(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031648
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20240229BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135325
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】522103834
【氏名又は名称】株式会社プロジェニサイトジャパン
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徐 綾
(72)【発明者】
【氏名】川野 文勝
(72)【発明者】
【氏名】岡野 勇佑
(72)【発明者】
【氏名】ルーモンシェン
【テーマコード(参考)】
2G043
4B029
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043CA03
2G043DA02
2G043DA05
2G043EA01
2G043GA01
2G043JA02
2G043KA02
2G043LA01
4B029AA23
4B029BB20
4B029FA03
4B029FA12
(57)【要約】
【課題】小型かつ安価であり、測定感度が良好である、光学系を用いた検査装置を提供すること。
【解決手段】異軸光学系と、前記異軸光学系によって測定される試料が収容されるチャンバと、を備え、前記異軸光学系は、前記試料に光を照射するための光源、前記試料から放射される光を検出するための検出器、および、前記試料と前記検出器との間に設けられる複数のバンドパスフィルタを有し、前記複数のバンドパスフィルタは、ハードコート型の第1バンドパスフィルタ、および、吸収型の第2バンドパスフィルタを含む、検査装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異軸光学系と、
前記異軸光学系によって測定される試料が収容されるチャンバと、を備え、
前記異軸光学系は、前記試料に光を照射するための光源、前記試料から放射される光を検出するための検出器、および、前記試料と前記検出器との間に設けられる複数のバンドパスフィルタを有し、
前記複数のバンドパスフィルタは、ハードコート型の第1バンドパスフィルタ、および、吸収型の第2バンドパスフィルタを含む、検査装置。
【請求項2】
前記吸収型の第2バンドパスフィルタは、前記第1バンドパスフィルタよりも前記検出器側に設けられる、請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
さらに、PCR装置を含む、請求項1に記載の検査装置。
【請求項4】
前記試料は増幅された核酸を含む、請求項1に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子検査は、病原性ウィルスまたは各種病原体の検査を含む各種の医学分野における検査、農作物または病原性微生物の同定、食品の安全性評価などに、広く活用されている。なお、遺伝子検査においては、遺伝子の本体である微小量の核酸を高感度に検出するために、核酸の一部をポリメラーゼ連鎖反応(PCR:Polymerase Chain Reaction)等によって増幅し、増幅された核酸断片を同定する方法が知られている。
【0003】
このような遺伝子検査等では、PCR装置、光学系等を備える測定機器(リアルタイムPCR装置)が用いられる。リアルタイムPCR(real-time PCR)は、PCRによる核酸複製過程をリアルタイムに測定する手法である。PCR産物をサイクル毎にモニターするため増幅産物の定量ができ、また検出も兼ねているため、アガロースゲルを使用した核酸断片の確認操作を省けるといった利点がある。定量的PCRなどと呼ばれることもある。
【0004】
リアルタイムPCR装置において、一般的には、PCR産物に付加された蛍光物質の蛍光が、同軸光学系を用いて測定される。PCR産物等の測定対象物が収容された容器の表面に対して垂直に励起光を照射する方が、励起光の容器の表面での反射光の量を低減することで蛍光の測定の際のノイズを低減すると同時にPCR産物への光の到達を最大限に高めるためである。しかし、このような同軸光学系は、測定対象物に照射される励起光と測定対象物から放出される蛍光とをプリズム(ハーフレンズ)で分離する必要があるため、複雑な構造を有する。
【0005】
また、PCR測定器で測定される極微量の核酸(PCR産物)に対して、光学系の測定感度を高めるためには、励起光をなるべく拡散しない収束光とするためのレンズ、および、拡散する蛍光を強制的に収束させるためのレンズも必要である。このようなレンズを有する複雑な光学系は、小型化が難しく、また高価である。
【0006】
このため、同軸光学系を用いたPCR測定器等の検査装置は、一般に、測定感度を低下させずに小型化することが困難であり、高価である。また、プリズム等を備える同軸光学系を用いた検査装置は、構造が脆弱であるという弱点を有し、屋外に持ち出すことのできる可搬性の小型検査装置には適さない。
【0007】
しかしながら、近年、様々なF状況での検査を可能とするために、PCR測定器等の検査装置を小型化すること、および、可搬性とすることが要望されている。
【0008】
例えば、上記のプリズム、レンズ等を用いずに、光ファイバーを用いることにより小型化されたPCR測定器が開発されている(特許文献1:特開2012-37355号公報、PicoGene(登録商標) PCR1100:日本板硝子株式会社)。このPCR測定器では、光ファイバーを測定対象物が収容された容器に密着させることで、測定感度(S/N比)を高めている。しかし、光ファイバーの光は点照射であり、点状の光を該容器の所定の場所に照射するために該容器は高精度の形状を必要とし、そのような容器は高価である。
【0009】
また、例えば、非特許文献1(Yusuke Kimura et.al., The development of real-time PCR micro device with optical sensor for early detection of cancer, 2016 IEEE, p.p.5737-5740)には、異軸光学系を用いることにより小型化されたリアルタイムPCR測定器が開示されている(Figure.3および4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Yusuke Kimura et.al., The development of real-time PCR micro device with optical sensor for early detection of cancer, 2016 IEEE, p.p.5737-5740
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
異軸光学系を用いたPCR測定器等の検査装置では、測定対象物が収容された容器の表面に対して斜め方向(該表面の垂直方向に対して所定の角度をなす方向)から励起光が照射される。このため、励起された蛍光を励起光の光源とは別の方向で検出でき、プリズム(ハーフミラー)等が不要である。これにより、装置の小型化が可能である。
【0013】
しかしながら、異軸光学系では、励起光が容器の表面に対して斜め方向から照射されるため、測定側でのノイズとなる容器の表面での反射光の量が増加し、そのノイズ量に対する検出すべき蛍光の量の比率(S/N比)が低下するため、測定感度が低下してしまう。また、異軸光学系では、複雑な反射光が発生する。また、試料(測定対象物)の受光面、および、試料を収容するチャンバー(試料容器)の受光面の角度の変化が蛍光および反射光の出射角度に大きく影響する。そのような誤差要因によって、測定精度が低下しやすい。
【0014】
したがって、異軸光学系を用いた検査装置では、一般的に十分な測定感度を得ることが難しいという問題がある。特に、PCR測定器のように、核酸のような微量の測定対象物に対して十分な測定感度を得る必要がある検査装置において、この問題は重要である。
【0015】
本発明は、上記の課題に鑑み、小型かつ安価であり、測定感度が良好である、光学系を用いた検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
異軸光学系と、
前記異軸光学系によって測定される試料が収容されるチャンバと、を備え、
前記異軸光学系は、前記試料に光を照射するための光源、前記試料から放射される光を検出するための検出器、および、前記試料と前記検出器との間に設けられる複数のバンドパスフィルタを有し、
前記複数のバンドパスフィルタは、ハードコート型の第1バンドパスフィルタ、および、吸収型の第2バンドパスフィルタを含む、検査装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、小型かつ安価であり、測定感度が良好である、光学系を用いた検査装置を提供することができる。
【0018】
本発明によれば、異軸光学系を採用することにより、レンズ、プリズム、光ファイバー等を用いる必要がないため、小型かつ安価な検査装置を提供することができる。また、構造がシンプルで頑丈であるため、可搬性の(屋外に持ち出すことも可能な)小型の検査装置を提供することができる。そして、本発明においては、異軸光学系の検出側に用いられるバンドパスフィルタとして、特定の2種のバンドパスフィルタを組み合わせて用いることにより、ノイズとなる複雑な反射光を低減して、必要なシグナル光を選択的に検出器に導入することができる。これにより、異軸光学系において、測定感度(S/N比)を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態の検査装置の構成を示す概略図である。
【
図2】実施形態で用いられる異軸光学系の構成を示す概略図である。
【
図3】実施形態で用いられるチャンバ(試料容器)の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態の検査装置について説明する。ただし以下の説明は特許請求の範囲を限定するものではない。
【0021】
<検査装置>
本実施形態の検査装置は、
図1~
図3に示されるように、少なくとも、異軸光学系3(異軸光学測定器)と、異軸光学系3によって測定される試料(測定対象物)が収容されるチャンバ2a(試料容器1内の試料が収容され得る空間)と、を備える。なお、検査装置は、検査(遺伝子検査等)に必要な他の構成要素を含み得る。
【0022】
〔異軸光学系〕
異軸光学系3は、チャンバ2a内の試料に光を照射するための光源41、試料から放射される光を検出するための検出器42、および、試料と検出器42との間に設けられる複数のバンドパスフィルタ53,54を有する。なお、異軸光学系は、光学測定に必要な他の構成要素を含み得る。
【0023】
複数のバンドパスフィルタは、ハードコート型の第1バンドパスフィルタ53、および、第1バンドパスフィルタよりも検出器側に設けられる吸収型の第2バンドパスフィルタ54を含む。
【0024】
本実施形態で用いられる異軸光学系3では、試料(測定対象物)が収容されたチャンバ2a(試料容器1)の受光面21aに対して斜め方向(受光面21aに垂直な方向に対して所定の角度をなす方向)から光源41の光(励起光等)が照射される。このため、試料から放射される光(励起された蛍光等)の方向が、光源41の光の方向と異なる。このため、同軸光学系で必要なプリズム等が不要である。
【0025】
チャンバ2a(試料容器1)の受光面21aに垂直な方向に対して、光源から照射される光(入射光)および試料から照射される光(放射光)のなす角度は、特に限定されず、0°~90°未満であり、好ましくは0°超80°以下であり、より好ましくは20°~70°であり、さらに好ましくは30°~60°である。
【0026】
なお、異軸光学系3では、光源41の光(励起光等)の方向と試料から放射される光(励起された蛍光等)の方向とが同軸上になければよい。したがって、例えば、入射光の方向がチャンバ2aの受光面21aに垂直な方向であり、放射光の方向が受光面21aに垂直な方向に対して角度をなすような光学系も、異軸光学系に含まれる。
【0027】
(光源)
異軸光学系は試料に光を照射するための光源を含む。光源は、測定精度の観点からは、高輝度の光源であることが好ましい。高輝度の光源としては、例えば、LED、レーザー光等が挙げられる。なお、効率的に光を試料に照射し、ノイズ光を低減するために、指向角が小さい光源を用いることが好ましい。
【0028】
また、光源として、安価なLEDを用いる場合、特にレーザー光等に比べて光を試料に収束させ難くなるため、チャンバの厚みを薄くして、試料の受光面の面積を大きくすることで、測定感度を向上させることができる利点は有益である。
【0029】
バンドパスフィルターにおいて乱反射や波長シフトが発生すると、目的の蛍光強度が相対的に低下しSN比が低下する。この乱反射や波長シフトを避けるには、バンドパスフィルター面に対して垂直の光を透過させることが望ましい。そのために、一般的には、収束光が得られるレーザー光を用いたり、レンズで光束を収束させる等の技術が用いられるが、この場合光学系が複雑かつ大型化し、高コストにならざるを得ない。これを避けて小型で安価なLED光源を用いる場合には、LEDの指向角をなるべく小さいものにすることが好ましい。この観点から、LEDの指向角は、好ましくは60度以下であり、より好ましくは40度以下であり、さらに好ましくは20度以下である。
【0030】
(照射側バンドパスフィルタ)
試料(チャンバ2aまたは試料容器1)と光源41との間には、照射側バンドパスフィルタ52が設けられていてもよい。例えば、測定対象物が蛍光物質を含み、その蛍光を検出して測定を行う場合に、光源41から照射される光のうち、励起後に測定対象物から発生する蛍光と同じ波長の光(測定ノイズとなり得る光)を除外し、蛍光の励起に必要な特定範囲の周波数を有する励起光を照射側バンドパスフィルタ52によって透過させて、チャンバ2a内の試料に照射することができる。
【0031】
なお、照射側バンドパスフィルタ52は、特に限定されず、測定対象物、測定方法等に応じて種々公知のバンドパスフィルタを用いることができる。
【0032】
(検出側バンドパスフィルタ)
試料(チャンバ2aまたは試料容器1)と検出器42との間には、複数のバンドパスフィルタ53,54が設けられている。複数のバンドパスフィルタは、ハードコート型の第1バンドパスフィルタ53、および、吸収型の第2バンドパスフィルタ54を含む。
【0033】
吸収型の第2バンドパスフィルタ54は、
図1に示されるように、第1バンドパスフィルタ53よりも検出器側に設けられることが好ましい。ただし、吸収型の第2バンドパスフィルタは第1バンドパスフィルタよりも試料側に設けられてもよい。いずれの場合でも、本発明の効果は奏される。
【0034】
異軸光学系では、試料面での光の反射が複雑となり、波長のシフトが発生することでノイズ光に対して得られるシグナル光が相対的に低くなる(S/N比の低下)。本発明者らは、このS/N比を高めるために、ノイズ光をカットする方法を鋭意検討した結果、検出側のバントパスフィルターとして、ハードコート型の第1バンドパスフィルタ53、および、吸収型の第2バンドパスフィルタ54を組み合わせて用いることで、ノイズ光(N)を抑制できることを見出した。
【0035】
なお、ハードコート型のバンドパスフィルタとは、本体とは異なる材質の硬質層で被覆されたバンドパスフィルタである。硬質層は、例えば、高屈折率の誘電体膜と低屈折率の誘電体膜とを交互に積層してなる。なお、このバンドパスフィルタは、一部の波長の光を反射させて特定波長領域の光を透過させるフィルタ(ダイクロイックタイプ)である。ハードコート型のバンドパスフィルタは、例えば、硬質層の蒸着によって作製され得る。ハードコート型のバンドパスフィルタは、垂直方向に入射する光に対しては性能(透過特性:波長選択的な透過精度)が高いが、斜め方向から入射する光に対しては性能が低い傾向がある。このため、検出側でハードコート型のバンドパスフィルタのみを用いる場合、例えば、そのバンドパスフィルタが緑色付近の波長を有する蛍光を透過させるものである場合でも、斜め方向から入射する光に対しては青色付近の波長の光も透過させてしまう現象(ブルーシフト)が見られる。この青色付近の波長の光が検出器で検知されると、ノイズとなりS/N比が低下してしまう。
【0036】
一方、吸収型のバンドパスフィルタは、光の反射よりも光の吸収によって波長選択的な光の透過を実現するフィルタである。このため、入射光に対する角度特性が低い、すなわち、性能(透過特性、吸収特性)が入射光の角度による影響を受けにくい。また、不要な光がシステム内のノイズとして現れることが望ましくない光学系に適している。ただし、波長選択の精度が低く、特定範囲(比較的狭い範囲)の波長の光のみを透過させることが難しい傾向がある。したがって、吸収型のバンドパスフィルタのみを検出側に用いても、高い測定感度(S/N比)を得ることは難しい。
【0037】
本実施形態においては、検出側のバントパスフィルターとして、ハードコート型の第1バンドパスフィルタ53と、その検出器42側に設けた吸収型の第2バンドパスフィルタ54と、を組み合わせて用いる。例えば、
図1に示される装置では、チャンバ2a内の試料から放射された光(蛍光等)は、まず、ハードコート型の第1バンドパスフィルタ53を透過し、その後に吸収型の第2バンドパスフィルタ54を透過して、検出器42に到達する。これにより、検出器42に到達するノイズ光(N)を抑制することができる。
【0038】
すなわち、チャンバ2a内の試料から放射された光(蛍光等)は、まず、ハードコート型の第1バンドパスフィルタ53を透過し、その後に吸収型の第2バンドパスフィルタ54を透過して、検出器42に到達する。
例えば、試料が発する緑色付近の波長の蛍光を検出器42で検出する場合、ハードコート型の第1バンドパスフィルタ53として緑色付近の波長(例えば、490~550nm)の光を透過させるものを用いる。この場合、第1バンドパスフィルタ53に斜め方向から入射する光に対しては青色付近の波長(例えば、430~490nm)の光も透過させてしまう。ここで、光吸収型の第2バンドパスフィルタ54として、目的の波長より短い波長(例えば、490nm以下の波長)をカット(吸収)する吸収型のバンドパスフィルタを用いる。第1バンドパスフィルタ53を通過した光が、次にこの第2バンドパスフィルタ54を通過することで、検出器42には、目的の緑色付近の波長の光のみを到達させることができる。これにより、ノイズとなる青色付近の波長の光などが検出器42で検知されることによるS/N比の低下が抑制される。
【0039】
なお、吸収型の第2バンドパスフィルタが第1バンドパスフィルタよりも試料側に設けられている場合でも、同様の理由でS/N比の低下が抑制される。ただし、本発明者らの検討により、
図1に示されるように、吸収型の第2バンドパスフィルタ54が第1バンドパスフィルタ53よりも検出器側に設けられている方が、より確実にS/N比の低下が抑制されることが分かっている。
【0040】
(検出器)
検出器42としては、特に限定されず、目的に応じて種々公知の光学検出器を用いることができる。
【0041】
検出器42(センサ)の位置は、検出される光の量を増加させる観点からは、試料(チャンバ2aの受光面21a)に近いことが好ましく、第2バンドパスフィルタ54に近いことが好ましい。
【0042】
なお、光源41(LED等)、検出器42(センサ)、または、各バンドパスフィルタ52,53,54と、本体部6との間などの隙間からの異軸光学系内への光漏れを防止するために、その隙間にコーキング等による密封処理を施すことが好ましい。これにより、検出されるバックグラウンドの光量が低減するため、S/N比が向上する。
【0043】
〔チャンバ〕
チャンバ2aは、例えば、
図2に示されるように、試料容器1において、スペーサ2、第1カバー21および第2カバー22によって囲まれる空隙部である。
【0044】
図2に示されるように、チャンバ2aの形状は、例えば、円形薄層状である。試料容器1の形状は、試料容器1の形状は、例えば、平板状であってもよい。なお、チャンバは、
図2のような形態に限られず、PCRチューブ、キャピラリー等であってもよい。
【0045】
チャンバ2a(スペーサ2)の厚みは、例えば、0.001~10mmでもよく、0.01~3mmでもよい。また、チャンバ2aの面積は、例えば、50mm2以上であってもよく、900mm2以上であってもよい。
【0046】
照射される励起光等の光量を増やして検出される光量を増やす観点では、チャンバ2a(試料容器1)において、励起光が照射される部分の面積が大きいことが好ましい。一定量の試料液等をチャンバ2a内に収容する場合、チャンバ2a(スペーサ2)の厚みを薄くすることで、チャンバ2aの受光面21aでの面積を大きくすることができ、これにより、受光量が増加し、測定感度の向上が期待される。
【0047】
なお、チャンバ2aの受光面21a側の全体に光が照射される必要はなく、チャンバ2aの受光面21a側の一部(受光部)に光が照射されてもよい。受光部はチャンバ2aの中央に位置することが好ましい。チャンバ2aの面積に対する受光部の面積の比率は、例えば、10~100%である。
【0048】
なお、チャンバ2a(試料容器1)は、後述するPCR装置においてPCR反応が実際される反応容器を兼ねていてもよい。これにより、検査装置がPCR測定器である場合に、更なる小型化が可能となる。
【0049】
〔PCR装置〕
本実施形態の検査装置は、さらにPCR装置等の核酸増幅器を備えていてもよい。この場合、上記の試料(測定対象物)は増幅された核酸を含み得る。
【0050】
この場合、検査装置は、上記の異軸光学系とPCR装置とを備えるリアルタイムPCR(RT-PCR)装置であってもよい。RT-PCR装置は、PCR法による標的核酸の増幅をリアルタイムに測定することのできる装置である。
【0051】
PCR装置は、検体からの核酸抽出とPCR増幅の両方を行える一体型のPCR装置であってもよい。この場合、例えば、PCR装置に上記チャンバ2a(試料容器1)が設置され、チャンバ2a内で、検体からの核酸抽出とPCR増幅の両方が行われてもよい。
【0052】
検査装置がRT-PCR装置である場合、上記チャンバ内でPCRによる核酸増幅および増幅された核酸の検出が行われてもよい。その場合、チャンバ2aを構成する部材(スペーサ2、第1カバー21および第2カバー22)の材質は、PCRの温度変化による体積変化量が少ない材料から構成されていることが望ましい。
【実施例0053】
(実施例1)
上記の実施形態で説明した
図1~
図3に示されるような異軸光学系3および試料容器1を用いて、チャンバ2a内の試料液(蛍光物質を含む液)について蛍光量の測定を行った。測定に用いた各機器等を以下に示す。
【0054】
チャンバ2aを構成するスペーサ2の素材: シリコン
チャンバ2aを構成する第1カバー21および第2カバー22の素材: ポリ塩化ビニル
チャンバ2aの厚み: 0.7mm
チャンバ2aの直径: 10mm(受光部の直径:10mm)
試料: 蛍光物質(蛍光ビーズ)を含む水溶液
光源41: 角型青色LED 470nm
(光源41の指向角:70度、電流(IF):18.7mA)
検出器42: HAMAMATSU 照度-周波数変換フォトIC S9705
照射側バンドパスフィルタ52: TS OD 4.0 25nm バンドパスフィルター 475nm 12.5mm(指定方向と逆向きに取付け)
(なお、スペース51には、何も設置されていない。)
第1バンドパスフィルタ53: TS OD 4.0 5nm バンドパスフィルター 532nm 12.5mm
第2バンドパスフィルタ54: SCHOTT カラーガラス LPフィルター GG495 12.5mm x 1T
本体部6の材質: ポリカーボネートおよびPLA(ポリ乳酸)樹脂
【0055】
(比較例1)
比較例1では、第2バンドパスフィルタ54を使用しなかった。それ以外の点は実施例1と同様である。
【0056】
(実施例2)
実施例2では、実施例1よりも光源41の位置をチャンバ2aに近づけ、光源41とチャンバ2aとの間の距離を実施例1よりも9mm短くした。それ以外の点は実施例1と同様である。(尚、実施例1において、光源41とチャンバ2aとの間の距離は20.7mmである。)
【0057】
(実施例3、4)
実施例3、4では、光源41(LED)として、角型青色LED(470nm、OSB56LZ161D、指向角:60度(実施例3)または15度(実施例4))を用いた。なお、指向角(半値角)は、最も強く光る中心部(中心軸)の明るさに対して、1/2の明るさになる角度(中心軸に対する角度)を2倍した値(中心軸の両側の角度の合計分)である。また、光源41(LED)の電流(IF)を50mAまで増加した。それ以外の点は実施例1と同様である。
【0058】
(実施例5)
実施例5では、実施例1における第1バンドパスフィルタ53と第2バンドパスフィルタ54の配置を入れ替えた。すなわち、吸収型の第2バンドパスフィルタが第1バンドパスフィルタよりも試料側に設けられた。それ以外の点は実施例1と同様である。
【0059】
上記の実施例および比較例についての測定結果を表1に示す。
なお、上記の実施例および比較例について、対照として試料液の代わりに蛍光物質を含まない水をチャンバ2a内に収容して同様の測定を別途行った。表1の「対水倍率」は、(実施例および比較例の各々における検知光量)/(対照測定における検知光量)の値であり、S/N比の指標である。
【0060】
【0061】
表1に示される結果から、小型化が可能な異軸光学系を用いた検査装置において、検出側のバンドパスフィルタとしてハードコート型の第1バンドパスフィルタ53と吸収型の第2バンドパスフィルタ54とを組み合わせて用いた実施例1~4では、検出側のバンドパスフィルタとしてハードコート型のバンドパスフィルタのみを用いた比較例1に比べて、対水倍率(S/N比)が向上しており、測定感度が向上していることが分かる。
なお、比較例1では、532nm(緑)の第1バンドパスフィルタを通過後の光に、ブルーシフトの影響で青の光が混入していた。これに対して、実施例1~4では、測定対象である緑色の波長を有する光だけが検出された(青色の波長を有する光が除去された)。このことから、第1バンドパスフィルタ53と第2バンドパスフィルタ54とを組み合わせて用いた実施例1~4では、検出器に到達するノイズ光が低減されることにより、測定感度が向上したと考えられる。
【0062】
なお、吸収型の第2バンドパスフィルタが第1バンドパスフィルタよりも試料側に設けられた(すなわち、検出側の2つのバンドパスフィルタの順番を実施例1と入れ替えた)実施例4では、実施例1に比べると対水倍率は低下した。このことから、吸収型の第2バンドパスフィルタを第1バンドパスフィルタより検出器側に設ける方が、測定感度の向上効果は大きいと考えられる。
【0063】
また、実施例2においては、光源41(LED)とチャンバ2aとの間の距離を短くすると、計測値は上昇したが、対水倍率は実施例1よりも低下した。このことから、光源41(LED)とチャンバ2aとの間の距離を短くしすぎると、検知される光量が増加しても、ノイズの増加によってS/N比が低下して、測定感度が低下すると考えられる。したがって、光源41(LED)とチャンバ2aとの間の距離の調節により、さらに測定感度を向上できると考えられる。
【0064】
また、実施例3においては、光源41(LED)の指向角と電流値を変更したことにより、実施例1に比べて、計測値は増加し、対水倍率は略同程度であった。このことから、光源41(LED)の指向角と電流値を調節することによって、さらに測定感度を向上できると考えられる。
なお、実施例3(LEDの指向角:60度)よりも実施例4(LEDの指向角:15度)の方が、対水倍率が高いことから、指向角が小さい光源を用いる方がS/N比の向上が期待されると考えられる。
1 試料容器、2 スペーサ、21 第1カバー、21a 受光面、22 第2カバー、3 異軸光学系、41 光源、42 検出器、51 スペース、52 入射側バンドパスフィルタ、53 第1バンドパスフィルタ(ハードコート型)、54 第2バンドパスフィルタ(吸収型)、6 本体部。