(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031824
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】フランジ付き砥石、フランジ、及び砥石
(51)【国際特許分類】
B24D 5/16 20060101AFI20240229BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20240229BHJP
B24D 3/06 20060101ALI20240229BHJP
B24D 5/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B24D5/16
B24D3/00 320B
B24D3/06 B
B24D3/06 A
B24D5/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110310
(22)【出願日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2022132850
(32)【優先日】2022-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502267800
【氏名又は名称】株式会社かいわ
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山添 重幸
【テーマコード(参考)】
3C063
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AB03
3C063BA24
3C063BB02
3C063BH11
3C063BH32
3C063BH40
3C063CC08
3C063CC12
3C063FF03
(57)【要約】
【課題】ツルーイングによる砥石の研削量を低減することができ、バランス調整におけるばらつきを低減できるフランジ付き砥石を提供する。
【解決手段】フランジ付き砥石1であって、フランジ30、51は、フランジ30、51の回転中心に形成され、スピンドル50に挿入されるスピンドル挿入孔33、52と、フランジ30、51の挟持面31A、51Aに、スピンドル挿入孔33、52の回転中心を中心として円形状に形成され、挟持面31A、51Aから突出する係合凸部36、55とを備え、砥石10は、フランジ30、51に挟持される砥石10の側面に、砥石10の回転中心を中心として円形状に形成される係合溝部14を備え、フランジ30、51の係合凸部36、55を砥石10の係合溝部14に係合させてフランジ30、51の回転中心と砥石10の回転中心とを同心上に位置決めする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥石と、前記砥石を挟持する一対のフランジとを備えたフランジ付き砥石であって、
前記フランジは、
前記フランジの回転中心に形成され、工作機械のスピンドルに挿入されるスピンドル挿入孔と、
前記一対のフランジのうち、少なくとも一方のフランジの挟持面に、前記スピンドル挿入孔の回転中心を中心として円形状に形成され、前記フランジの挟持面から突出する係合凸部と、を備え、
前記砥石は、
前記フランジに挟持される前記砥石の少なくとも一方の側面に、前記砥石の回転中心を中心として円形状に形成される係合溝部を備え、
前記フランジの前記係合凸部を前記砥石の前記係合溝部に係合させることで、前記フランジの回転中心と前記砥石の回転中心とを同心上に位置決めさせて、前記一対のフランジが前記砥石を挟持する、フランジ付き砥石。
【請求項2】
前記係合凸部は断面三角形状の突条であり、前記係合溝部は断面V字状の溝である請求項1に記載のフランジ付き砥石。
【請求項3】
前記砥石は、砥粒をドーナツ状に成形、焼成した一般砥石であり、前記フランジとの挟持面にはパッドが設けられ、前記係合溝部は、前記パッド上に形成されている請求項1又は請求項2に記載のフランジ付き砥石。
【請求項4】
前記砥石は、円形状の台金の外周端面に砥粒が練りこまれ、又は電着されたCBNホイール又はダイヤモンドホイールであり、前記係合溝部は、前記台金に形成されている請求項1又は請求項2に記載のフランジ付き砥石。
【請求項5】
砥石を挟持するフランジであって、
前記フランジの回転中心に形成され、工作機械のスピンドルに挿入されるスピンドル挿入孔と、
前記スピンドル挿入孔の回転中心を中心として円形状に形成され、前記フランジの挟持面から突出する係合凸部と、を備え、
前記砥石の回転中心を中心として円形状に形成された前記砥石の係合溝部に、前記係合凸部を係合させることで、前記フランジの回転中心が前記砥石の回転中心と同心上に位置決めされて前記砥石を挟持する、フランジ。
【請求項6】
フランジに保持される砥石であって、
前記フランジに保持される側面に、前記砥石の回転中心を中心として円形状に形成された係合溝部を備え、
前記係合溝部は、
工作機械のスピンドルに挿入される前記フランジのスピンドル挿入孔の回転中心を中心として円形状に形成され、前記フランジの保持面から突出する係合凸部に係合され、
前記砥石の回転中心に前記フランジの回転中心が同心上に位置決めされて前記フランジに保持される、砥石。
【請求項7】
砥石と、前記砥石を挟持する一対のフランジとを備えたフランジ付き砥石であって、
前記一対のフランジのうち、少なくとも一方のフランジは、
前記フランジの回転中心に形成され、工作機械のスピンドルに挿入されるスピンドル挿入孔と、
前記砥石を挟持する挟持面に、前記スピンドル挿入孔の回転中心回りに離散的に配置され、前記フランジの挟持面から突出する複数の係合凸部と、を備え、
前記砥石は、
前記複数の係合凸部が形成された挟持面に当接する側面に、前記砥石の回転中心回りであって、前記複数の係合凸部に応じた位置に離散的に配置される複数の係合凹部を備え、
前記フランジの前記複数の係合凸部を、前記砥石の前記複数の係合凹部に係合させることで、前記フランジの回転中心と前記砥石の回転中心とを同心上に位置決めさせて、前記一対のフランジが前記砥石を挟持する、フランジ付き砥石。
【請求項8】
前記フランジには、前記砥石の挟持面に直交する方向に、前記複数の係合凸部が挿入される複数の貫通孔が形成され、
前記係合凸部は、前記フランジの挟持面から突出する先端部と、前記先端部を突出方向に付勢する付勢部と、前記付勢部の突出方向の基端側に設けられ、前記貫通孔と螺合する螺合部と、を備える、
請求項7に記載のフランジ付き砥石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥石と、砥石を挟持する一対のフランジとを備えたフランジ付き砥石、フランジ、及び砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
研削盤等の工作機械では、砥石をナットとフランジ(以下、ナット(移動側フランジ)とフランジ(固定側フランジ)を単に一対のフランジと称する)で挟持し、フランジの回転中心に形成された挿入孔をスピンドルに挿入し、スピンドルの先端に形成された雄ねじ部にナットを螺合することにより固定する。スピンドルに砥石を装着する際には、砥石の回転中心をスピンドルの回転中心に合わせるツルーイングや、砥石とフランジを一体化したフランジ付き砥石の重心位置を回転中心に調整するバランス調整を行う(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、砥石をフランジで挟持する際、砥石の開口孔とフランジの砥石挿入部との間にクリアランスがあるため、砥石の回転中心と、フランジの回転中心とがずれてしまうことがある。それぞれの回転中心がずれた状態でフランジ付き砥石のツルーイングを行うと、砥石の研削量が多くなるという課題がある。また、フランジ付き砥石のバランス調整を行う場合も、回転中心のずれの影響でバランス調整にばらつきが生じるという課題がある。
【0005】
本発明の目的は、ツルーイングによる砥石の研削量を低減することができ、バランス調整におけるばらつきを低減できるフランジ付き砥石、フランジ、及び砥石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフランジ付き砥石は、砥石と、前記砥石を挟持する一対のフランジとを備えたフランジ付き砥石であって、前記フランジは、前記フランジの回転中心に形成され、工作機械のスピンドルに挿入されるスピンドル挿入孔と、前記一対のフランジのうち、少なくとも一方のフランジの挟持面に、前記スピンドル挿入孔の回転中心を中心として円形状に形成され、前記フランジの挟持面から突出する係合凸部と、を備え、前記砥石は、前記フランジに挟持される前記砥石の少なくとも一方の側面に、前記砥石の回転中心を中心として円形状に形成される係合溝部を備え、前記フランジの前記係合凸部を前記砥石の前記係合溝部に係合させることで、前記フランジの回転中心と前記砥石の回転中心とを同心上に位置決めさせて、前記一対のフランジが前記砥石を挟持する。
【0007】
本発明のフランジは、砥石を挟持するフランジであって、前記フランジの回転中心に形成され、工作機械のスピンドルに挿入されるスピンドル挿入孔と、前記スピンドル挿入孔の回転中心を中心として円形状に形成され、前記フランジの挟持面から突出する係合凸部と、を備え、前記砥石の回転中心を中心として円形状に形成された前記砥石の係合溝部に、前記係合凸部を係合させることで、前記フランジの回転中心が前記砥石の回転中心と同心上に位置決めされて前記砥石を挟持する。
【0008】
本発明の砥石は、フランジに保持される砥石であって、前記フランジに保持される側面に、前記砥石の回転中心を中心として円形状に形成された係合溝部を備え、前記係合溝部は、工作機械のスピンドルに挿入される前記フランジのスピンドル挿入孔の回転中心を中心として円形状に形成され、前記フランジの保持面から突出する係合凸部に係合され、前記砥石の回転中心に前記フランジの回転中心が同心上に位置決めされて前記フランジに保持される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フランジに形成された係合凸部と、砥石に形成された係合溝部とを係合させることにより、フランジの回転中心及び砥石の回転中心のずれを少なくすることができるため、ツルーイングによる砥石の研削量を低減でき、フランジ付き砥石のバランス調整を行う場合に、ばらつきを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る一般砥石の構造を示す斜視図である。
【
図2】実施形態におけるダイヤモンド・CBN・電着砥石の構造を示す斜視図である。
【
図3】実施形態における調整側フランジの表面構造を示す斜視図である。
【
図4】実施形態における調整側フランジの裏面構造を示す正面図である。
【
図5】実施形態におけるフランジ付き砥石を工作機械のスピンドルに取り付けた状態を示す断面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係るフランジ付き砥石の構造を示す側面図である。
【
図7A】第2実施形態における固定側フランジの構造を示す正面図である。
【
図7B】第2実施形態における固定側フランジの構造を示す側面図である。
【
図8】第2実施形態におけるフランジ付き砥石の係合凸部の構造を示す断面図である。
【
図9】第2実施形態におけるフランジ付き砥石の砥石の構造を示す正面図である。
【
図10】第2実施形態におけるフランジ付き砥石の砥石に固定側フランジを取り付けた状態を示す断面図である。
【
図11】第2実施形態におけるフランジ付き砥石の砥石に固定側フランジを取り付ける方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1には、本発明の実施形態に係るフランジ付き砥石1を構成する砥石10が示されている。砥石10は、一般砥石であり、砥石本体11、開口孔12、パッド13、及び係合溝部14を備える。砥石本体11は、研削・研磨材となる砥粒を樹脂等の結合材を用いてドーナツ状に成形し、焼成して製造される。砥粒としては、たとえば、石、セラミック、アルミナ及び炭化ケイ素等の材料が用いられる。開口孔12は、砥石本体11の回転中心を中心とした円形状の孔であり、開口孔12には、後述するフランジ30、51(なお、30はバランス錘を取り付けてバランスを調整する側のフランジ(単に調整側フランジと称する)であり、51は固定側フランジであり、以下、これらを区別しない場合には、単にフランジ30、51と称する)の砥石挿入部35、53が挿入される。開口孔12は、砥石本体11の成形時に形成される。
【0012】
パッド13は、開口孔12の縁回りに円形状に貼り付けられる紙製のクッション材である。パッド13は、砥石本体11のフランジ30,51の挟持面31A、51A(
図5参照)に貼り付けられ、砥石10を一対のフランジ30、51(
図5参照)で挟持したときに、砥石本体11に必要以上に圧縮応力が作用して砥石本体11に割れ、欠け等が発生することを防止する。なお、パッド13は、焼成して製造されたものに使用され、砥石本体11の両側面に貼り付けられている。一般砥石である砥石10の場合、パッド13があるため、パッド13には、砥石本体11に形成される係合溝部14と同じ位置に溝加工を行うとよい。
【0013】
係合溝部14は、砥石本体11の回転中心を中心として、パッド13上に円形状に形成される。係合溝部14は、本実施形態では、断面V字状の溝とされる。なお、係合溝部としては、断面V字状の溝の他、たとえば、断面U字状の溝、断面半円形状等の様々な形を採用することができる。また、係合溝部14は、砥石本体11の成形、焼成と同時に形成してもよく、焼成後に物理的加工により形成してもよい。本実施形態の係合溝部14は、砥石本体11の両側面に形成され、それぞれの係合溝部14は、砥石本体11の回転中心から同じ半径位置に形成される。
【0014】
以下の説明では、砥石10を用いた場合について説明するが、本発明はこれに限られず、
図2に示すような、研削工程で用いることの多いダイヤモンド・CBN・電着砥石である砥石20にも用いることができる。砥石20は、台金21、開口孔22、砥粒部23、及び係合溝部24を備える。台金21は、円形の金属板から構成され、中央には、開口孔22が形成されている。台金21の材質としては、たとえば、アルミニウム等が採用される。開口孔22は、円形の台金21の回転中心を中心とした円形状の孔である。
【0015】
砥粒部23は、台金21の円形の外周端面に、砥粒が練りこまれ、又は電着されて形成される。砥粒部23に用いられる砥粒としては、たとえば、ダイヤモンド、CBN(Cubic Boron Nitride)等が用いられる。係合溝部24は、台金21の円形中心を中心とした円形状の溝から構成され、台金21の表裏面の同じ半径位置に形成される。係合溝部24は、台金21の外形切削加工時に同時に形成してもよく、後加工で切削により形成してもよい。なお、ダイヤモンド・CBN・電着砥石である砥石20の場合、砥石20の真円度が高いので、砥石20の外形から心出しを行って、溝加工を行うことができる。
【0016】
図3及び
図4には、本実施形態に係る調整側フランジ(ナット)30が示されている。調整側フランジ30は、後述する固定側フランジ51とともに、砥石10を挟持する構成を有し、工作機械のスピンドル50(
図5参照)に装着される。詳しくは後述するが、調整側フランジ30には、バランス錘41が取り付けられ、フランジ付き砥石1の重心位置が調整される。調整側フランジ30は、フランジ本体31、バランス調整溝部32、スピンドル挿入孔33、ボルト挿入孔34、砥石挿入部35、及び係合凸部36を備える。
【0017】
フランジ本体31は、金属製の円板状体から構成され、外周縁近傍の内側にバランス調整溝部32が形成され、バランス調整溝部32が形成された面とは反対側の面が挟持面(保持面)31Aとされる。バランス調整溝部32は、フランジ本体31の外周縁に沿った円形状の溝から構成され、溝内部には、複数のバランス錘41が取り付けられる。スピンドル挿入孔33は、工作機械のスピンドル50が挿入される孔であり、フランジ本体31の回転中心と同心円上に形成される。
【0018】
ボルト挿入孔34は、調整側フランジ30と後述する固定側フランジ51とを連結するボルト56が挿入される孔であり、調整側フランジ30の回転中心回りに均等に6か所形成されている。調整側フランジ30を後述する固定側フランジ51に固定することにより、砥石10は、調整側フランジ30及び固定側フランジ51に挟持される。本実施形態では、フランジ本体31の回転中心回りに6か所形成されているが、これに限らず、フランジ本体31の回転中心回りに均等に8か所、10か所形成されてもよい。また、調整側フランジの回転中心回りに雌ねじ部を形成し、固定側フランジの回転中心回りに形成された雄ねじ部と螺合させ、ボルト挿入孔が形成されていない一対のフランジであってもよい。
【0019】
砥石挿入部35は、スピンドル挿入孔33を囲む円形状の突条から構成される。砥石挿入部35は、砥石10の開口孔12に挿入され、砥石挿入部35の外周と開口孔12の内周との間には、クリアランスが設けられている。クリアランスは、砥石10の成形、焼成ムラにより開口孔12の径にばらつきが生じても、砥石10を砥石挿入部35に挿入できるようにするために設けられている。
【0020】
係合凸部36は、
図4に示すように、フランジ本体31の挟持面31Aから突出する円形状の突条である。係合凸部36の断面形状は、砥石10の係合溝部14の断面形状に応じたものであり、たとえば、係合溝部14の断面形状がV字状であれば、係合凸部36の断面形状は三角形状の断面とされる。係合凸部36は、砥石10の回転中心と調整側フランジ30の回転中心を合わせたときに、同じ半径位置に形成される。本実施形態では、係合凸部36は、調整側フランジ30の外周縁に沿って設けられている。
【0021】
図5には、工作機械のスピンドル50に本実施形態のフランジ付き砥石1を装着した断面図が示されている。本実施形態のフランジ付き砥石1は、砥石10を調整側フランジ30及び固定側フランジ51で挟持し、ボルト56により一体化した後、工作機械のスピンドル50に装着され、研削加工に用いられる。
【0022】
固定側フランジ51は、工作機械のスピンドル50の基端側に挿入されスピンドル挿入孔52が回転中心に形成される。スピンドル挿入孔52は、挿入方向に拡径するテーパ孔とされる。固定側フランジ51には、調整側フランジ30と同様に砥石挿入部53が形成されている。砥石挿入部53は、砥石10の開口孔12(
図5では図示略)に挿入される。また、固定側フランジ51には、回転中心回りに均等なピッチで複数の雌ねじ孔54が形成されている。雌ねじ孔54の回転中心からの半径位置、ピッチ、個数は、調整側フランジ30のボルト挿入孔34と同様である。
【0023】
砥石10を挟持する固定側フランジ51の挟持面51Aには、調整側フランジ30と同様に、固定側フランジ51の回転中心を中心とした円形状の係合凸部55が形成されている。係合凸部55は、調整側フランジ30の係合凸部36の半径位置と同じ半径位置に形成される。係合凸部55は、砥石本体11に形成された係合溝部14と係合する。
【0024】
フランジ付き砥石1の組み立ては、以下のように行う。まず、砥石10を、調整側フランジ30及び固定側フランジ51で挟み込み、係合溝部14に係合凸部36、55を係合させる。このように係合溝部14に係合凸部36、55を係合させることで、フランジ30、51の回転中心と砥石10の回転中心とを同心上に位置決めすることができる。次に、調整側フランジ30のボルト挿入孔34にボルト56を挿入し、固定側フランジ51側に形成された雌ねじ孔54に螺合する。なお、ボルト56の螺合時には、仮締めを行った後、トルクレンチ等を用いて締め付け力を確認しながら、締め付け力が均等となるように行う。また、1本のボルト56による締め付けが終了したら、次に対向位置にあるボルト56の締め付けを行う。車輪のホイールを締め付ける順番で回転方向に星形に繰り返して、すべてのボルト56による締め付けを行う。
【0025】
前述のフランジ付き砥石1が組み立てられたら、フランジ付き砥石1のバランス調整を行う。バランス調整には静バランス調整と動バランス調整がある。フランジ付き砥石1の静バランス調整は、砥石10の製造時、砥石10の砥粒の偏析が生じるため、砥石10の回転中心と重心位置を合わせるために行われる。まず、フランジ30、51に砥石10を組み込み、工作機械のスピンドル50に取り付ける。フランジ付き砥石1を回転させてツルーイングを行い、振れ取りを行う。振れ取りが終了したら、フランジ付き砥石1を工作機械から外し、スピンドル挿入孔33、52にアーバーを挿入し、挿入されたアーバーを、たとえば、水平に置かれた平行式バランス台に載置する。フランジ付き砥石1は、平行式バランス台の平行棒上で揺動し、最も重い部分を鉛直下方に向けて、停止する。停止したら、フランジ付き砥石1の鉛直上方に向いた位置(フランジ付き砥石1の最も軽い位置)に、第1のバランス錘41を調整側フランジ30のバランス調整溝部32に取り付ける。
【0026】
[1]静バランス調整
次に、第1のバランス錘41を取り付けた位置から、左右に振り分けた位置に、第2のバランス錘41、第3のバランス錘41を、バランス調整溝部32に取り付け、第2のバランス錘41、第3のバランス錘41の取付位置を調整しながら、平行式バランス台上でフランジ付き砥石1の静バランスを調整する。
【0027】
[2]動バランス調整
動バランス調整を行う場合、まず、
図5に示すように、フランジ付き砥石1を工作機械のスピンドル50に挿入し、スピンドル50の先端に形成された雄ねじ部に固定ねじ57を螺合して固定する。次に、工作機械に動バランス調整装置を取り付け、工作機械を起動し、研削・研磨条件に応じた状態でフランジ付き砥石1を回転させ、ツルーイング(振れ取り)を行う。ツルーイングが終了したら、フランジ付き砥石1に取り付けられたバランス錘41の位置を微調整しながら、動バランス調整装置で検出した振動を基に動バランスを調整する。
【0028】
フランジ付き砥石1のツルーイング、バランス調整が終了したら、砥石10のドレッシングを行う。ドレッシングは、砥粒をダイヤモンドドレッサで微小に削る目立てであり、砥石10の切れ味をよくする作業である。フランジ付き砥石1のドレッシングが終了したら、工作機械の研削作業を開始する。
【0029】
このような本実施形態によれば、調整側フランジ30に形成された係合凸部36、及び固定側フランジ51に形成された係合凸部55を、砥石10に形成された係合溝部14に係合することにより、フランジ30、51の回転中心と砥石10の回転中心とのずれを少なくすることができる。このため、フランジ付き砥石1のツルーイング時、砥石10の研削量を少なくすることができる。また、砥石10とフランジ30、51の回転中心のずれが少なくなることで、バランス調整のばらつきを低減できる。なお、フランジ付き砥石1のツルーイングは、砥石10からフランジ30、51を取り外し、再度組み立てた際にも行われるが、このような場合もフランジ30、51の回転中心と砥石10の回転中心のずれを低減できる。従って、再度の組み立て後、さらにツルーイングを行っても研削量を低減することができる。さらに、バランス調整を行ったスピンドル50、フランジ30、51、砥石10に合いマークを付けておくと、微小なズレで再度取り付ける事ができる。
【0030】
砥石10の係合溝部14がパッド13上に形成されることにより、砥石10を交換する際に係合溝部14が削れてしまうことを低減することができる。また、ダイヤモンド・CBN・電着砥石である砥石20の台金21に係合溝部24を形成することにより、一般砥石である砥石10と同様の効果を奏することができる。また、係合溝部14、24を断面V字状に形成することにより、砥石10、20の側面に後加工で簡単に係合溝部14、24を形成できる。
【0031】
次に本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下の説明では、すでに説明した部分及び部材等については、同一符号を付して説明を省略する。
図6には、第2実施形態に係るフランジ付き砥石100が示されている。フランジ付き砥石100は、砥石101、調整側フランジ(ナット)102、及び固定側フランジ103を備える。
【0032】
調整側フランジ102は、砥石101の一方の側面に当接する。調整側フランジ102は、金属製の円板状体から構成され、図示を略したが、前述した第1実施形態の調整側フランジ30と同様に、円板の回転中心を中心としたスピンドル挿入孔が形成される。スピンドル挿入孔の外側には、スピンドル挿入孔回りに同心円状に複数のボルト挿入孔が形成される。また、複数のボルト挿入孔の外側であって、調整側フランジ102の砥石101と当接する面とは反対側の面には、スピンドル挿入孔回りに円形状のバランス調整溝部が形成され、バランス調整溝部に複数のバランス錘を取り付けることにより、フランジ付き砥石100の重心位置を調整する。
【0033】
図7Aには固定側フランジ103の平面図が示され、
図7Bには固定側フランジ103の側面図が示されている。固定側フランジ103は、金属製の円板状体から構成され、円板の回転中心には、面外方向にボス103Aが設けられ、ボス103Aの内側には、工作機械のスピンドルに挿入されるスピンドル挿入孔103Bが形成される。
【0034】
スピンドル挿入孔103Bの回転中心回りには、同心円状に雌ねじ孔103Cが複数形成(本実施形態では6か所)されている。複数の雌ねじ孔103Cのそれぞれには、図示を略したが、調整側フランジ102の厚さ方向に挿入されるボルトが螺合する。それぞれのボルトを螺合することにより、調整側フランジ102及び固定側フランジ103は互いに接近し、砥石101の側面を挟持する。
【0035】
スピンドル挿入孔103Bの回転中心回りには、複数の雌ねじ孔103Cの径方向外側に、スピンドル挿入孔103Bの回転中心を中心とした仮想円周線上に離散的に配置される複数(本実施形態では6か所)の係合凸部104が設けられている。係合凸部104は、
図8に示すように、固定側フランジ103の厚さ方向に貫通する貫通孔103Dに挿入され、先端が固定側フランジ103の挟持面から面外方向に突出する。
【0036】
係合凸部104は、金属製の軸状部材から構成され、固定側フランジ103の挟持面とは反対側の面から挿入される。係合凸部104は、固定側フランジ103の挟持面とは反対側の面を基端として、先端側に向かって螺合部となる雄ねじ部104A、付勢部となる圧縮ばね104B、ストッパ104C、及び先端部104Dを備える。
【0037】
雄ねじ部104Aは、係合凸部104の軸状部材の大径部分に形成され、図示を略したが、貫通孔103Dの内周面の基端側に形成された雌ねじ部と螺合する。圧縮ばね104Bは、係合凸部104の軸状部材に挿入されるコイルばねから構成され、雄ねじ部104Aの突出側に設けられる。ストッパ104Cは、外周が係合凸部104の圧縮ばね104Bの外側に突出し、圧縮ばね104Bが突出方向に伸張することを防止する。先端部104Dは、先端が円錐状の突起形状を有し、固定側フランジ103の砥石101の挟持面から面外方向に突出する。
【0038】
図9には、本実施形態の砥石101が示されている。砥石101は、第1実施形態と同様に一般砥石であり、円形状の砥石101の中心には、固定側フランジ103のボス103Aが挿入される開口孔101Aが形成される。開口孔101Aの中心は、砥石101の回転中心とされる。開口孔101Aの径方向の外側には、砥石101の回転中心回りの仮想円周上であって、複数の係合凸部104に応じた位置に離散的に配置される複数(本実施形態では6か所)の係合凹部101Bが形成される。係合凹部101Bは、円錐状凹面からなる穴から構成され、切削工具で砥石101の側面を削孔することにより形成される。
【0039】
図10には、砥石101に固定側フランジ103を取り付けた状態の部分断面図が示されている。砥石101の係合凹部101Bには、固定側フランジ103の係合凸部104が係合する。砥石101の側面に固定側フランジ103の挟持面を取り付けると、係合凸部104は、圧縮ばね104Bが収縮し、先端部104Dが固定側フランジ103の挟持面内に没入し、先端部104Dの位置が砥石101の係合凹部101Bの位置に合致すると、圧縮ばね104Bの付勢力により固定側フランジ103の挟持面から突出し、係合凸部104及び係合凹部101Bは互いに係合する。
【0040】
フランジ付き砥石100を組み立てるに際しては、
図11に示すように、固定側フランジ103の貫通孔103Dに応じた位置に、調整側フランジ102に貫通孔102Aを形成し、砥石101の側面にも係合凹部101Bの位置に貫通孔101Cを形成しておき、貫通孔101C、102A、103Dに位置決めピン102Bを挿入して、係合凸部104及び係合凹部101Bの位置合わせを行い、係合凸部104及び係合凹部101Bを係合させる。
【0041】
本実施形態によれば、前述した第1実施形態と同様の作用及び効果を享受できる。加えて、係合凸部104及び係合凹部101Bがフランジ付き砥石100の回転中心を中心として、離散的に配置されることにより、固定側フランジ103に対する砥石101の回転方向の移動を規制できるので、砥石101とフランジ102、103の回転中心ずれを一層少なくすることができる。
【0042】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すような変形を含む。前述の実施形態では、砥石10の両側面に係合溝部14を形成し、フランジ30、51の係合凸部36、55と係合させていたが、本発明はこれに限られない。砥石10の一方の側面に係合溝部14を形成し、フランジ30、51のいずれかに形成された係合凸部36又は係合凸部55に係合させてもよい。
【0043】
また、前述の実施形態では、フランジ30、51の係合凸部36、55及び砥石10の係合溝部14は、円形状に連続していたが、本発明はこれに限らない。例えば、砥石の回転中心回りに複数の円錐状の係合穴を形成し、フランジの挟持面に回転中心回りに複数の円錐状の突起を形成しておき、これらを係合させてもよい。すなわち、複数の係合穴は破線で円形状の係合溝部となり、複数の係合突起は破線で円形状の係合凸部となるので、前述と同様の作用及び効果を享受できる。
【0044】
さらに、前述の実施形態では、砥石10は一対のフランジ30、51に挟持されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、ディスクグラインダーのように、砥石を1枚のフランジで保持する場合であっても、本発明の砥石を利用することができる。その他、本発明の実施の際の形状、構造は、本発明の目的を達成できる範囲で他の形状、構造としてもよい。
【0045】
なお、前述の実施形態では、砥石10を挟持した調整側フランジ30及び固定側フランジ51をボルト56により一体化するフランジ付き砥石1について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、調整側フランジ及び固定側フランジのうちいずれか一方に雄ねじを設け、調整側フランジ及び固定側フランジのうち残りの他方に当該雄ねじと螺着可能な雌ねじを設けたフランジ付き砥石としてもよい。この場合、フランジ付き砥石は、砥石10を挟持した調整側フランジ30及び固定側フランジ51を、ボルト56を用いずに雄ねじ及び雌ねじにより一体化することができる。
【0046】
前述の第2実施形態では、複数の係合凸部104及び複数の係合凹部101Bを、固定側フランジ103及び砥石101の回転中心回りの仮想円周上に配置していたが、本発明はこれに限らない。例えば、固定側フランジ103及び砥石101の回転中心回りの四角形や五角形、さらには星形形状等の仮想多角形上に複数の係合凸部及び複数の係合凹部を配置してもよい。
【0047】
前述の第2実施形態では、複数の係合凸部104を固定側フランジ103の挟持面に設けていたが、本発明はこれに限られない。複数の係合凸部を調整側フランジ102の挟持面に設けてもよく、固定側フランジ103及び調整側フランジ102の挟持面の両方に設けてもよい。
【0048】
前述の第2実施形態では、係合凸部104の先端部104Dの先端形状は円錐状であり、係合凹部101Bの形状は円錐状の凹面から形成されていたが、本発明はこれに限らない。例えば、係合凸部の先端形状を平面視で三角形状、四角形状、扇形状とし、砥石側の係合凹部をこれに倣う形状にしてもよい。
【0049】
前述の実施形態では、係合溝部14に係合凸部36、55を係合していたが、本発明はこれに限らない。例えば、実施形態の係合溝部14に第2実施形態の係合凸部104を係合させてもよい。さらには、実施形態のように、円周線状溝部ではなく、間欠的に溝部が円周線状に形成された係合溝部に、第2実施形態の係合凸部を係合させてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1、100 フランジ付き砥石
10、20、101 砥石
12、101A 開口孔
13 パッド
14、24 係合溝部
30 調整側フランジ(フランジ)
31A、51A 挟持面(保持面)
33、52 スピンドル挿入孔
36、55、104 係合凸部
51、103 固定側フランジ(フランジ)
101B 係合凹部
103D 貫通孔
104A 雄ねじ部(螺合部)
104B 圧縮ばね(付勢部)
104D 先端部