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特開2024-31803プレス成形解析方法、プレス成形品のプレス成形割れ判定方法、プレス成形品の製造方法、プレス成形解析装置、プレス成形解析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031803
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】プレス成形解析方法、プレス成形品のプレス成形割れ判定方法、プレス成形品の製造方法、プレス成形解析装置、プレス成形解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/00 20060101AFI20240229BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20240229BHJP
   G06F 113/22 20200101ALN20240229BHJP
【FI】
B21D22/00
G06F30/23
G06F113:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095254
(22)【出願日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2022132935
(32)【優先日】2022-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】岸上 靖廣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】荻原 裕樹
【テーマコード(参考)】
4E137
5B146
【Fターム(参考)】
4E137AA08
4E137AA21
4E137BA01
4E137BA02
4E137BA05
4E137BA06
4E137BB01
4E137BC01
4E137BC06
4E137BC09
4E137CB01
4E137EA02
4E137FA03
4E137FA24
4E137GA08
4E137GB03
5B146AA06
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146DJ15
(57)【要約】
【課題】有限要素法によって精度よくプレス成形解析することができるプレス成形解析方法、プレス成形割れ判定方法、プレス成形解析装置、プレス成形解析プログラムを提供する。また、プレス成形割れ判定方法を用いたプレス成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形解析方法は、ブランクモデルを作成するブランクモデル作成工程(S1)と、作成されたブランクモデルを用いてプレス成形解析を行うプレス成形解析工程(S2)と、を含み、ブランクモデル作成工程(S1)は、ブランクモデルを構成する有限要素メッシュを作成するブランクメッシュ作成工程(S1-1)と、前記有限要素メッシュを構成する有限要素を複数のグループにグループ分けするグループ分け工程(S1-2)と、グループ分けされた各グループの有限要素に、変形に関連する条件をグループごとに異なる設定とする変形条件設定工程(S1-3)と、を含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが各工程を実行する有限要素法によるプレス成形解析方法であって、
ブランクモデルを作成するブランクモデル作成工程と、作成されたブランクモデルを用いてプレス成形解析を行うプレス成形解析工程と、を含み、
前記ブランクモデル作成工程は、
ブランクモデルを構成する有限要素メッシュを作成するブランクメッシュ作成工程と、
前記有限要素メッシュを構成する有限要素を複数のグループにグループ分けするグループ分け工程と、
グループ分けされた各グループの有限要素に、変形に関連する条件をグループごとに異なる設定とする変形条件設定工程と、を含むことを特徴とするプレス成形解析方法。
【請求項2】
前記変形条件設定工程は、グループごとに機械的性質又は板厚を異なる設定とすることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形解析方法。
【請求項3】
前記変形条件設定工程は、グループごとに要素サイズを異なる設定とすることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形解析方法。
【請求項4】
前記変形条件設定工程は、グループごとに要素タイプを異なる設定とすることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形解析方法。
【請求項5】
機械的性質を異なる設定とする場合にあっては、設定する機械的性質の範囲を、ブランクとして適用する金属材の組織それぞれが持つ機械的性質のばらつきの範囲内とする、ことを特徴とする請求項2に記載のプレス成形解析方法。
【請求項6】
機械的性質を異なる設定とする場合にあっては、設定する機械的性質の範囲を、ブランクとして適用する金属材の機械的性質のばらつきの範囲内とする、ことを特徴とする請求項2に記載のプレス成形解析方法。
【請求項7】
ブランクとして適用する金属板の機械的性質の変動範囲を測定するブランク特性変動範囲測定工程を含み、該ブランク特性変動範囲測定工程において、ブランクとして適用する金属板の硬度分布を測定し、前記硬度分布に基づいて機械的性質のばらつきの範囲を決定する、ことを特徴とする請求項6に記載のプレス成形解析方法。
【請求項8】
前記ブランク特性変動範囲測定工程において、さらに、ブランクとして適用する金属板の表裏面の表面粗さを測定し、前記金属板の表面粗さに基づいて板厚の範囲を決定し、ブランクモデルを構成する有限要素メッシュの板厚を前記板厚の範囲でランダムに設定する、ことを特徴とする請求項7に記載のプレス成形解析方法。
【請求項9】
板厚を異なる設定とする場合にあっては、板厚を設定する場合において、板厚の範囲をブランクとして適用する金属材の板厚の±20%の範囲内とする、ことを特徴とする請求項2に記載のプレス成形解析方法。
【請求項10】
ブランクとして適用する金属板の板厚の範囲を測定するブランク特性変動範囲測定工程を含み、該ブランク特性変動範囲測定工程において、ブランクとして適用する金属板の表裏面の表面粗さを測定し、前記金属板の表面粗さに基づいて板厚の範囲を決定する、ことを特徴とする請求項9に記載のプレス成形解析方法。
【請求項11】
コンピュータが各工程を実行する有限要素法によるプレス成形解析方法であって、
ブランクモデルを作成するブランクモデル作成工程と、作成されたブランクモデルを用いてプレス成形解析を行うプレス成形解析工程と、を含み、
前記ブランクモデル作成工程は、
ブランクの形状を表す輪郭線の内側に複数の領域を設定する領域設定工程と、
設定された複数の領域ごとに、変形に関連する条件である要素サイズが異なる有限要素メッシュを作成するメッシュ作成工程と、を含むことを特徴とするプレス成形解析方法。
【請求項12】
設定する要素サイズの範囲を、ブランクとして適用する金属板の板厚の1/2以上とする、ことを特徴とする請求項3又は11に記載のプレス成形解析方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載のプレス成形解析方法を用いて、プレス成形品のプレス成形解析を行い、さらに、前記プレス成形品に用いる金属板の成形限界線図(FLD)に基づき、前記プレス成形品のプレス成形における割れの発生有無を判定するプレス成形割れ判定工程を含むことを特徴とする、プレス成形品のプレス成形割れ判定方法。
【請求項14】
プレス成形割れを抑制するプレス成形品の製造方法であって、プレス成形割れ判定工程と、プレス条件調整工程と、プレス成形品製造工程を含み、
前記プレス成形割れ判定工程は、請求項13記載のプレス成形割れ判定方法により、前記プレス成形品のプレス成形における割れの発生有無を判定し、
前記プレス条件調整工程は、前記割れ判定工程において割れの発生有りと判定された場合に、プレス成形品の全部位で割れの発生無し、と判定されるまで、プレス成形解析におけるブランク形状や金型形状を含むプレス成形条件を変更し、
プレス成形品製造工程は、前記プレス条件調整工程において、割れの発生なしと判定されたときのプレス成形解析のプレス成形条件で金属板をプレス成形してプレス成形品を製造すること、を特徴とするプレス成形品の製造方法。
【請求項15】
プレス成形品のプレス成形解析を行うプレス成形解析装置であって、
ブランクモデルを作成するブランクモデル作成部と、作成されたブランクモデルを用いてプレス成形解析を行うプレス成形解析部と、を含み、
前記ブランクモデル作成部は、
ブランクモデルを構成する有限要素メッシュを作成するブランクメッシュ作成部と、
前記有限要素メッシュを構成する有限要素を複数のグループにグループ分けするグループ分け部と、
グループ分けされた各グループの有限要素に、変形に関する条件として機械的性質、要素サイズ又は要素タイプをグループごとに異なる設定とする変形条件設定部と、を含むことを特徴とするプレス成形解析装置。
【請求項16】
プレス成形品のプレス成形解析を行うプレス成形解析装置であって、
ブランクモデルを作成するブランクモデル作成部と、作成されたブランクモデルを用いてプレス成形解析を行うプレス成形解析部と、を含み、
前記ブランクモデル作成部は、
ブランクの形状を表す輪郭線の内側に複数の領域を設定する領域設定部と、
設定された複数の領域ごとに、変形に関連する条件である要素サイズが異なる有限要素メッシュを作成するメッシュ作成部と、を含むことを特徴とするプレス成形解析装置。
【請求項17】
コンピュータを請求項15又は16に記載のプレス成形解析装置として機能させることを特徴とするプレス成形解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有限要素法によるプレス成形解析方法、該プレス成形解析方法を用いたプレス成形品のプレス成形割れ判定方法、該プレス成形割れ判定方法を用いたプレス成形品の製造方法、プレス成形解析装置及びプレス成形解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化による燃費向上、衝突安全性向上のニーズの高まりから、自動車車体における高張力鋼板の適用が拡大している。しかし、高張力鋼板はその延性の低さ故に、破断が生ずる等の成形性の低さが適用の課題とされている。例えば、高張力鋼を適用しても、成形により破断が生ずるような場合には、部品の形状変更が必要となることもあり、高張力鋼板適用の阻害要因となっている。この点、成形解析で事前に破断を予測できれば対処可能であり、成形解析による精度の高い予測技術が求められている。
【0003】
しかしながら、鋼板は様々な組織により構成されており、結晶粒の大きさ、方向も一律ではなく、鋼板内での変形は不均一な分布を持つため破断が予測できない事例がある。材料内の不均一変形の解析として、非特許文献1にはフェライトとマルテンサイトを含む鋼板内のボイドの生成を、結晶塑性有限要素解析を用いて予測した事例が記載されている。
また、非特許文献2にはアルミニウムの引張試験を結晶の方位を考慮した結晶塑性有限要素解析で検討した事例が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】米村 繁、“メゾスケールでの変形と破壊の有限要素解析、新日鉄住金技報、2018年、第410号、p.47-56
【0005】
【非特許文献2】吉田 健吾、“結晶塑性論を用いた金属薄板の成形シミュレーション、塑性と加工、日本塑性加工学会、2016年3月、第57巻、第662号、p.38-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1、2で適用されている結晶塑性有限要素解析は、使用する要素が非常に小さくなり、計算時間が膨大になるため、その適用は引張試験などの簡単な成形解析に限定されている。
【0007】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、金属板を用いたプレス成形において、有限要素法によって金属材料内の変形の不均一性を考慮でき、かつ、プレス成形品の割れを精度よく予測することができるプレス成形解析方法を提供することを目的としている。
また、プレス成形品の割れを精度よく判定できるプレス成形割れ判定方法、該プレス成形割れ判定方法を用いたプレス成形品の製造方法を提供することを目的としている。
さらに、有限要素法によって精度よくプレス成形解析することができるプレス成形解析装置及びプレス成形解析プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るプレス成形解析方法は、コンピュータが各工程を実行する有限要素法によるプレス成形解析方法であって、
ブランクモデルを作成するブランクモデル作成工程と、作成されたブランクモデルを用いてプレス成形解析を行うプレス成形解析工程と、を含み、
前記ブランクモデル作成工程は、
ブランクモデルを構成する有限要素メッシュを作成するブランクメッシュ作成工程と、
前記有限要素メッシュを構成する有限要素を複数のグループにグループ分けするグループ分け工程と、
グループ分けされた各グループの有限要素に、変形に関連する条件をグループごとに異なる設定とする変形条件設定工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0009】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記変形条件設定工程は、グループごとに機械的性質又は板厚を異なる設定とすることを特徴とするものである。
【0010】
(3)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記変形条件設定工程は、グループごとに要素サイズを異なる設定とすることを特徴とするものである。
【0011】
(4)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記変形条件設定工程は、グループごとに要素タイプを異なる設定とすることを特徴とするものである。
【0012】
(5)また、上記(2)に記載のものにおいて、機械的性質を異なる設定とする場合にあっては、設定する機械的性質の範囲を、ブランクとして適用する金属材の組織それぞれが持つ機械的性質のばらつきの範囲内とする、ことを特徴とするものである。
【0013】
(6)また、上記(2)に記載のものにおいて、機械的性質を異なる設定とする場合にあっては、設定する機械的性質の範囲を、ブランクとして適用する金属材の機械的性質のばらつきの範囲内とする、ことを特徴とするものである。
【0014】
(7)また、上記(6)に記載のものにおいて、ブランクとして適用する金属板の機械的性質の変動範囲を測定するブランク特性変動範囲測定工程を含み、該ブランク特性変動範囲測定工程において、ブランクとして適用する金属板の硬度分布を測定し、前記硬度分布に基づいて機械的性質のばらつきの範囲を決定する、ことを特徴とするものである。
【0015】
(8)また、上記(7)に記載のものにおいて、前記ブランク特性変動範囲測定工程において、さらに、ブランクとして適用する金属板の表裏面の表面粗さを測定し、前記金属板の表面粗さに基づいて板厚の範囲を決定し、ブランクモデルを構成する有限要素メッシュの板厚を前記板厚の範囲でランダムに設定する、ことを特徴とするものである。
【0016】
(9)また、上記(2)に記載のものにおいて、板厚を異なる設定とする場合にあっては、板厚を設定する場合において、板厚の範囲をブランクとして適用する金属材の板厚の±20%の範囲内とする、ことを特徴とするものである。
【0017】
(10)また、上記(9)に記載のものにおいて、ブランクとして適用する金属板の板厚の範囲を測定するブランク特性変動範囲測定工程を含み、該ブランク特性変動範囲測定工程において、ブランクとして適用する金属板の表裏面の表面粗さを測定し、前記金属板の表面粗さに基づいて板厚の範囲を決定する、ことを特徴とするものである。
【0018】
(11)本発明に係るプレス成形解析方法は、コンピュータが各工程を実行する有限要素法によるプレス成形解析方法であって、
ブランクモデルを作成するブランクモデル作成工程と、作成されたブランクモデルを用いてプレス成形解析を行うプレス成形解析工程と、を含み、
前記ブランクモデル作成工程は、
ブランクの形状を表す輪郭線の内側に複数の領域を設定する領域設定工程と、
設定された複数の領域ごとに、変形に関連する条件である要素サイズが異なる有限要素メッシュを作成するメッシュ作成工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0019】
(12)また、上記(3)又は(11)に記載のものにおいて、設定する要素サイズの範囲を、ブランクとして適用する金属板の板厚の1/2以上とする、ことを特徴とするものである。
【0020】
(13)本発明に係るプレス成形品のプレス成形割れ判定方法は、上記(1)乃至(12)のいずれかに記載のプレス成形解析方法を用いて、プレス成形品のプレス成形解析を行い、さらに、前記プレス成形品に用いる金属板の成形限界線図(FLD)に基づき、前記プレス成形品のプレス成形における割れの発生有無を判定するプレス成形割れ判定工程を含むことを特徴とするものである。
【0021】
(14)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、プレス成形割れを抑制するプレス成形品の製造方法であって、プレス成形割れ判定工程と、プレス条件調整工程と、プレス成形品製造工程を含み、
前記プレス成形割れ判定工程は、上記(13)記載のプレス成形割れ判定方法により、前記プレス成形品のプレス成形における割れの発生有無を判定し、
前記プレス条件調整工程は、前記割れ判定工程において割れの発生有りと判定された場合に、プレス成形品の全部位で割れの発生無し、と判定されるまで、プレス成形解析におけるブランク形状や金型形状を含むプレス成形条件を変更し、
プレス成形品製造工程は、前記プレス条件調整工程において、割れの発生なしと判定されたときのプレス成形解析のプレス成形条件で金属板をプレス成形してプレス成形品を製造すること、を特徴とするものである。
【0022】
(15)本発明に係るプレス成形解析装置は、プレス成形品のプレス成形解析を行うものであって、
ブランクモデルを作成するブランクモデル作成部と、作成されたブランクモデルを用いてプレス成形解析を行うプレス成形解析部と、を含み、
前記ブランクモデル作成部は、
ブランクモデルを構成する有限要素メッシュを作成するブランクメッシュ作成部と、
前記有限要素メッシュを構成する有限要素を複数のグループにグループ分けするグループ分け部と、
グループ分けされた各グループの有限要素に、変形に関する条件として機械的性質、要素サイズ又は要素タイプをグループごとに異なる設定とする変形条件設定部と、を含むことを特徴とするものである。
【0023】
(16)また、プレス成形品のプレス成形解析を行うプレス成形解析装置であって、
ブランクモデルを作成するブランクモデル作成部と、作成されたブランクモデルを用いてプレス成形解析を行うプレス成形解析部と、を含み、
前記ブランクモデル作成部は、
ブランクの形状を表す輪郭線の内側に複数の領域を設定する領域設定部と、
設定された複数の領域ごとに、変形に関連する条件である要素サイズが異なる有限要素メッシュを作成するメッシュ作成部と、を含むことを特徴とするものである。
【0024】
(17)本発明に係るプレス成形解析プログラムは、コンピュータを上記(15)又は(16)に記載のプレス成形解析装置として機能させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、金属板を用いたプレス成形において、金属材料内の変形の不均一性を考慮した適切なプレス成形解析ができるようになる。また、プレス成形時のプレス成形割れの判定精度を高めることができる。さらに、本発明のプレス成形解析の結果に基づいてプレス成形割れを判定し、割れ対策を施したプレス成形条件にてプレス成形を行うことで、プレス成形品の不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施の形態1に係るプレス成形解析方法の処理の流れを示すフロー図である。
図2】実施の形態1に係るプレス成形解析方法の他の態様の処理の流れを示すフロー図である。
図3】実施の形態2に係るプレス成形解析方法の処理の流れを示すフロー図である。
図4】実施の形態3に係るプレス成形解析方法の処理の流れを示すフロー図である。
図5】実施の形態4に係るプレス成形解析装置の構成を示すブロック図である。
図6】実施の形態4に係るプレス成形解析装置の他の態様の構成を示すブロック図である。
図7】実施例1で解析対象とした部品形状の説明図である。
図8】実施例1におけるブランクメッシュの説明図である。
図9】実施例1で解析対象とした部品と同形状の実部品のプレス成形後の状態の説明図である。
図10】実施例1の解析結果の説明図である。
図11】実施の形態1の他の態様に係るプレス成形解析方法の処理の流れを示すフロー図である。
図12】実施の形態2の他の態様に係るプレス成形割れ判定方法の処理の流れを示すフロー図である。
図13】実施の形態3の他の態様に係るプレス成形品の製造方法の処理の流れを示すフロー図である。
図14】実施例2で用いた金型の説明図である。
図15】実施例2の解析結果の説明図である。
図16】実施例2で解析対象とした部品と同形状の実部品のプレス成形後の状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[実施の形態1]
実施の形態の説明に先立って、発明に至った経緯について説明する。
発明者らは、金属材料内の変形の不均一を有限要素解析に再現させるにあたり、金属材料の変形について検討した。
【0028】
金属材料は、結晶のすべり変形方向がそろった結晶粒を単位とし、変形方向の異なる複数の結晶粒が集まって形成されており、結晶粒ごとの変形方向の差やその大きさの違いが、金属材料内の変形の不均一を発現させていると考えられる。金属材料内の変形の不均一性により、金属材料内には、ミクロ的にひずみの大きい部位と、ひずみの小さな部位とが混在して分布する。延性の大きい金属材料では破断までの変形量が大きいので、金属材料内の変形の不均一性により生じるひずみ分布は、金属材料全体のひずみに対して小さく、プレス成形品の割れには大きく影響しない。しかし、延性の低い高張力鋼板では、金属材料内の変形の不均一性により生じるひずみ分布が、金属材料全体のひずみに対して無視できない大きさとなり、プレス成形品の割れに影響する場合がある。
ここで金属材料の結晶粒の大きさは数十ミクロン程度であるのに対し、一般的にプレス成形解析に用いられる有限要素のメッシュサイズは数ミリ程度とはるかに大きく、結晶粒単体の変形に関連する条件を従来のプレス成形解析において再現するのは困難である。
【0029】
そこで、実際の金属材料の変形に関連する条件が、結晶粒の形状や大きさ、分布によって決定されることに着目し、有限要素法によるプレス成形解析において、有限要素メッシュをそれぞれ数ミリ程度の結晶粒の集合体と捉え、有限要素メッシュ毎に変形に関連する条件を取り扱う事とした。そして、変形に関連する条件について、従来は、全ての有限要素メッシュが均一な性質を有するものとして取り扱っていたが、有限要素メッシュ毎に不均一な性質を与えたプレス成形解析とすることで、有限要素メッシュの変形の不均一を生じさせ、金属材料内の変形の不均一に起因したプレス成形品の割れを再現できる、との着想を得るに至った。
そして、プレス成形解析を行うにあたり、ブランクを構成する有限要素メッシュをグループ分けして、変形に関連する条件をグループごとに異なる設定とすればよい、との知見を得た。
本発明はかかる知見に基づくものであり、具体的には以下の実施の形態に示すものである。
【0030】
本実施の形態に係るプレス成形解析方法は、コンピュータが各工程を実行する有限要素法によるものであって、図1に示すように、ブランクモデルを作成するブランクモデル作成工程(S1)と、作成されたブランクモデルを用いてプレス成形解析を行うプレス成形解析工程(S2)と、を含む。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0031】
<ブランクモデル作成工程>
ブランクモデル作成工程(S1)は、ブランクとなる金属板を有限要素によってモデル化したブランクモデルを作成する工程である。
ここで、金属部材とは、熱延鋼板、冷延鋼板、あるいは鋼板に表面処理(電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、有機皮膜処理等)を施した表面処理鋼板をはじめ、SUS、アルミニウム、マグネシウム等、各種金属類から構成される板でもよい。
【0032】
ブランクモデル作成工程(S1)は、ブランクメッシュ作成工程(S1-1)、グループ分け工程(S1-2)、及び変形条件設定工程(S1-3)を含む。
【0033】
《ブランクメッシュ作成工程》
ブランクメッシュ作成工程(S1-1)は、ブランクモデルを構成する有限要素メッシュを作成する工程である。
【0034】
《グループ分け工程》
グループ分け工程(S1-2)は、有限要素メッシュを構成する有限要素を複数のグループにグループ分けする工程である。
例えば、有限要素が1000個あった場合には、1000個の有限要素を、例えばA、B、Cの3つのグループに分ける。どの有限要素をどのグループに属させるかは任意に決定すればよい。
ブランクを構成する有限要素メッシュを複数のグループに分けるのは、金属材料内の変形の不均一を再現するために、グループごとに変形に関する条件を異なる設定とするためであり、グループ数は少なくとも2以上とすればよい。
【0035】
《変形条件設定工程》
変形条件設定工程(S1-3)は、グループ分けされた各グループの有限要素に、変形に関連する条件をグループごとに異なる設定とする。
ここで、変形に関連する条件の例としては、機械的性質、板厚、要素サイズ、要素タイプが挙げられる。
【0036】
機械的性質とは、降伏強度、引張強度、ひずみ硬化指数(n値)、塑性ひずみ比(r値)、摩擦係数、応力ひずみ関係などであり、プレス成形において変形のし易さ等の変形に関連する特性である。
板厚も変形に関連する条件であり、板厚が厚いと変形しにくく、薄いと変形しやすい。
また、有限要素法を用いた成形解析においては要素サイズ、要素タイプの違いによって算出される応力、ひずみが異なることから、要素サイズ及び要素タイプも変形に関連する条件となる。
要素タイプとしては形状として、三角形、四角形、積分方法として完全積分タイプ、選択低減積分タイプなどが挙げられる。
【0037】
なお、機械的性質を異なる設定とする場合にあっては、設定する機械的性質の範囲を、ブランクとして適用する金属材の組織それぞれが持つ機械的性質のばらつきの範囲内とするのが好ましい。
たとえば、フェライトとマルテンサイトを主とするデュアルフェーズ鋼の場合、フェライトの引張強さとして210~300Mpaの範囲内、マルテンサイトの引張強さとして1200~1800MPa範囲内で、それぞれのメッシュに設定する。
【0038】
また、設定する機械的性質の範囲を、ブランクとして適用する金属材の機械的性質のばらつきの範囲内とするのが好ましい。
たとえば、1180MPa級ハイテン材の場合、引張強さとして1180~1300Mpaの範囲内で、それぞれのメッシュに設定する。
【0039】
上記のように、機械的性質を異なる設定とする際に、実際の金属材の有する性質の範囲内とすることで、実際に使用する金属材に適合する解析結果を得ることができる。
【0040】
また、板厚を異なる設定とする場合にあっては、板厚の範囲をブランクとして適用する金属材の板厚の±20%の範囲内とするのが好ましい。例えば、金属材を冷延鋼板とする場合、JIS G 3141(冷間圧延鋼板および鋼帯)に示された厚さの許容差(表15、16)は最大±20%であり、この範囲内で板厚を異なる設定とすればよい。
【0041】
要素サイズを異なる設定とする場合にあっては、設定する要素サイズの範囲を、ブランクとして適用する金属板の板厚の1/2以上とするのが好ましい。シェル要素の定義では板厚に対して要素サイズが十分大きいことが求められているが、実際の解析では板厚の1/2程度までは使用されているので、この範囲内で要素サイズが異なる設定とすればよい。
【0042】
<プレス成形解析工程>
プレス成形解析工程(S2)は、作成されたブランクモデルを用いてプレス成形解析を行う工程である。
プレス成形解析では、金型モデルによってブランクモデルを目標形状に成形する際の変形状態の解析を行い、成形過程や成形下死点での応力、ひずみ、板厚等の解析結果を得る。
作成されたブランクモデルによる解析結果は、金属板の変形の不均一性を再現しており、実プレス成形の結果に近いものが得られる。
この点は、後述の実施例で示すように、本発明のブランクモデルを用いたプレス成形解析結果に基づく割れ判定を行うと、実プレス成形品に近い結果が得られる。これは、プレス成形解析結果が、実プレス成形に近い結果を再現していることを裏付けている。
【0043】
本実施の形態によれば、有限要素法を用いたプレス成形解析において、金属材料内の変形の不均一を考慮した適切な成形解析ができるようになる。これにより、プレス成形時のプレス成形割れの判定精度を高めることができる。
したがって、本発明のプレス成形解析の結果に基づいてプレス成形割れを判定し、割れ対策を施したプレス成形条件にてプレス成形を行うことで、プレス成形品の不良を抑制することができる。
【0044】
なお、上記の説明では、ブランクを構成する有限要素メッシュをグループ分けして、グループごとに変形に関連する条件を異なる設定とした。
しかし、変形に関連する条件が要素サイズの場合には、図2に示すように、ブランクモデル作成工程(S11)を以下の工程によって構成する態様でもよい。
すなわち、ブランクの形状を表す輪郭線の内側に複数の領域を設定する領域設定工程(S11-1)と、設定された複数の領域ごとに、変形に関連する条件である要素サイズが異なる有限要素メッシュを作成するメッシュ作成工程(S11-2)と、を含む態様。
【0045】
<実施の形態1の他の態様>
本実施の形態1の他の態様に係るプレス成形解析方法は、図11に示すように、本実施の形態1に係るプレス成形解析方法のブランクモデル作成工程(S1)の前に、ブランクとして適用する金属板の機械的性質の変動範囲、または、板厚の範囲を測定するブランク特性変動範囲測定工程(S0)と、を含む。
【0046】
そして、上記の実施の形態1のプレス成形解析方法のブランクモデル作成工程S1における変形条件設定工程(S1-3)において、機械的性質を異なる設定とする場合にあっては、ブランク特性変動範囲測定工程(S0)において、設定する機械的性質の範囲を、ブランクとして適用する金属板の硬度分布を測定し、測定した硬度分布に基づいて機械的性質のばらつきの範囲を決定する。
【0047】
たとえば、ブランクとして適用する金属板の硬度(ビッカース硬さHV)分布を測定する。ビッカース硬さHVは、引張強度の約1/3に相当することが知られており(例えば、JISハンドブック(1)鉄鋼I、日本規格協会編、SAE-J-417硬さ換算表)、ブランクとして適用する金属板から引張試験片(例えばJIS Z 2201)を採取できない場合でも、圧痕の中心間の距離は圧痕の対角線距離(20μm以上)の3倍以上とすればよく(例えばISO6507)、金属板のビッカース硬さHV分布に基づいて引張強度のばらつきの範囲を取得できる。
【0048】
また、上記の実施の形態1のプレス成形解析方法のブランクモデル作成工程S1における変形条件設定工程(S1-3)において、板厚を異なる設定とする場合にあっては、ブランク特性変動範囲測定工程(S0)において、設定する板厚の範囲を、ブランクとして適用する金属材の表裏面の表面粗さを測定し、測定した表面粗さに基づいて板厚の範囲を決定してもよい。たとえば、例えば、JIS B0601に定義される算術平均粗さRa、ISO25178に定義される算術平均高さSaを、ブランクとして適用する金属材の板厚の範囲として採用できる。
【0049】
また、ブランクとして適用する金属板の硬度分布を測定し、測定した硬度分布に基づいて機械的性質のばらつきの範囲を決定し、各グループに属する要素ごとに異なる引張強度を設定する場合に、さらにブランクとして適用する金属板の表裏面の表面粗さを測定し、前記金属板の表面粗さに基づいて板厚の範囲を決定し、ブランクモデルを構成する有限要素メッシュの板厚を、グループによらずに、前記板厚の範囲でランダムに設定しても良い。
【0050】
本実施の形態1の他の態様に係るプレス成形解析方法によれば、プレス成形品に成形するブランクとして適用する金属板の機械的性質(引張強度)の変動範囲、または、板厚の範囲を、実際にプレス成形品に成形するブランクとして適用する金属板の硬度分布や、金属板の表裏面の表面粗さの測定結果に基づいて決定するので、プレス成形品に成形するブランクとして適用する金属材料内の変形の不均一に起因したプレス成形品の割れの再現精度をより高めることができる。
【0051】
[実施の形態2]
上記の実施の形態1のプレス成形解析方法を実施し、その結果を用いることで、プレス成形品のプレス成形における割れの発生の有無を判定することができる。
具体的には、図3に示すように、ブランクモデル作成工程(S1、S11)と、プレス成形解析工程(S2)と、プレス成形割れ判定工程(S3)と、を含む。
ブランクモデル作成工程(S1、S11)及びプレス成形解析工程(S2)は、実施の形態1で説明した通りである。
プレス成形割れ判定工程(S3)は、プレス成形品に用いる金属板の成形限界線図(FLD)に基づき、前記プレス成形品のプレス成形における割れの発生有無を判定する。
【0052】
なお、多くの商用のCAE(Computer Aided Engineering)ソルバーにも、プレス成形シミュレーションで求めた結果を用いてFLDにより割れ発生の有無を判定する機能が実装されているので、かかる機能を利用することで、簡易にプレス成形における割れの発生の有無を判定することできる。
【0053】
<実施の形態2の他の態様>
実施の形態2の他の態様は、上記の実施の形態1の他の態様に係るプレス成形解析方法を実施し、その結果を用いることで、プレス成形品のプレス成形における割れの発生の有無を判定するプレス成形割れ判定方法に関するものである。
本実施の形態2の他の態様のプレス成形割れ判定方法は、図12に示すように、ブランク特性変動範囲測定工程(S0)と、ブランクモデル作成工程(S1、S11)と、プレス成形解析工程(S2)と、プレス成形割れ判定工程(S3)と、を含む。
ブランク特性変動範囲測定工程(S0)、ブランクモデル作成工程(S1、S11)及びプレス成形解析工程(S2)は、実施の形態1で説明した通りである。
【0054】
本実施の形態によれば、プレス成形品に成形するブランクとして適用する金属板の機械的性質(引張強度)の変動範囲、または、板厚の範囲を、実際にプレス成形品に成形するブランクとして適用する金属板の硬度分布や、金属板の表裏面の表面粗さの測定結果に基づいて決定するので、プレス成形品の割れの判定の精度をより高めることができる。
【0055】
[実施の形態3]
本実施の形態3は、実施の形態2のプレス成形割れ判定方法を利用してプレス成形品を製造する方法に関するものである。
本実施の形態3のプレス成形品の製造方法は、図4に示すように、ブランクモデル作成工程(S1、S11)と、プレス成形解析工程(S2)と、プレス成形割れ判定工程(S3)と、プレス条件調整工程(S4)と、プレス成形品製造工程(S5)を含む。
【0056】
ブランクモデル作成工程(S1、S11)とプレス成形解析工程(S2)は実施の形態1で説明した通りである。
また、プレス成形割れ判定工程(S3)は、実施の形態2のプレス成形割れ判定方法により、プレス成形品のプレス成形における割れの発生有無を判定する。
また、プレス条件調整工程(S4)は、割れ判定工程において割れの発生有りと判定された場合に、プレス成形品の全部位で割れの発生無し、と判定されるまで、プレス成形解析におけるブランク形状や金型形状を含むプレス成形条件を変更する。
【0057】
ダイ、パンチおよび板押さえ(ブランクホルダー)から構成されるプレス成形金型を用いて、プレス成形品を絞り成形する場合、板押さえ力、ダイ肩半径、パンチ肩半径、ダイ面と板押さえ面に接触するブランクの潤滑、などのプレス成形条件を変更する。
板押さえ力を変更することで、プレス成形中にブランクに作用する張力を最適化して割れの発生を解消できる。
【0058】
ダイ肩部やパンチ肩部では、ブランクは張力を受けながら曲げおよび曲げ戻し変形を受け、板厚減少が急激に促進され割れに至りやすい。このため、ダイ肩半径およびパンチ肩半径が大きくなるようプレス成形金型の形状を変更することで、ダイ肩部やパンチ肩部での割れを解消し、ダイ肩部やパンチ肩部を経由した材料流動を促進し、ダイ肩部やパンチ肩部の近傍に生じる割れを解消することもできる。
ダイ面と板押さえ面に接触するブランクを潤滑することにより、絞り限界が向上し、割れの発生を解消できる。
【0059】
また、プレス成形品製造工程(S5)は、プレス条件調整工程(S4)において、割れの発生無し、と判定されたときのプレス成形解析のプレス成形条件で金属板をプレス成形してプレス成形品を製造する。
プレス成形解析のプレス成形条件として板押さえ力を変更した場合、プレス成形機の空圧式ダイクッション(補助圧力装置)の空気圧の制御盤での設定値を変更し、金属板をプレス成形してプレス成形品を製造する。
【0060】
プレス成形解析のプレス成形条件としてプレス成形金型の形状を変更した場合、プレス成形解析に用いたプレス成形金型(モデル)の形状データを、NC工作機械と連携したCAD/CAMプログラムに入力し、NC加工用のNCデータ(NCプログラム)に変換する。なお、NC工作機械は、フルモールド鋳造法(消失模型鋳造法)により発泡スチロール製の鋳造用金型模型又は鋼材製金型を機械加工するものである。そして、NCデータ(NCプログラム)を用いて、NC工作機械により発泡スチロール製の鋳造用金型模型又は鋼材製金型を製作する。そして、形状を変更したプレス成形金型を用い、金属板をプレス成形してプレス成形品を製造する。
プレス成形解析のプレス成形条件として、ダイ面と板押さえ面に接触するブランクの潤滑を変更した場合、潤滑油の種類の変更(粘度増加、極圧添加剤の添加)、ポリエチレンフィルムなどの高分子フィルムの挿入を行い、金属板をプレス成形してプレス成形品を製造する。
【0061】
本実施の形態によれば、プレス成形割れを抑制したプレス成形品を製造することができる。
【0062】
<実施の形態3の他の態様>
本実施の形態3の他の態様に係るプレス成形品の製造方法は、図13に示すように、ブランク特性変動範囲測定工程(S0)を含むものであってもよい。ブランク特性変動範囲測定工程(S0)は、実施の形態1で説明した通りである。
【0063】
実施の形態3の他の態様によれば、プレス成形品に成形するブランクとして適用する金属板の機械的性質(引張強度)の変動範囲、または、板厚の範囲を、実際にプレス成形品に成形するブランクとして適用する金属板の硬度分布や、金属板の表裏面の表面粗さの測定結果に基づいて決定し、プレス成形品の割れの判定の精度をより高めることができるので、プレス成形割れをより抑制したプレス成形品を製造することができる。
【0064】
[実施の形態4]
本実施の形態は、実施の形態1におけるプレス成形解析方法を実行するプレス成形解析装置に関するものである。
図5に、本実施の形態に係るプレス成形解析装置1の構成の一例を示す。プレス成形解析装置1は、PC(パーソナルコンピュータ)等によって構成され、図5に示すように、表示装置3、入力装置5、記憶装置7、作業用データメモリ9及び演算処理部11を有している。
表示装置3、入力装置5、記憶装置7及び作業用データメモリ9は、演算処理部11に接続され、演算処理部11からの指令によってそれぞれの機能が実行される。
以下、本実施の形態に係る最適化解析装置1の各構成要素の機能を説明する。
【0065】
≪表示装置≫
表示装置3は、ブランクモデルや解析対象モデル、さらには解析結果等の表示に用いられ、液晶モニター等で構成される。
【0066】
≪入力装置≫
入力装置5は、ブランクモデルファイル13(図5)の読み出しや、ブランクモデルや解析対象モデルの表示等といった操作者による指示の入力等に用いられ、キーボードやマウス等で構成される。
【0067】
≪記憶装置≫
記憶装置7は、フランクモデルファイル13等の各種ファイルや解析結果の保存等に用いられ、ハードディスク等で構成される。
【0068】
≪作業用データメモリ≫
作業用データメモリ9は、演算処理部11が使用するデータの一時保存や演算に用いられ、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0069】
≪演算処理部≫
演算処理部11は、図5に示すように、ブランクモデル作成部15、プレス成形解析部17を備えている。そして、ブランクモデル作成部15は、ブランクメッシュ作成部19と、グループ分け部21と、変形条件設定部23とを含む。
演算処理部11の各部は、PC(パーソナルコンピュータ)のCPU(中央演算処理装置)が所定のプログラムを実行することで機能する。
以下、演算処理部11の各部の機能を説明する。
【0070】
<ブランクメッシュ作成部>
ブランクメッシュ作成部19は、ブランクモデルを構成する有限要素メッシュを作成する機能を有するものである。
【0071】
<グループ分け部>
グループ分け部21は、有限要素メッシュを構成する有限要素を複数のグループにグループ分けする機能を有するものである。
【0072】
<変形条件設定部>
変形条件設定部23は、グループ分けされた各グループの有限要素に、変形に関する条件として機械的性質、要素サイズ又は要素タイプをグループごとに異なる設定とする機能を有するものである。
【0073】
本実施の形態に係るプレス成形解析装置1によれば、実施の形態1で述べたのと同様に、有限要素法を用いたプレス成形解析において、金属材料内の変形の不均一を考慮した適切な成形解析ができるようになる。これにより、プレス成形時のプレス成形割れの判定精度を高めることができる。
【0074】
なお、変形に関連する条件が要素サイズの場合には、図6に示すプレス成形解析装置25のように、ブランクモデル作成部27を、領域設定部29とメッシュ作成部31とによって構成してもよい。
領域設定部29は、ブランクの形状を表す輪郭線の内側に複数の領域を設定する機能を有するものである。
また、メッシュ作成部31は、設定された複数の領域ごとに、変形に関連する条件である要素サイズが異なる有限要素メッシュを作成する機能を有するものである。
【0075】
[実施の形態5]
本実施の形態に係るプレス成形解析プログラムは、コンピュータを実施の形態4に示したプレス成形解析装置1、25として機能させるものである。
具体的には、プレス成形解析プログラムは、CPUによって実行されることによって、
ブランクモデル作成部15(ブランクメッシュ作成部19、グループ分け部21、変形条件設定部23)、プレス成形解析部17を機能させる。
また、他の態様として、プレス成形解析プログラムは、CPUによって実行されることによって、ブランクモデル作成部27(領域設定部29、メッシュ作成部31)として機能させる。
【実施例0076】
本発明の効果確認のシミュレーションを行ったので、以下に説明する。
図7に本実施例の対象とする部品33を示す。この部品33は、図7に示すように、天板部35と、天板部35の両側と縦壁部37と、縦壁部37の下端にフランジ部39と、を有し、天板部35が上凸に湾曲した形状になっている。また、両端部が下方に折り曲げられて、その下端に端部フランジ部41を有している。端部フランジ部41の幅は100mm、部品中央部の両縦壁部間の幅は60mm、部品中央部における天板部35と縦壁部37を繋ぐ稜線部のR(アール)は10mm(R10)となっている。
また、部品33の材質は冷延1180MPa級高張力鋼板で、板厚1.40mmである。
【0077】
従来のプレス成形解析で使用されるブランクメッシュを図8(a)に、本発明に係るブランクメッシュを図8(b)、図8(c)、図8(d)に示すと共に、各図に示した仕様を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
図8(a)に示すブランクメッシュは、全ての要素が同一であり、要素サイズは1.20mm、要素タイプは四角形完全積分シェル要素、板厚1.40mm、降伏応力886MPa、引張り強さ1234MPaとした。
【0080】
図8(b)に示すブランクメッシュは、ブランクメッシュを構成する要素を3つのグループに分け、各グループに属する要素ごとに異なる板厚又は引張り強さを設定し、他の設定条件は同一とした。具体的には、要素サイズは1.20mm、要素タイプは四角形完全積分シェル要素、板厚はグループごとに1.35mm、1.40mm、1.45mmの3種、降伏応力は886MPa、引張り強さは1234MPaとしたものをケース1とした。
また、要素サイズは1.20mm、要素タイプは四角形完全積分シェル要素、板厚は1.40mm、降伏応力は886MPa、引張り強さはグループごとに基準である1234Mpa、基準に対して-1%の1221MPa、基準に対して+1%の1246MPaの3種としたものをケース2とした。
【0081】
図8(c)に示すブランクメッシュは、四角形要素の一辺のサイズを0.70mmから1.80mmの間で任意に変化させ、要素タイプは四角形完全積分シェル要素、板厚1.40mm、降伏応力886MPa、引張り強さ1234MPaとした。実施例では、縦横1.20mmの均一のサイズで要素を作成したのち、要素サイズを変化させる範囲(グループ)の要素を構成する節点の座標を平面内の縦横それぞれ+0.30mm、-0.25mmの範囲で任意に移動させて、要素サイズを変化させた。
【0082】
図8(d)に示すブランクメッシュでは、ブランクメッシュを構成する要素を2つのグループに分け、各グループに属する要素ごとに要素タイプを異ならせ、他の設定条件は同一とした。
具体的には、要素サイズは1.20mm、要素タイプは四角形完全積分シェル要素と三角形完全積分シェル要素の2種類、板厚は1.40mm、降伏応力は886MPa、引張り強さは1234MPaとした。
【0083】
図7に示したものと同形状のプレス成形品を実際にプレス成形して製造した実プレス成形品43を図9に示す。図9に示すように、実プレス成形品43では、天板部45における部品33長手方向の中央付近に天板部45幅方向に割れが発生した。
【0084】
また、図8(a)のブランクメッシュからなるブランクを使用した従来の成形解析結果を図10(a)に示す。
また、図8(b)のブランクメッシュからなるブランクでのケース1の解析結果を図10(b-1)に、図8(b)のブランクメッシュからなるブランクでのケース2の解析結果を図10(b-2)に示す。
また、図8(c)のブランクメッシュからなるブランクでの解析結果を図10(c)に、図8(d)のブランクメッシュからなるブランクでの解析結果を図10(d)に示す。
図10の解析結果は、プレス成形解析の結果に基づいてFLDを用いた割れ判定を行い、図中に割れ発生箇所を黒色表示したものである。
【0085】
従来例の結果である図10(a)では割れ発生を示す黒色の線は現れていないが、発明例の結果である図10(b)~(d)では、いずれの場合でも天板部の中央付近に黒色の線が現れている。
このように、従来例では割れ発生を判定できないが、本発明例では割れ発生を判定でき、図9に示す実プレス成形品43に近い結果を得ることができた。
【実施例0086】
図7に示す実施例1と同じ形状の部品33を対象とし、板厚1.4mm、降伏応力1055MPa、引張強さ1470MPaの金属板をブランクとし、図14に示すプレス成形金型(図14(a)下型47、図14(b)上型49)を用いて、本実施の形態3に係るプレス成形品(部品33)を製造した。下型はパンチ47aと板押さえ47b(ブランクホルダー)から構成され、上型49はダイ49aから構成される。
【0087】
プレス成形解析で使用されるブランクメッシュの要素サイズは1.20mm、要素タイプは四角形完全積分シェル要素とし、図8(b)に示すようにブランクメッシュを構成する要素を3つのグループに分け、各グループに属する要素ごとに異なる引張り強さを設定した。
【0088】
各グループに属する要素ごとに設定する引張り強さの範囲を、ブランクとして適用する金属板のビッカース硬さHV分布を測定し、測定した硬度分布より決定した機械的性質のばらつきの範囲に基づいて設定した。
ビッカース硬さHVは、金属板の板幅方向全長を1mm間隔で測定し、圧子はJIS B 7725に規定するものを用い、試験力200g、試験力の保持時間10秒とした。ビッカース硬さHVの平均値に対するばらつき(1σ=3.8%)に基づき、引張り強さをグループごとに、基準1234MPa、基準に対して-7.6%(-2σ)の1141MPa、基準に対して+7.6%(=2σ)の1327MPaの3種類とした。
【0089】
また、ブランクとして適用する金属材の表裏面の表面粗さを測定し、ISO25178に定義される算術平均高さSaに基づいて、ブランク板厚の範囲を決定した。測定したSaの平均(Ave)が0.022mm、標準偏差(σ)が0.0018mmに基づき、板厚の範囲(表裏面の合計)を1.40mm±0.0025(=Ave+2σ)mmとし、ブランクを構成する有限要素メッシュの板厚を、各グループによらずに、ランダムに設定した。
【0090】
そして、プレス成形条件として板押さえ力(板押さえとダイの接触部に発生する力)を40tonとして、プレス成形解析を実施した。図15(a)に解析結果示す。図15(a)の解析結果は、プレス成形解析の結果に基づいてFLDを用いて割れ判定を行い、図中に割れ発生部位を黒線で表示したものである。
図16(a)に、図14のプレス成形金型を用いて金属板を上記のプレス成形条件で実際にプレス成形して製造した実プレス成形品を示す。図16(a)に示すように、実プレス成形品では、天板部における部品長手方向の中央付近に天板部幅方向に割れが発生した。
【0091】
続いて、プレス成形条件として板押さえ力を30tonとして、プレス成形解析を実施した。図15(b)に解析結果を示す。図15(b)の解析結果では、天板部における割れ発生部位が解消し、プレス成形品の全部位で割れの発生なし、と判定された。
【0092】
続いて、割れの発生なしと判定されたプレス成形解析のプレス成形条件として板押さえ力を30tonとなるように、プレス成形機の空圧式ダイクッション(補助圧力装置)の空気圧の制御盤での設定値を変更し、図14のプレス成形金型を用いて実際に金属板をプレス成形してプレス成形品を製造した。
図16(b)に、実プレス成形品を示す。図16(b)に示すように、実プレス成形品では、図15(b)の解析結果と同様に、天板部における部品長手方向の中央付近における天板板幅方向の割れを抑制することができた。
【0093】
以上のように、本発明を適用したブランクモデルによってプレス成形解析することで解析結果が実プレス成形品43に近いものにできることが実証された。
すなわち、本発明によりプレス成形時のプレス成形割れの判定精度を高めることができる。このため、本発明の成形解析の結果に基づいてプレス成形割れを判定し、割れ対策を施したプレス成形条件にてプレス成形を行うことで、プレス成形品の不良を抑制することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 プレス成形解析装置
3 表示装置
5 入力装置
7 記憶装置
9 作業用データメモリ
11 演算処理部
13 ブランクモデルファイル
15 ブランクモデル作成部
17 プレス成形解析部
19 ブランクメッシュ作成部
21 グループ分け部
23 変形条件設定部
25 プレス成形解析装置(他の態様)
27 ブランクモデル作成部(他の態様)
29 領域設定部
31 メッシュ作成部
33 部品
35 天板部
37 縦壁部
39 フランジ部
41 端部フランジ部
43 実プレス成形品
45 天板部
47 下型
47a パンチ
47b 板押さえ
49 上型
49a ダイ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16