(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031951
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】液体の浸透観察用模擬臓器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G09B 23/28 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
G09B23/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136186
(22)【出願日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2022134587
(32)【優先日】2022-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000132932
【氏名又は名称】株式会社タカギセイコー
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】中路 正
(72)【発明者】
【氏名】小熊 規泰
【テーマコード(参考)】
2C032
【Fターム(参考)】
2C032CA03
2C032CA06
(57)【要約】
【課題】投与した液体が滞留可能で、その液体の浸透が観察可能な液体の浸透観察用模擬臓器及びその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】天然高分子のゲルで構成された液体の浸透観察用模擬臓器であって、前記天然高分子はコラーゲン、ゼラチン、コラーゲンペプチド及びヒアルロン酸からなる群から選択される1種以上であり、前記ゲルは所定濃度の前記天然高分子にゲル化剤が配合され、前記ゲルが単層又は多層からなることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然高分子のゲルで構成された液体の浸透観察用模擬臓器であって、
前記天然高分子はコラーゲン、ゼラチン、コラーゲンペプチド及びヒアルロン酸からなる群から選択される1種以上であり、前記ゲルは所定濃度の前記天然高分子にゲル化剤が配合され、前記ゲルが単層又は多層からなる、液体の浸透観察用模擬臓器。
【請求項2】
前記ゲルが単層からなり、前記天然高分子が11質量%~33質量%である、請求項1に記載の液体の浸透観察用模擬臓器。
【請求項3】
前記ゲルが少なくとも第1層と第2層を有する多層からなり、前記第1層と第2層はともに前記天然高分子が1質量%~33質量%で、かつ、前記天然高分子が第1層と第2層で所定の濃度差及び/又は所定の濃度比を有する、請求項1に記載の液体の浸透観察用模擬臓器。
【請求項4】
前記ゲル化剤は縮合剤及び/又は架橋剤であり、前記天然高分子10質量%に対して、前記縮合剤及び/又は架橋剤が0.01質量%~5質量%である、請求項1に記載の液体の浸透観察用模擬臓器。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の液体の浸透観察用模擬臓器の製造方法であって、
人や動物の臓器の形状情報から形状モールドを作製する工程と、前記形状モールドに所定濃度の天然高分子とゲル化剤とを流し込んでゲル化させる工程とを有する、液体の浸透観察用模擬臓器の製造方法。
【請求項6】
前記形状モールド内に内部モールドを配置した後、所定濃度の天然高分子とゲル化剤とを流し込んでゲル化させる工程と、前記内部モールドを除去して空洞化又は前記内部モールドを除去した空洞部に所定濃度の天然高分子とゲル化剤とを流し込んでゲル化させる工程とを有する、請求項5に記載の液体の浸透観察用模擬臓器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体である薬液や細胞などの浸透観察用模擬臓器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療技術の発展とともに、様々な模擬臓器が開発されている。
例えば、特許文献1の穿刺練習用模型は、模擬生体組織内に模擬血管としてチューブ被覆層で被覆されたチューブが配置され、この模擬血管が血管の穿刺抵抗の再現性に優れるとともに、チューブ内を流れる模擬血液の漏れを抑制しながら採血練習ができる。
特許文献2には、3Dプリンタを用いて製造された触感再現性の高い模擬臓器が開示されており、この模擬臓器でメス入れや縫合、注射針を刺す練習などが可能である。
【0003】
近年、臓器へ薬液や幹細胞などを直接投与する方法が注目されている。
例えば、注射針を使用せず体内へ薬液を投与できる無針注射器は、世界的にも普及しており、医療事故防止の観点からも利用が期待されているが、このようなデバイスの開発においても、投与した液体の内部拡散様相の観察は極めて重要である。
しかし、従来の模擬臓器では、投与した液体の浸潤様相が可視化できず、また注入した液体が逆流するなどの問題があり、上記特許文献1、2の模擬臓器においても、実際に薬液などの液体を模擬臓器に投与することは想定されていない。
そのため、投与した液体が漏れ出ずに滞留し、その浸透を観察できる新しい模擬臓器の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-039224号公報
【特許文献2】特開2019-217770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、投与した液体が滞留可能で、その液体の浸透が観察可能な液体の浸透観察用模擬臓器及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る模擬臓器は、天然高分子のゲルで構成された液体の浸透観察用模擬臓器であって、前記天然高分子はコラーゲン、ゼラチン、コラーゲンペプチド及びヒアルロン酸からなる群から選択される1種以上であり、前記ゲルは所定濃度の前記天然高分子にゲル化剤が配合され、前記ゲルが単層又は多層からなることを特徴とする。
例えば、前記ゲルが単層からなり、前記天然高分子が11質量%~33質量%であってもよい。
また、前記ゲルが少なくとも第1層と第2層を有する多層からなり、前記第1層と第2層はともに前記天然高分子が1質量%~33質量%で、かつ、前記天然高分子が第1層と第2層で所定の濃度差及び/又は所定の濃度比を有するものであってもよい。
例えば、上下に重なる第1層と第2層に対し、上層(の上面)から液体を投与する場合に、天然高分子の濃度が上層20質量%~30質量%で、下層7質量%~11質量%である、あるいは、天然高分子の濃度が上層4質量%~13質量%で、下層15質量%~30質量%であってもよく、このように第1層と第2層で濃度差を有してもよい。
また、天然高分子の濃度比が、上層:下層=2~3:0.75~1、あるいは、上層:下層=1~2.5:3~6であってもよい。
このように、模擬臓器が1つの層からなる単層ゲルで構成されてあってもよいが、臓器の内部硬さ分布を模擬しやすいように、弾力性の異なる複数の層からなる多層ゲルで構成されてあってもよい。
本発明において、前記ゲル化剤は縮合剤及び/又は架橋剤であり、前記天然高分子10質量%に対して、前記ゲル化剤が0.01質量%~5.0質量%であってもよい。
例えば、縮合剤がカルボジイミド系、ホスホニウム系、ウロニウム系及びトリアジン系からなる群から選択される1種以上であってもよい。
液体の浸透観察用模擬臓器の製造方法は、人や動物の臓器の形状情報から形状モールドを作製する工程と、前記形状モールドに所定濃度の天然高分子とゲル化剤とを流し込んでゲル化させる工程とを有してもよい。
これにより、臓器の表面形状を再現した模擬臓器を製造しやすい。
また、前記形状モールド内に内部モールドを配置した後、所定濃度の天然高分子とゲル化剤とを流し込んでゲル化させる工程と、前記内部モールドを除去して空洞化又は前記内部モールドを除去した空洞部に所定濃度の天然高分子とゲル化剤とを流し込んでゲル化させる工程とを有してもよい。
これにより、例えば、弾力性の異なる多層ゲルの模擬臓器を製造でき、より人などの臓器に近い硬度や形状等を再現しやすくなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る模擬臓器は、外部から投与した液体を模擬臓器内に滞留可能で、液体の浸透を目視で観察でき、臓器の弾力性の再現性にも優れる。
そのため、例えば、手術練習用及び/又は医療用ロボットの操作の習得用として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】作製例2の単層ゼラチンゲル(比較例4~7、実施例7~11)について、液体注入実験における注入後の正面及び側面の写真を示す。
【
図2】作製例7の二層ゼラチンゲルの一例(実施例22)について、注入後の正面写真を示す。
【
図3】作製例9の二層ゼラチン/ヒアルロン酸混合ゲル(実施例35)について、注入後の正面写真を示す。
【
図4】作製例10の三層ゼラチンゲル(実施例36)について、液体注入実験における注入前及び注入直後の正面、注入後の平面、正面、側面及び拡散断面の写真を示す。
【
図5】作製例2の単層ゼラチンゲルについて、各浸潤評価パラメータ((a)最大浸潤深さ、(b)拡散中心深さ、(c)拡散幅)を示す。
【
図6】作製例4の単層ゼラチン/ヒアルロン酸混合ゲルのうち、低分子量ヒアルロン酸を混合した例について、各浸潤評価パラメータを示す。
【
図7】作製例5のポリグルタミン酸添加単層ゼラチンゲルについて、各浸潤評価パラメータを示す。
【
図8】作製例8の二層ゼラチンゲルのうち、下層がゼラチン15質量%である例について、各浸潤評価パラメータを示す。
【
図9】作製例2の単層ゼラチンゲルについて、せん断応力測定結果を示す。
【
図10】作製例3の単層ゼラチンゲルについて、せん断応力測定結果を示す。
【
図11】作製例4の単層ゼラチン/ヒアルロン酸混合ゲルについて、せん断応力測定結果を示し、(a)は低分子量ヒアルロン酸、(b)は高分子量ヒアルロン酸を混合した例について示す。
【
図12】作製例5のポリグルタミン酸添加単層ゼラチンゲルについて、せん断応力測定結果を示す。
【
図13】作製例6のデキストラン添加単層ゼラチンゲルについて、せん断応力測定結果を示す。
【
図14】形状モールドの内面側の写真を示し、(a)に心臓形状モールド、(b)に内部モールドを配置した心臓形状モールド、(c)に肝臓(体内)形状モールド、(d)に肝臓(葉開き)形状モールドを示す。
【
図17】製造例3の体内形状の肝臓模擬臓器の写真を示す。
【
図18】製造例4の葉開き状態の肝臓模擬臓器の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、液体の浸透観察用模擬臓器(以下、単に模擬臓器という)は、例えば注射器を利用して薬液や細胞などの液体を投与した際に、その液体の浸透を目視で観察できるものであり、好ましくは無針注射器を利用して注入した液体の浸透を観察できるものである。
無針注射器は、例えば噴射圧力3MPa~5MPa等の市販品の他に、これよりも穿孔圧力の低いもの、一度のセッティングで複数回穿刺可能なものなど、様々なものが想定される。
このような模擬臓器は、手術練習用や医療用ロボットの操作の習得用に使用可能である。
【0010】
本発明に係る模擬臓器は、人や動物の臓器が有する程度の弾力性を有することが好ましく、臓器としては、例えば脳、心臓、肝臓、膵臓、脾臓、腎臓及び皮膚構造体における全体またはその一部などが挙げられる。
例えば、マウスの脳のせん断弾性率は0.5~1kPa(S.Budday.et al.、Towards microstructure-informed material models for human brain tissue、Acta Biomaterialia、104(2020)、p53-65参照)、人の皮膚の弾性率は0.3~2.6MPa(M.K.Jeong.et al.、Effect of the gel elasticity of model skin matrices on the distance/depth-dependent transmission of vibration energy supplied from a cosmetic vibrator、International Journal of Cosmetic Science、39(2017)、p42-48参照)であることが知られている。
また、本発明者らは、豚の腎臓、肝臓、脾臓、心臓のせん断応力がそれぞれ、60kPa~200kPa、35kPa~60kPa、5kPa~30kPa、25kPa~50kPaであることを実験で確認している。
なお、この確認実験は後述する実験2と同様の方法を用いたが、豚臓器の測定は組織にばらつきがあるために直径1mmのロッドを使用して実施した。
【0011】
本発明者らは、後述する天然高分子とゲル化剤の配合割合や種類によってレオロジー特性を変化させたゲルが、各臓器の硬度再現性に優れるだけでなく、外部から投与した液体を内部に滞留させることを見出した。
本発明はこのようなゲルで模擬臓器を構成したものであり、例えば心臓の模擬臓器として使用する場合は、模擬臓器を構成するゲルのせん断応力は25kPa~50kPaであることが好ましい。
また、ゲルは単層ゲルであってもよいが、弾力性の異なる複数の層からなる多層ゲルであってもよい。
例えば、上層と下層からなる二層ゲルであっても、さらに中層を有する三層ゲルであってもよく、このような多層からなるゲルは皮膚や肝臓等の構造を再現しやすい。
なお、ゲルのサイズや、ゲルに対する液体の投与方向、投与位置等に特に制限はない。
例えば、略直方体や略円柱状ゲルの平面を注入面としてもよく、注入後に注入面からの液戻りや、他の面(ゲルの正面、側面、底面等)からの液漏れがないことを確認してもよい。
例えば、単層ゲルの平面略中心におよそ垂直に無針注射器(例えば、噴射圧力3MPa)を当接して液体注入する場合に、層の厚み(単層ゲルの平面から底面までの最大距離)は約5mm~150mmであってもよく、本実施例の作製例1~6は、層の厚みが約20mm~35mmの例である。
また、多層ゲルの平面(上層の上面)から液体を注入する場合に、各層の厚みが約5mm~150mmであってもよく、各層の厚みに差があってもよい。
例えば、二層ゲルの場合に上層が約5~20mm、下層が約20~80mmの厚みであってもよく、本実施例の作製例7~9は、上層の厚みが約10mm、下層の厚みが約30mmの例である。
ゲルの弾力性は、例えば圧縮時の荷重測定やせん断応力を用いる等、公知の方法により測定することができるが、本実施例においてはせん断応力を用いた。
ゲルの作製方法としては、例えば、天然高分子を溶解した水溶液(天然高分子溶液)と、ゲル化剤を溶解した水溶液(ゲル化剤溶液)とを攪拌し、静置して気泡有りのゲル(含気泡ゲル)を作製してもよい。
また、脱気した水溶液に天然高分子やゲル化剤を溶解してもよく、天然高分子溶液とゲル化剤溶液を超音波処理下で攪拌することで、気泡を除去した気泡無しのゲル(無気泡ゲル)を作製してもよい。
【0012】
天然高分子としては、例えばコラーゲン、ゼラチン、コラーゲンペプチド及びヒアルロン酸などの水溶性のものが挙げられ、これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中で、ゼラチン、あるいはゼラチンを主成分とする混合物が好ましく、例えばゼラチンを主成分としたヒアルロン酸混合物であってもよい。
ゼラチンは、分散性等の観点から分子量1,000~80,000が好ましく、弾力性の観点からは分子量8,000~80,000がより好ましく、分子量20,000~80,000の高分子であることが最も好ましく、例えば分子量が50,000~60,000であってもよい。
また、ヒアルロン酸は、例えば分子量1,000~800,000のうち、高分子同士の相分離を回避等する観点からは分子量5,000~50,000が好ましく、分子量8,000~10,000がより好ましい。
このような天然高分子からなるゲルは、透明で内部を可視化できる。
【0013】
天然高分子をゲル化する方法としては、縮合剤や縮合補助剤、架橋剤を用いる化学的方法が挙げられ、本明細書においては、縮合剤、縮合補助剤及び架橋剤をまとめてゲル化剤という。
例えば、ゼラチンを含む水中に縮合剤を添加することで、ゼラチンのカルボキシル基と、ゼラチンのヒドロキシ基やアミノ基とをエステル結合若しくはアミド結合による縮合反応により分子量を大きくし、ゲル化してもよい。
あるいは、天然高分子を含む水中に架橋剤を添加し、分子量を大きくすることでゲル化してもよい。
なお、縮合剤を添加する際には、縮合補助剤を併用することが好ましい。
【0014】
ゲル化剤は、水溶液中で天然高分子の縮合反応や架橋反応により分子量を大きくし、水に不溶性のゲルが生じるものであれば特に限定されない。
縮合剤としては、例えば水溶性カルボジイミド系、トリアジン系、ホスホニウム系、ウロニウム系等が挙げられる。
水溶性カルボジイミド系としては、例えばEDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)やその塩、CMC(1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドメト-p-トルエンスルホナート)やその塩、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどが挙げられる。
トリアジン系としては、例えばDMT-MM(4-(4、6-ジメトキシ-1、3、5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド)などが挙げられる。
ホスホニウム系としては、例えばBOP(1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩)、PyBOP(1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩)、PyAOP((7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩)、BroP(ブロモトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩)、PyCloP(クロロトリピロリジノホスホ二ウムヘキサフルオロりん酸塩)、PyBrOP(ブロモトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩)、DEPBT(3-(ジエトキシホスホリルオキシ)-1、2、3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン)などが挙げられる。
ウロニウム系としては、例えばTSTU(O-(N-スクシンイミジル)-N、N、N’、N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩)、HATU(O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N、N、N’、N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩)、HSTU(O-(N-スクシンイミジル)-N、N、N’、N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩)、TATU(2-(7-アゾトリアゾール)-N、N、N’、N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩)、TNTU(2-(5-ノルボルネン-2、3-ジカルボキシイミド)-1、1、3、3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩)などが挙げられる。
縮合補助剤としては、例えばNHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)、NMM(メチルモルホリン)、HOAt(1-ヒドロキシル-7-アザベンゾトリアゾール)、HOBt(1-ヒドロキシルベンゾトリアゾール)、N-ヒドロキシマレイン酸イミドなどが挙げられる。
架橋剤としては、例えばアルキルジアルデヒド、アルキルエポキシド、ジカルボン酸クロリド、ジ無水フタル酸及びジ無水マレイン酸などが挙げられる。
【0015】
模擬臓器を単層ゲルで構成する場合、ゲル化剤の濃度を適宜選択することで天然高分子の濃度は1質量%~33質量%であってもよいが、例えば、ゲル化剤が1質量%程度(例えば、EDC、NHSが各1質量%)に対し、天然高分子は11質量%~33質量%が好ましく、13質量%~30質量%がより好ましく、15質量%~25質量%がさらに好ましい。
例えば、天然高分子がゼラチンであって含気泡ゲルであれば、ゼラチンは11質量%~25質量%が好ましく、12.5質量%~20質量%がより好ましい。
例えば、天然高分子がゼラチンであって無気泡ゲルであれば、ゼラチンは13質量%~33質量%が好ましく、15質量%~25質量%がより好ましい。
本明細書においては、天然高分子が2種以上の場合、「各天然高分子の濃度値を単純に足し併せた値」を天然高分子の濃度といい、例えば、ゼラチン10質量%とヒアルロン酸3質量%を含む場合には、天然高分子が13質量%であるという。
例えば、天然高分子がゼラチン(例えば、分子量50,000~60,000)とヒアルロン酸(例えば、分子量8,000~10,000)の混合物で、ゼラチンが10質量%であれば、ヒアルロン酸は2質量%~12質量%が好ましく、3質量%~10質量%がより好ましい。
なお、ゲルには細胞タンパク質、繊維タンパク質、多糖類等の添加剤が含まれていてもよく、例えばデキストラン、ポリグルタミン酸、ラミニン、フィブロネクチン、ヒドロレクチン等を本発明の効果を阻害しない範囲で含んでいてもよい。
これらの添加剤は、生体安全性に優れるものであることが好ましく、分散性等の観点からは分子量1,000~1,000,000が好ましく、分子量10,000~50,000であることがより好ましい。
例えば、天然高分子がゼラチンであってポリグルタミン酸を含むゲルであれば、ポリグルタミン酸を2質量%~6質量%、好ましくは3質量%~5質量%を含むことで、ゲル化剤が1質量%程度(例えば、EDC、NHSが各1質量%)に対し、ゼラチンが10質量%程度であってもよい。
【0016】
多層ゲルで模擬臓器を構成する場合、複数の層の数に特に制限はない。
例えば、多層ゲルが少なくとも第1層と第2層を有し、第1層と第2層はともに天然高分子が1質量%~33質量%、好ましくは4質量%~30質量%で、かつ、第1層と第2層で所定の濃度差及び/又は所定の濃度比を有してもよい。
例えば、上下に重なる第1層と第2層に対し、上層の上面から液体を投与する場合に、上層が下層に比べて天然高分子濃度が高くても、低くてもよい。
例えば、上層と下層(第1層と第2層)の天然高分子がともにゼラチンで、上層が下層よりもゼラチンが高濃度である場合、例えば、上層のゼラチンが20質量%程度であれば、下層のゼラチンは7質量%~13質量%が好ましく、上層のゼラチンが30質量%程度であれば、下層のゼラチンは7質量%~11質量%であることが好ましい。
すなわち、液体注入側の上層を高濃度とする場合、天然高分子(例えば、ゼラチン)は上層が17.5質量%~33質量%で、下層が7質量%~13質量%であってもよく、上層が20質量%~30質量%で、下層が7質量%~11質量%であることが好ましい。
また、天然高分子の濃度比は、上層:下層=2~3:0.75~1.25が好ましく、上層:下層=2~3:0.75~1であることがより好ましい。
例えば、下層が上層よりも天然高分子濃度が高い場合、例えば、下層のゼラチンが15質量%程度であれば、上層のゼラチンは4質量%~13質量%が好ましく、下層のゼラチンが20質量%程度であれば、上層のゼラチンは4質量%~13質量%が好ましく、下層のゼラチンが30質量%程度であれば、上層のゼラチンは4質量%~13質量%であることが好ましい。
すなわち、液体注入側の上層を低濃度とする場合、天然高分子(例えば、ゼラチン)は上層が4質量%~13質量%で、下層が14質量%~33質量%であってもよく、上層が4質量%~13質量%で、下層が15質量%~30質量%であることが好ましい。
また、天然高分子の濃度比は、上層:下層=1~2.5:3~6であることが好ましい。
多層ゲルは、上層と下層の間にさらに中層を有する三層ゲルであってもよく、複数の層のいずれの天然高分子濃度が高くてもよい。
例えば、上層のゼラチンが30質量%、中層のゼラチンが10質量%、下層のゼラチンが20質量%の三層ゲルであってもよい。
【0017】
ゲル化剤である縮合剤や架橋剤は、天然高分子を水に不溶性の分子量まで大きくすることができれば、その濃度に特に制限はない。
例えば、天然高分子10質量%に対し、縮合剤や架橋剤が0.01質量%~5質量%であってもよく、好ましくは0.1質量%~2質量%であり、このようにゲル化剤の使用量を低くすることで模擬臓器の作製に係るコストを抑制できる。
例えば、縮合剤を0.1質量%~1質量%の範囲で選択し、好ましいゲルの弾力性を選択してもよい。
また、縮合補助剤を用いる場合には、縮合剤と等モルであることが好ましく、この場合に「ゲル化剤が1質量%」とは、「縮合剤、縮合補助剤が各1質量%」であることをいう。
【0018】
本発明において、模擬臓器はゲルで構成されるが、その製造方法としては、人や動物の臓器の形状情報から形状モールドを作製する工程と、前記形状モールドに所定濃度の天然高分子とゲル化剤とを流し込んでゲル化させる工程とを有してもよい。
人や動物の臓器の形状情報は、例えば、3Dスキャナを用いて臓器の形状に関するデータを収集する等、公知の方法により臓器の形状を情報として取得できれば、その方法に特に制限はない。
臓器の形状情報である3Dデータをもとに、例えば、3Dプリンタを用いて臓器の形状を転写した形状モールドを造形してもよい。
例えば、光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂、3Dプリンタ用樹脂で造形された形状モールドは、1種類の樹脂により造形されても、複数の樹脂により造形されてもよいが、後述するコーティングとの関係では、1つの形状モールド(例えば、一対の形状モールドで模擬臓器を製造する場合には、一対の形状モールドのそれぞれ)は同一の物性や色を有する樹脂により造形されていることが好ましい。
形状モールドの転写面(内面)に所定濃度の天然高分子溶液とゲル化剤溶液で構成されるゲル液(ゲル前駆溶液)を流し込んでゲル化した後、ゲルを破損等なく容易に離型することは重要である。
そこで、人や動物の臓器の形状情報から形状モールドを作製する工程には、人や動物の臓器の形状情報から形状モールドを造形する工程と、造形した形状モールドにコーティングを施す工程とを有することが好ましい。
コーティングとしては、親水性モノマーと疎水性モノマーの共重合体を用いることが好ましく、親水性モノマー:疎水性モノマー=3:7の共重合体がより好ましい。
親水性モノマーとしては、例えば、ベタイン(両性イオン)型モノマーが挙げられ、ベタイン型モノマーとしては、カルボキシベタインモノマー、スルホベタインモノマー、ホスホベタインモノマー等が挙げられる。
例えば、カルボキシベタインモノマーとして、カルボキシメチルベタインメタクリレート(CMB)を用いてもよい。
なお、本明細書における親水性モノマーには、例えば、オリゴエチレングリコール側鎖、ポリエチレングリコール側鎖のモノマーに変更したポリマーを含んでもよい。
疎水性モノマーとしては、例えば、ブチルメタクリレート(BMA)が挙げられる。
形状モールドの内面に対し、親水性モノマーと疎水性モノマーの共重合体を溶媒に溶解して塗布した後、溶媒を除去した親水性モノマーと疎水性モノマーの共重合体によるコーティング層は、平均厚みが100nm~数μmであることが好ましく、本実施例(製造例1~5)においては、平均厚みが100nm~数μmとなるようにコーティングを施した。
例えば、形状モールドの内面にゲル液を流し込んでゲル化した後、水浴中に浸漬させて形状モールドからゲルを離型してもよい。
1つの模擬臓器は、1つの形状モールド、一対の形状モールド、複数の形状モールド、さらに形状モールド内に配置される内部モールドを用いて製造されてもよい。
一例として、一対の形状モールドでそれぞれゲルを作製し、所定濃度の天然高分子溶液とゲル化剤溶液で構成される接続用ゲル液を用いることで、一対のゲルを繋ぎ合わせて模擬臓器を製造してもよい。
例えば、一対のゲル間に塗布した接続用ゲル液をゲル化すれば、各ゲルが一体化する。
一例として、形状モールド内に内部モールドを配置した後、所定濃度の天然高分子とゲル化剤とを流し込んでゲル化させる工程と、前記内部モールドを除去して空洞化又は前記内部モールドを除去した空洞部に所定濃度の天然高分子とゲル化剤とを流し込んでゲル化させる工程とを有してもよい。
形状モールド内に内部モールドを配置した状態でゲル化した後、内部モールドを除去すると、空洞部が形成されたゲルが得られる。
例えば、空洞部(内部モールドを除去した部分)が形成された一対のゲルを繋ぎ合せることで、内部に中空部を有する模擬臓器を製造できる。
例えば、空洞部に異なるゲル液を流し込んでゲル化することで、多層ゲルの模擬臓器を製造できる。
なお、内部モールドの形状は目的に応じて適宜選択してもよく、その作製方法は、形状モールドと同じでも、異なってもよい。
また、内部モールドにもコーティングが施されていることが好ましく、コーティングは、前述の親水性モノマーと疎水性モノマーの共重合体を用いることがより好ましい。
このような模擬臓器の製造方法により、人や動物の臓器の硬度(力学強度)再現性に優れるだけでなく、その硬度の均一性や透明性の均一性に優れる模擬臓器が製造されることが好ましい。
これにより、製造された模擬臓器のバラツキが少なく、例えば、注入した液体の浸透観察精度に優れる模擬臓器を提供できる。
【0019】
以下、本発明に係る模擬臓器及びその製造方法について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
まず、作製例1~10の方法でゲルを作製し、各ゲルに対して液体注入実験及び/又はせん断応力測定を実施した。
作製例1~6は単層ゲル、作製例7~10は多層ゲルの作製例である。
天然高分子としてゼラチン(牛由来Viscosity3.5、分子量50,000~60,000)を、ゲル化剤としてEDC(ペプチド研究所製)及びNHS(ナカライテスク製)を選択し、作製例4、9ではさらにヒアルロン酸を用いた。
ヒアルロン酸は、低分子量ヒアルロン酸(分子量8,000~10,000)と、高分子量ヒアルロン酸(分子量500,000~800,000)の2種類から選択した。
また、作製例5、6では、それぞれ添加剤としてポリグルタミン酸(分子量約400,000)、デキストラン(分子量50,000~70,000)を添加した。
以下、具体的にゲルの作製、液体注入実験及びせん断応力測定について説明するが、表1~2、4、5、7~10にはゲルの組成と併せて液体注入実験の結果を○、△、×で示す。
○は液体の滞留あり(液戻り及び液漏れなし)、△は滞留しているが気泡や白濁で観察精度が低い、×は滞留なし(液戻りや液漏れあり)を示し、詳細については後述する。
【0021】
[作製例1]
表1に示す濃度となるようにゼラチンを純水22.5mlに添加し、45℃の温浴中で加温しながら撹拌して溶解し、純水7.5mlに溶解させたEDC及びNHSと均一になるように攪拌後、静置して気泡有りの単層ゼラチンゲル(以下、作製例1の気泡有りの単層ゼラチンゲルという)を作製した。
なお、EDC及びNHSはゼラチン溶液との混合後(総量30ml)、最終濃度がそれぞれ50mMになるように溶解させた。
【0022】
【0023】
[作製例2]
表2に示す濃度となるようにゼラチンを脱気した純水22.5mlに溶解し、脱気した純水7.5mlに溶解させたEDC及びNHSとゲル化が進行しだす直前まで超音波処理(45℃、37kHz)を行いながら撹拌し、その後常温で静置して気泡無しの単層ゼラチンゲル(以下、作製例2の単層ゼラチンゲルという)を製作した。
なお、EDC及びNHSはゼラチン溶液との混合後(総量30ml)、最終濃度がそれぞれ50mMになるように溶解させた。
【0024】
【0025】
[作製例3]
ゼラチンを脱気した純水22.5mlに10質量%となるように溶解し、脱気した純水7.5mlに溶解させたEDC及びNHSとゲル化が進行しだす直前まで超音波処理(45℃、37kHz)を行いながら撹拌し、その後常温で静置して気泡無しの単層ゼラチンゲル(以下、作製例3の単層ゼラチンゲルという)を製作した。
なお、EDC及びNHSは最終濃度がそれぞれ表3に示すようになるまで溶解させた。
【0026】
【0027】
[作製例4]
脱気した純水11.25mlに10質量%となるように溶解したゼラチンと、脱気した純水11.25mlに表4に示す濃度となるように溶解した低分子量又は高分子量ヒアルロン酸を均一になるように撹拌した。
その後、脱気した純水7.5mlに溶解したEDC及びNHSとゲル化が進行しだす直前まで超音波処理(45℃、37kHz)を行いながら撹拌し、その後常温で静置して気泡無しの単層ゼラチン/ヒアルロン酸混合ゲル(以下、作製例4の単層ゼラチン/ヒアルロン酸混合ゲルという)を製作した。
なお、EDC及びNHSはゼラチン溶液との混合後(総量30ml)、最終濃度がそれぞれ50mMになるように溶解させた。
【0028】
【0029】
[作製例5]
脱気した純水11.25mlに10質量%となるように溶解したゼラチンと、脱気した純水11.25mlに表6に示す濃度となるように溶解したポリグルタミン酸を均一になるように撹拌した。
その後、脱気した純水7.5mlに溶解したEDC及びNHSとゲル化が進行しだす直前まで超音波処理(45℃、37kHz)を行いながら撹拌し、その後常温で静置して気泡無しのポリグルタミン酸添加単層ゼラチンゲル(以下、作製例5のポリグルタミン酸添加単層ゼラチンゲルという)を製作した。
なお、EDC及びNHSはゼラチン溶液との混合後(総量30ml)、最終濃度がそれぞれ50mMになるように溶解させた。
【0030】
【0031】
[作製例6]
脱気した純水11.25mlに10質量%となるように溶解したゼラチンと、脱気した純水11.25mlに表5に示す濃度となるように溶解したデキストランを均一になるように撹拌した。
その後、脱気した純水7.5mlに溶解したEDC及びNHSとゲル化が進行しだす直前まで超音波処理(45℃、37kHz)を行いながら撹拌し、その後常温で静置して気泡無しのデキストラン添加単層ゼラチンゲル(以下、作製例6のデキストラン添加単層ゼラチンゲルという)を製作した。
なお、EDC及びNHSはゼラチン溶液との混合後(総量30ml)、最終濃度がそれぞれ50mMになるように溶解させた。
【0032】
【0033】
[作製例7]
ゼラチン濃度が、表7に示す上層と下層の濃度となるように二層ゲルを作製した。
具体的には、それぞれゼラチン濃度の異なる第1及び第2ゲル前駆溶液(各ゲル前駆溶液は、純水22.5mlに溶解した各濃度のゼラチンと、純水7.5mlに溶解させた最終濃度がそれぞれ50mMのEDC及びNHSを含む)を調製して脱気処理を行った後、まず第1ゲル前駆溶液(ゼラチン高濃度)をゲル作製容器に流し入れ、ゲル化を進行させて固化しきる直前に第2ゲル前駆溶液(ゼラチン低濃度)を重ねるように流し入れ、その後常温で静置して気泡無しの二層ゼラチンゲル(以下、作製例7の二層ゼラチンゲルという)を製作した。
なお、作製された二層ゼラチンゲルは、第1ゲル前駆溶液の固化層(ゼラチン高濃度)を上層として後述する液体注入実験を実施した。
【0034】
【0035】
[作製例8]
作製例7と同様の方法で、ゼラチン濃度が表8に示す濃度となるように気泡無しの二層ゼラチンゲル(以下、作製例8の二層ゼラチンゲルという)を製作した。
なお、作製例8では、第1ゲル前駆溶液がゼラチン低濃度、第2ゲル前駆溶液がゼラチン高濃度であり、作製された二層ゼラチンゲルは、第1ゲル前駆溶液の固化層(ゼラチン低濃度)を上層として後述する液体注入実験を実施した。
【0036】
【0037】
[作製例9]
作製例7と同様の方法で、上層がゼラチン30質量%と低分子量ヒアルロン酸1質量%の混合物、下層がゼラチン10質量%となるように気泡無しの二層ゼラチン/ヒアルロン酸混合ゲル(以下、作製例9の二層ゼラチン/ヒアルロン酸混合ゲル)を製作した。
【0038】
【0039】
[作製例10]
ゼラチン濃度が、表10に示す上層、中層及び下層の濃度となるように三層ゲルを作製した。
具体的には、作製例7と同様に、それぞれのゼラチン濃度の第1、第2及び第3ゲル前駆溶液を調製し脱気した後、ゲル作製容器に第1ゲル前駆溶液(ゼラチン30質量%)を流し入れ、ゲル化が進行し固化し始めたところで中層に当たる第2ゲル前駆溶液(ゼラチン10質量%)を流し入れ、中層のゲル化が進行してきたら下層に当たる第3ゲル前駆溶液(ゼラチン20質量%)をゆっくり流し入れ、その後常温で静置して気泡無しの三層ゼラチンゲル(以下、作製例10の三層ゼラチンゲルという)を製作した。
なお、ゲル化は、ゼラチンが高濃度であるほど早く固化が進行することから、高濃度のゲル前駆溶液から層を形成させる方が層の明確な境界が形成させやすく好ましい。
また、ゼラチンが低濃度である中層に高濃度のゲル前駆溶液を重ねる際は、層間が混ざらないように、固化をある程度進行させてから重ねるのがより好ましい。
【0040】
【0041】
[実験1]液体注入実験
50mlシリンジに着色水溶液(青色絵具:水=1:50)30mlを充填し、市販の無針注射器(噴射圧力3MPa)に装着した後、作製例1、2、4、5、7~10の各ゲルの平面に対し、垂直にシリンジを押し付けて着色水溶液を注入した。
各ゲルの注入直後の正面と、注入後にシリンジを平面から離間した後(以下、単に注入後という)の正面、側面及び平面を目視で観察し、液戻りや液漏れの有無、液体(着色水溶液)が滞留しているか否かを確認した。
各ゲルの液体注入実験結果を、表1、2、4、5、7~10に示す。
【0042】
例として、
図1に作製例2の単層ゼラチンゲルについて、その注入後の正面及び側面の写真を示す。
図1中、比較例4~7(ゼラチンが5質量%~12.5質量%)のように液戻りや液漏れがあって液体が滞留できていないゲルを×とした。
また、実施例7~11(ゼラチンが15質量%~25質量%)のように液戻り及び液漏れがなく液体が滞留できているゲルを○とし、滞留できているが気泡や白濁により観察しにくいゲルを△とした。
多層ゲルについては、例として、
図2に実施例22(作製例7の二層ゼラチンゲルの一例)、
図3に実施例35(作製例9の二層ゼラチン/ヒアルロン酸混合ゲル)の注入後の正面写真を示し、さらに
図4に実施例36(作製例10の三層ゼラチンゲル)について、その注入前及び注入直後の正面、注入後の平面、正面、側面及び拡散断面の写真を示す。
なお、多層ゲルにおける平面とは、上層の上面をいう。
【0043】
さらに、液体注入実験における注入後の正面写真から各浸潤評価パラメータを求めた。
浸潤評価パラメータは、ゲル内部に滞留した液体、すなわち液戻りや液漏れがなく滞留した液体(以下、単に滞留液体という)について、注入面(各ゲルの平面)から滞留液体の底部までの最大距離を「最大浸潤深さ」とし、注入面から滞留液体の略中心までの距離を「拡散中心深さ」、滞留液体の最大横幅を「拡散幅」とした。
図5~8に、作製例2、作製例4の一部(低分子量ヒアルロン酸を混合した例)、作製例5、作製例8の一部(下層がゼラチン15質量%である例)について、各浸潤評価パラメータを示す。
なお、各図中、(a)最大浸潤深さ、(b)拡散中心深さ、(c)拡散幅について示すが、「●」が滞留液体の浸潤評価パラメータ値である。
「▲」は参考値として、投与した液体が液漏れした比較例について、注入面からゲル内部を移動した液体の最大距離(例えば、単層ゲルの平面から底面までゲル内部を液体が貫通した場合には層の厚みと一致する)、注入面からゲル内部を移動した液体の略中心までの距離、注入面からゲル内部を移動した液体の最大横幅を示す。
【0044】
[実験2]せん断応力測定
作製例2~6の各ゲルに対して、そのせん断応力を分解能0.01Nのデジタルフォースゲージで測定した。
具体的には、2~3mmの厚さに切り出した各ゲルをステージ上に固定し、フォースゲージのロッド(直径6mm)を垂直に下ろして貫通させ、その過程の最大荷重を測定し、最大荷重をせん断面積で除してせん断応力を算出した。
なお、複数回の測定を行って平均を求めた。
各ゲルのせん断応力測定結果を、
図9~13に示す。
【0045】
作製例1の気泡有りの単層ゼラチンゲルについて、表1に液体注入実験結果を示す。
ゼラチンが低濃度である比較例1~3(ゼラチン5質量%~10質量%)では液体がゲル内部に留まることなく漏れ出たが、これよりもゼラチン濃度の高い実施例1~6(ゼラチン12.5質量%~25質量%)ではゲル内部で2次元の拡がりが観察され、液体が滞留していた。
ただし、ゼラチンが高濃度である実施例5、6(ゼラチン22.5質量%~25質量%)では、ゲル内部の気泡と白濁によりやや観察がしにくかった。
【0046】
一方、無気泡である作製例2の単層ゼラチンゲルは、表2及び
図1に示すようにゼラチンが低濃度である比較例4~7(ゼラチン5質量%~12.5質量%)では液体が漏れ出たが、これよりもゼラチン濃度が高い実施例7~11(ゼラチン15質量%~25質量%)では液体が滞留し、ゼラチンが高濃度である実施例10、11においても液体の浸透観察に特に問題はなかった。
作製例2の各ゲルについて、
図5に各浸潤評価パラメータを示す。
液体が滞留した実施例7~11(ゼラチン15質量%~25質量%)のうち、
図5(a)に示すように最大浸潤深さが他よりも低い実施例8,11(ゼラチン17.5質量%、25質量%)は、
図5(c)に示すように拡散幅が他よりも高かった。
これは液体注入の手技によるものと考えられる。
このように浸潤評価パラメータを確認することで、例えば医療用ロボットの操作による液体注入操作の習得可否も判断可能である。
また、せん断応力測定の結果は
図9に示すように、ゼラチン濃度が高くなるにつれてゲルのせん断応力値が概ね指数関数的に増加した。
この傾向はゲル化現象の強弱を表しているものと考えられる。
例えば、液体が滞留した実施例7~11(ゼラチン15質量%~25質量%)は、せん断応力が約50kPa~110kPaで、豚の腎臓や肝臓のせん断応力値におよそ等しく、臓器の弾力性に近いゲルが作製できた。
【0047】
ゲル化剤の濃度によるせん断応力への影響を確認するために、作製例3の単層ゼラチンゲルを作製し、そのせん断応力を測定した。
具体的には、表3に示すようにゼラチンを10質量%とし、ゲル化剤であるEDC、NHSの各濃度を10mM~82.5mM(EDC、NHSが各0.2質量%~1.65質量%)から選択し、作製した各単層ゼラチンゲルのせん断応力測定をした。
その結果を、
図10に示す。
図10から、ゲル化剤であるEDC、NHSが各10mM~40mM(各0.2質量%~0.8質量%)ではゲル化剤濃度が低いほどせん断応力値が高く、EDC、NHSが各47.5mM~82.5mM(各0.95質量%~1.65質量%)ではせん断応力値がおよそ一定であった。
このことから、ゲル化剤の濃度によっても好ましいゲルの弾力性を選択できることがわかる。
【0048】
作製例4の単層ゼラチン/ヒアルロン酸混合ゲルは、表4に示すようにゼラチンを10質量%とし、これに各濃度の低分子量又は高分子量ヒアルロン酸を混合して各単層ゲルを作製してある。
まず、低分子量ヒアルロン酸を混合した場合、ヒアルロン酸が低濃度である比較例8~10(ゼラチン10質量%+低分子量ヒアルロン酸0.1質量%~1質量%)では、ゼラチン単独である比較例6(ゼラチン10質量%)のように液体が漏れ出た一方で、ヒアルロン酸を高濃度にした実施例12~15(ゼラチン10質量%+低分子量ヒアルロン酸3質量%~10質量%)では液体が滞留した。
このことから、ヒアルロン酸を含有することでゲルの保水効果が増強することがわかる。
低分子量ヒアルロン酸を混合した各ゲルについて、
図6に各浸潤評価パラメータを示す。
液体が滞留した実施例12~15は、
図6(a)、(b)に示すように最大浸潤深さや拡散中心深さがほぼ等しいことから、無針注射器による注入操作にバラツキがなく、操作が安定していることがわかる。
図6(c)に示すように拡散幅にはややバラツキがあったが、これはヒアルロン酸の保水効果のほかに、ヒアルロン酸とゼラチンとの網目形成等に起因したゲルの弾力性の影響も考えられる。
また、せん断応力測定の結果は
図11(a)に示すとおりであり、実施例12~15はせん断応力が約50kPa~80kPaで、ゼラチン単独である比較例6よりも値が高く、ヒアルロン酸3質量%で最もせん断応力が高かった。
一方、高分子量ヒアルロン酸を混合した場合、表4に示すように高分子量ヒアルロン酸0.1質量%~1質量%である比較例11~13のいずれにおいても、液体が漏れ出るとともに、
図11(b)に示すようにせん断応力値が比較例6と同等又はそれよりも低く、ヒアルロン酸2質量%以上ではゼラチンとヒアルロン酸が分離して混合層を作製できなかった。
このことから、ゼラチンにヒアルロン酸を加えることで保水効果が増強し、ゲルの強度増加も可能であるが、一定以上加え過ぎると高分子同士が相溶せずに強度低下を招き、高分子量体であればより相分離を起こしてしまうため、ヒアルロン酸は低分子量体が好ましい。
【0049】
作製例5のポリグルタミン酸添加単層ゼラチンゲルは、表5に示すようにゼラチンを10質量%とし、これに各濃度のポリグルタミン酸を混合してある。
図7に、各浸潤評価パラメータを示す。
ポリグルタミン酸が低濃度(0.1質量%~1質量%)である比較例14~16では、ゼラチン単独である比較例6のように液体が漏れ出た一方で、ポリグルタミン酸を高濃度(3質量%~5質量%)混合した実施例16,17では液体が滞留した。
また、
図12にせん断応力測定結果を示すが、ポリグルタミン酸濃度によってせん断応力に大きな差はみられなかった。
このことから、添加剤を混合することでゲルのせん断応力に影響を与えずに、ゲルの保水効果を増強可能なことがわかる。
【0050】
一方で、作製例6のデキストラン添加単層ゼラチンゲルについて、せん断応力測定結果を
図13に示すが、デキストランを添加した場合には低濃度(0.1質量%~0.5質量%)である参考例12,13は透明なゲルであったが、添加濃度が高くなるにつれて白濁し、せん断応力も低くなった。
このことから、ゲルには細胞タンパク質、繊維タンパク質、多糖類等の添加剤を含めてもよいが、ゲルの透明性や弾力性等に注意が必要である。
【0051】
次に、多層ゲルについて、作製例7の二層ゼラチンゲルは、表7に示すように天然高分子濃度が下層よりも上層が高い例である。
下層がゼラチン5質量%である比較例17、19は、上層の濃度にかかわらず、内部で液溜りすることなく液体が漏れ出た。
これは高濃度の上層で注入速度が減速するものの、下層が柔らかいために液体が貫通(液漏れ)してしまったと考えられる。
実施例18~20(上層がゼラチン20質量%で、下層がゼラチン7.5質量%~12.5質量%)では下層で大きな拡散様相が、これよりも上層が高濃度である実施例21~22(上層がゼラチン30質量%で、下層がゼラチン7.5質量%~10質量%)では、
図2に示すように下層で小さな拡散様相が確認できた。
これは、上層のゼラチン濃度が高いことで上層が硬くなり、注入速度の減速が影響して下層における液体の滞留が小さくなったと考えられる。
これらは、上層が蓋の役割を担ったことで液体の逆流を防止した可能性があるものの、下層のゼラチン濃度が高い比較例18(上層がゼラチン20質量%で、下層がゼラチン15質量%)、比較例20~21(上層がゼラチン30質量%で、下層がゼラチン12.5質量%~15質量%)では液戻りがみられた。
このことから、上層がゼラチン17.5質量%~33質量%である場合には、下層はゼラチン7質量%~13質量%が好ましく、7質量%~11質量%がより好ましい。
【0052】
作製例8の二層ゼラチンゲルは、表8に示すように下層濃度が上層よりも高い例である。
実施例23~26は下層がゼラチン15質量%で、上層がゼラチン5質量%~12.5質量%であり、いずれも液体が滞留した。
これらについて、
図8に各浸潤評価パラメータを示す。
いずれも上層だけでなく下層まで液体が拡散したものの、最大浸潤深さ、拡散中心深さ及び拡散幅と、上層のゼラチン濃度との関係性について特異な結果となった。
上層のゼラチン濃度が下層に比べて低い場合、上層ゼラチン濃度の増加に伴い、浸潤深さや拡散幅が低下すると考えられ、上層がゼラチン10質量%まではそのような傾向が認められたが、12.5質量%では一転浸潤深さ・拡散幅が増加した。
これは、上層と下層が類似した濃度であるために、単一ゲルの時と同様な浸潤状態になるためと考えられ、単層ゼラチンゲルのゼラチン15.0質量%(実施例7)の液体浸潤状態とほぼ同等の結果であることからも、この考察が妥当であると考えられる。
一方、下層がゼラチン20質量%以上になると、いずれも下層まで液体が拡散せず、実施例27~34では上層に液体が滞留した。
これは上層で注入速度が減速し、高濃度の下層に侵入する圧力が足りなかった可能性がある。
【0053】
作製例9の二層ゼラチン/ヒアルロン酸混合ゲル(実施例35)は、表7に示す実施例22との相違点が、上層にさらに低分子量ヒアルロン酸を1質量%含む点であり、上層が下層よりも天然高分子濃度が高い例である。
図2,3に実施例22、35の注入後の正面写真を示すが、
図3に示すようにヒアルロン酸を含むことで、
図2の実施例22に比べて下層に液体が大きく拡散し滞留していた。
これはヒアルロン酸の保水効果等によるものと考えられる。
また、作製例10の三層ゼラチンゲル(実施例36)は、
図4に示すようにゼラチン濃度の低い中層に拡散様相がみられ、中層の上側に液体が滞留していた。
これは、中層よりも下層のゼラチン濃度が高いことが影響した可能性がある。
なお、実施例36は、他の実施例に比べて側面の拡散面積が大きかった。
【0054】
次に、製造例1~5の模擬臓器を製造した。
製造例1、2、5は心臓、製造例3は肝臓の体内形状、製造例4は肝臓の体外形状、葉開き状態の模擬臓器例である。
天然高分子として、ゼラチン(牛由来Viscosity3.5、分子量50,000~60,000)を用い、ゲル化剤として、製造例1~4はEDC(ペプチド研究所製)及びNHS(ナカライテスク製)を、製造例5はDMT-MM及びNMM(ナカライテスク製)を選択した。
【0055】
[モールドの作製]
製造例1、2、5は、パラホルムアルデヒドによって固定したラットの心臓を、製造例3は、樹脂製の幼児肝臓の体内形状のモデル臓器を、製造例4は、パラホルムアルデヒドで固定したブタの肝臓をモデルとした。
各モデル臓器の形状情報は、HandySCAN 700(CREAFORM製)を用いて取得し、STL(Standard Triangulated Language)形式にデータ変換後、3Dプリンタで光硬化性レジン製の各形状モールドを造形した。
なお、1つの形状モールド(一対の形状モールドのそれぞれ、3分割の形状モールドの3つそれぞれ)は、同一の物性や色を有する光硬化性レジンを用いて造形した。
造形後、各形状モールドの内面にCMBとBMAの共重合体(CMB/BMA=3/7)を溶解させたクロロホルム溶液(10w/v%)を塗布し、その後、真空乾燥によりクロロホルムを除去することで、CMB-BMA共重合体のコーティングを施した。
図14に、作製した形状モールドの内面側の写真を示す。
図14(a)に一対の心臓形状モールドを、(b)に内部モールドをそれぞれ配置した一対の心臓形状モールドを、(c)に3分割の肝臓の体内形状モールドを、(d)に1つの肝臓の葉開き形状モールドを示す。
なお、上記CMB-BMAの共重合体を溶解させたクロロホルム溶液は、一対の心臓形状モールドのそれぞれの内面に各1ml、3分割の肝臓の体内形状モールドの3つそれぞれの内面に各1.5ml、1つの肝臓の葉開き形状モールドの内面に2mlを、転写面全体に満遍なく塗布した。
本実施例の内部モールドは、3Dプリンタで造形した熱硬化性レジン製の略円柱形状の例であり、内部モールドの中心軸に直径約1mmの金属棒を貫通させてあり、
図14(b)に示すように各心臓形状モールドの略中央に内部モールドを配設した。
なお、内部モールドの表面にも、形状モールドと同様にCMB-BMA共重合体のコーティングを施した。
【0056】
[製造例1]
製造例1として、単層ゲル(ゼラチン10質量%、EDC及びNHS各50mM)で構成される心臓模擬臓器を製造した。
ゼラチン溶液として、ゼラチン10gを脱気した蒸留水90mlに添加して45℃の温浴中で溶解し、ゲル化剤溶液として、EDC・HCl958.5mg及びNHS575.5mgを脱気した蒸留水10mlに溶解した。
超音波処理(45℃、37kHz)を行いながらゼラチン溶液とゲル化剤溶液を約12~14秒攪拌し、
図14(a)に示す心臓形状モールドの一方に全量100mlを流し込んで常温で約5~10分静置後、さらに4℃において15分静置させてゲル化した。
同様に、心臓形状モールドの他方にも、ゼラチン溶液とゲル化剤溶液の全量100mlを流し込んで常温で数分、さらに4℃で数分静置させてゲル化した。
一方の心臓形状モールドは、純水水浴中に浸漬させてゲルを離型した。
他方の心臓形状モールドは、4℃から常温に戻し、ゲル上に接続用ゲル液(ゼラチン1gを脱気した蒸留水9mlに溶解した液と、EDC・HCl95.85mg及びNHS57.55mgを脱気した蒸留水1mlに溶解した液の超音波処理攪拌液)10mlを重ねた後、空気が入らないように離型した一方のゲルを他方のゲルに合わせるように接続用ゲル液上に載せ、常温で約5~10分、さらに4℃で15分静置させてゲル化した。
他方の心臓形状モールドからゲルを離型することで、
図15に示すように一対のゲルを繋ぎ合わせた心臓模擬臓器を得た。
【0057】
図15は、同じ心臓模擬臓器を別の角度から撮影した2枚の写真である。
2枚の写真に示すように、心臓形状モールドからゲルを欠損無く離型できており、形状モールドに転写された心臓の微細な表面形状をほぼ忠実に再現できた。
得られた心臓模擬臓器のせん断応力を測定(実験2と同様の方法でランダムに10点測定)したところ、せん断応力は37.8±2.8kPaで、ヒト心臓の力学強度(約35kPa)をおよそ再現できていた。
また、強度誤差は8%以下であり、およそ均一な力学強度を有する透明な模擬臓器を製造できた。
【0058】
[製造例2]
製造例2として、二層ゲル(外層:ゼラチン10質量%、EDC及びNHS各50mM、内層:ゼラチン22.5質量%、EDC及びNHS各50mM)で構成される心臓模擬臓器を製造した。
製造例1と同様の方法で、超音波処理を行いながらゼラチン溶液とゲル化剤溶液を攪拌して外層ゲル液を作製し、
図14(b)に示すように内部モールドを配置した心臓形状モールドの一方に外層ゲル液75mlを流し込んで常温で約5~10分静置後、さらに4℃において15分静置させてゲル化した。
外層ゲル液のゲル化後、内部モールドを取り外した。
内層ゲル液は、ゼラチン11.25gを脱気した蒸留水45mlに溶解したゼラチン溶液と、EDC・HCl479.25mg及びNHS287.75mgを脱気した蒸留水5mlに溶解したゲル化溶液を、超音波処理(45℃、37kHz)を行いながら約8~10秒攪拌して作製し、内部モールドを除去した部分に内層ゲル液25mlを流し込んで常温で約5~10分静置後、さらに4℃で15分静置させてゲル化した。
同様に、内部モールドを配置した心臓形状モールドの他方にも、外層ゲル液75mlをゲル化した後、内部モールドを取り外した部分に内層ゲル液25mlを流し込んでゲル化した。
一方の心臓形状モールドは、純水水浴中に浸漬させてゲルを離型した。
他方の心臓形状モールドは、4℃から常温に戻し、ゲル上に製造例1と同様の接続用ゲル液10mlを重ねた後、空気が入らないように離型した一方のゲルを他方のゲルに合わせるように接続用ゲル液上に載せ、常温で数分、さらに4℃で数分静置させてゲル化した。
他方の心臓形状モールドからゲルを離型することで、
図16に示すように一対のゲルを繋ぎ合わせた心臓模擬臓器を得た。
【0059】
図16は、同じ心臓模擬臓器を別の角度から撮影した2枚の写真である。
写真では、光が乱反射するために内層と外層の存在が分かりにくいが、右の写真に示すように、略中央に内層である高濃度のゼラチンゲルが濃い色となって見える。
この心臓模擬臓器を文化包丁で切断し、内層部分をランダムに4点測定したせん断応力は102±1.3kPaで、外層部分をランダムに5点測定したせん断応力は33.2±1.9kPaであった。
これは、実験2にて、作製例2の単層ゼラチンゲルのせん断応力を測定した結果である
図9(ゼラチン濃度がそれぞれ10質量%、22.5質量%)と同様の結果である。
また、作製例8にて、実施例29、33(上層がゼラチン10質量%、下層がゼラチン20質量%又は30質量%)の二層ゼラチンゲルを作製し、実験1にて、実施例29,33に液体注入実験をしたところ、上層に液体が滞留したことから、本実施例の心臓模擬臓器に対して実験1と同様の液体注入実験をすると、外層に液体が滞留すると想定される。
本実施例により、内外の弾力性の異なる多層構造ゲルの模擬臓器が作製可能であることがわかる。
【0060】
[製造例3]
製造例3として、単層ゲル(ゼラチン15質量%、EDC及びNHS各50mM)で構成される体内形状の肝臓模擬臓器を製造した。
本実施例は、
図14(c)に示す3分割の肝臓の体内形状モールドを使用した。
便宜上、
図14(c)の右側から右モールド、中央モールド、左モールドという。
中央モールドは、ゲル液が右モールド及び左モールドの内面に流れ込めるように貫通しており、本実施例では、中央モールドと左モールドを互いに重ね、その接続部をビニールテープで固定して形状モールドの他方とした。
ゼラチン22.5gを脱気した蒸留水130mlに溶解したゼラチン溶液と、EDC・HCl1.44g及びNHS863.3mgを脱気した蒸留水20mlに溶解したゲル化剤溶液を、超音波処理(45℃、37kHz)を行いながら約10~12秒攪拌してゲル液を作製し、形状モールドの一方(右モールド)に50ml、他方(中央モールドと左モールド)に100mlを流し込んで、それぞれ常温で約5~10分静置後、さらに4℃で15分静置させてゲル化した。
一方の形状モールドは、純水水浴中に浸漬させてゲルを離型した。
他方の形状モールドは、4℃から常温に戻し、ゲル上に接続用ゲル液(ゼラチン1.5gを脱気した蒸留水9mlに溶解した液と、EDC・HCl95.85mg及びNHS57.55mgを脱気した蒸留水1mlに溶解した液の超音波処理攪拌液)10mlを重ねた後、空気が入らないように離型した一方のゲルを他方のゲルに合わせるように接続用ゲル液上に載せ、常温で数分、さらに4℃で数分静置させてゲル化した。
他方の形状モールドからゲルを離型することで、
図17に示すように一対のゲルを繋ぎ合わせた体内形状の肝臓模擬臓器を得た。
【0061】
図17は、同じ肝臓模擬臓器を別の角度から撮影した3枚の写真である。
3枚の写真に示すように、幼児肝臓の体内形状が再現された均一な透明性を有する肝臓模擬臓器が得られた。
得られた肝臓模擬臓器は、ランダムに10点のせん断応力を測定したところ、53.2±3.8kPaであった。
これは、
図9に示すゼラチン15質量%の結果と同様で、ヒト肝臓の力学強度と同様の強度を有している。
【0062】
[製造例4]
製造例4として、単層ゲル(ゼラチン15質量%、EDC及びNHS各50mM)で構成される体外形状、葉開き状態の肝臓模擬臓器を製造した。
本実施例は、
図14(d)に示す1つの形状モールドを使用した。
製造例3と同様の方法で、超音波処理を行いながらゼラチン溶液とゲル化剤溶液を攪拌してゲル液を作製し、形状モールドの内面にゲル液150mlを流し込んで常温で約5~10分静置後、さらに4℃において15分静置させてゲル化した。
純水水浴中に浸漬させて形状モールドからゲルを離型し、
図18に示すように葉開き形状の肝臓模擬臓器を得た。
【0063】
図18は、同じ肝臓模擬臓器を別の角度から撮影した2枚の写真である。
得られた肝臓模擬臓器ゲルに対し、ランダムに10点測定したせん断応力は52.3±1.9kPaで、目標値通りの力学強度と均一な透明性を有しており、表面形状は形状モールドで転写した肝臓形状が再現されていた。
【0064】
[製造例5]
製造例5として、単層ゲル(ゼラチン10質量%、DMT-MM50mM及びNMM20mM)で構成された心臓模擬臓器を製造した。
製造方法は、製造例1と同様であるが、ゲル化剤溶液として、EDC及びNHSの代わりに、DMT-MM276.72g/mol(1.38質量%)及びNMM101.2g/mol(0.02質量%、0.92g/cm3)を用いた。
【0065】
得られた心臓模擬臓器は、製造例1とゲル化剤を変更しても、せん断応力が35.1±3.1kPaで、同様の力学強度を有する透明で表面形状の再現性に優れた模擬臓器であった。
なお、同様に、製造例2~4と同様の方法で、ゲル化剤溶液として、EDC及びNHSの代わりに、DMT-MM50mM及びNMM20mMを用いた各模擬臓器を製造したところ、製造例2~4と同様の力学強度、透明性を有する模擬臓器が得られた。