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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031695
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】固体電解質、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20240229BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240229BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240229BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240229BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/06 A
H01B1/08
H01B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135412
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】土屋 敬志
(72)【発明者】
【氏名】崔 源成
(72)【発明者】
【氏名】尹 ▲ガブ▼仁
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA03
5G301CA04
5G301CA16
5G301CA19
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ24
5H029CJ28
5H029CJ30
5H029HJ00
5H029HJ02
5H029HJ14
5H029HJ16
(57)【要約】
【課題】高いイオン伝導度を達成する新規な固体電解質を提供すること。
【解決手段】本発明に係る固体電解質は、リンおよびケイ素の酸窒化物と、リチウムとを含む化合物(LiSiPON)にホウ素がドープされている。リン、ケイ素およびホウ素の含有量の合計を1.00として、ホウ素の組成比が0.50以下であり、赤外分光スペクトルから求められる環状P-N-P構造におけるP-N結合に由来する吸光度のピークAとPO3- およびPO2- におけるP-O結合に由来する吸光度のピークBとの比であるA/B値が0.80以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンおよびケイ素の酸窒化物と、リチウムとを含む化合物(LiSiPON)にホウ素がドープされている、固体電解質であって、
上記固体電解質は、リン、ケイ素およびホウ素の含有量の合計を1.00として、ホウ素の組成比が、0.50以下である、固体電解質。
【請求項2】
赤外線分光スペクトルにおいて、環状P-N-P構造におけるP-N結合に由来する吸光度のピークAと、PO3- およびPO2- におけるP-O結合に由来する吸光度のピークBとの比であるA/B値が0.80以上である、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
リン、ケイおよびホウ素の含有量の合計を1.00として、ホウ素の組成比が、0.05以上である、請求項1又は2に記載の固体電解質。
【請求項4】
正極材と負極材との間に、請求項1~3の何れか一項に記載の固体電解質を含む層を備えてなる、リチウムイオン2次電池。
【請求項5】
リンおよびケイ素の酸化物と、リチウムとの化合物(LiSiPO)にホウ素を含む、ターゲット材料に高周波スパッタリングを施すことで、リンおよびケイ素の酸窒化物とリチウムとの化合物(LiSiPON)に上記ホウ素がドープされている固体電解質を得る工程を包含し、
上記高周波スパッタリングでは、20~100Wの高周波電力の条件にて、プロセスガスとして窒素ガスを供給する、固体電解質の製造方法。
【請求項6】
上記固体電解質を得る工程後、上記固体電解質を加熱する工程を包含し、
上記加熱する工程では、673K以下の温度で上記固体電解質を加熱する、請求項5に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項7】
上記固体電解質は、赤外線分光ペクトルから求められる環状P-N-P構造におけるN-P結合に由来する吸光度のピークAと、PO3- およびPO2- におけるP-O結合に由来する吸光度のピークBとの比であるA/Bの値が0.80以上である、請求項5又は6に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項8】
上記ターゲット材料は、リン、ケイ素、およびホウ素の含有量の合計を1.00として、ホウ素の組成比が0.50以下である、請求項5~7の何れか一項に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項9】
上記ターゲット材料は、リン、ケイ素、およびホウ素の含有量の合計を1.00として、ホウ素の組成比が0.05よりも大きい、請求項5~8の何れか一項に記載の固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質は、現在の主流である液体電解質と比較して、安全性が高い、作動温度範囲が広い、設計の自由度が高い、劣化しにくいなどの利点を有することから、多様な固体電解質が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、組成式:Liである固体電解質であって、MはSi、B、Ge、Al、C、GaおよびSよりなる群から選択される少なくとも1種の元素である、固体電解質が記載されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、Li、X、Y、Z、O及びN(ここでX、Y及びZはそれぞれP、B、Si、Al、Ge及びAsで構成される群から選ばれる)の6つの原子を含有する6元系固体電解質が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許公開第2006/210882号
【特許文献2】韓国登録特許第10-0533933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載されているようなリチウム伝導性の固体電解質は、セパレータ等の多孔質膜及びゲル状の高分子等に電解質を含侵させることなく、固体状の電解質としてリチウムイオン2次電池に使用することができる。つまり、液体電解質を用いることなく、リチウムイオン2次電池に使用することができる。しかしながら、このような固体電解質は、液体電解質と比較してイオン伝導度が低い傾向にあるため、更なる高出力化が求められている。このような高出力化の要求から、特許文献1及び2に記載の固体電解質よりもイオン伝導度が高い新規な固体電解質が求められているという問題がある。
【0007】
本発明の一態様は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、高いイオン伝導度を達成する新規な固体電解質、及びその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る固体電解質は、リン及びケイ素の酸窒化物と、リチウムとを含む化合物(LiSiPON)にホウ素がドープされている、固体電解質であって、上記固体電解質に含まれるリン、ケイ素及びホウ素の含有量の合計を1.0として、ホウ素の組成比が0.5以下であり、赤外分光スペクトルから求められるP-N-P構造におけるP-N結合に由来する吸光度のピークAと、PO3- 及びPO2- におけるP-O結合に由来する吸光度のピークBとの比であるA/Bの値が0.8以上である。
【0009】
また、本発明の一態様に係る固体電解質の製造方法は、リン及びケイ素の酸化物と、リチウムとの化合物(LiSiPO)にホウ素を含む、ターゲット材料に高周波スパッタリングを施すことで、リン及びケイ素の酸窒化物とリチウムの化合物(LiSiPON)に上記ホウ素がドープされている固体電解質を得る工程を包含し、上記高周波スパッタリングでは、20~100Wの高周波電力の条件にて、プロセスガスとして窒素ガスを供給する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、高いイオン伝導度を達成する新規な固体電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の一実施形態に係るリチウムイオン2次電池1の概略を説明する図である。
図2図2は、ホウ素(B)の組成比が互いに異なる固体電解質(B-LiSiPON)のFT-IRにより得られる吸収スペクトルである。
図3図3は、高周波スパッタリングにおけるRF出力と固体電解質(B-LiSiPON)のイオン伝導度との関係を示すグラフである。
図4図4は、高周波スパッタリング後の加熱温度と固体電解質(B-LiSiPON)のイオン伝導度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<固体電解質(B-LISiPON)>
本開示の一態様に係る固定電解質は、リン及びケイ素の酸窒化物と、リチウムとを含む化合物(LiSiPON)にホウ素がドープされている、固体電解質である。当該固体電解質は、本明細書中において、リン、ケイ素、ホウ素の組成比、及び吸光度のピーク比A/Bの値によらず、「B-LiSiPON」と記載することで、他の固体電解質と区別され得る。また、「B-LiSiPON」と記載する場合、aは、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、リン(P)の合計を1.00としたときにおける、Bの組成比aを意味する。
【0013】
なお、「LiSiPON」と記載されている場合は、ホウ素(B)がドープされていないリン及びケイ素の酸窒化物とリチウムとの化合物のことを意味し、「LiSiPON」はリン及びケイ素の酸化物とリチウムとの化合物のことを意味する。
【0014】
B-LiSiPONが含有している各元素の組成比は、誘導結合プラズマ発光分析計(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)、X線光電子分光法(XPS)を併用することによって測定することができる。B-LiSiPONの組成比の評価方法の詳細は、実施例の欄の記載を参照されたい。ICP-AES、及びICP-MS並びにXPSから求められるB-LiSiPONの組成比は、以下の式(1)にて表され得る。
LiSi…(1)
上記式(1)において、組成比aは、0.05~0.50であるとよく、0.10~0.35であることが好ましい。上記式(1)において、組成比bは、2.8~4.0であればよい。上記式(1)において、組成比cは、0.15~0.80であればよく、0.40~0.70であることがより好ましい。上記式(1)において、組成比dは、0.15~0.35であればよく、0.20~0.30であることがより好ましい。ここで、式(1)において、a+c+d=1.00である。また、式(1)において、組成比eは、1.50~4.50であればよく、組成比fは0.10~0.60であればよい。
【0015】
B-LiSiPONは、Si、P、及びBの含有量の合計を1.00として、Bの組成比aが0.50以下であり、0.35以下であることがより好ましい。また、限定されるべきではないが、Bの組成比aは、0.05以上であればよく、0.10以上であることが好ましい。B-LiSiPONは、Si、P、及びBの含有量の合計を1.00として、Bの組成比aが0.05以上、0.35以下において、10-5S・cm-1以上という極めて高いイオン伝導度を示し得る。
【0016】
B-LiSiPONは、Si、P、及びBの含有量の合計を1.00として、Si組成比cが、0.15以上、0.80以下の範囲内であればよく、0.40以上、0.70以下の範囲内であることが好ましい。B-LiSiPONは、Siの組成比cが0.30以上、0.70以下の範囲内においてより高いよりイオン伝導度を示す。
【0017】
B-LiSiPONは、Si、P、及びBの含有量の合計を1.00として、Pの組成比dが、0.15以上、0.35以下の範囲内であればよく、0.20以上、0.30以下の範囲内であることがより好ましい。B-LiSiPONは、Pの組成比dが0.15以上、0.35以下の範囲内においてより高いよりイオン伝導度を示す。また、B-LiSiPONは、Pの組成比dが0.20以上、0.3以下の範囲内においてより高いよりイオン伝導度を示す。
【0018】
式(1)に示す、B-LiSiPONは窒素(N)の組成比fは、0.1~0.6の範囲内においてより大きい程、高いイオン伝導度を示す固体電解質を得ることができる。
【0019】
B-LiSiPONは、赤外吸分光法の1種であるフーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)によってさらに特徴付けられる。FT-IRにより得られた吸収スペクトルにおいて、環状P-N-P構造におけるP-N結合に由来する吸光度のピークAと、PO3- 及びPO2- におけるP-O結合に由来する吸光度のピークBとの比であるA/B値が0.8以上、より好ましくは、1.0以上である。また、B-LiSiPONは、A/Bの値が、限定されるものではないが、10以下であることが好ましく、2.20以下であることがより好ましい。B-LiSiPONは、Bの組成比aが0.05以上、0.60以下の範囲内において、A/Bの値が0.80以上であることにより、高いイオン伝導度を示すことができる。
【0020】
<リチウムイオン2次電池>
本開示の一態様に係る固体電解質は、正極材と負極材との間に当該固体電解質を含む層を備えてなる、リチウムイオン2次電池として使用され得る。本発明に係る固体電解質を用いたリチウムイオン2次電池の一例を図1に示す。
【0021】
図1に示すように、当該リチウムイオン2次電池1は、第1集電体21及び第2集電体22の間に、負極材から形成されてなるアノード層11と、正極材から形成されてなるカソード層12との間に固体電解質10を含む層を備えている。リチウムイオン2次電池1は、アノード層11とカソード層12との何れかが、図示しない基板上に設けられていてもよく、ここで当該基板には、例えば、シリコン基板及びガラス基板等が挙げられる。
【0022】
固体電解質10は、本開示の一態様に係るB-LiSiPONであって、Bの組成比aが0.05~0.5の範囲内であり、環状P-N-P構造におけるP-N結合に由来する吸光度のピークAと、PO3- 及びPO2- におけるP-O結合に由来する吸光度のピークBとの比であるA/B値が0.8以上であるとよい。固体電解質10の層の厚さは、限定されるべきではないが、厚さ約0.01~100μmの薄膜状であるとよい。
【0023】
第1集電体21及び第2集電体22は、厚さ約0.1~100μmの薄膜状の集電体であって、電子伝導性を有し、且つそれぞれアノード層11及びカソード層12と反応しない材料であればよい。第1集電体21及び第2集電体22は、例えば、白金、金、銀、アルミニウム、銅などの電子伝導性のある材料から形成されていればよい。第1集電体21及び第2集電体22は、スパッタリング等公知の方法より形成するとよい。
【0024】
負極材であるアノード層11には、例えば、リチウムイオン2次電池負極材料として用いられる黒鉛(LiC)、ハードカーボン(LiCチタネイト(LiTi12)、Li(リチウム)、Li-Al(リチウム・アルミニウム合金)、Li-In(リチウム・インジウム合金)などを用いることが好ましい。上記以外にも、リチウムイオン2次電池の負極材料として用いられる材料であればアノード層11に用いることができる。
【0025】
正極材であるカソード層12には、例えば、リチウムイオン2次電池正極材料として用いられるコバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、TiS(二硫化チタン)、LiCo0.3Ni0.702、MnO(二酸化マンガン)、CuO(PO(オキシリン酸銅)などを用いることが好ましい。上記以外にも、リチウムイオン2次電池正極材料として用いられる材料であればカソード層12に用いることができる。
【0026】
アノード層11及びカソード層12は、それぞれ、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法等の公知の方法で形成されていればよい。
【0027】
その他、本開示の一態様に係るリチウムイオン二次電池1において、固体電解質10は、本開示の一態様に係る固体電解質の焼結体を中間層として備える態様であってもよい。
【0028】
<固体電解質の製造方法>
上述の固体電解質(B-LiSiPON)を作製するために、リン及びケイ素の酸化物と、リチウムとの化合物(LiSiPO)にホウ素を含む、ターゲット材料(B-LiSiPO)を作製する。作製したターゲット材料(B-LiSiPO)に20~100Wの高周波電力の条件及びプロセスガスとしての窒素ガス存在下において、高周波スパッタリングを施すことで、リン及びケイ素の酸窒化物とリチウムとの化合物(LiSiPON)に上記ホウ素がドープされている薄膜状の固体電解質(B-LiSiPON)を得るとよい。
【0029】
ターゲット材料はリチウム塩を含み、当該リチウム塩は、オルト珪酸リチウム(LiSiO)、オルトリン酸リチウム(LiPO)、ホウ酸リチウム(LiBO)、炭酸リチウム(LiCO)であり得る。これらリチウム塩を配合し、焼成することでターゲット材料を得ることができる。ターゲット材料は、リチウム塩に含まれるケイ素(Si)、リン(P)、(B)のモル比に基づき、各元素の組成比を調整すればよい。ここで、ケイ素(Si)、リン(P)、及び(B)の組成比のそれぞれは、上述の式(1)に示すa+c+d=1.00の要件を満たすように調整すればよい。
【0030】
高周波スパッタリングに供するターゲット材料の密度は、例えば、1.00~2.50g/cmの範囲内であればよい。ターゲット材料の密度が、1.00~2.50g/cmの範囲内であることにより、高周波スパッタリングを施すときにいて、ターゲット材料の破損を防ぐことができ、緻密な粒子状の固体電解質(B-LiSiPON)の層を成膜することができる。
【0031】
高周波スパッタリングは、20~100Wの高周波電力(RF出力とも称する)の条件にてプロセスガスとして窒素ガスを供給するとよい。高周波電力が20~100Wの範囲内においてより高い方が、より高いイオン伝導度を示すB-LiSiPONを得ることができる。高周波スパッタリングは、堆積させるB-LiSiPONの厚さによるが、20~100Wの高周波電力の範囲内において、1~50時間の条件にて施すとよい。
【0032】
高周波スパッタリング装置のチャンバー内における気圧条件は、0.1~10.0Pa、より好ましくは1.0~5.0Paであることが好ましい。これにより、比較的緻密で平滑な電解質膜を得ることができるという効果を奏する。
【0033】
高周波スパッタリングでは、窒素ガスを含んだプロセスガスをチャンバー内に供給する。これにより、ターゲット材料に含まれる、リン及びケイ素の酸化物における酸素の一部が窒素に置換され、酸窒化物が生成する。チャンバー内に供給するプロセスガスの流量は、マスフローコントローラにより調整すればよく、例えば、0.1~1000sccmであることが好ましく、5~100sccmであることがより好ましい。これにより、良好な窒素置換効果が得られる。
【0034】
高周波スパッタリングを施すことにより得られた、B-LiSiPONは、その後、熱処理を行うとよい。B-LiSiPONを熱処理(加熱する工程)に供するときの温度は、室温(25℃程度)以上であればよく、限定されるものではないが、例えば、323K~673Kであってよい。B-LiSiPONは323~673Kの範囲内においてより高い温度で加熱することで、より高いイオン伝導度を示すB-LiSiPONを得ることができる。
【0035】
B-LiSiPONの加熱は、空気雰囲気下にて行なってもよく、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下にて行なってもよく、減圧雰囲気下にて行なってもよいが、減圧雰囲気下にて行なうことが好ましい。ここで、B-LiSiPONの加熱は、限定されるものではないが、0.1~10時間行なうとよい。
【0036】
以上、本開示の一態様に係る固体電解質の製造方法の好ましい一態様として高周波スパッタリング法について説明したが、本開示の一態様に係る固体電解質(B-LiSiPON)は、例えば、高周波マグネトロンスパッタリング法、パルスレーザー堆積法、焼結法等によっても製造することができる。
【0037】
〔まとめ〕
本発明の一態様1に係る固体電解質は、リンおよびケイ素の酸窒化物と、リチウムとを含む化合物(LiSiPON)にホウ素がドープされている、固体電解質であって、上記固体電解質は、リン、ケイ素およびホウ素の含有量の合計を1.00として、ホウ素の組成比が、0.50以下である。
【0038】
本発明の一態様2に係る固体電解質は、上記態様1において、赤外線分光スペクトルにおいて、環状P-N-P構造におけるP-N結合に由来する吸光度のピークAと、PO3- およびPO2- におけるP-O結合に由来する吸光度のピークBとの比であるA/B値が0.80以上である。
【0039】
本発明の一態様3に係る固体電解質は、上記態様1又は2において、リン、ケイおよびホウ素の含有量の合計を1.00として、ホウ素の組成比が、0.05以上である。
【0040】
本発明の一態様4に係るリチウムイオン2次電池は、上記態様1~3の何れかにおいて、正極材と負極材との間に、上記態様1~3の何れかの固体電解質を含む層を備えてなる。
【0041】
本発明の一態様5に係る固体電解質の製造方法は、リンおよびケイ素の酸化物と、リチウムとの化合物(LiSiPO)にホウ素を含む、ターゲット材料に高周波スパッタリングを施すことで、リンおよびケイ素の酸窒化物とリチウムとの化合物(LiSiPON)に上記ホウ素がドープされている固体電解質を得る工程を包含し、上記高周波スパッタリングでは、20~100Wの高周波電力の条件にて、プロセスガスとして窒素ガスを供給する。
【0042】
本発明の一態様6に係る固体電解質の製造方法は、上記態様5において、上記固体電解質を得る工程後、上記固体電解質を加熱する工程を包含し、上記加熱する工程では、673K以下の温度で上記固体電解質を加熱する。
【0043】
本発明の一態様7に係る固体電解質の製造方法は、上記態様5又は6において、上記固体電解質は、赤外線分光ペクトルから求められる環状P-N-P構造におけるN-P結合に由来する吸光度のピークAと、PO3- およびPO2- におけるP-O結合に由来する吸光度のピークBとの比であるA/Bの値が0.80以上である。
【0044】
本発明の一態様8に係る固体電解質の製造方法は、上記態様5~7の何れかにおいて、上記ターゲット材料は、リン、ケイ素、およびホウ素の含有量の合計を1.00として、ホウ素の組成比が0.50以下である。
【0045】
本発明の一態様9に係る固体電解質の製造方法は、上記態様5~8の何れかにおいて、上記ターゲット材料は、リン、ケイ素、およびホウ素の含有量の合計を1.00として、ホウ素の組成比が0.05よりも大きい。
【0046】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0047】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0048】
実施例1~9、及び比較例1~4の固体電解質を得るためのターゲット材料を作成し、次いで、ターゲット材料から得られた固体電解質の分析として、ICP分析による組成比の評価、フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)による評価を行った。続いて、固体電解質のイオン伝導率の評価を行った。
【0049】
〔1〕ターゲット材料の作製
ホウ素がドープされた固体電解質(B-LiSiPON)を作製するため、製造例1~9のターゲット材料を作製した。
【0050】
以下の表1に示す、組成比に基づき、オルトケイ酸リチウム(LiSiO)、オルトリン酸リチウム(LiPO)、ホウ酸リチウム(LiBO)、炭酸リチウム(LiCO)を配合し、焼成した。これにより、製造例1~6の固体電解質を、ターゲット材料として得た。
【0051】
【表1】
【0052】
〔2〕固体電解質(B-LiSiPON)の作製
高周波スパッタリングにより、製造例1のターゲット材料から得られた固体電解質(B-LiSiPON)をシリコン基板上に堆積させ、その後、加熱した。これにより、実施例1の固体電解質(B-LiSiPON)をシリコン基板上に作製した。高周波スパッタリングでは、プロセスガスとして窒素(N)を用いた。チャンバー内圧は1Pa、ガス導入量は40sccmに設定した。シリコン基板上に堆積した実施例1の固体電解質の厚さは、0.5μmであった。
【0053】
続いて、表2に示すように、製造例1のターゲット材料を製造例2~9のターゲット材料の何れか1つに代え、RF出力及び加熱温度を設定した以外は、実施例1の高周波スパッタリングの条件と同じ条件で、シリコン基板上に実施例2~9の固体電解質(B-LiSiPON)及び比較例1~4の固体電解質を堆積させた。以下の表2に、高周波スパッタリングにおけるRF出力、及び高周波スパッタリング後の加熱温度を、B-LiSiPONの各分析結果とまとめて示す。
【0054】
〔3〕固体電解質(B-LiSiPON)の分析
〔3-1〕FT-IRによる分析
実施例1~9及び比較例1~4のそれぞれについて、シリコン基板上に直接堆積させた固体電解質(B-LiSiPON)をFT-IR分析用のサンプルとして使用した。当該試料をFT-IR分析することで、環状P-N-P構造におけるP-N結合に由来する880~930cm-1における吸光度のピークAと、PO3- 及びPO2- におけるP-O結合に由来する1010~1040cm-1における吸光度のピークBとの比であるA/B値を算出した。算出したA/B値を表2に示す。併せて、図2に、ホウ素(B)の含有量が異なる固体電解質(B-LiSiPON)のFT-IRにより得られる吸収スペクトルを示す。
【0055】
〔3-2〕ICP分析
実施例1~9及び比較例1~4のそれぞれについて、シリコン基板上に厚さ0.5μmになるように堆積させた固体電解質をIPC分析用のサンプルとして用い、各固体電解質に含まれる、ホウ素(B)、リチウム(Li)、ケイ素(Si)、リン(P)の各元素の組成比を求めた。各元素の組成比を、他の評価結果とまとめて以下の表2に示す。
【0056】
〔3-3〕XPS分析
実施例1~9及び比較例1~4のそれぞれについて、ICP分析用のサンプルと同様に作成したサンプルをXPS分析用に準備し、各固体電解質に含まれる、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、リン(P)、酸素(O)、窒素(N)の各元素の組成比を求めた。XPS分析から得られた、酸素(O)、窒素(N)の定量結果は、同じく、XPS分析を行ったリン(P)の定量結果を比較基準として採用し、IPC分析におけるリン(P)の定量結果と対比することで算出した。なお、XPS分析では、窒素は、N1s、酸素は、O1sの強度に基づき、定量を行った。このようにして得られた固体電解質に含まれる、酸素、及び窒素の組成比を、他の評価結果とまとめて以下の表2に示す。
【0057】
〔3-4〕イオン伝導度の評価
所定のパターン(縦幅×横幅:10mm×10mm)を作成できるメタルマスクを用い、スパッタリングによって厚さ0.5mmのシリコン基板に白金膜(厚さ:0.1μm)を成膜した。
【0058】
続いて、〔2〕固体電解質(B-LiSiPON)の作製の欄にて説明した条件と同じ条件にて、実施例1の固体電解質(B-LiSiPON)をシリコン基板に設けた白金膜上に堆積させた。
【0059】
続いて、白金膜上に堆積した実施例1の固体電解質(B-LiSiPON)の上に、上述のメタルマスクを用い、スパッタリングによって白金膜(厚さ:0.1μm)を成膜し、イオン伝導度測定用の試料とした。実施例1の固体電解質(B-LiSiPON)に代えて、実施例2~9、及び比較例1~4の固体電解質を堆積させた以外、実施例1の固体電解質(B-LiSiPON)と同じ条件で、実施例2~9、及び比較例1~4の固体電解質について、イオン伝導度測定用の試料を作製した。
【0060】
イオン伝導度は、25℃(298K)で評価し、交流インピーダンス測定条件として平衡電圧を0mV、印加される電圧の振幅を±10mV、周波数領域を10-2~10Hzとして評価した。評価結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示すように、ホウ素(B)の組成比が0.10~0.50の範囲内である固体電解質(B-LiSiPON)は、高いイオン伝導度を備え、特にホウ素(B)の組成比が0.10~0.35の範囲内においてさらに高いイオン伝導度を示すことが確認された。
【0063】
〔4〕製造条件の評価
〔4-1〕RF出力の変化に対するイオン伝導率の評価
続いて、ホウ素(B)の組成比が互いに異なるターゲット材料を用い、固体電解質(B-LiSiPON)を製造するための高周波スパッタリングにおいて、プロセスガスとして窒素(N)を用い、チャンバー内圧は1Pa、ガス導入量は40sccmに設定した。また、高周波スパッタリング後、チャンバー内圧を10-3Paとして、135℃加熱の熱処理条件で行なった。図3に、高周波スパッタリングにおけるRF出力と固体電解質(B-LiSiPON)のイオン伝導度との関係を示す。図3に示すように、ホウ素(B)の組成比が0.5である固体電解質は、RF出力の上昇に伴いイオン伝導度が低下する傾向を示し、ホウ素(B)の組成比が0.1、0.25の固体電解質(B-LiSiPON)は、RF出力の上昇に伴いイオン伝導度が増加する傾向が確認された。
【0064】
〔4-2〕加熱温度の変化に対するイオン伝導率の評価
続いて、上記RF出力とイオン伝導度との関係を評価した固体電解質(B-LiSiPON)から、ホウ素(B)の組成比0.1であるものを試料として選択し、固体電解質(B-LiSiPON)を製造するための高周波スパッタリング後の加熱温度とイオン伝導度との関係を評価した。高周波スパッタリングにおいて、プロセスガスとして窒素(N)を用い、RF出力は50W、チャンバー内圧は1Pa、ガス導入量は40sccmに設定した。また、高周波スパッタリング後の熱処理は、チャンバー内圧を10-3Paとして298K(実質的に熱処理なし)、208K(低温処理)、308~458Kの温度範囲にて熱処理を行った。なお、熱処理後の各固体電解質(B-LiSiPON)のイオン伝導度は、298Kにて評価した。図4に、高周波スパッタリング後の加熱温度と、ホウ素(B)の組成比が0.1である固体電解質(B-LiSiPON)のイオン伝導度との関係を示す。図4に示すように、ホウ素(B)の組成比が0.1である固体電解質は、熱処理後も高いイオン伝導度を維持することが確認された。また、低温処理後、及び熱処理後の何れにおいても、イオン伝導度の低下もなく、高いイオン伝導度を維持できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、リチウムイオン2次電池用の固体電解質として利用することができ、例えば、スマートフォン、タブレットPC等の携帯情報端末、及び携帯電子機器等の小型電子機器、並びに、電気自動二輪車、電気自動車、及びハイブリッド電気自動車等の用途のリチウムイオン2次電池として利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1 リチウムイオン2次電池
10 固体電解質
11 アノード層
12 カソード層
21 第1集電体
22 第2集電体

図1
図2
図3
図4