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  • 特開-石膏ボードの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031997
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】石膏ボードの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/02 20060101AFI20240229BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20240229BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20240229BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20240229BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20240229BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B05D1/02 Z
B05D7/00 F
B05D3/12 C
B05D1/28
B05D3/00 C
B05D3/12 D
B05D7/24 302A
B05D7/24 301G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023206670
(22)【出願日】2023-12-07
(62)【分割の表示】P 2023564103の分割
【原出願日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2022132659
(32)【優先日】2022-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000160359
【氏名又は名称】吉野石膏株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】新見 克己
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】内藤 大介
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AA57
4D075AA81
4D075AA83
4D075AA85
4D075AC12
4D075AC76
4D075AC91
4D075AC93
4D075AC94
4D075BB05Z
4D075BB08Z
4D075BB16X
4D075BB91Y
4D075CA47
4D075CA48
4D075EA06
4D075EA10
4D075EB01
(57)【要約】
【課題】石膏ボードの製造方法で得る石膏ボード製品を構成する原紙に生じるしわの発生を簡便な方法で化学物質を使用することなく効果的に抑制できる、実際の石膏ボードの連続製造プロセスに適用可能な技術を開発し、品質に優れた石膏ボードを歩留まりよく安定して製造できる技術の提供。
【解決手段】石膏ボード用原紙の上紙と下紙の間に石膏材料層を積層させた板状積層体を成型しながら搬送する工程を有し、該工程が、稼働する搬送成型ベルト上に下紙を配置させ、搬送されてくる下紙上に、石膏材料層の原料の石膏スラリーを連続して流し込み、成型機で、石膏スラリーの上に上紙を積層させて板状積層体を成型し、該板状積層体を搬送成型ベルトで粗切断機に搬送する一連の過程を有し、成型機の配置箇所と粗切断機の配置箇所との間で、該間の位置の1/4の位置或いは1/4の位置よりも上流の成型機側の位置で、上紙に水を噴霧又は塗布する石膏ボードの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上紙石膏ボード用原紙と下紙石膏ボード用原紙との間に石膏ボードの石膏材料層の原料である石膏スラリーを積層させた板状積層体を成型し、該板状積層体を成型しながら搬送する成型搬送工程を有する連続的な石膏ボードの製造方法において、
前記成型搬送工程が、成型機に連続的に送り込まれる前の前記下紙石膏ボード用原紙上に前記石膏スラリーを連続的に流し込み、成型機で、流し込まれた石膏スラリーの上に前記上紙石膏ボード用原紙を積層させて板状積層体を成型し、成型した板状積層体を搬送成型ベルトで粗切断機に搬送する一連の過程を有し、
前記成型機の配置箇所と前記粗切断機の配置箇所との間の位置であって、且つ、該間における上流側(成型機側)の1/4の位置或いは前記1/4の位置よりも上流の前記成型機側の位置で、前記上紙石膏ボード用原紙に、水を噴霧又は塗布することを特徴とする石膏ボードの製造方法。
【請求項2】
前記上紙石膏ボード用原紙及び前記下紙石膏ボード用原紙の坪量が、いずれも80~200g/mの範囲内である請求項1に記載の石膏ボードの製造方法。
【請求項3】
前記上紙石膏ボード用原紙の坪量が、前記下紙石膏ボード用原紙の坪量よりも5g/m~60g/m小さい請求項1又は2に記載の石膏ボードの製造方法。
【請求項4】
前記水の噴霧量又は塗布量が、2.0~200g/mの範囲内である請求項1又は2に記載の石膏ボードの製造方法。
【請求項5】
前記水の噴霧量又は塗布量が、2.0~200g/mの範囲内である請求項3に記載の石膏ボードの製造方法。
【請求項6】
前記搬送成型ベルトの搬送速度が、60m/分以上である請求項1又は2に記載の石膏ボードの製造方法。
【請求項7】
前記搬送成型ベルトの搬送速度が、60m/分以上である請求項3に記載の石膏ボードの製造方法。
【請求項8】
前記搬送成型ベルトの搬送速度が、60m/分以上である請求項4に記載の石膏ボードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石膏ボードを連続的に製造する石膏ボードの製造方法に関し、製造した石膏ボードを構成する原紙に生じる「しわの発生」を、簡便な方法で抑制した石膏ボード製品の提供を可能にする技術に関する。より詳しくは、本発明は、搬送ベルトとも呼ばれる搬送成型ベルト上で連続して石膏ボード製品を製造する際に、石膏ボードの生産性を高める目的で、従来に比較して搬送ベルトの速度を高めて高速で製造する場合や、或いは、石膏ボード用原紙に軽量紙を使用した場合などに、製造した石膏ボードの原紙に生じる傾向があった「しわの発生」を抑制し、製品歩留まりを向上させることができる石膏ボードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石膏ボードは、石膏を芯材として両面を石膏ボード用原紙で被覆し、板状に成型した内装材及び外装下地材であり、建築材料として非常に優れた特性を有していることから、第二次世界大戦後、急速に普及し、現在は広範に用いられている。石膏ボードは、下記のようにして製造することで、大量生産されている。まず、焼石膏と水で混練された石膏スラリーを、連続的に繰り出される、石膏ボード用原紙と呼ばれる下紙(石膏ボードの表紙)と上紙(石膏ボードの裏紙)との間に流し込み、板状に成型され、搬送ベルトで送られる間に石膏を硬化させ、その後、粗切断し、乾燥工程に移して余剰の水分を乾燥後、製品寸法に裁断されて連続製造されている。より具体的には、成型機に連続的に送り込まれる前の下紙石膏ボード用原紙上に石膏スラリーを連続的に流し込んで、スラリーを堆積させながら搬送し、さらに、成型機で、堆積させた堆積物に上紙石膏ボード用原紙を積層(被覆)してローラーや押し出し機等を通過させて、搬送ベルト上に連続した板状積層体を形成する。続いてこの連続した板状積層体を、所定の寸法に粗切断、強制乾燥して余剰の水分を乾燥させた後、所定の製品寸法に仕上げ切断する、とした一連の工程を経て連続的に製造されている。
【0003】
上記した製造工程において、形成された搬送ベルト上の連続した板状積層体は、乾燥されておらず石膏スラリーに由来する過剰の水分を保持している。このため、上記板状積層体を構成している石膏ボード用原紙は、この水分により湿潤された状態で搬送成型ベルト上に配置され、搬送されている。この状態で搬送されている石膏ボード用原紙が不均一な応力を受ける等すると、ときに石膏ボード用原紙の表面にチリメン状或いはスジ状のしわが発生することがあった。この場合、石膏ボード用原紙における「しわの発生」は、しわの程度によっては製品とならず不良品となる場合があるので、この「しわの発生」は製品の歩留まりに影響する重要な問題である。
【0004】
このようなしわ不良現象である、石膏ボード用原紙における「しわの発生」に対応するため、特許文献1では下記の提案がされている。具体的には、石膏ボードの製造の際に、石膏ボードの搬送成型ベルト上の石膏ボード用原紙の外表面或いはこれと接触する搬送成型ベルトの表面に、滑剤を塗布し、石膏ボード原紙の外表面に疎水性とすべり性をもたせることで、しわと紙むけの発生を同時に防止するという方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-82487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来技術は、石膏ボード用原紙の下紙と搬送ベルトとの界面に化学物質である滑剤(以下、「薬剤」という。)を塗布する必要があり、製造工程が煩雑になることに加えて、疎水性とすべり性を有する薬剤を用いることから、薬剤のコストがかかり、さらに下紙に薬剤が残留するといった問題がある。
【0007】
また、近年、使用する石膏ボード用原紙の新たな開発がなされ、軽量化が進んでいるものの、下記に述べるように「しわの発生」の問題があり、実用化が進んでいないという実情がある。さらに、より高い生産性が求められているが、本発明者らの検討によれば、石膏ボード製品に前記した「しわの発生」が増大する傾向がみられ、本発明者らは、「しわの発生」を抑制する技術の開発は急務であるとの認識をもった。
【0008】
石膏ボードは、大量に使用される内装建材及び外装下地材であり、耐火や防音や調湿等といった機能性材料でもあることから、構成材料の改良による製品の品質向上や、より高い生産性が求められている。例えば、石膏ボード製品に不可欠な石膏ボード用原紙においては、下記に説明するように軽量化の技術が進んでいる。従来の石膏ボード用原紙は、通常は坪量270~360g/m程度の板紙である。ここで、内装建材及び外装下地材である石膏ボードの表面側に用いられる原紙には、強度や平滑性、耐水性に優れる紙質が求められる。一方、石膏ボードの裏面側に用いられる原紙には、流し込まれた石膏スラリーによって形成される石膏層とよく密着するように、吸水性に富む多孔性の紙質であることが好ましいとされている。加えて、石膏層の硬化時に余剰の水分を逃がすように、ある程度の通気性が要求される。これに対し、最近の石膏ボード用原紙の製造技術の開発等により、従来の坪量270~360g/m程度の板紙と、同等の強度や通気性を有するものでありながら、坪量が約80~200g/mの範囲の原紙(以下、「軽量紙」と呼ぶ場合がある。)が抄造できるようになってきた。
【0009】
しかし、本発明者らの検討によれば、石膏ボード用原紙に、上記した軽量紙を使用すると、特に、先に述べたしわの不良がますます発生しやすい傾向があることがわかった。このため、「しわの発生」が抑制された品質に優れた石膏ボード製品を、歩留まりよく安定的に製造することを目的とする実際の石膏ボードの連続製造プロセスにおいては、軽量紙の適用が極めて困難であるという問題があった。
【0010】
さらに、「しわの発生」の別の要因として、下記の問題がある。最近、石膏ボードの生産性を高めるため、製造速度の高速化が図られてきている。しかし、先に説明した一連の工程で行う石膏ボードの連続製造時では、製造速度の高速化に伴い、搬送成型ベルトの機械的振動の増大や、搬送成型ベルト上での石膏ボード用原紙とベルト表面間の摩擦が増大するなどの現象が起こる。このため、製造速度を速めた場合に、上記現象に起因すると考えられる、搬送成型ベルトと接する石膏ボード用原紙の表面にチリメン状或いはスジ状の微細なしわが発生する傾向が高まっている。本発明者らは、製造速度の高速化によっても「しわの発生」が増大していることから、生産性を高めた場合にも「しわの発生」が抑制された品質に優れた石膏ボード製品を、歩留まりよく安定的に、生産効率よく製造する技術の開発が急務であるとの認識をもった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、石膏ボードを連続的に製造する石膏ボードの製造方法において、製造した石膏ボードを構成する原紙に生じる「しわの発生」を、簡便な方法で化学物質(薬剤)を使用することなく効果的に抑制できる、実際の石膏ボードの連続製造プロセスに適用可能な技術を開発し、品質に優れた石膏ボードを、歩留まりよく生産効率を高めて安定的に製造できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的は、下記の本発明の石膏ボードの製造方法によって達成される。
[1]上紙石膏ボード用原紙と下紙石膏ボード用原紙との間に石膏ボードの石膏材料層の原料である石膏スラリーを積層させた板状積層体を成型し、該板状積層体を成型しながら搬送する成型搬送工程を有する連続的な石膏ボードの製造方法において、
前記成型搬送工程が、成型機に連続的に送り込まれる前の前記下紙石膏ボード用原紙上に前記石膏スラリーを連続的に流し込み、成型機で、流し込まれた石膏スラリーの上に前記上紙石膏ボード用原紙を積層させて板状積層体を成型し、成型した板状積層体を搬送成型ベルトで粗切断機に搬送する一連の過程を有し、
前記成型機の配置箇所と前記粗切断機の配置箇所との間の位置であって、且つ、前記間における上流側(成型機側)の1/4の位置或いは前記1/4の位置よりも上流の前記成型機側の位置で、前記上紙石膏ボード用原紙に、水を噴霧又は塗布することを特徴とする石膏ボードの製造方法。
【0013】
上記の本発明の石膏組成物の製造方法の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
[2]前記上紙石膏ボード用原紙及び前記下紙石膏ボード用原紙の坪量が、いずれも80~200g/mの範囲内である上記[1]に記載の石膏ボードの製造方法。
[3]前記上紙石膏ボード用原紙の坪量が、前記下紙石膏ボード用原紙の坪量よりも5g/m~60g/m小さい上記[1]又は[2]に記載の石膏ボードの製造方法。
[4]前記水の噴霧量又は塗布量が、2.0~200g/mの範囲内である上記[1]~[3]のいずれかに記載の石膏ボードの製造方法。
[5]前記搬送成型ベルトの搬送速度が、60m/分以上である上記[1]~[4]のいずれかに記載の石膏ボードの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、石膏ボードを連続的に製造する石膏ボードの製造方法において、製造した石膏ボード製品の石膏ボード用原紙に生じる「しわの発生」を、化学物質(薬剤)を使用することなく簡便な方法で効果的に抑制できるという顕著な効果が得られる。さらに、本発明は、実際に石膏ボードの製造に使用されている実機の石膏ボードの連続製造プロセスに適用可能な技術であるため、本発明によれば、品質に優れた石膏ボード製品を歩留まりよく安定的に製造できる実用価値の高い石膏ボードの製造方法が提供される。また、本発明によれば、石膏ボードの連続製造プロセスにおいて、「しわの発生」の要因になり得る搬送成型ベルトの速度を速めた場合においても、石膏ボードを構成する原紙に生じる「しわの発生」を抑制できるので、生産性を向上でき、より効率よく品質に優れた石膏ボードを歩留まりよく安定的に製造することが可能になる。また、本発明によれば、石膏ボードの連続製造プロセスにおいて、使用する石膏ボード用原紙に、適用が極めて困難であるとされていた軽量紙を使用した場合においても、品質に優れた石膏ボードを歩留まりよく安定的に製造することが可能になるので、石膏ボード用原紙の選択の範囲が広がり、多様な石膏ボード製品を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の石膏ボードの製造方法の製造工程を説明するための模式図である。
図2図1の石膏ボードの製造方法における成型搬送工程の、板状積層体を成型する部分を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明の好ましい形態を挙げて本発明を説明する。本発明者らは、連続的に石膏ボードを製造するプロセスにおいて、石膏ボードの生産速度の一層の向上、並びに、最近、改良された石膏ボード用原紙の軽量紙を使用可能とするため、各種方法について鋭意検討する過程で、軽量紙を使用した場合に石膏ボードの表面に生じるしわの原因の一つを解明した。以下、この点について説明する。石膏ボードの一連の製造工程において、先に述べたように、搬送成型ベルト上に配置されて搬送される板状積層体は乾燥されておらず、石膏スラリーに由来する過剰の水分を保持している。石膏ボードは、石膏ボード用原紙に覆われているが、その過剰な水分により、成型搬送工程中においては、原紙は膨潤し続けている。ここで、通常、一連の工程で製造された石膏ボードは、搬送成型ベルト上に配置される下紙の下面を石膏ボードの表面として形成されている。これに対し、本発明者らの検討によれば、石膏ボードの表面を形成する下紙と、裏面となる上紙とに膨潤の差が存在すると、搬送成型ベルト上で、石膏ボード用原紙の表面にチリメン状或いはスジ状のしわが発生することがわかった。
【0017】
ここで、成型搬送工程で、石膏ボード用原紙の上紙と下紙との間の膨潤状態に差が生じる原因としては、下記のことが挙げられる。成型搬送工程において、石膏スラリーは、成型機に連続的に送り込まれる前の下紙の上に流し込まれ、石膏スラリー中の脱泡のため、必要に応じてバイブレーターで振動を加えられながら、成型機まで進んでいく。この間は当然のことながら、石膏スラリーと石膏ボード用原紙とは下紙のみが接触しており、下紙のみが膨潤している。一方、上紙は下紙の上に流し込まれた石膏スラリーと成型機の直前で接触する。そして、接触した時点から上紙が膨潤をし始めるため、石膏ボード用原紙の上紙と下紙とでは、膨潤の開始時期に差がある。この下紙と上紙の膨潤し始めるタイミングの差が、石膏ボード用原紙における下紙と上紙の膨潤に差が生じる一因になっていると考えられる。
【0018】
石膏ボード製品を連続製造している石膏ボードの製造ラインでは、先述したように、成型機等を通して搬送用成型ベルト上に連続した板状積層体を形成し、板状積層体を次の粗切断機へと搬送することが行われている。搬送時における搬送成型ベルト上の板状積層体では、上紙の石膏ボード用原紙は、その内側は石膏スラリーと接触し、外側は大気と接触しているので、余分な水分が蒸発しやすい状態にある。一方、下紙の石膏ボード用原紙は、その内側は石膏スラリーと接触し、外側は成型ベルトと接触しているので、上紙に比べて余分な水分が蒸発しにくい状態にある。本発明者らは、先に述べた膨潤の開始時期の違いによって生じる膨潤の差に加えて、特に、この下紙と上紙における搬送用成型ベルト上での余分な水分の蒸発のしやすさの差が、石膏ボード用原紙における下紙と上紙の膨潤状態の程度に差が生じる主な原因であることを見出した。
【0019】
本発明者らは、上記の知見に基づき鋭意検討した結果、本発明に至ったものである。すなわち、石膏ボード製品を連続製造する石膏ボードの製造ラインで生じる、上記した石膏ボード用原紙における下紙は、上紙に比べて余分な水分が蒸発しにくい状態にあること、換言すれば、上紙は下紙に比べて余分な水分の蒸発がしやすい状態にあることに着目し鋭意検討した結果、本発明の構成及び効果を達成した。本発明者らは、上記した石膏ボード用原紙の上紙と下紙の間に見られる膨潤状態の違いに鑑み、余分な水分が蒸発しやすい状態にある、搬送成型ベルト上の板状積層体を構成する上紙に水を補給することで、石膏ボード用原紙の上紙と下紙の間に生じている膨潤状態の差を改善でき、その結果、石膏ボード用原紙の「しわの発生」が抑制できるのではないかと予想し、本発明に至ったものである。
【0020】
本発明者らは、上記した知見の下、検討を重ねた結果、搬送成型ベルト上の板状積層体を構成する石膏ボード用原紙の上紙に水を噴霧又は塗布する(すなわち、上紙に水分を補給する)という極めて簡便な手段によって、最終的な石膏ボード製品において、石膏ボード用原紙の「しわの発生」が効果的に抑制できることを見出した。さらには、本発明で目的とする上記「しわの発生」の抑制においては、搬送成型ベルト上の板状積層体を構成する石膏ボード用原紙の上紙に水を補給する位置が極めて重要であることを見出した。具体的には、石膏ボード製品を連続製造する石膏ボードの製造ラインにおける一連の操作において、石膏ボード用原紙の上紙を石膏スラリー上に積層するための成型機の配置箇所と、形成した板状積層体を粗切断する粗切断機の配置箇所との間の位置であって、且つ、前記間の位置の上流側(成型機側)の1/4の位置或いは前記1/4の位置よりも上流の前記成型機側の位置で水を噴霧等して、上紙に水分を補給することによって、効果的な結果がもたらされることを見出した(図1参照)。
【0021】
本発明において重要なことは、先に説明した石膏ボード用原紙の上紙と下紙の間に生じる膨潤状態の差を、搬送成型ベルト上の板状積層体を構成する上紙に水分を補給することで緩和したことにある。そして、上紙への水分の補給が、上記したより効果的な位置で行われることにある。したがって、石膏ボード用原紙の上紙に水分を補給することができればよく補給する方法は特に限定されないが、本発明では「水を噴霧又は塗布する」と規定した。また、上記した目的と、水分を補給した後の乾燥の容易さを考慮すると、少ない水の量で、上紙にまんべんなく水分を簡便な手段で補給することが望まれることから、中でも水を噴霧することが好ましい。水としては、工業用水、水道水、井戸水や精製水などが挙げられる。いずれにしても本発明の製造方法は水を噴霧するだけで、薬剤を使用するものではないので、内装建材である石膏ボード製品を製造する方法として極めて有用である。
【0022】
石膏ボード製品を連続製造する石膏ボードの製造ラインについて、図1及び図2を参照して説明する。先にも述べたように、石膏ボードの製造ラインでは、稼働している搬送成型ベルト10上に成型した板状積層体4を配置して搬送して、それに伴い、下紙石膏ボード用原紙1と上紙石膏ボード用原紙3が成型機20に搬送される。連続的に搬送される下紙石膏ボード用原紙1の上に、ミキサー6から石膏スラリー2を連続的に流し込み、成型機20で、流し込まれた石膏スラリー2の上に上紙石膏ボード用原紙3を積層させて板状積層体4を成型する。続けて、成型した板状積層体4を搬送成型ベルト10で粗切断機30に搬送して、粗切断機30で所望の長さに粗切断してボード状にする。さらに、粗切断したボードを乾燥機40で強制乾燥し、その後、仕上げ切断機50で所望する製品寸法に仕上げ切断するといった一連の工程を経て、石膏ボード製品を連続製造している。
【0023】
本発明の石膏ボードの製造方法は、上記一連の工程において、図1に示したように、成型機20の配置箇所と、粗切断機30の配置箇所との間の位置であって、且つ、該間における上流側(成型機側)の1/4の位置或いは前記1/4の位置よりも上流の成型機20に近い側の位置で、板状積層体4を成型するために積層させた上紙石膏ボード用原紙3に、水の噴霧機5で水を噴霧、又は水を塗布(すなわち、水分を補給)することを特徴とする。このように構成したことで、石膏ボード製品の石膏ボード用原紙においての「しわの発生」の問題を、効果的に抑制できる。
【0024】
これに対して、本発明者らは、上記上流側(成型機側)の1/4の位置よりも下流の、成型機20の位置から遠くなる粗切断機30側の位置で水を噴霧等して水分を補給しても(以下、「水を噴霧」と表現する)、上記した顕著な効果が得られないことを見出した。この点についての詳細は後述する。上記上流側(成型機側)の1/4の位置よりも下流の位置で水を噴霧した場合に比べて、上記した本発明で規定する構成の、成型機20に近い上流側で水を噴霧したことで、石膏ボード用原紙における「しわの発生」の問題を効果的に抑制できた理由について、本発明者らは、下記のように考えている。まず、上紙に水を噴霧したことで、水を噴霧しない従来の製造方法に比較して「しわの発生」が抑制できたことから、水の噴霧によって先に説明した石膏ボード用原紙における下紙と上紙との間に生じる膨潤の差を少なくできたことが一因であると考えられる。加えて、「しわの発生」の抑制の効果が水を噴霧する位置によって大きく異なることを見出し、本発明で規定した位置で水を噴霧する構成にしたことで、より顕著な効果が得られた主な理由は下記の点にあると推論できる。すなわち、より効果的に石膏ボード用原紙における下紙と上紙との間の膨潤の差が生じないようにするためには、石膏スラリーが硬化する前に上紙に水を噴霧することが必要であり、石膏スラリーが硬化し始めてから水を噴霧しても上紙を効果的に膨潤できないことが大きな理由であると考えられる。
【0025】
上記したように、本発明で規定する成型機20の配置箇所と粗切断機30の配置箇所との間の位置で、該間における上流側(成型機側)の1/4の位置或いは前記1/4の位置よりも上流の成型機20に近い側の位置であれば本発明の効果が得られる。本発明者らの検討によれば、より成型機20に近い、例えば、1/8の位置、1/16の位置で水を噴霧することで、「しわの発生」がより抑制された石膏ボード製品を得ることができる。また、水を噴霧する量としては、2.0~200g/mの範囲内であれば効果が得られることを確認した。その後の乾燥を考慮すると、水の噴霧量はできるだけ少ない方が好ましい。本発明者らの検討によれば、例えば、10~100g/m程度の量の水を噴霧することで、「しわの発生」の抑制について安定した効果を得ることができる。
【0026】
上記した水を噴霧する量の調整は、下記の方法で極めて容易にすることができる。具体的には、本発明の製造装置で行う水の噴霧は、従来公知のスプレー装置を用い、スプレーの調節器の開度を調整することで噴霧量の調節を容易に実施することができる。
【0027】
本発明において特に重要なことは、石膏ボード用原紙の上紙と下紙との膨潤状態の差を緩和するため、上紙への水分の補給を本発明で規定する特定の位置で行うことであり、水の噴霧量は公知のスプレー装置で噴霧すれば足り、簡単な操作で優れた効果を得ることができる。すなわち、本発明では、本発明で規定する特定の位置で水を噴霧する構成としたことで、「しわの発生」に影響する上紙と下紙との膨潤の差を小さくすることを実現し、その結果、本発明の優れた効果を得ている。
【0028】
上記した理由から、水を噴霧する際のスプレー装置からの水滴の大きさも特に限定されるものではない。石膏ボード用原紙の上紙に、まんべんなく水を補給することが望まれるため、本発明の製造方法で用いるスプレー装置としては、例えば、水を噴霧した際の水粒子径が5~300μm程度のものが好適に使用できる。なお、公知のスプレー装置からの水滴の大きさはこの範囲内のものである。
【0029】
本発明者らの検討によれば、連続して石膏ボード製品を得る石膏ボードの製造方法において不良品の原因になる、石膏ボード用原紙に生じる「しわの発生」は、先に述べたように、搬送成型ベルトの速度を高めた場合に多発する傾向がある。これに対して、本発明の石膏ボードの製造方法によれば、稼働している搬送成型ベルトの速度が、通常の製造ラインの稼働条件である60m/分である場合は勿論、それよりも速度を高めた、例えば、90m/分や120m/分と速めて生産性を上げた場合であっても、石膏ボード用原紙に生じる「しわの発生」を確実に低減でき、抑制できることを確認した。
【0030】
本発明が目的としている、連続して石膏ボード製品を得る石膏ボードの製造方法において不良品の原因になる、得られた石膏ボード製品の原紙に生じる「しわの発生」の抑制については、先に説明した特定の位置で行う水の噴霧が効果的である。本発明者らは、さらなる検討をした結果、上記した以外に下記の方法によっても効果があることを見出した。先述したように、石膏ボード用原紙として坪量が約80~200g/mの範囲の軽量紙が開発されており、石膏ボード製品の軽量化が期待されるものの、実際の石膏ボードの連続製造プロセスにおいては、軽量紙の適用が極めて困難であるという問題があった。その主な原因は、特に石膏ボード用原紙に軽量紙を使用すると、石膏ボード製品の原紙に生じるしわの不良がますます発生しやすくなり、原紙に生じる「しわの発生」に起因する不良品が多くなる点にあった。
【0031】
本発明者らは、上記の問題に対し鋭意検討した結果、石膏ボードの連続製造プロセスにおいて、本発明で規定する範囲内の位置で上紙石膏ボード用原紙に水を噴霧して水を補給することで、石膏ボード用原紙に軽量紙を用いた場合においても「しわの発生」が抑制できることを確認した。本発明者らは、かかる知見に基づき、石膏ボード用原紙に軽量紙を適用した場合に、より高い「しわの発生」の抑制の効果を安定して得るため、さらなる検討を行った。その結果、石膏ボード用原紙に軽量紙を使用して石膏ボードを製造する場合においては、先に説明した石膏ボード用原紙の上紙に水を噴霧することに加えて、使用する石膏ボード用原紙について下記の工夫することが、安定した効果を得る上で有効であることを見出した。具体的には、石膏ボード用原紙の構成を、上紙石膏ボード用原紙及び下紙石膏ボード用原紙として、坪量がいずれも80~200g/mの範囲内の軽量紙を用いる場合に、石膏ボード製品の裏側になる上紙石膏ボード用原紙として、石膏ボードの表側になる下紙石膏ボード用原紙の坪量よりも5g/m~60g/m程度小さい坪量の原紙を用いることが好ましい構成であることを見出した。また、本発明者らの検討によれば、上紙と下紙の組合せとして、例えば、上記した坪量の差を10g/m以上にすることで、原紙に生じる「しわの発生」の抑制について、より安定した効果が得られることを確認した。実際の石膏ボードの連続製造プロセスにおいては、例えば、坪量が100g/m~180g/mの軽量紙を用いることが好ましい。坪量に差がある上紙と下紙の組合せの詳細については後述する。
【0032】
上記したように、本発明の石膏ボードの製造方法は、下紙石膏ボード用原紙の上に流し込まれた石膏スラリーの上に上紙石膏ボード用原紙を積層してなる板状積層体を構成する上紙石膏ボード用原紙に対して、本発明で規定した位置で水を噴霧するように構成したこと以外は、実際の石膏ボードの連続製造プロセスと同様である。また、本発明の好ましい形態では、上記の構成に加えて、石膏ボード用原紙の上紙と下紙に、本発明で規定する軽量紙を用いた以外は、実際の石膏ボードの連続製造プロセスと同様である。このため、本発明の石膏ボードの製造方法に用いる石膏スラリーとしては、従来公知の石膏ボード用のものをいずれも使用することができる。以下に、石膏スラリーの構成材料である焼石膏とその他の成分について簡単に説明する。
【0033】
<焼石膏>
本発明の石膏ボードの製造方法に用いられる石膏スラリーの主成分は、焼石膏である。焼石膏は、半水石膏と呼ばれており、焼成方法の違いによってα型半水石膏とβ型半水石膏がある。α型半水石膏は湿式法で製造され、二水石膏を水中(蒸気中を含む)で焼成して得られる。β型半水石膏は乾式法で製造され、二水石膏を大気中で焼成して得られる。本発明の製造方法で用いる石膏スラリーを構成する焼石膏は、α型半水石膏及びβ型半水石膏のいずれも用いることができ、適宜に配合して用いてもよい。なお、α型半水石膏は、硬化させるために必要になる水の量がβ型半水石膏よりも少なくてすみ、硬化させた場合に強度が高くなる等といった利点がある。
【0034】
<その他の添加剤>
本発明の製造方法で用いる石膏スラリーは、必要に応じて、焼石膏に加えて、凝結時間調整剤やpH調整剤や消泡剤等の、従来公知の他の添加物を含有させたものであってもよい。例えば、凝結遅延剤としては、クエン酸ソーダ等のクエン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、ホウ砂等のホウ酸塩、ショ糖、ヘキサメタリン酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、ジエチレントリアミン5酢酸、澱粉及び蛋白質分解物等が使用できる。消泡剤としては、例えば、ポリエーテル系、シリコーン系、アルコール系、鉱油系、植物油系及び非イオン性界面活性剤など、汎用されているものを適宜に使用できる。
【実施例0035】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0036】
<実施例と比較例>
以下に、本発明の石膏ボードの製造方法について、実施例と比較例を挙げて説明する。本発明者らは、通常の石膏ボードの製造用として稼働している実機の石膏ボード製造ラインで、同一の製造設備で、同一の原材料を用い、さらに、12.5mm厚、サイズ910mm×1820mmの同一サイズの石膏ボードを製造し、その際に、製造条件を変えることによる石膏ボード製品の「しわの発生」への影響について検討を行った。具体的には、石膏ボード製造ラインにおける、製造速度の変更、水の噴霧(塗布)の有無や噴霧場所、石膏ボード用原紙の坪量などの違いが、得られる石膏ボード製品の「しわの発生」にどのように影響するかについて検討した。評価は、石膏ボード製造ラインより得た石膏ボード製品をサンプリングして、下記の評価基準で評価した。
【0037】
<評価方法>
まず、本発明の石膏ボードの製造方法によって得られる効果を確認するために行った評価方法について説明する。具体的には、製造条件を種々に変えた石膏ボードの製造方法で得られた、それぞれの石膏ボードの表面を構成する下紙石膏ボード用原紙に生じる「しわ」について、下記の評価方法で評価した。
【0038】
(しわの評価方法)
通常の石膏ボード製造ラインで連続的に製造して得た12.5mm厚、サイズ910mm×1820mmの石膏ボードから代表的な1枚をサンプリングし、その半分のサイズの910mm×910mmをしわ発生の評価用サンプルとした。
【0039】
しわ評価方法としては、特開昭59-178306号公報に記載の表面状態評価器を用いる方法によった。この方法は、被検物に超音波を照射し、その反射波を受信し、しわが多ければ反射波が分散するため少なく、しわが少なければ反射波が分散せず多いという原理を用いて、しわの程度を相対的に評価するものである。表1に、本発明で使用した、鏡面のような状態のサンプルの反射波の信号レベル(相対値)を100とした、6段階に区別した「反射波の信号レベル(相対値)の数値の違い」による「しわの発生程度」の判断基準を示した。また、この6段階に区分した信号レベルの違いに加えて、表1に、本発明者らが経験的に得ている知見の、斜光線による目視評価によるしわの程度について、同様に6段階で識別した際の基準も示した。
【0040】
表1にある評価記号は、上記した「反射波の信号レベル(相対値)の数値の違い」による数値を用いての評価基準と、「斜光線による目視評価」の官能評価とを総合的に判断して得た評価基準を示している。下記の試験例では、製造された石膏ボードに生じた「原紙のしわ」を評価した結果を、「しわの評価」としてこの評価記号で示した。そして、表1に示したように、評価記号の1~3を製造上問題のない合格品とした。
【0041】
【0042】
[比較例1~3]
石膏ボード製品の原紙に生じる「しわの発生」の傾向を確認するため、通常の石膏ボード製造ラインで、製造条件を下記のように変えて製造試験を行った。具体的には、まず、通常の石膏ボード製造ラインで、搬送ベルトの速度を、90m/分、120m/分の2段階に変更してそれぞれ製造して、搬送ベルトの速度の「しわの発生」への影響についての確認をした。また、搬送ベルトの速度を90m/分で一定にして、製造に使用する石膏ボード原紙の上紙(ボードの裏側)と下紙(ボードの表側)の坪量について、従来と同様に坪量が同じ原紙を用いた場合に対し、坪量に差をつけることで「しわの発生」への影響があるか否かを調べた。具体的には、表/裏=150/150(g/m)として坪量が同じ原紙を用いて製造した場合と、表/裏=150/140(g/m)として上紙(ボードの裏側)の坪量を下紙(ボードの表側)の坪量よりも小さくして製造した場合を比較して、石膏ボードの原紙への「しわの発生」に、原紙の坪量の違いが影響するか否かについて確認した。得られた結果を表2に示した。
【0043】
【0044】
表2に示した比較例1及び比較例2の結果にあるように、製造した石膏ボードの原紙への「しわの発生」に、原紙の坪量が影響していること、さらに、製造に用いる石膏ボード原紙の上紙(ボードの裏側)を、石膏ボード原紙の下紙(ボードの表側)の坪量よりも小さい原紙を用いることで、製造した石膏ボードの原紙への「しわの発生」を抑制できることを見出した。
【0045】
また、表2に示した比較例2、3の結果に示されているように、搬送ベルトの速度は製造した石膏ボードの原紙への「しわの発生」に影響しており、速度を上げるほど「しわの発生」が顕著になることを確認した。このことは、製造した石膏ボードの「しわの発生」を抑制するためには、搬送ベルトの速度を落とす必要があることを意味し、製造効率に大きく影響する重要な問題になる。本発明では、搬送ベルトの速度を遅くすることなく、製造した石膏ボードの「しわの発生」を抑制できる、簡便で効果的な方法を開発することを目的とする。
【0046】
[実施例1~3、比較例2]
通常の石膏ボード製造ラインで、搬送ベルトの速度を90m/分とし、石膏ボード製品の原紙を、表/裏=150/140(g/m)として上紙(ボードの裏側)の坪量を下紙(ボードの表側)の坪量よりも小さくした同様の構成にして、上紙石膏ボード用原紙へ水を噴霧することで原紙の「しわの発生」が抑制できるか否かについて検討した。上紙石膏ボード用原紙への水の噴霧は、成型機の配置箇所と粗切断機の配置箇所との間の位置(表中「位置」と記す)であって、且つ、この間の位置の上流側(成型機側)の1/4の位置、すなわち成型機に近い側の位置で行った。表3に、製造条件と、製造して得られた石膏ボードについての「しわの発生」の評価結果を示した。比較のために、表3中に、先に表2で説明した、水を噴霧しないこと以外は実施例1~3の製造条件で石膏ボードを製造した比較例2を合わせて示した。なお、本発明の試験における水の噴霧は、いずれも水の噴霧機5(スプレー装置(商品名:ST-5、扶桑精機社製))を用いて行った。
【0047】
【0048】
表3に示したように、製造した石膏ボード原紙への「しわの発生」は、原紙に水を噴霧したことで、明らかに製造した石膏ボード原紙への「しわの発生」を抑制できることを見出した。また、水の噴霧量は2g/m程度と少なくても、石膏ボード原紙への「しわの発生」を抑制できることが確認できた。
【0049】
[実施例4~7、比較例3~5]
通常の石膏ボード製造ラインで、搬送ベルトの速度を120m/分と速度を上げて、製造に使用する石膏ボード製品の原紙を、表/裏=150/140(g/m)として上紙(ボードの裏側)の坪量を下紙(ボードの表側)の坪量よりも小さくした同様の構成にして、下記の検討を行うための製造試験を行った。すなわち、速度を速くした場合も、製造中に上紙石膏ボード用原紙へ水を噴霧することで石膏ボード原紙における「しわの発生」が抑制できるかの確認を行った。さらに、上紙石膏ボード用原紙へ水を噴霧する位置或いは水の噴霧量の違いによる石膏ボード原紙における「しわの発生」の抑制への影響について検討した。
【0050】
表4に、製造条件と、製造して得られた石膏ボードについての「しわの発生」の評価結果をまとめて示した。表4に記載した通り、実施例4~7では、上紙石膏ボード用原紙への水の噴霧を、成型機の配置箇所と粗切断機の配置箇所との間の位置であって、且つ、この間の位置の上流側(成型機側)の1/4の位置或いは前記1/4の位置よりも上流(手前側)の成型機に近い側の位置で行った。具体的には、実施例4、6及び7では上流側(成型機側)の1/4の位置で水を噴霧し、実施例5では、これよりも上流(手前側)の1/16の位置で水の噴霧を行った。また、比較のために、表4中に、先に表2で説明した、水を噴霧しないこと以外は実施例4~7の製造条件で石膏ボードを製造した比較例3を合わせて示した。また、比較例4及び5では、本発明で規定する「成型機の配置箇所と粗切断機の配置箇所との間の位置であって、且つ、この間の位置の上流側(成型機側)の1/4の位置」よりも下流(遠い)側で水を噴霧した。具体的には、比較例4では3/4の位置で、比較例5では2/4(1/2)の位置でそれぞれ水を噴霧した。
【0051】
【0052】
表4に示したように、まず、比較例3~5の結果から、搬送ベルトの速度が120m/分と速い場合も、上紙石膏ボード用原紙へ水を噴霧することで、石膏ボード原紙への「しわの発生」を抑制できることが確認された。しかし、実施例4及び5と、比較例4及び5との比較から明らかなように、その効果の程度は、上紙石膏ボード用原紙へ水を噴霧する位置によって異なることを見出した。表4に示したように、本発明で規定する「成型機の配置箇所と粗切断機の配置箇所との間の位置であって、且つ、この間の位置の上流側(成型機側)の1/4の位置或いは前記1/4の位置よりも上流側」で顕著な効果を得ることができることを確認した。一方、比較例4及び5のように、本発明で規定する上流側(成型機側)の1/4の位置よりも下流側で水を噴霧した場合は、その効果が劣るものになることを確認した。
【0053】
さらに、本発明者らは、表4に示したように、実施例4、6及び7の比較からわかる通り、搬送ベルトの速度が120m/分と速い場合も、製造した石膏ボードは、石膏ボード原紙への「しわの発生」は、本発明で規定する条件で原紙に水を噴霧することで、明らかに石膏ボード原紙への「しわの発生」が抑制されたものになることを見出した。また、実施例4と実施例5の比較から、「成型機の配置箇所と粗切断機の配置箇所との間の位置であって、且つ、この間の位置の上流側(成型機側)の1/4の位置よりも上流側」の、より成型機に近い位置で水を噴霧することで、より高い「しわの発生」を抑制する効果が得られることを確認した。水の噴霧量については、先に確認した搬送ベルトの速度を90m/分とした場合と同様に、2g/m程度と少ない場合も石膏ボード原紙への「しわの発生」の抑制効果が得られることが確認された。
【0054】
[実施例8~14、実施例4]
実施例9~14として、通常の石膏ボード製造ラインで、搬送ベルトの速度を120m/分と速くして、水を噴霧する条件を、本発明で規定する上流側(成型機側)の1/4の位置で一定にして、製造に使用する石膏ボード製品の原紙について、「表/裏の坪量」と「表/裏の坪量の差」を表5に示したように変更し、また、水の噴霧量をそれぞれ表5に示した構成にして、製造試験を行った。なお、実施例8では、製造に使用する石膏ボード製品の原紙の坪量を同じにして差がないようにして、加えて本発明で規定する上流側(成型機側)の1/4の位置よりも上流側の、成型機に対してより手前の位置の上流側(成型機側)の1/16の位置で上紙に水を噴霧する条件で石膏ボードを製造し、得られた石膏ボード製品について評価した。製造条件を比較検討するために、表5中に、先に表4中に示した、実施例4についての製造条件及び評価結果を合わせて記載した。
【0055】
【0056】
表5に示したように、まず、実施例8の結果から、搬送ベルトの速度が120m/分と速い場合においても、上紙(ボードの裏側)と下紙(ボードの表側)の石膏ボード原紙の坪量に差をつけなくても、上紙石膏ボード用原紙へ、本発明で規定する特定の位置で水を噴霧することで、石膏ボード原紙への「しわの発生」を抑制できることが確認できた。
【0057】
表5に示したように、実施例9、4、10では、上紙(裏)と下紙(表)の石膏ボード原紙の組合せを変えたこと以外は、同じ条件で石膏ボードを製造した。具体的には、実施例9では、上紙(裏)145g/m、下紙(表)150g/mの、上紙の坪量を下紙の坪量よりも5g/m小さい坪量の原紙を使用して石膏ボードを製造した。また、実施例4では、上紙(裏)140g/m、下紙(表)150g/mの、上紙の坪量を下紙の坪量よりも10g/m小さい坪量の原紙を使用して石膏ボードを製造した。また、実施例10では、上紙(裏)130g/m、下紙(表)150g/mの、上紙の坪量を下紙の坪量よりも20g/m小さい坪量の原紙を使用して石膏ボードを製造した。これらの評価結果から、坪量の差が大きい場合の方が「しわの発生」がより抑制される傾向があることが確認された。
【0058】
また、表5に示したように、評価結果が「1」で同じであった実施例10と実施例11の比較から、原紙の上紙と下紙との坪量の差を大きくすることで水の噴霧量を低減しても同様の効果が得られることがわかった。水の噴霧量を低減することは、水を噴霧したことによって生じる乾燥工程への負担が低減できることを意味するので、製造コストの点で有用である。
【0059】
さらに、表5に示したように、実施例12~14では、より軽量化した石膏ボード用原紙を用いて石膏ボードを製造して、本発明の適用性について検討を行った。具体的には、石膏ボード用原紙として、下紙(表)に坪量130g/mの原紙を用い、上紙(裏)に120g/mの原紙を用いる、坪量の差が10g/mである組合せとした。実施例12~14で用いた上記坪量の軽量紙は、先の実施例よりも「しわの発生」がより懸念される。これに対し、表5に示したように、実施例12~14の、より軽量化した原紙を用いて石膏ボードを製造した場合も、本発明で規定した特定の位置で水を噴霧することで、石膏ボード用原紙における「しわの発生」を抑制できることを確認した。具体的には、表5にあるように、水の噴霧量が2~200g/mの範囲で、石膏ボード原紙への「しわの発生」の評価において合格品の石膏ボードが製造できることを確認した。また、水の噴霧量を100g/m以上にすれば、石膏ボード原紙への「しわの発生」がより安定して抑制できることがわかった。
【符号の説明】
【0060】
1:下紙石膏ボード用原紙
2:石膏スラリー
3:上紙石膏ボード用原紙
4:板状積層体
5:水の噴霧機(スプレー装置)
6:ミキサー
10:搬送成型ベルト(搬送ベルト)
20:成型機
30:粗切断機
40:乾燥機
50:仕上げ切断機
図1
図2