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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031574
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ボーンチャイナ製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 33/135 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
C04B33/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135220
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000244305
【氏名又は名称】鳴海製陶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西部 徹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅人
(72)【発明者】
【氏名】平野 光良
(72)【発明者】
【氏名】日比野 友宏
(57)【要約】
【課題】卵殻から卵殻膜を除去することにより、環境問題の改善に資するボーンチャイナ製品の製造方法を提供する。
【解決手段】卵殻膜の付着した未処理卵殻を300℃以上900℃以下の温度で焼成することにより、前記未処理卵殻から前記卵殻膜を除去して処理済み卵殻を生成する卵殻処理工程と、CaCOの供給源と、前記CaCOの供給源以外の材料とを混合することによりボーンチャイナ製品の原料組成物を調製する調製工程と、を備えた、ボーンチャイナ製品の製造方法であって、前記調製工程において前記CaCOの供給源の一部または全部として前記処理済み卵殻を混合する、ボーンチャイナ製品の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵殻膜の付着した未処理卵殻を300℃以上900℃以下の温度で焼成することにより、前記未処理卵殻から前記卵殻膜を除去して処理済み卵殻を生成する卵殻処理工程と、
CaCOの供給源と、前記CaCOの供給源以外の材料とを混合することによりボーンチャイナ製品の原料組成物を調製する調製工程と、を備えた、ボーンチャイナ製品の製造方法であって、
前記調製工程において前記CaCOの供給源の一部または全部として前記処理済み卵殻を混合する、ボーンチャイナ製品の製造方法。
【請求項2】
前記原料組成物に対する前記処理済み卵殻の含有量が、0.0質量%より多く、17.0質量%以下である、請求項1に記載のボーンチャイナ製品の製造方法。
【請求項3】
前記調製工程において再利用ボーンチャイナを混合することにより、前記CaCOの供給源として、前記処理済み卵殻に加えて前記再利用ボーンチャイナに含まれるCaCOを用いる、請求項1または2に記載のボーンチャイナ製品の製造方法。
【請求項4】
前記再利用ボーンチャイナが、前記CaCOの供給源として前記処理済み卵殻を用いて製造されたものである、請求項3に記載のボーンチャイナ製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボーンチャイナ製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁器には、硬質磁器と軟質磁器とがある。中でも、軟質磁器であるボーンチャイナは、優れた白色を有すること、および透光性、審美性、強度等の点で優れているため、食器、装飾用磁器として汎用されている。ボーンチャイナ製品として、特許文献1に記載のものが知られている。ボーンチャイナの原料には、長石、粘土、カオリン、石灰石、および牛骨灰等が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭53-52514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近時、環境問題への関心の高まりから、従来は廃棄されていた廃棄物を再利用する試みがなされている。例えば、上記したボーンチャイナ製品の原料に含まれる石灰石を、従来は廃棄されていた卵殻によって供給することが考えられる。これにより環境問題を改善することが望まれる。
【0005】
しかしながら、卵殻には卵殻膜が付着している。この卵殻膜により、ボーンチャイナ製品を製造する過程で、原料組成物に含まれる不純物や粗粒を分離する工程で使用されている篩が目詰まりする恐れがある。このため、卵殻膜が付着した卵殻を、ボーンチャイナ製品の原料とすることが難しいという課題があった。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、卵殻から卵殻膜を除去することにより、環境問題の改善に資するボーンチャイナ製品の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
卵殻膜の付着した未処理卵殻を300℃以上900℃以下の温度で焼成することにより、前記未処理卵殻から前記卵殻膜を除去して処理済み卵殻を生成する卵殻処理工程と、
CaCOの供給源と、前記CaCOの供給源以外の材料とを混合することによりボーンチャイナ製品の原料組成物を調製する調製工程と、を備えた、ボーンチャイナ製品の製造方法であって、
前記調製工程において前記CaCOの供給源の一部または全部として前記処理済み卵殻を混合する、ボーンチャイナ製品の製造方法にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、未処理卵殻に付着した卵殻膜が除去された処理済み卵殻を得ることができる。これにより、不純物や粗粒を除去する工程で使用されている篩が、卵殻膜で目詰まりすることが抑制されるので、処理済み卵殻をボーンチャイナ製品の原料として用いることができる。この結果、食品産業廃棄物である卵殻を再利用することにより、卵殻の廃棄量を減少させることができるので、環境問題を改善させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.ボーンチャイナについて
本発明に係るボーンチャイナについて説明する。ボーンチャイナは、JIS S2401によれば、「素地が少なくともリン酸三カルシウム、灰長石およびガラス質からなるもの。」と定義される。また、「リン酸三カルシウムの含有量は、30質量%以上でなければならない。」とされる。
【0010】
従来、ボーンチャイナの原料としては、牛骨灰、石灰石、長石、カオリン、陶石、および粘土が用いられていた。また、ボーンチャイナの原料として、後述する再利用ボーンチャイナの再利用原料が含まれていてもよい。
【0011】
ボーンチャイナの原料の一つである石灰石の成分はCaCOである。このCaCOの全部または一部を、CaCOを含む廃棄物に代えることにより、廃棄物の量を減少させることが可能となるので、環境問題が改善されることが期待される。CaCOを含む廃棄物としては、卵殻が挙げられる。
【0012】
上記した再利用ボーンチャイナにはCaCOが含まれているので、再利用ボーンチャイナに含まれるCaCOも卵殻に代えることにより、さらに環境問題の改善を図ることができる。
【0013】
2.ボーンチャイナ製品の製造方法について
次に、本発明に係るボーンチャイナ製品の製造方法について説明する。ボーンチャイナ製品の製造方法の一例を下記に示す。
【0014】
(1)卵殻膜が付着した未処理卵殻を焼成することにより、未処理卵殻から卵殻膜を除去し、処理済み卵殻を生成する。
(2)CaCOの供給源と、CaCOの供給源以外の材料とを混合することにより、ボーンチャイナ製品の原料組成物を調製する。CaCOの供給源としては、処理済み卵殻、石灰石、および再利用ボーンチャイナが含まれる。CaCOの供給源以外の材料としては、牛骨灰、長石、カオリン、陶石、粘土および再利用ボーンチャイナが含まれる。再利用ボーンチャイナは、CaCOの供給源、およびCaCOの供給源以外の材料の双方に用いることができる。
(3)原料組成物に水を混合し、水が含まれた状態の原料組成物を所定の粒径(メジアン粒度4.6~6.9μm)に粉砕、混合することにより、泥漿を調製する。
(4)泥漿を振動篩等で篩別することにより、原料組成物に含まれる不純物、または粗粒を分離する。振動篩は300メッシュ(目開き0.045mm)である。振動篩により、粒径45μm以上の粗粒を分離する。分離された粗粒は廃棄される。
(5)フィルタープレスにより水分量を減らし、板状のケーキを形成する。
(6)水分量が調節された後、ろくろ成形、または鋳込み成形により所定の形状に形成する。
(7)約1250℃(例えば1220~1260℃)で締焼する。
(8)水中にフリットが分散された釉薬を、スプレー噴霧する。
(9)約1150℃(例えば1110~1190℃)で釉焼する。
【0015】
3.卵殻膜の除去について
次に、未処理卵殻から卵殻膜を除去する卵殻処理工程について説明する。卵加工品の製造過程等から回収された未処理卵殻には、卵殻膜が付着している。この卵殻膜は有機物なので、ボーンチャイナの原料という観点からは不純物となる。ボーンチャイナの製造工程において、不純物や粗粒を除去する工程で使用される篩が、卵殻膜によって目詰まりすることが懸念される。これにより、篩分け工程の効率が低下する恐れがある。このため、ボーンチャイナの製造効率を向上させるために、未処理卵殻から卵殻膜が除去されることが望まれる。
【0016】
卵殻から卵殻膜を分離する方法としては、例えば特開2020―146604号公報に記載されているように、アルカリ性溶液中に卵殻膜が付着した状態の殻を投入し、回転水流を生じさせて膜と殻を分離する方法や、特開平7-227551号公報に記載されているように、卵殻膜の付着した状態の殻をジェットミルに投入し、細かく粉砕しながら卵殻と卵殻膜を剥離させて、振動篩や気流分離で分離する方法、また特開平8-173838号公報に記載されているように、水流中で比重差により分離する方法などが知られている。しかしながら、いずれの方法を用いたとしても卵殻と卵殻膜を完全に分離することが困難なため、卵殻膜が、卵殻に部分的に残存した状態となる。上記のように、卵殻から卵殻膜を完全に除去する方法としては、卵殻膜が蛋白質で構成されているため、加熱処理を行って卵殻膜を焼失させることが効率的である。
【0017】
本形態においては、未処理卵殻を焼成することにより、未処理卵殻から卵殻膜を除去する。未処理卵殻を、300℃以上の温度で焼成することにより、未処理卵殻から卵殻膜を除去することができる。これにより、卵殻膜によって篩が目詰まりすることが抑制されるので、ボーンチャイナ製品の原料として卵殻を用いることが可能となる。これにより、廃棄物として廃棄されていた卵殻をボーンチャイナ製品の原料として用いることができるので、環境問題を改善することができる。
【0018】
卵殻に含まれるCaCOは、900℃よりも高い温度で加熱されると、CaOに化学変化する。CaOは、水分と接触してCa(OH)に化学変化する際に発熱する。このため、ボーンチャイナ製品を製造する際、原料組成物に水を加える工程よりも前の段階で、CaOをCaCOに化学変化させる必要があるので、取扱いが煩わしい。このため、卵殻がCaOに化学変化しない900℃以下で未処理卵殻を焼成することが好ましい。上記の観点から、未処理卵殻は、300~900℃で焼成するのが好ましく、500~700℃がより好ましい。これにより、卵殻膜が除去された状態であり、且つ、CaCOが維持された状態の処理済み卵殻を得ることができる。
【0019】
4.CaCOについて
ボーンチャイナ製品の原料組成物には、CaCOの供給源が含まれる。CaCOの供給源としては、石灰石、処理済み卵殻、および再利用ボーンチャイナが例示される。石灰石の主成分はCaCOである。また、本発明により卵殻膜が除去された処理済み卵殻の主成分もCaCOである。
【0020】
ボーンチャイナ製品の原料組成物に再利用ボーンチャイナを用いない場合、例えば、原料組成物に対する石灰石の割合は16.2質量%とすることができる。上記の石灰石の少なくとも一部または全部を処理済み卵殻で置き換えることにより、環境問題を改善させることができる。
【0021】
再利用ボーンチャイナは、不良品とされたボーンチャイナ製品を再利用するものである。再利用ボーンチャイナは、原料組成物を締焼または釉焼する前に不良品とされた廃棄物を含むとともに、原料組成物を締焼または釉焼した後に不良品とされた廃棄物も含む。再利用ボーンチャイナには石灰石(CaCO)に換算して16.2質量%のCa成分が含まれるので、再利用ボーンチャイナをCaCOの供給源とすることができる。CaCOの供給源として再利用ボーンチャイナを用いることにより、従来は廃陶土として廃棄されていた不良品のボーンチャイナ製品を再利用することができるので、さらに環境問題を改善することができる。
【0022】
ボーンチャイナ製品の原料組成物に再利用ボーンチャイナを用いる場合、例えば、原料組成物に対する再利用ボーンチャイナの割合を9.0質量%とすると原料組成物に対する石灰石の割合は14.7質量%とすることができる。上記の石灰石の少なくとも一部または全部を処理済み卵殻で置き換えることにより、環境問題を改善させることができる。原料組成物に含まれるCaCOは、締焼または釉焼されると、CaOに変化するので、以下、再利用ボーンチャイナに含まれるCa成分については石灰石(CaCO)に換算して考える。再利用ボーンチャイナは、石灰石換算で16.2質量%のCa成分を含んでいるので、再利用ボーンチャイナに由来する石灰石換算されたCa成分の割合は、1.46質量%とすることができる。さらに、再利用ボーンチャイナに由来するCa成分の少なくとも一部または全部を処理済み卵殻で置き換えることにより、環境問題を改善させることができる。ただし、再利用ボーンチャイナは、原料組成物に対して30質量%まで添加可能である。その際、原料組成物に対する石灰石の割合は11.3質量%となり、再利用ボーンチャイナに由来する石灰石換算されたCa成分の割合は、4.9質量%となる。
【0023】
5.実施例および比較例
続いて、本発明の実施例および比較例について説明する。
【0024】
5-1.処理済み卵殻の含有率について
(1) まず、原料組成物に対する処理済み卵殻の含有率について検討した実施例1~6、および比較例1~3について説明する。
【0025】
(実施例1)
卵殻膜の付着した未処理卵殻を、電気炉またはガス炉を用いて、600℃で2時間焼成した。これにより、未処理卵殻から卵殻膜を除去した。焼成後の処理済み卵殻の成分は、公知の手法により分析した結果、CaCOであることが分かった。
【0026】
処理済み卵殻1.0質量%、石灰石15.2質量%、牛骨灰33.0質量%、長石7.7質量%、カオリン9.3質量%、陶石18.1質量%、および粘土15.7質量%を秤量し、トロンメルまたはボールミル等の混合装置に投入し、さらに水を所定量加えて混合および粉砕した。
【0027】
混合装置から泥漿を取り出し、振動篩により不純物、粗粒等を篩別した。
【0028】
フィルタープレスにより水分を除去し、板状のケーキを作成した。
【0029】
ケーキの水分量を調節した後、所定の形状に成形体を形成し、乾燥させた。
【0030】
得られた成形体を空気雰囲気下において1250℃付近で加熱し、酸化焼成した。また、この段階で、後述する評価試験において施釉されていない試験片を用いる評価試験用の試験片を作成した。
【0031】
酸化焼成より得られた成形体にスプレー等を用いて釉薬をかけ、次いで、空気雰囲気下において1150℃付近で加熱して酸化焼成を行うことにより、成形体の表面にガラス層を形成した。以上により、実施例1に係るボーンチャイナ製品を作成した。
【0032】
(実施例2)
処理済み卵殻の添加量を5.0質量%とし、石灰石の添加量を11.2質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例2に係るボーンチャイナ製品を作成した。
【0033】
(実施例3)
処理済み卵殻の添加量を10.0質量%とし、石灰石の添加量を6.2質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例3に係るボーンチャイナ製品を作成した。
【0034】
(実施例4)
処理済み卵殻の添加量を16.2質量%とし、石灰石の添加量を0.0質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例4に係るボーンチャイナ製品を作成した。
【0035】
(実施例5)
処理済み卵殻14.7質量%、石灰石0.0質量%、牛骨灰30.0質量%、長石7.0質量%、カオリン8.5質量%、陶石16.5質量%、粘土14.3質量%、および焼成後の卵殻を原料として含まない再利用ボーンチャイナを再利用原料としたもの9.0質量%を秤量し、トロンメルまたはボールミル等の混合装置に投入し、さらに水を所定量加えて混合および粉砕した。
【0036】
上記以外は実施例1と同様にして、実施例5に係るボーンチャイナ製品を作成した。
【0037】
(実施例6)
再利用原料として、石灰石の全部を処理済み卵殻に代えたものを原料とする再利用ボーンチャイナを用いた以外は、実施例5と同様にして、実施例6に係るボーンチャイナ製品を作成した。
【0038】
(比較例1)
処理済み卵殻の添加量を0.0質量%とし、石灰石の添加量を16.2質量%とした以外は実施例1と同様にして、比較例1に係るボーンチャイナ製品を作成した。
【0039】
(比較例2)
卵殻膜の付着した卵殻の添加量を16.2質量%とし、石灰石の添加量を0.0質量%とした以外は実施例1と同様にして、比較例2に係るボーンチャイナ製品を作成した。
【0040】
(比較例3)
処理済み卵殻の添加量を0.0質量%とし、石灰石の添加量を14.7質量%とした以外は実施例6と同様にして、比較例3に係るボーンチャイナ製品を作成した。
【0041】
(2)評価試験
・透光率
釉薬による処理が施された実施例1~9、および比較例1~3について、JIS Z 8722に準拠して、日本電色工業株式会社製のAUTOMATIC DIGITAL HAZEMETER NDH-20Dにより透光率を測定した。測定結果を表1にまとめた。
【0042】
・曲げ強度
実施例1~6、および比較例1~3について、釉薬による処理が施されていない試験片に対し、日本セラミックス協会規格JCRS203-1996に準拠して、前川試験機製作所製の引張試験機アムスラー式竪型により曲げ強度を測定した。測定結果を表1にまとめた。
【0043】
・白色度
釉薬による処理が施された実施例1~6、および比較例1~3について、JIS Z 8722及びASTM E 313に準拠して、日本電色工業株式会社製のColor meter ZE6000により白色度を測定した。測定結果を表1にまとめた。
【0044】
・熱膨張係数
実施例1~6、および比較例1~3について、釉薬による処理が施されていない試験片に対し、JIS R 1618「ファインセラミックスの熱機械分析による熱膨張の測定方法」に準拠して、株式会社リガク製Thermo plus EV02 TMA8311により熱膨張係数を測定した。測定結果を表1にまとめた。
【0045】
・篩の目詰まり
実施例1~6、および比較例1~3について、混合装置から取り出された泥漿を振動篩により処理した際の、振動篩について、卵殻膜による目詰まりが発生したか否かを目視により確認し、結果を表1にまとめた。
【0046】
【表1】
【0047】
(3)評価結果
・透光率
表1に示すように、石灰石の全部または一部を、処理済み卵殻に代えた実施例1~6の透光率は、石灰石を原料とした比較例1および3と、ほぼ同等であった。
【0048】
・曲げ強度
表1に示すように、石灰石の全部または一部を、処理済み卵殻に代えた実施例1~6の曲げ強度は、石灰石を原料とした比較例1および3と、ほぼ同等であった。
【0049】
・白色度
表1に示すように、石灰石の全部または一部を、処理済み卵殻に代えた実施例1~6の白色度は、石灰石を原料とした比較例1および3よりも高かった。これは、石灰石に比べて、処理済み卵殻に含まれる鉄分が少ないことに起因すると考えられる。
【0050】
・熱膨張係数
表1に示すように、石灰石の全部または一部を、処理済み卵殻に代えた実施例1~6の熱膨張係数は、石灰石を原料とした比較例1および3と、ほぼ同等であった。
【0051】
・篩の目詰まり
表1に示すように、石灰石の全部または一部を、処理済み卵殻に代えた実施例1~6については、卵殻膜による篩の目詰まりは観察されなかったが、未処理卵殻を原料として用いた比較例2については、卵殻膜によって篩に目詰まりが生じていた。
【0052】
5-2.焼成温度について
(1) 次に、未処理卵殻を焼成する焼成温度について検討した、実施例4,7~10、並びに比較例1、4および5について説明する。
【0053】
(実施例7)
未処理卵殻の焼成温度を300℃とし、焼成時間を3時間とした以外は実施例4と同様にして、実施例7に係るボーンチャイナ製品を作成した。
【0054】
(実施例8)
未処理卵殻の焼成温度を500℃とし、焼成時間を2時間とした以外は実施例4と同様にして、実施例8に係るボーンチャイナ製品を作成した。
【0055】
(実施例9)
未処理卵殻の焼成温度を700℃とし、焼成時間を2時間とした以外は実施例4と同様にして、実施例8に係るボーンチャイナ製品を作成した。
【0056】
(実施例10)
未処理卵殻の焼成温度を900℃とし、焼成時間を1.5時間とした以外は実施例4と同様にして、実施例10に係るボーンチャイナ製品を作成した。
【0057】
(比較例4)
未処理卵殻の焼成温度を200℃とし、焼成時間を4時間とした以外は実施例4と同様にして、比較例4に係るボーンチャイナ製品を作成した。比較例4においては、焼成後の卵殻に卵殻膜が残存していた。
【0058】
(比較例5)
未処理卵殻を1000℃で、1時間焼成することにより、未処理卵殻から卵殻膜を除去した。焼成後の処理済み卵殻の成分は、公知の手法により分析した結果、CaOであることが分かった。処理済み卵殻の成分がCaOであると同定された時点で、実験を中止した。
【0059】
(2)評価試験
・透光率
釉薬による処理が施された実施例4,7~10、並びに、比較例1および4について、上記と同様にして透光率を測定した。測定結果を表2にまとめた。
【0060】
・曲げ強度
実施例4,7~10、並びに、比較例1および4について、釉薬による処理が施されていない試験片に対し、上記と同様にして曲げ強度を測定した。測定結果を表2にまとめた。
【0061】
・白色度
釉薬による処理が施された実施例4,7~10、並びに、比較例1および4について、上記と同様にして白色度を測定した。測定結果を表2にまとめた。
【0062】
・熱膨張係数
実施例4,7~10、並びに、比較例1および4について、釉薬による処理が施されていない試験片に対し、上記と同様にして熱膨張係数を測定した。測定結果を表2にまとめた。
【0063】
・篩の目詰まり
実施例4,7~10、並びに、比較例1および4について、混合装置から取り出された泥漿を振動篩により処理した際に用いられた振動篩について、卵殻膜による目詰まりが発生したか否かを目視により確認した。結果を表2にまとめた。
【0064】
なお、比較例5については、処理済み卵殻の成分がCaOであると同定された時点で実験を中止したので、上記した評価試験は実施していない。
【0065】
【表2】
【0066】
(3)評価結果
・透光率
表2に示すように、未処理卵殻の焼成温度が300~900℃である実施例4,7~10の透光率は、石灰石を原料とした比較例1と、ほぼ同等であった。
【0067】
・曲げ強度
表2に示すように、未処理卵殻の焼成温度が300~900℃である実施例4,7~10の曲げ強度は、石灰石を原料とした比較例1と、ほぼ同等であった。
【0068】
・白色度
表2に示すように、未処理卵殻の焼成温度が300~900℃である実施例4,7~10の白色度は、石灰石を原料とした比較例1と比べて高いものとなっていた。
【0069】
・熱膨張係数
表2に示すように、未処理卵殻の焼成温度が300~900℃である実施例4,7~10の熱膨張係数は、石灰石を原料とした比較例1と、ほぼ同等であった。
【0070】
・篩の目詰まり
表2に示すように、未処理卵殻の焼成温度が300~900℃である実施例4,7~10については、卵殻膜による篩の目詰まりは観察されなかった。しかし、未処理卵殻の焼成温度が200℃である比較例4については、残存した卵殻膜によって篩に目詰まりが生じていた。
【0071】
6.本形態の作用効果
続いて、本形態の作用効果について説明する。本形態に係るボーンチャイナ製品の製造方法は、卵殻膜の付着した未処理卵殻を300℃以上900℃以下の温度で焼成することにより、未処理卵殻から卵殻膜を除去して処理済み卵殻を生成する卵殻処理工程と、CaCOの供給源と、CaCOの供給源以外の材料とを混合することによりボーンチャイナ製品の原料組成物を調製する調製工程と、を備えた、ボーンチャイナ製品の製造方法であって、調製工程においてCaCOの供給源の一部または全部として処理済み卵殻を混合する。
【0072】
本形態によれば、未処理卵殻に付着した卵殻膜が除去された処理済み卵殻を得ることができる。これにより、不純物や粗粒を除去する工程で使用されている篩が、卵殻膜で目詰まりすることが抑制されるので、処理済み卵殻をボーンチャイナ製品の原料として用いることができる。この結果、食品産業廃棄物である卵殻を再利用することにより、卵殻の廃棄量を減少させることができるので、環境問題を改善させることができる。
【0073】
また、未処理卵殻が900℃以下の温度で焼成されて卵殻から卵殻膜が除去される際に、卵殻の成分であるCaCOがCaOに化学変化することを抑制できる。これにより、処理済み卵殻をCaCOの供給源として用いることができるので、ボーンチャイナ製品の製造効率を向上させることができる。
【0074】
本形態に係るボーンチャイナ製品の製造方法は、原料組成物に対する処理済み卵殻の含有量が、0.0質量%より多く、17質量%以下である。
【0075】
ボーンチャイナ製品は17質量%以下の割合で、石灰石を原料組成物の成分として含む。この石灰石の全量または一部が卵殻に置換されることにより、卵殻の廃棄量を減少させることができるので、環境問題を改善させることができる。
【0076】
また、本形態に係るボーンチャイナ製品の製造方法は、調製工程において再利用ボーンチャイナを混合することにより、CaCOの供給源として、処理済み卵殻に加えて再利用ボーンチャイナに含まれるCa成分(CaCOまたはCaO)を用いるものである。
【0077】
再利用ボーンチャイナにはCa成分が含まれるので、CaCOの供給源とすることができる。CaCOの供給源として再利用ボーンチャイナを用いることにより、従来は廃陶土として廃棄されていた不良品のボーンチャイナ製品を再利用することができるので、さらに環境問題を改善することができる。
【0078】
また、本形態に係るボーンチャイナ製品の製造方法は、再利用ボーンチャイナが、CaCOの供給源として処理済み卵殻を用いて製造されたものである。
【0079】
再利用ボーンチャイナの原料であるCaCOの供給源として処理済み卵殻を用いることにより、さらに環境問題を改善することができる。
【0080】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。