(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031830
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】フラックス組成物、はんだ組成物、および電子基板
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20240229BHJP
B23K 35/26 20060101ALI20240229BHJP
C22C 12/00 20060101ALI20240229BHJP
C22C 13/02 20060101ALI20240229BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B23K35/363 C
B23K35/363 E
B23K35/26 310A
B23K35/26 310C
C22C12/00
C22C13/02
H05K3/34 512C
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113502
(22)【出願日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2022132496
(32)【優先日】2022-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 功
【テーマコード(参考)】
5E319
【Fターム(参考)】
5E319AB05
5E319BB05
5E319CC33
5E319CC46
5E319CD31
5E319GG03
(57)【要約】
【課題】ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプであるにも拘わらず、はんだボールの発生を十分に抑制できるフラックス組成物を提供すること。
【解決手段】(A)樹脂、および(B)活性剤を含有し、前記(B)成分が、(B1)キノリン骨格を有する化合物を含有する、フラックス組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)樹脂、および(B)活性剤を含有し、
前記(B)成分が、(B1)キノリン骨格を有する化合物を含有する、
フラックス組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のフラックス組成物において、
前記(B1)成分が、下記一般式(1)で表される化合物である、
フラックス組成物。
【化1】
(一般式(1)中、X
1~X
7は、独立に、水素、水酸基、炭素数1~3のアルキル基、または炭素数1~3のアルコキシ基であり、X
2~X
7のいずれか2つにより環を構成していてもよい。)
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物において、
前記(B)成分が、さらに(B2)アゾール類を含有する、
フラックス組成物。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物において、
前記(B)成分が、さらに(B3)有機酸を含有する、
フラックス組成物。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物において、
さらに(C)チクソ剤を含有する、
フラックス組成物。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物と、(D)はんだ粉末とを含有する、
はんだ組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のはんだ組成物において、
前記(D)成分の合金系が、Sn-Bi系、Sn-Ag-Bi系、Sn-Ag-Sb-Bi系、Sn-Bi-Sb-In系、Sn-Bi-Sb-In-Ni-Co系、およびSn-Bi-Sb-Cu-In-Ni-Co系のいずれかである、
はんだ組成物。
【請求項8】
請求項6に記載のはんだ組成物において、
前記(D)成分の合金組成が、Sn-57Bi-1Ag、Sn-58Bi、Sn-35Bi-1Ag、Sn-45Bi-1.5Sb-0.5Ag、Sn-50Bi-1Sb-0.5In、Sn-50Bi-1Sb-0.5In-0.05Ni-0.1Co、およびSn-50Bi-1Sb-2Cu-0.5In-0.05Ni-0.1Coのいずれかである、
はんだ組成物。
【請求項9】
請求項6に記載のはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備える、
電子基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス組成物、はんだ組成物、および電子基板に関する。
【背景技術】
【0002】
はんだ組成物は、はんだ粉末にフラックス組成物(ロジン系樹脂、活性剤および溶剤など)を混練してペースト状にした混合物である(特許文献1参照)。近年、はんだ組成物としては、環境問題に配慮して、ハロゲンを削減したハロゲンフリー、或いは、ハロゲンを全く含有しないノンハロゲンが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ハロゲンフリーなどのはんだ組成物を用いた場合には、はんだ粉末の酸化膜除去が困難となり、はんだボールが発生してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプであるにも拘わらず、はんだボールの発生を十分に抑制できるフラックス組成物、はんだ組成物、並びに、電子基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下に示すフラックス組成物、はんだ組成物および電子基板が提供される。
[1] (A)樹脂、および(B)活性剤を含有し、
前記(B)成分が、(B1)キノリン骨格を有する化合物を含有する、
フラックス組成物。
[2] [1]に記載のフラックス組成物において、
前記(B1)成分が、下記一般式(1)で表される化合物である、
フラックス組成物。
【0007】
【0008】
(一般式(1)中、X1~X7は、独立に、水素、水酸基、炭素数1~3のアルキル基、または炭素数1~3のアルコキシ基であり、X2~X7のいずれか2つにより環を構成していてもよい。)
【0009】
[3] [1]または[2]に記載のフラックス組成物において、
前記(B)成分が、さらに(B2)アゾール類を含有する、
フラックス組成物。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載のフラックス組成物において、
前記(B)成分が、さらに(B3)有機酸を含有する、
フラックス組成物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載のフラックス組成物において、
さらに(C)チクソ剤を含有する、
フラックス組成物。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載のフラックス組成物と、(D)はんだ粉末とを含有する、
はんだ組成物。
[7] [6]に記載のはんだ組成物において、
前記(D)成分の合金系が、Sn-Bi系、Sn-Ag-Bi系、Sn-Ag-Sb-Bi系、Sn-Bi-Sb-In系、Sn-Bi-Sb-In-Ni-Co系、およびSn-Bi-Sb-Cu-In-Ni-Co系のいずれかである、
はんだ組成物。
[8] [6]または[7]に記載のはんだ組成物において、
前記(D)成分の合金組成が、Sn-57Bi-1Ag、Sn-58Bi、Sn-35Bi-1Ag、Sn-45Bi-1.5Sb-0.5Ag、Sn-50Bi-1Sb-0.5In、Sn-50Bi-1Sb-0.5In-0.05Ni-0.1Co、およびSn-50Bi-1Sb-2Cu-0.5In-0.05Ni-0.1Coのいずれかである、
はんだ組成物。
[9] [6]~[8]のいずれかに記載のはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備える、
電子基板。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプであるにも拘わらず、はんだボールの発生を十分に抑制できるフラックス組成物、はんだ組成物、並びに、電子基板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[フラックス組成物]
まず、本実施形態に係るフラックス組成物について説明する。本実施形態に係るフラックス組成物は、はんだ組成物におけるはんだ粉末以外の成分であり、以下説明する(A)樹脂、および(B)活性剤を含有するものである。また、(B)成分が、(B1)キノリン骨格を有する化合物を含有する。
【0012】
本実施形態に係るフラックス組成物が、ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプであるにも拘わらず、はんだボールの発生を十分に抑制できる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
すなわち、はんだ合金系の中でも、Sn-Bi系などのはんだ合金は、Biが酸化しやすい性質のため、はんだ粉末の酸化膜除去が困難であり、また、再酸化の抑制も困難である。そのため、従来は、フラックス組成物に、有機酸およびアミン系活性剤に加え、ハロゲン系活性剤を配合していた。これにより、酸化膜除去を促進し、再酸化を抑制することで、はんだボールの発生を抑制していた。そして、ハロゲン系活性剤を使用しない場合には、Biの酸化膜除去や再酸化抑制ができなかったところ、(B1)キノリン骨格を有する化合物により、Biの酸化膜除去や再酸化抑制ができる。この理由は必ずしも定かではないが、(B1)成分により、はんだ酸化膜除去後に金属表面にキレート形成することで再酸化を抑制する効果が得られているものと、本発明者らは推察する。また、(B1)成分は、有機酸や他のアミン系活性剤と比較して、はんだ組成物の安定性や信頼性への悪影響が少ないという利点もある。以上のようにして、上記本発明の効果が達成されるものと本発明者らは推察する。
【0013】
[(A)成分]
本実施形態に用いる(A)樹脂としては、ロジン系樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、粘度安定性などの観点から、ロジン系樹脂、またはアクリル樹脂が好ましい。
ロジン系樹脂としては、ロジン類およびロジン系変性樹脂が挙げられる。ロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジンおよびトール油ロジンなどが挙げられる。ロジン系変性樹脂としては、不均化ロジン、重合ロジン、水素添加ロジンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。水素添加ロジンとしては、完全水添ロジン、部分水添ロジン、並びに、不飽和有機酸((メタ)アクリル酸などの脂肪族の不飽和一塩基酸、フマル酸、マレイン酸などのα,β-不飽和カルボン酸などの脂肪族不飽和二塩基酸、桂皮酸などの芳香族環を有する不飽和カルボン酸など)の変性ロジンである不飽和有機酸変性ロジンの水素添加物(「水添酸変性ロジン」ともいう)などが挙げられる。これらのロジン系樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらのロジン系樹脂の中でも、完全水添ロジンおよび水添酸変性ロジンを用いることが好ましく、完全水添ロジンと、水添酸変性ロジンとを併用することがより好ましい。
アクリル樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸の各種エステル、メタクリル酸の各種エステル、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸のエステル、無水マレイン酸のエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、および酢酸ビニルなどの少なくとも1種のモノマーを重合してなるものである。寒暖の差が激しく冷熱衝撃の大きい環境下であってもフラックス残さの亀裂発生を防止できるという点で、アクリル樹脂が有用である。このアクリル樹脂の中でも、メタクリル酸と炭素数2から6のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂、更にはメタクリル酸と炭素数2のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂が好ましい。このようなアクリル樹脂は、形成されるフラックス残さ(フラックス固化物)のべたつきを抑え、かつ良好な亀裂抑制効果を奏する点で好ましい。
【0014】
(A)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、35質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上50質量%以下であることが特に好ましい。(A)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだ付ランドの銅箔面の酸化を防止してその表面に溶融はんだを濡れやすくする、いわゆるはんだ付け性を向上でき、はんだボールを十分に抑制できる。また、(A)成分の配合量が前記上限以下であれば、フラックス残さ量を十分に抑制できる。
【0015】
[(B)成分]
本実施形態に用いる(B)活性剤は、(B1)キノリン骨格を有する化合物を含有することが必要である。この(B1)成分は、はんだボールの発生を抑制する作用がある。この(B1)成分は、1分子中に、1つ以上の水酸基を有することが好ましい。
(B1)成分は、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0016】
【0017】
一般式(1)において、X1~X7は、独立に、水素、水酸基、炭素数1~3のアルキル基、または炭素数1~3のアルコキシ基であり、X2~X7のいずれか2つにより環を構成していてもよい。
X1は、水素であることが特に好ましい。
X2~X7は、水素、水酸基、メチル基、またはメトキシ基であることが好ましく、水素、またはメチル基であることがより好ましい。
【0018】
(B1)成分としては、8-キノリノール、2-メチル-8-キノリノール、および5-メチル-8-キノリノールなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
(B1)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、0.8質量%以上5質量%以下であることがさらにより好ましく、1.5質量%以上2.5質量%以下であることが特に好ましい。(B1)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだボールの抑制効果を更に向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0020】
(B)成分は、さらに(B2)アゾール類を含有することが好ましい。この(B2)成分は、(B1)成分の作用を補助して、はんだボールの抑制効果を向上できる作用がある。
(B2)成分としては、ピロール化合物、イミダゾール化合物、ピラゾール化合物、およびトリアゾール化合物などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの中でも、はんだ溶融性の観点から、イミダゾール化合物またはトリアゾール化合物が好ましい。また、イミダゾール化合物とトリアゾール化合物とを併用することが特に好ましい。
イミダゾール化合物としては、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、および1,2-ジメチルイミダゾールなどが挙げられる。これらの中でも、2-エチル-4-メチルイミダゾールが好ましい。
トリアゾール化合物としては、ベンゾトリアゾール、1,2,3-トリアゾール、および1,2,4-トリアゾールなどが挙げられる。これらの中でも、ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0021】
(B2)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上8質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上3質量%以下であることが特に好ましい。(B2)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだボールの抑制効果を更に向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0022】
(B)成分は、さらに(B3)有機酸を含有することが好ましい。この(B3)成分は、(B1)成分の作用を補助して、はんだボールの抑制効果を向上できる作用がある。
(B3)成分としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸などの他に、その他の有機酸が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブチリック酸、バレリック酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、およびグリコール酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、およびジグリコール酸などが挙げられる。これらの中でも、活性作用の観点から、アジピン酸、またはスベリン酸などが好ましく、スベリン酸が特に好ましい。
その他の有機酸としては、ダイマー酸、トリマー酸、レブリン酸、乳酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、アニス酸、クエン酸、およびピコリン酸などが挙げられる。これらの中でも、ピコリン酸を用いることがより好ましい。
(B3)成分としては、複数の有機酸を併用することが好ましく、スベリン酸およびピコリン酸を併用することが特に好ましい。
【0023】
(B3)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上12質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。(B3)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだボールの抑制効果を更に向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0024】
(B)成分は、本発明の課題を達成できる範囲において、(B1)成分~(B3)成分以外に、その他の活性剤(以下(B4)成分とも称する)をさらに含有してもよい。(B4)成分としては、ハロゲン系活性剤、および(B1)成分および(B2)成分以外のアミン系活性剤などが挙げられる。ただし、(B1)成分~(B3)成分の合計の配合量は、(B)成分100質量%に対して、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0025】
(B)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。(B)成分の配合量が前記下限以上であれば、活性作用を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0026】
[(C)成分]
本実施形態に係るフラックス組成物は、印刷性などの観点から、さらに(C)チクソ剤を含有することが好ましい。ここで用いるチクソ剤としては、硬化ひまし油、アミド類、カオリン、コロイダルシリカ、有機ベントナイト、およびガラスフリットなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
(C)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上12質量%以下であることがより好ましい。配合量が前記下限未満では、チクソ性が得られず、ダレが生じやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、チクソ性が高すぎて、印刷不良となりやすい傾向にある。
【0028】
[溶剤]
本実施形態に係るフラックス組成物は、印刷性などの観点から、さらに溶剤を含有することが好ましい。ここで用いる溶剤としては、公知の溶剤を適宜用いることができる。このような溶剤としては、沸点170℃以上の溶剤を用いることが好ましい。また、グリコール系溶剤が好ましい。
このような溶剤としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘキシルジグリコール、1,5-ペンタンジオール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、オクタンジオール、フェニルグリコール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、およびジブチルマレイン酸などが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
溶剤を用いる場合、その配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、10質量%以上75質量%以下であることが好ましく、20質量%以上65質量%以下であることがより好ましい。溶剤の配合量が前記範囲内であれば、得られるはんだ組成物の粘度を適正な範囲に適宜調整できる。
【0030】
[酸化防止剤]
本実施形態に係るフラックス組成物は、はんだ溶融性などの観点から、さらに酸化防止剤を含有することが好ましい。ここで用いる酸化防止剤としては、公知の酸化防止剤を適宜用いることができる。酸化防止剤としては、硫黄化合物、ヒンダードフェノール化合物、およびホスファイト化合物などが挙げられる。これらの中でも、ヒンダードフェノール化合物が好ましい。
【0031】
ヒンダードフェノール化合物としては、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、N,N’-ビス[2-[2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ]エチル]オキサミド、N,N’-ビス{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジン、および、アクリル酸2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルなどが挙げられる。これらの中でも、はんだボールの更なる抑制効果の観点から、アクリル酸2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルを用いることが好ましい。
【0032】
酸化防止剤を用いる場合、その配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。酸化防止剤の配合量が前記下限以上であれば、はんだ溶融性を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0033】
[他の成分]
本実施形態に用いるフラックス組成物には、(A)成分、(B)成分、(C)成分、溶剤、および酸化防止剤の他に、必要に応じて、その他の添加剤、更には、その他の樹脂を加えることができる。その他の添加剤としては、消泡剤、改質剤、つや消し剤、および発泡剤などが挙げられる。これらの添加剤の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0034】
[はんだ組成物]
次に、本実施形態に係るはんだ組成物について説明する。本実施形態に係るはんだ組成物は、前述の本実施形態に係るフラックス組成物と、以下説明する(D)はんだ粉末とを含有するものである。
フラックス組成物の配合量は、はんだ組成物100質量%に対して、5質量%以上35質量%以下であることが好ましく、7質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上12質量%以下であることが特に好ましい。フラックス組成物の配合量が5質量%未満の場合(はんだ粉末の配合量が95質量%を超える場合)には、バインダーとしてのフラックス組成物が足りないため、フラックス組成物とはんだ粉末とを混合しにくくなる傾向にあり、他方、フラックス組成物の配合量が35質量%を超える場合(はんだ粉末の配合量が65質量%未満の場合)には、得られるはんだ組成物を用いた場合に、十分なはんだ接合を形成できにくくなる傾向にある。
【0035】
本実施形態に係るはんだ組成物は、ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプであるにも拘わらず、はんだボールの発生を十分に抑制できる。そして、プリント配線基板のハロゲンフリーに対応可能なはんだ組成物であっても、ハロゲン系活性剤を用いる場合と同等レベルで、はんだボールの発生を抑制できることから、ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプのはんだ組成物として特に好適に用いることができる。
ハロゲンフリーのはんだ組成物は、塩素濃度が900質量ppm以下(より好ましくは、100質量ppm以下、特に好ましくは、0質量ppm)であり、臭素濃度が900質量ppm以下(より好ましくは、100質量ppm以下、特に好ましくは、0質量ppm)であり、ヨウ素濃度が900質量ppm以下(より好ましくは、100質量ppm以下、特に好ましくは、0質量ppm)であり、かつ、ハロゲン濃度が1500質量ppm以下(より好ましくは、300質量ppm以下、特に好ましくは、0質量ppm)であるものであることが好ましい。なお、ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素などが挙げられる。
なお、はんだ組成物中の塩素濃度、臭素濃度およびハロゲン濃度は、JEITA ET-7304Aに記載の方法に準じて測定できる。また、簡易的には、はんだ組成物の配合成分およびその配合量から算出できる。
【0036】
[(D)成分]
本実施形態に用いる(D)はんだ粉末は、鉛フリーはんだ粉末のみからなることが好ましいが、有鉛のはんだ粉末であってもよい。また、このはんだ粉末におけるはんだ合金は、スズ(Sn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、アンチモン(Sb)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
このはんだ粉末におけるはんだ合金としては、スズを主成分とする合金が好ましい。また、このはんだ合金は、スズ、銀および銅を含有することがより好ましい。さらに、このはんだ合金は、添加元素として、アンチモン、ビスマスおよびニッケルのうちの少なくとも1つを含有してもよい。本実施形態のフラックス組成物によれば、アンチモン、ビスマスおよびニッケルなどの酸化しやすい添加元素を含むはんだ合金を用いた場合でも、ボイドの発生を抑制できる。
ここで、鉛フリーはんだ粉末とは、鉛を添加しないはんだ金属または合金の粉末のことをいう。ただし、鉛フリーはんだ粉末中に、不可避的不純物として鉛が存在することは許容されるが、この場合に、鉛の量は、300質量ppm以下であることが好ましい。
【0037】
鉛フリーのはんだ粉末の合金系としては、具体的には、Sn-Ag-Cu系、Sn-Cu系、Sn-Ag系、Sn-Bi系、Sn-Ag-Bi系、Sn-Ag-Sb-Bi系、Sn-Ag-Cu-Bi系、Sn-Ag-Cu-Ni系、Sn-Ag-Cu-Bi-Sb系、Sn-Ag-Bi-In系、Sn-Ag-Cu-Bi-In-Sb系などが挙げられる。
なお、本実施形態に係るフラックス組成物は、Sn-Bi系などのはんだ合金系であっても、はんだボールの発生を十分に抑制できる。そのため、Biを含むはんだ合金系の(D)成分を使用する場合に、本実施形態に係るフラックス組成物の効果を特に発揮できる。具体的なはんだ合金系としては、Sn-Bi系、Sn-Ag-Bi系、Sn-Ag-Sb-Bi系、Sn-Bi-Sb-In系、Sn-Bi-Sb-In-Ni-Co系、およびSn-Bi-Sb-Cu-In-Ni-Co系などが挙げられる。これらの合金系の中でも、Sn-Bi系、Sn-Ag-Bi系、またはSn-Ag-Sb-Bi系が好ましい。また、具体的なはんだ合金組成としては、Sn-57Bi-1Ag、Sn-58Bi、Sn-35Bi-1Ag、Sn-45Bi-1.5Sb-0.5Ag、Sn-50Bi-1Sb-0.5In、Sn-50Bi-1Sb-0.5In-0.05Ni-0.1Co、およびSn-50Bi-1Sb-2Cu-0.5In-0.05Ni-0.1Coなどが挙げられる。これらの合金組成の中でも、Sn-57Bi-1Ag、Sn-58Bi、Sn-35Bi-1Ag、およびSn-45Bi-1.5Sb-0.5Agが好ましい。
【0038】
(D)成分の平均粒子径は、通常1μm以上40μm以下であるが、はんだ付けパッドのピッチが狭い電子基板にも対応するという観点から、1μm以上35μm以下であることがより好ましく、2μm以上35μm以下であることがさらにより好ましく、3μm以上32μm以下であることが特に好ましい。なお、平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径測定装置により測定できる。
【0039】
[はんだ組成物の製造方法]
本実施形態のはんだ組成物は、上記説明したフラックス組成物と上記説明した(D)はんだ粉末とを上記所定の割合で配合し、撹拌混合することで製造できる。
【0040】
[電子基板]
次に、本実施形態に係る電子基板について説明する。本実施形態に係る電子基板は、前述の本実施形態に係るはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備えることを特徴とするものである。本実施形態に係る電子基板は、前記はんだ組成物を用いて電子部品を電子基板(プリント配線基板など)に実装することで製造できる。
ここで用いる塗布装置としては、スクリーン印刷機、メタルマスク印刷機、ディスペンサー、およびジェットディスペンサーなどが挙げられる。
また、塗布装置にて塗布したはんだ組成物上に電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱して、電子部品をプリント配線基板に実装するリフロー工程により、電子部品を電子基板に実装できる。
【0041】
リフロー工程においては、はんだ組成物上に電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱する。このリフロー工程により、電子部品およびプリント配線基板の間に十分なはんだ接合を行うことができる。その結果、電子部品をプリント配線基板に実装することができる。
リフロー条件は、はんだの融点に応じて適宜設定すればよい。例えば、プリヒート温度は、90℃以上130℃以下であることが好ましく、100℃以上120℃以下であることがより好ましい。プリヒート時間は、40秒間以上120秒間以下であることが好ましく、60秒間以上100秒間以下であることがより好ましい。ピーク温度は、160℃以上190℃以下であることが好ましく、180℃以上190℃以下であることがより好ましい。また、140℃以上の温度の保持時間は、30秒間以上120秒間以下であることが好ましく、80秒間以上120秒間以下であることがより好ましい。
【0042】
また、本実施形態に係るフラックス組成物、はんだ組成物および電子基板は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
例えば、前記電子基板では、リフロー工程により、プリント配線基板と電子部品とを接着しているが、これに限定されない。例えば、リフロー工程に代えて、レーザー光を用いてはんだ組成物を加熱する工程(レーザー加熱工程)により、プリント配線基板と電子部品とを接着してもよい。この場合、レーザー光源としては、特に限定されず、金属の吸収帯に合わせた波長に応じて適宜採用できる。レーザー光源としては、例えば、固体レーザー(ルビー、ガラス、YAGなど)、半導体レーザー(GaAs、およびInGaAsPなど)、液体レーザー(色素など)、並びに、気体レーザー(He-Ne、Ar、CO2、およびエキシマーなど)が挙げられる。
【実施例0043】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A)成分)
ロジン系樹脂A:アクリル酸変性水添ロジン、商品名「パインクリスタルKE-604」、荒川化学工業社製
ロジン系樹脂B:完全水添ロジン、商品名「フォーラルAX」、理化ファインテク社製((B1)成分)
キノリン化合物A:8-キノリノール
キノリン化合物B:2-メチル-8-キノリノール
((B2)成分)
アゾール類A:ベンゾトリアゾール
アゾール類B:2-エチル-4-メチルイミダゾール、商品名「2E4MZ」、四国化成工業社
((B3)成分)
有機酸A:ピコリン酸
有機酸B:スベリン酸
((C)成分)
チクソ剤A:商品名「スリパックスZHH」、日本化成社製
チクソ剤B:商品名「ヒマコウ」、ケイエフ・トレーディング社製
(他の成分)
溶剤:ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、沸点:272℃)、日本乳化剤社製
酸化防止剤A:N,N’-ビス{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジン、商品名「イルガノックスMD-1024」、BASF社製
酸化防止剤B:アクリル酸2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニル、商品名「スミライザーGS」、住友化学社製
((D)成分)
はんだ粉末A:合金組成はSn-57Bi-1Ag、粒子径分布は20~38μm
はんだ粉末B:合金組成はSn-45Bi-1.5Sb-0.5Ag、粒子径分布は20~38μm
はんだ粉末C:合金組成はSn-58Bi、粒子径分布は20~38μm
はんだ粉末D:合金組成はSn-50Bi-1Sb-0.5In、粒子径分布は20~38μm
はんだ粉末E:合金組成はSn-50Bi-1Sb-0.5In-0.05Ni-0.1Co、粒子径分布は20~38μm
はんだ粉末F:合金組成はSn-50Bi-1Sb-2Cu-0.5In-0.05Ni-0.1Co、粒子径分布は20~38μm
【0044】
[実施例1]
ロジン系樹脂A25質量%、ロジン系樹脂B21質量%、キノリン化合物A2質量%、アゾール類A0.5質量%、アゾール類B1質量%、有機酸A1質量%、有機酸B3質量%、溶剤37質量%、酸化防止剤A2質量%、チクソ剤A5質量%、およびチクソ剤B2.5質量%を容器に投入し、プラネタリーミキサーを用いて混合してフラックス組成物を得た。
その後、得られたフラックス組成物10.6質量%、溶剤0.6質量%およびはんだ粉末A88.8質量%(合計で100質量%)を容器に投入し、プラネタリーミキサーにて混合することではんだ組成物を調製した。
【0045】
[実施例2~15]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
[比較例1]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
【0046】
<はんだ組成物の評価>
はんだ組成物の評価(ソルダーボール試験、ピン間ボール)を以下のような方法で行った。得られた結果を表1に示す。
(1)ソルダーボール試験
IPC TM-650 2.4.43の記載を参考にして、ソルダーボール試験を行った。具体的には、厚さ0.6mm~0.8mmのセラミック基板上に、メタルスクリーンを使用して、はんだ組成物を直径6.5mmの円形状に1個印刷して、試料とした。180℃に設定したホットプレート上に、上記の試料を置き、溶融してから5秒後取り出し、水平に保持して冷却する。20倍の顕微鏡を用いて、はんだ中のソルダーボールの数と大きさを観察し、以下の基準で判定した。なお、「Preferred」、「Acceptable」、「Unacceptable;Clusters」、および「Unacceptable」は、IPC TM-650 2.4.43に記載の評価基準に準じている。
◎:「Preferred」、フラックス残さ中、または周囲にほとんどソルダーボールがない状態(数個程度)。
○:「Acceptable」、フラックス残さ中、または周囲にまばらにソルダーボールが発生している。ただし、ソルダーボールが密集した状態では存在していない。
×:「Unacceptable;Clusters」、フラックス残さ中にソルダーボールが密集して発生している。
××:「Unacceptable」、フラックス残さ周囲全体に連続的にソルダーボールが発生している。
(2)ピン間ボール
0.4mm×3.0mmの銅パッドを0.8mm間隔で80本有する基板上に、対応するパターンを有するメタルマスクを用い、はんだ組成物を、印刷速度50mm/sec、印圧0.2Nの条件で印刷した。その後、リフロー炉(タムラ製作所社製)で、はんだ組成物を溶解させて、はんだ付けを行って、試験基板を作製した。試験基板を拡大鏡にて観察して、ピン間にあるはんだボールの数(ピン間ボール数、単位:個/ピン)を測定し、以下の基準に従って、ピン間ボールを評価した。なお、リフロー条件は、プリヒート温度が100~120℃(約80秒間)であり、温度140℃以上の時間が約100秒間であり、ピーク温度が約185℃である。
◎:ピン間ボール数が4個未満である。
○:ピン間ボール数が4個以上10個未満である。
△:ピン間ボール数が10個以上15個未満である。
×:ピン間ボール数が15個以上である。
【0047】
【0048】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明のはんだ組成物(実施例1~15)は、ソルダーボール試験、およびピン間ボールの全ての結果が良好であることが確認された。なお、実施例1~15のはんだ組成物には、ハロゲン系活性剤が配合されていないので、ノンハロゲンタイプのはんだ組成物である。
従って、本発明のはんだ組成物によれば、ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプであるにも拘わらず、はんだボールの発生を十分に抑制できることが確認された。