(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031876
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】酸化還元スイング型廃水浄化システム
(51)【国際特許分類】
C02F 3/30 20230101AFI20240229BHJP
C02F 11/02 20060101ALI20240229BHJP
C02F 3/00 20230101ALI20240229BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20240229BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240229BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240229BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C02F3/30 A ZAB
C02F11/02
C02F3/00 G
C02F3/34 Z
C12M1/00 D
C12N1/20 A
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】27
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133705
(22)【出願日】2023-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2022132785
(32)【優先日】2022-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】312010065
【氏名又は名称】JNCエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川合 隆博
(72)【発明者】
【氏名】並木 伸明
(72)【発明者】
【氏名】前 一廣
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
4D040
4D059
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB02
4B029CC01
4B029DA04
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4D059AA01
4D059AA03
4D059BA22
4D059BA28
4D059BA31
4D059DA22
4D059EB20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】動物の糞尿や食品工場廃水などの著しくBODの高い廃水であっても希釈することなく、安定的な処理が可能な廃水浄化処理技術を提供する。さらに、処理において処理槽や汚泥からの悪臭や害虫の発生が少なく、処理排水が無臭となる廃水浄化処理技術を提供する。
【解決手段】脱窒槽を含む嫌気槽と、有機物の酸化分解を行う好気槽と、土壌環境物質を充填したリアクターと、各槽に活性汚泥と、を備えた酸化還元スイング型廃水浄化システムであって、リアクターは、好気槽に内装されており、処理液及び活性汚泥が嫌気槽に供給された後に好気槽に供給され、再度嫌気槽に供給される循環経路を有し、嫌気槽における処理液の酸化還元電位(ORP)は-500から-150mVの範囲であり、好気槽における処理液の酸化還元電位(ORP)は+80mV以上であり、前記土壌環境物質は、少なくとも、腐植物質及び鉄を含む、酸化還元スイング型廃水浄化システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱窒槽を含む嫌気槽と、
有機物の酸化分解を行う好気槽と、
土壌環境物質を充填したリアクターと、
各槽に活性汚泥と、
を備えた、酸化還元スイング型廃水浄化システムであって、
前記リアクターは、好気槽に内装されており、
処理液及び活性汚泥が、嫌気槽に供給された後に、好気槽に供給され、再度嫌気槽に供給される循環経路を有し、
嫌気槽における処理液の酸化還元電位(ORP)は-500から-150mVの範囲であり、
好気槽における処理液の酸化還元電位(ORP)は+80mV以上であり、
前記土壌環境物質は、少なくとも、腐植物質、及び鉄を含む、酸化還元スイング型廃水浄化システム。
【請求項2】
前記好気槽が培養槽を含む、請求項1に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
【請求項3】
培養槽において、処理液の活性汚泥濃度(MLSS)が2000mg/L以上に調整される、請求項2に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
【請求項4】
活性汚泥中に、
嫌気槽において、腐植物質を還元することができる微生物群および遷移金属を還元することができる微生物群、並びに
好気槽において、過酸化水素を発生させることができる微生物群、
を棲息させることを特徴とする、請求項1に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
【請求項5】
活性汚泥中に、好気槽において、腐植物質を酸化することができる微生物群をさらに棲息させることを特徴とする、請求項4に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
【請求項6】
培養槽において、処理液中に、腐植物質および遷移金属を供給する手段を有することを特徴とする、請求項2に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
【請求項7】
遷移金属が、鉄、銅、マンガンおよび亜鉛の群から選択された少なくとも1種である、請求項4に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
【請求項8】
腐植物質を還元することができる微生物群が、Phylum Proteobacte
ria、Phylum Actinobacteria、Phylum BacteroidetesおよびPhylum Firmicutesからなる群から選択された少なく
とも1種の腐植物質還元菌であり、
遷移金属を還元することができる微生物群が、Rhodoferax、Anaeromyxobacter、及びGeobacterからなる群から選択される鉄還元菌であり、
過酸化水素を発生させることができる微生物群が、Lactobacillus、Lactococcus、Streptococcus、及び酸素呼吸を行う細菌のうちスーパーオキシドデスムターゼ活性を有する細菌からなる群から選択された少なくとも1種の微生物である、請求項4に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
【請求項9】
腐植物質を酸化することができる微生物群が、Phylum Proteobacte
ria、Phylum Bacteroidetes、Phylum Firmicutes、及びPhylum Actinobacteriaの群から選択された少なくとも1
種の腐植物質酸化菌である、請求項5に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
【請求項10】
ラジカルを発生させる添加剤を培養槽に添加する手段を有することを特徴とする、請求項2に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
【請求項11】
請求項1~10の何れか一項に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システムを用いて、動物の糞尿を含む処理液を浄化する、廃水の浄化方法。
【請求項12】
請求項1~10の何れか一項に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システムを用いて、動物の糞尿を含む処理液を無臭化する方法。
【請求項13】
動物の糞尿を含む処理液及び活性汚泥を、
脱窒槽を含む嫌気槽、並びに有機物の酸化分解を行う好気槽の間を循環させることを含む、酸化還元スイング型廃水浄化方法であって、
前記好気槽は、土壌環境物質を充填したリアクターを内装し、
嫌気槽における処理液の酸化還元電位(ORP)は-500から-150mVの範囲であり、
好気槽における処理液の酸化還元電位(ORP)は+80mV以上であり、
前記土壌環境物質は、少なくとも、腐植物質及び鉄を含む、酸化還元スイング型廃水浄化方法。
【請求項14】
前記好気槽が培養槽を含む、請求項13に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
【請求項15】
培養槽において、処理液の活性汚泥濃度(MLSS)が2000mg/L以上に調整される、請求項14に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
【請求項16】
活性汚泥中に、
嫌気槽において、腐植物質を還元することができる微生物群および遷移金属を還元することができる微生物群、並びに
好気槽において、過酸化水素を発生させることができる微生物群、
を棲息させることを特徴とする、請求項13に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
【請求項17】
活性汚泥中に、好気槽において、腐植物質を酸化することができる微生物群をさらに棲息させることを特徴とする、請求項16に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
【請求項18】
培養槽中の処理液に、腐植物質および遷移金属を供給することを特徴とする、請求項14に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
【請求項19】
遷移金属が、鉄、銅、マンガンおよび亜鉛の群から選択された少なくとも1種である、請求項16に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
【請求項20】
腐植物質を還元することができる微生物群が、Phylum Proteobacte
ria、Phylum Actinobacteria、Phylum BacteroidetesおよびPhylum Firmicutesからなる群から選択された少なく
とも1種の腐植物質還元菌であり、
遷移金属を還元することができる微生物群が、Rhodoferax、Anaeromyxobacter、及びGeobacterからなる群から選択される鉄還元菌であり、
過酸化水素を発生させることができる微生物群が、Lactobacillus、LactococcusStreptococcus、及び酸素呼吸を行う細菌のうちスーパーオキシドデスムターゼ活性を有する細菌からなる群から選択された少なくとも1種の微生物である、請求項16に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
【請求項21】
腐植物質を酸化することができる微生物群が、Phylum Proteobacte
ria、Phylum Bacteroidetes、Phylum Firmicutes、及びPhylum Actinobacteriaの群から選択された少なくとも1
種の腐植物質酸化菌である、請求項17に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
【請求項22】
ラジカルを発生させる添加剤を培養槽に添加することを特徴とする、請求項14に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
【請求項23】
動物の糞尿を含む処理液及び活性汚泥を、
嫌気状態と有機物の酸化分解を行う好気状態とに交互に置くことを繰り返すことを含む、酸化還元スイング型廃水浄化方法であって、
前記状態において前記処理液及び活性汚泥は、土壌環境物質に接触し、
嫌気状態における処理液の酸化還元電位(ORP)は-500から-150mVの範囲であり、
好気状態における処理液の酸化還元電位(ORP)は+80mV以上であり、
前記土壌環境物質は、少なくとも、腐植物質及び鉄を含む、酸化還元スイング型廃水浄化方法。
【請求項24】
請求項13~23の何れか一項に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法を用いて、動物の糞尿を含む処理液を無臭化する方法。
【請求項25】
請求項13~23の何れか一項に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法を用いた、生理活性水の製造方法。
【請求項26】
請求項25に記載の製造方法により得られた生理活性水を、家畜に飲料水として供することを含む、家畜の防疫方法。
【請求項27】
請求項25に記載の製造方法により得られた生理活性水を散布することによる、悪臭の消臭方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜舎等から排出される動物の糞尿や、食品工場からの廃水等を浄化処理する廃水浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
家庭や商工業施設から排出された廃水の処理方法として、標準活性汚泥法が広く知られている。この方法は、沈殿池(最初沈殿池、最終沈殿池)と反応タンクからなり、処理水中の有機物を反応タンク内の活性汚泥により吸着及び摂取させ、摂取した有機物を酸化及び同化させる。そして反応タンクで生成した活性汚泥フロックを最終沈殿池で沈降分離することで、有機物が除去された処理水を得る。そしてその沈降分離した汚泥を反応タンクに返送、もしくは余剰汚泥として排出することにより、廃水中の有機物を連続的に除去する方法である。
【0003】
この方法は、設備の構造が比較的簡単という特徴があるものの、安定稼働のための条件が厳しい、廃水中の有機物量の変動に弱い、窒素やリンの除去率が低いといった問題がある。さらに、廃水に畜舎等から排出される動物の糞尿が混ざった廃水、或いは動物の糞尿が主の廃水においては、廃水の生物化学的酸素要求量(BOD)が非常に高いため、大規模な希釈設備が必要であったり、通常の標準活性汚泥法では安定稼働ができなかったり、さらには処理しきれないという問題がある。また、施設設置には比較的広い用地が必要であるうえ、処理槽や汚泥からの悪臭の発生や、ハエや蚊などの害虫の発生が起こるため、人家の近くには設置できないという問題がある。
【0004】
このような問題を解決しようとする方法が提案されている。
例えば特許文献1には、有機性廃水を土壌細菌の作用で浄化するシステムに、廃水の一部をこのシステムから取り出して腐植物質と接触させ、しかる後に廃水の一部を元のシステムへ返送する工程が付随された廃水浄化システムが開示されている。
この技術は、腐植物質を含むペレットと廃水とが広い面積で接触できるようにすることで、微生物の活性を維持することができ、またペレットの供給手段を有するため、ペレットの経時消耗による微生物活性の低下や消失を防止できるものである。主として農業用施設からの廃水処理を意図したものであるが、畜舎等から排出される廃水でも有機物の分解効率がよくなる生物分解環境となるため、悪臭や害虫の発生が少なくなるものの、安定稼働のための条件が依然として難しいという側面があり、運転管理の仕方によっては、腐植物質を添加した廃水処理特有の現象が発現し難くなるという場合がある。
【0005】
特許文献2には、有機物を含む汚泥廃水を処理するための技術が開示され、曝気段階で有機汚泥の分解を促進する酵素を添加することが記載されている。しかしながらこの方法では、有機汚泥の分解が促進されるが、酵素により有機物の分解が補助されるものの微生物自体の活性を維持する効果は得られない。したがって、悪臭や害虫の発生を抑える、あるいは装置の安定稼働を実現するという効果を得るまでには至っていない。
【0006】
このように、悪臭や害虫の発生を抑えたり、装置の安定稼働を実現するという課題は、従来技術として開示された標準活性汚泥法またはこの応用技術においてもなお、未解決となっている。それは、標準活性汚泥法には幾つかの工程があるにも関わらず、どのような作用や機能を有する微生物が各々の工程で関与しているかが殆ど検討されてこなかったためと考えられる。
【0007】
また、廃水の処理プロセスにおいては、有機汚泥の滞留と沈殿が起こり、プロセスが機
能しなくなるという問題がある。
特許文献3には、生物学的な水処理過程で発生した有機汚泥の一部を、物理化学的、生化学的な手段によって可溶化を促進させ、生物学的に酸化分解が可能な状態にまで低分子化させることを特徴とするOSAプロセス(OxicAnaearobic Proce
ss)の改良技術が開示されている。この技術は、微生物が環境へと分泌した多糖類とタンパク質からなる細胞外高分子化合物(EPS)を、低分子化することによって有機汚泥の体積を減少させてプロセスの進行を促すものである。特徴的な技術としては、嫌気槽内で微曝気処理を行い、鉄イオンの酸化反応を行うことである。
この微曝気処理は、嫌気槽内の酸化還元電位を調整することで行うが、もともと嫌気槽内は還元性の要因が多いうえ、鉄イオンの酸化還元反応は瞬時に行われるため、微曝気の調整が難しく、依然としてプロセスコントロールが難しいという問題がある。また、プロセスが機能するまでには、廃水処理に関わる微生物の生息条件や生息環境が整う必要があるが、それらについての記載は無い。よって、正常に廃水処理ができるようになるまでには、時間がかかるという問題がある。さらに、好気槽(曝気槽)の環境条件や、腐植物質の利用については考慮されていない。
【0008】
ところで、オゾンや過酸化水素、紫外線の組み合わせにより、ヒドロキシラジカルを発生させて、その酸化作用により廃水中に含まれるダイオキシンや農薬の微量汚染物質の分解除去を行なう、促進酸化処理法という技術がある。
特許文献4は、促進酸化処理法に関する技術を開示しており、嫌気槽および好気槽の両方を満たす生物処理槽において、継続的に加えられた鉄化合物と、嫌気性微生物が産生した還元性物質によって発生した過酸化水素とが反応し、促進酸化処理法に必要なヒドロキシラジカルを継続的に生成させている。この発生したヒドロキシラジカルが、被処理水中の難分解性の化学物質を分解するものである。
【0009】
この技術では、嫌気環境と好気環境が同じ槽で繰り返し発現することを許容しており、実質的に独立した嫌気槽と好気槽は存在しない条件が含まれる。引用文献4の方法であれば、嫌気と好気の環境変化に伴って鉄化合物の適宜添加により鉄イオンの酸化還元反応が起きる。
しかしながら、嫌気性微生物と好気性微生物の供給が無いため、環境の変化に伴い、それらの微生物は減少してしまい、十分な処理効果を得られなくなる。もちろん、有効な微生物数の回復を待てば処理効果を得られるが、嫌気環境と好気環境の変化に有効な微生物数の回復を待つ必要があり、実験室レベルの極めて小さな試験設備であっても、一連の処理に相当な時間が掛かっていることがわかる。また、独立した嫌気槽と好気槽を附設したとしても、これらの槽間で処理水が循環することになるため、微生物の減少や処理に要する時間がかかるという問題は依然として残り、産業的に実施可能なレベルまでのスケールアップは難しい。
さらに、特許文献4にも特許文献3と同様に、腐植物質の利用についての記述はなく、好気槽(曝気槽)や嫌気槽の環境条件に関する記述もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3836682号
【特許文献2】特許第5925023号
【特許文献3】特開2020-142168号公報
【特許文献4】特開2021-137692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、動物の糞尿や、食品工場廃水などの著しくBODの高い廃水であっても希釈
することなく処理可能であり、安定的に処理に関わる装置を稼働することが可能な、廃水浄化処理技術を提供することを課題とする。さらに、かかる技術において、処理槽や汚泥からの悪臭や害虫の発生が少なく、処理後の処理排水が無臭となる効果を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、腐植物質存在下、嫌気槽および好気槽の各槽内において二価の鉄イオンと過酸化水素とのフェントン反応によりヒドロキシラジカルが継続的に発生し、このヒドロキシラジカルが有機物の分解に関与しているという仮説を立てた。この仮説に基づき鋭意検討した結果、活性汚泥を用いる廃水浄化処理において、
(1)それぞれ所定の酸化還元電位(ORP)にある嫌気環境と好気環境とに、処理液を循環させること、及び
(2)処理液中に、腐植物質及び鉄分を存在させて腐植物質及び鉄を還元する菌を馴致すること、により上記課題を解決できることを見出した。さらに、
(3)処理液の活性汚泥濃度(MLSS)を所定以上とすること、及び
(4)活性汚泥には、嫌気環境で腐植物質を還元することができる微生物群と、好気環境において過酸化水素を発生させることができる微生物群とを棲息させること、により廃水浄化効果をより高められることにも想到した。
また、培養槽中の土壌環境物質に含まれる腐植物質から発生したラジカルが、脂質や芳香族化合物などの二重結合をもつ化合物とカップリング反応を起こすことで、また腐植物質が作られること、三価の鉄イオンが腐植物質と錯体を形成することで沈殿形成が抑えられること、腐植物質を電子メディエーター(電子仲介物質)とすることで、従来技術と比べて多くの鉄イオンを還元できることをも見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0014】
[1]脱窒槽を含む嫌気槽と、
有機物の酸化分解を行う好気槽と、
土壌環境物質を充填したリアクターと、
各槽に活性汚泥と、
を備えた、酸化還元スイング型廃水浄化システムであって、
前記リアクターは、好気槽に内装されており、
処理液及び活性汚泥が、嫌気槽に供給された後に、好気槽に供給され、再度嫌気槽に供給される循環経路を有し、
嫌気槽における処理液の酸化還元電位(ORP)は-500から-150mVの範囲であり、
好気槽における処理液の酸化還元電位(ORP)は+80mV以上であり、
前記土壌環境物質は、少なくとも、腐植物質、及び鉄を含む、酸化還元スイング型廃水浄化システム。
[2]前記好気槽が培養槽を含む、[1]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
[3]培養槽において、処理液の活性汚泥濃度(MLSS)が2000mg/L以上に調整される、[2]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
[4]活性汚泥中に、嫌気槽において、腐植物質を還元することができる微生物群および遷移金属を還元することができる微生物群、並びに
好気槽において、過酸化水素を発生させることができる微生物群、
を棲息させることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
[5]活性汚泥中に、好気槽において、腐植物質を酸化することができる微生物群をさらに棲息させることを特徴とする、[4]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
[6]培養槽において、処理液中に、腐植物質および遷移金属を供給する手段を有することを特徴とする、[2]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
[7]遷移金属が、鉄、銅、マンガンおよび亜鉛の群から選択された少なくとも1種である、[4]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
[8]腐植物質を還元することができる微生物群が、Phylum Proteobac
teria、Phylum Actinobacteria、Phylum BacteroidetesおよびPhylum Firmicutesからなる群から選択された少
なくとも1種の腐植物質還元菌であり、
遷移金属を還元することができる微生物群が、Rhodoferax、Anaeromyxobacter、及びGeobacterからなる群から選択される鉄還元菌であり、
過酸化水素を発生させることができる微生物群が、Lactobacillus、Lactococcus、Streptococcus、及び酸素呼吸を行う細菌のうちスーパーオキシドデスムターゼ活性を有する細菌からなる群から選択された少なくとも1種の微生物である、[4]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
[9]腐植物質を酸化することができる微生物群が、Phylum Proteobac
teria、Phylum Bacteroidetes、Phylum Firmicutes、及びPhylum Actinobacteriaの群から選択された少なくと
も1種の腐植物質酸化菌である、[5]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。[10]ラジカルを発生させる添加剤を培養槽に添加する手段を有することを特徴とする、[2]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化システム。
[11][1]~[10]のいずれかに記載の酸化還元スイング型廃水浄化システムを用いて、動物の糞尿を含む処理液を浄化する、廃水の浄化方法。
[12][1]~[10]のいずれかに記載の酸化還元スイング型廃水浄化システムを用いて、動物の糞尿を含む処理液を無臭化する方法。
[13]動物の糞尿を含む処理液及び活性汚泥を、
脱窒槽を含む嫌気槽、並びに有機物の酸化分解を行う好気槽の間を循環させることを含む、酸化還元スイング型廃水浄化方法であって、
前記好気槽は、土壌環境物質を充填したリアクターを内装し、
嫌気槽における処理液の酸化還元電位(ORP)は-500から-150mVの範囲であり、
好気槽における処理液の酸化還元電位(ORP)は+80mV以上であり、
前記土壌環境物質は、少なくとも、腐植物質及び鉄を含む、酸化還元スイング型廃水浄化方法。
[14]前記好気槽が培養槽を含む、[13]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
[15]培養槽において、処理液の活性汚泥濃度(MLSS)が2000mg/L以上に調整される、[14]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
[16]活性汚泥中に、
嫌気槽において、腐植物質を還元することができる微生物群および遷移金属を還元することができる微生物群、並びに
好気槽において、過酸化水素を発生させることができる微生物群、
を棲息させることを特徴とする、[13]~[15]のいずれかに記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
[17]活性汚泥中に、好気槽において、腐植物質を酸化することができる微生物群をさらに棲息させることを特徴とする、[16]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。[18]培養槽中の処理液に、腐植物質および遷移金属を供給することを特徴とする、[14]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
[19]遷移金属が、鉄、銅、マンガンおよび亜鉛の群から選択された少なくとも1種である、[16]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
[20]腐植物質を還元することができる微生物群が、Phylum Proteoba
cteria、Phylum Actinobacteria、Phylum BacteroidetesおよびPhylum Firmicutesからなる群から選択された
少なくとも1種の腐植物質還元菌であり、
遷移金属を還元することができる微生物群が、Rhodoferax、Anaeromyxobacter、及びGeobacterからなる群から選択される鉄還元菌であり、
過酸化水素を発生させることができる微生物群が、Lactobacillus、LactococcusStreptococcus、及び酸素呼吸を行う細菌のうちスーパーオキシドデスムターゼ活性を有する細菌からなる群から選択された少なくとも1種の微生物である、[16]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
[21]腐植物質を酸化することができる微生物群が、Phylum Proteoba
cteria、Phylum Bacteroidetes、Phylum Firmicutes、及びPhylum Actinobacteriaの群から選択された少なく
とも1種の腐植物質酸化菌である、[17]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。[22]ラジカルを発生させる添加剤を培養槽に添加することを特徴とする、[14]に記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法。
[23]動物の糞尿を含む処理液及び活性汚泥を、
嫌気状態と有機物の酸化分解を行う好気状態とに交互に置くことを繰り返すことを含む、酸化還元スイング型廃水浄化方法であって、
前記状態において前記処理液及び活性汚泥は、土壌環境物質に接触し、
嫌気状態における処理液の酸化還元電位(ORP)は-500から-150mVの範囲であり、
好気状態における処理液の酸化還元電位(ORP)は+80mV以上であり、
前記土壌環境物質は、少なくとも、腐植物質及び鉄を含む、酸化還元スイング型廃水浄化方法。
[24][13]~[23]のいずれかに記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法を用いて、動物の糞尿を含む処理液を無臭化する方法。
[25][13]~[23]のいずれかに記載の酸化還元スイング型廃水浄化方法を用いた、生理活性水の製造方法。
[26][25]に記載の製造方法により得られた生理活性水を、家畜に飲料水として供することを含む、家畜の防疫方法。
[27][25]に記載の製造方法により得られた生理活性水を散布することによる、悪臭の消臭方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、畜舎や食品工場などから排出される、BODが非常に大きい高濃度に有機物を含む廃水であっても、希釈をせずとも、安定的かつ継続的に廃水を処理することができる。また、無希釈で廃水を処理できることから、本発明を用いた浄化システムは従来のものに比してコンパクトにすることが可能である。さらに、土壌環境物質から供給される腐植物質がさらなる腐植物質生成の触媒効果を果たすとともに、これら腐植物質を介して三価の鉄イオンの還元を行うことができる。さらに腐植物質が三価の鉄イオンと錯体形成することで、沈殿形成を抑制し、有機汚泥の滞留と沈殿という問題も解消することができる。
この他に、処理槽や汚泥からの悪臭の発生が少ない、処理液の窒素の含有量を下げることができる、汚泥の沈降性が良い、汚泥の脱水性が良い、または処理槽からの蚊及びハエの発生が少ない等の効果も得られる。
加えて、本発明による処理後に得られる処理排水は、生理活性水として、家畜の病気予防のために飲用に供することができたり、散布することにより家畜臭などの悪臭を消臭する効果も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の廃水浄化システムの一態様を示す概略図である。矢印は処理水の循環経路を表し、無酸素槽は嫌気槽と同義である。
【
図2】嫌気槽及び好気槽における、微生物、腐植物質、鉄の間の電子の授受、及びヒドロキシラジカルの発生を示す図である。
【
図3】試験例1において好気状態及び嫌気状態を切り替えたときの酸化還元電位の経時変化を示すグラフである。
【
図4】試験例1におい37時間経過後の反応液(1)~(5)の二価の鉄の濃度を示すグラフである。
【
図5】試験例1において42時間経過後の反応液(1)~(5)の過酸化水素の濃度を示すグラフである。
【
図6-1】試験例1において反応終了時の反応液(1)の励起波長及び蛍光波長のスペクトルチャートである。
【
図6-2】試験例1において反応終了時の反応液(2)の励起波長及び蛍光波長のスペクトルチャートである。
【
図6-3】試験例1において反応終了時の反応液(3)の励起波長及び蛍光波長のスペクトルチャートである。
【
図6-4】試験例1において反応終了時の反応液(4)の励起波長及び蛍光波長のスペクトルチャートである。
【
図6-5】試験例1において反応終了時の反応液(5)の励起波長及び蛍光波長のスペクトルチャートである。
【
図6-6】試験例1において反応終了時の反応液(1)~(5)の蛍光スペクトルから推測されるヒドロキシテレフタル酸の濃度を示すグラフである。
【
図7-1】試験例1における反応液(5)を用いて行った別のスイング試験における、実験開始時の励起波長及び蛍光波長のスペクトルチャートを示す図である。
【
図7-2】試験例1における反応液(5)を用いて行った別のスイング試験における、実験開始から嫌気状態17時間経過後の励起波長及び蛍光波長のスペクトルチャートを示す図である。
【
図7-3】試験例1における反応液(5)を用いて行った別のスイング試験における、実験開始から嫌気状態17時間後さらに好気状態3時間経過後の励起波長及び蛍光波長のスペクトルチャートを示す図である。
【
図7-4】試験例1における反応液(5)を用いて行った別のスイング試験における、実験開始から嫌気状態17時間後さらに好気状態3時間後さらに嫌気状態19時間経過後の励起波長及び蛍光波長のスペクトルチャートを示す図である。
【
図8】試験例2において好気状態及び嫌気状態を切り替えたときのORPの経時変化を示すグラフである。
【
図9】試験例2において好気状態及び嫌気状態を切り替えたときのヒドロキシテレフタル酸の経時変化を示すグラフである。
【
図10】試験例3において反応終了時点でのヒドロキシテレフタル酸(h-TPA)の生成量を示すグラフである。
【
図11】試験例4において活性汚泥の沈殿物の菌叢解析をおこなった結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この明細書における用語の使い方は次のとおりである。本発明の「酸化還元スイング型廃水浄化システム」を、「廃水浄化システム」、「浄化システム」または「システム」と略することがある。「廃水浄化システム」で好適に行われる廃水浄化フローを、本発明の「廃水浄化方法」とする。浄化対象の汚れた状態の水であって通常は有機物を含む水、具体的には畜舎等から排出された動物の糞尿を含むものや、食品加工工場等から排出された
もの等を「廃水」と呼ぶ。「処理液」は「廃水」と同義であるが、本発明の浄化システムに「廃水」が導入された後は、「処理液」と呼ぶ。「処理液」が処理されてシステムから排出できるまでに浄化されたものを「処理排水」と呼び、そのうち生物に対して有用な何らかの活性を有するものを「生理活性水」と呼ぶ。「無臭」は、完全に臭気を感じないというものに限定されず、悪臭防止法に記載の定義で表される臭気指数が概ね10程度までの臭気も「無臭」として許容される。ただし臭気の判定は有資格者が行う一方、有資格者以外の者が官能的に判断して臭気を判断することも一般的には行われている。本発明においても、有資格者による臭気指数の評価方法のみに限定されない。遷移金属の語は、それ自体の他そのイオンやそれを含む化合物も包含されてよく、例えば鉄には鉄イオンや鉄を含む化合物も包含されてよい。
本明細書において「スイング」とは、嫌気状態と好気状態とが交互に繰り返すことをいう。スイングは、例えば、処理液及び活性汚泥が嫌気槽と好気槽とを循環する(行き来する)ことや、処理液及び活性汚泥を収容した容器(槽やタンク等)に対して酸素を含む気体を吹き込んだり止めたりする操作などによって、達成されるがこれらに限定されない。また、嫌気状態及び好気状態の繰り返し(行き来)回数は任意であってよい。
なお、本明細書において「嫌気」は空気及び/又は酸素が供給されていない状態を指すものとする。
【0018】
本発明の酸化還元スイング型廃水浄化システムは、脱窒槽を含む嫌気槽と、有機物の酸化分解を行う好気槽と、リアクターと、各槽に活性汚泥とを備える。
嫌気槽は、嫌気環境(無酸素環境であってもよい)の槽であり、脱窒槽を含み、好ましくはさらに受入槽、貯留槽、沈殿槽などが含まれてよい。受入槽は、廃水をシステムに導入するためのものを指す。貯留槽は、脱窒槽へ導入する処理水をその量や速度の調整のため一時的に貯留するためのものを指す。沈殿槽は、固形成分を多く含む処理液と上澄み部分の処理液とに分離するためのものを指す。
好気槽は、好気環境の槽であり、通常は培養槽を含み、好ましくはさらに硝化槽を含み、さらに曝気槽を含んでもよい。リアクターは好気槽に内装されており、具体的には硝化槽や培養槽又はその両方に備えられていてもよい。
各槽に備わる活性汚泥は、通常は微生物を含み、システム全体を循環し、槽間でその菌叢構成にはほぼ違いはない。
【0019】
本発明のシステムは、処理液及び活性汚泥が、嫌気槽に供給された後に、好気槽に供給され、再度嫌気槽に供給される循環経路を有する。かかる経路を循環することに拠り、廃液中の有機物が分解されてシステム外への排出に耐えうる程度にまで浄化される。
【0020】
このほかに、本発明のシステムは、沈殿槽で得られた固形成分を多く含む処理液を受け入れる粗製品貯留槽、中和剤で処理液を中和処理するための中和槽、二次的な沈殿分離を行い処理液を得るための分離槽などの附加的な槽や、ろ過機、脱水機、乾燥機、各種モーター、各種センサー等の設備が、必要に応じて備えられていてよい。
【0021】
リアクターには土壌環境物質が充填されており、土壌環境物質は、少なくとも、腐植物質、及び鉄を含む。なお、本明細書において二価の鉄はFe(II)と、三価の鉄はFe(III)とも記す。
また、土壌環境物質は、鉄以外の腐植物質や鉄分などの各種ミネラル成分をさらに含んでもよい。
【0022】
腐植物質は生物活動に由来し、動植物の死骸や排泄物の有機物を、細菌などの微生物が分解していく過程で残った有機物(通常は、糖・炭水化物・タンパク質・脂質などに分類されない物質)や、それがさらに化学的作用を受けて崩壊して生じた物質であり、化学構造の特定が困難な有機物である。腐植物質には、フミン酸、フルボ酸、ヒューミンなどが
含まれ、またこれらが複雑に絡み合った腐植前駆物質も含まれてよい。フミン酸等は電子授受に関係するキノン骨格を有し、酸化還元電位の差異に基づく浄化に寄与する。また、腐植物質は金属イオンと錯体を形成することも知られている。
【0023】
土壌環境物質に含まれる鉄分などの各種ミネラル成分は、それらを含む各種の鉱物の態様で含まれてよい。
使用する鉱物は、特に限定はなく、日常において入手可能なものでよい。
鉄を含み、かつ取り扱いやすさの点から、軽石が好ましく使用できる。ただし軽石は、多孔質で軽量なため水に浮きやすいため、水中に没するような鉱物を使用する、あるいは軽石と併用としてネット材などで床面に固定して用いるなどとしても構わない。なお鉱物は、培養槽だけでなく、その他の槽でも適宜用いることが可能である。
【0024】
また、土壌環境物質は、嫌気槽で活性化する微生物群や、好気槽で活性化する微生物群などをさらに含んでもよい。これらの微生物群は、後述する、活性汚泥中に棲息させる、嫌気槽において腐植物質を還元することができる微生物群および遷移金属を還元することができる微生物群、並びに好気槽において過酸化水素を発生させることができる微生物群及び好気槽において腐植物質を酸化することができる微生物群であってよい。
なお、通常は外部から導入したばかりの土壌環境物質にはこれら各槽で活性化する微生物群は当初はほとんど存在しない。通常は、種汚泥と馴養することにより増殖させる。
【0025】
土壌環境物質は、処理水に浸漬することで溶出し、廃水浄化に必要な材料を処理水に与える。そして、微生物を培養すると共に、これら微生物を活性化させる。
【0026】
本発明のシステムにおける活性汚泥中は、種々の微生物群を棲息させることが好ましい。具体的には、嫌気槽において腐植物質を還元することができる微生物群、嫌気槽において遷移金属を還元することができる微生物群、好気槽において過酸化水素を発生させることができる微生物群、好気槽において腐植物質を酸化することができる微生物群が挙げられる。
【0027】
本明細書において、「微生物」は、細菌、菌類、微細藻類、原生動物を意味し、ウィルスも含むことが可能である。例えば、微生物がプロテオバクテリア(Proteobacteria)である場合、プロテオバクテリア門(Proteobacteria)、さらにアルファプロテオバクテリア綱(Alphaproteobacteria)などの綱があり、その小分類にはカウロバクター亜綱(Caulobacteridae)などの亜綱があり、さらにはカウロバクター目(Caulobacterales)などの目の分類があるが、プロテオバクテリアという記載は、綱や亜綱、目などの小分類も全て含むものと解釈される。
【0028】
また、例えば「プロテオバクテリア(Proteobacteria)、アクチノバクテリア(Actinobacteria)、バクテロイデス(Bacteroidetes)またはファーミキューテス(Firmicutes)群から選択された少なくとも1種」のように記載された場合、プロテオバクテリア(Proteobacteria)のみを選択する場合も、プロテオバクテリア(Proteobacteria)とアクチノバクテリア(Actinobacteria)を組み合わせて選択することも可能である。このほか、プロテオバクテリア(Proteobacteria)の中からアルファプロテオバクテリア綱(Alphaproteobacteria)とガンマプロテオバクテリア綱(Gammaproteobacteria)を選択して利用することも可能である。
【0029】
嫌気槽において腐植物質を還元することができる微生物群としては、プロテオバクテリ
ア門(Phylum Proteobacteria)、アクチノバクテリア(Phyl
um Actinobacteria)、バクテロイデス門(Phylum Bacteroidetes)またはファーミキューテス門(Phylum Firmicutes)
などに属する腐植物質還元菌が挙げられ、特に限定されない。
一般に、硝酸塩または亜硝酸塩などの硝酸性窒素を還元する特徴を有する菌種を脱窒菌と称する。例えば、シュードモナスバレアリカ(Pseudomonas balearica)、シュードモナスデニトリフィカンス(Pseudomonas denitrificans)、パラコッカスデニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)、チオバチルスデニトリフィカンス(Thiobacillus denitrificans)が挙げられ、これら腐植物質の還元能を有するものは好適に嫌気槽において活性化する。
【0030】
嫌気槽において遷移金属を還元することができる微生物群としては、一般に金属を還元する微生物として知られる、シワネラ(Shewanella)、ロードフェラックス(Rhodoferax)、アナエロミュクソバクター(Anaeromyxobacter)、ゲオバクター(Geobacter)、デスルフォモナス(Desulfuromonas)、デスルフォムサ(Desulfuromusa)、ペロバクター(Pelobacter)、フェリモナス(Ferrimonas)、エアロモナス(Aeromonas)、スルフロスピリルム(Sulfurospirillum)、ウォリネラ(Wolinella)、デスルフォビブリオ(Desulfovibrio)、ゲオトリクス(Geothrix)、デフェリバクター(Deferribacter)、ゲオビブリオ(Geovibrio)、ピロバクルム(Pyrobaculum)、テルモトガ(Thermotoga)、アルカエグロブス(Archaeoglobus)、ピロコックス(Pyrococcus)、ピロディクティウム(Pyrodictium)などが挙げられ、これらのうち遷移金属を還元するものが好ましく、より好ましくは鉄、銅、マンガン及び/又は亜鉛を還元するものが好ましく、さらに好ましくは鉄を還元する微生物である。
鉄を還元する微生物は、ロードフェラックス(Rhodoferax)、アナエロミュクソバクター(Anaeromyxobacter)、ゲオバクター(Geobacter)などの鉄還元菌が挙げられる。
【0031】
好気槽において過酸化水素を発生させることができる微生物群としては、ラクトバシラス(Lactobacillus)、ラクトコッカス(Lactococcus)またはレンサ球菌(Streptococcus)などが挙げられ、特に限定されない。また、酸素呼吸を行う細菌のうちスーパーオキシドデスムターゼ活性を有する細菌も好ましく用いることができる。
【0032】
好気槽において腐植物質を酸化することができる微生物群としては、プロテオバクテリア門(Phylum Proteobacteria)、アクチノバクテリア(Phyl
um Actinobacteria)、バクテロイデス門(Phylum Bacteroidetes)またはファーミキューテス門(Phylum Firmicutes)
などに属する腐植物質還元菌が挙げられ、特に限定されない。
好気槽において腐植物質を酸化することができる微生物群は、直接に有機物の分解・浄化に関与するものではないが、嫌気環境において硫化水素などを発生させない観点から棲息させることより好ましい。
【0033】
本発明の酸化還元スイング型廃水浄化システムを用いて、本発明の浄化方法を行う流れの一態様を、
図1を用いて説明する。本例は、付加的な槽や設備を含む一例であり、本発明はこれに限定されないことは言うまでもない。
【0034】
畜舎等から排出された動物の糞尿を含む廃水や食品工場などの廃水は、直接又はバキュームカー等などを用いて受入槽に貯留される。
受入槽の廃水は、ドラムスクリーン等で処理液と夾雑物に分離され、処理液は貯留槽に送られ、夾雑物はスクリュープレスで脱水後に焼却等処理される。
貯留槽の処理液は、脱窒槽へ送られる。脱窒槽では、脱窒菌により硝酸塩が遊離窒素または一酸化二窒素に還元されて脱窒処理される。通常、嫌気槽では、廃水に含まれるアンモニアによりアルカリ性の水質となる。
【0035】
嫌気槽において、特に好ましくは脱窒槽において、処理液の酸化還元電位(ORP)は還元性の雰囲気に調整される。具体的には、嫌気槽における処理液の酸化還元電位(ORP)は-500から-150mV、好ましくは-400から-150mV、より好ましくは-300から-150mVの範囲に調整される。
電子の受け取りやすさは酸化還元電位で示すことができるところ、本発明の廃水浄化システムに関連する主な物質のうち酸素は非常に電子を受け取りやすく、次いでマンガン、硝酸塩、鉄、フマル酸の順に電子を受け取りやすい、すなわち還元されやすい。一方、硫酸、メタン、硫黄、酢酸、プロトン等は電子を渡しやすい、すなわち酸化されやすい。なお、腐植物質は一般に塩化銀電極基準(3.3mol/L KCl)で0mV以下の範囲で微生物による呼吸で酸化・還元される(L. Klupfel et al., Nature Geosci. Vol. 7, 195-200, (2014)参照)。そのため、フマル酸等の腐植物質を還元するためには、塩化銀電極基準(3.3mol/L KCl)で0mV以下とする必要がある。酸化還元電位がマイナスに大きくなると、
微生物による還元の効果が高くなり、腐植物質や鉄の還元が行われ易くなる。しかしながら、値を負に大きくしすぎると、例えば-300mV未満とすると、鉄呼吸の酸化還元電位の範囲は幅広いところ鉄以外のものも還元されるようになり、硫化水素やメタンガスが発生してしまい、悪臭の原因となる。逆に、値が正になると、酸化性の雰囲気になってしまう。嫌気性の微生物生育や活動に有利であり、また悪臭の発生を抑えるために、酸化還元電位を上記範囲とする。
嫌気槽における処理水の酸化還元電位は、送気の調整などで行うことができる。
【0036】
酸化還元電位の測定方法や測定装置に限定は無いが、一般的には、白金電極と比較電極を処理液中に挿入し、両電極間の電位差を測定する。測定は機械的な自動制御で行ってもよく、人間による測定結果から調整する手動制御でもよい。
酸化還元電位の調整は、キンヒドロン標準液で行うことができ、比較電極としては一般的な3.3mol/L KCl 銀-塩化銀電極を用いることができ、本明細書における酸化還
元電位値はかかる測定法による値とする。
【0037】
嫌気槽で処理された処理液は、好気槽へ、好ましくは好気槽に含まれる硝化槽に送られる。硝化槽では、曝気や微生物の働きにより処理液中のアンモニアが硝酸へ酸化するため、処理液は酸性となる。そして、腐植物質の酸化分解も行われる。
【0038】
好気槽では、好気性の微生物の活性が優位になり、フェントン反応に必要な過酸化水素が継続的に発生する。発生した過酸化水素は、システム内をたえず循環する活性汚泥とともに好気槽に含まれる培養槽へ回流し、さらに嫌気槽(脱窒槽、受入槽)へと戻り、回流する。
【0039】
好気槽において、処理液の酸化還元電位(ORP)は好気性の雰囲気に調整される。好気槽では、大量に吹き込まれる空気中の酸素が酸化剤として働くため、酸化還元電位はプラスになる。前述の通り酸素は電子を受け取りやすいため(L. Klupfel et al., Nature Geosci. Vol. 7, 195-200, (2014)参照)、曝気を止めると優先的に消費されてしまい、
好気性の微生物の生育環境に負の影響を与えることがある。特に、好気槽内での過酸化水素を絶えず発生させるためには、好気槽における処理液の酸化還元電位を塩化銀電極基準
(3.3mol/L KCl)で+80mV以上とすることが好ましく、+200mV以上とすることがより好ましい。
好気槽の酸化還元電位は、前述の嫌気槽と同様の方法や装置を使用して測定することができる。
【0040】
培養槽においては、腐植物質や遷移金属を含む活性汚泥濃度(MLSS)の値に限定はないが、好ましくは2000mg/L以上、より好ましくは3000mg/L以上、さらに好ましくは4000mg/L以上である。本願発明では活性汚泥濃度が2000mg/Lよりも大きく低い場合でもヒドロキシラジカルの発生は期待できるものの、稼働までの時間やシステムの稼働効率を考慮すると、活性汚泥濃度は2000mg/L以上であることが望ましい。それにより、システム稼働初期でも水処理が迅速に開始することができる。さらに、システム稼働後も貯留槽から送られる処理水の活性汚泥濃度に影響されず、安定した稼働が可能となる。
【0041】
そのため、培養槽において、処理液中に、腐植物質および遷移金属を供給する手段を有することが好ましい。
遷移金属は、主に鉄、銅、マンガン及び/又は亜鉛などが利用できるが、微生物活性や効率的なフェントン反応の観点から、鉄が好適に使用できる。
遷移金属を供給する方法は、特に限定されない。また遷移金属は、遷移金属を含む混合物や化合物、鉱物、液状物など、様々な態様で供給することが可能である。
【0042】
嫌気槽における腐植物質は、廃水に由来のものや、培養槽から供給されるが、嫌気槽内での反応からも発生する。この、嫌気槽内での反応について
図2を参照して説明する。
【0043】
嫌気槽では、嫌気性の微生物の活動が優勢になる。腐植物質を還元する微生物は、ギ酸、酢酸、乳酸、エタノール、ピルビン酸、プロピオン酸など有機化合物(低鎖脂肪酸)の酸化をサポートするために腐植物質を最終電子受容体、もしくは電子シャトルとして利用し、エネルギーを獲得する。好気槽で酸化状態になった腐植物質は、システム内を循環して嫌気槽に戻り、電子を受け取って還元される。還元された腐植物質は酸化還元電位が高いFe(III)に電子を渡すことができる。なお、鉄は通常好気槽で酸化するが、本発明においては鉄も活性汚泥と共にシステム内を循環し、嫌気槽に戻ることで再度Fe(II)に還元され、ラジカル発生に寄与する。このように、本発明のシステムでは、腐植物質をメディエーターとすることで鉄を還元できるため、多くの鉄の酸化還元リサイクルが達成できる。
【0044】
嫌気槽における腐植物質は、過酸化水素を発生する微生物や、微生物の酸素呼吸によって生じた活性酸素の一種であるスーパーオキシドをスーパーオキシドデスムターゼが処理する際にも発生する。
過酸化水素とFe(II)は、フェントン反応によりヒドロキシラジカルを継続的に発生させる。また、嫌気槽でのラジカルは、微生物由来のものだけでなく、炭水化物と蛋白とのメイラード反応(アミノ-カルボニル反応)でも発生すると考えられる。
ヒドロキシラジカルは、嫌気槽において有機物を分解する。特異点でしか切断できない従来の生物処理と比べて、ヒドロキシラジカルを利用した場合、有機物を構成する高分子に対して無作為な個所で切断するため、切断された有機物は微生物に取り込まれやすくなり、より分解しやすくなる。また、活性汚泥のフロック内でヒドロキシラジカルが発生することで、菌体外高分子物質(EPS)をフロック内部から分解することができる。
すなわち、微生物による分解をヒドロキシラジカルが補助して、廃水の浄化をより促すことになる。
そのため、本発明のシステムにおいては、ラジカルを発生させる添加剤を培養槽に添加する手段を有することもできる。ラジカルを発生させる添加剤は公知の材料が使用でき、
微生物の生存に大きく影響を与えないものであれば限定はない。かかる添加剤としては、例えば、市販のフェントン試薬や、アスコルビン酸の金属塩(鉄や銅など)が挙げられる。添加方法に限定はなく、任意の槽に適宜添加することが可能である。例えば、タイマーで一定時間ごとにフィーダーにより添加する方法が挙げられる。また余剰汚泥及びリン酸イオンを凝集沈殿する際にポリ鉄や塩化鉄など鉄成分を含む凝集剤を用いる場合は、凝集沈殿処理した際の上澄み液中に鉄分が含まれるため、フェントン反応がより効率よく起きることから、ラジカルを発生させる添加剤と同様の働きをする。この観点から、凝集沈殿処理した上澄み液を培養槽等に添加してもよい。
【0045】
ヒドロキシラジカルは、脂質やたんぱく質、芳香族化合物など二重結合を持つ化合物から電子を奪い、新たなラジカル化合物を生成させる。このように生成したラジカル化合物同士がカップリング反応を起こし、難分解性化合物である腐植物質をさらに生成する。
【0046】
このように、本発明においては、培養槽から供給された腐植物質が触媒の様な働きをおこなうことで、従来の浄化システムでは得られなかった腐植物質の効率的な生成が実現する。また、腐植物質の生成速度が従来技術と比べて速くなるため、嫌気槽における生物処理を安定的に行うことができ、安定稼働が難しかったシステムコントロールの改善が達成できる。
【0047】
脱窒菌や、腐植物質を還元する微生物の多くは、廃水が入り込む受入槽を介し貯留槽から脱窒槽へ流入している。一般に、貯留槽における菌叢の分布は季節や水温によって変化するため、貯留槽から脱窒槽へ入り込むこれら微生物の種類や個体数も変動する。
しかしながら本発明では、培養槽から供給される土壌環境物質中に各種の微生物が存在していることから、季節や気候変動などの要因に関係なく、嫌気槽、特に脱窒槽で役割を果たす微生物を充足することができる。
【0048】
なお、本発明では、活性汚泥の循環により、嫌気槽と好気槽の菌叢にはそれほど差異がないのも特徴の一つである。
【0049】
本発明では、システムにおける悪臭の発生を抑制できることも特徴の一つである。これは、前述のように嫌気槽において酸化還元電位を下げすぎないように調整することにより達成される。また、培養槽から嫌気槽(通常はそれに含まれる脱窒槽)へ鉄分と腐植物質を供給することによっても達成される。
【0050】
具体的には、培養槽から嫌気槽へ鉄分と腐植物質が供給されるため、電子が酸化還元電位の高い鉄と腐植物質に渡されて、微生物の硫黄呼吸が抑えられる。この結果、硫酸イオンから硫化水素への化学変化を少量に抑えられる。また、発生した硫化水素も、Fe(II)と反応して硫化鉄が生成する。
廃水中の二酸化炭素が還元されるとメタンが発生するが、同様にしてメタン菌の呼吸を抑えることで、メタンの発生を抑えられる。
すなわち、本発明のシステムを用いれば動物の糞尿等を含む処理液を無臭化することができ、また本発明の浄化方法を用いて動物の糞尿を含む処理液を無臭化する方法とすることができる。
【0051】
リアクター中の土壌環境物質は、通常は使用当初は粒径の大きなペレットであるところ、使用にともない経時的に細粒化する。その場合は、リアクター内に土壌環境物質を追加してもよい。また、好気槽から取り出し可能なリアクターとすることも可能であり、複数のリアクターを設置して定期的に土壌環境物質を追加したり、リアクターを清掃したりすることも可能である。
例えば、ヒドロキシラジカルを発生させすぎると鉄を還元する細菌と過酸化水素を発生
させる細菌まで減少、死滅してしまう。それらの細菌が減少すれば発生するヒドロキシラジカルの量が減少する。リアクターのサイズや、リアクター中の土壌環境物質や鉱物の量を調整することで、このような問題を解消できる。
【0052】
硝化槽で処理された処理液は、培養槽へ送られるほか、一部は固形成分と上澄み成分とを分離するための沈殿槽に送られる。沈殿槽において、分離された固形成分の多い層はさらに粗製品貯留槽へと送られてもよく、その後、脱水機や乾燥機等を利用して固形成分を固体化する。固体物は、有機質肥料として利用することができる。また脱水機からの処理液は、再度貯留槽などへ送水して繰り返し循環させてもよい。
【0053】
沈殿槽中、上澄み液は再曝気槽に送られたのち、中和剤によりpHの調整が行われ、分離槽に送られる。分離槽の上層に溜まる上澄み液は、中和槽へ送られて再度中和剤による化学処理を受けたのち、そのまま処理排水として河川や下水道等へ安全に排出することができる。分離槽の上層に溜まる上澄み液は、生理活性水としても活用することができる。
【0054】
前述のように「スイング」は、処理液及び活性汚泥を収容した容器(槽、バッチ、タンク等)に対して酸素を含む気体を吹き込んだり止めたりする操作によって実現されてもよいことから、本明細書はそのようなスイングによる廃水浄化方法をも開示する。
すなわち、動物の糞尿を含む処理液及び活性汚泥を、嫌気状態と有機物の酸化分解を行う好気状態とに交替で置くことを含む、酸化還元スイング型廃水浄化方法である。かかる方法において、処理液及び活性汚泥は、好気状態において土壌環境物質に接触し、前記土壌環境物質は、少なくとも、腐植物質及び鉄を含む。また、嫌気状態における処理液の酸化還元電位(ORP)は-500から-150mVの範囲であり、好気状態槽における処理液の酸化還元電位(ORP)は+80mV以上である。角構成要素の説明は、前述した浄化システムにおける説明に準ずる。
【0055】
浄化システムを経て得られた分離槽の上層に溜まる上澄み液を、生理活性水として用いる場合は、該上澄み液を精製してもよく、中和剤による中和処理を経た後に精製して得てもよい。
すなわち、本発明のシステムを用いれば生理活性水を得ることができ、また本発明の浄化方法を用いて生理活性水を製造する方法とすることができる。
【0056】
生理活性水は、腐植物質由来のフルボ酸などの有機物や、鉱物由来のミネラルのほか、硝酸イオン、亜硝酸酸化菌などの微生物が含まれている。ミネラル成分として、カリウムが比較的多く含まれるのも特徴の一つである。
【0057】
このような理由から、生理活性水を家畜に与えると、前述の含有成分により、病気に罹りにくくなる傾向がみられ、家畜の防疫に役立つことが期待される。
また、植物に与えると、病害に対する抵抗力が向上し、花や実の付き方が向上する効果が期待できる。
さらに、畜舎などに噴霧することにより、家畜臭や悪臭を消臭する効果が期待できる。
【0058】
生理活性水を家畜の飲用や散布に用いる場合は、通常は希釈して用いることが好ましく、例えば約10倍から1000倍(容量)に希釈する。希釈倍率は、使用の目的により異なるが、家畜の飲用に用いる場合は約100倍から1000倍(容量)、消臭液として用いる場合は約10倍から100倍(容量)が好ましい。
【0059】
本発明では、記述の通り、発生した硫化水素がFe(II)と反応して硫化鉄が生成することから、硫化水素の発生が抑えられることで、廃水浄化システムの設備に使用されたコンクリートや金属の腐食が抑えられるという副次的な利点も得られる。
【0060】
このように、本発明に係る廃水浄化システムでは、腐植物質と鉄の添加によって、腐植物質及び鉄を還元する菌を馴致する。この結果、酢酸やプロピオン酸などの低鎖脂肪酸の分解除去が進むだけでなく、硫化水素の発生が抑えられるため悪臭の発生が抑制される。更には嫌気―好気の循環により2価鉄と過酸化水素の生成によるフェントン反応により、ヒドロキシラジカルを発生し、タンパク質や脂質などの有機物の分解を促進できる。さらに、浄化処理によって得られた生理活性水は、溶け込んだ腐植物質の効果により、動植物の健康維持(活性化)に寄与する効果が期待でき、さらに噴霧することにより、悪臭を効果的に分解することによる消臭効果を期待することができる。
【0061】
なお、
図1など本明細書で説明した技術事項および構成は一例であり、その要旨を超えない限り、本発明を限定するものではない。
【実施例0062】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
<試験例1>
1バッチ内で嫌気状態及び好気状態の切り替え(スイング)を行う実験系により、本発明の酸化還元スイング型廃水浄化システムのモデルの試験(スイング試験)を行った。具体的な手順を以下に示す。
【0064】
100mL用のガラス瓶に、表1に示す組成物を10mMリン酸緩衝液(pH7.4)に総液量が100mLとなるように懸濁して、各反応液を調製した。なお、本試験における反応液は、浄化システムにおける廃水(処理水)を模したモデル系である。
活性汚泥は株式会社アール・ビー・エスの月浦センターから採取したものを使用した。採取した活性汚泥の上清中にはフミン酸及びフルボ酸様の腐植物質と思われる蛍光物質を含んでいることから、遠心分離機で10000rpm、5分間遠心分離した沈澱を、0.9%塩化ナトリウム水溶液で2回洗浄し、10mMリン酸緩衝液(pH7.4)に懸濁したものを使用した。土壌環境物質に相当する有機質土壌としては、誘導剤パウダー(MT-0003)(JNCエンジニアリング株式会社製)を使用した。
ヒドロキシラジカルの発生はテレフタル酸をプローブとして添加し、ヒドロキシテレフタル酸の蛍光を3次元蛍光分析により検出することにより確認した。テレフタル酸は富士フイルム和光純薬製、ヒドロキシテレフタル酸は東京化成製のものを使用した。
【0065】
【0066】
嫌気状態とするため、窒素ガスを封入した。12時間後にエアーポンプで6時間空気を送り込むことで好気状態とした。さらに16時間嫌気状態、次いで6時間の好気状態にし
た。
図3に酸化還元電位の経時変化を示す。
【0067】
反応開始37時間及び42時間経過後に反応液をサンプリングした。サンプル中の二価の鉄の濃度をフェナントロリン溶液を用いる常法で測定した。また、サンプル中の過酸化水素の濃度をヨウ化カリウムを用いる常法で測定した。
図4に二価の鉄の濃度を、
図5に過酸化水素の濃度をそれぞれ示す。
【0068】
反応終了時の上澄み液を純水で10倍希釈し、蛍光分析装置(日本分光製型番FP-6500)を用いて常法により解析した。
図6-1~
図6-5に蛍光スペクトルチャートを示す。活性汚泥及びヒドロキシテレフタル酸が存在するときにのみヒドロキシテレフタル酸が生成することから、微生物活動によりヒドロキシラジカルが発生していることを示すものである。また、
図6-1~
図6-5の蛍光スペクトルの蛍光強度から推定される、ヒドロキシテレフタル酸濃度を
図6-6に示す。この結果から、有機質土壌を添加することで、ヒドロキシテレフタル酸の生成量が増加することから、有機質土壌中の腐植物質がヒドロキシラジカルの発生量を増加させたことが認められる。
【0069】
なお、本実験系では有機質土壌に加えグルコースも添加しているが、これは電子供与体として働き、ヒドロキシラジカルがより継続的に発生するのを支持するためのものである。有機質土壌中の腐食物質の存在によりヒドロキシラジカルは発生するが、グルコースの存在により微生物がより活発になり酸素消費がより進み、嫌気状態における酸化還元電位を下げる方向に維持しやすくなる。すなわちグルコースの存在により鉄を還元させる時間が長くなる。実際に本発明の酸化還元スイング型廃水浄化システムを稼働する際には、グルコースに代わり廃水汚泥中の有機物がその役割を果たし、逐次的に補充され循環する廃水汚泥によりヒドロキシラジカルの発生が継続すると考えられる。
【0070】
また反応液(5)を用いて、嫌気状態/好気状態の各時間を変えた条件で別途スイング試験を行い経時的なサンプリングを行ったところ、ヒドロキシテレフタル酸が増加しており、継続的にヒドロキシラジカルを発生させ続けることを確認した(
図7-1~
図7-4)。
【0071】
<試験例2>
反応液に懸濁する組成物を表2に示すものとした他は、試験例1と同様にバッチでの反応試験を行った。なお、本試験における反応液は、浄化システムにおける廃水(処理水)を模したモデル系である。テレフタル酸を添加する前に活性汚泥の懸濁液を3時間嫌気状態にしたものと好気状態したものを2本ずつ用意した。これらにテレフタル酸を添加し、嫌気状態のものは嫌気のまま、好気状態のものは好気のまま18時間保持した。その後2本のうちの片方を好気状態もしくは嫌気状態に切り替えて3時間保持した。
【0072】
【0073】
図8に各スイング状態でのORPの経時変化を、
図9に各スイング状態でのヒドロキシテレフタル酸の経時変化を、それぞれ示す。
好気状態で保持した場合にはヒドロキシテレフタル酸の生成はほとんど見られず、嫌気状態では徐々に生成している傾向がみられたが、嫌気-好気の切り替えを行うことにより、ヒドロキシラジカルの発生が促された。特に、嫌気状態から好気状態に転換するときに
、ヒドロキシラジカルの発生がより増加した。
【0074】
<試験例3>
次に鉄成分の効果を調べるため、表3に示す組成で、反応実験を行った。硫酸鉄及び塩化鉄は富士フイルム和光純薬製、四酸化三鉄はナカライテスク製(商品コード19522-45)を使用した。反応液組成以外は試験例1と同様とした。ただし嫌気-好気のスイング時間は嫌気3時間、好気3時間、嫌気19時間、好気3時間とした。
【0075】
【0076】
図10に終了時点でのヒドロキシテレフタル酸(h-TPA)の生成量を示した。
その結果、鉄成分と有機質土壌を同時に添加することで、ヒドロキシラジカルの発生量が増加した。
【0077】
<試験例4>
実験に使用した活性汚泥について16SリボゾーマルRNAのアンプリコンシーケンス法による菌叢解析を行った。解析用のサンプルは、
図1に示す各槽に相当する嫌気-好気のスイングの各状態にある活性汚泥40mLを遠心分離用のサンプルチューブに入れ、遠
心分離機(クボタ製)を用いで10000rpmで10分間遠心分離を行い、活性汚泥の沈殿物を得た。沈殿物を菌体粉砕用のステンレスビーズの入った1.5mLのサンプルチ
ューブに200mg量り取り、-80℃の冷凍庫で凍結させた。この凍結サンプルを生物技研株式会社(神奈川県相模原市)に送り、菌叢解析を依頼した。
その結果を
図11に示す。その結果、アンプリコンシーケンスバリアントは800以上検出され、腐植物質還元菌を含むことが知られているプロテオバクテリア門、バクテロイデス門、ファーミキューティス門、アクチノバクテリア門が全体の約7割を占めていた。
活性汚泥中に、腐植物質を還元することができるこれらの微生物群が含まれていることがわかった。
本発明のシステムは、動物の糞尿のような著しくBODの高い廃水であっても希釈することなく処理することが可能であり、安定的に処理に関わる装置を稼働することが可能な、畜舎等から排出される動物の糞尿を処理する廃水浄化システムである。また、処理後に得られた活性水は、動物や植物の活性を高め、病害に対する抵抗力向上を期待できる。さらに、噴霧することで、家畜臭などの悪臭の消臭が期待できる。