(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031801
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】防塵剤の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/08 20060101AFI20240229BHJP
C09K 3/22 20060101ALI20240229BHJP
C10L 5/32 20060101ALI20240229BHJP
G01N 13/02 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G01N3/08
C09K3/22 E
C10L5/32
G01N13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093675
(22)【出願日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2022134576
(32)【優先日】2022-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000156961
【氏名又は名称】関西熱化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 琢哉
(72)【発明者】
【氏名】西村 征洋
(72)【発明者】
【氏名】左海 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】北尾 政人
【テーマコード(参考)】
2G061
4H015
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB01
2G061BA01
2G061CA09
2G061CB01
2G061EA03
4H015AA10
4H015AA17
4H015AB01
4H015AB09
4H015BA01
4H015BA07
4H015CB01
(57)【要約】
【課題】 防塵剤自体の性能を適切に評価することが可能な防塵剤の評価方法を提供すること。
【解決手段】 評価対象となる防塵剤を準備する工程A、防塵剤から得られる膜の膜強度を引っ張り試験機により測定する工程B、表面張力計により測定される防塵剤の表面張力と、防塵剤を鏡面研磨した石炭に滴下して得られる接触角から、ぬれ仕事を求める工程C、及び、工程Bにより得られた膜強度が第1の所定値以上であり、且つ、工程Cにより得られたぬれ仕事が第2の所定値以上であるか否かを判定する工程Dを有する防塵剤の評価方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象となる防塵剤を準備する工程A、
前記防塵剤から得られる膜の膜強度を引っ張り試験機により測定する工程B、
表面張力計により測定される前記防塵剤の表面張力と、前記防塵剤を鏡面研磨した石炭に滴下して得られる接触角とから、ぬれ仕事を求める工程C、及び、
前記工程Bにより得られた膜強度が第1の所定値以上であり、且つ、前記工程Cにより得られたぬれ仕事が第2の所定値以上であるか否かを判定する工程D
を有することを特徴とする防塵剤の評価方法。
【請求項2】
前記第1の所定値は、0.14N/mm2であり、
評価用の炭として、性状が下記<炭Aの性状>の炭Aを用いた場合に、前記第2の所定値は、25mN/mであることを特徴とする請求項1に記載の防塵剤の評価方法。
<炭Aの性状>
ASH:9.1%
VM:21.8%
TS:0.49%
ギーセラーIST:420℃
ギーセラーMFT:468℃
ギーセラーMFD:314ddpm
ギーセラーlogMF:2.50logddpm
ギーセラーST:500℃
Ro:1.210%
TI:24.8%
ASH、VM、TS、ギーセラーIST、ギーセラーMFT、ギーセラーMFD、ギーセラーlogMF、ギーセラーST、Ro、TIは、下記を意味する。
ASH:石炭を空気中で加熱灰化した後に残留する灰の石炭全体に対する質量百分率(JIS M8812に規定されている)
VM:空気との接触を断って、既定の条件のもとで試料を加熱したときの、質量減少率から水分を差引いた値(JIS M 8812に従って測定できる。)
TS:石炭を酸素気流中で約1350℃に加熱し、全硫黄を酸化・ガス化し、これを過酸化水素水に捕集した後、水酸化ナトリウム標準溶液で滴定したときの、石炭全体に対する質量百分率(JISM8813に従って測定できる。)
ギーセラーIST:ギーセラープラストメータ法の軟化開始温度。かき混ぜ棒が連続的に動き始めて、1.0ddpmに達したときの温度。(JISM8801に従って測定できる。)
ギーセラーMFT:ギーセラープラストメータ法の最高流動度温度。かき混ぜ棒の動きが、最高に達したときの温度。(JISM8801に従って測定できる。)
ギーセラーMFD:ギーセラープラストメータ法の最高流動度。かき混ぜ棒の動きが最高に達したときの流動度。(JISM8801に従って測定できる。)
ギーセラーlogMF:ギーセラー最高流動度(ギーセラ-プラストメーターを使用する試験(JIS M8801にその詳細が規定されている石炭の加熱軟化溶融特性試験)において回転翼が最高回転数を示す値の対数値。原料石炭の粘結性を代表する指標。)ギーセラーMFDの常用対数。
ギーセラーST:ギーセラープラストメータ法の固化温度。かき混ぜ棒の動きが遅くなってきて、止まったときの温度。(JISM8801に従って測定できる。)
Ro:ビトリニット(主として植物の木質部に由来する微細組織)の反射率測定において、1個の研磨試料の50点以上の最大反射率の平均値。原料石炭の石炭化度を示すパラメーター。)
TI:イナート組織全量の石炭全体に対する体積割合(JIS M 8816に従って測定できる。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防塵剤の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石炭ヤードと呼ばれる石炭の貯蔵所においては、発塵の抑制のために樹脂を含む液(防塵剤)を散布し、石炭パイル(石炭たい積山)に樹脂膜を形成させている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような防塵剤の性能評価は、従来、一般的に、性能評価用の石炭のミニ山に防塵剤液を散布し、乾燥後、山中式硬度計で防塵剤散布部の土壌硬度を測定することと、防塵剤散布部の厚みを測定することとで実施されている。具体的に、山中式硬度計で防塵剤散布部の土壌硬度を測定することで防塵剤の強度を評価し、防塵剤散布部の厚みを測定することで防塵剤の浸透性を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、山中式土壌硬度計での測定では、ミニ山の石炭の水分、粒度、充填密度等の影響を受けた値となっており、防塵剤から得られる樹脂膜そのものの強度が測定されているとは言い難い。また、樹脂膜の厚みは、石炭の粒度等の影響を受け、測定箇所によってバラツキの大きい値になっている。そのため、防塵剤の性能を適切に評価できているとはいえないといった問題がある。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、防塵剤自体の性能を適切に評価することが可能な防塵剤の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、防塵剤の評価方法について鋭意研究を行った。その結果、防塵剤から得られる膜の膜強度と、防塵剤を鏡面研磨した石炭に滴下して得られる接触角から求まるぬれ仕事とを用いることにより、防塵剤自体の性能を適切に評価することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
[1]評価対象となる防塵剤を準備する工程A、
前記防塵剤から得られる膜の膜強度を引っ張り試験機により測定する工程B、
表面張力計により測定される前記防塵剤の表面張力と、前記防塵剤を鏡面研磨した石炭に滴下して得られる接触角とから、ぬれ仕事を求める工程C、及び、
前記工程Bにより得られた膜強度が第1の所定値以上であり、且つ、前記工程Cにより得られたぬれ仕事が第2の所定値以上であるか否かを判定する工程D
を有することを特徴とする防塵剤の評価方法。
【0009】
前記構成によれば、前記防塵剤から得られる膜の膜強度を引っ張り試験機により測定する(工程B)。このようにして得られる膜強度は、当該膜自体の強度の値である。
また、前記構成によれば、表面張力計により測定される前記防塵剤の表面張力と、防塵剤を鏡面研磨した石炭に滴下して得られる接触角とから、ぬれ仕事を求める(工程C)。このようにして得られるぬれ仕事は、鏡面研磨した石炭に対するぬれ仕事の値であり、測定値にバラツキは少ない。また、ぬれ仕事の値は、石炭への浸透性を直接評価できる値でもある。
そして、工程Dでは、前記工程Bにより得られた膜強度が第1の所定値以上であり、且つ、前記工程Cにより得られたぬれ仕事が第2の所定値以上であるか否かを判定する。
前記工程Bにより得られた膜強度が第1の所定値以上であれば、充分な強度を有すると判定できる。また、前記工程Cにより得られたぬれ仕事が第2の所定値以上であれば、適切な浸透性を有すると判定できる。
つまり、工程Dにおいて、前記工程Bにより得られた膜強度が第1の所定値以上であり、且つ、前記工程Cにより得られたぬれ仕事が第2の所定値以上であると判定された場合には、充分な強度を有し、且つ、適切な浸透性を有するため、防塵剤として使用可能と適切に評価することができる。
なお、前記工程Bにより測定する膜強度は、従来の山中式土壌硬度計を用いて測定していた土壌硬度に代替して測定する値であり、前記工程Cにより求めるぬれ仕事は、従来の防塵剤散布部の厚み測定に代替して測定する値である。
従来の山中式土壌硬度計を用いて測定する土壌硬度では、ミニ山の石炭の水分、粒度、充填密度等の影響を受けた値となっているため、膜自体の強度が適切に測定されているとはいえず、また、樹脂膜の厚みは、石炭の粒度等の影響を受け、測定箇所によってバラツキの大きい値となっていたため、防塵剤自体の性能を適切に評価できているとはいえなかった。一方、前記工程Bにより得られる膜膜強度は、当該膜自体の強度の値であり、前記工程Cにより得られるぬれ仕事は、測定値にバラツキが少なく且つ浸透性を直接評価できる値であるため、防塵剤として使用可能かを適切に評価することが可能となる。
【0010】
[2]前記第1の所定値は、0.14N/mm2であり、評価用の炭として、性状が下記<炭Aの性状>の炭Aを用いた場合に、前記第2の所定値は、25mN/mである[1]に記載の防塵剤の評価方法。
<炭Aの性状>
ASH:9.1%
VM:21.8%
TS:0.49%
ギーセラーIST:420℃
ギーセラーMFT:468℃
ギーセラーMFD:314ddpm
ギーセラーlogMF:2.50logddpm
ギーセラーST:500℃
Ro:1.210%
TI:24.8%
ASH、VM、TS、ギーセラーIST、ギーセラーMFT、ギーセラーMFD、ギーセラーlogMF、ギーセラーST、Ro、TIは、下記を意味する。
ASH:石炭を空気中で加熱灰化した後に残留する灰の石炭全体に対する質量百分率(JIS M8812に規定されている)
VM:空気との接触を断って、既定の条件のもとで試料を加熱したときの、質量減少率から水分を差引いた値(JIS M 8812に従って測定できる。)
TS:石炭を酸素気流中で約1350℃に加熱し、全硫黄を酸化・ガス化し、これを過酸化水素水に捕集した後、水酸化ナトリウム標準溶液で滴定したときの、石炭全体に対する質量百分率(JISM8813に従って測定できる。)
ギーセラーIST:ギーセラープラストメータ法の軟化開始温度。かき混ぜ棒が連続的に動き始めて、1.0ddpmに達したときの温度。(JISM8801に従って測定できる。)
ギーセラーMFT:ギーセラープラストメータ法の最高流動度温度。かき混ぜ棒の動きが、最高に達したときの温度。(JISM8801に従って測定できる。)
ギーセラーMFD:ギーセラープラストメータ法の最高流動度。かき混ぜ棒の動きが最高に達したときの流動度。(JISM8801に従って測定できる。)
ギーセラーlogMF:ギーセラー最高流動度(ギーセラ-プラストメーターを使用する試験(JIS M8801にその詳細が規定されている石炭の加熱軟化溶融特性試験)において回転翼が最高回転数を示す値の対数値。原料石炭の粘結性を代表する指標。)ギーセラーMFDの常用対数。
ギーセラーST:ギーセラープラストメータ法の固化温度。かき混ぜ棒の動きが遅くなってきて、止まったときの温度。(JISM8801に従って測定できる。)
Ro:ビトリニット(主として植物の木質部に由来する微細組織)の反射率測定において、1個の研磨試料の50点以上の最大反射率の平均値。原料石炭の石炭化度を示すパラメーター。)
TI:イナート組織全量の石炭全体に対する体積割合(JIS M 8816に従って測定できる。)
【0011】
前記第1の所定値が0.14N/mm2であり、前記第2の所定値が25mN/mであると、特に、石炭ヤードにおける発塵を防止するための防塵剤として使用できるか否かを好適に判定することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、防塵剤自体の性能を適切に評価することが可能な防塵剤の評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】防塵剤A~Dについて、縦軸を膜強度、横軸をぬれ仕事としてプロットしたグラフである。
【
図2】防塵剤A、防塵剤Cについて、炭A~炭Dを用いて測定したぬれ仕事を示すグラフである。
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
本実施形態に係る防塵剤の評価方法は、
評価対象となる防塵剤を準備する工程A、
前記防塵剤から得られる膜の膜強度を引っ張り試験機により測定する工程B、
表面張力計により測定される前記防塵剤の表面張力と、前記防塵剤を鏡面研磨した石炭に滴下して得られる接触角とから、ぬれ仕事を求める工程C、及び、
前記工程Bにより得られた膜強度が第1の所定値以上であり、且つ、前記工程Cにより得られたぬれ仕事が第2の所定値以上であるか否かを判定する工程D
を有する。
【0016】
<工程A>
本実施形態に係る防塵剤の評価方法においては、まず、評価対象となる防塵剤を準備する。評価対象となる防塵剤は、例えば、市販されている防塵剤を購入等して入手すればよい。一般的に、防塵剤は、樹脂と溶媒(分散液)とを含む。前記溶媒(分散液)は、通常、水である。
【0017】
<工程B>
次に、工程Aで準備した防塵剤から得られる膜の膜強度を引っ張り試験機により測定する。
具体的には、以下の手順にて膜強度を得る。
まず、樹脂濃度20%の防塵剤を容器に薄く広げ室温にて72時間乾燥させ、厚さ1~2mmの樹脂膜を得る。次に、幅1cm、長さ4~6cmにカットし、引張強度測定用の試料を得る。次に、試料の厚さを測定する。次に、試料の引張応力を引っ張り試験機を用いて測定する。その後、得られた引張応力を断面積で除し、単位面積当たりの引張応力を膜強度とする。引っ張り試験機による膜強度のより具体的な測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0018】
<工程C>
また、表面張力計により測定される前記防塵剤の表面張力と、前記防塵剤を鏡面研磨した石炭に滴下し、得られる接触角とから、ぬれ仕事を求める。ぬれ仕事の具体的な求め方は、実施例に記載の方法による。
【0019】
前記工程B、及び、前記工程Cを行う順番は特に限定されない。前記工程Bを先に行ってから前記工程Cを行ってもよく、前記工程Cを先に行ってから前記工程Bを行ってもよい。また、前記工程Bと前記工程Cとを別々に同時に行ってもよい。
【0020】
<工程D>
前記工程B、及び、前記工程Cの後、前記工程Bにより得られた膜強度が第1の所定値以上であり、且つ、前記工程Cにより得られたぬれ仕事が第2の所定値以上であるか否かを判定する。
工程Dにおいて、前記工程Bにより得られた膜強度が第1の所定値以上であり、且つ、前記工程Cにより得られたぬれ仕事が第2の所定値以上であると判定された場合には、充分な強度を有し、且つ、適切な浸透性を有するため、防塵剤として使用可能と適切に評価することができる。
従来の山中式土壌硬度計を用いて測定する土壌硬度では、ミニ山の石炭の水分、粒度、充填密度等の影響を受けた値となっているため、膜自体の強度が適切に測定されているとはいえず、また、樹脂膜の厚みは、石炭の粒度等の影響を受け、測定箇所によってバラツキの大きい値となっていたため、防塵剤自体の性能を適切に評価できているとはいえなかった。一方、前記工程Bにより得られる膜膜強度は、当該膜自体の強度の値であり、前記工程Cにより得られるぬれ仕事は、測定値にバラツキが少ないため、防塵剤として使用可能かを適切に評価することが可能となる。
【0021】
前記防塵剤の用途としては、石炭ヤードにおける発塵防止が挙げられる。発塵防止の対象となる石炭の用途は特に限定されず、コークス製造用、発電用等が挙げられる。
ただし、前記防塵剤の用途としては、石炭ヤードにおける発塵防止に限定されず、例えば、運動場や工事現場における発塵防止における発塵防止等が挙げられる。
【0022】
前記第1の所定値、及び、前記第2の所定値は、要求される防塵性能に応じて適宜設定すればよい。
前記第1の所定値は、0.14N/mm2であることが好ましく、より好ましくは0.19N/mm2である。
前記第2の所定値は、評価用の炭として、性状が下記<炭Aの性状>の炭Aを用いた場合に、25mN/mであることが好ましく、より好ましくは26mN/mである。
【0023】
<炭Aの性状>
ASH:9.1%
VM:21.8%
TS:0.49%
ギーセラーIST:420℃
ギーセラーMFT:468℃
ギーセラーMFD:314ddpm
ギーセラーlogMF:2.50logddpm
ギーセラーST:500℃
Ro:1.210%
TI:24.8%
【0024】
ASH、VM、TS、ギーセラーIST、ギーセラーMFT、ギーセラーMFD、ギーセラーlogMF、ギーセラーST、Ro、TIは、下記を意味する。
ASH:石炭を空気中で加熱灰化した後に残留する灰の石炭全体に対する質量百分率(JIS M8812に規定されている)
VM:空気との接触を断って、既定の条件のもとで試料を加熱したときの、質量減少率から水分を差引いた値(JIS M 8812に従って測定できる。)
TS:石炭を酸素気流中で約1350℃に加熱し、全硫黄を酸化・ガス化し、これを過酸化水素水に捕集した後、水酸化ナトリウム標準溶液で滴定したときの、石炭全体に対する質量百分率(JISM8813に従って測定できる。)
ギーセラーIST:ギーセラープラストメータ法の軟化開始温度。かき混ぜ棒が連続的に動き始めて、1.0ddpmに達したときの温度。(JISM8801に従って測定できる。)
ギーセラーMFT:ギーセラープラストメータ法の最高流動度温度。かき混ぜ棒の動きが、最高に達したときの温度。(JISM8801に従って測定できる。)
ギーセラーMFD:ギーセラープラストメータ法の最高流動度。かき混ぜ棒の動きが最高に達したときの流動度。(JISM8801に従って測定できる。)
ギーセラーlogMF:ギーセラー最高流動度(ギーセラ-プラストメーターを使用する試験(JIS M8801にその詳細が規定されている石炭の加熱軟化溶融特性試験)において回転翼が最高回転数を示す値の対数値。原料石炭の粘結性を代表する指標。)ギーセラーMFDの常用対数。
ギーセラーST:ギーセラープラストメータ法の固化温度。かき混ぜ棒の動きが遅くなってきて、止まったときの温度。(JISM8801に従って測定できる。)
Ro:ビトリニット(主として植物の木質部に由来する微細組織)の反射率測定において、1個の研磨試料の50点以上の最大反射率の平均値。原料石炭の石炭化度を示すパラメーター。)
TI:イナート組織全量の石炭全体に対する体積割合(JIS M 8816に従って測定できる。)
【0025】
前記第1の所定値が0.14N/mm2であり、前記第2の所定値が25mN/mであると、特に、石炭ヤードにおける発塵を防止するための防塵剤として使用できるか否かを好適に判定することが可能となる。
【0026】
前記第1の所定値が0.14N/mm2であり、前記第2の所定値が25mN/mであると、発塵量が一定以下に抑えられる。具体的に、下記発塵量の測定において、発塵量を0.01g以下とすることができ、実際の使用に耐え得る。
【0027】
ここで、前記第1の所定値が0.14N/mm2であることが好ましい理由について説明する。
一般的に石炭パイルは石炭の種類に関わらず、積み付け角度が40°になるように積まれて落ち着く。
防塵剤の樹脂膜は、この石炭パイルの斜面上に斜面に沿って形成される。防塵剤の樹脂膜は、石炭パイルと樹脂膜との間の摩擦力や、石炭パイルと樹脂膜との間の粘着力が存在するため、斜面に沿って樹脂膜全体が滑り落ちることはない。従って、防塵剤の樹脂膜が、外力によって引きちぎられなければ、石炭が樹脂膜の間から露出せず、発塵を防止することができる。
ここで、本発明者ら及び出願人の過去の経験的な実績、及び、想定から、本発明者らは、貯蔵所に置かれる石炭パイルの樹脂膜に加わる想定される外力の最大値は、横幅1mの樹脂膜の断面に、質量3kgの物体に働く重力(3kg×9.8m/s2=29.4N)と等しい力と設定した。つまり、この力以上の引張強度を有する樹脂膜であれば、想定される荷重に耐え得ることになる。
ここで、一般的、標準的に、石炭パイルに防塵剤の樹脂膜を形成する際には、パイルの表面1m2あたりに、樹脂濃度10%の防塵剤を2.5L散布して形成される。そこで、本実施形態では、このようにして形成される樹脂膜を基準にして、前記第1の所定値を以下のようにして決定した。
防塵剤の密度を水と同じ1.0kg/Lと仮定すると、パイルの表面1m2あたりの樹脂の重量は250gである(2.5L×1.0kg/L×10%=250g)。
ここで、防塵剤に使用される樹脂の密度は一般的、経験的に約1.1g/cm3のため、樹脂膜の密度は1.1g/cm3であるとした。そうすると、樹脂の体積は重量を密度で割って227cm3(250g÷1.1g/cm3=227cm3)となる。
227cm3の樹脂が1m2(10000cm2)に広がっているので、樹脂膜の厚さは計算により、0.0227cm(0.227mm)となる。この断面、すなわち、横100cm×厚さ0.227mmの部分に、質量3kgの物体に働く重力(29.4N)と等しい力が加わるとすると、単位面積当たりにかかる力は、(29.4N÷227mm2)より、約0.13N/mm2となる。
以上より、本実施形態では、前記第1の所定値について、0.14N/mm2が好ましい値と定めた。上述の通り、前記第1の所定値が0.14N/mm2であると、想定される外力により防塵剤の樹脂膜が引きちぎられる可能性が極めて低いため、石炭が樹脂膜の間から露出せず、発塵を防止することができる。
以上、前記第1の所定値が0.14N/mm2であることが好ましい理由について説明した。
【0028】
<発塵量の測定>
0.15mm篩下に粉砕した石炭試料200g(水分10%)を充填密度0.666g/cm3にて山状に成形したものに、樹脂濃度5%の防塵剤液(水溶液又は水分散液)を霧吹きを用いて30g散布し、乾燥させ、試験試料を得る。その後、試験試料に風速10m/sの風を5分間あて、試験試料の後ろに設置した水入りバットに補集された粉塵の重量を測定する。
【0029】
前記工程Dにおいては、先に、前記工程Bにより得られた膜強度が第1の所定値以上であるかを判定し、その後、前記工程Cにより得られたぬれ仕事が第2の所定値以上であるか否かを判定してもよく、先に、前記工程Cにより得られたぬれ仕事が第2の所定値以上であるか否かを判定し、その後、前記工程Bにより得られた膜強度が第1の所定値以上であるかを判定してもよい。また、前記工程Bにより得られた膜強度が第1の所定値以上であるか否かの判定と、前記工程Cにより得られたぬれ仕事が第2の所定値以上であるか否かの判定とを同時に行ってもよい。
なかでも、前記工程Dにおいては、先に、前記工程Bにより得られた膜強度が第1の所定値以上であるかを判定し、その後、前記工程Cにより得られたぬれ仕事が第2の所定値以上であるか否かを判定することが好ましい。膜強度が第1の所定値未満である場合、ぬれ仕事が高くても実際の使用に耐えることは通常あり得ない。そのため、まず、先に、膜強度が第1の所定値以上であるかを判定し、膜強度が第1の所定値以上であると判定した場合に、ぬれ仕事が第2の所定値以上であるか否かを判定することが好ましい。
【0030】
<工程E>
その後、必要に応じて、前記工程Bにより得られた膜強度が第1の所定値以上であり、且つ、前記工程Cにより得られたぬれ仕事が第2の所定値以上であると判定された防塵剤を石炭ヤードに散布する工程(工程E)を行う。工程Dにおいて、前記工程Bにより得られた膜強度が第1の所定値以上であり、且つ、前記工程Cにより得られたぬれ仕事が第2の所定値以上であると判定された防塵剤は、充分な強度を有し、且つ、適切な浸透性を有するため、当該防塵剤を実際に石炭ヤードに使用すれば、確実に発塵量を低減することができる。
【0031】
以上、本実施形態に係る防塵剤の評価方法について説明した。
【実施例0032】
以下、本発明に関し、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
4種類の防塵剤(防塵剤A~防塵剤D)を準備した。防塵剤A~防塵剤Dは、市販品であるが、樹脂が含まれていること以外、その他の組成等の詳細は明らかにされていない。
【0034】
評価用の炭として、性状が下記<炭Aの性状>の炭Aを準備した。なお、以下のぬれ仕事は、炭Aを用いて測定した。
<炭Aの性状>
ASH:9.1%
VM:21.8%
TS:0.49%
ギーセラーIST:420℃
ギーセラーMFT:468℃
ギーセラーMFD:314ddpm
ギーセラーlogMF:2.50logddpm
ギーセラーST:500℃
Ro:1.210%
TI:24.8%
【0035】
<膜強度の測定>
防塵剤A~防塵剤Dについて、膜強度を測定した。
具体的には、以下の手順にて膜強度を得た。
まず、樹脂濃度20%の防塵剤を容器に薄く広げ室温にて72時間乾燥させ、厚さ1~2mmの樹脂膜を得た。次に、幅1cm、長さ4~6cmにカットし、引張強度測定用の試料を得た。次に、試料の厚さをミツトヨ製のデジタルノギスを用いて測定した。次に、試料の引張応力を引っ張り試験機(オリエンテック社製のテンシロン万能試験機(RTC-1325A))を用いて測定した。その後、得られた引張応力を断面積で除し、単位面積当たりの引張応力を膜強度とした。5回測定した平均値を膜強度の値とした。結果を表1に示す。
【0036】
<ぬれ仕事>
防塵剤A~防塵剤Dについて、ぬれ仕事を求めた。
具体的には、まず、以下の手順にて表面張力を求め、次に、接触角を求めた。
【0037】
<表面張力の測定>
1.校正
まず、表面張力計(デュヌイ法表面張力計)を用い、純水とエタノール(キシダ化学製 純度99.5%)を、通常の使用方法で測定した。具体的には液面から白金製リングが離れる時のリングを吊っているアームのねじれ角度を測定した。次に、測定により得られた角度と、純水とエタノールの表面張力(文献値)を用いて検量線を作成した。純水とエタノールの表面張力(文献値)は、72.8mN/m(20℃)と22.5mN/m(20℃)をそれぞれ使用した。
2.測定
上記1.で用いた表面張力計を使用し、各防塵剤A~Dに対して上記1.と同様にねじれ角度を測定した。次に、得られた角度と前述の検量線とからそれぞれの防塵剤の表面張力を求めた。それぞれの防塵剤を5回測定し、その平均値を表面張力の値とした。
【0038】
<接触角の測定>
20~38mmの大きさの石炭を研磨して鏡面に仕上げたものを試料とした。具体的に、240番の研磨材で30秒、600番の研磨材で30秒、1000番の研磨材で30秒、2000番の研磨材で1分それぞれ研磨した。この時各番目で研磨面の様子を確認しながら必要であれば追加で研磨した。その後、アルミナ研磨剤とバフを使い研磨面を鏡面に仕上げた。
上記のように鏡面仕上げした石炭の試料に、樹脂濃度5%の防塵剤液を3μL滴下した。形成された液滴を球の一部として水平方向から撮影した画像の底辺xと高さyから、2*arctan(2*y/x)=θの式を用いて接触角θを算出した。
【0039】
次に、ぬれ仕事(W/ΔS)=γLGcosθの式を用いてぬれ仕事を求めた。ここで、Wは固体表面を液体がぬれるときのエネルギー変化、ΔSはぬれた面積、γLGは気液界面張力を意味する。
ぬれ仕事(W/ΔS)=γLGcosθの式は、以下のようにして導出した。
浸透現象は固体の隙間を液体が進むと考えられる。固体の表面を液体がぬれることで液面が進んでいく。固体表面を液体がぬれるときのエネルギー変化Wは、固気界面張力(γSG)と固液界面張力(γSL)の差とぬれた面積の積になる。従って、以下の式(a)で表せる。
W=(γSG-γSL)ΔS 式(a)
ここで、固気界面張力(γSG)と固液界面張力(γSL)は直接測定できないため間接的に導出する。固体平面上での液滴は、端部で固気界面張力(γSG)、固液界面張力(γSL)、気液界面張力(γLG)の3つの界面張力(エネルギー)が釣り合っている。従って、以下の式(b)で表せる。
γSG=γSL+γLGcosθ 式(b)
式(a)、式(b)より、W/ΔS=γLGcosθが導出される。
気液界面張力(γLG)として前記表面張力の測定の項で求めた値を用い、θとして前記接触角の測定の項で求めた値を用い、(W/ΔS)=γLGcosθの式から、ぬれ仕事を5回求め、5回の平均値をぬれ仕事の値とした。結果を表1に示す。
【0040】
<発塵量の測定>
0.15mm篩下に粉砕した石炭試料200g(水分10%)を充填密度0.666g/cm3にて山状に成形したものに、樹脂濃度5%の防塵剤(防塵剤A~D)を霧吹きを用いて30g散布し、乾燥させ、試験試料を得た。その後、試験試料に風速10m/sの風を5分間あて、試験試料の後ろに設置した水入りバットに補集された粉塵の重量を測定した。前記石炭試料として、市販されている炭Aを用いた。結果を表1に示す。
【0041】
図1は、防塵剤A~Dについて、縦軸を膜強度、横軸をぬれ仕事としてプロットしたグラフである。表1及び
図1より、膜強度が0.14N/mm
2以上であり、且つ、ぬれ仕事が25mN/m以上である防塵剤A、防塵剤B、防塵剤Dは、発塵量が0.01g以下であり、防塵性に優れるといえる。
【0042】
【0043】
<炭の種類の違いによる検証>
上記の実施例では、市販されている炭Aを用いて、ぬれ仕事と膜強度を測定し、防塵剤を評価した。以下、炭の種類に限らず、本評価方法を用いることが可能であることを検証した。
まず、炭Aとは異なる性状の炭B~炭Dを準備した。炭B~炭Dは、市販されている炭である。
炭A~炭Dの性状について、表2に示す。
【0044】
【0045】
次に、防塵剤A、防塵剤Cについて、炭B~炭Dを用いて、上記と同様にしてぬれ仕事を求めた。
結果を表3及び
図2に示す。なお、表3及び
図2には、炭Aについても値を示した。
図2中、各炭の左側の棒グラフが防塵剤Aであり、右側の棒グラフが防塵剤Cである。
【0046】
【0047】
表3及び
図2より、炭A~炭Dのいずれにおいても、防塵剤Aの方がぬれ仕事の値が大きい。このことは、本評価方法は、評価に用いる炭の種類に関係なく、防塵剤のぬれ仕事の大小関係が同じであることを意味する。つまり、本評価方法は、炭Aを用いて防塵剤を評価すれば、その評価結果は、他の炭に使用する防塵剤を評価する場合にも、適用することができる。