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特開2024-31559金属磁性粉末、複合磁性体、および電子部品
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  • 特開-金属磁性粉末、複合磁性体、および電子部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031559
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】金属磁性粉末、複合磁性体、および電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/20 20060101AFI20240229BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20240229BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240229BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20240229BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20240229BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20240229BHJP
   B22F 1/10 20220101ALI20240229BHJP
【FI】
H01F1/20 ZNM
H01F1/26
B22F1/00 M
B22F1/054
B22F1/052
C22C19/07 C
B22F1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135205
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 恭平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寛史
(72)【発明者】
【氏名】金田 功
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018BA04
4K018BB05
4K018BB06
4K018BD01
4K018BD04
4K018KA32
5E041AA14
5E041BB03
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】ギガヘルツ帯の高周波帯域において、透磁率が高く、かつ、磁気損失が低い金属磁性粉末と、当該金属磁性粉末を含む複合磁性体および電子部品と、を提供すること。
【解決手段】主成分としてCoを含み、平均粒径(D50)が1nm以上100nm以下である金属磁性粉末である。金属磁性粉末のX線回折チャートは、回折角2θが41.6±0.3°の範囲に現れる第1ピークと、回折角2θが47.4±0.3°の範囲に現れる第2ピークと、を有する。第1ピークの半値全幅をFW1とし、第2ピークの半値全幅をFW2として、FW1に対するFW2の比(FW2/FW1)が、1以上5以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分としてCoを含み、平均粒径(D50)が1nm以上100nm以下である金属磁性粉末であって、
前記金属磁性粉末のX線回折チャートは、回折角2θが41.6±0.3°の範囲に現れる第1ピークと、回折角2θが47.4±0.3°の範囲に現れる第2ピークと、を有し、
前記第1ピークの半値全幅をFW1とし、前記第2ピークの半値全幅をFW2として、
FW1に対するFW2の比(FW2/FW1)が、1以上5以下である金属磁性粉末。
【請求項2】
前記第1ピークの積分強度をI1とし、前記第2ピークの積分強度をI2として、
I1に対するI2の比(I2/I1)が、1以上10以下である請求項1に記載の金属磁性粉末。
【請求項3】
Fe、MgおよびCuから選択される1種以上の添加元素を含む請求項1または2に記載の金属磁性粉末。
【請求項4】
平均粒径(D50)が1nm以上100nm以下であり、hcp-Coの結晶相を有する金属ナノ粒子を含み、
hcp-Coの(100)面に係るX線回折ピークの半値全幅をFW1とし、hcp-Coの(101)面に係るX線回折ピークの半値全幅をFW2として、
FW1に対するFW2の比(FW2/FW1)が、1以上5以下である金属磁性粉末。
【請求項5】
請求項1,2,4のいずれかに記載の金属磁性粉末を含む複合磁性体。
【請求項6】
請求項1,2,4のいずれかに記載の金属磁性粉末を含む電子部品。
【請求項7】
請求項5に記載の複合磁性体を含む電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Coを主成分とする金属ナノ粒子を含む金属磁性粉末、複合磁性体、および、電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機や無線LAN機器などの各種通信機器に含まれる高周波回路では、動作周波数が、ギガヘルツ帯(たとえば、3.7GHz帯(3.6~4.2GHz)、4.5GHz帯(4.4~4.9GHz帯))にまで及んでいる。このような高周波回路に搭載される電子部品としては、たとえば、インダクタ、アンテナ、高周波ノイズ対策用のフィルタなどが挙げられる。このような高周波用途の電子部品に内蔵されるコイルには、非磁性の磁芯を有する空芯コイルを用いることが一般的であるが、電子部品の特性を向上させるために、高周波用途の電子部品への適用が可能な磁性材料の開発が求められている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、高周波向けの磁性材料として、金属ナノ粒子からなる磁性材料を開示している。金属ナノ粒子は、マイクロメートルオーダの金属磁性粒子よりも、単位粒子当たりの磁区の数を少なくすることができ、高周波帯域における渦電流損失を低減できる。ただし、特許文献1の磁性材料であっても、動作周波数が1GHzを超えると、透磁率が極端に低下し(特許文献1の図2)、磁気損失が増大してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-303298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、上記の実情を鑑みてなされ、その目的は、ギガヘルツ帯の高周波帯域において、透磁率が高く、かつ、性能指数が高い金属磁性粉末と、当該金属磁性粉末を含む複合磁性体および電子部品と、を提供することである。なお、性能指数は、透磁率をμ′とし、磁気損失をtanδとして、μ′/tanδで表される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本開示の第1の観点に係る金属磁性粉末は、
主成分としてCoを含み、平均粒径が1nm以上100nm以下であって、
前記金属磁性粉末のX線回折チャートは、回折角2θが41.6±0.3°の範囲に現れる第1ピークと、回折角2θが47.4±0.3°の範囲に現れる第2ピークと、を有し、
前記第1ピークの半値全幅をFW1とし、前記第2ピークの半値全幅をFW2として、
FW1に対するFW2の比(FW2/FW1)が、1以上5以下である。
【0007】
金属磁性粉末が、上記の特徴を有することで、ギガヘルツ帯の高周波帯域において、高い透磁率と高い性能指数とを両立して得ることができる。
【0008】
前記第1ピークの積分強度をI1とし、前記第2ピークの積分強度をI2として、
好ましくは、I1に対するI2の比(I2/I1)が、1以上10以下である。
【0009】
好ましくは、前記金属磁性粉末は、Fe、MgおよびCuから選択される1種以上の添加元素を含む。
【0010】
本開示の第2の観点に係る金属磁性粉末は、
平均粒径(D50)が1nm以上100nm以下であり、hcp-Coの結晶相を有する金属ナノ粒子を含み、
hcp-Coの(100)面に係るX線回折ピークの半値全幅をFW1とし、hcp-Coの(101)面に係るX線回折ピークの半値全幅をFW2として、
FW1に対するFW2の比(FW2/FW1)が、1以上5以下である。
【0011】
金属磁性粉末が、上記の特徴を有することで、ギガヘルツ帯の高周波帯域において、高い透磁率と高い性能指数とを両立して得ることができる。
【0012】
第1および第2の観点に係る金属磁性粉末は、いずれも複合磁性体の材料として用いることができ、当該複合磁性体は、前記金属磁性粉末と樹脂とを含む。そして、本開示の金属磁性粉末および複合磁性体は、高周波回路に搭載されるインダクタ、アンテナ、フィルタなどの電子部品において、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る金属磁性粉末1を示す模式図である。
図2図2は、図1に示す金属磁性粉末1を含む複合磁性体の断面を示す模式図である。
図3図3は、金属磁性粉末1のX線回折チャートの一例である。
図4図4は、図2に示す複合磁性体10を含む電子部品の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0015】
(金属磁性粉末1)
本実施形態に係る金属磁性粉末1は、ナノ粒子2で構成してあり、ナノ粒子2の平均粒径(すなわち金属磁性粉末1の平均粒径)が、1nm以上100nm以下である。ナノ粒子2の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各ナノ粒子2の円相当径を計測することで算出すればよい。具体的に、金属磁性粉末1を、TEMにより50万倍以上の倍率で観察し、観測視野に含まれる各ナノ粒子2の面積を、画像解析ソフトにより測定し、その測定結果から各ナノ粒子の円相当径を算出する。この際、少なくとも500個のナノ粒子2の円相当径を測定することが好ましく、当該測定結果に基づいて個数基準の累積頻度分布を得る。そして、当該累積頻度分布において、累積の頻度が50%となる円相当径をナノ粒子2の平均粒径(D50)として算出する。
【0016】
なお、ナノ粒子2の平均粒径(D50)は、70nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。ナノ粒子2の平均粒径を小さくするほど、金属磁性粉末1の磁気損失tanδがより小さくなる傾向となる。ナノ粒子2の形状は、特に限定されないが、本実施形態で示す製法では、通常、球状もしくは球に近い形状のナノ粒子2が得られ、ナノ粒子2の平均円形度は、0.8以上であることが好ましい。各ナノ粒子2の円形度は、ナノ粒子2の投影図形の面積をSとし、ナノ粒子2の投影図形の周囲長をLとして、2(πS)1/2/Lで表される。また、ナノ粒子2の表面には、酸化被膜や絶縁被膜などのコーティングが形成してあってもよい。
【0017】
金属磁性粉末1は、主成分としてコバルト(Co)を含む。すなわち、ナノ粒子2は、Coを主成分とする金属ナノ粒子である。なお、「主成分」とは、金属磁性粉末1において80wt%以上を占める元素を意味する。金属磁性粉末1は、Coを90wt%以上含むことが好ましく、93wt%以上含むことがより好ましい。
【0018】
また、金属磁性粉末1は、Co(主成分)以外に、Fe(鉄)、Mg(マグネシウム)およびCu(銅)から選択される1種以上の添加元素Mを含むことが好ましい。ここで、「添加元素Mを含む」とは、Coの含有量(wt%)に対する添加元素Mの含有量(wt%)の比が、1ppm以上であることを意味する。たとえば、Coの含有量に対するFeの含有量の比(Fe/Co)が1ppm以上であれば、金属磁性粉末1がFeを含むと判断し、Fe/Coが1ppm未満であれば、金属磁性粉末1はFeを含まないと判断する。MgおよびCuの有無ついても、Feと同様に判断すればよい。
【0019】
金属磁性粉末1におけるCo、Fe、Mg、およびCuの合計含有量をWT(wt%)とし、金属磁性粉末1におけるFe、Mg、およびCuの合計含有量(すなわち添加元素Mの合計含有量)をWM(wt%)とする。本実施形態の金属磁性粉末1では、WTに対するWMの比(すなわち(Fe+Mg+Cu)/(Co+Fe+Mg+Cu))が、10ppm以上2000ppm以下であることが好ましく、10ppm以上550ppm以下であることがより好ましい。なお、WTに対するFeの含有量の比(Fe/(Co+Fe+Mg+Cu))は、10ppm以上550ppm以下であることが好ましい。また、WTに対するMgの含有量の比(Mg/(Co+Fe+Mg+Cu))は、10ppm以上550ppm以下であることが好ましい。同様に、WTに対するCuの含有量の比(Cu/(Co+Fe+Mg+Cu))は、10ppm以上550ppm以下であることが好ましい。
【0020】
金属磁性粉末1には、Cl、P、C、Si、N、および、Oなどのその他の微量元素が含まれていてもよい。金属磁性粉末1におけるその他の微量元素の合計含有率は、20wt%未満であり、7wt%未満であることが好ましい。
【0021】
金属磁性粉末1の組成(WT、WM、WM/WT)など)は、たとえば、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)、X線回折(XRD)、蛍光X線分析(XRF)、エネルギー分散型X線分析(EDS)、または、波長分散型X線分析(WDS)などを用いた組成分析により測定することができ、ICP-AESで測定することが好ましい。ICP-AESによる組成分析では、まず、金属磁性粉末1を含む試料をグローブボックス中で採取し、当該試料をHNO3(硝酸)などの酸溶液に加えて、加熱溶解させる。この溶液化した試料を用いて、ICP-AESによる組成分析を実施し、試料中に含まれるCoおよび添加元素Mを定量すればよい。
【0022】
なお、金属磁性粉末1の主成分は、X線回折の解析等に基づいて特定してもよい。たとえば、X線回折の解析等により金属磁性粉末1に含まれる各元素の体積率を算出し、最も体積率が高い元素を、金属磁性粉末1における主成分として認定してもよい。
【0023】
本実施形態の金属磁性粉末1は、Co結晶相として、hcp-Coを含み、hcp-Co以外に、fcc-Coまたは/およびε-Coが含まれていてもよい。ここで、hcpは六方最密構造を意味し、「hcp-Co」とは、合金相ではなく、六方最密構造を有するCo結晶相を意味する。また、fcc-Coは面心立方構造を有するCo結晶相を意味し、ε-Coはhcpおよびfccとは異なる立方晶系の構造を有するCo結晶相を意味する。塊状のCoやマイクロメートルオーダのCo粒子では、hcp-Coが生成し易いが、Coが100nm以下の微粒子である場合には、fcc-Coまたは/およびε-Coが生成し易い。
【0024】
本実施形態の金属磁性粉末1では、各ナノ粒子2が、主相として、hcp-Coを含むことが好ましい。ここで、「ナノ粒子2の主相(すなわち金属磁性粉末1の主相)」とは、hcp-Co、fcc-Co、およびε-Coのうち、最も含有割合の高い結晶相を意味する。たとえば、金属磁性粉末1におけるhcp-Coの割合をWhcpとし、fcc-Coの割合をWfccとし、ε-Coの割合をWεとすると、hcp-Coの割合を示す「Whcp/(Whcp+Wfcc+Wε)」は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。金属磁性粉末1の主相がhcp-Coである場合、fcc-Coおよびε-Coは金属磁性粉末1に必ずしも含まれていなくともよいが、Coの副相として、fcc-Coまたは/およびε-Coが含まれていてもよい。
【0025】
金属磁性粉末1が副相としてfcc-Coまたは/およびε-Coを含む場合、fcc-Coまたは/およびε-Coは、hcp-Coを主相とするナノ粒子2中に混在していることが好ましい。つまり、hcp-Coからなる単相のナノ粒子2と、fcc-Coまたはε-Coからなる単相の他のナノ粒子とが混在するよりも、金属磁性粉末1が、Coの混相構造(主相と副相を粒内に含む構造)を有するナノ粒子2を含むことが好ましい。この場合、全てのナノ粒子2が混相構造を有していてもよいし、hcp-Coのナノ粒子2(Coの副相を含まないナノ粒子2)と、混相構造のナノ粒子2(Coの副相を含むナノ粒子2)とが混在していてもよい。金属磁性粉末1にCoの副相が含まれることで、透磁率がより向上する傾向となる。
【0026】
金属磁性粉末1の結晶構造(すなわちナノ粒子2の結晶構造)は、X線回折(XRD)により解析することができる。たとえば、図3(d)が、金属磁性粉末1のX線回折チャートの一例である。なお、図3の(a)~(c)は、いずれも、文献やICDDなどのデータベースに収録されているXRDパターンであり、(a)がε-CoのXRDパターン、(b)がfcc-CoのXRDパターン、(c)がhcp-CoのXRDパターンである。
【0027】
XRDの2θ/θ測定により、図3(d)に示すような金属磁性粉末1のX線回折チャートを得た後、XRD用の解析ソフトウェアを用いて、測定したX線回折チャートのプロファイルフィッティング(ピーク分離)を実施する。そして、分離した回折ピークを、データベースと照合することで、金属磁性粉末1に含まれる結晶相を同定することができる。図3(d)に示すX線回折チャートでは、図3(c)に示すXRDパターンと同じ位置に回折ピークが現れており、図3(d)において「▼」で示す回折ピークが、hcp-Coに由来するピークである。金属磁性粉末1が、hcp-Coと共に、fcc-Coまたは/およびε-Coを含む場合、図3(a)や図3(b)に示す位置に回折ピークが現れる。
【0028】
Co結晶相の割合は、回折ピークの積分強度に基づいて算出すればよい。具体的に、プロファイルフィッティングによりX線回折チャートに含まれる回折ピークを同定した後に、同定した回折ピークの積分強度を算出する。Whcpはhcp-Coに由来する回折ピークの積分強度とし、Wfccはfcc-Coに由来する回折ピークの積分強度とし、Wεはε-Coに由来する回折ピークの積分強度として、「Whcp/(Whcp+Wfcc+Wε)」を算出すればよい。
【0029】
なお、ナノ粒子2の粒内における混相構造の有無は、高分解能電子顕微鏡(HREM)、電子線後方散乱回折(EBSD)、または電子線回折などのTEMを用いた解析により、確認することができる。たとえば、TEMの電子線回折により、各ナノ粒子2の結晶構造を解析する場合には、少なくとも50個のナノ粒子2に対して電子線を照射して、その際に得られた電子線回折パターンに基づいて、各ナノ粒子2が単相構造と混相構造のどちらを有しているかを判定する。なお、当該分析では、なるべく、視野内で孤立しているナノ粒子2を選択して、電子線を照射することが好ましい。
【0030】
金属磁性粉末1のX線回折チャートは、図3(d)に示すように、少なくとも第1ピーク(図中のPeak1)および第2ピーク(図中のPeak2)を有する。第1ピークは、回折角2θが41.6±0.3°の範囲に現れるピークであり、当該第1ピークには、hcp-Coの(100)面の回折ピークが含まれる。なお、「ピークが41.6±0.3°の範囲に現れる」とは、第1ピークの頂点(ピークトップ)が、41.3°~41.9°の範囲に存在することを意味し、第1ピークの裾部分は当該範囲外に位置していてもよい。一方、第2ピークは、回折角2θが47.4±0.3°の範囲に現れるピークであり、当該第2ピークには、hcp-Coの(101)面の回折ピークが含まれる。なお、「ピークが47.4±0.3°の範囲に現れる」とは、第2ピークの頂点(ピークトップ)が、47.1°~47.7°の範囲に存在することを意味し、第2ピークの裾部分は当該範囲外に位置していてもよい。
【0031】
本実施形態の金属磁性粉末1では、第1ピークの半値全幅をFW1とし、第2ピークの半値全幅をFW2として、FW1に対するFW2の比(FW2/FW1)が、1以上5以下である。換言すると、hcp-Coの(101)面に係る回折ピークの半値全幅FW2が、hcp-Coの(100)面に係る回折ピークの半値全幅FW1に対して、1倍以上5倍以下であり、(101)面の回折ピークの幅が、(100)面の回折ピークの幅よりも広いことが好ましい。金属磁性粉末1が、1≦(FW2/FW1)≦5を満たすことで、1GHz以上の高周波帯域において、高透磁率と低磁気損失とを両立させることができ、性能指数(透磁率/磁気損失)が向上する。
【0032】
磁気損失をより低減する観点では、上述したFW2/FW1が、1.1以上3以下であることが好ましい。一方、透磁率をより向上させる観点では、FW2/FW1が、2以上5以下であることが好ましい。また、第1ピークの半値全幅FW1の値は、特に限定されないが、たとえば、1°以下であることが好ましく、0.1°以上0.7°以下であることがより好ましい。第2ピークの半値全幅FW2の値は、特に限定されないが、たとえば、0.1°以上5°以下であることが好ましく、0.1°以上3°以下であることがより好ましい。
【0033】
また、第1ピークの積分強度をI1とし、第2ピークの積分強度をI2として、本実施形態の金属磁性粉末1では、I1に対するI2の比(I2/I1)が、1以上10以下であることが好ましい。金属磁性粉末1が1≦(I2/I1)≦10を満たすことで、1GHz以上の高周波帯域において、高透磁率と低磁気損失とをより好適に両立させることができる。磁気損失をさらに低減する観点では、I2/I1は、1以上5以下であることがより好ましく、1以上4以下であることがさらに好ましい。透磁率をさらに向上させる観点では、I2/I1は、5以上10以下であることがより好ましく、6以上10以下であることがさらに好ましい。
【0034】
なお、半値全幅(FW1,FW2)および積分強度(I1,I2)は、XRD用の解析ソフトウェアを用いて算出すればよい。
【0035】
ナノ粒子2のhcp-Coには、添加元素Mや不純物元素などが、僅かに固溶していてもよい。ただし、hcp-Coの格子定数のズレ度合いが、0.5%以下であることが好ましい。「格子定数のズレ度合い」は、(|dSTD-df|)/dSTD(%)で表され、dSTDは、データベースに収録されているhcp-Coの格子定数、dfは、金属磁性粉末1のX線回折チャートを解析して算出したhcp-Coの格子定数である。格子定数は、TEMを用いた電子線回折法により測定してもよい。
【0036】
金属磁性粉末1が添加元素Mを含む場合、添加元素Mは、ナノ粒子2の内部、ナノ粒子2の表面、および、ナノ粒子2の外部に存在する可能性がある。なお、「ナノ粒子2の外部」とは、添加元素Mが、ナノ粒子2から遊離して存在することを意味する。たとえば、金属磁性粉末1が、添加元素MとしてFeまたは/およびCuを含む場合、Feまたは/およびCuは、ナノ粒子2の表面や外部に存在していてもよいが、主に、ナノ粒子2の内部に存在していることが好ましい。金属磁性粉末1が、添加元素MとしてMgを含む場合、Mgは、ナノ粒子2の内部に存在していてもよいが、ナノ粒子2の表面、または/および、ナノ粒子2の外部に存在していることが好ましい。
【0037】
また、添加元素Mがナノ粒子2の内部に存在する場合、添加元素Mは、hcp-Coに固溶するよりも、hcp-Coとは異なる他の相3aに含まれていることが好ましい(図1参照)。他の相3aとしては、たとえば、二重六方晶構造(dhcp)を有するCo-Fe合金相、hcp構造を有するCuの結晶相、Co-Cu合金相、および、Mgを含むCoの化合物などが挙げられる。このような他の相3aは、ナノ粒子2の合成初期に生成され、種結晶として、hcp-Coの生成および成長を促す役割を果たすと考えられる。
【0038】
添加元素Mがナノ粒子2の表面または外部に存在する場合、添加元素Mの状態は特に限定されない。たとえば、図1に示すように、添加元素Mは、他の粒子3bに含まれていてもよい。この他の粒子3bとしては、Feの化合物を含む粒子、Cuの化合物を含む粒子、および、Mgの化合物を含む粒子などが挙げられる。他の粒子3bの粒径は、特に限定されないが、ナノ粒子2の平均粒径(D50)よりも小さいことが好ましい。
【0039】
なお、金属磁性粉末1が添加元素Mを含む場合、金属磁性粉末1のX線回折チャートには、添加元素Mに由来するピークが現れる場合がある。添加元素Mに由来するピークとは、たとえば、Feの回折ピーク、Co-Fe合金の回折ピーク、Cuの回折ピーク、Co-Cu合金の回折ピーク、および、Mgの回折ピークなどが挙げられる。
【0040】
金属磁性粉末1のX線回折チャートを解析した際に、上記のような回折ピーク(添加元素Mに由来するピーク)が、hcp-CoなどのCo結晶相の回折ピークとは異なるピークとして、分離して同定できた場合には、Co結晶相以外に添加元素Mを含む他の相3aまたは/および他の粒子3bが存在すると判断することができる。すなわち、X線回折法(もしくは電子線回折法)により、添加元素Mの存在状態を特定できる場合がある。なお、添加元素Mの存在箇所は、たとえば、TEM-EDSを用いたスポット分析、ライン分析もしくはマッピング分析により特定することができる。
【0041】
(複合磁性体10)
次に、図2に基づいて、上述した金属磁性粉末1を含む複合磁性体10について、説明する。
【0042】
複合磁性体10は、上述した特徴を有する金属磁性粉末1と、樹脂6と、を含んでおり、金属磁性粉末1を構成するナノ粒子2が、樹脂6中に分散している。換言すると、樹脂6が、ナノ粒子2の間に介在しており、隣接する粒子間を絶縁している。樹脂6は、絶縁性を有する樹脂材料であればよく、その材質は特に限定されない。たとえば、樹脂6として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂、または、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂を用いることができ、熱硬化性樹脂であることが好ましい。
【0043】
複合磁性体10の断面における金属磁性粉末1の面積割合は、10%~60%であることが好ましく、5%~40%であることがより好ましく、10%~40%であることがさらに好ましい。
【0044】
複合磁性体10の断面における金属磁性粉末1の面積割合は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)を用いて複合磁性体10の断面を観察し、画像解析ソフトを用いて断面画像を解析することで算出できる。具体的に、コントラストに基づいて、複合磁性体10の断面画像を2値化して、金属磁性粉末とその他の部分とを区別し、画像全体(すなわち観察した視野の面積)に対して金属磁性粉末1が占める面積の割合を算出すればよい。上記の方法で算出した面積割合は、複合磁性体10に含まれる金属磁性粉末1の体積割合(vol%)とみなすことができる。
【0045】
上述した半値全幅の比(FW2/FW1)および積分強度の比(I2/I1)は、複合磁性体10を測定試料としてXRDの2θ/θ測定を実施し、複合磁性体10のX線回折チャートを解析することで算出してもよい。また、金属磁性粉末1の平均粒径(D50)は、複合磁性体10の断面において、ナノ粒子2の面積を測定することで、算出すればよい。複合磁性体10に含まれる金属磁性粉末1の組成(ナノ粒子2の組成)は、ICP-AES,XRD,EDS,WDSなどを用いて解析することができる。
【0046】
金属磁性粉末1が添加元素Mを含む場合、添加元素Mは、前述したように、ナノ粒子2の内部、ナノ粒子2の表面、および、ナノ粒子2の外部に存在する可能性がある。図2に示すように、添加元素Mは、粉末試料(金属磁性粉末1)と同様の様態で、複合磁性体10中に存在することが好ましい。
【0047】
複合磁性体10における添加元素Mの有無は、EDS、WDSなどを用いて、解析することができる。たとえば、複合磁性体10の断面に存在する少なくとも20個のナノ粒子2に対して、TEM-EDSによるスポット分析、ライン分析もしくはマッピング分析を実施する。添加元素Mが、ナノ粒子2の添加に伴って、複合磁性体10中に取り込まれている場合には、ナノ粒子2の内部または/および表面で添加元素Mが検出される。つまり、解析した粒子のうち、いずれかのナノ粒子2の内部または/および表面において、添加元素Mの特性X線がピークとして検出された場合には、複合磁性体10の金属磁性粉末1が添加元素Mを含むと判断することができる。
【0048】
複合磁性体10には、セラミック粒子、ナノ粒子2以外の金属粒子、などが含まれていてもよい。また、複合磁性体10の形状および寸法は、特に限定されず、用途に応じて適宜決定すればよい。
【0049】
以下、金属磁性粉末1および複合磁性体10の製造方法の一例について説明する。
【0050】
(金属磁性粉末1の製造方法)
金属磁性粉末1(すなわちナノ粒子2)は、前駆体であるコバルトの錯体を加圧環境下で熱分解することにより製造することが好ましい。前駆体としては、オクタカルボニルジコバルト(Co2(CO)8)、Co4(CO)12、もしくは、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)コバルト(CoCl(Ph3P)3)などを用いることができ、Co2(CO)8を用いることが好ましい。また、金属磁性粉末1に添加元素Mを含有させる場合は、添加元素Mを含む添加材を準備し、所望の組成となるように添加材および前駆体を秤量すればよい。添加材としては、たとえば、FeCl3,CuCl2,MgCl2・6H2Oなどの塩化物、もしくは、Mg(BH42などの水素化ホウ素化合物を用いることが好ましい。添加元素Mの含有率(WM/WT)は、添加材の配合比により制御することができる。
【0051】
次に、上記の原料(前駆体、もしくは、前駆体および添加材)と、溶媒とを、オートクレーブなどの高圧反応容器に投入する。通常の熱分解法では、セパラブルフラスコなどの非加圧型の反応容器を使用するが、本実施形態では、加圧可能な反応容器を使用する。溶媒としては、エタノール、テトラヒドロフラン(THF)、オレイルアミン(Oleylamine)、ジメチルベンジルアミン、または、オクタデシルアルコール(ステアリルアルコール)などを用いることができ、ジメチルベンジルアミンを用いることが好ましい。なお、前駆体を含む反応液には、オレイン酸やシランカップリング剤などの界面活性剤を添加してもよい。
【0052】
次に、高圧反応容器を、オイルバス中に設置し、所定の温度で、所定の時間、加熱することで、反応液中の前駆体を熱分解させる。この際、反応容器内には、Arガスなどの不活性ガスを導入し、容器内を、不活性雰囲気とすると共に、所定の圧力となるように加圧する。半値全幅の比(FW2/FW1)は、反応容器内の圧力によって制御することができ、当該圧力は、0.01MPa以上0.20MPa以下に設定することが好ましい。反応容器内の圧力を高くするほど、FW2/FW1が大きくなる傾向となる。
【0053】
また、積分強度の比(I2/I1)は、加圧した反応液の温度(反応温度と称する)によって制御することができる。反応温度は、52℃以上180℃以下に設定することが好ましく、55℃以上170℃以下に設定することがより好ましい。反応温度を高くするほど、I2/I1が大きくなる傾向となる。
【0054】
反応容器を加熱する時間(反応時間と称する)は、0.01h~110hに設定することができ、反応時間を反応温度に応じて適宜調整することが望ましい。たとえば、反応温度を52℃に設定した場合は、反応時間を1.8h~110hに設定することが好ましく、反応温度を55℃に設定した場合は、反応時間を1.5h~105hに設定することが好ましい。また、反応温度を170℃に設定した場合は、反応時間を0.05h~5hに設定することが好ましく、反応温度を180℃に設定した場合は、反応時間を0.01h~3hに設定することが好ましい。
【0055】
ナノ粒子2の平均粒径(すなわち金属磁性粉末1の平均粒径(D50))は、反応温度及び反応時間に依存する。反応温度を高くするほど、ナノ粒子2の平均粒径が大きくなる傾向となる。同様に、反応時間を長くするほど、ナノ粒子2の平均粒径が大きくなる傾向となる。
【0056】
所望の反応時間が経過した後、高圧反応容器を室温まで冷却し、生成したナノ粒子2を洗浄し、回収する。ナノ粒子2を洗浄する際には、未反応の原料や中間生成物などが可溶な洗浄用溶媒を用いる。具体的に、洗浄用溶媒としては、たとえば、アセトン、ジクロロベンゼン、または、エタノールなどの有機溶媒を用いることができる。ナノ粒子2の酸化を抑制するために、洗浄用溶媒に対して脱気処理を施しておくことが好ましい。もしくは、洗浄用溶媒として、水分含有量を10ppm以下に抑えた超脱水グレードの有機溶媒を用いることが好ましい。なお、洗浄後のナノ粒子2は、遠心分離によって沈降させることで回収してもよいし、磁石の磁力を用いて回収してもよい。以上の工程により、金属磁性粉末1が得られる。
【0057】
なお、原料の秤量からナノ粒子の洗浄・回収までの一連の工程は、Ar雰囲気などの不活性ガス雰囲気で実施する。
【0058】
(複合磁性体10の製造方法)
次に、複合磁性体10の製造方法の一例について説明する。
【0059】
複合磁性体10は、熱分解法で製造した金属磁性粉末1と、樹脂6と、溶媒とを、混ぜ合わせて、所定の分散処理を施すことで製造することができる。分散処理としては、超音波分散処理、または、ビーズミルなどのメディア分散処理を採用することが好ましい。分散処理の条件は、特に限定されず、樹脂6中にナノ粒子2が均等に分散するように、各種条件を設定すればよい。分散処理の際に添加する溶媒としては、たとえば、アセトン、ジクロロベンゼン、または、エタノールなどの有機溶媒を用いることができ、脱気処理した有機溶媒、もしくは、超脱水グレードの有機溶媒を用いることが好ましい。また、メディア分散処理の際に使用するメディアとしては、各種セラミックビーズを用いることができ、セラミックビーズの中でも比重の大きいZrO2のビーズを用いることが好ましい。なお、複合磁性体10における金属磁性粉末1の含有率(体積割合)は、金属磁性粉末1と樹脂6との配合比に基づいて制御することができる。
【0060】
上記の分散処理で得られたスラリーを、Ar雰囲気中で乾燥させ、溶媒を揮発させた乾燥体を得る。その後、乳鉢や乾式の解砕機などを用いて、乾燥体を解砕し、金属磁性粉末1と樹脂6とを含む顆粒を得る。そして、当該顆粒を金型に充填して加圧することで、複合磁性体10が得られる。樹脂6として熱硬化性樹脂を用いる場合には、加圧成形後に硬化処理を実施することが好ましい。
【0061】
なお、複合磁性体10を得るための一連の工程についても、金属磁性粉末1の製造と同様に、Ar雰囲気などの不活性雰囲気で実施する。また、複合磁性体10の製造方法は、上記の加圧成形法に限定されない。たとえば、分散処理で得られたスラリーをPETフィルムの上に塗布して乾燥させることで、シート状の複合磁性体10を得てもよい。
【0062】
(実施形態のまとめ)
本実施形態の金属磁性粉末1は、主成分としてCoを含み、かつ、平均粒径(D50)が1nm~100nmであるナノ粒子2で構成してある。そして、当該金属磁性粉末1のX線回折チャートは、回折角2θが41.6±0.3°の範囲に現れる第1ピークと、回折角2θが47.4±0.3°の範囲に現れる第2ピークと、を有する。第1ピークの半値全幅をFW1とし、第2ピークの半値全幅をFW2とすると、FW1に対するFW2の比(FW2/FW1)が、1以上5以下である。換言すると、hcp-Coの(101)面に係るX線回折ピークの半値全幅FW2が、hcp-Coの(100)面に係るX線回折ピークの半値全幅FW1に対して、1倍以上5倍以下である。
【0063】
金属磁性粉末1が上記の特徴を有することで、メガヘルツ帯のみならず1GHz以上の高周波帯領域においても、高透磁率と低磁気損失とを両立させることができ、性能指数(透磁率/磁気損失)が向上する。また、複合磁性体10についても、上記特徴を有する金属磁性粉末1を含むことで、高周波帯領域において、高透磁率と低磁気損失とを両立させることができ、性能指数が向上する。高透磁率および低磁気損失を実現できる理由は、必ずしも明らかではないが、結晶の構造的乱れが上記の効果に関与していると考えられる。
【0064】
具体的に、本実施形態の金属磁性粉末1では、1≦(FW2/FW1)≦5を満たす程度に、結晶(特にhcp-Co)の構造的乱れが生じていると考えられる。換言すると、結晶の構造的乱れによって、第2ピークの半値全幅が広がっていると考えられる。ナノ粒子2の結晶に構造的乱れを生じさせることで、磁気異方性が僅かに弱まり、低磁気損失を維持しつつ、透磁率の向上を図ることができると考えられる。
【0065】
また、金属磁性粉末1のX線回折チャートにおいて、第1ピークの積分強度をI1とし、第2ピークの積分強度をI2とすると、I1に対するI2の比(I2/I1)が、1以上10以下であることが好ましい。金属磁性粉末1が1≦(I2/I1)≦10を満たすことで、高周波帯域において、高透磁率と低磁気損失とをより好適に両立させることができる。
【0066】
また、金属磁性粉末1は、Fe、MgおよびCuから選択される1種以上の添加元素Mを含むことが好ましい。これら添加元素Mは、金属磁性粉末1の製造過程で、hcp-Coの生成および成長を促す役割を示すと考えられる。金属磁性粉末1が微量の添加元素Mを含むことで、磁気損失をより低減させることができる。
【0067】
金属磁性粉末1および複合磁性体10は、いずれも、インダクタ、トランス、チョークコイル、フィルタ、および、アンテナなどの各種電子部品に適用することができ、特に、動作周波数が1GHz以上(より好ましくは1GHz~10GHz)の高周波回路向けの電子部品に好適に適用することができる。
【0068】
金属磁性粉末1(もしくは複合磁性体10)を含む電子部品としては、たとえば、図4に示すようなインダクタ100が挙げられる。インダクタ100は、素体が本実施形態の複合磁性体10で構成してあり、素体の内部にコイル部50が埋設してある。素体の端面には、一対の外部電極60,80が形成してあり、各外部電極60,80が、それぞれ、コイル部50の引出部50a、50bと電気的に接続している。インダクタ100のような電子部品は、本実施形態の金属磁性粉末1(複合磁性体10)を含んでいるため、優れた高周波特性を有する。
【0069】
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0070】
以下、具体的な実施例に基づいて、本開示をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実験1)
実験1では、熱分解法により表1に示す8種類の金属磁性粉末を製造した。まず、Coの前駆体および溶媒を、秤量し、反応容器に投入した。Coの前駆体としては、Co2(CO)8を使用し、溶媒としては、ジメチルベンジルアミンを使用した。また、試料A1の金属磁性粉末を製造する際には、反応容器として、非加圧型のセパラブルフラスコを使用し、試料A2~A8の金属磁性粉末を製造する際には、反応容器として、ガス導入口とガス排出口とを有する高圧反応容器を使用した。なお、高圧反応容器のガス排出口には、圧力制御弁および減圧弁が設けてある。
【0072】
次に、上記の反応容器をオイルバス中に設置し、加熱することで、反応液中の前駆体を熱分解させた。この際、実験1では、反応温度は57℃に設定し、反応時間は3hとした。また、試料A1では、オイルバスおよび反応容器をAr雰囲気下に設置し、メカニカルスターラを用いて、反応液を攪拌した。試料A2~A8では、Arガスを、ガス導入口から高圧反応容器内に一定の流量(20L/min)で供給し、高圧反応容器内が表1に示す圧力となるように、圧力制御弁および減圧弁を制御して、高圧反応容器内を加圧した。
【0073】
所定の反応時間が経過した後、反応容器を静置して、室温まで冷却した。そして、生成したナノ粒子を、超脱水アセトンを用いて洗浄し、磁石により回収した。以上の工程により試料A1~A8に係る金属磁性粉末を得た。なお、原料の秤量から洗浄・回収までの一連の作業は、Ar雰囲気下で実施した。
【0074】
次に、上記の金属磁性粉末を用いて、試料A1~試料A8に係る複合磁性体を製造した。
【0075】
まず、複合磁性体におけるナノ粒子の含有率が10vol%となるように、金属磁性粉末を秤量した。そして、秤量した金属磁性粉末と、ポリスチレン樹脂と、溶媒であるアセトンとを混ぜ合わせ、当該混合物に対して超音波分散処理を施した。超音波分散の処理時間は10minとし、超音波分散処理によって得られた分散液を、50℃のAr雰囲気で乾燥させることで乾燥体を得た。そして、当該乾燥体を乳鉢で解砕した後、得られた顆粒を金型に充填して加圧することで複合磁性体を得た。試料A1~A8に係る複合磁性体は、いずれも、外形7mm、内径3mm、厚さ1mmのトロイダル形状を有していた。なお、複合磁性体10を製造する各工程は、成形工程を除き、Ar雰囲気下で実施した。
【0076】
実験1の各試料について、以下に示す評価を実施した。
【0077】
ナノ粒子の平均粒径
各試料で製造したナノ粒子を、TEM(日本電子株式会社製:JEM-2100F)により、倍率50万倍で観察した。そして、画像解析ソフトにより500個のナノ粒子の円相当径を計測し、その平均粒径(D50)を算出した。
【0078】
金属磁性粉末の組成分析
組成分析用の試料を、グローブボックス中で複合磁性体から採取し、当該試料に含まれるCoの含有量、および、その他微量元素の含有量を、ICP-AES(株式会社島津製作所製:ICPS-8100CL)により測定した。当該測定結果に基づいて、金属磁性粉末の主成分(80wt%以上を占める元素)を特定したところ、実験1の全ての試料(試料A1~試料A8)が、主成分としてCoを含むことが確認できた。
【0079】
結晶構造解析
XRD装置(株式会社リガク製:Smart Lab)を用いた2θ/θ測定により、複合磁性体のX線回折チャートを得た。そして、得られたX線回折チャートをX線分析統合ソフトウェア(SmartLab Studio II)により解析し、第1ピーク(2θ=41.6±0.3°に現れるピーク)の半値全幅FW1、第2ピーク(2θ=47.4±0.3°に現れるピーク)の半値全幅FW2、および、半値全幅の比(FW2/FW1(単位なし))を算出した。
【0080】
なお、実験1の各試料では、XRDによる構造解析によって、金属磁性粉末の主相(ナノ粒子の主相)がhcp-Coであることが確認できた。すなわち、第1ピークには、hcp-Coの(100)面の回折ピークが含まれ、第2ピークにはhcp-Coの(101)面の回折ピークが含まれており、表1に示すFW2/FW1は、(100)面の回折ピークの半値全幅に対する(101)面の回折ピークの半値全幅の比とみなすことができる。
【0081】
磁気特性の評価
ネットワークアナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社製:HP8753D)を用いた同軸Sパラメータ法により、5GHzにおける複素透磁率の実部(すなわち透磁率μ′(単位なし))と、虚部μ″とを測定した。そして、5GHzにおける磁気損失tanδ(単位なし)を、μ″/μ′として算出し、さらに、性能指数(単位なし)をμ′/tanδとして算出した。本実施例では、透磁率μ′が1.20以上で、かつ、性能指数が10以上である試料を、「良好」と判断した。
【0082】
実験1における各試料の評価結果を表1に示す。
【表1】
【0083】
表1に示すように、熱分解中に加圧することで半値全幅の比(FW2/FW1)が1.0以上となり、圧力の上昇に伴って、FW2/FW1が大きくなる傾向が確認できた。FW2/FW1が1.0未満である試料A1(比較例)では、磁気損失を低減できたものの、透磁率μ′が小さく、磁気特性の評価基準を満足できなかった。また、FW2/FW1が5.0超過である試料A8(比較例)では、高い透磁率が得られたものの、磁気損失が大きく、磁気特性の評価基準を満足できなかった。
【0084】
一方、実施例である試料A2~試料A7では、5GHzにおいて、高い透磁率と低い磁気損失とを両立させることができた。この結果から、Coのナノ結晶からなる金属磁性粉末が1≦(FW2/FW1)≦5を満たすことで、高周波帯域において透磁率および性能指数を両立して向上できることがわかった。
【0085】
なお、試料A2~試料A7の磁気特性を比較すると、FW2/FW1が小さくなるほど磁気損失が低減される傾向が確認でき、FW2/FW1が大きくなるほど透磁率が高くなる傾向が確認できた。磁気損失をより低減させる観点では、FW2/FW1が1以上3以下であることが好ましく、1.0以上2.5以下であることがより好ましいことがわかった。また、透磁率をより向上させる観点では、FW2/FW1が2以上5以下であることが好ましく、3以上5以下であることがより好ましいことがわかった。
【0086】
(実験2)
実験2では、表2に示す条件で、平均粒径が異なる複数の金属磁性粉末を製造した。具体的に、熱分解時における反応温度は、全ての試料において、57℃に設定し、反応時間を変えることで金属磁性粉末(ナノ粒子)の平均粒径を制御した。なお、表2に示す条件以外の製造条件は、実験1と同様とした。また、実験1と同じ方法で複合磁性体を製造し、その磁気特性等を測定した。実験2の各試料の評価結果を表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
表2に示すように、半値全幅の比(FW2/FW1)は、熱分解時の圧力に依存しており、反応時間を変えてもFW2/FW1はほとんど変化しないことがわかった。反応時間については、ナノ粒子の平均粒径に影響を与えており、反応時間を長くするほど、平均粒径が大きくなる傾向が確認できた。
【0089】
また、表2の評価結果から、平均粒径を小さくすると磁気損失が減少する傾向が確認できた。平均粒径を小さくすることで、各ナノ粒子に含まれる磁区の数が減少し、渦電流損失を抑制できると考えられる。一方、平均粒径を大きくすると透磁率が向上する傾向が確認できた。ただし、平均粒径が100nmよりも大きくなると、1≦(FW2/FW1)≦5を満たす試料(試料B8,B12,B16,B20,B24,B28)であっても、磁気損失が増大すると共に、透磁率も低下し、磁気特性の評価基準を満足できなかった。この結果から、Coナノ粒子の平均粒径は1nm以上100nm以下とすべきであり、平均粒径が1nm以上100nm以下の金属磁性粉末が1≦(FW2/FW1)≦5を満たすことで、透磁率および性能指数を両立して向上できることがわかった。
【0090】
(実験3)
実験3では、表3および表4に示す条件で、積分強度の比(I2/I1)が異なる複数の金属磁性粉末を製造した。具体的に、実験3では、試料によって熱分解時の反応温度を変更し、反応温度によって各試料におけるI2/I1を制御した。なお、熱分解の反応時間は、ナノ粒子の平均粒径が20±2nmとなるように、反応温度に応じて調整した。表3および表4に示す条件以外の製造条件は、実験1と同様とし、各試料に係る金属磁性粉末および複合磁性体を製造した。表3は、FW2/FW1を2.0±0.2の範囲に制御しつつ、I2/I1を変更した試料の評価結果を示しており、表4は、FW2/FW1およびI2/I1を変更した試料の評価結果を示している。
【0091】
積分強度の比(I2/I1(単位なし))は、複合磁性体のX線回折チャートをX線分析統合ソフトウェアにより解析し、第1ピークの積分強度I1、および、第2ピークの積分強度I2を計測することで算出した。
【0092】
【表3】
【表4】
【0093】
表3に示すように、1≦(I2/I1)≦10を満たす実施例(たとえば、表3の試料C1~試料C6および試料A4)では、I2/I1が1未満である試料C7よりも高い透磁率が得られ、I2/I1が10超過である試料C8よりも磁気損失を低減(性能指数を向上)させることができた。この結果から、I2/I1は、1以上10以下であることが好ましいことがわかった。
【0094】
また、表3に示す実施例(試料C1~試料C6および試料A4)では、FW2/FW1が同程度の値を示しているが、I2/I1の値がそれぞれ異なっており、このI2/I1に応じて磁気特性が変化していることがわかる。具体的に、表3の結果から、I2/I1が小さくなるほど磁気損失が低減される傾向が確認でき、I2/I1が大きくなるほど透磁率が高くなる傾向が確認できた。磁気損失をより低減させる観点では、I2/I1が1以上5以下であることがより好ましく、1以上3以下であることがさらに好ましいことがわかった。また、透磁率をより向上させる観点では、I2/I1が5以上10以下であることがより好ましく、6以上10以下であることがさらに好ましいことがわかった。
【0095】
なお、表3および表4に示すように、半値全幅の比(FW2/FW1)については、反応温度を変えてもほとんど変化しないことがわかった。一方、積分強度の比(I2/I1)については、加圧した反応液の温度に依存しており、加圧環境下での反応温度を高くするとI2/I1が大きくなる傾向が確認できた。このように、FW2/FW1とI2/I1とは、それぞれ、異なる要因によって制御することができ、FW2/FW1の制御とI2/I1の制御とを組み合わせることで、透磁率特性および磁気損失特性の更なる向上が図れることがわかった。
【0096】
たとえば、表4に示す実施例では、試料D1の磁気損失が最も低く(試料D1の性能指数が最も高く)、試料D18の透磁率が最も高くなった。つまり、FW2/FW1およびI2/I1を、いずれも小さくした場合には、他の実施例よりもさらに磁気損失を低減させることができ、FW2/FW1およびI2/I1を、いずれも大きくした場合には、他の実施例よりもさらに透磁率を向上させることができた。
【0097】
実験1の評価結果で述べたように、FW2/FW1を小さくすると透磁率は減少する傾向となる。一方で、表4の実施例では、FW2/FW1=1.8である試料C6において、FW2/FW1=5.0である試料D13と同程度の透磁率が得られた。つまり、FW2/FW1を小さくした場合であっても(たとえば2以下)、I2/I1を大きくすることで、透磁率の更なる向上を図ることができることがわかった。
【0098】
磁気損失についても上記と同様の傾向が確認できた。表3に示すように、I2/I1を大きくすると磁気損失が増加する傾向となるが、表4の実施例では、I2/I1=9.7である試料D6において、I2/I1=1.2である試料D13よりも磁気損失を低くすることができた。つまりI2/I1を大きくした場合であっても(たとえば6以上)、FW2/FW1を小さくすることで、磁気損失をより低減させることができることがわかった。
【0099】
上記のとおり、FW2/FW1のみならずI2/I1を制御することで、高周波帯域において、高透磁率と低磁気損失とをより好適に両立させることができることがわかった。
【0100】
(実験4)
実験4では、表5~表7に示す条件で、平均粒径およびI2/I1が異なる複数の金属磁性粉末および複合磁性体を製造した。具体的に、表5に示す実施例では、熱分解時の圧力を0.01MPaに設定したうえで、反応温度および反応時間を変えて、金属磁性粉末を製造した。表6に示す実施例では、熱分解時の圧力を0.05MPaに設定したうえで、反応温度および反応時間を変えて、金属磁性粉末を製造した。また、表7に示す実施例では、熱分解時の圧力を0.20MPaに設定したうえで、反応温度および反応時間を変えて、金属磁性粉末を製造した。表5~表7に示す条件以外の製造条件は、実験1と同様とし、各実施例に係る複合磁性体の磁気特性を評価した。
【0101】
【表5】
【表6】
【表7】
【0102】
表5~表7に示す実施例では、いずれも、5GHzにおいて、高い透磁率と低い磁気損失とを両立させることができた。実験4の評価結果から、FW2/FW1を1以上5以下とすることで、高周波帯域において高い透磁率と高い性能指数(高い透磁率と低い磁気損失)とを得ることができ、さらに、I2/I1および平均粒径(D50)を調整することで、透磁率および性能指数の更なる向上が図れることがわかった。
【0103】
(実験5)
実験5では、表8~表10に示す条件で、添加元素Mを含む金属磁性粉末および複合磁性体を製造した。具体的に、実験5では、Coの前駆体(Co2(CO)8)と共に、添加元素Mを含む添加材を高圧反応容器に投入し、各表に示す条件でCoのナノ粒子を合成した。Mgを添加する場合は、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)を添加材として用い、Feを添加する場合は、塩化鉄(FeCl3)を添加材として用い、Cuを添加する場合は、塩化銅(CuCl2)を添加材として用いた。
【0104】
表8に示す各実施例では、反応温度を57℃、反応時間を3h、反応容器内の圧力を0.05MPaに設定し、金属磁性粉末を製造した。つまり、表8は、添加元素Mによる効果を確認するために、平均粒径(D50)を20±3nm、FW2/FW1を2.0±0.2に設定した試料の評価結果を示している。
【0105】
表9に示す各実施例では、反応温度を57℃、反応時間を3hに設定したうえで、反応容器内の圧力を変えて、金属磁性粉末を製造した。つまり、表9は、FW2/FW1を変えて、添加元素Mを添加した試料の評価結果を示している。
【0106】
表10に示す各実施例では、FW2/FW1が2.0±0.2の範囲内となるように、反応容器内の圧力を0.05MPaに設定したうえで、反応温度および反応時間を変えて、金属磁性粉末を製造した。つまり、表10は、金属磁性粉末の平均粒径を変えて、添加元素Mを添加した試料の評価結果を示している。
【0107】
表8~表10に示す条件以外の製造条件は、実験1と同様とし、実験5に係る各試料の磁気特性を評価した。各表に示す添加元素Mの含有率(ppm)は、WTに対するWMの比(すなわち(Fe+Mg+Cu)/(Co+Fe+Mg+Cu))であり、ICP-AESにより分析した。なお、複合磁性体の断面でTEM-EDSによるスポット分析、ライン分析およびマッピング分析を実施したところ、添加元素Mを加えた実施例では、添加元素Mが、ナノ粒子の内部、または/および、ナノ粒子の表面に存在していることが確認できた。
【0108】
【表8】
【表9】
【表10】
【0109】
表8~表10に示すように、添加元素Mを含む実施例においても、5GHzにおいて、高い透磁率と高い性能指数とを両立させることができた。特に、添加元素Mを含む実施例では、添加元素を含まない実施例よりも磁気損失をさらに低減でき、性能指数が更に向上することが確認できた。
【0110】
なお、金属磁性粉末に添加する添加元素Mは、Fe、Mg、およびCuのうちのいずれか1種のみであってもよく、複数種であってもよいことがわかった。また、添加元素Mの含有率(WM/WT)は、10ppm以上550ppm以下であることが好ましいことがわかった。
【0111】
(実験6)
実験6では、表11および表12に示す条件で、金属磁性粉末および複合磁性体を製造した。具体的に、表11では、半値全幅の比(FW2/FW1)および積分強度比(I2/I1)が異なる実施例の評価結果を示しており、表11の各実施例では、D50を20±3nmの範囲に制御し、かつ、添加元素Mの含有率(WM/WT)を500±30ppmの範囲に制御した。また、表12では、D50、FW2/FW1、およびI2/I1が異なる実施例の評価結果を示しており、表12の各実施例では、WM/WTを500±30ppmの範囲に制御した。表11~表12に示す条件以外の製造条件は、実験5と同様とし、実験6に係る各試料の磁気特性を評価した。
【0112】
【表11】
【表12】
【0113】
表11および表12に示すように、実験6の全ての実施例で、5GHzにおいて、高透磁率と高い性能指数とを両立させることができた。
【0114】
(実験7)
実験7では、実験1の試料A2(実施例)と同じ条件で金属磁性粉末を製造した後、金属磁性粉末の配合比を変えて、試料A2a~試料A2eに係る複合磁性体を製造した。各試料における金属磁性粉末の配合比は、複合磁性体中のナノ粒子の含有率が表13に示す値となるように制御した。なお、金属磁性粉末の配合比以外の製造条件は、試料A2と同様とした。
【0115】
また、実験7では、実験1の試料A7(実施例)、および、実験2の試料B5、B6、B25、B26(実施例)と同じ条件で金属磁性粉末を製造した後、金属磁性粉末の配合比を変えて、試料A7a、試料B5a、試料B6a、試料B25a、および、試料B26aに係る複合磁性体を製造した。各試料における金属磁性粉末の配合比は、複合磁性体中のナノ粒子の含有率が40vol%となるように制御した。なお、金属磁性粉末の配合比以外の製造条件は、実験1または実験2と同様とした。
【0116】
また、実験7では、実験4の試料G11(実施例)と同じ条件で金属磁性粉末を製造した後、金属磁性粉末の配合比を変えて、試料G11a~G11eに係る複合磁性体を製造した。各試料における金属磁性粉末の配合比は、複合磁性体中のナノ粒子の含有率が表13に示す値となるように制御した。なお、金属磁性粉末の配合比以外の製造条件は、実験4と同様とした。
【0117】
また、実験7では、比較例である試料A1a~試料A1eに係る複合磁性体も製造した。各試料A1a~試料A1eでは、実験1の比較例である試料A1と同じ条件で、非加圧型の反応容器を用いて金属磁性粉末を製造した。そして、複合磁性体中のナノ粒子の含有率が表13に示す値となるように、金属磁性粉末の配合比を調整して、複合磁性体を得た。なお、金属磁性粉末の配合比以外の製造条件は、比較例A1と同様とした。
【0118】
また、実験7では、製造した複合磁性体の断面をTEMで観察し、複合磁性体に含まれる金属磁性粉末(ナノ粒子)の面積割合を測定した。その結果、各実施例および各比較例では、ナノ粒子の面積割合が、表13に示す狙い値(vol%)と凡そ一致していることが確認できた。
【0119】
実験7の評価結果を表13に示す。
【表13】
【0120】
表13に示すように、ナノ粒子の含有率を10vol%超過とした実施例(試料A2a~試料A2e)においても、実験1の実施例(試料A2)と同様に、高周波帯域において、高い透磁率と高い性能指数とを両立させることができた。また、表13に示すように、ナノ粒子の含有率を10vol%未満とした実施例(試料G11a~試料G11e)においても、実験4の実施例(試料G11)と同様に、高周波帯域において、高い透磁率と高い性能指数とを両立させることができた。また、実験7の結果から、磁気損失をより低減する観点では、ナノ粒子の含有率は、5vol%以上40vol%以下であることが好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0121】
1 … 金属磁性粉末
2 … ナノ粒子
10 … 複合磁性体
6 … 樹脂
100 … インダクタ
50 … コイル部
60,80 … 外部電極


図1
図2
図3
図4