IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 和歌山大学の特許一覧

<>
  • 特開-発電装置 図1
  • 特開-発電装置 図2
  • 特開-発電装置 図3
  • 特開-発電装置 図4
  • 特開-発電装置 図5
  • 特開-発電装置 図6
  • 特開-発電装置 図7
  • 特開-発電装置 図8
  • 特開-発電装置 図9
  • 特開-発電装置 図10
  • 特開-発電装置 図11
  • 特開-発電装置 図12
  • 特開-発電装置 図13
  • 特開-発電装置 図14
  • 特開-発電装置 図15
  • 特開-発電装置 図16
  • 特開-発電装置 図17
  • 特開-発電装置 図18
  • 特開-発電装置 図19
  • 特開-発電装置 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031637
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】発電装置
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/06 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
H02N1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135307
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】504145283
【氏名又は名称】国立大学法人 和歌山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】山本 秋斗
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 賢二
(57)【要約】
【課題】発電電力を効率的に取り出すことのできる発電装置を提供する。
【解決手段】発電装置100は、外部エネルギーの変動によって発電エネルギーが増減する発電素子1と、発電素子との間で、電流の流入と流出とが繰り返される電圧増幅回路2と、を備え、発電素子と電圧増幅回路との間で電流の流入と流出とが繰り返し生じる経路上に、負荷回路7を接続するための接続端子X,Yが配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部エネルギーの変動によって発電エネルギーが増減する発電素子と、
前記発電素子との間で、電流の流入と流出とが繰り返される電圧増幅回路と、を備え、
前記発電素子と前記電圧増幅回路との間で電流の前記流入と前記流出とが繰り返し生じる経路上に、負荷回路を接続するための接続端子が配置されている
発電装置。
【請求項2】
前記発電素子は誘電エラストマーを有し、前記外部エネルギーが与えられることによって生じる前記誘電エラストマーの伸縮に伴う静電容量の増減を利用して発電する
請求項1に記載の発電装置。
【請求項3】
前記電圧増幅回路は、自己昇圧回路を含む
請求項1に記載の発電装置。
【請求項4】
前記発電素子には、周期的に変化する前記外部エネルギーが与えられ、
前記自己昇圧回路の静電容量は、前記発電素子の静電容量の前記周期における最小値より大きい
請求項3に記載の発電装置。
【請求項5】
前記自己昇圧回路の静電容量は、前記発電素子の静電容量の前記周期における最小値の10倍以上である
請求項4に記載の発電装置。
【請求項6】
前記自己昇圧回路の静電容量は、前記発電素子の静電容量の前記周期における最小値の50倍以上である
請求項4に記載の発電装置。
【請求項7】
前記接続端子には、整流回路が接続されている
請求項1に記載の発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特開2016-158482号公報(以下、特許文献1)に開示されているように、誘電エラストマーを有する発電素子など、外部エネルギーが与えられることによって発電する発電素子が利用されている発電装置がある。このような発電装置は、環境振動発電を行う発電装置としても用いられている。誘電エラストマーを利用した場合、発電装置は、誘電エラストマーの伸縮に伴う静電容量の増減を利用して発電する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-158482号公報
【特許文献2】特表2003-526213号公報
【特許文献3】特開2008-141840号公報
【特許文献4】特開2009-273201号公報
【発明の概要】
【0004】
特許文献1に記載の発電装置は、外部エネルギーの変動によって発電エネルギーが増減する発電素子と、前記発電素子との間で、電流の流入と流出とが繰り返されることにより回路の端子間電圧が上昇する電圧増幅回路とを備えている。特許文献1の発電装置では、発電電圧がある一定値を超えた場合に電流が出力回路に流れる。
【0005】
この場合、出力回路には発電素子の電圧が増加する過程でのみ電流が流れる。そのため、発電素子の伸縮のうち、収縮する過程でしか出力回路に電力を取り出すことができない。よって、発電電力を効率的に取り出すことのできる発電装置が望まれる。
【0006】
ある実施の形態に従うと、発電装置は、外部エネルギーの変動によって発電エネルギーが増減する発電素子と、発電素子との間で、電流の流入と流出とが繰り返されることにより回路の端子間電圧が上昇する電圧増幅回路と、を備え、発電素子と電圧増幅回路との間で電流の流入と流出とが繰り返し生じる経路上に、負荷回路を接続するための接続端子が配置されている。
【0007】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態に係る発電装置の回路構成の概略図である。
図2図2は、発電装置での電流の流れを表した図である。
図3図3は、発電装置の発電素子の収縮時の電圧増幅回路の等価回路を表した図である。
図4図4は、発電素子の伸長時の電圧増幅回路の等価回路を表した図である。
図5図5は、発電素子の収縮時に負荷に供給される電荷、及び、伸長時に供給される電荷の計算方法を表した図である。
図6図6は、負荷への供給電荷量、発電素子の電圧の増加量、及び、発電素子並びに電圧増幅回路内の電荷の増加量の計算方法を表した図である。
図7図7は、発明者らによるシミュレーション結果を表した図であって、1周期あたりの負荷への供給電荷量のシミュレーション結果を表した図である。
図8図8は、発明者らによるシミュレーション結果を表した図であって、1周期あたりの発電素子の電圧の増加量のシミュレーション結果を表した図である。
図9図9は、発明者らによるシミュレーション結果を表した図であって、1周期あたりの発電素子及び電圧増幅回路の電荷の増加量のシミュレーション結果を表した図である。
図10図10は、発明者らによる実験に用いた発電装置の概略図である。
図11図11は、発明者らによる実験に用いた発電装置の発電素子に用いた誘電エラストマーの様子を示した図である。
図12図12は、発明者らによる実験に用いた発電装置の発電素子の最大静電容量及び最小静電容量の求め方を示した図である。
図13図13は、発明者らによる実験の実験結果を示す図であって、発電素子の電圧の時間応答を表した図である。
図14図14は、発明者らによる実験の実験結果を示す図であって、負荷の電圧の時間応答を表した図である。
図15図15は、比較例にかかる発電装置の概略構成図である。
図16図16は、比較例にかかる発電装置での出力回路部に電荷を供給しない期間の計算を説明するための図である。
図17図17は、初期状態の発電素子(DEG)の電圧を100[V]から1000[V]まで100[V]刻みで変化させたときの、実施の形態に係る発電装置の負荷、及び、比較例に係る発電装置の負荷それぞれで消費されるエネルギー量を表した図である。
図18図18は、他の比較例にかかる発電装置の概略構成図である。
図19図19は、他の比較例にかかる発電装置の概略構成図である。
図20図20は、他の比較例にかかる発電装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<1.発電装置の概要>
【0010】
(1)実施の形態に係る発電装置は、外部エネルギーの変動によって発電エネルギーが増減する発電素子と、発電素子との間で、電流の流入と流出とが繰り返されることにより回路の端子間電圧が上昇する電圧増幅回路と、を備え、発電素子と電圧増幅回路との間で電流の流入と流出とが繰り返し生じる経路上に、負荷回路を接続するための接続端子が配置されている。
【0011】
発電素子と電圧増幅回路との間で電流の流入と流出とが繰り返されることにより、発電素子と電圧増幅回路との経路において交流電流が流れる。その経路上に配置された接続端子に負荷回路を接続することで、負荷回路に対して、電流の流入と流出との繰り返し、つまり、交流が与えられる。そのため、発電素子と電圧増幅回路との電圧関係が特定の関係のときのみ接続端子に接続された負荷に供給する従来の発電装置と比較して、供給可能な電荷を格段に増加させることができる。つまり、発電装置は、発電電力を効率的に取り出すことができる。特許文献1に開示された従来の発電装置に対して発電電力が格段に取り出すことができることに関しては、発明者らのシミュレーションによって実証されている。
【0012】
(2)(1)の発電装置であって、好ましくは、発電素子は誘電エラストマーを有し、外部エネルギーが与えられることによって生じる誘電エラストマーの伸縮に伴う静電容量の増減を利用して発電する。誘電エラストマーが伸縮する外部エネルギーを与えることで発電装置は発電し、伸長時も収縮時も、発電による電荷を接続端子に接続された負荷に供給することができる。
【0013】
(3)(1)または(2)の発電装置であって、好ましくは、電圧増幅回路は、自己昇圧回路を含む。これにより、昇圧しながら接続端子に接続された負荷に供給することができる。
【0014】
(4)(3)の発電装置であって、好ましくは、発電素子には、周期的に変化する外部エネルギーが与えられ、自己昇圧回路の静電容量は発電素子の静電容量の周期における最小値より大きい。自己昇圧回路の静電容量が小さすぎると、漏れ電流の影響を受けやすく、発電が維持できなくなるためである。
【0015】
(5)(4)の発電装置であって、好ましくは、自己昇圧回路の静電容量は、発電素子の静電容量の周期における最小値の10倍以上である。発明者らによりシミュレーションの結果より、自己昇圧回路の静電容量をこの程度としておくことで、負荷への供給電荷量が適正となるためである。
【0016】
(6)(4)または(5)の発電装置であって、好ましくは、自己昇圧回路の静電容量は、発電素子の静電容量の周期における最小値の50倍以上である。発明者らによりシミュレーションの結果より、自己昇圧回路の静電容量をこの程度としておくことで、負荷への供給電荷量が適正となるためである。
【0017】
(7)(1)~(6)のいずれか一の発電装置であって、好ましくは、接続端子には、整流回路が接続されている。これにより、発電素子にて生じる交流電流を、直流に整流して出力回路に供給することができる。
【0018】
<2.発電装置の例>
【0019】
図1は、本実施の形態に係る発電装置100の回路構成を説明する図であって、A部分が発電装置100の概略ブロック図、B部分が発電装置100の概略回路図である。発電装置100は、発電素子1と、発電素子1に接続された電圧増幅回路2とを有する。発電素子1と電圧増幅回路2との経路上には、負荷回路7を接続するための接続端子として機能するノードX,Yが配置されている。
【0020】
発電装置100は、出力回路3に接続可能であって、出力回路3に対して、発電によって得られた電荷Qを供給する。
【0021】
発電素子1は、外部エネルギーで発電する発電素子である。発電素子1は、一例として、誘電エラストマー発電器(Dielectric Elastomer Generator:DEG)である。誘電エラストマーは、高い誘電率と弾性力とを有する高分子材料である。
【0022】
DEGは、誘電エラストマーの伸縮に伴う静電容量の増減を利用して発電する。この場合、発電素子1は、伸長変形すると静電容量が大きくなり、収縮変形すると静電容量は小さくなる。そのため、ここでの発電素子1は、可変コンデンサとしてモデル化され得る。本実施の形態においては、発電素子1はDEGであるものとし、発電素子1の収縮時とはDEGが収縮変形する外部エネルギーが与えられたときを指し、伸長時とはDEGが伸長変形する外部エネルギーが与えられたときを指す。発電素子1は、外部エネルギーの変動によって発電エネルギーが増減する。
【0023】
電圧増幅回路2はコンデンサを有し、一例として、複数のダイオードとコンデンサとによって構成される自己昇圧回路(Self-Priming Circuit:SPC)である。すなわち、電圧増幅回路2は、ノードYとノードZとの間に並列接続された、ダイオードD1,D2とコンデンサCSPC,CSPC/nとからなるユニット20-1、ダイオードD3,D4とコンデンサCSPC/2,CSPC/(n-1)とからなるユニット20-2、…、及び、ダイオードD(2nー1),D2nとコンデンサCSPC/n,CSPCとからなるユニット20-nであるn個のユニットによって構成されている。コンデンサCSPC/k(k=1,2,…n)は、静電容量がCSPCである同一のコンデンサをk個、直列接続されていることを意味している。なお、コンデンサCSPC/kは、同等の静電容量を与えるものであれば異なる構成としてもよい。
【0024】
ダイオードD2,D4,…D2n、つまり、偶数番号の添え字で表されたダイオードは、各ユニットにおいて、ノードY側をアノード、ノードZ側をカソードとして、直列接続されたコンデンサのいずれかの間に接続されている。具体的には、偶数番号の添え字で表されたダイオードは、ユニット20-1からユニット20-nの順に、偶数番号の添え字で表されたダイオードのノードY側、つまり、アノード側に直列接続されているコンデンサの数が1個,2個,…,n個と増え、ノードZ側、つまり、カソード側に直列接続されているコンデンサの数がn個,n-1個,…,1個と減るような位置に接続されている。
【0025】
ダイオードD1,D3,…D2n+1、つまり、奇数番号の添え字で表されたダイオードは、各ユニットにおいて、ノードY側をカソード、ノードZ側をアノードとして、偶数番号の添え字で表されたダイオードよりノードZ側に直列接続されているコンデンサと、隣接するユニットの偶数番号の添え字で表されたダイオードよりノードY側に直列接続されているコンデンサとを接続している。隣接するユニットは、偶数番号の添え字で表されたダイオードよりノードZ側に直列接続されているコンデンサの数が自ユニットより1つ少ない側のユニットとする。
【0026】
各ユニットがこのような構成であることによって、電流がノードYからノードZと流れたときと、ノードZからノードYに流れたときとで、電圧増幅回路2における電流の流れる経路が異なってくる。すなわち、発電素子1が圧縮時と伸長時とで電圧増幅回路2における電流の流れる経路が異なる。詳しい挙動については後述する。
【0027】
電圧増幅回路2は発電素子1に接続されて、発電素子1との間で、電流の流入と流出とが繰り返される。発電素子1との間で電流の流入と流出とが繰り返されることにより、電圧増幅回路2には、交流電流が流れる。
【0028】
発電素子1と電圧増幅回路2との間で電流の流入と流出とが繰り返し生じる経路上に、ノードX,Yが設けられている。ノードX,Yは、負荷回路7を接続するための接続端子として機能する。
【0029】
負荷回路7は、負荷31を有する出力回路3を含む。出力回路3は、コンデンサCCharge及び負荷31から構成されている。コンデンサCChargeは、出力回路3に流れ込んだ電力の蓄電及び平滑化を行う。出力回路3がノードX,Yを接続端子として発電装置100に接続されることで、出力回路3には、発電装置から交流電流が与えられる。これにより、負荷31が交流電流を要する負荷の場合に発電装置100から電気エネルギーが供給される。この場合、コンデンサCChargeは、位相補償の役割を果たす。
【0030】
好ましくは、負荷回路7は、整流回路4を含む。整流回路4は、ノードX,Yを接続端子として発電装置100に接続され、さらに、ノードP,Mを接続端子として出力回路3に接続される。整流回路4は、一例としてダイオードブリッジである。整流回路4は、発電装置100からの交流電流を整流し、直流電流を出力回路3に与える。これにより、負荷31が直流電流を要する負荷の場合にも発電装置100から電気エネルギーが供給される。なお、整流回路4は発電装置100に含まれていてもよい。
【0031】
ノードX,Yを接続端子として負荷回路7が発電装置100に接続されることによって、出力回路3は、発電素子1及び電圧増幅回路2に対して直列接続される。詳しくは、出力回路3のコンデンサCChargeは、発電素子1及び電圧増幅回路2に対して直列に接続され、負荷31はコンデンサCChargeに対して並列に接続されている。これにより、発電素子1の電圧V1と電圧増幅回路2の電圧V2との電位差により出力回路3に電流が流れる。コンデンサCChargeの静電容量は十分に大きく、負荷31の電圧V3はほぼ一定とする。
【0032】
図2は、発電装置100での電流の流れを表した図である。発電装置100では、発電素子1が収縮、伸長することによって発電素子1の静電容量が変化し、発電素子1の電圧V1が変化する。図1の回路において、発電素子1の電圧V1が増加して電圧増幅回路2の電圧V2より大きくなり、その差分が負荷31の電圧V3より大きくなると(V1-V2>V3)、図2の流れL1に沿ってノードX→P→M→Y→Zの方向に電流が流れる。発電素子1の電圧V1が減少して電圧増幅回路2の電圧V2より小さくなり、その差分が負荷31の電圧V3より大きくなると(V2-V1>V3)、図2の流れL2に沿ってノードY→P→M→X→Zの方向に電流が流れる。
【0033】
発電装置100では、発電素子1が収縮、伸長を繰り返すことで、流れL1での電流、及び、流れL2での電流が繰り返し生じる。その結果、発電装置100では、発電素子1と電圧増幅回路2との間で電流の流入と流出とが繰り返し生じ、その経路上に接続された負荷回路7に交流電流が流れる。これにより、発電装置100では、発電素子1の収縮時も伸長時も負荷31に電荷が供給される。
【0034】
図3及び図4は、発電装置100の動作を説明するための図であって、発電素子1の収縮時の電圧増幅回路2の等価回路、及び、発電素子1の伸長時の電圧増幅回路2の等価回路を表した図である。
【0035】
発電素子1の収縮時、すなわち、図3の流れL1での電流が生じて電圧増幅回路2に対してノードYからノードZの方向に電流が流れるとき、電圧増幅回路2は、第1の状態ST1となる。第1の状態ST1の電圧増幅回路2では、図3に示されたように、ダイオードD1,D3,…,D(2n+1)がOFFとなり、ダイオードD2,D4,…,D2nがONになる。その結果、第1の状態ST1の電圧増幅回路2は、図3の、n+1個の直列コンデンサがn個並列接続された回路と等価となる。
【0036】
発電素子1の伸長時、すなわち、流れL2での電流が生じて電圧増幅回路2に対してノードZからノードYの方向に電流が流れるとき、電圧増幅回路2は、第2の状態ST2となる。第2の状態ST2の電圧増幅回路2では、図4に示されたように、ダイオードD1,D3,…,D(2n+1)がONとなり、ダイオードD2,D4,…,D2nがOFFになる。その結果、第2の状態ST2の電圧増幅回路2は、図4の、n個の直列コンデンサがn+1個並列接続された回路と等価となる。
【0037】
発電装置100においては、発電素子1に対して周期的に変化する外部エネルギーが与えられる。これにより、発電素子1は、収縮と伸長とを周期的に繰り返す。その結果、発電装置100では、流れL1での電流、及び、流れL2での電流が繰り返し生じる。すなわち、発電素子1と電圧増幅回路2との間で電流の流入と流出とが繰り返し生じる。発電素子1が周期Tで収縮と伸長とを繰り返すと、発電素子1の静電容量は、最大静電容量Cmaxと最小静電容量Cminとの間で周期Tに変化する。
【0038】
発明者らは、発電装置100の特性を表す指標として、1周期あたりの、負荷31への供給電荷量Qout、発電素子1の電圧V1の増加量Vinc、及び、発電素子1並びに電圧増幅回路2内の電荷の増加量Qincをシミュレーションにより計算し、それぞれの指標の理論値を得た。
【0039】
供給電荷量Qout、増加量Vinc、及び、電荷の増加量Qincについて、図5及び図6を用いて説明する。図5は、発電素子1の収縮時に負荷31に供給される電荷量Q1、及び、伸長時に供給される電荷量Q2の計算方法を表した図である。図6は、供給電荷量Qout、増加量Vinc、及び、電荷の増加量Qincの計算方法を表した図である。なお、以下の説明において、発電素子1の静電容量が時刻TAで最大静電容量Cmaxとなるとし、時刻TAから時刻TA+Tまでを1サイクルとする。1サイクルのうちの時刻TBで最小静電容量Cminとなるものとする。
【0040】
発電素子1が最小静電容量Cminとなった時刻TB-Tから発電素子1が最大静電容量Cmaxとなる時刻TAまでの期間t1、つまり、TB-T≦t1≦TAを満たす期間t1において、発電素子1の静電容量は増加し、発電素子1の電圧V1が減少する。そのため、電流はノードYからノードXの向きに流れる。つまり、電圧増幅回路2側から発電素子1へ電荷が供給される。
【0041】
時刻TA、つまり、発電素子1の静電容量が最大静電容量Cmaxとなった時刻においては、電圧増幅回路2から発電素子1へ電荷の供給が完了する。時刻TAにおいて電圧増幅回路2は図3の第2の状態ST2となる。時刻TAから時刻TA+Tまでを1サイクルとするとき、第2の状態ST2が電圧増幅回路2の初期状態となる。
【0042】
このとき、キルヒホッフの電圧則より、図5の式(1)が成立する。式(1)において、V1(TA),V2(TA)は、それぞれ、時刻TAにおける発電素子1の電圧V1及び電圧増幅回路2の電圧V2を指す。
【0043】
発電素子1が最大静電容量Cmaxとなった時刻TAから発電素子1が最小静電容量Cminとなる時刻TBまでの期間t2、つまり、TA<t2≦TBを満たす期間t2において、発電素子1の静電容量は減少し、発電素子1の電圧V1が増加する。電圧V1が増加して電圧増幅回路2の電圧V2より大きくなり、その差分が負荷31の電圧V3より大きくなると(V1-V2>V3)、電流はノードXからノードYの方向に流れる。つまり、発電素子1側から電圧増幅回路2へ電荷が供給される。
【0044】
時刻TB、つまり、発電素子1の静電容量が最小静電容量Cminとなると、発電素子1から電圧増幅回路2へ電荷の供給が完了する。時刻TBにおいて電圧増幅回路2は第2の状態ST2から第1の状態ST1となる。
【0045】
このとき、キルヒホッフの電圧則より、図5の式(2)が成立する。式(2)において、V1(TB),V2(TB)は、それぞれ、時刻TBにおける発電素子1の電圧V1及び電圧増幅回路2の電圧V2を指す。
【0046】
期間t2において発電素子1から負荷31に供給された電荷量Q1、すなわち、発電素子1の収縮時に負荷31に供給された電荷量Q1は、図5の式(3)で表される。発電素子1及び電圧増幅回路2は出力回路3に対して直列接続されていることから、電荷量Q1は、発電素子1の電荷の時刻TAからの減少量と等しく、かつ、電圧増幅回路2の電荷の時刻TAからの増加量と等しいためである。
【0047】
式(1)~式(3)より、図5の式(4)が得られ、式(4)に式(3)を代入することによって図5の式(5)のように電荷量Q1が求められる。
【0048】
発電素子1が最小静電容量Cminとなった時刻TBから発電素子1が最大静電容量Cmaxとなる時刻TA+Tまでの期間t3、つまり、TB≦t3≦TA+Tを満たす期間t3において、発電素子1の静電容量は増加し、発電素子1の電圧V1が減少する。発電素子1の電圧V1が減少して電圧増幅回路2の電圧V2より小さくなり、その差分が負荷31の電圧V3より大きくなると(V2-V1>V3)、電流はノードYからノードXの方向に流れる。時刻TB、つまり、発電素子1の静電容量が最小静電容量Cminとなった時刻においては、キルヒホッフの電圧則より、図5の式(6)が成立する。式(6)において、V1(TA+T),V2(TA+T)は、それぞれ、時刻TA+Tにおける発電素子1の電圧V1及び電圧増幅回路2の電圧V2を指す。
【0049】
期間t3において発電素子1から負荷31に供給された電荷量Q2、すなわち、発電素子1の伸長時に負荷31に供給された電荷量Q2は、図5の式(7)で表される。電荷量Q2は、電圧増幅回路2の電荷の時刻TBからの減少量と等しく、かつ、発電素子1の電荷の時刻TBからの増加量と等しいためである。
【0050】
式(2),(6),(7)より、図5の式(8)が得られ、式(7)に式(8)を代入することによって図5の式(9)のように電荷量Q2が求められる。
【0051】
シミュレーションにより算出する供給電荷量Qoutは、時刻TAから時刻TA+Tの1周期において負荷31に供給された電荷量であることから、図6の式(10)で表される。供給電荷量Qoutは、式(10)に式(5)及び式(9)での計算結果を代入することによって得られる。
【0052】
なお、供給電荷量Qoutが正になるためには、図6の式(11)、(12)に表されたように、少なくとも、式(5)のV1(TA)の係数、及び、式(9)のV1(TB)の係数が、いずれも正でなくてはならない。これら係数が正である条件は、分子が正であればよく、いずれも、発電素子1の静電容量変化比γ、すなわち、最大静電容量Cmaxと最小静電容量Cminとの比率(γ=Cmax/Cmin)を用いて、図6の式(13)で表される。
【0053】
式(13)より、発電のために必要な発電素子1の静電容量変化比γは電圧増幅回路2に含まれるユニット数nに関係していることが分かる。すなわち、ユニット数nが1のとき(n=1)、供給電荷量Qoutが正になるためには、静電容量変化比γは2より大きい(γ>2)という条件を満たす必要がある。ユニット数nが増大するとともに、その条件は、静電容量変化比γが1より大きい(γ>1)という条件に近づく。この結果より、発電素子1の伸縮が小さい場合でもユニット数nを大きくすることで発電装置100での発電が得られるようになることがわかる。
【0054】
シミュレーションにより算出する1周期当たりの発電素子1の電圧V1の増加量Vincは図6の式(14)によって得られる。なお、右辺二番目の等式は、負荷31の電圧V3が一定であることによるものである。
【0055】
時刻TA+Tにおいて電圧増幅回路2は第2の状態ST2であるので、電圧増幅回路2の合成静電容量はCSPC/n×(n+1)となる。そのため、発電素子1及び電圧増幅回路2内の電荷の増加量Qincは、式(14)を用いて図6の式(15)で得られる。
【0056】
シミュレーションでは、電圧増幅回路2に含まれるユニット数n、発電素子1の最小静電容量Cminおよび最大静電容量Cmax、電圧増幅回路2に含まれるコンデンサの静電容量CSPC、発電素子1の時刻TAでの電圧V1(初期電圧)、並びに、負荷31の電圧V3をパラメータとし、式(10)、式(14)、及び、式(15)を用いて、1周期あたりの、負荷31への供給電荷量Qout、発電素子1の電圧V1の増加量Vinc、並びに、発電素子1及び電圧増幅回路2の電荷の増加量Qincをシミュレーションにより計算した。
【0057】
図7図9は、発明者らによるシミュレーション結果を表した図であって、それぞれ、1周期あたりの、負荷31への供給電荷量Qout、発電素子1の電圧V1の増加量Vinc、及び、電荷の増加量Qincのシミュレーション結果を表した図である。各シミュレーションにおいては、電圧増幅回路2のユニット数nをn=2,3,4,5とし、それぞれのnについて、電圧増幅回路2のコンデンサCSPCの静電容量を変化させた。
【0058】
発電素子1の最大静電容量Cmaxを4.39[nF]、最小静電容量Cminを2.26[nF]とした。この場合、発電素子1の最大静電容量Cmaxと最小静電容量Cminとの比率(γ=Cmax/Cmin)はγ=1.94となるため、電圧増幅回路2のユニット数nを2以上(n≧2)とすることで図6の式(13)の条件、つまり、供給電荷量Qoutを正とする条件を満たす。また、発電素子1の初期電圧V1(TA)=120[V]、負荷31の電圧V3=5[V]とした。
【0059】
図7の結果より、電圧増幅回路2のユニット数nがいずれの値の場合においても、負荷31への供給電荷量Qoutは、コンデンサCSPCの静電容量の増加に伴い、対数関数的に増加する。また、供給電荷量Qoutの変化を表す曲線は、ユニット数nの増加とともに上側にシフトしているため、同一の静電容量においては、ユニット数nの増加に伴い供給電荷量Qoutが増加する。供給電荷量Qoutの増加の幅は、ユニット数nの増加とともに徐々に小さくなる。
【0060】
図8の結果より、電圧増幅回路2のユニット数nがいずれの値の場合においても、発電素子1の電圧V1の増加量Vincは、比較的小さな静電容量で最大値となり、その後、指数関数的に減少していく。これにより、急速な電圧増幅が求められる従来の降圧型の発電回路では、比較的小さな静電容量が採用されているのがわかる。シミュレーションで変化させたユニット数nのうちでは、ユニット数nが3のときに全静電容量において増加量Vincは最大となる。
【0061】
図9の結果より、電圧増幅回路2のユニット数nがいずれの値の場合においても、電荷の増加量Qincは供給電荷量Qoutと同様に、コンデンサCSPCの静電容量の増加に伴い、対数関数的に増加する。増加量Vincと同様に、シミュレーションで変化させたユニット数nのうちでは、ユニット数nが3のときに全静電容量において増加量Qincは最大となる。なお、増加量Vinc及び増加量Qincにおいて、最大となるユニット数nの値は発電素子1の最大静電容量Cmaxと最小静電容量Cminとの比率(γ=Cmax/Cmin)の値により異なる。
【0062】
発電装置100では、発電素子1の電圧V1と電圧増幅回路2の電圧V2との電位差により出力回路3に電荷を供給する。そのため、発電装置100では、発電素子1の電圧V1の増加量Vincに極端に大きな値は不要となる。図7及び図9の結果より、電圧増幅回路2のユニット数nがいずれの値でも、負荷31への供給電荷量QoutのコンデンサCSPCの静電容量の増加に伴う変化の仕方と、電荷の増加量Qincの変化の仕方とは、同様に、対数関数的な変化である。
【0063】
一方で、コンデンサCSPCの静電容量が発電素子1の最小静電容量Cminの100倍程度に大きくなると供給電荷量Qoutも電荷の増加量Qincも上限に達する。そのため、コンデンサCSPCの静電容量は、発電素子1の最小静電容量Cminより大きい。好ましくは、コンデンサCSPCの静電容量は、発電素子1の最小静電容量Cminの10倍以上である。より好ましくは、コンデンサCSPCの静電容量は、発電素子1の最小静電容量Cminの50倍以上である。また、図8及び図9の結果より、ユニット数nは、好ましくは3以上である。
【0064】
発明者らは、発電装置100の有効性を検証する実験を行った。実験では、図10の発電装置100Aを用いた。発電装置100Aの発電素子1Aは、いわゆる、純伸長型DEG発電回路である。
【0065】
誘電エラストマーには、3M社製のVHB4905(幅8[cm]、長さ10[cm]、厚さ0.5[mm])を用いた。発電素子1Aは、図11のように、誘電エラストマーを幅方向に約2倍、長さ方向に約1.3倍のプリテンションを加えて往復スライダ加振装置に取り付け、柔軟電極として両面に信越化学工業社製のシリコンカーボングリス(KS-660)を塗布した物を用いた。発電素子1Aの振動幅は20[cm]であり、適当な周期で正弦波加振することが可能である。
【0066】
発電素子1Aの最大静電容量Cmax及び最小静電容量Cminは、それぞれ、4.39[nF]、2.26[nF]である。これらの値は、図12のように、発電素子1Aを周期2秒で60秒間加振して静電容量の変化を計測し、各周期の最大値と最小値との平均より求めた。
【0067】
電圧増幅回路2のユニット数nは、図7及び図9のシミュレーション結果より3とした。コンデンサCSPCの静電容量は、図7及び図9のシミュレーション結果より、増加量Qinc及び供給電荷量Qoutが概ね上限値に達する0.33[μF]とした。コンデンサCSPCには、東信工業社製のメタライズドポリエステルフィルムコンデンサ(耐圧250[V])を用いた。電圧増幅回路2及び出力回路3に含まれるダイオードは、いずれも、1N4004とした。出力回路3に含まれるコンデンサCChargeは、東信工業社製の電解コンデンサ(47[μF]、耐圧50[V])を用い、予め5[V]程度に充電(V3=5[V])した後に実験を開始した。
【0068】
実験に用いた発電装置100Aは、さらに、発電素子1及び電圧増幅回路2に初期充電を行うための充電用回路5を有する。初期充電用の直流電源は、ノードZに対し逆流防止用のダイオードを介してノードMに接続されている。充電用回路5のスイッチをONすると、整流用のダイオードブリッジの下二つがONになる。これにより、ノードXとノードYとに同時に電源電圧が印加される。この時の電圧増幅回路2は等価回路が第1の状態ST1となり、各コンデンサCSPCに40[V]が印加される。
【0069】
発電素子1が伸長状態となるとき(時刻TA)、電圧増幅回路2は等価回路が第2の状態ST2となる。そのため、ノードYとノードZとの間の電圧は120[V]となる。コンデンサCSPCの静電容量は発電素子1の最大静電容量Cmax及び最小静電容量Cmin以上であるので、電圧増幅回路2に発電素子1が接続されていてもノードYとノードZとの間の電圧はほぼ変化しないと考えられる。そのため、発電素子1の初期電圧として、ノードYとノードZとの間の電圧からコンデンサCChargeの電圧を減じた、V1(TA)=115[V]程度を与えたこととなる。なお、この電源は発電開始時のみ必要であり、初期充電の後はスイッチをOFFして取り外した。
【0070】
発電のために発電素子1に加えた振動の周期Tは2[sec]とし、300周期間の測定を行った。発電素子1の電圧V1の測定装置M1には、入力インピーダンスが大きい(2×1014[Ω])ADCMTデジタルエレクトロメータ8252を用いた。コンデンサCChargeの電圧V3の測定装置M2には、Keysight Technologiesデジタルマルチメータ34410Aを、入力インピーダンスが10[GΩ]以上であるハイインピーダンスモードにして用いた。
【0071】
図13及び図14は、実験結果を示す図である。図13は、発電素子1Aの電圧V1の時間応答を表している。図14は、負荷31の電圧V3の時間応答を表している。図13及び図14の結果より、電圧V1及び電圧V3は、いずれも、時間経過に従って増加している。その結果、非常に長い周期T=2[sec]であっても、発電装置100は、発電に必要な電圧を維持しながら負荷31へ電荷を供給していることが確認された。
【0072】
図13で得られた発電素子1Aの電圧V1の各周期における下限値より、発電素子1Aの電圧V1の1周期あたりの増加量Vincを計算することができる。電圧V1の各周期における下限値は、電圧V1(TA)に相当する。図13より、電圧V1(TA)は、初期時刻における電圧値114.4[V]から、最終時刻(300周期後)における電圧値125.2[V]まで増加している。この変化量に基づいて1周期当たりの変化量を算出すると、発電素子1Aの電圧V1の増加量Vinc=0.036[V]が得られる。
【0073】
同様に、図14で得られた負荷31の電圧V3の各周期における下限値より、負荷31への1周期あたりの供給電荷量Qoutを計算することができる。図14より、電圧V3は、初期時刻における電圧値4.89[V]から、最終時刻(300周期後)における電圧値5.91[V]まで増加している。この変化量に基づいて1周期当たりの変化量を算出すると、負荷31への供給電荷量Qout=165[nC]が得られる。
【0074】
発明者らは、図13及び図14の測定結果を検証するため、得られた測定結果である増加量Vinc=0.036[V]及び供給電荷量Qout=165[nC]を、上のシミュレーションによって計算された理論値である増加量Vinc=0.103[V]及び供給電荷量Qout=274[nC]と比較した。
【0075】
その結果、供給電荷量Qoutの測定値は、理論値に対しておよそ60%であった。出力回路3の蓄電・平滑化用コンデンサCChargeや測定装置M2の漏れ電流を考慮すると、発電装置100が出力回路3に実際に出力した電荷量はもう少し多いと考えられる。電圧の増加量Vincの測定値は、理論値に対しておよそ35%であった。これより、65%程度がコンデンサCSPCの漏れ電流の補償に使われたと考えられる。従って、発電装置100では、概ね、理論値に近い発電がなされ、電荷の供給が可能であることが検証された。
【0076】
図15は、比較例にかかる発電装置200の概略構成図であって、特許文献1に示されたツェナー降圧型DEG回路の概略構成図である。発電装置100の負荷31への供給電荷量について、図15の従来の発電装置200での供給電荷量と比較する。
【0077】
比較例にかかる発電装置200は、可変コンデンサでモデル化されるDEGと自己昇圧回路(SPC)とが接続されて構成される発電回路部10と、逆流防止ダイオードとツェナーダイオードとで構成される降圧回路部40とを有する。発電装置200においては、コンデンサと負荷とで構成される出力回路部30が、発電回路部10に対して、並列に接続され、発電装置100と回路構成が異なる。SPCの構成は、発電装置100の電圧増幅回路2と同じであってよい。
【0078】
発電装置200では、発電装置100と同様にDEGに周期的に変化する外部エネルギーを与えた場合、出力回路部30に電荷が供給される期間と供給されない期間とが周期的に発生する。すなわち、発電装置200では、1周期において出力回路部30に電荷が供給されない期間が存在する。図16は、発電装置200での出力回路部30に電荷を供給しない期間の計算を説明するための図である。
【0079】
発電装置200ではDEGとSPCとが並列接続されているためDEGの電圧V4とSPCの電圧V5とは等しく、図16の式(21)で表される。また、発電回路部10からの出力電荷量Qout'は、出力回路部30に供給される電荷と等しい。ツェナーダイオードの降伏電圧V6、及び、出力回路部30に含まれる負荷の電圧V7を用いると、発電回路部10から出力回路部30に電荷が供給されるタイミング、つまり、出力電荷量Qout'が生じるタイミングは、V4>V6+V7になるタイミングである。このタイミングは、DEGの電圧V4が増加するときであって、言い換えると、DEGの最大静電容量Cmaxが最小静電容量Cminに変化する過程の、時刻TAから時刻TBの期間である。
【0080】
時刻TAから時刻TBの期間におけるDEGの電荷の減少量は、SPCの電荷の増加量と出力回路部30への出力電荷量との和に等しい。従って、図16の式(22)が成立する。時刻TBでは、ツェナーダイオードの降伏電圧V6と負荷の電圧V7の和がDEGの電圧V4と等しくなる。そのため、図16の式(23)が成立する。式(21),(23)を式(22)に代入することで、1周期あたりの出力電荷量Qout'が図16の式(24)で得られる。
【0081】
式(24)で得られる出力電荷量Qout'が正であるときに、出力回路部30に電荷が供給される。出力電荷量Qout'が正であることは、式(24)より、図16の式(24-1)で表される。式(24-1)より、発電装置200では、出力回路部30に電荷を供給するためには図16の式(25)を満たすようにDEGの電圧V4を昇圧する必要がある。
【0082】
時刻TBから時刻TAの期間においては、DEGの静電容量が増加し、DEGの時刻TA+Tでの電圧V4(TA+T)は時刻TBでの電圧V4(TB)より低下する。そのため、発電装置200では、時刻TBから時刻TAの期間において出力回路部30に電荷が供給されない。
【0083】
時刻TBから時刻TAの期間においては、DEGの電荷増加量はSPCの電荷減少量と等しくなる。そのため、図16の式(26)が成立する。式(26)に式(21),(23)を代入することで、式(27)が得られる。
【0084】
ツェナーダイオードの降伏電圧V6、及び、負荷の電圧V7が一定であるとすると、時刻TA+TのDEGの電圧V4(TA+T)も一定である。また、定常状態では、時刻TA+TのDEGの電圧V4(TA+T)は時刻TAのDEGの電圧V4(TA)(初期状態のDEGの電圧V4)と等しい。そこで、V4(TA+T)=V4(TA)と式(24),(27)より、1周期あたりの負荷への出力電荷量Qout'は、時刻TAのDEGの電圧V4(TA)を用いて図16の式(28)で表される。
【0085】
本実施の形態に係る発電装置100を比較例に係る発電装置200と比較する際、発電装置100でのシミュレーションと同様に、発電装置100の発電素子1及び発電装置200のDEGの最大静電容量Cmaxを4.39[nF]、最小静電容量Cminを2.26[nF]とした。発電装置100の電圧増幅回路2のユニット数nを3とした。発電装置100のコンデンサCSPCの静電容量は出力量の上限値付近となる0.33[μF]、発電装置200のコンデンサCSPCの静電容量は図8でピーク値となる3.3[nF]とした。
【0086】
図17は、初期状態の発電素子1(DEG)の電圧を100[V]から1000[V]まで100[V]刻みで変化させたときの、発電装置100の負荷31、及び、発電装置200の負荷それぞれで消費されるエネルギー量を表した図である。負荷の電圧は、いずれも5[V]とした。図17のエネルギー量R1は発電装置100の負荷31でのエネルギー量、エネルギー量R2は発電装置200の負荷でのエネルギー量を表している。
【0087】
エネルギー量R1,R2は、いずれも、発電素子1(DEG)の電圧の増加に対して線形的に増加している。一方で、発電素子1(DEG)の電圧がいずれのときにも、エネルギー量R1の方がエネルギー量R2よりも大きい。発電素子1(DEG)の電圧が増加するほど、エネルギー量R1とエネルギー量R2とが大きくなる。例えば、エネルギー量R1とエネルギー量R2とを比較して、発電素子1(DEG)の電圧が100[V]のときに10.8倍、1000[V]のときに13.2倍である。
【0088】
図17の結果より、本実施の形態に係る発電装置100は、従来の発電装置と比較して格段にエネルギー供給量が多いことが示された。また、発電素子1の電圧が高くなるほど、従来の発電装置よりもエネルギー供給量が多くなることが示された。つまり、本実施の形態に係る発電装置100は、発電電力を効率的に取り出すことのできる発電装置であると言える。
【0089】
図18は、比較例にかかる発電装置300の概略構成図であって、特許文献2に示された回路の概略構成図である。発電装置300は、発電素子を有するトランスデューサー600が減少する際には、トランスデューサー600と、昇圧回路602及び電池601で構成される電流供給源と、負荷618及びコンデンサ619で構成される出力回路とが直列接続されており、発電装置100と回路構成が異なる。
【0090】
発電装置300では、トランスデューサー600の静電容量が減少するときのみ直列接続となり、静電容量が増加するときには負荷が回路から切り離される。そのため、発電装置300でも発電装置200と同様に、トランスデューサー600の静電容量が減少するときのみ負荷に電荷が供給され、静電容量が増加するときには負荷に電荷が供給されない。よって、発電装置200と同様に、発電装置100の方が、エネルギー供給量が格段に大きいと言える。
【0091】
また、発電装置300では、トランスデューサー600からの漏れ電流を、電池601を含む昇圧回路を用いてアクティブ供給するものである。それに対して、本実施の形態に係る発電装置100では、発電素子1の電圧V1が低下しないことから、電圧増幅回路2はスイッチング素子や電池などのアクティブ要素を不要として、発電素子1での漏れ電流以上の電流を供給可能であることが示されている。
【0092】
図19は、比較例にかかる発電装置400の概略構成図であって、特許文献3に示された回路の概略構成図である。発電装置400は、電場応答性高分子(EPAM)120と発電装置100と負荷170とがスイッチS2,S3を介して接続されており、スイッチS2が閉じ、スイッチS3が開いている場合は、これらが直列接続となり、逆の場合は、負荷は切り離された状態となる。そのため、発電装置400でも発電装置200と同様に、スイッチS2が閉じスイッチS3が開いている場合のみ負荷170に電荷が供給され、そうでないときには負荷170に電荷が供給されない。よって、発電装置200と同様に、発電装置100の方が、エネルギー供給量が格段に大きいと言える。
【0093】
図20は、比較例にかかる発電装置500の概略構成図であって、特許文献4に示された回路の概略構成図である。発電装置500は、昇圧回路、発電素子、降圧回路、及び、負荷が並列接続されており、発電装置100と回路構成が異なる。
【0094】
以上にように、本実施の形態に係る発電装置100は、図18図20に示された他の比較例に係る発電装置とも構成が異なるものである。また、そのために、本実施の形態に係る発電装置100は、負荷に供給するエネルギー量が比較例に係る発電装置よりも多く、発電電力を効率的に取り出すことのできる発電装置である。
【0095】
<3.付記>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 :発電素子
1A :発電素子
2 :電圧増幅回路
3 :出力回路
4 :整流回路
5 :充電用回路
7 :負荷回路
10 :発電回路部
20-1 :ユニット
20-2 :ユニット
20-n :ユニット
30 :出力回路部
31 :負荷
40 :降圧回路部
100 :発電装置
100A :発電装置
170 :負荷
200 :発電装置
300 :発電装置
400 :発電装置
500 :発電装置
600 :トランスデューサー
601 :電池
602 :昇圧回路
618 :負荷
619 :コンデンサ
SPC :コンデンサ
Cmax :最大静電容量
Cmin :最小静電容量
D :ダイオード
D1 :ダイオード
D2 :ダイオード
D3 :ダイオード
D4 :ダイオード
M :ノード
M1 :測定装置
M2 :測定装置
P :ノード
Q :電荷
Q1 :電荷量
Q2 :電荷量
Qinc :増加量
Qout :供給電荷量
Qout' :出力電荷量
R1 :エネルギー量
R2 :エネルギー量
S2 :スイッチ
S3 :スイッチ
ST1 :第1の状態
ST2 :第2の状態
SW :スイッチ
T :周期
V1 :電圧
V2 :電圧
V3 :電圧
V4 :電圧
V5 :電圧
V6 :降伏電圧
V7 :電圧
Vinc :増加量
X :ノード
Y :ノード
Z :ノード
n :ユニット数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20