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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031837
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ウイルス不活化剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 31/08 20060101AFI20240229BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240229BHJP
   A01N 35/02 20060101ALI20240229BHJP
   A01N 37/02 20060101ALI20240229BHJP
   A01N 43/16 20060101ALI20240229BHJP
   A01N 31/04 20060101ALI20240229BHJP
   A01N 37/34 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A01N31/08
A01P1/00
A01N35/02
A01N37/02
A01N43/16 C
A01N31/04
A01N37/34 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115791
(22)【出願日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2022132795
(32)【優先日】2022-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 凡
(72)【発明者】
【氏名】平間 結衣
(72)【発明者】
【氏名】大西 慎太郎
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BA01
4H011BB03
4H011BB05
4H011BB06
4H011BB08
4H011BC03
4H011BC18
4H011DA13
4H011DF04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】環境中に存在するウイルスの不活化を可能とする、ウイルス不活化剤を提供する。
【解決手段】成分(A):式(1)で表される化合物及び2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドから選ばれる1種以上、及び成分(B):直鎖不飽和脂肪族アルデヒドを組み合わせてなる、ウイルス不活化剤。

〔R、R及びRは、1)R:-CH,R:-H,及びR:-OH、2)R:-CH,R:-OH,及びR:-H、又は、3)R:-OH,R:-H,及びR:-CHを示す。〕
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)及び成分(B)を組み合わせてなるウイルス不活化剤;
(A)下記式(1):
【化1】
〔式中、R、R及びRは、1)R:-CH,R:-H,及びR:-OH、2)R:-CH,R:-OH,及びR:-H、又は、3)R:-OH,R:-H,及びR:-CHを示す。〕
で表される化合物及び2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドから選ばれる1種以上、
(B)直鎖不飽和脂肪族アルデヒド。
【請求項2】
さらに下記の成分(C)を組み合わせてなる、請求項1記載のウイルス不活化剤:
(c)3,5,5-トリメチルヘキサノール、シトロネリルイソブチレート、ジヒドロミルセノール、シトラール、カリオフィレンアセテート、セドリルアセテート、ヒドラトロピックアルデヒド、ゲラニオール、テルピネオール、テルピネン-4-オール、I-メントン、1,8-シネオール、シトロネリルニトリル、エチルリナロール、カリオフィレン、ノナノール、メントール及び2-メトキシ-4-プロピルフェノールから選ばれる1種以上。
【請求項3】
下記の成分(A)及び成分(B)を含有する抗ウイルス組成物;
(A)下記式(1):
【化2】
〔式中、R、R及びRは、1)R:-CH,R:-H,及びR:-OH、2)R:-CH,R:-OH,及びR:-H、又は、3)R:-OH,R:-H,及びR:-CHを示す。〕
で表される化合物及び2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドから選ばれる1種以上、
(B)直鎖不飽和脂肪族アルデヒド。
【請求項4】
さらに下記の成分(C)を含有する、請求項3記載の抗ウイルス組成物:
(c)3,5,5-トリメチルヘキサノール、シトロネリルイソブチレート、ジヒドロミルセノール、シトラール、カリオフィレンアセテート、セドリルアセテート、ヒドラトロピックアルデヒド、ゲラニオール、テルピネオール、テルピネン-4-オール、I-メントン、1,8-シネオール、シトロネリルニトリル、エチルリナロール、カリオフィレン、ノナノール、メントール及び2-メトキシ-4-プロピルフェノールから選ばれる1種以上。
【請求項5】
ウイルスがエンベロープを有するRNAウイルスである、請求項1若しくは2記載のウイルス不活化剤、又は請求項3若しくは4記載の抗ウイルス組成物。
【請求項6】
ウイルスがインフルエンザウイルス又はコロナウイルスである、請求項1若しくは2記載のウイルス不活化剤、又は請求項3若しくは4記載の抗ウイルス組成物。
【請求項7】
成分(B)がtrans-2-ヘキセナール、cis-6-ノネナール、cis-4-デセナール、trans-2-ウンデセナール、trans-4-デセナール、trans-2-デセナール及び10-ウンデセナールから選ばれる1種以上である、請求項1若しくは2記載のウイルス不活化剤、又は請求項3~6の何れか1項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項8】
成分(A)がチモール、カルバクロール、及びイソプロピルメチルフェノールから選ばれる少なくとも1種であり、成分(B)がcis-4-デセナール及び10-デセナールから選ばれる少なくとも1種である、請求項1若しくは2記載のウイルス不活化剤、又は請求項3~7の何れか1項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項9】
成分(A)が2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドであり、成分(B)がtrans-2-ウンデセナールである、請求項1若しくは2記載のウイルス不活化剤、又は請求項3~7の何れか1項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項10】
下記の成分(A)及び成分(B)、又はこれらを含有する組成物をウイルス汚染が懸念される対象に適用する、ウイルス不活化方法;
(A)下記式(1):
【化3】
〔式中、R、R及びRは、1)R:-CH,R:-H,及びR:-OH、2)R:-CH,R:-OH,及びR:-H、又は、3)R:-OH,R:-H,及びR:-CHを示す。〕
で表される化合物及び2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドから選ばれる1種以上、
(B)直鎖不飽和脂肪族アルデヒド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスを不活化するウイルス不活化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染症は、感冒症状を始め、肺炎、肝炎、脳炎等の重篤な症状を引き起こす疾患であり、人類にとって永遠の脅威となっている。近年では、インフルエンザウイルスが世界的に猛威を振るい、時には、抗原性が変化した新型インフルエンザの発現によってパンデミックを起こす場合もある。また、2019年には、SARSコロナウイルス-2(SARS-CoV-2)が出現し、パンデミックを引き起こして、生命や健康のみならず、経済活動、社会機能にまで影響を及ぼしている。
【0003】
このような事態に対応するために、ワクチンや抗ウイルス剤の開発があるが、ワクチンや治療薬の開発には時間が掛かり、また必ずしも成功するとは言えない。
ウイルスは、感染者によって生活空間へ持ち込まれた場合に、患者から直接、あるいは衣服、各種器具・部材、壁やエアコンなどの設備を含む環境を介して、感染が拡大する。したがって、ウイルスが付着し得る手指、衣服、各種器具・部材を洗浄・消毒することによる除ウイルスやウイルス不活化を図ることや、生活空間に飛沫したウイルス及びエアロゾルとして空間中に漂うウイルスを不活化することが感染拡大を防ぐために有効であると考えられている。
【0004】
従来、エタノール、次亜塩素酸ソーダ、二酸化塩素、グルタルアルデヒド等が、ウイルスを不活化することを目的として使用されている。しかし、これら一般的な消毒剤は、粘膜や皮膚への刺激性が高いため、安全上の問題から使用用途が限られる。また、空間に存在するウイルスを化学的に不活化する方法として、二酸化塩素を散布することも考案されているが、その効果は確かなものではない。
【0005】
精油やそれに含まれる香気成分は、香料として化粧品を始め、様々な製品に配合されるが、特定の生理作用を発揮する精油や化合物があることもよく知られている。例えば、ウイルスに対して抗ウイルス活性を有する精油や化合物が数多く存在する(例えば、特許文献1、非特許文献1、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-306217号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Swamy et al., Evid Based Complement Alternat Med. 2016:3012462.
【非特許文献2】Hayashi K, et al., Planta Medica, 01 Jun 1995, 61(3):237-241
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、環境中に存在するウイルスの不活化を可能とする、ウイルス不活化剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定の化合物の組み合わせにインフルエンザウイルスを効果的に不活化する作用があり、これらがウイルス不活化剤として有用であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の1)~2)に係るものである。
1)下記の成分(A)及び成分(B)を組み合わせてなるウイルス不活化剤;
(A)下記式(1):
【0011】
【化1】
【0012】
〔式中、R、R及びRは、1)R:-CH,R:-H,及びR:-OH、2)R:-CH,R:-OH,及びR:-H、又は、3)R:-OH,R:-H,及びR:-CHを示す。〕
で表される化合物及び2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドから選ばれる1種以上、
(B)直鎖不飽和脂肪族アルデヒド。
2)下記の成分(A)及び成分(B)、又はこれらを含有する組成物をウイルス汚染が懸念される対象に適用する、ウイルス不活化方法;
(A)下記式(1):
【0013】
【化2】
【0014】
〔式中、R、R及びRは、1)R:-CH,R:-H,及びR:-OH、2)R:-CH,R:-OH,及びR:-H、又は、3)R:-OH,R:-H,及びR:-CHを示す。〕
で表される化合物及び2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドから選ばれる1種以上、
(B)直鎖不飽和脂肪族アルデヒド。
【発明の効果】
【0015】
本発明のウイルス不活化剤によれば、生活環境中の硬質・軟質表面に付着したウイルス、生活空間に飛沫したウイルス、エアロゾルとして空間中に漂うウイルス等を不活化でき、当該ウイルスによる感染の拡大を防止又は低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のウイルス不活化剤は、(A)下記式(1):
【0017】
【化3】
【0018】
〔式中、R、R及びRは、1)R:-CH,R:-H,及びR:-OH、2)R:-CH,R:-OH,及びR:-H、又は、3)R:-OH,R:-H,及びR:-CHを示す。〕
で表される化合物及び2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドから選ばれる1種以上、及び(B)直鎖不飽和脂肪族アルデヒドを組み合わせてなるものである。
(A)式(1)で表される化合物及び2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドから選ばれる1種以上、及び(B)直鎖不飽和脂肪族アルデヒドの組み合わせは、成分(A)及び成分(B)を適当な質量比で、予め混合或いは使用時に混合することにより行われる。一態様として、成分(A)及び成分(B)を組み合わせて単一の製剤(例えば、抗ウイルス組成物)とすることが挙げられ、別の態様としては、例えば成分(A)及び成分(B)を含有する製剤を別々に調製して使用時に両者を組み合わせること等が挙げられる。
【0019】
本発明において、ウイルス不活化剤はウイルス感染低減剤であってよい。また、ウイルス不活化効果はウイルス感染低減効果であってよい。
【0020】
本発明の成分(A)及び成分(B)は、いずれも香料や殺菌成分として市販されている化合物である。
式(1)において、1)R:-CH,R:-H,R:-OHである化合物は、5-メチル-2-(1-メチルエチル)フェノール、別名「チモール」である。
式(1)において、2)R:-CH,R:-OH,R:-Hである化合物は、2-メチル-5-(1-メチルエチル)フェノール、別名「カルバクロール」である。
式(1)において、3)R:-OH,R:-H,R:-CHである化合物は、3-メチル-4-(1-メチルエチル)フェノールであり、別名「イソプロピルメチルフェノール(4-イソプロピル-3-メチルフェノール)」である。
「チモール」は、東京化成工業社等から市販されており、「カルバクロール」は、富士フイルム和光純薬社等から市販されており、「イソプロピルメチルフェノール」は富士フイルム和光純薬社等から市販されている。
成分(A)の「2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒド」としては、試薬として販売されている2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドを使用することもできるが、2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドを2-フェニルエタノール及び(4-メチルフェニル)エタノールに溶解した2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドの50質量%溶液を好適に使用することができる。2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドの50質量%溶液としては、2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒド50%、(4-メチルフェニル)エタノール約25質量%及び2-フェニルエタノール約25質量%を含む「Syringa Aldehyde 50%」がGivaudan社から市販されている。
さらに、2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドとしては、斯かる「Syringa Aldehyde 50%」からカラムクロマトグラフィーや蒸留により分離された2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドを使用することもできる。
【0021】
成分(B)の「直鎖不飽和脂肪族アルデヒド」としては、ウイルス不活化効果の観点から、例えば炭素数3以上の直鎖不飽和脂肪族アルデヒド、ウイルス不活化効果、水への溶解性、及び揮発性の観点から好ましくは炭素数6~11の直鎖不飽和脂肪族アルデヒドが挙げられ、より好ましくは分子内に不飽和結合を1~2つ含む炭素数6~11の直鎖脂肪族アルデヒドが挙げられ、より好ましくは分子内に不飽和結合を1つ含む炭素数6~11の直鎖脂肪族アルデヒドが挙げられ、より好ましくはtrans-2-ヘキセナール、cis-6-ノネナール、cis-4-デセナール、trans-2-ウンデセナール、trans-4-デセナール、trans-2-デセナール、10-ウンデセナール等が挙げられ、好ましくはcis-4-デセナール、10-ウンデセナール、及びtrans-2-ウンデセナールから選ばれる少なくとも1種である。
例えば、直鎖不飽和脂肪族アルデヒドは、以下のとおり市販されている。
・trans-2-ヘキセナール(別名:trans-2-へキセニルアルデヒド):東京化成工業社
・cis-6-ノネナール(別名:(Z)-6-ノネン-1-アール):Sigma-Aldrich社
・cis-4-デセナール(別名:(Z)-4-デセナール):Bedoukian Research社
・trans-2-ウンデセナール(別名:(E)-ウンデセ-2-エナール):Bedoukian Research社
・trans-4-デセナール(別名:(E)-4-デセナール):富士フイルム和光純薬社、Sigma-Aldrich社
・trans-2-デセナール(別名:(E)-デセ-2-エナール):Sigma-Aldrich社
・10-ウンデセナール(別名:ウンデセ-10-エナール、):Sigma-Aldrich社、東京化成工業社
【0022】
成分(B)に対する成分(A)の割合(A/B)は、ウイルス不活化効果を向上する観点(以下、ウイルス不活化効果の点、ともいう)から、質量基準で、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.20以上、更に好ましくは0.30以上であり、かつ、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.0以下、更に好ましくは2.0以下、より更に好ましくは1.0以下である。また、同様の観点から、同割合(A/B)は、好ましくは0.05~4.0、より好ましくは0.10~3.0、更に好ましくは0.2~2.0、より更に好ましくは0.3~1.0である。
【0023】
本発明においては、ウイルス不活化効果の点から、成分(A)及び成分(B)と共に、成分(C)として、3,5,5-トリメチルヘキサノール、シトロネリルイソブチレート、ジヒドロミルセノール、シトラール、カリオフィレンアセテート、セドリルアセテート、ヒドラトロピックアルデヒド、ゲラニオール、テルピネオール、テルピネン-4-オール、I-メントン、1,8-シネオール、シトロネリルニトリル、エチルリナロール、カリオフィレン、ノナノール、メントール及び2-メトキシ-4-プロピルフェノールから選ばれる1種以上の化合物を組み合わせて用いることができる。
【0024】
成分(C)を併用する場合、成分(A)と成分(B)の合計に対する成分(C)の割合(C/(A+B))は、ウイルス不活化効果の点から、質量基準で、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.2以上であり、かつ、好ましくは3.0以下、より好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.8以下である。また、同様の観点から、同割合(C/(A+B))は、好ましくは0.05~3.0、より好ましくは0.1~1.0、更に好ましくは0.2~0.8である。
【0025】
成分(C)を併用する場合、成分(C)に対する成分(A)の割合(A/Cは、ウイルス不活化効果の点から、質量基準で、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.5以上であり、かつ好ましくは8以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは2.5以下である。また、同様の観点から、同割合(A/C)は、好ましくは0.1~8、より好ましくは0.2~5、更に好ましくは0.5~2.5である。
【0026】
成分(C)を併用する場合、成分(B)に対する成分(C)の割合(C/B)は、ウイルス不活化効果の点から、質量基準で、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上であり、かつ好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2.0以下である。また、同様の観点から、同割合(C/B)は、好ましくは0.1~3.0、より好ましくは0.2~2.5、更に好ましくは0.3~2.0である。
【0027】
なお、3,5,5-トリメチルヘキサノール、シトロネリルイソブチレート、ジヒドロミルセノール、シトラール、カリオフィレンアセテート、セドリルアセテート、ヒドラトロピックアルデヒド、ゲラニオール、テルピネオール、テルピネン-4-オール、I-メントン、1,8-シネオール、シトロネリルニトリル、エチルリナロール、カリオフィレン、ノナノール、メントール、及び2-メトキシ-4-プロピルフェノールは、それぞれ、以下のとおり市販されている。
・3,5,5-トリメチルヘキサノール:東京化成工業社
・シトロネリルイソブチレート:Sigma-Aldrich社
・ジヒドロミルセノール:富士フイルム和光純薬社
・シトラール:東京化成工業社
・カリオフィレンアセテート:Givaudan社
・セドリルアセテート:Sigma-Aldrich社
・ヒドラトロピックアルデヒド:東京化成工業社
・ゲラニオール:Sigma-Aldrich社
・I-メントン:富士フイルム和光純薬社
・1,8-シネオール:東京化成工業社
・シトロネリルニトリル:Sigma-Aldrich社
・エチルリナロール:Givaudan社
・テルピネオール:Sigma-Aldrich社
・テルピネン-4-オール:Sigma-Aldrich社
・カリオフィレン:Sigma-Aldrich社
・ノナノール:東京化成工業社
・メントール:Sigma-Aldrich社
・2-メトキシ-4-プロピルフェノール:Sigma-Aldrich社
【0028】
後述する実施例に示すように、成分(A)と成分(B)を組み合わせて(合計濃度0.1質量%)、液相中でインフルエンザウイルスと接触させると、ウイルス感染力価が顕著に減少し、その組み合わせの効果は相乗的である。
したがって、成分(A)及び(B)の組み合わせは、ウイルス不活化剤となり得る。或いは、成分(A)及び(B)の組み合わせは、ウイルス不活化剤を製造するために使用することができる。
また、成分(A)及び(B)の組み合わせは、ウイルスを不活化するために使用することができる。
【0029】
本発明のウイルス不活化剤の対象となるウイルスは、核酸の種類(RNA、DNA)およびエンベロープの有無を問わず、すべての種類のウイルスが含まれる。
エンベロープを有するウイルスとしては、核酸としてRNAを有する、インフルエンザウイルス;コロナウイルス;SARSコロナウイルス;SARSコロナウイルス-2;RSウイルス;ムンプスウイルス;ラッサウイルス;デングウイルス;風疹ウイルス;ヒト免疫不全ウイルス、核酸としてDNAを有する、ヒトヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;B型肝炎ウイルス等が挙げられる。
また、エンベロープを有さないウイルスとしては、核酸としてRNAを有する、ノロウイルス;ポリオウイルス;エコーウイルス;A型肝炎ウイルス;E型肝炎ウイルス;ライノウイルス;アストロウイルス;ロタウイルス;コクサッキーウイルス;エンテロウイルス;サポウイルス、核酸としてDNAを有する、アデノウイルス;B19ウイルス;パポバウイルス;ヒトパピローマウイルス等が挙げられる。
【0030】
このうち、エンベロープを有するウイルスが好ましく、エンベロープを有し核酸としてRNAを有するウイルスがより好ましく、インフルエンザウイルス、ヒトコロナウイルス、SARSコロナウイルス、SARSコロナウイルス-2がより好ましい。
なお、SARSコロナウイルス-2(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2,;SARS-CoV-2)は、急性呼吸器疾患(COVID-19)の原因となるSARS関連コロナウイルスである。
【0031】
本発明において、ウイルスの不活化とは、ウイルスの活性を低減又は消失し、宿主細胞への感染力を消失させる作用を意味する。
なお、ウイルスの不活化作用は、例えば、試験品とウイルスを接触させた後、ウイルスを宿主細胞に感染させ、そのウイルス感染価を測定すること等により確認することができる。ここで、宿主細胞としては、対象となるウイルスが増殖可能な細胞であればよく、インフルエンザウイルスであれば、例えばイヌ腎臓細胞(MDCK)、アフリカミドリザル腎臓上皮細胞(Vero)、アヒル胚性幹細胞由来株化細胞(EB66)、ヒトコロナウイルスであれば、例えばヒト回盲腺癌細胞(HCT-8)、アフリカミドリザル腎臓上皮細胞(VeroE6)、ヒト肝臓がん由来株化細胞(Huh7)を用いることができる。
【0032】
本発明のウイルス不活化剤は、成分(A)及び成分(B)を用時組み合わせて使用する態様であってもよく、またこれらを含む組成物(例えば、抗ウイルス組成物)として使用する態様であってもよい。すなわち、本発明のウイルス不活化剤は、ウイルス不活化効果を発揮する抗ウイルス組成物となり、或いはこれらへ配合するための素材又は製剤となり得る。また、本発明のウイルス不活化剤は、液相状態、気相状態のいずれの状態で使用されてもよい。
【0033】
液相状態で使用される上記抗ウイルス組成物は、2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドの他、次亜塩素酸、過酸化水素、銀イオン化合等の抗菌性物質や、カチオン性抗菌剤(塩化ベンゼトニウム等)、殺菌剤(トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール等)、エタノール、界面活性剤等を含んでいてもよく、キレート剤、保湿剤、潤滑剤、ビルダー、緩衝剤、研磨剤、電解質、漂白剤、香料、染料、発泡制御剤、腐食防止剤、精油、増粘剤、顔料、光沢向上剤、酵素、洗剤、溶媒、分散剤、ポリマー、シリコーン、向水性物質等の添加剤を適宜配合することにより調製される。斯かる組成物の形態としては、液状、乳液状、クリーム状、ローション状、ペースト状、ジェル状、シート状(基材担持)、オイル状等の形態であり得るが、これらに限定されない。
当該抗ウイルス組成物は、各種洗浄剤(衣料用洗浄剤、住居用洗浄剤、食器用洗浄剤、洗髪剤、手指洗浄剤、全身用洗浄剤等)、消毒剤、衛生用品組成物等に適宜配合して使用することができる。
【0034】
上記衛生用品組成物としては、例えばローション、クリーム、シャンプー、ヘアコンディショナー、ハンドソープ、ボディシャンプー、洗顔料、入浴剤、フォーム、制汗剤、消臭剤、腋臭防止剤、口腔衛生用品(洗口液、歯磨、口中清涼剤、うがい薬等)等が挙げられる。
当該組成物は、化粧料等として許容される担体(例えば、希釈剤、分散剤、緩衝剤、pH調整剤、分散剤、乳化剤、界面活性剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、保湿剤、増粘剤、殺菌剤、香料等)を適宜組み合わせて常法により調製することができる。
【0035】
気相状態で使用される抗ウイルス組成物(例えば、空間除ウイルス用組成物)は、液状又はゲル状等が挙げられるが、液状であるのが好ましい。当該組成物は、2-(4-メチルフェニル)アセトアルデヒドの他、基材及び各種添加剤(ポリオール類(ジプロピレングリコール、プロピレングリコール等)、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止、防腐剤、消臭剤、天然抽出物、シリコーン、増粘剤、染料、顔料、色素、油剤、香料等)を配合することにより調製できる。ここで、基剤としては、油性又は水性の別を問わず、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ジメチルエーテル、液体プロパン、ワセリン、ラノリン、ヒマシ油、パラフィン系炭化水素(例えば、流動パラフィン等)等の従来公知のものが挙げられ、単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、ゲル状製剤とする場合は、例えば、カラギーナン、ジェランガム等の水溶性ゲル化剤、金属石鹸、オクチル酸アルミニウム等の油溶性ゲル化剤等、天然ゲル化剤又は合成ゲル化剤を従来公知の方法に従って、適宜添加することにより調製できる。
【0036】
組成物の総量に対する成分(A)の含有量は、ウイルス不活化の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.03質量%以上であり、そして、香り強度を低減する観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0037】
組成物の総量に対する成分(B)の含有量は、ウイルス不活化の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.03質量%以上であり、そして、香り強度を低減する観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0038】
組成物の総量に対する成分(A)及び成分(B)の合計の含有量は、ウイルス不活化効果の観点から、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましい。また、香り強度を低減する観点から、10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。また、0.001~10質量%が好ましく、0.005~5.0質量%がより好ましく、0.01~1.0質量%がさらに好ましい。
【0039】
また、前述の成分(C)を更に組み合わせて使用する場合、組成物の総量に対する成分(C)の含有量は、ウイルス不活化効果の観点から、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.015質量%以上がさらに好ましい。また、香り強度を低減する観点から、0.50質量%以下が好ましく、0.45質量%以下がより好ましく、0.40質量%以下がさらに好ましい。また、0.05~0.50質量%が好ましく、0.10~0.45質量%がより好ましく、0.15~0.40質量%がさらに好ましい。
【0040】
本発明のウイルス不活化剤によれば、ウイルスで汚染された動物の皮膚若しくは粘膜や無生物対象物の硬質又は軟質表面、廃棄物等の物体に付着した当該ウイルスの不活化や生活空間に飛沫したウイルスの不活化が可能となる。ここで、無生物対象物の表面としては、例えば、家庭や事業施設における、カウンタ、シンク、化粧室、トイレ、浴槽、シャワー台、床、窓、ドアノブ、壁、下水口、パイプ、ゴミ集積場等の硬質表面;塵芥車、衛生車などの特殊車両のゴミ投入口、作業表面、スイッチ表面等の硬質表面;鉄道車両、航空機体などの運輸車両の床、手すり、ドア表面等の硬質表面;キッチン用品、家具、電話、玩具等の各種器具、道具、雑貨等の硬質表面;繊維製品(カーペット、エリアラグ、カーテン、座席、布製家具、衣類等)等の軟質表面が挙げられる。
廃棄物としては、一般廃棄物(食材残渣、ティッシュペーパー、マスク等の家庭廃棄物)、産業廃棄物(汚泥、糞尿、医療廃棄物等)が挙げられる。廃棄物が袋に内包されている場合、袋表面を対象としても良い。
また、生活空間としては、ダイニングキッチン室、寝室、子供室、浴室、トイレ等の一般家庭内、販売店、食堂、旅館、病院、作業場、工場、家畜飼育場等の施設内、自動車、電車、航空機等の乗り物内、準密閉空間(ロッカー、物置、押入れ等;収納箱(おもちゃ用、カラオケ用マイク用、食器用、調味料用、筆記具用、文房具用))等が挙げられる。
【0041】
本発明のウイルス不活化剤において、成分(A)及び成分(B)、又はこれらを含有する組成物は、ウイルス汚染が懸念される対象に適用されるが、その態様は特に限定されず、成分(A)及び成分(B)、又はこれらを含有する組成物を気相又は液相でウイルスと接触又は反応させればよい。成分(A)及び成分(B)を液相でウイルスと接触させる方法としては、成分(A)及び成分(B)、又はこれらを含有する組成物を処理対象にそのまま塗布する方法、成分(A)及び成分(B)、又はこれらを含有する組成物を拡散させて処理対象に振りかける方法、或いは、成分(A)及び成分(B)、又はこれらを含有する組成物を含浸させたシート、ガーゼ、タオル、おしぼり、ティッシュ、ウエットティッシュ等で対象表面を拭き取る方法等、の何れでもよい。
また、成分(A)及び成分(B)、又はこれらを含有する組成物を、例えば、加圧液噴霧スプレー、加圧空気霧化噴霧装置、ディフューザー、ネブライザー等の霧化又は拡散のための容器若しくは装置に充填し、ウイルス存在する空間中に霧状に散布して用いることによって、揮散速度を速めることができ、迅速にウイルス不活化効果を発揮させることができる。また、成分(A)及び成分(B)、又はこれらを含有する組成物を、エアゾール、ミストスプレー等の状態で使用しても同様の効果が得られる。
【0042】
成分(A)及び成分(B)、又はこれらを含有する組成物を気相でウイルスと接触又は反応させる方法としては、成分(A)及び成分(B)を自然揮散させる形態或いは強制揮散させる形態の何れの態様であってもよい。成分(A)及び成分(B)を自然揮散させる形態であれば、生活空間内に放置するだけで空間に存在するウイルスを不活化でき、簡便に空間のウイルス除去(除ウイルス)が行える。
本発明のウイルス不活化剤を、自然揮散を目的として使用する場合、例えば、成分(A)及び成分(B)、又はこれらを含有する組成物を芯棒、濾紙等に染み込ませて揮散させる方法や透過膜を用いて揮散させる方法等の従来公知の方法が適用できる。また、樹脂に成分(A)及び成分(B)、又はこれらを含有する組成物を混練して使用することもできる。混練しうる樹脂としては、天然系、石油系、合成系のワックス、ロジン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリエステル、ポリオレフィン、アクリル系樹脂等が挙げられる。上記の混練物は、そのまま用いることもできるし、多孔質担体に担持させたり、シート状にしたり、該シート状物を積層体にして用いることもできる。多孔質担体としては、例えば、セルロース、キトサン等の天然高分子、上記の合成樹脂、ケイ酸カルシウム等の無機多孔性物質等を、粒状、シート状等の任意の形状にしたものが挙げられる。上記の混練物や積層体は、例えば、空調設備、トイレ、浴室、居間、病室、病院の待合室、ダストボックス等に設置して、成分(A)及び成分(B)を徐々に揮散させながら利用することもできる。また、成分(A)及び成分(B)、又はこれらを含有する組成物を紙や不織布等からなる製品(空気清浄器のフィルター等)に担持させて使用することもできる。
成分(A)及び成分(B)を強制揮散させて用いる場合、斯かる手段としては、例えば、ファン等を用いて揮散させる方法、ヒーター等を用いた加熱揮散方法、超音波によって揮散させる方法等が挙げられる。
【0043】
なお、空間除ウイルス処理を行う場合、成分(A)及び成分(B)、又はこれらを含有する組成物の使用量は、処理の態様、気温・湿度等の空間環境、成分(A)及び成分(B)の蒸気圧等によって適宜調整でき、成分(A)及び成分(B)の空間における飽和濃度以上とすることも可能であるが、例えば、対象空間における成分(A)及び成分(B)の濃度が、ウイルス不活化効果の観点から、当該化合物の空間における飽和濃度(質量/体積)の0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、香り強度を低減する観点から、好ましくは100質量%以下、より好ましくは50質量%以下、より好ましくは25質量%以下で揮散するように使用することが挙げられる。 対象空間における成分(A)及び成分(B)の濃度は、空間より採取した気体中の当該化合物濃度を測定することで検出でき、揮発性有機化合物濃度測定器(VOC測定器、ニオイセンサー等)を用いる方法、ガス捕集管などを併用してガスクロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー/質量分析を用いて求める方法が挙げられる。
【実施例0044】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
実施例1 液相でのインフルエンザウイルスの不活化
1.方法
インフルエンザウイルスA型(A/Puerto Rico/8/1934,H1N1)株を試験ウイルス株として用いた。化合物6体積%、ジプロピレングリコール(富士フイルム和光純薬社製)60体積%、UltraPure DNase/RNase-Free Distilled Water(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)34体積%の溶液を化合物のストック溶液とし、プロテオセーブチューブ(住友ベークライト社製)内で使用まで4℃で保管した。ストック溶液をHybridoma-SFM(SFM;サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で30倍に希釈した溶液を96穴のプロテオセーブプレート(住友ベークライト社製)に60μL添加し、そこにウイルス液60μL(7.8×10FFU)を添加し、化合物の終濃度が0.1体積%となるようにして室温(約23℃)で10分間又は30分間反応させた。化合物は表1に示すものを使用し、表2、表3-1、表3-2、表4及び表5に示すように成分(A)~(C)を単独(比較組成1、2)、2種(組成2-1~2-13)、3種(組成3-1~3-22)、4種(組成4-1、4-2)、5種(組成5-1、5-2)を組み合わせたものを評価した。複数の化合物を組み合わせる際は合計の濃度が0.1体積%となるように、例えば2種では0.05体積%×2のように調製してウイルスと反応させた。
なお、表2、表3-1、表3-2、表4及び表5に記載の各組成の各成分の数値は組成物中の含有量(質量%)に換算した値を表す。
反応後、SFMでウイルスを希釈し、あらかじめ12または48穴プレートで培養していたMDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来)に感染させ、Focus Forming Assayでウイルス力価を測定した。具体的には37℃、5体積%CO2条件下で約18時間培養後、形成されたフォーカス数を測定し、ウイルス感染力価を測定した。対照の1%(v/v)ジプロピレングリコール溶液と反応させた際の感染力価を100%とし、各化合物のウイルス感染力価の割合(%)を算出した。試験は1~5回行った。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3-1】
【0048】
【表3-2】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
2.結果
結果を表2、表3-1、表3-2、表4及び表5に併せて示す。
表2、表3-1、表3-2、表4及び表5に示すとおり、炭化水素に置換したホルミル基、ベンジル位に置換したホルミル基、フェノール性水酸基など反応性が異なる置換基を有する化合物を組み合わせた際に抗ウイルス活性が高まることから、それぞれの置換基がウイルスに対して不活化の作用機序が異なるため、相乗効果が発現したと考えられる。