(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031763
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用電極組成物、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240229BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240229BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041998
(22)【出願日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2022134926
(32)【優先日】2022-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022145374
(32)【優先日】2022-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】川北 健一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 絢香
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA22
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050GA03
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】電解液浸透性が高く、かつ充放電効率(クーロン効率)に優れた電極を製造可能なリチウムイオン電池用電極組成物を提供する。
【解決手段】アルキルアルコールのアルキレンオキサイド付加物である化合物(A)を含有するリチウムイオン電池用電極組成物であって、前記化合物(A)のHLB値が11.5~18.0であるリチウムイオン電池用電極組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルアルコールのアルキレンオキサイド付加物である化合物(A)を含有するリチウムイオン電池用電極組成物であって、
前記化合物(A)のHLB値が11.5~18.0であるリチウムイオン電池用電極組成物。
【請求項2】
前記アルキレンオキサイドの平均付加モル数が6~40であり、
前記アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイドを含み、
前記アルキレンオキサイド中のエチレンオキサイドのモル比率が前記アルキレンオキサイドの総モル数を基準として85%以上である請求項1に記載のリチウムイオン電池用電極組成物。
【請求項3】
前記化合物(A)の含有量が、前記リチウムイオン電池用電極組成物の重量を基準として0.001~2重量%である請求項1に記載のリチウムイオン電池用電極組成物。
【請求項4】
前記アルキルアルコールのアルキル基の炭素数が8~17である請求項1に記載のリチウムイオン電池用電極組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のリチウムイオン電池用電極組成物を圧縮成形してなるリチウムイオン電池用電極。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウムイオン電池用電極を備えるリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用電極組成物、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高電圧、高エネルギー密度という特長を持つことから、携帯情報機器分野などにおいて広く利用され、携帯電話、ノート型パソコンを始めとする携帯端末用標準電池としての地位が確立されている。その用途は拡大する一方で、従来用途に加えてハイブリッド自動車や電気自動車などへの適用も検討されており一部では既に実用化されている。これらの更なる普及のためにもリチウムイオン電池の高容量化、高出力化が求められており様々な技術の適用が試みられている。
【0003】
二次電池の容量を向上させる一つの手法として電極密度の向上がある。活物質を密に充填することでより多くの容量を得ることができる。しかし、電極の密度を上げると電解液が電極中に浸透しにくくなり、理論値よりも少ない容量しか取り出せなくなったり、出力特性が悪化するという問題点があった。
【0004】
このような課題を解決するために、特許文献1では電極表面に溝を設けることで電解液浸透性を改良できるという技術が開示されている。特許文献2では活物質の粒径や形状を工夫することで電解液の浸透性を向上させる技術が開示されている。また、特許文献3では電極密度を調整することで電解液の浸透性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-27633号公報
【特許文献2】特開2012-151088号公報
【特許文献3】特開2020-053282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1の手法では電極表面に溝を設けるために凹凸のついたローラーでプレスするという工程があり新たな設備を導入する必要があるという問題点があった。
また特許文献2及び3の手法では浸透性に一定の改善がみられるもののその効果は充分ではなかった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、電解液浸透性が高く、かつ充放電効率(クーロン効率)に優れた電極を製造可能なリチウムイオン電池用電極組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
本発明は、アルキルアルコールのアルキレンオキサイド付加物である化合物(A)を含有するリチウムイオン電池用電極組成物であって、前記化合物(A)のHLB値が11.5~18.0であるリチウムイオン電池用電極組成物;上記リチウムイオン電池用電極組成物を圧縮成形してなるリチウムイオン電池用電極、及び、上記リチウムイオン電池用電極を備えるリチウムイオン電池、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電解液浸透性が高く、かつ充放電効率(クーロン効率)に優れた電極を製造可能なリチウムイオン電池用電極組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[リチウムイオン電池用電極組成物]
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物は、アルキルアルコールのアルキレンオキサイド付加物である化合物(A)を含有するリチウムイオン電池用電極組成物であって、前記化合物(A)のHLB値が11.5~18.0であるリチウムイオン電池用電極組成物に関する。
【0011】
化合物(A)は、そのHLB値が、11.5~18.0であるアルキルアルコールのアルキレンオキサイド付加物である。
化合物(A)のHLB値は、12.0~18.0であることが好ましく、13.0~15.0であることがより好ましい。また、HLB値は13.4~17.8であってもよく、13.4~16.0であってもよい。
【0012】
HLBとは、親水性と親油性とのバランスを示す尺度であり、HLBが高いほど無機性が高いことを意味し、例えば、「界面活性剤入門、2007年、三洋化成工業株式会社発行、藤本武彦著、212頁」に記載されている小田法による計算値として知られているものであり、グリフィン法による計算値ではない。HLB値は有機化合物の有機性の値と無機性の値との比率から計算することができる。
HLB=10×無機性/有機性
ここで、上式中の無機性および有機性の値は藤田らによって提案された有機性と無機性を表現する指標値を表しており、前記「界面活性剤入門」213頁に記載の表の値を用いて算出できる。
【0013】
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物は、、前記アルキレンオキサイドの平均付加モル数が6~40であり、前記アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイドを含み、前記アルキレンオキサイド中のエチレンオキサイドのモル比率が前記アルキレンオキサイドの総モル数を基準として85%以上であることが好ましい。
【0014】
化合物(A)は、アルキルアルコールのアルキレンオキサイド付加物である。
アルキレンオキサイドは、エチレンオキサイドを含むことが好ましい。また、アルキレンオキサイドは、エチレンオキサイド以外のアルキレンオキサイドを含んでもよい。エチレンオキサイド以外のアルキレンオキサイドとしては、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。
本明細書において、以下、アルキレンオキサイドをAO、エチレンオキサイドをEO、プロピレンオキサイドをPO、ブチレンオキサイドをBOと表記することがある。
【0015】
アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの組合せであってもよく、エチレンオキサイドとブチレンオキサイドの組合せであってもよく、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとブチレンオキサイドの組合せであってもよい。
アルキレンオキサイドが、複数種類のアルキレンオキサイドからなる場合の付加形式は、ランダム付加であってもよく、ブロック付加であってもよい。
【0016】
アルキレンオキサイド中のエチレンオキサイドのモル比率がアルキレンオキサイドの総モル数を基準として85%以上であることが好ましい。
また、アルキレンオキサイドがエチレンオキサイドのみであってもよい。すなわち、アルキレンオキサイド中のエチレンオキサイドのモル比率がアルキレンオキサイドの総モル数を基準として100%であってもよい。
アルキレンオキサイド中のエチレンオキサイドのモル比率は85~100%であってもよく、87~100%であってもよく、92~100%であってもよく、85~87%であってもよく、85~92%であってもよく、87~92%であってもよい。
【0017】
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物は、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が6~40であることが好ましい。
アルキレンオキサイドの平均付加モル数が9~40であってもよく、10~30であってもよく、10~20であってもよく、20~40であってもよい。
アルキレンオキサイドが複数種類ある場合は、アルキレンオキサイドの付加モル数は複数種類のアルキレンオキサイドの付加モル数の合計である。
【0018】
化合物(A)におけるアルキレンオキサイド中のエチレンオキサイドのモル比率がアルキレンオキサイドの総モル数を基準として85%以上であり、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が6~40であると、電解液浸透性がより高く、かつ充放電効率により優れた電極を製造可能なリチウムイオン電池用電極組成物とすることができる。
【0019】
アルキルアルコールのアルキレンオキサイド付加物を構成する、アルキルアルコールのアルキル基の炭素数が8~17であることが好ましく、8~15であることが好ましい。
炭素数が8~17であるアルキルアルコールのアルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。
炭素数が8~17であるアルキルアルコールとしては、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、セチルアルコール、2-エチルへキサノール、イソデカノール、イソトリデカノール等が挙げられる。
【0020】
化合物(A)の具体例としては、2-エチルへキサノールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。この場合、アルキレンオキサイドがエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを含むことが好ましく、エチレンオキサイドのモル比率が85%以上であり、92%以上であることが好ましい。また、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が6~40であることが好ましく、9~40であることが好ましく、6~20であることが好ましく、9~20であることが好ましい。
【0021】
化合物(A)の他の具体例としては、イソデカノールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。この場合、アルキレンオキサイドがエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを含むことが好ましく、エチレンオキサイドのモル比率が85%以上であることが好ましく、87%以上であることが好ましい。また、アルキレンオキサイドがエチレンオキサイドのみであることも好ましい。
また、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が6~40であることが好ましく、9~40であることが好ましく、6~20であることが好ましく、9~20であることが好ましい。
【0022】
化合物(A)の他の具体例としては、ペンタデカノールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。この場合、アルキレンオキサイドがエチレンオキサイドのみであることが好ましい。また、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が6~40であることが好ましく、9~40であることが好ましく、6~20であることが好ましく、9~20であることが好ましい。
【0023】
化合物(A)の他の具体例としては、セチルアルコールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。この場合、アルキレンオキサイドがエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを含むことが好ましく、エチレンオキサイドのモル比率が80%以上であることが好ましい。また、アルキレンオキサイドがエチレンオキサイドのみであることも好ましい。
また、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が6~40であることが好ましく、9~40であることが好ましく、6~20であることが好ましく、9~20であることが好ましい。
【0024】
化合物(A)の他の具体例としては、ドデカノールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。この場合、アルキレンオキサイドがエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを含むことが好ましく、エチレンオキサイドのモル比率が80%以上であることが好ましい。また、アルキレンオキサイドがエチレンオキサイドのみであることも好ましい。
また、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が6~40であることが好ましく、9~40であることが好ましく、6~20であることが好ましく、9~20であることが好ましい。
【0025】
化合物(A)の他の具体例としては、ヘキサノールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。この場合、アルキレンオキサイドがエチレンオキサイドのみであることが好ましい。また、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が6~40であることが好ましく、9~40であることが好ましく、6~20であることが好ましく、9~20であることが好ましい。
【0026】
化合物(A)の他の具体例としては、オクタデカノールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。この場合、アルキレンオキサイドがエチレンオキサイドのみであることが好ましい。また、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が6~40であることが好ましく、9~40であることが好ましく、6~20であることが好ましく、9~20であることが好ましい。
【0027】
化合物(A)の他の具体例としては、デカノールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。この場合、アルキレンオキサイドがエチレンオキサイドのみであることが好ましい。また、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が6~40であることが好ましく、9~40であることが好ましく、6~20であることが好ましく、9~20であることが好ましい。
【0028】
化合物(A)は、アルキルアルコールのアルキレンオキサイド付加物を複数種類組み合わせて使用してもよい。
例えば、2-エチルへキサノールのアルキレンオキサイド付加物とイソデカノールのアルキレンオキサイド付加物の混合物が挙げられる。
また、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が異なる、ペンタデカノールのアルキレンオキサイド付加物の複数種類の混合物が挙げられる。
アルキルアルコールのアルキレンオキサイド付加物を複数種類組み合わせて、混合物のHLBが11.5~18.0になるように調整してもよい。混合物のHLBは各化合物のHLBにモル比率を乗じたHLBの総和(モル平均値)として求めることができる。
【0029】
また、リチウムイオン電池用電極組成物内に、HLB値が11.5~18.0であるアルキルアルコールのアルキレンオキサイド付加物に加えて、HLB値が11.5~18.0でないアルキルアルコールのアルキレンオキサイド付加物が含まれていてもよい。
【0030】
リチウムイオン電池用電極組成物において、化合物(A)の他に含まれる含有物としては、リチウムイオン電池用電極組成物を構成する公知の材料を用いることができる。リチウムイオン電池用電極組成物は少なくとも電極活物質を含む。
電極活物質は正極活物質であってもよく、負極活物質であってもよい。
【0031】
正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO2、LiNiO2、LiAlMnO4、LiMnO2及びLiMn2O4等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO4、LiNi1-xCoxO2、LiMn1-yCoyO2、LiNi1/3Co1/3Al1/3O2及びLiNi0.8Co0.15Al0.05O2)及び遷移金属元素が3種以上である複合酸化物[例えばLiMaM’bM’’cO2(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4及びLiNiPO4)、遷移金属酸化物(例えばMnO2及びV2O5)、遷移金属硫化物(例えばMoS2及びTiS2)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0032】
負極活物質としては、炭素系材料[黒鉛(グラファイト)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)及び炭素繊維等]、珪素系材料[珪素、酸化珪素(SiOx)、珪素-炭素複合体(炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等)及び珪素合金(珪素-アルミニウム合金、珪素-リチウム合金、珪素-ニッケル合金、珪素-鉄合金、珪素-チタン合金、珪素-マンガン合金、珪素-銅合金及び珪素-スズ合金等)等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金及びリチウム-アルミニウム-マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。
電極活物質が負極活物質である場合、負極活物質としては黒鉛又はハードカーボンが好ましい。
【0033】
また、リチウムイオン電池用電極組成物は、導電助剤、バインダ樹脂及び増粘剤を含んでいてもよく、これらの成分のいずれかを含んでいなくてもよい。
導電助剤としては、金属[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト(薄片状黒鉛(UP))、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルランプブラック等)及びカーボンナノファイバー(CNF)等]、及びこれらの混合物等が挙げられる。
導電助剤としてはアセチレンブラックが好ましい。
【0034】
バインダ樹脂としては、デンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレン及びポリプロピレン等が挙げられる。
増粘剤としてはカルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0035】
リチウムイオン電池用電極組成物に含まれる化合物(A)の含有量が、リチウムイオン電池用電極組成物の重量を基準として0.001~2重量%であることが好ましい。化合物(A)の含有量がこの範囲であると、化合物(A)を含有させることによる効果をより好適に発揮させることができる。
【0036】
[リチウムイオン電池用電極]
本発明のリチウムイオン電池用電極は、本発明のリチウムイオン電池用電極組成物を圧縮成形してなる。
リチウムイオン電池用電極組成物を圧縮成形する方法は特に限定されないが、ロールプレス、プレス機によるプレス等の方法を用いることができる。リチウムイオン電池用電極組成物を圧縮成形することにより得られるリチウムイオン電池用電極の電極密度は1.0~2.0g/mlであることが好ましい。
ここで定める電極密度は、リチウムイオン電池用電極組成物に電解液を浸透させていない状態での密度を意味する。
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物を用いて得られるリチウムイオン電池用電極は、電極密度が高いにもかかわらず、電解液の浸透性に優れる。
【0037】
[リチウムイオン電池]
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用電極を備える。
本発明のリチウムイオン電池では、本発明のリチウムイオン電池用電極に電解液が充分に浸透している。
【0038】
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用電極を備えており、電解液が電極中に充分に浸透しているため、充放電効率(クーロン効率)に優れる。
【0039】
本発明のリチウムイオン電池を構成する、リチウムイオン電池用電極以外の構成については、公知の材料を用いることができる。
すなわち、集電体、電解液及びセパレータ等の材料としては公知の材料を使用することができる。
電解液としては、非水溶媒としてエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等を使用することが好ましい。電解質としてLiPF6(六フッ化リン酸リチウム)、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)等を使用することが好ましい。
【0040】
本発明のリチウムイオン電池は、正極だけが本発明のリチウムイオン電池用電極で構成されていてもよく、負極だけが本発明のリチウムイオン電池用電極で構成されていてもよく、正極及び負極の両方が本発明のリチウムイオン電池用電極で構成されていてもよい。
【0041】
本発明のリチウムイオン電池は、携帯電話、パーソナルコンピューター、ハイブリッド自動車、電気自動車、定置用電源等に用いられるリチウムイオン電池として用いることができる。
【0042】
[リチウムイオン電池用電極組成物の製造方法]
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物は、化合物(A)と他の成分(電極活物質及び必要に応じて導電助剤、バインダ樹脂及び増粘剤等の成分)を混合することにより得ることができる。
また、化合物(A)は、アルキルアルコールに公知の方法でアルキレンオキサイドを付加させる反応を行うことによって得ることができる。
【0043】
本明細書には、以下の事項が開示されている。
【0044】
本開示(1)は、アルキルアルコールのアルキレンオキサイド付加物である化合物(A)を含有するリチウムイオン電池用電極組成物であって、前記化合物(A)のHLB値が11.5~18.0であるリチウムイオン電池用電極組成物である。
【0045】
本開示(2)は、前記アルキレンオキサイドの平均付加モル数が6~40であり、前記アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイドを含み、前記アルキレンオキサイド中のエチレンオキサイドのモル比率が前記アルキレンオキサイドの総モル数を基準として85%以上である本開示(1)に記載のリチウムイオン電池用電極組成物である。
【0046】
本開示(3)は、前記化合物(A)の含有量が、前記リチウムイオン電池用電極組成物の重量を基準として0.001~2重量%である本開示(1)又は(2)に記載のリチウムイオン電池用電極組成物である。
【0047】
本開示(4)は、前記アルキルアルコールのアルキル基の炭素数が8~17である本開示(1)~(3)のいずれかに記載のリチウムイオン電池用電極組成物である。
【0048】
本開示(5)は、本開示(1)~(4)のいずれかに記載のリチウムイオン電池用電極組成物を圧縮成形してなるリチウムイオン電池用電極である。
【0049】
本開示(6)は、本開示(5)に記載のリチウムイオン電池用電極を備えるリチウムイオン電池である。
【実施例0050】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0051】
(製造例1:添加剤1の製造)
2-エチルヘキサノールに対してエチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)を付加させて、アルキルアルコールのアルキレンオキサイド付加物である添加剤1を製造した。表1には、AOの構成をEO/POと示した。AO平均付加モル数は、EOとPOの合計で9.5であり、EOのモル比率は92%であった。HLBは14.3であった。
【0052】
(製造例2-8:添加剤2-8の製造)
アルキルアルコールの種類、AOの構成、AO平均付加モル数、EO比率を表1に示すように変更した他は製造例1と同様にして添加剤2-8を製造した。
【0053】
(製造例9:添加剤9の準備)
EO平均付加モル数45のポリエチレングリコール(PEG)を添加剤9として準備した。
【0054】
(製造例10-13:添加剤10-13の製造)
製造例10、11では添加剤1と6を表2に示す重量比率で混合して添加剤10、11を製造した。
製造例12、13では添加剤2と7を表2に示す重量比率で混合して添加剤12、13を製造した。
【0055】
【0056】
【0057】
(製造例14-22:添加剤14-22の製造)
アルキルアルコールの種類、AOの構成、AO平均付加モル数、EO比率を表3に示すように変更した他は製造例1と同様にして添加剤14-22を製造した。
【0058】
【0059】
(実施例1-16、17-31、比較例1-3、4-8:電極の作製)
電極活物質、導電助剤及び増粘剤を表4又は表5の重量部に従って秤量し混合して混合物を得た。前記混合物に水3gと添加剤を追加し、遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}による撹拌を2000rpmで1分間行い、更に水2gを追加したのちに、あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで1分間行い、更にバインダ樹脂を表4又は表5に記載の重量部追加したのちに、あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで1分間行って負極活物質層用スラリーを作製した。
得られたスラリーを、大気中でワイヤーバーを用いて集電体(銅箔)の片面に塗布し、一晩ドラフト内で予備乾燥させた後、16mmφに打ち抜き、更に減圧下(1.3kPa)、100℃で30分間乾燥して、プレス機で狙いの電極密度(電極厚み)までプレスして電解液浸透性評価用負極を作製した。
また、乾燥条件を100℃で2時間以上乾燥させるように変更してクーロン効率評価用負極を作製した。
電極活物質としては黒鉛又はHC(ハードカーボン)を使用した。
導電助剤としてはAB(アセチレンブラック:デンカブラックLi100、デンカ(株)製)を使用した。
増粘剤としてはCMC(カルボキシメチルセルロース)を使用した。
バインダ樹脂としてはSBR(スチレンブタジエンゴム)を使用した。
【0060】
<電解液浸透性(電解液浸透時間)の評価>
作製した電解液浸透性評価用負極に電解液を50μL垂らし、電解液が電極にしみこむまでの時間(分)を測定した。しみこむまでの時間が短いほど浸透性に優れていることを示す。
電解液を電解液浸透性評価用負極に垂らすと、電解液を垂らした部分の色が濃くなる。電解液が電極にしみこむと色が元に戻るので、電解液浸透性評価用負極の色が元に戻るまでの時間を計測した。
測定結果を表4及び表5に示した。
電解液には、電解液1(EC/DEC=1/1(体積比)、LiPF6 1M)又は電解液2(EC/PC=1/1(体積比)、LiFSI 1.73M)を用い、浸透性を評価した。
ECはエチレンカーボネート、DECはジエチルカーボネート、PCはプロピレンカーボネートを示す。LiPF6は六フッ化リン酸リチウム、LiFSIはリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを示す。
【0061】
<充放電試験用電池の製造>
(正極の作製)
正極活物質としてのNCA(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末)90重量部、導電助剤としてのAB5.0重量部及びバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン5.0重量部を、NMP(N-メチルピロリドン)と混合して混合液(固形分濃度10重量%)を得た。前記混合液について遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}による撹拌を2000rpmで1分間行い正極活物質層用スラリーを作製した。
得られたスラリーを、大気中でワイヤーバーを用いて集電体{カーボンコートアルミ箔[商品名「カーボンコートアルミ箔」]、東洋アルミニウム(株)製}の片面に塗布し、一晩ドラフト内で予備乾燥させた後、16mmφに打ち抜き、100℃で2時間乾燥して、プレス機でプレスしてクーロン効率評価用正極を作製した。
【0062】
正極側から、クーロン効率評価用正極、セパレータ[商品名「#3501」、セルガード社製]、クーロン効率評価用負極をこの順に重ね合わせ、電解液1を注入したのち酸素が入らないように真空ラミネートし、充放電試験用電池としてのリチウムイオン電池を作製した。
【0063】
<充放電試験:初回クーロン効率の測定>
25℃下、充放電測定装置「HJ-SD8」[北斗電工(株)製]を用いて、以下の方法によりリチウムイオン電池の初回性能の評価を行った。
定電流定電圧充電方式(CCCVモードともいう)で0.05Cの電流で0.0Vまで充電した後0.0Vを維持した状態で電流値が0.0025Cになるまで充電した。10分間の休止後、0.05Cの電流で1.5Vまで放電した。
このとき充電した容量を[初回充電容量(mAh)]、放電した容量を[初回放電容量(mAh)]とした。
以下の式で初回クーロン効率を算出し、結果を表4及び表5に示した。
[初回クーロン効率(%)]=[初回放電容量]÷[初回充電容量]×100
【0064】
<レート特性の評価>
作製したリチウムイオン電池を25℃に設定した恒温槽(エスペック社製、PFU-3K)の内部に載置して調温し、その状態で充放電装置(北斗電工社製、HJ0501SM8A)を用いて当該電池に対して充電処理を施した。なお、この充電処理では、充電電流を0.05Cとし、CCCV充電(定電流・定電圧モード)にて終止電圧4.2Vまで充電を行った。その後、終止電圧2.5Vまで0.05Cでの定電流放電を行った。
【0065】
上記で初回充放電を行ったリチウムイオン電池に対し、2サイクル目の充放電処理を行った。この際、放電時のレートは0.1Cでの定電流放電とし、充電時のレートを2サイクル目は0.1C、3サイクル目は0.2C、4サイクル目は0.5C、5サイクル目は1.0Cとし、6サイクル目以降2.0、3.0、4.0と5.0Cまで繰り返した。各レートでの容量確認の際は、初回充放電同様0.05CでのCCCV充放電を行った。
レート特性の結果としては5.0C測定時の充電容量と放電容量の結果を表4及び表5に記載した(いずれも0.1C時の容量比(%)とした)。
充電容量と放電容量の対0.1C時の容量比の数値が高いほど、レート特定に優れる。
【0066】
【0067】
【0068】
表4及び表5から、各実施例の電極では、各比較例の電極に比べて電解液浸透時間が短く、初回クーロン効率が高く、レート特性に優れることが分かる。
例えば、同じ電極活物質及び電解液の系である、実施例3と比較例1を比べると、実施例3は電極密度が1.77g/ml、比較例1は電極密度が1.68g/mlであり、実施例3のほうが電極密度が高いが、電解液浸透時間は実施例3が1.25分、比較例1は40分であった。また、クーロン効率は実施例3が82%、比較例1は80%であった。