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特開2024-31557金属磁性粉末、複合磁性体、および電子部品
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  • 特開-金属磁性粉末、複合磁性体、および電子部品 図1
  • 特開-金属磁性粉末、複合磁性体、および電子部品 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031557
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】金属磁性粉末、複合磁性体、および電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/20 20060101AFI20240229BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20240229BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240229BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20240229BHJP
   B22F 1/10 20220101ALI20240229BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20240229BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20240229BHJP
【FI】
H01F1/20 ZNM
H01F1/26
B22F1/00 M
B22F1/054
B22F1/10
C22C19/07 C
B22F1/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135203
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金田 功
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寛史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 恭平
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018BA04
4K018BB05
4K018BB06
4K018BD01
4K018BD04
4K018BD05
4K018KA32
5E041AA14
5E041BB03
5E041BD12
5E041BD13
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】ギガヘルツ帯の高周波帯域において、透磁率が高く、かつ、磁気損失が低い金属磁性粉末と、当該金属磁性粉末を含む複合磁性体および電子部品と、を提供すること。
【解決手段】平均粒径(D50)が1nm以上100nm以下であり、主相がhcp-Coである金属ナノ粒子と、Fe、Ni、およびCuから選択される1種以上の添加元素αと、を含む金属磁性粉末である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径(D50)が1nm以上100nm以下であり、主相がhcp-Coである金属ナノ粒子と、
Fe、Ni、およびCuから選択される少なくとも1種の添加元素αと、を含む金属磁性粉末。
【請求項2】
Coの含有量に対する前記添加元素αの合計含有量の重量比が、10ppm以上2000ppm以下である請求項1に記載の金属磁性粉末。
【請求項3】
Na、Mg、およびCaから選択される少なくとも1種の添加元素βをさらに含む請求項1または2に記載の金属磁性粉末。
【請求項4】
Coの含有量に対する前記添加元素βの合計含有量の重量比が、10ppm以上1500ppm以下である請求項3に記載の金属磁性粉末。
【請求項5】
平均粒径(D50)が1nm以上100nm以下であり、主相がhcp-Coである金属ナノ粒子と、
樹脂と、
Fe、Ni、およびCuから選択される少なくとも1種の添加元素αと、を含む複合磁性体。
【請求項6】
Na、Mg、およびCaから選択される少なくとも1種の添加元素βをさらに含む請求項5に記載の複合磁性体。
【請求項7】
請求項1または2に記載の前記金属磁性粉末を含む電子部品。
【請求項8】
請求項5または6に記載の前記複合磁性体を含む電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Coを主成分とする金属ナノ粒子を含む金属磁性粉末、複合磁性体、および、電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機や無線LAN機器などの各種通信機器に含まれる高周波回路では、動作周波数が、ギガヘルツ帯(たとえば、3.7GHz帯(3.6~4.2GHz)、4.5GHz帯(4.4~4.9GHz帯))にまで及んでいる。このような高周波回路に搭載される電子部品としては、たとえば、インダクタ、アンテナ、高周波ノイズ対策用のフィルタなどが挙げられる。このような高周波用途の電子部品に内蔵されるコイルには、非磁性の磁芯を有する空芯コイルを用いることが一般的であるが、電子部品の特性を向上させるために、高周波用途の電子部品への適用が可能な磁性材料の開発が求められている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、高周波向けの磁性材料として、金属ナノ粒子からなる磁性材料を開示している。金属ナノ粒子は、マイクロメートルオーダの金属磁性粒子よりも、単位粒子当たりの磁区の数を少なくすることができ、高周波帯域における渦電流損失を低減できる。ただし、特許文献1の磁性材料であっても、動作周波数が1GHzを超えると、透磁率が極端に低下し(特許文献1の図2)、磁気損失が増大してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-303298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、上記の実情を鑑みてなされ、その目的は、ギガヘルツ帯の高周波帯域において、透磁率が高く、かつ、磁気損失が低い金属磁性粉末と、当該金属磁性粉末を含む複合磁性体および電子部品と、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本開示に係る金属磁性粉末は、
平均粒径(D50)が1nm以上100nm以下であり、主相がhcp-Coである金属ナノ粒子と、
Fe、Ni、およびCuから選択される少なくとも1種の添加元素αと、を含む。
【0007】
金属磁性粉末が、上記の特徴を有することで、ギガヘルツ帯の高周波帯域において、高い透磁率と低い磁気損失とを両立して得ることができる。
【0008】
好ましくは、Coの含有量に対する前記添加元素αの合計含有量の重量比が、10ppm以上2000ppm以下である。
【0009】
好ましくは、前記金属磁性粉末が、Na、Mg、およびCaから選択される少なくとも1種の添加元素βを、さらに含む。
【0010】
好ましくは、Coの含有量に対する前記添加元素βの合計含有量の重量比が、10ppm以上1500ppm以下である。
【0011】
本開示に係る複合磁性体は、
平均粒径(D50)が1nm以上100nm以下であり、主相がhcp-Coである金属ナノ粒子と、
樹脂と、
Fe、Ni、およびCuから選択される少なくとも1種の添加元素αと、を含む。
【0012】
複合磁性体が上記の特徴を有することで、ギガヘルツ帯の高周波帯域において、高い透磁率と低い磁気損失とを両立して得ることができる。
【0013】
好ましくは、前記複合磁性体が、Na、Mg、およびCaから選択される少なくとも1種の添加元素βを、さらに含む。
【0014】
上述した金属磁性粉末および複合磁性体は、いずれも、高周波回路に搭載されるインダクタ、アンテナ、フィルタなどの電子部品において、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る金属磁性粉末1を示す模式図である。
図2図2は、図1に示す金属磁性粉末1を含む複合磁性体の断面を示す模式図である。
図3図3は、金属磁性粉末1のX線回折チャートの一例である。
図4図4は、図2に示す複合磁性体10を含む電子部品の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0017】
(金属磁性粉末1)
本実施形態に係る金属磁性粉末1は、ナノ粒子2で構成してあり、ナノ粒子2の平均粒径(すなわち金属磁性粉末1の平均粒径)が、1nm以上100nm以下である。ナノ粒子2の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各ナノ粒子2の円相当径を計測することで算出すればよい。具体的に、金属磁性粉末1を、TEMにより50万倍以上の倍率で観察し、観測視野に含まれる各ナノ粒子2の面積を、画像解析ソフトにより測定し、その測定結果から各ナノ粒子の円相当径を算出する。この際、少なくとも500個のナノ粒子2の円相当径を測定することが好ましく、当該測定結果に基づいて個数基準の累積頻度分布を得る。そして、当該累積頻度分布において、累積の頻度が50%となる円相当径をナノ粒子2の平均粒径(D50)として算出すればよい。
【0018】
なお、ナノ粒子2の平均粒径(D50)は、70nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。ナノ粒子2の平均粒径を小さくするほど、金属磁性粉末1の磁気損失tanδがより小さくなる傾向となる。ナノ粒子2の形状は、特に限定されないが、本実施形態で示す製法では、通常、球状もしくは球に近い形状のナノ粒子2が得られ、ナノ粒子2の平均円形度は、0.8以上であることが好ましい。各ナノ粒子2の円形度は、ナノ粒子2の投影図形の面積をSとし、ナノ粒子2の投影図形の周囲長をLとして、2(πS)1/2/Lで表される。また、ナノ粒子2の表面には、酸化被膜や絶縁被膜などのコーティングが形成してあってもよい。
【0019】
金属磁性粉末1は、主成分としてコバルト(Co)を含む。すなわち、ナノ粒子2は、Coを主成分とする金属ナノ粒子である。なお、「主成分」とは、金属磁性粉末1において80wt%以上を占める元素を意味する。金属磁性粉末1は、Coを90wt%以上含むことが好ましく、93wt%以上含むことがより好ましい。
【0020】
また、金属磁性粉末1は、Co(主成分)以外に、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)およびCu(銅)から選択される少なくとも1種の添加元素αを含む。ここで、「添加元素αを含む」とは、金属磁性粉末1におけるCoの含有量に対する添加元素αの含有量の重量比が、1ppm以上であることを意味する。たとえば、Coの含有量に対するFeの含有量の重量比(Fe/Co)が1ppm以上であれば、金属磁性粉末1がFeを含むと判断し、Fe/Coが1ppm未満であれば、金属磁性粉末1はFeを含まないと判断する。NiおよびCuの有無ついても、Feと同様に判断すればよい。
【0021】
なお、金属磁性粉末1に含まれる添加元素αは、Fe、Ni、およびCuのうちのいずれか1種のみであってもよいし、Fe、Ni、およびCuから選択される2種もしくは3種であってもよい。この添加元素αは、ナノ粒子2の内部、ナノ粒子2の表面、および、ナノ粒子2の外部に存在する可能性がある。「ナノ粒子2の外部」とは、添加元素αが、ナノ粒子2から遊離して存在することを意味する。添加元素αは、主に「ナノ粒子2の内部」に存在することが好ましい。
【0022】
金属磁性粉末1におけるCoの含有量をWCo(wt%)とし、金属磁性粉末1における添加元素αの合計含有量(すなわちFe、Ni、およびCuの合計含有量)をWα(wt%)とする。本実施形態の金属磁性粉末1では、WCoに対するWαの重量比Wα/WCo(すなわち(Fe+Ni+Cu)/Co)が、10ppm以上2000ppm以下であることが好ましい。また、Wα/WCo(下限)は、70ppm以上であることがより好ましく、100ppm以上であることがさらに好ましい。Wα/WCo(上限)は、1000ppm以下であることがより好ましく、700ppm以下であることがさらに好ましい。
【0023】
なお、金属磁性粉末1が2種以上の添加元素αを含む場合、Wα/WCoは、Fe/Co、Ni/Co、および、Cu/Coの合計で表すことができ、Fe/Co、Ni/Co、および、Cu/Coの配分は、特に限定されない。
【0024】
金属磁性粉末1は、Na、Mg、およびCaから選択される少なくとも1種の添加元素βを、さらに含むことが好ましい。ここで、「添加元素βを含む」とは、金属磁性粉末1におけるCoの含有量に対する添加元素βの含有量の重量比が、規定値以上であることを意味する。具体的に、Naについては、Na/Coが1ppm以上であれば、金属磁性粉末1がNaを含むと判断し、Na/Coが1ppm未満であれば、金属磁性粉末1がNaを含まないと判断する。Mgについても同様に、Mg/Coが1ppm以上であれば、金属磁性粉末1がMgを含むと判断し、Mg/Coが1ppm未満であれば、金属磁性粉末1がMgを含まないと判断する。Caについては、Ca/Coが5ppm以上であれば、金属磁性粉末1がCaを含むと判断し、Ca/Coが5ppm未満であれば、金属磁性粉末1がCaを含まないと判断する。
【0025】
金属磁性粉末1に含まれる添加元素βは、Na、Mg、およびCaのうちのいずれか1種のみであってもよいし、Na、Mg、およびCaから選択される2種もしくは3種であってもよい。添加元素βは、ナノ粒子2の内部、ナノ粒子2の表面、および、ナノ粒子2の外部に存在する可能性がある。「ナノ粒子2の外部」とは、添加元素βが、ナノ粒子2から遊離して存在することを意味する。添加元素βは、主に、「ナノ粒子2の表面」または/および「ナノ粒子2の外部」に存在することが好ましい。
【0026】
金属磁性粉末1における添加元素βの合計含有量(すなわち、Na、Mg、およびCaの合計含有量)を、Wβ(wt%)とする。本実施形態の金属磁性粉末1では、WCoに対するWβの重量比Wβ/WCo(すなわち(Na+Mg+Ca)/Co)が、10ppm以上1500ppm以下であることが好ましい。また、Wβ/WCo(下限)は、90ppm以上であることがより好ましく、300ppm以上であることがさらに好ましい。Wβ/WCo(上限)は、1000ppm以下であることがより好ましく、900ppm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
なお、金属磁性粉末1が2種以上の添加元素βを含む場合、Wβ/WCoは、Na/Co、Mg/Co、Ca/Coの合計で表すことができ、Na/Co、Mg/Co、Ca/Coの配分は、特に限定されない。
【0028】
金属磁性粉末1には、Cl、P、C、Si、N、および、Oなどのその他の微量元素が含まれていてもよい。金属磁性粉末1におけるその他の微量元素の合計含有率は、20wt%未満であり、7wt%未満であることが好ましい。
【0029】
金属磁性粉末1の組成(WCo、Wα、Wβ、Wα/WCo、Wβ/WCoなど)は、たとえば、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)、X線回折(XRD)、蛍光X線分析(XRF)、エネルギー分散型X線分析(EDS)、または、波長分散型X線分析(WDS)などを用いた組成分析により測定することができ、ICP-AESで測定することが好ましい。ICP-AESによる組成分析では、まず、金属磁性粉末1を含む試料をグローブボックス中で採取し、当該試料をHNO3(硝酸)などの酸溶液に加えて、加熱溶解させる。この溶液化した試料を用いて、ICP-AESによる組成分析を実施し、試料中に含まれるCo、添加元素α、および添加元素βを定量すればよい。
【0030】
なお、金属磁性粉末1の主成分は、X線回折の解析等に基づいて特定してもよい。たとえば、X線回折の解析等により金属磁性粉末1に含まれる各元素の体積率を算出し、最も体積率が高い元素を、金属磁性粉末1における主成分として認定してもよい。
【0031】
本実施形態の金属磁性粉末1は、主相としてhcp-Coを含む。すなわち、ナノ粒子2の主相がhcp-Coである。金属磁性粉末1(ナノ粒子2)には、hcp-Co以外のCoの結晶相として、fcc-Coまたは/およびε-Coが含まれていてもよい。ここで、hcpは六方最密構造を意味し、「hcp-Co」とは、合金相ではなく、六方最密構造を有するCo結晶相を意味する。また、fcc-Coは面心立方構造を有するCo結晶相を意味し、ε-Coはhcpおよびfccとは異なる立方晶系の構造を有するCo結晶相を意味する。Coが100nm以下の微粒子である場合には、通常、fcc-Coまたは/およびε-Coが生成し易くなるが、本実施形態におけるナノ粒子2は、hcp-Coを主相とする。
【0032】
ここで、「ナノ粒子2の主相(すなわち金属磁性粉末1の主相)」とは、hcp-Co、fcc-Co、およびε-Coのうち、最も含有割合の高い結晶相を意味する。たとえば、金属磁性粉末1におけるhcp-Coの割合をWhcpとし、fcc-Coの割合をWfccとし、ε-Coの割合をWεとすると、hcp-Coの割合は「Whcp/(Whcp+Wfcc+Wε)」で表すことができる。金属磁性粉末1におけるWhcp/(Whcp+Wfcc+Wε)は、50%以上であり、95%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。
【0033】
金属磁性粉末1が副相としてfcc-Coまたは/およびε-Coを含む場合、fcc-Coまたは/およびε-Coは、hcp-Coを主相とするナノ粒子2中に混在していることが好ましい。つまり、hcp-Coからなる単相のナノ粒子2と、fcc-Coまたはε-Coからなる単相の他のナノ粒子とが混在するよりも、金属磁性粉末1が、Coの混相構造(主相と副相を粒内に含む構造)を有するナノ粒子2を含むことが好ましい。この場合、hcp-Coのナノ粒子2(Coの副相を含まないナノ粒子2)と、混相構造のナノ粒子2(Coの副相を含むナノ粒子2)とが混在していてもよい。
【0034】
金属磁性粉末1の結晶構造(すなわちナノ粒子2の結晶構造)は、X線回折(XRD)により解析することができる。たとえば、図3(d)が、金属磁性粉末1のX線回折チャートの一例である。なお、図3の(a)~(c)は、いずれも、文献やICDDなどのデータベースに収録されているXRDパターンであり、(a)がε-CoのXRDパターン、(b)がfcc-CoのXRDパターン、(c)がhcp-CoのXRDパターンである。
【0035】
XRDの2θ/θ測定により、図3(d)に示すような金属磁性粉末1のX線回折チャートを得た後、XRD用の解析ソフトウェアを用いて、測定したX線回折チャートのプロファイルフィッティング(ピーク分離)を実施する。そして、分離した回折ピークを、データベースと照合することで、金属磁性粉末1に含まれる結晶相を同定することができる。図3(d)に示すX線回折チャートでは、図3(c)に示すXRDパターンと同じ位置に回折ピークが現れており、図3(d)において「▼」で示す回折ピークが、hcp-Coに由来するピークである。金属磁性粉末1が、hcp-Coと共に、fcc-Coまたは/およびε-Coを含む場合、図3(a)や図3(b)に示す位置に回折ピークが現れる。
【0036】
Co結晶相の割合は、回折ピークの積分強度に基づいて算出すればよい。具体的に、プロファイルフィッティングによりX線回折チャートに含まれる回折ピークを同定した後に、同定した回折ピークの積分強度を算出する。Whcpはhcp-Coに由来する回折ピークの積分強度とし、Wfccはfcc-Coに由来する回折ピークの積分強度とし、Wεはε-Coに由来する回折ピークの積分強度として、「Whcp/(Whcp+Wfcc+Wε)」を算出すればよい。
【0037】
なお、ナノ粒子2の粒内における混相構造の有無は、高分解能電子顕微鏡(HREM)、電子線後方散乱回折(EBSD)、または電子線回折などのTEMを用いた解析により、確認することができる。たとえば、TEMの電子線回折により、各ナノ粒子2の結晶構造を解析する場合には、少なくとも50個のナノ粒子2に対して電子線を照射して、その際に得られた電子線回折パターンに基づいて、各ナノ粒子2が単相構造と混相構造のどちらを有しているかを判定する。なお、当該分析では、なるべく、視野内で孤立しているナノ粒子2を選択して、電子線を照射することが好ましい。
【0038】
ナノ粒子2のhcp-Coには、添加元素α、添加元素β、および、その他の不純物元素などが、僅かに固溶していてもよい。ただし、hcp-Coの格子定数のズレ度合いが、0.5%以下であることが好ましい。「格子定数のズレ度合い」は、(|dSTD-df|)/dSTD(%)で表され、dSTDは、データベースに収録されているhcp-Coの格子定数、dfは、金属磁性粉末1のX線回折チャートを解析して算出したhcp-Coの格子定数である。格子定数は、TEMを用いた電子線回折法により測定してもよい。
【0039】
添加元素αがナノ粒子2の内部に存在する場合、添加元素αは、hcp-Coに固溶するよりも、hcp-Coとは異なる結晶相3αに含まれていることが好ましい(図1参照)。添加元素αを含む結晶相3αとしては、たとえば、二重六方晶構造(dhcp)を有するCo-Fe合金相、hcp構造を有するNiの結晶相、Co-Ni合金相、hcp構造を有するCuの結晶相、および、Co-Cu合金相などが挙げられる。このような結晶相3αは、ナノ粒子2の合成初期に生成され、種結晶として、hcp-Coの生成および成長を促す役割を果たすと考えられる。
【0040】
上記のとおり、添加元素αを含む結晶相3αは、主にナノ粒子2の内部に存在することが好ましいが、ナノ粒子2の表面に存在していてもよい。また、結晶相3αを含む粒子31が、ナノ粒子2の外部に存在していてもよい。なお、結晶相3αを含む粒子31の粒径は、特に限定されず、たとえば、ナノ粒子2の平均粒径(D50)よりも小さいことが好ましい。
【0041】
添加元素βがナノ粒子2に存在する場合、添加元素βは、hcp-Coに固溶するよりも、hcp-Coとは異なる相3βに含まれていることが好ましい。添加元素βを含む相3βとしては、特に限定されず、たとえば、単一成分からなる相、もしくは、Na、Mg、およびCaのうちの少なくとも1種を含むCoの化合物相などが挙げられる。このような相3βは、ナノ粒子2の合成過程で、反応液中に、添加元素βを含む還元性を有する添加材(たとえば水素化ホウ素化合物)を加えることで生成すると考えられる。添加元素βを含む添加材は、ナノ粒子2の合成過程で、種結晶である結晶相3αの生成やCoの金属化を促進する役割を果たすと考えられる。
【0042】
上記のとおり、添加元素βを含む相3βは、主に、ナノ粒子2の表面または/およびナノ粒子2の外部に存在することが好ましいが、ナノ粒子2の内部に存在していてもよい。なお、相3βを含む粒子32の粒径は、特に限定されず、たとえば、ナノ粒子2の平均粒径(D50)よりも小さいことが好ましい。
【0043】
金属磁性粉末1のX線回折チャートには、添加元素αに由来するピークが現れる場合がある。添加元素αに由来するピークとは、たとえば、Feの回折ピーク、Co-Fe合金の回折ピーク、Niの回折ピーク、Cuの回折ピーク、Co-Ni合金の回折ピーク、および、Co-Cu合金の回折ピークなどが挙げられる。
【0044】
金属磁性粉末1のX線回折チャートを解析した際に、上記のような回折ピーク(添加元素αに由来するピーク)が、hcp-CoなどのCo結晶相の回折ピークとは異なるピークとして、分離して同定できた場合には、Co結晶相以外に添加元素αを含む結晶相3αが存在すると判断することができる。すなわち、高出力のX線回折法等(もしくは電子線回折法)により、添加元素αの存在状態を特定できる場合がある。なお、添加元素αの存在箇所は、たとえば、TEM-EDSを用いたスポット分析、ライン分析もしくはマッピング分析などにより特定することができる。
【0045】
なお、金属磁性粉末1が添加元素βを含む場合、添加元素βの存在箇所は、添加元素αと同様に、たとえば、TEM-EDSを用いたスポット分析、ライン分析もしくはマッピング分析などにより特定することができる場合がある。
【0046】
(複合磁性体10)
次に、図2に基づいて、上述した金属磁性粉末1を含む複合磁性体10について、説明する。
【0047】
複合磁性体10は、上述した特徴を有する金属磁性粉末1と、樹脂6と、を含んでおり、金属磁性粉末1を構成するナノ粒子2が、樹脂6中に分散している。換言すると、樹脂6が、ナノ粒子2の間に介在しており、隣接する粒子間を絶縁している。樹脂6は、絶縁性を有する樹脂材料であればよく、その材質は特に限定されない。たとえば、樹脂6として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂、または、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂を用いることができ、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0048】
複合磁性体10の断面における金属磁性粉末1の面積割合は、10%~60%であることが好ましく、10%~40%であることがより好ましい。
【0049】
複合磁性体10の断面における金属磁性粉末1の面積割合は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)を用いて複合磁性体10の断面を観察し、画像解析ソフトを用いて断面画像を解析することで算出できる。具体的に、コントラストに基づいて、複合磁性体10の断面画像を2値化して、金属磁性粉末とその他の部分とを区別し、画像全体(すなわち観察した視野の面積)に対して金属磁性粉末1が占める面積の割合を算出すればよい。上記の方法で算出した面積割合は、複合磁性体10に含まれる金属磁性粉末1の体積割合(vol%)とみなすことができる。
【0050】
金属磁性粉末1の主成分であるCoに関する結晶相の割合(Whcp,Wfcc,Wε,およびWhcp/(Whcp+Wfcc+Wε)など)は、複合磁性体10を測定試料としてXRDの2θ/θ測定を実施し、複合磁性体10のX線回折チャートを解析することで算出してもよい。また、金属磁性粉末1の平均粒径(D50)は、複合磁性体10の断面において、ナノ粒子2の面積を測定することで、算出すればよい。複合磁性体10に含まれる金属磁性粉末1の組成(ナノ粒子2の組成)は、ICP-AES,XRD,EDS,WDSなどを用いて解析することができる。
【0051】
添加元素αは、複合磁性体10中においても、ナノ粒子2の内部、ナノ粒子2の表面、および、ナノ粒子2の外部に存在する可能性がある。また、図2に示すように、添加元素αは、粉末試料(金属磁性粉末1)と同様の様態で、複合磁性体10中に存在することが好ましい。すなわち、添加元素αを含む結晶相3αが、ナノ粒子2の内部に存在することが好ましく、ナノ粒子2の表面、または/および、ナノ粒子2の外部に存在していてもよい。
【0052】
複合磁性体10における添加元素αの有無は、EDS、WDSなどを用いて、解析することができる。たとえば、複合磁性体10の断面に存在する少なくとも20個のナノ粒子2に対して、TEM-EDSによるスポット分析、ライン分析もしくはマッピング分析を実施する。添加元素αが、ナノ粒子2の添加に伴って、複合磁性体10中に取り込まれている場合には、ナノ粒子2の内部または/および表面で添加元素αが検出される。つまり、解析した粒子のうち、いずれかのナノ粒子2の内部または/および表面において、添加元素αの特性X線がピークとして検出された場合には、複合磁性体10の金属磁性粉末1が添加元素αを含むと判断することができる。
【0053】
金属磁性粉末1が添加元素βを含む場合、添加元素βは、複合磁性体10中においても、ナノ粒子2の内部、ナノ粒子2の表面、および、ナノ粒子2の外部に存在する可能性がある。また、図2に示すように、添加元素βは、粉末試料(金属磁性粉末1)と同様の様態で、複合磁性体10中に存在することが好ましい。すなわち、添加元素βを含む相3βが、ナノ粒子2の表面、または/および、ナノ粒子2の外部に存在していることが好ましく、ナノ粒子2の内部に存在していてもよい。なお、複合磁性体10における添加元素βの有無については、添加元素αと同様に、TEM-EDSを用いたスポット分析、ライン分析もしくはマッピング分析などにより、判断すればよい。
【0054】
複合磁性体10には、セラミック粒子、ナノ粒子2以外の金属粒子、などが含まれていてもよい。また、複合磁性体10の形状および寸法は、特に限定されず、用途に応じて適宜決定すればよい。
【0055】
以下、金属磁性粉末1および複合磁性体10の製造方法の一例について説明する。ただし、金属磁性粉末1および複合磁性体10の製造方法は、必ずしも以下の方法に限定されない。
【0056】
(金属磁性粉末1の製造方法)
金属磁性粉末1(すなわちナノ粒子2)は、前駆体であるコバルトの錯体を、所定の添加材を含む反応液中で熱分解することにより製造することが好ましい。
【0057】
まず、原料として、Coの前駆体と、添加元素αを含む添加材Aとを準備し、金属磁性粉末1が所望の組成となるように、これら原料を秤量する。前駆体としては、オクタカルボニルジコバルト(Co2(CO)8)、Co4(CO)12、もしくは、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)コバルト(CoCl(Ph3P)3)などを用いることが好ましい。添加元素αを含む添加材Aとしては、たとえば、FeCl2、FeCl3、NiCl2、およびCuCl2などの塩化物を用いることが好ましい。金属磁性粉末1における添加元素αの含有率(Wα/WCo)は、添加材Aの配合比により制御することができる。
【0058】
また、金属磁性粉末1中に添加元素βを加える場合には、添加元素βを含む添加材Bを準備し、Wβ/WCoが所望の値となるように添加材Bを秤量する。添加元素βを含む添加材Bは、還元作用を有することが好ましく、たとえば、NaBH4、Mg(BH42、および、Ca(BH42などの水素化ホウ素化合物を用いることが好ましい。
【0059】
次に、上記の原料(前駆体、および所定の添加材(A,B))と、溶媒とを、セパラブルフラスコなどの反応容器に投入し、反応液を得る。溶媒としては、エタノール、テトラヒドロフラン(THF)、オレイルアミン(Oleylamine)、ジメチルベンジルアミン、および、オクタデカノール(ステアリルアルコール)などの各種有機溶媒を用いることができ、前駆体がCoCl(Ph3P)3である場合はオクタデカノールを用いることが好ましく、前駆体がCo2(CO)8である場合はエタノールを用いることが好ましい。なお、前駆体を含む反応液には、オレイン酸やシランカップリング剤などの界面活性剤を添加してもよい。
【0060】
そして、反応容器をオイルバス中に設置し、反応液を、所定の温度で、所定の時間、攪拌することで、反応液中の前駆体を熱分解させる。この際、反応容器内には、Arガスなどの不活性ガスを導入し、容器内を、不活性雰囲気とする。反応液の温度(以下、反応温度と称する)は、使用する前駆体に応じて適切な範囲に設定することが好ましいが、たとえば、10℃~210℃としてもよい。前駆体としてCoCl(Ph3P)3を用いる場合は、反応温度を80℃以上210℃以下に設定することが好ましく、80℃以上180℃以下に設定することがより好ましい。前駆体としてCo2(CO)8を用いる場合は、反応温度を52℃以上100℃以下に設定することが好ましく、57℃以上80℃以下に設定することがより好ましい。反応温度を高くするほど、ナノ粒子2の平均粒径が大きくなる傾向となる。
【0061】
熱分解反応を継続させる時間(以下、反応時間と称する)は、前駆体の種類や反応温度に応じて適宜調整することが望ましいが、たとえば、0.01h以上80h以下としてもよい。反応温度を100℃以上に設定した場合、反応時間は10h以下に設定することが好ましい。反応時間を長くするほど、ナノ粒子2の平均粒径が大きくなる傾向となる。つまり、ナノ粒子2の平均粒径は、熱分解時の反応温度および反応時間に依存する。
【0062】
上記の熱分解反応では、添加元素αを含む添加材Aを反応液中に加えることで、ナノ粒子2の合成初期に、dhcp構造のCo-Fe合金相、hcp構造のNiの結晶相、および、hcp構造のCuの結晶相などが、種結晶として生成すると考えられる。そして、このような種結晶が、hcp-Coの生成および成長を促す役割を果たすと考えられる。また、添加元素βを含む添加材Bを反応液中に加えた場合、当該添加材Bの還元作用により、種結晶の生成や、Coの金属化が促進されると考えられる。
【0063】
所望の反応時間が経過した後、反応容器を室温まで冷却し、生成したナノ粒子2を洗浄し、回収する。ナノ粒子2を洗浄する際には、未反応の原料や中間生成物などが可溶な洗浄用溶媒を用いる。具体的に、洗浄用溶媒としては、たとえば、アセトン、ジクロロベンゼン、または、エタノールなどの有機溶媒を用いることができる。ナノ粒子2の酸化を抑制するために、洗浄用溶媒に対して脱気処理を施しておくことが好ましい。もしくは、洗浄用溶媒として、水分含有量を10ppm以下に抑えた超脱水グレードの有機溶媒を用いることが好ましい。なお、洗浄後のナノ粒子2は、遠心分離によって沈降させることで回収してもよいし、磁石の磁力を用いて回収してもよい。以上の工程により、金属磁性粉末1が得られる。
【0064】
なお、原料の秤量からナノ粒子の洗浄・回収までの一連の工程は、Ar雰囲気などの不活性ガス雰囲気で実施する。
【0065】
(複合磁性体10の製造方法)
次に、複合磁性体10の製造方法の一例について説明する。
【0066】
複合磁性体10は、熱分解法で製造した金属磁性粉末1と、樹脂6と、溶媒とを、混ぜ合わせて、所定の分散処理を施すことで製造することができる。分散処理としては、超音波分散処理、または、ビーズミルなどのメディアを使った分散処理(以下、メディア分散処理と称する)を採用することが好ましい。分散処理の条件は、特に限定されず、樹脂6中にナノ粒子2が均等に分散するように、各種条件を設定すればよい。分散処理の際に添加する溶媒としては、たとえば、アセトン、ジクロロベンゼン、または、エタノールなどの有機溶媒を用いることができ、脱気処理した有機溶媒、もしくは、超脱水グレードの有機溶媒を用いることが好ましい。また、メディア分散処理の際に使用するメディアとしては、各種セラミックビーズを用いることができ、セラミックビーズの中でも比重の大きいZrO2のビーズを用いることが好ましい。なお、複合磁性体10における金属磁性粉末1の含有率(体積割合)は、金属磁性粉末1と樹脂6との配合比に基づいて制御することができる。
【0067】
上記の分散処理で得られたスラリーを、Ar雰囲気中で乾燥させ、溶媒を揮発させた乾燥体を得る。その後、乳鉢や乾式の解砕機などを用いて、乾燥体を解砕し、金属磁性粉末1と樹脂6とを含む顆粒を得る。そして、当該顆粒を金型に充填して加圧することで、複合磁性体10が得られる。樹脂6として熱硬化性樹脂を用いる場合には、加圧成形後に硬化処理を実施することが好ましい。
【0068】
なお、複合磁性体10を得るための一連の工程についても、金属磁性粉末1の製造と同様に、Ar雰囲気などの不活性雰囲気で実施することが好ましい。また、複合磁性体10の製造方法は、上記の加圧成形法に限定されない。たとえば、分散処理で得られたスラリーをPETフィルムの上に塗布して乾燥させることで、シート状の複合磁性体10を得てもよい。
【0069】
(実施形態のまとめ)
本実施形態の金属磁性粉末1は、平均粒径(D50)が1nm以上100nm以下であり、主相がhcp-Coであるナノ粒子2と、Fe,Ni,およびCuから選択される1種以上の添加元素αと、を含む。
【0070】
金属磁性粉末1が上記の特徴を有することで、メガヘルツ帯のみならず1GHz以上の高周波帯領域においても、高透磁率と低磁気損失とを両立させることができる。また、複合磁性体10についても、上記特徴を有する金属磁性粉末1を含むことで、高周波帯領域において、高透磁率と低磁気損失とを両立させることができる。高透磁率および低磁気損失を実現できる理由は、必ずしも明らかではないが、添加元素αによりCoのナノ粒子2の結晶性が向上したことに起因すると考えられる。ナノ粒子2の合成過程で、添加元素αを含む種結晶が生成し、当該種結晶がhcp-Coの生成および成長を促進させていると考えられる。その結果、ナノ粒子2におけるhcp-Coの結晶化度が向上し、高周波帯域における透磁率特性および磁気損失特性の改善に繋がると考えられる。
【0071】
金属磁性粉末1では、Coの含有量に対する添加元素αの合計含有量の重量比(Wα/WCo)が、10ppm以上2000ppm以下であることが好ましい。Wα/WCoを上記範囲に設定することで、高周波帯域における磁気損失をより低減させることができる。
【0072】
金属磁性粉末1は、Na、Mg、およびCaから選択される1種以上の添加元素βをさらに含むことが好ましい。金属磁性粉末1が添加元素βを含むことで、高周波帯域において、高透磁率と低磁気損失とをより好適に両立させることができる。添加元素βは、ナノ粒子2の合成過程で、種結晶の生成や、Coの金属化を促進させる役割を果たしていると考えられ、添加元素βによってナノ粒子2におけるhcp-Coの結晶化度がさらに向上すると考えられる。
【0073】
金属磁性粉末1が添加元素βを含む場合、Coの含有量に対する添加元素βの合計含有量の重量比(Wβ/WCo)が、10ppm以上1500ppm以下であることが好ましい。Wα/WCoを上記範囲に設定することで、透磁率を向上させつつ、磁気損失の更なる低減を図ることができる。
【0074】
金属磁性粉末1および複合磁性体10は、いずれも、インダクタ、トランス、チョークコイル、フィルタ、および、アンテナなどの各種電子部品に適用することができ、特に、動作周波数が1GHz以上(より好ましくは1GHz~10GHz)の高周波回路向けの電子部品に好適に適用することができる。
【0075】
金属磁性粉末1(もしくは複合磁性体10)を含む電子部品としては、たとえば、図4に示すようなインダクタ100が挙げられる。インダクタ100は、素体が本実施形態の複合磁性体10で構成してあり、素体の内部にコイル部50が埋設してある。素体の端面には、一対の外部電極60,80が形成してあり、各外部電極60,80が、それぞれ、コイル部50の引出部50a、50bと電気的に接続している。インダクタ100のような電子部品は、本実施形態の金属磁性粉末1(複合磁性体10)を含んでいるため、優れた高周波特性を有する。
【0076】
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0077】
以下、具体的な実施例に基づいて、本開示をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
(実験1)
実験1では、熱分解法により表1~表3に示す金属磁性粉末を製造した。まず、Coの前駆体、添加元素αを含む添加材A、および、溶媒を、秤量し、これらの原料を反応容器であるセパラブルフラスコに投入した。実験1の各試料では、いずれも、Coの前駆体として、CoCl(Ph3P)3を使用し、溶媒として、オクタデカノールを使用した。
【0079】
添加元素αを含む添加材Aとしては、塩化物であるFeCl2、NiCl2、および、CuCl2を準備した。表1に示す実施例A1~実施例A22では、上記の添加材Aのうちのいずれか1種のみを使用し、表2に示す実施例B1~実施例B15では、上記の添加材Aのうちいずれか2種の添加材Aを使用し、表3に示す実施例C1~実施例C13では、3種の添加材Aすべてを使用した。各実施例では、添加元素αの含有率が表1~表3に示す値となるように、前駆体と、添加材Aとの配合比を制御した。なお、実験1の比較例Aでは、添加材Aを使用せずに、熱分解法で金属磁性粉末を製造した。
【0080】
原料を投入した反応容器をオイルバス中に設置し、Ar雰囲気下で反応液を加熱しながら攪拌することで、反応液中の前駆体を熱分解させた。この際、実験1では、反応温度は150℃に設定し、反応時間は1hとした。
【0081】
所定の反応時間が経過した後、反応容器を静置して、室温まで冷却した。そして、生成したナノ粒子を、超脱水アセトンを用いて洗浄し、磁石により回収した。以上の工程により金属磁性粉末を得た。なお、原料の秤量から洗浄・回収までの一連の作業は、Ar雰囲気下で実施した。
【0082】
ナノ粒子の平均粒径
各実施例および比較例で製造した金属磁性粉末を、TEM(日本電子株式会社製:JEM-2100F)により、倍率50万倍で観察した。そして、画像解析ソフトにより500個のナノ粒子の円相当径を計測し、その平均粒径(D50)を算出した。実験1では、いずれの試料においても、ナノ粒子のD50が、15±3nmの範囲内であった。
【0083】
金属磁性粉末の組成分析
組成分析用の試料を、グローブボックス中で金属磁性粉末から採取し、当該試料に含まれるCoの含有量、および、添加元素αの含有量を、ICP-AES(株式会社島津製作所製:ICPS-8100CL)により測定した。当該測定結果に基づいて、金属磁性粉末の主成分(80wt%以上を占める元素)を特定したところ、実験1の全ての試料が、主成分としてCoを含むことが確認できた。また、当該測定結果から算出した添加元素αの含有率(Fe/Co、Ni/Co、Cu/Co、およびWα/WCo)を、表1~表3に示す。各表の含有率の欄に示す「-」は、対象の元素の含有率が規定量(1ppm)未満であって、当該元素が金属磁性粉末中に含まれていないと判断したことを意味する。
【0084】
結晶構造解析
XRD装置(株式会社リガク製:Smart Lab)を用いた2θ/θ測定により、金属磁性粉末のX線回折チャートを得た。そして、得られたX線回折チャートをX線分析統合ソフトウェア(SmartLab Studio II)により解析し、hcp-Co、fcc-Co、および、ε-Coの割合(Whcp、Wfcc、およびWε)を算出した。また、Whcp、Wfcc、およびWεの算出結果に基づいて、金属磁性粉末(ナノ粒子)の主相を特定するとともに、hcp-Coの比率((Whcp/(Whcp+Wfcc+Wε))を算出した。なお、実験1の全ての試料において、金属磁性粉末が主相としてhcp-Coを含むことが確認できた。XRDによる解析結果を表1~表3に示す。
【0085】
複合磁性体の製造
各実施例および比較例では、金属磁性粉末を用いて、以下に示す方法で複合磁性体を製造した。
【0086】
まず、複合磁性体におけるナノ粒子の含有率が10vol%となるように、金属磁性粉末を秤量した。そして、秤量した金属磁性粉末と、ポリスチレン樹脂と、溶媒であるアセトンとを混ぜ合わせ、当該混合物に対して超音波分散処理を施した。超音波分散の処理時間は10minとし、超音波分散処理によって得られた分散液を、50℃のAr雰囲気で乾燥させることで乾燥体を得た。そして、当該乾燥体を乳鉢で解砕した後、得られた顆粒を金型に充填して加圧することで複合磁性体を得た。実験1の各実施例および比較例において、複合磁性体は、いずれも、外形7mm、内径3mm、厚さ1mmのトロイダル形状を有していた。なお、複合磁性体を製造する各工程は、成形工程を除き、Ar雰囲気下で実施した。
【0087】
複合磁性体の解析
複合磁性体の断面からTEM観察用の薄片試料を採取した。そして、当該薄片試料をTEMで観察し、観測視野内に含まれるナノ粒子を任意に20個選択して、選択したナノ粒子(以下、解析粒子と称す)に対してTEM-EDSによるスポット分析、ライン分析およびマッピング分析を実施した。添加元素αを含む各実施例では、使用した添加材Aに応じた添加元素αに係る特性X線のピークが、いずれかの解析粒子の内部または/および表面で検出された。つまり、複合磁性体を解析した場合においても、複合磁性体中の金属磁性粉末が狙い通りに添加元素αを含んでいることが確認できた。
【0088】
なお、複合磁性体のX線回折チャートを解析したところ、実験1のいずれの試料においても、複合磁性体中の金属磁性粉末が、主成分としてCoを含み、かつ、主相としてhcp-Coを含むことが確認できた。
【0089】
複合磁性体の磁気特性の評価
ネットワークアナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社製:HP8753D)を用いた同軸Sパラメータ法により、5GHzにおける複素透磁率の実部(すなわち透磁率μ′(単位なし))と、虚部μ″とを測定した。そして、5GHzにおける磁気損失tanδ(単位なし)を、μ″/μ′として算出した。透磁率μ´および磁気損失tanδは、複合磁性体におけるナノ粒子の含有率によっても変化する。実験1の各試料のように、複合磁性体におけるナノ粒子の含有率が10vol%である場合には、透磁率μ′が1.10以上で、かつ、磁気損失tanδが0.150未満である試料を、「良好」と判断した。また、磁気損失tanδが0.100未満である試料を「特に良好」と判断した。実験1の評価結果を表1~表3に示す。
【0090】
【表1】
【表2】
【表3】
【0091】
表1に示すように、添加元素αを含まない比較例Aでは、高い透磁率が得られたものの、磁気損失が0.150以上と大きく、磁気特性の評価基準を満足できなかった。これに対して、添加元素αを含む実施例A1~実施例A22では、高い透磁率を確保しつつ、比較例Aよりも磁気損失を低減させることができた。この結果から、hcp-Coのナノ粒子を有する金属磁性粉末が添加元素αを含むことで、高周波帯域において、高透磁率と低磁気損失とを両立させることができることがわかった。
【0092】
また、表2および表3に示すように、2種類の添加元素αを含む実施例(B1~B15)、および、3種類の添加元素αを含む実施例(C1~C13)においても、表1の実施例と同様に、高い透磁率を確保しつつ、比較例Aよりも磁気損失を低減させることができた。この結果から、金属磁性粉末に添加する添加元素αは、1種のみでも、2種以上であってもよいことがわかった。なお、表1~表3において、添加元素αを含む実施例では、hcp-Coの割合が、比較例よりも高くなっていることが確認でき、hcp-Coの結晶化度が向上していることがわかった。
【0093】
また、表1~表3に示す実施例のうち、10ppm≦(Wα/WCo)≦2000ppmを満たす実施例で、磁気損失が0.100未満となった。この結果から、Coの含有量に対する添加元素αの合計含有量の比は、10ppm以上2000ppm以下であることが好ましいことがわかった。
【0094】
(実験2)
実験2では、添加元素αに加えて、さらに添加元素βを含む金属磁性粉末を製造した。具体的に、実験2では、Coの前駆体(CoCl(Ph3P)3)、添加材A(FeCl2,NiCl2,およびCuCl2)、添加元素βを含む添加材B、および、溶媒(オクタデカノール)を混合して反応液を作製し、当該反応液を用いて金属磁性粉末を製造した。
【0095】
添加元素βを含む添加材Bとしては、水素化ホウ素化合物であるNaBH4、Mg(BH42、および、Ca(BH42を準備した。表4に示す実施例D1~実施例D21では、上記の添加材Bのうちのいずれか1種のみを使用し、表5に示す実施例E1~実施例E15では、上記の添加材Bのうちのいずれか2種の添加材Bを使用し、表6に示す実施例F1~実施例F13では、3種の添加材Bすべてを使用した。実験2の各実施例では、添加元素βの含有率が表4~表6に示す値となるように、前駆体と、添加材Bとの配合比を制御した。
【0096】
なお、実験2の各実施例では、添加材Aとして、FeCl2,NiCl2,およびCuCl2を使用し、添加元素αの含有率が実験1の実施例C7と同等になるように、添加材Aと前駆体との配合比を調整した。つまり、実験2の各実施例では、Fe/Coが200±20ppmの範囲内、Ni/Coが60±10ppmの範囲内、Cu/Coが110±10ppmの範囲内、および、Wα/WCoが370±20ppmの範囲内となるように、各添加剤Aの配合比を制御した。
【0097】
上記以外の製造条件(添加材Bに関する条件以外の製造条件)は、実験1の実施例C7と同様とした。実験2においても、実験1と同様の方法で、ナノ粒子の平均粒径(D50)、および、金属磁性粉末の組成を測定した。また、実験1と同様の方法で、各実施例に係る金属磁性粉末のX線回折チャートを解析し、Co結晶相の比率を算出した。金属磁性粉末の解析の結果、実験2の各実施例に係る金属磁性粉末が、いずれも、主成分としてCoを含み、かつ、主相としてhcp-Coを含むことが確認できた。詳細な評価結果を表4~表6に示す。なお、添加元素βの含有率の欄に示す「-」は、対象の元素の含有率が規定量未満であって、当該元素が金属磁性粉末中に含まれていないと判断したことを意味する(Na/CoおよびMg/Coの規定量は1ppm、Ca/Coの規定量は5ppm)。
【0098】
また、実験2においても、実験1と同様の製造条件で、各実施例に係る複合磁性体を製造した。そして、実験1と同様の方法で、複合磁性体の解析し、かつ、複合磁性体の磁気特性を測定した。実験2の各実施例では、TEM-EDSによるスポット分析、ライン分析およびマッピング分析の結果、複合磁性体中の金属磁性粉末が狙い通りに添加元素αおよび添加元素βを含んでいることが確認できた。つまり、分析の対象とした解析粒子のうち、いずれかの解析粒子の内部または/および表面において、添加元素αの特性X線、および、添加元素βの特性X線が検出された。
【0099】
【表4】
【表5】
【表6】
【0100】
表4に示すように、添加元素βを含む実施例D1~D21では、5GHzにおける磁気特性が、添加元素βを含まない実施例C7よりもさらに向上した。特に、Wβ/WCoが10ppm以上1500ppm以下である実施例では、5GHzにおいて、実施例C7よりも透磁率を向上させることができ、なおかつ、実施例C7よりも磁気損失を低減させることができた。つまり、表4の結果から、添加元素βによって透磁率および磁気損失の更なる向上を図ることができ、添加元素βの含有率(Wβ/WCo)は、10ppm以上1500ppm以下であることが好ましいことがわかった。
【0101】
また、表5および表6に示すように、2種類の添加元素βを含む実施例(E1~E15)、および、3種類の添加元素βを含む実施例(F1~F13)においても、表4の実施例と同様に、高い透磁率と低い磁気損失とをより好適に両立させることができた。この結果から、金属磁性粉末に添加する添加元素βは、1種のみでも、2種以上であってもよいことがわかった。
【0102】
(実験3)
実験3では、表7~表9に示す比率で添加元素αおよび添加元素βを含む金属磁性粉末を製造した。実験2では、添加元素αの含有率は変更せずに、添加元素βの含有率を変更したが、実験3では、実験2とは逆に、添加元素βの含有率は変更せずに、添加元素αの含有率を変更した。具体的に、実験3の各実施例では、Na/Coが80±10ppmの範囲内、Mg/Coが10±5ppmの範囲内、Ca/Coが350±10ppmの範囲内、Wβ/WCoが440±20ppmの範囲内となるように、添加材B(NaBH4、Mg(BH42、および、Ca(BH42)の配合比を制御した。
【0103】
そして、表7に示す実施例G1~実施例G19では、3種の添加材A(FeCl2、NiCl2、およびCuCl2)のうちいずれか1種のみを使用し、表8に示す実施例H1~実施例H18では、添加材Aのうちのいずれか2種の添加材Aを使用し、表9に示す実施例I1~実施例I13では、3種の添加材Aすべてを使用した。前駆体と添加材Aとの配合比は、添加元素αの含有率が表7~表9に示す値となるように制御した。なお、実験3の比較例Gでは、添加材Aは使用せずに添加材Bのみを使用し、添加元素αは含まず、添加元素βを含む金属磁性粉末を得た。
【0104】
上記以外の製造条件(添加材(A、B)の配合比以外の製造条件)は、実験2と同様とし、実験3においても、実験1と同様の方法で、ナノ粒子の平均粒径(D50)、および、金属磁性粉末の組成を測定した。また、実験1と同様の方法で、各実施例に係る金属磁性粉末のX線回折チャートを解析し、Co結晶相の比率を算出した。金属磁性粉末の解析の結果、実験3の各実施例に係る金属磁性粉末が、いずれも、主成分としてCoを含み、かつ、主相としてhcp-Coを含むことが確認できた。詳細な分析結果を表7~表9に示す。
【0105】
また、実験3においても、実験1と同様の製造条件で、各実施例に係る複合磁性体を製造した。そして、実験1と同様の方法で、複合磁性体の解析し、かつ、複合磁性体の磁気特性を測定した。実験3の各実施例では、TEM-EDSによるスポット分析、ライン分析、およびマッピング分析の結果、複合磁性体中の金属磁性粉末が狙い通りに添加元素αおよび添加元素βを含んでいることが確認できた。つまり、分析の対象とした解析粒子のうち、いずれかの解析粒子の内部または/および表面において、添加元素αの特性X線、および、添加元素βの特性X線が検出された。
【0106】
【表7】
【表8】
【表9】
【0107】
実験3の比較例Gでは、5GHzにおいて高い透磁率が得られたものの、磁気損失が0.150以上と大きく、磁気特性の評価基準を満足できなかった。つまり、比較例Gの結果から、金属磁性粉末に対して添加元素αを加えずに、添加元素βのみを加えたとしても、高透磁率と低磁気損失との両立が図れないことがわかった。一方、表7~表9に示す実施例(添加元素αおよび添加元素βを含む実施例)では、実験2と同様に、高周波帯域において、高透磁率と低磁気損失とをより好適に両立させることができた。
【0108】
(実験4)
実験4では、熱分解時の反応温度や反応時間などの製造条件を変えて、表10および表11に示す金属磁性粉末を製造した。具体的に、表10に示す実験では、前駆体であるCoCl(Ph3P)3をオクタデカノール(溶媒)中で熱分解させ、その際の反応温度と反応時間を変えることで、平均粒径(D50)が異なる金属磁性粉末を製造した。表10の比較例J1~比較例J6では、添加材Aおよび添加材Bを使用しておらず、実施例J1~実施例J5および比較例J7では、3種の添加材A(FeCl2、NiCl2、およびCuCl2)を使用し、実施例J6~実施例J10および比較例J8では、3種の添加材Aと3種の添加材B(NaBH4、Mg(BH42、および、Ca(BH42)を使用した。
【0109】
一方、表11に示す実験では、表10の実験とは異なる前駆体および溶媒を使用した。具体的に、前駆体であるCo2(CO)8を、60℃に加熱したエタノール(溶媒)中で熱分解させ、その際の反応時間を変えることで、平均粒径(D50)が異なる金属磁性粉末を製造した。表11の比較例K1~比較例K7では、添加材Aおよび添加材Bを使用しておらず、実施例K1~実施例K6および比較例K8では、3種の添加材Aを使用し、実施例K7~実施例K12および比較例K9では、3種の添加材Aと3種の添加材Bを使用した。
【0110】
表10および表11に示す条件以外の製造条件は、実験1と同様とし、実験4においても、実験1と同様の方法で、ナノ粒子の平均粒径(D50)、および、金属磁性粉末の組成を測定した。また、実験1と同様の方法で、各実施例に係る金属磁性粉末のX線回折チャートを解析し、Co結晶相の比率を算出した。金属磁性粉末の解析の結果、実験4の各実施例に係る金属磁性粉末が、いずれも、主成分としてCoを含み、かつ、主相としてhcp-Coを含むことが確認できた。詳細な分析結果を表10および表11に示す。
【0111】
また、実験4においても、実験1と同様の製造条件で、各実施例および各比較例に係る複合磁性体を製造した。そして、実験1と同様の方法で、複合磁性体の解析し、かつ、複合磁性体の磁気特性を測定した。実験4の各実施例では、TEM-EDSによるスポット分析、ライン分析およびマッピング分析の結果、複合磁性体中の金属磁性粉末が狙い通りに添加元素αおよび添加元素βを含んでいることが確認できた。つまり、分析の対象とした解析粒子のうち、いずれかの解析粒子の内部または/および表面において、添加元素αの特性X線、および、添加元素βの特性X線が検出された。
【0112】
実験4の各実施例では、実験1~実験3の評価結果を考慮して、添加元素αの含有率および添加元素βの含有率を最適な範囲に制御しており、実験1よりも厳格な基準で磁気特性を評価した。具体的に、実験4では、透磁率が1.10以上で、かつ、磁気損失が0.100以下である試料を「良好」と判断した。
【0113】
【表10】
【表11】
【0114】
表10および表11に示すように、金属磁性粉末(ナノ粒子)のD50は、熱分解時の反応温度および反応時間に制御できることがわかった。また、金属磁性粉末のD50が100nmよりも大きくなると磁気損失が増大することがわかった。特に、添加元素αを添加した場合であっても、金属磁性粉末のD50が100nmよりも大きいと、磁気損失が0.100よりも大きくなった。換言すると、D50が10nm以上100nm以下である金属磁性粉末が、添加元素αを含むことで、高周波帯域において、高透磁率と低磁気損失とを両立できることがわかった。
【0115】
なお、表11に示す実施例の評価結果から、前駆体や溶媒は特に限定されず、任意に選択可能であることがわかった。また、CoCl(Ph3P)3およびオクタデカノールを用いた条件(表10)では、副相として、ε-Coが生成し易いことがわかった。一方、Co2(CO)8およびエタノールを用いた条件(表11)では、副相として、fcc-Coが生成し易いことがわかった。そして、添加元素αが存在することでε-Coおよびfcc-Coの生成が抑制され、hcp-Coの結晶化度が向上することがわかった。
【0116】
(実験5)
実験5では、実験1の実施例C7と同じ条件で金属磁性粉末を製造した後、金属磁性粉末の配合比を変えて、実施例C7a~実施例C7eに係る複合磁性体を製造した。また、実験2の実施例F11と同じ条件で金属磁性粉末を製造した後、金属磁性粉末の配合比を変えて、実施例F11a~実施例F11eに係る複合磁性体を製造した。さらに、実験5では、実験1の比較例Aと同じ条件で金属磁性粉末を製造した後、金属磁性粉末の配合比を変えて、比較例Aa~比較例Aeに係る複合磁性体を製造した。金属磁性粉末の配合比以外の製造条件は、実験1と同様とした。
【0117】
実験5では、製造した複合磁性体の断面をTEMで観察し、複合磁性体に含まれる金属磁性粉末(ナノ粒子)の面積割合を測定した。その結果、各実施例および各比較例では、ナノ粒子の面積割合が、表11に示す狙い値(vol%)と凡そ一致していることが確認できた。また、TEM観察時にEDSによるスポット分析、ライン分析およびマッピング分析を実施した結果、実験5の全ての実施例において、複合磁性体中の金属磁性粉末が狙い通りに添加元素αおよび添加元素βを含んでいることが確認できた。つまり、分析の対象とした解析粒子のうち、いずれかの解析粒子の内部または/および表面において、添加元素αの特性X線、および、添加元素βの特性X線が検出された。
【0118】
一般的に、複合磁性体中の磁性粉末の含有率(充填率)を高くすると、透磁率は上昇するものの磁気損失特性は低下する(すなわち磁気損失が大きくなる)傾向となる。実験5では、充填率の増減による磁気特性の変化を考慮して、ナノ粒子の含有率ごとに磁気特性の判定基準を設けることとした。具体的に、実験5では以下に示す要件を満たす試料を「良好」と判断した。
ナノ粒子の含有率10vol%:1.10≦μ´、tanδ≦0.150
ナノ粒子の含有率20vol%:1.20≦μ´、tanδ≦0.180
ナノ粒子の含有率30vol%:1.40≦μ´、tanδ≦0.210
ナノ粒子の含有率40vol%:1.60≦μ´、tanδ≦0.250
ナノ粒子の含有率50vol%:1.80≦μ´、tanδ≦0.300
ナノ粒子の含有率60vol%:2.00≦μ´、tanδ≦0.350
実験5の評価結果を表12に示す。
【0119】
【表12】
【0120】
表12に示すように、ナノ粒子の含有率を10vol%超過とした実施例(C7a~C7eおよびF11a~F11e)においても、実施例C7や実施例F11と同様に、高周波帯域における磁気損失の上昇を抑制しつつ、高い透磁率を得ることができた。特に、添加元素αおよび添加元素βの両方を含む実施例F11a~実施例F11eでは、充填率の上昇に伴う磁気損失の増加をより効果的に抑制することができ、かつ、実施例C7a~実施例C7eよりも高い透磁率を得ることができた。
【0121】
また、実験5の結果から、磁気損失をより低減する観点では、ナノ粒子の含有率は、40vol%以下であることが好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0122】
1 … 金属磁性粉末
2 … ナノ粒子
3α … (添加元素αを含む)結晶相
3β … (添加元素βを含む)相
31,32 … 粒子
10 … 複合磁性体
6 … 樹脂
100 … インダクタ
50 … コイル部
50a,50b … 引出部
60,80 … 外部電極


図1
図2
図3
図4