の個数及び形状に戻っているか判別し(ステップS22)、NOであれば、そのまま処理をステップS1からのループ処理に戻すが、YESであれば、ピーク回復フラグを有効とする(ステップS24)。
【0049】
そして、上述のステップS4で特性値が計算され、ステップS5でNO(特性値が回復)と判別されたら、コントローラ34は、可逆劣化フラグとピーク回復フラグとが有効か判別する。そして、YESであれば、コントローラ34は、可逆劣化フラグとピーク回復フラグとを無効に戻し(ステップS26)、劣化前の特性値(すなわち回復した特性値)を記憶部34a、34bに登録する(ステップS27)。ステップS27の劣化前の特性値とは、可逆劣化と判別される前に計算されていた特性値であってもよいし、新たに計算されて前回の特性値よりも回復している特性値であってもよい。ステップS25の判別結果がNOの場合、あるいは、ステップS27の登録を行ったら、コントローラ34は、処理をステップS1からのループ処理に戻す。ステップS27の登録値の更新により、以降のステップS2では、回復された特性値で充放電の管理が行われることになる。すなわち、バッテリ14の能力を十分に発揮させることができる。
【0050】
上述した充放電の管理処理のプログラムは、コントローラ34の記憶部34eなど、非一過性の記憶媒体(non transitory computer readable medium)に記憶されている。コントローラ34は、可搬型の非一過性の記録媒体に記憶されたプログラムを読み込み、当該プログラムを実行するように構成されてもよい。上記の可搬型の非一過性の記憶媒体は、上述した充放電の管理処理のプログラムを記憶していてもよい。
【0051】
<充放電制御>
図8は、第1SOC範囲の充放電要求に基づき行われる制御処理を示すフローチャートである。当該制御処理は、図5のステップS9の要求に基づいて、車両コントローラ21により実行される処理である。あるいは、図8の制御処理は、上記の要求に基づいて、バッテリ管理装置30のコントローラ34が実行してもよい。
【0052】
上記要求があると、車両コントローラ21は、バッテリ14のSOCが第1SOC範囲D1(図3及び図4を参照)の上限以上か判別する(ステップS31)。その結果、YESであれば、車両コントローラ21は、第1SOC範囲D1の下限以下まで、定電流の放電が行われるように走行モータ11又は電気機器16の駆動を行う(ステップS32)。ステップS32の処理により、バッテリ14において第1SOC範囲D1にわたる安定的な放電処理が行われ、バッテリ管理装置30のコントローラ34は、第1SOC範囲D1にわたる放電特性線を取得できる。なお、上記の定電流の放電は、厳密な定電流でなくてもよく、dV/dQ特性線のピークbが正常に検出できる程度に安定した放電であればよい。
【0053】
一方、ステップS31の判別結果がNOである場合、車両コントローラ21は、プラグ充電が開始されたか判別し(ステップS33)、NOであればステップS31に処理を戻す。プラグ充電とは、電動車両1の外部から電源ケーブルを介して電力を取り込んでバッテリ14の充電を行うことを意味する。なお、ステップS33のプラグ充電の代わりに、内燃機関による安定的な発電によるバッテリ14の充電が適用されてもよいし、地上施設の送電コイルから電動車両1に搭載された受電コイルへの非接触充電が適用されてもよい。
【0054】
そして、ステップS33の判別結果がYESになると、車両コントローラ21は、バッテリ14のSOCが第1SOC範囲D1の下限未満であるか判別する(ステップS34)。その結果、YESであれば、車両コントローラ21は、第1SOC範囲D1の上限まで定電流充電を行わせる(ステップS36)。当該充電により、バッテリ14において第1SOC範囲D1にわたる安定的な充電処理が行われ、バッテリ管理装置30のコントローラ34は、第1SOC範囲D1にわたる充電特性線を取得できる。
【0055】
一方、ステップS34の結果がNOであれば、車両コントローラ21は、一旦、バッテリ14のSOCが第1SOC範囲の下限以下になるまで放電を行わせ、その後に、第1SOC範囲の上限以上まで定電流充電を行わせる(ステップS35)。当該充電により、バッテリ14において第1SOC範囲D1にわたる安定的な充電処理が行われ、バッテリ管理装置30のコントローラ34は、第1SOC範囲D1にわたる充電特性線を取得できる。ステップS35の放電は、外部の充電設備(電力系統)への放電であってもよいし、電動車両1の電気機器16への放電、あるいは、電動車両1に接続された外部の電気機器への放電であってもよい。なお、ステップS35、S36の定電流充電は、厳密な定電流でなくてもよく、dV/dQ特性線のピークbが正常に検出できる程度に安定した充電であればよい。
【0056】
このような充放電の制御処理により、バッテリ14に可逆劣化の可能性が生じてバッテリ管理装置30のコントローラ34から第1SOC範囲D1の充放電の要求がなされた場合に、速やかに第1SOC範囲D1の安定的な充電又は放電を実施することができる。
【0057】
上述した充放電の制御処理のプログラムは、車両コントローラ21の記憶部21aなど、非一過性の記憶媒体に記憶されている。車両コントローラ21は、可搬型の非一過性の記録媒体に記憶されたプログラムを読み込み、当該プログラムを実行するように構成されてもよい。上記の可搬型の非一過性の記憶媒体は、上述した充放電の管理処理のプログラムを記憶していてもよい。当該充放電の制御処理をバッテリ管理装置30のコントローラ34が実行する場合には、上述した説明において車両コントローラ21をコントローラ34と読み替えればよい。
【0058】
以上のように、本実施形態のバッテリ管理装置30によれば、コントローラ34は、バッテリ14の特性値の劣化が有った場合に、検出部32の出力に基づいて特性値の劣化が可逆劣化か否かを判別する。そして、コントローラ34は、可逆劣化と判別した場合に、特性値を劣化前の値に戻す。したがって、バッテリ14の特性値が可逆劣化の後に回復した場合に、回復した特性値に応じた充放電の管理がなされ、バッテリ14の能力を十分に発揮できる。さらに、可逆劣化か否かの判別により、単なる誤差で回復したように見える場合と区別して特性値を劣化前の値(回復した値)に戻すので、バッテリ14の能力を超える充放電が行われてしまうことを抑制できる。
【0059】
さらに、本実施形態のバッテリ管理装置30によれば、管理するバッテリ14は第1SOC範囲D1においてdV/dQ特性線に複数のピークbが現れる特性を有する。そして、コントローラ34は、第1SOC範囲D1における検出部32の出力に基づいて、特性値の劣化が可逆劣化か否かを判別する。より具体的には、コントローラ34は、dV/dQ特性線のピークの数が比較基準よりも減少、あるいは、ピークが比較基準よりも緩やかになっていることに基づいて、特性値の劣化が可逆劣化であると判別する。このような判別の手法により、コントローラ34は、より正確に可逆劣化か否かを判別することができる。なお、可逆劣化か否かの判別手段としては、バッテリ14の特性に応じた別の手段が適用されてもよい。
【0060】
さらに、本実施形態のバッテリ管理装置30によれば、コントローラ34は、特性値の劣化の進行に応じて、車両コントローラ21に第1SOC範囲D1にわたる放電或いは充電が行われるよう要求を行う。したがって、可逆劣化の可能性が有る場合に、コントローラ34は、速やかに第1SOC範囲D1にわたる放電特性線又は充電特性線を得て、より正確な可逆劣化の判別が可能となる。
【0061】
さらに、本実施形態のバッテリ管理装置30によれば、コントローラ34は、特性値の劣化が可逆劣化であると判別した場合に、特性値の計算を再度行い、特性値が回復していることを条件に、特性値を劣化前の値に戻す。このような再確認の処理により、実際には回復していないのに、特性値を回復した値に戻してしまうという不都合を低減できる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、図5図7の充放電の管理処理においては、コントローラ34は、ステップS21~S25の処理により、dV/dQ特性線のピークbが回復していることを条件に、特性値を回復した値に戻している。しかし、コントローラ34は、ピークbの回復は確認せずに、特性値を回復した値に戻してもよい。また、コントローラ34は、特性値の回復を確認せずに、可逆劣化と判別した場合に、回復期間を待って特性値を劣化前の値に戻してもよい。また、上記実施形態では、バッテリ管理装置30が1つのバッテリ14の総合的な特性値に基づき充放電を管理する例を示した。しかし、本発明に係るバッテリ管理装置は、1つのバッテリに含まれる複数の電池セルの個々の特性値に基づいてバッテリ全体、あるいは、個々の電池セルの充放電を管理してもよい。その他、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 電動車両
2 駆動輪
11 走行モータ
12 インバータ
14 バッテリ
16 電気機器
18 操作部
21 車両コントローラ
21a 記憶部
30 バッテリ管理装置
32 検出部
32a 電流センサ
32b 電圧センサ
32c 温度センサ
34 コントローラ
34a、34b 記憶部
34e 記憶部
D1 第1SOC範囲
b ピーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8