IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東京工業大学の特許一覧

<>
  • 特開-面発光レーザおよびその製造方法 図1
  • 特開-面発光レーザおよびその製造方法 図2
  • 特開-面発光レーザおよびその製造方法 図3A
  • 特開-面発光レーザおよびその製造方法 図3B
  • 特開-面発光レーザおよびその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031538
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】面発光レーザおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/183 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
H01S5/183
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135175
(22)【出願日】2022-08-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「革新的情報通信技術研究開発委託研究(Beyond5G)/Beyond 5G 超大容量無線通信を支える次世代エッジクラウドコンピューティング基盤の研究開発(Beyond 5Gに向けた革新的高速大容量データ転送ハードウェア開発と高機能エッジクラウド情報処理基盤の研究開発)」、委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】小山 二三夫
(72)【発明者】
【氏名】顧 暁冬
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AC03
5F173AC13
5F173AC14
5F173AC20
5F173AC26
5F173AC35
5F173AC42
5F173AC52
5F173AC61
5F173AP67
5F173AR33
5F173AR36
(57)【要約】
【課題】小型かつ高速・低消費電力で、温度変化や高出力動作時においても、安定して動作する面発光レーザとその製造方法を提供すること。
【解決手段】本実施形態の面発光レーザは、基板上に、下部部半導体DBRと、活性層と、垂直方向に光出射するための酸化開口部を形成する酸化狭窄層と、前記酸化狭窄層の上下どちらか一方、あるいは両方に、垂直方向の酸化を防止する酸化防止層と、前記酸化開口部の半導体表面が一部除去される上部半導体DBRと、前記酸化開口部を含み、前記酸化開口部より広い範囲で結合共振開口部を形成する横方向伝搬反射層と、上部誘電体DBR層と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、下部部半導体DBRと、
活性層と、
垂直方向に光出射するための酸化開口部を形成する酸化狭窄層と、
前記酸化狭窄層の上下どちらか一方、あるいは両方に、垂直方向の酸化を 防止する酸化防止層と、
前記酸化開口部の半導体表面が一部除去される上部半導体DBRと、
前記酸化開口部を含み、前記酸化開口部より広い範囲で結合共振開口部を形成する横方向伝搬反射層と、
上部誘電体DBR層と、
を有する面発光レーザ。
【請求項2】
前記酸化開口部における垂直方向の共振波長より前記酸化開口部周辺の結合共振開口部における共振波長の方が長くなるように、前記酸化狭窄層の実効的な酸化層厚に対して、前記酸化開口部の半導体表面の除去深さが設定される請求項1に記載の面発光レーザ。
【請求項3】
前記酸化防止層がAlGaAsで構成される場合、Al組成を約70%以下とする請求項1または2に記載の面発光レーザ。
【請求項4】
前記横方向伝搬反射層は、金属である請求項1に記載の面発光レーザ。
【請求項5】
前記横方向伝搬反射層は、半導体である請求項1に記載の面発光レーザ。
【請求項6】
前記横方向伝搬反射層は、誘電体である請求項1に記載の面発光レーザ。
【請求項7】
基板上に、下部部半導体DBRと、活性層と、垂直方向に光出射するための酸化開口部を形成する酸化狭窄層と、を形成する工程と、
前記酸化狭窄層の上下どちらか一方、あるいは両方に、垂直方向の酸化を防止する酸化防止層と、を形成する工程と、
前記酸化開口部の半導体表面が一部除去される上部半導体DBRと、前記酸化開口部を含み、前記酸化開口部より広い範囲で結合共振開口部を形成する横方向伝搬反射層と、
上部誘電体DBR層と、を形成する工程と、有する面発光レーザの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、面発光レーザとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンや各種計測センサを搭載したIoT(Internet of Things) などの通信デバイスが満ち溢れる現代社会において、通信容量の増大は必須な課題である。電子デバイスにとって更なる高速化、小型化、低消費電力・高出力化などが避けられない課題となっている。また、第5、第6世代(5G、6G)の無線通信規格の時代においては、自動運転、ロボット、ドローンなどのAI(Artificial Intelligence)技術の革新が進み、種々の周波数での高速通信が利用されるようになる。そのため更なる電子デバイスの高機能化、高速動作、高信頼性が要求されている。
【0003】
元来、面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)は、小型かつ低消費電力な特徴を持つため、近年では、スマートフォンなどの顔認証や、LIDAR(Light Detection And Ranging)用光源などの高機能デバイスに用いられている。高機能化、高速化、高出力化を達成するために、種々の課題解決の試みがなされてきた。例えば、特許文献1においては、面発光レーザに微小共振器を横方向に集積することで、光学的なフィードバックにより変調帯域の拡大が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6240429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示はかかる状況においてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、小型かつ高速・低消費電力で、温度変化や高出力動作時においても、安定して動作する面発光レーザとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様の面発光レーザは、基板上に、下部半導体DBRと、活性層と、垂直方向に光出射するための酸化開口部を形成する酸化狭窄層と、前記酸化狭窄層の上下どちらか一方、あるいは両方に、垂直方向の酸化を防止する酸化防止層と、前記酸化開口部の半導体表面が一部除去される上部半導体DBRと、前記酸化開口部を含み、前記酸化開口部より広い範囲で結合共振開口部を形成する横方向伝搬反射層と、
上部誘電体DBR層と、を有する
【0007】
また、本実施形態の面発光レーザの製造方法は、基板上に、下部半導体DBRと、活性層と、垂直方向に光出射するための酸化開口部を形成する酸化狭窄層と、を形成する工程と、前記酸化狭窄層の上下どちらか一方、あるいは両方に、垂直方向の酸化を防止する酸化防止層と、を形成する工程と、前記酸化開口部の半導体表面が一部除去される上部半導体DBRと、前記酸化開口部を含み、前記酸化開口部より広い範囲で結合共振開口部を形成する横方向伝搬反射層と、上部誘電体DBR層と、を形成する工程と、有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のある態様によれば、大きな光開口に対しても安定した単一モード発振動作を可能にし、さらに周波数特性を大幅に拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態における面発光レーザの断面構造図である。
図2】実施形態における面発光レーザの結合共振を説明する模式図である。
図3A】実施形態における面発光レーザのモードプロファイルの計算例である。
図3B】実施形態における面発光レーザのモードプロファイルの計算例である。
図4】表面レリーフ深さ、および酸化狭窄層の実効的酸化層厚に対する共振波長の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。また、図面のスケールは、実施形態の特徴を分かりやすくするために強調している場合、実際のデバイスのスケールと同一ではない。
【0011】
図1は、実施形態における面発光レーザの断面構造図である。本実施形態の面発光レーザ100は、図示しない基板上に、下部半導体DBR(分布ブラッグ反射鏡:Distributed Bragg Reflector)層11と、活性層12と、酸化狭窄層13と、上部半導体DBR層14と、横方向伝搬反射層15と、誘電体DBR層16と、を有している。また、酸化狭窄層13の上下どちらか一方、あるいは両方に酸化防止層20を有している。
【0012】
基板を図示しないのは、本実施形態に必ずしも必要な構成要件ではなく、最終的に基板が除去される実施形態もあるからである。基板を基準として上部、下部、垂直、水平という用語を用いたが、絶対的な方向を意味しない。また、本発明の実施形態として、InGaAs/GaAs系1060nm帯の面発光レーザについて例示するが、これに限定されない。これ以外の化合物半導体を用いた面発光レーザであっても同様の効果を有する。
【0013】
下部半導体DBR層11は、例えば、Al組成(0~1)の異なる高屈折率と低屈折率のAlGaAs層をペアとして所定数積層する。各層の光学的厚みは1/4波長であり、高反射率反射鏡が形成される。
【0014】
活性層12は、例えばInGaAs/GaAs量子井戸活性層で構成される。
【0015】
酸化狭窄層13は、選択酸化プロセスにおいて酸化が選択的に早くすすむように、上部半導体DBR層14や下部半導体DBR層11よりAl組成が高いAlGaAsまたはAlAsなどで構成される。酸化狭窄層13の層内は、非酸化領域13aと酸化領域13bに分けられ、垂直方向に光出射するための酸化開口部17が形成されている。酸化狭窄層13aの非酸化領域の屈折率は約3.0であるが、Al組成が高いAlGaAsやAlAsなどの材料が酸化された場合は、屈折率が約1.6程度まで低下する。酸化狭窄層13は、電流を狭窄すると同時に、この屈折率差により光は非酸化領域13aに閉じ込められる。ここでは酸化開口部17は、非酸化領域13aの大きさとし、この大きさ(直径)をDoaとする。なお、本実施形態では、非酸化領域13a、酸化開口部17を円形として説明するが、その形に限定されない。
【0016】
上部半導体DBR層14は、例えば、Al組成(0~1)の異なる高屈折率と低屈折率のAlGaAs層をペアとして所定数積層される。各層の光学的厚みは1/4波長である。また、非酸化領域13aに対応する領域の半導体表面が一部除去される(以下、表面レリーフと呼ぶ)。この表面レリーフの部分を点線領域で示し、その拡大図を図1の右上に示す。ここで、この表面レリーフの深さをSrとする。
【0017】
横方向伝搬反射層15は、金属、半導体、誘電体など種々の材料を選ぶことができる。すなわち、光が横方向(水平方向)に伝搬した場合に反射が起こるような光学的不連続部材でよい。この横方向伝搬反射層15を金属で形成した場合は、駆動電流の電極として使用できる。この横方向伝搬反射層15によって、酸化開口部17の領域を含み、酸化開口部17より広い領域の結合共振開口部18を形成する。光学的不連続部材を積層しない部分が結合共振開口部18となり、この大きさ(直径)をDraとする。本実施形態では結合共振開口部18を円形として説明するが、その形に限定されない。
【0018】
結合共振開口部18内の酸化開口部17周辺のリング状の領域の幅をR1,R2とする。結合共振開口部18内の酸化開口部17が同心円上にある場合には、R1とR2は等しい。ここで、この酸化開口部17周辺から結合共振開口部18までのリング状領域を酸化開口周辺部19と定義する。
【0019】
誘電体DBR層16は、全ての層の光学的厚みを1/4波長で構成する。例えば、高屈折率層(Ta2O5)と低屈折率層(SiO2)をペア層とし、これを所望の反射率になるよう所定数積層して構成される。
【0020】
酸化防止層20は、垂直方向の酸化を制御するために酸化狭窄層13の上下どちらか一方、あるいは両方に酸化防止層20が形成される。
【0021】
図2は、実施形態における面発光レーザの結合共振を説明する模式図である。上図は、上部から見た平面図であり、横方向(水平方向)の光の共振状態を表している。また下図は、断面図を表し、縦方向(垂直方向)の光の共振状態を表している。また図1と合わせて説明を行う。
【0022】
光は横方向に酸化狭窄層13の酸化領域13b端で反射が生じる。したがって、酸化開口部17内で光共振が生じる。また、横方向伝搬反射層15端においても反射が生じ、結合共振開口部18でも光共振が生じる。この二つの光共振が結合共振器を形成する。
【0023】
光が酸化開口部17から酸化開口周辺部19に横方向に伝搬するためには、以下のような条件が必要である。下の断面図において、酸化開口部17の縦方向の共振波長をλoaとし、酸化開口周辺部19の縦方向の共振波長をλraとすると、λraがλoaより大きくなる(λra>λoa)ことが必要である。
【0024】
この条件が満足されると、酸化開口部17に閉じ込められた光の一部が酸化開口部17から酸化開口周辺部19にスローライト光となって横方向に伝搬し、横方向伝搬反射層15で反射することにより結合共振開口部18内での光共振が生じる。
【0025】
光は、酸化狭窄層13の電流狭窄と、非酸化領域13aと酸化領域13bの屈折率差によって、ほぼ酸化開口部17に閉じ込められる。このため、光のモードプロファイルを考慮するとR1とR2の値は、およそ1~2μmの間の値に設定するのがよい。3μm以下であれば、横方向伝搬反射層15(酸化開口周辺部19)からの光のフィードバックが効率よく行われる。またR1とR2の値は、酸化開口部17へフィードバックする光の位相が最適になるように決定される。
【0026】
このようにして結合共振開口部18内の共振光が、酸化開口部17にフィードバックされることで周波数特性が改善され、変調帯域の拡大が得られる。また、結合共振開口部18内の光共振と、酸化開口部17の光共振によって結合共振器が形成されるため、バーニア効果を生じる。このバーニア効果によって、大きな酸化開口部17に対しても横モードの安定化が得られる。
【0027】
図3は、実施形態における面発光レーザのモードプロファイルの計算例である。図3Aは、λra<λoaの場合であり、電界分布は、酸化開口部17の領域に閉じ込められる。また、図3Bは、λra>λoaの場合であり、光は酸化開口周辺部19を横方向に伝搬することがわかる。
【0028】
図4は、表面レリーフ深さSr、および酸化狭窄層の実効的酸化層厚に対する共振波長の関係を示す図である。丸印は、酸化開口部17(非酸化領域13a)における表面レリーフを施さない時の共振波長を示している。四角印は、表面レリーフを施した時の共振波長を、表面レリーフを施さない時の共振波長を基準として相対値として示している。また、三角印は、酸化領域13bに形成された実際の酸化層厚に対する酸化開口周辺部19の共振波長を、表面レリーフを施さない場合の共振波長を基準として相対値として示している。
【0029】
選択酸化プロセスは、高温水蒸気下でAlGaAsを酸化させることによってAl2O3を形成するプロセスであるが、酸化速度はAl組成や膜厚によって大きく変化する。酸化狭窄層13の上下層にどのようなAl組成の層を配置するかによって、酸化プロセスは、水平方向だけでなく垂直方向にも進む。したがって、実際の酸化狭窄層の厚みが30nmだとしても、上下層のAl組成が高い場合には、この上下層も酸化されてしまい、実際に酸化された層厚は、100nmということもある。
【0030】
表面レリーフは、酸化開口部17の共振波長を短くするために行われる。図2で説明したように、表面レリーフを行うことによって、酸化開口周辺部19の縦方向の共振波長λraを酸化開口部17の縦方向(垂直方向)の共振波長をλoaより大きくすることができる。実際の酸化層厚に対して、このλra>λoaが満足するように、表面レリーフの深さSrが決定する。
【0031】
例えば、酸化狭窄層13の層厚が30nmの時、図4のA点は、実際の酸化層厚が90nmである。この時、λra>λoaを満足するためには、表面レリーフの深さSrを50nm以上も深くエッチングする必要がある。またB点は、実際の酸化層厚が70nmである。この時、同様にλra>λoaを満足するためには、表面レリーフの深さSrを30nm以上にエッチングする必要が生じる。選択酸化プロセスは、プロセス条件や酸化狭窄層13に隣接する層のAl組成によって、実際の酸化層厚の変化が大きく、また実際の酸化層厚を非破壊で知ることは困難である。
【0032】
点Cは、垂直方向に、酸化プロセスが進まなかった場合、すなわち酸化狭窄層13の層厚30nmと実際の酸化層厚が等しい場合を示す。この時、表面レリーフの深さSrは5nm以上あればよく、非常に浅い表面レリーフを行えばよいことがわかる。また、逆に、表面レリーフの深さSrを10nmと一定すれば、表面レリーフのプロセス制御性は良好となる。この場合、点Dに示すように、実際の酸化層の厚さが50nm以下であれば、λra>λoaを満足するので結合共振を生じさせることができる。
【0033】
本実施形態では、酸化プロセスが垂直方向に進まない、あるいは、垂直方向の酸化速度を非常に抑制する酸化防止層20を、酸化狭窄層13の上下どちらか一方、あるいは両方に配置する。
【0034】
具体的には、酸化防止層20のAl組成を制御する。例えば、Al組成を0.7以下にすれば、垂直方向の酸化は大幅に抑制できる。ただし、Al組成が0.7より低い層と酸化狭窄層13が予め接している場合は、この層が酸化防止層20として機能するため、新たな酸化防止層20を挿入する必要はない。よって酸化防止層20を酸化狭窄層13の上下どちらか一方、あるいは両方に配置するかは、垂直方向の酸化を抑える必要がある側に配置すればよい。
【0035】
上部半導体DBR層14のペア層の間に酸化狭窄層13が形成される場合は、Al組成の高い低屈折層側にDBR層より充分薄い層厚で酸化防止層20を挿入する。または、酸化狭窄層13と接するこのペア層のAl組成を0.7以下にし、酸化防止層20として機能させる。
【0036】
上部半導体DBR層14のペア層の低屈折率層内に酸化狭窄層13が挿入されて形成される場合は、その挿入される層のAl組成を0.7以下に変更すれば、垂直方向の酸化速度が抑制されて酸化防止層20として機能する。また、上部半導体DBR層14の高屈折率層内に酸化狭窄層13が挿入されて形成される場合は、この層が酸化防止層20として機能する。
【0037】
本実施形態では、酸化防止層20のAl組成を0.7以下として説明したが、酸化プロセス条件や酸化狭窄層13の層厚が変われば、水平方向と垂直方向の酸化速度は変化する。したがって、水平方向の酸化に対して垂直方向の酸化が充分抑圧できるAl組成であればよい。酸化防止層20の具体的なAl組成は、デバイス特性、デバイス構造、および酸化プロセス条件などよって決定する。
【0038】
さらに、酸化防止層20の別の例では、Alを含まないGaASなどの薄膜を用いることにより、垂直方向の酸化を防止する。あるいは欠陥のあるGaAS層などを用い、界面に混晶起こさせることにより酸化狭窄層13界面のAl組成を低下させる。これにより、垂直方向の実際の酸化層厚を酸化狭窄層13の層厚より薄くすることも可能であると考えられる。また、歪超格子技術を利用して他の酸化しない半導体を薄膜成長してもよい。
【0039】
選択酸化技術は活性層を大気に触れさせることなく、電流狭窄と光の閉じ込めが可能な技術であり、レーザの特性向上に非常に有効な技術である。長波長帯の面発光レーザにも適応が可能である。歪超格子技術を用いて、InP層内にAlAsを成長させることができるので、長波長帯の面発光レーザなどではInP層を酸化防止層20とすることができる。
【0040】
本実施形態では、酸化層厚を制御することによって、表面レリーフの深さを薄くできる例について詳しく述べたが、酸化防止層20の導入により、表面レリーフの深さと酸化層厚が正確に制御できるため、酸化層厚が比較的厚い場合においても有効である。
【0041】
以上、実施形態によれば、酸化狭窄層13の上下どちらか一方、あるいは両方に、垂直方向の酸化を防止する酸化防止層20を配しているので、選択酸化プロセスにおいて実際の酸化層厚の制御を行うことができる。酸化防止層20によって実際の酸化層厚を薄く制御することができるので、上部半導体DBR層14表面に対する深い表面レリーフを必要としない。浅い表面レリーフで確実に横方向の光伝搬が生じ、酸化開口周辺部19から酸化開口部17へ光のフィードバックが生じる。これにより周波数特性が改善され、変調帯域が拡大する。また、酸化開口部17と結合共振開口部18による結合共振器によってバーニア効果が生じるため、酸化開口部17の領域を広くしても横モードを安定させることができる。酸化開口部17の領域を広くできるため高出力化も達成される。また、深い表面レリーフをする必要がないことから、いくつかの製造プロセスの課題が解決される。
【0042】
尚、本発明のいくつかの実施形態を述べたが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。本発明で示した新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。本実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
11…下部半導体DBR層
12…活性層
13…酸化狭窄層
14…上部半導体DBR層
15…横方向伝搬反射層
16…誘電体DBR層
17…酸化開口部
18…結合共振開口部
19…酸化開口周辺部
20…酸化防止層
図1
図2
図3A
図3B
図4