(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031696
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】固体電解質、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20240229BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240229BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240229BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20240229BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/06 A
H01B1/08
H01B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135413
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】土屋 敬志
(72)【発明者】
【氏名】崔 源成
(72)【発明者】
【氏名】尹 ▲ガブ▼仁
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA03
5G301CA16
5G301CA19
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ12
5H029CJ02
5H029CJ24
5H029CJ28
5H029CJ30
5H029HJ00
5H029HJ02
5H029HJ12
5H029HJ14
5H029HJ16
(57)【要約】
【課題】高いイオン伝導度を達成できる新規な固体電解質を提供することができる。
【解決手段】固体電解質は、ケイ素、リン、及びゲルマニウムの含有量の合計を1.00として、ゲルマニウムの組成比が0.60以下であり、ラマンスペクトルから求められる環状P-N-P構造におけるN-P結合に由来するピークAのラマン強度と、GeO4におけるGe-O結合に由来するピークBのラマン強度との比であるA/Bの値が、0.1以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン及びケイ素の酸窒化物とリチウムとの化合物(LiSiPON)にゲルマニウムがドープされている、固体電解質であって、
上記固体電解質に含まれるケイ素、リン、及びゲルマニウムの含有量の合計を1.00として、ゲルマニウムの組成比が0.60以下であり、
ラマンスペクトルから求められる環状P-N-P構造におけるN-P結合に由来するピークAのラマン強度と、GeO4におけるGe-O結合に由来するピークBのラマン強度との比であるA/Bの値が、0.10以上である、固体電解質。
【請求項2】
上記固体電解質に含まれるケイ素、リン、及びゲルマニウムの含有量の合計を1.00として、ゲルマニウムの組成比が0.10よりも大きい、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
正極材と負極材との間に、請求項1又は2に記載の固体電解質を含む層を備えてなる、リチウムイオン2次電池。
【請求項4】
リン及びケイ素の酸化物と、リチウムとの化合物(LiSiPO)にゲルマニウムを含む、ターゲット材料に高周波スパッタリングを施すことで、リン及びケイ素の酸窒化物とリチウムとの化合物(LiSiPON)に上記ゲルマニウムがドープされている固体電解質を得る工程を包含し、
上記高周波スパッタリングでは、20~100Wの高周波電力の条件にて、プロセスガスとして窒素ガスを供給する、固体電解質の製造方法。
【請求項5】
上記固体電解質を得る工程後、上記固体電解質を加熱する工程を包含し、
上記加熱する工程では、673K以下の温度で、上記固体電解質を加熱する、請求項4に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項6】
上記加熱する工程後の上記固体電解質は、ラマンスペクトルから求められる環状P-N-P構造におけるN-P結合に由来するピークAのラマン強度と、GeO4におけるGe-O結合に由来するピークBのラマン強度との比であるA/Bの値が、0.10以上である、請求項4又は5に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項7】
上記ターゲット材料は、ケイ素、リン、及びゲルマニウムの含有量の合計を1.00として、ゲルマニウムの組成比が0.60以下である、請求項4~6の何れか一項に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項8】
上記ターゲット材料は、ケイ素、リン、及びゲルマニウムの含有量の合計を1.00として、ゲルマニウムの組成比が0.10よりも大きい、請求項4~7の何れか一項に記載の固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、組成式:LiaPbMcOdNeである固体電解質であって、MはSi、B、Ge、Al、C、GaおよびSよりなる群から選択される少なくとも1種の元素である、固体電解質が記載されている。
【0003】
また、例えば、特許文献2には、リチウムイオン伝導性の固体電解質層と、正極層及び負極層を備える全固体電池において、前記固体電解質層、正極層および負極層の少なくともいずれか1層は、リチウムイオン伝導性の結晶と、AxByOz(AはAl、Ti、Li、Ge、Siから選ばれる1種以上、BはP、N、Cから選ばれる1種以上、1≦X≦4、1≦Y≦5、1≦Z≦7)を含む、全固体電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許公開第2006/210882号
【特許文献2】特開2011-150817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載されているようなリチウム伝導性の固体電解質は、セパレータ等の多孔質膜及びゲル状の高分子等に電解質を含浸させることなく、固体状の電解質としてリチウムイオン2次電池に使用することができる。つまり、電解液を用いることなく、リチウムイオン2次電池に使用することができるという利点を有している。このような利点を有するリチウムイオン伝導性の固体電解質は、例えば、2次電池としての用途拡大のため、さらなる高出力化が求められている。このような高出力化の要求から、特許文献1及び2に記載の固体電解質よりもイオン伝導度が高い新規な固体電解質が求められているという問題がある。
【0006】
本発明の一態様は、上記の問題を鑑みなされたものであり、高いイオン伝導度を達成できる新規な固体電解質、及びその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る固体電解質は、リン及びケイ素の酸窒化物とリチウムとの化合物(LiSiPON)にGeがドープされている、固体電解質であって、上記固体電解質に含まれるケイ素、リン、及びゲルマニウムの含有量の合計を1.0として、ゲルマニウムの組成比が0.6以下であり、ラマンスペクトルから求められる環状P-N-P構造におけるN-P結合に由来するピークAのラマン強度と、GeO4におけるGe-O結合に由来するピークBのラマン強度との比であるA/Bの値が、0.1以上である。
【0008】
また、本発明の一態様に係る固体電解質の製造方法は、リン及びケイ素の酸化物と、リチウムとの化合物(LiSiPO)にゲルマニウムを含む、ターゲット材料に高周波スパッタリングを施すことで、リン及びケイ素の酸窒化物とリチウムとの化合物(LiSiPON)に上記ゲルマニウムがドープされている固体電解質を得る工程を包含し、上記高周波スパッタリングでは、20~100Wの高周波電力の条件にて、プロセスガスとして窒素ガスを供給する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、高いイオン伝導度を達成できる新規な固体電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るリチウムイオン2次電池1の概略を説明する図である。
【
図2】
図2は、Geの組成比が互いに異なる固体電解質(Ge-LiSiPON)のラマンスペクトルである。
【
図3】
図3は、固体電解質に含まれるゲルマニウム(Ge)の組成比とイオン伝導度との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、高周波スパッタリングにおけるRF出力と固体電解質(Ge-LiSiPON)のイオン伝導度との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、高周波スパッタリング後の加熱温度と固体電解質(Ge-LiSiPON)のイオン伝導度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<固体電解質(Ge-LISiPON)>
本開示の一態様に係る、固体電解質は、リン及びケイ素の酸窒化物とリチウムとの化合物(LiSiPON)にGeがドープされている、固体電解質である。当該固体電解質は、本明細書中、ゲルマニウム(Ge)、ケイ素(Si)、リン(P)の組成比、及び、後述するラマン強度のA/B値によらず、「Ge-LiSiPON」と記載することで、他の固体電解質と区別され得る。また、「Gea-LiSiPON」と記載する場合、aは、ゲルマニウム(Ge)、ケイ素(Si)、リン(P)の合計を1.00としたときにおける、Geの組成比aを意味する。
【0012】
なお、「LiSiPON」は、Geがドープされていないリン及びケイ素の酸窒化物とリチウムとの化合物のことを意味し、「LiSiPO」はリン及びケイ素の酸化物とリチウムとの化合物のことを意味する。
【0013】
Ge-LiSiPONが含有している各元素の組成比は、誘導結合プラズマ発光分析計(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)、X線光電子分光法(XPS)を併用することによって測定することができる。Ge-LiSiPONの組成比の評価方法の詳細は、実施例の欄の記載を参照されたい。ICP-AES、及びICP-MS並びにXPSから求められるGe-LiSiPONの組成比は、以下の式(1)にて表され得る。
GeaLibSicPdOeNf…(1)
上記式(1)において、組成比aは、0.10よりも大きく、0.60以下であるとよく、0.15~0.50であることが好ましく、0.15~0.40であることがより好ましく、0.20~0.30であることが最も好ましい。上記式(1)において、組成比bは、0.1~0.5であればよい。上記式(1)において、組成比cは、0.25~0.80であればよく、0.30~0.70であることが好ましく、0.40~0.60であることがより好ましい。上記式(1)において、組成比dは、0.15~0.35であればよく、0.20~0.30であることがより好ましい。ここで、式(1)において、a+c+d=1.00である。また、式(1)において、組成比eは、1.50~4.50であればよく、組成比fは0.10~0.60であればよい。
【0014】
Ge-LiSiPONは、Si、P、及びGeの含有量の合計を1.00として、Geの組成比aが0.60以下であり、0.50以下であることが好ましく、0.40以下であることがさらに好ましく、0.30以下であることが最も好ましい。また、限定されるべきではないが、Geの組成比は、0.10よりも大きければよく、0.15以上であることが好ましく、0.20以上であることがさらに好ましい。Ge-LiSiPONは、Si、P、及びGeの含有量の合計を1.00として、Geの組成比aが0.20以上、0.30以下において、10-5S・cm-1以上という極めて高いイオン伝導度を示す。
【0015】
Ge-LiSiPONは、Si、P、及びGeの含有量の合計を1.00として、Si組成比cが、0.25以上、0.80以下の範囲内であればよく、0.30以上、0.70以下の範囲内であることが好ましく、0.40以上、0.60以下の範囲内であることがより好ましい。Ge-LiSiPONは、Si、P、及びGeの含有量の合計を1.00として、Siの組成比cが0.25以上、0.80以下の範囲内においてより高い程、より高い耐熱性を示す。また、Ge-LiSiPONは、Siの組成比cが0.30以上、0.70以下の範囲内においてより高いよりイオン伝導度を示す。
【0016】
Ge-LiSiPONは、Si、P、及びGeの含有量の合計を1.00として、Pの組成比dが、0.15以上、0.35以下の範囲内であればよく、0.20以上、0.30以下の範囲内であることがより好ましい。また、Ge-LiSiPONは、Pの組成比dが0.20以上、0.3以下の範囲内においてより高いよりイオン伝導度を示す。
【0017】
式(1)に示す、Ge-LiSiPONは窒素(N)の組成比fが0.10~0.60の範囲内においてより大きい程、高いイオン伝導度を示す固体電解質を得ることができる。
【0018】
本開示の一態様に係る固体電解質であるGe-LiSiPONは、Geの組成比aが0.05~0.60の範囲内において、ラマンスペクトルから求められる環状P-N-P構造におけるN-P結合に由来するピークAのラマン強度と、GeO4におけるGe-O結合に由来するピークBのラマン強度との比であるA/Bの値が、0.10以上であることが好ましく、0.50以上であることがより好ましい。また、Ge-LiSiPONは、環状P-N-P構造におけるN-P結合に由来するピークAのラマン強度と、GeO4におけるGe-O結合に由来するピークBのラマン強度との比であるA/Bの値が、限定されるものではないが、1.50以下であることが好ましく、1.20以下であることがより好ましい。Ge-LiSiPONは、Geの組成比aが0.10よりも大きく、0.60以下の範囲内において、A/Bの値が0.10以上であることにより、高いイオン伝導度を示す。また、Ge-LiSiPONは、A/Bの値が0.50以上1.20以下の範囲内で、10-5S・cm-1以上という極めて高いイオン伝導度を示す。
【0019】
<リチウムイオン2次電池>
本開示の一態様に係る固体電解質は、正極材と負極材との間に当該固体電解質を含む層を備えてなる、リチウムイオン2次電池として使用され得る。
図1は本開示の一態様に係る固体電解質10を用いたリチウムイオン2次電池1の概略を説明する一例を
図1に示す。
【0020】
図1に示すように、当該リチウムイオン2次電池1は、第1集電体21及び第2集電体22の間に、負極材から形成されてなるアノード層11と正極材から形成されてなるカソード層12とを備え、アノード層11とカソード層12との間に固体電解質10の層を備えている。リチウムイオン2次電池1は、アノード層11とカソード層12との何れかが、図示しない基板上に設けられていてもよく、ここで当該基板には、例えば、シリコン基板及びガラス基板等が挙げられる。
【0021】
固体電解質10は、本開示の一態様に係るGe-LiSiPONであって、Geの組成比aが0.10よりも大きく、0.6以下の範囲内であり、環状P-N-P構造におけるN-P結合に由来するピークAのラマン強度と、GeO4におけるGe-O結合に由来するピークBのラマン強度との比であるA/Bの値が、0.10以上であるとよい。固体電解質10の層の厚さは、限定されるべきではないが、約0.01~1000μmであるとよい。
【0022】
第1集電体21及び第2集電体22は、厚さ約0.1~100μmの薄膜状の集電体であって、電子伝導性を有し、且つそれぞれアノード層11及びカソード層12と反応しない材料であればよい。第1集電体21及び第2集電体22は、例えば、白金、金、銀、アルミニウム、銅などの電子伝導性のある材料から形成されていればよい。第1集電体21及び第2集電体22は、スパッタリング等公知の方法より形成するとよい。
【0023】
負極材であるアノード層11は、リチウムイオン2次電池に用いられる公知の負極材料から形成されていれば限定されず、負極材料には、例えば、黒鉛(LiC6)、ハードカーボン(LiC6)、チタネイト(Li4Ti5O12)、Li(リチウム)、Li-Al(リチウム・アルミニウム合金)、Li-In(リチウム・インジウム合金)などが挙げられる。
【0024】
正極材であるカソード層12は、リチウムイオン2次電池に用いられる公知の正極材料から形成されていれば限定されず、正極材料には、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、TiS2(二硫化チタン)、LiCo0.3Ni0.702、MnO2(二酸化マンガン)、Cu4O(PO4)2(オキシリン酸銅)などが挙げられる。
【0025】
アノード層11及びカソード層12は、それぞれ、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法等の公知の方法で形成されていればよい。
【0026】
その他、本開示の一態様に係るリチウムイオン二次電池1において、固体電解質10は、本開示の一態様に係る固体電解質の焼結体を中間層として備える態様であってもよい。
【0027】
<固体電解質の製造方法>
本開示の一態様に係る固体電解質の製造方法は、リン及びケイ素の酸化物と、リチウムとの化合物(LiSiPO)にGeを含む、ターゲット材料に高周波スパッタリングを施すことで、リン及びケイ素の酸窒化物とリチウムとの化合物(LiSiPON)に上記Geがドープされている固体電解質(Ge-LiSiPON)を得るとよい。
【0028】
ターゲット材料はリチウム塩を含み、当該リチウム塩は、オルト珪酸リチウム(Li4SiO4)、オルトリン酸リチウム(Li3PO4)、オルトゲルマニウム酸リチウム(Li4GeO4)、炭酸リチウム(Li2CO3)であり得る。これらリチウム塩を配合し、焼成することでターゲット材料を得ることができる。ターゲット材料は、リチウム塩に含まれるケイ素(Si)、リン(P)、(Ge)のモル比に基づき、各元素の組成比を調整すればよい。ここで、ケイ素(Si)、リン(P)、及び(Ge)の組成比のそれぞれは、上述の式(1)に示すa+c+d=1.00の要件を満たすように調整すればよい。
【0029】
高周波スパッタリングに供するターゲット材料の密度は、例えば、1.00~2.50g/cm3の範囲内であればよい。ターゲット材料の密度が、1.00~2.50g/cm3の範囲内であることにより、高周波スパッタリングを施すときにいて、ターゲット材料の破損を防ぐことができ、緻密な粒子状の固体電解質(Ge-LiSiPON)の層を成膜することができる。
【0030】
高周波スパッタリングは、20~100Wの高周波電力(RF出力とも称する)の条件にてプロセスガスとして窒素ガスを供給するとよい。高周波電力が20~100Wの範囲内においてより高い方が、より高いイオン伝導度を示すGe-LiSiPONを得ることができる。高周波スパッタリングは、堆積させるGe-LiSiPONの厚さによるが、20~100Wの高周波電力の範囲内において、1~50時間の条件にて施すとよい。
【0031】
高周波スパッタリング装置のチャンバー内における気圧条件は、0.1~10.0Pa、より好ましくは1.0~5.0Paであることが好ましい。これにより、比較的緻密で平滑な電解質膜を得られる。
【0032】
高周波スパッタリングでは、窒素ガスを含んだプロセスガスをチャンバー内に供給する。これにより、ターゲット材料に含まれる、リン及びケイ素の酸化物における酸素の一部が窒素に置換され、酸窒化物が生成する。チャンバー内に供給するプロセスガスの流量は、マスフローコントローラにより調整すればよく、例えば、0.1~1000sccmであることが好ましく、5~100sccmであることがより好ましい。これにより、良好な窒素置換効果が得られる。
【0033】
高周波スパッタリングを施すことにより得られた、Ge-LiSiPONは、その後、熱処理を行うとよい。Ge-LiSiPONを熱処理(加熱する工程)に供するときの温度は、室温(25℃程度)以上であればよく、限定されるものではないが、例えば、323K~673Kであってよい。Ge-LiSiPONは323~673Kの範囲内においてより高い温度で加熱することで、より高いイオン伝導度を示すGe-LiSiPONを得ることができる。
【0034】
Ge-LiSiPONの加熱は、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下にて行なってもよく、減圧雰囲気下にて行なってもよいが、減圧雰囲気下にて行なうことが好ましい。ここで、Ge-LiSiPONの加熱は、限定されるものではないが、0.1~10時間行なうとよい。
【0035】
以上、本開示の一態様に係る固体電解質の製造方法の好ましい一態様として高周波スパッタリング法について説明したが、本開示の一態様に係る固体電解質(Ge-LiSiPON)は、例えば、高周波マグネトロンスパッタリング法、パルスレーザー堆積法、焼結法等によっても製造することができる。
【0036】
〔まとめ〕
本発明の一態様1に係る固体電解質は、リン及びケイ素の酸窒化物とリチウムとの化合物(LiSiPON)にGeがドープされている、固体電解質であって、上記固体電解質に含まれるケイ素、リン、及びゲルマニウムの含有量の合計を1.00として、ゲルマニウムの組成比が0.60以下であり、ラマンスペクトルから求められる環状P-N-P構造におけるN-P結合に由来するピークAのラマン強度と、GeO4におけるGe-O結合に由来するピークBのラマン強度との比であるA/Bの値が、0.10以上である。
【0037】
本発明の一態様2に係る固体電解質は、上記態様1において、上記固体電解質に含まれるケイ素、リン、及びゲルマニウムの含有量の合計を1.00として、Geの組成比が0.10よりも大きい。
【0038】
本発明の一態様3に係るリチウムイオン2次電池は、正極材と負極材との間に、上記態様1又は2の固体電解質を含む層を備えてなる。
【0039】
本発明の一態様4に係る固体電解質の製造方法は、リン及びケイ素の酸化物と、リチウムとの化合物(LiSiPO)にGeを含む、ターゲット材料に高周波スパッタリングを施すことで、リン及びケイ素の酸窒化物とリチウムとの化合物(LiSiPON)に上記Geがドープされている固体電解質を得る工程を包含し、上記高周波スパッタリングでは、20~100Wの高周波電力の条件にて、プロセスガスとして窒素ガスを供給する。
【0040】
本発明の一態様5に係る固体電解質の製造方法は、上記態様4において、上記固体電解質を得る工程後、上記固体電解質を加熱する工程を包含し、上記加熱する工程では、558K以下の温度で、上記固体電解質を加熱する。
【0041】
本発明の一態様5に係る固体電解質の製造方法は、上記態様4又は5において、上記加熱する工程後の上記固体電解質は、ラマンスペクトルから求められる環状P-N-P構造におけるN-P結合に由来するピークAのラマン強度と、GeO4におけるGe-O結合に由来するピークBのラマン強度との比であるA/Bの値が、0.10以上である。
【0042】
本発明の一態様6に係る固体電解質の製造方法は、上記態様4~6の何れかにおいて、上記ターゲット材料は、ケイ素、リン、及びゲルマニウムの含有量の合計を1.00として、Geの組成比が0.60以下である。
【0043】
本発明の一態様7に係る固体電解質の製造方法は、上記態様4~7の何れかにおいて、上記ターゲット材料は、ケイ素、リン、及びゲルマニウムの含有量の合計を1.00として、ゲルマニウムの組成比が0.10よりも大きい。
【0044】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0045】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0046】
まず、実施例1~11、及び比較例1~3の固体電解質を得るためのターゲット材料を作成し、次いで、ターゲット材料から得られた固体電解質の分析として、IPCによる組成比の評価、ラマン分光分析による評価を行った。続いて、固体電解質のイオン伝導率の評価を行った。
【0047】
〔1〕ターゲット材料の作成
ゲルマニウムがドープされた固体電解質(Ge-LiSiPON)を作成するため、製造例1~11のターゲット材料を作成した。
【0048】
以下の表1に示す、組成比に基づき、オルト珪酸リチウム(Li4SiO4)、オルトリン酸リチウム(Li3PO4)、オルトゲルマニウム酸リチウム(Li4GeO4)、炭酸リチウム(Li2CO3)を配合し、焼成した。これにより、製造例1~11のターゲット材料を得た。
【0049】
【0050】
〔2〕固体電解質(Ge-LiSiPON)の作成
高周波スパッタリングにより、製造例1のターゲット材料から得られた固体電解質(Ge-LiSiPON)の粒子をシリコン基板上に堆積させ、その後、加熱した。これにより、実施例1の固体電解質(Ge-LiSiPON)をシリコン基板上に作成した。高周波スパッタリングでは、プロセスガスとして窒素(N2)を用いた。チャンバー内圧は1Pa、ガス導入量は40sccmに設定した。また、高周波スパッタリング後の加熱は、チャンバー内において、チャンバー内圧は10-3Paの条件で行なった。シリコン基板上に堆積した実施例1の固体電解質の厚さは、0.5μmであった。
【0051】
続いて、表2に示すように、製造例1のターゲット材料を製造例2~11のターゲット材料の何れか1つに代え、RF出力及び加熱温度を設定した以外は、実施例1の高周波スパッタリングの条件と同じ条件で、シリコン基板上に実施例2~11の固体電解質(Ge-LiSiPON)及び比較例1~3の固体電解質を堆積させた。以下の表2に、高周波スパッタリングにおけるRF出力、及び高周波スパッタリング後の加熱温度を、Ge-LiSiPONの各分析結果とまとめて示す。
【0052】
〔3〕固体電解質(Ge-LiSiPON)の分析
〔3-1〕ラマン分光法による分析
実施例1~11、及び比較例1~3のそれぞれについて、あらかじめ白金薄膜を成膜したシリコン基板上に直接堆積させた固体電解質(Ge-LiSiPON)の一部を試料として採取し、ラマン分光分析用のサンプルとして使用した。当該試料をラマン分光分析することで、環状P-N-P構造におけるN-P結合に由来する200cm
-1におけるラマン強度のピークAと、GeO
4におけるGe-O結合に由来する300cm
-1におけるラマン強度のピークBとの比であるA/B値を算出した。算出したラマン強度のピークBとの比であるA/B値を表2に示す。併せて、
図2に、Geの含有量が異なる固体電解質(Ge-LiSiPON)のラマンスペクトルを示す。
【0053】
〔3-2〕ICP分析
実施例1~11及び比較例1~3のそれぞれについて、シリコン基板上に厚さ0.5μmになるように堆積させた固体電解質をICP分析、およびXPS用のサンプルとして用いた。各固体電解質に含まれる、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)、ケイ素(Si)、リン(P)各元素の組成比を、ICP-AES、ICP-MSにより求めた。各元素の組成比を、他の評価結果とまとめて以下の表2に示す。
【0054】
〔3-3〕XPS分析
実施例1~11及び比較例1~3のそれぞれについて、ICP分析用のサンプルと同様に作成したサンプルをXPS分析用に準備し、各固体電解質に含まれる、ゲルマニウム(Ge)、ケイ素(Si)、リン(P)、酸素(O)、窒素(N)の各元素の組成比を求めた。XPS分析から得られた酸素(O)、窒素(N)の定量結果は、同じく、XPS分析を行った、リン(P)の定量結果を比較基準として採用し、IPC分析におけるリン(P)の定量結果と対比することで算出した。なお、XPS分析では、窒素は、N1s、酸素は、O1sの強度に基づき、定量を行った。このようにして得られた固体電解質に含まれる酸素、及び窒素の組成比を、他の評価結果とまとめて以下の表2に示す。
【0055】
〔3-4〕イオン伝導度の評価
所定のパターン(縦幅×横幅:10mm×10mm)を作成できるメタルマスクを用い、スパッタリングによって厚さ0.5mmのシリコン基板に白金膜(厚さ:0.1μm)を成膜した。
【0056】
続いて、〔2〕固体電解質(Ge-LiSiPON)の作成の欄にて説明した条件と同じ条件にて、実施例1の固体電解質(Ge-LiSiPON)をシリコン基板に設けた白金膜上に堆積させた。
【0057】
続いて、白金膜上に堆積した実施例1の固体電解質(Ge-LiSiPON)の上に、上述のメタルマスクを用い、スパッタリングによって白金膜(厚さ:0.1μm)を成膜し、イオン伝導度測定用の試料とした。実施例1の固体電解質(Ge-LiSiPON)に代えて、実施例2~11、及び比較例1~3の固体電解質を堆積させた以外、実施例1の固体電解質(Ge-LiSiPON)と同じ条件で、実施例2~11、及び比較例1~3の固体電解質について、イオン伝導度測定用の試料を作成した。
【0058】
イオン伝導度は、25℃(298K)で評価し、交流インピーダンス測定条件として平衡電圧を0mV、印加される電圧の振幅を±10mV、周波数領域を10
-2~10
6Hzとして評価した。評価結果を表2に示す。併せて、
図3に、固体電解質に含まれるゲルマニウム(Ge)の組成比とイオン伝導度との関係を示す。
図3に示すように、(Ge)の組成比が0.1~0.5の範囲内である固体電解質(Ge-LISiPON)は、高いイオン伝導度を備え、特に、(Ge)の組成比が0.2~0.3の範囲内においてさらに高いイオン伝導度を示すことが確認された。
【0059】
【0060】
なお、表2中、処理温度「-」は熱処理なしであることを意味する。
【0061】
〔4〕製造条件の評価
〔4-1〕RF出力の変化に対するイオン伝導率の評価
続いて、Geの組成比が互いに異なるターゲット材料を用い、固体電解質(Ge-LiSiPON)を製造するための高周波スパッタリングにおけるRF出力とイオン伝導度との関係を評価した。高周波スパッタリングにおいて、プロセスガスとして窒素(N
2)を用い、チャンバー内圧は1Pa、ガス導入量は40sccmに設定した。また、高周波スパッタリング後、チャンバー内圧を10
-3Paとして、135℃加熱の熱処理条件で行なった。
図4に、高周波スパッタリングにおけるRF出力と固体電解質(Ge-LiSiPON)のイオン伝導度との関係を示す。
図4に示すように、(Ge)の組成比が0.1~0.5の範囲内において、固体電解質(Ge-LISiPON)は、RF出力が高い条件で成膜する程、高いイオン伝導度を示すことが傾向として確認された。
【0062】
〔4-2〕加熱温度の変化に対するイオン伝導率の評価
続いて、上記RF出力とイオン伝導度との関係を評価した固体電解質(Ge-LiSiPON)から、Geの組成比0.4であるものを試料として選択し、固体電解質(Ge-LiSiPON)を製造するための高周波スパッタリング後の熱処理温度とイオン伝導度との関係を評価した。高周波スパッタリングにおいて、プロセスガスとして窒素(N
2)を用い、RF出力は90W、チャンバー内圧は1Pa、ガス導入量は40sccmに設定した。また、高周波スパッタリング後の熱処理は、チャンバー内圧を10
-3Paとして、298K(つまり実質的に熱処理なし)、208K(低温処理)、358~508Kの温度範囲にて、1時間熱処理を行なった。なお、熱処理後の各固体電解質(Ge-LiSiPON)のイオン伝導度は、298Kにて評価した。
図5に、高周波スパッタリング後の加熱温度と、Geの組成比0.4である固体電解質(Ge-LiSiPON)のイオン伝導度との関係を示す。
図5に示すように、(Ge)の組成比が0.10~0.50の範囲内において固体電解質(Ge-LISiPON)は、熱処理後においてイオン伝導度が高くなる傾向が確認された。また、低温処理後、及び熱処理後の何れにおいても、イオン伝導度の低下もなく、高いイオン伝導度を維持できることが確認された。
本発明は、リチウムイオン2次電池用の固体電解質として利用することができ、例えば、スマートフォン、タブレットPC等の携帯情報端末、及び携帯電子機器等の小型電子機器、並びに、電気自動二輪車、電気自動車、及びハイブリッド電気自動車等の用途のリチウムイオン2次電池として利用できる。