(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031667
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】顕微観察セルの作製方法、顕微観察セル、及びセル組立装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20240229BHJP
G01N 21/03 20060101ALI20240229BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H01J37/20 A
G01N21/03 Z
G01N1/28 U
G01N1/28 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135356
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】サンドゥー アダルシュ
【テーマコード(参考)】
2G052
2G057
5C101
【Fターム(参考)】
2G052AD46
2G052DA06
2G052DA12
2G052DA13
2G052EC14
2G052GA32
2G052GA34
2G052GA35
2G057AA01
2G057AA02
2G057AB04
2G057AC01
2G057BA01
2G057BA05
2G057BD03
2G057BD04
2G057CB05
5C101AA04
5C101EE61
5C101FF05
5C101FF09
5C101FF26
5C101FF49
(57)【要約】
【課題】簡単な工程で試料を確実に封止する顕微観察セルを作製する方法を提供する。
【解決手段】顕微観察セルの作製方法は、第1基板に観察ビームを通過させる第1の窓と試料を注入するチューブを受け取る第1溝を形成し、第2基板に前記観察ビームを通過させる第2の窓と前記チューブを受け取る第2溝を形成し、前記第1基板を前記第2基板の上に重ね、前記第1溝と前記第2溝で形成される空間に前記チューブをセットした状態で第1の仮止めを行って前記第1基板と第2基板を部分的に仮固定し、前記第1の仮止めの後に、前記第1基板と前記第2基板の側面を覆う第2の仮止めを行い、前記第1の仮止めと前記第2の仮止めを接着層で覆って前記第1基板と前記第2基板を接合し、前記接着層の上から前記第1基板と前記第2基板を真空シールする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板に、観察ビームを通過させる第1の窓と、試料を注入するチューブを受け取る第1溝を形成し、
第2基板に、前記観察ビームを通過させる第2の窓と、前記チューブを受け取る第2溝を形成し、
前記第1基板を前記第2基板の上に重ね、前記第1溝と前記第2溝で形成される空間に前記チューブをセットした状態で、第1の仮止めを行って前記第1基板と第2基板を部分的に仮固定し、
前記第1の仮止めの後に、前記第1基板と前記第2基板の側面を覆う第2の仮止めを行い、
前記第1の仮止めと前記第2の仮止めを接着層で覆って前記第1基板と前記第2基板を接合し、
前記接着層の上から、前記第1基板と前記第2基板を真空シールする、
顕微観察セルの作製方法。
【請求項2】
前記第1の仮止め、前記第2の仮止め、前記接着層による接合、及び前記真空シールを通して、前記第1の窓と前記第2の窓は露出されている、
請求項1に記載の顕微観察セルの作製方法。
【請求項3】
前記第1の仮止めは、位置調整具の先端で前記第1基板の表面の少なくとも一部をおさえ、前記第1の窓と前記第2の窓を位置合わせしながら前記第1基板と前記第2基板を部分的に固定する、
請求項1に記載の顕微観察セルの作製方法。
【請求項4】
前記第1の窓と前記第2の窓の位置合わせは、前記第2基板の下方から光を照射し、前記第1の窓と前記第2の窓を透過する前記光を観察しながら、前記位置調整具で前記第2基板に対する前記第1基板の相対位置を調整する、
請求項3に記載の顕微観察セルの作製方法。
【請求項5】
前記第1の仮止めは、前記第1基板と前記第2基板のコーナー、または、前記チューブの根元を固定する、
請求項1に記載の顕微観察セルの作製方法。
【請求項6】
粘度が12000mPa・s以上24000mPa・s以下の樹脂を用いて前記第1の仮止めを行う、
請求項1に記載の顕微観察セルの作製方法。
【請求項7】
粘度が12000mPa・s以上24000mPa・s以下の樹脂を用いて前記第2の仮止めを行う、
請求項6に記載の顕微観察セルの作製方法。
【請求項8】
前記第2の仮止めの後に、前記チューブと、前記第1基板と前記第2基板の間に形成される流路との連通を確認し、前記連通が確認された後に前記接着層を塗布する、
請求項1に記載の顕微観察セルの作製方法。
【請求項9】
前記第1溝と前記第2溝が形成された第1端面での前記第1基板と前記第2基板の間隔が、前記第1端面と対向する第2端面での間隔よりも広くなるように、前記第1基板を前記第2基板に対して斜めに重ねる、
請求項1に記載の顕微観察セルの作製方法。
【請求項10】
観察ビームを通過させる第1の窓と、試料供給チューブを受け取る第1溝とが形成された第1基板と、
前記第1の窓と対向する位置に設けられた第2の窓と、前記試料供給チューブを受け取る第2溝が形成された第2基板と、
を有し、
前記第1基板と前記第2基板は、前記第1溝と前記第2溝が互いに向かい合い、かつ、かつ前記第1基板と前記第2基板の間に所定の空間が形成されるように組み合わせられており、
前記第1基板と前記第2基板の間に前記所定の空間を維持したまま、前記第1基板と前記第2基板を固定する接着層と、前記接着層を覆う真空シールと、を有する
顕微観察セル。
【請求項11】
前記接着層は、前記第1基板と前記第2基板を仮止めする第1の接着層と、前記第1の接着層を覆って前記第1基板と第2基板を固定する第2の接着層とを含む、
請求項10に記載の顕微観察セル。
【請求項12】
前記第1基板は前記第2基板に対して所定の角度で傾斜した状態で、前記接着層、及び前記真空シールにより封止されている、
請求項10に記載の顕微観察セル。
【請求項13】
前記第1基板に形成された第3溝と前記第2基板に形成された第4溝とで第2の試料供給チューブを受け取り、
前記試料供給チューブと前記第2の試料供給チューブで、前記所定の空間内に異なる試料を導入可能である、
請求項10に記載の顕微観察セル。
【請求項14】
顕微観察セルを形成するチップを保持するプレートと、
前記プレートの下方から前記プレートの上の前記チップを照射する光源と、
前記プレートの上方で前記チップを押さえながら前記チップの位置を調整する位置調整具と、を備え、
前記位置調整具は、先端で前記チップの表面の少なくとも一部を押さえながら、前記光源から照射された光が前記チップに形成された観察窓を透過するように前記チップの位置を調整する、
セル組立装置。
【請求項15】
前記チップは、第1の窓が形成された第1チップと、第2の窓が形成された第2チップとを含み、前記観察窓は前記第1の窓と前記第2の窓で形成され、
前記位置調整具は、前記第1チップと前記第2チップが組み合わされた状態で、前記光が前記第1の窓と前記第2の窓を透過するように前記第2チップに対する前記第1チップの相対位置を調整する、
請求項14に記載のセル組立装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線または光線の照射下での顕微観察に使用される顕微観察セルの作製方法、顕微観察セル、及びセル組立装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線顕微鏡、レーザ顕微鏡などで、粒子線または光線を対象物に照射して顕微観察する際に、試料をセルまたはカプセル内に封入して顕微観察システムの試料室に導入する。顕微観察用のセルまたはカプセル(以下、単に「セル」と呼ぶ)は、一般に、観察ビームを透過させる窓を持っており、試料を収容するセル内の空間は、一定の高さに形成されている(たとえば、特許文献1及び特許文献2参照)。一方、大きさの異なる粒子または分子が混在する試料の観察を可能にするために、観察窓が形成された2つの基板の間に高さが異なる流路を設けた構成が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-224510号公報
【特許文献2】特開2013-187096号公報
【特許文献3】特開2020-177915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
試料が液体の場合、液体漏れのない状態で試料を顕微観察セルに導入する必要がある。顕微観察セル自体は微小であり、液体漏れなしに試料を封止できる顕微観察セルが望まれる。本発明の一つの側面では、簡単な工程で、試料を確実に封止する顕微観察セルを作製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の顕微観察セルの作製方法は、
第1基板に、観察ビームを通過させる第1の窓と、試料を注入するチューブを受け取る第1溝を形成し、
第2基板に、前記観察ビームを通過させる第2の窓と、前記チューブを受け取る第2溝を形成し、
前記第1基板を前記第2基板の上に重ね、前記第1溝と前記第2溝で形成される空間に前記チューブを挿入した状態で、第1の仮止めを行って前記第1基板と第2基板を部分的に仮固定し、
前記第1の仮止めの後に、前記第1基板と前記第2基板の側面を覆う第2の仮止めを行い、
前記第1の仮止めと前記第2の仮止めを接着層で覆って前記第1基板と前記第2基板を接合し、
前記接着層の上から、前記第1基板と前記第2基板を真空シールする。
【発明の効果】
【0006】
簡単な工程で、試料を確実に封止する顕微観察セルを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の顕微観察セルの作製方法のフローチャートである。
【
図4】第1チップと第2チップを重ね合わせた図である。
【
図5】第1チップと第2チップの間に形成される流路の一例を示す図である。
【
図6】第1チップと第2チップの間に形成される流路の別の例を示す図である。
【
図7】第1チップと第2チップの位置合わせを示す模式図である。
【
図8】第1チップと第2チップの位置合わせを示す画像である。
【
図14】顕微観察セルの透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)への適用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態では、試料を確実に封止する顕微観察セルを簡単な方法で作製する。実施形態の組立方法の一つの例では、試料の封止を確実にしながら、大きさの異なる粒子または分子を含む試料の顕微観察を可能にする。この明細書と特許請求の範囲で「顕微観察」という場合は、一般的な可視光での光学的顕微観察の他、電子線、粒子線、レーザ光等による顕微観察を含み、照射線の種類を問わない。
【0009】
以下で、顕微観察セルの具体的な作製方法を、図面を参照して説明する。以下に示す形態は、本発明の技術思想を具現化するための一例であって、本発明を以下の例に限定するものではない。実施形態または図面に記載されている構成部分の寸法、材質、形状、配置構成等は、特定的な記載がない限り、本開示の範囲を限定する趣旨ではなく、実施の形態の例示にすぎない。各図面に示される部材の大きさ、位置関係等は、発明の理解を容易にするために誇張して描かれている場合がある。以下の説明において、同一の構成要素または機能には、同一の名称または符号を付けて重複する説明を省略する場合がある。
【0010】
図1は、実施形態の顕微観察セルの作製方法のフローチャートである。実施形態の顕微観察セルの作製方法は、試料を確実に封止する顕微観察セルを簡単な方法で作製する。従来のセル作製方法では、微細な顕微観察セルを封止する際に、接着剤がセルの観察窓部分に流れ込む、あるいは接着剤で試料を導入するチューブを塞いでしまう等の問題が生じ、製造歩留まりが不十分である。実施形態では、これらの問題も解決しつつ、試料を顕微観察セルに確実に封止する。まず、顕微観察セルの本体を構成する第1チップと第2チップを準備する(S1)。第1チップは第1基板で形成され、第2チップは第2基板で形成される。第1基板には、観察ビームを通過させる第1の窓と、試料注入用のチューブを受け取る第1溝が形成されている。以下では、試料注入用のチューブを便宜上「試料供給チューブ」と呼ぶ。第2基板には、上述した観察ビームを通過させる第2の窓と、上記のチューブを受け取る第2溝が形成されている。第1チップと第2チップの詳細な構成は、後述する。
【0011】
次に、第1チップを第2チップに重ね、第1溝と第2溝で形成される空間に試料注入用のチューブをセットまたは挿入した状態で、第1の仮止めを行う(S2)。第1の仮止めにより、第1基板と第2基板は部分的に仮固定される。第1の仮止めで、溝の空間から外部に延びるチューブの根元を仮固定してもよい。
【0012】
第1の仮止めの後に、第1チップと第2チップの側面を覆って第2の仮止めをする(S3)。第1の仮止めと第2の仮止めは、第1チップと第2チップを正しい位置で仮に固定するためのものなので、第1チップと第2チップの全周を完全に固定しなくてもよい。第1チップと第2チップの正しい位置とは、第1基板に形成された第1の窓と、第2基板に形成された第2の窓が、顕微観察用の照射線の照射軸上で揃っている状態をいう。第2の仮止めの後に、試料供給チューブに空気が通るかどうか、あるいは、第1チップと第2チップの間から空気漏れがないかどうか、を確認してもよい。
【0013】
次に、第1の仮止めと第2の仮止めを接着層で覆って、第1チップと第2チップを接合する(S4)。この接合により、第1チップと第2チップは、試料供給チューブを保持した状態で固定される。次に、接着層の上から第1チップと第2チップを真空シールする(S5)。これにより、内部に試料を確実に封止できる顕微観察セルが完成する。以下で各工程をさらに詳細に説明する。
【0014】
<チップの作製>
図2は、
図1のステップS1で作製される第1チップ110-1と第2チップ110-2の模式図である。第1チップ110-1は、第1基板11-1で形成される。第2チップ110-2は、第2基板11-2で形成される。第1基板11-1に、観察ビームを通過させる第1の窓17-1と、試料供給チューブを受け取る第1溝12-1と、試料排出チューブを受け取る第3溝13-1が形成されている。第2基板11-2に、観察ビームを通過させる第2の窓17-2と、試料供給チューブを受け取る第2溝12-2と、試料排出チューブを受け取る第4溝13-2が形成される。
図2の座標系で、第1溝12-1と第2溝12-2の長軸方向をX方向、第1チップ110-1と第2チップ110-2の厚さ方向をZ方向、X方向とZ方向に直交する方向をY方向とする。
【0015】
第1チップ110-1と第2チップ110-2が組み合わせられたときに、第1溝12-1と第2溝12-2で試料供給チューブを受け取る溝が形成され、第3溝13-1と第4溝13-2で試料排出チューブを受け取る溝が形成される。
【0016】
第1の窓17-1は、たとえば、4つの開口171、172、173、及び174を含むが、この例に限定されない。第1の窓17-1に含まれる開口の数は1つでもよい。あるいは、複数の開口がX方向に一列に並んでいてもよい。同様に、第2の窓17-2は4つの開口175、176、177、及び178を含むが、この例に限定されない。第2の窓17-2は、第1の窓17-1の開口と同じ位置に同じ数の開口を有する。第1の窓17-1の底面に絶縁膜18-1が設けられ、第2の窓17-2の底面に絶縁膜18-2が設けられている。ここで、「底面」というときは、開口を作製するプロセスでのエッチング進行方向での底面を差す。
【0017】
図3は、第1チップ110-1の上面図(A)と底面図(B)である。第1基板11-1の第1面111に開口171、172、173、174が形成される。第1基板11-1として、実施例ではシリコン基板を用いるが、これに限定されず、MgO、Al
2O
3等の絶縁性基板や、Ge等の半絶縁性基板を用いてもよい。第1基板11-1の第1面111と第2面112の両面に、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜、シリコン酸窒膜などの絶縁膜を形成する。
図3の(A)では、図示をわかりやすくするため、第1面111を覆う絶縁膜を省略している。
【0018】
第1基板11-1の第1面111で、フォトリソグラフィ法等により、窓17-1の開口171、172、173、及び174に相当する領域の絶縁膜を部分的にエッチング除去して、第1面111の一部を露出する。第1面111に残る絶縁膜をマスクとして用いて、たとえばKOH等のアルカリ溶液による異方性エッチングにより、第1基板11-1に開口171、172、173、及び174を含む第1の窓17-1を形成する。シリコン基板を用いる場合、KOH溶液を用いてシリコン基板の(111)面からエッチングすると、54.7°の角度で傾斜するエッチング面が得られる。
【0019】
第1基板11-1の第2面112に形成された絶縁膜18-1は、エッチングストッパとして機能する。
図3の(B)では、窓構造をわかりやすくするために、各開口171~174に相当する位置にだけ絶縁膜18-1が描かれているが、第2面112の全面が絶縁膜18-1で覆われていてもよい。
【0020】
次に、第1面111を再度絶縁膜で覆い、第2面112の第1溝12-1と第3溝13-1に相当する領域の絶縁膜を部分的にエッチング除去して、第2面112の一部を露出する。絶縁膜をマスクとして用い、第2面112の露出面からKOH等のアルカリ溶液による異方性エッチングを行うことで、断面形状が台形の第1溝12-1と第3溝13-1が形成される。第1溝12-1と第3溝13-1の深さは、エッチング時間、エッチング量等を制御することで調整可能である。
【0021】
残存するシリコン窒化膜を除去し、少なくとも第1の窓17-1の開口171、172、173、及び174の底面を覆う絶縁膜18-1を第2面112に形成する。第2チップ110-2は、第2基板11-2を用いて、第1チップと同じ手順で作製される。第2チップ110-2の第2面では、少なくとも第2の窓17-2の開口175、176、177、及び178の底面を覆う絶縁膜18-2(
図2参照)が形成される。絶縁膜18-2も、第2基板11-2の第2面の全面に形成されていてもよい。
【0022】
<チップの重ね合わせ>
図4は、第1チップ110-1と第2チップ110-2の重ね合わせを示す。第1チップ110-1と第2チップ110-2は同一形状のチップであり、上下対称になるように用いられる。すなわち、第1溝12-1と第2溝12-2が互いに対向し、第3溝13-1と第4溝13-2が互いに対向するように組み合わせられる。
【0023】
第1溝12-1と第2溝12-2で形成される空間に、試料供給チューブ26が配置される。第3溝13-1と第4溝13-2で形成される空間に、試料排出チューブ27が配置される。試料供給チューブ26は、第1溝12-1と第2溝12-2の奥の壁面に突き当たって、XY面内での位置が決まる。試料排出チューブ27は、第3溝13-1と第4溝13-2の奥の壁面に突き当たって、XY面内での位置が決まる。
【0024】
第1チップ110-1と第2チップ110-2の間に保持されるチューブの数は2本に限定されず、3本以上でもよい。3本のチューブを設ける場合は、第1基板11-1の第1溝12-1及び第3溝13-1と、第2基板11-2の第2溝12-2及び第4溝13-2に加えて、新たに第3のチューブを受け取る溝を、チューブを接続する基板端面のほぼ中央部から第1の窓17-1及び第2の窓17-2の近傍まで延びるように形成してもよい。2本のチューブを試料供給チューブとして用い、1本を試料排出チューブとして用いることで、複数の試料を同時にセルまたはカプセル内に導入することが可能である。
【0025】
図5は、第1チップ110-1と第2チップ110-2の間に流路23Aを有する顕微観察セル10Aの模式図である。
図5は、
図4のXZ面に沿って、試料供給チューブ26と窓17-1の開口171、172、及び窓17-2の開口175、176を通る断面である。
図5の例では、試料供給チューブ26の外径と、第1溝12-1及び第2溝12-2の深さで決まる高さの流路23Aが形成される。後述するように、第1チップ110-1と第2チップ110-2は、試料供給チューブ26を保持した状態でシーリングされるので、完成した顕微観察セル内に試料供給チューブから試料が注入されても、液体漏れはない。
【0026】
第1チップ110-1の開口171の底面の絶縁膜18-1と、第2チップの開口175の底面の絶縁膜18-2の間、及び開口172の底面の絶縁膜18-1と開口176の底面の絶縁膜18-2の間に、観察領域19が形成される。試料供給チューブ26により流路23Aに満たされた試料は、観察領域19を透過する照射線により顕微観察される。試料で反射または散乱され観察領域19から戻る照射線で顕微観察してもよい。第1基板11-1の絶縁膜18-1と反対側の表面を絶縁膜21-1で覆ってもよい。第2基板11-2の絶縁膜18-2と反対側の表面を絶縁膜21-2で覆ってもよい。
【0027】
図6は、別の構成例である顕微観察セル10Bの模式図である。
図5と同じ断面で切った図である。顕微観察セル10Bは第1チップ110-1と第2チップ110-2の間に流路23Bを有する。第1チップ110-1の第1基板11-1と、第2チップ110-2の第2基板11-2は、所定の傾斜角で傾斜して組み合わせられる。第1基板11-1と第2基板11-2の間に、斜めに傾斜する流路23Bが形成される。流路23Bの傾斜は、試料供給チューブ26の外径と、第1溝12-1及び第2溝12-2の深さの少なくとも一方によって決まる。チューブの径が大きいほど、あるいは溝が浅いほど、第1基板11-1の第2基板11-2に対する傾斜角度が大きくなり、第1基板11-1と第2基板11-2の間に形成される流路23Bの傾きが大きくなる。
【0028】
第1チップ110-1の開口171の底面の絶縁膜18-1と、第2チップの開口175の底面の絶縁膜18-2の間に、観察領域19-1が形成される。第1チップ110-1の開口172の底面の絶縁膜18-1と、第2チップ110-2の開口176の底面の絶縁膜18-2の間に、観察領域19-2が形成される。試料供給チューブ26により流路23Bに満たされた試料は、観察領域19-1と観察領域19-2で顕微観察される。観察領域19-1で流路23Bの高さが高くなっているので、試料が液体試料の場合も、容易に観察領域19-2へと導入される。試料中に異なるサイズの粒子または分子が混在する場合、流路23Bの空間サイズの大きい観察領域19-1で、大きいサイズの粒子または分子が観察される。流路23Bの空間サイズの小さい観察領域19-2で、小さいサイズの粒子または分子が観察される。このように、簡単な構成の単一の顕微観察セル10Bにより、混合溶液の観察が可能になる。
【0029】
図6の構成では、第1基板11-1と第2基板11-2の一方が他方に対して相対的に傾斜している。したがって、開口171及び172を通る照射線(たとえば電子線EB)の照射軸は、開口171及び172の中心軸AXから、第1基板11-1と第2基板11-2の相対的な傾きに相当する角度でずれている。しかし、開口中心軸からの照射軸のずれは、開口の内部の空間に吸収される程度のずれなので、電子線EB、レーザ光線などの照射線の透過、反射、散乱に支障はない。
【0030】
図6のように、第1チップ110-1と第2チップ110-2の一方を他方に対して相対的に傾斜させる場合も、実施形態のシーリング方法で、流路23Bからの試料の漏れは防止される。
図6の構成は、異なるサイズの粒子や分子が含まれている液体試料を含むマイクロチップに特に有用である。
【0031】
<チップの位置合わせ>
図7は、第1チップ110-1と第2チップ110-2の位置合わせを示す模式図である。第1チップ110-1と第2チップ110-2の位置合わせは、セル組立装置200を用いて行われてもよい。セル組立装置200は、チップを保持するプレート41と、第2チップ110-2に対する第1チップ110-1の相対位置を調整する位置調整具50と、プレートの位置調整具50と反対側に設けられる光源45を有する。
【0032】
第1チップ110-1の第1の窓17-1(
図2参照)と、第2チップ110-2の第2の窓17-2(
図2参照)が正しく重なっていれば、照射線が透過する観察窓17が形成される。第1の窓17-1と第2の窓17-2に含まれるすべての開口(
図7の例では4つの開口)を光が透過すれば、第1の窓17-1と第2の窓17-2が正しく位置合わせされていることになる。そこで、たとえば位置調整具50により、第2チップ110-2に対する第1チップ110-1の位置を調整する。
【0033】
第1チップ110-1を第2チップ110-2の上に重ね合わせ、第1チップ110-1と第2チップ110-2の間に試料供給チューブ26と試料排出チューブ27を挟んだ状態でプレート41の上に置く。プレート41は、ガラス、プラスチック等の透明プレートである。プレート41の下方に置かれた光源45から、重ね合わせられたチップに光を照射する。光源は、LED光源であってもよい。
【0034】
位置調整具50は、たとえば三軸ポジショニングステージに接続されており、観察窓17の4つの開口を光が透過するように、第2チップ110-2に対する第1チップ110-1の相対位置を調整する。位置調整具50は、可視光を透過する絶縁基板を加工して形成されていてもよいし、光透過性のプラスチックで形成されていてもよい。
図6の例で、位置調整具50はY字型のフォーク形状を有するが、3分岐のフォーク形状であってもよい。フォーク形状に限らず、開口または窓を取り囲む透明な円環、多角形の枠など、第2チップ110-2上で第1チップ110-1の位置を調整可能な任意の形状を有していてもよい。チップの位置合わせは、観察窓17の透過光を観察しながら、ピン、ピンセット等の先端で第1チップ110-1の表面を軽く抑えて手操作で行ってもよい。
【0035】
図8は、第1チップと第2チップの位置合わせの画像である。プレート41の上に、試料供給チューブ26と試料排出チューブ27が配置された第2チップ110-2が置かれている。プレート41の下方から照射される光により、第2チップ110-2の中央部に4つの明るい点が観察される。これは開口175~178を含む第2の窓17-2(
図2参照)を透過した光である。この第2チップ110-2の上に第1チップ110-1を重ねた状態で同様の光が観察されるように、第1チップ110-1は第2チップ110-2に位置合わせされる。第1チップ110-1と第2チップ110-2が正しく位置合わせされたならば、第1の仮止めが行われる。
【0036】
<第1の仮止め>
図9は、第1の仮止めの模式図である。位置調整具50により第1チップ110-1と第2チップ110-2が位置合わせされた状態のチップ110を、位置調整具50でゆっくりと抑える。このときの位置調整具50による荷重は、
図7で位置合わせ中の荷重よりも大きい。光が観察窓17を透過していることを確認しながら、チップ110の一部、たとえば、チップ110のコーナーを第1の仮止め材31で仮止めする。チップ110から突出する試料供給チューブ26と試料排出チューブ27の根元に第1の仮止め材31を適用してもよい。
【0037】
第1の仮止めは、第1チップ110-1と第2チップ110-2が正しく位置合わせされた状態を維持するためのものなので、第1チップ110-1と第2チップ110-2の相対位置を維持するのに必要最小限の接着でよい。第1の仮止め材31として、室温で速乾性の接着剤、光や熱により硬化する硬化性樹脂等を用いることができる。硬化性樹脂を用いる場合、光や熱の適用後、10秒から数十秒程度で硬化する材料が望ましい。第1の仮止め材31の粘度は、12000mPa・s以上24000mPa・s以下であってもよい。この範囲の粘度とすることで、チップ110表面からの流動を抑制し、迅速に硬化させることができる。
【0038】
<第2の仮止め>
図10は、第2の仮止めの模式図である。第1チップ110-1と第2チップ110-2は、第1の仮止めにより正しい位置関係に維持されている。したがって、第2の仮止めでは、必ずしも位置調整具50を用いなくてもよい。第1の仮止めがなされたチップ110の側面全体を、第2の仮止め材32で覆う。第2の仮止め材32は、速乾性の接着剤、硬化性の樹脂等である。第2の仮止め材32は、第1の仮止め材31と同じものであってもよい。
【0039】
チップ110の側面の全周を第2の仮止め材32で覆った後に、チューブの連通テストと、リークテストを行ってもよい。たとえば、試料供給チューブの先端を除いて、チップ110と試料排出チューブ27を水中に沈める。水中から出ている試料供給チューブ26の先端にシリンジを取り付け、空気を注入する。試料排出チューブ27から気泡が出る場合は流路全体が連通している。この場合、試料排出チューブの先端をクリップで止めて、シリンジからさらに空気を注入する。チップ110から空気漏れがない場合は、正しく仮止めされていることになる。チップ110から気泡が漏れているときは、再度第2の仮止めを行い、チップ110の側面に第2の仮止め材32を塗布する。チップ110からの空気もれがなくなったら、次工程へ進む。
【0040】
<接着層による接合>
図11は、接着層による接合を示す模式図である。第1の仮止め材31と第2の仮止め材32を覆って、チップ110の周囲に接着層33を設けて、第1チップ110-1と第2チップ110-2を接合する。この接合により、チップ110、試料供給チューブ26、及び試料排出チューブ27が固定される。接着層33は、観察窓17に入らないように観察窓17の周囲で第1基板11-1の表面が露出するように適用される。第2基板11-2側でも、観察窓17とその周囲の第2基板11-2の周囲は、接着層33から露出している。接着層33の形成後、数時間から6時間程度乾燥する。
【0041】
図12は、接着層33で接合したチップ110の画像である。チップ110の大きさを示すために、ピンセットの先端とともに撮像されている。チップ110の中央で、観察窓17の周囲に観察窓17を慮出する所定の領域が確保されている。この状態で、チップ110内の流路と、試料供給チューブ26及び試料排出チューブ27が連通し、かつ、チップ110が漏れのない状態で接合されている。
【0042】
<真空シール>
図13は、真空シールの模式図である。接着層33の全体を覆って真空シール35を設ける。真空シール35は、接着層33よりも広いチップ領域を覆うが、観察窓17に入らないようにする。真空シール35は、チップ110と試料供給チューブ26と試料排出チューブ27のチップ110との接続部にも適用される。これにより、顕微観察セル10が得られる。
【0043】
真空シール35は真空シール材で形成される。真空シール材として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリビニルクロライド(PVC)、プリエステル(PET)、ポリアミド(PA)などを用いてもよい。真空シール35を形成後、たとえば24時間乾燥させる。
【0044】
上述した顕微観察セル10の作製工程は複雑で精密な制御が不要であり、試料漏れのない顕微観察セル10を簡易に作製することができる。特に、
図6のように第1チップ110-1と第2チップ110-2を斜めに組み合わせる構成では、サイズの異なる分子や粒子が試料中に混在する場合に、それぞれのサイズの粒子または分子を別々の開口で観察することができる。
【0045】
顕微観察セル10に試料供給チューブ26から試料を注入し、注入後に試料供給チューブ26及び試料排出チューブ27を適切な長さに切断して、注入口と排出口を封止してもよい。この場合、試料を含む顕微観察セル10を、サンプルチップとして用いることができる。封止される試料が生体試料の場合は、バイオチップとして用いられる。サンプルチップまたはバイオチップ内で、試料を空気に触れさせずに保存することができ、所望のタイミングで試料を顕微観察することができる
【0046】
<顕微システムへの適用>
図14は、顕微観察セル10の顕微システムへの適用例としてTEMへの適用を示す。顕微観察セル10はTEMホルダ133に保持されて、TEM本体130に挿入される。この例では、シリンジ135から試料供給チューブ26を介して、顕微観察セル10の内部に試料を供給しながら、リアルタイムで試料を観察する。
【0047】
TEM本体130の内部に電子銃131が配置され、電子銃131から電子線EBが出力される。顕微観察セル10は、電子線が第1の窓17-1と第2の窓17-2で形成される観察窓17(
図13参照)を透過するように、TEMホルダ133で保持されている。観察窓17に入射して、流路23内の試料Sを透過した電子線EBは、観察窓1を通過し、検出器としての蛍光板132に入射する。蛍光板132上でTEM像が観察される。顕微観察後に、試料を含む流体は、廃液137として試料排出チューブ27から排出されてもよい。
【0048】
図14では、図示の都合上、TEM本体130で用いられているコンデンサレンズ、中間レンズ、投射レンズ等の光学系は省略されている。顕微観察セル10は、TEMだけではなく、反射型または散乱型の顕微観察システムにも適用可能である。走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)、レーザ顕微鏡、顕微ラマン分光装置等でも使用可能である。反射型または散乱型の顕微観察システムに適用される場合、検出器は試料の透過側ではなく、反射側、または散乱の角度に応じて複数の角度位置に配置されてもよい。観察窓17に含まれる開口は4つに限定されず、流路の方向(X方向)に沿って2つ又は3つの開口が設けられていてもよい。
【0049】
以上述べたように、実施形態の顕微観察セルは簡単な方法で作製され、試料を確実に封止することができる。実施形態の作製方法の一つの例では、試料の封止を確実にしつつ、大きさの異なる粒子または分子が混在する試料の顕微観察を可能にする。実施形態のセル組立装置は、LED等の簡易な光源と、チップの一部を押さえる位置調整具とを用いて、観察窓17の位置合わせを可能にする。また、チップの流路内に試料を封止した状態でサンプルチップまたはバイオチップを提供することができる。
【符号の説明】
【0050】
10、10A、10B 顕微観察セル
11-1 第1基板
11-2 第2基板
12-1 第1溝
12-2 第2溝
13-1 第3溝
13-2 第4溝
17 観察窓
17-1 第1の窓
17-2 第2の窓
171-178 開口
18-1、18-2、21-1、21-2 絶縁膜
19、19-1、19-2、 観察領域
23A、23B 流路
26 試料供給チューブ
27 試料排出チューブ
31 第1の仮止め材
32 第2の仮止め材
33 接着層
35 真空シール
41 プレート
45 光源
50 位置調整具
110 チップ
110-1 第1チップ
110-2 第2チップ
200 セル組立装置