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  • 特開-多孔質ジルコニア粒子 図1
  • 特開-多孔質ジルコニア粒子 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031825
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】多孔質ジルコニア粒子
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20240229BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240229BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20240229BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B01J20/06 A
B01J20/28 Z
C01G25/02
C07K16/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110519
(22)【出願日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2022133208
(32)【優先日】2022-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 昌大
(72)【発明者】
【氏名】米倉 宏
(72)【発明者】
【氏名】山口 将吾
【テーマコード(参考)】
4G048
4G066
4H045
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB02
4G048AB04
4G048AC08
4G048AD03
4G048AE05
4G066AA23B
4G066AA23C
4G066AB10B
4G066AB13B
4G066AB19B
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA25
4G066BA35
4G066BA36
4G066CA54
4G066DA07
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA60
(57)【要約】
【課題】カラムへの充填にも適し、タンパク質の吸着能力が高い多孔質ジルコニア粒子を提供する。
【解決手段】タンパク質の固定に用いられる多孔質ジルコニア粒子である。多孔質ジルコニア粒子は、粒子破壊強度が0.4MPa以上であり、水銀圧入法を用いて測定した細孔直径10nm以上2000nm以下の範囲において、総細孔容積が0.4cm/g以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の固定に用いられる多孔質ジルコニア粒子であって、
粒子破壊強度が0.4MPa以上であり、
水銀圧入法を用いて測定した細孔直径10nm以上2000nm以下の範囲において、総細孔容積が0.4cm/g以上である、多孔質ジルコニア粒子。
【請求項2】
前記総細孔容積が0.4cm/g以上0.8cm/g以下である、請求項1に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【請求項3】
前記総細孔容積が0.6cm/g以上0.7cm/g以下である、請求項1に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【請求項4】
前記タンパク質は、免疫グロブリンであることを特徴とする請求項1に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【請求項5】
前記免疫グロブリンは、IgG、IgM、IgA、IgY、IgE、及びIgDからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【請求項6】
表面に、キレート剤が担持されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【請求項7】
前記キレート剤は、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTPA)である請求項6に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【請求項8】
前記キレート剤の担持量は、蛍光X線(XRF)による元素分析で、0.66mass%以上2.76mass%以下である請求項6に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は多孔質ジルコニア粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
特定タンパク質を選択的に吸着させることで、特定タンパク質を分離精製するカラムが検討されている。
例えば、特許文献1では、この目的のために多孔質ジルコニア粒子を採用した技術が開示されている。この文献では、窒素吸着実験(ガス吸着法)によるBET法により測定された累積細孔容積を規定することで、特定タンパク質の吸着量を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/153253号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のように、表面性状の測定に関して、ガス吸着法による評価を採用すると、その測定範囲からほぼ1次粒子のパラメータに依存した値が得られてしまう。よって、ガス吸着法による評価をしても、1次粒子間の状態等の2次粒子体の表面性状の把握は困難であった。そのため、BET法により測定された累積細孔容積を規定しても、必ずしも特定タンパク質の吸着量は十分でない場合があった。
また、多孔質ジルコニア粒子をカラムに充填して使用する場合、粒子にはカラム使用の際に崩壊等しないことも要求される。
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、カラムへの充填にも適し、タンパク質の吸着能力が高い多孔質ジルコニア粒子を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]
タンパク質の固定に用いられる多孔質ジルコニア粒子であって、
粒子破壊強度が0.4MPa以上であり、
水銀圧入法を用いて測定した細孔直径10nm以上2000nm以下の範囲において、総細孔容積が0.4cm/g以上である、多孔質ジルコニア粒子。
[2]
前記総細孔容積が0.4cm/g以上0.8cm/g以下である、[1]に記載の多孔質ジルコニア粒子。
[3]
前記総細孔容積が0.6cm/g以上0.7cm/g以下である、[1]に記載の多孔質ジルコニア粒子。
[4]
前記タンパク質は、免疫グロブリンであることを特徴とする[1]に記載の多孔質ジルコニア粒子。
[5]
前記免疫グロブリンは、IgG、IgM、IgA、IgY、IgE、及びIgDからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする[4]に記載の多孔質ジルコニア粒子。
[6]
表面に、キレート剤が担持されていることを特徴とする[1]から[5]のいずれか1項に記載の多孔質ジルコニア粒子。
[7]
前記キレート剤は、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTPA)である[6]に記載の多孔質ジルコニア粒子。
[8]
前記キレート剤の担持量は、蛍光X線(XRF)による元素分析で、0.66mass%以上2.76mass%以下である[6]に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【発明の効果】
【0006】
本開示の多孔質ジルコニア粒子は、カラムへの充填にも適し、タンパク質の吸着能力が高い。
総細孔容積が0.4cm/g以上0.8cm/g以下である場合には、粒子強度が強く、カラムからの粒子漏れが十分に抑制される。
総細孔容積が0.6cm/g以上0.7cm/g以下である場合には、粒子強度がより強くなり、カラムで使用する際にピペッティング操作をする場合や、通液速度が速い場合でも、破壊されにくくなり、ハンドリング性が向上する。また、総細孔容積がこの範囲内である場合には、市販のプロテインAと同程度の吸着能力を確保できる。
本開示の多孔質ジルコニア粒子は、固定されるタンパク質が、免疫グロブリンである場合には、選択性が非常に高い。
本開示の多孔質ジルコニア粒子は、固定されるタンパク質が、IgG、IgM、IgA、IgY、IgE、及びIgDからなる群より選択される少なくとも1種である場合には、選択性が極めて高い。
本開示の多孔質ジルコニア粒子の表面に、キレート剤が担持されていると、選択性がより高まる。
キレート剤が、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTPA)であると、選択性が高い。
キレート剤の担持量が、蛍光X線(XRF)による元素分析で、0.66mass%以上2.76mass%以下であると、選択性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTPA)の推定担持構造を示す模式図である。
図2】EDTPA担持量とタンパク質結合量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示を詳しく説明する。尚、本明細書において、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。 また、本明細書において、各数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0009】
1.多孔質ジルコニア粒子
本開示の多孔質ジルコニア粒子は、タンパク質の固定に用いられる。
(1)多孔質ジルコニア粒子の粒子径
多孔質ジルコニア粒子の粒子径は、カラムに充填して使用するに際して、カラムに設置されるフィルターからの漏れを抑制する観点から、10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、45μm以上が更に好ましい。他方、タンパク質の吸着効率の観点から、100μm以下が好ましく、90μm以下がより好ましく、80μm以下が更に好ましい。これらの観点から、多孔質ジルコニア粒子の粒子径は、10μm以上100μm以下が好ましく、30μm以上90μm以下がより好ましく、45μm以上80μm以下が更に好ましい。
尚、多孔質ジルコニア粒子を所望の粒子径とするためには例えば分級が好適に用いられる。分級としては、公知の分級処理を用いることができる。例えば、ふるいを用いることができる。カラムは、例えば分取用のオープンカラムクロマトグラフィー、中圧カラムクロマトグラフィーなどに用いられる。
多孔質ジルコニア粒子の粒子径は、顕微鏡によって観察することによって、粒子径を規定できる。多孔質ジルコニア粒子を顕微鏡によって観察し、当該粒子の画像を取得する。取得した画像から、粒子のそれぞれの面積を画像処理によって算出する。算出した粒子の面積と同じ面積を有する円の直径(面積円相当径)をそれぞれの粒子ごとに算出する。そして、算出した円の直径を平均化したものを粒子径として規定できる。
【0010】
(2)粒子破壊強度
多孔質ジルコニア粒子の粒子破壊強度は、カラムへ充填して使用する際に強度不足による不具合を抑制する観点から、0.4MPa以上であり、1.2MPa以上が好ましく、1.7MPa以上がより好ましい。粒子破壊強度の上限値は特に限定されないが、通常、200MPaである。
粒子破壊強度は、微小圧縮試験機を用いて測定できる。具体的には、多孔質ジルコニア粒子を試料とし、微小圧縮試験機(島津製作所、MCT211)を用いて、試料に一定の負荷速度で荷重を負荷し、粒子が破壊した時点の荷重値を、荷重に対して垂直に見た粒子の投影面積で割った値を圧縮強度(MPa)とする。さらに、この操作を4回繰り返し、5個の試料について圧縮強度を測定し、その平均値を粒子破壊強度とする。試料としては、粒子の直径が40μm以上60μm以下の多孔質ジルコニア粒子を選別して用いることができる。
【0011】
(3)総細孔容積
総細孔容積は、細孔直径10nm以上2000nm以下の範囲において、0.4cm/g以上である。この範囲であると、タンパク質の十分な吸着能力を発揮する。例えば、この範囲であると、ジルコニア製品「Zir Chrom」(Zir Chrom Seperations Inc.)のIgG吸着量よりも高い能力を発揮し、市販のプロテインAの半分程度のIgG吸着量を確保できる。
総細孔容積は、細孔直径10nm以上2000nm以下の範囲において、0.4cm/g以上0.8cm/g以下であることが好ましい。この範囲であると、タンパク質の十分な吸着能力を発揮し、かつ、十分な粒子強度を確保して、粒子の崩壊に起因するカラムからの粒子漏れを抑制できる。
総細孔容積は、細孔直径10nm以上2000nm以下の範囲において、0.6cm/g以上0.7cm/g以下であることが好ましい。この範囲であると、タンパク質の十分な吸着能力を発揮し、かつ、十分な粒子強度を確保して、粒子の崩壊に起因するカラムからの粒子漏れを抑制できる。0.7cm以下とすることで、更に高い粒子強度が期待でき、カラムで使用する際にピペッティング操作をする場合や、通液速度が速い場合でも、破壊されにくくなり、ハンドリング性が向上する。0.6cm以上とすることで、市販のプロテインAと同程度の吸着量を発揮できる。
総細孔容積は、気孔径分布を解析することによって求める。具体的には、気孔径分布の解析は、次のように行う。水銀ポロシメータ(マイクロメリティックス社 オートポアIV9510)を用いて接触角を130°、表面張力を485mN/mの条件で水銀圧入法により測定された気孔径及びlog微分細孔容積を、それぞれ横軸及び縦軸とする気孔径分布のグラフを作成して解析する。測定に用いるサンプル量は、0.15g-0.25gとする。
【0012】
2.タンパク質
固定の対象となるタンパク質は、特に限定されない。本開示の多孔質ジルコニア粒子は、免疫グロブリン、特に、IgG、IgM、IgA、IgY、IgE、及びIgDからなる群より選択される少なくとも1種を選択的に固定することに優れている。
尚、本開示において、「固定」とは、物理的固定と、化学的固定を含む。本開示の多孔質ジルコニア粒子は、その細孔内でのタンパク質の固定に、毛細管現象によりタンパク質が挿入される物理的固定と、ジルコニア表面に共有結合などの化学結合を利用した化学的固定を利用しており、高いタンパク質固定能を有している。
【0013】
3.キレート剤
多孔質ジルコニア粒子の表面には、キレート剤が担持されていてもよい。キレート剤を担持することで、選択性がより高まる。
キレート剤は、特に限定されない。キレート剤として、下記一般式(1)で表される化合物、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DETPA)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DETPPA)、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。尚、塩としては、例えば、アルカリ金属(ナトリウム等)の塩が好適に例示される。
【0014】
【化1】

(一般式(1)中、Rは炭素数1~10のアルキレン基である。また、R~Rは炭素数1~10のアルキレン基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0015】
一般式(1)のRにおける炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、イソブチレン基等が例示される。
また、R~Rにおける炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、イソブチレン基等が例示される。
【0016】
キレート剤としては、免疫グロブリンに対する選択性をより高めるという観点から、一般式(1)で表される化合物が好ましい。一般式(1)で表される化合物の中でも、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTPA;N,N,N’,N’-Ethylenediaminetetrakis(methylenephosphonic Acid))が特に好ましい。
EDTPA修飾により、粒子表面にリン酸基由来の静電的効果が付与される。抗体精製では、主な夾雑物としてアルブミンやトランスフェリン等の酸性物質が例示される。本修飾によって、粒子表面の酸性物質に対する静電的反発が高まる。そして、粒子表面への酸性物質の吸着が抑制され、その結果、免疫グロブリン吸着の選択性が向上すると推測される。
【0017】
キレート剤の担持量は、特に限定されない。キレート剤の担持量は、免疫グロブリンに対する選択性をより高めるという観点から、キレート剤の担持量は、蛍光X線(XRF)による元素分析で、0.66mass%以上2.76mass%以下であることが好ましく、1.00mass%以上2.00mass%以下であることがより好ましく、1.20mass%以上1.80mass%以下であることが更に好ましい。尚、キレート剤の担持量は、キレート剤が担持された状態での多孔質ジルコニア粒子を100mass%とした値である。
【0018】
キレート剤の担持態様は、明らかではないが、ジルコニウム原子に、キレート剤に由来する配位子が結合しているものと推測される。例えば、キレート剤がエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸の場合には、図1の構造であると推測される。
【0019】
4.多孔質ジルコニア粒子の製造方法
多孔質ジルコニア粒子の製造方法は、特に限定されないが、以下の製造方法が好適に採用される。
(1)多孔質ジルコニア粒子の製造
多孔質ジルコニア粒子を製造するためには、まず、多孔質ジルコニア粒子(多孔質ジルコニア粉末原料)を製造する。多孔質ジルコニア粒子(多孔質ジルコニア粉末原料)は、例えば、次の方法によって製造できる。ジルコンを原料として、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl・8HO)溶液を得る。そして、加水分解反応により、Zr(OH)微粒子とし、これを焼成して、多孔質ジルコニア粒子(多孔質ジルコニア粉末原料)とする。
【0020】
(2)多孔質ジルコニア粒子の製造
多孔質ジルコニア粉末原料と水(HO)を、水分割合(%)が所定の値となるようにボールミルで混合してスラリーを作製する。スラリーをスプレードライヤーにて造粒し、所定の粒径の粒子を製造する。この粒子を所定温度で、所定時間、焼成する。多孔質ジルコニア粉末原料としては、特に限定されないが、例えば、第一稀元素化学工業製UEP-100、新日本電工製のPCS90、新日本電工製のPCS140等を好適に用いることができる。
スラリーにおける水分量は、特に限定されない。水分量は、所望の総細孔容積を有する多孔質ジルコニア粒子を製造する観点から、スラリー全体を100質量%とした場合に、65質量%以上90質量%以下であることが好ましく、75%質量以上85質量%以下であることがより好ましく、77%質量以上83%質量以下であることが更に好ましい。
焼成温度は、特に限定されない。焼成温度は、所望の総細孔容積を有する多孔質ジルコニア粒子を製造する観点から、600℃以下であることが好ましく、350℃以上550℃以下であることがより好ましく、420℃以上520℃以下であることが更に好ましい。
焼成時間は、特に限定されない。焼成時間は、所望の総細孔容積を有する多孔質ジルコニア粒子を製造する観点から、10時間以下であることが好ましく、1時間以上5時間以下であることがより好ましく、1.5時間以上3時間以下であることが更に好ましい。
【0021】
(3)キレート剤の担持
キレート剤の溶液(例えばEDTPA水溶液)と、造粒した多孔質ジルコニア粒子とを混合し、加温することで、多孔質ジルコニア粒子にキレート剤を担持する(修飾反応する)。
溶液におけるキレート剤の濃度は限定されない。キレート剤の濃度は、0.000625M以上0.02M以下の範囲が好ましい。キレート剤の濃度によって、担持量をコントロールできる。
修飾反応の温度条件は、特に限定されない。反応温度は、例えば60℃以上100℃以下であることが好ましい。
修飾反応の時間条件は、特に限定されない。反応時間は、反応温度に応じて調整できる。例えば60℃であれば約3日間、100℃(環流条件)であれば3時間程度で反応は収束する。
修飾反応後に、遠心分離にて反応溶液を除去し、その後、多孔質ジルコニア粒子を乾燥して、表面にキレート剤が担持された多孔質ジルコニア粒子(表面修飾多孔質ジルコニア粒子)が得られる。
【実施例0022】
実施例により本開示を更に具体的に説明する。以下の実験では、水銀圧入法による総細孔容積と、タンパク質の吸着量との関係等を検討した。また、比較のために、BET法による総細孔容積と、タンパク質の吸着量との関係も検討した。
【0023】
<実験A>
1.多孔質ジルコニア粒子の作製
(1)No.12
原料ジルコニア粉末として、第一稀元素化学工業製UEP-100を用いた。スプレードライ装置として、大川原化工機製MLD-22を用いた。
原料ジルコニア粉末と水とを、水分量80質量%(原料ジルコニア粉末:水=20:80(質量比))になるようにして、ボールミルにて混合及び粉砕し、スラリーを作製した。
作製したスラリーを100mL/minの供給速度でスプレードライ装置に投入し、アトマイザ回転数9000rpm、出口乾燥温度90℃でスプレードライにて造粒した。
得られた平均径約50μmの造粒紛を500℃(3時間昇温(500℃まで昇温にかけた時間)、2時間キープ(500℃を2時間保持))で焼成し、その後、分級して、粒径を45μm以上100μm以下に揃えてNo.12の造粒紛を得た。
【0024】
(2)No.1-11,13-16、比較例A,B
以下に示す表1のように、スラリー作製時の水分量(スラリー中の水分量)、混合粉砕条件(混合粉砕時間)、スプレードライ条件(スプレーの供給速度)、焼成条件(焼成温度及び焼成時間)を変動させることで、細孔容積や強度等の粒子特性のコントロールを行った以外はNo.12と同様にして、No.1-11,13-16、比較例A,Bの多孔質ジルコニア粒子を作製した。
【0025】
【表1】
【0026】
2.多孔質ジルコニア粒子の特性測定
(1)水銀圧入法による細孔容積の測定
総細孔容積は、気孔径分布を解析することによって求めた。具体的には、気孔径分布の解析は、次のように行った。水銀ポロシメータ(マイクロメリティックス社 オートポアIV9510)を用いて接触角を130°、表面張力を485mN/mの条件で水銀圧入法により測定された気孔径及びlog微分細孔容積を、それぞれ横軸及び縦軸とする気孔径分布のグラフを作成して解析した。測定に用いたサンプル量は、0.15g-0.25gとした。
【0027】
(2)IgGの固定、及びIgG量の測定
各多孔質ジルコニア粒子に対して、それぞれ次のようにして、IgGを固定し、固定されたIgG量を求めた。
多孔質ジルコニア粒子へのIgGの固定は、以下のように行った。スピッツに500μLの10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を入れて、この液に多孔質ジルコニア粒子3mgを加えた。多孔質ジルコニア粒子を十分に分散させた後、IgG(750μg/500μL)を500μL加えて、遮光下、4℃で一晩撹拌した。
スピッツを、12,000回転で10分間遠心して、多孔質ジルコニア粒子を沈殿分離した。上澄み溶液に残存する未固定のIgG量を、プロテインアッセイ染色液(BIO-RAD)を用い、マイクロプレートリーダー(InfiniteF200PRO,TECAN)により定量した。始めに加えたIgG量と、未固定のIgG量との差分を固定されたIgG量(IgG抗体吸着量)とした。
【0028】
(3)粒子破壊強度
多孔質ジルコニア粒子を試料とし、微小圧縮試験機(島津製作所、MCT211)を用いて、試料に一定の負荷速度で荷重を負荷し、粒子が破壊した時点の荷重値を、荷重に対して垂直に見た粒子の投影面積で割った値を圧縮強度(MPa)とした。さらに、この操作を4回繰り返し、5個の試料について圧縮強度を測定し、その平均値を粒子破壊強度とした。試料としては、40μm以上60μm以下の多孔質ジルコニア粒子を選別して用いた。
【0029】
(4)BET法による総細孔容積の測定
No.1,3,7,12,16については、BET法による総細孔容積の測定も行った。BET法による総細孔容積は、マイクロメリティックス 自動比表面積/細孔分布測定装置(TriStarII 島津製作所)を用いて測定した。各多孔質ジルコニア粒子を50mg程度秤量し、80℃で3時間脱気乾燥した物を試料として用いた。各値は、窒素吸着実験からBET法により算出した。
【0030】
3.実験結果(その1)
水銀圧入法による総細孔容積と、IgG抗体の吸着量及び粒子破壊強度との関係を表2に示す。
No.2-12,14,16は、次の要件〔1〕〔2〕の全てを満たしている。
要件〔1〕粒子破壊強度が0.4MPa以上である。
要件〔2〕水銀圧入法を用いて測定した細孔直径10nm以上2000nm以下の範囲において、総細孔容積が0.4cm/g以上である。
これに対して、比較例A,Bは以下の要件を満たしていない。
比較例Aでは、要件〔2〕を満たしてない。
比較例Bでは、要件〔1〕を満たしてない。
【0031】
【表2】
【0032】
No.2-12,14,16は、優れたタンパク質固定能を示し、かつ強度が高いことが分かった。よって、No.2-12,14,16は、カラムへの充填にも適し、タンパク質の吸着能力が高いことが分かった。
【0033】
3.実験結果(その2)
No.1,3,7,12,16について、BET法による総細孔容積と、IgG抗体の吸着量との関係を表3に示す。表3のIgG抗体吸着量は、各No.について表2と同じ値となっている。例えば、表2のNo.1は「192μg」であり、表3のNo.1も「192μg」となっている。
表3の結果から、表3で示したBET法による総細孔容積の値の領域では、BET法による総細孔容積と、IgG抗体の吸着量との間には、相関関係がない場合があることが確認された。例えば、No.16は、BET法による総細孔容積がNo.1よりも小さいにも拘わらずにIgG抗体の吸着量が多くなっている。また、No.1,3,7は、BET法による総細孔容積が近い値であるにも拘わらずにIgG抗体吸着量が大きく異なっている。このように、BET法による総細孔容積の値のある領域においては、BET法による総細孔容積と、IgG抗体吸着量との間には、相関関係がない場合があることが確認された。
【0034】
【表3】
【0035】
4.実験結果のまとめ
No.2-12,14,16のように、要件〔1〕〔2〕の全てを満たしていると、優れたタンパク質固定能を示し、かつ強度が高いことが分かった。よって、No.2-12,14,16は、カラムへの充填にも適し、タンパク質の吸着能力が高いことが分かった。
【0036】
<実験B>
1.表面修飾多孔質ジルコニア粒子の作製
EDTPA水溶液と、実験Aの欄のNo.9粒子とを混合し、加温して修飾反応した。反応条件は、60℃還流条件で、72時間とした。修飾反応後に、遠心分離にて反応溶液を除去し、その後、多孔質ジルコニア粒子を乾燥して、表面にキレート剤が担持された多孔質ジルコニア粒子(表面修飾多孔質ジルコニア粒子)を得た。
EDTPA水溶液におけるEDTPAの濃度は、0M、0.000625M、0.0025M、0.001Mの4種類とした。
反応後に得られた多孔質ジルコニア粒子について蛍光X線(XRF)による元素分析をしたところ、EDTPAの担持量は、0Mの場合には0mass%、0.000625Mの場合には0.66mass%、0.0025Mの場合には1.50mass%、0.001Mの場合には2.76mass%であった。
【0037】
2.IgG,HSA,Trfの固定、及び固定量の測定
各多孔質ジルコニア粒子に対して、それぞれ次のようにして、IgGを固定し、固定されたIgG量を求めた。
多孔質ジルコニア粒子へのIgGの固定は、以下のように行った。スピッツに500μLの10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を入れて、この液に多孔質ジルコニア粒子3mgを加えた。多孔質ジルコニア粒子を十分に分散させた後、IgG(750μg/500μL)を500μL加えて、遮光下、4℃で一晩撹拌した。
スピッツを、12,000回転で10分間遠心して、多孔質ジルコニア粒子を沈殿分離した。上澄み溶液に残存する未固定のIgG量を、プロテインアッセイ染色液(BIO-RAD)を用い、マイクロプレートリーダー(InfiniteF200PRO,TECAN)により定量した。始めに加えたIgG量と、未固定のIgG量との差分を固定されたIgG量(IgG抗体吸着量)とした。
IgGの場合と同様にして、HSA(Albumin from human serum),Trf(Transferrin human)の固定、及び固定量の測定をした。
すなわち、各多孔質ジルコニア粒子に対して、それぞれ次のようにして、HSA(又はTrf)を固定し、固定されたHSA(又はTrf)量を求めた。
多孔質ジルコニア粒子へのHSA(又はTrf)の固定は、以下のように行った。スピッツに500μLの10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を入れて、この液に多孔質ジルコニア粒子3mgを加えた。多孔質ジルコニア粒子を十分に分散させた後、HSA(又はTrf)(750μg/500μL)を500μL加えて、遮光下、4℃で一晩撹拌した。
スピッツを、12,000回転で10分間遠心して、多孔質ジルコニア粒子を沈殿分離した。上澄み溶液に残存する未固定のHSA(又はTrf)量を、プロテインアッセイ染色液(BIO-RAD)を用い、マイクロプレートリーダー(InfiniteF200PRO,TECAN)により定量した。始めに加えたHSA(又はTrf)量と、未固定のHSA(又はTrf)量との差分を固定されたHSA量(又はTrf量)(HSA抗体吸着量(又はTrf抗体吸着量))とした。
【0038】
3.結果
結果を図2に示す。担持量が0.66mass%以上2.76mass%以下の場合には、担持していない場合(0mass%の場合)よりも、免疫グロブリンに対する選択性が高いことが分かった。すなわち、HSA吸着量に対するIgG吸着量の比の値、Trf吸着量に対するIgG吸着量の比の値は、担持量が0.66mass%以上2.76mass%以下の場合の方が、担持していない場合(0mass%の場合)よりも大きくなっていた。
【0039】
<他の実施形態(変形例)>
尚、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本開示の多孔質ジルコニア粒子は、抗体分離精製に用いる場合に、ジルコニア結晶相が持つ、耐薬品性、高い構造強度、焼成による再生利用可能性など、従来技術にはない有利な効果を奏する。よって、抗体製品の製造プロセスの低コスト化に大きく貢献するものと期待される。抗体医薬を始めとする抗体の精製と分離に利用されるカラム製品としての応用としてのみならず、食品中アレルゲン等の特異的なタンパク質の除去への利用も考えられる。
図1
図2