(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031742
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】バランサ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/32 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
F16F15/32 A
F16F15/32 E
F16F15/32 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002574
(22)【出願日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2022132849
(32)【優先日】2022-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502267800
【氏名又は名称】株式会社かいわ
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山添 重幸
(57)【要約】
【課題】回転体が回転した際に生じる振動を一段と抑制することができるバランサを提供する。
【解決手段】バランサとしてのナット1は、環状本体2の周方向に沿ってバランスピース30,40が配置可能な溝部12を、深溝部12a及び浅溝部12bの2段構造にしたことにより、装着する砥石の回転バランスの状況に応じて、バランスピース30,40の配置位置を自由に変えることができるので、バランスピース30,40の配置形態の自由度が高くなり、砥石が回転した際に生じる振動を一段と抑制することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に着脱自在に装着され、前記回転体の回転バランスを調整するバランサであって、
前記回転体の回転軸と同軸上に配置される回転中心軸と、前記回転体と対向するように配置される対の円環状の対向面と、を有する環状本体と、
前記環状本体の外周縁に沿って一方の前記対向面に円環状に形成された溝部と、
を備え、
前記溝部は、
前記環状本体の周方向の所望位置に、所定重量の深溝側のバランスピースが着脱自在に配置可能な深溝部と、
前記環状本体の径方向において前記深溝部と重なる位置に形成されており、前記環状本体の周方向の所望位置に、所定重量の浅溝側のバランスピースが着脱自在に配置可能な浅溝部と、
を備える、バランサ。
【請求項2】
前記深溝部及び前記浅溝部の溝深さが、
前記深溝部に配置される前記バランスピースと、前記浅溝部に配置される前記バランスピースとが、前記環状本体の厚み方向に重ねて配置可能な溝深さに選定されている、
請求項1に記載のバランサ。
【請求項3】
前記回転体に前記環状本体を装着した際に、前記深溝部に配置した前記バランスピースが、前記回転体の周方向において最も軽い重量の位置と前記径方向で直線上に位置する箇所で位置決めされ、
前記浅溝部に配置する前記バランスピースは、前記深溝部に前記バランスピースが位置決めされた状態での前記回転体及び前記環状本体の回転バランスに応じて配置位置が調整される、
請求項1に記載のバランサ。
【請求項4】
前記溝部が形成された外周環状体が前記環状本体とは別体でなり、前記外周環状体が前記環状本体の外周縁に着脱自在に装着されている、
請求項1に記載のバランサ。
【請求項5】
前記環状本体がクッション材を介在させて前記回転体を押さえる構成において、前記溝部は、前記クッション材の配置領域よりも外周側に配置されている、
請求項1に記載のバランサ。
【請求項6】
前記環状本体は、
前記回転体の回転軸と同軸上に配置される回転中心軸を有する軸部と、前記溝部が形成された外周環状体と、前記軸部及び前記外周環状体を連設する複数の連設部とを備え、隣り合う前記連設部の間に厚みを貫通した貫通孔が設けられている、
請求項1に記載のバランサ。
【請求項7】
前記環状本体は、
前記深溝部の底部に、前記深溝部に沿って円環状に形成され、バランスピースが着脱自在に配置可能な底溝部を備える、
請求項1に記載のバランサ。
【請求項8】
前記環状本体は、
前記溝部に対して径方向内側又は径方向外側に、前記溝部に沿って円環状に形成され、バランスピースが着脱自在に配置可能な第2の溝部を備える、
請求項1に記載のバランサ。
【請求項9】
前記環状本体は、
前記溝部が形成される前記環状本体の対向面とは反対側の面に、前記環状本体の外周縁に沿って円環状に形成され、バランスピースが着脱自在に配置可能な第3の溝部を備える、
請求項1に記載のバランサ。
【請求項10】
回転体に着脱自在に装着され、前記回転体の回転バランスを調整するバランサであって、
前記回転体の回転軸と同軸上に配置される回転中心軸と、前記回転体と対向するように配置される対の円環状の対向面と、を有する環状本体と、
それぞれが前記環状本体の外周縁に沿って一方の前記対向面に円環状に形成され、前記環状本体の周方向の所望位置に、所定重量のバランスピースが着脱自在に配置可能とされる複数の同心円状の溝部と、
を備えるバランサ。
【請求項11】
前記回転体が、砥石、ツールホルダ、スピンドル、回転チャック、モータ、フィン、スクリュー、タービンのうちいずれかである、
請求項1~10のうちいずれか1項に記載のバランサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体に着脱自在に装着されるバランサに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械、車両の車軸、及びエンジンのクランクシャフトなどの回転軸は、重量の分布の不釣り合い、及び幾何学的な構造の差に起因して、振動を生じる場合がある。回転軸に装着された回転体が回転する際に生じる振動を抑制する手段として、特許文献1には、複数の錘と、複数の錘をそれぞれ任意方向に揺動自在に収納しうる複数の収納室が穿設されたホルダーとを備えるバランサが開示されている。特許文献1のバランサでは、回転軸によって回転体を回転させた際に、複数の錘がそれぞれ収納室内を移動して回転体に生じる振動を抑制し得るようになされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のバランサでは、錘の移動範囲が収納室の大きさと錘の大きさの差に依存し、自由度が低いことから、例えば、当該回転体自体に重量の偏り等があると、振動を一定以上小さくすることが困難な場合もあった。そのため、回転体の状態に応じて、自由にバランサの重量を調整して、回転体が回転した際に生じる振動を抑制できる新規な構成のバランサの開発が望まれていた。
【0005】
本発明は以上の点を考慮して、回転体が回転した際に生じる振動を一段と抑制することができるバランサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るバランサは、回転体に着脱自在に装着され、前記回転体の回転バランスを調整するバランサであって、前記回転体の回転軸と同軸上に配置される回転中心軸と、前記回転体と対向するように配置される対の円環状の対向面と、を有する環状本体と、前記環状本体の外周縁に沿って一方の前記対向面に円環状に形成された溝部と、を備え、前記溝部は、前記環状本体の周方向の所望位置に、所定重量の深溝側のバランスピースが着脱自在に配置可能な深溝部と、前記環状本体の径方向において前記深溝部と重なる位置に形成されており、前記環状本体の周方向の所望位置に、所定重量の浅溝側のバランスピースが着脱自在に配置可能な浅溝部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、環状本体の周方向に沿ってバランスピースが配置可能な溝部を、深溝部及び浅溝部の2段構造にしたことにより、装着する回転体の回転バランスの状況に応じて、バランスピースの配置位置を自由に変えることができるので、バランスピースの配置形態の自由度が高くなり、回転体が回転した際に生じる振動を一段と抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】砥石に装着可能なフランジとナットの構成を示す斜視図である。
【
図2】溝部が設けられたナットの対向面の構成を示す斜視図である。
【
図4】4Aは、第1段目にバランスピースを配置して砥石のバランスを調整したときの様子を示す概略図であり、4Bは、第1段目及び第2段目にそれぞれバランスピースを配置して砥石のバランスを調整したときの様子を示す概略図である。
【
図5】本実施形態に係るバランサをスピンドルに取り付ける場合について説明するための斜視図である。
【
図6】本実施形態に係るバランサを回転フィン装置の冷却フィンに取り付ける場合について説明するための斜視図である。
【
図7】他の実施形態に係るバランサ(1)の断面構成を示す断面図である。
【
図8】他の実施形態に係るバランサ(2)の断面構成を示す断面図である。
【
図9】他の実施形態に係るバランサ(3)のナット側断面構成を示す断面図である。
【
図10】他の実施形態に係るバランサ(4)のナット側断面構成を示す断面図である。
【
図11】他の実施形態に係るバランサ(5)のナット側断面構成を示す断面図である。
【
図12】他の実施形態に係るバランサ(6)のナット側断面構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0010】
(1)第1実施形態
(1-1)全体構成
図1に示すように、本実施形態では、バランサとして、砥石100に装着可能なナット1を適用した例について以下説明する。この場合、回転体としての砥石100は、バランサとしてのナット1とフランジ200とにより挟み込まれて、ナット1及びフランジ200を介して図示しない回転装置の回転軸部に装着される。砥石100は、環状の砥石本体102を有し、砥石本体102の回転軸x1を中心とした円形状の貫通孔101が砥石本体102に形成されている。
【0011】
フランジ200は、鉄、アルミ合金、ステンレス鋼、カーボンを入れた樹脂又はチタン材で形成されており、環状部201と、環状部201よりも径が小さい円筒状の筒状部202とを有する。フランジ200は、環状部201及び筒状部202を連通した貫通孔203が、環状部201及び筒状部202の中心に形成されている。筒状部202は、砥石100の貫通孔101に挿入可能に形成されている。環状部201は、筒状部202が砥石100の貫通孔101に挿入された際に砥石100に当接して位置決めされ、フランジ200の回転中心軸x2を砥石100の回転軸x1と同軸上に配置させる。環状部201には、図示しないボルトが挿入可能な締結用貫通孔204が形成されている。
【0012】
ナット1は、砥石100の貫通孔101に挿通されたフランジ200の筒状部202の先端に、着脱自在に装着される。ナット1は、鉄、アルミ合金、ステンレス鋼、又はチタン材で形成されており、回転中心軸x3に円形状の貫通孔4を有した円環状の環状本体2を備えている。本実施形態に係る環状本体2は、砥石100の回転軸x1と同軸上に配置される回転中心軸x3と、対でなる対向した円環状の対向面1a,1bとを有しており、厚みを貫通する貫通孔4が対向面1a,1bに設けられた構成を有する。
【0013】
環状本体2は、当該環状本体2の径よりも小さく、かつ、砥石100の貫通孔101に挿入可能な径でなる突出環状部3が、砥石100に配置される側の対向面1bに設けられている。突出環状部3には、フランジ200の締結用貫通孔204に挿入されたボルトが挿入可能な位置に締結用貫通孔6が形成されている。かかる構成に加えて、ナット1には、砥石100側に配置されない環状本体2の一方の対向面1aに、図示しないバランスピースが配置可能な溝部(後述する)が形成されている。なお、他の実施形態としては、ナット1の内側にメスネジを有し、フランジ200の筒状部202にオスネジを有し、ボルトを使用しないでナット1及びフランジ200が固定される構成としてもよい。
【0014】
なお、砥石100にフランジ200及びナット1を取り付ける場合は、フランジ200の筒状部202が砥石100の貫通孔101に一方から挿入され、ナット1の突出環状部3が砥石100の貫通孔101に他方から挿入され、当該貫通孔101から露出した筒状部202の先端にナット1が装着される。そして、ナット1の締結用貫通孔6と、フランジ200の締結用貫通孔204とが連通するように位置決めし、これら締結用貫通孔6,204にボルトを装着することにより、フランジ200及びナット1で砥石100を挟み込んだ状態で、フランジ200及びナット1を砥石100に強固に固定させることができる。
【0015】
(1-2)ナットの構成
次に、バランサとして機能するナット1の構成について、特徴的構成である溝部に着目しつつ、以下説明する。ここで、
図2は、溝部12が形成されているナット1の対向面1aの構成を示した斜視図であり、
図3は、ナット1の側断面構成を示す断面図である。環状本体2は、板状部材で形成された円環状の環状板2dの外周に沿って、溝部12が形成された円環状の溝形成領域2eが設けられている、環状板2dには、中心に貫通孔4が穿設され、当該貫通孔4の周囲に等間隔に複数の締結用貫通孔6が穿設されている。また、環状板2dの対向面1bには、締結用貫通孔6が穿設された領域に貫通孔4を囲うように突出環状部3が設けられている。
【0016】
溝形成領域2eには、外周壁2aと内周壁2bとが対向面1aに設けられ、これら外周壁2aと内周壁2bとの間に底部2cが設けられている。溝部12は、外周壁2aと内周壁2bと底部2cとで囲まれた空間であり、深溝部12aと浅溝部12bとで構成されている。底部2cは、一方の外面が対向面1bと面一に形成され、他方の内面が環状板2dの表面よりも凹むように環状板2dの厚みよりも厚みが薄く形成されている。
【0017】
外周壁2aは、環状本体2の周方向に沿って底部2cに壁状に立設された、環状本体2の外周縁である。外周壁2aは、底部2cに立設した外周壁厚肉部11aと、外周壁厚肉部11aの先端に立設した外周壁薄肉部11bとを有する。外周壁2aは、径方向における外周壁厚肉部11aの厚さが外周壁薄肉部11bの厚さよりも厚みがあり、外周壁薄肉部11bが外周壁厚肉部11aよりも凹み、外周壁厚肉部11a及び外周壁薄肉部11bの境界に段部11cが形成されている。
【0018】
内周壁2bは、外周壁2aと並走するようにして、外周壁2aよりも回転中心軸x3側において底部2cに壁状に立設されている。内周壁2bは、底部2cに立設した内周壁厚肉部15aと、内周壁厚肉部15aの先端に立設した内周壁薄肉部15bとを有する。内周壁2bの内面は、内周壁厚肉部15aの厚さが内周壁薄肉部15bの厚さよりも厚みがあり、内周壁薄肉部15bが内周壁厚肉部15aよりも凹み、内周壁厚肉部15a及び内周壁薄肉部15bの境界に段部15cが形成されている。
【0019】
深溝部12aは、外周壁厚肉部11aと内周壁厚肉部15aと底部2cとで囲まれた空間であり、所定重量の深溝用のバランスピース30が位置決め可能な構成を有する。深溝用のバランスピース30は、例えば、鉄等でなり、厚みがある扇状のバランスピース本体31を有しており、深溝部12aの周方向所定位置に嵌め込まれて位置決めされる。
【0020】
この場合、バランスピース本体31が深溝部12aに嵌め込まれてバランスピース30が位置決めされた際に、バランスピース本体31の厚みを貫通するネジ孔33に図示しないネジが螺着されることにより、環状本体2の径方向にバランスピース本体31が広がってゆく分割構造を有している。なお、
図2では、バランスピース本体31を分割可能な境界線については図示を省略している。これにより、深溝用のバランスピース30は、環状本体2の周方向の所定位置において環状本体2の径方向にバランスピース本体31が広げられることで、深溝部12aの外周壁厚肉部11a及び内周壁厚肉部15a間に嵌合される。
【0021】
深溝部12a及び浅溝部12bの溝深さは、深溝部12aに配置されるバランスピース30と、浅溝部12bに配置されるバランスピース40とが、環状本体2の厚み方向に重ねて配置可能な溝深さに選定されている。
【0022】
具体的には、浅溝部12bは、外周壁薄肉部11bと内周壁薄肉部15bと段部11c,15cとで囲まれた空間であり、所定重量の浅溝用のバランスピース40が段部11c,15cに当接して深溝部12aまで到達することなく浅溝部12bの空間内に位置決め可能な構成を有する。浅溝用のバランスピース40は、例えば、鉄等でなり、厚みがある扇状のバランスピース本体41を有しており、浅溝部12bの周方向所定位置に嵌め込まれて位置決めされる。
【0023】
本実施形態に係るバランスピース40は、浅溝部12bにバランスピース本体41が位置決めされた後、バランスピース本体41のネジ孔42に図示しないイモネジが螺着されてゆくと、環状本体2の径方向にバランスピース本体41が広がってゆく分割構造を有している。なお、
図2では、バランスピース本体41を分割可能な境界線については図示を省略している。これにより、浅溝用のバランスピース40は、環状本体2の周方向の所定位置において環状本体2の径方向にバランスピース本体41が広げられることで、溝部12の外周壁薄肉部11b及び内周壁薄肉部15b間に嵌合される。
【0024】
(1-3)ナットによる回転バランスの調整
次に、ナット1を用いて、砥石100の回転バランスを調整する方法について説明する。砥石100の回転バランスの調整は、フランジ200とナット1によって砥石100を挟み込み、砥石100にフランジ200及びナット1を固定した後に、バランスピース30,40をナット1の所定位置に取り付けることで行われる。
【0025】
この場合、
図4の4Aに示すように、砥石100には、周方向のうち、最も重量が軽い位置にマーク105が予め描画されている。なお、マーク105は、砥石製造会社による描画の他、砥石100の回転バランスを調整する作業者自身により静的バランスを測定して砥石100に描画するようにしてもよい。また、砥石100には、マーク105とともに、予めアンバランスの重量の数値が描画されているようにしてもよい。砥石100のみのアンバランスに関して、フランジ200及びナット1を取り付けると、アンバランス位置や重量が変わることもあるため、砥石100とフランジ200とナット1を組んだ状態でアンバランスを確認することが望ましい。
【0026】
フランジ200及びナット1を固定した砥石100の回転バランスを調整する場合、砥石100に上記のマーク105及びアンバランス量の数値が描画されていないとき、作業者は、例えば、静的バランス調整装置(例えば、特開平1-171759号公報等)を用いて、砥石100でマーク105が描画される最も軽い位置(アンバランス位置)と、アンバランス量とを調べる。調べたアンバランス量に基づいて砥石100の静的バランスを修正するのに必要なバランスピース30の重量を特定する。そして、砥石100のアンバランス位置(マーク105を描画した位置)を確認し、砥石100のマーク105が描画された位置と径方向上(径方向で直線上)に位置する、ナット1の深溝部12aの位置に、先ほど特定した所定重量の深溝用のバランスピース30を位置決めする。
【0027】
このように、砥石100の表面に近い深溝部12aに所定重量のバランスピース30を配置させることで、砥石100の表面に近い位置にバランスピース30を配置させて、砥石100の重量バランスを修正することができる。本実施形態では、バランスの悪い砥石100について、例えば、浅溝用のバランスピース40を用いて静的バランスや動的バランスの調整を行う前に、先に深溝用のバランスピース30を用いて当該砥石100の大まかなバランス修正を行う。
【0028】
なお、ナット1の深溝部12aに取り付ける深溝用のバランスピース30は、砥石100のマーク105における重量を調べて当該重量を基に砥石100の周方向において重量が均一となる、所定重量のバランスピース30が選定される。この場合、静的バランスを調整する公知の静的バランス調整装置(例えば、特開平1-171759号公報等)を用いることで、砥石100の全周で重量が均一となる、所定重量のバランスピース30を選定できる。
【0029】
次に、フランジ200及びナット1を取り付けた砥石100を回転させて回転バランスを調整する公知の動的バランス調整装置(例えば、シグマ電子工業株式会社、製品名フィールドバランサー等)を用いて、
図4の4Bに示すように、浅溝用のバランスピース40をナット1の浅溝部12bに配置する位置を選定する。このようにして、フランジ200及びナット1を取り付けた砥石100の回転バランスをバランスピース30,40により修正することができる。なお、上述では、静的バランス調整装置によって砥石100のアンバランス位置及びアンバランス量を測定して深溝用のバランスピース30の配置位置及び重量を決定したが、フィールドバランサーでも、砥石100のアンバランス位置とアンバランス量を測定できることから、これを用いて深溝用のバランスピース30の配置位置及び重量を決定するようにしてもよい。
【0030】
この際、ナット1では、浅溝部12bに配置するバランスピース40を、深溝部12aに配置したバランスピース30に対して、環状本体2の厚み方向に一部又は全部を重ねて配置することも可能であるため、従来よりも一段と正確に回転バランスを修正することができる。
【0031】
(1-4)作用及び効果
以上の構成において、バランサとしてのナット1は、砥石100の回転軸x1と同軸上に配置される回転中心軸x3と、砥石100と対向するように配置される対の円環状の対向面1a,1bとを有する環状本体2を備え、環状本体2には外周縁に沿って一方の対向面1aに円環状の溝部12が形成されている。そして、溝部12は、環状本体2の周方向の所望位置に、所定重量の深溝側のバランスピース30が着脱自在に配置可能な深溝部12aが形成されており、さらに、環状本体2の径方向において深溝部12aと重なる位置に形成され、かつ環状本体2の周方向の所望位置に、所定重量の浅溝側のバランスピース40が着脱自在に配置可能な浅溝部12bが形成されている。
【0032】
このように、ナット1は、環状本体2の周方向に沿ってバランスピース30,40が配置可能な溝部12を、深溝部12a及び浅溝部12bの2段構造にしたことにより、装着する砥石100の回転バランスの状況に応じて、バランスピース30,40の配置位置を自由に変えることができるので、バランスピース30,40の配置形態の自由度が高くなり、砥石100が回転した際に生じる振動を一段と抑制することができる。
【0033】
また、ナット1では、砥石100の重量バランスに応じて、深溝部12aにのみバランスピース30を設けたり、浅溝部12bにのみバランスピース40を設けたり、或いは、深溝部12a及び浅溝部12bの両方にバランスピース30,40を設けないようにしたりすることができる。このため、ナット1では、砥石100やフランジ200のアンバランス、砥石100とフランジ200の位置ずれによる偏心等が生じていても、これら砥石100等の回転バランスを調整する自由度が高く、砥石100が回転した際に生じる振動を一段と抑制することができる。
【0034】
また、ナット1では、深溝部12aにバランスピース30を設けることで、その分、浅溝部12bに配置するバランスピース40の軽量化を図ることができるので、バランスピース40の小型化等を図ることができる。
【0035】
さらに、ナット1では、バランスピース30を配置させなかったときでも、浅溝部12bに加えて、さらに深溝部12aを設けたことで、外周縁に沿って深溝部12aの形成分だけ中空の空間を大きく設けることができるので、その分、外周縁周辺の重量を軽量化させることができる。
【0036】
(2)第2実施形態
上述した実施形態においては、回転体として砥石100を適用し、バランサとしてナット1を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、
図5に示すように、スピンドルに装着可能なツールホルダ400の先端に、上述したナット1と同じ溝部12を有したバランサ1Aを着脱自在に装着するようにしてもよい。
【0037】
この場合、バランサ1Aは、ツールホルダ400の刃部401と当該刃部401が装着された円筒状保持部406とが、貫通孔4に挿通され、ツールホルダ400の環状突起部407に当接するようにして当該ツールホルダ400に装着される。そして、バランサ1Aは、締結用貫通孔6をツールホルダ400の締結用孔408に位置決めして、図示しないネジにより螺着されてツールホルダ400に固定される。
【0038】
バランサ1Aは、例えば、ツールホルダ400の重量が軽い位置を示すマーク410が描画された箇所に対応する、深溝部12aの位置に深溝用のバランスピース30を固定してツールホルダ400の重量バランスを修正することができる。また、バランサ1Aは、必要に応じて浅溝部12bに浅溝用のバランスピース40を固定することによりツールホルダ400の回転バランスを調整することができる。
【0039】
なお、ここでは、ツールホルダ400にバランサ1Aを装着してツールホルダ400の回転バランスを修正する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、ツールホルダ400を回転駆動させるスピンドルに当該ツールホルダ400を装着した状態で、スピンドル及びツールホルダ400の全体の回転バランスをバランサ1Aで調整するようにしてもよく、また、スピンドルの回転駆動する先端にバランサ1Aを直接設けてスピンドルの回転バランスをバランサ1Aで修正するようにしてもよい。なお、この場合、バランサ1Aは、例えば、スピンドルの重量が軽い位置を示すマークが描画された箇所に対応する、深溝部12aの位置に深溝用のバランスピース30を固定することで、スピンドル自体の回転バランスを修正することができる。
【0040】
以上、バランサ1Aでは、上述した実施形態と同様に、環状本体2の周方向に沿ってバランスピース30,40が配置可能な溝部12を、深溝部12a及び浅溝部12bの2段構造にしたことにより、装着するツールホルダ400や当該ツールホルダ400を装着するスピンドルの回転バランスの状況に応じて、バランスピース30,40の配置位置を自由に変えることができるので、バランスピース30,40の配置形態の自由度が高くなり、ツールホルダ400やスピンドルが回転した際に生じる振動を一段と抑制することができる。
【0041】
(3)第3実施形態
その他の実施形態としては、例えば、
図6に示すように、回転フィン装置300にバランサ1Bを着脱自在に装着して冷却フィン(単にフィンと称する)302の回転バランスを修正するようにしてもよい。モータ等の回転駆動部301やフィン302にも当該フィン302を回転させた際にアンバランスが存在するが、本実施形態に係るバランサ1Bを用いることによって当該アンバランスを修正することができる。この場合、バランサ1Bは、回転フィン装置300の回転駆動部301に設けた、回転自在のフィン302の回転軸部305に固定される。
図6では、フィン302の回転軸部305における先端部303に、バランサ1Bが図示しないネジにより固定される例を示している。
【0042】
本実施形態に係るバランサ1Bは、環状本体2の中心に有底筒状の軸部45が設けられているとともに、当該環状本体2の外周に溝部12が形成された外周環状体123が設けられ、軸部45と外周環状体123とが複数の連設部48a,48b,48cで連設された構成を有している。連設部48a,48b,48cは、同一構成を有しており、軸部45から外周環状体123に直線的に延びた、断面四辺状又は丸状等でなる棒状部材である。隣り合う連設部48a,48b,48cの間には、それぞれ厚みを貫通した貫通孔46a,46b,46cが形成されている。
【0043】
本実施形態に係るバランサ1Bは、回転中心軸を有する軸部45の径が、回転フィン装置300の回転軸部305の先端部303の径とほぼ一致し、軸部45の底部45aが先端部303に位置決めされて底部45aのネジ孔45bにネジが挿入されてネジにより底部45aが先端部303に螺着される。これにより、環状本体2は、回転体であるフィン302の回転軸と同軸上に回転中心軸が配置される。バランサ1Bは、回転駆動部301により回転軸部305が回転されると、軸部45の回転中心軸を中心に、当該回転軸部305と一体となって回転する。
【0044】
かかる構成に加えて、環状本体2は、軸部45が回転軸部305の先端部303に対して取り付けられた際、外周環状体123がフィン302の外周側に配置され、軸部45と外周環状体123との間にある貫通孔46a,46b,46cから、フィン302が外部に露出し得るように構成されている。なお、フィン302は図示しないカバーによってフィン302に手などが当たることによる怪我の防止のため覆われている。
【0045】
このようなバランサ1Bでも、上述した実施形態と同様に、フィン302の重量が軽い位置を示すマーク310が描画された箇所に対応する、深溝部12aの位置に、深溝用のバランスピース30を固定して、フィン302の重量バランスを修正することができる。また、バランサ1Bは、必要に応じて浅溝部12bに浅溝用のバランスピース40を固定することによりフィン302の回転バランスを調整することができる。
【0046】
(4)第4実施形態
他の実施形態としては、
図7に示すように、砥石100を挟み込みネジ53によって固定されるフランジ52及びナット51において、これらフランジ52及びナット51の両方をバランサとして用いるようにしてもよい。この場合、ナット51に溝部12を設けるとともに、フランジ52にも、深溝部12aと浅溝部12bとを有した溝部122を設けている。また、バランサとしてのフランジ52は、溝部122が形成された外周環状体522が環状本体521とは別体でなり、当該外周環状体522がネジ523によって環状本体521の外周縁に着脱自在に装着されている。
【0047】
なお、ナット51及び砥石100の間と、フランジ52及び砥石100との間には、それぞれシート状でなる紙等のクッション材55が設けられており、クッション材55により振動等を吸収可能な構成を有する。ナット51及び砥石100の間と、フランジ52及び砥石100との間には、クッション材55によって隙間が形成されている。また、ナット51は、溝部12が形成された対向面とは逆の、砥石100に隣接する対向面に、段差部が形成されており、当該段差部によって砥石100との間にさらに隙間G1が形成されている。
【0048】
一般的には、フランジ200及びナットで砥石100を挟み込んだ場合、クッション材55の配置領域内でフランジ200及びナットが砥石100を押さえてバランスの修正を行う。すなわち、バランスピースを用いて砥石100の回転バランスを修正する従来のナットは、ナットに形成された、当該バランスピースを配置する溝部が、クッション材55の配置領域内に設けられている。これに対して、本実施形態では、
図7に示すように、クッション材55の配置領域内から外れた外周側に、ナット51及びフランジ52の溝部12,122を配置させた構成としており、クッション材55よりも外周側において、バランスピース30,40によりバランス修正を行えるようにしている。このように、従来よりも砥石100の外周側でバランス修正を行うようにしたことで、当該砥石100のバランス修正を高精度で行うことができるようになり、更に大径化したことでバランスピース30,40に遠心力が掛かり、当該バランスピース30,40自体の重量も軽くすることが可能となる。
【0049】
なお、このように、大径化させて砥石100の外周側に溝部12を設けたナット51については、回転数1400RPMでの振動値が従来の76nmから56nmまで大幅に削減できたことを検証試験により確認できている。また、大径化させて砥石100の外周側に溝部12を設けたナット51では、遠心力によってバランスピース30,40自体の重量も、通常の46gから24.5gにまで軽量化できたことを検証試験により確認できている。
【0050】
また、このように、クッション材55よりも溝部12,122を外周側に配置して大径化させたフランジ52やナット51では、バランスピース40を位置決めするためのメモリが外周縁に表記されているが、大径化した分、当該メモリ表示の幅を細かく表記させることができ、一段と高精度にバランスピース40を配置させることができる。
【0051】
本実施形態に係る外周環状体522は、砥石100と対向する内面に溝部122が形成されており、砥石100やナット51、フランジ52の環状本体521の重量バランスに応じて、適宜、溝部122の深溝部12a及び浅溝部12bにバランスピース30,40を配置可能な構成を有する。なお、本実施形態では、外周環状体522の、砥石100と隣接する内側の対向面に溝部122を形成した場合について説明するが、本発明はこれに限らず、外周環状体522の、砥石100と隣接した対向面とは逆の外側の対向面に溝部122を形成するようにしてもよい。
【0052】
このようなフランジ52は、例えば、外周環状体522の深溝部12aや浅溝部12bにバランスピース30,40を適宜配置させた後に、砥石100に固定したフランジ52の環状本体521の外周縁にネジ523で固定されるか、或いは、環状本体521にネジ523で固定した外周環状体522の深溝部12aや浅溝部12bにバランスピース30,40を適宜配置させた後に、環状本体521及び外周環状体522でなるフランジ52に砥石100及びナット51を固定する。
【0053】
以上、フランジ52では、上述した実施形態と同様に、環状本体2の周方向に沿ってバランスピース30,40が配置可能な溝部122を、深溝部12a及び浅溝部12bの2段構造にしたことにより、装着する砥石100の回転バランスの状況に応じて、バランスピース30,40の配置位置を自由に変えることができるので、バランスピース30,40の配置形態の自由度が高くなり、砥石100が回転した際に生じる振動を一段と抑制することができる。
【0054】
(5)第5実施形態
図8に示すように、他のバランサとしては、砥石100を挟み込みネジ53によって固定されるフランジ200及びナット51を、回転装置であるスピンドルに取り付ける取付ツールをバランサ610として適用してもよい。この場合、バランサ610は、断面コ字型に形成されており、円環状の環状本体611の外周縁に沿って一方の対向面に円環状に形成された溝部125が形成されている。バランサ610は、溝部125が環状本体611から突出しており、砥石100に装着されたフランジ200の外周を囲うように当該溝部125が形成され、溝部125で囲まれた凹み領域となる環状本体611に当該フランジ200が配置される。
【0055】
溝部125は、砥石100との間に隙間G2を形成して配置されている。溝部125には、上述した実施形態と同様に、環状本体611の周方向の所望位置に、所定重量の深溝側のバランスピース30(図示せず)が着脱自在に配置可能な深溝部12aと、環状本体611の径方向において深溝部12aと重なる位置に形成され、環状本体611の周方向の所望位置に、所定重量の浅溝側のバランスピース40(図示せず)が着脱自在に配置可能な浅溝部12bとが設けられている。
【0056】
バランサ610は、砥石100を回転させるスピンドル600の先端に設けた回転軸602aが貫通孔613に挿入されて当該先端にネジ603によって環状本体611が固定される。これにより、バランサ610は、スピンドル600の重量バランスに応じて、適宜、溝部125の深溝部12a及び浅溝部12bにバランスピース30,40を配置させることにより、スピンドル600自体の回転バランスを修正することができる。
【0057】
そして、バランサ610の貫通孔613から突出した、スピンドル600の回転軸602aに、フランジ200及びナット51で挟み込んだ砥石100を装着した後、当該回転軸602aの先端に回転軸装着用のナット602bが固定されることで、スピンドル600の回転軸602aに、根元から先端に向けて、バランサ610、フランジ200、砥石100及びナット51の順で取り付けることができる。
【0058】
以上、バランサ610では、上述した実施形態と同様に、環状本体611の周方向に沿ってバランスピース30,40が配置可能な溝部125を、深溝部12a及び浅溝部12bの2段構造にしたことにより、装着するスピンドル600の回転バランスの状況に応じて、バランスピース30,40の配置位置を自由に変えることができるので、バランスピース30,40の配置形態の自由度が高くなり、スピンドル600が回転した際に生じる振動を一段と抑制することができる。
【0059】
(6)第6実施形態
上述した第1実施形態に係るナット1は、溝部12は、深溝部12aと浅溝部12bの2段溝として構成されていた。これに対して、
図9(A)及び(B)に示すように、第6実施形態に係るナット1Cは、深溝部12aの底部にさらに底溝部12cが形成され、溝部12が3段の溝部から構成されている点が相違する。底溝部12cは、外周壁厚肉部11dと内周壁厚肉部15dとを有する。外周壁厚肉部11d及び内周壁厚肉部15d間の距離は、深溝部12aよりも近く、深溝部12aよりも幅狭の溝部として構成される。
【0060】
底溝部12cには、バランスピース30、40よりも幅狭のバランスピース50が配置される。バランスピース50は、例えば、鉄等でなり、厚みがある扇状のバランスピース本体を有しており、バランスピース30、40と同様の構造とされ、底溝部12cの周方向所定位置に嵌め込まれて位置決めされる。底溝部12cに対するバランスピース50の固定は、バランスピース30、40と同様である。
【0061】
ナット1Cを用いて、砥石の回転バランスを調整する場合、上述した静的バランス調整装置(例えば、特開平1-171759号公報等)により静的バランスを測定して砥石のアンバランス点にマーキングする。マーキングされたアンバランス点に基づいて、底溝部12cにバランスピース50を配置固定する。次に、上述した動的バランス装置(例えば、シグマ電子工業株式会社、製品名フィールドバランサー等)を用いて、ナット1Cを取り付けた砥石を回転させて深溝部12aにバランスピース30を配置し、浅溝部12bにバランスピース40を配置固定して砥石の回転バランスの修正を行う。
【0062】
このような本実施形態によれば、第1実施形態で述べた効果に加え、動的バランスを測定する前に静的バランスを調整しているので、動的バランス調整装置による調整に際して、バランス測定時に回転させた際の振動を低減させることができ、動的バランス測定装置のスピンドルに損傷が生じることを防止できる。
【0063】
(7)第7実施形態
上述した第6実施形態では、ナット1Cの溝部12は、深溝部12a、浅溝部12b、及び底溝部12cの三段溝で構成されていた。これに対して、
図10に示すように、第7実施形態のナット1Dは、2段の溝部12よりも径方向内側に内側溝部13を形成している点が相違する。第2の溝部となる内側溝部13は、溝部12に沿って円環状に形成され、内側内周壁13a及び外側内周壁13bを有する。内側内周壁13a及び外側内周壁13bの間には、例えば、バランスピース30,40よりも小径の扇状のバランスピース60が配置され、バランスピース30,40と同様の構造で内側溝部13に沿ってスライド自在に移動して周方向の任意の位置に位置決め固定される。
【0064】
ナット1Dによる砥石の回転バランスの調整は、第6実施形態の場合と同様に、内側溝部13にバランスピース60を配置して、静的バランスの調整を行った後、バランスピース60の位置決め固定を行う。その後、溝部12の深溝部12aにバランスピース30(
図10では図示略)、浅溝部12bにバランスピース40を配置して、動的バランスの調整を行い、バランスピース30,40の位置決め固定を行う。
【0065】
このような本実施形態によっても、上述した実施形態と同様の作用及び効果を奏することができる。なお、本実施形態では、2段の溝部12よりも径方向内側に内側溝部13を形成したが、本発明はこれに限られない。例えば、2段の溝部12よりも径方向外側に、上述した内側溝部13と同じ構成の外側溝部を形成して第2の溝部とし、同様の手順で砥石の回転バランスの調整を行ってもよい。
【0066】
(8)第8実施形態
上述した第7実施形態では、径方向外側の溝部12が深溝部12a及び浅溝部12bを有する2段の溝部として構成されていた。これに対して、
図11に示すように、第8実施形態のナット1Fは、外側溝部14と、当該外側溝部14よりも径方向内側にある内側溝部15とが、環状本体2の外周縁に沿った複数の同心円状の溝部として構成されている点が相違する。
【0067】
外側溝部14は、環状本体2の外周縁に沿って円環状に形成される。内側溝部15は外側溝部14の径方向内側に同心円状の溝部として形成される。外側溝部14及び内側溝部15は、それぞれが独立した円環状体として構成され、外側溝部14には、外側溝部14の円環状に応じた扇状のバランスピース40が、周方向に沿ってスライド自在に設けられて所定位置に配置固定される。また、内側溝部15には、内側溝部15の円環状に応じた扇状のバランスピース60が、周方向に沿ってスライド自在に設けられて所定位置に配置固定される。
【0068】
このような本実施形態によっても、上述した実施形態と同様の作用及び効果を奏することができる。また、外側溝部14及び内側溝部15がいずれも1段の溝部とされているので、外側溝部14及び内側溝部15のいずれか一方で静的バランス調整を行った後、いずれか他方で動的バランス調整を行うことができ、調整作業の任意性が向上する。なお、本実施形態では、環状本体2の外周縁に沿った複数の同心円状の溝部として、外側溝部14及び内側溝部15の2つの溝部を設けた場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、外側溝部14及び内側溝部15の他に、さらに内側溝部15の径方向内側に溝部を形成したり、外側溝部14の径方向外側に溝部を形成したりして、3つや4つ等の複数の溝部を形成するようにしもよい。
【0069】
(9)第9実施形態
上述した第1実施形態では、ナット1の環状本体2において、砥石100側に配置されない一方の対向面1aにだけ、バランスピース30が配置可能な溝部12を形成した場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、
図12に示すように、第9実施形態のナット1Gとして、環状本体2の溝部12が形成される対向面1aとは反対側の対向面1b(砥石100側に配置される面)に第3の溝部となる溝部16を形成した構成としてもよい。溝部16は、溝部12と同径の円環状に形成され、溝部16の幅は、溝部12の浅溝部12bの溝幅と同じ寸法とされる。
【0070】
ナット1Gによる砥石の回転バランスの調整は、浅溝部12bに用いるバランスピース40を溝部16に配置固定して、砥石の静的バランス調整を行った後、溝部12の深溝部12a、浅溝部12bにバランスピース30,40を配置固定して、砥石の動的バランス調整を行う。
【0071】
このような本実施形態によっても、上述の実施形態で述べた作用及び効果と同様の作用及び効果を奏することができる。また、溝部16が溝部12と同径の円環状に形成され、浅溝部12bと同じ溝幅とされるので、バランスピース40を共用して浅溝部12b及び溝部16に適用でき、砥石の回転バランスの調整に要する部品数の低減を図ることができる。なお、環状本体2の溝部12が形成される対向面1aとは反対側の対向面1b(砥石100側に配置される面)に形成される第3の溝部としては、一段溝や、二段溝、三段溝等を形成するようにしてもよい。また、第3の溝部は、環状本体2の溝部12よりも径方向内側に形成したり、当該溝部12よりも径方向外側に形成するようにしてもよい。
【0072】
(10)その他
なお、上述した実施形態においては、回転体として、砥石100、ツールホルダ400、フィン302、スピンドル600を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、その他、モータ、スクリュー、タービンのような回転体を適用してもよく、これらモータ、スクリュー、タービンの回転軸にバランサ1A,610が着脱自在に装着されるようにしてもよい。本発明によるナット1,51、フランジ52、バランサ1A,610では、スピンドル等の回転体において金属の密度のばらつきや、部品精度、組み立て精度等の相違があっても、バランスピース30,40の配置形態の自由度が高いので、回転体の回転バランスを修正することができる。
【0073】
具体的には、上述した第5実施形態に係るバランサ610を、スピンドル600と同様に、例えば、マシニングセンタのスピンドル(回転体)や、旋盤の回転チャック(回転体)に対して着脱自在に取り付けるようにしてもよい。この場合、マシニングセンタのスピンドルや、旋盤の回転チャックの回転バランスの状況に応じて、バランサ610においてバランスピース30,40の配置位置を変えることで、マシニングセンタのスピンドルや、旋盤の回転チャックのバランス調整を行うことができる。
【0074】
また、上述した第1実施形態から第5実施形態において説明したナット1,51、フランジ52、バランサ1A,1B,610を組み合わせた構成としたり、また、ナット1,51、フランジ52、バランサ1A,1B,610の各構成を組み合わせたバランサとしたりしてもよい。さらに、例えば、二段の溝部と三段の溝部とを同心円状に環状本体に設ける等、第1実施形態から第9実施形態において説明したナット1,1C,1D,1F,1G,51、フランジ52、バランサ1A,1B,610を組み合わせた構成としたり、また、ナット1,1C,1D,1F,1G,51、フランジ52、バランサ1A,1B,610の各構成を組み合わせたバランサとしたりしてもよい。
【0075】
なお、上述した第2実施形態から第5実施形態においても第1実施形態と同様に、ナット51、フランジ52、バランサ1A,1B,610において、深溝部12aへのバランスピース30の配置や、浅溝部12bへのバランスピース40の配置は必須ではなく、取り付ける回転体の回転バランスに応じて、適宜、バランスピース30,40の両方を配置させてもよく、バランスピース30だけを配置させてもよく、バランスピース40だけを配置させてもよく、さらにはバランスピース30,40の両方を配置させないで溝部12,122,125の空間を中空状としたままとしてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1,1C,1D,1F,1G,51 ナット(バランサ)
1A,1B,610 バランサ
2,521,611環状本体
12,122,125 溝部
12a 深溝部
12b 浅溝部
52 フランジ(バランサ)
100 砥石(回転体)
302 フィン(回転体)
400 ツールホルダ(回転体)
600 スピンドル(回転体)