IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2024-31483呼吸情報取得装置、呼吸情報取得システム、処理装置、および呼吸情報取得方法
<>
  • -呼吸情報取得装置、呼吸情報取得システム、処理装置、および呼吸情報取得方法 図1
  • -呼吸情報取得装置、呼吸情報取得システム、処理装置、および呼吸情報取得方法 図2
  • -呼吸情報取得装置、呼吸情報取得システム、処理装置、および呼吸情報取得方法 図3
  • -呼吸情報取得装置、呼吸情報取得システム、処理装置、および呼吸情報取得方法 図4
  • -呼吸情報取得装置、呼吸情報取得システム、処理装置、および呼吸情報取得方法 図5
  • -呼吸情報取得装置、呼吸情報取得システム、処理装置、および呼吸情報取得方法 図6
  • -呼吸情報取得装置、呼吸情報取得システム、処理装置、および呼吸情報取得方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031483
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】呼吸情報取得装置、呼吸情報取得システム、処理装置、および呼吸情報取得方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20240229BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A61B5/08
A61B5/1455
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135058
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】518184753
【氏名又は名称】平沢 英二
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和正
(72)【発明者】
【氏名】平沢 英二
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038KK01
4C038KL07
4C038SX07
4C038SX11
(57)【要約】
【課題】対象者の呼吸情報を取得するセンサの利便性を高める。
【解決手段】発光装置11は、第一波長λ1を含む第一の光、および当該第一波長λ1と異なる第二波長λ2を含む第二の光を出射する。受光装置12は、対象者の組織Tと相互作用した後の第一の光の強度と前記第二の光の強度にそれぞれ対応する第一検出信号S1と第二検出信号S2を出力する。処理装置13は、第一検出信号S1と第二検出信号S2の比に基づいて指標値を算出し、かつ当該指標値の経時変化に基づいて前記対象者の呼吸情報を取得する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一波長を含む第一の光、および当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光を出射する発光部と、
対象者の組織と相互作用した後の前記第一の光の強度と前記第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を出力する受光部と、
前記第一信号と前記第二信号の比に基づいて指標値を算出し、かつ当該指標値の経時変化に基づいて前記対象者の呼吸情報を取得する処理装置と、
を備えている、
呼吸情報取得装置。
【請求項2】
前記第一波長と前記第二波長は、前記対象者の血中吸光物質の吸光特性に基づいて定められている、
請求項1に記載の呼吸情報取得装置。
【請求項3】
前記指標値は、前記第一信号の経時変化の勾配である第一勾配と前記第二信号の経時変化の勾配である第二勾配の比に基づいて算出される、
請求項1に記載の呼吸情報取得装置。
【請求項4】
前記指標値は、前記第一勾配の正負と前記第二勾配の正負とが一致しており、前記第一勾配の絶対値が第一閾値を上回り、かつ前記第二勾配の絶対値が第二閾値を上回る区間を用いて算出される、
請求項3に記載の呼吸情報取得装置。
【請求項5】
前記指標値は、前記第一勾配と前記第二勾配とがともに正である区間を用いて算出される、
請求項4に記載の呼吸情報取得装置。
【請求項6】
前記指標値は、一拍動内の同一相に対応する区間から取得された前記第一勾配と前記第二勾配を用いて算出される、
請求項4に記載の呼吸情報取得装置。
【請求項7】
前記呼吸情報は、呼吸数と呼吸曲線の少なくとも一方を含んでいる、
請求項1に記載の呼吸情報取得装置。
【請求項8】
発光部と受光部を備えている第一センサと、
処理装置を備えている呼吸情報取得装置と、
を含んでおり、
前記発光部は、第一波長を含む第一の光、および当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光を出射し、
前記受光部は、対象者の組織と相互作用した後の前記第一の光の強度と前記第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を出力し、
前記処理装置は、前記第一信号と前記第二信号の比に基づいて指標値を算出し、かつ当該指標値の経時変化に基づいて前記対象者の第一呼吸情報を取得する、
呼吸情報取得システム。
【請求項9】
前記第一センサとは異なる手法で前記対象者の第二呼吸情報を取得する第二センサを含んでおり、
前記処理装置は、前記第一呼吸情報と前記第二呼吸情報の組合せに基づいて、前記対象者が発症している無呼吸症候群の種別を推定するように構成されている、
請求項8に記載の呼吸情報取得システム。
【請求項10】
発光部から出射されて対象者の組織と相互作用した後の第一波長を含む第一の光の強度と当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を受け付けるインタフェースと、
前記第一信号と前記第二信号の比に基づいて指標値を算出し、かつ当該指標値の経時変化に基づいて前記対象者の呼吸情報を取得するプロセッサと、
を備えている、
処理装置。
【請求項11】
対象者の組織と相互作用した後の第一の光の強度と第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を受光部から受け付け、
前記対象者の前記第一信号と前記第二信号の比に基づいて指標値を算出し、
前記指標値の経時変化に基づいて前記対象者の呼吸情報を取得する、
呼吸情報取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象者の呼吸情報を取得する装置および方法に関連する。本開示は、当該装置とセンサを含むシステム、および当該装置に搭載される処理装置にも関連する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、対象者の呼気に含まれる水蒸気の濃度に基づいて当該対象者の呼吸情報を取得するセンサを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010-523248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
対象者の呼吸情報を取得するセンサの利便性を高めることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示により提供される態様例の一つは、呼吸情報取得装置であって、
第一波長を含む第一の光、および当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光を出射する発光部と、
対象者の組織と相互作用した後の前記第一の光の強度と前記第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を出力する受光部と、
前記第一信号と前記第二信号の比に基づいて指標値を算出し、かつ当該指標値の経時変化に基づいて前記対象者の呼吸情報を取得する処理装置と、
を備えている。
【0006】
本開示により提供される態様例の一つは、呼吸情報取得システムであって、
発光部と受光部を備えている第一センサと、
処理装置を備えている呼吸情報取得装置と、
を含んでおり、
前記発光部は、第一波長を含む第一の光、および当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光を出射し、
前記受光部は、対象者の組織と相互作用した後の前記第一の光の強度と前記第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を出力し、
前記処理装置は、前記第一信号と前記第二信号の比に基づいて指標値を算出し、かつ当該指標値の経時変化に基づいて前記対象者の第一呼吸情報を取得する。
【0007】
本開示により提供される態様例の一つは、処理装置であって、
発光部から出射されて対象者の組織と相互作用した後の第一波長を含む第一の光の強度と当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を受け付けるインタフェースと、
前記第一信号と前記第二信号の比に基づいて指標値を算出し、かつ当該指標値の経時変化に基づいて前記対象者の呼吸情報を取得するプロセッサと、
を備えている。
【0008】
本開示により提供される態様例の一つは、呼吸情報取得方法であって、
対象者の組織と相互作用した後の第一の光の強度と第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を受光部から受け付け、
前記対象者の前記第一信号と前記第二信号の比に基づいて指標値を算出し、
前記指標値の経時変化に基づいて前記対象者の呼吸情報を取得する。
【0009】
上記の各態様例に係る構成によれば、対象者の呼吸に伴うガス交換が反映された呼吸情報を、パルスフォトメトリの原理を用いて取得できる。カプノグラム測定時のように対象者の口や鼻の周囲にセンサを装着する必要がないので、対象者と医療従事者の負担を軽減できる。よって、対象者の呼吸情報を取得するセンサの利便性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第一実施形態に係る呼吸情報取得装置の構成を例示している。
図2図1のプロセッサにより実行される処理の流れを例示している。
図3図1のプロセッサにより処理された信号の波形を例示している。
図4図1のプロセッサにより処理された信号の波形を例示している。
図5】実際の処理を通じて取得された信号の波形とカプノグラム波形の比較を例示している。
図6図1のプロセッサにより処理される第一検出信号と第二検出信号の各一部を例示している。
図7】第二実施形態に係る呼吸情報取得システムの構成を例示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付の図面を参照しつつ、実施形態の例を以下詳細に説明する。なお、以降の説明において参照される各図面では、各要素を認識可能な大きさとするために縮尺が適宜に変更されている。
【0012】
図1は、第一実施形態に係る呼吸情報取得装置10の機能構成を例示している。呼吸情報取得装置10は、発光装置11、受光装置12、処理装置13、および出力装置14を備えている。
【0013】
発光装置11は、第一発光素子111と第二発光素子112を備えている。第一発光素子111は、対象者の組織Tに向けて第一波長λ1を含む第一の光を出射するように構成されている。第二発光素子112は、組織Tに向けて第二波長λ2を含む第二の光を出射するように構成されている。例えば、第一波長λ1は赤外波長帯に含まれ、第二波長λ2は赤色波長帯に含まれうる。
【0014】
第一発光素子111と第二発光素子112の各々は、半導体発光素子でありうる。半導体発光素子の例としては、発光ダイオード、レーザダイオード、EL素子などが挙げられる。
【0015】
受光装置12は、受光素子を備えている。受光素子は、受光面に入射した第一の光の強度と第二の光の強度にそれぞれ対応する信号強度を有する第一検出信号S1と第二検出信号S2を出力するように構成されている。第一検出信号S1と第二検出信号S2の各々は、アナログ信号であってもよいし、デジタル信号であってもよい。受光素子の例としては、フォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトレジスタなどが挙げられる。
【0016】
処理装置13は、入力インタフェース131を備えている。入力インタフェース131は、受光装置12から出力される第一検出信号S1と第二検出信号S2を受け付けるハードウェアインタフェースとして構成されている。第一検出信号S1と第二検出信号S2の各々がアナログ信号である場合、入力インタフェース131は、A/Dコンバータを含む適宜の変換回路を備える。
【0017】
処理装置13は、プロセッサ132を備えている。プロセッサ132は、後述する各種の機能を実現するための処理を実行するように構成されている。
【0018】
プロセッサ132は、汎用メモリと協働して動作する汎用マイクロプロセッサにより実現されうる。汎用マイクロプロセッサとしては、CPU、MPU、GPUが例示されうる。汎用メモリとしては、ROMやRAMが例示されうる。この場合、ROMには、上記の処理を実行するコンピュータプログラムが記憶されうる。汎用マイクロプロセッサは、ROM上に記憶されたコンピュータプログラムの少なくとも一部を指定してRAM上に展開し、RAMと協働して上述した処理を実行する。
【0019】
プロセッサ132は、マイクロコントローラ、ASIC、FPGAなどの上記のコンピュータプログラムを実行可能な専用集積回路によって実現されてもよい。この場合、当該専用集積回路に含まれる記憶素子に上記のコンピュータプログラムがプリインストールされる。プロセッサ32は、汎用マイクロプロセッサと専用集積回路の組合せによって実現されてもよい。
【0020】
処理装置13は、出力インタフェース133を備えている。出力インタフェース133は、発光装置11および出力装置14に所定の動作を実行させるための制御信号を出力するハードウェアインタフェースとして構成されている。制御信号は、アナログ信号であってもよいし、デジタル信号であってもよい。制御信号がアナログ信号である場合、出力インタフェース133は、D/Aコンバータを含む適宜の変換回路を備える。
【0021】
具体的には、プロセッサ132は、発光装置11に第一の光と第二の光を交互に出射させる発光制御信号ECを、出力インタフェース133から出力する。第一発光素子111と第二発光素子112は、発光制御信号ECにより指定されるタイミングで第一の光と第二の光を交互に出射する。
【0022】
第一の光と第二の光は、組織Tに交互に入射する。組織Tと相互作用した第一の光と第二の光は、受光素子の受光面に入射する。本明細書で用いられる「組織と相互作用した光」という表現は、組織を透過した光と組織により反射された光の双方を包括する意味である。
【0023】
したがって、受光装置12は、第一検出信号S1と第二検出信号S2とを交互に出力する。処理装置13のプロセッサ132は、第一発光素子111と第二発光素子112の発光制御が行なわれたタイミングに基づいて、いずれの検出信号が入力インタフェース131により受け付けられたのかを識別する。
【0024】
図2を参照しつつ、プロセッサ132により実行される呼吸情報の取得方法について説明する。
【0025】
まず、プロセッサ132は、前述の通り入力インタフェース131を通じて第一検出信号S1と第二検出信号S2を交互に受け付ける(STEP1)。
【0026】
続いて、プロセッサ132は、第一検出信号S1と第二検出信号S2が取得された時点tにおける指標値Φ(t)を、次式を用いて算出する(STEP2)。

Φ(t)=G1(t)/G2(t)
G1(t)=ΔS1(t)/S1(t)
G2(t)=ΔS2(t)/S2(t)
【0027】
ΔS1(t)は、時点tにおける第一検出信号S1の勾配を表している。ΔS1(t)は、例えば、S1(t)を含む複数時点において取得された第一の光の強度の値を用いて最小二乗法により算出されうる。
【0028】
同様に、ΔS2(t)は、時点tにおける第二検出信号S2の勾配を表している。ΔS2(t)は、例えば、S2(t)を含む複数時点において取得された第二の光の強度の値を用いて最小二乗法により算出されうる。
【0029】
すなわち、指標値Φ(t)は、時点tにおいて取得された第一検出信号S1と第二検出信号S2の比に基づいて算出される。なお、本例のように第一の光と第二の光が交互に出射される場合、第一検出信号S1が取得された時点と第二検出信号S2が取得された時点とは厳密には異なる。したがって、第一検出信号S1と第二検出信号S2の少なくとも一方の位相を進めたり遅らせたりすることにより時間差の影響を抑制する処理が必要に応じて行なわれてもよい。
【0030】
第一の光と第二の光の照射を受ける対象者の組織Tが動脈を含んでいる場合、第一波長λ1と第二波長λ2は、動脈血に含まれる酸素化ヘモグロビンの吸光度に有意な差が見られる二つの波長として選択されうる。酸素化ヘモグロビンは、血中吸光物質の一例である。この場合、指標値Φは、対象者の経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)との相関を有する。
【0031】
続いて、プロセッサ132は、指標値Φの経時変化に基づいて、対象者の呼吸情報を取得する(STEP3)。
【0032】
指標値Φは、SpO2に対して負の相関を有しているので、指標値Φの逆数である(1/Φ)値が取得される。図3は、SpO2計測で観測された脈波PWと(1/Φ)値の経時変化を例示している。縦軸は各波形内の相対的な信号強度の大小を表しており、両波形の信号強度の絶対値を比較しているのではない。なお、第一検出信号S1と第二検出信号S2の変化が少ない時間区間や、指標値Φの比較的大きな変動を伴うノイズの除去が適宜に行なわれることが好ましい。
【0033】
一つの実現例として、各脈波の立ち上がり相の(1/Φ)を取り出す。(1/Φ)値は時間離散的に取得されているので、補間処理が行なわれる。例えば、ある時点において取得された(1/Φ)値から一定値を差し引くような直線を引く処理が行なわれることにより、図4に例示されるような(1/Φ)値の経時変化を捉えやすくした波形が得られる。
【0034】
図5は、実際の対象者に対するSpO2測定により観測された脈波に図4の例示と同様の処理を適用することにより取得された呼吸波形RSを例示している。
【0035】
図5においては、周知の炭酸ガス濃度センサ(カプノメータ)を用いて同時に取得された対象者の呼吸波形(カプノグラム)CPを、比較のために例示している。縦軸は各波形内の相対的な信号強度の大小を表しており、両波形の信号強度の絶対値を比較しているのではない。波形の形状は異なるものの、呼吸数などの情報が概ね反映されていることが判る。
【0036】
図1に例示されるように、プロセッサ132は、取得された呼吸情報を出力装置14に出力させる出力制御信号OCを、出力インタフェース133から出力する。
【0037】
出力装置14は、出力制御信号OCに基づいて、取得された呼吸情報を出力するように構成されている。当該情報は、図5に例示される呼吸波形と当該呼吸波形に基づいて算出された単位時間当たりの呼吸数の少なくとも一方を、視覚的に提供するように構成されている。情報の視覚的提供は、ディスプレイに表示される画像として提供されてもよいし、印刷物として提供されてもよい。これに加えてあるいは代えて、呼吸数や呼吸波形に同期した音を、スピーカを通じて聴覚的に提供してもよい。
【0038】
本実施形態の構成によれば、対象者の呼吸に伴うガス交換が反映された呼吸情報を、パルスフォトメトリの原理を用いて取得できる。カプノグラム測定時のように対象者の口や鼻の周囲にセンサを装着する必要がないので、対象者と医療従事者の負担を軽減できる。したがって、対象者の呼吸情報を取得するセンサの利便性を高めることができる。
【0039】
特に本実施形態のように組織Tに照射される第一の光の第一波長λ1と第二の光の第二波長λ2が血中吸光物質濃度の吸光特性に基づいて定められている場合、血中吸光物質濃度を測定するための構成で呼吸情報も取得できる。これらの情報を得るために装着されるセンサの数を削減できるので、患者や医療従事者の負担を軽減できる。
【0040】
血中吸光物質の例としては、前述の酸素化ヘモグロビンに加え、脱酸素化ヘモグロビン、一酸化炭素ヘモグロビン、Metヘモグロビン、色素などが挙げられる。
【0041】
なお、血中吸光物質濃度の測定が必須ではなく、一呼吸周期内の肺でのガス交換の変化が組織Tの吸光度比に対応する指標値Φに反映されるのであれば、第一波長λ1と第二波長λ2は適宜に選択されうる。
【0042】
図6は、対象者の一脈動(一拍動)に対応する第一検出信号S1の経時変化と第二検出信号S2の経時変化を例示している。縦軸は各波形内の相対的な信号強度の大小を表しており、両波形の信号強度の絶対値を比較しているのではない。SpO2などの血中吸光物質濃度の算出に際しては、第一検出信号S1と第二検出信号S2から得られる吸光度比は一拍動内で一定として、一拍毎の分解能で扱われることが一般的である。他方、本実施形態においては、前述の通り第一検出信号S1の勾配ΔS1と第二検出信号S2の勾配ΔS2の比に基づいて指標値Φの算出がなされている。このような構成によれば、拍よりも高い分解能で指標値Φの経時変化を取得できるので、後続する信号処理の結果として得られる呼吸情報の精度を高めることができる。
【0043】
有意な比に基づいて指標値Φを算出するという観点からは、勾配ΔS1と勾配ΔS2は、正負が一致している時間区間において取得されることが好ましい。加えて、勾配ΔS1の絶対値と勾配ΔS2の絶対値がともに閾値を上回っている時間区間について値の取得がなされることが好ましい。図示の例においては、時点t3~t4の区間が除外される。
【0044】
静脈還流の影響を抑制するという観点からは、勾配ΔS1と勾配ΔS2がともに正である時間区間について値の取得がなされることがより好ましい。図示の例においては、時点t4~t5の区間などが除外される。また、拍動そのものが他の成分(静脈や組織など)へ影響している事も想定され、それらの影響を抑制或いは影響具合を揃える観点からは、一拍内の同一相からの値を取得することが好ましい場合もある。図示の例においては、t1~t2の区間が採用される。
【0045】
本実施形態においては、呼吸情報取得装置10に発光装置11と受光装置12が内蔵されている。このような構成によれば、呼吸情報を取得可能な装置の携帯性を高めることができる。
【0046】
図7は、第二実施形態に係る呼吸情報取得システム20の構成を例示している。呼吸情報取得システム20は、第一センサ21と呼吸情報取得装置22を含んでいる。第一センサ21と呼吸情報取得装置22は、通信可能に接続される。
【0047】
第一センサ21は、対象者の組織Tに装着可能に構成される。第一センサ21は、図1を参照して説明した発光装置11と受光装置12を備えている。呼吸情報取得装置22は、図1を参照して説明した処理装置13と出力装置14を備えている。各装置の動作は第一実施形態と同じであるので、繰り返しとなる説明は省略する。
【0048】
発光装置11と受光装置12が呼吸情報取得装置22と独立した装置として提供されるこのような構成によっても、前述した効果を得ることができる。
【0049】
呼吸情報取得システム20は、第二センサ23を含みうる。第二センサ23と呼吸情報取得装置22は、通信可能に接続される。第二センサ23は、第一センサ21とは異なる手法で対象者の呼吸情報を取得するように構成されている。異なる手法の例としては、インピーダンス法のような呼吸運動による呼吸計測などが挙げられる。
【0050】
この場合、呼吸情報取得装置22のプロセッサ132は、指標値Φを用いて取得された呼吸波形に基づいて対象者が無呼吸状態にあるかを示す第一呼吸情報を取得するように構成されうる。
【0051】
他方、第二センサ23から送信される検出信号Sは、第一センサ21とは異なる手法で取得された対象者が無呼吸状態にあるかを示す第二呼吸情報を含みうる。プロセッサ132は、検出信号Sが入力インタフェース131により受け付けられることにより、第二呼吸情報を取得する。
【0052】
なお、第二センサ23は、検出された対象者の呼吸状態に対応する信号のみ送信し、当該信号に基づく無呼吸状態にあるかの判断はプロセッサ132によりなされてもよい。
【0053】
プロセッサ132は、第一呼吸情報と第二呼吸情報の組合せに基づき、対象者が発症している無呼吸症候群の種別を推測するように構成されうる。無呼吸症候群の種別の例としては、中枢性、閉塞性、および複合性が挙げられる。
【0054】
一例として、第一呼吸情報と第二呼吸情報がともに対象者が無呼吸状態にあることを示している場合、プロセッサ132は、当該対象者が中枢性無呼吸症候群を発症していると推測する。
【0055】
別例として、対象者が無呼吸状態にあることを第一呼吸情報が示しており、当該対象者が無呼吸状態にないことを第二呼吸情報が示している場合、プロセッサ132は、当該対象者が閉塞性無呼吸症候群を発症していると推測する。
【0056】
プロセッサ132は、推測結果を出力装置14に出力させる出力制御信号OCを、出力インタフェース133から出力する。出力装置14による推測結果の出力は、視覚的出力、聴覚的出力、および触覚的出力の少なくとも一つを通じてなされうる。
【0057】
これまで説明した各構成は、本開示の理解を容易にするための例示にすぎない。各構成は、本開示の趣旨を逸脱しなければ、適宜の変更や他の構成との組合せがなされうる。
【0058】
これまで説明した各構成例においては、処理装置13が呼吸情報取得装置に搭載されている。しかしながら、処理装置13は、呼吸情報取得装置とデータ通信可能な装置に搭載されてもよい。この場合の呼吸情報取得装置は、処理装置13とデータ通信を行なうための通信装置を備える。受光装置12から出力された第一検出信号S1と第二検出信号S2は、当該通信装置により処理装置13へ送信される。処理装置13は、前述した各種の処理を実行し、出力制御信号OCを呼吸情報取得装置へ送信する。出力制御信号OCを受信した呼吸情報取得装置は、取得された呼吸情報を、出力装置14から出力する。
【0059】
これまで説明した各実施形態においては、第一波長λ1を含む第一の光と第二波長λ2を含む第二の光を出射する発光装置11が用いられている。しかしながら、三つ以上の相違する波長を含む光を出射可能な発光装置11が用いられてもよい。その場合、指標値Φの算出に用いられる二つの波長は、三つ以上の波長から任意に選ばれうる。
【0060】
以下に列挙される構成もまた、本開示の一部を構成する。

(1):
第一波長を含む第一の光、および当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光を出射する発光部と、
対象者の組織と相互作用した後の前記第一の光の強度と前記第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を出力する受光部と、
前記第一信号と前記第二信号の比に基づいて指標値を算出し、かつ当該指標値の経時変化に基づいて前記対象者の呼吸情報を取得する処理装置と、
を備えている、
呼吸情報取得装置。

(2):
前記第一波長と前記第二波長は、前記対象者の血中吸光物質の吸光特性に基づいて定められている、
(1)に記載の呼吸情報取得装置。

(3):
前記指標値は、前記第一信号の経時変化の勾配である第一勾配と前記第二信号の経時変化の勾配である第二勾配の比に基づいて算出される、
(1)または(2)に記載の呼吸情報取得装置。

(4):
前記指標値は、前記第一勾配の正負と前記第二勾配の正負とが一致しており、前記第一勾配の絶対値が第一閾値を上回り、かつ前記第二勾配の絶対値が第二閾値を上回る区間を用いて算出される、
(3)に記載の呼吸情報取得装置。

(5):
前記指標値は、前記第一勾配と前記第二勾配とがともに正である区間を用いて算出される、
(4)に記載の呼吸情報取得装置。

(6):
前記指標値は、一拍動内の同一相に対応する区間から取得された前記第一勾配と前記第二勾配を用いて算出される、
(4)に記載の呼吸情報取得装置。

(7):
前記呼吸情報は、呼吸数と呼吸曲線の少なくとも一方を含んでいる、
(1)から(6)のいずれかに記載の呼吸情報取得装置。

(8):
発光部と受光部を備えている第一センサと、
処理装置を備えている呼吸情報取得装置と、
を含んでおり、
前記発光部は、第一波長を含む第一の光、および当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光を出射し、
前記受光部は、対象者の組織と相互作用した後の前記第一の光の強度と前記第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を出力し、
前記処理装置は、前記第一信号と前記第二信号の比に基づいて指標値を算出し、かつ当該指標値の経時変化に基づいて前記対象者の第一呼吸情報を取得する、
呼吸情報取得システム。

(9):
前記第一センサとは異なる手法で前記対象者の第二呼吸情報を取得する第二センサを含んでおり、
前記処理装置は、前記第一呼吸情報と前記第二呼吸情報の組合せに基づいて、前記対象者が発症している無呼吸症候群の種別を推定するように構成されている、
(8)に記載の呼吸情報取得システム。

(10):
発光部から出射されて対象者の組織と相互作用した後の第一波長を含む第一の光の強度と当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を受け付けるインタフェースと、
前記第一信号と前記第二信号の比に基づいて指標値を算出し、かつ当該指標値の経時変化に基づいて前記対象者の呼吸情報を取得するプロセッサと、
を備えている、
処理装置。

(11):
対象者の組織と相互作用した後の第一の光の強度と第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を受光部から受け付け、
前記対象者の前記第一信号と前記第二信号の比に基づいて指標値を算出し、
前記指標値の経時変化に基づいて前記対象者の呼吸情報を取得する、
呼吸情報取得方法。
【符号の説明】
【0061】
10:呼吸情報取得装置、11:発光装置、12:受光装置、13:処理装置、131:入力インタフェース、132:プロセッサ、20:呼吸情報取得システム、21:第一センサ、22:呼吸情報取得装置、23:第二センサ、S1:第一検出信号、S2:第二検出信号、T:組織、λ1:第一波長、λ2:第二波長、ΔS1、ΔS2:勾配、Φ:指標値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-07-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
発光装置11は、第一発光素子111と第二発光素子112を備えている。第一発光素子111は、対象者の組織Tに向けて第一波長λ1を含む第一の光を出射するように構成されている。第二発光素子112は、組織Tに向けて第二波長λ2を含む第二の光を出射するように構成されている。例えば、第一波長λ1は赤波長帯に含まれ、第二波長λ2は赤波長帯に含まれうる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
プロセッサ132は、マイクロコントローラ、ASIC、FPGAなどの上記のコンピュータプログラムを実行可能な専用集積回路によって実現されてもよい。この場合、当該専用集積回路に含まれる記憶素子に上記のコンピュータプログラムがプリインストールされる。プロセッサ32は、汎用マイクロプロセッサと専用集積回路の組合せによって実現されてもよい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
指標値Φは、SpO2に対して負の相関を有しているので、指標値Φの逆数である(1/Φ)値取得する処理がなされる。図3は、SpO2計測で観測された脈波PWと(1/Φ)値の経時変化を例示している。縦軸は各波形内の相対的な信号強度の大小を表しており、両波形の信号強度の絶対値を比較しているのではない。なお、第一検出信号S1と第二検出信号S2の変化が少ない時間区間を上記の処理の対象から除外することや、指標値Φの比較的大きな変動を伴うノイズの除去が適宜に行なわれることが好ましい。