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特開2024-31583偏光フィルム、並びにこれを用いた偏光板及び表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031583
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】偏光フィルム、並びにこれを用いた偏光板及び表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240229BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240229BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240229BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20240229BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20240229BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240229BHJP
   C08K 5/23 20060101ALI20240229BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20240229BHJP
   C09B 67/22 20060101ALI20240229BHJP
   C09B 31/22 20060101ALI20240229BHJP
   C09B 43/124 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G02B5/30
H05B33/14 A
H01L27/32
H05B33/02
G02F1/1335 510
C08L101/00
C08K5/23
C09B67/20 K
C09B67/22 A
C09B67/22 C
C09B31/22
C09B43/124
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135232
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤原 大地
(72)【発明者】
【氏名】森田 陵太郎
(72)【発明者】
【氏名】浅見 一司
(72)【発明者】
【氏名】西野 隼人
【テーマコード(参考)】
2H149
2H291
3K107
4J002
【Fターム(参考)】
2H149AA13
2H149AA18
2H149AB04
2H149AB05
2H149BA02
2H149BA14
2H149BA15
2H149EA12
2H149EA22
2H149FA02X
2H149FA02Z
2H149FA03W
2H149FA03Z
2H149FA05X
2H149FA08X
2H149FA08Z
2H149FA12X
2H149FA13X
2H149FA14X
2H149FA15X
2H149FA63
2H149FD09
2H149FD14
2H291FA22
2H291FA30
2H291FA40
2H291FA94
2H291FA95
2H291FB02
2H291FB22
2H291FC08
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC31
3K107CC32
3K107EE26
3K107FF06
4J002AA001
4J002AB011
4J002AB041
4J002BE021
4J002BG011
4J002EQ016
4J002FD097
4J002FD206
4J002GP00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の目的は、高透過率および高いコントラストを有するとともに、白表示時および黒表示時の両方において無彩色である、高性能な無彩色偏光フィルム、並びにこれを用いた無彩色偏光板及び表示装置を提供することである。
【解決手段】下記式(1)、(2)を含む偏光フィルム。


【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩と、式(2)で表されるアゾ化合物又はその塩とを含有する偏光フィルム。
【化1】
(式(1)中、R~Rがそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、スルホ基を有する炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アセチルアミノ基、置換基を有してもよいベンゾイルアミノ基を示す。)
【化2】
(式(2)中、Ay21及びAy22は各々独立に、置換基を有してもよいナフチル基又は置換基を有してもよいフェニル基であり、Ry21、Ry22、Ry27、Ry28が、各々独立に、水素原子、C1~4のアルキル基、C1~4のアルコキシ基であり、Ry23~Ry26が、各々独立に、水素原子、C1~4のアルキル基、C1~4のアルコキシ基、スルホ基を有するC1~4のアルコキシ基であり、s、tは各々独立に0又は1を示す。)
【請求項2】
式(1)及び式(2)で表されるアゾ化合物又はその塩以外の有機染料を1種類以上含む、請求項1に記載の偏光フィルム。
【請求項3】
前記偏光フィルムが、親水系高分子フィルムを基材として含む、請求項1又は2に記載の偏光フィルム。
【請求項4】
JISZ8781-4:2013に従って自然光の透過率測定時に求められるa*値及びb*値の絶対値が、前記偏光フィルム単体でともに5.0以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
【請求項5】
前記偏光フィルム2枚をその吸収軸方向が互いに平行とするように重ねて配置した状態で、JISZ8781-4:2013に従って自然光の透過率測定時に求められるa*値およびb*値の絶対値が2.0以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
【請求項6】
前記偏光フィルム2枚をその吸収軸方向が互いに直交するように重ねて配置した状態で、JISZ8781-4:2013に従って自然光の透過率測定時に求められるa*値およびb*値の絶対値が2.0以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
【請求項7】
前記偏光フィルム2枚をその吸収軸方向が互いに平行とするように重ねて配置した状態で求められる透過率について、420nmから480nmの平均透過率と520nmから590nmの平均透過率との差の絶対値が2.0以下であり、かつ、520nmから590nmの平均透過率と600nmから640nmの平均透過率との差の絶対値が2.0以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
【請求項8】
前記偏光フィルム2枚をその吸収軸方向が互いに直交するように重ねて配置した状態で求められる透過率について、420nmから480nmの平均透過率と520nmから590nmの平均透過率との差の絶対値が0.5以下であり、かつ、520nmから590nmの平均透過率と600nmから640nmの平均透過率との差の絶対値が0.5以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか一項に記載の偏光フィルムの片面または両面に設けられた透明保護層と、を備える偏光板。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか一項に記載の偏光フィルム、または請求項9に記載の偏光板を備える液晶表示装置。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光フィルム、並びにこれを用いた偏光板及び表示装置に関する。
【0002】
偏光フィルム(偏光素子、また偏光膜とも呼ばれる)は一般的に、二色性色素であるヨウ素または二色性染料をポリビニルアルコール系樹脂フィルムに吸着配向させることにより製造されている。この偏光フィルムに接着剤層を介してトリアセチルセルロース等からなる透明保護フィルムを貼合して得られる偏光板は液晶表示装置などに用いられている。
【0003】
二色性色素としてヨウ素を用いた偏光板はヨウ素系偏光板と呼ばれ、二色性を有するアゾ化合物のような染料を用いた偏光板は染料系偏光板と呼ばれる。これらのうち染料系偏光板は高耐熱性、高湿熱耐久性、および高安定性を有し、更に色素の配合による色の選択性が高いという特徴がある一方で、同じ偏光度を有するヨウ素系偏光板と比較して透過率およびコントラストが低いという問題があった。このため高い耐久性を維持し、色の選択性が多様であることに加え、より高い透過率で高い偏光特性を有する染料系偏光板が望まれている。
【0004】
さらに、色の選択性が多様である染料系偏光板であっても、これまでの偏光フィルムや偏光板は、2枚の偏光フィルムや偏光板の吸収軸方向が互いに平行な位置関係(以下、「平行位」とも称する。)になるように重ねて配置して白色を示す際(以下、「白表示時」、「明表示」とも称する。)に、白色が黄色味を帯びる問題がある。この白色が黄色味を帯びるという問題を改善するため、黄色味を抑えて作製された偏光板であっても、これまでの偏光板では、2枚の偏光フィルムや偏光板の吸収軸方向が互いに直交する位置関係(以下、「直交位」とも称する。)になるように重ねて配置して黒色を示す際(以下、「黒表示時」、「暗表示」とも称する。)、黒色が青色に呈色する問題があった。そのため白表示時に無彩色の白色を示し、かつ、黒表示時に無彩色の黒色を示す偏光フィルムや偏光板が求められていた。特に白表示時に高品位な白を有する、通称ペーパーホワイトな偏光板を得ることは非常に難しかった。
【0005】
白表示時と黒表示時の色相が異なる理由としては、平行位と直交位とで透過率の波長依存性が同じではなく、特に、可視光領域にわたって透過率が一定でないことに起因する。さらに、二色性が可視光領域にわたり一定でないことも、無彩色偏光板の実現が難しい要因の1つである。
【0006】
ヨウ素系偏光板を例にして説明すると、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」とも称する。)を基材とし、二色性色素としてヨウ素を用いたヨウ素系偏光板は、一般的に480nmおよび600nmを中心とした吸収帯域を有する。480nmの吸収はポリヨウ素I3-とPVAとの錯体、600nmの吸収はポリヨウ素I5-とPVAとの錯体に起因すると言われている。各波長における偏光度(二色性)は、ポリヨウ素I5-とPVAとの錯体に基づく二色性の方が、ポリヨウ素I3-とPVAとの錯体に基づく二色性よりも高い。つまり直交位の透過率を各波長において一定にすると、平行位の透過率は480nmより600nmの方が高くなり、白表示時に白色が黄色く着色する現象が生じていた。逆に、平行位の透過率を一定にすると、直交位の透過率は480nmより600nmの方が低くなるため、黒表示時において青色に呈色した黒色となっていた。白表示時に白色が黄色を呈している場合、一般的に劣化が進んだような印象を与えるため好ましいとは言えない。また、黒表示時に青い色を呈する場合、明瞭な黒でないため高級感を損なう印象を与える。またヨウ素系偏光板では主に視感度の高い550nm付近には、その波長に基づく錯体がないために、色相の制御が難しい。
このように、各波長の偏光度(二色性)が一定でないために、偏光度の波長依存性が生じてしまっていた。又、ヨウ素とPVAによる錯体による吸収である480nmと600nmの2つの二色性色素しかないため、ヨウ素とPVAからなるヨウ素系偏光板では色相の調整もできなかった。
【0007】
ヨウ素系偏光板の色相を改善する方法は、特許文献1やは特許文献2に記載されている。特許文献1にはニュートラル係数を算出し、絶対値が0から3である偏光板が記載されている。特許文献2には、410nmから750nmにおける透過率をその平均値の±30%以内にし、ヨウ素に加えて直接染料、反応染料、または酸性染料を添加して着色調整してなる偏光フィルムが記載されている。
【0008】
一方、色素を使用した染料系偏光板にて無彩色な偏光板の提案がされている。(特許文献3から特許文献7)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002-169024号公報
【特許文献2】特開平10-133016号公報
【特許文献3】WO2014/162635
【特許文献4】WO2014/162633
【特許文献5】WO2019/117131
【特許文献6】特許第6853010号
【特許文献7】特許第6662739号
【特許文献8】国際公開第2021015188
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「機能性色素の応用」((株)CMC出版、第1刷発行版、入江正浩監修)
【0011】
しかし、特許文献1の偏光板は、実施例から分かるように、ニュートラル係数(Np)が低くても、JISZ8729から求められる平行位の色相が、a*値が-1.67、かつ、b*値が3.51であることから、白表示時に黄緑色を呈していることが分かる。また直交位の色相はa*値が0.69ではあるがb*値が-3.40であることから、黒表示が青色を呈している偏光板になってしまっている。また特許文献2の偏光フィルムは、偏光フィルム1枚のみを用いて測定されたUCS色空間におけるa*値およびb*値を絶対値2以下にして得られるものであり、偏光フィルムを2枚重ねた際の白表示時および黒表示時の両方の色相において同時に無彩色を表現できるものではなかった。また、特許文献2の偏光フィルムの単体透過率の平均値は、実施例1で31.95%、実施例2で31.41%であり低い値を示していた。このように特許文献2の偏光フィルムは透過率が低いため、高透過率および高コントラストを求められる分野、特に液晶表示装置及び有機エレクトロルミネッセンスなどの分野では十分な性能を有するものではなかった。さらに特許文献2の偏光フィルムは、主たる二色性色素としてヨウ素を用いていることから耐久性試験後、特に湿熱耐久性試験(例えば、85℃、相対湿度85%の環境)後に色変化が大きく、耐久性が劣っていた。
【0012】
一方、染料系偏光板は耐久性に優れているが、波長依存性が平行位と直交位で異なることは、ヨウ素系偏光板と同様である。平行位および直交位で同じ色相を示す二色性を示すアゾ化合物はほぼ皆無であり、存在したとしても偏光度や二色性(偏光特性)は低い。二色性を有するアゾ化合物の種類によっては白表示時の白色が黄色を呈し、黒表示時の黒色が青色を呈するなど、平行位および直交位で波長依存性が全く異なるアゾ化合物も存在する。また光の明暗によっても人間の色の感受性が異なるため、仮に染料系偏光板の色補正をするとしても、平行位から直交位にわたって光をコントロールすることにより発生する光の明暗のそれぞれに適した色補正が必要である。無彩色偏光板は平行位および直交位のそれぞれにおいて、透過率が各波長でほぼ一定の値であり波長依存性がない状態でなければ達成することができない。さらに、高透過率および高コントラストを有する偏光フィルムを得るためには、一定の透過率を平行位および直交位で同時に満たさなければならないことに加えて、各波長の二色性や偏光度が高く、かつ一定である必要がある。アゾ化合物1種を偏光フィルムに応用した場合でも、直交位と平行位とで透過率の波長依存性が異なるにも関わらず、2種以上のアゾ化合物を配合して一定の透過率を達成するためには、1種ずつの平行位の透過率と直交位の透過率とを考慮し、2種以上の偏光度や二色性のバランスを精密に制御しなければならない。
【0013】
一方で、例え平行位の透過率および直交位の透過率と二色比の関係を精密に制御し、透過率をそれぞれにおいて一定にできたとしても、高透過率、かつ高コントストを実現することは未だできていない。つまり高透過率又は高偏光度になればなるほど無彩色とすることが困難であり、高透過率な無彩色な偏光板は達成できていなかった。高透過率かつ/または高コントラストな無彩色偏光板を得ることは非常に難しく、単に色の三原色の二色性色素を適用すれば達成しうるものではない。特に、平行位において各波長で一定の透過率と高い二色性を同時に実現することは非常に困難を極める。白は僅かに色が入るだけでも高品位な白を表現できない。また白表示である時の白は、輝度が高く感度も高いため特に重要である。よって、偏光フィルムとして白表示時に高品位な紙のような無彩色の白色を示し、黒表示時に無彩色の黒色を示すとともに、視感度補正後の単体透過率35%以上および高偏光度を有する偏光フィルムが求められている。特許文献3においても白表示時および黒表示時に無彩色な偏光板が記載されているが、更なる性能の向上が求められている。
【0014】
高性能な無彩色偏光板を提案している特許文献4においては、単体透過率40%時の偏光度が99%以上での無彩色偏光板の開発が行われていたが、二色比やコントラストについては記載がなく、偏光板としての性能については不明瞭であった。
【0015】
特許文献5においては、同様に単体透過率40%付近での偏光度が99%以上での無彩色偏光板の結果が記載されているが、同等の単体透過率におけるコントラストに多くのばらつきが生じ、高い透過率を有する無彩色偏光板の安定作製は非常に困難であることが見られる。また実施例で提示されている試料の黒表示での色相の絶対値が(a*-c、b*-c)2.0を超えている試料もあるため、無彩色を有している偏光板とは言えない。
【0016】
また特許文献6(表1A、表1B)においては単体透過率40%以下で偏光度が99%以上での無彩色偏光板の提案が行われているが、その透過率は高くても38.5%程度であり、既存の液晶表示装置や有機エレクトロニクス向けの光学フィルムには不適であると言える。
【0017】
単体透過率をコントロールした無彩色偏光板を提案している特許文献7(表1)においては、単体透過率40%~60%以下で無彩色偏光板の開発が行われ可視光の範囲内で広く無彩色化が実現されていた。しかし単体透過率40%以上の偏光板のコントラストは低く、提案されている無彩色偏光板の偏光性能は低いことが否めない。
【0018】
特許文献8で記載されている新規なアゾ化合物のように530~550nmの範囲で偏光度が一定となるアゾ化合物の開発もされており、無彩色な偏光フィルム及び偏光板の作製には有益と考えられ、新規アゾ化合物の開発も求められている。
【0019】
このように従来の技術では可視領域のおける透過率を一定にすることで達成できる無彩色化が可能であるが、それらの高性能化(高偏光度、高コントラスト、高二色比)は依然として達成されておらず、実現化が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従って本発明の目的は、高透過率および高いコントラストを有するとともに、白表示時および黒表示時の両方において無彩色であり、特に白表示時には高品位な白色を、黒表示には高品位な黒色を呈する高性能な無彩色偏光フィルム、並びにこれを用いた無彩色偏光板および表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のアゾ化合物の配合によって白表示時及び黒表示には無彩色を示すとともに、高コントラストである高性能な偏光フィルムを作製し得ることを見出した。
【0022】
すなわち本発明は[1]~[10]に関する。
[1]
式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩と、式(2)で表されるアゾ化合物又はその塩とを含有する偏光フィルム。
【化1】
(式(1)中、R~Rがそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、スルホ基を有する炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アセチルアミノ基、置換基を有してもよいベンゾイルアミノ基を示す。)
【化2】
(式(2)中、Ay21及びAy22は各々独立に、置換基を有してもよいナフチル基又は置換基を有してもよいフェニル基であり、Ry21、Ry22、Ry27、Ry28が、各々独立に、水素原子、C1~4のアルキル基、C1~4のアルコキシ基であり、Ry23~Ry26が、各々独立に、水素原子、C1~4のアルキル基、C1~4のアルコキシ基、スルホ基を有するC1~4のアルコキシ基であり、s、tは各々独立に0又は1を示す。)
[2]
式(1)及び式(2)で表されるアゾ化合物又はその塩以外の有機染料を1種類以上含む、前項[1]に記載の偏光フィルム。
[3]
前記偏光フィルムが、親水系高分子フィルムを基材として含む、前項[1]又は[2]に記載の偏光フィルム。
[4]
JISZ8781-4:2013に従って自然光の透過率測定時に求められるa*値及びb*値の絶対値が、前記偏光フィルム単体でともに5.0以下である、前項[1]~[3]のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
[5]
前記偏光フィルム2枚をその吸収軸方向が互いに平行とするように重ねて配置した状態で、JISZ8781-4:2013に従って自然光の透過率測定時に求められるa*値およびb*値の絶対値が2.0以下である、前項[1]~[3]のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
[6]
前記偏光フィルム2枚をその吸収軸方向が互いに直交するように重ねて配置した状態で、JISZ8781-4:2013に従って自然光の透過率測定時に求められるa*値およびb*値の絶対値が2.0以下である、前項[1]~[3]のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
[7]
前記偏光フィルム2枚をその吸収軸方向が互いに平行とするように重ねて配置した状態で求められる透過率について、420nmから480nmの平均透過率と520nmから590nmの平均透過率との差の絶対値が2.0以下であり、かつ、520nmから590nmの平均透過率と600nmから640nmの平均透過率との差の絶対値が2.0以下である、前項[1]~[3]のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
[8]
前記偏光フィルム2枚をその吸収軸方向が互いに直交するように重ねて配置した状態で求められる透過率について、420nmから480nmの平均透過率と520nmから590nmの平均透過率との差の絶対値が0.5以下であり、かつ、520nmから590nmの平均透過率と600nmから640nmの平均透過率との差の絶対値が0.5以下である、前項[1]~[3]のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
[9]
前項[1]~[3]のいずれか一項に記載の偏光フィルムの片面または両面に設けられた透明保護層と、を備える偏光板。
[10]
前項[1]~[3]のいずれか一項に記載の偏光フィルム、または[9]に記載の偏光板を備える液晶表示装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明の偏光フィルムは、白表示及び黒表示には無彩色を示し、高いコントラストを有する高性能な偏光フィルム、並びに偏光板及び表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書及び特許請求の範囲において、明確に遊離形態を表すものである場合を除き、「アゾ化合物又はその塩」を単に「アゾ化合物」と称することもある。また、本明細書及び特許請求の範囲において、「置換基」には水素原子を含んでもよいため、水素原子を便宜上「置換基」として説明することもある。「置換基を有してもよい」とは、置換基を有していない場合も含まれることを意味する。例えば、「置換基を有してもよいフェニル基」は、非置換の単なるフェニル基と、置換基を有するフェニル基を含む。また、本願の低級アルキル基、低級アルコキシ基などの「低級」とは特に記載がなければ、炭素数が1~4、好ましくは1~3であることを示す。
【0025】
本発明の偏光フィルムは、下記式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩と、下記式(2)で表されるアゾ化合物又はその塩とを含有する。
【化3】
(式(1)中、R~Rが各々独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、スルホ基を有する炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アセチルアミノ基、置換基を有してもよいベンゾイルアミノ基を示す。)
【0026】
【化4】
(式(2)中、Ay21及びAy22は各々独立に、置換基を有してもよいナフチル基又は置換基を有してもよいフェニル基であり、Ry21、Ry22、Ry27、Ry28が、各々独立に、水素原子、C1~4のアルキル基、C1~4のアルコキシ基であり、Ry23~Ry26が、各々独立に、水素原子、C1~4のアルキル基、C1~4のアルコキシ基、スルホ基を有するC1~4のアルコキシ基であり、s、tは各々独立に0又は1を示す。)
【0027】
上記式(1)中、R~Rが各々独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、スルホ基を有する炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アセチルアミノ基、置換基を有してもよいベンゾイルアミノ基を示し、好ましくは水素原子、スルホ基、カルボキシ基である。またR~Rはどちらか一方、又はその両方がスルホ基またはカルボキシ基である場合がさらに好ましい。
【0028】
上記式(2)中、Ay21及びAy22は各々独立に、置換基を有してもよいナフチル基又は置換基を有してもよいフェニル基であり、Ry21、Ry22、Ry27、Ry28が、各々独立に、水素原子、C1~4のアルキル基、C1~4のアルコキシ基であり、Ry23~Ry26が、各々独立に、水素原子、C1~4のアルキル基、C1~4のアルコキシ基、スルホ基を有するC1~4のアルコキシ基であり、s、tは各々独立に0又は1を示す。好ましくはs、tのいずれかは1である。
【0029】
上記式(2)中、Ay21及びAy22は各々独立に、置換基を有してもよいナフチル基又は置換基を有してもよいフェニル基であり、好ましくは置換基を有してもよいナフチル基である。
【0030】
上記式(2)中、Ay21及びAy22は各々独立に、置換基を有してもよいナフチル基又は置換基を有してもよいフェニル基であり、有してもよい置換基としては限定されるものではないが、好ましくはスルホ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルホ基を有する炭素数1~4のアルコキシ基であり、より好ましくはスルホ基である。
【0031】
上記式(2)中、Ry21、Ry22、Ry27、Ry28は各々独立に、水素原子、C1~4のアルキル基、C1~4のアルコキシ基であり、好ましくは水素原子、C1~4のアルキル基である。
【0032】
上記式(2)中、Ry23~Ry26が、各々独立に水素原子、C1~4のアルキル基、C1~4のアルコキシ基、スルホ基を有するC1~4のアルコキシ基であり、好ましくは水素原子、メチル基、メトキシ基、スルホプロポキシ基である。
【0033】
偏光フィルムのベースとなる基材は、二色性材料であるアゾ化合物やヨウ素を吸着含有し得る、高分子を製膜して得られるフィルム等が好ましい。
【0034】
より好ましくは、親水性高分子であり、それらは特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、アミロール系樹脂、デンプン系樹脂、セルロール系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、並びにこれらの誘導体や変性体であることが最も好ましい。
【0035】
上記式(1)及び(2)で表されるアゾ化合物又はその塩は、非特許文献1に記載されるような通常のアゾ染料の製法に従い、公知のジアゾ化、カップリングを行うことにより容易に製造できる。より詳しくは、上記式(1)に関しては特許出願6892432号公報を、また上記式(2)に関しては国際公開第2019124161号公報を参考にして製造できる。
【0036】
前記式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩の具体例を以下に挙げる。なお、アゾ化合物は遊離酸の形式で表す。
【0037】
【化5】
【0038】
【化6】
【0039】
前記式(2)で表されるアゾ化合物又はその塩の具体例を以下に挙げる。なお、アゾ化合物は遊離酸の形式で表す。
【0040】
【化7】
【0041】
【化8】
【0042】
【化9】
【0043】
【化10】
【0044】
【化11】
【0045】
【化12】
【0046】
【化13】
【0047】
【化14】
【0048】
【化15】
【0049】
【化16】
【0050】
【化17】
【0051】
【化18】
【0052】
【化19】
【0053】
【化20】
【0054】
【化21】
【0055】
【化22】
【0056】
本発明の偏光フィルムは式(1)及び(2)で示されているアゾ化合物を含有吸着することにより、無彩色な偏光フィルム又は偏光板を作製することができる。
【0057】
さらに式(1)及び(2)で示されているアゾ化合物に加えて、さらに有機染料を1種以上含有することで偏光性能を向上させることができるためより好ましい。
【0058】
使用することができる有機染料としては、例えば非特許文献1に示されるような有機化合物を使用することができ、特に二色性の高いものが好ましい。例えば、シー.アイ.ダイレクト.イエロー12、シー.アイ.ダイレクト.イエロー28、シー.アイ.ダイレクト.イエロー44、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ26、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ39、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ107、シー.アイ.ダイレクト.レッド2、シー.アイ.ダイレクト.レッド31、シー.アイ.ダイレクト.レッド79、シー.アイ.ダイレクト.レッド81、シー.アイ.ダイレクト.レッド247、シー.アイ.ダイレクト.グリーン80、シー.アイ.ダイレクト.グリーン59、及び特特許文献1~7に記載された有機染料等が挙げられる。これらの有機染料は遊離酸の他、アルカリ金属塩(例えばNa塩、K塩、Li塩)、アンモニウム塩、又はアミン類の塩として用いることができる。ただし二色性染料はこれらに限定されず公知の二色性染料を用いることができる。アゾ化合物は遊離酸、その塩、またはその銅錯塩染料であることで光学特性が向上される。
【0059】
本発明において、式(2)で表されるアゾ化合物の含有量は、式(1)のアゾ化合物の含有量100質量部に対して、0.01~5000質量部であることが好ましく、0.1~3000質量部であることがより好ましい。
【0060】
本発明において、式(1)、(2)以外に使用する有機染料の含有量は、式(1)のアゾ化合物の含有量100質量部に対して、0.01~5000質量部であることが好ましく、0.1~3000質量部であることがより好ましい。
【0061】
本発明の偏光フィルムは、式(1)で表されるアゾ化合物、式(2)で表されるアゾ化合物及びそれ以外の有機染料の1種以上の組み合わせを含有することにより、高い透過率及び高い偏光度を有しつつも、白表示時にさらに高品位なペーパーホワイトを実現し、黒表示時にさらに高級感のある明瞭な黒色を実現することができる。
【0062】
式(1)で表されるアゾ化合物、式(2)で表されるアゾ化合物は遊離形態であっても、塩の形態であってもよい。塩は例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、及びカリウム塩などのアルカリ金属塩、又はアンモニウム塩やアルキルアミン塩などの有機塩であり得る。塩は好ましくは、ナトリウム塩である。
【0063】
本発明の偏光フィルムは、式(1)又は(2)で表されるアゾ化合物を含有し、任意にそれ以外の有機染料をさらに含有する。本発明の偏光フィルムは、後述する所望の色度a*値及びb*値、単体透過率、及び特定波長帯域における平均透過率等の性能を有することができる。
【0064】
偏光フィルムは基材となる高分子フィルム、好ましくは親水性高分子フィルムに二色性材料であるアゾ化合物及びヨウ素を吸着させ、一軸方向に延伸することで二色性材料が延伸方向と同一方向に配向し偏光性能を発現する。延伸手法としては熱を加えながら延伸する乾熱延伸手法でもよいし、より好ましくは水溶液中で一軸延伸を行う湿式延伸手法でもよい。
【0065】
偏光フィルムにおける上記アゾ化合物の配合比は、上述した各アゾ化合物の含有量において、透過率及び色度が後述する好ましい範囲になるようにさらに調整されていることが好ましい。偏光フィルムの性能は偏光フィルムにおける各アゾ化合物の配合比のみならず、例えば湿式延伸を採用する際にはアゾ化合物を吸着させる基材フィルムの膨潤度や延伸倍率、染色時間、染色温度、染色時のPH、塩の影響等の様々な要因により変化する。このため各アゾ化合物の配合比は、基材フィルムの膨潤度、染色時の温度、染色時間、染色槽のpH、塩の種類、塩の濃度、さらには延伸倍率や延伸温度に応じて決定することができる。
【0066】
透過率はJISZ8722:2009に従って求められる、視感度補正後の透過率である。透過率の測定は測定試料(例えば、偏光フィルム又は偏光板)において、380~780nm、又は400~700nmの各波長について、5nm又は10nmごとに分光透過率を測定し、これを例えばC光源2度視野により視感度に補正することで求めることができる。
【0067】
上記、視感度補正後の透過率において、偏光フィルム又は偏光板一枚で測定した透過率を単体透過率(Ys)、二枚の偏光フィルム又は偏光板の吸収軸を平行に設置し、測定から得られた透過率を平行位透過率(Yp)、二枚の偏光フィルム又は偏光板の吸収軸を直交に設置し、測定から得られた透過率を直交位透過率(Yc)と称す。
【0068】
本発明の偏光フィルム又は偏光板はYsが35%~65%であることが好まく、偏光板の性能としては、透過率が高ければ高いほど明るい表示をすることができるが、単体透過率が35%から65%であれば表示装置に用いても、違和感なく明るさを表現できる
【0069】
透過率が高いほど偏光度は下がる傾向にあるため、偏光度とのバランスの観点からは、単体透過率は37%から50%であることがより好ましく、さらに好ましくは38%から45%である。単体透過率Ysが65%を超えると偏光度が低下する場合があるが、透過率65%以上を求められる高透過率、又は特定の偏光性能やコントラストを求める場合には、単体透過率が65%を超えてもよい。
【0070】
本発明の偏光フィルム又は偏光板は、特定の波長帯域間の平均透過率の差が所定の値以下であることが好ましい。平均透過率は特定の波長帯域における透過率の平均値である。
【0071】
波長帯域420nmから480nm、520nmから590nm、及び600nmから640nmはJISZ8781-4:2013において色を示す際に計算で用いる等色関数に基づく主な波長帯域である。具体的にはJISZ8781-4:2013の元になるJISZ8701のXYZ等色関数において、600nmを最大値とするx(λ)、550nmを最大値とするy(λ)、455nmを最大値とするz(λ)のそれぞれの最大値を100としたとき、20以上となる値を示すそれぞれの波長が、420nmから480nm、520nmから590nm、及び600nmから640nmの各波長帯域である。
【0072】
本発明の偏光フィルムは、平行位透過率Ypについて、420nmから480nmの平均透過率と、520nmから590nmの平均透過率との差の絶対値が2.0%以下であることが好ましく、より好ましくは1.8%以下、さらに好ましくは1.5%以下、特に好ましくは1.0%以下である。さらに平行位透過率について、520nmから590nmの平均透過率と、600nmから640nmの平均透過率との差の絶対値が2.0%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。このような偏光フィルム又偏光板は、平行位で高品位な白色を表示(白表示、明表示とも称する)することができる。
【0073】
さらに偏光フィルム2枚を吸収軸方向が直交になるように重ねて配置した状態(黒表示時、又は、暗表示時)で測定して得られるYcについて、420nmから480nmの平均透過率と、520nmから590nmの平均透過率との差の絶対値は10%以下であり、かつ520nmから590nmの平均透過率と、600nmから640nmの平均透過率との差の絶対値は2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることが、さらに好ましい。このような偏光フィルムは直交位で無彩色な黒色を表示することができる。さらに本発明の偏光フィルムのYcについては、420nmから480nmの平均透過率と520nmから590nmの平均透過率との差の絶対値は、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下である。直交位透過率については、520nmから590nmの平均透過率と600nmから640nmの平均透過率との差の絶対値は、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。
【0074】
波長帯域380nmから420nm、480nmから520nm、及び640nmから780nmの各々における単体透過率、平行位透過率、及び直交位透過率のそれぞれの平均透過率は、上記波長帯域420nmから480nm、520nmから590nm、600nmから640nmにおける平均透過率が、上述したように調整されている場合には色素により大きな影響は受けにくいが、ある程度調整されていることが好ましい。波長帯域380nmから420nmの平均透過率と、420nmから480nmの平均透過率との差が15%以下であることが好ましく、480nmから520nmの平均透過率と、420nmから480nmの平均透過率との差が15%以下、480nmから520nmの平均透過率と、520nmから590nmの平均透過率と差が15%以下、640nmから780nmの平均透過率と、600nmから630nmの平均透過率との差が20%以下であることが好ましい。
【0075】
偏光フィルムは平行位で測定された520nmから590nmの波長帯域における平均透過率が28%から50%であることが好ましい。このような偏光フィルムは表示装置に設けた際に、明るく、輝度の高い明瞭な表示装置とすることができる。520nmから590nmの波長帯域の透過率は、JISZ8781-4:2013において色を示す際に計算で用いる等色関数に基づく主な波長帯域の1つである。特に520nmから590nmの各波長帯域は、等色関数に基づく最も視感度の高い波長帯域であり、この範囲における透過率が目視で確認できる透過率と近い。このため520nmから590nmの波長帯域の透過率を調整することが非常に重要である。平行位で測定された520nmから590nm波長帯域の平均透過率は、より好ましくは29%から45%であり、さらに好ましくは30%から40%である。さらに、このときの偏光フィルムの偏光度は80%から100%であることが好ましく、より好ましくは95%から100%、さらに好ましくは99%から100%である。偏光度は高い方が好ましいが、偏光度と透過率との関係において明るさを重視するか、偏光度(又はコントラスト、もしくは二色性)を重視するかにより、適した透過率及び偏光度に調整することができる。
【0076】
色度a*及びb*値は、JIS Z 8781-4:2013に従って自然光の透過率測定時に求められる値である。JIS Z 8781-4:2013に定められる物体色の表示方法は、国際照明委員会(略称:CIE)が定める物体色の表示方法に相当する。色度a*値及びb*値の測定は、測定試料(例えば、偏光フィルム又は偏光板)に自然光を照射して行われる。なお以下において、測定試料1枚について求められる色度a*値及びb*値は、色度a*-s、及びb*-s、測定試料2枚をその吸収軸方向が互いに平行となるように配置した平行位状態(白表示)について求められる色度a*値及びb*値は、a*-p、及びb*-p、測定試料の吸収軸を2枚直交するように配置した直交位状態(黒表示)について求められる色度a*値及びb*値はa*-c、及びb*-cと示す。
【0077】
本発明に係わる偏光フィルムや偏光板は、a*-s、及びb*-sの絶対値の各々が5.0以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましい。a*-p、及びb*-pの絶対値の各々が2.0以下であることが好ましい。このような偏光フィルムは単体で中性色であり、白表示時に高品位な白色を表示することができる。a*-p、及びb*-pの絶対値は、より好ましくは1.5以下であり、さらに好ましくは1.0以下である。さらに、偏光フィルムや偏光板は、a*-c、及びb*-cの絶対値の各々が20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、さらに3.0以下であることがより好ましく、特に好ましくは1.0以下である。このような偏光フィルムや偏光板は、黒表示時に無彩色の黒色を表示することができる。色度a*値及びb*値の絶対値に0.5の差があるだけでも人間は色の違いを知覚でき、人によっては色の違いを大きく感じることがある。このため偏光フィルムにおいてこれらの値を制御することは非常に重要である。特に、a*-p、及びb*-p、a*-c、及びb*-cの絶対値の値が各々1.0以下である場合には、白表示時の白色及び黒表示時の黒色にその他の色がほぼ確認できない良好な偏光板が得られる。平行位で無彩色性、すなわち高品位な紙のような白色を実現し、かつ直交位で無彩色な高級感のある明瞭な黒色を実現することができる。
【0078】
本発明の偏光フィルム又は偏光板は、高コントラスト及び高透過率を有しながら単体での無彩色性と高偏光度を有する。さらに本発明の偏光フィルムは、白表示時に高品位な紙のような白色(ペーパーホワイト)を表現することができ、さらに高コントラストであることから、黒表示時に無彩色な黒色、特に高級感ある明瞭な黒色を表現することができる。これまではこのような高透過率と無彩色性を兼ね備えた偏光フィルムや偏光板は存在していなかった。本発明の偏光フィルムや偏光板は、さらに高耐久性であり、特に高温及び高湿度に対する耐久性を有する。
【0079】
本発明で使用している化合物(1)~(2)はアゾ化合物であり、既知の通りアゾ化合物を用いた作製された偏光フィルム及び偏光板と同等に、耐環境性(例えば乾熱、湿熱、ヒートサイクル、キセノン光、カーボンアーク光等)に暴露されてもその偏光性能はヨウ素系偏光板よりも優れている。
【0080】
以下にポリビニルアルコール系樹脂から成るフィルム基材にアゾ化合物を吸着させ、偏光フィルム又は偏光板を作製する具体的な方法を説明する。なお本発明に係わる偏光フィルムの製造方法は以下に限定されるものではない。
【0081】
<原反フィルムの準備>
原反フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂を製膜することにより作製することができる。ポリビニルアルコール系樹脂は、特に限定されず、市販のフィルムを用いてもよいし、公知の方法で合成されたものを用いてもよい。ポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得ることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニル及びこれと共重合可能な他の単量体の共重合体などが例示される。酢酸ビニルに共重合する他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、及び不飽和スルホン酸類等が挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85~100モル%程度であることが好ましく、より好ましくは95モル%以上である。ポリビニルアルコール系樹脂は、さらに変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性したポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども使用できる。またポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、粘度平均重合度を意味し、当該技術分野において周知の手法によって求めることができ、通常1,000~10,000程度が好ましく、より好ましくは重合度1,500~6,000程度である。
【0082】
ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は特に限定されるものでなく、公知の方法で製膜することができる。この場合、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムには、可塑剤としてグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、低分子量ポリエチレングリコールなどが含有されていてもよい。可塑剤の量はフィルム全量中に好ましくは5~20質量%であり、より好ましくは8~15質量%である。原反フィルムの膜厚は特に限定されないが、例えば、5μm~150μm程度、好ましくは10μm~100μm程度である。
【0083】
<膨潤工程>
得られた原反フィルムに膨潤処理(フィルムを水溶液中に浸漬させる手法)を施す膨潤工程を実施する。膨潤処理は0~60℃の溶液に、原反フィルムを30秒から10分間、溶液に浸漬させる。使用する溶液は水が好ましく、水の温度は特に限定されないが20℃から50℃が好ましい。延伸倍率は1.00~1.50倍に調整することが好ましく、1.10~1.35倍に調整することがより好ましい。偏光フィルムを製造する時間を短縮する場合には、後述する染色処理時にも原反フィルムが膨潤するため膨潤処理を省略することもできる。膨潤工程は1段で延伸することができるが、2段以上の多段延伸により行うこともできる。
【0084】
<染色工程>
原反フィルムを膨潤処理して得られた樹脂フィルムにアゾ化合物を吸着及び含浸させる工程を染色工程と称する。膨潤工程を省略した場合には、染色工程において原反フィルムの膨潤処理を同時に行うことができる。アゾ化合物を吸着及び含浸させる処理は、樹脂フィルムに着色する工程であるため、染色工程としている。
【0085】
アゾ化合物としては、式(1)又は(2)で表されるアゾ化合物又はその塩、及びこれら以外の二色性染料をさらに用いることができる。また、「機能性色素の応用」((株)CMC出版、第1刷発行版、入江正浩監修、第98~100頁)などで例示される二色性染料であるアゾ化合物を、本願の偏光フィルムの性能が損なわれない程度に用いて色を調整してもよい。特に、二色性の高いものが好ましい。例えば、シー.アイ.ダイレクト.イエロー12、シー.アイ.ダイレクト.イエロー28、シー.アイ.ダイレクト.イエロー44、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ26、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ39、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ107、シー.アイ.ダイレクト.レッド2、シー.アイ.ダイレクト.レッド31、シー.アイ.ダイレクト.レッド79、シー.アイ.ダイレクト.レッド81、シー.アイ.ダイレクト.レッド247、シー.アイ.ダイレクト.グリーン80、シー.アイ.ダイレクト.グリーン59、及び特特許文献1~7に記載された有機染料等が挙げられる。これらの有機染料は遊離酸の他、アルカリ金属塩(例えばNa塩、K塩、Li塩)、アンモニウム塩、又はアミン類の塩として用いることができる。ただし二色性染料はこれらに限定されず公知の二色性染料を用いることができる。
【0086】
染色工程は、色素を原反フィルムに吸着及び含浸させる方法であれば特に限定されないが、例えば、原反フィルムを染色溶液に浸漬させることにより行うことが好ましく、樹脂フィルムに染色溶液を塗布することによって行うこともできる。染色溶液中の各アゾ化合物は、例えば0.001~10質量%の範囲内で調整することができる。
【0087】
この工程での染色溶液温度は、5~60℃が好ましく、20~50℃がより好ましく、35~50℃がさらに好ましい。溶液に浸漬する時間は適度に調節できるが、30秒から20分で調節するのが好ましく、1~15分がより好ましい。延伸倍率は1.00~3.00倍に調整することが好ましく、1.10~1.55倍に調整することがより好ましい。また延伸工程は一段延伸でもよいし、2段以上の多段延伸を適用してもよい。
【0088】
染色溶液は、アゾ化合物に加え、染色助剤を必要に応じてさらに含有してもよい。染色助剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、無水硫酸ナトリウム、及びトリポリリン酸ナトリウム等が挙げられる。染色助剤の含有量は、染料の染色性による時間及び温度によって任意の濃度で調整できるが、それぞれの含有量としては、染色溶液中に0.01~5質量%が好ましく、0.1~2質量%がより好ましい。
【0089】
<洗浄工程1>
染色工程後、次の工程に入る前に洗浄工程(以下、「洗浄工程1」とも称する。)を行うことができる。染浄工程1は、染色工程で原反フィルムの表面に付着した染色溶液を洗浄する工程である。洗浄工程1を行うことによって、次に処理する液中に染料が移行するのを抑制することができる。洗浄工程1では、洗浄液として一般的には水が用いられる。洗浄方法は、洗浄液に浸漬することが好ましいが、洗浄液を樹脂フィルムに塗布することによって洗浄することもできる。洗浄の時間は特に限定されないが、好ましくは1~300秒、より好ましくは1~60秒である。洗浄工程1での洗浄液の温度は、樹脂フィルムを構成する材料(例えば、親水性高分子、ここではポリビニルアルコール系樹脂)が溶解しない温度であることが必要となる。一般的には5~40℃で洗浄処理される。ただし、洗浄工程1の工程がなくとも性能には問題は出ないため、洗浄工程は省略することもできる。延伸倍率は1.00~3.00倍に調整することが好ましく、1.10~1.55倍である。また延伸工程は一段延伸でもよいし、2段以上の多段延伸を適用してもよい。
【0090】
<架橋剤及び/又は耐水化剤を含有させる工程>
染色工程又は洗浄工程1の後、架橋剤及び/又は耐水化剤を含有させる工程を行うことができる。原反フィルムに架橋剤及び/又は耐水化剤を含有させる方法は、処理溶液に浸漬することが好ましいが、処理溶液を樹脂フィルムに塗布又は塗工してもよい。処理溶液は、架橋剤及び/又は耐水化剤を少なくとも1種と溶媒とを含む。この工程での処理溶液の温度は、5~70℃が好ましく、5~50℃がより好ましい。この工程での処理時間は30秒~6分が好ましく、1~5分がより好ましい。延伸倍率は1.00~3.00倍に調整することが好ましく、1.10~1.55倍である。また延伸工程は一段延伸でもよいし、2段以上の多段延伸を適用してもよい。
【0091】
架橋剤としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂又はホウ酸アンモニウムなどのホウ素化合物、グリオキザール又はグルタルアルデヒド等の多価アルデヒド、ビウレット型、イソシアヌレート型又はブロック型等の多価イソシアネート系化合物、チタニウムオキシサルフェイト等のチタニウム系化合物等を用いることができるが、他にもエチレングリコールグリシジルエーテル、ポリアミドエピクロルヒドリン等を用いることができる。耐水化剤としては、過酸化コハク酸、過硫酸アンモニウム、過塩素酸カルシウム、ベンゾインエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、塩化アンモニウム又は塩化マグネシウム等が挙げられるが、好ましくはホウ酸が用いられる。架橋剤及び/又は耐水化剤のための溶媒としては、水が好ましいが特に限定さない。架橋剤及び/又は耐水化剤の含有濃度は、その種類に応じて当業者が適宜決定することができるが、ホウ酸を例にして示すと処理溶液中に濃度0.1~6.0質量%が好ましく、1.0~4.0質量%がより好ましい。ただし架橋剤及び/又は耐水化剤を含有させることが必須でなく、時間を短縮したい場合には、架橋処理又は耐水化処理が不必要な場合には、この処理工程を省略してもよい。
【0092】
<延伸工程>
染色工程、洗浄工程1、又は架橋剤及び/又は耐水化剤を含有させる工程を行った後に、延伸工程を行う。延伸工程は、原反フィルムを一軸方向に延伸することにより行う。延伸方法は湿式延伸法又は乾式延伸法のいずれでもよい。延伸倍率は3倍以上であることが好ましく、より好ましくは4~8倍であり、特に好ましくは5~7倍である。
【0093】
乾式延伸法の場合には、延伸加熱媒体が空気媒体の場合には、空気媒体の温度が常温から180℃で樹脂フィルムを延伸するのが好ましい。また、湿度は20~95%RHの雰囲気中とすることが好ましい。加熱方法としては、例えば、ロール間ゾーン延伸法、ロール加熱延伸法、圧延伸法、及び赤外線加熱延伸法等が挙げられるが、その延伸方法は限定されるものではない。延伸工程は1段で延伸することもできるが、2段以上の多段延伸により行うこともできる。
【0094】
湿式延伸法の場合には、水、水溶性有機溶剤、又はその混合溶液中で樹脂フィルムを延伸することが好ましい。架橋剤及び/又は耐水化剤を少なくとも1種含有する溶液中に浸漬しながら延伸処理を行うことが好ましい。架橋剤及び耐水化剤としては、架橋剤及び/又は耐水化剤を含有させる工程について上述したのと同じものを用いることができる。延伸工程での架橋剤及び/又は耐水化剤の溶液中の濃度は、例えば、0.5~15質量%が好ましく、2.0~8.0質量%がより好ましい。延伸温度は40~70℃で処理することが好ましく、45~60℃がより好ましい。延伸時間は通常30秒~20分であるが、2~5分がより好ましい。湿式延伸工程は1段で延伸することができるが、2段以上の多段延伸により行うこともできる。
【0095】
<洗浄工程2>
延伸工程を行った後には、樹脂フィルム表面に架橋剤及び/又は耐水化剤の析出、又は異物が付着することがあるため、樹脂フィルム表面を洗浄する洗浄工程(以下、「洗浄工程2」とも称する)を行うことができ、その洗浄時間は1秒~5分が好ましい。洗浄方法は、樹脂フィルムを洗浄液に浸漬することが好ましいが、溶液を樹脂フィルムに塗布又は塗工によって洗浄することもできるが、特に洗浄液として、水が好ましい。また、1段階で洗浄処理することもできるし、2段階以上の多段処理をすることもできる。洗浄工程の溶液温度は、特に限定されないが通常5~50℃、好ましくは10~40℃である。
【0096】
ここまでの処理工程で用いる処理液又はその溶媒としては、水の他、例えば、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール又はトリメチロールプロパン等のアルコール類、エチレンジアミン及びジエチレントリアミン等のアミン類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。処理液又はその溶媒は、最も好ましくは水である。また、これらの処理液又はその溶媒は、1種単独で用いることもできるが、2種以上の混合物を用いることもできる。
【0097】
延伸工程又は洗浄工程2の後には、樹脂フィルムの乾燥工程を行う。乾燥工程は、自然乾燥により行うことができるが、より乾燥効率を高めるためにはロールによる圧縮やエアーナイフ、又は吸水ロール等による表面の水分除去等により行うことができ、及び/又は送風乾燥により行うこともできる。乾燥処理温度としては、20~100℃で乾燥処理することが好ましく、60~100℃で乾燥処理することがより好ましい。乾燥処理時間は例えば30秒~20分であるが、5~10分であることが好ましい。
【0098】
偏光フィルムの作製方法では、膨潤工程における原反フィルムの膨潤度、染色工程における各アゾ化合物の配合比、染色溶液の温度、pH、塩化ナトリウムや芒硝、トリポリリン酸ナトリウム等の塩の種類やその濃度、及び染色時間、並びに延伸工程における延伸倍率や延伸速度は、偏光フィルムが以下の(i)~(iv)の条件の少なくとも1つを満たすように調整することが好適であり、(v)及び(vi)の条件をさらに満たすように調整することがより好適である。
(i)平行位透過率について、420nmから480nmの平均透過率と520nmから590nmの平均透過率との差の絶対値が2.0以下となり、520nmから590nmの平均透過率と、600nmから640nmの平均透過率との差の絶対値が2.0以下となる。
(ii)直交位透過率について、420nmから480nmの平均透過率と520nmから590nmの平均透過率との差の絶対値が10以下となり、520nmから590nmの平均透過率と600nmから640nmの平均透過率との差の絶対値が2.0以下となる。
(iii)単体透過率が35%から65%となる。
(iv)a*値及びb*値の絶対値の各々が、偏光フィルム単体でともに2.0以下となり、平行位でともに2.0以下となり、さらに直交位でも2.0以下となる。
(v)平行位透過率について、520nmら590nmの平均透過率が25~45%となる。
(vi)380nmから420nmの平均透過率と420nmから480nmの平均透過率との差が15%以下、480nmから520nmの平均透過率と420nmから480nmの平均透過率との差が15%以下、480nmから520nmの平均透過率と520nmら590nmの平均透過率と差が15%以下、及び/又は640nmから780nmの平均透過率と600nmから640nmの平均透過率との差が20%以下となる。
【0099】
以上の方法により、式(1)又は(2)で表されるアゾ化合物及びこれら以外のアゾ化合物の組み合わせを少なくとも含有する偏光フィルムを製造することができる。本発明の偏光フィルムは、従来の偏光フィルムより高い透過率及び高い偏光度を有しながらも、偏光フィルム2枚を吸収軸方向が平行になるように重ねて配置した際に高品位な紙のような白色を表現でき、かつ、単体で中性色(ニュートラルグレー)を有する色相であり、かつ、高コントラストな偏光フィルム及び偏光板を作製できる。また、偏光板は高温及び高湿度に対して耐久性が高い。
【0100】
本発明に係る偏光板は、偏光フィルムの耐水性や取扱性の向上等を目的として、片面又は両面に透明保護層を備える。
【0101】
透明保護層は、透明物質を用いて形成された保護フィルムである。保護フィルムは、偏光フィルムの形状を維持できる層形状を有するフィルムであり、透明性や機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性等に優れるプラスチック等が好ましい。これと同等な層を形成することで同等な機能を設けることでもよい。保護フィルムを構成するプラスチックの一例としては、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びアクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系及びシリコーン系等の熱硬化性樹脂又は紫外線硬化性樹脂などから得られるフィルムが挙げられ、これらのうちポリオレフィン系樹脂としては、非晶性ポリオレフィン系樹脂であってノルボルネ系モノマー又は多環状ノルボルネン系モノマーのような環状ポリオレフィンの重合単位を有する樹脂が挙げられる。一般的に、保護フィルムをラミネートした後に偏光フィルムの性能を阻害しない保護フィルムを選択することが好ましく、そのような保護フィルムとして、セルロースアセテート系樹脂よりなるトリアセチルセルロース(TAC)及びノルボルネンが特に好ましい。また、保護フィルムは、本発明の効果を損なわない限り、ハードコート処理や、スティッキングの防止や拡散、又はアンチグレアやアンチリフレクション等の反射防止処理を目的とした処理を施したものであってもよい。
【0102】
本発明の偏光板は、透明保護層と偏光フィルムとの間に、透明保護層を偏光フィルムと貼り合わせるための接着剤層をさらに備えることが好ましい。接着剤層を構成する接着剤としては特に限定されないが、ポリビニルアルコール系接着剤が好ましい。ポリビニルアルコール系接着剤として、例えば、ゴーセノールNH-26(日本合成社製)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。接着剤には、架橋剤及び/又は耐水化剤を添加することができる。ポリビニルアルコール系接着剤としては、無水マレイン酸-イソブチレン共重合体を用いることが好ましく、必要により架橋剤を混合した接着剤を用いることができる。無水マレイン酸-イソブチレン共重合体としては、例えば、イソバン#18(クラレ社製)、イソバン#04(クラレ社製)、アンモニア変性イソバン#104(クラレ社製)、アンモニア変性イソバン#110(クラレ社製)、イミド化イソバン#304(クラレ社製)、及びイミド化イソバン#310(クラレ社製)等が挙げられる。その際の架橋剤には水溶性多価エポキシ化合物を用いることができる。水溶性多価エポキシ化合物としては、例えば、デナコールEX-521(ナガセケムテック社製)及びテトラット-C(三井ガス化学社製)等が挙げられる。また、ポリビニルアルコール系樹脂以外の接着剤として、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系といった公知の接着剤を用いることもできる。特に、アセトアセチル基変性されたポリビニルアルコールを用いることが好ましく、さらにはその架橋剤として、多価アルデヒドを用いることが好ましい。また、接着剤の接着力の向上又は耐水性の向上を目的として、亜鉛化合物、塩化物、及びヨウ化物等の添加物を単独で又は同時に0.1~10質量%程度の濃度で含有させることもできる。接着剤への添加物は、特に限定されず、当業者が適宜選択することができる。透明保護層と偏光フィルムとを接着剤で貼り合せた後、適切な温度で乾燥又は熱処理を行うことによって偏光板を得ることができる。
【0103】
本発明の偏光板は場合によって、例えば液晶表示装置(透過型、半透過型、反射型、直視型等を含む)、有機エレクトロルミネッセンス(OLED又はOEL、有機EL)等の表示装置に貼り合わせる場合、後に非露出面となる保護層又はフィルムの表面に視野角改善及び/又はコントラスト改善のための各種機能性層、輝度向上性を有する層又はフィルムを設けることもできる。各種機能性層は、例えば位相差を制御する層又はフィルムである。偏光板はこれらのフィルムや表示装置に粘着剤により貼り合わされることが好ましい。
【0104】
本発明の偏光板は、保護層又はフィルムの露出面に、反射防止層、防眩層、及びハードコート層等の公知の各種機能性層を備えていてもよい。この各種機能性を有する層を作製するには塗工方法が好ましく、その機能を有するフィルムを接着剤又は粘着剤を介して貼合せる
こともできる。
【0105】
本発明の偏光板は、高い透過率及び高い偏光度を有しながらも無彩色性を実現することができ、特に白表示時に高品位な紙のような白色を表現でき、かつ、高コントラストを表現し得る、高耐久性の偏光板である。
【0106】
本発明の偏光フィルム又は偏光板は、必要に応じて保護層又は機能層及びガラス、水晶、サファイア等の透明な支持体等を設け、液晶プロジェクター、電卓、時計、ノートパソコン、ワープロ、液晶テレビ、偏光レンズ、偏光メガネ、カーナビゲーション、及び屋内外の計測器や表示器等に適用される。特に、本発明の偏光フィルム又は偏光板は、液晶表示装置、例えば、反射型液晶表示装置、半透過液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス等に好適に用いられる。本発明の偏光フィルム又は偏光板を用いた液晶表示装置は、高品位な紙のような白色及び高コントラストを表現することができる。さらに、当該表示装置は、高耐久性を有し信頼性が高く、長期的に高コントラストで、かつ、高い色再現性を有する表示装置になる。
【0107】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0108】
[実施例1]
(偏光膜の作製)
ケン化度99%以上のポリビニルアルコールフィルム(PVAフィルム:クラレ社製:商品名:VF-PE)を35℃の温水に1分浸漬し、膨潤処理を施し延伸倍率を1.20倍とした。水を1500質量部、トリポリリン酸ナトリウムを1.5質量部、無水芒硝を1.5質量部、式(1)の化合物として化合物例1-12を0.5質量部、化合物例(2)として化合物例2-84を0.3質量部、その他に特許文献国際公開第2019117131号公報に記載の化合物例(1-10)で示される二色性染料を0.5質量部含有した48℃の染色液に、膨潤したフィルムを600秒間浸漬して、フィルムにアゾ化合物を含有させつつ、延伸倍率を1.30倍とした。染色工程を施したフィルムを洗浄し、その後得られたフィルムをホウ酸(SocietaChimicaLarderellos.p.a.社製)20g/Lを含有した40℃の水溶液に1分浸漬し、延伸倍率を1.2倍とした。浸漬後のフィルムに水洗処理を施したのち、6.0倍に延伸しながら、ホウ酸30.0g/Lを含有した58℃の水溶液中で5分間の延伸処理を行った。得られたフィルムの緊張状態を保ちつつ、25℃の水に15秒間浸漬させ、洗浄処理をした。洗浄後のフィルムを70℃で3分間乾燥させ、偏光フィルムを得た。この偏光フィルムを実施例1の測定試料とした。
【0109】
[実施例2~8]
実施例2~8において、染色工程における浸漬時間を300秒~660秒の範囲で透過率を調整した以外は実施例と1同様の手順操作にて、偏光フィルムを作製した。
【0110】
[比較例1]
実施例1の式(1)の化合物として使用した化合物例1-12を、特許文献国際公開第2017146212号公報の実施例6に記載の式(1-A-14)で示されているアゾ化合物に変える以外は、実施例1と同じ組成とし、染色工程における浸漬時間を720秒へ変更した以外は、実施例1と同様の手順操作にて、偏光フィルムを作製した。
【0111】
[比較例2~6]
比較例2~6において、染色工程における浸漬時間を330秒~660秒の範囲で透過率を調整した以外は実施例1と同様の手順操作にて、偏光板を作製した。
【0112】
[評価]
実施例1~8及び比較例1~6で得られた偏光膜の評価を次のようにして行った。
【0113】
<偏光平行透過率(Ky)、及び偏光直交透過率(Kz)>
偏光フィルムの極大吸収波長、偏光平行透過率(Ky)及び偏光直交透過率(Kz)を、分光光度計(日立製作所社製 UH-4150)を用いて測定した。ここでKyとは、絶対偏光子の吸収軸と偏光フィルムの吸収軸を平行に重ね合わせて設置した際の透過率であり、Kzとは、絶対偏光子の吸収軸と偏光フィルムの吸収軸を直交に重ね合わせて設置した際の透過率を示す。各波長の偏光平行透過率Ky及びKzは380nm~780nmにおいて、1~10nmの波長間隔で測定した。
【0114】
<単体透過率(Ts)、平行透過率(Tp)、直交透過率(Tc)>
単体透過率(Ts)とは偏光フィルム1枚時の分光透過率を示し、平行透過率(Tp)とは偏光膜2枚の吸収軸を平行に重ね合わせて設置した際の分光透過率を示し、直交透過率(Tc)とは偏光フィルム2枚の吸収軸を直交に重ね合わせて設置した際の分光透過率を表す。測定により得られた極大吸収波長時のKy、及び、Kzより、下記計算式(I)~(III)にて算出した。
Ts(%)=(Ky+Kz)/2 計算式(I)
Tp(%)=(Ky+Kz)/200 計算式(II)
Tc(%)=(Ky×Kz)/100 計算式(III)
【0115】
<単体透過率(Ys)、平行位透過率(Yp)、直交位透過率(Yc)>
各測定試料の視感度補正後の単体透過率(Ys(%))、視感度補正後の平行位透過率(Yp(%))、および視感度補正後の直交位透過率(Yc(%))をそれぞれ求めた。Ys、Yp、およびYcは、380~780の波長領域で1~10nmの波長間隔で求めた各波長のTs、Tp、及びTcのそれぞれについて、JISZ8722:2009に従って視感度に補正した透過率である。具体的には、計算式(I)~(III)から得られた単体透過率Ts、波長の平行位透過率Tp、および各波長の直交位透過率Tcを、下記式(IV~VI)に代入して、それぞれ算出した。なお、下記式(IV~VI)中、Pλは標準光(C光源)の分光分布を表し、yλは2度視野等色関数を表す。
【0116】
<コントラスト(CR)>
視感度補正後の平行位透過率Ypと視感度補正後の直交位透過率Ycとの比(Yp/Yc)を算出することにより、コントラスト(CR)を求めた。
【0117】
<視感度補正後の偏光度ρy>
各測定試料の視感度補正後の偏光度ρyを、下記式(VII)に、視感度補正後の平行位透過率Ypおよび視感度補正後の直交位透過率Ycを代入して求めた。
【0118】
<視感度補正後の二色比(Rd)>
各測定試料の視感度補正後の二色比Rdは視感度補正後のYsとYcを下記式(VIII)、(IX)へ代入し、Ky、Kzへ変換後、計算で得られたKy、Kzを下記式(X)へ値を代入し、二色比Rdを求めた。
【0119】
各測定試料について、JISZ8781-4:2013に従って、単体透過率Ts測定時及び平行位透過率Tp測定時の各々における色度a*値及びb*値を測定した。測定には、上記の分光光度計を使用し、透過色、反射色共に室外側から入射して測定した。光源には、C光源を用いた。ここで、a*-sとb*-s、a*-pとb*-p及び、a*-cとb*-cは単体透過率Ts、平行位透過率Tp、及び、直交位透過率Tcのそれぞれの測定時における色度a*値及びb*値にそれぞれ対応する。
【0120】
表1に得られた実施例1~8、比較例1~6の試料各々のYs、Yp、Yc、CR、ρy、Rdを示した。
【0121】
【表1】
【0122】
表1のように、実施例1~8で作製した偏光フィルムは、比較例1~6で作製した偏光フィルムに比べ、高い光学特性(ρy、Rd)を示した。同等なYsを有する実施例1と比較例1を比べると、実施例1の偏光フィルムは比較例1の偏光フィルムより二色比が1程度増加しており、さらにコントラストが800程度向上していることがわかる。同様に実施例5と比較例5を比べても、二色比やコントラストが増加している。実施例と比較例にて、近しいYsを有する偏光フィルムを比較したとしても、本発明品(実施例1~8)の偏光フィルムの光学特性は優れていることがわかる。
【0123】
表2に得られた実施例1~8、比較例1~6試料各々の色度a*、b*の結果を示した。
【0124】
【表2】
【0125】
表2で作製した実施例1~8、比較例1~6の色度を見ると、a*-s、b*-sは5.0以下であり、a*-p、b*-pは2.0以下であり、さらにa*-c、b*-cは2.0以下であることがわかる。よって作製した全ての偏光フィルムの色相は高品位なペーパーホワイトかつニュートラルグレーな無彩色偏光フィルムであると言える。併せて表1で示したように、実施例1~8の偏光フィルムは光学特性も優れていることより、高い光学特性を有している無彩色偏光フィルムであることが言える。
【0126】
表3、4に得られた実施例1~8、比較例1~6試料各々のTpとTcの420~480nm、520~590nm、600~640nmの平均値の値を示した。
【0127】
【表3】
【0128】
【表4】
【0129】
表5、6に実施例1~8、比較例1~6の試料のTpとTcの520~590nmの平均値とTpとTcの420~480nm、600~640nmの平均値の差の絶対値を示した。
【表5】
【0130】
【表6】
【0131】
表5より、実施例1~8、比較例1~6の測定試料のTpは、420~480nmにおける平均値と、520~590nmにおける平均値との差の絶対値が1.5以下であり、かつ、520~590nmにおける平均値と、600~640nmにおける平均値との差の絶対値が2.0以下であり、Tpは可視領域にてフラットな透過率を有していることがわかるが、実施例と比較例で差は殆ど生じなかった。
一方表6より、実施例1~8、比較例1~5の測定試料のTcは420~480nmにおける平均値と、520~590nmにおける平均値との差の絶対値が0.5以下であり、かつ、520~590nmにおける平均値と、600~640nmにおける平均値との差の絶対値が0.5以下であったのに対し、比較例6は0.5を超えていた。実施例2では420~480nmにおける平均値と、520~590nmにおける平均値との差の絶対値が0.056であり、かつ、520~590nmにおける平均値と、600~640nmにおける平均値との差の絶対値が0であったのに対し、比較例4では、420~480nmにおける平均値と、520~590nmにおける平均値との差の絶対値が0.296であり、かつ、520~590nmにおける平均値と、600~640nmにおける平均値との差の絶対値が0.01と、Tc透過率で顕著に差が生じた。
【0132】
以上より、実施例1~8の偏光フィルムは、単体透過率及び平行位透過率の高い値を維持しつつも、平行位で高品位な紙のような白色を表現でき、かつ、単体で中性色(ニュートラルグレー)を有する色相であることが示された。さらに、実施例1~8の偏光フィルムは、高い透過率を維持し、平行位、直交位で無彩色性を発現していることに加えて、高い光学特性も兼ね備えていることが分かる。
【0133】
(偏光板の作製)
実施例1~8及び比較例1~6の偏光フィルムの両面にポリビニルアルコール水溶液の接着剤を介してトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム:富士フィルム社製:商品名TD-80U)でラミネートし、TAC/偏光膜/TACの順に積層された染料系偏光板(ニュートラルグレー偏光板)を得た。得られたニュートラルグレー偏光板の片面に粘着剤を用いてガラスへ貼付し、TAC/偏光膜/TAC/ガラスがこの順に積層された偏光板測定試料を作製した。
【0134】
得られた偏光板試料を環境温度105℃の条件下で500時間経過後、また環境温度80℃・相対湿度90%での条件下で500時間経過後も単体平均透過率に変化がなく、高温且つ高湿の状態でも長時間にわたる耐久性を示した。さらに、実施例1~8の試料を、キセノン耐光試験(スガ試験機社製 SX-75)にて60W、環境温度50℃の条件で200時間経過後でも単体平均透過率に変化がなく、光への長時間暴露に対する耐光性も優れていた。
これらの結果から、本願化合物を用いて作成した実施例1~8の無彩色を有する偏光板は優れた偏光性能を有し、かつ、耐久性(耐湿性、耐熱性、耐光性)を有する高性能な染料系偏光板であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の二色性染料を用いた偏光フィルム及びその偏光板は、必要に応じて保護層又は機能層およびガラス、水晶、サファイア等の透明な支持体等を設け、液晶プロジェクター、電卓、時計、ノートパソコン、ワープロ、液晶テレビ、偏光レンズ、偏光メガネ、カーナビゲーション、及び屋内外の計測器や表示器等に適用される。特に、本発明の偏光フィルム又は偏光板は、液晶表示装置、例えば、反射型液晶表示装置、半透過液晶表示装置、および液晶表示装置以外でも有機エレクトロルミネッセンス等に好適に用いることができる。