(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031631
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】電磁波干渉吸収体、誘電体層、及び誘電体層用組成物
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240229BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20240229BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20240229BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240229BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240229BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20240229BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240229BHJP
C08K 7/24 20060101ALI20240229BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H01Q17/00
B32B7/025
B32B27/18 Z
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
C08K3/08
C08K3/36
C08K7/24
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135300
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】赤間 博
(72)【発明者】
【氏名】平田 昂士
(72)【発明者】
【氏名】兼平 浩紀
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J002
5E321
5J020
【Fターム(参考)】
4F071AA67
4F071AB08
4F071AB28
4F071AD02
4F071AD04
4F071AE14
4F071AE22
4F071AF40Y
4F071AF41Y
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4F100AB33
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4F100AK52A
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4J002CP031
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4J002GR01
5E321AA23
5E321BB21
5E321BB23
5E321BB53
5E321BB55
5E321GG11
5J020EA04
5J020EA10
(57)【要約】
【課題】Dip帯域が広帯域化され、熱伝導率が低い電磁波干渉吸収体の提供。
【解決手段】高損失材料、及び低誘電材料を分散した樹脂を含む誘電体層と、電磁波反射層と、を有し、前記誘電体層が、15以下の比誘電率、1以下の比透磁率、0.1以下の誘電正接、及び2以下の磁気正接を有する電磁波干渉吸収体である。前記誘電体層における前記高損失材料の含有量が、10体積%~40体積%であり、前記誘電体層における前記低誘電材料の含有量が、10体積%~40体積%である態様が好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高損失材料、及び低誘電材料を分散した樹脂を含む誘電体層と、
電磁波反射層と、を有し、
前記誘電体層が、15以下の比誘電率、1以下の比透磁率、0.1以下の誘電正接、及び2以下の磁気正接を有することを特徴とする電磁波干渉吸収体。
【請求項2】
前記誘電体層における前記高損失材料の含有量が、10体積%~40体積%であり、
前記誘電体層における前記低誘電材料の含有量が、10体積%~40体積%である請求項1に記載の電磁波干渉吸収体。
【請求項3】
前記誘電体層の比誘電率が、6~8である請求項1に記載の電磁波干渉吸収体。
【請求項4】
前記高損失材料が、カルボニル鉄粉である請求項1に記載の電磁波干渉吸収体。
【請求項5】
前記低誘電材料が、シリカ、中空ガラス、及び中空シリカの少なくともいずれかである請求項1に記載の電磁波干渉吸収体。
【請求項6】
前記樹脂が、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイソプレンゴム、ポリスチレン・ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン・プロピレンゴム、及びシリコーンゴムの少なくともいずれかである請求項1に記載の電磁波干渉吸収体。
【請求項7】
前記誘電体層の熱伝導率が1W/mK以下である請求項1に記載の電磁波干渉吸収体。
【請求項8】
吸収性能20dB以上のDip帯域が2.5GHz以上である請求項1に記載の電磁波干渉吸収体。
【請求項9】
周波数帯域が23GHz~33GHzである請求項1に記載の電磁波干渉吸収体。
【請求項10】
高損失材料、及び低誘電材料を分散した樹脂を含み、
15以下の比誘電率、1以下の比透磁率、0.1以下の誘電正接、及び2以下の磁気正接を有することを特徴とする誘電体層。
【請求項11】
高損失材料と、低誘電材料と、樹脂及び樹脂前駆体の少なくともいずれかと、を含むことを特徴とする誘電体層用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波干渉吸収体、誘電体層、及び誘電体層用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やスマートフォン等の携帯通信機器の普及が急速に進んでおり、また自動車等において多くの電子機器が搭載されるようになった。このような小型の電子機器では、通信アンテナモジュールが小さい筐体内に複数配置されており、通信アンテナモジュールから発生する電磁波が金属筐体などで反射し、通信モジュールや他の電子部品に悪影響を及ぼす可能性や、電磁波及びノイズを原因とする電磁波障害が生じる恐れがある。このような誤動作、電磁波障害等を防止するために、各種の電磁波干渉吸収体が検討されている。
【0003】
電磁波干渉吸収体として、これまでに、1層の電磁波干渉吸収体、多層構造を有する電磁波干渉吸収体が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
1/4λ型と呼ばれる1層式の電磁波干渉吸収体では、無反射条件式と称される物理法則により、一定の比誘電率、及び比透磁率のときに、誘電正接と磁気正接とが決まり、比誘電率、比透磁率、及び誘電体層の厚みによってDip周波数が定まり、Dip帯域の広帯域化に制約があるという問題がある。
また、このように必要とされる誘電特性に制約があり、誘電体層に含有される材料及び配合量比の設計自由度が低いため、誘電特性以外の物性を設計することが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「電波吸収技術の基礎」、橋本修、青山学院大学 理工学部、MWE 2007 基礎講座(2005年、https://www.apmc-mwe.org/mwe2007/05tutorial.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、Dip帯域が広帯域化され、熱伝導率が低い電磁波干渉吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を解決すべく、鋭意検討した結果、高損失材料、及び低誘電材料を分散した樹脂を含む誘電体層と、電磁波反射層と、を有し、前記誘電体層が、15以下の比誘電率、1以下の比透磁率、0.1以下の誘電正接、及び2以下の磁気正接を有する電磁波干渉吸収体が、Dip帯域を広帯域化でき、熱伝導率を低減できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 高損失材料、及び低誘電材料を分散した樹脂を含む誘電体層と、
電磁波反射層と、を有し、
前記誘電体層が、15以下の比誘電率、1以下の比透磁率、0.1以下の誘電正接、及び2以下の磁気正接を有することを特徴とする電磁波干渉吸収体である。
<2> 前記誘電体層における前記高損失材料の含有量が、10体積%~40体積%であり、
前記誘電体層における前記低誘電材料の含有量が、10体積%~40体積%である前記<1>に記載の電磁波干渉吸収体である。
<3> 前記誘電体層の比誘電率が6~8である前記<1>から<2>のいずれかに記載の電磁波干渉吸収体である。
<4> 前記高損失材料が、カルボニル鉄粉である前記<1>から<3>のいずれかに記載の電磁波干渉吸収体である。
<5> 前記低誘電材料が、シリカ、中空ガラス、及び中空シリカの少なくともいずれかである前記<1>から<4>のいずれかに記載の電磁波干渉吸収体である。
<6> 前記樹脂が、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイソプレンゴム、ポリスチレン・ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン・プロピレンゴム、及びシリコーンゴムの少なくともいずれかである前記<1>から<5>のいずれかに記載の電磁波干渉吸収体である。
<7> 前記誘電体層の熱伝導率が1W/mK以下である前記<1>から<6>のいずれかに記載の電磁波干渉吸収体である。
<8> 吸収性能20dB以上のDip帯域が2.5GHz以上である前記<1>から<7>のいずれかに記載の電磁波干渉吸収体である。
<9> 周波数帯域が23GHz~33GHzである前記<1>から<8>のいずれかに記載の電磁波干渉吸収体である。
<10> 高損失材料、及び低誘電材料を分散した樹脂を含み、
15以下の比誘電率、1以下の比透磁率、0.1以下の誘電正接、及び2以下の磁気正接を有することを特徴とする誘電体層である。
<11> 高損失材料と、低誘電材料と、樹脂及び樹脂前駆体の少なくともいずれかと、を含むことを特徴とする誘電体層用組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、Dip帯域が広帯域化され、熱伝導率が低い電磁波干渉吸収体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の電磁波干渉吸収体の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、1層式の電磁波干渉吸収体の一例を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、1層式の電磁波干渉吸収体の電磁波干渉吸収特性を示すグラフである。
【
図4】
図4は、1層式の電磁波干渉吸収体において、誘電正接が0.01以下の場合の無反射条件式による比誘電率、比透磁率、及び磁気正接の関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、誘電体層の熱伝導率を測定するための測定装置の一例を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、実施例1の電磁波干渉吸収体の電磁波干渉吸収特性を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例2の電磁波干渉吸収体の電磁波干渉吸収特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(電磁波干渉吸収体)
本発明の電磁波干渉吸収体は、
図1において、本発明の電磁波干渉吸収体の一例としての電磁波干渉吸収体10の概略断面図に示すように、電磁波反射層1と、1/4λ型の誘電体層2とを有する。
前記誘電体層は、高損失材料、低誘電材料、及び樹脂を含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。前記誘電体層は、高損失材料、低誘電材料、及び必要に応じてその他の成分を分散した樹脂を含む。
前記誘電体層は、15以下の比誘電率、1以下の比透磁率、0.1以下の誘電正接、及び2以下の磁気正接を有する。
【0011】
図2に、電磁波干渉吸収体の電磁波干渉吸収メカニズムを説明するため、1層式の電磁波干渉吸収体10の概略断面図を示す。電磁波干渉吸収体10は、1/4λ型と呼ばれる1層式の電磁波干渉吸収体であり、電磁波反射層1と、1/4λ型の誘電体層2とを有する。
電磁波干渉吸収体10に電磁波(入射電磁波E
i)が放射されると、表面で反射する電磁波E
r1と、電磁波干渉吸収体内部(誘電体層)を通り、電磁波反射層により反射されて、電磁波干渉吸収体より放射される電磁波E
r2とに分かれる。電磁波反射層で反射した電磁波E
r2が、表面で反射する電磁波E
r1に対し、位相が反転した状況で同レベルの電磁波強度であれば、両者は互いに打ち消し合い、反射する電磁波が低減される。
【0012】
この関係は、無反射条件式と呼ばれ、下記式(1)で表される。
【数1】
なお、tanhは、双曲線正接関数を示し、jは、虚数単位を示す。
【0013】
無反射条件式において、誘電体層の材料の比誘電率、比透磁率、誘電正接、及び磁気正接、並びに誘電体層の厚みにより、Dip周波数とDip帯域が定まる。
図3に、1層式の電磁波干渉吸収体の電磁波干渉吸収特性を模式的に示す。
図3において、グラフの縦軸は、S11[dB]、横軸は、周波数[GHz]を示す。なお、Sパラメータである「S11」は、端子1に信号を入力したときに、端子1に反射する信号を意味し、反射係数を表す。
ここで、「周波数帯域」とは、干渉吸収対象となる電磁波の周波数帯域を意味し、「Dip周波数」とは、干渉吸収対象となる電磁波の中心周波数を意味する。
「Dip帯域」とは、所定の吸収性能で干渉吸収される電磁波の周波数帯域幅を意味し、前記吸収性能としては、例えば、10dB以上、20dB以上などが挙げられる。
また、「Dip深さ」とは、Dip帯域における最大の吸収性能を示す。
「誘電率」は、電束密度をD、電場の強度をEとの間の関係をD=εEで表した時の比例定数ε(単位[F/m]、物質固有の定数)であり、「比誘電率」は、真空(空気)の誘電率ε
0に対するある誘電体の誘電率εの比率ε/ε
0(無単位)である。
「透磁率」は、磁場(磁界)の強さHと磁束密度Bとの間の関係をB=μHで表した時の比例定数μ(単位:[H/m])であり、「比透磁率」は、真空(空気)の透磁率μ
0に対するある誘電体の誘電率μの比率μ/μ
0(無単位)である。
【0014】
一定の比誘電率、及び比透磁率のときに、無反射条件式を満たす誘電正接、及び磁気正接が一義的に決定される。具体的には、1層式の電磁波干渉吸収体において、誘電正接が0.01以下の場合の無反射条件式による比誘電率、比透磁率、及び磁気正接の関係は、
図4に示すグラフの通りとなる。
そして、誘電体層における比誘電率、及び厚みによりDip周波数が定まる。そのときの磁気正接によって、Dip深さが定まる。
Dip周波数から外れると干渉が減り、例えば、吸収性能20dB以上(-20dB以下)のDip帯域が定まる。
【0015】
例えば、
図4に示す無反射条件(
図4に示す曲面上の各点)において、無反射条件を満たし、かつ比誘電率が低い領域では、高い磁気正接が必要とされる。しかしながら、比誘電率が低く、かつ磁気正接が高いような1種類の材料が現状利用可能ではなく、そのような領域で、無反射条件を実現することは困難である。
【0016】
また、誘電体層の厚みが厚い程、Dip帯域が広帯域となる。比誘電率は低い程、Dip帯域が広帯域となる。誘電体層の厚みを厚くする場合、無反射条件を満たすために、比誘電率を小さくし、誘電正接と磁気正接の少なくともいずれかを大きくする必要がある。しかしながら、そのような設計は現状では困難である。例えば、誘電体層としてシリコーン樹脂等を用いる場合、シリコーン樹脂の比誘電率は2.7程度であるため低誘電化は難しく、磁気正接を上げるために金属フィラーを入れると比誘電率が上昇する。
【0017】
したがって、本発明の電磁波干渉吸収体は、従来技術の問題点、即ち、1層の電磁波干渉吸収体では、厚みと比誘電率によってDip帯域の最大値が物理法則で定まっており、Dip帯域の広帯域化に制約があるという問題、誘電体層に含有される材料及び配合量比の設計自由度が低いため、誘電特性以外の物性を設計することが困難であるという問題を知見したことに基づくものである。
本発明者らは、前記目的を解決すべく、鋭意検討した結果、高損失材料、及び低誘電材料を配合することにより、15以下の低い比誘電率において無反射条件を満たすことができ、Dip帯域を広帯域化でき、熱伝導率を低減できることを見出した。
【0018】
以上の知見から、本発明者らは、本発明の電磁波干渉吸収体、即ち、高損失材料、及び低誘電材料を分散した樹脂を含む誘電体層と、電磁波反射層と、を有し、前記誘電体層が、15以下の比誘電率、1以下の比透磁率、0.1以下の誘電正接、及び2以下の磁気正接を有する電磁波干渉吸収体が、Dip帯域を広帯域化でき、熱伝導率を低減できることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0019】
(誘電体層、及び誘電体層用組成物)
本発明の誘電体層は、高損失材料、低誘電材料、及び樹脂を含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。前記誘電体層は、高損失材料、低誘電材料、及び必要に応じてその他の成分を分散した樹脂を含む。前記誘電体層は、15以下の比誘電率、1以下の比透磁率、0.1以下の誘電正接、及び2以下の磁気正接を有する。
前記誘電体層は、1/4λ型の誘電体層であり、本発明の電磁波干渉吸収体における前記誘電体層として好適に用いることができる。
また、本発明の誘電体層用組成物は、高損失材料と、低誘電材料と、樹脂及び樹脂前駆体の少なくともいずれかと、を含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
前記誘電体層用組成物は、前記誘電体層を形成するための組成物として好適に用いることができる。
以下に、本発明の電磁波干渉吸収体、誘電体層、及び誘電体層用組成物について、共通する事項について説明する。
【0020】
[特性]
本発明の電磁波干渉吸収体について、以下に詳細に説明する。
「Dip帯域」とは、前述の通り、所定の吸収性能で干渉吸収される電磁波の周波数帯域幅を意味し、前記吸収性能としては、例えば、10dB以上、15dB以上、20dB以上などが挙げられる。これらの中でも、より吸収性能が高い20dB以上が好ましい。
「Dip帯域が広帯域化」されたとは、所定の吸収性能(例えば、吸収性能20dB以上)のDip帯域が広帯域化されたことを意味する。
吸収性能20dB以上のDip帯域とは、20dB以上の電磁波が干渉吸収される周波数帯域幅を意味し、2.5GHz以上が好ましく、3.5GHz以上がより好ましく、4.0GHz以上が更に好ましい。
【0021】
ここで、前記吸収性能は、具体的には、Sパラメータをネットワークアナライザ(装置名:N5227B、KEYSIGHT社製)と、対向するアンテナのあるフリースペースタイプ(装置名:DPS-24、KEYCOM社製)と、導波管WR34(21.7GHz~33GHz)又は導波管WR28(26.5GHz~40GHz)を用いて、測定することができる。電磁波干渉吸収体の誘電体層の表面に対して垂直に電磁波が入射するように、対抗するアンテナの間に電磁波干渉吸収体を垂直に配置する。なお、アンテナの角度を変えることにより、入射角を有する電磁波の測定も可能である。
【0022】
前記周波数帯域としては、特に制限はなく、目的とする電磁波の周波数に応じて適宜選択することができるが、主に、携帯5Gの日本規格である27GHz~29.5GHzを含む周波数範囲として、8GHz~48GHzが好ましく、23GHz~33GHzがより好ましい。
【0023】
[熱伝導率]
前記誘電体層の熱伝導率としては、2W/mK以下が好ましく、1.5W/mK以下がより好ましく、1W/mK以下が更に好ましい。
ここで、前記熱伝導率は、物質内の熱の流れやすさを示す物性値であり、
図5に示すように、ASTM-D5470に準拠した熱抵抗測定装置を用いて測定することができる。具体的には、試料(S)として誘電体層のみ(例えば、厚み0.4mmの誘電体層、及び厚み1mmの誘電体層)を用い、熱電対を有するヒーター(11)及び冷却シンク(12)における試料挟持面で誘電体層を挟持し、試料面積:1.24cm
2、測定環境:23℃±5℃、60%±20%RH、設定ヒーター電力:8Wにおいて、加圧シリンダー(13)により、誘電体層の厚み方向(
図5中、矢印で示す方向)に荷重2kgf/cm
2をかけて、ヒーター(11)側の試料表面温度T1と冷却シンク(12)側の試料表面温度T2とを測定することにより、ASTM-D5470に準拠した温度傾斜法により誘電体層の熱抵抗値(cm
2・K/W)を測定する。次いで、得られた熱抵抗値に基づき、熱伝導率(W/m・K)を算出することで求めることができる。
なお、電磁波干渉吸収体において、誘電体層の熱伝導率を測定する場合には、例えば、電磁波干渉吸収体から剥離した誘電体層を用いて熱伝導率を測定することができる。
【0024】
従来技術の電磁波吸収体は、高い比透磁率、及び高い磁気正接を有する材料を多く配合し、磁気正接によりノイズ(電磁波)を吸収しており、熱伝導率が高いものであった。高い比透磁率、及び高い磁気正接を有する材料としては、例えば、磁性粉などが挙げられる。
具体的には、従来の電磁波吸収体であるノイズ抑制熱伝導シート(商品名:E8000K、デクセリアルズ株式会社製、本願実施例に示す比較例1)は、誘電体層がシリコーン樹脂、及び磁性粉を含み、熱伝導率が2.5W/mKと高い。そのため、GHz帯域レベルの電磁ノイズ抑制と高い熱伝導率をあわせ持つノイズ抑制熱伝導シートとしての用途に適する。
一方、本発明の電磁波干渉吸収体は、誘電体層の材料(特に低誘電材料)の配合により熱伝導率を低減することができ、断熱性能に優れ、かつDip帯域が広帯域化されたGHz帯域レベルの電磁ノイズ抑制を実現することができる。したがって、本発明の電磁波干渉吸収体は、断熱性を要求される用途に好適に用いることができる。
【0025】
<電磁波反射層>
前記電磁波反射層の材料としては、特に制限はなく目的に応じて適宜、電磁波の反射層として機能し得る公知のものを選択することができ、例えば、金属からなる金属板又は箔;前記金属を含む金属層;高分子フィルムに真空蒸着法やめっき法により前記金属の薄膜を形成したもの;炭素繊維等の導電材などが挙げられる。これらは、樹脂などの基材で補強されていてもよい。
前記金属としては、例えば、アルミニウム、銅、鉄、銀、金、クロム、ニッケル、モリブデン、ガリウム、亜鉛、スズ、ニオブ、インジウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
前記金属層における前記金属の含有量としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、30質量%以上が好ましく、50質量%以上より好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0026】
前記電磁波反射層の平均厚みとしては、電磁波を全反射できれば、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。
前記電磁波反射層の厚み及び平均厚みは、後述する誘電体層と同様に測定及び算出することができる。
【0027】
<誘電体層>
前記誘電体層は、高損失材料、低誘電材料、及び樹脂を含み、更に必要に応じてその他の材料を含む。前記樹脂は、高損失材料、低誘電材料、及び必要に応じてその他の材料を分散してなる。
前記誘電体層は、15以下の比誘電率、1以下の比透磁率、0.1以下の誘電正接、及び2以下の磁気正接を有する。
【0028】
前記誘電体層の比誘電率としては、15以下であれば、目的に応じて適宜選択することができるが、6~15が好ましく、6~8がより好ましい。
前記誘電体層の比透磁率としては、1以下であれば、所望の無反射条件及び誘電体層の厚みなどの目的に応じて、高損失材料及び低誘電材料の配合比等を調整することにより、適宜選択することができる。
前記誘電体層の誘電正接としては、0.1以下であれば、所望の無反射条件及び誘電体層の厚みなどの目的に応じて、高損失材料及び低誘電材料の配合比等を調整することにより、適宜選択することができる。
前記誘電体層の磁気正接としては、2以下であれば、所望の無反射条件及び誘電体層の厚みなどの目的に応じて、高損失材料及び低誘電材料の配合比等を調整することにより、適宜選択することができる。
【0029】
前記誘電体層の比誘電率、比透磁率、誘電正接、及び磁気正接は、例えば、ネットワークアナライザ(装置名:N5227B、KEYSIGHT社製)を用いた導波管による閉鎖系Sパラメータ方式により、導波管WR28(26.5GHz~40GHz、装置名:CM-28TB+R、KEYCOM社製)を用いて、導波管タイプSパラメータ法透過法プログラム(装置名:DMP-07、KEYCOM社製)において測定することができる。
【0030】
前記誘電体層の比誘電率、比透磁率、誘電正接、及び磁気正接としては、樹脂や、樹脂への高損失材料、及び低誘電材料の配合量乃至配合比、必要に応じてその他の成分の添加量の調整により適宜調整することができる。
高損失材料の配合量乃至配合比により、比誘電率、比透磁率、及び磁気正接を調整できる。また、低誘電材料の配合量乃至配合比を増加させると、比誘電率を下げることができる。一方、低誘電材料は、比透磁率、及び磁気正接にほとんど影響を与えない。
【0031】
具体的には、誘電体層の材料の組み合わせを定め、その配合比を変えた複数の電磁波干渉吸収体を作製して誘電体層の各物性値を測定する。次いで、得られた各配合比の各物性値から、配合比と物性値との近似式を得、近似式と、無反射条件(例えば、
図4の3次元グラフで表される曲面)との交点を求めることにより、無反射条件を満たす各物性値を有する、誘電体層の材料の配合比を求めることができる。
【0032】
-樹脂-
前記樹脂は、高損失材料、低誘電材料、及び必要に応じてその他の材料を分散してなる。
前記樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン等の合成樹脂;ポリイソプレンゴム、ポリスチレン・ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン・プロピレンゴム、シリコーンゴム等の合成ゴム材料;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
-樹脂前駆体-
前記誘電体層用組成物に使用可能な前記樹脂前駆体としては、前記樹脂の前駆体であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記樹脂を構成するモノマー、オリゴマー、これらの混合物などが挙げられる。
【0034】
-高損失材料-
前記高損失材料としては、高損失材料を30体積%、残部を樹脂とした条件で測定したときの比誘電率が12以下、誘電正接が0.1以下、磁気正接が0.2以上である材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、鉄粉、磁性粉などが好ましい。
前記鉄粉としては、例えば、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉、電解鉄粉、カルボニル鉄粉などが挙げられる。これらの中でも、カルボニル鉄粉がより好ましい。
【0035】
前記鉄粉、磁性粉の市販品としては、例えば、AW(アモルファス粉末・ナノ結晶粉末、エプソンアトミックス株式会社製)、KUAMET(アモルファス粉末・ナノ結晶粉末、エプソンアトミックス株式会社製)などが挙げられる。
前記カルボニル鉄粉は、真球状の粒度分布が均質な純鉄粉(例えば、平均粒径1~8μm)であり、例えば、カルボニル鉄粉 ハードグレード EW、ハードグレード EW-1、ハードグレード ES、及びハードグレード ER(いずれも、BASF社製)などが挙げられる。
【0036】
-低誘電材料-
前記低誘電材料としては、低誘電材料を30体積%、残部を樹脂とした条件で測定したときの比誘電率が4以下である材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、シリカ(SiO2)、中空ガラス、及び中空シリカの少なくともいずれかが好ましい。
【0037】
前記シリカとしては、例えば、SO-C2(粒径:0.4~0.6μm、比表面積:4~7m2/g)、SO-C1(粒径:0.2~0.4μm、比表面積:10~20m2/g)、SO-C4(粒径:0.9~1.2μm、比表面積:3~6m2/g)(いずれも、株式会社アドマテックス製)などが挙げられる。
前記中空ガラスとしては、例えば、中空ガラスビーズ SphericelTM 25P45(平均粒径:45μm、密度:0.25g/cm3)、SphericelTM 60P18(平均粒径:18μm、密度:0.60g/cm3)(いずれも、Potters-Ballotini社製)などが挙げられる。
前記中空シリカとしては、例えば、HOLLOWY-N15(日揮触媒化成株式会社製)などが挙げられる。
【0038】
前記誘電体層における前記高損失材料の含有量としては、10体積%~40体積%が好ましい。
前記誘電体層における前記低誘電材料の含有量としては、10体積%~40体積%が好ましい。
前記高損失材料及び前記低誘電材料の含有量、並びに配合比については、上述した通り、誘電体層の材料の組み合わせに応じて、無反射条件を満たす各物性値(比誘電率、比透磁率、誘電正接、及び磁気正接)を有する誘電体層となる含有量及び配合比を、適宜設定することができる。
【0039】
-その他の材料-
前記その他の材料としては、前記高損失材料及び前記低誘電材料以外の、例えば、金属粉、金属酸化物、セラミック粉、合金粉、炭素粉等のフィラーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
前記樹脂における前記その他の材料の含有量としては、特に制限はなく目的とする誘電率に応じて適宜選択することができる。
前記金属粉としては、例えば、Cu、Al、Ag、Mo、Zn、Ni、Ti、Co、Crなどが挙げられる。
前記金属酸化物としては、例えば、Fe2O3、Al2O3、ZnO、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、酸化インジウムスズ(ITO)などが挙げられる。
前記セラミック粉としては、例えば、MoSi2、ZrB2、TiN、TiC、FeCo、BaTiO3などが挙げられる。
前記合金粉としては、例えば、磁性体、非磁性体、SUS系、Fe系、Co系、Ni系などが挙げられる。
前記炭素粉としては、例えば、グラフェン、グラファイト、酸化グラフェン、炭素ナノチューブ、黒鉛などが挙げられる。
【0040】
前記誘電体層の厚みは、目的とするDip周波数と誘電体層の比誘電率により、下記式(2)により決定される。
【数2】
前記誘電体層の厚みは、Dip周波数28GHz(真空中の波長10.707mm)、かつ比誘電率が6~15の場合、0.5mm以上が好ましく、0.9mm以上がより好ましい。
【0041】
前記誘電体層の厚みは、例えば、ABSデジマチックインジケータ(装置名:ID-C112X、株式会社ミツトヨ製)によって測定することができる。
前記平均厚みは、任意の3点以上の厚みの平均値を算出することにより求めることができる。
【0042】
[誘電体層用組成物の製造方法]
前記誘電体層用組成物の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、例えば、流動性を有する状態の前記樹脂、及び前記樹脂前駆体の少なくともいずれかに、前記高損失材料、前記低誘電材料、及び必要に応じて前記その他の材料を混合して分散する方法が挙げられる。
【0043】
[誘電体層の製造方法]
前記誘電体層の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、例えば、前記誘電体層用組成物を電磁波反射層上に直接塗布して、誘電体層を形成する方法;前記誘電体層用組成物を基材上に塗布して、誘電体層を形成する方法などが挙げられる。
前記塗布する方法としては、例えば、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、プレス加工、バーコート法などが挙げられる。
前記基材としては、誘電体層から剥離可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、剥離フィルムなどが挙げられる。
前記誘電体層は、その両面をそれぞれ基材で覆って保護してもよく、片面に基材を有する誘電体層をロール状にして、前記片面の反対側の面を保護してもよい。
【0044】
[電磁波干渉吸収体の製造方法]
前記電磁波干渉吸収体の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、例えば、前記誘電体層用組成物を電磁波反射層上に直接塗布して、電磁波反射層上に誘電体層を形成する方法;基材上の前記誘電体層を電磁波反射層に貼付して、前記基材を剥離する方法などが挙げられる。
前記電磁波反射層としては、電磁波の反射層として機能し得るものを目的に応じて適宜選択することができ、例えば、所望の電子部品等の金属筐体を電磁波反射層とし、前記金属筐体上に前記誘電体層を設けてもよい。
【実施例0045】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0046】
(実施例1)
電磁波反射層として、アルミ箔(商品名:アルミシート、アズワン株式会社製、平均厚み15μm、サイズ:200mm×200mm)を用いた。
高損失材料としてのカルボニル鉄粉(ハードグレード EW、BASF社製)、及び低誘電材料としての中空ガラス(中空ガラスビーズ SphericelTM 25P45;平均粒径:45μm、密度:0.25g/cm3、Potters-Ballotini社製)を、樹脂としてのシリコーン樹脂(TSE3033、モメンティブジャパン社製)に分散させ、下記に示す配合比の誘電体層用組成物を調製した。
基材(商品名:T157、リンテック株式会社製)上に、誘電体層用組成物を塗布して誘電体層を形成し、実施例1の誘電体層を製造した。
また、電磁波反射層上に、誘電体層を貼合し、実施例1の電磁波干渉吸収体を製造した。
-誘電体層用塗布液の配合比-
カルボニル鉄粉 21.0体積%
中空ガラス 39.0体積%
シリコーン樹脂 40.0体積%
【0047】
なお、下記誘電体層の特性は、下記式(1)で表される無反射条件を満たす。高損失材料に低誘電材料を無反射条件を満たす配合比で配合することで、そのような特性を実現することができる。以下の方法により、誘電体層の材料の配合比を求めた。
具体的には、シリコーン樹脂の配合比を一定(40.0体積%)とし、カルボニル鉄粉及び中空ガラスの配合比を変えた2点以上の電磁波干渉吸収体サンプル(平均厚み1.0mm程度)を作製し、各サンプルにおける誘電体層の特性を測定した。次いで、配合比の異なるサンプルにおいて得られた特性から、誘電正接が0.01以下の場合の比誘電率、比透磁率、及び磁気正接の関係について近似式を得た。得られた近似式と、誘電正接が0.01以下の場合の無反射条件(
図4の3次元グラフで表される曲面)との交点を求めることにより、無反射条件を満たす誘電体層を形成できる、上記の誘電体層用塗布液の配合比を求めた。
【0048】
【0049】
次いで、下記式(2)に基づき、得られた誘電体層の比誘電率と、目的とするDip周波数とにより、誘電体層の厚みを求めた。
【0050】
【0051】
<評価>
作製した実施例1の誘電体層、及び電磁波干渉吸収体について、以下のように誘電体層の各パラメータ、電磁波干渉吸収体の電磁波干渉吸収特性、及び誘電体層の熱伝導率を評価した。
【0052】
誘電体層の厚みを、ABSデジマチックインジケータ(装置名:ID-C112X、株式会社ミツトヨ製)によって測定し、任意の3点の厚みの平均値を算出することにより誘電体層の平均厚みを求めた。
誘電体層の比誘電率、比透磁率、誘電正接、及び磁気正接を、ネットワークアナライザ(装置名:N5227B、KEYSIGHT社製)を用いた導波管による閉鎖系Sパラメータ方式により、導波管WR28(26.5GHz~40GHz、装置名:CM-28TB+R、KEYCOM社製)を用いて、導波管タイプSパラメータ法透過法プログラム(装置名:DMP-07、KEYCOM社製)において測定した。
【0053】
Sパラメータをネットワークアナライザ(装置名:N5227B、KEYSIGHT社製)と、対向するアンテナのあるフリースペースタイプ(装置名:DPS-24、KEYCOM社製)と、導波管WR34(21.7GHz~33GHz)又は導波管WR28(26.5GHz~40GHz)を用いて、測定した。電磁波干渉吸収体の誘電体層の表面に対して垂直に電磁波が入射するように、対抗するアンテナの間に電磁波干渉吸収体を垂直に配置した。
【0054】
誘電体層の熱伝導率は、
図5に示すように、ASTM-D5470に準拠した熱抵抗測定装置を用いて測定した。具体的には、試料Sとして厚み0.4mmの誘電体層、及び厚み1mmの誘電体層を用い、熱電対を有するヒーター(11)及び冷却シンク(12)における試料挟持面で誘電体層を挟持し、試料面積:1.24cm
2、測定環境:23℃±5℃、60%±20%RH、設定ヒーター電力:8Wにおいて、加圧シリンダー(13)により、誘電体層の厚み方向(
図5中、矢印で示す方向)に荷重2kgf/cm
2をかけて、ヒーター(11)側の試料表面温度T1と冷却シンク(12)側の試料表面温度T2とを測定することにより、ASTM-D5470に準拠した温度傾斜法により誘電体層の熱抵抗値(cm
2・K/W)を測定した。得られた熱抵抗値に基づき、熱伝導率(W/m・K)を算出した。
【0055】
-誘電体層の特性-
比誘電率 6.6
比透磁率 0.79
誘電正接 0.01以下
磁気正接 0.60
平均厚み 1.047[mm]
熱伝導率 0.58[W/mK]
【0056】
図6に、実施例1の電磁波干渉吸収体の電磁波干渉吸収特性を示す。
図6中、実線は、実施例1の電磁波干渉吸収体の実測値を示し、破線は、吸収性能20dBを示す。電磁波干渉吸収体の電磁波干渉吸収特性、及び熱伝導率の評価結果を以下に示す。
-電磁波干渉吸収体の特性-
Dip周波数 28.2[GHz]
Dip深さ -47.0[dB]
Dip帯域(-20dB以上) 4.4[GHz]
【0057】
(実施例2)
実施例1において、低誘電材料としての中空ガラスを、シリカ(SO-C2、粒径:0.4~0.6μm、比表面積:4~7m2/g、株式会社アドマテックス製)に代え、下記の配合比としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の誘電体層用組成物、誘電体層、及び電磁波干渉吸収体を製造し、電磁波干渉吸収特性、及び熱伝導率を評価した。
-誘電体層用組成物の配合比-
カルボニル鉄粉 23.7体積%
シリカ 26.3体積%
シリコーン樹脂 50.0体積%
【0058】
なお、前記式(1)で表される無反射条件を満たす、前記誘電体層の材料の配合比については、実施例1と同様の方法により求めた。
具体的には、シリコーン樹脂の配合比を一定(50.0体積%)とし、カルボニル鉄粉及びシリカの配合比を変えた2点以上の電磁波干渉吸収体サンプル(平均厚み1.0mm程度)を作製し、各サンプルにおける誘電体層の特性を測定した。次いで、配合比の異なるサンプルにおいて得られた特性から、誘電正接が0.04の場合の比誘電率、比透磁率、及び磁気正接の関係について近似式を得た。得られた近似式と、誘電正接が0.04の場合の無反射条件との交点を求めることにより、無反射条件を満たす誘電体層を形成できる、上記の誘電体層用塗布液の配合比を求めた。
【0059】
-誘電体層の特性-
比誘電率 7.3
比透磁率 0.78
誘電正接 0.04
磁気正接 0.36
平均厚み 1.0[mm]
熱伝導率 0.82[W/mK]
【0060】
図7に、実施例2の電磁波干渉吸収体の電磁波干渉吸収特性を示す。
図7中、実線は、実施例2の電磁波干渉吸収体の実測値を示し、破線は、吸収性能20dBを示す。電磁波干渉吸収体の電磁波干渉吸収特性、及び誘電体層の熱伝導率の評価結果を以下に示す。
-電磁波干渉吸収体の特性-
Dip周波数 29.0[GHz]
Dip深さ -29.6[dB]
Dip帯域(-20dB以上) 4.4[GHz]
【0061】
(比較例1)
実施例1の電磁波干渉吸収体に代えて、比較例1としてノイズ抑制熱伝導シート(商品名:E8000K、デクセリアルズ株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価を行った。
ノイズ抑制熱伝導シート(E8000K、デクセリアルズ株式会社製)は、誘電体層がシリコーン樹脂、及び磁性粉を含み、熱伝導率が2.5W/mKであった。
【0062】
実施例1~2の結果から、誘電体層において高損失材料に、無反射条件を満たす配合比で低誘電材料を配合することにより、誘電体層の比誘電率を低減することができ、1層型の電磁波干渉吸収体の高周波数のDip帯域を広帯域化できることが分かった。加えて、断熱性能が高い低誘電材料を多く配合することにより、比較例1(従来品)に比べて熱伝導率が低い、すなわち、断熱性能に優れる電磁波干渉吸収体を得ることができることが分かった。