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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031588
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】車両用自動変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20240229BHJP
   F16H 59/78 20060101ALI20240229BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240229BHJP
   F16H 63/48 20060101ALI20240229BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/78
B60T7/12 A
F16H63/48
F16H63/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135239
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】中野 秀哉
(72)【発明者】
【氏名】太田 知介
(72)【発明者】
【氏名】橘田 祐也
(72)【発明者】
【氏名】山岸 亮平
【テーマコード(参考)】
3D246
3J552
【Fターム(参考)】
3D246DA02
3D246EA02
3D246EA12
3D246HA26A
3D246HA39A
3D246JB03
3D246JB32
3J552MA02
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA59
3J552QA13C
3J552QA26C
3J552RA29
3J552RB02
3J552RC01
3J552RC03
3J552SB03
3J552UA02
3J552VA32W
3J552VA37W
3J552VA44W
3J552VA48W
3J552VA63W
3J552VC01W
3J552VC07W
3J552VC09W
(57)【要約】
【課題】比較的に簡易な自動変速機の制御によってエンジンの負荷を意図的に上げてエンジンの効果的な暖機を行うことが可能な車両用自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンの出力軸と自動変速機の入力軸との間に設けたトルクコンバータと、自動変速機を制御する制御手段と、を備え、自動変速機は、回転要素同士の係合・非係合を切り替える一又は複数のクラッチと回転要素と固定要素との係合・非係合を切り替える一又は複数のブレーキの少なくともいずれかを含む係合機構を備え、制御手段は、車両の停車中にエンジンの暖機要求があると判断した場合に、係合機構の係合・非係合を制御することで、出力部材には駆動力が伝達されず、かつ、入力軸が固定された状態とする停車時エンジン暖機制御を行う。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源であるエンジンと、
入力軸に入力された前記エンジンの駆動力による回転を変速して出力部材に出力する自動変速機と、
前記エンジンの出力軸と前記自動変速機の入力軸との間に設けたトルクコンバータと、
前記自動変速機を制御する制御手段と、を備え、
前記自動変速機は、前記自動変速機内で回転可能な回転要素および前記自動変速機内で固定された固定要素と、前記回転要素同士の係合・非係合を切り替える一又は複数のクラッチと前記回転要素と前記固定要素との係合・非係合を切り替える一又は複数のブレーキの少なくともいずれかを含む係合機構と、を備え、
前記制御手段は、前記車両の停車中に前記エンジンの暖機要求があると判断した場合に、前記係合機構の係合・非係合を制御することで、前記出力部材には駆動力が伝達されず、かつ、前記入力軸が固定された状態とする停車時エンジン暖機制御を行う
ことを特徴とする車両用自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記自動変速機の前記出力部材と前記車両の駆動輪との間に設けられて前記駆動輪を固定可能なパーキングロック機構を備え、
前記制御手段は、前記停車時エンジン暖機制御を行う際、前記パーキングロック機構を制御して前記駆動輪を固定した状態とする
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記トルクコンバータは、前記エンジンの出力軸と前記自動変速機の前記入力軸とを直結させるためのロックアップクラッチを備えたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータであり、
前記制御手段は、前記停車時エンジン暖機制御を行う際、前記ロックアップクラッチをスリップ状態で係合させる
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記自動変速機は、変速段を前進変速段から後進変速段に切り替える際に後進変速段準備処理の設定が可能であり、
前記停車時エンジン暖機制御において係合させる前記係合機構は、前記後進変速段準備処理において係合させる前記係合機構と同じ係合機構である
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、車両起動時に触媒温度が所定以下の場合に、前記車両の停車中に前記エンジンの暖機要求があると判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される車両用自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両の動力伝達装置には、エンジンなどの駆動源から入力軸に入力される回転を変速して出力軸へと伝達する自動変速機が設けられている。この自動変速機は、一般的には、遊星ギヤ機構と、クラッチやブレーキなどの係合機構を備えており、係合機構によって動力伝達経路を切り替えることによって各変速段を確立するようにしている。
【0003】
ところで、近年、地球環境上の悪影響を軽減するために自動車の排気ガス規制が一段と進んでいる。そのため、駆動源としてのエンジン(内燃機関)を搭載した車両では、エミッションを低減する目的でエンジンを効率よく暖機する必要がある。そのための方策として、例えば特許文献1に示す手法では、エンジンの出力軸に繋がるクラッチを滑らせる制御を行うことで、エンジン負荷を意図的に増加させている。しかしながら、特許文献1の手法では、クラッチを滑らせる制御を行うため、クラッチ板の摩耗の問題があり、また、制御が複雑化するという問題もある。さらに、当該制御の実施により車両が動く可能性があるため、車両を制動するためのブレーキ制御が更に必要となる。また、駆動輪への伝達トルクを減少させるために高速段のギヤを選択した状態で制御を行う必要があり、その点でも制御の複雑化につながるおそれがある。また、特許文献2、3では、エンジン自体の制御パラメータを変更することでエンジンの暖機時間の短縮化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-255806号公報
【特許文献2】特開2006-46341号公報
【特許文献3】特開平8-258594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、比較的に簡易な自動変速機の制御によってエンジンの負荷を意図的に上げてエンジンの効果的な暖機を可能とすることで、エミッションの効果的な低減を図ることができ、地球環境上の悪影響の防止に寄与できる車両用自動変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、車両の駆動源であるエンジン(EG)と、入力軸(10)に入力されたエンジン(EG)の駆動力による回転を変速して出力部材(11)に出力する自動変速機(1)と、エンジン(EG)の出力軸(2)と自動変速機(1)の入力軸(10)との間に設けたトルクコンバータ(TC)と、自動変速機(1)を制御する制御手段(100)と、を備え、自動変速機(1)は、自動変速機(1)内で回転可能な回転要素(3)および自動変速機(1)内で固定された固定要素(4)と、回転要素(3)同士の係合・非係合を切り替える一又は複数のクラッチ(C1,C2,C3)と回転要素(3)と固定要素(4)との係合・非係合を切り替える一又は複数のブレーキ(B1,B2,B3,F1)の少なくともいずれかを含む係合機構(5)と、を備え、制御手段(100)は、車両の停車中にエンジン(EG)の暖機要求があると判断した場合に、係合機構(5)の係合・非係合を制御することで、出力部材(11)には駆動力が伝達されず、かつ、入力軸(10)が固定された状態とする停車時エンジン暖機制御を行うことを特徴とする。
【0007】
本発明にかかる車両用自動変速機の制御装置では、車両の停車中にエンジンの暖機要求があると判断した場合に、自動変速機の係合機構の係合・非係合を制御することで、出力部材には駆動力が伝達されず、かつ、入力軸が固定された状態とする停車時エンジン暖機制御を行うので、車両の停車状態を維持しまま入力軸を固定してトルクコンバータをストール状態にすることができ、エンジンに意図的な負荷を与えてエンジンの暖機を行うことができる。そして、この停車時エンジン暖機制御は、自動変速機が備える係合機構の係合・非係合を制御するだけの比較的に簡単な制御で行うことができるので、制御や構成の複雑化につながるおそれがない。また、停車時エンジン暖機制御では、出力部材には駆動力が伝達されないので、車両の停車状態を確実に維持することができ、車両の停車中にエンジンの暖機が必要となった際に実行することが可能な制御となる。
【0008】
また、本発明の停車時エンジン暖機制御によれば、エンジンに負荷を与えることによってエンジン自体を暖機することができるだけでなく、トルクコンバータがストール状態となることで、トルクコンバータや自動変速機を流通する作動油(ATF)の油温をより早期に昇温することが可能となる。したがって、エンジンのみでなくトルクコンバータや自動変速機を含む車両の駆動システム全体の効果的な暖機を行うことができる。
【0009】
また、上記の本発明では、自動変速機(1)の出力部材(11)と車両の駆動輪(H)との間に設けられて駆動輪(H)を固定可能なパーキングロック機構(140)を備え、制御手段(100)は、停車時エンジン暖機制御を行う際、パーキングロック機構(140)を制御して駆動輪(H)を固定した状態としてもよい。
【0010】
この構成によれば、停車時エンジン暖機制御を行う際、パーキングロック機構を制御して駆動輪を固定した状態とすることで、車両を確実に停車状態として停車時エンジン暖機制御を行うことができる。そのうえ、停車時エンジン暖機制御では、出力部材には駆動力が伝達されないので、固定状態のパーキングロック機構にも駆動力が伝わらずに済むことで、パーキングロック機構による固定を解除した際に振動や騒音などのショックが生じることを抑制しながらエンジンの暖機を行うことが可能となる。
【0011】
また、上記の本発明では、トルクコンバータ(TC)は、エンジン(EG)の出力軸(2)と自動変速機(1)の入力軸(10)とを直結させるためのロックアップクラッチ(LC)を備えたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ(TC)であり、制御手段(100)は、停車時エンジン暖機制御を行う際、ロックアップクラッチ(LC)をスリップ状態で係合させるようにしてもよい。
【0012】
この構成によれば、停車時エンジン暖機制御を行う際、ロックアップクラッチをスリップ状態で係合させることで、エンジンにより大きな負荷を与えることが可能となるので、エンジンをより短時間で効果的に暖機することが可能となる。また、トルクコンバータを含む自動変速機の早期の昇温が可能となるので、車両の駆動システム全体のより効果的な暖機を行うことができる。
【0013】
また、上記の本発明では、自動変速機(1)は、変速段を前進変速段から後進変速段に切り替える際に後進変速段準備処理の設定が可能であり、停車時エンジン暖機制御において係合させる係合機構(5)は、後進変速段準備処理において係合させる係合機構(5)と同じ係合機構(C1,C3,B3)であってよい。
【0014】
この構成によれば、停車時エンジン暖機制御において係合させる係合機構は、後進変速段準備処理において係合させる係合機構と同じ係合機構であることで、制御装置は、車両の停車中にエンジンの暖機要求があると判断した場合に、自動変速機の係合機構の係合・非係合を後進変速段準備処理と同じ状態に制御することでエンジンの暖機を行うことができる。したがって、制御の簡素化・容易化を図ることができる。
【0015】
また、上記の本発明では、制御手段(100)は、車両起動時に触媒温度が所定以下の場合に、車両の停車中にエンジンの暖機要求があると判断してよい。
【0016】
この構成によれば、車両起動時に触媒温度が所定以下の場合に、車両の停車中にエンジンの暖機要求があると判断することで、エンジンの暖機が必要な状況を適切に判断して停車時エンジン暖機制御を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、比較的に簡易な自動変速機の制御によってエンジンの負荷を意図的に上げてエンジンの効果的な暖機を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】車両用自動変速機の基本構成を示すスケルトン図である。
図2】車両用自動変速機における各係合機構の係合表を示す図である。
図3】車両用自動変速機の各遊星ギヤ機構のギヤレシオの一例を示す図である。
図4】車両用自動変速機の共線図(速度線図)である。
図5】本発明に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
図6】油圧センサの配置例を示す図である。
図7】後進(リバース)段の設定時の各係合機構の係合動作を示す図である。
図8】停車時エンジン暖機制御における自動変速機の状態を説明するための概略図である。
図9】停車時エンジン暖機制御における自動変速機の状態を示すスケルトン図である。
図10】停車時エンジン暖機制御を実施する際の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
[車両用自動変速機]
<車両用自動変速機の基本構成>
まず、本発明に係る制御装置を備える車両用自動変速機(以下、単に「自動変速機」と称する)の基本構成を図1に基づいて以下に説明する。
【0021】
図1は自動変速機1の基本構成を示すスケルトン図である。図示の自動変速機1は、変速機ケースを構成するケーシング12内に回転可能に支持された入力軸10と、入力軸10と同軸回りに回転可能に配置された出力部材(出力軸)11とを備えている。ここで、出力部材11は、ケーシング12に支持された支持部材12aによって回転可能に支持されている。
【0022】
出力部材11の回転は、出力部材11と噛合するアイドルギヤ121と、アイドルギヤ121を軸支するアイドル軸123と、アイドル軸123に軸支されるファイナルドライブギヤ125と、ファイナルドライブギヤ125に噛合するファイナルドリブンギヤ127を備えるデファレンシャルギヤ(図示せず)とを介して車両の駆動輪H(図8参照)に伝達される。
【0023】
また、本実施形態の自動変速機1は、パーキングロック機構140を備えている。アイドル軸123には、パーキングロック機構140のパーキングギヤ142が一体回転するように固定されている。パーキングギヤ142の近傍には、支軸144aに枢支されたパーキングポール144が配置されている。パーキングポール144のパーキングギヤ142側の端部には、係合爪146が設けられている。この係合爪146がパーキングギヤ142と係合することにより、アイドル軸123を介して駆動輪が回転不能となる状態(パーキングロック状態)となる。パーキングポール144は、係合爪146がパーキングギヤ142から離脱する方向に離脱スプリング148で付勢されている。
【0024】
パーキングポール144の他方端には、カム150が進退自在に配置されている。カム150が前進することにより、パーキングポール144は離脱スプリング148の付勢力に抗して揺動し、係合爪146がパーキングギヤ142に係合される。カム150が後退することにより、パーキングポール144は離脱スプリング148の付勢力で元の位置に戻り、係合爪146とパーキングギヤ142との係合が解除される。
【0025】
カム150には、リンク152を介してパーキングピストン154が接続されている。パーキングピストン154は油圧によって自身の軸方向へ移動自在に構成されている。そして、パーキングピストン154が軸方向へ移動することにより、リンク152を介してカム150が進退動作を行うように構成されている。
【0026】
入力軸10は、駆動源であるエンジンEGからの駆動力が入力されるが、この入力軸10とエンジンEGとの間には、流体継手型のトルクコンバータTCが設けられている。トルクコンバータTCにはエンジンEGの出力軸2と自動変速機1の入力軸10とを直結させるためのロックアップクラッチLCが付帯している。エンジンEGからの駆動力は、トルクコンバータTCを介して入力軸10に伝達され、この駆動力によって入力軸10が所定の速度で回転駆動される。
【0027】
自動変速機1は、筐体としてのケーシング12内に、変速機構として4つの遊星ギヤ機構P1,P2,P3,P4と、回転要素同士の係合・非係合を切り替えるための係合機構である3つのクラッチC1,C2,C3と、回転要素と固定要素との係合・非係合を切り替えるための係合機構である3つのブレーキB1,B2,B3、および1つの機械式係合機構F1を備えている。ここで、本実施の形態においては、4つの遊星ギヤ機構P1~P4は、何れもシングルピニオン型を採用するものであって、これらの遊星ギヤ機構P1~P4によって入力軸10の回転が変速されて出力部材11へと伝達される。すなわち、係合機構を構成するクラッチC1~C3とブレーキB1~B3および機械式係合機構F1は、遊星ギヤ機構P1~P4における駆動力の伝達経路を切り替えて複数の変速段(本実施の形態では、前進10段、後進1段)を確立する。
【0028】
4つの遊星ギヤ機構P1~P4は、サンギヤS1~S4と、リングギヤR1~R4と、サンギヤS1~S4とリングギヤR1~R4に噛合するピニオンギヤ(遊星ギヤ)を回転可能に支持するキャリアCr1~Cr4を複数(計12個)の回転要素としてそれぞれ備えており、これらは入力軸10と同軸上に配設されている。
【0029】
係合機構を構成する各3つのクラッチC1~C3とブレーキB1~B3を係合状態(締結状態)または係合解除状態(開放状態)に切り替え、機械式係合機構F1の状態を切り替えることによって、入力軸10から出力部材11への動力伝達経路が切り替えられて複数の変速段が確立される。なお、本実施の形態では、クラッチC1~C3とブレーキB1~B3には、何れも油圧式摩擦係合機構が用いられており、この油圧式摩擦係合機構としては、乾式または湿式の単板或いは多板クラッチ或いは単板或いは多板ブレーキが用いられている。
【0030】
また、機械式係合機構F1は、所定の回転要素(本実施の形態では、互いに連結されているキャリアCr1とCr2)とケーシング12との間に設けられている。この機械式係合機構F1は、所定の回転要素(キャリアCr1とCr2)の一方向の回転のみを規制し逆方向の回転を許容する「一方向回転許容状態」(ワンウェイクラッチ(OWC)状態)と、その双方向の回転を規制する「回転阻止状態」(ツーウェイクラッチ(TWC)状態)とに切り替え可能である。
【0031】
ここで、上記「一方向回転許容状態」とは、いわゆるワンウェイクラッチ(OWC)と同じ機能となる状態であり、回転方向の一方では駆動伝達し、他方向では空転させる状態である。本実施の形態では、機械式係合機構F1は、ブレーキとして機能するため、以下、この機械式係合機構F1を「ブレーキF1」と称する。このブレーキF1が「一方向回転許容状態」にある場合には、所定の回転要素(キャリアCr1とCr2)の一方向の回転のみが許容される状態となる。
【0032】
また、上記「回転阻止状態」とは、回転方向の双方向で駆動伝達が行われる状態であって、本実施の形態では、ブレーキF1は、ブレーキとして機能し、このブレーキF1が「回転阻止状態」にある場合には、所定の回転要素(キャリアCr1とCr2)は、双方向の回転が阻止されるロック状態にある。
【0033】
ブレーキF1としては、例えば、公知のツーウェイクラッチ(TWC)を採用することができる。ここで、公知のツーウェイクラッチとしては、油圧アクチュエータや電磁アクチュエータの駆動制御によって、「一方向回転許容状態」、「双方向回転阻止状態」または「双方向回転許容状態」の何れかに切り替えることが可能なものがある。また、「一方向回転許容状態」をさらに「正方向の回転許容状態」と「逆方向の回転許容状態」とに切り替え可能なものもある。本実施の形態では、「一方向回転許容状態」と「双方向回転阻止状態」とに切り替えられればよく、「一方向回転許容状態」は、片側の回転方向の許容状態のみを利用することができれば足りる。しかし、「双方向回転許容状態」等の他の状態を選択することができるツーウェイクラッチを用いてもよい。
【0034】
<各構成要素間の連結関係>
ここで、自動変速機1における各構成要素間の連結関係を図1に基づいて説明する。
【0035】
遊星ギヤ機構P3のサンギヤS3は、入力軸10に連結され、キャリアCr3は、遊星ギヤ機構P1のリングギヤR1と遊星ギヤ機構P4のキャリアCr4に連結されている。また、遊星ギヤ機構P2のキャリアCr2は、遊星ギヤ機構P1のキャリアCr1に連結され、リングギヤR2は、出力部材11に連結されている。したがって、遊星ギヤ機構P2は、後述するアイドル軸123などを介して車両の駆動輪H(図8参照)側に駆動力を出力する機能を果たす。
【0036】
クラッチC1は、係合状態において入力軸10と遊星ギヤ機構P1のキャリアCr1と遊星ギヤ機構P2のキャリアCr2とを連結し、開放状態においてこれらのキャリアCr1とCr2との連結を解除する。また、クラッチC2は、係合状態において遊星ギヤ機構P3のリングギヤR3と遊星ギヤ機構P4のサンギヤS4とを連結し、開放状態においてこれらのリングギヤR3とサンギヤS4との連結を解除する。そして、クラッチC3は、係合状態において入力軸10と遊星ギヤ機構P4のリングギヤR4とを連結し、開放状態においてこれらの入力軸10とリングギヤR4との連結を解除する。
【0037】
ブレーキB1は、係合状態においてケーシング12と遊星ギヤ機構P1のサンギヤS1とを連結し、開放状態においてケーシング12とサンギヤS1との連結を解除する。また、ブレーキB2は、係合状態においてケーシング12と遊星ギヤ機構P4のサンギヤS4とを連結し、開放状態においてこれらのケーシング12とサンギヤS4との連結を解除する。そして、ブレーキB3は、係合状態においてケーシング12と遊星ギヤ機構P4のリングギヤR4とを連結し、開放状態においてこれらのケーシング12とリングギヤR4との連結を解除する。
【0038】
ブレーキF1は、前述のように、これが「一方向回転許容状態」にある場合には、遊星ギヤ機構P2のキャリアCr2(とこれに連結されたキャリアCr1)の一方向の回転のみを規制し、これが「双方向回転阻止状態」にある場合には、遊星ギヤ機構P2のキャリアCr2(とこれに連結されたキャリアCr1)をケーシング12に固定した状態とする。
【0039】
[自動変速機の制御装置]
次に、本発明に係る自動変速機1の制御装置について説明する。
【0040】
<制御装置の基本構成>
図5は自動変速機1の制御装置100の基本構成を示すブロック図である。図示の制御装置100は、自動変速機1のみならず、エンジンEGやトルクコンバータTC(図1参照)及びパーキングロック機構140等の各制御も行うことが可能である。本実施の形態においては、エンジンEGは、制御装置100とは別に設けられたエンジンECU200によって制御される構成が採用されている。この場合、制御装置100は、エンジンECU200からエンジンEGや車両の各種情報を受信することができるとともに、自動変速機1の情報をエンジンECU200に送信することができる。
【0041】
制御装置100は、CPUなどの処理部101と、RAMやROMなどを備える記憶部102と、外部デバイスやエンジンECU200と処理部101とをインターフェースするIF部103を備えている。ここで、IF部103は、例えば、通信インターフェースや入出力インターフェースなどによって構成されている。
【0042】
処理部101は、記憶部102に記憶されている各種プログラムを実行し、各種のセンサ110の検出結果に基づいて各種のアクチュエータ120を駆動制御する。
【0043】
また、各種のセンサ110には、自動変速機1に設けられた各種センサが含まれるが、各種センサ110としては、入力軸回転数センサ111、SPセンサ(シフトポジションセンサ)112、油圧センサ113、触媒温度センサ114などが挙げられる。
【0044】
入力軸回転数センサ111は、入力軸10(図1参照)の回転数(回転速度)を検出するセンサであり、SPセンサ112は、運転者が選択したシフトポジションを検出するセンサである。ここで、シフトポジションとしては、Pレンジ(パーキングレンジ)、Dレンジ(前進レンジ)、Nレンジ(ニュートラルレンジ)およびRレンジ(後進レンジ)の4種類のレンジが設定されている。車両の運転者によってDレンジが選択された場合には、処理部101は、記憶部102に記憶されている車速マップにしたがって1速段(1st)~10速段(10th)の何れかを選択して変速を行う。また、Rレンジが選択された場合には、処理部101は、後進段(RVS)を選択する。また、Pレンジが選択された場合には、処理部101は、パーキングロック機構140を制御して、係合爪146をパーキングギヤ142に係合させることで、駆動輪が回転不能となる状態(パーキングロック状態)とする。なお、本実施形態の場合、車両の運転者は、ダイヤル116を回転させることによりシフトレンジを切り替え可能である。
【0045】
油圧センサ113は、クラッチC1~C3とブレーキB1~B3に供給される各作動油の油圧を検出するためのセンサである。また、触媒温度センサ114は、エンジンEGからの排気が流通する排気通路に配置されて排気に含まれているHC、Noxといった化学物質を除去する触媒(図示せず)の温度を検知するためのセンサである。
【0046】
処理部101によって駆動制御される各種のアクチュエータ120には、自動変速機1に設けられたクラッチC1~C3とブレーキB1~B3およびブレーキF1の動作状態を切り替える電磁ソレノイドなどの電磁アクチュエータが含まれる。
【0047】
ここで、油圧センサ113の配置例を図6に示すが、油圧センサ113は、クラッチC1~C3、ブレーキB1~B3およびブレーキF1ごとに設けることができる。これにより、クラッチC1~C3、ブレーキB1~B3およびブレーキF1にそれぞれ供給される作動油の油圧を検出することができる。なお、油圧センサ113は、必ずしもクラッチC1~C3、ブレーキB1~B3ごとにそれぞれ設ける必要はない。
【0048】
ところで、図6に示すように、エンジンEGによって駆動されるオイルポンプ116から係合機構(クラッチC1~C3、ブレーキB1~B3)への作動油の供給ラインLには、電磁弁LSが設けられている。電磁弁LSは、作動油の供給ラインLを開放または遮断することによって、係合機構(クラッチC1~C3、ブレーキB1~b3)の係合と開放を切り替える機能を果たす。
【0049】
<自動変速機の作動>
ここで、本実施の形態に係る自動変速機1の作動を図2図4に基づいて以下に説明する。
【0050】
図2は自動変速機1の各係合機構C1~C3、B1~B3およびF1の係合表、図3は自動変速機1の各遊星ギヤ機構P1~P4のギヤレシオの一例を示す図、図4は自動変速機1の共線図(速度線図)である。なお、図2に示す「ギヤレシオ」は、入力軸10と出力部材11間のギヤレシオを示す。
【0051】
本実施の形態に係る自動変速機1においては、前進10段(1st~10th)、後進1段(RVS)の変速段の確立が可能である。なお、図2における「P/N」は、非走行レンジを示しており、「P」はパーキングレンジを示し、「N」はニュートラルレンジを示している。また、「RPM」は後述するリバース準備処理(以下、「RVS準備処理」と称する)におけるクラッチC1~C3とブレーキB1~B3およびブレーキF1の係合の組み合わせを示しており、このRVS準備処理においては、ブレーキF1は、「一方向回転許容状態(OWC)」から「双方向回転阻止状態(TWC)」へと切り替えられる。
【0052】
図2に示す作動表において、「○」は係合状態であることを示し、無印は解放状態であることを示している。なお、変速段に必須ではないが、隣接する前後の変速段への移行をスムーズに行うために、作動表には、係合状態(「○」で表示)としている係合機構が含まれている。例えば、1速段(1st)の場合、ブレーキB2の係合は必須ではないが、後進段(RVS)や2速段(2nd)へ移行する場合に、係合状態を切り替える係合機構の数を少なくする目的で係合状態としている。同様に、5速段(5th)の場合、クラッチC3の係合は必須ではないが、4速段(4th)や6速段(6th)へ移行する場合に、係合状態を切り替える係合機構の数を少なくする目的で係合状態としている。
【0053】
ブレーキF1については、「○」は双方向回転阻止状態であることを示し、「△」は一方向回転許容状態であることを示している。1速段(1st)の場合、ブレーキF1は、双方向回転阻止状態と一方向回転許容状態の何れの状態であってもよいが、双方向回転阻止状態である場合には、エンジンブレーキが有効化され、一方向回転許容状態である場合には、エンジンブレーキが効かなくなる。1速段(1st)の場合にブレーキF1を何れの状態とするかのアルゴリズムは適宜設計することができるが、例えば、1速段(1st)に移行する前の状態を継続するものとしてもよい。具体的には、後進段(RVS)から1速段(1st)に移行する場合、1速段(1st)は双方向回転阻止状態のままとする。但し、車速が所定速度よりも高くなった場合などにおいて一方向回転許容状態に切り替えてもよい。同様に、他の前進段(2nd~10th)から1速段(1st)に移行する場合、1速段(1st)は一方向回転許容状態のままとする。
【0054】
非走行レンジ(P/N)においても、ブレーキF1の状態は、双方向回転阻止状態と一方向回転許容状態の何れの状態であってもよい。したがって、1速段(1st)と同様に、非走行レンジ(P/N)に移行する前の状態を継続してもよい。
【0055】
2速段(2nd)~10速段(10th)において、ブレーキF1は、一方向回転許容状態とされるが、自動変速機1の構造上から空転状態となる。このため、図2に示す作動表においては、ブレーキF1の状態を「(△)」と表示している。仮に、ブレーキF1が、双方向回転許容状態を選択可能なものである場合、2速段(2nd)~10速段(10th)においてブレーキF1を双方向回転許容状態とすることも可能である。
【0056】
なお、本実施の形態においては、2速段(2nd)~10速段(10th)においては何れもブレーキF1の状態として、一方向回転許容状態が選択される構成としているが、自動変速機1の構成によっては、双方向回転阻止状態が選択される構成も採用することができる。
【0057】
図4に示す速度線図(共線図)は、入力軸10への入力に対する各要素の各変速段における回転速度比を示している。図4の縦軸は、速度比を示しており、速度比「1」が入力軸10と同速度であることを示し、速度比「0」は、停止状態であることを示している。そして、横軸は、遊星ギヤ機構P1~P4の回転要素間のギヤレシオを示しており、図中の「λ」は、キャリアCrとサンギヤSとのギヤレシオを示している。なお、図4には、出力軸13に対応する要素については図示を省略している。
【0058】
<前進段から後進段への切替制御>
図7は、変速段を前進一速段から後進段に切り替える際(後進段を設定する際)の係合機構の係合組合せを示す図である。変速段が前進一速段にある場合、図2に示したようにブレーキB1,B2が係合状態にある。ブレーキF1は一方向回転許容状態にある場合を想定する。
【0059】
まず、図7の段階1に示すように、ブレーキB1,B2を解放状態に制御する。ブレーキB1,B2の解放を開始すると、次の段階2に移行する。
【0060】
段階2では、クラッチC1,C3及びブレーキB3を係合する。リングギヤR2及び出力軸13は回転自在であり、駆動輪Hは自由回転可能になる。よって車両が不測の挙動を示す事態を回避できる。
【0061】
図4の速度線図から明らかなように、クラッチC3及びブレーキB3を係合することで、入力軸10はケーシング12に固定された状態となる。クラッチC1を係合することでキャリアCr2が入力軸10に連結された状態となる。
【0062】
なお、段階1と段階2とは並行して行うことができる。具体的には、ブレーキB1,B2を解放状態にする制御を行いながら、クラッチC1,C3及びブレーキB3を係合する制御を行う。このようにすることで、変速段を後進段に切り替える際の応答性を向上することができる。
【0063】
次に、所定の条件が成立すると、次の段階3に移行する。所定の条件は、キャリアCr2の回転数が0であることが確認される条件である。基本的には、クラッチC1の係合完了と、入力軸回転数センサ111の検出結果<所定値(例えば0とみなせる値)である。クラッチC1の係合完了は、例えば、クラッチC1用の油圧センサ113の検出結果が所定油圧を示す場合や、クラッチC1用の電磁弁LSに対する制御量が規定値に達した場合等に係合が完了したと判定することができる。他の係合機構の係合完了についても、同様の判定手法を採用することができる。
【0064】
段階3では、ブレーキF1を一方向回転許容状態から回転阻止状態に切り替える。ブレーキF1のケーシング12側と、キャリアCr2側との差回転が0であるため、異音や振動が発生することを回避できる。ブレーキF1の切り替えが完了すると、段階4に進む。段階4では、クラッチC1、ブレーキB3を解除し、ブレーキB2を係合する。以上により、後進段の組み合わせ(図2のRVS)が成立する。
【0065】
段階1~段階3の処理をRVS準備処理と呼び、段階4の処理をRVSインギヤ処理と呼ぶ場合がある。制御上、変速段の制御状態としてRVS準備モードが設定されるとRVS準備処理を行う。また、段階3が完了した段階で変速段の制御状態としてRVSインギヤモードを設定し、RVSインギヤモードが設定されるとRVSインギヤ処理を行う。このようなモード設定は例えば記憶部102にモード情報の記憶領域を設けて管理する。
【0066】
<停車時エンジン暖機制御>
本実施形態の車両では、制御装置100は、車両の停車中にエンジンEGの暖機要求があると判断した場合に、自動変速機1の係合機構であるクラッチC1,C2,C3及びブレーキB1,B2,B3,F1の係合・非係合を制御することで、自動変速機1の出力部材11には駆動力が伝達されず、かつ、入力軸10が固定された状態とする停車時エンジン暖機制御を行う。図8は、この停車時エンジン暖機制御における自動変速機の状態を説明するための概略図である。同図に示すように、停車時エンジン暖機制御では、自動変速機1内の固定要素4(ケーシング12)と回転要素3(入力軸10)との間でそれらの係合・非係合を切り替える係合機構5を係合し、かつ、自動変速機1内の回転要素3と出力部材11との間の動力伝達が行われないように係合機構5の係合・非係合を制御することで、出力部材11には駆動力が伝達されず、かつ、入力軸10が固定された状態とする。これにより、エンジンEGの出力軸2が回転状態となり自動変速機1の入力軸10が停止状態となることで、それらの間に設けたトルクコンバータTCが両者の回転差(差回転)によって内部の流体が強制的に対流する状態(いわゆるストール状態)となる。したがって、エンジンEGの出力軸2に相当量の負荷が与えられた状態となるので、エンジンEGの暖機が促進される効果を奏することができる。
【0067】
この停車時エンジン暖機制御は、一例として、自動変速機1の係合機構5であるクラッチC1とクラッチC3を係合させると共にブレーキB3を係合させることで実現が可能である。図9は、その場合の自動変速機の状態を示すスケルトン図である。停車時エンジン暖機制御では、クラッチC1,C3及びブレーキB3が係合していることで、同図に一点鎖線で示す回転要素3Aが停止状態((回転が拘束された状態)となり、実線で示すその他の回転要素3Bが回転可能な状態(回転が拘束されない状態)となる。したがって、自動変速機1の入力軸10が固定される一方、出力部材11にはエンジンEGからの駆動力が伝達されない状態となる。
【0068】
上記の停車時エンジン暖機制御において、自動変速機1のクラッチC1とクラッチC3を係合させると共にブレーキB3を係合させる係合状態は、既述の前進変速段から後進変速段への切り替えの際のRVS準備処理における係合状態と同じである。すなわち、本実施形態の自動変速機1による停車時エンジン暖機制御では、制御装置100は、車両の停車中にエンジンEGの暖機要求があると判断した場合に、自動変速機1の係合機構5であるクラッチC1,C2,C3及びブレーキB1,B2,B3,F1の係合状態をRVS準備処理と同じ係合状態とすることで、出力部材11には駆動力が伝達されず、かつ、入力軸10が固定された状態を実現するようにしている。
【0069】
また、制御装置100は、停車時エンジン暖機制御を行う際、パーキングロック機構140を制御して駆動輪Hを固定した状態とすることができる。具体的には、係合爪146をパーキングギヤ142に係合させることで、駆動輪Hが回転不能となる状態(パーキングロック状態)とする。これにより、車両を確実に停車状態として停車時エンジン暖機制御を行うことができる。そのうえ、停車時エンジン暖機制御では、出力部材11には駆動力が伝達されないので、パーキングロック状態のパーキングロック機構140の係合爪146やパーキングギヤ142にも駆動力が伝わらずに済む。これにより、パーキングロック機構140による固定を解除した際(係合爪146のパーキングギヤ142への係合を解除した際)に振動や騒音などのショックが生じることを効果的に抑制しながら、エンジンEGの暖機を行うことが可能となる。
【0070】
さらに、制御装置100は、停車時エンジン暖機制御を行う際、トルクコンバータTCのロックアップクラッチLCをスリップ状態で係合させるようにしてもよい。なお、ここでいう「ロックアップクラッチLCをスリップ状態で係合させる」とは、ロックアップクラッチLCを完全に係合させる(エンジンEGの出力軸2と自動変速機1の入力軸10を完全に直結してそれらに差回転が無い状態とする)のではなく、ロックアップクラッチLCのクラッチ板(図示せず)をある程度滑らせた状態(エンジンEGの出力軸2と自動変速機1の入力軸10が差回転を有する状態)で係合することをいい、そのスリップ量(又はスリップ率)は任意の値とすることができる。すなわち、ロックアップクラッチLCのスリップ量(又はスリップ率)の設定に応じて、エンジンEGの出力軸2に与えられる負荷を調節することが可能である。
【0071】
図10は、停車時エンジン暖機制御を実施する際の処理手順を示すフローチャートである。同図に示すフローチャートでは、ロックアップクラッチLCをスリップ状態で係合させて停車時エンジン暖機制御を行う場合を「停車時エンジン暖機制御(LC ON)」と表記し、ロックアップクラッチLCを係合させずに停車時エンジン暖機制御を行う場合を「停車時エンジン暖機制御(LC OFF)」と表記する。
【0072】
同図のフローチャートに示すように、まず、制御装置100は、エンジンEGの暖機要求があるか否かを判断する(ステップST1)。なお、ここでいうエンジンEGの暖機要求がある場合とは、具体例として車両起動時(イグニッションがオンされたとき)に触媒温度センサ114で検出される触媒温度が所定以下の場合などがある。その結果、エンジンEGの暖機要求が有る場合(YES)、続けて車両が停車状態か否かを判断する(ステップST2)。その結果、車両が停車状態であれば(YES)、続けて、エンジンEGに与えたい負荷量が閾値W1以下か否かを判断する(ステップST3)。ここでいうエンジンEGに与えたい負荷量とは、エンジンEGを必要程度まで暖機するために与える必要がある負荷の量をいい、現状のエンジンEGの諸状態及び予めシミュレーションなどで蓄積された暖機のデータなどから算出することができる。また、ここでの閾値W1は、停車時エンジン暖機制御(LC OFF)の実施によってエンジンEGに与えることが可能な最大負荷量の値である。その結果、エンジンEGに与えたい負荷量が閾値W1より大きい場合(NO)は、停車時エンジン暖機制御(LC ON)を実施し(ステップST4)、エンジンEGに与えたい負荷量が閾値W1以下の場合(YES)は、停車時エンジン暖機制御(LC OFF)を実施する(ステップST5)。そして、停車時エンジン暖機制御(LC ON)の実施中に、ロックアップクラッチLCの温度(詳細にはロックアップクラッチLCのクラッチ板(図示せず)の温度)が許容範囲内か否かを監視し(ステップST6)、当該監視している温度が許容範囲内で無ければ(NO)、ロックアップクラッチLCの係合を解除する(オフする)ことで、停車時エンジン暖機制御(LC OFF)に切り替える(ステップST5)。また、当該監視している温度が許容範囲内であれば(YES)、トルクコンバータTCの内部温度(トルクコンバータTC内を流通する作動油(ATF)の温度)が閾値T1以上か否かを監視する(ステップST7)。ここでの閾値T1は、自動変速機1及びその油圧制御装置に対して予め規定されている(すなわち、自動変速機1のシステムで制限されている)作動油(ATF)の最大温度である。その結果、この監視している温度が閾値T1以上の場合(YES)、ロックアップクラッチLCの係合を解除する(オフする)ことで、停車時エンジン暖機制御(LC OFF)に切り替える(ステップST5)。また、この監視している温度が閾値T1未満の場合(NO)、停車時エンジン暖機制御(LC ON)の実施によって生じる振動量が許容範囲内か否かを監視し(ステップST8)、この監視している振動量が許容範囲内で無ければ(NO)、ロックアップクラッチLCの係合を解除する(オフする)ことで、停車時エンジン暖機制御(LC OFF)に切り替える(ステップST5)。
【0073】
このように、停車時エンジン暖機制御を行う際、ロックアップクラッチLCをスリップ状態で係合させることで、エンジンEGにより大きな負荷を与えることが可能となるので、エンジンEGをより短時間で効果的に暖機することが可能となる。また、また、トルクコンバータTCを含む自動変速機1の早期の昇温が可能となるので、車両の駆動システム全体のより効果的な暖機を行うことができる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態の車両用自動変速機の制御装置では、車両の停車中にエンジンEGの暖機要求があると判断した場合に、係合機構5の係合・非係合を制御することで、出力部材11には駆動力が伝達されず、かつ、入力軸10が固定された状態とする停車時エンジン暖機制御を行うので、車両の停車状態を維持しまま入力軸10を固定してトルクコンバータTCをストール状態にすることができ、エンジンEGに意図的な負荷を与えてエンジンEGの暖機を行うことができる。そして、この停車時エンジン暖機制御は、自動変速機1が備える係合機構5の係合・非係合を制御するだけの比較的に簡単な制御で行うことができるので、制御や構成の複雑化につながるおそれがない。また、停車時エンジン暖機制御では、出力部材11には駆動力が伝達されないので、車両の停車状態を確実に維持することができるので、車両の停車中にエンジンEGの暖機が必要となった際に実行することが可能な制御となる。
【0075】
また、この停車時エンジン暖機制御によれば、エンジンEGに負荷を与えることによってエンジンEG自体を暖機することができるだけでなく、トルクコンバータTCがストール状態となることで、トルクコンバータTCや自動変速機1を流通する作動油(ATF)の油温をより早期に昇温することが可能となる。したがって、エンジンEGのみでなくトルクコンバータTCや自動変速機1を含む車両の駆動システム全体の効果的な暖機を行うことができる。
【0076】
なお、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、車両の駆動源としてエンジンのみを備えた車両を例に説明したが、これ以外にも、本発明の制御装置は、車両の駆動源としてエンジンとモータ(電動モータ)とを備えるハイブリッド車両にも適用が可能である。その場合、一例として、図示及び詳細な説明は省略するが、図1のスケルトン図において、エンジンEGとトルクコンバータTCの間(エンジンの出力軸2上)に駆動源としての電動モータを配置することが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 自動変速機
2 (エンジンの)出力軸
3(3A,3B) 回転要素
4 固定要素
5 係合機構
10 入力軸
11 出力部材
12 ケーシング(固定要素)
12a 支持部材
100 制御装置(制御手段)
140 パーキングロック機構
B1~B3 ブレーキ(係合機構)
C1~C3 クラッチ(係合機構)
Cr1~Cr4 キャリア
F1 ブレーキ(機械的係合機構)
P1~P4 遊星ギヤ機構
EG エンジン(駆動源)
H 駆動輪
LC ロックアップクラッチ
TC トルクコンバータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10