(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031671
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】残留塩素測定用センサおよびそれを用いた残留塩素測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20240229BHJP
G01N 27/28 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G01N27/416 316Z
G01N27/28 321Z
G01N27/28 331Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135362
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】515311408
【氏名又は名称】株式会社イーシーフロンティア
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】高木 靖浩
(72)【発明者】
【氏名】大野 千恵
(72)【発明者】
【氏名】安慶名 麻華
(57)【要約】 (修正有)
【課題】測定溶液の条件の影響が小さい残留塩素測定用センサおよびそれを用いた残留塩素測定装置を提供する。
【解決手段】作用極11と、陽イオン交換膜12と、多孔質体13と、対極14とを、その順で積層させた残留塩素測定用センサ10である。また作用極11に測定溶液Lの供給口15と、排出口16とが設けられている。この残留塩素測定用センサ10において、測定溶液Lは、
図1の矢印で示すように、作用極11内を通るように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッシュ構造を呈した金電極からなる作用極と、
陽イオン交換膜と、
ハロゲン化物イオンを含む溶液を含侵させた多孔質体と、
銀電極からなる対極とを、その順で積層させたものであり、
前記作用極に測定溶液の供給口および排出口が設けられている、
残留塩素測定用センサ。
【請求項2】
前記金電極のメッシュ構造の粗さが、20メッシュ以上、200メッシュ以下である、
請求項1記載の残留塩素測定用センサ。
【請求項3】
前記金電極の厚みが、80μm以上、700μm以下である、
請求項1記載の残留塩素測定用センサ。
【請求項4】
前記ハロゲン化物イオンを含む溶液が、酸とハロゲン化物塩の混成溶液である、
請求項1記載の残留塩素測定用センサ。
【請求項5】
前記多孔質体が濾紙である、
請求項1記載の残留塩素測定用センサ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の残留塩素測定用センサと、前記センサに電圧を印加する加電圧機構とを備えた残留塩素測定用装置であって、
前記加電圧機構が、前記センサに50mV~500mVの印加電圧を与える測定モードを有する、
残留塩素測定用装置。
【請求項7】
前記加電圧機構が、前記センサに前記測定モードの電流に対する逆電流を流す電極洗浄モードを有する、
請求項6記載の残留塩素測定用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中の残留塩素濃度を測定するための残留塩素測定用センサおよびそれを用いた残留塩素測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塩素処理は、水中の特定の細菌や微生物を塩素で殺す処理である。このような塩素処理は、例えば、水道水等の殺菌・消毒や、調理場の洗浄や、カット野菜等の消毒に用いられている。また塩素処理後の水中に残っている酸化力を有する塩素を残留塩素という。残留塩素としては、塩素が水と反応することによって生成される遊離残留塩素(次亜塩素酸)と、その遊離残留塩素が水中の窒素化合物等と結合して生成される結合残留塩素(クロラミン等)とがある。
【0003】
このような塩素処理において、水中の残留塩素の濃度を管理することは非常に重要である。残留塩素濃度の測定としては、ヨウ素滴定法、比色DPD法、DPD吸光光度法、電流滴定法やポーラログラフ法が知られている。この中でもポーラログラフ法は、残留塩素が電極表面で還元される電流値によって測定する方法であり、連続測定に適している。
【0004】
例えば、特許文献1、2には、金電極からなる検出極と、銀/塩化銀電極からなる対極とを備え、検出極に所定の電圧を印加する2電極式の残留塩素測定装置が開示されている。この装置の検出極に所定の電圧を印加することにより、検出極で残留塩素の還元反応が行われ、対極で銀の酸化反応が行われ、それによって流れる電流値を測定することにより、試料中の残留塩素濃度を求めるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-275214号公報
【特許文献2】特開2015-034741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1、2の残留塩素測定装置は、測定溶液を検出極表面に対して相対的に流動させる必要がある。その際、測定溶液を安定して供給するために、検出極を回転または振動させている。しかし、測定溶液の温度、pHや共存物質による影響があり、検出感度に誤差が生じてしまうため、検量線による補正が必要となる。
さらに、特許文献1、2の残留塩素測定装置は、検出極と対極とを測定溶液に浸漬させるものであるため、小型化が困難である。
本発明はこのような事情を鑑みて研究・開発されたものであり、測定溶液の条件の影響が小さい残留塩素測定用センサおよびそれを用いた残留塩素測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願人は、作用極の反応面積を従来の技術よりも十分に大きくし、導入した測定溶液中の残留塩素が全て反応するようメッシュ構造の金電極を用いて残留塩素測定を行ったところ、安定した電流値を測定できることがわかった。さらに、この電極による電解反応は、測定溶液中の残留塩素の濃度、測定溶液のpH、温度による影響が小さいこともわかった。本発明は、これらの新しい知見によるものである。
【0008】
本発明の残留塩素測定用センサは、メッシュ構造を呈した金電極からなる作用極と、陽イオン交換膜と、ハロゲン化物イオンを含む溶液を含侵させた多孔質体と、銀電極からなる対極とを、その順で積層させたものであり、前記作用極に測定溶液の供給口および排出口が設けられていることを特徴としている。
【0009】
本発明の残留塩素測定用センサは、作用極がメッシュ構造を呈した金電極であるため、残留塩素と反応する比表面積を多く有している。そのため、このセンサに所定の印加電圧を与えて測定溶液中の残留塩素を還元させたとき、従来のように電極を回転させたりして測定溶液の一部が反応する場合と異なり、導入した溶液中の残留塩素が全て反応するため、安定した電流値が得られる。また使用しても反応に十分な面積があるため電極としての活性度が低下しにくい。
本発明の残留塩素測定用センサは、作用極に供給口および排出口を設けることによって測定溶液を作用極内に流し、かつ、作用極と対極との間に陽イオン交換膜を設けることによって測定溶液内の残留塩素を作用極内にのみ流通して全反応させるため、測定溶液内の残留塩素濃度を正確に測定することができる。特に、測定溶液内の残留塩素濃度が高い場合であっても、測定溶液の流量および金電極の比表面積の条件を適宜設定することにより、測定溶液内の残留塩素を全電解するように調整することが可能である。つまり、測定条件に応じた検量線による補正を行うことなく電流値から残留塩素濃度を算出することができる。
本発明の残留塩素測定用センサは、作用極側の電解質溶液となる測定溶液はメッシュ構造の作用極に収容され、対極側の電解質溶液であるハロゲン化物イオンを含む溶液は多孔質体に含侵させているため、つまり、センサの大きさは電解質溶液に依存せず小型化が可能であり、生産性も高い。
【0010】
本発明の残留塩素測定用センサであって、前記金電極のメッシュ構造の粗さが、20メッシュ以上、200メッシュ以下であるものが好ましい。
本発明の残留塩素測定用センサであって、前記金電極の厚みが、80μm以上、700μm以下であるものが好ましい。
本発明の残留塩素測定用センサであって、前記ハロゲン化物イオンを含む溶液が、酸とハロゲン化物塩の混成溶液であるものが好ましい。
本発明の残留塩素測定用センサであって、前記多孔質体が濾紙であるものが好ましい。
【0011】
本発明の残留塩素測定装置は、本発明の残留塩素測定用センサと、前記センサに電圧を印加する加電圧機構とを備えた残留塩素測定用装置であって、前記加電圧機構が前記センサに50mV~500mVの印加電圧を与える測定モードを有することを特徴としている。
本発明の残留塩素測定装置であって、前記加電圧機構が、前記センサに前記測定モードの電流に対する逆電流を流す電極洗浄モードを有するものが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の残留塩素測定用センサは、所定の印加電位を与えることによって、測定溶液中のその他の溶存物の影響をあまり受けることなく測定溶液内の残留塩素と反応し、安定した酸化還元電流を得ることができる。特に、所定の条件では、測定溶液内の残留塩素の全てを電解することができ、条件毎の検量線による補正を行うことなく電流値から正確な残留塩素濃度を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の残留塩素測定用センサの実施形態を示す概略図である。
【
図2】本発明の残留塩素測定装置の実施形態を示す概略図である。
【
図3】
図3aは残留塩素測定装置を用いて測定溶液を連続的に測定している状態を示す概略図であり、
図3bおよび
図3cはそれぞれ
図2の残留塩素測定装置を用いた測定方法のアルゴリズムの例を示す図である。
【
図4】本発明の残留塩素測定用センサの実施例の分解図を示す。
【
図5】本発明の残留塩素測定装置を用いて残留塩素を測定した測定モードでの時間と、電流値の関係を示すグラフである。
【
図6】
図6aおよび
図6bはそれぞれ本発明の残留塩素測定装置を用いて残留塩素を測定した測定電流値と、理論電流値の関係を示すグラフである。
【
図7】本発明の残留塩素測定装置を用いた測定結果であって、残留塩素の電解電位と、その電解効率の関係を示すグラフである。
【
図8】
図8aは本発明の残留塩素測定装置を用いた測定結果であって、測定溶液のpHと、その電解効率の関係を示すグラフであり、
図8bは本発明の残留塩素測定装置を用いた測定結果であって、測定溶液の温度と、その電解効率の関係を示すグラフである。
【
図9】本発明の残留塩素測定装置を用いた測定結果であって、作用極の粗さ(メッシュ数)と、その電解効率の関係を示すグラフである。
【
図10】本発明の残留塩素測定装置を用いた測定結果であって、対極側の溶液のカチオンの種類と、電流値の関係を示すグラフである。
【
図11】本発明の残留塩素測定装置を用いた測定結果であって、連続して測定モードで電流値を測定した結果と、測定モードと電極洗浄モードとを交互にして測定した結果とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は次の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
[残留塩素測定用センサ10]
図1の残留塩素測定用センサ10は、作用極11と、陽イオン交換膜12と、多孔質体13と、対極14とを、その順で積層させたものである。また作用極11に測定溶液Lの供給口15と、排出口16とが設けられている。つまり、測定溶液Lは、
図1の矢印で示すように、作用極11内を通るように構成されている。
【0016】
[作用極11]
作用極11は、メッシュ構造を呈した金電極である。金電極としては、例えば、金メッシュや、下地金属メッシュに金メッキを施したものが挙げられる。金メッキを施す場合、下地金属メッシュとしては、金メッキで全面が覆えるものであれば、特に限定されず、例えば、チタンメッシュ、スチールメッシュ(特に、ステンレススチールメッシュ)、ニッケルメッシュ、銅メッシュなどが挙げられる。特に、安定で耐食性に優れたチタンメッシュやステンレススチールメッシュが好ましく挙げられる。このように作用極11として、メッシュ金属を用いることにより、残留塩素との反応面積を十分とすることができる。また電解によって電極表面が汚染されて反応サイトが減少すると測定値が不安定になるが、残留塩素に対して十分な反応面積を有しているため、一般的な電極に比べて電極としての耐久性も高い。
またこのセンサ10において、作用極11に供給される測定溶液Lが電解質溶液として働き、陽イオン(プロトン)が陽イオン交換膜12に運ばれる。つまり、メッシュ構造の作用極11は、液絡(反応流路)の深さを制限する役割も有しており、作用極側の電解質を特段に設けず、測定溶液Lの溶液抵抗が高くても電圧降下の影響を最小限にすることができる。
【0017】
金電極のメッシュ構造の粗さ(長さ1インチ当りの網目)は、20メッシュ以上、200メッシュ以下が挙げられる。粗さの下限としては、30メッシュ以上、特に、40メッシュ以上が好ましい。粗さの上限としては、150メッシュ以下、120メッシュ以下、110メッシュ以下、特に、100メッシュ以下が好ましい。粗さが20メッシュより小さい場合、つまり、金電極の目が粗すぎると、表面積が小さくなり、全電解には不向きとなる。一方、粗さが200メッシュより大きい場合、つまり、金電極の目が細かすぎると、陽イオン交換膜12との乱流が起こりにくくなり陽イオン交換膜12との接触確率が低下し、電解効率の低下が顕著となる。
金電極の厚みは、測定溶液Lの流量等の測定溶液の条件によって適宜設定することができるが、80μm以上、700μm以下が挙げられる。厚みの上限としては、600μm以下、特に400μm以下とするのが好ましい。700μmより大きいと、例えば、陽イオン交換膜と離れた位置と、陽イオン交換膜と接した位置とで反応流路深さに大きな差が生じるため、好ましくない。一方、80μmより小さいものは、現実的ではない。
【0018】
[陽イオン交換膜12]
陽イオン交換膜12は、作用極11と対極14とを完全に仕切るものである。これにより測定溶液内の残留塩素は作用極側に留められ、ハロゲン化物イオンは対極側に留められる。
陽イオン交換膜12は、特に限定されるものではないが、フッ素系スルホン酸陽イオン交換膜が好ましい。
【0019】
[多孔質体13]
多孔質体13には、ハロゲン化物イオンを含む溶液を含侵させている。
多孔質体13としては、濾紙、合成樹脂製の多孔質膜やフィルターが挙げられ、特に、濾紙が好ましい。
【0020】
溶液のハロゲン化物イオンとしては、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)のいずれでもよい。カチオンとしては、特に限定されるものではないが、水素イオン(H+)、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、ルビジウムイオン(Rb+)、セシウムイオン(Cs+)等が挙げられ、水素イオン、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオンが好ましい。水素イオン、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオンは、イオン径が小さく、陽イオン交換膜中を移動しやすい。膜移動が遅いと反応量が制限され、測定値が低くなるおそれがある。
特に、酸とハロゲン化物塩の混成溶液が好ましく用いられ、今回は、塩酸(HCl)と塩化ナトリウム(NaCl)の混成溶液を用いた。この場合、混成溶液内の塩素濃度の全体における塩酸の割合を、3%以上、6%以上、10%以上、特に、13%以上とするのが好ましい。塩酸を含めることにより、電解効率が高くなる。なお、生産性およびセンサとしての取り扱いの面および安全面から塩素濃度の全体における塩酸の割合を50%より大きくするのは現実的ではない。
【0021】
[対極14]
対極14は、銀電極である。多孔質体13に含まれているハロゲン化物イオンとの反応により銀-塩化銀となるが、銀素地と銀-塩化銀の電極電位が似通っているため、対極のみならず参照電極としても機能する。
【0022】
[残留塩素測定用センサ10の作用および効果]
このように残留塩素測定用センサ10は構成されているため、作用極11内に測定溶液Lを供給しつつ、作用極11で還元反応が起こるように作用極11と対極14との間に所定の電位を加えると、供給された測定溶液は作用極11の隙間に浸透して残留塩素(次亜塩素酸)の還元反応が起こる。それと同時に対極14において、銀がハロゲン化銀となる酸化反応が起こる。
この残留塩素測定用センサ10は、メッシュ構造の作用極11を備えているため、残留塩素と反応する比表面積を多く有している。そのため、導入した溶液中の残留塩素が全て反応するため、従来のように電極を回転させたりすることなく、安定して残留塩素を電解することができる。
この残留塩素測定用センサ10は、作用極11に供給口15および排出口16を設け、かつ、作用極11と対極14との間に陽イオン交換膜12を設けているため、測定溶液Lは作用極11内を通り、かつ、測定溶液L内の残留塩素は作用極11内に留められことになるため、測定溶液内の残留塩素濃度を正確に測定することができる。特に、所定の条件とすることにより、測定溶液の残留塩素の全てを還元することができる。
なお、本出願人は、このセンサを用いた場合、残留塩素は、測定溶液のpHおよび温度による影響を大きく受けることなく2電子反応で電解されることを見出した。そのため、pHが所定の範囲、温度が所定の範囲の測定溶液については、測定溶液の残留塩素の全てを還元させることにより、測定溶液毎の検量線による補正を行うことなく測定電流値より残留塩素濃度を正確に算出できることがわかった。
さらに、残留塩素測定用センサ10の作用極側の電解質溶液となる測定溶液Lは作用極11内に収容され、対極側の電解質溶液は多孔質体13に含侵させているため、残留塩素測定用センサ10の小型化が可能であり、生産性も高い。
【0023】
[残留塩素測定装置100]
次にこの残留塩素測定用センサ10を備えた残留塩素測定装置100について説明する。
残留塩素測定装置100は、
図2に示すように、残留塩素測定用センサ10と、そのセンサ10と連結する装置本体110とを備えている。
装置本体110は、加電圧機構111と、電流計112と、演算制御部113と、表示部114とを備えている。装置本体110は、残留塩素測定用センサ10と着脱自在に連結するように構成されている。これにより残留塩素測定用センサ10を消耗品として取り換えが可能となる。
【0024】
加電圧機構111は、残留塩素測定用センサ10に電圧を加える。詳しくは、加電圧機構11は、作用極11において残留塩素の還元反応が起こるように電圧をセンサ10に印加する測定モードと、この測定モードの電流に対する逆電流をセンサ10に流す電極洗浄モードと、電圧を印加しない待機モードとを有する。
残留塩素測定装置100は、センサ10に流す測定溶液の残留塩素の全部を還元させることができるため、測定モードを定期的に行って、測定容液Lの残留塩素濃度を連続的に測定する。つまり、待機モードと測定モードを交互に行う。
【0025】
測定モードの印加電圧としては、50mV以上、500mV以下が挙げられる。測定モードの印加電圧の下限としては、100mV以上、特に150mV以上が好ましい。一方、測定モードの印加電圧の上限としては、450mV以下、特に、400mV以下が好ましい。測定モードの印加電圧が50mVより小さいと、残留塩素の還元だけでなく、溶存酸素の還元反応も見られるようになる。一方、測定モードの印加電圧が500mVより大きいと、電解効率が低下する。
【0026】
電極洗浄モードは、センサ10に測定モードの電流に対する逆電流を流し、対極14において銀の還元反応を起こさせる。これによって作用極11の金電極および対極14の銀電極は元の状態に戻される。例えば、測定モードの直後に電極洗浄モードを行う場合、測定モードで流れた反応クローン量分の逆電流、あるいは、その反応クローン量に基づいた逆電流を流すことが考えられる。またあらかじめ、測定モードで流れる反応クローン量を算出し、その算出量に基づいた逆電流を定期的に流すようにしてもよい。
待機モードは、上述したように、電圧を印加しない状態である。
【0027】
電流計112は、加電圧機構111の測定モードの際、センサ10に電圧を印加したとき、作用極11と対極14との間に流れる酸化還元電流を測定するものである。
【0028】
演算制御部113は、電流計112で測定される酸化還元電流から残留塩素濃度を算出する。残留塩素濃度の算出方法は、例えば、測定モードを開始後、電流が安定した時点からの平均電流値を求め、その平均電流値より算出することなどが挙げられる。また演算制御部113は、加電圧機構111を制御し、測定モード、電極洗浄モードおよび待機モードの変換を行ったりする。モードの変換は、例えば、後述するように予め決めたアルゴリズムに沿って行う。
表示部114は、制御部113で算出された残留塩素濃度を表示する。
【0029】
残留塩素測定装置100は、
図3aに示すように、測定溶液LをポンプPでセンサ10に供給することによって行う。これにより、測定溶液Lの連続的な測定が可能となる。流量は、測定溶液の残留塩素濃度や作用極等の比表面積に依存するものであり、特に限定されるものではないが、例えば、0.1ml/分以上、10ml/分以下が挙げられ、特に、5ml/分以下、2ml/分以下が好ましい。
このように連続的な測定を行う場合、例えば、測定モード、電極洗浄モードおよび待機モードを一サイクルとして、定期的に測定するのが好ましい。
図3bは、測定方法のアルゴリズムの一例である。一サイクルとしては、例えば、30秒~1時間などが挙げられる。また
図3cのように、測定モードと待機モードを交互に複数回(
図3cでは2回ずつ)行った後、電極洗浄モードを行うようにしてもよい。
【実施例0030】
次に、本発明の残留塩素測定用センサの実施例を紹介する。
図4に示すように、実施例のセンサ10Aは、残留塩素測定用センサをエンドプレート20A、20Bで収容し、組み立てたものである。
作用極11は、金電極21と、符号22で表される作用電極集電箔とで構成されている。金電極21としては、粗さが100メッシュのチタンメッシュ(15mm×60mm×200μm)に金メッキしたものを用いた。
陽イオン交換膜12としては、フッ素系スルホン酸陽イオン交換膜を用いた。
多孔質体13としては、濾紙を用いた。なお、濾紙に含侵させる溶液は、合計塩素濃度を3Mとし、塩酸濃度を0.5MとしたNaClとHClの混成溶液を用いた。
対極14としては、銀電極23(15mm×60mm×100μm)と、符号24で表される対極集電箔とで構成されている。
また符号25A、25B、25Cはガスケットであり、符号26はねじである。
エンドプレート20A(作用極側)には、センサ10の供給口15と連通する第1連通孔20A1と、センサ10の排出口16と連通する第2連通孔20A2とが形成されている。
エンドプレート20A、20Bに挟持される各要素は、互いに圧縮され、密着され、ねじ26で固定される。また作用電極集電箔22および対極集電箔24は、それぞれ金電極21および銀電極23を外部に通電するためのものであり、エンドプレートの外部に引き出されている。
【0031】
[電流値の確認]
試料として、濃度が5~50ppmとなる次亜塩素酸溶液を調製した。各試料を流速1mL/分で実施例のセンサ10Aを用いた残留塩素測定装置100に流し、測定モード(電圧300mV)にて各電流値を測定した。そのときの印加電圧後の時間と電流値を
図5に示す。
図5から濃度に関わらず、測定モードを開始後、20秒程度で電流が安定することがわかる。そのため、例えば、30秒~60秒の平均電流値を求め、その平均電流値に基づいて残留塩素濃度を算出することが好ましいことが分かった。
【0032】
[残留塩素の還元反応の確認]
試料として、濃度が0~50ppmとなる次亜塩素酸溶液を調製した。各試料を流速1mL/分で実施例のセンサ10Aを用いた残留塩素測定装置100に流し、測定モード(電圧300mV)にて各電流値を測定した。そのときの濃度と測定電流値ならびに2電子反応として計算した理論電流値を
図6aに示す。
図6aに示すように、残留塩素濃度が0~50ppmでは、測定溶液の残留塩素を2電子反応で全電解していることが確認できた。
さらに、試料として、残留塩素濃度が100~300ppmとなる次亜塩素酸溶液を調製し、各試料の電流値を実施例のセンサ10Aを用いた残留塩素測定装置100で同様の条件で測定した。その結果を
図6bに示す。残留塩素濃度が高くなることにより、若干理論値から外れたが、概ね2電子反応で全電解していることが確認できた。なお、この結果から流速を小さくしたり、作用極の比表面積をさらに大きくしたりすることにより、高い濃度についても全電解が可能であることが推測される。
【0033】
[残留塩素の還元電位]
試料として、濃度が50ppmの次亜塩素酸溶液を調製した。この試料を流速1mL/分で実施例のセンサ10Aを用いた残留塩素測定装置100に流し、電位が-200mV~800mVにおける各電流値を測定した。2電子反応として計算した理論電流値を100%として、各電流値の電解効率(%)を求めた。その結果を
図7に示す。
図7に示すように、測定電位が100mV~450mVの範囲において、ほぼ全電解できることがわかった。なお、50mV以下では、残留塩素の還元反応だけでなく、溶液中の溶存酸素の還元反応が起きた。
【0034】
[pHと電解効率の関係]
試料として、pH3.5~pH12に調整した50ppmの次亜塩素酸溶液を調製した。各試料を流速1mL/分で実施例のセンサ10Aを用いた残留塩素測定装置100に流し、測定モード(電圧300mV)にて各電流値を測定した。2電子反応として計算した理論電流値を100%として、各電流値の電解効率(%)を求めた。その結果を
図8aに示す。
図8aに示すように、pHが11以下では、90%以上の電解効率で測定できることが分かった。特に、pH3.5~pH10.5については、理論値に対して5%以内の誤差範囲に収まることがわかった。このように残留塩素測定装置100は、pH3.5~pH11の範囲では残留塩素濃度を正確に測定できることがわかった。
【0035】
[温度と電解効率の関係]
試料として、温度をそれぞれ5℃~50℃に調整した50ppmの次亜塩素酸溶液を調製した。各試料を流速1mL/分で実施例のセンサ10Aを用いた残留塩素測定装置100に流し、測定モード(電圧300mV)にて各電流値を測定した。2電子反応として計算した理論電流値を100%として、各電流値の電解効率(%)を求めた。その結果を
図8bに示す。
図8bに示すように、いずれの試料も理論値に対して5%以内の誤差に収まることがわかった。このように残留塩素測定装置100は、測定溶液の温度に関わらず残留塩素濃度を正確に測定できることがわかった。
【0036】
[メッシュの粗さと電解効率の関係]
作用極11として次の表1のメッシュを用いる以外は、実施例1と同じとした実施例2A~2Fのセンサを作成した。
【0037】
【0038】
試料としては、50ppmの次亜塩素酸溶液を調製した。
試料を流速1mL/分で、実施例2A~2Fのセンサを用いた残留塩素測定装置100に流し、測定モード(電圧300mV)にて各電流値を測定した。2電子反応として計算した理論電流値を100%として、各電流値の電解効率(%)を求めた。その結果を
図9に示す。
いずれの実施例も80%以上の電解効率が得られた。特に、実施例2B、2C、2Dのセンサは、95%以上の電解効率が得られた。
【0039】
[ハロゲン化物イオンとの関係]
カチオンをそれぞれ水素イオン(H+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、セシウムイオン(Cs+)とし、濃度を3Mで統一した溶液を調製した。これらを濾紙(多孔質体13)に含侵させた以外は、実施例1と同じとなる実施例3A~3Dのセンサを作成した。
試料としては、250ppm(pH9)の次亜塩素酸溶液を調製した。
試料を流速1mL/分で、実施例3A~3Dのセンサを用いた残留塩素測定装置100に流し、測定モード(電圧300mV)にて各電流値を測定した。その結果を
図10に示す。
図10に示すように、実施例3A~3Dのセンサにおいて、電流が流れた。特に、水素イオンおよびナトリウムイオンをカチオンとした場合、安定した電流値が得られた。これは使用した陽イオン交換膜に依存しているためと考えられる。
【0040】
[塩酸濃度との関係]
合計塩素濃度を3Mとし、塩酸濃度を0M~0.4MとしたNaClとHClの混成溶液を調製し、これを濾紙(多孔質体13)に含侵させた以外は、実施例1と同じとなる実施例4A~4Eのセンサを作成した。
試料としては、500ppm(pH9)の次亜塩素酸溶液を調製した。
試料を流速1mL/分で、実施例4A~4Eのセンサを用いた残留塩素測定装置100に流し、測定モード(電圧300mV)にて各電流値を測定した。その結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
※混成溶液内の塩素濃度の全体における塩酸の割合を示す。
【0042】
表2から混成溶液とした場合、塩酸濃度を上げていくことにより電解効率が向上することが分かった。特に、0.3M以上で90%以上となり、0.4M以上で95%以上の電解効率が得られた。
【0043】
[電極洗浄]
試料として、濃度が50ppmとなる次亜塩素酸溶液を調製した。
実施例のセンサ10Aを用いた残留塩素測定装置100に試料を流速1mL/分で流し、測定モード(電圧300mV)にて18時間連続的に電流値を測定した。一方、実施例のセンサ10Aを用いた残留塩素測定装置100に試料を流速1mL/分で流し、測定モード(電圧300mV)を30分と電極洗浄モード(逆電流10mA)を交互に変換して18時間電流値を測定した。その結果を
図11に示す。
図11から測定モードを連続的に行う場合、電流値が減少することがわかった。これは、(1)対極14の銀が塩化銀として酸化されて反応サイトが減少したこと、(2)作用極11の金電極の活性度が低下したこと、(3)陽イオン交換膜の官能基末端のカチオンが置換されたことによるものと推測される。
一方、測定モードと電極洗浄モードとを交互に行う場合、電流値の減少を抑えることができた。これは、定期的に逆電流を流すことにより、対極14の塩化銀が銀に還元され、作用極11が酸化による電解研磨で活性化され、作用極11での水の分解により発生した水素イオンが陽イオン交換膜内に供給・置換されて陽イオン交換膜が元の状態に戻ったためと推測される。
このように電極洗浄モードを適宜用いることにより、残留塩素測定用センサの耐久性を一層高めることができることがわかった。