(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031782
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒、及びビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 31/20 20060101AFI20240229BHJP
C07C 69/76 20060101ALI20240229BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240229BHJP
【FI】
B01J31/20 Z
C07C69/76 A
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066675
(22)【出願日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2022135391
(32)【優先日】2022-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】重金 政之
(72)【発明者】
【氏名】佐野 浩介
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169AA11
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA27A
4G169BA27B
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4G169BE16B
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4G169BE33A
4G169BE33B
4G169BE37A
4G169CB07
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4G169DA04
4H006AA02
4H006AC23
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4H006BA47
4H006BC10
4H006BC19
4H006BJ50
4H006KA31
4H039CA41
4H039CD10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】フタル酸ジエステルから選択的に2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを生成する酸化カップリング反応を触媒し得るフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒を提供する。
【解決手段】パラジウム塩と、銅塩と、下記式(1)で表される2-ヒドロキシピリジン類と、を含む、フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒。式(1)中、R
1~R
4のうち、2つが一緒になって、環構造を形成していてもよく、環構造を形成しないR
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アルキル基、又はアリール基であり、環構造、並びにアルキル基及びアリール基上の任意の水素原子は、ハロゲン原子、水酸基、又はニトロ基に置換されていてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム塩と、銅塩と、下記式(1):
【化1】
[式(1)中、R
1~R
4のうち、2つが一緒になって、環構造を形成していてもよく、環構造を形成しないR
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アルキル基、又はアリール基であり、環構造、並びにアルキル基及びアリール基上の任意の水素原子は、ハロゲン原子、水酸基、又はニトロ基に置換されていてもよい。]
で表される2-ヒドロキシピリジン類と、を含む、フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒。
【請求項2】
分子状酸素の存在下、請求項1に記載のフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒を用いて、フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応を行う工程Aを含む、ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法。
【請求項3】
前記工程Aにおける酸化カップリング反応の反応温度が130℃以上200℃以下である、請求項2に記載のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法。
【請求項4】
前記ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルが、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを含む、請求項2に記載のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法。
【請求項5】
前記工程Aにおける酸化カップリング反応の反応時間をTAとし、
前記工程Aの前に、分子状酸素の存在下、前記2-ヒドロキシピリジン類を含まない触媒を用いて前記フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応を行う工程Bにおける酸化カップリング反応の反応時間をTBとした場合に、
関係式:0≦TB/(TA+TB)<0.8を満たす、請求項2に記載のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒、及びビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フタル酸ジエステルを、分子状酸素の存在下、パラジウム等を含む触媒を用いて酸化カップリングさせて非対称の構造を有する2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル(以下、「a-BPTT」と略記することもある。)を主たる生成物として製造する製造方法については、既にいくつかの例が知られている。
【0003】
特許文献1には、反応液中に有機パラジウム塩と有機銅塩とを存在させて、分子状酸素雰囲気中で、ベンゼン系の芳香族化合物を酸化カップリング反応させて、ビフェニル類を製造する方法が提案されている。この方法でフタル酸ジエステルを酸化カップリングすると、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル(以下、「s-BPTT」と略記することもある。)とa-BPTTとが生成されるが、s-BPTTとa-BPTTとのモル比(s-BPTT/a-BPTT)は29/71程度であり、副生成物であるs-BPTTの比率が高かった。
【0004】
特許文献2には、フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応により生成される2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの選択性を向上させる方法が提案されている。しかし、この方法では、反応開始後の経過に従って、反応液中にβージケトン類を連続もしくは断続的に補給することが必要であった。
【0005】
特許文献3には、反応液中にパラジウム塩と、有機銅塩と、窒素原子と酸素原子とによりパラジウム塩と錯体形成をする二座配位子化合物との存在下、分子状酸素が存在する雰囲気中で、フタル酸ジエステルのような置換基を有する芳香族化合物を酸化カップリング反応して、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルのような非対称置換ビフェニル類を選択的に得る方法が提案されている。しかし、反応温度が200℃である高温下で反応を行った場合であっても、生成物中のs-BPTTとa-BPTTの生成比(s-BPTT/a-BPTT)は、最低で8/92(モル比)となっている。また、反応温度が150℃である場合、高圧条件が必要であり、生成物中のs-BPTTとa-BPTTの生成比(s-BPTT/a-BPTT)は30/70(モル比)であり、副生成物であるs-BPTTの比率が高かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55-141417号公報
【特許文献2】特開昭61-106541号公報
【特許文献3】特開2003-113143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フタル酸ジエステルから選択的に2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを生成する酸化カップリング反応を触媒し得るフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒を提供することを目的とする。
また、本発明は、当該フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒を用いて、選択的に2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを製造し得る、ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、[1]パラジウム塩と、銅塩と、下記式(1):
【化1】
[式(1)中、R
1~R
4のうち、2つが一緒になって、環構造を形成していてもよく、環構造を形成しないR
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アルキル基、又はアリール基であり、環構造、並びにアルキル基及びアリール基上の任意の水素原子は、ハロゲン原子、水酸基、又はニトロ基に置換されていてもよい。]
で表される2-ヒドロキシピリジン類と、を含む、フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒である。
このように、パラジウム塩と、銅塩と、上記所定の構造を有する2-ヒドロキシピリジン類を含む触媒は、フタル酸ジエステルから非対称の構造を有する2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを選択的に生成する酸化カップリング反応を触媒することができる。
【0009】
また、本発明は、[2]分子状酸素の存在下、上記[1]のフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒を用いて、フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応を行う工程Aを含む、ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法である。
このように、上述した本発明のフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒を用いて、フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応を行えば、非対称の構造を有する2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを選択的に製造することができる。
【0010】
[3]上記[2]のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法において、前記工程Aにおける酸化カップリング反応の反応温度が130℃以上200℃以下であることが好ましい。
工程Aにおける酸化カップリング反応の反応温度が上記所定の範囲内であれば、反応バッチ当たりの生成物(a-BPTT)の収量を向上させることができる。
【0011】
[4]上記[2]又は[3]のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法において、前記ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルが、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを含み得る。
【0012】
[5]上記[2]~[4]の何れかのビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法において、前記工程Aにおける酸化カップリング反応の反応時間をTAとし、前記工程Aの前に、分子状酸素の存在下、前記2-ヒドロキシピリジン類を含まない触媒を用いて前記フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応を行う工程Bにおける酸化カップリング反応の反応時間をTBとした場合に、関係式:0≦TB/(TA+TB)<0.8を満たすことが好ましい。
工程Aにおける酸化カップリング反応の反応時間TAと、工程Aの前に2-ヒドロキシピリジン類を含まない触媒を用いてフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応を行う工程Bにおける酸化カップリング反応の反応時間TBとが上記所定の関係式を満たせば、反応バッチ当たりの生成物(a-BPTT)の収量を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フタル酸ジエステルから選択的に2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを生成する酸化カップリング反応を触媒し得るフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒を提供することができる。
また、本発明によれば、当該フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒を用いて、選択的に2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを製造し得る、ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒(以下、単に「触媒」と称する場合がある。)は、フタル酸ジエステルを酸化カップリングさせてビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを生成する酸化カップリング反応に用いることができる。
そして、本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法には、本発明の触媒が用いられる。具体的には、本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法は、本発明の触媒を用いて酸化カップリング反応を行う工程を含む。
【0015】
(フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒)
本発明の触媒は、パラジウム塩と、銅塩と、所定の構造を有する2-ヒドロキシピリジン類(以下、単に「2-ヒドロキシピリジン類」と称する場合がある。)とを含むことを特徴とする。そして、本発明の触媒は、フタル酸ジエステルを酸化カップリングさせてビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを生成する酸化カップリング反応を触媒することができる。特に、本発明の触媒は、フタル酸ジエステルを酸化カップリングさせて選択的に2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを生成する酸化カップリング反応を触媒することができる。
なお、本発明の触媒は、上述したパラジウム塩、銅塩、および2-ヒドロキシピリジン類以外の成分を更に含んでいてもよい。また、当然ながら、本発明の触媒は、上述したパラジウム塩、銅塩、および2-ヒドロキシピリジン類以外の成分を含まなくてもよい。
【0016】
<パラジウム塩>
本発明の触媒に含まれるパラジウム塩の具体例としては、例えば、塩化パラジウム、臭化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、水酸化パラジウム、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、ピバル酸パラジウム、トリフルオロメタンスルホン酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、及びビス(1,1,1-5,5,5-ヘキサフルオロアセチルアセトナト)パラジウム等を挙げることができる。なお、これらのパラジウム塩は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0017】
<銅塩>
本発明の触媒に含まれる銅塩の具体例としては、例えば、酢酸銅、プロピオン酸銅、ノルマルブチル酸銅、2-メチルプロピオン酸銅、ピバル酸銅、乳酸銅、酪酸銅、安息香酸銅、トリフルオロ酢酸銅、ビス(アセチルアセトナト)銅、ビス(1,1,1-5,5,5-ヘキサフルオロアセチルアセトナト)銅、塩化銅、臭化銅、沃化銅、硝酸銅、亜硝酸銅、硫酸銅、リン酸銅、酸化銅、水酸化銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅、パラトルエンスルホン酸銅、及びシアン化銅等を好適に挙げることができる。特に、ビス(アセチルアセトナト)銅は、フタル酸ジエステルへの溶解性が良いため、好適である。これらの銅塩は、無水物でも水和物でも、好適に用いることができる。なお、これらの銅塩は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明の触媒中の銅塩の含有量は、パラジウム塩の含有量に対して、好ましくは1倍モル以上であり、より好ましくは1.5倍モル以上であり、好ましくは8倍モル以下であり、より好ましくは6倍モル以下である。
【0019】
<2-ヒドロキシピリジン類>
本発明の触媒に含まれる2-ヒドロキシピリジン類は、下記式(1):
【化2】
[式(1)中、R
1~R
4のうち、2つが一緒になって、環構造を形成していてもよく、環構造を形成しないR
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アルキル基、又はアリール基であり、環構造、並びにアルキル基及びアリール基上の任意の水素原子は、ハロゲン原子、水酸基、又はニトロ基に置換されていてもよい。]
で表される。
【0020】
R1~R4のうちの2つが一緒になって形成する環構造としては、特に限定されず、例えば、単環構造又は多環構造である炭素環を含有する構造が挙げられる。
また、R1~R4のうちの2つが一緒になって形成する環構造は、例えば、芳香環を含有する構造(以下、「芳香環含有構造」と称することがある。)であってもよい。
R1~R4のうち2つが一緒になって形成される芳香環含有構造中の芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族炭化水素環が挙げられる。芳香環含有構造は、一つの芳香環のみを含んでいてもよく、複数の芳香環を含んでいてもよい。また、芳香環含有構造が複数の芳香環を有する場合、当該複数の芳香環は同じ種類の芳香環であってよく、異なる種類の芳香環であってもよい。
【0021】
R1~R4を構成し得るハロゲン原子、並びに、環構造、アルキル基、及びアリール基上の任意の水素原子を置換し得るハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子等が挙げられる。
【0022】
R1~R4を構成し得るアルキル基の炭素数は、特に限定されないが、例えば、1以上とすることができ、また、10以下とすることができ、8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、4以下であることが更に好ましく、1であることが特に好ましい。
R1~R4を構成し得るアルキル基は、アルキル基上の水素原子の少なくとも1つがハロゲン原子で置換されてなるハロアルキル基であることが好ましく、アルキル基上の全ての水素原子がハロゲン原子で置換されてなるパーハロアルキル基であることがより好ましく、メチル基上の全て(3つ)の水素原子がハロゲン原子で置換されてなるトリハロメチル基であることが更に好ましく、トリフルオロメチル基であることが特に好ましい。
【0023】
そして、R1~R4のうちいずれの2つも環構造を形成せず、R1~R4が、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アルキル基、又はアリール基であることが好ましい。
R1~R4のうちいずれの2つも環構造を形成しない場合、R1~R4のうち、少なくとも1つがハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アルキル基、又はアリール基であることが好ましい。特に、R1~R4のうち、少なくとも1つが、ハロゲン原子、ニトロ基、アルキル基、又はアリール基であることが好ましく、ニトロ基、又はアルキル基であることがより好ましく、ニトロ基であることが更に好ましい。
【0024】
本発明の触媒に含まれる2-ヒドロキシピリジン類の具体例としては、例えば、2-ヒドロキシピリジン、2-ヒドロキシ-3-(トリフルオロメチル)ピリジン、2-ヒドロキシ-4-(トリフルオロメチル)ピリジン、2-ヒドロキシ-5-(トリフルオロメチル)ピリジン、5-クロロ-2-ヒドロキシピリジン、5-ブロモ-2-ヒドロキシピリジン、2-ヒドロキシ-5-ニトロピリジン、及び2-ヒドロキシ-3,5-ジニトロピリジン等を挙げることができる。なお、これらの2-ヒドロキシピリジン類は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。特に、2-ヒドロキシ-5-ニトロピリジンは、反応を促進する効果が高いので好適である。
【0025】
本発明の触媒中の2-ヒドロキシピリジン類の含有量は、パラジウム塩の含有量に対して、好ましくは0.5倍モル以上であり、より好ましくは0.8倍モル以上であり、好ましくは5倍モル以下であり、より好ましくは3倍モル以下である。
【0026】
(ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法)
本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法は、分子状酸素の存在下、上述した本発明の触媒を用いて、フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応を行う工程Aを含むことを特徴とする。本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法によれば、上述した本発明の触媒を用いたフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応が行われるため、選択的に2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを製造することができる。
なお、本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法は、上述した工程A以外の工程(以下、「その他の工程」と称することがある。)を更に含んでいてもよい。
【0027】
<工程A>
工程Aでは、分子状酸素の存在下、上述した本発明の触媒を用いて、フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応を行い、ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを得る。即ち、工程Aでは、分子状酸素の存在下、パラジウム塩と、銅塩と、上述した所定の構造を有する2-ヒドロキシピリジン類とを含む触媒を用いて、フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応を行い、ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを得る。
【0028】
<<フタル酸ジエステル>>
工程Aで用いる反応原料としてのフタル酸ジエステルの具体例としては、フタル酸ジメチルエステル、フタル酸ジエチルエステル、フタル酸ジプロピルエステル、フタル酸ジブチルエステル、フタル酸ジオクチルエステル、及びフタル酸ジフェニルエステルなどを好適に挙げることができる。なお、これらのフタル酸ジエステルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらのフタル酸ジエステルは、フタル酸、フタル酸無水物、及びフタル酸ハロゲン化物等と、水酸基を有する化合物、例えば、低級脂肪族アルコール、芳香族アルコール、及びフェノール類等とを反応させて容易に得ることができる。
【0029】
<<触媒>>
触媒としては、上述した本発明の触媒を用いる。ここで、工程Aにおける本発明の触媒の使用量は、反応原料であるフタル酸ジエステルの使用量に対する本発明の触媒中のパラジウム塩の使用量を基準に調整することができる。具体的には、本発明の触媒中のパラジウム塩の使用量が、反応原料のフタル酸ジエステルの使用量に対して、通常1×10-4倍モル以上、好ましくは5×10-4倍モル以上、より好ましくは6×10-4倍モル以上、また、通常1×10-2倍モル以下、好ましくは5×10-3倍モル以下、より好ましくは2×10-3倍モル以下となるように、本発明の触媒の使用量を調整することができる。パラジウム塩の使用量が上記上限以下であれば、酸化カップリング反応における触媒回転数(TON)を十分に向上させることができる。一方、パラジウム塩の使用量が上記下限以上であれば、反応バッチ当たりの生成物(a-BPTT)の収量を向上させることができる。
【0030】
工程Aにおいて用いる分子状酸素は、純酸素ガスでもよいが、爆発の危険性を考慮すると、窒素ガスや炭酸ガスなどの不活性ガスで酸素含有量が約5体積%~50体積%程度まで希釈された酸素含有混合ガス、或いは空気を用いることが好ましい。また、例えば空気を用いる場合には、反応液1000ミリリットル当たり約1~20000ミリリットル/分、特に10~10000ミリリットル/分の供給速度で、反応混合液中に均一に行き渡るように供給することが好ましい。具体的な供給方法としては、例えば、反応混合液の液面に沿って分子状酸素含有ガスを流通させて気液接触させる方法、反応混合物の上部に設けられたノズルから前記ガスを噴出させて吹き込む方法、反応混合物の底部に設けられたノズルから前記ガスを気泡状で供給しその気泡を反応混合液中に流動させて気液接触させる方法、反応混合液の底部に設けられた多孔板から前記ガスを気泡状で供給する方法、或いは導管内に反応混合液を流動させその反応混合液に導管の側部から前記ガスを気泡状に噴出させる方法等を好適に挙げることができる。
【0031】
工程Aにおいて、反応溶媒を用いても構わないが、反応原料であるフタル酸ジエステルが反応条件下で液体のときは用いなくても構わない。工業的には実質的に反応溶媒を用いないことが好ましい。反応溶媒の具体例としては、例えば、エチレングリコールジアセテート、アジピン酸ジメチル等の有機エステル化合物;n-ブチルメチルケトン、メチルエチルケトン、イソプロピルエチルケトン等のケトン化合物などを好適に挙げることができる。
【0032】
工程Aにおける酸化カップリング反応の反応圧力は特に制限はなく、触媒や分子状酸素が規定の濃度範囲で反応系内に滞留できれば、減圧、常圧、加圧のいずれの条件でも差し支えない。通常は、設備や操作が簡便になるため、常圧が好ましい。
【0033】
工程Aにおける酸化カップリング反応の反応温度は、好ましくは130℃以上であり、より好ましくは140℃以上であり、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは180℃以下であり、更に好ましくは170℃以下であり、一層好ましくは160℃以下である。工程Aにおける酸化カップリング反応の反応温度が上記所定の範囲内であれば、反応バッチ当たりの生成物(a-BPTT)の収量を向上させることができる。
【0034】
また、工程Aにおける酸化カップリング反応の反応時間は、特に限定されることはなく、適宜調整することができるが、通常は1時間以上であり、好ましくは5時間以上であり、通常は20時間以下であり、好ましくは10時間以下である。
【0035】
<その他の工程>
本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法は、上述した工程A以外のその他の工程を更に含んでいてもよい。例えば、本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法は、その他の工程として、工程Aの後に、得られたビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを分離および精製する工程等を更に含んでいてもよい。
【0036】
<<工程B>>
また、本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法は、その他の工程として、工程Aの前に、分子状酸素の存在下、上述した所定構造を有する2-ヒドロキシピリジン類を含まない触媒を用いてフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応を行う工程Bを更に含んでいてもよい。例えば、本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法においては、上述した工程Aに先立って、分子状酸素の存在下、パラジウム塩と、銅塩とを含み、2-ヒドロキシピリジン類を含まない触媒を用いて、フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応を行う工程Bを実施した後、反応系に対して2-ヒドロキシピリジン類を更に添加することで、工程Aを更に実施してもよい。
【0037】
ここで、工程Bで用いる触媒としては、上述した所定の構造を有する2-ヒドロキシピリジン類を含まない限り、特に限定されないが、例えば、パラジウム塩と銅塩とを含む触媒を用いることができる。パラジウム塩および銅塩としては、「フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒」の項で上述した本発明の触媒中のパラジウム塩および銅塩と同じものを用いることができる。そして、工程Bで用いる触媒としては、2-ヒドロキシピリジン類を含まないこと以外は本発明の触媒と同じ組成の触媒を用いることもできる。工程Bで用いる触媒の使用量は、「工程A」の項で上述した範囲内で調整することができる。
工程Bにおけるフタル酸ジエステルとしては、「工程A」の項で上述したものを用いることができる。
工程Bにおける分子状酸素としては、「工程A」の項で上述したものを用いることができる。
工程Bにおける酸化カップリング反応の反応温度および反応圧力は、「工程A」の項で上述した範囲内で調整することができる。
【0038】
そして、上述した工程Aにおける酸化カップリング反応の反応時間をTAとし、工程Bにおける酸化カップリング反応の反応時間をTBとした場合に、下記の関係式:0≦TB/(TA+TB)<0.8を満たすことが好ましい。ここで、TB/(TA+TB)の値は、0.8未満であることが好ましく、0.7未満であることがより好ましく、0.5未満であることがさらに好ましく、0.3未満であることが特に好ましく、0.1未満であることが一層好ましい。TB/(TA+TB)の値が上記所定値未満であれば、反応バッチ当たりの生成物の収量を向上させることができる。
そして、反応バッチ当たりの生成物の収量を更に向上させる観点から、本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法は、TB/(TA+TB)の値が0であること、即ち、工程Bを含まないことが特に好ましい。本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法において、2-ヒドロキシピリジン類を含まない触媒を用いた事前の酸化カップリング反応を実施せず、パラジウム塩と銅塩と2-ヒドロキシピリジン類とを含む本発明の触媒を用いて酸化カップリング反応を開始することで、反応バッチ当たりの生成物の収量を更に向上させることができる。
【0039】
<ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル>
本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法により製造されるビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルは、主生成物として2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル(a-BPTT)を含有し、副生成物として少量の3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル(s-BPTT)を更に含有していてもよい。
具体的には、本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法により製造されるビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル中におけるs-BPTTとa-BPTTとのモル比(s-BPTT/a-BPTT)は、20/80以下であることが好ましく、15/85以下であることがより好ましく、10/90以下であることが更に好ましく、また、通常1/999以上である。
なお、本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法における工程A、即ち、本発明の触媒を用いた酸化カップリング反応により生成されるビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル中におけるs-BPTTとa-BPTTのモル比(s-BPTT/a-BPTT)も、上述した所定の範囲内であることが好ましい。
【0040】
本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法により製造されるビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル、および、これに含まれる2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル(a-BPTT)は、例えば、芳香族ポリイミドの原料として用いることができる。具体的には、ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを酸やアルカリ等で加水分解してビフェニルテトラカルボン酸を得る。該ビフェニルテトラカルボン酸を更に脱水することで得られたビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、芳香族ポリイミドの製造に用いることができる。
【実施例0041】
次に、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。尚、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
以下の実施例では、反応原料(フタル酸ジエステル)としてフタル酸ジメチルエステル(以下、「DMP」と略すこともある。)を用いて、酸化カップリング反応の生成物であるビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルエステル(以下、「BPTT」と略記することもある。)を製造した。転化率、およびカップリング収率は、DMPの仕込み量等を基準として、下記の計算式に従ってモル基準で算出した。触媒回転数(TON)は、下記の計算式に従ってモル基準で算出した。酸化カップリング反応の生成物であるBPTT中、異性体である3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルエステル(s-BPTT)と2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルエステル(a-BPTT)とのモル比(s-BPTT/a-BPTT;以下、「S/A」と略記することもある。)は、次の計算式に従って算出した。
【0043】
【0044】
[実施例1]
1000mLの四ツ口フラスコに、フタル酸ジエステルとしてのフタル酸ジメチル500g(2.57mol)を入れ、180℃まで昇温した。180℃到達後、常圧下で、空気を500mL/分でバブリングさせ、パラジウム塩としての酢酸パラジウム0.189g(0.842mmol、フタル酸ジエステルに対して3.28×10-4倍モル)、銅塩としてのビス(アセチルアセトナト)銅1.10g(4.20mmol、パラジウム塩に対して4.99倍モル)、2-ヒドロキシピリジン類としての2-ヒドロキシ-5-ニトロピリジン0.357g(2.55mmol、パラジウム塩に対して3.03倍モル)を同時に加えた。8時間反応後、ガスクロマトグラフィーによって各生成物を定量した。定量結果から、転化率、カップリング収率、TON、S/Aを算出した。結果を表1に示した。
【0045】
[実施例2]
1000mLの四ツ口フラスコに、フタル酸ジエステルとしてのフタル酸ジメチル500g(2.57mol)を入れ、140℃まで昇温した。140℃到達後、常圧下で、空気を500mL/分でバブリングさせ、パラジウム塩としての酢酸パラジウム0.378g(1.68mmol、フタル酸ジエステルに対して6.54×10-4倍モル)、銅塩としてのビス(アセチルアセトナト)銅0.880g(3.36mmol、パラジウム塩に対して2.00倍モル)、2-ヒドロキシピリジン類としての2-ヒドロキシ-5-ニトロピリジン0.236g(1.68mmol、パラジウム塩に対して1.00倍モル)を同時に加えた。8時間反応後、ガスクロマトグラフィーによって各生成物を定量した。定量結果から、転化率、カップリング収率、TON、S/Aを算出した。結果を表1に示した。
【0046】
[実施例3]
2-ヒドロキシピリジン類として、2-ヒドロキシ-5-ニトロピリジン1.68mmolの代わりに2-ヒドロキシ-3-(トリフルオロメチル)ピリジン1.68mmolを使用したこと以外は実施例2と同様にして酸化カップリング反応、およびガスクロマトグラフィーによる各生成物の定量を行い、各種値を算出した。結果を表1に示した。
【0047】
[実施例4]
2-ヒドロキシピリジン類として、2-ヒドロキシ-5-ニトロピリジン1.68mmolの代わりに2-ヒドロキシ-4-(トリフルオロメチル)ピリジン1.68mmolを使用したこと以外は実施例2と同様にして酸化カップリング反応、およびガスクロマトグラフィーによる各生成物の定量を行い、各種値を算出した。結果を表1に示した。
【0048】
[実施例5]
2-ヒドロキシピリジン類として、2-ヒドロキシ-5-ニトロピリジン1.68mmolの代わりに2-ヒドロキシ-5-(トリフルオロメチル)ピリジン1.68mmolを使用したこと以外は実施例2と同様にして酸化カップリング反応、およびガスクロマトグラフィーによる各生成物の定量を行い、各種値を算出した。結果を表1に示した。
【0049】
[実施例6]
2-ヒドロキシピリジン類として、2-ヒドロキシ-5-ニトロピリジン1.68mmolの代わりに5-クロロ-2-ヒドロキシピリジン1.68mmolを使用したこと以外は実施例2と同様にして酸化カップリング反応を、およびガスクロマトグラフィーによる各生成物の定量を行い、各種値を算出した。結果を表1に示した。
【0050】
[実施例7]
2-ヒドロキシピリジン類として、2-ヒドロキシ-5-ニトロピリジン1.68mmolの代わりに2-ヒドロキシピリジン1.68mmolを使用したこと以外は実施例2と同様にして酸化カップリング反応、およびガスクロマトグラフィーによる各生成物の定量を行い、各種値を算出した。結果を表1に示した。
【0051】
[実施例8]
1000mLの四ツ口フラスコに、フタル酸ジエステルとしてのフタル酸ジメチル500g(2.57mol)を入れ、140℃まで昇温した。140℃到達後、常圧下で、空気を500mL/分でバブリングさせ、パラジウム塩としての酢酸パラジウム0.378g(1.68mmol、フタル酸ジエステルに対して6.54×10-4倍モル)、銅塩としてのビス(アセチルアセトナト)銅0.880g(3.36mmol、パラジウム塩に対して2.00倍モル)を同時に加えた。6時間反応後、2-ヒドロキシピリジン類としての2-ヒドロキシ-5-ニトロピリジン0.236g(1.68mmol、パラジウム塩に対して1.00倍モル)を加え、さらに2時間反応させた。反応後、ガスクロマトグラフィーによって各生成物を定量した。定量結果から、転化率、カップリング収率、TON、S/Aを算出した。結果を表1に示した。
【0052】
[比較例1]
1000mLの四ツ口フラスコに、フタル酸ジエステルとしてのフタル酸ジメチル500g(2.57mol)を入れ、140℃まで昇温した。140℃到達後、常圧下で、空気を500mL/分でバブリングさせ、パラジウム塩としての酢酸パラジウム0.189g(0.842mmol)、銅塩としてのビス(アセチルアセトナト)銅1.08g(4.12mmol)、アセチルアセトン0.168g(1.67mmol)を加えた。反応開始から2時間ごとにアセチルアセトン0.168g(1.67mmol)を加えた(アセチルアセトンの添加量は合計1.67mol×5回=8.35mol)。8時間反応後、ガスクロマトグラフィーによって各生成物を定量した。定量結果から、転化率、カップリング収率、TON、S/Aを算出した。結果を表1に示した。
【0053】
[比較例2]
配位子として、2-ヒドロキシ-5-ニトロピリジン1.68mmolの代わりにピリジン1.68mmolを使用したこと以外は実施例2と同様にして酸化カップリング反応、およびガスクロマトグラフィーによる各生成物の定量を行い、各種値を算出した。結果を表1に示した。
【0054】
[比較例3]
配位子として、2-ヒドロキシ-5-ニトロピリジン1.68mmolの代わりにビピリジン0.84mmolを使用したこと以外は実施例2と同様にして酸化カップリング反応、およびガスクロマトグラフィーによる各生成物の定量を行い、各種値を算出した。結果を表1に示した。
【0055】
表1において、「TA」は、工程A(本発明の触媒を用いるフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応工程)における反応時間を意味し、「TB」は、工程B(本発明の触媒を用いないフタル酸時エステルの酸化カップリング反応工程)における反応時間を意味する。
【0056】
【0057】
表1より、パラジウム塩と、銅塩と、所定の構造を有する2-ヒドロキシピリジン類と、を含む触媒を用いた実施例1~8のフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応では、当該2-ヒドロキシピリジン類に代えてアセチルアセトンを含む触媒を用いた比較例1のフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応と比較して、カップリング収率が顕著に高く、非対称の構造を有する2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを選択的に生成し得ることが分かる。また、所定の構造を有する2-ヒドロキシピリジン類を含む触媒を用いた実施例1~8のフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応では、当該2-ヒドロキシピリジン類に代えて、所定の構造を有さないピリジン類を含む触媒を用いた比較例2、3のフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応と比較して、カップリング収率が顕著に高く、非対称の構造を有する2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを選択的に生成し得ることが分かる。
本発明によれば、フタル酸ジエステルから選択的に2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを生成する酸化カップリング反応を触媒し得るフタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒を提供することができる。
また、本発明によれば、当該フタル酸ジエステルの酸化カップリング反応用触媒を用いて、選択的に2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを製造し得る、ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法を提供することができる。