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特開2024-31860繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体及びその製造方法
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  • 特開-繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031860
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/10 20060101AFI20240229BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20240229BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B32B5/10
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
B32B1/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130182
(22)【出願日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2022134011
(32)【優先日】2022-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】八塚 優
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 憲治
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
【Fターム(参考)】
4F072AA08
4F072AB09
4F072AB22
4F072AB24
4F072AD04
4F072AH04
4F072AH31
4F072AJ04
4F072AL02
4F072AL11
4F072AL17
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100BA02
4F100DA16
4F100DH02A
4F100EJ82A
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】曲げ強力に優れた、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明では、熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束により形成された強化層と、前記強化層の最外側を熱可塑性樹脂により被覆する1又は2以上の被覆層と、を少なくとも備え、前記強化層は、撚りが付与された状態であり、前記強化用繊維の体積含有比率は、強化層全体に対して20%以上80%以下である、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体及びその製造方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束により形成された強化層と、
前記強化層の最外側を熱可塑性樹脂により被覆する1又は2以上の被覆層と、
を少なくとも備え、
前記強化層は、撚りが付与された状態であり、
前記強化用繊維の体積含有比率は、強化層全体に対して20%以上80%以下である、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体。
【請求項2】
前記最外側を被覆する熱可塑性樹脂が、強化用繊維束へ含浸させた熱可塑性樹脂の溶融開始温度以下である、又は前記最外側を被覆する熱可塑性樹脂の溶融開始温度が、200℃以下である、請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体。
【請求項3】
熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束により形成された強化層と、前記強化層の最外側を熱可塑性樹脂により被覆する1又は2以上の被覆層と、を少なくとも備え、前記強化層は、撚りが付与された状態であり、前記強化用繊維の体積含有比率は、強化層全体に対して20%以上80%以下である、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体の製造方法であって、
強化用繊維束に熱可塑性樹脂を含浸した後、熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束に撚りを付与する工程Aと、
前記工程Aの後、撚りが付与された熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束を冷却し、強化層を作製する工程Bと、
を少なくとも行う、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体及びその製造方法に関する。より詳しくは、曲げ強力に優れた、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化用繊維を合成樹脂で結着した繊維強化熱硬化性樹脂(FRP)製物品は、強度が高く且つ軽量であるという点から、金属製物品に代わる材料として、自動車部材、電子部品、農林資材、建築材、家具等の幅広い分野で利用されている。このFRP技術を使用した製品の一つであるガラスロービング等の長繊維束を強化用繊維とし、熱硬化性樹脂をマトリックスとするパイプ、ロッド、線状物等も古くから各種産業分野で使用されている。
【0003】
ここで、例えば、特許文献1には、長尺の強化用繊維束に溶融樹脂を含浸させると共に、撚り機によってその軸心を中心にして回転させ、上記強化用繊維束に撚りを与えることを特徴とする繊維強化樹脂ストランドの製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、複数の強化繊維束同士を撚り合わせながら溶融された熱可塑性樹脂中を引き抜くことで強化繊維の周りに前記熱可塑性樹脂が被覆されたストランドを形成し、当該ストランドを所定長さに切断してペレットを得る長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法であって、前記熱可塑性樹脂の溶融粘度をメルトフローレート=500~1500g/10minに調整し、前記ストランドの引き抜き方向に対する強化繊維束の撚り角θを0°<θ≦50°として、前記ストランドを引き抜くことを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05-169445号公報
【特許文献2】特開2011-62971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の製造方法で製造された繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体は、曲げ強力が低く、更なる曲げ強力の改善を行う必要があった。
【0007】
そこで、本発明では、このような実情に鑑み、曲げ強力に優れた、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体及びその製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らが鋭意実験検討を行った結果、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体の構造に着目することで、曲げ強力に優れた、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体及びその製造方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明では、まず、熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束により形成された強化層と、前記強化層の最外側を熱可塑性樹脂により被覆する1又は2以上の被覆層と、を少なくとも備え、前記強化層は、撚りが付与された状態であり、前記強化用繊維の体積含有比率は、強化層全体に対して20%以上80%以下である、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体を提供する。
本発明では、前記最外側を被覆する熱可塑性樹脂が、強化用繊維束へ含浸させた熱可塑性樹脂の溶融開始温度以下であるか、又は前記最外側を被覆する熱可塑性樹脂の溶融開始温度が、200℃以下であってもよい。
【0010】
また、本発明では、熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束により形成された強化層と、前記強化層の最外側を熱可塑性樹脂により被覆する1又は2以上の被覆層と、を少なくとも備え、前記強化層は、撚りが付与された状態であり、前記強化用繊維の体積含有比率は、強化層全体に対して20%以上80%以下である、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体の製造方法であって、強化用繊維束に熱可塑性樹脂を含浸した後、熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束に撚りを付与する工程Aと、前記工程Aの後、撚りが付与された熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束を冷却し、強化層を作製する工程Bと、を少なくとも行う、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体の製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、曲げ強力に優れた、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体及びその製造方法を提供することができる。
なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体1の構造を模式的に示す図である。
図2】本発明に係る製造方法の概略を模式的に示す図である。
図3】熱加工性確認試験で用いた円形金属物を示す図面代用写真である。
図4】比較例3の製造方法の概略を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好適な形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
1.繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体1
図1は、本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体1の構造を模式的に示す図である。本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体1(以下、単に「本発明に係る複合体1」とも称する。)は、強化層11と、1又は2以上の被覆層12と、を少なくとも備える。
【0015】
本発明に係る複合体1は、ロッド状であり、ここでいう「ロッド状」とは、具体的には、その断面が円形、又は楕円形などの扁平形状となる形状をいう。
【0016】
本発明に係る複合体1は、上記の構造を有することにより、曲げ強力に優れていることから、金属製物品に代わる材料として、これまで以上に、自動車部材、電子部品、農林資材、建築材、家具等の幅広い分野で利用されることが期待できる。以下、各層について、詳細に説明する。
【0017】
(1)強化層11
強化層11は、図1に示すように、熱可塑性樹脂111を含浸させた強化用繊維束112により形成される層である。強化用繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたものは、一般的に、繊維強化熱可塑性樹脂(FRTP)と称される。
【0018】
<強化用繊維束112>
強化用繊維束112としては、例えば、連続長繊維束、繊維編組物(例えば、織物、編物、組物など)の形態を有する基材であることが好ましい。これらを用いることで、連続含浸性、被覆層の連続形成性が確保でき、生産性に優れた被覆層を有する繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体1の製造が可能となる。
【0019】
強化用繊維束112を構成する繊維としては、例えば、オレフィン系繊維、アラミド繊維、液晶ポリエステル(LCP)繊維等の有機繊維;ガラス繊維;炭素繊維等の無機繊維;チラノ繊維等のセラミック繊維;ボロン繊維、銅、ステンレス等の金属繊維;アモルファス繊維等を用いることができるが、本発明ではこれらの中でも特に、ガラス繊維及び/又は炭素繊維を用いることが好ましい。また、本発明では、これらの混織物等を用いることもできる。
【0020】
ガラス繊維としては、例えば、ガラス繊維モノフィラメント、ガラス繊維ストランド、ガラス繊維ロービング、ガラス繊維ヤーン等の長繊維を用いることができるが、本発明ではこれらの中でも特に、ガラス繊維ロービング及び/又はガラス繊維ヤーンを用いることが好ましい。また、ガラス繊維織物、ガラス繊維組物、ガラス繊維編物等のガラス繊維編組物も適用可能である。なお、ガラス繊維は、エポキシシランカップリング剤、アクリルシランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理を行ったものでもよい。また、ガラス繊維のガラス組成としては、例えば、Eガラス、Sガラス、Cガラス等が挙げられ、本発明ではこれらの中でも特に、Eガラスが好ましい。また、ガラス繊維モノフィラメントの断面は円形でも、楕円形等の扁平形状でもよい。
【0021】
ガラス繊維ロービングとしては、直径3~100μmのガラス繊維モノフィラメントが100~5,000本束ねられたガラス繊維束を、3~500本更に束ねたものが好ましい。
【0022】
炭素繊維としては、コールタールピッチや石油ピッチを原料にした「ピッチ系」と、ポリアクリロニトリルを原料とする「PAN系」と、セルロース繊維を原料とする「レーヨン系」の3種類があり、本発明では、どの炭素繊維も用いることができる。
【0023】
強化用繊維束112は、必要に応じて、周知の方法により所望の尺長に織り上げるか組み上げるか又は編み上げるか等の方法により調製しておくことができ、又は、長尺のものをロールに巻き取って使用してもよい。また、強化用繊維への樹脂の含浸性を高めるためや、強化用繊維中の水分を除去させるために、強化用繊維束112を加熱してもよい。
【0024】
強化用繊維(束)112の体積含有比率は、強化層11全体に対して20%以上80%以下であることが好ましく、40%以上60%以下であることがより好ましい。体積含有比率が20%より低くなると、強化用繊維による補強効果が低くなる。逆に、体積含有比率が80%を超えると、樹脂量が少ないために、曲げ強力に悪影響を生じる。
【0025】
<強化層11に用いられる熱可塑性樹脂111>
強化層11に用いられるマトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂111としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリイソブチレン(PIB)等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PENp)、液晶ポリエステル(LCP)等のポリエステル系樹脂;ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル-アクリル-スチレン樹脂(AAS)、アクリロニトリル・エチレンプロピレンゴム・スチレン(AES)等のスチレン系樹脂;ウレタン樹脂等が挙げられる。また、その他にも、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)等が挙げられる。
【0026】
本発明ではこれらの中でも特に、ポリカーボネート、アクリロニトリル-スチレン樹脂、ポリプロピレン、及びポリビニルアルコールからなる群より選ばれるいずれか1種以上であることが好ましく、ポリカーボネート及び/又はアクリロニトリル-スチレン樹脂であることがより好ましい。
【0027】
<強化層11における撚り>
本発明において、強化層11は、撚りが付与された状態である。撚りの方向については、一方向撚り(S撚り又はZ撚り)、又はSZ撚りのいずれであってもよい。撚りを付与する位置については、含浸槽出口から被覆工程の間であれば、どこの工程であってもよいが、例えば、後述する本発明に係る製造方法における工程Aにて行うことができる。また、撚りを付与する方法についても、特に限定されない。
【0028】
撚りを付与する際に、撚りのピッチ幅としては、800mm以下であることが好ましく、500mm以下であることがより好ましく、300mm以下であることが更に好ましく、200mm以下であることが特に好ましい。撚りのピッチ幅が800mmより大きいと、含浸させた熱可塑性樹脂の軟化によって、曲げたときFRTPロッド補強繊維の外周側と内周側の張力差が要因で座屈や白化が生じる。
【0029】
(2)被覆層12
被覆層12は、前記強化層11の最外側を熱可塑性樹脂により被覆する1又は2以上の層である。なお、図1では、被覆層12が1層の場合を描写しているが、本発明においては、被覆層12は2層以上であってもよい。被覆層12が2層以上である場合の構造としては、例えば、強化層11を覆う第1の被覆層12の一部又は全部を第2以上の被覆層12で順に覆う構造等が挙げられる。
【0030】
<被覆層12に用いられる熱可塑性樹脂>
被覆層12に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリイソブチレン(PIB)等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PENp)、液晶ポリエステル(LCP)等のポリエステル系樹脂;ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル-アクリル-スチレン樹脂(AAS)、アクリロニトリル・エチレンプロピレンゴム・スチレン(AES)等のスチレン系樹脂;ウレタン樹脂等が挙げられる。また、その他にも、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)等が挙げられる。
【0031】
本発明ではこれらの中でも特に、ポリカーボネート及び/又はポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。また、本発明では、前記最外側を被覆する熱可塑性樹脂(被覆層12に用いられる熱可塑性樹脂)は、強化用繊維束112へ含浸させた熱可塑性樹脂111(強化層11に用いられる熱可塑性樹脂111)の溶融開始温度以下であるか、又は前記最外側を被覆する熱可塑性樹脂の溶融開始温度が、200℃以下であることが好ましい。被覆層12に用いられる熱可塑性樹脂の溶融開始温度がマトリックス樹脂の溶融開始温度より高いと被覆を行った際に、強化用繊維と熱可塑性樹脂の複合体が融解してしまい物性に悪影響がある。ただし、溶融開始温度が200℃以下の熱可塑性樹脂であれば、たとえマトリックス樹脂の溶融開始温度以上であったとしても、冷却が短時間で行えることから、物性への影響がほとんどないため、悪影響を及ぼすことがない。
【0032】
2.繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体1の製造方法
図2は、本発明に係る製造方法の概略を模式的に示す図である。本発明に係る製造方法は、上述した本発明に係る複合体1の製造方法であって、工程Aと、工程Bと、を少なくとも行う。また、必要に応じて、その他の工程C、工程D等を行ってもよい。以下、各工程について、詳細に説明する。
【0033】
(1)工程C
本工程は必須の工程ではないが、本発明に係る製造方法において行われてもよい。工程Cでは、強化用繊維束Fを引取可能とする工程である。具体的には、強化用繊維束Fを所要本数クリール10より引き出し、必要に応じて、強化用繊維束Fに張力調整手段を介して、未昇温の予熱装置内に通し(不図示)、強化用繊維束F群を引出し、冷却水を満たしていない冷却槽を経て(不図示)、引取装置20により強化用繊維束F群を引取可能とする。
【0034】
(2)工程A
工程Aでは、強化用繊維束Fに熱可塑性樹脂を含浸した後、熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束Fに撚りを付与する。具体的には、引取装置20を駆動して、繊維強化用繊維束F群を所定の速度で引取りながら、強化用繊維束Fに対して張力調整手段を介して1本当たり所定の張力を負荷し、予熱装置を昇温して強化用繊維束Fを加熱しつつ溶融押出機30を駆動して、クロスヘッドダイに熱可塑性樹脂を供給し、含浸槽40内にて各強化用繊維束Fと溶融した熱可塑性樹脂を接触させ、各強化用繊維束Fに熱可塑性樹脂を含浸させて、含浸槽40内絞りで径を整えながら、大気圧以下又は加圧下にて長繊維強化用繊維束Fを線状物として押出被覆する。次いで、該線状物に対して、撚りを付与する。本発明に係る製造方法において、撚りの方向については、一方向撚り(S撚り又はZ撚り)、又はSZ撚りのいずれであってもよい。なお、工程A~Bにて作製される強化層11全体に対する前記強化用繊維の体積含有比率は、従来公知の方法により、当業者により適宜自由に設定されるが、本発明では、20%以上80%以下であることが好ましく、40%以上60%以下であることがより好ましい。
【0035】
(3)工程B
工程Bでは、前記工程Aの後、撚りが付与された熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束Fを冷却し、強化層11を作製する。具体的には、撚りが付与された線状物を、風冷、水冷、又はミスト噴射からなる群より選ばれるいずれか1つ以上の方法により冷却し、撚りを賦形し、強化層11を作製する。
【0036】
本工程では、工程Aの後、撚りが付与された熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束Fを冷却固化していることから、強化用繊維束Fへ樹脂含浸を行う前に強化用繊維束Fに撚りを与えた場合と比較して、効率良く撚りを付与できる。強化用繊維束Fに撚りを与える場合、繊維が絡まるなど加工性が悪い。含浸固化後に撚りを付与することで、空隙の発生を防ぎより高密度にすることができる。なお、工程Bでは、撚り機により、更に撚りが付与されてもよい。
【0037】
(4)工程D
工程Dでは、作製された強化層11の最外層に熱可塑性樹脂を被覆し、被覆層12を作製する。具体的には、溶融押出機30を駆動して、クロスヘッドダイに熱可塑性樹脂を供給し、強化層11の最外層に該熱可塑性樹脂を接触させて、加圧下にてロッド状となるように押出被覆する。次いで、従来公知の法により冷却固化させて、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体1を作製する。作製した本発明に係る複合体1は、図2に示すように、必要に応じて、引取機を用いて引取してもよい。この場合、引取機には、図2に示すように、撚り機構が付いていてもよい。
【実施例0038】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0039】
<繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体の作製>
実施例1~10、並びに比較例1及び2については、上述した工程C→工程A→工程B→工程Dの順に行って、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体作製した。
【0040】
図4は、比較例3の製造方法の概略を模式的に示す図である。すなわち、工程Dを行わずに引取工程のみを行った以外は、実施例1~10、並びに比較例1及び2と同様の製造方法にて、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体作製した。
【0041】
各実施例及び各比較例の、強化用繊維(束)の体積含有比率、撚り方向、撚りピッチ、及び作製に用いた樹脂種については、下記表1又は表2に示す。なお、各実施例及び各比較例においては、いずれも、上述した通り、強化用繊維束を構成する繊維として好ましい繊維であるガラス繊維を用いている。
【0042】
<評価>
作製した各繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体について、3点曲げ試験、及び熱加工性確認試験を行った。
【0043】
[3点曲げ試験]
100mm長さにカットした各繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体(N=5)について、万能試験機を使用し、支点間距離は繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体径×20mm、速度5.0mm/minの条件で3点曲げ試験を行い、N=5の平均値を測定値とした。
【0044】
評価方法としては、得られた測定値を下記の評価と照らし合わせた。
300N≦F:〇
250N≦F<300N:△
F<250N:×
【0045】
なお、本願発明者らが、別途、特開平05-169445号公報に開示された繊維強化ストランドについても上述した方法で3点曲げ試験を行ったところ、結果は約200Nであった。
【0046】
[熱加工性確認試験]
図3に示した円形金属物(直径600mm)へ各繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体を沿わせて固定し、135℃に加熱したオーブン内へ投入し、1時間加熱した後、常温で1時間以上放置し、円形金属物より各繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体を取り外して評価を行った。
【0047】
評価方法としては、得られた各繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体の状態を下記の評価と照らし合わせた。
賦形が完璧であり、座屈(折れや白化など)がない:◎
座屈がない:〇
座屈がある:×
なお、ここでいう「賦形が完璧である」とは、固定治具(=図3に示した円形金属物)から取り外した際に、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体の形状は変化しないことをいう。
【0048】
<評価>
各評価結果を、下記表1及び表2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
<考察>
実施例1~10の繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体は、比較例1~3の繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体と比較して、曲げ強力に優れていた。また、実施例1~10の繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体は、比較例1及び2の繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体と比較して、熱加工性にも優れていた。したがって、熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束により形成された強化層と、前記強化層の最外側を熱可塑性樹脂により被覆する1又は2以上の被覆層と、を少なくとも備え、前記強化層は、撚りが付与された状態であり、前記強化用繊維の体積含有比率は、強化層全体に対して20%以上80%以下とすることで、曲げ強力に優れた繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体を提供できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、曲げ強力に優れた、繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体及びその製造方法を提供することを主目的とする。したがって、曲げ強力に優れているという特徴を生かし、金属製物品に代わる材料として、これまで以上に、自動車部材、電子部品、農林資材、建築材、家具等の幅広い分野で利用されることが期待できる。
【符号の説明】
【0053】
1:繊維強化熱可塑性樹脂製ロッド状複合体
11:強化層
111:強化層11に用いられる熱可塑性樹脂(マトリックス樹脂)
112、F:強化用繊維束
12:被覆層
図1
図2
図3
図4