(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031672
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】液状組成物およびその安定化方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/50 20060101AFI20240229BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20240229BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240229BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240229BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240229BHJP
C07C 59/01 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C07C51/50
A61K31/19
A61P25/28
A23L33/10
A23L2/00 F
A23L2/52
C07C59/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135364
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018MD09
4B018ME14
4B018MF14
4B117LC04
4B117LK08
4C206AA10
4C206DA07
4C206MA36
4C206NA03
4C206ZA15
4C206ZA16
4H006AA02
4H006AD40
4H006BB31
4H006BC53
4H006BE10
4H006BN10
4H006BS10
(57)【要約】
【課題】3-ヒドロキシ酪酸を含んでいても、3-ヒドロキシ酪酸の多量化を抑制できる液状組成物を提供する。
【解決手段】3-ヒドロキシ酪酸および水を含む液状組成物において、前記液状組成物のpHを調整し、前記3-ヒドロキシ酪酸の多量化を抑制する。この方法では、塩基性化合物を添加して前記3-ヒドロキシ酪酸を部分中和し、pHを高く調整してもよい。pH調整後の液状組成物において、遊離した形態である3-ヒドロキシ酪酸換算で、3-ヒドロキシ酪酸および3-ヒドロキシ酪酸の塩の合計割合を、前記液状組成物中15質量%以上に調整してもよい。また、pH調整後の液状組成物において、3-ヒドロキシ酪酸および3-ヒドロキシ酪酸の塩の合計割合を、遊離した形態である3-ヒドロキシ酪酸換算で、前記液状組成物中15質量%未満に調整してもよい。前記3-ヒドロキシ酪酸はR-3-ヒドロキシ酪酸であってもよい。前記液状組成物のpHを2.2以上に調整してもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-ヒドロキシ酪酸および水を含む液状組成物において、前記液状組成物のpHを調整し、前記3-ヒドロキシ酪酸の多量化を抑制する方法。
【請求項2】
塩基性化合物を添加して前記3-ヒドロキシ酪酸を部分中和し、pHを高く調整する請求項1記載の方法。
【請求項3】
pH調整後の液状組成物において、3-ヒドロキシ酪酸および3-ヒドロキシ酪酸の塩の合計割合を、遊離した形態である3-ヒドロキシ酪酸換算で、前記液状組成物中15質量%以上に調整する請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
pH調整後の液状組成物において、3-ヒドロキシ酪酸および3-ヒドロキシ酪酸の塩の合計割合を、遊離した形態である3-ヒドロキシ酪酸換算で、前記液状組成物中15質量%未満に調整する請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記3-ヒドロキシ酪酸がR-3-ヒドロキシ酪酸である請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
前記液状組成物のpHを2.2以上に調整する請求項1または2記載の方法。
【請求項7】
3-ヒドロキシ酪酸および水を含む液状組成物に塩基性化合物を添加し、前記3-ヒドロキシ酪酸の多量化を抑制する方法。
【請求項8】
3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸の塩および水を含む液状組成物。
【請求項9】
前記3-ヒドロキシ酪酸の塩の割合が、前記3-ヒドロキシ酪酸100モルに対して0.1~100モルである請求項8記載の液状組成物。
【請求項10】
前記3-ヒドロキシ酪酸および前記3-ヒドロキシ酪酸の塩の合計割合が、遊離した形態である3-ヒドロキシ酪酸換算で、前記液状組成物中15質量%以上である請求項8または9記載の液状組成物。
【請求項11】
前記3-ヒドロキシ酪酸が微生物により発酵生産したR-3-ヒドロキシ酪酸であり、かつ前記液状組成物のpHが2.2以上である請求項8または9記載の液状組成物。
【請求項12】
飲料またはその原液である請求項8または9記載の液状組成物。
【請求項13】
3-ヒドロキシ酪酸および水を含み、かつpHが2以上である液状組成物。
【請求項14】
3-ヒドロキシ酪酸の塩を含まず、かつpHが2.2以上である請求項13記載の液状組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシ酪酸(以下、単に「3HB」と称する場合がある)を含む液状組成物およびその安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3HBやその塩は、人の体内に存在する物質であり、糖質に代わる画期的なエネルギー源として期待されている。また、3HBは、単なるエネルギー源という役割だけでなく、認知機能の改善や、長期持続記憶の向上、アルツハイマー病の予防に有効であることも確認されている。さらに、3HBは、食品を摂取することで体内で生成することもでき、例えば、ココナッツオイルなどに含まれる中鎖脂肪酸(MCT)を摂取、代謝することにより血中に取り込まれてエネルギーに変換される。この工程は、解糖系を経由する糖質よりも速やかにエネルギーに変換できる効果を有するとともに、脂肪や糖の吸収を抑制することにより細胞への脂肪や糖の吸収を抑制できる効果を有する。そのため、3HBは、アスリート向けのエネルギー物質、ダイエット・健康食品分野への応用が期待されている。
【0003】
このような3HBは、酸の形態では極めて酸味が強いために多量に摂取することが困難であるためか、普及が進んでいない。さらに、3HBは、酸の形態では、流動性の高い粉末状の固体として調製するのが困難であり、取り扱い性に問題を有していた。3HBは、水溶液の状態から水分を除いても容易には結晶化せず、水分を除去する際に容易に縮合反応によって多量化して二量体などに変化するため、固体として単離するのが難しいことが原因である。そのため、一般的に、3HBは、酸の形態ではなく、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム等の中和塩の形態で粉末として提供されている。
【0004】
しかし、3HBの中和塩を多量に摂取すると塩分過多となってしまい、ダイエット・健康食品や医薬品分野では、健康上好ましくない。
【0005】
ダイエット・健康食品分野で3HBを利用した例としては、特開2021-185799号公報(特許文献1)に、3HBおよび/またはその塩と油脂粒子とを含む油脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の組成物では、ダイエット・健康食品分野では敬遠される傾向にある油脂が必須成分である。また、形態が固体であるため、飲料などの液体としての利用には適していない。さらに、本発明者等が検討したところによると、3HBは、水溶液の状態では、水分の除去により多量化が進行するように、保存中にも多量化が進行し、特に、水溶液の濃度を上げると、容易に進行することが判明した。多量化が進行すると、保存中に水溶液の濃度やpHが経時的に変化して、品質が安定しない問題がある。例えば、清涼飲料水では、pHが賞味期限に影響を与えるため、保存中のpH変化は避ける必要がある。そのため、3HBを遊離の形態で含んでいても、保存中に水溶液中で3HBが多量化するのを抑制できる安定化方法が求められる。
【0008】
従って、本発明の目的は、3-ヒドロキシ酪酸を含んでいても、3-ヒドロキシ酪酸の多量化を抑制できる液状組成物およびその安定化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、3-ヒドロキシ酪酸および水を含む液状組成物において、液状組成物のpHを調整することにより、3-ヒドロキシ酪酸の多量化を抑制できることを見出し、発明を完成した。さらに、3-ヒドロキシ酪酸の多量化には、pH依存性(塩基濃度依存性)があることに加えて、濃度依存性(3-ヒドロキシ酪酸およびその塩の濃度依存性)もあり、特に、高濃度の3-ヒドロキシ酪酸の水溶液ではpH依存性が大きいことを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の態様[1]の方法は、3-ヒドロキシ酪酸および水を含む液状組成物において、前記液状組成物のpHを調整し、前記3-ヒドロキシ酪酸の多量化を抑制する方法である。
【0011】
本発明の態様[2]は、前記態様[1]において、塩基性化合物を添加して前記3-ヒドロキシ酪酸を部分中和し、pHを高く調整する態様である。
【0012】
本発明の態様[3]は、前記態様[1]または[2]のpH調整後の液状組成物において、3-ヒドロキシ酪酸および3-ヒドロキシ酪酸の塩の合計割合を、遊離した形態である3-ヒドロキシ酪酸換算で、前記液状組成物中15質量%以上に調整する態様である。
【0013】
本発明の態様[4]は、前記態様[1]のpH調整後の液状組成物において、3-ヒドロキシ酪酸および3-ヒドロキシ酪酸の塩の合計割合を、遊離した形態である3-ヒドロキシ酪酸換算で、前記液状組成物中15質量%未満に調整する態様である。
【0014】
本発明の態様[5]は、前記態様[1]~[4]のいずれかの態様において、前記3-ヒドロキシ酪酸がR-3-ヒドロキシ酪酸である態様である。
【0015】
本発明の態様[6]は、前記態様[1]~[5]のいずれかの態様において、前記液状組成物のpHを2.2以上に調整する態様である。
【0016】
本発明には、態様[7]として、3-ヒドロキシ酪酸および水を含む液状組成物に塩基性化合物を添加し、前記3-ヒドロキシ酪酸の多量化を抑制する方法も含まれる。
【0017】
本発明には、態様[8]として、3-ヒドロキシ酪酸の部分中和塩(すなわち、3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸の塩)および水を含む液状組成物も含まれる。
【0018】
本発明の態様[9]は、前記態様[8]において、前記3-ヒドロキシ酪酸の塩の割合が、前記3-ヒドロキシ酪酸100モルに対して0.1~100モルである態様である。
【0019】
本発明の態様[10]は、前記態様[8]または[9]において、前記3-ヒドロキシ酪酸および前記3-ヒドロキシ酪酸の塩の合計割合が、遊離した形態である3-ヒドロキシ酪酸換算で、前記液状組成物中15質量%以上である態様である。
【0020】
本発明の態様[11]は、前記態様[8]~[10]のいずれかの態様において、前記3-ヒドロキシ酪酸が微生物により発酵生産したR-3-ヒドロキシ酪酸であり、かつ前記液状組成物のpHが2.2以上である態様である。
【0021】
本発明の態様[12]は、前記態様[8]~[11]のいずれかの態様の液状組成物が、飲料またはその原液である態様である。
【0022】
本発明には、態様[13]として、3-ヒドロキシ酪酸および水を含み、かつpHが2以上である液状組成物も含まれる。
【0023】
本発明の態様[14]は、前記態様[13]において、3-ヒドロキシ酪酸の塩を含まず、かつpHが2.2以上である態様である。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、3-ヒドロキシ酪酸および水を含む液状組成物のpHを調整することにより、3-ヒドロキシ酪酸の多量化を抑制できる。特に、前記液状組成物に塩基性化合物を添加して前記3-ヒドロキシ酪酸を部分中和し、pHを高く調整することにより、3-ヒドロキシ酪酸の濃度が高くても、3-ヒドロキシ酪酸の多量化を抑制でき、保存安定性を向上できる。さらに、部分中和であるため、食品や医薬品用途に利用しても、塩分過多となることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、実施例1および参考例1~7で調製した3HB含有水溶液の保存安定性を比較したグラフである。
【
図2】
図2は、実施例5~9で調製した3HB含有水溶液の保存安定性を比較したグラフである。
【
図3】
図3は、実施例10~14で調製した3HB含有水溶液の保存安定性を比較したグラフである。
【
図4】
図4は、参考例11および実施例15~18で調製した3HB含有水溶液の保存安定性を比較したグラフである。
【
図5】
図5は、参考例12および実施例19~22で調製した3HB含有水溶液の保存安定性を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[液状組成物の安定化方法]
本発明の方法では、水を含む液状組成物中において、3-ヒドロキシ酪酸(3HB)が遊離の酸の形態で存在していても、前記液状組成物のpHを調整することにより、3HB同士が縮合して二量化や三量化などの多量化するのを抑制できる。以下、遊離の形態の3HBを単に「3HB」と称し、塩の形態の3HBを「3HB塩」と称する場合がある。
【0027】
(pHの調整方法)
本発明の方法において、pHの調整方法としては、pHを所定のpHに調整することにより、液状組成物の保存安定性を向上でき、pHが低い場合には多量化が進行し易いため、液状組成物のpHが低い場合には、pHを上昇させることにより、液状組成物の保存安定性を向上できる。一方、3HBの濃度が低く、pHが十分に高い場合には、多量化が進行しない程度に濃度を高めてpHを低下させてもよい。3HBの濃度を高めると、液状組成物の運搬性や保管性(倉庫などでの省スペース性)を向上できる。
【0028】
pH調整後の液状組成物のpHは2以上(特に2.2以上)であってもよく、2.2~7程度の範囲から選択でき、例えば2.3~6、好ましくは2.4~5.5、さらに好ましくは2.5~5、より好ましくは3~4.5、最も好ましくは3.3~4である。pHが低すぎると、3HBの多量化が進行し易くなるとともに、酸味が強く、食品や医薬品として摂取性が低下する虞がある。逆に、pHが高すぎても、味がまろやかでなくなり、食品や医薬品として摂取性が低下する虞がある。
【0029】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、pHは、慣用の方法で測定でき、例えば、市販のpHメータを用いて測定できる。
【0030】
本発明の方法において、液状組成物のpHを調整する方法としては、例えば、塩基性化合物を添加して3HBの一部を中和してpHを上昇させる方法(部分中和法)、3HBの濃度を調整してpHを上昇させる方法(濃度調整法)などが挙げられる。これらの方法のうち、少なくとも部分中和法を用いて調整する方法が好ましく、部分中和法と濃度調整法とを組み合わせる方法が特に好ましい。
【0031】
本発明では、部分中和法を用いて液状組成物のpHを高く調整することにより、遊離した酸の形態である3HBを含む液状組成物において、長期間の保存や、高温や高濃度などの多量化が進行し易い状況であっても、3HBの多量化を抑制できる。そのため、部分中和法を用いることにより、液状組成物中の3HBの濃度を高めることができる。すなわち、本発明の方法では、部分中和法を用いることにより、3HBの濃度が高い液状組成物の保存安定性を向上できるため、3HBを含む液状組成物の運搬性や保管性を向上できる。
【0032】
そのため、pH調整後の液状組成物において、3HBおよび3HB塩の合計割合を、遊離の形態である3HB換算で、前記液状組成物中15質量%以上(特に20質量%以上)に調整してもよく、例えば15~70質量%(例えば20~50質量%)、好ましくは20~60質量%(例えば20~40質量%)、さらに好ましくは25~55質量%、より好ましくは30~50質量%、最も好ましくは35~45質量%に調整してもよい。本発明では、部分中和法を用いて液状組成物のpHを調整するとともに、液状組成物中の前記合計割合を前記範囲に調整すると、pHと3HBおよび3HB塩の濃度との組み合わせにより、最も効果的に3HBの多量化を抑制できる。
【0033】
一方、pHの調整方法として、部分中和法を用いることなく、濃度調整法のみでpHを調整してもよく、その場合、pH調整後の液状組成物において、3HBおよび3HB塩の合計割合を、遊離した形態である3HB換算で、前記液状組成物中15質量%未満に調整してもよく、例えば0.1~14質量%、好ましくは1~13質量%、さらに好ましくは2~12質量%、より好ましくは3~11質量%、最も好ましくは5~10質量%である。
【0034】
なお、本明細書および特許請求の範囲において「遊離した形態である3HB換算」とは、3HB塩について、酸の形態である3HBに換算することを意味する。例えば、3-ヒドロキシ酪酸ナトリウムの場合には、3-ヒドロキシ酪酸の質量に換算して、3HBおよび3HB塩の合計割合を算出する。
【0035】
部分中和法では、液状組成物に塩基性化合物を添加した後、慣用の方法、例えば、機械的な手段を用いて撹拌する方法などによって、液状組成物中で3HBと塩基性化合物とを均一に混合してもよい。
【0036】
(3-ヒドロキシ酪酸およびその塩)
3HB(またはBHB)は、光学異性体(R体またはS体)であってもよく、ラセミ体であってもよいが、生体適合性などの観点から、R体(R-3-ヒドロキシ酪酸)を少なくとも含むのが好ましい。3HBのうち、R体のみが有効成分として作用する。
【0037】
3HB中のR体の割合、特に、光学純度(鏡像体または光学異性体過剰率)は、例えば50%e.e.以上(例えば80%e.e.以上)、好ましくは90%e.e.以上(例えば95~100%e.e.)、さらに好ましくは98~100%e.e.(例えば99~100%e.e.、特に実質的に100%e.e.)である。光学純度が低すぎると、生体適合性が低下して目的の有効成分の量を確保するためには、多量の3HBおよびその塩が必要となり塩分摂取量も過多となる虞があるとともに、3HB濃度が高まって多量化しやすくなる虞もある。
【0038】
また、R体[(R)3HB]と、S体[(S)3HB]および/またはラセミ体とを組みあわせて使用してもよいが、3HB中のR体の質量割合は10質量%以上が好ましく、さらに好ましくは50質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。R体の割合が多いと、食品や医薬品として利用した場合、生体適合性が高いため、3HBの機能を効率的に生体内で発現できる。そのため、3HBとしてラセミ体を用いた場合に比べて、組成物中における3HBの濃度を低減でき、部分中和法を用いて塩を生成させても、組成物中の塩の総量を低減でき、塩分の過剰摂取を抑制できる。
【0039】
3HBとしては、市販品を用いてもよい。市販品としては、化学合成された3HB、微生物により発酵生産した3HBなどが挙げられる。これらのうち、R体の純度が高い点から、発酵生産した3HB(発酵由来の3HB)が好ましく、バイオマス原料(生物由来の資源)を用いて微生物により発酵生産した3HBが特に好ましい。発酵由来の3HBは、発酵過程で生成するアミノ酸や有機酸(乳酸、酢酸、ピルビン酸など)などを含む3HB組成物として液状組成物に配合されてもよい。このような3HB組成物は、化学合成された3HBと比べて、R体の割合が増加するだけでなく、味がまろやかになる傾向があり、飲料などの食品や薬品として摂取し易い。
【0040】
液状組成物は、3HBに加えて、3HB塩をさらに含んでいてもよい。3HB塩は、pH調整前の液状組成物に含まれる塩であってもよく、部分中和法などの中和法を用いて中和によって生成した塩としてpH調整後の液状組成物に含まれる塩であってもよい。3HB塩がpH調整前の液状組成物に含まれる塩である場合、3HB塩も、R体の塩が好ましい。これらのうち、液状組成物は、3HBが高濃度であっても保存安定性を向上できる点から、3HB塩として、少なくとも部分中和法で得られた3HB塩を含むのが好ましく、部分中和法で得られた3HB塩のみからなるのが特に好ましい。すなわち、液状組成物において、3HBの形態が部分中和塩であるのが特に好ましい。
【0041】
塩の種類としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;アミン塩;塩基性アミノ酸との塩などが挙げられる。これらの3HB塩は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩が好ましい。なかでも、塩の過剰摂取を抑制し易い点からは、カリウム塩が好ましい。さらに、潮解性が比較的低く、取り扱い性に優れる点から、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩が好ましく、諸特性のバランスを容易に調整できる点から、ナトリウム塩が特に好ましい。
【0042】
pH調整後の液状組成物において、3HB塩の割合は、3HB100モルに対して100モル以下であってもよく、0.1~100モル程度の範囲から選択でき、例えば0.5~80モル、好ましくは1~60モル、さらに好ましくは3~50モル、より好ましくは5~30モル、最も好ましくは10~20モルである。これらの割合(3HB100モルに対する3HBの割合)は、3HBおよび3HB塩の合計割合がpH調整後の液状組成物中15質量%以上(例えば20~50質量%)である液状組成物における割合であってもよい。3HB塩の割合が多すぎると、食品や医薬品では塩分の過剰摂取となる虞がある。
【0043】
(塩基性化合物)
本発明の方法において、塩基性化合物としては、3HBを中和できる塩基性化合物であれば特に限定されない。塩基性化合物は、塩基性無機化合物であってもよく、塩基性有機化合物であってもよい。
【0044】
塩基性無機化合物には、金属炭酸塩または金属炭酸水素塩、金属水酸化物、金属フッ化物、金属リン酸塩、金属ホウ酸塩などが含まれる。
【0045】
金属炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩などが挙げられる。
【0046】
金属炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩などが挙げられる。
【0047】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物などが挙げられる。
【0048】
金属フッ化物としては、例えば、フッ化カリウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属フッ化物などが挙げられる。
【0049】
金属リン酸塩としては、例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムなどのアルカリ金属リン酸塩;リン酸水素二ナトリウムなどのアルカリ金属リン酸水素塩;リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムなどのアルカリ金属リン酸二水素塩などが挙げられる。
【0050】
金属ホウ酸塩としては、例えば、四ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)などのアルカリ金属ホウ酸塩などが挙げられる。
【0051】
塩基性有機化合物には、金属アルコキシド、有機酸塩、塩基性アミノ酸またはその塩、アルキルアミン、アルカノールアミンなどが含まれる。
【0052】
金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0053】
有機酸塩としては、例えば、酢酸ナトリウムなどの飽和モノカルボン酸アルカリ金属塩;乳酸ナトリウムなどのヒドロキシモノカルボン酸アルカリ金属塩;リンゴ酸三ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、酒石酸二ナトリウムなどのヒドロキシポリカルボン酸アルカリ金属塩;クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸水素二カリウムなどのアルカリ金属ヒドロキシポリカルボン酸水素塩;クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二水素カリウムなどのアルカリ金属ヒドロキシポリカルボン酸二水素塩などが挙げられる。
【0054】
塩基性アミノ酸としては、例えば、リジン、ヒドロリジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン、シトルリン、ヒドロキシジンなどが挙げられる。塩基性アミノ酸の塩としては、例えば、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩、マグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。
【0055】
アルキルアミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。
【0056】
アルカノールアミンとしては、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなどが挙げられる。
【0057】
これらの塩基性化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらの塩基性化合物は、生理学的または薬理学的に許容可能な化合物であるのが好ましい。
【0058】
これらの塩基性化合物のうち、3HBを食品や医薬品として利用する場合、塩分の過剰摂取を容易に抑制できる点から、水酸化カリウム、クエン酸カリウムなどの金属がカリウムである塩基性化合物が好ましい。
【0059】
また、前記塩基性化合物のうち、取り扱い性などに優れる点から、緩衝剤やpH調整剤として利用され、緩衝作用を有する塩基性化合物が好ましく、緩衝剤として利用される塩基性化合物が特に好ましい。緩衝剤として利用される塩基性化合物としては、例えば、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、金属リン酸塩、ホウ酸塩、有機酸塩が好ましく、クエン酸三ナトリウムなどのヒドロキシポリカルボン酸アルカリ金属塩、クエン酸水素二ナトリウムなどのアルカリ金属ヒドロキシポリカルボン酸水素塩、クエン酸二水素カリウムなどのアルカリ金属ヒドロキシポリカルボン酸二水素塩が特に好ましい。
【0060】
塩基性化合物の割合は、pH調整後の液状組成物において、3HBに対する3HB塩の割合が前記範囲となる割合であればよい。pH調整前の液状組成物において、酸の形態である3HBに対する塩基性化合物の当量比(塩基性化合物/3HB)は、0.1~50%程度の範囲から選択でき、例えば0.5~40%、好ましくは1~35%、さらに好ましくは3~30%、より好ましくは5~25%、最も好ましくは10~20%である。pH調整前の液状組成物において、塩基性化合物の割合は、3HB100質量部に対して50質量部以下であってもよく、0.1~50質量部程度の範囲から選択でき、例えば1~30質量部、好ましくは2~25質量部、さらに好ましくは3~20質量部、より好ましくは5~15質量部、最も好ましくは8~12質量部である。これらの割合(3HB100モルに対する3HBの割合)は、3HBおよび3HB塩の合計割合がpH調整後の液状組成物中15質量%以上(例えば20~50質量%)である液状組成物における割合であってもよい。塩基性化合物の割合が多すぎると、食品や医薬品では塩分の過剰摂取となる虞がある。
【0061】
(水)
pH調整後の液状組成物において、水の割合は、液状組成物中10質量%以上であってもよく、10~99.9質量%程度の範囲から選択でき、例えば30~99質量%、好ましくは50~98質量%、さらに好ましくは55~95質量%、より好ましくは60~90質量%、最も好ましくは70~85質量%である。
【0062】
(多量体)
本発明の方法では、3HBの多量化を抑制できるが、微量であれば、pH調整後の液状組成物に3HBの多量体が含まれていてもよい。pH調整後の液状組成物に含まれる3HBの多量体は、pH調整前の液状組成物において予め含まれる多量体であってもよい。
【0063】
3HBの多量体(オリゴマー)の平均重合度は2以上であればよいが、例えば2~10、好ましくは2~5、さらに好ましくは2~4、より好ましくは2~3、最も好ましくは2である。
【0064】
pH調整後の液状組成物において、3HBの多量体の割合は、液体クロマトグラフィーに基づく面積比において、3HBおよび3HB塩の総量に対して、例えば10面積%以下であってもよく、好ましくは5面積%以下、さらに好ましくは4面積%以下、より好ましくは3面積%以下、最も好ましくは2面積%以下(例えば0.1~2面積%)である。さらに、pH調整後の液状組成物は、3HBの多量体を実質的に含まないのがより好ましく、3HBの多量体を全く含まないのが最も好ましい。
【0065】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、3HBの多量体の割合は、液体クロマトグラフィーに基づいて測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0066】
(油脂類)
液状組成物は、3HBおよび水に加えて、油脂類をさらに含んでいてもよい。油脂類は、植物性油脂、動物性油脂、加工油脂のいずれであってもよい。
【0067】
植物性油脂としては、例えば、大豆油、綿実油、あまに油、ひまし油、紅花油、米油、胚芽米油、コーン油、ゴマ油、向日葵油、米糖油、キャノーラ油などの菜種油、落花生油、パーム核油、オリーブ油、グレープシード油などの植物油(サラダ油、白絞油);ヤシ油、カロチーノ油などのパーム油、カカオ脂などの植物脂(植物脂肪)などが挙げられる。
【0068】
動物性油脂としては、例えば、バター、牛脂、乳脂肪、豚脂(ラード)、魚油などの動物脂が挙げられる。
【0069】
加工油脂としては、例えば、マーガリン、ショートニング、ココナッツミルク、C8-10脂肪酸トリグリセリドなどの中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)などが挙げられる。
【0070】
これらの油脂類は、分別油、エステル交換油、水素添加油であってもよい。また、これらの油脂類の形態は、固体または液体のいずれの形態であってもよく、特定の結晶形(例えば、β型油脂)を含んでいてもよい。
【0071】
pH調整後の液状組成物において、油脂類の割合は、3HBおよび3HB塩の合計100質量部に対して、例えば50質量部以下であってもよく、好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、最も好ましくは5質量部以下である。液状組成物は、水を含む水性組成物であるため、油脂類を実質的に含まなくてもよく、油脂類を全く含まないのが特に好ましい。
【0072】
(他の成分)
液状組成物は、3HBおよび水に加えて、他の成分として、食品や医薬品の液状組成物に配合される成分をさらに含んでいてもよい。
【0073】
他の成分としては、例えば、糖類、甘味剤、酸味剤、アミノ酸、香料、界面活性剤、乳化剤、プロテイン、ケトンエステル類、食物繊維、着色料、調味料、膨張剤または発泡剤、増粘安定剤または保水乳化安定剤、保存料、消泡剤などが挙げられる。
【0074】
糖類としては、例えば、アラビノース、キシロースなどのペントース;ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ガラクトース、マンノース、ソルボースなどのヘキソース、プシコースに代表される希少糖、蜂蜜などの単糖;ショ糖(例えば、白糖や精製白糖、粉糖、グラニュー糖、きび糖、黒糖、三温糖など)、乳糖(ラクトース)、異性化乳糖(ラクチュロース)、麦芽糖(マルトース)、イソマルトース、トレハロースなどの二糖;マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、澱粉分解物(デキストリン)などのオリゴ糖(三糖以上のオリゴ糖);キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、還元麦芽糖水飴(マルチトール)、還元澱粉糖化物、還元パラチノース、還元乳糖(ラクチトール)などの糖アルコール類などが挙げられる。
【0075】
甘味剤(非糖質甘味料)としては、例えば、ステビア、カンゾウ、アマチャなどの天然甘味料;サッカリン、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテームなどの人工甘味料などが挙げられる。
【0076】
酸味剤としては、例えば、酢酸などの飽和モノカルボン酸;マロン酸、コハク酸、無水コハク酸、グルタル酸などの飽和ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸などの不飽和多価カルボン酸;乳酸などのヒドロキシモノカルボン酸;リンゴ酸、酒石酸、クエン酸などのヒドロキシポリカルボン酸;アスコルビン酸、グルコン酸などが挙げられる。
【0077】
アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、グルタミンなどの中性アミノ酸;アスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸などが挙げられる。
【0078】
香料は、天然香料であってもよく、合成香料であってもよい。
【0079】
天然香料としては、例えば、ストロベリー、ブルーベリー、リンゴ、うめ、オレンジ、レモン、ライム、バニラ、ペッパーなどの果実系エッセンスまたはオイル;オレンジ、ホワイトグレープ、グレープフルーツ、レモンなどの果皮系エッセンスまたはオイル;ニッキ(シナモン)などの樹皮系エッセンスまたはオイル;シナモンパウダーなどの樹皮系パウダー;ジンジャーなどの根菜系エッセンスまたはオイル;ジンジャーパウダーなどの根菜系パウダー;バニラビーンズ、カカオ末などの種子系パウダー;ペパーミント、スペアミント、ローズマリーなどの枝葉系エッセンスまたはオイル;ペパーミントパウダーなどの枝葉系パウダー;ジャスミン、ラベンダー、ローズ、ローズマリー、ヒヤシンスなどの花系エッセンスまたはオイルなどが挙げられる。
【0080】
合成香料としては、例えば、酢酸ベンジル、酢酸リナリル、シトラール、シトロネラール、シトロネロール、シスジャスミン、シス-3-ヘキセノール、メントールなどが挙げられる。
【0081】
界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールなどが挙げられる。
【0082】
乳化剤としては、例えば、リン脂質類、ショ糖脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、プロピレングリコール脂肪酸エステル類などが挙げられる。
【0083】
プロテインとしては、例えば、ホエイプロテイン、カゼインプロテイン、ソイプロテイン(大豆プロテイン)、エンドウ豆プロテイン、小麦プロテイン、エッグプロテイン、ライスプロテインなどが挙げられる。
【0084】
ケトンエステル類としては、例えば、3HBと1,3-ブタンジオールとのケトンエステルなどが挙げられる。
【0085】
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンB12などが挙げられる。
【0086】
食物繊維としては、例えば、小麦ふすま、コーンふすま、オーツブラン、コーンファイバー、大豆食物繊維、ビートファイバー、アカシア食物繊維、結晶セルロース、難消化性デキストリン、寒天、キトサン、キチン、ヘミセルロース、リグニン、グルカンなどが挙げられる。
【0087】
着色料としては、例えば、食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号などの食用色素;食用レーキ色素;ベンガラなどが挙げられる。
【0088】
調味料としては、例えば、塩、酢、醤油、魚醤、みりん、料理酒、味噌、ソース、粉末だし(いりこだし、昆布だし、鰹だしなど)、鰹節、洋風だし(コンソメ、ミルポワ、ブイヤベースなど)、香辛料(ニンニク、ショウガ、クローブ、クミン、山椒、ミョウガ、胡椒、唐辛子など)などが挙げられる。
【0089】
膨張剤または発泡剤としては、例えば、重曹などが挙げられる。
【0090】
増粘安定剤または保水乳化安定剤としては、例えば、ペクチン、セルロースなどの増粘多糖類などが挙げられる。
【0091】
保存料としては、例えば、防腐剤、抗菌、酸化防止剤、光安定剤などが挙げられる。
【0092】
消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤などが挙げられる。
【0093】
これら他の成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。pH調整後の液状組成物において、これら他の成分の割合は、3HBおよび3HB塩の合計100質量部に対して、例えば100質量部以下であってもよく、好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、最も好ましくは10質量部以下(例えば0.1~10質量部)である。
【0094】
[液状組成物]
本発明の方法で安定化された液状組成物は、3HBおよび水を含み、遊離の酸の形態である3HBを含んでいるにも拘わらず、3HBの多量化を抑制できる。例えば、本発明の液状組成物を冷蔵庫中などにおいて長期間保存しても3HBの多量化を抑制できるだけでなく、60℃程度の高温で保存した場合であっても、3HBの多量化を抑制できる。
【0095】
(第1の液状組成物)
本発明の方法で安定化された液状組成物は、3HBおよび水を含み、かつpHが2以上である液状組成物(第1の液状組成物)であってもよい。第1の液状組成物は、3HBおよび水を含んでいればよく、第1の液状組成物のpHは、2.2以上が好ましく、2.2~7程度の範囲から選択でき、例えば2.3~6、好ましくは2.4~5.5、さらに好ましくは2.5~5、より好ましくは3~4.5、最も好ましくは3.3~4である。第1の液状組成物は、3HB塩を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0096】
第1の液状組成物において、3HBおよび3HB塩の合計割合は、遊離の形態である3HB換算で、第1の液状組成物中0.1質量%以上であってもよく、例えば0.1~70質量%、好ましくは1~60質量%、さらに好ましくは2~55質量%、より好ましくは3~50質量%、最も好ましくは5~45質量%である。
【0097】
第1の液状組成物は、3HBおよび水に加えて、他の成分として、食品や医薬品の液状組成物に配合される成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、前記液状組成物の安定化方法の項で例示された他の成分などが挙げられる。他の成分の割合は、3HBおよび3HB塩の合計100質量部に対して、例えば100質量部以下であってもよく、好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、最も好ましくは10質量部以下(例えば0.1~10質量部)である。
【0098】
(第2の液状組成物)
本発明の方法において、部分中和法を用いて安定化された液状組成物(第2の液状組成物)は、3HB、3HB塩および水を含む。この液状組成物において、3HB塩の割合は、3HB100モルに対して100モル以下であってもよく、0.1~100モル程度の範囲から選択でき、例えば0.5~80モル、好ましくは1~60モル、さらに好ましくは3~50モル、より好ましくは5~30モル、最も好ましくは10~20モルである。これらの割合(3HB100モルに対する3HB塩の割合)は、3HBおよび3HB塩の合計割合がpH調整後の液状組成物中15質量%以上(例えば20~50質量%)である液状組成物における割合であってもよい。
【0099】
第2の液状組成物において、3HBおよび3HB塩の合計割合は、遊離の形態である3HB換算で、第2の液状組成物中15質量%以上(特に20質量%以上)に調整してもよく、例えば15~70質量%、好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは25~55質量%、より好ましくは30~50質量%、最も好ましくは35~45質量%である。
【0100】
第2の液状組成物において、水の割合は、第2の液状組成物中10質量%以上であってもよく、10~99.9質量%程度の範囲から選択でき、例えば30~99質量%、好ましくは50~98質量%、さらに好ましくは55~95質量%、より好ましくは60~90質量%、最も好ましくは70~85質量%である。
【0101】
第2の液状組成物は、3HB、3HB塩および水に加えて、他の成分として、食品や医薬品の液状組成物に配合される成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、前記液状組成物の安定化方法の項で例示された他の成分などが挙げられる。他の成分の割合は、3HBおよび3HB塩の合計100質量部に対して、例えば100質量部以下であってもよく、好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、最も好ましくは10質量部以下(例えば0.1~10質量部)である。
【0102】
第2の液状組成物のpHは、2.2以上が好ましく、2.2~7程度の範囲から選択でき、例えば2.3~6、好ましくは2.4~5.5、さらに好ましくは2.5~5、より好ましくは3~4.5、最も好ましくは3.3~4である。
【0103】
(第3の液状組成物)
本発明の方法において、部分中和法を用いずに、濃度調整法のみを用いて安定化された液状組成物(第3の液状組成物)は、3HBおよび水を含み、かつ3HB塩を含まない液状組成物であってもよい。
【0104】
第3の液状組成物において、3HBの割合は、第3の液状組成物中15質量%未満であってもよく、例えば0.1~14質量%、好ましくは1~13質量%、さらに好ましくは2~12質量%、より好ましくは3~11質量%、最も好ましくは5~10質量%である。
【0105】
第3の液状組成物において、水の割合は、第3の液状組成物中80質量%以上であってもよく、例えば80~99質量%、好ましくは85~98質量%、さらに好ましくは90~95質量%である。
【0106】
第3の液状組成物は、3HBおよび水に加えて、他の成分として、食品や医薬品の液状組成物に配合される成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、前記液状組成物の安定化方法の項で例示された他の成分などが挙げられる。他の成分の割合は、3HB100質量部に対して、例えば100質量部以下であってもよく、好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、最も好ましくは10質量部以下(例えば0.1~10質量部)である。
【0107】
第3の液状組成物のpHは、2.2以上が好ましく、2.2~5程度の範囲から選択でき、例えば2.2~4、好ましくは2.2~3、さらに好ましくは2.2~2.5、より好ましくは2.2~2.4である。
【0108】
[用途]
本発明の方法で安定化された液状組成物は、食品や医薬品の分野で利用でき、そのまま食品や医薬品としての液状組成物(液剤)として利用してもよい。液状組成物(液剤)としては、例えば、ドリンク剤(飲料)、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、注射剤、液体スティックなどが挙げられる。さらに、飲料などの液状組成物は、原液または濃縮液であってもよい。液状組成物は、慣用の方法でパッキングまたは包装されていてもよい。包装材料についても特に限定されない。液状組成物は、パッキングの前後などにおいて、熱処理等の方法により滅菌処理してもよい。
【0109】
さらに、本発明の方法で安定化された液状組成物は、食品や医薬品としての半固形状組成物(半固形剤)または固形状組成物(固形剤)の原料としても利用してもよい。
【0110】
半固形状組成物(半固形剤)としては、例えば、ゲル剤、クリーム剤、ゼリー、スラリー、ペースト、シャーベットなどが挙げられる。半固形状組成物は、前記液状組成物の安定化方法の項で例示された他の成分、増粘剤などをさらに含んでいてもよい。
【0111】
増粘剤としては、例えば、寒天、カラギーナン、アルギン酸、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、カードラン、カルボキシメチルセルロースなどの多糖類、ゼラチンなどのタンパク質などのゲル化剤;小麦粉由来のグルテン(グリアジンとグルテニンとの複合体);水産練り製品の足を形成するための魚肉タンパク質(筋原繊維タンパク質)などが挙げられる。これらの増粘剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ゼラチン、グルテン、魚肉タンパク質などが好ましい。増粘剤の割合は、半固形剤全体に対して1~50質量%程度の範囲から選択でき、例えば、2~40質量%、好ましくは3~30質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。
【0112】
半固形状組成物は、慣用の方法でパッキングまたは包装されていてもよい。包装材料についても特に限定されない。半固形状組成物は、パッキングの前後などにおいて、熱処理等の方法により滅菌処理してもよい。
【0113】
固形状組成物(固形剤)としては、例えば、ペレット、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、丸剤、糖衣錠などの錠剤、フレーク剤、ケーク剤、グミ剤、ヌガー剤、フィルム剤、カプセル剤などが挙げられる。固形状組成物は、前記液状組成物の安定化方法の項で例示された他の成分、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤などをさらに含んでいてもよい。
【0114】
賦形剤は、有機賦形剤であっても無機賦形剤であってもよい。有機賦形剤としては、例えば、結晶セルロース;マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、ラクチトール、還元性水飴などの糖アルコール、乳糖(無水乳糖、乳糖水和物を含む)、ショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖などの糖類(単糖類または二糖類);オリゴ糖、コーンスターチ、馬鈴薯デンプン、コムギデンプン、部分アルファー化デンプン、アルファー化デンプンなどのデンプン類(または多糖類)などが例示できる。無機賦形剤としては、例えば、軽質無水ケイ酸、無水リン酸水素カルシウム、無水リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。これらの賦形剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、結晶セルロース、糖類(糖アルコール、単糖類および二糖類)、軽質無水ケイ酸、無水リン酸水素カルシウムがましい。賦形剤の割合は、固形製剤中0.01~90質量%程度の範囲から選択でき、0.05~80質量%、好ましくは0.1~70質量%、さらに好ましくは0.5~60質量%である。
【0115】
結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)、カルメロースナトリウムなどのセルロースエーテル類;カルボキシメチルデンプン、アルファ化デンプン、部分アルファ化デンプンなどの可溶性デンプン;デキストリン、プルラン、アラビアゴム、トラガント、アルギン酸ナトリウム、カンテン、ゼラチンなどの多糖類;ポビドン(ポリビニルピロリドン)、コポリビドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの合成高分子などが挙げられる。これらの結合剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、HPMC、カルメロースナトリウム、ポビドンが好ましい。結合剤の割合は、固形製剤中0.5~20質量%、好ましくは1~15質量%、さらに好ましくは2~10質量%である。
【0116】
崩壊剤としては、例えば、コーンスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン(架橋ポリビニルピロリドン)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)などが挙げられる。これらの崩壊剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドンが好ましい。崩壊剤の割合は、固形製剤中0.5~25質量%、好ましくは1~20質量%、さらに好ましくは2~15質量%である。
【0117】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、タルク、ワックス類、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、マクロゴール6000などが挙げられる。これらの滑沢剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ステアリン酸マグネシウムなどの脂肪酸金属塩が好ましい。滑沢剤の割合は、固形製剤(特に、錠剤)中0.1~10質量%、好ましくは0.2~5質量%、さらに好ましくは0.3~2質量%である。
【0118】
固形状組成物は、慣用の方法でパッキングまたは包装されていてもよい。包装材料についても特に限定されない。固形状組成物は、パッキングの前後などにおいて、熱処理等の方法により滅菌処理してもよい。
【0119】
なお、固形状組成物は、本発明の方法で安定化された液状組成物の原料として用いてもよい。
【0120】
さらに、本発明の方法で安定化された液状組成物は、食品や医薬品として経口摂取する際に、任意の範囲で、用途に応じてpHをさらに調整してもよい。塩分摂取量や賞味期限の観点からはpHは低い方が好ましいが、例えば、お茶やコーヒーなどの弱酸性または中性に近い飲料等に使用する場合は、pHが5~7程度となるように調整することが好ましい。特にpHが5.5~6.5の範囲においては、3HBを含む液状組成物は、単独の酸や塩に特有の酸味や苦み、塩味などが消失し、甘味剤や香料などを含んでいなくても摂取し易くなる。さらに、3HBのナトリウム塩を含む液状組成物ではpH6.1±0.1が好ましく、3HBのカルシウム塩を含む液状組成物ではpH6.25±0.1が好ましく、3HBのマグネシウム塩を含む液状組成物ではpH6.05±0.1が好ましく、3HBのカリウム塩を含む液状組成物ではpH6.0±0.1が好ましい。これらの塩は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよく、塩分の摂取量の観点から、少なくとも酸の形態である3HBを含むのが好ましい。pHの調整方法としては、例えば、前記塩基性化合物を添加する方法に加え、少なくとも一種以上の3HB塩を添加する方法、水で希釈する方法などが挙げられる。また、3HBを含む液状組成物の摂取において、前記塩基性化合物を添加したり、少なくとも一種以上の3HB塩を添加することにより、半固体状や固体状に調製して摂取してもよい。さらに、半固体状組成物や固体状組成物の摂取の際に、半固体状組成物や固体状組成物を水に溶かして摂取してもよい。
【実施例0121】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例で使用した原料および実施例で調製された液状組成物の保存安定性の評価方法は以下の通りである。
【0122】
[原料]
結晶性(R)3HB:(R)3HB[大阪ガスケミカル(株)製「OKETOA(登録商標)」、酸の形態]に蒸留水を加えて20質量%濃度に調製し、-40℃で完全に凍結したものをフリーズドライヤーで結晶化させて得られた結晶性(R)3HB。
【0123】
クエン酸三ナトリウム:キシダ化学(株)製、無水クエン酸三ナトリウム。
【0124】
[保存安定性(二量体含有量)]
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、下記条件で二量体の含有量を測定した。
【0125】
装置:(株)日立ハイテクサイエンス製Chromaster
カラム:アジレント・テクノロジー(株)製Metacarb 67H
移動相:5mM H2SO4水溶液
検出器:RI
流量:0.8mL/min。
【0126】
(1)(R)3HBの濃度に関する検討
実施例1(
図1中の10%)
蒸留水9.0gに結晶性(R)3HB 1.0gを添加してマグネチックスターラーで撹拌し、3HB濃度10質量%の水溶液を調製した。得られた水溶液をバイアルに密閉して60℃で70日間加熱し、前記水溶液の保存安定性を経時的に評価した。
【0127】
参考例1(
図1中の20%)
3HBの濃度を20質量%に変更する以外は、実施例1と同様にして水溶液の保存安定性を経時的に評価した。
【0128】
参考例2(
図1中の30%)
3HBの濃度を30質量%に変更する以外は、実施例1と同様にして水溶液の保存安定性を経時的に評価した。
【0129】
参考例3(
図1中の40%)
3HBの濃度を40質量%に変更する以外は、実施例1と同様にして水溶液の保存安定性を経時的に評価した。
【0130】
参考例4(
図1中の50%)
3HBの濃度を50質量%に変更する以外は、実施例1と同様にして水溶液の保存安定性を経時的に評価した。
【0131】
参考例5(
図1中の60%)
3HBの濃度を60質量%に変更する以外は、実施例1と同様にして水溶液の保存安定性を経時的に評価した。
【0132】
参考例6(
図1中の70%)
3HBの濃度を70質量%に変更する以外は、実施例1と同様にして水溶液の保存安定性を経時的に評価した。
【0133】
参考例7(
図1中の80%)
3HBの濃度を80質量%に変更する以外は、実施例1と同様にして水溶液の保存安定性を経時的に評価した。
【0134】
実施例1および参考例1~7で得られた水溶液の評価結果を
図1に示す。
【0135】
図1から明らかなように、実施例1の水溶液では、70日間加熱しても、二量体の含有量に変化はなく、保存安定性に優れていた。一方、参考例1~7の水溶液では、いずれも加熱によって二量体が生成しており、結晶性(R)3HBの濃度が高い程、二量体の含有量が多い傾向があった。
【0136】
(2)KOHの有無に関する検討
参考例8
蒸留水8.0gに結晶性(R)3HB 2.0gを添加してマグネチックスターラーで攪拌し、3HB濃度20質量%の水溶液を調製した。得られた水溶液をバイアルに密閉して60℃で4週間加熱した後、水溶液の保存安定性を評価した結果、二量体の割合は3HBに対して4.4面積%であった。
【0137】
参考例9
3HBの濃度を40質量%に変更する以外は、参考例8と同様にして水溶液の保存安定性を評価した結果、二量体の割合は3HBに対して12.9面積%であった。
【0138】
参考例10
3HBの濃度を50質量%に変更する以外は、参考例8と同様にして水溶液の保存安定性を評価した結果、二量体の割合は3HBに対して21.0面積%であった。
【0139】
実施例2
蒸留水8.0gに結晶性(R)3HB 2.0gを添加してマグネチックスターラーで攪拌し、3HB濃度20質量%の水溶液を調製し、さらにKOHを添加して得られた水溶液のpHを4に調整した。得られたpH4の水溶液をバイアルに密閉して60℃で4週間加熱した後、前記水溶液の保存安定性を評価した結果、二量体の存在は確認できなかった。
【0140】
実施例3
蒸留水6.0gに結晶性(R)3HB 4.0gを添加してマグネチックスターラーで攪拌し、3HB濃度40質量%の水溶液を調製し、さらにKOHを添加して得られた水溶液のpHを4に調整した。得られたpH4の水溶液をバイアルに密閉して60℃で4週間加熱した後、前記水溶液の保存安定性を評価した結果、二量体の割合は3HBおよび3HB塩の合計を遊離した形態である3HBに換算した合計量に対して4.7面積%であった。
【0141】
実施例4
蒸留水5.0gに結晶性(R)3HB 5.0gを添加してマグネチックスターラーで攪拌し、3HB濃度50質量%の水溶液を調製し、さらにKOHを添加して得られた水溶液のpHを4に調整した。得られたpH4の水溶液をバイアルに密閉して60℃で4週間加熱した後、前記水溶液の保存安定性を評価した結果、二量体の割合は3HBおよび3HB塩の合計を遊離した形態である3HBに換算した合計量に対して8.6面積%であった。
【0142】
参考例8~10および実施例2~4で得られた水溶液の評価結果を表1に示す。
【0143】
【0144】
表1の結果から明らかなように、実施例2~4の水溶液では、3HBを20質量%以上含んでいても、KOHを含むことにより、参考例8~10の水溶液に比べて、二量体の生成が抑制できた。
【0145】
(3)3HB5質量%水溶液のpHに関する検討
実施例5(
図2中の調整無し)
蒸留水47.5gに結晶性(R)3HB 2.5gを添加してマグネチックスターラーで攪拌し、3HB濃度5質量%の水溶液を調製した。得られた水溶液のpHは2.3であった。得られたpH2.3の水溶液をバイアルに密閉して60℃で1週間加熱した後、前記水溶液の保存安定性を評価した。
【0146】
実施例6(
図2中のpH2.5)
蒸留水47.5gに結晶性(R)3HB 2.5gを添加してマグネチックスターラーで攪拌し、3HB濃度5質量%の水溶液を調製し、さらにクエン酸三ナトリウム0.001gを添加して得られた水溶液のpHを2.5に調整した。得られたpH2.5の水溶液をバイアルに密閉して60℃で1週間加熱した後、前記水溶液の保存安定性を評価した。
【0147】
実施例7(
図2中のpH3.0)
クエン酸三ナトリウムの添加量を0.069gに変更して水溶液のpHを3.0に調整する以外は実施例6と同様にして水溶液の保存安定性を評価した。
【0148】
実施例8(
図2中のpH3.5)
クエン酸三ナトリウムの添加量を0.313gに変更して水溶液のpHを3.5に調整する以外は実施例6と同様にして水溶液の保存安定性を評価した。
【0149】
実施例9(
図2中のpH4.0)
クエン酸三ナトリウムの添加量を0.738gに変更して水溶液のpHを4.0に調整する以外は実施例6と同様にして水溶液の保存安定性を評価した。
【0150】
(4)3HB10質量%水溶液のpHに関する検討
実施例10(
図3中の調整無し)
蒸留水45.0gに3HB 5.0gを添加してマグネチックスターラーで攪拌し、3HB濃度10質量%の水溶液を調製した。得られた水溶液のpHは2.2であった。得られたpH2.2の水溶液をバイアルに密閉して60℃で1週間加熱した後、前記水溶液の保存安定性を評価した。
【0151】
実施例11(
図3中のpH2.5)
蒸留水45.0gに結晶性(R)3HB 5.0gを添加してマグネチックスターラーで攪拌し、3HB濃度10質量%の水溶液を調製し、さらにクエン酸三ナトリウム0.045gを添加して得られた水溶液のpHを2.5に調整した。得られたpH2.5の水溶液をバイアルに密閉して60℃で1週間加熱した後、前記水溶液の保存安定性を評価した。
【0152】
実施例12(
図3中のpH3.0)
クエン酸三ナトリウムの添加量を0.177gに変更して水溶液のpHを3.0に調整する以外は実施例11と同様にして水溶液の保存安定性を評価した。
【0153】
実施例13(
図3中のpH3.5)
クエン酸三ナトリウムの添加量を0.501gに変更して水溶液のpHを3.5に調整する以外は実施例11と同様にして水溶液の保存安定性を評価した。
【0154】
実施例14(
図3中のpH4.0)
クエン酸三ナトリウムの添加量を1.542gに変更して水溶液のpHを4.0に調整する以外は実施例11と同様にして水溶液の保存安定性を評価した。
【0155】
(5)3HB20質量%水溶液のpHに関する検討
参考例11(
図4中の調整無し)
蒸留水40.0gに結晶性(R)3HB 10.0gを添加してマグネチックスターラーで攪拌し、3HB濃度20質量%の水溶液を調製した。得られた水溶液のpHは2.1であった。得られたpH2.1の水溶液をバイアルに密閉して60℃で1週間加熱した後、前記水溶液の保存安定性を評価した。
【0156】
実施例15(
図4中のpH2.5)
蒸留水40.0gに結晶性(R)3HB 10.0gを添加してマグネチックスターラーで攪拌し、3HB濃度20質量%の水溶液を調製し、さらにクエン酸三ナトリウム0.094gを添加して得られた水溶液のpHを2.5に調整した。得られたpH2.5の水溶液をバイアルに密閉して60℃で1週間加熱した後、前記水溶液の保存安定性を評価した。
【0157】
実施例16(
図4中のpH3.0)
クエン酸三ナトリウムの添加量を0.293gに変更して水溶液のpHを3.0に調整する以外は実施例15と同様にして水溶液の保存安定性を評価した。
【0158】
実施例17(
図4中のpH3.5)
クエン酸三ナトリウムの添加量を1.133gに変更して水溶液のpHを3.5に調整する以外は実施例15と同様にして水溶液の保存安定性を評価した。
【0159】
実施例18(
図4中のpH4.0)
クエン酸三ナトリウムの添加量を2.789gに変更して水溶液のpHを4.0に調整する以外は実施例15と同様にして水溶液の保存安定性を評価した。
【0160】
(6)3HB40質量%水溶液のpHに関する検討
参考例12(
図5中の調整無し)
蒸留水30.0gに結晶性(R)3HB 20.0gを添加してマグネチックスターラーで攪拌し、3HB濃度40質量%の水溶液を調製した。得られた水溶液のpHは1.7であった。得られたpH1.7の水溶液をバイアルに密閉して60℃で1週間加熱した後、前記水溶液の保存安定性を評価した。
【0161】
実施例19(
図5中のpH2.5)
蒸留水30.0gに結晶性(R)3HB 20.0gを添加してマグネチックスターラーで攪拌し、3HB濃度40質量%の水溶液を調製し、さらにクエン酸三ナトリウム0.220gを添加して得られた水溶液のpHを2.5に調整した。得られたpH2.5の水溶液をバイアルに密閉して60℃で1週間加熱した後、前記水溶液の保存安定性を評価した。
【0162】
実施例20(
図5中のpH3.0)
クエン酸三ナトリウムの添加量を0.632gに変更して水溶液のpHを3.0に調整する以外は実施例19と同様にして水溶液の保存安定性を評価した。
【0163】
実施例21(
図5中のpH3.5)
クエン酸三ナトリウムの添加量を1.907gに変更して水溶液のpHを3.5に調整する以外は実施例19と同様にして水溶液の保存安定性を評価した。
【0164】
実施例22(
図5中のpH4.0)
クエン酸三ナトリウムの添加量を4.714gに変更して水溶液のpHを4.0に調整する以外は実施例19と同様にして水溶液の保存安定性を評価した。
【0165】
実施例5~9で得られた水溶液、実施例10~14で得られた水溶液、参考例11および実施例15~18で得られた水溶液、参考例12および実施例19~22で得られた水溶液の評価結果を、それぞれ
図2~5に示す。
【0166】
図2および3の結果から、3HB濃度5質量%および10質量%の水溶液においては、二量体の含有比率はpHに依存せず、おおよそ2質量%前後であることが判明した。原料水溶液に、3HB単量体に対して約2質量%の二量体が元々含まれていることから、この濃度域においては二量化は大きく進行しないものと考えられる。
【0167】
一方で、
図4および5の結果から、3HB濃度20質量%および40質量%の水溶液においては、pH調製を行っていない水溶液に比べて、pHを2.5以上に調整した水溶液では二量体含有比率が明確に少ないことが分かった。また、pHが2.5~4.0の範囲においては、調整無しとpH2.5との差程の明確な違いは観測されなかった。この結果から、3HBは10質量%を超える濃度域において、緩衝能力を有するクエン酸三ナトリウム等を少量添加することによって、大きく保存安定性が向上することが明らかとなった。
本発明の液状組成物は、食品や医薬品の分野で利用される飲料またはその原液もしくは濃縮液としてそのまま利用でき、半固形状または固形状の食品や医薬品の原料としても利用できる。