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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031947
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】摺動部材用成形体及び摺動部材
(51)【国際特許分類】
   D21J 1/00 20060101AFI20240229BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20240229BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
D21J1/00
D21H11/18
C08J5/00 CEP
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136026
(22)【出願日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2022132916
(32)【優先日】2022-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】591023642
【氏名又は名称】中越パルプ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095740
【弁理士】
【氏名又は名称】開口 宗昭
(74)【代理人】
【識別番号】100225141
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 安司
(72)【発明者】
【氏名】橋場 洋美
(72)【発明者】
【氏名】稲用 亨
(72)【発明者】
【氏名】大久保 光
(72)【発明者】
【氏名】的場 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中江 亮太
【テーマコード(参考)】
4F071
4L055
【Fターム(参考)】
4F071AA09
4F071AB17
4F071AD01
4F071AE19
4F071AF28
4F071AH17
4F071BA03
4F071BB01
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC03
4F071BC07
4F071BC16
4L055AA05
4L055AF09
4L055AF46
4L055AH50
4L055BF01
4L055BF06
4L055EA13
4L055FA11
4L055FA13
4L055FA30
4L055GA50
(57)【要約】
【課題】本発明は、世界的な環境問題の潮流を鑑み、従来のプラスチック系摺動部材の代替として、従来の石油資源由来の摺動部材と較べて同等、若しくは、さらに摩擦係数を低減可能なセルロースナノファイバーから構成される低摩擦摺動部材を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の低摩擦摺動部材は、CNFを含有する成形体或いはCNF及び固体潤滑剤を含有するスラリーから形成されてなる成形体であって、前記成形体中の水分率が20%以下である摺動部材用成形体である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CNFを含有する成形体であって、
前記成形体中の水分率が20%以下である、摺動部材用成形体。
【請求項2】
CNF及び固体潤滑剤を含有するスラリーから形成されてなる成形体であって、
前記成形体中の水分率が20%以下である、摺動部材用成形体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の摺動部材用成形体によって、形成された摺動部材。
【請求項4】
潤滑油環境下で摺動する摺動部材であって、
請求項1又は請求項2に記載の摺動部材用成形体によって、形成された摺動部材。
【請求項5】
潤滑油環境下で摺動する摺動部材であって、
潤滑油環境下での摺動時において、
固液界面に、
トライボフィルムが形成される、
請求項1又は請求項2に記載の摺動部材用成形体によって、形成された摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材用成形体及び摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、滑り軸受や歯車のような機械摺動部品には、所要の摺動性能を保持しつつ部材の軽量化を図る必要性から、樹脂(プラスチック)が採用されている。樹脂(プラスチック)は、それ自身が低摩擦性、耐摩耗性等の摺動特性を備えているものが好ましく、例えば、ポリアミド、ポリアセタールなどが用いられている。
なかでも、ポリアセタール(以下,POMということもある。)は高い機械強度のみならず摩擦係数で0.04~0.1程度の低摩擦係数を示す素材として知られている。
【0003】
一方、環境負荷低減の取組の一環として、穀類、豆類、イモ類などに含まれる炭水化物を分解して得られる糖等を原料として、これを乳酸発酵させることによって製造される乳酸系重合体や、とうもろこし等を原料に製造されるバイオエタノールから取り出したエチレンを元に製造される植物由来ポリエチレン樹脂等が、石油使用量低減の観点から注目されている。
【0004】
特許文献1には、摺動部品として使用することができ、かつ、生分解性を有する潤滑性樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献2には、成形性及び摺動特性に優れた植物由来ポリエチレン樹脂を主成分とする摺動部材用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-212400号公報
【特許文献2】特開2021-172705号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Rice Straw Cellulose Nanofibrils via Aqueous Counter Collision and Differential Centrifugation and Their Self-Assembled Structures
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の潤滑性樹脂組成物の主成分であるポリ乳酸樹脂は、ポリアセタール等のエンジニアリングプラスチックと比較して機械的強度、摩擦及び摩耗特性に劣る事が知られている。
また、一般的に、摺動部材は摩擦熱により摩擦面が高温化する為、「低熱膨張率」、「高融点」等の温度特性も重要となる。
また、特許文献2に記載の振動部材用樹脂組成物の主成分である植物由来ポリエチレン樹脂は、サトウキビやトウモロコシ等の植物を原料として得られるバイオエタノールから誘導された植物由来エチレンの単独重合体等であるが、サトウキビやトウモロコシ等の可食性素材を原料とすることから,非可食性素材を利用したプラスチックの代替となる機械摺動部材の開発が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、世界的な環境問題の潮流を鑑み、従来のプラスチック系摺動部材の代替として、従来の石油資源由来の摺動部材と較べて同等、若しくは、さらに摩擦係数を低減可能なセルロースナノファイバー(以下、CNFということもある。)から構成される低摩擦摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、セルロースナノファイバーを含有する成形体(以下、摺動部材用成形体という。)を使用し,当該摺動部材用成形体及びこれから形成された衝動部材が油性向上剤を含有した潤滑油の存在下で相手部材と摺動する際に,優れた低摩擦・耐摩耗特性を発現することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、CNFを含有する成形体であって、成形体中の水分率が20%以下である摺動部材用成形体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の低摩擦摺動部材によれば、従来のプラスチック系摺動部材の代替として、従来の石油資源由来の摺動部材と較べて同等、若しくは、さらに摩擦係数を低減可能なセルロースナノファイバーから構成される低摩擦摺動部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本願発明の一実施の形態の摺動部材用成形装置の概念図の断面図である。
図2】ボールオンディスク試験の概略図である。
図3】ボールオンディスク試験による摩擦係数の試験結果を示す図である。
図4】摩擦痕直径を示す顕微鏡写真である。
図5】リングオンディスク試験の概略図である。
図6】リングオンディスク試験による摩擦係数の試験結果を示す図である。
図7】リングオンディスク試験による摩擦係数の試験結果を示す他の図である。
図8】FT-IRによる測定結果である。
図9】ボールオンディスク試験による摩擦係数の試験結果を示す図である。
図10】ボールオンディスク試験による摩擦係数の試験結果を示す図である。
図11】ボールオンディスク試験による摩擦係数の試験結果を示す図である。
図12】ボールオンディスク試験による摩擦係数の試験結果を示す図である。
図13】ボールオンディスク試験による摩擦係数の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るについて、それぞれ詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は、発明の理解を助けるためのものであり、本発明を限定するものではない。
(用語の定義)
本明細書における「CNF」との用語は、平均太さ3~200nmであり、平均長さ0.1μm以上のセルロース繊維のことをいい、平均幅3~4nmのいわゆるシングルセルロースナノファイバー、およびシングルセルロースナノファイバーが、いくつか集合し複数層となっている平均幅10~200nmのシングルセルロースナノファイバー集合体を包含する。また、セルロース繊維の長さ方向に枝分かれのないものだけではなく、枝分かれしているものも存在する。
本明細書における「気体透過手段」との用語は、溶媒が揮発して気体となったものを透過させるための手段だけではなく、この気体を吸収・吸着させる手段及び/又はこの気体となる前の液体の段階で、その溶媒が透過、通過若しくは溶媒を吸収・吸着させるための手段も広義に含むものとする。
本明細書における「第一の成形体」との用語は、本願発明における成形工程によって得られた成形体であって、該成形体中の固形分濃度が10~25%程度の成形体のことをいうものとする。
【0014】
(摺動部材用成形体の製造方法)
本願発明に係る摺動部材用成形体は、CNFを含有するスラリー又は、CNF及び固体潤滑剤を含有するスラリーと後述する摺動部材用成形装置を用いて成形して得られる。
本願発明に係る摺動部材用成形体の製造方法は、(1)成形工程、及び、(2)脱溶媒工程と、を含む。
さらに、(3)摺動部材用成形装置内の気体を吸引する吸引工程を含むことが好ましい。なお、本願発明に係る製造方法は、これらの工程以外の他の工程をさらに有していてもよい。
以下、本願発明に係る製造方法について詳細に説明する。
【0015】
(CNFを含有するスラリー)
本願発明に用いるCNFを含有するスラリー(以下、CNF含有スラリーということもある。)としては、CNF分散液であって、溶媒が水であるCNF水分散液、或いは、CNF分散液に金属塩、又は広葉樹、針葉樹又は竹を原料としたパルプ、又は、架橋剤を添加したものも、CNF含有スラリーとして用いることができる。
さらに、水溶媒を有機溶媒に置換したものもCNF含有スラリーとして使用することもできる。
さらに、熱硬化樹脂、ポリアミド、ポリアミン、エピクロロヒドリン系、メラミン・ホルマリン系、尿素・ホルマリン・ヒドロキシル基と脱水縮合するカルボン酸系等の公知の材料、湿潤紙力剤、乾燥紙力剤、耐水化剤やサイズ剤等を添加することができる。なお、CNF分散液については後述する。
【0016】
(CNF及び固体潤滑剤を含有するスラリー)
本願発明に用いるCNF及び固体潤滑剤を含有するスラリー(以下、前記CNFを含有するスラリーと同様にCNF含有スラリーということもある。)は、前記CNFを含有するスラリーに、固体潤滑剤粒子を添加する。
固体潤滑剤粒子は、例えば、二硫化モリブデン(MoS2)、窒化ホウ素(BN)、六方晶窒化ホウ素(h-BN)、グラフェン等の層状の結晶構造を有する材料や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から構成されてよい。これらは1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。固体潤滑剤粒子を添加することによって、摺動部材用成形体に熱伝導性・電気伝導性等の機能・性質を付与することが可能となる。
CNFを含有するスラリー中の固体潤滑剤粒子の濃度は、0.01wt%~10wt%の範囲にするとよい。0.01wt%未満の場合は、固体潤滑剤粒子を添加することにより発揮される効果が少なくなってしまう。一方、10wt%よりも多くした場合には、摺動部材用成形体自体の物性の低下が懸念される。
【0017】
CNFを含有するスラリー中のCNF濃度は0.1%~18%範囲にするとよい。0.1%未満の場合は、緻密な均質な構造となるが製造時間の長時間化によりコスト増となる。15%~18%では製造時間は短くなるが、多少凹付きが生じやすい。さらに18%以上のCNF含量の場合は、部分的な水素結合が進むため、系内で均質な成形体を得ることができず、多数の層に別れてしまう。さらに、CNF繊維の絡み合いが弱くなる。
【0018】
(CNF分散液)
本願発明に用いることのできるCNF分散液としては、特許第6867613号公報に記載の微細状繊維の製造方法や特許第6704551号公報に記載の天然高分子としてセルロースを用いたセルロースナノファイバー及びセルロースナノクリスタル水溶液の調製方法や両公報に記載の他の原料等を由来成分とする微細状繊維の製造方法を参照することができる。
【0019】
これらCNF分散液の原料は1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。また原料の多糖としてはα-セルロース含有率60%~99質量%のパルプを用いるのが好ましい。α-セルロース含有率60質量%以上の純度であれば繊維径及び繊維長さが調整しやすく、α-セルロース含有率60質量%未満のものを用いた場合に比べ、熱安定性が高く、着色抑制効果が良好である。一方、99質量%以上のものを用いた場合、繊維をナノレベルに解繊することが困難になる。
【0020】
CNFの結晶化度は結晶化度50以上が好ましい。結晶化度については、X線回折法等によって測定することができ、結晶化度50未満の場合は、セルロースの天然結晶に由来する剛直性、強靱さ、高強度等の特性を十分に引き出せなくなるほか、スラリー中の固体潤滑剤の均一分散、保持力が弱まる。
【0021】
特許第6704551号の0018段落に記載のACC法(水中対向衝突法)により、平均太さ3~200nmであり、平均長さ0.1μm以上であるCNFが得られる。平均太さと平均繊維長さの測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等を適宜選択し、CNFを観察・測定し、得られた写真から20本以上を選択し、これをそれぞれ平均化することにより求める。なお、蛍光増幅を利用する蛍光顕微鏡観察する方法を採用してもよい。
また、得られたCNF分散液中のCNFをオレイル基、アルキル基等を用いて、セルロース原子中の酸素原子若しくは炭素原子に共有結合させ、変性した変性CNFを用いることもできる。
このように変性CNFを用いることによって、摺動面でも摺動部材内部からオレイル層等の官能基を出現させ、摩耗が進んだ場合でも、低摩擦性を有する摺動部材とすることができる。
【0022】
(摺動部材用成形装置)
図1は、本願発明の一実施の形態の摺動部材用成形装置の概念図の断面図である。以下、摺動部材用成形装置1について図1を用いて説明する。摺動部材用成形装置1は、上部に複数孔2を有する第一の円筒部3と、第一の円筒部3の直径よりも一回り大きい第二の円筒部4と、これらの上部に接続された蓋部5とを備える
本体部6と、底板10を嵌入可能とし、支持軸部7を備える台座8と、を有する。第一の円筒部3の内側には、一対の気体透過手段の上板9と底板10とを上下方向に嵌入することによって、成形キャビティ11が形成される。上板9は、軸部12を介し、蓋部5を貫通して、その軸部12に各種プレス機(図示せず)が装着される。蓋部5は、本体部6に気体・蒸気を供給する気体供給口13を備える。下板10は、支持軸部7に固定される。台座8は、気体供給口14と気体吸引口15と、を備える。上板9、底板10、及び台座8と本体部6との接触部分には、シール部16を備える。なお、本明細書においては、本体部6を円筒型のものとして説明したが、これ以外の形状とすることも可能である。
また、円筒部3にスリット等を施し溶媒の通過を促しても良い。さらにキャビティ11の上面、底面を平坦なフラット面にする目的で多孔質マットを複数枚設置しても良い。さらに加温機構を外部に設けても良く、キャビティ11の外部を多湿とすることで、局部的な過乾燥を抑える効果もある。
【0023】
気体供給口13と14にはそれぞれ、送気配管18と送気配管17とが接続される。送気配管18と送気配管17の近傍には加熱装置が配置される。係る配置によって、本体部6へ加熱気体を供給することが可能となる。この場合は成形速度を進めることができる。
また、気体吸引口15に真空ポンプ等の各種気体吸入装置19を設置することによって、本体部6内を減圧若しくは真空状態とすることが可能となる。
さらに、CNF含有スラリー投入配管20を通じて、成形キャビティ11内へのCNF含有スラリーを投入することができる。投入手段として、第一の円筒部3に投入ノズルを設置してもよいし、蓋部5に投入ノズルを設置してもよい。このノズルがない場合は、得られる摺動部材用成形体の大きさは、成形キャビティ11の大きさに比べて極端に小さい体積のものとなってしまうが、前記投入ノズルからCNF含有スラリーを追加することによって、得られる摺動部材用成形体の体積を任意のものとすることができる。バルブ弁24を閉止しておくことで供給時以外の逆流を防止することができる。
CNF含有スラリーから除去された水分は、ドレン貯め22へ集められて溜まり、溶媒排出配管23を通り系外に排出することができる。ドレン貯め22が存在することで、気体吸引口15から液体が真空ポンプへ排出されることを防ぐため故障せず安定して製造を継続することができる。
【0024】
以上の本実施の形態の摺動部材用成形装置1によれば、各種プレス機を用いて圧力をかけると、上板9によって、CNF含有スラリーを底板10方向に加圧することができる。各種プレス機を支持軸部7の下部板を貫通して、その軸部7に装着し、底板10を上板9方向に加圧しても良い。この場合は液の自重をキャンセルすることができる。
また、加圧状態を維持したまま、本体部6内部に対して、加熱気体を供給すること、及び/又は減圧若しくは真空状態とすることが可能となる。
さらに、上板9と底板10との断面積及びこれらの距離等から、成形キャビティ11の実体積を算出し、係る実体積と前記距離等から、後述する第一成形体の体積とこれに対応する水分や距離等からこれらの関係式を導き出し、距離測定装置25を用いて測定した台座8上部までの距離値から体積や濃度を換算することが可能となる。
【0025】
(気体透過手段)
前記気体透過手段として、蒸気や溶媒を透過させる物体を使用して濃縮する手段を用いることができる。蒸気を透過させる物体としては、織物やフェルト、メンブレンフィルターや焼結フィルター等の各種フィルター、ろ紙、穴などの透過機構を設けた物質、板及び棒を重ねた状態、多孔質、微粒な物質の集合体(砂やシリカ等微粒な物質で疑似的に多孔質のような構造を形成)を用いることができる。また、親水性の基材を用いると容易に水を脱溶媒することができる。さらに、前記気体透過機構の孔径が1μm以下であればCNFの流出を防止することができる。また、初期段階で繊維状のCNFマットができれば孔径が200μm以上でもCNFの流出を防止できる。
さらに、これらの単独使用、または併用が考えられる。また、CNF含有スラリーに付与する荷重及び蒸気を透過させる方向については制限されない。また、真空条件下や減圧条件下において蒸気を透過させることが可能であり、その手段は特には制限されない。
【0026】
前記気体透過手段の他の手段として、多孔質素材を用いてなる多孔質体を用いることもできる。多孔質素材としては有機、無機、金属、またはそれらの複合物、具体的にはステンレス製、SiC製、セラミック製、樹脂製、ゴム製、ガラス製、紙製など多様なものを用いることができる。またこれらを必要に応じて組み合わせて用いても良い。また、用いる多孔質体の平均気孔径、気孔率若しくは目開きについては、平均気孔径5~800μm、気孔率30~85%のもの若しくは目開き20~1000μmのものを使用することができ、好ましくは、平均気孔径5~600μm、気孔率40~70%若しくは目開き200~800μmのものを使用するとよい。
なお、気孔率には (1)外部に連絡する気孔の容積と,内部に封入された気孔の容積の和を,全容積 (見かけの容積)で割ったもの、 (2) 外部に通じている気孔の容積を,全容積で割ったもの、の2種類があるが、本発明においては、いずれの計算方法を利用したものを利用することができるが、外部に通じる気孔は必ず必要である。
【0027】
(成形工程)
(1)成形工程は、気体透過手段を用いて、
(1-1)CNF含有スラリーに圧力を加えるとともに、
(1-2)前記摺動部材用成形装置に加熱気体を供給する工程を行い、第一の成形体を得る工程である。
成形工程は、CNF含有スラリーを、脱溶媒して、第一の成形体中の固形分濃度が10~25%程度となったときに気体透過手段を用いた加圧を停止して、本工程を終了する。本工程において、第一の成形体中の固形分濃度を40%程度としてしまうと、過度な時間を要することになるからである。
【0028】
また、前記成形工程においては、(1-1)に代えて、(1-3)CNF含有スラリーに圧力を加えた後に、圧力を減少させるステップを複数回行う工程とともに、前記摺動部材用成形装置に加熱気体を供給する工程、すなわち、加圧と減圧を複数回行うステップを含む工程を行うとともに、前記摺動部材用成形装置に加熱気体を供給する工程、或いは、摺動部材用成形装置に加熱気体を供給する工程を、前記CNF含有スラリーに加えた圧力を減少させるステップと共に停止し、前記CNF含有スラリーに圧力を加える工程とともに、再開する工程を行ってもよい。
【0029】
また、前記成形工程においては、さらに、成型キャビティ11内にCNF含有スラリーを添加する工程を行うことができる。
この時、既に加えたCNF含有スラリーの表面付近のCNF濃度と、添加するCNF含有スラリー中のCNF濃度とを18%未満にするとよい。何れかのスラリーが18%以上の濃度となったときに、CNF含有スラリーを添加してしまうと、それぞれのCNF含有スラリー中のCNF同士が、部分的に水素結合が進んでしまい、既に加えたCNF含有スラリーと後に加えたCNF含有スラリーとの相互間で水素結合が進まず別々の層になり、一つの均質な素材にならないことになる。また、CNF繊維の動きが制限されるため、CNF同士の絡み合いが弱くなる。そのため、摺動部材用成形体内部に、多数の層が形成されてしまい、均質な摺動部材用成形体を得ることができない。
【0030】
(脱溶媒工程)
(2)脱溶媒工程は、
(2-1)前記第一の成形体に気体及び溶媒透過手段を用いて圧力を加えるとともに、
(2-2)前記摺動部材用成形装置に温度を加える工程を行い、前記第一の摺動部材用成形体を脱溶媒する脱溶媒工程である。温度を加える方法としては特に限定されるものではないが、装置にヒーターを取り付けて加温する方法、加熱気体を供給する方法、マイクロウェーブを照射して加温する方法などがある。脱溶媒工程は、第一の成形体を乾燥、脱溶媒して、固形分濃度が80~100%となったときに、気体透過手段を用いた加圧を停止して、本工程を終了する。80%未満の場合、次工程の吸引工程に要する時間が長くなってしまう。
【0031】
また、前記脱溶媒工程においては、(2-1)に代えて、(2-3)前記第一の成形体に気体透過手段を用いて圧力を段階的に加えるとともに、前記摺動部材用成形装置に加熱気体を供給する(1-3)と同様な工程を行ってもよい。
【0032】
(吸引工程)
(3)吸引工程は、前記気体吸入口14に真空ポンプ等の各種気体吸入装置を設置し、これを用いて、摺動部材用成形装置、すなわち、本体部6内を減圧若しくは真空状態とする工程である。なお、吸引工程は、前記成形工程と前記脱溶媒工程に加えた工程として行う。
また、(1-3)における、加圧と減圧を複数回行うステップを含む工程を行うとともに、前記CNF含有スラリーに加えた圧力を減少させるステップと共に摺動部材用成形装置内の気体を吸引する工程を停止し、再度、前記CNF含有スラリーに圧力を加える工程とともに、摺動部材用成形装置内の気体を吸引する工程を再開する工程としてもよい。
【0033】
さらに、(4)距離測定装置を用いて、前記成形工程及び/又は前記脱溶媒工程を制御する、すなわち、加圧及び/又は減圧を行うステップを制御してもよい。
【0034】
以下、前記各工程における工程を以下に詳細に説明する。
(1-1)における、CNF含有スラリーに圧力を加えるとは、図1に示すように、成形キャビティ11中のCNF含有スラリーを厚さ方向に加圧するステップを経ることにより脱溶媒する工程である。この加圧により、CNF含有スラリー中の水分が、気体透過手段に移行し、成形キャビティ系外へと排出される。本過程における加圧方法は、公知の方法により行うことができるが、空圧式プレス機により行うことが好ましい。空圧式プレス機は、圧力の微調整を行うことが容易だからである。
油圧プレスやサーボプレスなどを使うことも出来る。油圧プレスの場合は、より高い圧力を付与しやすい。サーボプレスの場合は、細かな制御を行うことができる。サーボの場合は、距離(位置)を変更しない時には力を必要とせず省エネを図ることができる。これらを組み合わせたサーボ油圧プレスも利用できる。
【0035】
(1-1)においては、CNF含有スラリーの上面と上板9とを接触させた状態を維持しながら、後述する(3)摺動部材用成形装置内の気体を吸引する工程を行った後に、徐々に圧力を加えること若しくは一定圧力を掛けることが好ましい。
CNF含有スラリーに圧力を加える過程を行う前に、あらかじめ吸引工程を行うことで、CNF含有スラリー中に存在する気泡、及び/又は、摺動部材用成形装置にCNF含有スラリーを投入した際に発生してしまう気泡を除去することができ、最終的に得られる摺動部材用成形体内部のCNFの結合状態を均一なものとすることが可能となる。
【0036】
(1-2)における、摺動部材用成形装置内に加熱気体を供給する工程とは、摺動部材用成形装置内部に、加熱気体を供給して、循環する空気の流れを作る工程である。本工程における加熱気体は、原料温度を30~95℃、好ましくは、35~93℃、より好ましくは、40~90℃に制御することができる加熱気体を用いるとよい。その為の加熱気体としては100℃以上が好ましく、より好ましくは120℃以上が好ましい。係る範囲の加熱気体を用いることで、CNF含有スラリーの温度を上昇させ、CNFを膨潤・膨張させて、脱水速度を加速させることができるし、前述の循環する空気の流れにより、CNF含有スラリー中の溶媒の除去速度を上げることができる。ただし、30℃以下の加熱気体を用いると、CNF含有スラリーの温度を低下させてしまい、水分の除去速度を上げることはできず、脱溶媒に時間を要することになる。また、原料温度を95℃以上に上昇させてしまうと、CNF含有スラリー中の水分を沸騰させてしまい、CNF含有スラリーに気泡を大量に発生させてしまうおそれがある。
【0037】
加熱気体の供給量は、成形キャビティ中のCNF含有スラリーの内部と表面の水分含量値の差を生じさせないようにするために、加熱気体の供給量は真空ポンプの排気量以下とし、概ね1分間当たり、成形キャビティ11の容積の0.001倍~10倍とすることが好ましい。好ましくは0.002倍~5倍である。供給量が少ないと気体エリアの循環が不十分となり、逆に多いと排気系統からの熱エネルギーのロスが大きくなる。
【0038】
(1-3)における、CNF含有スラリーに圧力を加えた後に、圧力を減少させるステップを一回以上行う工程とは、前記(1-1)において、加えた圧力を減圧する工程である。係る工程を行うと、CNF含有スラリーは厚み方向に膨張して、CNF含有スラリー内部の溶媒は、CNF含有スラリー表面側へと移動する。次いで、再び加圧することで、CNF含有スラリー中の水分をより速く脱溶媒させることができる。さらに、表面側の溶媒が内部に比べて著しく低下してしまうと、表面部分のみCNFの水素結合が進み、溶媒の通過速度が著しく低下するが、本工程によりこれを防止することができる。なお、本過程においては、前記(1)の過程で加えた圧力をその圧力よりも減少させれば、それでよい。
【0039】
(3)摺動部材用成形装置内の気体を吸引する工程は、摺動部材用成形装置内部の気体を吸引することによって、摺動部材用成形装置内の圧力を減圧若しくは摺動部材用成形装置内を真空状態とする工程である。係る工程を行うことによって、前述したようにCNF含有スラリー中の気泡を除去することができる。なお、本工程における吸引方法は、真空ポンプ等を用いた公知の方法により行うことができる。
【0040】
(2-1)における、前記第一の成形体に気体透過手段を用いて圧力を加えるとは、(1-1)における、CNF含有スラリーに圧力を加えることと、同意義の工程であり、(1-1)と、同様の加圧方法を用いることができる。油圧式プレス機、またはサーボ式プレス機により行うことが好ましい。油圧式プレス機は、より大きな圧力を掛けることができ、第一の成形体を短時間で脱溶媒させることが可能だからである。サーボ式の場合は細かな制御ができ、省エネも図ることができる。
本工程における圧力を加える方法としては、初めに、小さい圧力を加えて(初期圧力)、そこから、この圧力を徐々に上げていき、最終的に一定の圧力(最終圧力)を加える方法が好ましい。
具体的な圧力の値としては、初期圧力として、8kg/cm以下が好ましく、7kg/cm以下がより好ましく、5kg/cm以下がさらに好ましい。また、最終圧力として、500kg/cm以上が好ましく、700kg/cm以上がより好ましく、900kg/cm以上がさらに好ましい。
【0041】
以上のことから、前記摺動部材用成形装置1は、前記成形工程と前記脱溶媒工程とで、異なるプレス機を両工程間で交換することを前提として、同一の摺動部材用成形装置を用いてもよいし、異なるプレス機を設置した2種以上の摺動部材用成形装置を用いて、前記成形工程及び前記脱溶媒工程を行うようにしてもよいし、同一のプレス機を用いて同一の摺動部材用成形装置で前記成形工程と前記脱溶媒工程を行うようにしてもよい。
【0042】
(2-2)における、前記摺動部材用成形装置に加熱気体を供給する工程とは、(1-2)における、摺動部材用成形装置内に加熱気体を供給することと、同意義の工程である。
【0043】
(2-3)における、前記第一の成形体に気体透過手段を用いて圧力を段階的に加えるとは、(2-1)における加圧を徐々に段階的に加える工程である。第一の成形体を急激に加圧すると、第一の成形体が圧縮に耐えきれず横方向に割れてしまうため、初期の段階では小さい圧力を掛けて、水素結合力の増加に合わせて徐々に圧力を上げることが好ましいからである。
【0044】
(4)における、距離測定装置を用いて、前記成形工程及び/又は前記脱溶媒工程を制御するとは、(1-1)、(1-3)及び(2-1)における加圧及び/又は減圧するステップを、距離測定装置を用いて測定した距離値によって、制御する工程である。
前述したように、摺動部材用成形装置1は、距離測定装置を用いて測定した距離値から体積や濃度値を換算することが可能であるから、このような工程とすることができる。このような工程とすることによって、例えば、シーケンス制御等をすることが可能となる。
【0045】
(摺動部材用成形体)
以上のようにして得られた摺動部材用成形体は、密度が、1.30~1.61g/cmである。また、水分率は、20%以下である。摺動部材用成形体の密度が1.3g/cm3を下回ると、水素結合点の減少を原因として強度が不十分であり、または内部に巣・空隙が存在することになり、このような摺動部材用成形体に対して、切削加工、穿孔、研磨等の各種加工を行うと、摺動部材用成形体が剥離・破壊・破損してしまい、各種加工を行うことができないからである。なお、成形体の密度は、JIS-P-8118:2014に準拠して測定した値である。また、水分率が20%を上回った場合についても、同様である。
【0046】
摺動部材用成形体の厚さの下限は、3mm以上である。摺動部材用成形体の厚さが3mmを下回ると、研磨加工等を行うことが困難となる。
一方、摺動部材用成形体の厚さ方向の上限は、0029段落において述べたように、CNF含有スラリー中のCNF濃度を18%以下とすることに留意すれば、特に制限されることがない。第一の円筒部3を高さ方向に延伸することで、得られる摺動部材用成形体の高さを調節することができる。
【0047】
以上のようにして得られる摺動部材用成形体は、低熱膨張率や高融点という観点からみても、摺動部材に適していると考えられる。
まず、融点については、摺動部材用成形体の原料であるセルロースは、熱可塑性がなく融点が無い熱分解を生じる素材である。また、セルロースのTmaxは360℃程度の熱分解温度を有しており、CNFもセルロースと同等の熱分解温度を有していると考えられている。特に、表面が化学修飾を受けていない未修飾のCNFの場合は、セルロースと同程度の高い耐熱性を維持していると考えられている。また、化学修飾によって得られたCNFであっても、Tmaxが230℃以上の耐熱性を有しているとされている(非特許文献1)。
一方、POMの連続使用時の耐熱温度は、90~100℃とされている。
【0048】
次に、低熱膨張率については、セルロースは3.6~12ppm/Kと低い熱膨張係数を有し、繊維径が大きいほど或いは、乾燥している程に小さい値を示すことが知られている。また、CNFについては、1.0×10-8/Kであることが知られている。
一方、POMの熱膨張率は、約8.1~8.5×10-5/Kとされている。
【0049】
また、本発明に係る摺動部材用成形体を公知の手段により表面を研磨することによって、表面粗さの下限値をRa0.05~0.1μmのものとすることで、超摩擦特性を有する摺動部材とすることができる。
また、表面粗さを低くすることは、比表面積を小さくして、熱の影響を直に受ける部分を少なくするため、セルロースの熱分解温度が下がらず、摺動部材用成形体が高融点を有していると推定される(非特許文献1)。
【0050】
したがって、CNFを成形して得られる摺動部材用成形体の耐熱性と低熱膨張率はPOMと比較して遥かに良好な結果をもたらすと考えられる。
【0051】
以上、摺動部材用成形体の製造方法及び摺動部材用成形体の実施の形態について詳細に説明したが、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本開示の範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【0052】
(潤滑油)
本発明における潤滑油は、潤滑油基油及び/又は潤滑油添加剤である。
潤滑油基油は、特に制限なく公知のものを使用することができる。具体的には、鉱油、化学合成油、天然油脂、希釈油、グリース、ワックス、炭化水素系溶剤等を用いることができる。
また、潤滑油添加剤には、公知の清浄分散剤、酸化防止剤、耐荷重添加剤、油性向上剤、摩耗防止剤、極圧剤、錆止め剤、腐食防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、乳化剤、抗乳化剤、かび防止剤、固体潤滑剤等を用いることができる。
これらの潤滑油添加剤の中でも、本発明の摺動部材を低摩擦性が要求される摺動部に用いる場合には、油性向上剤を用いるとよい。
油性向上剤としては、セルロース構成原子の酸素分子又は炭素原子と共有結合をすることが可能な官能基を有したアルカン類等が挙げられる。具体的には、3価以上のアルコール類、前記アルコール類のアルキレンオキサイド付加物、脂肪族モノカルボン酸類(脂肪酸類)、脂肪族多価カルボン酸類、炭素環カルボン酸類、複素環式カルボン酸類、前記4種のカルボン酸類から選ばれる2種以上の混合物等のカルボン酸類、脂肪酸モノカルボン酸類(脂肪酸類)のエステル、脂肪族多価カルボン酸類のエステル、炭素環カルボン酸類のエステル、複素環式カルボン酸類のエステル、アルコール類又はエステル類のアルキレンオキサイド付加物、前記5種のエステル等から選ばれる任意の混合物等のエステル類、飽和又は不飽和脂肪族エーテル類、芳香族エーテル類、環式エーテル類、前記3種エーテル類のから選ばれる2種以上の混合物等のエーテル類、飽和又は不飽和脂肪族ケトン類、炭素環ケトン類、複素環ケトン類、ケトンアルコール類、ケトン酸類、前記5種のケトン類等から選ばれる2種以上の混合物等のケトン類、飽和又は不飽和脂肪族アルデヒド類、炭素環アルデヒド類、複素環アルデヒド類、上記3種のアルデヒド類から選ばれる2種以上の混合物等のアルデヒド類、カーボネート結合を1つ又は2つ以上有するカーボネート類、グリセロールモノオレエート(GMO)、グリセリンモノオレイルエーテル、タロージエタノールアミン、アルキルアミン等を単独で、あるいはこれらを任意に組合せて使用することができる。
【0053】
本発明の摺動部材においては、前記油性向上剤が摺動部材表面に存在する炭素原子又は酸素原子と共有結合し、トライボフィルムが形成される。ここで、トライボフィルムとは、油性向上剤が摺動部材表面への摩擦時に吸着又は化学反応を伴い形成される表面被膜のことをいう。このドライボフィルムによって優れた低摩擦能が発揮される。
【実施例0054】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(製造例1~5)
セルロース由来成分として竹パルプを原料とし、特許第6704551号の0018段落に記載のACC法により得られた表1の製造例1~5に記載のCNF水分散液(平均繊維幅20nm~200nm、平均長さ3μm~30μm)をCNF含有スラリーとした。
次いで、本体部を円筒型としたCNF成形装置に投入し、以下の表1に記載の条件下において、成形工程、脱溶媒工程及び吸引工程を行い、厚さ3.2~16.3mmの摺動部材用成形体を作成した。また、第一の成形体中のCNF濃度を成形工程終了後の成形体のCNF濃度(%)として示す。それぞれ得られた摺動部材用成形体を後述する大きさに加工して、実施例1~4に供した。なお、表中の固形分濃度の算出方法は、投入した乾燥CNF重量を、得られた製品重量で割って算出した。また、水分率は、100(%)-(固形分濃度(%))によって、算出し、製造例1~5では、それぞれ2.6、10.2、3.4、10.0、16.9であった。
【0056】
【表1】
【0057】
(製造例6~10)
セルロース由来成分として竹パルプを原料とし、特許第6704551号の0018段落に記載のACC法により得られたCNF水分散液(平均繊維幅20nm~200nm、平均長さ3μm~30μm)をCNF含有スラリーとして、表2の製造例6~10に記載の条件で成形体を調製した。
まず、得られたCNF含有スラリーに、以下の表2に記載の量のグラフェン(株式会社アイテック:商品名(iGurafen type iGurafen-aS粉末))をそれぞれ添加した(製造例6~9)。なお、各CNF成形体中のグラフェン量は、製造例10(0wt%)、製造例6(0.01wt%)、製造例7(0.1wt%)、製造例8(1wt%)、及び製造例9(10wt%)である。
次いでこれらを、本体部を円筒型としたCNF成形装置に投入し、以下の表2に記載の条件下において、成形工程、脱溶媒工程を行い、摺動部材用成形体を作成した。
また、第一の成形体中のCNF濃度を成形工程終了後の成形体のCNF濃度(%)として示す。それぞれ得られた摺動部材用成形体を後述する大きさに加工して、実施例5~19に供した。なお、表中の固形分濃度の算出方法は、投入したCNFの換算乾燥重量を、得られた製品重量で割って算出した。
【0058】
【表2】
【0059】
(ボールオンディスク試験器又はリングオンディスク試験)
本発明におけるボールオンディスク試験器又はリングオンディスク試験は、ステッピングモータ・ロードセル・リニアガイド・試験片フォルダ・温度制御装置・位置制御ステージ・シーソー機構・バネ・マイクロメータから構成される摩擦試験機であり、静摩擦力及び動摩擦力を時間分解で計測する機構を有した摩擦試験機である。マイクロメータによりシーソの一端に取り付けられたバネとロードセルを押し込むことで試験片間(ボールorリングーディスク)に荷重を負荷し,モータで試験片(リング・ボール)を駆動することで発生した摩擦力によりリニアガイドが水平移動する。
この水平移動により駆動するモータ機構部をロードセルと接続しておくことで摩擦力を計測する.また,ディスク試験片のフォルダには,温度制御装置が取り付けられており,120℃程度までの昇温が可能である。
【0060】
(実施例1、比較例1,2)
(ボールオンディスク試験)
ボールオンディスク試験は、図2に示すように、ディスク上に固定されたボールを回転させることにより、摩擦特性を評価するものである。試験条件としては、50℃、大気中において、ボールを、各摺動部材用成形体に10Nの面圧で接触させると共に、0.01m/sの摺動速度で60分間摺動させた時の摩擦係数を測定した。なお、実施例1において用いた摺動部材用成形体は製造例1のものである。このとき、潤滑剤としては、50μLのポリアルファオレフィン(PAO)基油に1mass%のグリセロールモノオレエート(GMO)を添加した油をディスク表面に予め塗布した状態で試験を開始し、試験中の潤滑剤補給はしないこととした。各摺動部材の外形、厚み、表面粗さ、潤滑油の条件を表3に示す。また、摩擦係数の試験結果を図3に示し、摩擦痕直径を示す顕微鏡写真を図4に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
図3の試験結果により、本発明に係る摺動部材は、摩擦係数0.01~0.02の範囲内にあり(図3(3))、0.04~0.06の範囲内にある(図3(2))従来素材のPOMの摩擦係数より優れる低摩擦係数を得た。実施例1の結果により、開始300秒までの間で摩擦係数が低下していることが明らかとなった。
【0063】
(実施例2~4、比較例3~6)
(リングオンディスク試験)
リングオンディスク試験は、図5に示すように、ディスク上に設置されたリングを回転させることにより、摩擦特性を評価するものである。試験条件としては、50℃、大気中において、上記ボールを、各摺動部材用成形体に50Nの面圧で接触させると共に、0.01m/sの摺動速度で30分間摺動させた時の摩擦係数を測定した。なお、各実施例に用いたCNF成形体は以下の通りである。
実施例2:製造例3
実施例3:製造例4
実施例4:製造例5
このとき、潤滑剤としては、(1)ドライ(潤滑油無し)、(2)50μLのポリアルファオレフィン(PAO)基油、(3)50μLのポリアルファオレフィン(PAO)基油に1mass%のグリセロールモノオレエート(GMO)を添加した油を用い、(2)(3)についてはディスク表面に予め塗布した状態で試験を開始し、試験中の潤滑剤補給はしないこととした。各摺動部材の外形、厚み、表面粗さ、潤滑油の条件を表4に示す。また、摩擦係数の試験結果を図6及び図7に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
図6の試験結果によりドライ条件下(実施例2)と、PAO条件下(実施例3)とでは、振幅の大きさに違いはあるが、同程度(0.06程度)の摩擦係数であることが明らかとなった(図6(1)(2))。
すなわち、潤滑油なしの条件下であっても、低摩擦摺動部材として使用できると言える。CNFは植物由来原料であり、オイルフリーの潤滑が求められる食品分野などでの応用の可能性を示す評価を得た。また、GMOが存在する条件下(実施例4)では、これらの条件下よりも低摩擦係数(0.03以下)であることが明らかとなった(図6(3))。
さらに、図7の実施例3,4と比較例3~6の試験結果により、実施例3(図7(5))の摩擦係数は、POMと同程度の摩擦係数であることが明らかとなった。さらに、比較例と比べて、摩擦係数の振れが小さく安定した転がり特性に効果があることが明らかとなった。
【0066】
(FT-IRによるトライボフィルムの確認)
リングオンディスク試験終了後の実施例2~4におけるリングの表面を、FT-IR(Thermo Scientific Nicolet iS10)により測定した。測定結果を図8に示す。
図8により、1720cm-1付近にエステル結合を示すピークが確認できた。これにより、GMOを添加することにより摺動面にトライボフィルムが形成されていることが明らかとなった。
これは、摺動部材の表面に存在する水酸基とGMOとのエステル化により、CNF表面が疎水化され、疎水化されたCNF表面が膨潤しブラシ状に伸び、さらにGMO由来の長鎖アルキル基がブラシ状の周囲に起毛して摺動部材表面の非晶質化を引き起こしながら、30分間の摺動中に摺動部材表面のCNFが化学的及び機械的に解された可能性が考えられる。したがって、潤滑油環境下において、摺動部材と潤滑油の界面に、油性向上剤と摺動部材から解されたCNFとからなる層が形成されているものと考えられる。
また、図6及び図7の結果から、トライボフィルムは、摺動時間の経過に伴い、徐々に特に初期段階において形成されていくものと考えられる。
【0067】
(実施例5~9)
(ボールオンディスク試験)
製造例6~10において製造したCNF成形体を図2におけるディスクとして、それぞれ、50℃、大気中において、ボールを、各摺動部材用成形体に10Nの面圧で接触させると共に、0.01m/sの摺動速度で60分間摺動させた時の摩擦係数を測定した。なお、各実施例に用いたCNF成形体は以下の通りである。
実施例5:製造例10
実施例6:製造例6
実施例7:製造例7
実施例8:製造例8
実施例9:製造例9
このとき、潤滑剤としては、50μLのポリアルファオレフィン(PAO)をディスク表面に予め塗布した状態で試験を開始し、試験中の潤滑剤補給はしないこととした。各摺動部材の外形、厚み、表面粗さ、潤滑油の条件を表5に示す。また、摩擦係数の試験結果を図9に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
図9の試験結果により、固体潤滑剤粒子を添加した摺動部材は、固体潤滑剤粒子(グラフェン)の添加量の増加に伴い、摩擦係数が低下することが明らかとなった。
【0070】
(実施例10~14)
(ボールオンディスク試験)
製造例6~10において製造したCNF成形体を図2におけるディスクとして、それぞれ、50℃、大気中において、ボールを、各摺動部材用成形体に10Nの面圧で接触させると共に、0.01m/sの摺動速度で60分間摺動させた時の摩擦係数を測定した。なお、各実施例に用いたCNF成形体は以下の通りである。
実施例10:製造例10
実施例11:製造例6
実施例12:製造例7
実施例13:製造例8
実施例14:製造例9
このとき、潤滑剤としては、50μLのポリアルファオレフィン(PAO)基油に1mass%のグリセロールモノオレエート(GMO)を添加した油をディスク表面に予め塗布した状態で試験を開始し、試験中の潤滑剤補給はしないこととした。各摺動部材の外形、厚み、表面粗さ、潤滑油の条件を表6に示す。また、摩擦係数の試験結果を図10に示す。
【0071】
【表6】
【0072】
図10の試験結果により、固体潤滑剤粒子を添加した摺動部材は、摩擦係数が約0.04~0.08の範囲内にあることが明らかとなった。固体潤滑剤粒子としてグラフェンを添加した摺動部材では、セルロースとGMOとのエステル化反応による摩擦性の向上効果は明らかとならなかった。エステル化反応は脱水結合により加速されるが、グラフェン添加系では、乾燥した酸化グラフェン薄片の特性であるガスバリアの機能により成形体の有する水分の脱離が進まずエステル化反応が進まなかった可能性がある。または六角格子の物理的なバリアによりセルロースとGMOとの接触の機会が減少した可能性がある。
【0073】
(実施例15)
(ボールオンディスク試験)
製造例10において製造したCNF成形体を図2におけるディスクとして、それぞれの水平面と垂直面を、50℃、大気中において、ボールを、各摺動部材用成形体に10Nの面圧で接触させると共に、0.01m/sの摺動速度で60分間摺動させた時の摩擦係数を測定した。
このとき、潤滑剤としては、50μLのポリアルファオレフィン(PAO)基油に1mass%のグリセロールモノオレエート(GMO)を添加した油をディスク表面に予め塗布した状態で試験を開始し、試験中の潤滑剤補給はしないこととした。各摺動部材の外形、厚み、表面粗さ、潤滑油の条件を表7に示す。各摺動部材の外形、厚み、表面粗さ、潤滑油の条件を表7に示す。また、摩擦係数の試験結果を図11に示す。
【0074】
【表7】
【0075】
図11の試験結果により、本発明に係る摺動部材は、水平面と垂直面の両面とも低摩擦係数であること、また水平面に比べて垂直面の方がより優れた低摩擦性を示すことが明らかとなった。
【0076】
(実施例16)
(ボールオンディスク試験)
製造例10において製造したCNF成形体を図2におけるディスクとして、それぞれ、50℃、大気中において、ボールを、各摺動部材用成形体に10Nの面圧で接触させると共に、0.01m/sの摺動速度で60分間摺動させた時の摩擦係数を測定した。
このとき、潤滑剤としては、50μLのポリアルファオレフィン(PAO)をディスク表面に予め塗布した状態で試験を開始し、試験中の潤滑剤補給はしないこととした。各摺動部材の外形、厚み、表面粗さ、潤滑油の条件を表8に示す。また、摩擦係数の試験結果を図12に示す。
【0077】
(実施例17)
実施例16における潤滑剤を、50μLのポリアルファオレフィン(PAO)基油に1mass%のグリセロールモノオレエート(GMO)を添加したこと以外は、実施例16と同様にして、摩擦係数を測定した。各摺動部材の外形、厚み、表面粗さ、潤滑油の条件を表8に示す。また、摩擦係数の試験結果を図12に示す。
【0078】
(実施例18)
実施例16における潤滑剤を、50μLのポリアルファオレフィン(PAO)基油に1mass%のグリセリンモノオレイルエーテル(オレイルエーテル)(GME)を添加したこと以外は、実施例16と同様にして、摩擦係数を測定した。各摺動部材の外形、厚み、表面粗さ、潤滑油の条件を表8に示す。また、摩擦係数の試験結果を図12に示す。
【0079】
(実施例19)
実施例16における潤滑剤を、50μLのポリアルファオレフィン(PAO)基油に1mass%のタロージエタノールアミン(オレイルアミン)(TDEA)を添加したこと以外は、実施例16と同様にして、摩擦係数を測定した。各摺動部材の外形、厚み、表面粗さ、潤滑油の条件を表8に示す。また、摩擦係数の試験結果を図12に示す。
【0080】
(比較例7)
SUJ2(JIS G 4805 高炭素クロム軸受鋼鋼材)を図2におけるディスクとして、それぞれ、50℃、大気中において、ボールを、各摺動部材用成形体に10Nの面圧で接触させると共に、0.01m/sの摺動速度で60分間摺動させた時の摩擦係数を測定した。
このとき、潤滑剤としては、50μLのポリアルファオレフィン(PAO)をディスク表面に予め塗布した状態で試験を開始し、試験中の潤滑剤補給はしないこととした。各摺動部材の外形、厚み、表面粗さ、潤滑油の条件を表8に示す。また、摩擦係数の試験結果を図13に示す。
【0081】
(比較例8)
比較例7における潤滑剤を、50μLのポリアルファオレフィン(PAO)基油に1mass%のグリセロールモノオレエート(GMO)を添加したこと以外は、比較例7と同様にして、摩擦係数を測定した。各摺動部材の外形、厚み、表面粗さ、潤滑油の条件を表8に示す。また、摩擦係数の試験結果を図13に示す。
【0082】
(比較例9)
比較例7における潤滑剤を、50μLのポリアルファオレフィン(PAO)基油に1mass%のグリセリンモノオレイルエーテル(オレイルエーテル)(GME)を添加したこと以外は、比較例7と同様にして、摩擦係数を測定した。各摺動部材の外形、厚み、表面粗さ、潤滑油の条件を表8に示す。また、摩擦係数の試験結果を図13に示す。
【0083】
(比較例10)
比較例7おける潤滑剤を、50μLのポリアルファオレフィン(PAO)基油に1mass%のタロージエタノールアミン(オレイルアミン)を添加したこと以外は、比較例7と同様にして、摩擦係数を測定した。各摺動部材の外形、厚み、表面粗さ、潤滑油の条件を表8に示す。また、摩擦係数の試験結果を図13に示す。
【0084】
【表8】
【0085】
図12の試験結果によりGMO及びGMEを潤滑油として用いた実施例17と実施例18において、超低摩擦現象が確認された。また、摺動開始直後(初期状態)に比べて一定時間経過後に低摩擦化していることより(図6及び図7参照)、GMOに加えて、GME及びTDEA(実施例17、18、19)も、摺動用部材の表面にトライボフィルムが形成されていると考えられる。
一方、図13の試験結果により、GMO及びGME添加油で摩擦低減効果が確認されたものの、実施例と比較して、初期に比べて一定時間経過後に低摩擦化しているというような現象は発生しなかった。
【符号の説明】
【0086】
25…ボールオンディスク試験、26…ボール、27…潤滑油、28…ディスク、29…リングオンディスク試験、30…リング


図1
図2
図3
図4
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図13