(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000317
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】色素、反射材料、金色部材の製造方法及び金色部材
(51)【国際特許分類】
C09B 57/00 20060101AFI20231225BHJP
C07D 209/12 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C09B57/00 X CSP
C07D209/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099039
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 鈴子
(72)【発明者】
【氏名】村藤 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 大青
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、導電性高分子以外の有機化合物を用いた金色色素を提供すること、さらに黄色の材料以外の材料を使用して金色色素を提供することである。
【解決手段】式(1)で表される化合物を含む色素(ただし、式(1)中、R
1~R
6はそれぞれ独立してC1~3アルキル基であり、R
7及びR
8はそれぞれ独立して水素原子又はC1~3アルキル基である。n1及びn2はそれぞれ独立して0~4のいずれかの整数である)。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物を含む色素。
【化1】
(式(1)中、R
1~R
6はそれぞれ独立してC1~3アルキル基であり、R
7及びR
8はそれぞれ独立して水素原子又はC1~3アルキル基である。n1及びn2はそれぞれ独立して0~4のいずれかの整数である。)
【請求項2】
式(1)で表される化合物を含む反射材料。
【化2】
(式(1)中、R
1~R
6はそれぞれ独立してC1~3アルキル基であり、R
7及びR
8はそれぞれ独立して水素原子又はC1~3アルキル基である。n1及びn2はそれぞれ独立して0~4のいずれかの整数である。)
【請求項3】
請求項1記載の色素又は請求項2記載の反射材料を加圧することにより金色部材を製造する金色部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の色素又は請求項2記載の反射材料の加圧成型物よりなる金色部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のスクアライン化合物を使用した色素、反射材料、金色部材の製造方法及び金色部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から金色は装飾品として有用とされ、さらに現在では、太陽光を反射する遮熱・遮光材料としての注目も集めている。しかし、金は極めて高価であるために、金色を示す銅合金や、黄色色素を含むバインダー溶液に金属片を分散させて光反射を付与した塗布液を用いたコーティングで代用されている。しかし、これらのように金属が含まれている場合には、金色コーティングを塗布できる場所が制限される。例えば、自動車の車体やエンブレムなどのコーティングに導電性材料を利用すると、オートクルーズシステムなどに利用される電波の透過性に影響する。別の方法として、有機物を用いて金属光沢を発現させることが検討されている。しかし、特許文献1で使用された有機化合物はチオフェン重合体よりなる導電性ポリマーであり、やはり電気伝導性を有するものであった。また、アゾベンゼン骨格を有する有機物を使用した例が報告されているが(非特許文献1参照)、この化合物は黄色結晶であるので、光を反射して金色に見えるという従来から知られた現象を利用するものであり、化合物の合成には煩雑な操作を必要とするものであった。一方で、非特許文献2には、本発明で使用するスクアライン化合物が記載されているが、非特許文献2は、スクアライン化合物を酸化チタン表面に吸着させて、可視光で働く光触媒を合成することが記載された論文であり、スクアライン化合物が金色を呈することは全く記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Akiko Matsumoto,外5名,“Gold-Colored Organic Crystal Formed from an Azobenzene Derivative”,Journal of Oleo Science,59(3),151-156(2010)
【非特許文献2】YonglingFang,外7名,“Effect of DyeStructure on Optical Properties and Photocatalytic Behaviors ofSquaraine-Sensitized TiO2 Nanocomposites”,The Journal of Physical Chemistry,C, 118 (29),16113-16125(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、導電性高分子以外の有機化合物を用いた金色色素を提供すること、さらに黄色の材料以外の材料を使用して金色色素を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、電気伝導性のない有機化合物を用いて金色と金属光沢を発現させる方法の検討を開始した。これに加え、黄色に光の反射を付与して金色に見せる従来の方法でなく、黄色以外の色を金色に変える、つまり劇的な色調変化を起こすことにより金色を呈し金属光沢を有する状態を発現させる方法の検討を進めた。これが可能となれば、金色の色素としての利用や反射材料としての利用だけでなく、その変化を利用したセンサー、ディスプレイ等の他の用途への応用ができる。検討を進める中で、本発明者らは、1,3-ビス(3,3-ジメチル-2-メチレンインドレニン)スクアライン(1,3-bis(3,3-dimethyl-2-methyleneindolenine)squaraine)(以下、「ISQ」ともいう。)等のスクアライン化合物が、金属光沢を有する金色を呈することができ、しかも青色から金色への色の変化も可能となることを見いだした。さらに、加圧することで、金属光沢と金色をより強く呈することも見いだした。非特許文献2では、ISQを合成した際に緑色となったと記載されているが、これは見る角度や青色の溶液が残っていたためと考えられ、ISQが金色色素の用途に使用できることは、今まで知られていなかった。本発明は、これらの化合物について、金色色素、反射材料、金色部材といった新たな用途を見いだしたものである。
【0007】
すなわち、本発明は以下に示す事項により特定されるものである。
[I]式(1)で表される化合物を含む色素。
【0008】
【化1】
(式(1)中、R
1~R
6はそれぞれ独立してC1~3アルキル基であり、R
7及びR
8はそれぞれ独立して水素原子又はC1~3アルキル基である。n1及びn2はそれぞれ独立して0~4のいずれかの整数である。)
【0009】
[II]式(1)で表される化合物を含む反射材料。
【0010】
【化2】
(式(1)中、R
1~R
6はそれぞれ独立してC1~3アルキル基であり、R
7及びR
8はそれぞれ独立して水素原子又はC1~3アルキル基である。n1及びn2はそれぞれ独立して0~4のいずれかの整数である。)
【0011】
[III]上記[I]の色素又は上記[II]の反射材料を加圧することにより金色部材を製造する金色部材の製造方法。
[IV]上記[I]の色素又は上記[II]の反射材料の加圧成型物よりなる金色部材。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、導電性高分子以外の有機化合物であって、黄色を呈さない材料を用いて金色色素を提供することができる。また、前記金色色素を用いて反射材料及び金色部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例に使用したISQのNMRスペクトルを示す図である。
【
図2】
図2は、実施例1における写真である。
図2(a)は、ISQ生成物をビーカーに入れた状態の写真であり、
図2(b)は、青色溶液を調製した状態の写真であり、
図2(c)(黒下地)及び(d)(白下地)は、ISQを析出させた状態の写真である。
【
図3】
図3は、実施例2における写真であり、ISQ生成物をスライドガラスにこすりつけた状態の写真である。
図3(a)は、スライドガラスを白の下地の上に置いたときの写真であり、
図3(b)は、スライドガラスを黒の下地の上に置いたときの写真である。また、
図3(c)は、
図3(a)を真上から蛍光灯で照らしたときの写真であり、
図3(d)は、
図3(b)を真上から蛍光灯で照らしたときの写真である。
【
図4】
図4は、実施例3における写真である。
図4(a)は、上記合成工程で得られたISQ生成物の吸引ろ過後の状態の写真であり、
図4(b)は、乳鉢による粉砕後のISQ粉末の写真であり、
図4(c)は、粉砕後のISQ粉末を加圧成形した後の写真であり、
図4(d)は、
図4(c)とは撮影角度を変えて
図4(c)の加圧成形物を撮影した写真である。
【
図5】
図5(a)は、ISQ生成物の拡散反射スペクトルを示す図であり、
図5(b)は、Kubelka-Munk変換後のスペクトルを示す図である。
【
図6】
図6(a)及び(b)は、ISQ生成物の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、
図4(c)の加圧成形物の反射スペクトル、及びISQ生成物を粉砕せずに加圧成形した加圧成形物の反射スペクトルを示す図である。
【
図8】
図8(a)及び(b)は、実施例3で用いたISQ生成物のX線回折測定結果を示す図である。
図8(c)は、実施例3で用いたISQ生成物の粉砕粉末のX線回折測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の色素及び反射材料は、下記の式(1)で表される化合物を含む。
【0015】
【0016】
式(1)において、R1~R6はそれぞれ独立してC1~3アルキル基であり、R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子又はC1~3アルキル基である。n1及びn2はそれぞれ独立して0~4のいずれかの整数である。ここで、「C1~3」は、アルキル基の炭素原子数が1、2又は3個であることを表している。
【0017】
本発明の色素及び反射材料において、式(1)で表される化合物を含むとは、色素及び反射材料が式(1)で表される化合物のみからなってもよく、色素及び反射材料としてのその他の成分、例えば他の色素、添加成分等を本発明の効果の発現が維持できる程度に含んでもよい。本発明の色素及び反射材料に使用される式(1)で表される化合物の形状は特に制限されず、例えば、粉末状、顆粒状、塊状等を挙げることができる。本発明の色素の使用方法は特に制限されず、例えば、色素を溶媒に溶解又は分散させて、溶液又は分散液を塗布液として調製して対象物に塗布し、溶媒を乾燥させることにより、対象物表面に塗膜を作製することにより使用することができる。溶媒としては特に制限されず、アルコール等の有機溶媒を使用して式(1)で表される化合物を溶媒に溶解してもよく、水を使用して式(1)で表される化合物を溶媒に分散させてもよい。また、例えば、本発明の色素を対象物に練り込んでもよく、対象物表面に押し付ける、対象物表面に析出させる等により対象物表面に本発明の色素を付着させて使用することもできる。本発明の反射材料の使用方法も特に制限されず、色素の場合と同じ例示を挙げることができる。
【0018】
本発明の色素は、透過光の影響が強いときは青色に、反射光の影響が強いときは金色にみえる。そのため、例えば、被膜等で使用する場合の膜厚、下地の色、材質等、光の当たる角度、観察者が見る角度などによって、色が青色から金色又は金色から青色に変化する。例えば、下地が被膜を通過してきた光を反射して被膜を再度通過させる色や材質を有する場合、透過光の影響が大きくなり青色にみえる。反対に、下地が被膜を通過してきた光を反射しない場合、透過光の影響は小さくなり反射光の影響が大きくなるので金色にみえる。このため、本発明の色素は、金色の色素として使用できる。さらに、本発明の色素は、金色の色素として使用できるだけでなく、光との関係において色が変化する色素として使用することができる。そのため、本発明の色素は、金色を目的とした色素としての使用、色の変化により光等の環境の変化を検知するセンサーなどに使用することができる。本発明の反射材料は、金属の金の場合と同様に金属光沢を有する金色を呈するので、優れた反射効果を有する。なお、本発明において反射材料とは、光を反射する機能を有し、光を反射することを目的とする用途に使用される材料をいう。本発明の色素及び反射材料に使用する式(1)で表される化合物は導電性を有さないので、電子通信機器、最近の車のように電子通信機器を搭載した製品へのコーティング等にも使用できる。なお、本発明の色素及び反射材料は、適用箇所に応じて、式(1)で表される化合物以外に導電性材料を含むことを除外するものではない。
【0019】
本発明の色素及び反射材料は加圧して使用することができる。本発明の色素及び反射材料は、上記式(1)で表される化合物を含んでいるので、加圧すると金属光沢及び金色をより強く呈する。したがって、本発明の色素及び反射材料は、圧力の程度により色を変化させることができるので、色の変化を利用した圧力センサーとしても利用可能である。また、本発明の色素及び反射材料は加圧して金色部材を製造することができる。本発明における金色部材及び加圧成型物とは、いわゆる成形体としての形状を有する場合だけでなく、加圧して薄く膜状にした場合も含み、膜状物はシート状のように独立して取り扱える場合も、対象物の表面に形成され対象物と一体でなければ取り扱えない場合も含む。加圧する場合の圧力、加圧時間、必要であれば型枠等は、製造する金色部材の目的に応じて適宜決定することができる。本発明の色素及び反射材料を加圧して成形した加圧成型物である本発明の金色部材は、金属光沢を有する金色を呈する。したがって、金属光沢や金色が求められる用途に好適に使用することができる。また、本発明の金色部材は見る角度や光を当てる角度により異なった色にみえるようにもできるので、色が変化する装飾部材、色の変化により光等の環境の変化を検知するセンサーなどとしても使用できる。
【実施例0020】
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0021】
(ISQの合成)
2,3,3-トリメチルインドレニンを2.9mL(0.018mol)と3,4-ジヒドロキシ-3-シクロブテン-1,2-ジオンを1.0g(0.009mol)を、トルエン30mLとブタノール30mLの混合溶媒の入った3つ首フラスコにいれて、Dean-Stark装置を用いて水を除去しながら130℃で還流を行った。Dean-Stark装置で捕集された水の量が増えなくなった時点で還流操作を止めて、半日静置した後、生成物を吸引ろ過により分離することによりISQを得た。得られた生成物の重クロロホルム中でのプロトンNMR測定により得られたNMRスペクトルを
図1に示す。このようにして得られたISQを以下の実施例で使用した。以下に、本合成の反応式を示す。
【0022】
【0023】
[実施例1]
上記合成工程で得られたISQ生成物を2.3mg測りとり50mLビーカーに入れ、エタノール7mLで溶解させたところ青色の溶液となった。この溶液をドラフト内で85℃の水浴中で45分間加熱し、エタノールを完全に蒸発させて、ISQを析出させた。
図2(a)は、ISQ生成物2.3mgを50mLビーカーに入れた状態の写真であり、
図2(b)は、青色溶液を調製した状態の写真であり、
図2(c)及び(d)は、ISQを析出させた状態の写真である。なお、
図2(c)は、ビーカーを黒の下地の上に置いたときの写真であり、
図2(d)は、ビーカーを白の下地の上に置いたときの写真である。
図2(c)では、ISQの析出物が金属光沢を有する金色を呈した。
図2(d)では、ISQの析出物は、全体的には青色を呈し、金色を呈する部分もみられた。また、ISQを析出させたビーカーを持ち上げて下から見上げると青色にみえた。
【0024】
[実施例2]
上記合成工程で得られたISQ生成物を乳棒を用いてスライドガラスにこすりつけた。こすりつけた状態を
図3(a)~(d)に示す。
図3(a)は、スライドガラスを白の下地の上に置いたときの写真であり、
図3(b)は、スライドガラスを黒の下地の上に置いたときの写真である。また、
図3(c)は、
図3(a)を真上から蛍光灯で照らしたときの写真であり、
図3(d)は、
図3(b)を真上から蛍光灯で照らしたときの写真である。
図3(a)では、こすりつけたISQは青色を呈し、
図3(b)では、こすりつけたISQは金属光沢を有する金色を呈した。真上から蛍光灯で照らした
図3(c)及び
図3(d)では、両方共にこすりつけたISQは金属光沢を有する金色を呈した。
【0025】
図2(d)及び
図3(a)で示したISQの色が青色であること、及び実施例1でISQを析出させたビーカーを持ち上げて下から見上げると青色にみえたことから、ISQ結晶の透過光は青色であることが分かる。
図2(d)及び
図3(a)では、下地を白にしたため、下地まで到達した光が白下地に反射されて再びISQ結晶を通過して観察者の目に届いたため、透過光の影響が強くなり青色にみえたと考えられる。一方で、
図2(c)及び
図3(b)で示したISQ結晶の色が金色であることから、ISQ結晶の反射光は金色であることが分かる。
図2(c)及び
図3(b)では、下地を黒にしたため下地からの反射がないので、下地に反射されて再びISQ結晶を通過する光がなく、表面からの反射しかないため金色にみえたと考えられる。
図3(c)で、下地が白であってもISQ結晶が金色にみえるのは、真上から蛍光灯で照らすと、表面の反射光と白下地に反射されてISQ結晶を通過した透過光のうち、反射光が強くなるためと考えられる。また、
図2(b)で示した溶液の色が青色にみえるのは、反射光がないためである。
【0026】
[実施例3]
上記合成工程で得られたISQ生成物を乳鉢で粉砕した。粉砕した後の粉末を、中央に直径5mm、深さ1.3mmの穴がある円盤状のClear Diskに詰めて、金属製の錠剤成型機にはさみ、ハンドプレスで成形した。
図4(a)は、上記合成工程で得られたISQ生成物の吸引ろ過後の状態の写真であり、
図4(b)は、乳鉢による粉砕後のISQ粉末の写真である。
図4(c)は、粉砕後のISQ粉末を加圧成形した後の写真であり、加圧成形物を机上に置き、加圧成形物上に天井に取り付けられた室内蛍光灯の反射が見える方向から見た写真である。
図4(d)は、
図4(c)の加圧成形物を机上に置き、加圧成形物上に天井に取り付けられた室内蛍光灯の反射が見えない方向から見た写真である。
図4(a)では、金色に光る部分がみられ、
図4(b)では、粉末は青色にみえる。一方、
図4(c)では、金属光沢を有する金色にみえる。また、
図4(d)では、緑色にみえる。なお、
図4(c)の加圧成形物の導通をデジタルマルチメータ(CDM-17D、(株)カスタム製)により調べたところ、電流が流れないことが確認できた。
【0027】
上記合成工程で得られたISQ生成物の拡散反射スペクトルを測定した。拡散反射スペクトルは、白色標準板(硫酸バリウム)を基準にして、紫外可視近赤外分光光度計(ShimadzuUV-2600i)で測定したものである。測定結果を
図5(a)に示し、Kubelka-Munk変換後のスペクトルを
図5(b)に示す。金の反射率は476nmから増加すると報告されており、ISQ生成物の反射率の立ち上がりが、金の場合とほぼ一致することからも、ISQ生成物が金色に見えることが分かる。
図6(a)及び(b)は、上記合成工程で得られたISQ生成物の走査型電子顕微鏡写真である(使用機器:FE-SEM,JSM7600F、日本電子(株)製)。
図6(a)及び(b)から、ISQ結晶は平滑面を有する柱状の形状をしていることが分かる。
図7に、
図4(c)の加圧成形物の反射スペクトルを測定した結果を示す。
図4(c)の加圧成形物の場合、白色標準板(硫酸バリウム)を基準に用いて測定すると反射率が100%を超えてしまったため、高反射率反射板(STAN-SSH、OptoSirius)を基準に用いて、反射スペクトルを小型ファイバ光学分光器(Ocean Optics,USB4000、反射プローブ400-7-VIS/NIR)で測定した。また、上記合成工程で得られたISQ生成物を粉砕せずに、粉砕物の場合と同様に加圧成形した加圧成形物の反射スペクトルも
図7に示す。
図7に示されるように、両者のスペクトルの形状はほぼ同じで金色の金属光沢を示す。
図8に、実施例3で用いたISQ生成物とISQ生成物を粉砕した粉末のX線回折測定の結果を示す。
図8(a)は、ISQ生成物の結果であり、2θ=11.9°と14.1°に特徴的な回折ピークが観測された。
図8(b)は、小さなピークを見やすくするために
図8(a)の縦軸を12000で切ったグラフである。
図8(c)は、粉砕した粉末の結果であり、粉砕することにより第1ピーク(2θ=11.9°)の強度が大きく低下し、2θ=16°以降のピーク強度が増加している。
【0028】
実施例3の結果から、ISQ結晶は平滑面を有する柱状の形状をなしており、この平滑面による反射によりISQは金色を呈すると考えられる。
図4(b)において青色にみえるのは、この平滑面が小さく粉砕されたためと考えられ、粉砕前の
図4(a)において金色にみえるのは、この平滑面が大きなままで残っているためと考えられる。
図4(c)において、粉砕された粉末を使用したにもかかわらず強い金色と金属光沢を呈するのは、加圧することにより平滑面が平面的に並び、平滑面が小さくなっていてもこれが平面的に並ぶことにより反射効果が高まったためと思われる。粉砕前のISQ生成物を使用した場合も、もともと大きな平滑面が並ぶことにより、より強く金色を呈したと考えられる。
図4(d)に示されるように、加圧成形した物を見る角度や光を当てる角度により、違う色としてとらえることができる。
本発明の色素、反射材料及び金色部材は、金と同様の金属光沢を有する金色を呈するので、装飾品、遮熱・遮光材料等に利用できる。さらに、本発明の色素、反射材料及び金色部材は導電性を有さないので、電子通信機器や最近の車のように電子通信機器を搭載した製品であって導電性を有さないことが求められる分野に利用できる。また、本発明の色素、反射材料及び金色部材は、使用環境によって色を変化させることができるので、色の変化により光等の環境の変化を検知するセンサー、調光ガラスや調光塗料(例えば、晴天時は光を反射し、曇天時には青色になる等)などに利用できる。また、圧力により色を変化させることができるので、圧力センサーとしても利用できる。