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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031539
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】面発光レーザおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/183 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
H01S5/183
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135176
(22)【出願日】2022-08-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「革新的情報通信技術研究開発委託研究(Beyond5G)/Beyond 5G 超大容量無線通信を支える次世代エッジクラウドコンピューティング基盤の研究開発(Beyond 5Gに向けた革新的高速大容量データ転送ハードウェア開発と高機能エッジクラウド情報処理基盤の研究開発)」、委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】小山 二三夫
(72)【発明者】
【氏名】顧 暁冬
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AC03
5F173AC13
5F173AC14
5F173AC20
5F173AC26
5F173AC35
5F173AC42
5F173AC52
5F173AC61
5F173AR33
5F173AR36
(57)【要約】
【課題】小型かつ高速・低消費電力で、温度変化や高出力動作時においても、安定して動作する面発光レーザとその製造方法を提供すること。
【解決手段】本実施形態の面発光レーザは、基板上に、下部半導体DBR層と、活性層と、垂直方向に光出射するための酸化開口部を形成する酸化狭窄層と、上部半導体DBR層と、前記酸化開口部を含み、前記酸化開口部より広い領域の結合共振開口部を形成する横方向伝搬反射層と、前記上部半導体DBR層側から数えて第1層目の層厚が光学波長の略1/2の厚みである誘電体DBR層と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、下部半導体DBR層と、
活性層と、
垂直方向に光出射するための酸化開口部を形成する酸化狭窄層と、
上部半導体DBR層と、
前記酸化開口部を含み、前記酸化開口部より広い領域の結合共振開口部を形成する横方向伝搬反射層と、
前記上部半導体DBR層側から数えて第1層目の層厚が光学波長の略1/2の厚みである誘電体DBR層と、
を有する面発光レーザ。
【請求項2】
前記誘電体DBR層の前記第1層の層厚は、前記酸化開口部における垂直方向の共振波長より前記酸化開口部周辺の結合共振開口部における共振波長の方が長くなるように設定される、請求項1に記載の面発光レーザ。
【請求項3】
発振波長は、基本モードより短波長側のモードの共振波長が選択される請求項2に記載の面発光レーザ。
【請求項4】
前記活性層は、前記基本モードの共振波長より前記短波長側のモードの共振波長の方が高い利得を有する請求項3に記載の面発光レーザ。
【請求項5】
前記酸化開口部の上部半導体DBRの表面が一部除去される請求項1から4のいずれかに記載の面発光レーザ。
【請求項6】
前記横方向伝搬反射層は、金属である請求項1に記載の面発光レーザ。
【請求項7】
前記横方向伝搬反射層は、半導体である請求項1に記載の面発光レーザ。
【請求項8】
前記横方向伝搬反射層は、誘電体である請求項1に記載の面発光レーザ。
【請求項9】
基板上に、下部半導体DBR層と、活性層と、垂直方向に光出射するための酸化開口部を形成する酸化狭窄層と、上部半導体DBR層とを形成する工程と、
前記酸化開口部を含み、前記酸化開口部より広い領域の結合共振開口部を形成する横方向伝搬反射層を形成する工程と、
前記上部半導体DBR層側から数えて第1層目の層厚が発振波長の略1/2波長である誘電体DBR層を形成する工程と、
を有する面発光レーザの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、面発光レーザとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンや各種計測センサを搭載したIoT(Internet of Things) などの通信デバイスが満ち溢れる現代社会において、通信容量の増大は必須な課題である。電子デバイスにとって更なる高速化、小型化、低消費電力・高出力化などが避けられない課題となっている。また、第5、第6世代(5G、6G)の無線通信規格の時代においては、自動運転、ロボット、ドローンなどのAI(Artificial Intelligence)技術の革新が進み、種々の周波数での高速通信が利用されるようになる。そのため更なる電子デバイスの高機能化、高速動作、高信頼性が要求されている。
【0003】
元来、面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)は、小型かつ低消費電力な特徴を持つため、近年では、スマートフォンなどの顔認証や、LIDAR(Light Detection And Ranging)用光源などの高機能デバイスに用いられている。高機能化、高速化、高出力化を達成するために、種々の課題解決の試みがなされてきた。例えば、特許文献1においては、面発光レーザに微小共振器を横方向に集積することで、光学的なフィードバックにより変調帯域の拡大が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6240429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示はかかる状況においてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、小型かつ高速・低消費電力で、温度変化や高出力動作時においても、安定して動作する面発光レーザとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様の面発光レーザは、基板上に、下部半導体DBR層と、活性層と、垂直方向に光出射するための酸化開口部を形成する酸化狭窄層と、上部半導体DBR層と、前記酸化開口部を含み、前記酸化開口部より広い領域の結合共振開口部を形成する横方向伝搬反射層と、前記上部半導体DBR層側から数えて第1層目の層厚が光学波長の略1/2の厚みである誘電体DBR層と、を有する。
【0007】
また、本実施形態の面発光レーザの製造方法は、基板上に、下部半導体DBR層と、活性層と、垂直方向に光出射するための酸化開口部を形成する酸化狭窄層と、上部半導体DBR層とを形成する工程と、前記酸化開口部を含み、前記酸化開口部より広い領域の結合共振開口部を形成する横方向伝搬反射層を形成する工程と、前記上部半導体DBR層側から数えて第1層目の層厚が光学波長の略1/2の厚みである誘電体DBR層を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のある態様によれば、大きな光開口に対しても安定した単一モード発振動作を可能にし、さらに変調帯域を大幅に拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態における面発光レーザの断面構造図である。
図2】実施形態における面発光レーザの結合共振を説明する模式図である。
図3A】実施形態における面発光レーザのモードプロファイルの計算例である。
図3B】実施形態における面発光レーザのモードプロファイルの計算例である。
図4】第1の実施形態における誘電体DBR層第1層目の厚さに対する共振波長との関係を示す図である。
図5】第2の実施形態における面発光レーザの断面構造図である。
図6】第2の実施形態における誘電体DBR1層目の厚さに対する共振波長との関係を示す図である。
図7A】実施形態における面発光レーザの発振スペクトル示す図である。
図7B】実施形態における面発光レーザの周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。また、図面のスケールは、実施形態の特徴を分かりやすくするために強調している場合、実際のデバイスのスケールと同一ではない。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における面発光レーザの断面構造図である。本実施形態の面発光レーザ100は、図示しない基板上に、下部半導体DBR(分布ブラッグ反射鏡:Distributed Bragg Reflector)層11と、活性層12と、酸化狭窄層13と、上部半導体DBR層14と、横方向伝搬反射層15と、誘電体DBR層16と、を有している。
【0012】
基板を図示しないのは、本実施形態に必ずしも必要な構成要件ではなく、最終的に基板が除去される実施形態もあるからである。基板を基準として上部、下部、垂直、水平という用語を用いたが、絶対的な方向を意味しない。また、本発明の実施形態として、InGaAs/GaAs系1060nm帯の面発光レーザについて例示するが、これに限定されない。これ以外の化合物半導体を用いた面発光レーザであっても同様の効果を有する。
【0013】
下部半導体DBR層11は、例えば、Al組成(0~1)の異なる高屈折率と低屈折率のAlGaAs層をペアとして所定数積層する。各層の光学的厚みは1/4波長であり、高反射率反射鏡が形成される。
【0014】
活性層12は、例えばInGaAs/GaAs量子井戸活性層で構成される。
【0015】
酸化狭窄層13は、選択酸化プロセスにおいて酸化が選択的に早くすすむように、上部半導体DBR層14や下部半導体DBR層11よりAl組成が高いAlGaAsまたはAlAsなどで構成される。酸化狭窄層13の層内は、非酸化領域13aと酸化領域13bに分けられ、垂直方向に光出射するための酸化開口部17が形成されている。酸化狭窄層13aの非酸化領域の屈折率は約3.0であるが、Al組成が高いAlGaAsやAlAsなどの材料が酸化された場合は、屈折率が約1.6程度まで低下する。酸化狭窄層13は、酸化狭窄層13は、電流を狭窄すると同時に、この屈折率差により光は非酸化領域13aに閉じ込められる。ここでは酸化開口部17は、非酸化領域13aの大きさとし、この大きさ(直径)をDoaとする。なお、本実施形態では、非酸化領域13a、酸化開口部17を円形として説明するが、その形に限定されない。
【0016】
上部半導体DBR層14は、例えば、Al組成(0~1)の異なる高屈折率と低屈折率のAlGaAs層をペアとして所定数積層する。各層の光学的厚みは1/4波長である。
【0017】
横方向伝搬反射層15は、金属、半導体、誘電体など種々の材料を選ぶことができる。すなわち、光が横方向(水平方向)に伝搬した場合に反射が起こるような光学的不連続部材でよい。この横方向伝搬反射層15を金属で形成した場合は、駆動電流の電極として使用できる。この横方向伝搬反射層15によって、酸化開口部17の領域を含み、酸化開口部17より広い領域の結合共振開口部18を形成する。光学的不連続部材を積層しない部分が結合共振開口部18となり、この大きさ(直径)をDraとする。本実施形態では結合共振開口部18を円形として説明するが、その形に限定されない。
【0018】
結合共振開口部18内の酸化開口部17周辺のリング状の領域の幅をR1,R2とする。結合共振開口部18内の酸化開口部17が同心円上にある場合には、R1とR2は等しい。ここで、この酸化開口部17周辺から結合共振開口部18までのリング状領域を酸化開口周辺部19と定義する。
【0019】
通常、誘電体DBR層16は、全ての層の光学波長厚みを1/4波長で構成する。例えば、高屈折率層(Ta2O5)と低屈折率層(SiO2)をペア層とし、これを所望の反射率になるよう所定数積層して構成される。本実施形態では、上部半導体DBR層14側から数えて第1層目16aの層厚が光学波長の略1/2の厚みとなるように構成されている。
【0020】
図2は、実施形態における面発光レーザの結合共振を説明する模式図である。上図は、上部から見た平面図であり、横方向(水平方向)の光の共振状態を表している。また下図は、断面図を表し、縦方向(垂直方向)の光の共振状態を表している。また図1と合わせて説明を行う。
【0021】
光は横方向に酸化狭窄層13の酸化領域13b端で反射が生じる。したがって、酸化開口部17内で光共振が生じる。また、横方向伝搬反射層15端においても反射が生じ、結合共振開口部18でも光共振が生じる。この二つの光共振が結合共振器を形成する。
【0022】
光が酸化開口部17から酸化開口周辺部19に横方向に伝搬するためには、以下のような条件が必要である。下の断面図において、酸化開口部17の縦方向の共振波長をλoaとし、酸化開口周辺部19の縦方向の共振波長をλraとすると、λraがλoaより大きくなる(λra>λoa)ことが必要である。
【0023】
この条件が満足されると、酸化開口部17に閉じ込められた光の一部が酸化開口部17から酸化開口周辺部19にスローライト光となって横方向に伝搬し、横方向伝搬反射層15で反射することにより結合共振開口部18内での光共振が生じる。
【0024】
光は、酸化狭窄層13の電流狭窄と、非酸化領域13aと酸化領域13bの屈折率差によって、ほぼ酸化開口部17に閉じ込められる。このため、光のモードプロファイルを考慮するとR1とR2の値は、およそ1~2μmの間の値に設定するのがよい。3μm以下であれば、横方向伝搬反射層15(酸化開口周辺部19)からの光のフィードバックが効率よく行われる。またR1とR2の値は、酸化開口部17へフィードバックする光の位相が最適になるように決定される。
【0025】
このようにして結合共振開口部18内の共振光が、酸化開口部17にフィードバックされることで周波数特性が改善され、変調帯域の拡大が得られる。また、結合共振開口部18内の光共振と、酸化開口部17の光共振によって結合共振器が形成されるため、バーニア効果を生じる。このバーニア効果によって、大きな酸化開口部17に対しても横モードの安定化が得られる。
【0026】
図3は、実施形態における面発光レーザのモードプロファイルの計算例である。図3Aは、λra<λoaの場合であり、電界分布は、酸化開口部17の領域に閉じ込められる。また、図3Bは、λra>λoaの場合であり、光は酸化開口周辺部19を横方向に伝搬することがわかる。
【0027】
図4は誘電体DBR層16の第1層目の厚さに対する共振波長との関係を示す図である。横軸が誘電体DBR層16の第1層目16aの厚さの光学波長比を示し、縦軸が縦方向の共振波長を示している。酸化領域13bの厚さが30nmの時の共振波長を実線で示し、酸化開口部17(非酸化領域13a)の共振波長を点線で示している。
【0028】
誘電体DBR層16の全ての層の光学波長厚みを1/4波長で構成すると(光学波長比0.25)、点線領域Aで示すように、酸化開口周辺部19の縦方向の共振波長λraは、酸化開口部17の縦方向の共振波長λoaより小さくなる。先に述べたようにこの条件では、光は横方向に伝搬せず、図3Aに示すモードプロファイルとなる。酸化開口部17の領域が広い場合には横モードが安定せず、かつ光のフィードバックが生じないことから変調帯域も広くならない。
【0029】
誘電体DBR層16の第1層目の光学波長厚みが1/2波長(光学波長比0.5)近くでは、短波長側に高次モードの曲線が現れる。点線領域Bで示すように、酸化開口周辺部19の縦方向の共振波長λraは、酸化開口部17の縦方向の共振波長λoaより大きくなる。このような共振波長の反転状態は、光学波長比0.47~0.53程度の領域で生じる。この時、図3Bに示すモードプロファイルに示すように、光は横方向に伝搬し、酸化開口部17に光のフィードバックが生じるので周波数特性が改善し、変調帯域が拡大する。また結合共振器によるバーニア効果が生じ、酸化開口部17の領域Doaを広くしても横モードが安定する。
【0030】
点線領域Cで示すように、誘電体DBR層16の第1層目の厚みが光学波長比0.5の近傍では長波側にも共振波長が存在する。長波長側でレーザ発振してしまうことを防止する必要がある。そのため、活性層12の組成を調整し、長波長側の共振波長に比べ短波長側の共振波長において利得が高くなるようにし、安定して短波長側で発振するよう設定する。
【0031】
以上述べたように、第1の実施形態によれば、誘電体DBR層16の第1層目の層厚を光学波長の略1/2の厚みとすることで、横方向の伝搬が生じ、酸化開口部17に対して光のフィードバックが生じる。これにより周波数特性が改善し、変調帯域が拡大する。また、酸化開口部17と結合共振開口部18による結合共振器によってバーニア効果が生じるため、酸化開口部17の領域を広くしても横モードを安定させることができる。酸化開口部17の領域を広くできるため高出力化も達成される。また、後述するような表面レリーフをする必要がないことから製造プロセスの簡略化がえられる。
【0032】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態における面発光レーザの断面構造図である。本実施形態の面発光レーザ200は、第1の実施形態と同様に、図示しない基板上に、下部半導体DBR層11と、活性層12と、酸化狭窄層13と、上部半導体DBR層14と、横方向伝搬反射層15と、誘電体DBR層16と、を有している。
【0033】
酸化狭窄層13は、選択酸化プロセスにおいて酸化が早くすすむように、上部半導体DBR層14や下部半導体DBR層11よりAl組成が高いAlGaAsまたはAlAsなどで構成される。酸化狭窄層13の層内は、非酸化領域13aと酸化領域13bに分けられ、垂直方向に光出射するための酸化開口部17が形成されている。酸化狭窄層13aの非酸化領域の屈折率は約3.0であるが、Al組成が高いAlGaAsやAlAsなどの材料が酸化された場合は、屈折率が約1.6程度まで低下する。酸化狭窄層13は、電流を狭窄すると同時に、この屈折率差により光は非酸化領域13aに閉じ込められる。ここでは酸化開口部17は、非酸化領域13aの大きさとし、この大きさ(直径)をDoaとする。なお、本実施形態では、非酸化領域13a、酸化開口部17を円形として説明するが、その形に限定されない。
【0034】
上部半導体DBR層14は、非酸化領域13aに対応する領域の半導体表面が一部除去される(以下、表面レリーフと呼ぶ)。この表面レリーフの部分を点線領域で示し、その拡大図を図5の右上に示す。ここで、この表面レリーフの深さをSrとする。
【0035】
横方向伝搬反射層15は、金属、半導体、誘電体など種々の材料を選ぶことができる。すなわち、光が横方向に伝搬した場合に反射が起こるような光学的不連続部材でよい。この横方向伝搬反射層15を金属で形成した場合は、横方向伝搬反射層15から駆動電流を注入ができる。横方向伝搬反射層15に酸化開口部17を含み、酸化開口部17より広い領域の結合共振開口部18を形成する。光学的不連続部材を積層しない部分が結合共振開口部18となり、この大きさ(直径)をDraとする。 本実施形態では結合共振開口部18を円形として説明するが、その形に限定されない。
【0036】
結合共振開口部18内の酸化開口部17周辺のリング状の領域の幅をR1,R2とする。結合共振開口部18内の酸化開口部17が同心円上にある場合には、R1とR2は等しい。ここで、この酸化開口部17周辺から結合共振開口部18までのリング状領域を酸化開口周辺部19と定義する。
【0037】
通常、誘電体DBR層16は、全ての層の光学波長厚みを1/4波長で構成するが、本実施形態では、上部半導体DBR層14側から数えて第1層目16aの層厚が光学波長の略1/2波長の厚みとなるように構成されている。
【0038】
すなわち、第2の実施形態は、第1の実施形態に加えて、上部半導体DBR層14の一部に表面レリーフが施される構造となる。表面レリーフは、非酸化領域13aに対応する領域の共振波長を短くするために行われる。
【0039】
図6は、誘電体DBR層の第1層目の厚さに対する共振波長との関係を示す図である。横軸が誘電体DBR層16の第1層目16aの厚さの光学波長比を示し、縦軸が縦方向の共振波長を示している。酸化領域13bの酸化層厚が70nmと100nmの時の共振波長を実線で示し、酸化開口部17(非酸化領域13a)の共振波長を、表面レリーフ量Srを15nmと30nmと変えて示している。
【0040】
図6の点線領域Dに示すように、誘電体DBR層16の第1層目の厚さの光学波長比が0.25の場合は、70nm以上の厚い酸化層では、15~30nmの表面レリーフを行ってもλra>λoaとならない。すなわち、光は横方向に伝搬せず、図3Aに示すモードプロファイルになる。酸化開口部17の領域Doaが広い場合には横モードが安定せず、かつ光のフィードバックが生じないことから変調帯域も広くならない。
【0041】
点線領域Eに示すように、誘電体DBR層16の第1層目の厚さの光学波長比が0.5の場合は、表面レリーフを15~30nm程度行うことにより、λra>λoaが達成できる。このような共振波長の反転状態は、光学波長比0.47~0.53程度の領域で生じる。この時、図3Bに示すモードプロファイルに示すように、光は横方向に伝搬し、酸化開口部17に光のフィードバックが生じるので周波数特性が改善し、変調帯域が拡大する。また結合共振器によるバーニア効果が生じ、酸化開口部17の領域Doaを広くしても横モードが安定する。
【0042】
誘電体DBR層16の第1層目の厚みが光学波長比0.5の近傍では長波側にも共振波長が存在する。長波長側でレーザ発振してしまうことを防止する必要がある。そのため、活性層12の組成を調整し、長波長側の共振波長に比べ短波長側の共振波長において利得が高くなるようにし、安定して短波長側で発振するよう設定する。
【0043】
以上述べたように、従来の誘電体DBRを用いた場合、酸化領域13bの酸化層厚が70nm以上と厚い場合には、横方向の結合共振を得るのが困難であった。第2の実施形態によれば、誘電体DBR層16の第1層目の層厚を光学波長の略1/2の厚みとし、さらに浅い表面レリーフを施すことで酸化層厚が70nm以上と厚い場合にも横方向の光伝搬を生じさせることができる。これにより酸化開口部17に対して横方向の光のフィードバックが生じるため、周波数特性が改善し、変調帯域が拡大する。また、酸化開口部17と結合共振開口部18による結合共振器によってバーニア効果が生じるため、酸化開口部17の領域を広くしても横モードを安定させることができる。酸化開口部17の領域を広くできるため高出力化も達成される。また、深い表面レリーフをする必要がないことから製造プロセスのいくつかの課題が解決される。
【0044】
図7Aは、本実施形態における、酸化開口部の直径Doaが10μmである面発光レーザの発振スペクトルを示し、図7Bは、同デバイスの周波数特性を示している。どちらも駆動電流が8mAである。図7Aに示すように、10μmという比較的広い酸化開口に対しても安定した単一動作が得られている。また、図7Bに示すように、周波数特性の広帯域化が見られ、変調帯域(-3dBの点)は22GHzが得られている。
【0045】
以上、実施形態によれば、大きな酸化開口に対しても安定した単一モード発振動作を可能にし、さらに変調帯域を大幅に拡大することができる。
【0046】
尚、本発明のいくつかの実施形態を述べたが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。本発明で示した新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。本実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
11…下部半導体DBR層
12…活性層
13…酸化狭窄層
14…上部半導体DBR層
15…横方向伝搬反射層
16…誘電体DBR層
17…酸化開口部
18…結合共振開口部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B