(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031965
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】マイクロカプセルの製造方法及びマイクロカプセル
(51)【国際特許分類】
B01J 13/20 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
B01J13/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023137076
(22)【出願日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2022133994
(32)【優先日】2022-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名:第60回化学関連支部合同九州大会実行委員会、刊行物名:第60回化学関連支部合同九州大会講演予稿集、発行年月日:令和5年7月1日 集会名:第60回化学関連支部合同九州大会、開催日:令和5年7月1日
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(71)【出願人】
【識別番号】508156041
【氏名又は名称】株式会社MCラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(72)【発明者】
【氏名】塩盛 弘一郎
(72)【発明者】
【氏名】スフバートル バトチュルン
(72)【発明者】
【氏名】松根 英樹
(72)【発明者】
【氏名】幡手 泰雄
【テーマコード(参考)】
4G005
【Fターム(参考)】
4G005AA01
4G005AB09
4G005BA12
4G005BA17
4G005BB06
4G005BB24
4G005DC15W
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4G005DD57Z
4G005DE01X
4G005DE02X
4G005DE02Z
(57)【要約】
【課題】シェルを製造後でも、効果的にコア材をシェルに内包させ得るマイクロカプセルの製造方法及びマイクロカプセルを提供する。
【解決手段】マイクロカプセルの製造方法は、コア及びコアを内包するシェルから構成されるマイクロカプセルの製造方法であって、シェルの空隙に揮発性有機溶媒を充填する工程と、シェルをコア材に浸漬させ、揮発性有機溶媒の揮発に伴う圧力差によってシェルの空隙にコア材を内包させる工程と、を含む。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア及び前記コアを内包するシェルから構成されるマイクロカプセルの製造方法であって、
前記シェルの空隙に揮発性有機溶媒を充填する工程と、
前記シェルをコア材に浸漬させ、前記揮発性有機溶媒の揮発に伴う圧力差によって前記シェルの空隙に前記コア材を内包させる工程と、を含む、
ことを特徴とするマイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
前記揮発性有機溶媒としてメタノール又はエタノールを用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
前記コア材として親水性物質を用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロカプセルの製造方法。
【請求項4】
前記コア材として疎水性物質を用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロカプセルの製造方法。
【請求項5】
乾燥状態の前記シェルを前記揮発性有機溶媒中に分散させ、任意の時間間隔で下層に沈降した前記シェルを分画し、
分画した前記シェルを前記コア材に浸漬させる、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のマイクロカプセルの製造方法。
【請求項6】
コア及び前記コアを内包するシェルから構成されるマイクロカプセルであって、
前記シェルが疎水性物質から構成され、前記コアが親水性物質から構成されており、
前記シェルの空隙への前記コアの内包率が80%以上である、
ことを特徴とするマイクロカプセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセルの製造方法及びマイクロカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
香料や染料、医薬品、潜熱蓄熱材等、様々な分野において、製品の安定性や寿命の向上、取り扱い性の簡便化、放出性のコントロールなどを目的に、マイクロカプセルが広く利用されている。マイクロカプセルの製造では、パンコーティング法等の物理的手法、イオンゲル化法等の物理化学的手法、界面重合法等の化学的手法など、多岐に渡っている。
【0003】
また、コアをシェル材で被覆してマイクロカプセルを製造する方法のほか、シェルを製造した後にコア材をシェルに内包させる方法(例えば、特許文献1)もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シェルを製造後にコア材を内包させる場合、シェルの壁を透過させてコア材を充填することが困難である。特に、疎水性のシェルに親水性のコア材を内包させる際に顕著である。
【0006】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、シェルを製造後でも、効果的にコア材をシェルに内包させ得るマイクロカプセルの製造方法及びマイクロカプセルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点に係るマイクロカプセルの製造方法は、
コア及び前記コアを内包するシェルから構成されるマイクロカプセルの製造方法であって、
前記シェルの空隙に揮発性有機溶媒を充填する工程と、
前記シェルをコア材に浸漬させ、前記揮発性有機溶媒の揮発に伴う圧力差によって前記シェルの空隙に前記コア材を内包させる工程と、を含む、
ことを特徴とする。
【0008】
また、前記揮発性有機溶媒としてメタノール又はエタノールを用いてもよい。
【0009】
また、前記コア材として親水性物質を用いてもよい。
【0010】
また、前記コア材として疎水性物質を用いてもよい。
【0011】
また、乾燥状態の前記シェルを前記揮発性有機溶媒中に分散させ、任意の時間間隔で下層に沈降した前記シェルを分画し、
分画した前記シェルを前記コア材に浸漬させてもよい。
【0012】
本発明の第2の観点に係るマイクロカプセルは、
コア及び前記コアを内包するシェルから構成されるマイクロカプセルであって、
前記シェルが疎水性物質から構成され、前記コアが親水性物質から構成されており、
前記シェルの空隙への前記コアの内包率が80%以上である、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シェルを製造後でも、効果的にコア材をシェルに内包させ得るマイクロカプセルの製造方法及びマイクロカプセルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】揮発性交換含浸法によるコア材の内包メカニズムを示す図である。
【
図2】
図2(A)、(B)は、モノコア優位シェル群の分画前のシェルの粒径分布を示すグラフ、分画前のシェルの写真である。
【
図3】
図3(A)、(B)は、モノコア優位シェル群をメタノールに浸漬して分画した時の沈降時間に伴う重量分布グラフ、各時間での分画後の粒径分布グラフである。
【
図4】
図4(A)、(B)、(C)、(D)は、モノコア優位シェル群の1時間画分の写真、24時間画分の写真、48時間画分の写真、168時間画分の写真である。
【
図5】
図5(A)、(B)、(C)、(D)は、モノコア優位シェル群の1時間画分の粒径分布グラフ、24時間画分の粒径分布グラフ、48時間画分の粒径分布グラフ、168時間画分の粒径分布グラフである。
【
図6】
図6(A)、(B)は、マルチコア優位シェル群の分画前のシェルの粒径分布を示すグラフ、分画前のシェルの写真である。
【
図7】
図7(A)、(B)は、マルチコア優位シェル群をメタノールに浸漬して分画した時の沈降時間に伴う重量分布グラフ、各時間での分画後の粒径分布グラフである。
【
図8】
図8(A)、(B)、(C)、(D)は、マルチコア優位シェル群の1時間画分の写真、24時間画分の写真、48時間画分の写真、168時間画分の写真である。
【
図9】
図9(A)、(B)、(C)、(D)は、マルチコア優位シェル群の1時間画分の粒径分布グラフ、24時間画分の粒径分布グラフ、48時間画分の粒径分布グラフ、168時間画分の粒径分布グラフである。
【
図10】
図10(A)、(B)、(C)、(D)は、24時間画分のDirect群のパラフィン内包分布、24時間画分のVEI群のパラフィン内包分布、168時間画分のDirect群のパラフィンの内包分布、168時間画分のVEI群のパラフィン内包分布を示すグラフである。
【
図11】
図11(A)、(B)、(C)、(D)は、24時間画分のDirect群の塩水和物内包分布、24時間画分のVEI群の塩水和物内包分布、168時間画分のDirect群の塩水和物の内包分布、168時間画分のVEI群の塩水和物内包分布を示すグラフである。
【
図12】パラフィン内包マイクロカプセルのDSC曲線を示すグラフである。
【
図13】塩水和物内包マイクロカプセルのDSC曲線を示すグラフである。
【
図14】
図14(A)、(B)は、それぞれメタノールにシェルを加えた直後の沈殿物、浮上物質の写真である。
【
図15】浸漬時間とLIX-84i内包量の関係を示すグラフである。
【
図16】LIX-84i内包マイクロカプセルの写真である。
【
図17】
図17(A)、(B)は、それぞれ銅抽出前、銅抽出後のマイクロカプセルの状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、「シェル」とは、マイクロカプセルの壁をいい、「コア」とは、マイクロカプセルのシェルに内包される部分をいう。また、シェルを形成するための壁材料を「シェル材」という。また、コアに含まれる成分を総称して「コア材」という。
【0016】
本実施の形態に係るマイクロカプセルの製造方法は、コア及びコアを内包するシェルから構成されるマイクロカプセルの製造方法であり、シェルの空隙に揮発性有機溶媒を充填する工程と、シェルをコア材に浸漬させ、揮発性有機溶媒の揮発に伴う圧力差によって空隙にコア材を充填する工程と、を含む。
【0017】
(シェルの空隙に揮発性有機溶媒を充填する工程)
シェルの空隙に揮発性有機溶媒を充填する工程では、シェルを揮発性有機溶媒に浸漬させることにより、シェルの空隙に揮発性有機溶媒を充填する。
【0018】
シェル材として、マイクロカプセルのシェルを形成可能であれば制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリメタクリル酸メチル、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ワックス、油脂などが挙げられる。また、シェルの構造は、単核型構造のシェル、多核型構造のシェルを問わず用いることができる。
【0019】
揮発性有機溶媒は、シェル材を溶解しないものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類が挙げられる。
【0020】
(空隙にコア材を充填する工程)
揮発性有機溶媒を充填させたシェルを、コア材に浸漬させることでシェルの空隙にコア材を充填する。
図1の揮発性交換含浸法によるコア材の内包メカニズムに示しているように、揮発性有機溶媒がシェルの内部から蒸発する際に、シェルの内部に圧力差が生じ、この圧力差によって、コア材がシェルの内部に注入され、内包されることになる。
【0021】
シェルに揮発性有機溶媒を充填せずに、コア材に直接含浸させる場合に比べ、短い時間でシェルにコア材が注入されるとともに、コア材の充填率を高めることが可能である。
【0022】
また、コア材は、疎水性物質でも親水性物質でも可能である。通常、疎水性材料からなるシェルの場合、親水性のコア材をシェルの空隙に充填することは困難であるが、親水性のコア材であっても、効果的に充填することができる。このため、後述の実施例にも示すように、シェル材が疎水性物質、コア材が親水性物質の組み合わせにおいても、シェルの空隙へのコアの内包率が80%以上をなし得ることも可能である。
【0023】
なお、シェル材とコア材の組み合わせについては、製造するマイクロカプセルの用途に応じて適宜選択して用いればよい。
【0024】
本実施の形態に用いるシェルは、任意の製造方法で得られたシェルを用いればよいが、一例として、下記のように、S/O懸濁液、S/O/Wエマルションから製造したシェルを用いてもよく、更に、分画したシェルを用いることが好ましい。
【0025】
(S/O懸濁液の調製)
下記のS相及びO相を混合、攪拌することでS/O懸濁液を調製する。攪拌には、汎用されている乳化分散機、例えばホモミキサー、ホモディスパー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、高圧乳化分散装置、コロイドミル、超音波乳化機、膜乳化機等を用いることができる。
【0026】
S相は、シェルの空隙を形成させるためのものであり、後の工程にてシェルから排出可能な水溶性塩が用いられる。水溶性塩として、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、グルコース、硫酸ニッケル6水和物、ヨウ化カリウム等の水溶性の物質を用いることができる。
【0027】
また、O相は、シェルを形成するシェル材が溶媒に溶解されたものである。シェル材として、溶媒蒸発後にシェルを形成可能な物質であればよく、例えば、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリメタクリル酸メチル、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル等の高分子化合物、ワックス、油脂などが用いられる。また、溶媒として、シェル材を可溶な有機溶剤を用いることができ、例えば、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、トルエン、リモネン等が挙げられる。また、S相の物質によっては、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸、ソルビタントリオレアート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレアート等、適宜油溶性界面活性剤を添加してもよい。
【0028】
(S/O/Wエマルションの調製)
上記のS/O懸濁液と下記のW相とを混合し、攪拌することでS/O/Wエマルションを調製する。攪拌には、上述したホモジナイザー等を用いることができる。
【0029】
W相として、水、ポリエチレングリコール、グリセリンなどを用いることができる。また、分散安定剤を添加してもよい。分散安定剤は、一般的に分散安定剤として使用されているものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、アラビアゴムなどが挙げられる。また、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリグリセリンリシノレイン酸等が挙げられる。
【0030】
なお、S相とO相の配合比について、限定されるものではないが、例えば、体積比でS相:O相=1:99~50:50であることが好ましい。また、O相とW相の配合比についても適宜設定すればよく、例えば、体積比でO相:W相=5:95~50:50であることが好ましい。
【0031】
(シェルの製造)
上記のように調製したS/O/Wエマルションについて、液中乾燥法を行うことにより、シェルを製造することができる。S/O/Wエマルションを液中乾燥すると、O相のシェル材を溶解している有機溶媒が徐々に除去されつつ、シェル材がカプセル壁を形成し、S相の成分がO相のシェル材により包含されたシェル分散液が得られる。
【0032】
液中乾燥後、シェル分散液を濾過し、水で洗浄することによりS相を溶解して排出させた後、乾燥することでシェルが得られる。
【0033】
液中乾燥における撹拌速度は特に限定されないが、10~1000rpm(回転数)が好ましく、50~500rpmがより好ましい。また、液中乾燥の温度は特に限定されず、除去しようとする溶媒の沸点等を考慮して、適宜設定することができ、通常、10~60℃程度である。また、必要に応じて、減圧下にて液中乾燥を行ってもよい。また、液中乾燥を行う時間は特に限定されず、除去しようとする有機溶媒が除去されるまで行えばよい。通常、撹拌時間は10分~100時間程度である。
【0034】
(シェルの分画)
製造したシェルを揮発性有機溶媒に入れ、任意の時間間隔で沈降したシェルを分画する。分画は、分液漏斗等、公知の手法にて行うことができる。揮発性有機溶媒は、シェルを溶解しない溶媒を用いればよく、上述したメタノール、エタノール等のアルコール類を用いることができる。
【0035】
シェルの空隙に揮発性有機溶媒が含浸されてゆき、揮発性有機溶媒で満たされたシェルが順次沈降していく。沈降する速さは、シェルの粒径やシェルの壁厚等の構造によって相違する。粒径が小さいシェルでは、粒径が大きいシェルに比べ、早期に揮発性有機溶媒が含浸し、沈降することになる。また、壁厚が小さいシェルでは、壁厚が大きいシェルに比べ、早期に揮発性有機溶媒が含浸し、沈降することになる。
【0036】
このシェルの構造に基づく沈降速度の相違を利用し、任意の時間間隔で分画することにより、粒径分布の整ったシェル群、単核型構造のシェル群、多核型構造のシェル群など、同様の構造のシェル群を得ることができる。分画を行う時間間隔は、適宜設定すればよく、目的とするシェルの構造等により、適宜設定すればよい。
【0037】
なお、上記の分画を行うことで、上述したシェルの空隙に揮発性有機溶媒を充填する工程を併せて行うこともできる。
【実施例0038】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明をなんら制限するものではない。
【0039】
以下のようにシェルの製造、分画を行った後、シェルにコア材を内包させてマイクロカプセルを製造した。使用した試薬は以下の通りであり、いずれも富士フイルム和光純薬株式会社製を使用した。
・ポリビニルアルコール(重合度:約500) ・ポリスチレン(重合度:約20000) ・無水塩化カルシウム ・無水塩化ストロンチウム ・パラフィン(融点:42-44℃) ・メタノール ・1,2-ジクロロエタン
【0040】
(S/O懸濁液の調製)
ポリスチレン(8.76wt%)を1,2-ジクロロエタンに溶解させた溶液(O相)に、無水塩化カルシウム(S相)を加え、常温で一晩攪拌(300rpm)することにより、S/O懸濁液を調製した。
【0041】
(S/O/Wエマルションの調製)
界面活性剤としてPVA(0.05wt%)を添加した水(W相)に、S/O懸濁液(6.8wt)を加え、40℃で3分間攪拌(370rpm)することにより、S/O/Wエマルションを調製した。
【0042】
(シェルの製造)
S/O/Wエマルションを用い、液中乾燥法を行うことでシェルを製造した。具体的には、S/O/Wエマルションを40℃で8時間攪拌(370rpm)しつつ、7.2×102mmHgで溶媒蒸気を連続的に排出することにより、シェルを得た。得られたシェルを水で洗浄することで塩化カルシウム(S相)を消失させた。そして、吸引濾過を行った後、50℃で一晩乾燥させた。以上により、ポリスチレンを壁材料とするシェルを製造した。
【0043】
なお、以下のように原料の配合比を異ならせることにより、単核型構造が優位に存在するシェル(以下、モノコア優位シェル群)、及び、多核型構造が優位に存在するシェル(以下、マルチコア優位シェル群)をそれぞれ製造した。
・モノコア優位シェル群の製造では、S相/O相を0.142wt%とした。
・マルチコア優位シェル群の製造では、S相/O相を0.0002wt%とした。
【0044】
(シェルの分画)
調製したモノコア優位シェル群、及び、マルチコア優位シェル群をそれぞれメタノールに添加した。分液漏斗にて、所定の分画時間にて沈降しているシェルを分画した。分画時間は、開始からそれぞれ1時間(0~1時間)、24時間(1~24時間)、48時間(24~48時間)、72時間(48~72時間)、96時間(72~96時間)、120時間(96~120時間)、144時間(120~144時間)、168時間(144~168時間)とし、それぞれ分画した画分を1時間画分、24時間画分、48時間画分、72時間画分、96時間画分、120時間画分、144時間画分、168時間画分と記す。
【0045】
モノコア優位シェル群の分画前の粒径分布、及び、典型的な写真を
図2(A)、(B)にそれぞれ示す。また、それぞれの分画時間にて分離した画分の重量分布、及び、粒径分布を
図3(A)、(B)にそれぞれ示す。また、1時間画分、24時間画分、48時間画分、168時間画分の写真を
図4(A)-(D)にそれぞれ示す。また、1時間画分、24時間画分、48時間画分、168時間画分の粒径分布を
図5(A)-(D)にそれぞれ示す。なお、粒径分布は「Sukhbaatar BATCHULUUN et.al, "Preparation of Polystyrene Microcapsules Containing Saline Water Droplets via Solvent Evaporation Method and Their Structural Distribution Analysis by Machine Learning", Journal of Chemical Engineering of Japan, Vol. 54, No. 9, pp. 517-524, 2021」に記載の手法に基づいて求めたものである。
【0046】
分画時間が短い画分(1時間画分、24時間画分)では、多核型構造のシェルが存在しているが、分画時間が長い画分(168時間画分)では、ほとんどが単核型構造のシェルであった。
【0047】
小径のシェルのほとんどは24時間で分離されており、小径のシェルでは、メタノールが浸透しやすく、速やかに沈降していることがわかる。そして、分画時間が長くなるにつれて、大径のシェルの割合が高くなっている。
【0048】
このように、単核型構造が優位に存在するシェルについて、ふるい分け法を行うことなく分画が可能であるとともに、分画時間を調整することで、纏まった構造のマイクロカプセル群を得ることが可能である。
【0049】
マルチコア優位シェル群の分画前の粒径分布、及び、典型的な写真を
図6(A)、(B)にそれぞれ示す。また、それぞれの分画時間にて分離した画分の重量分布、及び、粒径分布を
図7(A)、(B)にそれぞれ示す。また、1時間画分、24時間画分、48時間画分、168時間画分の写真を
図8(A)-(D)にそれぞれ示す。また、1時間画分、24時間画分、48時間画分、168時間画分の粒径分布を
図9(A)-(D)にそれぞれ示す。
【0050】
24時間画分では、大径の単核型構造のシェルが含まれているが、その他の画分に含まれている単核型構造のシェルは小さかった。また、24時間画分を除き、粒径分布の形状は同様であった。
【0051】
(シェルへのコア材の内包)
製造したシェルを用いて、コア材として相変化材料を内包させて、潜熱蓄熱材として利用可能なマイクロカプセルを製造した。
【0052】
コア材として、疎水性物質であるパラフィン、及び、親水性物質である塩化ストロンチウム-塩化カルシウム複合体(以下、塩水和物と記す)を用いた。シェルは、モノコア優位シェル群の24時間画分と168時間画分を用いた。そして、以下のように直接含浸法及び揮発性交換含浸法によって、シェルの空隙にコアを内包させた。
【0053】
直接含浸法では、シェルをコア材(50℃)に2週間浸漬することで、コアをシェルの空隙に内包させた。これらをDirect群と記す。
【0054】
揮発性交換含浸法では、シェルをメタノールに浸漬して空隙にメタノールを充填した後、コア材(50℃)に24時間浸漬することで、コア材をマイクロカプセルの空隙に充填した。これらをVEI群と記す。また、コア材の内包率は、デジタル顕微鏡による観察に基づいて定めた。
【0055】
パラフィンを内包させた24時間画分のDirect群、及び、VEI群の内包分布を
図10(A)、(B)に示す。また、168時間画分のDirect群、及び、VEI群の内包分布を
図10(C)、(D)に示す。
【0056】
塩水和物を内包させた24時間画分のDirect群、及び、VEI群の内包分布を
図11(A)、(B)に示す。また、168時間画分のDirect群、及び、VEI群の内包分布を
図11(C)、(D)に示す。
【0057】
パラフィンの内包に関して、24時間画分の内包率がDirect群では71%、VEI群では91%であり、168時間画分の内包率がDirect群では15%、VEI群では81%であった。浸漬時間がDirect群の1/14に過ぎないVEI群の方が高く、特に、168時間画分において、内包率の差が顕著であった。168時間画分のシェルは、密なアモルファス構造をしており、Direct群では十分な毛管力が得られなかったと考えられる。しかし、このような毛管力が働きにくいシェルにおいても、VEI群ではパラフィンを効果的に内包させることができている。
【0058】
塩水和物の内包に関して、パラフィンに比べると全体的に内包率が低くなっており、特に、Direct群の24時間画分、168時間画分の内包率は、それぞれ8.9%、5.2%と低かった。コア材の塩水和物、シェル材のポリスチレンは、それぞれ親水性、疎水性であるため、接触角が大きくなり、塩水和物をシェルに引き込む毛管力が小さいためと考えられる。
【0059】
しかしながら、VEI群では24時間画分、168時間画分の内包率がそれぞれ84%、41%であり、Direct群に比較して非常に高かった。揮発性交換含浸法では、疎水性物質のシェル材と親水性物質のコア材との組み合わせであっても、効果的にシェルにコア材を内包させ得ることがわかる。
【0060】
(マイクロカプセルの相変化材料の特性評価)
製造したマイクロカプセルについて、蓄熱性能について検証した。蓄熱性能は、示差走査熱量計(DSC、DSCvesta、リガク株式会社)を用いて評価した。測定は、窒素雰囲気下で5℃min-1の加熱速度で12サイクル行った。
【0061】
パラフィン内包マイクロカプセルの結果を
図12に、また、塩水和物内包マイクロカプセルの結果を
図13に示す。いずれも温度変化に応じて発熱ピーク、吸熱ピークが現れており、製造したマイクロカプセルは、潜熱蓄熱材として利用可能であると言える。
【0062】
(シェルへのコア材の内包)
製造したシェルを用いて、コア材として銅イオンとキレート錯体を形成して抽出するヒドロキシオキシム系の抽出剤である2′-ヒドロキシ-5′-ノニルアセトフェノンオキシム(以下、LIX-84iと記す)を内包させて、抽出マイクロカプセルとして利用可能なマイクロカプセルを製造した。
【0063】
コア材として、疎水性物質であるLIX-84iを用いた。シェルは、モノコア優位シェル群のものを用いた。そして、以下のように直接含浸法(Direct群)及び揮発性交換含浸法(VEI群)によって、シェルの空隙にコアを内包させた。
【0064】
直接含浸法では、シェルをコア材(50℃)に2時間または12時間浸漬することで、コアをシェルの空隙に内包させた。
【0065】
揮発性交換含浸法では、シェルをメタノールに浸漬して空隙にメタノールを充填した後、コア材(50℃)に2時間または12時間浸漬することで、コア剤をマイクロカプセルの空隙に充填した。また、コア材の内包率は、コア材を内包させたマイクロカプセルを30mLのエタノールに12時間浸漬してLIX-84iを溶出させ、更にエタノールを加えて50mLにメスアップした。そして、紫外可視分光光度計を用い、410nmの吸光度を測定することで、溶出されたLIX-84iの濃度を測定した。LIX-84iの内包量は、測定したLIX-84iの濃度にエタノール体積の50mLを乗じ、浸漬したマイクロカプセルの質量で除することにより求めた。
【0066】
なお、揮発性交換含浸法において、シェルをメタノールに浸漬し、浸漬直後に沈殿したものと浮上したものを分液ロートにて分離した。浸漬直後の沈殿物の写真を
図14(A)に、浮上物質の写真を
図14(B)に示す。
【0067】
モノコアシェルに直接含浸法および揮発性交換含浸法でLIX-84iを内包した結果を
図15に示す。また、揮発性交換含浸法でマイクロカプセルを12時間浸漬させて得られたLIX-84i内包マイクロカプセルの写真を
図16に示す。LIX-84iの内包に関して、2時間浸漬した場合のLIX-84iの内包量がDirect群では0.18×10
-3mol/g-MC、VEI群では0.58×10
-3mol/g-MCであった。また、12時間浸漬した場合のLIX-84iの内包量がDirect群では0.50×10
-3mol/g-MC、VEI群では0.76×10
-3mol/g-MCであった。Direct群に比べ、VEI群の方がLIX-84iの内包量が高かった。特に、浸漬時間が2時間と短い場合において、Direct群に比べ、VEI群の内包率が約3倍高く、内包量の差が顕著であった。VEI群ではLIX-84iを短時間で効果的に内包させることができている。
【0068】
(マイクロカプセルによる銅の抽出)
製造したLIX-84i内包マイクロカプセルについて、銅の抽出能について検証した。銅の抽出能は、銅イオンを含む水溶液にLIX-84i内包マイクロカプセルを加えた。
【0069】
銅の抽出を開始した直後(銅抽出前)と3時間後(銅抽出後)のLIX-84i内包マイクロカプセルの写真を
図17(A)、(B)それぞれに示す。LIX-84i内包マイクロカプセルは、銅抽出前には白色であったが、3時間後には濃い暗緑色となった。また、銅抽出前の水溶液の色は、透明な薄い青緑色であったが、3時間後には無色透明になった。銅抽出後のLIX-84i内包マイクロカプセルの濃い緑暗色は、LIX-84iが銅イオンとキレート錯体を形成した錯体の色であることから、LIX-84i内包マイクロカプセルは銅イオンを抽出しており、銅抽出マイクロカプセルとして利用可能であると言える。