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特開2024-31812微生物燃料電池用の電極の製造方法、微生物燃料電池用の電極、及び微生物燃料電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031812
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】微生物燃料電池用の電極の製造方法、微生物燃料電池用の電極、及び微生物燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20240229BHJP
   H01M 8/16 20060101ALI20240229BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H01M4/88 C
H01M8/16
H01M4/86 M
H01M4/86 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099681
(22)【出願日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2022132715
(32)【優先日】2022-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】田口 耕造
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 創一朗
【テーマコード(参考)】
5H018
【Fターム(参考)】
5H018AA07
5H018AS07
5H018BB16
5H018EE02
5H018EE05
5H018EE08
5H018HH01
5H018HH02
(57)【要約】
【課題】電極の強度を確保するのに適した製造方法を提供する。
【解決手段】開示の方法は、微生物燃料電池用の電極の製造方法であって、カーボン粒子を有する原料液体を、電極を形成するための型に注入し、前記型に注入された前記原料液体を、固化させることで、電極を得る、ことを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン粒子を有する原料液体を、電極を形成するための型に注入し、
前記型に注入された前記原料液体を、固化させることで、電極を得る、
ことを備える微生物燃料電池用の電極の製造方法。
【請求項2】
前記原料液体は、前記カーボン粒子がコロイド粒子として分散したコロイド溶液を含む
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記原料液体は、前記原料液体を固化させるためのバインダーを含む
請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料液体は、前記カーボン粒子を顔料として有するインクを含む
請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記インクは、墨汁である
請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記原料液体は、前記カーボン粒子よりも大きな粒子である骨材を更に含む
請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記骨材は、燻炭を含む
請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記原料液体は、銅を更に含む
請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記原料液体を固化させる前に、前記電極の端子となる部材の一部が、前記型に注入された前記原料液体に接触した状態にする
請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記型は、
第1方向に貫通した空間を囲むように形成された第1型と、
前記第1方向の両側の少なくともいずれか一方側において、前記空間を閉じるように前記第1型に接触する第2型と、
を備え、
前記原料液体を前記型に注入することは、前記第1型及び前記第2型によって囲まれる前記空間内に、前記原料液体を注入することであり、
前記製造方法は、前記原料液体が固化して得られた前記電極から、少なくとも前記第2型を離型することを更に備える
請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
前記電極は、前記電極の周縁が前記第1型によって支持された支持体付き電極として得られる
請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記第1型は、前記空間内に注入された前記原料液体に接触するように設けられた電極端子部材を備える
請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
カーボン粒子と燻炭の粒子とがバインダーによって固着されてなる微生物燃料電池用の電極。
【請求項14】
請求項13に記載の電極を備える微生物燃料電池。
【請求項15】
微生物燃料電池であって、
1又は複数のアノードと、
1又は複数のエアカソードと、
前記1又は複数のエアカソードを液に浮遊させるフロートを備える本体と、
を備え、
前記エアカソードは、一部が液面よりも上方の空気に接する第1面を有し、前記第1面における他の一部が前記液面よりも下方の液中に位置するように前記本体に支持されている、
微生物燃料電池。
【請求項16】
前記本体は、前記本体の内部に前記液面が形成されるように液が進入可能な内部空間を有し、
前記エアカソードは、前記第1面が、前記内部空間に形成された前記液面に接するように前記本体に支持されている、
請求項15に記載の微生物燃料電池。
【請求項17】
前記エアカソードは、前記第1面と前記第1面の反対面である第2面とを有するプレート状であり、
前記第2面は、一部が前記液面よりも上方の空気に接し、前記第2面における他の一部が前記液面よりも下方の液中に位置する
請求項15に記載の微生物燃料電池。
【請求項18】
前記本体は、前記本体の内部に前記液面が形成されるように液が進入可能な内部空間を有し、
前記エアカソードは、前記第1面と前記第1面の反対面である第2面とを有し、前記第1面及び前記第2面が、前記内部空間に形成された前記液面に接するように前記本体に支持されている、
請求項15に記載の微生物燃料電池。
【請求項19】
前記第1面における前記一部は、前記第1面における前記他の一部よりも、面積が大きい、
請求項15に記載の微生物燃料電池。
【請求項20】
前記第1面における前記一部は、前記本体に対して上方に突出するよう前記本体に支持されている
請求項15に記載の微生物燃料電池。
【請求項21】
前記1又は複数のエアカソードは、複数のエアカソードであり、
前記本体は、前記複数のエアカソードそれぞれ又は前記複数のエアカソードそれぞれが備える支持体が挿入される複数のスロットを備える
請求項15に記載の生物燃料電池。
【請求項22】
前記1又は複数のエアカソードは、複数のエアカソードであり、
前記本体は、前記複数のエアカソードを電気的に接続する配線を備える
請求項15に記載の微生物燃料電池。
【請求項23】
前記第1面は、上下方向に平行な面である
請求項15から請求項22のいずれか1項に記載の微生物燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微生物燃料電池用の電極の製造方法、微生物燃料電池用の電極、及び微生物燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、微生物燃料電池を開示している。微生物燃料電池は、微生物の代謝反応を利用して有機物である燃料を電気エネルギーに変換し、発電する装置である。微生物燃料電池は、電極として、アノード電極とカソード電極とを備えている。微生物燃料電池は、燃料としての有機物が微生物によって分解されるときに発生する電子をアノード電極にて回収し、アノード電極から外部回路を経由してカソード電極へ移動させる。また、アノード電極において発生したプロトンは、カソード電極へ移動した電子と酸素と反応して水を生じさせる。
【0003】
特許文献1の電極は、薄いシート材によって形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-117743号公報
【発明の概要】
【0005】
特許文献1のように電極がシート材によって形成されていると軽量化に有利である。しかし、比較的長期間、物理的な強度が求められる態様で電極が使用される場合には適さないことがある。
【0006】
したがって、電極の強度を確保するのに適した製造方法等が望まれる。
【0007】
本開示のある側面は、微生物燃料電池用の電極の製造方法である。開示の方法は、カーボン粒子を有する原料液体を、電極を形成するための型に注入し、前記型に注入された前記原料液体を、固化させることで、電極を得る、ことを備える。
【0008】
本開示の他の側面は、微生物燃料電池用の電極である。開示の電極は、カーボン粒子と燻炭の粒子とがバインダーによって固着されてなる。
【0009】
本開示の他の側面は、微生物燃料電池である。開示の微生物燃料電池は、前述の電極を備える。
【0010】
他の観点からみた微生物燃料電池は、1又は複数のアノードと、1又は複数のエアカソードと、前記1又は複数のエアカソードを液に浮遊させるフロートを備える本体と、を備える。前記エアカソードは、一部が液面よりも上方の空気に接する第1面を有し、前記第1面における他の一部が前記液面よりも下方の液中に位置するように前記本体に支持されている。
【0011】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、電極の製造手順を示す図である。
図2図2は、浮遊型微生物燃料電池の概略構成図である。
図3図3は、浮遊型微生物燃料電池の斜視図である。
図4図4は、浮遊型微生物燃料電池の分解組立図である。
図5図5は、フロートの説明図である。
図6図6は、カソード電極装置の支持体の説明図である。
図7図7は、アノード電極装置の支持体の説明図である。
図8図8は、土壌微生物燃料電池(垂直型)の概略構成図である。
図9図9は、微生物燃料電池の斜視図である。
図10図10は、微生物燃料電池の分解組立図である。
図11図11は、土壌微生物燃料電池(水平型)の概略構成図である。
図12図12は、土壌微生物燃料電池の斜視図である。
図13図13は、土壌微生物燃料電池の分解組立図である。
図14図14は、浮遊型微生物燃料電池の出力の電力密度-電流密度のグラフである。
図15図15は、微生物燃料電池の斜視図である。
図16図16は、微生物燃料電池の概略構成図ある。
図17図17は、微生物燃料電池の斜視図である。
図18図18は、微生物燃料電池の斜視図及び平面図である。
図19図19は、微生物燃料電池の斜視図である。
図20図20は、微生物燃料電池の斜視図及び使用状態を示す写真である。
図21図21は、電極装置及びその取り付けについての説明図である。
図22図22は、フロートへのカソード電極装置の組み立て図である。
図23図23は、フロートへのアノード電極装置の組み立て図である。
図24図24は、微生物燃料電池の斜視図及び使用状態を示す写真である。
図25図25は、微生物燃料電池の斜視図である。
図26図26は、微生物燃料電池の斜視図である。
図27図27は、実験Aの実験結果である。
図28図28は、実験Aの実験結果である。
図29図29は、実験Aの実験結果である。
図30図30は、実験Aの実験結果である。
図31図31は、実験Aの実験結果である。
図32図32は、実験Bの実験結果である。
図33図33は、微生物燃料電池の断面図である。
図34図34は、微生物燃料電池の一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1.微生物燃料電池用の電極の製造方法、電極、及び微生物燃料電池>
【0014】
(1)実施形態に係る方法は、微生物燃料電池用の電極の製造方法であって、カーボン粒子を有する液体を、電極を形成するための型に注入し、前記型に注入された前記液体を、固化させることで、電極を得る、ことを備える。実施形態に係る方法によれば、型に液体を注入し、固化させるというシンプルな操作によって、容易に電極を得ることができる。しかも、固化によって、硬い電極が得られるため、電極の強度を確保するのが容易である。型によって形成される電極の形状は、特に限定されないが、ブロック状であるのが好ましい。電極の厚さ(肉厚)の下限は特に限定されないが、例えば、3mm以上あるのが好ましく、5mm以上あるのがより好ましい。電極の厚さを十分に厚くすることで、電極の強度を高くすることができる。なお、電極の厚さの上限も特に限定されないが、例えば、20mm以下であるのが好ましく、15mm以下であるのがより好ましい。また、平面視における電極の形状も特に限定されず、例えば、矩形若しくはその他の多角形又は円形である。
【0015】
(2)前記原料液体は、前記カーボン粒子がコロイド粒子として分散したコロイド溶液を含むのが好ましい。
【0016】
(3)前記原料液体は、前記液体を固化させるためのバインダーを含むのが好ましい。
【0017】
(4)前記原料液体は、前記カーボン粒子を顔料として有するインクを含むのが好ましい。
【0018】
(5)前記インクは、墨汁であるのが好ましい。
【0019】
(6)前記原料液体は、前記カーボン粒子よりも大きな粒子である骨材を更に含むのが好ましい。
【0020】
(7)前記骨材は、燻炭を含むのが好ましい。
【0021】
(8)前記原料液体は、銅を更に含むのが好ましい。
【0022】
(9)前記原料液体を固化させる前に、前記電極の端子となる部材の一部が、前記型に注入された前記原料液体に接触した状態にするのが好ましい。
【0023】
(10)前記型は、第1方向に貫通した空間を囲むように形成された第1型と、前記第1方向の両側の少なくともいずれか一方側において、前記空間を閉じるように前記第1型に接触する第2型と、を備え、前記原料液体を前記型に注入することは、前記第1型及び前記第2型によって囲まれる前記空間内に、前記原料液体を注入することであり、前記製造方法は、前記液体が固化して得られた前記電極から、少なくとも前記第2型を離型することを更に備えるのが好ましい。
【0024】
(11)前記電極は、前記電極の周縁が前記第1型によって支持された支持体付き電極として得られるのが好ましい。
【0025】
(12)前記第1型は、前記空間内に注入された前記原料液体に接触するように設けられた電極端子部材を備えるのが好ましい。
【0026】
(13)実施形態に係る電極は、カーボン粒子と燻炭の粒子とがバインダーによって固着されてなる微生物燃料電池用の電極であり得る。
【0027】
(14)実施形態に係る微生物燃料電池は、前記電極を備え得る。
【0028】
(15)浮遊するエアカソードは、横置きより縦置きが有利である。かかる観点において、実施形態に係る微生物燃料電池は、1又は複数のアノードと、1又は複数のエアカソードと、前記1又は複数のエアカソードを液に浮遊させるフロートを備える本体と、を備え得る。前記エアカソードは、一部が液面よりも上方の空気に接する第1面を有し、前記第1面における他の一部が前記液面よりも下方の液中に位置するように前記本体に支持されているのが好ましい。
【0029】
(16)前記本体は、前記本体内部に前記液面が形成されるように液が進入可能な内部空間を有し得る。前記エアカソードは、前記第1面が、前記内部空間に形成された前記液面に接するように前記本体に支持されているのが好ましい。
【0030】
(17)前記エアカソードは、前記第1面と前記第1面の反対面である第2面とを有するプレート状であり得る。前記第2面は、一部が前記液面よりも上方の空気に接し、前記第2面における他の一部が前記液面よりも下方の液中に位置し得る。
【0031】
(18)前記本体は、前記本体内部に前記液面が形成されるように液が進入可能な内部空間を有し得る。前記エアカソードは、前記第1面と前記第1面の反対面である第2面とを有し、前記第1面及び前記第2面が、前記内部空間に形成された前記液面に接するように前記本体に支持され得る。
【0032】
(19)前記第1面における前記一部は、前記第1面における前記他の一部よりも、面積が大きいのが好ましい。
【0033】
(20)前記第1面における前記一部は、前記本体に対して上方に突出するよう前記本体に支持されているのが好ましい。
【0034】
(21)前記1又は複数のエアカソードは、複数のエアカソードであるのが好ましい。前記本体は、前記複数のエアカソードそれぞれ又は前記複数のエアカソードそれぞれが備える支持体が挿入される複数のスロットを備えるのが好ましい。
【0035】
(22)前記1又は複数のエアカソードは、複数のエアカソードであるのが好ましい。前記本体は、前記複数のエアカソードを電気的に接続する配線を備えるのが好ましい。
【0036】
(23)前記第1面は、上下方向に平行な面であるのが好ましい。
【0037】
<2.微生物燃料電池用の電極の製造方法、電極、及び微生物燃料電池の例>
【0038】
図1は、微生物燃料電池用の電極の製造方法の手順の一例を示している。電極を製造するには、まず、型11,12を組み立てる(ステップS11)。そして、型11,12内の空間40内に原料液体23を注入し(ステップS12)、注入された原料液体23を固化させる。原料液体は、固化することによって電極30になる(ステップS13)。型11,12を用いて原料液体を固化させることで、ブロック形状の電極30などの、所望の形状の電極30が得られる。固化によって、硬い電極30が得られるため、電極の強度を確保するのが容易であり、強度が必要とされるような態様での電極30の使用、又は、長期の安定性が必要とされるような態様での電極30の使用に好適である。とりわけ、ブロック形状の電極は、強固であり、有利である。
【0039】
図1に示す型11,12は、第1型11と第2型12とを備える。型11,12は、全体として、周壁と、周壁の下部を塞ぐ底部と、を備えており、周壁の上部に開口を有する。周壁と底部とに囲まれた内部空間40へ、上部開口から原料液体が入れることが可能である。図1において、周壁は、第1型11によって構成され、底部は、第2型12によって構成される。第1型11(上型11)は、図1の上下方向A(第1方向)に貫通した空間40を囲むように形成された筒状又は枠状の形状を有する。第2型12(下型12)は、周壁を構成する第1型11の下部開口を塞ぐように、第1型11の下部に外嵌されて、第1型11内の空間40を、下側において閉じる。なお、空間40の上側は、液体を入れた後に、図示しない他の部材によって、閉じられてもよいが、図1に示すように、空間40の上側は、開放状態とすることで、原料液体の乾燥を促進して固化に要する時間を短くすることができる。
【0040】
第2型12は、第1型11に対して着脱自在に構成されている。第2型12を第1型11の下部に装着することで、電極30を形成するための型11,12が組み立てられる。また、電極30を形成した後に、第2型12を第1型11から取り外すのを容易にするために、第2型12の型内面には、剥離シート13が配置される。剥離シート13は、型11,12の組み立ての際に、第1型11と第2型12との間に挟めばよい。なお、剥離シート13に替えて、第2型12の型内面に剥離剤が塗布されてもよい。
【0041】
原料液体の注入前に、第1型11内には、電極の端子となる部材20(電極端子部材20)が配置される。部材20は、固化した電極30内に埋設される埋設部21と、埋設部から、電極30外へ延びる延出部22と、を備える。部材20の一部である埋設部21が固化された電極30内に位置することで、部材20と電極30とを一体的な状態にすることができる。延出部22は、固化された電極30から延びて、電極外部の電気回路に接続するための端子となる。
【0042】
部材20は、金属などの導電性を有する材料によって構成されている。金属は、例えば、ステンレススチールである。部材20のうち、少なくとも埋設部21は、メッシュ形状に形成されている。メッシュは、上方から注入された原料液体に含まれる後述の骨材が、メッシュの目を通過できる程度の大きさを持つのが好ましい。なお、ここでは、一例として、部材20全体が、ステンレススチールメッシュによって構成され得る。
【0043】
端子となる部材20は、第1型11に対して、予め、取り付けられていてもよい。すなわち、部材20は、空間40内に注入された原料液体に接触するように、第1型11に設けられていてもよい。また、部材20は、第1型11とは分離して設けられていてもよい。分離して設けられた部材20は、原料液体が注入される前に、第1型11の空間40内の所定位置に位置決めされるように配置され得る。
【0044】
電極30を形成するための原料液体は、カーボン粒子を有する。カーボン粒子を有する原料液体を固化させることで、カーボン製の電極30を形成できる。原料液体は、カーボン粒子がコロイド粒子として分散したコロイド溶液を含み得る。原料液体を固化させるためのバインダーを含み得る。
【0045】
原料液体は、カーボン粒子を顔料として有するインクを含み得る。インクは、顔料としてのカーボン粒子がコロイド粒子として分散したコロイド溶液である。一般に、インクは、顔料とバインダーとを含む。インクに顔料として含まれるカーボン粒子は、例えば、カーボンブラックである。インクに含まれるバインダーは、塗膜形成の主要素となる結合剤である。バインダーは、天然樹脂又は合成樹脂を主体として構成される。ここでは、バインダーは、原料液体を固化させるために用いられる。インクは、入手が容易であるため、電極を容易に形成できる。
【0046】
インクは、例えば、墨汁である。墨汁は、非常に安価であり、電極を低コストで製造できる。墨汁は、顔料として煤又はカーボンブラックを有し、バインダーとして、膠又は合成樹脂を有する。
【0047】
原料液体は、好ましくは、骨材を含み得る。骨材は、例えば、カーボン粒子よりも大きな粒子である。骨材は、固化の際における原料液体全体の収縮を小さくして、ブロック形状の電極30を容易に製造するために有利である。また、骨材を用いることで、インクの量を少なくすることができる。さらに、骨材を用いることで、微生物燃料電池の出力も向上させることができる。
【0048】
骨材は、カーボン粒子よりも大きなカーボン粒子であるのが好ましい。この場合、骨材も電極として機能し得る。骨材は、燻炭を含むのが好ましい。燻炭の粒子は、骨材として好適である。燻炭は、もみ殻又は木屑を蒸し焼きにして炭化させたものである。燻炭は、安価であり、電極を低コストで製造できる。燻炭は、多孔性であり、微生物燃料電池用の電極材料として好適である。
【0049】
燻炭は、もみ殻燻炭であるのが好ましい。もみ殻燻炭は、非常に安価であり、電極を低コストで製造できる。また、もみ殻という廃棄物を、電極として有効活用できる。もみ殻は、例えば、イネのもみ殻(籾殻)であるのが好ましい。
【0050】
なお、燻炭は、原料液体に混合される前に、エッチングされるのが好ましい。エッチングによって、燻炭中のシリカが除去され、微生物燃料電池の出力を大きくすることができる。エッチングは、例えば、以下の手順によって行われる。まず、(1)、燻炭及びNaOHを精製水中で攪拌させる。例えば、3gの燻炭と2gのNaOHを80mlの精製水に入れて、100℃で24時間、攪拌させる。そして、(2)遠心分離機で、燻炭を取り出し、(3)取り出した燻炭を精製水に分散させた後、再び遠心分離で燻炭を取り出す。(4)取り出した燻炭を乾燥させる。乾燥は、例えば、60℃で、2日から3日間行われる。(5)乾燥後の燻炭を乳鉢ですり潰す。
【0051】
なお、骨材を構成するカーボン粒子は、燻炭の粒子に限られるものではなく、活性炭の粒子など、他のカーボンの粒子であってもよい。
【0052】
以下では、原料液体として、墨汁にもみ殻燻炭を分散させたものを例として説明する。また、原料液体としては、アノード用原料液体と、カソード用原料液体と、を用いる。アノード用原料液体は、アノードとなる電極を製造するための液体である。カソード用原料液体は、カソードとなる電極を製造するための液体である。
【0053】
アノード用原料液体は、一例として、0.5gの燻炭の粒子を、2.0mlの墨汁に分散させて得られる。カソード用原料液体は、一例として、1.3gの燻炭の粒子を、5.2gの銅墨汁に分散させて得られる。銅墨汁は、銅粉末を墨汁に分散させて得られる。銅墨汁は、一例として、1gの銅粉末を、30gの墨汁に分散させて得られる。カソードとなる電極が銅を含有することで、カソードに殺菌作用を与えることができる。カソードが殺菌作用を有することで、カソードにおける微生物の発生を抑えることができ、電極性能を向上させることができる。なお、カソードは、銅に替えて、又は加えて、銅以外の他の殺菌成分を有していてもよい。
【0054】
ステップS12において、組み立てられた型11,12内に、原料液体が注入される。注入された原料液体は、例えば、加熱することにより固化される。固化は、常温で放置することによって行われてもよいが、加熱によって固化を促進することができる。墨汁はバインダーを含有しているため、容易に固化する。固化は、例えば、60℃で乾燥することで行われる。乾燥は、例えば、3時間程度で足りる。また、固化は、熱湯(例えば、100℃)に型を浮かべて、放置することで行われてもよい。放置は、例えば、熱湯が冷めるまでの間でよく、冷めた後は、1日程度、自然乾燥するのが好ましい。
【0055】
原料液体は、少なくとも、型11内の埋設部21全体が浸漬するまで注入され得る。例えば、原料液体は、型11,12内の空間40が満杯になるまで流し込まれ得る。したがって、原料液体が型11,12内に注入されると、部材の一部(埋設部21)が、型11,12に注入された原料液体に接触した状態になる。なお、埋設部21は、空間40の底面(第2型12)に対して、ほぼ平行に配置される。
【0056】
例えば、アノードを形成するための型11,12の内部空間40が、平面視において矩形状であり、縦10mm×横10mm×深さ7mmである場合、約0.7mlのアノード用原料液体が、満杯になるまで流し込まれる。0.5gの燻炭の粒子を2.0mlの墨汁に分散させて得られたアノード用原料液体の場合、空間40内に、約0.16gの燻炭と0.66mlの墨汁が注入されることになる。
【0057】
また、カソードを形成するための型11,12の内部空間40が、平面視において矩形状であり、縦20mm×横20mm×深さ12mmである場合、約3.2mlのカソード用原料液体が、第2型12(底面)から8mmの高さまで流し込まれる。1.3gの燻炭の粒子を5.2の銅墨汁(墨汁30gと銅1g)に分散させて得られたカソード用原料液体の場合、空間40内に、約0.75gの燻炭と、2.93gの墨汁と、0.1gの銅と、が注入されることになる。
【0058】
型11,12内に注入された原料液体は、埋設部21の下方及び上方の双方に存在するため、固化した原料液体23(電極30)は、上下から埋設部21を挟み込んで強固に埋設部21を保持する。
【0059】
なお、型11,12の上側から注入された原料液体に含まれる骨材は、埋設部21のメッシュの目を通って、埋設部21の下方にも存在し得る。したがって、骨材は、固化した電極30全体において、ほぼ一様に分散した状態にある。
【0060】
注入された原料液体23が固化して電極30が得られると(ステップS13)、第2型12が離型される。すなわち、第2型12が、第1型11から取り外される。また、剥離シート13も除去される。第1型11は、原料液体23の固化(固着)に伴い、電極30に接着している。第1型11は、電極30の支持体として機能する。このように、図1の方法によれば、支持体11(支持体は、枠体と呼んでもよい)付の電極装置100が得られる。支持体11は、例えば、電極30の周縁を保護するため、電極30の強度を補って、電極30の耐久性を向上させることができる。
【0061】
また、図1の方法によれば、電極30に端子20が一体化されるため、端子22付の電極装置100が得られる。
【0062】
このように、図1の電極装置100は、電極と、電極の支持体と、端子22と、を一体的に備える電極装置である。
【0063】
図2から図7は、実施形態に係る電極30(電極装置100)を、浮遊型微生物燃料電池200(floating microbial fuel cell)に用いた例を示している。浮遊型微生物燃料電池200は、排水などの液体LBに浮かべて使用される。
【0064】
図2から図4に示すように、微生物燃料電池200は、アノード電極装置210とカソード電極装置220とを備える。アノード電極装置210は、アノード30Aと、アノード30Aの周縁でアノード30Aを支持する支持体211と、を備える。カソード電極装置220は、カソード30Bと、カソード30Bの周縁でカソードを支持する支持体221を備える。アノード30Aは、カソード30Bの下方に配置され、液中で浮遊する。
【0065】
アノード電極装置210は、前述の型11,12にアノード電極用原料液体を注入することで製造される。支持体211は、アノード30Aの製造時において、第1型11として用いられる。
【0066】
カソード電極装置220は、前述の型11,12にカソード電極用原料液体を注入することで製造される。支持体221は、カソード30Bの製造時において、第1型11として用いられる。なお、カソード30Bは、微生物の増殖を抑制するため銅を含有する。
【0067】
図4及び図6に示すように、カソード30Bの支持体221は、内側にカソード30Bが位置するようカソード30Bを支持する支持体本体221Aと、支持体本体221Aから外方に突出した突部221Bと、を備える。図示の支持体本体221Aは、矩形枠状である。支持体本体221Aは、内側にカソード30Bが形成される空間240を有する。突部221Bは、矩形枠状の支持体本体221Aにおける対向する2辺それぞれから、側方に突出している。
【0068】
微生物燃料電池200は、微生物燃料電池200に浮力を与えるためのフロート250を備える。フロート250は、例えば、カソード30Bの上面が液体LB上の空気に触れ、カソード30Bの下面が液体LBに触れるように、微生物燃料電池を浮かせる。したがって、カソード30Bは、空気中の酸素を利用するエアカソードとして機能する。
【0069】
図5に示すように、フロート250は、カソード電極装置220が挿入される挿入孔251を備える。挿入孔251は、フロート250(本体)の内部に形成された内部空間251である。挿入孔251は、支持体本体221Aが挿入される第1挿入部251Aと、突部221Bが挿入される第2挿入部251Bと、を備える。第1挿入部251Aは、例えば、支持体本体221Aが嵌め込まれるように支持体本体221Aに対応した矩形状である。第2挿入部251Bは、例えば、突部221Bが嵌め込まれる溝(スロット)である。この挿入孔にカソード電極装置220が挿入されることで、カソード電極装置220とフロート250とが一体化する。なお、図6は、カソード電極装置220が備える支持体221を示している。この支持体221は、カソードの形成のための第1型11として用いられる。
【0070】
図4及び図5に示すように、フロート250は、フロート250から下方に延びる脚230,230を備える。図4に示すように、アノード電極装置210は、脚230,230の下部に取り付けられる。アノード電極装置210は、脚230,230の下部に取り付けられていることで、その全体が、液体LB中に位置する。なお、図7は、アノード電極装置210備える支持体211を示している。この支持体211は、アノードの形成のための第1型11として用いられる。
【0071】
フロート250及び脚230,230は、微生物燃料電池200の本体を構成し得る。以上のように、微生物燃料電池200は、フロート250を備える本体250,230と、本体250,230に支持されるアノード30A(アノード電極装置210)と、本体250,230に支持されるカソード30B(カソード電極装置220)と、を備える。本体250,230には、1又は複数のアノード30A(アノード電極装置210)及び1又は複数のカソード30B(カソード電極装置220)が支持され得る。
【0072】
液体LB中の微生物は、液体LB中に含まれる有機物を分解する。有機物が微生物によって分解されるときに発生する電子e-は、アノード30Aで回収される。回収された電子e-は、アノード30Aから導線を経由してカソード30Bへ移動する。なお、アノード30Aではプロトン(H+)が発生する。プロトンは、液中においてカソード30B側へ移動し、アノード30Aからカソード30Bへ移動した電子e-、及び、空気中の酸素と反応して、水を生じさせる。
【0073】
電子e-の移動と反対方向に、カソード30Bからアノード30Aに向かう電流が生じる。負荷(Load)では、発生した電気エネルギーを利用して動作することができる。
【0074】
図8から図10は、実施形態に係る電極30(電極装置100)を、土壌微生物燃料電池300に用いた例を示している。土壌微生物燃料電池300は、土壌中に含まれる有機物を用いた微生物燃料電池である。土壌微生物燃料電池300では、アノードが、土壌中に配置され、土壌中の有機物と微生物によって発電がおこなわれる。なお、図8から図10に示す土壌微生物燃料電池を、「垂直型」といい、後述の図11から図13に示す土壌微生物燃料電池を「水平型」という。垂直型では、アノードの表面が土壌中で垂直に配置される。垂直型では、電極厚さ方向が、水平になる。水平型では、アノードの表面が土壌中で水平に配置される。水平型では、電極厚さ方向が、垂直になる。なお、土壌は水(液)の下にあるため、水(液)を含んでいる。したがって、土壌が存在する範囲も液中とみなし得る。
【0075】
図8から図10に示すように、微生物燃料電池300は、アノード電極装置310とカソード電極装置320とを備える。アノード電極装置310は、アノード30Aと、アノード30Aの周縁でアノード30Aを支持する支持体311と、を備える。
【0076】
アノード電極装置310は、前述の型11,12にアノード電極用原料液体を注入することで製造される。支持体311は、アノード30Aの製造時において、第1型11として用いられる。
【0077】
カソード電極装置320は、前述の型11,12にカソード電極用原料液体を注入することで製造される。支持体321は、カソード30Bの製造時において、第1型11として用いられる。なお、カソード30Bは、微生物の増殖を抑制するため銅を含有する。
【0078】
支持体321は、カソード30Bに浮力を与えるためのフロート(フローティングボード)として機能する。支持体321は、枠体330(電池本体330)に対して、上下動自在に設けられており、カソード30Bの上面が空気に触れ、カソード30Bの下面が、土壌上の水に触れるように、カソード30Bを浮かせる。したがって、カソード30Bは、空気中の酸素を利用するエアカソードとして機能する。
【0079】
図9及び図10に示すように、枠体330は、カソード電極装置320を、その内部で上下動自在となるように保持する。したがって、カソード電極装置320は、水面に浮くことができる。
【0080】
図9及び図10に示すように、枠体330の下部には、アノード電極装置310が取り付けられる。アノード電極装置310は、アノード30Aの面が垂直になるように、枠体330から下方に向けて取り付けられる。また、アノード電極装置310の支持体311の下部には、土壌への差し込みを容易にするため、下方先細り状の先端部312が取り付けられる。
【0081】
土壌中の微生物は、土壌中に含まれる有機物を分解する。有機物が微生物によって分解されるときに発生する電子e-は、アノード30Aで回収される。回収された電子e-は、アノード30Aから導線を経由してカソード30Bへ移動する。なお、アノード30Aではプロトン(H+)が発生する。プロトンは、アノード30Aからカソード30Bへ移動した電子e-、及び、酸素と反応して、水を生じさせる。
【0082】
電子e-の移動と反対方向に、カソード30Bからアノード30Aに向かう電流が生じる。負荷(Load)では、発生した電気エネルギーを利用して動作することができる。
【0083】
図11から図13は、実施形態に係る電極30(電極装置100)を、土壌微生物燃料電池400に用いた例を示している。土壌微生物燃料電池400の構成は、アノード電極装置の配置を除くと、土壌微生物燃料電池300とほぼ同様である。
【0084】
図11から図13に示すように、微生物燃料電池400は、アノード電極装置410とカソード電極装置420とを備える。アノード電極装置410は、アノード30Aと、アノード30Aの周縁でアノード30Aを支持する支持体411と、を備える。
【0085】
アノード電極装置410は、前述の型11,12にアノード電極用原料液体を注入することで製造される。支持体411は、アノード30Aの製造時において、第1型11として用いられる。
【0086】
カソード電極装置420は、前述の型11,12にカソード電極用原料液体を注入することで製造される。支持体421は、カソード30Bの製造時において、第1型11として用いられる。なお、カソード30Bは、微生物の増殖を抑制するため銅を含有する。
【0087】
支持体421は、カソード30Bに浮力を与えるためのフロート(フローティングボード)として機能する。支持体421は、枠体430(電池本体430)に対して、上下動自在に設けられており、カソード30Bの上面が空気に触れ、カソード30Bの下面が、土壌上の水に触れるように、カソード30Bを浮かせる。したがって、カソード30Bは、空気中の酸素を利用するエアカソードとして機能する。
【0088】
図12及び図13に示すように、枠体430は、カソード電極装置420を、その内部で上下動自在となるように保持する。したがって、カソード電極装置420は、水面に浮くことができる。
【0089】
図12及び図13に示すように、枠体430の下部には、アノード電極装置410が取り付けられる。アノード電極装置410は、アノード30Aの面が水平になるように、枠体430の下部に取り付けられる。
【0090】
土壌微生物燃料電池400の発電の原理は、土壌微生物燃料電池300と同様である。
【0091】
<3.実験>
【0092】
<3.1 第1実験>
【0093】
図14は、図2から図7に示す浮遊型微生物燃料電池200を用いた発電の実験結果として、微生物燃料電池200の電力密度を示している。実験では、泥水に、浮遊型微生物燃料電池200を浮かべて発電を行った。泥水は、日本国滋賀県草津市の立命館大学びわこ・くさつキャンパス内の土壌を用いて作成した。時間経過につれ、泥水内の微生物がアノード電極30Aにバイオフィルムを形成し、発電を開始した。微生物燃料電池200は、泥水を浄化しながら発電することができる。この微生物燃料電池200によって、図14に示すように、14[μW/cm]を超える最大電力密度が得られた。
【0094】
実施形態の電極30A,30Bは、強度が高く、8か月の長期にわたって、繰り返し発電に使用することができた。なお、カソード30Bに付着した微生物など、電極30A,30Bにおける異物を、必要に応じて、ブラシなどで除去することにより、電極30A,30Bを容易にメンテナンスすることができる。電極に異物が付着して、発電性能が低下しても、必要に応じて、異物除去のメンテナンスを実施することで、長期にわたり、微生物燃料電池200を使用することができる。
【0095】
<3.2 第2実験>
【0096】
第2実験は、図2から図7に示す浮遊型微生物燃料電池200を学習教材として利用することを想定した実験である。学習者は、電極装置210,220を、図1に示す手順で、自ら作成して、微生物燃料電池200による発電を体験することができる。電極を作成するには、墨汁と燻炭を混ぜて、型に注入して固化させればよいため、非常に容易である。作成の容易性から、この微生物燃料電池200は、学習教材に適している。
【0097】
発電を開始するため、学習者は、作成されたアノード電極装置210を、脚230に取り付ける前に、土壌中に埋設する。埋設は、例えば、5日間行われる。埋設後のアノード電極装置210には、土壌中の微生物によってバイオフィルムが形成され、有機物を含む土壌が付着している。学習者は、このアノード電極装置210を、脚230に取り付けるとともに、作成したカソード電極をフロート250に装着することで、微生物燃料電池200を完成させる。この微生物燃料電池200を、例えば、水道水に浮遊させる。これにより、微生物燃料電池200は、発電をすることができる。なお、発電電力が低下した場合には、アノード電極装置210を、再度、土壌に差し込むことで、繰り返し発電動作が可能である。
【0098】
以上のように、微生物燃料電池200は、土壌にいる微生物,有機物を使用するため学習教材として利用可能である。
【0099】
<3.3 その他の実験結果>
【0100】
図2から図7に示す浮遊型微生物燃料電池200において、カソード30Bに銅を含めた場合と含めなかった場合とで発電性能を比較した。その結果、カソード30Bに銅を含む方が、含まない場合に比べて、電力密度が増加した。つまり発電性能が向上した。これは、銅が、カソード30Bにおける酸化還元反応を促進したものと考えられる。また、カソード30Bが銅を含む場合、カソード30Bが殺菌作用を持ち、カソード30Bによる微生物の増殖を抑えて、発電性能低下を防止できる。
【0101】
また、図2から図7に示す浮遊型微生物燃料電池200において、電極30を、墨汁と燻炭とで作成した場合と、墨汁だけで作成した場合と、を比較した。墨汁だけで作成した場合、きれいなブロック形状に固化しない場合があり、作成の容易性が低下し、強度が相対的に小さくなった。これに対して、燻炭を混ぜた場合、きれいなブロック形状の電極30が容易に得られ、強度も相対的に大きくなり、長期安定動作が確保できた。また、燻炭が含まれていると、含まれていない場合に比べて、発電量が増加した。
【0102】
さらに、図2から図7に示す浮遊型微生物燃料電池200において、燻炭にエッチングをした場合と、しなかった場合と、を比較した。なお、電極は、燻炭と墨汁とによって形成した。燻炭にエッチングをした場合、エッチングをしない場合に比べて、発電量が増加した。
【0103】
<4.微生物燃料電池の他の例>
【0104】
図15及び図16は、微生物燃料電池200の他の例を示している。図15及び図16に示す微生物燃料電池200は、図2から図7に示す微生物燃料電池200におけるカソード30Bを、縦置きにしたものである。つまり、図15及び図16に示す微生物燃料電池200は、1個の横置きアノード30Aと、1個の縦置きカソード30Bと、を備える。その他の点については、図2から図7に示す微生物燃料電池200と共通する。したがって、図15及び図16に関し、以下において説明しない点については、図2から図7に関する説明が援用される。
【0105】
図15及び図16に示す微生物燃料電池も、実施形態に係る電極30(電極装置100)を、浮遊型微生物燃料電池200(floating microbial fuel cell)に用いた例である。図15(A)(B)に示す微生物燃料電池200は、アノード電極装置210と、カソード電極装置220と、本体250,230とを備える。本体は、アノード電極装置210(アノード30A)及びカソード電極装置220(カソード30B)を支持する。アノード電極装置210は、アノード30Aと、アノード30Aの周縁でアノード30Aを支持する支持体211と、を備える。カソード電極装置220は、カソード30Bと、カソード30Bの周縁でカソードを支持する支持体221を備える。カソード30Bはエアカソードであり得る。
【0106】
なお、アノード30Aは、全体が液中に位置するため、縦置きでも横置きでも発電能力には大きな影響はない。ただし、アノード30Aを縦置きにすると、水平方向への大型化を回避でき、有利である。
【0107】
図16(A)にも示すように、カソード30Bの支持体221は、内側にカソード30Bが位置するようカソード30Bを支持する支持体本体221Aと、支持体本体221Aから外方に突出した突部221Bと、を備える。図示の支持体本体221Aは、矩形枠状である。突部221Bは、矩形枠状の支持体本体221Aにおける対向する2辺それぞれから、側方に突出している。
【0108】
図2に示すフロート250(本体250)は、カソード30Bを横置き状態で支持するのに対して、図15(A)(B)に示すフロート250(本体250)は、図16(A)(B)に示すように、カソード30Bを縦置き状態で支持する。カソード30Bを横置きすると、微生物燃料電池200の使用中(発電中)にカソード30B上面に液が載ったり、その他の物がカソード30Bに堆積したりするおそれがある。この場合、カソード30B上面と空気(酸素)との接触が減少又は失われる。その結果、長期間の使用によって、微生物燃料電池の発電能力が低下するおそれがある。しかし、カソード30Bを横置きすると、カソード30B上に液が載ったり、その他の物がカソード30Bに堆積したりするおそれが少ない。このため、微生物燃料電池200の発電能力を、より長期間維持できる。
【0109】
また、カソード30Bを横置きする場合、カソード30Bは、浮遊状態において、液面LSの高さに位置するように位置決めされる必要がある。すなわち、カソード30Bは、その下面が液LBに接し、その上面が空気に接するように、適切に位置決めしてフロート250(本体250)に支持される必要がある。このような位置決めは、微生物燃料電池200を液LBに設置する際及び発電中において必要になり得る。フロート250による浮力は液LBにも依存するため、一定ではなく、浮遊状態におけるカソード30Bの位置を液面LS近傍にするのは容易でないことがある。カソード30Bの位置が適切でない場合、発電性能も低下する。
【0110】
これに対して、カソード30Bを縦置きにする場合、カソード30Bの第1面30B-1及び第2面30B-2は、上下方向に広がりのある面であるため、カソード30Bに対する液面LSの位置が多少変動しても、カソード30Bの上側部分が空気に接し、下側部分が液LBに接した状態が確実に得られる。
【0111】
図15(A)(B)及び図16(A)に示すように、カソード電極装置220は、縦にした状態で、突部221Bが、第2挿入部251B(溝;スロット)に挿入されて組み立てられる。これにより、カソード電極装置220が、縦置き状態でフロート250(本体250)に支持される。第1挿入部251Aは、縦置きカソード30Bとフロート250(本体250)との間に、液LBが進入するための空間を形成する。
【0112】
図16(B)に示すように、カソード30Bは、例えば、プレート状であり、第1面30B-1と、第1面30B-1の反対面である第2面30B-2と、を備える。カソード30Bは、第1面30B-1及び第2面30B-2が上下方向に平行になるように、フロート250に支持される。フロート250は、第1面30B-1及び第2面30B-2それぞれに、浮遊型微生物燃料電池200が浮遊する液LBの液面LSが接するようにカソード30Bを支持する。
【0113】
したがって、第1面30B-1及び第2面30B-2の一部(第1面30B-1の上側部分及び第2面30B-2の上側部分)は、液面LSよりも上方に位置する。第1面30B-1及び第2面30B-2の上側部分は、液面LS上方の空気(大気)に接する。第1面30B-1及び第2面30B-2の下側部分(他の一部)は、液面LSよりも下方の液LB中に位置する。第1面30B-1及び第2面30B-2の下側部分は、液LBに接する。
【0114】
フロート250は、内部空間251A(第1挿入部251A)を有する。図示の内部空間251Aは、フロート250を上下に貫通した貫通孔であり、下部開口251Cと上部開口251Dとを有する。フロート250が液LBに浮遊した状態において、フロート250の少なくとも一部は液LB中に存在するため、下部開口251Cから、液LBが、内部空間251A内に進入する。進入した液LBは、内部空間251A内において、液面LSin(内部液面)を形成する。このように、フロート250(本体250)は、フロート250(本体250)内部に液面LSinが形成されるよう構成されている。
【0115】
カソード30Bの第1面30B-1及び第2面30B-2は、内部液面LSinに接する。内部液面LSinは、フロート250(本体250)によって囲まれた空間であるため、フロート250(本体250)外部の液面LSに比べて、液面の変動が穏やかである。したがって、カソード30Bは、液面変動に伴う衝撃を受けることが少ない。この結果、カソード30Bの損傷等を抑制して、微生物燃料電池200の耐久性を高めることができる。
【0116】
また、内部空間251は、カソード30Bに付着した液又はその他の物を、液LB側へ排出する排出孔として機能する。カソード30Bの第1面30B-1及び第2面30B-2に臨む内部空間251(排出孔)が確保されているため、カソード30Bの上側部分と液面LSinとを遮蔽するものは存在しない。したがって、カソード30Bの上側部分に付着した液等は、液LB側へ流れ落ちることができる。
【0117】
カソード30Bと空気との接触面積を大きくして発電性能を高めるため、第1面30B-1及び第2面30B-2において液面LSinより上方の部分は、液面LSinより下の部分よりも、面積が大きいのが好ましい。液面LSinより上方の部分の面積を大きくするには、フロート250による浮力を十分に大きく設定すればよい。
【0118】
第1面30B-1及び第2面30B-2において液面Lsinより上方の部分の面積が大きくなるようにするには、例えば、カソード30Bが、フロート250(本体250)の上面255よりも、上方に突出するように配置されているのが好ましい。浮遊するフロート250は、その上面255は液面LS近傍又は液面LSよりも上方に位置するため、カソード30Bが上面255よりも上方に突出していれば、確実に空気に接触できる。
【0119】
図17は、微生物燃料電池200の更に他の例を示している。図17に示す微生物燃料電池200は、図15及び図16に示す微生物燃料電池200におけるアノード電極装置210を2つ(複数)設けたものである。つまり、図17に示す微生物燃料電池200は、2個の横置きアノード30Aと、1個の縦置きカソード30Bと、を備える。図17に微生物燃料電池200に関し、その他の点については、図15及び図16に示す微生物燃料電池200と共通する。したがって、図17に関し、以下において説明しない点については、図15及び図16に関する説明が援用される。
【0120】
図17に示すように、フロート250は、フロート250から下方に延びる脚230,230を備える。2つ(複数の)アノード電極装置210は、上下方向に並んで、脚230,230に取り付けられる。2つ(複数の)アノード電極装置210は、上下方向に所定の間隔をおいて配置される。複数のアノード電極装置210(複数のアノード30A)を上下方向に並べることで、水平方向の大型化を防止できる。
【0121】
図18は、微生物燃料電池200の更に他の例を示している。図18に示す微生物燃料電池200は、図15及び図16に示す微生物燃料電池200におけるカソード電極装置220を2つ(複数)設けたものである。つまり、図18に示す微生物燃料電池200は、1個の横置きアノード30Aと、2個の縦置きカソード30Bと、を備える。図18に微生物燃料電池200に関し、その他の点については、図15及び図16並びに図17に示す微生物燃料電池200と共通する。したがって、図18に関し、以下において説明しない点については、図15及び図16並びに図17に関する説明が援用される。
【0122】
図18に示すフロート250(本体250)は、2つ(複数)の挿入孔251を備える。挿通孔それぞれは、第1挿入部251Aと、第2挿入部251Bと、を備える。2つのカソード電極装置220は、それぞれ縦にした状態で、突部221Bが、第2挿入部251B(溝;スロット)に挿入されて組み立てられる。これにより、2つのカソード電極装置220が、縦置き状態でフロート250(本体250)に支持される。第1挿入部251Aは、縦置きカソード30Bとフロート250(本体250)との間に、液LBが進入するための空間を形成する。カソード30Bを縦置きにすると、カソード30Bの数が増えても、水平方向への大型化を防止できる。
【0123】
図19は、微生物燃料電池200の更に他の例を示している。図19に示す微生物燃料電池200は、図18に示す微生物燃料電池200におけるアノード電極装置210を2つ(複数)設けたものである。つまり、図19に示す微生物燃料電池200は、2個の横置きアノード30Aと、2個の縦置きカソード30Bと、を備える。図19に微生物燃料電池200に関し、その他の点については、図15図18に示す微生物燃料電池200と共通する。したがって、図19に関し、図15図18に関する説明が援用される。
【0124】
図20(A)は、微生物燃料電池200の更に他の例を示している。図20(A)に示す微生物燃料電池200は、図15に示す微生物燃料電池200におけるカソード電極装置220を4つ設けるとともに、4つの縦置きアノード電極装置210を備える構成としたものである。つまり、図20(A)に示す微生物燃料電池200は、4個の縦置きアノード30Aと、4個の縦置きカソード30Bと、を備える。図20(B)は、図20(A)に示す微生物燃料電池200をビーカ内の液体中に浮遊させて発電させている状態を示す。図20に示す微生物燃料電池200に関し、その他の点については、図15図16等に示す微生物燃料電池200と共通する。図20に示す微生物燃料電池200関しても、図15図19に関する説明が援用され得る。
【0125】
なお、図20に関する説明(特に、配線501,502に関する説明)は、図2図7及び図15図19に示す微生物燃料電池200にも適用され得る。
【0126】
図21(A)は、図20に示す微生物燃料電池200のカソード電極装置220を示している。
【0127】
図20及び図21(A)に示すカソード電極装置220は、カソード30Bと、カソード30Bを支持する支持体221を備える。支持体221は、矩形枠状の支持体本体221Aと、支持体本体221Aから外方に突出した突部221Bと、を備える。突部221Bは、矩形枠状の支持体本体221Aにおける1辺から側方に突出している。図21(A)において、突部221Bは一つだけである。
【0128】
カソード電極30Bからは、電極端子部材20の延出部22が延びている。延出部22は、突部221Bの周囲に配置されている。突部221Bに配置された延出部22は、後述の配線502(501)への接続端子となる。
【0129】
図20に示す微生物燃料電池200では、アノード電極装置210は、カソード電極装置220と同じ形状を有する。したがって、アノード電極装置210については、上記のカソード電極についての説明が援用される。なお、アノード電極材料はカソード電極材料と同じでもよいし、異なってもよい。
【0130】
図21(B)及び図22(A1)(A2)(B)(C)(D)に示すように、4つのカソード電極装置220,220,220,220が、本体を構成するフロート250(カソード用フロート)に取り付けられる。フロート250(本体250)は、4つ(複数)のカソード電極装置220を縦にした状態で挿入される単一の挿入孔251を備える。挿入孔251は、一つの第1挿入部251Aと、4つの第2挿入部251Bと、を備える。4つ(複数)のカソード電極装置220は、それぞれ縦にした状態で、第1挿入部251Aに挿入され、各カソード電極装置220の突部221Bが、第1挿入部251Aに隣接して形成された第2挿入部251Bに挿入されて、組み立てられる。複数のカソード電極装置220は、互いに間隔をおいて配置されている。各カソード30Bの第1面30B-1及び第2面30B-2は、それぞれ内部液面LSinに接する。
【0131】
なお、図22(A1)(A2)は、カソード電極装置が取り付けられる前のフロート250を示す。図22(B)は、一つ目のカソード電極装置220が取り付けられる状態を示す。図22(C)は、4つのカソード電極装置220が取り付けられる状態を示す。図22(D)は4つのカソード電極装置220が取り付けられた状態を示す。
【0132】
図21(B)に示すように、フロート250は、4つの第2挿入部251Bに跨って配置された配線502を有する。突部221Bが第2挿入部251Bに挿入されると、突部221Bに設けられた端子22が、配線502に接触して、電気的に接続される。これにより、図21(C)に示すように、4つのカソード30Bが並列接続される。なお、複数のカソード30Bは直列に接続されてもよいし、複数のカソード30Bが直列接続されてなる回路が複数並列に接続されていてもよい。
【0133】
図21(B)及び図23(A1)(A2)(B)(C)(D)に示すように、4つのアノード電極装置210,210,210,210が、本体を構成するフロート260(アノード用フロート)に取り付けられる。フロート260は、脚230に取り付けられる。
【0134】
フロート260(本体260)は、4つ(複数)のアノード電極装置210を縦にした状態で挿入される単一の挿入孔261を備える。挿入孔261は、一つの第1挿入部261Aと、4つの第2挿入部261Bと、を備える。4つ(複数)のアノード電極装置210は、それぞれ縦にした状態で、第1挿入部261Aに挿入され、各アノード電極装置210の突部211Bが、第1挿入部261Aに隣接して形成された第2挿入部261Bに挿入されて、組み立てられる。複数のアノード電極装置210は、互いに間隔をおいて配置されている。各アノード30Aの両面は、液LBに接する。
【0135】
なお、図23(A1)(A2)は、アノード電極装置が取り付けられる前のフロート260を示す。図23(B)は、一つ目のアノード電極装置210が取り付けられる状態を示す。図23(C)は、4つのアノード電極装置210が取り付けられる状態を示す。図23(D)は4つのアノード電極装置210が取り付けられた状態を示す。
【0136】
図21(B)に示すように、フロート260は、4つの第2挿入部261Bに跨って配置された配線501を有する。突部211Bが第2挿入部261Bに挿入されると、突部211Bに設けられた端子22が、配線501に接触して、電気的に接続される。これにより、図21(C)に示すように、4つのアノード30Aが並列接続される。なお、複数のアノード30Aは直列に接続されてもよいし、複数のアノード30Aが直列接続されてなる回路が複数並列に接続されていてもよい。なお、図21(C)において、Rは、負荷である。
【0137】
図24(A)(B)は、微生物燃料電池200の更に他の例を示している。図24(A)に示す微生物燃料電池200は、4つの横置きアノード電極装置210を備えるとともに、4つの縦置きカソード電極装置220を備える。つまり、図24(A)の微生物燃料電池200は、4個の横置きアノード30Aと、4個の縦置きカソード30Bと、を備える。図24(B)は、図24(A)に示す微生物燃料電池200をビーカ内の液体中に浮遊させて発電させている状態を示す。図24に示す微生物燃料電池200に関しても、図15図23に関する説明が援用され得る。
【0138】
図25(A)(B)は、微生物燃料電池200の更に他の例を示している。図25(A)に示す微生物燃料電池200は、縦置きカソード電極装置220を40個備えるとともに、縦置きアノード電極装置210を40個備える。図25(B)に示す微生物燃料電池200は、縦置きカソード電極装置220を40個備えるとともに、縦置きアノード電極装置210を80個備える。図25(A)では、40個のアノード電極装置210を備えるフロート260が、上下方向に2個設けられている。上下方向の配置により、水平方向への大型化を防止できる。図25に示す微生物燃料電池200関しても、図15図24に関する説明が援用され得る。
【0139】
図26(A)(B)(C)は、微生物燃料電池200の更に他の例を示している。図26(A)(B)に示す微生物燃料電池200は、縦置きカソード電極220を40個備えるとともに、横置きアノード電極装置210を20個備える。図26(C)に示す微生物燃料電池200は、縦置きカソード電極装置220を40個備えるとともに、横置きアノード電極装置210を40個備える。図26(C)では、20個の横置きアノード電極装置210を備えるフロート260が上下方向に2個設けられている。図26に示す微生物燃料電池200関しても、図15図25に関する説明が援用され得る。
【0140】
<5.実験>
【0141】
<5.1 実験A>
【0142】
図27図31は、微生物燃料電池200を用いた発電の実験結果を示している。まず、この実験における電極(アノード,カソード)の作製方法について説明する。アノードの電極材料は、墨3ml(墨汁3ml)と、もみ殻燻炭0.9gとした。カソードの電極材料は、銅墨3mlと、もみ殻燻炭0.6gとした。なお、銅墨は、銅粒子1gと、墨30mlとを800rpmで3時間攪拌したものを用いた。作製される電極の面積は、2cm×2cm=4cmとした。
【0143】
電極の作製のため、電極材料を一様に分散するまで混ぜ合わせて原料液体(溶液)を作成した。原料液体を型に流し込み(図1のステップS12)、60℃で原料液体(溶液)を固化させた(図1のステップS13)。型としては、アノード電極装置210の支持体211及びカソード電極装置220の支持体221を用いた。
【0144】
なお、もみ殻燻炭には、原料液体に混合される前にエッチング処理を施した。エッチング処理によって、不純物を除去できる。エッチング処理では、まず、(1)3gの燻炭と2gのNaOHを80mlの精製水に入れて、100℃で24時間、攪拌した。そして、(2)遠心分離機で、燻炭を取り出し、(3)取り出した燻炭を精製水に分散させた後、再び遠心分離で燻炭を取り出した。(4)取り出した燻炭を60℃で乾燥した。(5)乾燥後の燻炭を乳鉢ですり潰した。
【0145】
以上の手順によって、アノード電極装置210及びカソード電極装置220を得た。作製されたアノード電極装置210及びカソード電極装置220を装着した微生物燃料電池200を液体に浮遊させて発電実験を行った。微生物燃料電池200を浮遊させた液体は、LB培地(培養液)100mlと、水道水500mlと、水田から採取した泥水1mlと、の混合液とした。
【0146】
LB培地は、次のようにして作製した。まず、(A)精製水500ml、トリプトン5g、酵母エキス2.5g、塩化ナトリウム5gを混ぜ合わせた。次に、(B)精製水10mlに水酸化ナトリウム0.1gを溶かした。(C)前記(B)で作製した水酸化ナトリウム水溶液2.5mlを、前記(A)で作製した溶液に添加してLD培地を作製する。水酸化ナトリウ水溶液の添加により、LD培地のpHが調整される。(D)作製したLD培地に、オートクレーブを用いて滅菌処理を施した。
【0147】
図27は、図2図4に示す微生物燃料電池200の実験結果である。つまり、図27は、1個の横置きアノード及び1個の横置きカソードを備える微生物燃料電池200の実験結果である。図27において、横軸は時間(日)であり、実験開始からの経過日数を示す、縦軸は発電電力を示す。図28図31においても同様である。
【0148】
図27に示すように、実験開始から20日前後まで発電電力は増加し続け、その後、発電電力が低下した。最大電力は約180μWである。なお、図27の実験結果は、実験室における実験結果であり、自然環境下では、実験室もよりも、発電性能が低下しやすい。
【0149】
図28は、図15図16に示す微生物燃料電池200の実験結果である。つまり、図28は、1個の横置きアノード及び1個の縦置きカソードを備える微生物燃料電池200の実験結果である。図28に示すように、最大電力は約140μWであり、図27の実験結果よりもやや低いが、実験開始から30日前後まで発電電力が安定的に維持された。縦置きカソードの場合、自然環境下の実験でも、発電性能が長期間維持される。
【0150】
図29は、図17に示す微生物燃料電池200の実験結果である。つまり、図29は、2個の横置きアノード及び1個の縦置きカソードを備える微生物燃料電池200の実験結果である。図29に実験結果は、図28に実験結果とほぼ同様である。アノード数を増やしても、カソードの数が少ないと酸素を十分取り込めず、発電量が増加しないことがわかる。
【0151】
図30は、図19に示す微生物燃料電池200の実験結果である。つまり、図30は、2個の横置きアノード及び2個の縦置きカソードを備える微生物燃料電池200の実験結果である。図30では、最大発電電力は約250μWであり、図27及び図28の実験結果に比べて、大幅に増加している。また、40日経過時点でも電力も150μWを超えており、長期安定性にも優れている。
【0152】
図31は、図20に示す微生物燃料電池200の実験結果である。つまり、図31は、4個の縦置きアノード及び4個の縦置きカソードを備える微生物燃料電池200の実験結果である。図31では、最大発電電力は約520μWであり、大きな電力が得られている。また、50日経過時点でも電力も200μWを超えており、長期安定性にも優れている。
【0153】
このように、カソード及びアノードの数を増やすことで、微生物燃料電池200の出力が向上することがわかる。また、カソードを縦型にすることで、カソードの数を増やしても、微生物燃料電池200の大型化を抑制できる。
【0154】
<5.2 実験B>
【0155】
図32は、図2及び図3に示す微生物燃料電池200を用いた他の実験結果を示している。この実験Bにおいて、アノードは、電極面積を1cm×1cm=1cmとした以外は、実験Aと同様に作製した。実験Bにおいては、カソードは、触媒を有している。
【0156】
実験Bにおけるカソードの電極材料は、墨3mlと、触媒0.75gと、もみ殻燻炭0.525gとした。もみ殻燻炭は、実験Aと同様にエッチング処理を施した。電極材料からカソードを作製する方法は、実験Aと同様である。
【0157】
ここで、カソードは、カソードにおける酸化還元反応の促進のため酸化還元触媒を有するのが好ましい。カソードが酸化還元触媒を有することで、微生物燃料電池200の出力が向上する。カソードが強い酸化還元作用を有することで、酸素が乏しい環境においても出力低下を抑制できる。また、カソードは、抗菌作用(殺菌作用)を有するのが好ましい。カソードが抗菌作用を有していると、カソードに微生物が付着(バイオフィルムが形成)するのを低減又は防止できる。カソードにバイオフィルムが形成されると、出力が低下するが、カソード抗菌作用によって出力低下を抑制できる。
【0158】
カソードに含まれる触媒は、酸化還元作用及び抗菌作用の両方を有するのが好ましい。カソードは、酸化還元触媒となる物質(例えば、プラチナ)と、抗菌作用を有する物質(例えば、銅)と、をそれぞれ含有していてもよいが、触媒が、酸化還元作用だけでなく、抗菌作用も有しているのが好ましい。
【0159】
触媒は、コバルト-マンガン系触媒(コバルト-マンガン系化合物)であるのが好ましい。コバルト-マンガン系の化合物は、酸化還元作用及び抗菌作用(殺菌作用)を有する。コバルト-マンガン触媒は、例えば、コバルト-酸化マンガン触媒である。コバルト-酸化マンガン触媒は、例えば、コバルト-二酸化マンガン触媒である。
【0160】
実験Bにおいて使用した触媒は、Co-δ-MnO2/C触媒である。Co-δ-MnO2/Cは、コバルト-二酸化マンガンであるCo-δ-MnO2と、炭素Cと、の混合物である。炭素Cも触媒作用を有する。炭素Cは、電極としても作用する。
【0161】
Co-δ-MnO2は、バーネサイト型MnO2(δ-MnO2)にコバルトCoをインターカレーションしたものである。
【0162】
実験Bで用いたCo-δ-MnO2/Cは、以下のようにして作製した。
(1)KMnO4 0.79gを脱イオン水50mlに加え、30分間撹拌(400rpm)した。
(2)前記(1)に0.1 mol/lのCo(NO3)2 6H2O水溶液67.8mlを滴下し、70℃で1時間攪拌(400rpm)した。
(3)前記(2)にカーボンブラック0.5gを加え、溶液が紫色から黒色になるまで攪拌(400rpm)した。
(4)生成物を遠心分離で取り出した。
(5)60℃で乾燥させた。
【0163】
作製されたアノード電極装置210及びカソード電極装置220を装着した微生物燃料電池200を液体に浮遊させて発電実験を行った。実験Bにおける微生物燃料電池200は、図2図4に示す微生物燃料電池200であり、1個の横置きアノード及び1個の横置きカソードを備える。微生物燃料電池200を浮遊させた液体は、実験Aと同様である。
【0164】
図32は、実験Bの実験結果を示す。図32において、横軸は時間(日)であり、実験開始からの経過日数を示す、縦軸は発電電力を示す。カソードに、抗菌作用を有する酸化還元触媒を入れることで,電池の出力が大きく向上していることがわかる。また、長期にわたって、出力が維持されるため、アノード電極装置及びカソード電極装置を交換することなく,長期にそのまま使用可能である。また、実験Aに比べて、アノード電極サイズを小さくしているが、カソードの触媒によって、大きな出力が得られている。したがって、図32に示すように、カソードがコバルト-マンガン触媒を有することで、電池の出力向上及び長期安定性が得られる。
【0165】
<6.微生物燃料電池の他の例>
【0166】
図33及び図34は、微生物燃料電池の他の例を示している。図33及び図34に示す微生物燃料電池500は、本体511と、アノード30Aと、カソード30Bと、を備える。微生物燃料電池500は、浮遊型である。カソード30Bは、エアカソードであり、縦型である。アノード30Aも縦型である。
【0167】
本体511は、アノード30A及びカソード30Bを支持する支持体512を備える。支持体512は、長手方向が上下方向に向けられて使用される。支持体512は、長手方向の一端である下端が開口した筒体である。長手方向他端である上端は、蓋体505によって閉じられている。筒体は、一例として、円筒体である。筒体である支持体512の内部には、内部空間551が形成されている。
【0168】
支持体512の内面下部には、アノード30Aが取り付けられている。アノード30Aは、支持体512の内面全周にわたって形成されている。アノード30Aは、内部空間551に臨む第1面30A-1を有する。アノード30Aは、液透過性を有するたま、液LBが、アノード30A内部に浸透する。支持体512の下部には、筒体内外に貫通する貫通孔511Aが設けられている。この貫通孔511A及び支持体512の下部開口から液LBが内部空間551に進入可能である。
【0169】
支持体512の内面において、アノード30Aの上方には、スペーサ503を介して、カソード30Bが取り付けられている。カソード30Bは、支持体512の内面全周にわたって形成されている。カソード30Bは、内部空間551に臨む第1面30B-1を有する。カソード30Bは、アノード30Aと同様に液透過性を有するため、液LBが、アノード30Aに内部に浸透する。
【0170】
蓋体505上には、図示しない電気回路に接続される接続端子510が設けられている。接続端子510は、図示しない配線によって、アノード30A及びカソード30Bに接続されている。図示しない電気回路は、例えば、アノード30A及びカソード30Bによる発電量に応じた信号を出力する。電気回路は、発電量に応じた信号を出力するセンサ回路であり得る。
【0171】
本体511は、支持体512の上部に設けられた保護体507,509を備える。保護体507,509は、接続端子510に接続された電気回路を覆う。保護体507,509は、内部507Aに液LBが進入するのを防止し、電気回路を保護する。保護体507,509は、本体507と、本体507に着脱可能に取り付けられる蓋509と、を備える。
【0172】
本体511は、フロート520を備える。フロート520は、支持体512の上部に配置される。フロート520は、カソード30Bの上側が液面LSの上方に位置し、カソード30Bの下側が液面LSの下方に位置するように、本体511に浮力を与える。したがって、カソード30Bの第1面30B-1の一部(第1面30B-1の上側部分)は、液面LSよりも上方に位置する。第1面30B-1は、液面LS上方の空気(大気)に接する。第1面30B-1の下側部分(他の一部)は、液面LSよりも下方の液LB中に位置する。第1面30B-1の下側部分は、液LBに接する。
【0173】
微生物燃料電池500が液LBに浮遊した状態において、内部空間551に液LBが進入すると、進入した液LBは、内部空間551内において、液面LSin(内部液面)を形成する。カソード30Bの第1面30B-1は、内部液面LSinに接する。
【0174】
アノード30Aは、カソード30Bの下方にあるため、全体が液LBの中に位置した状態で浮遊する。
【0175】
以下、微生物燃料電池500におけるアノード30A及びカソードの30Bの作製方法の一例を説明する。微生物燃料電池500におけるアノード30A及びカソードの30Bは、ベース材600としてのウレタンフォームシートに電極材料を塗布し、乾燥させて構成し得る。ウレタンフォームは液が進入可能であるとともに、多孔3次元構造を有するため、電極表面積を大きくできる。
【0176】
アノード30Aの電極材料は、カーボンファイバー(CF)2g、活性炭粒子(ACP)2g、カーボンナノチューブ(CNT)分散液10mlである。これらの電極材料を20分間混合し、得られた混合液を、5mmの厚さのウレタンフォームシートに塗布し、ウレタンフォームをコーティングした。その後、真空乾燥機で40℃・24時間乾燥した。以上の方法によって、アノード30Aが得られる。
【0177】
カソード30Bの電極材料は、Co-δ-MnO2/C触媒1gと、カーボンナノチューブ分散液10mlである。Co-δ-MnO2/C触媒は、実験Bと同様の物を用い得る。これらの電極材料を20分間混合し、得られた混合液を、5mmの厚さのウレタンフォームシートに塗布し、ウレタンフォームをコーティングした。その後、真空乾燥機で40℃・24時間乾燥した。以上の方法によって、触媒を有するアノード30Aが得られる。
【0178】
微生物燃料電池500は、上記の触媒を有するため、発電性能が高く、触媒の抗菌作用によって長期間安定動作が可能である。
【0179】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0180】
11 :第1型
12 :第2型
13 :剥離シート
20 :電極端子部材
21 :埋設部
22 :延出部
23 :原料液体
30 :電極
30A :アノード
30A-1:第1面
30B-2:第2面
30B :カソード
40 :空間
100 :電極装置
200 :浮遊型微生物燃料電池
210 :アノード電極装置
211 :支持体
211B :突部
220 :カソード電極装置
221 :支持体
221A :支持体本体
221B :突部
230 :脚
240 :空間
250 :フロート
251 :挿入孔
251A :第1挿入部
251B :第2挿入部
251C :下部開口
251D :上部開口
255 :上面
260 :フロート
261 :挿入孔
261A :第1挿入部
261B :第2挿入部
300 :土壌微生物燃料電池
310 :アノード電極装置
311 :支持体
312 :先端部
320 :カソード電極装置
321 :支持体
330 :枠体
400 :土壌微生物燃料電池
410 :アノード電極装置
411 :支持体
420 :カソード電極装置
421 :支持体
430 :枠体
500 :微生物燃料電池
501 :配線
502 :配線
503 :スペーサ
505 :蓋体
507 :本体
507A :内部
509 :蓋
510 :接続端子
511 :本体
511A :貫通孔
512 :支持体
520 :フロート
551 :内部空間
600 :ベース材
A :上下方向
A :上下方向(第1方向)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34