(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031653
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】飼料用脱脂玄米及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23K 30/00 20160101AFI20240229BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20240229BHJP
【FI】
A23K30/00
A23K10/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135336
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】594081375
【氏名又は名称】オカヤス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083301
【弁理士】
【氏名又は名称】草間 攻
(72)【発明者】
【氏名】岡安 武蔵
(72)【発明者】
【氏名】山上 玲
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 麻理
【テーマコード(参考)】
2B150
【Fターム(参考)】
2B150AA00
2B150BA03
2B150BC06
2B150CE12
2B150EA05
(57)【要約】
【課題】 高温・多湿の条件においても栄養成分の変質がなく、保存安定性に優れた飼料用穀物原料としての物性に適した、飼料用玄米を提供すること。
【解決手段】 飼料用米、および/又は主食用米から転用される飼料用米から得られる玄米を粉砕した玄米をヘキサン、エタノール、酢酸エチル、アセトンから選択される、単一あるいは混合溶媒系からなる有機溶剤で脱脂してなる飼料用脱脂玄米であり、また、粉砕した玄米を、有機溶剤を用いて脱脂し、乾燥することからなる飼料用脱脂玄米の製造方法である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕した玄米を有機溶剤で脱脂してなる飼料用脱脂玄米。
【請求項2】
玄米が、飼料用米、および/又は主食用米から転用される飼料用米から得られるものである、請求項1に記載の飼料用脱脂玄米。
【請求項3】
有機溶剤が、ヘキサン、エタノール、酢酸エチル、アセトンから選択される、単一あるいは混合溶媒系からなるものである、請求項1に記載の飼料用脱脂玄米。
【請求項4】
粉砕した玄米を、有機溶剤を用いて脱脂し、乾燥することからなる飼料用脱脂玄米の製造方法。
【請求項5】
玄米が、飼料用米、および/又は主食用米から転用される飼料用米から得られるものである、請求項4に記載の飼料用脱脂玄米の製造方法。
【請求項6】
有機溶剤が、ヘキサン、エタノール、酢酸エチル、アセトンから選択される、単一あるいは混合溶媒系からなる、請求項4に記載の飼料用脱脂玄米の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玄米を脱脂して得られる脱脂玄米、およびその製造方法に関する。より具体的には、粉砕玄米を有機溶剤で脱脂した後、乾燥せしめて得られる保存性・混合性・流動性が良好な飼料用玄米、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国における飼料穀物自給率は、豚肉11%、牛肉28%、鶏卵11%、牛乳・乳製品41%であり、全体として25%程度と極めて低く、その多くを輸入に頼っているのが現状である。
その総量は、2017年度の統計で1,252万トンに上り、トウモロコシ1,072万トン、大麦97万トン、小麦40万トン、コーリャン(高粱)40万トン、その他6万トンなどであり、主な輸入相手先は、アメリカ、ブラジル、オーストラリア、アルゼンチンなどの各国である。
近年、外国からの飼料穀物の輸入に関して気候変動、政情不安などにより安定供給の問題があり、また飼料穀物価格の高騰などにより、国産飼料自給率の向上が喫緊の課題となっている。
【0003】
一方、国内では、コメの消費量が減少しており(例えば、1962年においては、118kg/年/人の消費であったものが、2018年度では、53.5kg/年/人と減少)、今日では、食料用米の過剰生産が問題となっており、稲作農業における死活問題となっている。
【0004】
政府は、稲作農業に対する政策として主食用米の生産から飼料用米への転作を積極的に奨励し、資金や技術的な援助を実施している。
例えば、10アール当たりの収入比較では、飼料用米104,561円に対して主食用米100,625円と試算され(茨城県農業再生協議会:2021年)、農家の理解も得られてきており、農業生産として飼料用米の生産も定着しつつある(2014年から2021年までの平均で飼料用米の生産量は44万トン/年)。
【0005】
飼料米は、トウモロコシなどの穀物飼料と栄養成分が酷似していることから、これらの穀物飼料の代替として有用であることが確認されている。
飼料用米は、収穫後の生籾を乾燥させて籾米とし、モミ米(籾米)、玄米、粉砕籾米、粉砕玄米、あるいは生籾をサイレージで発酵させて、それぞれ他の飼料と混合して給餌されている。
【0006】
籾米や玄米(粉砕・未粉砕)は、製造において乾燥行程により乾燥されるが、高温・多湿の条件では栄養成分が変質しやすいため、保存安定性の良好な飼料米の供給が望まれている。
そのため、たとえば、玄米を油中で減圧下において脱水・蛋白を変性せしめ、その後、余分な油分を除去して保存安定性の良好な食用玄米を製造する方法(特許文献1)が提案されており、また、実際の給餌に当たり、籾米あるいは玄米を粉砕せしめ、粉砕物を飼料に混合して給餌することにより、給餌機械の詰まりや選り喰いを防止する方法(特許文献2)なども提案されている。
【0007】
しかしながら、従来、変質しにくく安定な品質の飼料用玄米を製造するために、脱脂玄米を製造するという発想はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平03-58251号公報
【特許文献2】特開2022-15538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる現状を鑑みて、栄養成分の変質がなく、保存安定性に優れた飼料用穀物原料としての物性に適した、飼料用玄米を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行い、玄米を粉砕し有機溶剤を用いて脱脂することにより、高温・多湿の条件においても栄養成分が変化することなく、変質が認められず、保存安定性が良好な飼料用脱脂玄米を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
したがって、本発明は、具体的には以下の態様からなる。
(1)粉砕した玄米を有機溶剤で脱脂してなる飼料用脱脂玄米;
(2)玄米が、飼料用米、および/又は主食用米から転用される飼料用米から得られるものである、上記(1)に記載の飼料用脱脂玄米;
(3)有機溶剤が、ヘキサン、エタノール、酢酸エチル、アセトンから選択される、単一あるいは混合溶媒系からなるものである、上記(1)に記載の飼料用脱脂玄米。
【0012】
また本発明は別の態様として、
(4)粉砕した玄米を、有機溶剤を用いて脱脂し、乾燥することからなる飼料用脱脂玄米の製造方法:
(5)玄米が、飼料用米、および/又は主食用米から転用される飼料用米から得られるものである、上記(4)に記載の飼料用脱脂玄米の製造方法;
(6)有機溶剤が、ヘキサン、エタノール、酢酸エチル、アセトンから選択される、単一あるいは混合溶媒系からなる、上記(4)に記載の飼料用脱脂玄米の製造方法;
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高温・多湿の条件においても栄養成分が変化することなく、変質が認められず、保存安定性が極めて良好な飼料用脱脂玄米が提供され、今日の飼料穀物の安定供給を確保し得るものである。
また、本発明により提供される飼料用脱脂玄米は、流動性および他の飼料との混合性も良好であり、飼料原料としての特性を十分に満たすものである。
さらに、脱脂工程で得られる油分は、食用油として利用できる利点も有している点で、無駄のない飼料用米の消費に寄与し得るものであり、稲作農業に対する政策の面からも特に優れたものである
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記するように、本発明は粉砕した玄米を有機溶剤で脱脂してなる飼料用脱脂玄米である。
本発明で使用する玄米とは、籾米から籾殻(もみがら)を除去した状態のものをいい、飼料用米、および/又は主食用米から転用される飼料用米から得られるものである。
飼料用米として、具体的には品名「夢あおば」、「べこあおば」等の飼料用米を挙げることができる。
【0015】
本発明においては、かかる玄米を粉砕し、有機溶剤で脱脂し、乾燥してなる飼料用脱脂玄米であるが、玄米の粉砕に際しては、通常の粉砕機(ミキサー、クラッシャー等)を使用して粉砕することができる。
粉砕の程度は、未粉砕では玄米からの脱脂効果が不十分であったことから、粗挽きでもよいが1mm篩をパスする程度の粉砕とするのが好まく、微粉砕することは粉塵の飛散や飼料として嵩張りが生じ、好ましいものではない。
【0016】
粉砕した玄米は、脱脂のために有機溶剤と加温下に撹拌処理した後、乾燥することにより飼料用脱脂玄米に変換される。
脱脂工程で使用する有機溶剤としては、ヘキサン、エタノール、酢酸エチル、アセトンから選択される、単一あるいは混合溶媒系からなるものが使用され、特にヘキサン(n-ヘキサン)を用いるのが良い。
【0017】
脱脂工程での加温温度は室温~50℃程度が好ましく、あまり高温下での処理は好ましいものではなく、1~6時間程度の撹拌脱脂処理を行い、所望により係る脱脂工程を1~4回程度実施することにより脱脂工程が完了する。
【0018】
上記した脱脂工程の後、固形分の脱脂玄米は乾燥することにより、本発明の目的物である飼料用脱脂玄米が調製され、得られた飼料用脱脂玄米は、淡黄褐色の粉末としての飼料用脱脂玄米であり、このまま飼料穀物として給餌に使用されるほか、他の飼料と混合して給餌に使用することができる。
一方、有機溶媒画分は、減圧下で有機溶媒を除去することにより、粘ちょう性でやや濁りのある淡黄色液体として油分を得、更に精製することによりコメ油として食用に利用することができる。
【実施例0019】
以下に、本発明者らが検討した内容を、実施例として記載することにより、本発明を詳細に説明する。
【0020】
実施例1:飼料用脱脂玄米の製造
ミルサーで粉砕した飼料用乾燥玄米(品名:夢あおば)120gにn-ヘキサン240mLを加えて、40℃で1時間攪拌し、脂分を抽出した。濾紙で濾過して固形分を回収し、ヘキサン溶液を回収した。この操作を3回繰り返し、ヘキサン溶液を合一し、減圧下で溶媒を除去した。淡黄褐色の粉末として脱脂玄米109g、及び粘ちょう性でやや濁りのある淡黄色液体として油分を2.5g(2.1%)得た。
【0021】
米糠は玄米の約10%であり、米糠には約20%の油分が含まれることから、玄米換算では約2%の油分が回収できる計算となり、ほぼ理論量が回収されたことになる。
前記油分量は、別途、n-ヘキサンを用いたソックスレー抽出法(沸騰条件で6時間抽出)で求めた抽出率2.2%とほぼ一致した。
【0022】
比較として、未粉砕の飼料用乾燥玄米を用いて、同様にn-ヘキサンを用いたソックスレー抽出法を行った結果、油分の抽出率は0.5%であり、未粉砕では抽出率が約1/4に減少した。
【0023】
本実施例では有機溶媒としてn-ヘキサンを用いたが、他の有機溶媒としてエタノール、酢酸エチル、アセトンを用いても同様の結果であり、またこれらの混合溶媒を用いた場合であっても同様の結果であった。
したがって、抽出用の有機溶媒としては、ヘキサン、エタノール、酢酸エチル、アセトンから選択される、単一あるいは混合溶媒系からなるものを使用することができる。
【0024】
実施例2:脱脂玄米の栄養成分
脱脂前後の粉砕玄米の栄養分析結果を、下記表1に示した。
【0025】
表1 脱脂前後の粉砕玄米の栄養分析結果
【0026】
【0027】
脱脂粉砕玄米では粉砕玄米に比べて、100gあたりの熱量が増加し、脂質量と水分が減少し、炭水化物とたんぱく質の増加が認められた。脂質の減少の程度は、油分の抽出率と一致した。
【0028】
実施例3:保存安定性試験
ミルサーで粉砕して、1.0mmふるいをパスした粉砕玄米およびそれを用いて脱脂した粉砕脱脂玄米を、各々100gずつ分取して、アルミラミネート容器に入れて熱シールで密封し、40℃、相対湿度75%の加速試験装置内で1ヶ月間保存した。
各々の検体について、保存前後の外観、臭気、でんぷん量、酸価、過酸化物価を測定した。
油分は、各々の試料80gにn-ヘキサン320mLを加えて攪拌しながら2時間還流した後、室温まで冷却して濾紙で吸引濾過した。20mLのヘキサンで2回、脱脂後の試料を共洗いした。抽出液と洗液を併せて、減圧下で溶媒を除去し、酸価、過酸化物価を測定した。
その結果を下記表2に示した。
【0029】
表2 脱脂前後の粉砕玄米の保存試験結果
【0030】
【0031】
粉砕玄米では、過酷試験後では、外観に目立った変化は認められなかったが、やや色調の変化と油臭が感じられ、変質が示唆された。油分は1.9g回収され、酸価が著しく増加し、脂質の分解が進行していた。また、過酸化物価も増加し、脂質成分の変質が認められた。でんぷん量の変化は認められなかった。
一方、脱脂粉砕玄米では、外観、臭気とも過酷試験後でも特段の変化は認められなかった。油分の変化については、試料から油分がほとんど抽出できなかったため、測定できなかった。脱脂粉砕玄米の脂質量は表1から1.2g/100g含まれているが、n-ヘキサンでは抽出できない細胞成分であると推察された。でんぷん量の変化は認められなかった。
【0032】
以上の結果から、粉砕脱脂玄米は,栄養成分の変化がなく、油分の変質も認められず、保存安定性に優れていることが示された。
【0033】
実施例4:物性試験
(1)流動性(安息角の測定)
ミルサーで粉砕して、1.0mmふるいをパスした粉砕玄米および脱脂粉砕玄米を各々15gずつ分取し、平面から15cmの高さに漏斗の出口を設定して、自然落下させた。全量が落下後、真横から撮影して安息角を測定した結果、粉砕玄米40度、脱脂粉砕玄米30度であった。
安息角は脱脂粉砕玄米が粉砕玄米よりも小さく、脱脂粉砕玄米の流動性が良好であることが確認された。
【0034】
(2)混合性(飼料成分との混合試験)
粉砕玄米100gおよび脱脂粉砕玄米100gを、各々粉砕した飼料用トウモロコシ各100gとともに透明なビニール袋に入れて、手動により20回上下に転倒混合し、混合状態を目視で観察した。
その結果、粉砕玄米および脱脂粉砕玄米のいずれも、粉砕トウモロコシ飼料との混合状態は良好であったが、脱脂粉砕玄米が流動性に優れるため、若干混合性に優れる傾向を示した。
【0035】
(3)嵩密度
脱脂前後の粉砕玄米を各々100mLメスシリンダーに入れて重量を測定し、嵩密度を求めた。脱脂前の嵩密度は0.80g/mL、脱脂後では0.82g/mLであり、脱脂前後ではほとんど変化がなかった。
【0036】
以上の実施例に示した結果からも判明するように、本発明が提供する脱脂粉砕玄米は、高温多湿化においても栄養成分が変化することなく、かつ、変質の原因となる油分がないことから、保存安定性に優れた飼料用穀物であることが理解される。
本発明により製造される飼料用脱脂玄米は、高温多湿化においても栄養成分が変化することなく、かつ、変質の原因となる油分がないことから、保存安定性に優れた飼料用穀物として有用であり、また、副産物として得られる油分は、食用こめ油原料として極めて有用なものであることから、その産業上の利用性は多大なものである。